平成14年3月28日(木) 地方自治に関する調査小委員会(第2回)

◎会議に付した案件

 地方自治に関する件

  上記の件について参考人森田朗君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  東京大学大学院法学政治学研究科教授 森田 朗君

(森田朗参考人に対する質疑者)  

  伊藤 公介君(自民)

  中川 正春君(民主)

  江田 康幸君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  横光 克彦君(社民)

  渡辺 博道君(自民)

  中村 哲治君(民主)

  森岡 正宏君(自民)


◎森田朗参考人の意見陳述の要点

1.はじめに

  • 地方分権改革は、様々な社会的制度と現実の乖離に対応するための統治制度改革の一環であり、現在、世界の多くの国々でも様々な形で地方分権改革が進められている。

2.分権改革の現状と課題

(1)これまでの分権改革
  • 我が国では、地方分権一括法により、機関委任事務廃止等の一定の成果があったが、財政事情の悪化等の影響もあって、財政面における分権改革は不十分なものとなった。
(2)財政危機と分権改革の課題
  • 現在、国と地方は、その税収の比率が6:4であるのに対し、支出は4:6といった逆転状態にあり、また、多くの自治体で住民の税負担と受益のバランスがとれていない。このような状態の解消のためにも、補助金の整理・合理化や税源の地方への移譲が必要である。
  • 地方分権改革推進会議では、まず、国による過大な事務事業の見直しや制度面での環境整備から検討していく予定となっている。

3.市町村合併

(1)合併の必要性と合併の類型
  • 昨今の市町村合併論議の高まりの理由としては、(a)行政サービスを維持していくためには一定の行財政能力が必要であること、(b)市町村合併特例法に規定された合併に伴う財政的優遇措置の期限(平成17年3月末)が迫っていること、(c)住民の生活・行動圏の拡大、(d)人口減少、高齢化、産業空洞化への対応、が挙げられる。もっとも、合併は問題解決の万能薬ではなく、各地域に応じた対応が必要である。
  • 合併には四つの類型がある。それは、(a)人口数十万の都市が合併し、政令指定都市等を目指す「政令指定都市指向型」、(b)大都市周辺に位置する面積小かつ人口大の市町村が合併する「大都市周辺型」、(c)一定規模の地方都市が周辺部町村と合併して規模の大きな都市を形成する「地方都市拡大型」、(d)財政的に厳しい中山間地域の小規模町村が行財政能力の強化を目指して合併する「小規模町村統合型」、であり、特に(d)型のものが今後深刻な問題を抱えることとなると予想される。
(2)合併に伴う課題と対応
  • 市町村合併に関しては、21世紀の地域社会のあり方を見据えた対応が必要である。現在の政府の推進策において、ややもすると見られる一律的な合併推進や財政優遇措置の過剰な強調、「目標1,000自治体」といった数字の独り歩き等は避けるべきであり、個々の事情に応じたきめ細かい対応が必要である。
  • 現在の合併推進策に対しては、(a)国主導の合併は地方自治の理念に反する、(b)地方のコミュニティーを破壊する、(c)合併して広過ぎる自治体を一つ作るより複数市町村の広域連合等を形成する方がよい、等の反対論があるが、これらに対しては、(a)行政サービス維持のためには合併は全市町村に関する問題であり、国や県が調整する必要がある、(b)住民への行政サービス維持も重要であり、両者の利益のバランスを考慮した自治体のあり方を考えるべきである、(c)広域連合の方が合併よりも有用な事例は一部市町村のみに限られ、合併を否定する理由とはならない、と考える。
(3)合併後の市町村と都道府県のあり方
  • 市町村合併が進んでいくと、大都市の多い県では県からの権限移譲が進み、県の役割が小さくなり、逆に小町村の多い県では、県の負担や役割が大きくなることが予想される。都道府県のあり方についても慎重な検討が必要である。

◎森田朗参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

伊藤 公介君(自民)

  • 昨今、国は市町村合併を積極的に推進している。しかし、ほとんどの自治体が自主財源が乏しく財政的に自立していないという状況を解決しなければ、市町村合併を進めていくことは困難であると考えるが、いかがか。
  • 東京都が導入した「銀行税」(銀行に対する外形標準課税)について、先日、地方税法違反であるという判決が出たが、自治体の自主財源を確保するという見地から、東京都のように自治体による課税についての独自の取組みが大切と考えるが、いかがか。


中川 正春君(民主)

  • 地方への財源移譲が進まないのは、具体的なビジョンがなかったからであり、これを示す必要があると思うが、いかがか。
  • 地方自治に関する法規や基準の策定を、国がどの程度行うべきか。
  • 市町村の合併を進めるには、自治体の不安を払拭するために、そのモデルを示すことが重要であると思うが、いかがか。
  • 市町村合併を進める際には、「住民自治」の精神が実現されるよう、コミュニティーを尊重し、住民参加の機会の確保を図ることが重要であると考えるが、いかがか。


江田 康幸君(公明)

  • 小規模な自治体や財政状態が悪い自治体が、合併を希望しているのに取り残されるような事態が生じないように、国や都道府県が調整を図るべきだが、具体的にどのような方法によればよいか。
  • 都市部におけるのと違って、中山間地域の市町村の合併の推進には困難が多いと思うが、これを進めるにはどのような方策が考えられるか。


藤島 正之君(自由)

  • 参考人は、憲法92条の「地方自治の本旨」について、どのように考えるか。
  • 市町村の数が300ぐらいになるように合併を行うことによって市町村の規模を拡大するとともに、国から地方に財源を移譲し、現在、国の補助金で行っている公共事業を地方の財源で行えるようにすべきと考えるが、いかがか。
  • 参考人は、中山間地域では合併のインセンティブが働きにくいと言うが、このような地域で合併を推進する方策としてどのようなことが考えられるか。
  • 先般の地方分権一括法による機関委任事務の廃止の成果をどう評価しているか。


春名 直章君(共産)

  • 大日本帝国憲法では地方自治について何ら規定を置いていなかったが、日本国憲法において地方自治の章が設けられた意義をどう考えるか。
  • 今日、地方自治の本旨の一つである「住民自治」の精神が重要と考えるが、市町村合併により市町村の規模が大きくなると、住民の政治参加の機会が減り、「住民自治」の意義が低減するおそれがあるのではないか。
  • 1994年当時の第24次地方制度調査会では、地方分権の手段としての市町村合併には否定的な立場が示されたようにも解されるが、現在、政府が市町村合併推進の姿勢をとるに至っている経緯について、地方分権推進委員会の参与として関与されてきた立場から説明されたい。


横光 克彦君(社民)

  • 地方交付税を小規模自治体に厚く交付する「段階的補正制度」を見直すことについては、財政難に苦しむ自治体の首長からは批判がなされているが、参考人はどのように考えるか。
  • 福島県の矢祭町では町議会が市町村合併反対を決議し、その後の住民投票においても大多数によりこの決議が支持されたように、民主主義の下においてはすべての市町村が同じ考えを持つ必要はないと考えるが、いかがか。


渡辺 博道君(自民)

  • 自治体の適正規模について、参考人はどのように考えるか。
  • 市町村を一律に規定している現行制度には無理があると思うが、参考人はどのように考えるか。また、市町村と都道府県との役割分担については、どのように考えるか。


中村 哲治君(民主)

  • 政令指定都市が都道府県と同様の権限を持つことは、都道府県や近隣の市町村にとっては問題であると感じるが、参考人はどのように考えるか。
  • 参考人は、「政令指定都市を県から独立させる考えもありうる」としているが、これでは地方を切り捨てることになりはしないのか。私は基礎自治体の上に広域的な自治体を設置し、基礎自治体相互間の人事交流を図ることによって、地方にも配慮した行政が行われるようになると考えるが、いかがか。


森岡 正宏君(自民)

  • 今次の市町村合併政策は都道府県の枠内で行われているが、県境を越えるような合併があってもよいと考えるが、いかがか。
  • 明日香村のように小さくてもアイデンティティーの強い市町村にとって、他の市町村と合併するメリットはあると考えるか。
  • 憲法における地方自治の規定の仕方については、ドイツのように詳細に規定している国や、フランスのように簡潔に規定している国もある。参考人は、憲法に詳細に規定すべきと考えるか、それとも簡潔に規定して立法政策に委ねるべきと考えるか。
  • 憲法93条2項には地方公共団体の長の公選が規定されているが、アメリカのシティ・マネージャー(公選でない行政機関の最高責任者)のような制度を導入することについて、参考人はどのように考えるか。


◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

伊藤 公介君(自民)

  • 都道府県制のあり方に関して、様々な団体、有識者等から、都道府県をいくつかの州へ統合する道州制の提案がなされているが、今後、地方分権を論ずるに当たり、積極的にこのような道州制の導入を検討すべきである。


中村 哲治君(民主)

  • 今後、地方分権を進める上で、人口が集中し大規模で高い能力を持つ大都市部の自治体と、それ以外の地域の自治体との軋轢が深まることが懸念される。こうした軋轢を調整していくためにも、総合的な調整機能を担う広域自治体を設置し(広域共和制)、また各自治体間の人事交流を促進すべきである。


春名 直章君(共産)

  • 道州制は理念が見えず賛成できない。現在、進められている市町村合併の理由として、地方財政の悪化が挙げられるが、そもそも、地方財政の悪化は、景気対策として財政的な裏付けのないままに地方自治体による公共事業を推し進めた国の経済政策に原因があるのであり、それを理由として市町村合併を推進することは問題である。

中川 正春君(民主)

  • 地方分権の推進を地方分権推進委員会等の議論に委ね、国会が主体的に政治決断を行ってこなかったのは問題であり、今後は、国と地方の事務分配のあり方、地方への税・財源の移譲等の問題に関し、国会が積極的に政治決断を行うべきである。


永井 英慈君(民主)

  • 地方政治に長年に携わった経験から、中央集権・官僚支配体制を解体し、究極の地方分権を確立するために、道州制の導入が是非とも必要であると考える。


平井 卓也君(自民)

  • 政府が進める電子政府構想等のネットワーク化が進展すれば、単なる行政手続の電子化を超えた行政の効率化、新たな発展を図ることが可能であり、今後は、情報技術の進展を踏まえた地方分権の在り方を検討すべきではないか。


横光 克彦君(社民)

  • 地方自治においては、ボランティアやNPOといったような自立的に行動する市民・団体が果たす役割も重要であり、地方分権の推進にあたっては、地方自治体単独ではなく、地方自治体とこれらの市民・団体との協働も視野に入れた取組みを行うべきである。