平成14年7月25日(木)(第5回)

◎会議に付した案件

1.札幌地方公聴会(平成14年6月24日開催)の派遣報告聴取

  報告者 会長代理 中野 寛成君(民主)

2.小委員長報告

各小委員長が、今国会での小委員会における調査の経過及び概要について報告を行った。

 報告者

 基本的人権の保障に関する調査小委員長        島 聡君(民主)

 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員長     高市 早苗君(自民)

 国際社会における日本のあり方に関する調査小委員長  中川 昭一君(自民)

 地方自治に関する調査小委員長            保岡 興治君(自民)

3.日本国憲法に関する件

 日本国憲法に関して自由討議を行った。

4.会長からの報告

 中山会長から、今国会における調査会の経過について報告があった。


◎小委員長報告における「今国会での調査の総括」部分の要旨

島 聡 基本的人権の保障に関する調査小委員長

  • 当小委員会では、憲法の人権に関する規定は、質・量ともに豊富で先駆的な意義を有するとの指摘があった一方で、国家、社会の枠組みが激変しつつある現代においては、人権保障のあり方も多角的に検討する必要がある旨の指摘も非常に多く見受けられた。
  • 以上を踏まえ、例えば、知る権利、環境権、プライバシー等の「新しい人権」が現行憲法で十分に保障されているのかについて具体的に精査する等、憲法が時代に適合しているのかという観点から、憲法改正も視野に入れて、人権保障のあり方について議論を深めていきたい。


高市 早苗 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員長

  • 現代は、現行憲法制定当時に比べ国民の政治参加意識等が高まっている。日々変化する社会情勢等に迅速に対応するため、政治主導の観点から、議院内閣制、両院制、選挙制度や政党等のあり方について考え、また、民主主義と立憲主義との緊張関係等に留意しつつ、違憲審査制度のあり方について議論を深めていく必要性を感じた。
  • 今後は、憲法の背景となっている歴史や伝統などを踏まえた上で、天皇制のあり方等を含め、21世紀の政治の基本機構のあり方について議論を深めていきたい。


中川 昭一 国際社会における日本のあり方に関する調査小委員長

  • 当小委員会では、日本の安全保障、国際協力等について、憲法や国連憲章の精神の実現に向けて努力すべきであるとの指摘がなされた一方で、急激に変化する国際情勢に主体性をもって対処していくためには、憲法改正をも見据えた多角的な検討が不可欠であるとの指摘も多く見受けられた。
  • 上記の指摘を踏まえ、国際社会における日本のあり方について、引き続き、議論を深めていきたい。


保岡 興治 地方自治に関する調査小委員長

  • 当小委員会では、地方自治を充実させるためには、地方分権改革を一層推進する必要があり、その際には、国から地方への「権限」の移譲のみならず「税・財源」の移譲が不可欠であるという認識を共有できた。また、市町村合併のあり方、今後の都道府県のあり方、道州制の導入を検討する必要性等について多くの意見が述べられた。
  • 今後は、これらの指摘を踏まえて、21世紀における我が国の国家像をにらみつつ、地方自治制度を一層充実させる観点から、さらに議論を深めていきたい。

◎自由討議における各委員の発言の概要(発言順)

葉梨 信行君(自民)

  • 今国会で設けられた四つの小委員会のいずれにおいても、憲法の各条章について突っ込んだ議論がなされ、かつ、小委員間の意見の応酬もあり、大変に実りの多い調査のできた会期であった。
  • 人権小委員会における伊藤哲夫参考人の意見を聴き、憲法に「国防の義務」を明記する必要性を感じた。
  • 首相公選制を導入するよりも、議院内閣制の下で首相のリーダーシップを発揮できるような制度を検討すべきである。例えば、憲法に首相の任期を保障するような仕組みを設けることを検討してはどうかと考える。
  • 両院制については、衆参の機能分担を明確にし、また、議員の選出方法に違いを設けるべきである。
  • 地方分権の推進に当たっては、地方の独自性と国土の均衡ある発展とのバランスを踏まえる必要がある。また、道州制については、今後、具体的なイメージをもって議論していきたい。
  • 憲法前文の国際協調主義の精神を踏まえ、日本は一国平和主義から脱却し、世界の平和にどのように貢献できるのかを考えることが重要である。憲法の平和主義(9条1項)を否定する人はいないことから、今後の議論は、9条2項をどうするのかに絞られてきたと思う。


山田 敏雅君(民主)

  • EU統合や世界各地で自由貿易協定(FTA)が締結されている状況にかんがみると、日本は世界から孤立しているのではないかと感じる。国際社会において日本のプレゼンスが十分に示せないのは、憲法の個々の条文がその足かせになっているためであると思う。
  • 日本の使命は、唯一の被爆国として、核兵器の廃絶を世界に訴えることであると考える。
  • 国連を発展的に解消して世界連邦を創設し、そこに軍隊や裁判所等を設けることについて、日本は率先して検討すべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 地方公聴会の意見陳述者の意見や、調査会(憲法のひろば)に寄せられた国民の意見を見ると、護憲論は9条を中心になされており、改憲論は9条以外の点についてなされていることが多く、テーマが明確になってきたと感じる。
  • 憲法と現実の乖離については、両者を対立するものとしてとらえ、どちらに近づけるべきかを問題とするのではなく、憲法も現実も変化するものであると認識し、タブーを設けず議論していくことが重要であると考える。


春名 直章君(共産)

  • 地方公聴会においては、有事法制の違憲性やアイヌ民族に対する差別等憲法が守られていない実態について、多くの意見が述べられた。調査会はこのような意見に耳を傾けるべきである。
  • 防衛庁の情報公開請求者リスト作成問題や住民基本台帳ネットワークの施行に見られるように憲法が守られていない今日の状況下で、プライバシー権等の新しい人権を明記すべきとの議論をしても、空疎なものにしかならない。調査会では、憲法が活かされていないという現実について、調査していくべきである。
  • これまで地方自治小委員会に招致した各参考人は、憲法に地方自治の規定が設けられた意義を評価していた。また、国主導の「上からの市町村合併」や道州制の導入は地方自治を歪めるものと考える。


金子 哲夫君(社民)

  • 今国会で実施された沖縄及び札幌の地方公聴会において、21世紀に向けて9条を世界に広げていくべきとの意見が、これまでと同様に述べられた。これらの意見を真摯に受け止め、調査会に活かしていくことを考えるべきである。
  • 調査すべき事項がまだ残っているため、今後も引き続き小委員会での調査を進めていくべきであると考えるが、自由討議のあり方等運営の仕方については工夫していくべきであると考える。


井上 喜一君(保守)

  • これまでの地方公聴会での意見陳述者の意見が、その地方を代表するようなものであったかは疑問であり、意見陳述者の選定方法について検討すべきである。
  • 憲法調査会は設置から2年半が経過しており、そろそろ具体的な取りまとめ作業を開始すべきである。また、今後の調査は、テーマを特定して議論を深めるべきである。


伊藤 公介君(自民)

  • 地方分権一括法の施行で、地方自治体が独自課税を行う動きも出てきたが、税・財源に係る国と地方の関係を根本的に見直すべきである。
  • 国と地方との関係をはっきりさせる構造改革を行うべきであり、市町村合併を踏まえた都道府県のあり方、道州制の導入について、早急に検討すべきである。
  • 統治の基本機構のあり方として、首相による強力なリーダーシップの発揮が求められており、首相公選制を導入するとともに、首相がリーダーシップを発揮できるよう、スタッフの確保等の条件整備を検討すべきである。


大出 彰君(民主)

  • 立憲主義の観点からは、有事法制を整備する前提として、9条の改正が必要であると考える。しかし、9条は、「戦争違法論」の根拠となるものであるから、この改正を認めることはできない。


今野 東君(民主)

  • 先日、西日本入国管理センターを視察したが、そこに収容された外国人の処遇は、人道的な見地から問題があった。国連も、我が国の難民政策には不十分な点があると勧告しており、憲法の理念に合致した、また、国際社会における責務を果たす難民政策がとられるべきである。


山口 富男君(共産)

  • 憲法の調査は、憲法を取り巻く21世紀の時代状況に着目して行うべきである。現在の国際情勢を眺めると、国連憲章や戦争の放棄を定める憲法9条の理念を活かせる状況が生じつつあると認識している。
  • 憲法の基本原則は変える必要がない。選挙制度や違憲審査制のあり方等のように、憲法の理念が活かされていない事項については、立法府の中で憲法の理念を活かし、これを具現化する努力が行われるべきである。
  • 9条に関する議論の焦点が、9条2項のあり方に絞られてきたとの意見があったが、憲法の全体構造から、9条1項及び2項は不可分一体なものであり、2項のみを切り離して議論することには賛成できない。


北川 れん子君(社民)

  • 憲法は、前文で全世界の人々の平和的生存権を確認し、本国で迫害を受けて逃れてきた人々を保護することが日本の責務であるとしていると考えられる。しかし、我が国へ「難民」として保護を求めて来る人々の処遇実態は、人権侵害にも等しい。憲法の趣旨の下、難民法を改正して難民の権利保護を図るべきである。


伴野 豊君(民主)

  • 憲法調査会における様々な議論の中で、多くの問題が教育問題と密接なつながりがあると改めて感じた。また、憲法に関する様々な事柄を次の世代にどのように伝えていくかということが重要であると感じた。
  • 憲法に対する関心を高めるため、憲法記念日以外にも国民が憲法について考える機会があってもよい。


藤島 正之君(自由)

  • 地方公聴会での意見から、多くの国民が憲法9条の改正に反対していると受け取る人もいるが、私はそうは思わない。
  • 今後の憲法調査会では、審議の迅速化を図る必要があり、憲法の各条文について、どうあるべきかという議論をすべきである。


島 聡君(民主)

  • 今後、憲法調査会では、憲法の各条文が現実に適合しているかどうかを具体的に調査するべきである。
  • 憲法改正を発議し得るのは国会議員のみであるということにかんがみ、今後は各党が党としての憲法に対する考えを明確にした上で、国会議員が主体的に議論する必要がある。
  • 地方公聴会での意見陳述と世論調査の結果はかなり異なっており、いわゆる「国民の声」を聞くには「サイレント・マジョリティ」の意見を無視してはならない。そのためにも各政党や議員が憲法に対する意見を表明すべきである。


奥野 誠亮君(自民)

  • 憲法を議論するに当たっては、敗戦により制定されることとなった現憲法に対する反省の上に立って考えるべきであり、そのためにもGHQの占領政策がどのようなものであったかについて認識する必要がある。また、憲法制定当時と現在における、日本とそれを取り巻く世界の関係を比較し、理解する必要がある。


首藤 信彦君(民主)

  • 遺伝子技術が進展したり、日本が海外援助・国際貢献をするなど、憲法制定時には予想もしなかった状況が、現在生じている。こうした変化に合わせてどのような憲法がありうべきか、特に日本の平和と安全のために何が必要か、考えていきたい。
  • 新しい憲法を目指すためには、社会の最前線で取り組んでいる人、苦しんでいる人など現実社会の実態を把握している人こそ、憲法調査会の参考人にふさわしいのではないかと思う。


保岡 興治君(自民)

  • 我が国の経済成長において、中央集権による官僚主導体制が果たした役割は評価に値するが、今後は、地方が自己実現し、国が発展していくために、中央集権から地方分権へ、官から民へといった改革が推進されていくべきである。
  • 地方の事務は基本的に基礎自治体が行い、道州がその補完的な役割を果たし、外交・防衛・通貨管理等は国が担っていくというシステムに変え、中央の官僚主導体制も改めるべきである。新しい日本のかたちを描くのは、官僚ではなく政治家と国民である。


永井 英慈君(民主)

  • 近年の金融・産業・教育等各方面での「危機」は、日本人の精神構造がモラルハザードを起こしているためであり、その原因はひとえに、日本の中央集権的な統治構造が時代に合わなくなっているためである。もはや、延々と議論を続けている場合ではなく、事務と財源を地方に移譲し、地域が主体性と自己責任を持てるような改革を行うことで、速やかにこの問題を解決すべきである。


谷川 和穗君(自民)

  • 諸外国では、時代の変化に合わせて憲法を改正しているのに対し、日本国憲法は96条で厳しい改正条件が定められているため、世界でも最も改正が難しい硬性憲法になっているといえる。また、96条の「発議し(initiate)」という文言について疑念を感じるので、そのような点の検証をしていきたい。


井上 喜一君(保守)

  • 今次、憲法改正が議論されるようになったのは、憲法と現実との間に乖離が生じているためであると思う。9条以外の条項に関しては、議論を重ねることで、いずれ意見の一致が図れると思う。意見が対立する事項については、徹底的に議論をしていかねばならない。
  • 政治改革を進めるためにも、選挙制度や二院制について議論する必要がある。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 高橋和之参考人が招致された際の小委員会において、内閣の機能を強化するための方策として、憲法改正が必要となるような制度の導入は難しいので、「国民内閣制」的な運用を行うべきだという議論があったが、憲法改正が難しいことを理由に、あるべき制度の議論をしないのは本末転倒ではないかと感じた。
  • 科学技術の高度の進展の下で、生命倫理等との関係から、遺伝子操作、クローン開発等が、学問の自由(23条)によってどこまで保障されるのかについて検討すべきだ。