平成14年4月25日(木)(第3回)

◎会議に付した案件

1.沖縄地方公聴会(平成14年4月22日開催)の派遣報告聴取

 報告者 会長代理 中野 寛成君(民主)
 

2.上記の派遣報告等を踏まえて、「我が国の安全保障」について自由討議を行った。


◎派遣委員の発言の概要(発言順)

葉梨 信行君(自民)

  • 先の大戦における地上戦で多くの一般市民の命が失われるという経験をした沖縄では、「軍は市民を守ってくれない」との意識を強く持っていると認識させられた。
  • 沖縄地方公聴会では、基本的人権を守るために、憲法を遵守してほしいとの発言があったが、これは、米軍による占領等のつらい経験を踏まえたものであると考える。
  • 沖縄地方公聴会では、社会奉仕活動は自主的に行うものであり、教育課程においてこれを義務化することは納得できないとの発言があったが、地方公聴会終了後、発言者に、社会奉仕活動の義務化は、義務教育課程段階で社会奉仕の観念を学ばせることを目的としており、国民に強制するものではないことを申し述べた。
  • 沖縄は、戦後めざましい復興を遂げ、また、我が国も経済大国となった。このように、一つの区切りがついた中で、日本が世界の中でどのような責任を果たすべきかについて、憲法の在り方を沖縄の人々を含む国民と一緒に議論したい。


島 聡君(民主)

  • 沖縄地方公聴会においては、当調査会が発議権を持たないにもかかわらず、地方公聴会が改正への手続であるとする意見が出たが、これは誤解である。また、さまざまな意見が出て、言論の自由が守られているとも感じた。
  • 沖縄地方公聴会において「新しい人権」を規定するための憲法改正の是非について質問したのに対し、9条を含めた憲法改正への布石であるとの意見が出たが、このような意見にかんがみても、9条を正面から議論する必要がある。
  • 武力攻撃事態法案に定める首相の代執行的な権限(地方公共団体等が実施すべき対処措置を、一定の場合において、首相自らが実施することができる権限)については、沖縄県知事との懇談において、地方公共団体との調整の必要性を指摘する意見が述べられたが、これは、憲法の定める地方自治をどのように考えるかという問題につながるものであり、当調査会で議論する必要がある。


赤松 正雄君(公明)

  • 憲法の議論はタブー視することなく行うべきであり、改憲の意見を持つ者と護憲の意見を持つ者が、互いの主張に耳を傾けず、「冷戦思考」から抜けきらずにいることは不幸であると考える。
  • 平和外交に専念することと最小限の力の裏付けとして自衛権を憲法上に明記することは矛盾しないと考える。
  • 沖縄国連研究会は、国連のアジア本部を沖縄に誘致し、沖縄の平和の心を世界に向けて発信することを主張している。これに対し、外務省はアクセス面での利便性や、国連大学が東京にあること等を理由として消極的な対応をしているが、この提案はアジアにおける平和戦略の要石であると考える。
  • 有事法制関連3法案に関しては、万一の事態に備えるのが政治の責務であると考える。


春名 直章君(共産)

  • 本土復帰前まで憲法の適用がなく、現在も基地問題を抱える沖縄は、平和と人権を脅かされてきており、沖縄こそ憲法の実現を切実に求めている。沖縄において憲法理念がなぜ実現していないのか、その実態を調査すべきである。
  • 有事法制関連3法案については、曖昧な要件で国民の自由・人権を制限する仕組みとなっている等の意見が出された。沖縄では、軍は国民を守らないことを体験しており、日本国憲法は、その反省に立ち、国権の発動による戦争・武力の行使を禁止し、常備軍の保持を禁じている。この憲法の下で、有事法制は断じて許されないと考える。
  • 沖縄の体験や実態を真摯に受け止めた上で、本調査会における調査を行わなければ、地元紙による「地方公聴会は国民の声を聴いた形を整える、改憲へのアリバイづくりの印象」との批判には応えられない。


金子 哲夫君(社民)

  • 地上戦が行われた沖縄や核兵器が投下された広島で多くの一般市民が犠牲となったことの反省に立って、憲法の前文や9条があることを、多くの意見陳述者が指摘した。
  • 有事法制が必要な理由として「備えあれば憂いなし」というが、日常の不断の平和的努力によって憂いを作らないことが政治の役割である。
  • 沖縄にとって、平和憲法は「戦いとったもの」とする意見陳述者の発言の意味を重く受けとめつつ、当調査会での調査活動を行いたい。

◎各委員の発言の概要(発言順)

中野 寛成君(民主)

  • 安全保障問題を考えるに当たっては、力の空白地帯を作らないというパワーバランスにより平和が保たれているという国際社会の実態を踏まえる必要がある。
  • 憲法上、自衛隊が国民の生命・財産を守るためのものとして明確に位置付けられていない状態は、憲法の欠陥と言えなくもない。このことは、国民の憲法や安全保障に関する議論を混乱させるもとになっており、明確にすることが必要である。
  • 憲法調査会は、憲法のあるべき姿を調査し、これが遵守されているかという観点から法律の運用を精査するものでもあり、常設機関とすべきである。


高市 早苗君(自民)

  • 国際社会において平和が所与のものとして存在するという考え方は誤りであり、国家は、万が一の事態が発生した場合に備えて、国家の独立や国民の生命・財産を守ることのできる体制を整えておかなければならない。
  • 前文に、平和構築に積極的な協力を惜しまないという理念を付加すべきである。
  • 国民の生命・財産を守ることは国家の責務であり、そのためには、(a)諸外国等により侵害を受け、又は受ける可能性のある場合に、自衛権の発動としての交戦権を行使できる旨を憲法に明記する、(b)自衛隊を国軍と位置づけ、自衛や国際貢献の任につく旨を明記する、(c)自衛権の発動として交戦権行使を意思決定する際の文民統制を保障することが必要である。
  • 外交保護権の位置付けを憲法上明記すべきである。


松沢 成文君(民主)

  • 独立国としての安全保障の基本体系を憲法上明記すべきである。
  • 憲法改正がすぐに実現できない場合には、安全保障に関する理念を明確にするため「安全保障基本法」を制定し、その下で、有事法制や国連への協力を定める非常措置関連の立法を行うべきである。
  • 憲法を改正する際には、第2章の章名を「戦争放棄」から「安全保障」に変更し、9条1項において侵略戦争を行わないこと、2項において独立国として自衛権及び自衛軍を持ち、これに文民統制を及ぼすこと、3項において国連の平和維持活動に全面的に協力することを定め、4項において、我が国が大量破壊兵器の根絶を目指し世界の先頭に立つことを宣言するべきである。
  •  2項に自衛権を定めるに当たっては、個別的自衛権と集団的自衛権を区別することなく「自衛権」と規定し、自衛権の行使の内容については、そのときの政治判断によるべきものと考える。


首藤 信彦君(民主)

  • 憲法には、国際協力について、民主化支援、予防外交、市民による平和活動等を導き出す具体的な規定がなく、前文に定める高い精神性をどのように具体化するかを盛り込む必要がある。
  • 我が国の現実の平和構築に向けた努力は、憲法の精神を活かしていない。例えば、パレスチナの和平に対する日本の外交姿勢は「犯罪的沈黙」とも言え、また、国際人道法や国際司法裁判所への取組みも十分とは言えない。
  • 9条の理念を海外に広げるべきだと主張するだけではなく、国内に居住する外国人のための憲法講座等の開設、東チモールに対し我が国の憲法学者を派遣するための支援等の具体的な貢献を行うべきである。


山口 富男君(共産)

  • 現行憲法においては、諸国民の公正と信義に基づき、平和的手段をもって、世界平和の構築に向けて積極的に働きかけるとともに、自国の安全を図るという平和と安全に係る明確な理念が示されている。自衛隊、日米同盟等のこの理念に反する現状を憲法の理念に沿った形で解消していく必要がある。
  • 有事法制関連3法案については、米国への協力体制を整備するものであり、国民を紛争に巻き込むおそれがあること、アジア諸国で警戒と批判とが生じていること等を踏まえた上で、議論すべきである。
  • 憲法調査会の常設化については、賛成しかねる。


藤島 正之君(自由)

  • 自分の国は自分で守ることや、国連を中心とした国際平和に向けた協力体制に積極的に参加することを憲法に明記すべきである。
  • 有事における国民の権利制限については、「公共の福祉」とは別な形での判断に基づくべきである。
  • 有事法制の整備については、「有事」にもさまざまな段階があり、また、その段階に応じた対応が必要であることを踏まえた上で、体系的な法整備を図るべきである。


小林 憲司君(民主)

  • 今日の国際情勢にかんがみれば、問題が生じるたびに個別の法律を制定する従来の手法では効果的な対応が困難であることから、有事等への対応については、憲法に明文化すべきである。
  • 有事法制関連3法案を議論するに当たっては、米軍の日本国内での円滑な活動を確保するため、米軍との関係について、優先的に検討していくべきである。


葉梨 信行君(自民)

  • 9条については、さまざまな議論を経て、自衛隊を合憲とする解釈が確立してきたが、他方で、無責任な平和観念が存在することも事実である。
  • 一定の武力が平和の構築に寄与していることや、日米安保条約や駐留米軍基地の存在により日本や近隣諸国の平和が保たれてきた事実を踏まえた上で、今後の安全保障に関する議論を進めていく必要がある。


中村 哲治君(民主)

  • 集団的自衛権の行使に係る内閣法制局の解釈は、合理的な理由が明らかでない。また、憲法に関する一次的な解釈権を有する国会において、その議論がほとんどなされてこなかったことは問題である。
  • 日米安保条約や駐留米軍基地の存在については、国際法上、集団的自衛権の行使に該当するものであり、この事実を無視して「集団的自衛権は行使できない」とする解釈をとり続けることは、無制限に米国の要求に応じる結果となり、我が国の国益に反する。憲法前文及び9条の趣旨に沿って限定的かつ厳格に考え、その枠内で具体策を講じていくことこそが、我が国の国益につながると考える。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 安全保障に関する議論については、いかなる場合であっても「暴力」を「暴力」によって解決すべきではないという考え方と、「暴力」に対しては正当防衛のような形で一定の「暴力」をもって対処すべきであるという考え方との対立がある。私は、後者の考え方に与するものである。
  • このような考え方は、各人の生き方や価値観に関わる問題であり、一定の結論を出すことは難しい。したがって、当分の間、9条を堅持しつつ、安全保障に関する広範な議論を続けていく必要があると考える。


中川 正春君(民主)

  • 国連を中心とした世界平和の構築を前提とする憲法前文の理想と、日米安保条約をはじめとする現実とのギャップという憲法の矛盾が、沖縄に集中していると考える。
  • 我が国は、周辺事態法、テロ対策特措法等の制定を通じて、米国の極東戦略において一定の役割を果たしてきた。有事法制関連3法案の審議に当たっては、安全保障問題は我が国自身が主体的に決定すべき問題であることを認識するとともに、国家としての基本を踏まえた上で、国会の場で十分な議論を尽くすべきである。
  • 集団的自衛権の行使については、解釈論で対応するよりも、憲法に明文化すべきである。


今野 東君(民主)

  • 有事法制関連3法案は、有事の定義、文民統制、地方分権、人権制限等の点において問題がある。
  • 現行憲法では、有事を生じさせない努力をするという考え方に基づき、有事の発生及び有事への対応が想定されていないが、他方で、日米安保条約では、有事が想定されていることから、我が国の安全保障に関する考え方は、揺れ動いていると言える。
  • 我が国は、予防外交をはじめとする自立した平和外交を積極的に推進していくとともに、我が国に有事を招来させる可能性を有する日米同盟の在り方を見直すべきである。


葉梨 信行君(自民)

  • 9条の改正に反対する主張の背景の一つには、先の大戦において軍部の暴走を許したことから軍事当局に対する不信感があると考えられるが、現行憲法においては、文民統制の規定に基づき、国会や国民による十分なコントロールが可能となっている点を認識すべきである。
  • 諸外国の公正と信義を信頼することは、現在の国際情勢にかんがみれば、現状認識として適切でない。むしろ、現行憲法の掲げる平和主義や民主主義に対し確固たる思いを有している日本国民を信頼し、また、国家の使命として国民を守るという観点から、我が国の安保体制の整備を図るべきである。


伴野 豊君(民主)

  • 健全な危機管理意識を持ち、危機的な事態をあらゆる側面から検討した上で、そのような事態に際しての対応を考えておくことが政治家としての責務である。また、検討の結果、現行法では対応できない点については、対応できるように改正しておく必要がある。
  • 憲法は、難しい解釈をしなければ理解できないようなものではいけない。国民が容易に理解できるものとする必要がある。


土屋 品子君(自民)

  • 現在さまざまな事態に対して憲法解釈による対応をせざるを得なくなっており、憲法が国民から見て理解しにくいものとなっていると考える。憲法は、国民から見て理解しやすいものとすべきであり、また、世界から見て日本の行動基準が明確に分かるようなものとすべきである。
  • 国会では、憲法に関する論議が盛んに行われているが、国民的な論議はまだまだ十分には行われていないと思う。各国会議員は、それぞれの地域において、憲法についてのメッセージを発信すべきである。
  • 現行憲法では、自衛隊の派遣は無理だと考える。早く改正を行い、分かりやすい憲法とするとともに、集団的自衛権を憲法に盛り込むべきである。


植田 至紀君(社民)

  • 冷戦崩壊後、安全保障の考え方は、軍事ブロックの対立・均衡から多国間の信頼と協調に基づく安全保障(人権、経済、環境など「人間の安全保障」の観点を軸としたもの)に変化している。このような考え方は、「軍事力によらない平和」という憲法の理念に沿うものである。
  • 新たな国際秩序を構築する方法としては、平和憲法の精神の具現化が最も現実的である。具体的な政策としては、(a)国会による不戦国家の宣言、(b)平和基本法の制定、(c)沖縄を中心とした米軍基地の整理、(d)ODA基本法の制定、(e)日米2国間同盟からの脱却、(f)北東アジア非核地帯の創設等が挙げられる。
  • 特に、北東アジア非核地帯の創設については、非核国家宣言を行っている国があるなど既にその下地ができており、実現可能性は高いと考える。
  • 有事法制は、人類が平和構築に向けて努力してきた歴史の流れに逆行する蛮行である。