平成14年3月14日(木)基本的人権の保障に関する調査小委員会(第2回)

◎会議に付した案件

基本的人権の保障に関する件

 上記の件について参考人安念潤司君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  成蹊大学教授 安念 潤司君

(安念潤司参考人に対する質疑者)

  葉梨 信行君(自民)

  今野 東君(民主)

  太田 昭宏君(公明)

  武山百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  長勢 甚遠君(自民)

  大出 彰君(民主)

  近藤 基彦君(自民)


◎安念潤司参考人の意見陳述の要点

1.はじめに

  • 日本国憲法は、先進国にありふれた内容の憲法である。なぜなら、憲法の役割は、国家権力を制限して国民の自由を保障したり、民主主義的な政治体制を確立することなどに限定されているため、憲法は多様なものにはなり得ないからである。日本国憲法が特殊であるとされるのは、その内容ではなく、国論が二分されるような議論のされ方である。

2.人権の自然法的性格と外国人の人権の保障

  • 人権の保障については、「人権は、人が生まれながら誰にでも与えられるものである」といった自然法的な考え方がある一方で、現実としては、奴隷、女性、植民地の扱いにおいて差別を認めてきた。これらの差別は第二次大戦後、法レベルでは既に清算された。
  • このような流れの中で、外国人の人権保障の問題はどこの先進国にも残されており、外国人について国民と全く同等に扱うことは不可能であるという現実については、人権の自然法的な考え方では説明できず、今後もきっと解決はできないであろう。

3.「外国人の人権」論―判例と学説の一致とその矛盾

  • いわゆるマクリーン事件最高裁判決(昭和53年)では、(a)憲法に定める権利は、原則として日本に在留する外国人にも認められる、(b)しかし、外国人は、我が国に入国し、在留し、又は引き続き在留する権利を認められていない、(c)以上の結果、外国人の享有する憲法上の権利は、外国人在留制度の枠内で与えられたものに過ぎないとしており、この点では学説も一致している。
  • しかし、憲法上の権利が法律の枠内によってしか認められないとすれば、憲法上の権利を有しないことと同じであり、判例・学説は矛盾している。むしろ、外国人には入国や在留の権利がない以上、憲法上の権利を享有しないと解するのが妥当である。

4.法律による外国人の人権保障

  • 上記のように、外国人は憲法上の権利を享有しないと解するが、法律によって外国人を日本人と同等に扱うことは可能である。立法政策の当否の問題であるが、私は外国人にも日本人と同じ権利をなるべく認めるべきであると考える。
  • 他方、そもそも、国籍は、血統や出生といった形式的な要件で法律によって定められることから、憲法上の権利の享有主体である「日本国民」の地位でさえも憲法上はあやふやであるので、日本人と外国人の地位に大きな差違が生じることは望ましくないと考える。

5.憲法改正による外国人の地位の明記の是非

  • 外国人の地位について憲法を改正して定めるべきとの意見もあるが、仮に憲法に規定するとしても結局は抽象的な規定にならざるを得ず、裁判官がその具体的内容を判断することになるであろう。しかし、憲法改正によらず立法でこれを定めるとすると、国会がその判断をすることになる。私は、試験に合格した裁判官の判断に任せるよりも、有権者の代表である国会議員の判断に任せた方が良いと考えるので、憲法改正の手法によることには反対である。

◎安念潤司参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

葉梨 信行君(自民)

  • 参考人のように、外国人を「法律によって日本人と同等に扱うことは禁じられていない」という立場に立った場合、法律により認められる人権の種類、程度等についての判断基準をどう考えるべきか。
  • 定住外国人の参政権について、私は、参政権は国民にのみ与えられるべき権利であり、定住外国人は日本国籍を得た上で参政権を行使すべきであると考えるが、参考人は、この問題をどう考えるか。
  • 参考人は著書の中で、「日本国憲法がもたらしてきた平和と繁栄という御利益が雲散霧消すれば、日本国憲法はあっさり見切られるかもしれない」と指摘しているが、日本国憲法が国民に「見切られない」ようにするためにはどうすればよいと考えるか。


今野 東君(民主)

  • 昨今の有事法制の議論においては、民間人にも災害救助法におけるのと同様の罰則規定を設けることも検討されているが、このような動きをどう思うか。また、日本周辺地域の有事の場合、難民が大量に日本に押し寄せることが想定されるが、これにどう対処すべきか。
  • 国際化の進展に伴い、国際条約に沿った内容に我が国の憲法を変えていくべきだという考えについてどう思うか。


太田 昭宏君(公明)

  • 参考人は、「憲法上、外国人の参政権は保障されていないが、立法政策としては、参政権を認めることも認めないことも許される」という立場である。では、政策判断として、参政権を認めるのと認めないのとではどちらが適切であると考えるか。
  • 私は、定住外国人に地方参政権を認めるべきであり、その背景としては、(a)多民族共生社会の実現、(b)人権の重要性、(c)地方分権の推進が挙げられると思うが、これについてどう思うか。
  • 国籍の決め方について、血統主義、出生地主義等があるが、参考人は、今後、我が国は国籍の決め方についてどのような立場に立つべきと考えるか。


武山百合子君(自由)

  • グローバル化の進展等により、今後、我が国でも、外国人に関する問題が増加したり、国際結婚が盛んになったりすると予想される。米国での生活経験から、米国と比較した場合、我が国の外国人の人権の保障は薄いと感じられるが、今後の外国人の人権の保障はいかにあるべきと考えるか。
  • 外国人労働者の受入れ等により、今後、我が国でも、民族や宗教等が異なる異質な階層が増えることが予想される。日本人の自尊心を踏まえつつ、こうした階層の受入れを促進するための啓蒙的な教育を行う必要があると考えるが、参考人は、いかに考えるか。


春名 直章君(共産)

  • 学説の通説は、外国人に入国・在留の権利を認めていないようであるが、外国人の人権の保障を拡充する見地から外国人の再入国の自由を保障すべきとの主張もある。参考人は、いかに考えるか。
  • 参考人は、定住外国人の参政権問題について、定住外国人の帰化を図ることを第一次的に考えるべきとの意見である。しかし、特に、在日韓国・朝鮮人等の定住外国人は、我が国の植民地支配の結果、定住することを余儀なくされたという歴史的な特殊性を有しているので、そうした考えは妥当ではないのでないか。
  • 社会保障関連法において、権利受給資格を日本国民に限るいわゆる「国籍条項」は、国民年金法等においては撤廃されたが、恩給法等の援護関連法においては未だに残っており、これを撤廃すべきではないか。


金子 哲夫君(社民)

  • 参考人は、「外国人の人権は憲法上保障されておらず、在留資格制度の枠内において、法務大臣の裁量の範囲で、その権利及び自由が認められるに過ぎない」という考えであるが、マクリーン判決以後、法務大臣の裁量は、外国人の人権の保障を拡大する方向で行使されてきたのか。
  • 我が国では、外国人を広く受け入れるという共生の考えが不足していると思うが、いかがか。
  • 難民の受入れに係る政府の対応は、外国人の人権の保障という観点から十分ではないと思われるが、難民の受入れ体制を改善するにはどうすればよいと考えるか。


長勢 甚遠君(自民)

  • テロリストのような危険人物を国内から退去させることができるように入管法を改正することは、違憲なのか。また、このような改正に反対する立場からの理由付けとしていかなるものが考えられるか。
  • 欧米的な権利や義務といった憲法の硬直的な表現は、他人に対する思いやりやいつくしみ、良好な人間関係の構築といったような社会との調和を大切にする日本社会の秩序意識にそぐわないではないのか。


大出 彰君(民主)

  • 我が国は二重国籍の取得を禁止しているが、国際結婚をした人や海外で活動する人などには、二重国籍の取得を望んでいる人が多い。人権には、二重国籍を取得する権利もあるのではないか。
  • 外国籍を持つ者に対して、日本国内で、外国の伝統・文化に基づいた教育を行うことは認められるか。
  • 外国人の再入国の権利及び公務就任権(公務員となる権利)に対する見解を伺いたい。


近藤 基彦君(自民)

  • 日本国憲法制定過程において、GHQ草案には、外国人は平等に法律の保護を受ける権利を有するとの規定があったが、それが衆議院の審議過程で削除された理由は何か。
  • 参考人は、外国人の公務就任権を法律で認めることは可能であるとするが、国益や地域の利益の観点からも検討する必要があるのではないか。
  • 拉致事件やスパイ船等の「武力なき侵略」の出現に見られるように、劇的に変化し続ける現代社会に現憲法で対応するのは限界に達しており、これ以上の法律による対応は解釈改憲を進めてしまうことになると考える。このことに関して参考人の意見を伺いたい。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

今野 東君(民主)

  • 参考人は、外国人の権利は憲法では保障されず、法律で規定すべきものであると主張したが、それでは憲法がなくとも法律がありさえすれば人権が守られることとなり、両者の関係が複雑なものとなってしまう。憲法の理念に近づけた議論をするべきである。


春名 直章君(共産)

  • 外国人の人権を考えるに当たっては、我が国特有の事情である在日韓国・朝鮮人の問題に見られるような政府の排他的姿勢を正さねばならない。また、国際人権規約等からも分かるとおり、国際社会においては外国人も自国民も平等にという動きが進んでいる。外国人の地方参政権取得及び各種の法律における国籍条項の撤廃を目指していきたい。


金子 哲夫君(社民)

  • 外国人の人権に関しては、大きな政治的課題であったにもかかわらず、国家は人権拡大を怠ってきた。我が国には在日韓国・朝鮮人等の特有の問題もあり、そのような人々の民族的アイデンティティーを尊重した教育制度なども重要である。また、戦後補償の不備も外国人の人権の問題としてとらえるべきである。


大出 彰君(民主)

  • 我が国においては、日本国籍を有さない者には制度上様々な障害がある。ちなみに、アイルランドは以前から二重国籍を認めてきた国であるが、海外への移民やその子孫が帰国し、マンパワーが増大して好況となっている。このようなことからも、我が国でも二重国籍を認めるべきと考える。