平成15年2月13日(木) 統治機構のあり方に関する調査小委員会(第1回)

◎会議に付した案件

 統治機構のあり方に関する件(地方自治)

 上記の件について参考人増田寛也君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

 岩手県知事 増田 寛也君

(増田寛也参考人に対する質疑者)

 谷川 和穗君(自民)

 中川 正春君(民主)

 斉藤 鉄夫君(公明)

 武山 百合子君(自由)

 山口 富男君(共産)

 金子 哲夫君(社民)

 井上 喜一君(保守新党)

 佐藤 勉君(自民)

 古川 元久君(民主)

 福井 照君(自民)


◎増田寛也参考人の意見陳述の要点

1.北東北三県の広域連携

  • 県は、従来、中央ばかり見て隣県と協力することがなかったが、平成9年の北東北三県(青森県・秋田県・岩手県)の知事サミット以降、三県が一体となって取り組むべき課題が多いと認識し、観光、環境、産業廃棄物等の分野において連携を深めてきており、具体的には、アンテナ・ショップの共同開設等の事業を行っている。
  • 当初、実績を積み上げる形でスケール・メリットの追求から連携がスタートしたが、現在は、一部の分野において機能を分担するに至っている。今後は、三県のグランド・デザインの策定、地方債の共同発行、社会資本の機能分担等を行い、さらには、三県を含めた東北六県にこのような連携を拡大していきたい。

2.地方自治制度改革への基本的な考え方

  • 地方自治の基本的な考え方においては、「自己決定」「自己責任」を貫徹することが重要であり、そのためには、市町村ができることはなるべく市町村が行い、市町村ができないことは都道府県が、都道府県ができないことは国が行うという「補完性の原理」を念頭に置く必要がある。その上で、(a)自前の財源を確保した上での経済的自立、(b)住民の視点に立った市町村、県、国の役割分担の抜本的見直し、(c)人材の確保等を図る必要がある。
  • その場合における都道府県の役割は、小規模自治体の支援、市町村と中央の連絡調整、広域的課題への対応となる。
  • 近年、都道府県の合併について、肯定的にとらえる知事も増えている。

3.広域自治体に求められるもの

  • 地方の規模は、少子化・高齢化(人口減少)、国際化(企業の海外進出)、日常生活圏の拡大等の変化に対応するのにふさわしいものとなるべきである。
  • そのためには、(a)経済的自立、(b)県間の機能分担、(c)ブロック単位での財政の水平的調整、(d)地方への仕事の移譲、(e)県単位での「フルセット」(すべての社会資本等を整備すること)からの脱却が必要である。

4.広域自治体の制度(道州制、都道府県合併(合体))

  • 広域自治体の制度構築は、国、県、市町村の仕事を見直す国家的課題である。
  • 今後の地方制度の構築は、一国多制度の発想で柔軟に考えるとともに、住民との協働による制度設計を行っていくことが求められる。

5.おわりに

  • 道州制、都道府県合併については、現場の声を反映した多様な選択肢が示され、これを地方が選べるようにすべきである。92条の「地方自治の本旨」の範囲内でも、とり得る手段は多いと考える。

◎増田寛也参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

谷川 和穗君(自民)

  • 北東北三県の広域連携を進めていく中で、三県の知事サミットを行っているそうであるが、そこでは、これからの道州制、都道府県合併について、憲法第8章の地方自治に関する条項だけでは対応できないという認識であったのか、あるいは、地方自治法をはじめとした現行の法律の下で問題なく進めることができるという認識であったのか。


中川 正春君(民主)

  • 道州制を導入した際の道州と基礎的自治体の関係については、二つのイメージがあると考える。すなわち、(a)道州は、国と基礎的自治体との間にある自治体として、調整的な役割を果たすというものと、(b)道州は、調整的役割に加え、国の権能が移譲される際の受け皿として機能するというものであるが、参考人が道州制に対して持つイメージは、このどちらであるのか。
  • 現在、すべての自治体の首長の選出は直接選挙によることとされているが、今後、基礎的自治体の多様化が見込まれる中、自治体の統治機構の在り方についても、全国画一的に定めるのではなく、シティ・マネージャー制(市支配人制)の導入など、多様性を認めていくべきと考えるが、いかがか。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 参考人は、県単位で「フルセット」を整備することは経済的な効率性には合致しないと述べたが、「フルセット」を整備するべき合理的な最小単位が「道州」であるという考えか。
  • 現在の国を主体とした全国一律の教育を改め、基礎的自治体等が教育を担うべきという考え方があるが、参考人は、道州制の議論の際に、教育をどう位置付けているか。
  • 私は、比例区の中国ブロックの選出議員として、県をまたぐ地域の課題に対応する必要を認識させられるが、参考人は、比例ブロックと道州制との関係について、どう考えるか。


武山 百合子君(自由)

  • 明治以来の中央集権国家的な地方制度が、批判がありながらも今日まで続いている理由について、参考人に伺いたい。
  • 教育に関しては、県が教員を採用する仕組みを改め、市町村など地域が教員を採用することで、子どもに地域の伝統文化等を教えることができると考えるが、いかがか。
  • 参考人は、県の事務のうち半分は市町村に移せると述べたが、そのような事務をいくつか挙げていただきたい。
  • 参考人は、自治体の「経済的自立」ということを述べたが、その中身について具体的に説明していただきたい。


山口 富男君(共産)

  • 知事就任前の建設省勤務時と知事就任後とで、参考人の地方自治の在り方についての考え方に変化はあったか。
  • 参考人は、広域連携の事例として高度医療の機能分担を挙げたが、救急指定病院から次々と診察を断られ生後8ヶ月の男児が死亡した一関の事件でも問題となった小児救急医療体制について、県の責任や国との連携は今後どうあるべきと考えるか。
  • 岩手県の自主財源の割合は低い状態にあると認識している。参考人は、大幅な財源移譲や課税自主権の確立が必要であると指摘するが、財源確保への道筋をどのようにつけるべきと考えるか。
  • 市町村合併に当たっては市町村の自己決定を尊重すべきと考えるが、この観点から批判の多い「西尾私案」について、参考人は、どのように評価するか。


金子 哲夫君(社民)

  • 現在進められている市町村合併は、財政問題を強調しつつ中央主導で進められていると考える。合併は、それまでの日常的な広域連携が前提にあって初めて成り立つものであると考えるが、いかがか。
  • 多くの市町村では、合併により広域化が図られても人口増加は見込まれないことや、少子・高齢化、過疎化等が進展していくことを考慮すると、市町村レベルでの自主財源の確保は難しいのではないか。
  • 近年、重要な案件について住民投票やそのための条例制定に向けた動きが見られるが、参考人はどのように考えるか。


井上 喜一君(保守新党)

  • 府県制が導入された明治23年と今日とでは社会経済情勢が大幅に異なることや、権力を担う機関は少ない方が適当であることを考慮すると、新たな統治システムをつくる時期にきていると考える。新しい統治システムを構想するに当たっては、都道府県を廃止し、基礎的自治体をその中心と位置付けるべきと考えるが、いかがか。
  • 参考人が言う「広域化」が実現した場合、県に残すのが適当であると考える事務について、列挙していただきたい。
  • 憲法の地方自治に係る規定(第8章)は十分であると考えるか。改正するならどのように変えるべきであると考えるか。


佐藤 勉君(自民)

  • 今後、北東北三県の連携を推進するに当たって、北東北三県の合併を視野に入れているのか、それとも、従来の延長線上での協力関係を深化させることにより連携を強化していくべきと考えているのか。
  • 広域連携を推進してきたこれまでの経験において、現行制度が不十分であると感じる点はあるか。
  • 北東北三県の連携を推進する過程において、市町村合併をどのように進めていくべきと考えるか。


古川 元久君(民主)

  • 行財政改革に成功した諸外国の事例にかんがみれば、日本が国全体として行財政改革を行うことは、適正規模をはるかに超え、困難であると考える。広域化の推進や道州制の導入を通じて行財政に係る規模が適正化されることにより、地方だけでなく中央の機能が効率化され、日本全体としての活性化が図られることになると考えるが、いかがか。
  • 統治のマネジメントを考える上で、財政問題、特に、予算編成に関する問題が重要であると認識している。現行の単年度主義を改め多年度編成も可能とする枠組み等の導入を図るべきと考えるが、いかがか。


福井 照君(自民)

  • 地方自治についての議論を行うに当たっては、「個の確立」が不可欠の前提であると考えるが、岩手県においては、どのような方向において「個の確立」が図られているか。
  • 参考人から、岩手県においては、県職員の市町村への出向等により人材活用が図られていると述べられた。資源としての人材の確保が重要であることは認識しているが、私個人の経験に照らせば、そのように職員を転出させるようなことは、個人の人生設計に変更を加えることになると考える。岩手県においては、人材の確保と個人の人生設計との関係について、どのような施策が講じられているか。
  • 広域化が推進され、又は道州制が導入された場合において、国の機関である地方支分部局の役割について、どのように考えるか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

伊藤 公介君(自民)

  • 現在、国については、その「肥大化」が指摘され、道路公団の見直し、国家公務員の削減等さまざまな改革が行われているが、地方も「肥大化」しているのではないか。これから高齢化等により財政はますます厳しくなるので、国や地方においても、従来やってきたことについて削減できるものは削減し、その上で新しいことをやるという考え方に変えなければならない。


金子 哲夫君(社民)

  • 伊藤委員の指摘する「肥大化」については、メスを入れる必要があるが、「地方自治の本旨」の下、自治体の自主性をどのように確保するか、そのためにどのような権限移譲や財源移譲をなすべきなのかを考えることが先なのではないか。


谷川 和穗君(自民)

  • 地方財政の危機という現象は、日本独自の現象である。その原因は、経済成長の「右肩上がり」が続いていた時代に地方を中央の出先機関として位置付け、中央政府を中心としてさまざまなことを進めてきたやり方が、もはや時代にそぐわなくなっていることにあるのではないか。改めて国の在り方、統治システムの在り方について、検討することが必要となっている。


古川 元久君(民主)

  • これまで「官」が担ってきた「パブリック」な部分について、今後とも「官」が担い続ける必要があるのかを考える必要がある。「官」が小さくなることはよいが、「パブリック」を小さくしてはいけない。今後、地域の特色を活かした多様性のある社会を求めていく中で、統治機構の在り方を考えるに当たり、「パブリック」を担っていく主体としてNPO、NGO等をその中に位置付けていくべきではないか。


山口 富男君(共産)

  • 参考人からお話を伺い、地域の現場をよく見ることの重要性を改めて感じた。また、憲法第8章においては、地方自治について基本的なことのみが定められ、細目は法律で規定することとされていることから、地方の実態に応じていろいろなことができるとの参考人の指摘については、同感である。
  • 地方分権一括法が成立した後、地方自治をめぐる様相が大きく変化したが、(a)国と地方の役割分担はどのようにあるべきか、(b)仕事に見合った財源をどのように保障するか、(c)住民参加の道をどのように作っていくかといった観点を踏まえ、21世紀の日本の地方自治の在り方を考えていきたい。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 参考人のお話を伺って、国と基礎的自治体を結ぶものが必要か、また、必要とすればどのような形態のものがよいかということを考える必要があると感じた。私としては、中間団体としての都道府県は制度疲労をおこしており、これに代わるべきものとして道州を考える必要があると思う。その際、道州の位置付け、権限等は憲法に規定すべき問題であると考える。


中山 太郎会長

  • 現代は、北東北三県といった地域の連携の中においても、中国をも取り込んだ国際的な視野で経済というものを考えていかなければならない時代であると考える。このような観点からすると、日本は、県や国の範囲を超えて資本や技術が移転するボーダレス化の時代への対応が遅れているのではないか。アジア地域、さらには世界の中での国、県の在り方という視点から、10年後に備えて、日本の在り方を議論していきたい。


古川 元久君(民主)

  • 中山会長の発言のとおり、これからの中央政府や国会では、国益追求という観点から、大所高所に立った議論をしていくべきである。そのためにも、「地方主権」という考え方に立ち、中央が担う役割を減らし、「中央のスリム化」を図るべきである。
  • 首都機能移転の議論と道州制など地方の統治主体をどうするかという議論は、セットで行っていくべきである。
  • 統治の問題を考えるに当たっては、それぞれの地域における問題についてスピーディーな解決を図っていくという観点から、行政や立法のみではなく、司法における分権をどうするかという問題も検討する必要がある。