平成14年12月9日(月)(地方公聴会)

日本国憲法に関する調査のため、福岡市において地方公聴会を開き、意見陳述者から意見を聴取した後、意見陳述者に対し質疑を行った。

1.意見を聴取したテーマ 日本国憲法について(21世紀の日本と憲法)


2.派遣委員

団長 会長   中山 太郎君(自民)

   会長代理 仙谷 由人君(民主)

   幹事   葉梨 信行君(自民)

   幹事   保岡 興治君(自民)

   幹事   大出  彰君(民主)

   委員   江田 康幸君(公明)

   委員   武山 百合子君(自由)

   委員   春名 直章君(共産)

   委員   金子 哲夫君(社民)


3.意見陳述者

 地方公務員              日下部 恭 久君

 弁護士                後藤 好成君

 会社員                西座 聖樹君

 元九州産業大学教授          林 力君

 主婦                 宮崎 優子君

 福岡大学名誉教授・元長崎県立大学学長 石村 善治君


◎団長挨拶の概要

団長から、会議開催の趣旨及び憲法調査会におけるこれまでの活動の概要等について、発言があった。


◎意見陳述者の意見の概要

日下部 恭久君

  • 自治体職員として薬害被害者の救済、障害者の働く場の確保、過労死問題等に関わってきた経験から、生存権、労働権、幸福追求権等の人権規定を有する憲法を、暮らしの中で活かすべきであると考える。
  • 朝鮮戦争の際、米軍基地付近で灯火管制を経験し、その後、戦争放棄等を定める9条を学んだ際の印象は痛烈であり、今でも9条の意義は宝のように大切であると考えている。
  • 我が国は9条によって孤立化しているのではなく、先駆性、普遍性を有する9条を持つことにより、世界から敬意を表されると考える。また、有事法制は、自治体職員が住民に対して戦争への協力を強制する道を開くものであり、反対である。

後藤 好成君

  • 国民の「裁判を受ける権利」を実現するため、(a)裁判官の大幅な増員により、裁判の迅速化や十分な審理の保障を図るべきであり、また、(b)誰もが弁護士に依頼して裁判を受けることができるように、裁判費用の法律扶助制度を大幅に拡充すべきであると考える。
  • 我が国が50数年間戦争を一度も起こさず、他国の人を殺さなかったという厳然たる事実を踏まえ、二度と戦争をしないことを世界に宣言する9条が21世紀も変わることなく平和憲法の柱であり続けることを願いたい。

西座 聖樹君

  • テロや隣国の脅威が現実となっている現在、現憲法のあやふやな解釈の下で自衛隊に国民の生命・財産を守ることができるかは疑問であり、憲法を改正し、自衛隊を国を守る防衛軍に改めるべきである。
  • 教育改革については、思いやり、善悪を考える心、正義感、道徳観を身につけさせることにより人間性の基礎を確立することが必要であると考える。そのため、それぞれの地域の歴史、文化にあった独自の教育を行い、個性を重視する教育を行うべきである。また、子どもたちに愛国心や自国への誇りを持ってもらいたいと考える。
  • 地方の在り方を九州について考える際には、九州各地域を結ぶ交通網の在り方や九州全体を一体のものとして捉える道州制の検討など、九州全体の視点で「まちづくり」に取り組む必要がある。

林 力君

  • 平和なくして人権保障はあり得ず、戦争こそが最大の差別である。核拡散の危機、地球環境破壊の進行等にかんがみても、憲法の意義の重大さを確信しており、9条改正には反対である。
  • 若者たちの中に自由と人権を「わがまま勝手」とはき違える傾向があることは残念だが、安直な家庭の責任の追及や国からの道徳の強制等には賛成できない。
  • 現憲法下で起きた部落差別やハンセン病患者への差別といった事実を踏まえ、人権保障に対する国や国民の不断の努力が十分ではなかったことについての国民的な論議を期待したい。

宮崎 優子君

  • 憲法調査会の中間報告書は、何が議論されているのかがわかるので、是非読んでほしいが、国民が、より理解しやすい内容とすべきではなかったかと考える。
  • 地方公聴会という国民の声を直接聴く機会を活かし、一般の人々の思いに寄り添った政治を行うべきである。

石村 善治君

  • 平和主義の理念を掲げる前文及び9条は、現代においてますます意義を持つものである。平和を実現するために、我が国は、非核三原則の遵守、非核法の制定、アジア地域非核条約の締結等に取り組むべきであり、前文及び9条は改正すべきでない。
  • 13条は「すべて国民は個人として尊重される」と規定するが、個人の尊厳は基本的人権の中核であることや、21世紀の国際社会における憲法の基本的人権の位置付けを明確にするために、これを「すべて人は」と改正すべきである。
  • 行政のみならず、立法、司法をも含む国家行為に対する「知る権利」を保障するために、21条等においてこれを明文化すべきである。
  • 国民主権を明確にすることにより、天皇の政治的行為の拡大や、「天皇」を理由とする思想の自由、信教の自由等の侵害を防ぐべきであり、そのためには、第1章を「国民主権」と改正すべきである。

◎意見陳述者に対する主な質疑事項

中山 太郎団長

  • 北朝鮮による拉致や不審船事件という国家犯罪に対し、国民の生命及び財産を守るためには、9条と自衛権の問題について、どのような態度をとるべきと考えるか。(全陳述者に対して)

保岡 興治君(自民)

  • 我が国が平和国家として、世界のリーダーとなるべきであると誰もが思っていることであるが、9条については、国民の生命及び財産を守るという自衛権との関係から、どのように改正すべきと考えるか。(西座陳述者に対して)
  • 冷戦体制が崩壊した今日、我が国が責任を持って国際平和を構築するためにも、PKOやPKFに参加すべきと考えるが、いかがか。(日下部陳述者及び後藤陳述者に対して)
  • 我が国は、国際秩序を維持するための国力に見合った貢献をすべきであり、また、自国の経済を守る必要もあると考えるが、そのためであっても実力を用いるべきでないと考えるか。(宮崎陳述者に対して)

大出 彰君(民主)

  • 日米安保体制との関係においては、我が国の主権を明確にすべきだと考えるが、いかがか。(全陳述者に対して)
  • 米国は、核兵器を前提とした戦略を維持し続けているが、これについては、我が国が、米国による広島・長崎への原爆投下は誤りであったということを訴えてこなかったことにも原因があると考えるが、いかがか。(全陳述者に対して)

江田 康幸君(公明)

  • ハンセン病患者に対する隔離政策は、明治以来、「大和民族の血を守るため」と称して行われていたと認識している。このような政策が新憲法下においても維持されたのは、ハンセン病に対する無知と人権意識の希薄さが原因と考えるが、いかがか。また、このような悲劇を再び繰り返さないためには、どうすべきと考えるか。(林陳述者に対して)
  • 知る権利や環境権等、憲法制定時には予想されていなかった「新しい人権」について、基本的人権小委員会に参考人として招致した棟居快行成城大学教授は、論文の中で、人権侵害の態様が新しいのであって、人権としての価値が新しいのではないと述べているが、このような主張に対する意見を伺いたい。(石村陳述者及び林陳述者に対して)

武山 百合子君(自由)

  • 我が国には、憲法裁判所がなく、違憲審査が十分に行われていないと考えるが、今後、我が国は、どのように違憲審査を行っていくべきと考えるか。(後藤陳述者及び石村陳述者に対して)
  • 夫婦別姓について、ご意見を伺いたい。(全陳述者に対して)
  • 憲法は、制定以来50余年を経て、現実の社会に合わなくなってきており、新たな理念を明記すべきと考える。教育基本法についても、憲法と同様に新たに加えるべき理念があるか。(林陳述者及び石村陳述者に対して)
  • 地方分権については、地方主権という形で、地方が権限も財源も持つべきと考えるが、こうしたことが、現在の体制でも可能と考えるか。(日下部陳述者に対して)

春名 直章君(共産)

  • 政府は、インド洋沖へのイージス艦の派遣を決定したが、このような行為は、米国の武力行使と一体化したものであり、憲法の平和主義がなし崩しにされていると考える。このような事態をどう考えるか。(日下部陳述者及び石村陳述者に対して)
  • 憲法の掲げる平和主義は、外交により平和を構築するという能動的平和主義であると考えるが、その実現のためには、どのような努力をすべきと考えるか。(林陳述者及び後藤陳述者に対して)
  • 憲法が30条もの豊かな人権規定を有しているにもかかわらず、意見陳述の中で人権侵害の実態が告発されたが、憲法が活かされていない現状を克服するには、どうするべきと考えるか。(日下部陳述者及び林陳述者に対して)
  • 「新しい人権」とは、我々が憲法の豊かな人権規定の中から創り出してきたものであって、憲法に「新しい人権」を明記したからといってそれが実現することにはならないと考えるが、いかがか。(後藤陳述者に対して)

金子 哲夫君(社民)

  • 先日、大分県日出生台演習場での米軍海兵隊による実弾演習に対する反対集会に、通りかかった陸上自衛隊の陸曹が詰め寄るという事件が起きた。このような事件に接すると、自衛隊とは軍隊そのものという危惧を抱くが、いかがか。(石村陳述者に対して)
  • 国民の生命及び財産を守るため、武力の行使を容認すべきだという意見があるが、戦争は、決して国民の生命及び財産を守るものではなく、むしろ戦争に際しては、軍隊よりも一般市民の被害の方が大きい。このように守られるべき市民が守られないことについて、どう考えるか。(西座陳述者に対して)
  • 下級審においては、既に3回にわたり、在外被爆者にも被爆者援護法を適用すべきとの判決が下されていることにかんがみれば、政府は、最高裁の判断を待たずに対処すべきと考えるが、いかがか。(後藤陳述者に対して)
  • 意見陳述で語り尽くせなかった点について、お聞かせ願いたい。(宮崎陳述者に対して)

◎傍聴者の発言の概要

派遣委員の質疑終了後、団長は、傍聴者の発言を求めた。

多久 善郎君

  • 憲法は、前文で「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」すると謳っているが、現実の問題として、北朝鮮に25年間も拉致されていた方がいることにかんがみれば、そのような国ばかりでないことは明らかであり、憲法には、怒りを感じる。我が国が国民を守ることができないのは、憲法前文や9条の精神が影響しているからであり、このような憲法は、改正すべきである。

出利葉 誠治君

  • 9条の改正には反対である。9条で自衛のための武力行使は認められているとする議論は、間違っている。現在も、自衛隊がアラビア海にまで派遣されているが、これが自衛のための行動であると言えるのか疑問である。
  • 政府が、昭和22年に出版した『あたらしい憲法のはなし』の中で謳った「戦争の放棄」の意義を忘れ、自衛隊を海外へ派遣することを許すべきではない。

小原 藍子君

  • 9条の改正に反対する。長崎の被爆者の体験を聴く中で、現在の状況は、戦中戦前の状況と似ているという発言があった。そのような現実に、憲法を合わせるべきではない。
  • 国際平和とは何か、よく考えるべきである。現在の米国の行為は、国際平和に寄与しないと考える。