平成14年6月6日(木) 国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会(第4回)

◎ 会議に付した案件

 国際社会における日本のあり方に関する件

  上記の件について参考人田久保忠衛君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  杏林大学総合政策学部教授 田久保 忠衛君

(田久保参考人に対する質疑者)

  高村 正彦君(自民)

  山田 敏雅君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  山口 富男君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  井上 喜一君(保守)

  近藤 基彦君(自民)

  首藤 信彦君(民主)

  平井 卓也君(自民)


◎ 田久保忠衛参考人の意見陳述の要点

1.今の国際情勢をどう見るか?

  • 冷戦終結直前から米国一極時代が到来し、昨年9月11日のテロ以降、その傾向が更に強まった。
  • ブッシュ政権は、ミサイル防衛を推進し、ABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)を脱退するなど、力を背景にした外交を展開している。

2.新しい国際秩序はどうなるか?

  • 米ロ関係については、ロシアがミサイル防衛に反対しなくなるとともに、米国の反テロ軍事行動に協力し、また、「NATO・ロシア理事会」が創設される等、大きな変化が見られる。
  • 米中関係については、米国は、中国のWTO加盟やオリンピック開催を支持するなど、市場として中国を重視する一方、安全保障面では、中国を「戦略的パートナー」から「戦略的競争相手」へと位置付けを変えるという二面性が見られる。
  • また、米国は、台湾との関係では従来の戦略的曖昧性を透明化し、北朝鮮との関係では太陽政策を否定して「悪の枢軸」と名指し、インド・パキスタンとの関係ではその緊密化を図るなど、中国周辺地域における影響力を強めている。

3.日本に対する期待

  • ゾーリック米通商代表部代表の論文や、いわゆる「アーミテージ報告」等では、日本に対する安全保障上の役割強化に対する期待が表明されている。また、現在では、日米関係の一層の緊密化が見られる。

4.日本の歩み

  • 我が国は、吉田首相がダレス国務省顧問の再軍備要求を拒否し経済大国となる道を選んだといういわゆる「吉田ドクトリン」の考え方に沿い、竹下三原則(ODA、国際文化交流、平和への貢献)を経て、経済大国への道を歩むとともに、国際協力に当たっては、軍事協力を一貫して否定し、経済中心の協力を行ってきた。
  • しかし、湾岸戦争においては、このような我が国の国際協力は、国際的に評価されなかった。
  • 自衛隊や自衛権について、これまで、現実の必要性と憲法の文言との整合性を保つ解釈がなされてきた。しかし、現行憲法の下で軍事的協力ができないという意味での「ハンディキャップ国家」であることを甘受しながら、有事法制やテロ対策に憲法解釈で対応することには限界がある。

5.結論

  • 日本は、国際環境の変化に対応して再軍備、NATO加盟、軍事的国際協力等を実現してきたドイツを見習うとともに、普通の民主主義国家へ脱皮すべきである。
  • 日米の安全保障関係においては、我が国は徐々に独り立ちの方向に進むべきである。

◎ 田久保忠衛参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

高村 正彦君(自民)

  • 集団的自衛権の行使は「必要最小限の範囲」を超えるので認められないという政府の解釈は、論理必然のものではない。「必要最小限の範囲」であれば集団的自衛権の行使も認められると考えるべきであるが、解釈の変更により従来の考え方を改めることは適当でない。「あたりまえの国」となるためには、国民的な議論を経た上で憲法を改正し、自衛隊の存在と集団的自衛権の行使を認めるというのが本筋だと考える。このような考え方について、参考人の見解を伺いたい。

山田 敏雅君(民主)

  • 参考人は、日米安全保障条約があまりにも片務的であり、同条約における日本の地位を見直すべきだと主張するが、米国の日本に対する関心が薄れている現状にかんがみれば、日本を独立的な地位に位置付けるような見直しは無理ではないか。
  • 政府は日米安全保障体制を拠り所にして中国の覇権主義に対応できると考えているようであるが、今後の中国との関係について、参考人はどのように考えるか。

赤松 正雄君(公明)

  • (a)憲法調査会があと2年で区切りであること、(b)有事法制をこれから2年間で整備するとされていること、の「二つの2年」を踏まえれば、9条の問題を含め、憲法改正を正面から選挙の争点にすべき時期が来ているのではないか。
  • 集団的自衛権については、その概念を整理する必要があり、また、その行使が認められるとした場合でも行使しないという判断はあるのではないか。

藤島 正之君(自由)

  • 日本にとっては、米国のみが飛び抜けている一極構造と、米国に対抗するような国がある二極構造とのいずれがよいのか。
  • 今後、二極構造ができるとすれば、もう一極を担うのは中国であると考えるが、参考人は、今後の米中関係はどうなると考えているのか。
  • 現在、米国はアジアの安定のために日本の基地を利用していることを踏まえれば、日本の米軍基地の在り方について変化が生じていると考えるが、参考人はどのように考えるか。

山口 富男君(共産)

  • 核戦略の見直しをはじめとする米国のユニラテラリズムに対して、ヨーロッパ諸国等の同盟国からも批判が強まっていることについて、参考人はどのように見ているか。
  • 参考人のいう新しい国際秩序の形成の中で、国連の位置付けは、どのようなものと考えられているか。
  • 参考人は、ASEAN地域フォーラムのような地域安全保障の動きをどのように見ているか。

金子 哲夫君(社民)

  • 現在起こっているインド・パキスタン間の問題などは、米国の世界戦略がもたらした歪みではないか。また、このような米国の軍事優先の考えは、新たな紛争を生む側面があると考えるが、いかがか。
  • ドイツと異なり、我が国は、周辺に同等の国力を有する国家が存在しない状況で侵略戦争を起こしたのであって、日本が憲法を改正して軍事大国化を図ることは、今なお周辺諸国にとって脅威となるものと考えるが、いかがか。
  • 非核三原則については、我が国はNPT(核不拡散条約)の批准もしており、これを堅持すべきと考えるが、非核三原則の見直しに言及した福田内閣官房長官の発言に対する意見があれば伺いたい。

井上 喜一君(保守)

  • 参考人は、日本と台湾の関係については、今のままでよいと考えるか。
  • 米国にとって、当分の間、沖縄の米軍基地の存在は重要であると思うが、米国が沖縄の駐留軍を整理縮小する可能性があるとすれば、どういう状況が考えられるか。
  • 今秋にも、中国では、江沢民氏から胡錦濤氏への国家主席の交代が予定されているが、これに伴って予想される変化は、どのようなものと考えられるか。

近藤 基彦君(自民)

  • 現在、有事法制関連3法案の審議中であるが、米国の側から見て、武力攻撃事態対処法案は、どのように評価されているのか。
  • 参考人は、著書『新しい日米同盟』の中でゾーリック米国通商代表部代表の論文を引用しながら、「日米関係とりわけ両国の安全保障関係では新しい発想がどうしても必要になると思う」と述べているが、どのような発想を想定しているのか。
  • 我が国の主権が侵害されるような事態に備え、有事法制の整備が必要と考えるが、有事法制関連3法案が不成立に終った場合、我が国は、周辺諸国及び米国からどのような評価をされると考えるか。

首藤 信彦君(民主)

  • (a)我が国がさまざまな攻撃を受けるようになっている米国と組むことにはリスクがあること、(b)米国が軍事的脅威となりつつある中国と組むことで自国を守ることも考えられること、(c)サイバー・テロ対策や人道問題等さまざまな要素を勘案しなければならないことなど、安全保障が格段に複雑になってきている状況の中で、我が国は、憲法上、安全保障をどのように位置付けるべきと考えるか。
  • 在日米軍がテロの対象とされる可能性があると思うが、我が国では、外国軍隊が駐留することのリスクが考慮されていないと考える。フィリピンのように、憲法に外国軍隊の駐留を認めない旨を規定することについて、参考人の見解を伺いたい。
  • 米国の対外政策は、ハンチントンが述べた方向へと明らかに向かっている。今後、聖書に名前の出てこない民族は、米国との間にどのようにして信頼関係を築いていけばよいと考えるか。

平井 卓也君(自民)

  • 我が国は、独自の外交路線をとるか対米追随の外交をとるかの選択を迫られているが、環境、天然資源、核不拡散等の「グローバル・ガバナンス」については独自の外交路線をとる一方、「パワー・ポリティックス」の場面では、中国を抑止するために日米同盟を堅持するという二重構造をとるべきと考えるが、いかがか。
  • 我が国は、非核三原則の下、核兵器を使用しないとする一方で、米国が日本のために核兵器を使用することは織込み済みでもある。非核三原則があるからといって、核の問題を避けて通ることは無理ではないか。

◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

金子 哲夫君(社民)

  • 核の問題については、日本が、唯一の被爆国として、また、非核三原則を掲げる国として、核兵器の非人間性を訴えその被害が二度と生じないよう核廃絶のための国連決議の採択を繰り返し求めてきているという事実を認識すべきである。
  • しかし、政府は、核廃絶の動きを世界に広げる努力を十分にしていないと考える。憲法全体の趣旨にのっとり、NPT体制を推進する等の施策を積極的に実施するとともに、唯一の被爆国としての意義を改めて論議すべきである。

赤松 正雄君(公明)

  • 日本は、憲法を改正して「普通の国」となるか、それとも、現行憲法の枠内で許される解釈のみで対応することにより「特殊な国」となるかの選択を迫られており、国民世論の動向を考慮した上で、その判断をしなければならない。党としての考え方でなく、私個人としては、9条1項を堅持しつつ2項を改正するという前者の立場に立つ。
  • 「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則については、実効的な意義を有するものとするため、核兵器を持つ意思を有する国に持たせないよう働きかけるという意味での「持たせず」の原則を加える一方で、「持ち込ませず」の原則については、現実との整合性の観点から、検討の余地があると考える。
  • 有事法制については、「万が一」の事態に備え、整備しておくべきと考える。金子小委員は、「万が一」の事態が生じた場合、非暴力の抵抗により対処すべきと考えているのか。

>金子哲夫君(社民)

  • 軍事的対処により失われる生命の数と非暴力の抵抗により失われる生命の数とを比べた場合、前者の方が多く、また、現代の武力紛争においては、一般市民の生命が数多く失われることを考えれば、「万が一」の事態が生じたときは、非暴力の抵抗により対処すべきと考える。また、国際社会は、そのような事態を長引かせることを許容しないであろう。

>藤島正之君(自由)

  • 「万が一」の事態が生じた場合、失われる生命の数が問題なのではなく、国民の生命、権利及び自由をどのように守るのかが問題であると考える。

中山 太郎会長

  • 有事法制関連3法案が審議されている中で、変化しつつある国際情勢を踏まえ、日本の安全保障の在り方について議論がなされたことは、この国の将来を考えるに当たり、大変意義深いものがある。