平成14年11月1日(金)(第2回)

◎会議に付した案件

中間報告書に関する件

中間報告書案について中山太郎会長が趣旨説明を行った後、各委員が発言を行った。その後、中間報告書を議決した。

(趣旨説明者)

 中山 太郎会長

(発言者

 保岡 興治君(自民)

 中川 正春君(民主)

 太田 昭宏君(公明)

 武山百合子君(自由)

 春名 直章君(共産)

 金子 哲夫君(社民)

 井上 喜一君(保守)

◎中山太郎会長の趣旨説明の要点

  • 本調査会は、2年半の間、その設置目的に従い、「日本国憲法の制定経緯」「戦後の主な違憲判決」「21世紀の日本のあるべき姿」のテーマを設け、また、小委員会を設置して調査を行い、その中で、幅広い分野の有識者を参考人として招致し、意見聴取・質疑応答を行うとともに、委員間の自由討議を行った。一方で、国民各層の意見を聴取するため各地で地方公聴会を開催するとともに、海外調査の結果を調査に反映させてきた。そこで、これまでの調査の経過及びその内容を取りまとめた中間報告書を作成し、議長に提出しようとするものである。
  • 本報告書は、4編構成となっており、調査の経過を記載した第3編第2章と、委員及び参考人等の発言を憲法の各条章に沿い論点ごとに分類して整理した同編第3章が中核となっている。その内容は、(a)憲法制定に係る客観的な歴史的事実について、概ね各委員の共通認識を得られたこと、(b)違憲立法審査制度及びその運用実態等について、今後、検討を要する課題は多いこと、(c)安全保障概念の変化、科学技術の進展等国内外の情勢が大きく変化し、これを憲法にどのように反映させるべきかという観点を踏まえること、(d)改正の在り方、憲法裁判所、首相公選等海外調査で得られた結果を調査に反映させたこと、と私なりに総括できる。
  • 今後とも、「人権の尊重」「主権在民」「再び侵略国家とはならない」との理念を堅持しつつ、新しい日本の国家像について、全国民的見地に立って、広範かつ総合的な調査を進めていかなければならない。

◎発言者及び主な発言内容

保岡 興治君(自民)

  • 本調査会の調査期間のおよそ半分が経過したこの時点で中間報告書を取りまとめることに賛成である。中間報告書の取りまとめは、国民に対し調査会の活動内容を明らかにし、国民の間で憲法論議が活発に行われることに資するとともに、今後、調査会において更なる調査を進めていく上でも大きなステップとなるものである。
  • 中間報告書の内容及び調査会での論議等を通じて、(a)地方分権改革を一層推進し、道州制などを視野に入れた新しい国の形を検討すること、(b)国家や社会、家族という共同体における義務、責任について考えること、(c)多極化時代にふさわしい安全保障の確立を図るべきであること、(d)両院制について、衆議院と参議院の的確な機能分担等を考慮して見直すことが必要であると感じた。
  • 憲法を論議することは、「あるべき国家の姿」を考えることである。現在の我が国に求められているのは、西洋に追いつき追い越せという「欧米モデル」から脱却し、日本国の歴史、伝統、文化を踏まえつつ、新たな国家目標を求める「独自モデル」を構築することである。その上で、憲法の3原則を踏まえ、我が国が国際社会の一員として直面する国際平和への協力、地球環境などの諸課題を考慮しながら、「21世紀日本の目指すべき指針」と「あるべき国家の姿」を国民の前に明らかにし、国民参画の上で「国民の憲法」を創っていくことが重要である。


中川 正春君(民主)

  • 民主党は憲法調査会に「論憲」の立場から参加してきたが、2年半の調査活動を通じて、広く論点を網羅した中間報告書をとりまとめることができたことは憲法調査会における論議の成果であり、今後は、この報告を土台として更に闊達な憲法論議を展開していく必要がある。
  • 憲法が国の枠組みを決定づけるものであることを考慮すると、今後の論議の課題として、(a)国際法体系等と日本及び憲法との関係に関する論議・検討をすること、(b)比較憲法学的な検討をすること、(c)本調査会の活動及びその成果を活気ある国民的な議論に付することがある。
  • 今後の本調査会の活動として、いきなり個々の条文の解釈や論議に入るのではなく、その前提となる重要な課題について、小委員会をベースにテーマ別に議論を推し進め、その成果をまとめていくことも大切なことである。


太田 昭宏君(公明)

  • 中間報告書をまとめることは、(a)調査期間の5合目にきたことを契機とすること、(b)一定の方向を示さず調査の経緯を要約した内容となっていることから、妥当であると考える。ただし、発言者としては、要約が簡略すぎて意を尽くしていないと思われる部分がある。
  • 本調査会は、中間報告書を今後の調査会における議論の参考として、「広範かつ総合的な調査を5年間行う」ことを基本に拙速にならず調査を行うこととし、また、国民的議論を起こすという役割を果たすべきである。
  • 調査会の論議の方向性としては、(a)国家像であるナショナル・アイデンティティを確立し、民族を意味する「ネーション」の内実を地域共同性の観点から掘り下げ、また、西欧と日本との文化の違いを背景とした日本人としての人間観を整理すること、(b)IT、ゲノム、環境、住民参加の四つの視点を踏まえた未来志向の憲法論議をすること、(c)公明党は、9条を堅持し、国民主権、恒久平和主義、基本的人権の保障の三原則を不変とすることを基本としているが、調査会における環境権や人格権、地方主権の明確化の主張にも敬意を表しており、「国民憲法」「環境憲法」「人権憲法」の方向で議論することが必要である。


武山百合子君(自由)

  • 自由党を代表して、中間報告書を議決し、議長に報告することに賛成である。賛成の理由は、(a)中間報告書をたたき台としてさらに濃密な調査をすることができること、(b)調査内容を条文ごとに客観的、公正に論点整理することは憲法論議を深めていくための有効な材料になること、(c)調査状況を国民に発信することで国民の関心を高め、あるべき憲法について国民の合意を形成する上で意義があり、また、調査の経過を後世に残すことは国会の歴史的使命であること、(d)調査会の調査は国民各層の協力に支えられており、中間報告のとりまとめ、公表はこれら協力者への当然の責務であることの四点である。
  • 憲法改正の発議権がある国会に憲法調査会が設置され、広範、総合的、専門的な調査が多岐に行われた意義は大きい。
  • 憲法調査会の議論も踏まえつつ平成12年12月に自由党が決定した「新しい憲法を創る基本方針」を国民に説明し、新しい憲法を創るための国民合意の形成に努めるとともに、調査会の調査に党の「基本方針」を反映させ、21世紀の日本を担うにふさわしい新しい憲法の制定に向けて努力したい。


春名 直章君(共産)

  • そもそも本調査会の目的は、改憲ではなく、憲法に関する広範かつ総合的な調査を行うことにあるのであるから、もっと憲法の運用実態等について調査を尽すべきである。こうした調査が十分に尽されていないこの時期に、単に期間の中間であるからといって、中間報告書をまとめることは反対である。
  • 中間報告書案の内容についても、第3編第3章において、憲法の各条章ごとに委員等の発言を整理しているが、本調査会の調査では、各条章ごとにテーマを設定した論議を行っておらず、そのような整理は、改憲を志向するものであり、また、発言の背景を捨象しその真意をゆがめる等の問題点があり、認めることはできない。
  • これまで5ヵ所で開催された地方公聴会では「憲法改正の議論ではなく、日本の国づくりの指針として憲法を守り活かしてほしい。そのための調査を」との声が大勢を占め、また、本年、実施された海外調査においても、中国及び韓国で、憲法9条への信頼が述べられた。こうした国民及びアジア各国の声に応え、「広範かつ総合的な調査」という調査会の目的に立ち返り、憲法政治の実態、憲法の運用実態等を深く調査すべきである。


金子 哲夫君(社民)

  • まず、憲法の理念・原則が実践されてきたのか等について調査を行うべきであるが、これまでこうした調査がなされてこなかった。こうした現状にもかかわらず、単に、折り返し地点だとして中間報告書をまとめることには反対である。
  • 中間報告書案の編集方針についても、これまでの調査は、参考人の意見聴取及び質疑応答が大半であって、憲法の各条章に沿って委員が意見を述べる機会がほとんどなかったにもかかわらず、第3編第3章において、憲法の各条章ごとに委員等の発言を整理していることは容認できない。仮に、委員等の発言を載せるならば、時系列的に編集すべきであり、第3編第3章は、そのように再編集するか、そうでなければ削除すべきである。また、地方公聴会の記述内容は、簡略に過ぎており、公聴会の実質を伝えていないことから問題である。


井上 喜一君(保守)

  • 本調査会が設置されてから2年半が経過し、その間、さまざまな意見が述べられ、憲法論議が深まってきたと考えている。今後は、これらの意見を集約するとともに国民の理解を求める方向で議論を進めていくべきであり、その意味から、これまでの調査の経過及び内容を公正にまとめた本中間報告書案に賛成である。
  • 保守党は、21世紀の国際国家にふさわしい憲法とすべく、現行憲法を改正する必要があると考えている。