平成14年6月6日(木) 地方自治に関する調査小委員会(第4回)

◎会議に付した案件

 地方自治に関する件

  上記の件について参考人片山善博君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  鳥取県知事 片山 善博君

(片山善博参考人に対する質疑者)

  伊藤 公介君(自民)

  中川 正春君(民主)

  江田 康幸君(公明)

  武山 百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  西川 太一郎君(保守) 

  森岡 正宏君(自民)

  永井 英慈君(民主)

  渡辺 博道君(自民)


◎片山善博参考人の意見陳述の要点

地方分権を実現するための諸課題

1.首長及びその組織

  • 現在の地方自治法は自治体の組織・機構を詳細に定める等、各自治体が、多様性、地域性、柔軟性を持った組織・機構を設けることを妨げているので、これを改めるべきである。
  • 自治体の首長には多くの権限が集中しているため、多選された場合、権力が自己目的化される等の弊害を招く場合が多いことから、首長の多選は制限されるべきである。

2.独立行政委員会

  • 公安委員会、教育委員会等の独立行政委員会の委員は、中立性はあるが、専門性・当事者能力を欠き、国や県の方針を無批判に受け入れる中途半端な状態にある。当事者能力を持たせ、民主主義的要素を注入するため、(a)公選の首長の下に置くか、(b)公選で選出するといった方法を考えるべきである。

3.地方議会

  • 地方議会は、根回しが横行し、質問や答弁が事前に準備される等、形骸化したものになりがちだが、そのような慣行を改め、首長・地方議会が相互に緊張感を持った関係を築くべきである。
  • 地方議会の定数、定例会等を画一的に規定している地方自治法の規定を改め、多様で自主的な地方議会の在り方を認めるべきである。
  • 地方議会においては、教員やサラリーマン等の生活者の代表が、その身分のまま、地方議員となれるようにすべきである。

4.監査制度

  • 監査制度は非常に重要であるため、監査委員を公選する等して、監査する側とされる側が緊張感を持った関係を築くべきである。

5.地方財政

  • 現在の地方財政の破綻の原因は、政府が、景気対策として、地方自治体に対し地方債の償還に地方交付税を充てることを約束して公共事業の実施を焚き付けたことにある。
  • 政府は、補助金等により、ダム建設のようなハード面の公共事業に自治体の政策を誘導してきたが、自治体が必要としているのは環境、教育等に係る人材充実といったソフト面の政策であるので、地方財政は自治体の政策選択に中立的であるべきである。

6.地方税

  • 都道府県税の主要を占める法人事業税は景気の動向により左右されやすいので、外形標準課税を導入するか、又は、法人事業税を国に移譲し、代わりに個人所得税を地方に移譲するといったような対策を講ずるべきである。

7.国と地方の関係(親離れ、子離れ)

  • 国と地方の関係について、「地方ができることは地方で」「国がやるべきことは国で」という原則の下に、地方も国を頼らない一方で、国も本来の責務をきちんと果たすべきである。

◎片山善博参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

伊藤 公介君(自民)

  • 地方での独自課税導入の動きは、国を動かす構造改革の根源であり、住民にとって税を身近に感じられる契機になると思われるが、参考人は、これについて知事としてどう思うか。
  • 国の税収のうち5.5兆円を地方税として移譲する総務大臣案が先日発表されたが、地方財政改革については、地方交付税との関連で考えなければならない。地方交付税制度を抜本的に改革することについて、意見を伺いたい。


中川 正春君(民主)

  • 知事職が官選であった時代の名残から、現在でも地方自治体では首長の権限が強く、議会の権限は弱いように思われる。これに対する解決策として、地方自治体に議院内閣制のような制度を導入することも考えられるが、いかがか。
  • 地方分権の具体化に伴い税源移譲を進めると、自治体間ではかえって格差が広がっていくおそれがある。こうした事態に備えて、どのような財政調整制度を考えるべきか。
  • 道州制に関して、国に近い役割を担う道州を置くべきとする考え方と、基礎自治体をしっかりさせて道州はあくまでその機能を補助するものに抑えるべきとする考え方の二つが考えられるが、参考人は、これについてどう考えるか。


江田 康幸君(公明)

  • 参考人は、財政に関して、事務量を見積もって歳出を量り、それに基づいて歳入(税収)を決定する「量出制入」の原則が守られるべきであり、そうすれば地方が政策議論において自主性を発揮できるとしている。 参考人は、県知事として、この理論をいかに実践し、どのような成果を得たか。
  • 地方交付税の抜本的改革をするに当たっても、交付税がもつ水平型財政調整の機能はなお必要である。交付税と自主財源のバランスについて、参考人はどう考えているか。


武山百合子君(自由)

  • 教育の分野における分権を進める上で、教員の採用は都道府県ではなく市町村が主体となるべきだと思うが、いかがか。
  • 校長のリーダーシップが発揮されない理由として、校長に教員の人事権がないことが挙げられると思うが、いかがか。
  • 中央集権的な政治体制が、教育をはじめあらゆる分野で地域の多様性を奪い画一化を招いていると考える。参考人は、この元凶を何だと考えるか。


春名 直章君(共産)

  • 参考人は、県知事という職責を果たすに当たって、憲法をどのようなものとして認識しているか。
  • 平成12年10月の鳥取県西部地震の際に参考人が進めた住宅再建支援策は、憲法25条の生存権の実践であったと解する。その取組みを通じて、憲法との関係において、人権尊重の面で行政側が取り組むべきこととしてどのようなことが考えられるか。
  • 現在政府が進めている市町村合併推進策では、目標自治体数が掲げられ、期限を決めて財政上の優遇政策が設けられている。参考人は、このような政府の合併推進策についてどう考えているか。また、鳥取県では、市町村合併にどう取り組んでいるか。


金子 哲夫君(社民)

  • 過疎地域が抱える様々な問題に対しては、市町村合併は解決策にはならないのではないか。
  • 鳥取県は、「環日本海交流」という地方自治体の立場からの国際交流に取り組んでいるとのことであるが、地方自治体が北東アジアの中で果たすことのできる役割としては、どういうものが考えられるか。
  • 有事関連三法案に関して、人権及び地方自治の観点から、参考人の意見を伺いたい。


西川 太一郎君(保守) 

  • 地方分権の推進のためには、地方自治体に課税自主権を認める必要があると考えるが、いかがか。また、地方自治体独自の課税として、いわゆる「銀行税」や「ホテル税」が検討されているが、このような動きについてどう考えるか。
  • 国会と異なり、地方議会には住民の生活に密着した内容や取組みが求められると考えるが、地方議会の活性化について、参考人の考えを伺いたい。


森岡 正宏君(自民)

  • 現行法における地方自治体の首長と議会との関係について、改善すべき点があるとすれば、どのような点か。
  • 参考人の主張するように教育委員を公選で選出すると、イデオロギー対立が委員会内に持ち込まれるのではないのか。また、義務教育に関する教員の給与の半分を国が負担する制度についてどう考えるか。


永井 英慈君(民主)

  • 地方分権を進めるに当たっては、全国知事会等の地方関連団体が率先して行動する必要があるのではないか。
  • 政令指定都市の行政区に自治権を与えるべきと考えるが、いかがか。


渡辺 博道君(自民)

  • 参考人は、知事の職務を行うに当たり、「地方自治の本旨」の意味をどのように理解しているのか。
  • 参考人は、現在の地方自治法のどのような点に問題があると感じているのか。
  • 地方交付税制度は大変複雑であるため、簡易な制度に改めるべきであると考えるが、いかがか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

西川 太一郎君(保守)

  • 国は地方の能力を信用して地方に権限を移譲すべきであり、憲法を改正する際には、このような観点も検討すべきである。


中野 寛成会長代理

  • 米国では多くの財政的権限や教育制度に関する権限が地方に移譲されており、また、自治体によってはシティーマネージャー制度を採用しているところもある。これを一つの参考にして、日本においても地方自治のシステムを考える必要がある。
  • 憲法には、地方に権限を移譲する旨の規定が必要であると考える。


今野 東君(民主)

  • 自衛隊法81条によれば、知事からの要請を受け総理大臣が治安出動を命じることとなっているが、これに対して現在議論されている有事法制は、国は地方に代わって権限を行使できることとなっている。これは地方自治を侵すものである。


伊藤 公介君(自民)

  • 日本では、災害復興に関する法整備が十分でない。住宅の再建等被災者が立ち上がるための法整備を進める必要がある。


平井 卓也君(自民)

  • 地域の自主性、自立性の尊重という観点からは、もはや、全国的に同じ行政サービスが提供されることや国土の均衡ある発展ということを重視する必要はない。合併の実施や地方での電子政府の導入等も、地方の自主的判断に任せるべきだ。


春名 直章君(共産)

  • 阪神・淡路大震災の被災者の粘り強い運動の結果、被災者生活再建支援法による支援金が支給されるに至り、「自然災害による損害に対する個人補償は行わない」という国の牢固な考えは崩されつつある。また、国が、災害時に、個人の生活の保障を行うのは憲法25条の要請でもある。


金子 哲夫君(社民)

  • 自然災害による損害に対する補償は国が行うべきだ。また、戦争による国民の被害は国の政治上の責任によるものだから、戦争による一般の戦災者の補償も、国が責任を持って行うべきだ。


武山 百合子君(自由)

  • 米国と比べて、日本の地方議員等は、生活者の視点に立って住民のニーズを的確に把握し実行する姿勢が欠けているので、これを改める必要がある。


中野 寛成会長代理

  • 国家や地方自治の概念は、国によって異なっている。地方自治を論じるに当たっては、一度、この点について議論する必要がある。