平成14年4月11日(木) 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員会(第3回)

◎会議に付した案件

 政治の基本機構のあり方に関する件

  上記の件について参考人大石眞君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  京都大学教授 大石 眞君

(大石眞参考人に対する質疑者)

  奥野 誠亮君(自民)

  松沢 成文君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  山口 富男君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  井上 喜一君(保守)

  中山 正暉君(自民)

  伴野 豊君(民主)

  伊藤 達也君(自民)


◎大石眞参考人の意見陳述の要点

はじめに.

  • 選挙法は、国政上重要な機関である立法機関の組織等について規定するものであり、実質的な意味における憲法である。
  • 両院制の趣旨からみた両院組織法(議員選挙法)に関する憲法論を中心として意見を述べたい。


1.基本的な考え方

  • 一院制では多様な有権者の意思を集約できるかは疑問であり、両院制を維持するのが妥当である。
  • 両院がそれぞれ独自の機能を果たすことにより両院制をより意義あるものとするため、両院組織法をできるだけ異なった原理に基づくものにすることが必要である。


2.日本国憲法と両院制の在り方

  • 日本国憲法は、衆議院の優越を認める「一院制型両院制」を採用している。
  • 選挙制度については、両議院の任期、衆議院の全部入替制及び参議院の半数改選制のみが憲法上規定され、その他の事項は法律で規定するという「選挙制度法定主義」がとられている。
  • 両議院の選挙制度の在り方は、原則的に国会の裁量により決定できるが、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映される仕組みを考えることが必要である。また、選挙制度を考えるに当たっては、立法によっても変更できない憲法原理と法律で規定することができる事項を区別することが必要である。


3.両院組織法をめぐる問題

  • 現行公職選挙法は類似した両院組織法を定めているが、類似した両院組織法は両院制の趣旨を損なうと考える。
  • 衆議院組織法については、直接選挙制・平等選挙制は憲法上の原理である。
  • 参議院組織法については、衆議院のダイナミズムを緩和するという参議院に期待される役割を選挙制度にどう反映させるかが重要である。
  • 参議院議員選挙については、間接選挙制も可能だとする説や、直接選挙制を前提としつつ、平等選挙制は要求されないとする説に賛成である。


4.参議院の役割について(憲法改正を要する事項)

  • 衆議院の法律案の再議決の要件を緩和するとともに、衆議院のみが内閣総理大臣の指名権を持つものとする。なお、国会の会期制度とこれと関連した会期不継続の原則を見直し、「立法期」(議会期)制度を採用すべきである。


5.18歳選挙権、合同審査会について

  • 18歳の者は、既に職業に就き、納税の義務を果たしている者も多いことから、選挙権を与えるべきである。
  • 両院制の問題など両院にまたがる問題については、衆議院と参議院の憲法調査会の合同審査会で議論すべきである。

◎大石眞参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

奥野 誠亮君(自民)

  • 両院制を意味あるものとするためには、各院の構成等に違いを持たせることが必要であり、そのためには、各院の選挙制度をどのようなものにするかが重要であると考える。参議院議員選挙を間接選挙により行うこととした場合に、適切な者が選出されるための有効な方法があるか。
  • 衆議院議員選挙において重複立候補が認められることにより、小選挙区で落選した者が比例区で当選する場合がある。選挙制度は国民の納得のいくものでなければ信頼を損なうことになると考えるが、いかがか。


松沢 成文君(民主)

  • 我が国において、英米のように二院制を積極的に意義付ける歴史的な背景はあったのか。
  • 憲法上に、一票の格差が二倍を超えてはならないと明記すべきと考えるが、この点について、参考人の見解を伺いたい。
  • 選挙制度に関する議員間の議論は党利党略に陥りやすい。公的な第三者機関で決定した案を国会で承認することにより、公正な制度の実現が可能になるのではないか。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 参考人は、我が国憲法は「選挙制度法定主義」をとっているが、立法によっても変更できない憲法原理を区別する必要があるとする。立法府の裁量で決められる範囲と憲法原理との境界はどこにあると考えるか。
  • 選挙が「民意の反映」と「民意の集約」の二つの役割を持つという観点から、現在の両院の選挙制度について、参考人はどのように評価するか。
  • 参議院議員選挙の選挙区定数は、その数がまちまちで、制度としての原理・原則が見出しにくいと考えるが、この点について、参考人の見解を伺いたい。
  • 衆議院の選挙制度について、公明党は、定数削減と一票の格差是正のため定数3人の選挙区を150区設ける中選挙区制を提案しているが、この提案について、参考人はどのように評価するか。


藤島 正之君(自由)

  • 現在の変化が激しい時代においては、参議院に衆議院と同様の権能を持たせて二重に審査を行うよりは、参議院に、衆議院の「ダイナミズム」を緩和する役割を担わせるよう、両院の機能に格段の差をつけるべきと考えるが、この点について、参考人はどのように考えるか。
  • 政党政治の在り方に関する参考人の見解を伺いたい。


山口 富男君(共産)

  • 普通選挙、平等選挙、秘密選挙は、厳密に明文上規定されている憲法原理と考えるが、この点について、参考人の見解を伺いたい。
  • 衆議院議員選挙の一票の格差が2.5倍を超えている事実について、憲法原理から見た場合、参考人はどのように考えるか。
  • 参考人は、20歳未満であっても納税を行っていることから、選挙権を18歳から認めるべきと主張するが、憲法上の要請からも、18歳から選挙権を認めるべきであると考えるか。


金子 哲夫君(社民)

  • いわゆる衆参同日選挙は、現在、衆議院と参議院で類似の選挙制度が採用されていることから、衆参でほぼ同じ選挙結果となり、二院制の趣旨が損なわれるなどの憲法上の問題があると考えるが、参考人の見解はいかが。
  • 今国会の有事法制の議論のように、選挙時の公約として掲げられず争点とならなかった事項が、その後、国政上の重要な政策として議論の俎上に乗せられることは、民意の反映という点から見て問題だと考えるが、参考人の見解はいかがか。


井上 喜一君(保守)

  • 私は、参考人と異なり、二院制の有用性に対して懐疑的である。二院制の長所を観念的には理解できるが、日本及び欧米での運用において、二院制の特性が活かされた例は現実にはどれほどあるのか。
  • 現在の衆議院選挙において小選挙区比例代表並立制が取り入れられているが、政党内部の選出過程で敗れた者が勝者の支持に回らないことがあるなど、各政党の選りすぐりの候補者同士が有権者の審判を受けるという小選挙区制の本来の趣旨を活かした運用がなされる素地が、日本にはまだないと考えられる。そのような日本に適合的な選挙制度は、どのようなものであると考えるか。


中山 正暉君(自民)

  • 私は、自民党選挙制度調査会長を務めているが、島嶼(とうしょ)部が多く太平洋ベルト地帯に人口の大半が集中していることなど日本の地理的事情も含めた様々な要素を考慮しつつ、中選挙区制への回帰等も含め、理想的な選挙制度を模索している途上である。参考人に妙案があれば、ぜひ伺いたい。


伴野 豊君(民主)

  • 二院制の長所として、同一の事項につき再度審議がなされることによりチェックが期待できるという「再現性」が確保される利点があると思われるが、参考人はこの点につきどのように考えるか。
  • 参議院議員の選挙制度のあるべき姿とはどのようなものか。
  • 首相公選制に対する参考人の意見を伺いたい。
  • 政治や選挙制度に関わる問題として、メディアの報道の在り方及び技術革新に合わせた選挙制度をいかに構築していくかについて、参考人はどのように考えるか。
  • 参考人は、いわゆる「18歳選挙権」を実現するべきであるとの見解であるが、被選挙権については、どのように考えるか。


伊藤 達也君(自民)

  • 今後の憲法の在り方を考える上で、主権者たる国民の自己実現及び自己統治の観点から首相公選制は有用であると考えるが、議院内閣制の下での首相公選制導入の可能性、導入した場合の二院制への影響について、参考人の見解を伺いたい。
  • 政党政治も進歩していかなければならないのは当然であると考えるが、現在の政党政治に対する評価及び政党の理想像について、参考人の見解を伺いたい。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

藤島 正之君(自由)

  • 昨年の参議院議員選挙制度改革は、自民党の党利党略によるものと考えるが、中山会長のご意見を伺いたい。


>中山太郎会長

  • 政党政治である以上、選挙制度は、どうしてもその時の多数派にとって有利な仕組みになるのではないか。制度改革の結果として民意が反映されているかどうかについては、時間をかけて検証する必要があると思う。


>藤島正之君(自由)

  • 制度改革自体の結果は、歴史が評価するものであると思うが、先の改革について、国民は納得していないのではないか。


山口 富男君(共産)

  • まずなされるべきは、我が国の両院制を現憲法の規定に沿った形で改革することである。
  • 諸外国に比べても、我が国の国会議員は、少ない。このような違いを踏まえつつ、制度の検討を進めていくべきであると考える。


金子 哲夫君(社民)

  • 選挙制度以前の問題として、投票率が低いことについて検証がなされるべきである。
  • 国政上の重要な争点が必ずしも選挙の際の争点となっていないことは、民意の反映という点から問題である。


中野 寛成会長代理

  • 選挙制度には、完璧なものはないと考える。
  • 「選挙成年」を18歳とすることについては、早急に対応すべきである。また、被選挙権年齢が、衆議院議員・地方議会議員(25歳)と参議院議員・地方自治体の首長(30歳)との間で5歳の差があることに意味はなく、25歳に統一すべきである。
  • 選挙制度については、制度疲労を起こすことを避けるため、10〜20年程度の周期で全面的に見直すべきである。ただし、その際に両院の選挙制度を違える必要はある。


島 聡君(民主)

  • 選挙によって国民の意思を表現できるような両院制を目指すべきと考える。
  • 96条で、憲法改正案の発議のためには、両院ともに総議員の3分の2以上の賛成を要することとなっているが、両院に対等の条件を課す必要はないのではないか。また、憲法改正に必要な国民投票に関する法律が制定されていないのは、「立法不作為」と考える。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 大石参考人の意見陳述及び質疑応答を通じて、現憲法は、選挙制度について限定的に規定しているとの認識を得た。個人的には、選挙制度の具体的な内容についても、憲法に規定する必要があると考える。
  • 我が国の国会議員の数は、人口比に照らして考えると、諸外国と比べ決して多いわけではないという認識も得られた。


中山 太郎会長

  • 参議院議員の選挙制度について、かつての全国区というのは、全国を選挙区とすることで、候補者にとっては大変であった反面、全国の隅々に至るまでの民意に接することができ、それによって日本全体を見るという意識を持つことができたという意味もあったと認識している。