平成14年5月9日(木) 国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会(第3回)

◎会議に付した案件

国際社会における日本のあり方に関する件

 上記の件について参考人寺島実郎君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  株式会社三井物産戦略研究所所長 寺島 実郎君

(寺島実郎参考人に対する質疑者)

  平井 卓也君(自民)

  中村 哲治君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  山口 富男君(共産)

  阿部 知子君(社民)

  井上 喜一君(保守)

  石川 要三君(自民)

  首藤 信彦君(民主)

  土屋 品子君(自民)


 

◎寺島実郎参考人の意見陳述の要点

1.日本の20世紀の総括

  • 20世紀における日本の外交及び国際関係における位置付けを総括すれば、「アングロサクソン同盟」という言葉に集約される。すなわち、日本は、戦前は英国との同盟関係により大国の一員となり、また、戦後は米国との同盟関係の下で敗戦からの復興と成長を遂げた。
  • このため、日本は、「アングロサクソン同盟」により成功を体験したという認識を有している。また、このような体験は、他のアジア諸国に例のないものである。

2. 21世紀における日米同盟を考えるに当たっての留意点

  • このような認識から、21世紀においても日本は日米同盟を重視していくべきとの意見がある一方で、そのような考え方に慎重な意見もあるが、いずれにせよ、今後の日米同盟の在り方を考えるに当たっては、以下の点に留意しなければならない。
  • 第一に、日米関係については、2国間関係において完結するものではなく、中国との関係に常に配慮しなければならない。近年、米国は、中国の経済・軍事大国化にかんがみ、これまでの日本重視のアジア戦略を根底から転換し、日本と中国との双方を重視する相対的ゲームを展開しようとしている。日本は、米国と中国という大国に挟まれる状況の中で、いかに舵を取っていくかを考えなければならない。
  • 第二に、日米同盟については、戦後50有余年の間、日本の安全保障において多大な役割を果たしてきたが、今後の50年を見据え、固定観念にとらわれず、冷静に再設計しなければならない。その際、(a)独立国に外国軍が長期にわたり駐留することは異常であること、(b)米国は自らの戦略とその時点における米国国民の世論の枠組みの中でしか日本を守らないこと、以上二つの国際的な常識を踏まえなければならない。
  • 第三に、米国というフィルターを通じて国際社会を見るのではなく、近隣諸国から理解と共感を得られる「開かれたナショナリズム」に基づき、主体的に国際社会と接していくとともに、米国に対する問題意識を持ち直さなければならない。

3.日本の安全保障政策に関する提言

  • 日本は、国家としてのあるべき姿を意思表示する意味において、在日米軍の地位協定の改定、段階的な駐留米軍基地の縮小等をはじめとする日米安保条約の見直しを米国との議論の俎上に載せるべきである。
  • 日本は、専守防衛を維持しつつ、米国との軍事協力をはじめとするアジア戦略を再定義すべきである。
  • 日本は、ロシアや中国を含む東アジア地域において、米国を巻き込む形で、予防外交の理念に基づく多国間のフォーラムの形成を図るべきである。

◎寺島実郎参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

平井 卓也君(自民)

  • 日米安保を見直すべきであるとの参考人の見解に賛成だが、そのことと9条の問題とを切り離して考えることはできないと考える。私見としては、国際社会における日本の位置付けを9条に定めるべきであり、また、前文や9条を改正すべきと考えるが、いかがか。
  • 現在の日本の外交・安全保障政策においては、パワー・ポリティクスや対中国問題にばかり関心がいっているが、今後は、経済の安全保障や人間の安全保障といった異なるステージに分けて政策を決定していくべきである。環境問題や軍縮等のグローバル・ガバナンスの分野において、日本が中心的な役割を担い独自の外交を行うことのできる場面は少なくないと考えるが、具体的にどのように取り組んでいくべきか。


中村 哲治君(民主)

  • 集団的自衛権の行使を禁止する現行の政府解釈は、米国への無限定かつ無原則な協力を招来するなどしており、国益を損ねている。自衛権については、集団的自衛権と個別的自衛権とを区別すべきでなく、また、前文や9条の理念を踏まえ、抑制的に行使していくべきであると考える。国益を重視しつつ、このような考えを実現していくためには、憲法解釈の変更をすべきなのか、それとも憲法改正をすべきなのか、参考人の見解を伺いたい。
  • 参考人の提唱する東アジアの安全保障に関する多国間フォーラムには、民主主義の大国であるとともに親日的なインドをも含めるなどの広域的な連携も図るべきではないかと考えるが、いかがか。参考人としては、まずは、日本の近隣諸国間のフォーラムの形成を図るべきと考えているのか。


赤松 正雄君(公明)

  • 先日、私は、米国で、(a)ブッシュ政権による在日米軍基地縮小政策が滞ってしまったという意味での「日本の米国への失望」と、(b)安全保障分野において、これ以上、日本は米国の期待に応えられないという意味での「米国の日本への失望」という「二つの失望」論を講じた。日米同盟の下での協力体制について両国の国民が抱く認識・期待の間に相当の隔たりがあると考えているが、参考人は、このような状況をどのように打開すべきと考えるか。
  • 国連のアジア本部を沖縄に設置する構想は、21世紀前半の重要テーマと考えるが、いかがか。


藤島 正之君(自由)

  • 米国の東アジア戦略において、日米安全保障条約が締結されて長らくの間は、極東の旧ソ連軍が意識されていたが、冷戦構造が崩壊した現在においては、中国の存在が重視されている。米国の今後の対中国政策は、どのようになっていくと考えるか。
  • 現在の日米関係において、日本は、経済的な好不調の差等により、米国の51番目の州であると揶揄されるほどである。米国は、現在のような状況にある日本と同盟関係を続けていくことを、どのように考えているのか。
  • 周辺事態法が整備されるなど日米安保体制が変質して「極東条項」が形骸化し、日本は、アジア全般や中東までを視野に入れた米国の世界戦略の一部に組み込まれつつある。日本が独立国家である以上、米国から独立した存在であるべきと考えるが、そのためにどのような発想が必要であると考えるか。


山口 富男君(共産)

  • 私は、日本の外交には、(a)自主性の弱さ、(b)アジア諸国との関係の希薄さ、(c)平和構築に向けた努力の不足があり、これが、参考人の主張する日米安保の再設計の背景にあるのではないかと考える。参考人の主張する「非核平和主義」の理念は、その再設計の中でどのような役割を果たしていくべきと考えるか。
  • 現在審議が行われている有事法制関連3法案の問題点は、それが武力行使論になってしまっていることにある。先の大戦後、日本は、二度と戦争を繰り返さないとの信義の下に国際社会に復帰したが、このような議論は、それにもとるものではないか。
  • 憲法や国連憲章の掲げる国際的な協力により平和を維持していこうとする考え方は、21世紀にも活かされていくべきではないかと考えるが、いかがか。


阿部 知子君(社民)

  • 参考人は9条2項を改正すべきであるとの意見を持っているようであるが、その前にアジア諸国に対し過去の戦争に対する総括を十分に行うなど、対アジア政策としてなすべきことがあるのではないか。


井上 喜一君(保守)

  • 日本人が戦略的な思考をすることができないのはなぜか。
  • 安全保障の問題については、日本は、国際情勢を踏まえた上で、タイミングを見て、適切かつ主体的な対応をすべきであると考えるが、いかがか。
  • 参考人は憲法改正についてどのように考えているか。また、改正すべきだとすれば、具体的にはどのような点について改正すべきだと考えているか。


石川 要三君(自民)

  • 一昨年の海外調査において、イタリア在住の作家である塩野七生氏から、「人間に法を合わせるべきであり、また、法は必要に応じて改められるべきである」との指摘を受けた。この指摘にかんがみれば、憲法の制定当初と比べて日本の国内外の事情が大きく変化していることから、憲法の改正は避けて通れないのではないか。
  • 現在、有事法制関連3法案について審議が行われているが、まず、憲法の「平和主義」や9条の問題を整理した上で、議論を行うべきではないか。


首藤 信彦君(民主)

  • 憲法は、強大な力を持った中国が出現するということを想定していなかったが、このような事態に対処するに当たって、具体的には、(a)東南アジア諸国との協力関係を強めることによりバランスをとる方法、(b)「周辺民族連合」を作る方法、(c)中国と同盟を結ぶ方法などが考えられると思うが、参考人はこのような方法についてどのように考えるか。
  • 現在の米国外交は文明対立を引き起こすかのような姿勢をとっており、それはキリスト教であるか否かによって二分するようなものに見える。このような米国外交に対し、日本はどのような、また、どれだけの影響を与えられるのか。


土屋 品子君(自民)

  • 国会の中だけでの憲法論議は行き詰まっており、安全保障などの問題について提言できるような中立的なシンクタンクを創設することが必要であると考えるが、これを日本に作るためにはどのようにすればよいか。また、そのようなシンクタンクを作ることは、参考人の主張する多国間フォーラムの形成にもつながるのではないか。
  • ITは、国民が民意を直接国政に反映する手段として重要な意味を持つと考えるが、そのような観点から、参考人は、現在の国会議員の選挙制度や両院制についてどのように考えるか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

赤松 正雄君(公明)

  • 「集団的自衛権」の概念は、複雑多岐なものであり、理解の仕方に混乱が見られる。私は、中心部分に(a)「海外へ派兵して武力を行使すること」があり、その周辺に(b)「武力行使との一体化」の部分があり、さらにその外側に、(c)「武力行使との一体化」に限りなく近いが、一体化ではない部分があると考える。
  • 上記の(a)は、憲法改正によっても許されるものではないと考える。また、現行の憲法解釈上認められているのは(c)までとされているが、(b)については、検討の余地があると考える。


中村 哲治君(民主)

  • 赤松小委員の考え方とは異なり、自衛権の中心的な部分は個別的自衛権であり、また、個別的自衛権と集団的自衛権の境目は明確なものではなく、区別すべきではないと考える。ただし、その行使は、抑制的でなければならない。海外派兵と武力行使との一体化の部分との間に違いがあるとする考え方は、理解できない。
  • 国連憲章では、51条において加盟国に個別的自衛権と集団的自衛権とを認め、他方で、国連を中心とする集団的安全保障の枠組みを定めており、両者の違いを明確に捉える必要がある。
  • 米軍の駐留を認めることが集団的自衛権の行使に当たらないと言えるのかは、再検討すべき問題であると考える。


山口 富男君(共産)

  • 冷戦後、第三世界の発言力が増大している時代にあって、異なる文明間の平和的共存は重要である。日本は、この共存を支える理念を憲法の原則として掲げる国である。
  • 二度の世界大戦への反省から、国連憲章において戦争の違法化が確認され、その下で自衛権が定められた。憲法は、さらに戦力の不保持を定めており、国連憲章を前進させたものとなっている。
  • 戦後の米ソの対立やアジア地域が不安定な状況の下で、国連憲章や憲法はその実現への条件を充たされずに来たが、21世紀は、憲法や国連憲章等の理念を踏まえ、多層的・多元的に平和憲法を活かす方向で考えるべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 共産党が政権を担当する場合の安全保障に対する考え方について、山口小委員に見解を伺いたい。

>山口富男君(共産)

  • 憲法9条の立場で、中立で国を守る。
  • 9条は、国を守るという意味の自衛を規定していると考えるが、これは戦力や軍隊を保持するという意味を含まない。憲法上、自衛隊は違憲であると考えるが、自衛隊の存在自体については、政権を担当する際の政権合意の中で考慮する問題であり、また、国民の考え方にもよるものであって、次元を異にすると考える。いずれにしても、現在の政府が考える方向で自衛隊を強化することはない。


井上 喜一君(保守)

  • 外交政策には一貫性が必要であり、その転換には、タイミングを見極める必要があると考える。
  • 9条の改正問題、特に集団的自衛権の行使の是非を論ずるに当たっては、駐留米軍と集団的自衛権の関係、周辺事態と武力攻撃事態の概念の整合性、「武力行使との一体化」を基準とする政府解釈の見直し等の整理が必要である。


赤松 正雄君(公明)

  • (a)「海外へ派兵して武力を行使すること」は断じて行うべきでないが、(b)「武力行使との一体化」の部分については、日米同盟関係を考慮するとやむを得ない面があると考える。この点についての中村小委員の見解を伺いたい。

>中村哲治君(民主)

  • 一般的にどこまで許されるかという憲法解釈と、具体的にどうするのかという立法・政策論とは区別して考えるべきである。
  • 憲法が自衛権の行使を許していると考えるのであれば、個別的自衛権と集団的自衛権を区別して考えることは妥当ではない。また、立法・政策論として、自衛権の行使については限定的に考えるべきである。


中山 太郎会長(自民)

  • 将来的には、アジア地域における安全保障の枠組みを建設する努力が必要である。その際、個別的・集団的自衛権の問題をどのように関連付けるかが、今世紀の課題の一つになろう。
  • 憲法の在り方について、我々国会議員は、国民のために議論することが大事である。その中で軍事力の規模、地域共同体の在り方、国連との関係が自ずと明らかになると考える。


中川 正春君(民主)

  • 冷戦下、日本の役割が日米安保条約の中で提示され、日本の意思にかかわらず、その役割を果たすことを求められてきたが、その際、9条は、日本が武力行使に関わる役割を果たすことができない場合の言い訳に使われてきた。
  • 参考人は、我が国は国家としての意思を持つべきであると主張している。今後、我が国は、9条のみによって日本の立場や自衛隊の活動の在り方を説明するのではなく、国家としての世界観を持ち、これによって世界に対して説明すべきである。憲法論議に当たっては、そのような世界観を踏まえるべきである。