平成14年3月14日(木) 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員会(第2回)

◎会議に付した案件

政治の基本機構のあり方に関する件

 上記の件について参考人山口二郎君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

 北海道大学大学院法学研究科教授 山口 二郎君

(山口二郎参考人に対する質疑者)

  額賀福志郎君(自民)

  島 聡君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  山口 富男君(共産)

  北川れん子君(社民)

  井上 喜一君(保守)

  伊藤 公介君(自民)

  伴野 豊君(民主)

  奥野 誠亮君(自民)


◎山口二郎参考人の意見陳述の要点

はじめに

  • 私は、憲法改正をタブー視はしないが、90年代に行われた政治改革や行政改革等の制度改革に対する総括をした上で、憲法論議を行うべきであると考える。

1.我が国の議院内閣制の現状と日英の比較

  • 我が国では、議院内閣制の現状に対する不満が強い。しかし、それは、議院内閣制自体の欠陥ではなく、(a)政権政党の暴走と国民不在の中での頻繁なリーダーの交代、(b)行政の縦割り構造の中での官僚機構の巨大化に伴う内閣の弱体化、(c)内閣と与党との関係の不透明性、といった運用の問題であると認識する。
  • イギリスは、「下降型の議院内閣制」である。その特徴は、(a)政党、指導者、政権構想が三位一体として、選挙における国民のmandate(委任)により選ばれること、(b)行政機関への大規模な政治任用により、内閣と与党が一体となっていること、(c)官僚機構に対する上からのリーダーシップが発揮されていることである。
  • これに対して我が国は、「上昇型の議院内閣制」である。その特徴は、(a)首相や政策を選択するという選挙の意義について政党や国民の意識が希薄であること、(b)内閣と与党が分離していること、(c)内閣が実質的指導力を欠き、官僚機構からの積上げ型意思決定が行われていることである。
  • 現在の議院内閣制の改善のためには、制度に合わせた新たな運用面における慣習、すなわち憲法習律をどのように創っていくのか、また、国民主権の観点から、行政をどのように民意に沿ったものにしていくのかについて考える必要がある。

2.首相のリーダーシップについて

  • 首相のリーダーシップとは、政治の最高指導者として、行政府、与党及び国民に対して発揮されるべきものである。
  • 安定的な与党の下に政官が和合していた「自民党政治の黄金時代(1960―70年代中頃)」、派閥政治の下に政官が競合・協力していた「二重権力構造の時代(1979―93)」、政党間の合従連衡下に政官が矛盾を来した「連立政治の時代(1993―)」を経て、現在、国民の政治に対する「直接性」の要求が高まる中、首相公選制が論じられている。しかし、私は、(a)現在の制度に対する反省なくして導入をしても、良い結果は得られないこと、(b)行政と立法が全くに分割されてしまうか又は議会のオール与党化という二つの最悪のシナリオが想定されること、(c)政党が求心力を失い、政党政治が破壊されることの懸念から反対である。

3.議院内閣制の改革の課題

  • 議院内閣制の改革の課題としては、(a)内閣と与党の一元化、(b)与党の政権参加を通した政策の実現、(c)政治主導の政官関係の確立が挙げられる。

4.改革への提言

  • 制度に関する改革の課題としては、(a)内閣においては、65条を改め、行政権の帰属を内閣総理大臣とする等により、国務大臣の分担管理原則を克服すること、(b)内閣の政治主導確立については、政策決定手続の一元化を図ること、(c)国会においては、行政に対するチェック機能を強化すること(少数者調査権等)が挙げられる。
  • 慣習に関する改革の課題としては、(a)選挙については、政党、指導者、政策を三位一体のものとして選択すること、(b)内閣の運営については、与党の意思決定機関を内閣と重合させるとともに、内閣の任期と衆議院の任期を一致させること、(c)与党の運営については、与党議員は、内閣の一員として政策形成に当たること、(d)その他、与党の党首選出の透明化と公開を図ること等が挙げられる。

◎山口二郎参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

額賀福志郎君(自民)

  • 政治家と官僚の意見交換を禁じたり、法案の与党による事前協議を廃止すれば、かえって官僚主導となるのではないか。
  • 我が国では、選挙の際に大まかなスローガンを掲げ、毎年度の予算決定の際に政策形成に係る議論をしている。選挙の際に、政党、指導者、政権構想を国民に選択させるイギリス型の導入には、国民や政党の大きな意識改革を必要とすると考えるが、この点について参考人の見解を伺いたい。
  • 議会制民主主義の健全な運用を図るに当たって、我が国においては、二大政党制と多党制のどちらが適当と考えるか。


島 聡君(民主)

  • 我が国の国会は「常任委員会中心主義」で、求心力が首相に向かいにくいこと等を考慮すると、我が国において議院内閣制の枠内で制度改善を図ることには限界があり、首相公選制の導入を図るべきと考えるが、いかがか。
  • 政党の役割について憲法上に規定すべきと考えるが、いかがか。
  • 行政監視のために、少数会派が国政調査権を発動できるような制度を考える必要があるとの参考人の御指摘であるが、私も非常に重要なものであると考える。少数会派の国政調査権について更にご説明願いたい。
  • 三権分立と議院内閣制における立法・行政の融合の関係について、参考人の見解を伺いたい。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 参考人が主張されるイギリス型議院内閣制の運用は、内閣こそが政治の中心であるという考えに基づいていると思うが、我が国においてそのような運用を取り入れた場合、三権分立と国会の最高機関性の関係をどのように説明するのか、参考人の見解を伺いたい。
  • 衆議院と参議院の役割分担について、参考人の見解を伺いたい。
  • イスラエルのシャロン首相の強行姿勢は、選挙時に掲げた方針を選挙後に変更することが困難な首相公選制の負の側面と考えるが、この点について参考人の見解を伺いたい。


藤島 正之君(自由)

  • 政治任用の拡大について、参考人の見解を伺いたい。
  • 官僚の突出を抑制するため、大臣の任期を2?3年にするなど現状より長くすべきであると考えるが、この点について参考人の見解を伺いたい。
  • イギリスのように、官僚と議員の接触を禁じると、国会が行政を監視することに支障を来さないか。
  • 内閣提出法律案が多数を占めるとともに、議員提出法律案も実際は官僚が作成したものが多いという現状について、参考人の見解を伺いたい。


山口 富男君(共産)

  • 現行憲法において、主権在民を具現化するための統治機構の特徴的な規定は何か。
  • 参考人は我が国の議院内閣制を英国と比較して「上昇型」であるとするが、歴史的に見て、「上昇型」となった要因は何であると考えるか。
  • 参考人は65条を「行政権は首相に属する」のように改正すべきであるとするが、現行制度においても首相の首長としての強い権能が認められており、あえて憲法改正をする必要はないのではないか。
  • 首相公選制を採用する場合に憲法の規定上生じる問題点について、参考人の見解を伺いたい。


北川れん子君(社民)

  • 国会審議において与党の質疑時間が長いという点について、参考人はどのように考えるか。
  • 少数派である野党の権限強化について、国民の賛成を得ていく上で、理論的にどのように説明したらよいのか教えていただきたい。
  • 小中学校における政治教育について参考人はどのように考えるか。また、政治教育を行うに当たって留意すべき点は何か。
  • 参考人の尊敬する政治家は誰か。


井上 喜一君(保守)

  • 政治制度はその国の風土や伝統と密接に関連している。したがって、議院内閣制の在り方や政官の接触の在り方などについてイギリスの制度をそのまま取り入れれば良いというものではないと考えるが、いかがか。
  • 政治主導を確立する観点から、大臣の任期については、少なくとも一内閣一大臣とすべきであると考えるが、いかがか。
  • 所管が多岐にわたるような大きすぎる役所は、大臣が政治的リーダーシップを発揮していくという観点から好ましくないと考えるが、いかがか。


伊藤 公介君(自民)

  • アメリカで見られるような国家の指導者を国民自らが選ぶというエネルギーは大事にすべきである。制度を変えれば良いというものではないが、国民のニーズに応えるためにも、さまざまな事情を総合的に判断した上で、首相公選制の導入を図るべきものであると考えるが、いかがか。


伴野 豊君(民主)

  • 参考人の提言を実現していくためには、(a)マスコミの在り方を考えること、(b)政権担当能力がある健全な野党を作るため野党に対する支援を行うこと、(c)政治をより身近なものとし、国民の政治に対する関心を高めるため、財源の問題も含め地方分権の更なる推進を図ることといった三つのクリアーすべき課題があると考えるが、いかがか。


奥野 誠亮君(自民)

  • 首相公選制を導入することは天皇制との関係で問題であると考えるが、いかがか。
  • 政官の役割分担を踏まえた上で、官僚も積極的に意見をいい、政治家と議論をしていくべきであると考えるがいかがか。
  • 参考人は、首相と議員の任期を一致させるべきと主張する。しかし私はそのように固定的に考えるべきではないと考えるが、いかがか。
  • 参考人は、自民党の長期政権に批判的な御意見をお持ちのようであるが、長期政権は選挙の結果である。また、自民党の長期政権の下、一貫した政策を実施してきたことにより、戦後の経済復興が可能となったと考えるが、いかがか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

松沢 成文君(民主)

  • 私見としては、統治機構においても抜本的な改革が必要であると考えており、その意味で首相公選制導入を唱えてきたが、国民が選挙を通じ政策と首相候補者の選択ができ、また、そのようにして選出された首相が国民のmandate(委任)を受けリーダーシップを発揮できるという、イギリスのような議院内閣制の運用ができるのであれば、それを否定するものではない。
  • 衆議院と参議院の役割分担を図る観点から、政府高官等の人事の承認や決算監視等の権限に特化した形で参議院改革を行うとともに、参議院に少数意見が反映されるように選挙制度を整備し、バランスをとるべきではないか。


北川れん子君(社民)

  • 山口参考人が指摘するように、制度改革自体が目的となってしまってはならないのであり、また、国民の政治に対する無関心や傍観者意識を顧みることなく改革だけを行うことには、意味がないと考える。
  • 政治家が尊敬に値する存在となれるよう、国会の場で時間をかけて政治家同士が議論を行うことが必要である。
  • マスコミによる報道等を見聞きする限り、奥野委員は、いわゆる抵抗勢力の一員ではないのか。

>奥野誠亮君(自民)

  • 私は自民党員であり、小泉内閣に何らかの成果を上げてもらいたいと思っており、若干の意見を述べてはいるが、いわゆる抵抗勢力といわれるような姿勢はとっていない。


山口 富男君(共産)

  • 21世紀の日本を考える場合、憲法を改正することではなく、憲法に規定されている内容をどのように具現化するかという視点から考えることが重要であると考えており、そのような立場から、政党政治の否定につながる首相公選制導入は妥当ではないとする参考人の意見に同感である。
  • 現代は、統治機構の制度設計をする場合に政治や政党の「質」が試される時代であると考えられ、そのような視点は、ぜひ調査会の議論にも活かすべきである。


伊藤 公介君(自民)

  • 石原東京都知事が都民の多くの支持により選出され、数々の独自の政策を打ち出すことに成功しているように、多くの国民の支持がある小泉首相であるからこそ、医療制度改革等の「痛み」を伴う改革を断行することが可能となったと考える。
  • 自民党の政策決定は総務会や部会等での議論を通じて行われているが、そのような党内手続に関しても、全会一致原則の見直しを図るなど、総裁がリーダーシップを発揮できるように改革を行うつもりである。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 前回の高橋参考人及び今回の山口参考人の主張に共通するものは、統治を行う内閣を選ぶ過程に国会が位置すると考える「内閣統治論」ではないかと考えるが、私は、むしろモンテスキュー的な三権分立の考え方に基づいた国会と内閣の緊張関係が必要ではないかと考える。
  • 小選挙区制により民意の反映と集約を一度に行うことも示唆に富むが、国会には多様な民意が反映されることが望ましく、そこでの議論を通じて民意の集約を図り、さまざまな政治課題に取り組むべきであると思う。そのように考えると、参考人の唱える単純小選挙区制には、賛同できかねる。


井上 喜一君(保守)

  • 広範な行政権を有する内閣の取り組むべき重要な問題の一つとして危機管理の問題がある。この分野に関する日本の対応は、世界的に見ても遅れている。ならば、その一環と考えられる有事法制について議論することは、当然である。


奥野 誠亮君(自民)

  • 参考人は、選挙制度を国民が首相を選択できる形に改革すべきであると指摘するが、私は、現在の制度を前提として、実質的に選挙の結果で首相が選出されるイギリスのような慣行を成立させることが望ましいと考える。


中山 太郎会長

  • 79条により最高裁判所裁判官の国民審査が行われているが、現状では国民に判断するに当たっての情報があまり伝わっておらず、有効に機能していないと思われる。この制度の設けられた趣旨である主権者たる国民のチェックという理念を活かすために、国民の代表たる議員によって構成される国会による承認へと、制度改革を行うことを検討すべきではないか。


北川れん子君(社民)

  • 井上委員から有事法制について言及があったが、危機管理といっても、その対象が問題である。自然災害については、阪神・淡路大震災等を契機として整備されつつあるが、そのほかの分野に関しても、憲法の枠内で議論することが肝要である。

>井上喜一君(保守)

  • 世界の情勢を見ていると、危機が生じないとの前提で国家の政策を考えることは現実的ではなく、おおよそ対応可能な措置等を憲法の枠内で考えることが重要である。


山口 富男君(共産)

  • 中山会長から国民審査制度について言及があったが、戦後の一時期には、最高裁判所裁判官の人事を決定する委員会が設置されていたが定着しなかったことなどの歴史的経緯も踏まえて議論することが肝要である。また、この問題は法的に解決を図ることができるものであり、必ずしも憲法問題とはならないと考える。
  • 有事法制に関しては、日本は憲法上明確に平和主義を定めていることから、軍事的なものに関しては反対である。

>井上喜一君(保守)

  • 心情として、有事のようなものを想定したくはないとの思いは理解できるが、現実の政策は別である。私も、憲法に何かを規定すればそれによって直ちに国が守れるとは思っていない。


中野 寛成会長代理

  • 政官関係の問題において、小泉首相は国会において、「変な議員の発言を、役所及び官僚は聞く必要はない」と述べているが、この言葉は、役所及び官僚に向けられたものではなく、そのような議員を作り出す政治の側に向けられたものと理解するべきである。政治の側は、政治家と官僚との関係のあるべき姿について、ルールを確立すべきである。