平成14年11月28日(木) 地方自治に関する調査小委員会(第1回)

◎ 会議に付した案件

地方自治に関する件

  上記の件について参考人穂坂邦夫君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  志木市長 穂坂 邦夫君

(穂坂邦夫参考人に対する質疑者)

  森岡 正宏君(自民)

  筒井 信隆君(民主)

  江田 康幸君(公明)

  武山 百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  井上 喜一君(保守)

  平井 卓也君(自民)

  中村 哲治君(民主)

  佐藤 勉君(自民)


穂坂邦夫参考人の意見陳述の要点

はじめに

  • 憲法第8章に関して感じることは、(a)国と地方の役割分担が不明確であるため、それを明確にし、地方の主権を認めてもらいたいということ、(b)明確となった権能に基づく自由な行政運営を認めてほしいということの二点である。


1 基礎的自治体の状況

  • 私は、市長という職は、市民をオーナーとしたシティマネージャーであると同時に実務家であると考えている。
  • 市長就任当初は、住民の意思に基づいた自由で独自の市政運営ができると考えていたが、実際には、法律等により裁量の幅は狭められている。
  • 政治的中立性が求められているはずの教育委員に、実際には首長の意に沿う人物が選ばれることが恒常化しているように、国が法律等により地方自治に全国一律の「完璧さ」を求めた結果、自治体の実態からの乖離が生じ、「形骸化」が起こっている。


2 それぞれの役割と地方分権

  • 国益を担う国と比べ、基礎的自治体の役割は、福祉、教育等に限られていると認識している。
  • 地方分権の手順としては、国、都道府県、市町村の役割分担を明確化することが先決であり、その上で、地方主権が認められるべきである。
  • 現行の地方自治法はもはや時代に合わなくなっており、首長や地方議会議員の公選制等限られた事項のみを規定したものに改めるべきである。
  • 地方自治体への税財源の配分においては、単純さや透明性が重要である。地方交付税交付金は、人口等を基に業務量に応じて機械的に配分すべきであり、そうした交付金による地域間格差是正のための調整は、必要最小限にすべきである。


3 基礎的自治体の意義と経営

  • 今後の地方自治においては、できる限り国の関与を排除することが必要であると考える。その一方で、これからの地方には、自己責任をとるという風土が求められるのであり、そのためには、各自治体ごとの多様な運営が担保されなければならない。
  • 基礎的自治体の使命としては、コミュニティを通じた人と人との触合いの醸成や地域の文化・自然環境の保護等が重要である。

4 市町村合併

  • 市町村合併においては、行政の効率化や財政基盤の強化よりコミュニティやアイデンティティの強化が、まず考えられるべきである。
  • 市町村合併は、市民参加と市民の意思で判断されるべきであり、21世紀の国家像等に基づかない理念なき合併には賛成できない。
  • 志木市においては、2003年4月に住民投票によって合併の是非を問うことになっているが、住民自身が判断を行うという意味で、大きな意義があると考える。
  • 企業社会が崩壊した現在においては、基礎的自治体が果たすコミュニティを形成する機能を再認識すべきである。


5 地方(志木市)自立計画の導入

  • 志木市の「地方自立計画」は、公務員のみが行政サービスを担うとの従来の概念を壊し、市民も行政サービスの担い手たる「行政パートナー」として位置付けるものであり、市と市民との一体化を目標とするものである。市民との協働によって、21世紀型の新しい自治体をつくっていきたい。

◎ 穂坂邦夫参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

森岡 正宏君(自民)

  • 参考人は、基礎的自治体の自主性をできる限り認め、財源についても国は必要最低限のみを保障すればよいとの意見であるが、その場合、自治体間の格差が広がることとなる。参考人は、地方交付税の調整機能をどう考えるか。また、地方分権の推進とそれに伴う財源移譲等を内容とする小泉改革についてどのように思うか。
  • 志木市は、現在、周辺4市で合併協議を行っており、参考人は、合併の是非は住民が決めるべきであると主張している。その一方で、志木市は、「市民パートナー」や「25人程度学級」など独自の政策を打ち出している。そのことは合併と矛盾すると思うが、参考人は、志木市は小さいままで良いという考え方を持っているのではないか。

筒井 信隆君(民主)

  • 参考人は、憲法上、地方自治体の役割や権能が明確になっていないと指摘するが、私も同様な意見を持っており、役割等の明確化だけでも憲法改正に値すると考えている。参考人は、市町村の権限として具体的にどのようなものをイメージしているのか。
  • 地方への税源移譲の在り方や市町村として課するのが適当な税として、参考人は、具体的にどのようなものを考えているのか。
  • 現在の地方交付税制度は、自治体の自助努力を阻害するものであると考える。参考人は、地方交付税の額は、業務量に応じて、自動的・機械的に決定すべきであるとするが、具体的にはどのような方法を考えているのか。


江田 康幸君(公明)

  • 志木市の「地方自立計画」の基本的な考え方や実際どのように計画を進めているのかについて、教えていただきたい。
  • 地方への税財源の移譲について、地方交付税との関係等を含め、参考人はどのように考えているのか。
  • 参考人は、市町村合併について、その是非は住民が決めるべきであると主張するが、その前提として住民への情報提供、議論の場づくりが不可欠であると考えるが、志木市において情報提供等のためにどのような努力をしているのか。

武山 百合子君(自由)

  • 参考人は、国は基礎的自治体に対して全国一律の「完璧さ」を求める体質があり、その結果、自治体の実態からの乖離が生じ、「形骸化」が起こっていると指摘する。具体的にはどのような例があるのか。
  • 基礎的自治体の実態が無視され、「形骸化」が生ずることにより、国が地方の自主性を抑え付けているのか。また、そのような事態について、国や県はどのように対応しているのか。
  • 志木市の独自政策である「25人程度学級」、「ホームスタディ」、「リカレント教育」にかかる費用は、どのように賄っているのか。自主財源なのか。


春名 直章君(共産)

  • 「地方自治の本旨」など憲法の精神を実際の市政においてどのように活かしているのか。また、「25人程度学級」、「ホームスタディ」は、憲法26条の精神を具現化するものとして評価できると考える。このような制度の導入の動機や住民からの評価などについて教えていただきたい。
  • 志木市の「地方自立計画」について、地方が国から自立するのは当然の方向であると考える。しかし、市民に行政パートナーとして市政への参画を求めることが、市民を行政そのものに組み入れてコストを削減することを目的とするものだとすると、住民の声を市政に反映させるという真の住民自治に反すると考えるがいかがか。
  • 市町村が地方分権を行う際の受け皿となるためには合併が必要であるとの意見があるが、全国町村長大会において強制合併や小規模自治体の権限縮小に反対する旨の決議もなされたところである。私は、地方への権限や財源の移譲を最初にすべきであると考える。参考人は、合併の進め方についてどのように考えるか。


金子 哲夫君(社民)

  • 参考人は、教育委員会制度が形骸化していると指摘しているが、そうした形骸化を是正するために準公選制を導入することについて、どのように考えるか。
  • 政府は、人口1万人以下の基礎的自治体の権限・機能を制限することを検討しているとのことである。しかし、市町村合併を推進し、いたずらに市町村の規模を大きくするだけでは、住民のコミュニティを形成していくことは難しく、小規模自治体の方が適切な場合もあり、こうした制限は不当と考えるが、いかがか。
  • 現在、住民投票の実施のためには条例の制定等が必要とされているが、合併を含め、市町村全体に係る重大な問題については、住民投票は当然実施されるべきであると考えるが、いかがか。
  • 住民のプライバシーに関するものを除き、地方自治体の情報は公開されるべきであると考えるが、情報公開の現状についてどのように考えるか。また、国との関係で、地方自治体による情報公開が阻害されているという問題はないのか。


井上 喜一君(保守)

  • 明治以降、都道府県は大きな役割を果たしてきたが、これからは、都道府県を廃止し、基礎的自治体が直接国と向き合いつつ、市町村合併により、その規模を大きくすることで、能力を高めていくことが重要であると考えるが、いかがか。また、市町村の首長は、市町村合併について、もっと積極的に自らの意思を発するべきではないか。
  • 参考人は、「地方自立計画」の中で、行政体と市民とのワークシェリングを主張しているが、具体的にいかなる分野を対象とするのか。また、それが実現した場合、どのような経費削減効果があるのか。


平井 卓也君(自民)

  • これからの地方分権は、不均衡を是認することが重要である。志木市において、参考人は、市政運営に関して提言等を行う「市民委員会」を導入しているが、「市民委員会」の概要及び市議会との関係はどのようなものか。
  • 我が国においては、住民は、地方自治体の在り方を自ら選択するということに慣れていなかったと思うが、参考人は、そうした住民の意識を改革することができると考えるか。また、そうした改革に向けた努力を行っているのか。
  • 国は、不要な業務の見直し、情報公開を進める観点に立ち、電子自治体構想を進めているが、参考人はこうした取組みをどのように考えるか。


中村 哲治君(民主)

  • 地方自治体の財源について、地方交付税、補助金の在り方を改め、地方による自主課税を中心にすべきと考えるが、いかがか。
  • 参考人は、地方公務員の在り方について、地方公務員は住民参加等を率先してリードすべきであるとの考えであると思うが、実際は、前例踏襲主義に陥ったり、行政と市民を対峙するものとして捉えることが多いように思われる。これまでの市政運営において、行政と市民の関係をめぐり、苦労した経験はあるか。


佐藤 勉君(自民)

  • 高齢化の問題は、特に、過疎地域で問題になっており、地方分権が進展していく中、過疎地域と志木市のような都市部との格差が一層拡大していくことになると思われる。このような格差にどのように対応していくべきと考えるか。
  • 志木市では、「公共事業選択権確保条例」により、1億円を超える公共事業については、市議会に提案される前に、市民によって構成される「民意審査会」に付されるとのことであるが、その選出方法及び権限はどのようなものか。また、市議会との関係はどのように整理されたのか。



◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

春名 直章君(共産)

  • 憲法8章には、国と地方の関係が明記されており、下位法やその運用を憲法の精神に沿ったものとすることが必要である。
  • 人口1万人以下の小規模自治体の権限を縮小することは、憲法及び地方自治の原則に背くことになり、このような自治体の権能を奪うような法律や制度は、憲法違反である。

中村 哲治君(民主)

  • 「地方自治の本旨」については、これを具体化する現行地方自治法等がその趣旨に沿ったものとなっていない。この点について、国会はきちんと検証すべきである。
  • 憲法が現実に合っていないとして、憲法を改正すべきとの議論があるが、憲法改正は、国会が憲法の趣旨に沿った立法を行った上でなされるべきである。憲法の瑕疵と思われていることの多くは、現行法の問題であり、適切な法律の制定によって解消され得るのではないかと考える。


平井 卓也君(自民)

  • 私は、参考人と同様、地方が自立することの結果として、自治体間に格差が生じることを容認すべきと考えている。
  • 住民の側に自治体の在り方を選択するという意識があるのであるならば、それを活かした「まちづくり」をしていくべきであり、そうしたことが「地方自治の本旨」の中身の議論となっていくのではないか。


中川 正春君(民主)

  • 機関委任事務の廃止により地方分権が進んだとの誤解があるが、問題は、法律や政省令によって事務事業等の処理の基準が作られていることであり、こうした基準を国が作り続けている限り、地方分権は達成されないのではないか。
  • 今後、地方分権を進めていくに当たっては、憲法で国ができることを限定していくか、あるいは、事務事業等の処理の基準を政省令によらずに、地方自治体の条例で定めていくような工夫が必要ではないか。


金子 哲夫君(社民)

  • 教育委員会制度の在り方については、準公選制も視野に入れるかたちで、教育委員の選び方についての議論を深めるべきである。
  • 人口1万人以下の自治体の権限を縮小するのは問題であり、これでは、住民にとって平等な自治が保障されることにならない。自治体ごとに地理的条件等は異なるものであり、人口だけで合併の是非等を判断できない側面もあるのではないか。