平成15年2月27日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

日本国憲法に関する件

 各小委員会ごとに、小委員長から報告を聴取した後、自由討議を行った。


◎最高法規小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪象徴天皇制−天皇の地位・皇位継承を中心として≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

保岡 興治小委員長

  • 象徴天皇制全般については、天皇が我が国の元首であるか否か、天皇が元首である旨を明記すべきか否か、また、将来的にも天皇制を維持していくべきか否かといった点については見解が分かれたものの、現行の憲法第1章について、おおむね維持すべきであるというのが、各会派に共通した認識であった。
  • 女性による皇位継承を認めることについては、これを容認する意見が多く見受けられたが、一方で、慎重に検討すべきであるとの意見もあった。また、女性による皇位継承を認めるとしても、その継承順位については、長子優先とすべきか、男子優先とすべきかについては、見解の分かれるところであった。
  • 今後は、皇室典範の改正の問題も含め、高橋参考人も言われていたように、ありのままの天皇制についての議論を深めていく必要があるのではないか。


●自由討議

森岡 正宏君(自民)

  • 天皇が我が国の元首であることを、憲法に明記すべきである。なぜならば、これまでの我が国の歴史にかんがみれば、現行憲法第1条の規定はそのままでいいように思うが、少なくとも外国からは天皇は元首としての扱いを受けているにもかかわらず、国内では曖昧な状態になっているのは不自然であるので、我が国を代表する立場にあることを憲法上明確にすべきと考えるからである。
  • 女性による皇位継承については、それ自体を否定するものではないが、皇位継承という重大な問題にかんがみれば、その検討は慎重になされるべきである。なぜならば、女性の天皇を容認するとなると、その配偶者をどう扱うかということが大きな問題となると考えられるからであり、したがって、女性の皇位継承を認める場合には、皇位継承の順位や皇族の範囲等、皇室制度の在り方そのものに関わる根本的かつ精密な議論が必要と考えるからである。


(天皇を元首として明文化することの是非を中心として)

山口 富男君(共産)

  • 憲法上、天皇を我が国の元首と明記することには反対である。主権在民の下では、対外的にも対内的にも、国の代表は内閣総理大臣であると考える。
  • 高橋参考人は「ありのままの天皇制について議論してもらいたい」と述べたが、これは、憲法の規定する天皇は国政に関与しないこと及び10項目の国事行為についての議論が必要ということと考える。


仙谷 由人君(民主)

  • 天皇の元首性の問題については、まず、6条及び7条に定める天皇の国事行為とは、実質的にどういうことを指しているのか明らかにすべきである。
  • 女性による皇位継承については、「国民主権下の天皇」ということを明確にすべきである。旧憲法下では、女性に諸権利なしという状況であった。現在の我が国の過去の積残しからくる閉塞感は、今なお男性中心の社会となっていることに原因がある。女性の社会進出を進める意味でも、皇位継承権が女性にも認められることを内外に明らかにする必要があると考える。


島 聡君(民主)

  • 私は、天皇と内閣とで権威と権力を分担しているのは、非常にいいかたちで、1条はこのままでもよいと考えているが、森岡委員は、議院内閣制と元首との関係をどのように考えているのか。


>森岡正宏君(自民)

  • 元首とは国を代表する者と考えるが、我が国の内閣総理大臣は、諸外国に比べ頻繁に交替があり、このような状況では、権力は有しているが国を代表しているとは言えないのではないか。
  • その点、天皇は、対外的にも元首と見られているのであるから、ふさわしいのではないか。


金子 哲夫君(社民)

  • 1条にあるように、「主権の存する国民の総意に基づいて」天皇の位置付けを考えるべきである。すなわち、象徴天皇の地位は、主権者国民の意思により決定されたものであり、元首とは別のものである。
  • 天皇の政治的利用を戒めてきたのは、旧憲法下の反省に立ってのことであり、今後は、天皇を国民に近づける方向での努力こそ必要である。


奥野 誠亮君(自民)

  • 現行憲法の制定過程において、当初、マッカーサー・ノートでは、天皇は元首とされていたのが、それでは旧憲法と変わらないという誤解を避けるため、現在の規定になったと認識している。
  • 海外では、天皇が我が国の代表であると考えられており、したがって、元首と呼ぶかどうかはともかく、天皇は、我が国を代表する位置にある。


中川 昭一君(自民)

  • 金子委員の天皇の政治的利用に関する意見は、社会党以来の主張であって、これでは、国民に間違ったメッセージを与えるのではないか。
  • 天皇を政治利用してはいけないというのは、そのとおりと思うが、元首にしてはいけないという主張の方が、むしろ、政治利用ではないのか。
  • 天皇には「国民の総意」として何をしてもらうべきかを議論し、その上で、権力者ではない元首として憲法に規定すべきである。


平井 卓也君(自民)

  • 1章の規定は、我が国の文化、アイデンティティといった日本の国柄を考えるときに大きな意味があり、日本人に与えている影響は大きいと考える。
  • 元首の問題では、我が国は、「最大最古の君主国」と言うこともでき、そういう立場からは、天皇は、我が国を対外的に代表しており、それは、他国も認めている。


谷川 和穗君(自民)

  • 天皇は、「我が国を代表するものとしての元首」と憲法に規定すべきである。
  • 「民主主義」とは、国権発動の形式であって、これと「国民主権」を混同すべきではない。
  • 旧憲法では、天皇を「統治権の総攬者」としたことが問題であったと考える。


野田 毅君(自民)

  • 権威と権力という問題は、分けて考えるべきである。最高の権力が、すなわち権威と考えるべきではない。
  • 天皇についての国内外の認識には差異があるようであるが、外国では、天皇を元首と認識しており、それが定着している。
  • 天皇制は、我が国の歴史の中で積み重ねられてきたものであり、元首とするか否かの問題は、皇統の重みに対し、カリスマを感じるか否かの問題でもある。
  • 主権在民の「主権」は政治権力の問題であり、権威の問題ではない。そうした観点から、天皇を元首であると憲法に明記すべきである。


藤島 正之君(自由)

  • 現在の規定からも天皇の元首性は窺うことができるが、天皇については、元首であると憲法に明記すべきである。


北川れん子君(社民)

  • 「権力者ではない元首」という定義については、十分に理解できない。
  • 元首の定義についての共通認識がない以上、天皇を元首とすることについて賛否を明らかにすることは無理である。


葉梨 信行君(自民)

  • 象徴天皇の「象徴」とは、権力を持っていないということでもある。
  • 「元首」というと、そこに権力が付随するのではないかと感じるということと思うが、王制を採用している諸外国の国王を見ても、運用上の問題はない。


中川 正春君(民主)

  • 「元首」の定義が、統一されていないように思う。天皇の権能については、4条の規定が基本であると考える。
  • 外国から見た場合に国を代表する立場であることや、国内的には精神的統一主体としての立場であることなど、元首の定義は各国によって異なるものであり、憲法上、天皇を元首とするのであれば、注意深い議論が必要である。


(女性による皇位継承の是非及びこれに係る諸問題を含めて)

島 聡君(民主)

  • 私は、女性天皇制に道を開くことに賛成である。この件については、一昨年の5月に内閣委員会で質疑を行い、皇室典範の改正で可能であることを確認している。旧憲法では「皇男子」による皇位継承を規定していたが、現行憲法では、そのような規定にはなっていない。
  • なお、天皇を元首とすることについては、旧憲法4条の規定との相違について議論する必要があると考える。


近藤 基彦君(自民)

  • 女性による皇位継承について、現状では、男系に限っていくことは難しく、天皇制を存続していく立場から、賛成である。
  • この問題は、憲法論議というより、皇室論議あるいは法律問題として考えるべきである。
  • なお、天皇を元首とすべきか否かの問題については、権威と権力は分離されており、元首とすることは可能と考える。


井上 喜一君(保守新党)

  • 元首の定義については、掘り下げた議論をした上で、明確にすべきである。
  • 女性による皇位継承については、国民世論の動向を踏まえるべきであり、結論を急ぐべきではない。


◎安保国際小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪非常事態と憲法−テロ等への対処を中心として≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

中川 昭一小委員長

  • 非常事態への対応や、国際的枠組みにおけるテロ対策の在り方に対する考え方については、多様な見解が示されたところであるが、テロ活動が過激化かつ国際化するなど国際情勢が大きく変化し、これに積極的に対応する必要があること、国民の生命・財産を守ることが政治の責務であること等にかんがみれば、引き続き議論を深めることを通じて、早急に合意形成を図る必要があると考える。
  • 今後も、これまでの議論等を踏まえた上で、我が国の安全保障及び国際協力等の在り方について、更に議論を深めていく必要があると考える。


●自由討議

藤島 正之君(自由)

  • 21世紀に戦争の悲劇を繰り返さないためにも、9条の理念は継承すべきであると考えるが、国民の生命・財産を守ることこそ国の責務であるため、自衛隊の保持及び首相の指揮権を憲法に規定すべきである。
  • 21世紀の新しい安全保障概念を構築し、国際社会と協調関係に立つべきである。そのためには、個別的自衛権や集団的自衛権だけで自国の平和を守ることは不可能であることを認識した上で、集団安全保障や国連中心の活動に積極的に参加するべきである。
  • 非常事態に関する規定を憲法に設けるべきであるが、非常事態としては、他の国家による侵略以外にも、テロ、大災害、騒乱等が考えられ、これらの事態についても明記すべきであると考える。その際には、権利及び自由の制限とその補償、国と地方の役割、首相の指揮権限等について規定すべきである。なお、自由党は、このような考えの下、平成14年5月に、「非常事態対処基本法案」を国会に提出した。


下地 幹郎君(自民)

  • 安全保障や国際協調といった活動については、国民の理解が必要である。そのためにも、国連の決議や判断に従って行動する「国連中心主義」をとるべきである。


谷川 和穗君(自民)

  • 緊急事態に関する現在の議論は、憲法制定当時に考えられたものとは大幅に異なっており、成文憲法である以上、新しいものを加えていく必要がある。例えば、54条の参議院の緊急集会は、予算上の問題を処理するために重要と考えられるものであり、非常事態の概念とはかけ離れたものである。また、憲法制定当時は、我が国は占領下にあり、非常事態に対処するのは実質的には占領軍であったため、実質的な非常事態規定が設けられなかったのである。
  • このような考えの下、制定時には考えられなかった、テロのような事態への対処法を考えるべきであり、憲法に、財産権の制限等についても明記した非常事態規定を設けるべきである。


奥野 誠亮君(自民)

  • 安全保障の論議には、憲法制定の経緯と、当時の日本の立場を把握することが必要である。例えば、GHQの最初の案は、日本に自衛のための戦争も禁ずる趣旨であった。現在、日本は、経済大国であり、国際社会の中で一定の責任を果たす必要がある。


島 聡君(民主)

  • 現行憲法は非常事態について想定しておらず、いわゆる「非常事態基本法」の制定には賛成である。また、9条1項に「国権の発動たる戦争」とあるように、「新しい戦争」と言うべきテロについても憲法は想定していない。これらのことを調査し、議論することは憲法調査会の責務であると考える。


伴野 豊君(民主)

  • 国民の生命と財産を守ることが国家の最重要の目的であり、そのためには憲法も一つの手段であると言える。そして、テロのような新たな脅威の出現に対しては、目的のために手段を変えることも必要と考える。テロ対策を含む安全保障は喫緊の課題である。


金子 哲夫君(社民)

  • 憲法調査会においては、まだ、非常事態の定義についての議論が十分であるとは言えない。私は、テロは戦争ではなくあくまでも犯罪と考えており、犯罪として対処すべきと考えている。その意味で、国際刑事裁判所の権限拡充も必要と考える。
  • テロの背景には、貧困や経済格差といった問題があるのであり、我が国は憲法前文の精神に基づき、国際協調の枠組みにおいて、テロの原因を解消するための役割を担うべきである。根本的解決は、それ以外にはあり得ない。


春名 直章君(共産)

  • 安全保障については、実態に即して考える必要がある。現在の我が国には、核兵器廃絶問題等の平和外交が問われており、また、国際刑事裁判所に積極的にかかわること等を通じて、テロの抜本的解決に向けたトータルな努力が求められていると考える。災害対策に関しても、警察や消防等、具体的問題に対処していく必要があると考える。
  • 憲法に非常事態に関する規定や国家緊急権の規定がないのは、憲法の不備ではなく、あえて国に対して国家緊急権を授権しなかったものと解するのが憲法学者の大勢であり、いわゆる非常事態の際にも、前文及び9条の理念の下で対処するべきであると考える。


大出 彰君(民主)

  • テロ対策に関しては、徐々に法整備がなされてきたと考えている。テロの議論については、憲法で最も重要な条文と言える13条を根本として考えるべきであり、そうでないと、安全保障対策として個人の権利制限が安易に行われることになる。どのような安全保障対策であっても、個人が反対できる権利を保障することが、憲法の観点から必要であると考える。
  • 有事法制に関しては、憲法の地方自治規定を超越する権限を首相に付与するかのような論議がなされることがあるが、憲法上問題であると考える。


今野 東君(民主)

  • 有事法制論議については、現行法ではどのような対策が可能であり、どのような不備があるのかという検証がなされていないことが問題であると考える。
  • 非常事態に際して首相に権力が集中することには、危険な一面もあるため、国会の強い関与が必要と考える。


赤松 正雄君(公明)

  • 9条の位置付けとテロ対策は分けて考えるべきである。
  • 9条は、文言上分かりにくい面はあるが、個別的自衛権を否定したものではなく、自衛隊も否定するものではないと言え、そのままにしておくのも一つの方法である。
  • 各国が条約を締結して、国際的テロ活動等に対して国家の枠組みを超えた警察権を有する組織を結成すれば、そこでの自衛隊の活動は、国家における武力行使とは異なるものとなり、武力行使との一体化論から脱却することができる。また、PKOについても、武力行使と一体化した武器使用という問題を乗り越える議論をすべきである。


井上 喜一君(保守新党)

  • 憲法で安全保障の規定を整備することは当然のことであり、9条の改正は必要である。さらに、安全保障を担保する行政組織及びその権限等についても規定する必要がある。
  • 国際協力に関する規定も必要である。


小林 憲司君(民主)

  • テロは戦争かどうかという議論があるが、米国が、「テロは戦争である」と決定した以上、その解釈の上で事実が進行するという側面があることを忘れてはならない。
  • 憲法と安全保障というと、理論に終始した小手先の議論に陥りやすいが、命令情報系統の整備の必要性等をはじめ、事実を認識した根本的な議論が必要である。


杉浦 正健君(自民)

  • 国連憲章に基づく集団安全保障体制や国際協力についての規定が、日本国憲法には欠落している。新憲法を策定する際にはそれらの規定を設けるべきであると考えるが、前提として、国民の広範な議論が必要であると考える。


谷本 龍哉君(自民)

  • テロ等への対処に関する憲法上の規定がないからといって、憲法解釈に過度に依存することは危険であると考える。テロ等の事態の発生を回避する努力はもちろん重要であるが、それらへの対処について、憲法上に明確に規定しておくべきである。


野田 毅君(自民)

  • 現行憲法は、連合国による占領下において日本が武装解除された状態、すなわち自国の安全について自己管理してはならない状況で制定され、国家としての自立と自己管理の理念を踏まえた非常事態への対処等の規定が欠けているため、正常な国家の憲法ではない。これら欠けている項目について憲法中に規定すべきである。
  • また、上記のような事情のため、国内治安体制についても整備されていない。私権の制限は当然あり得べきものであることを踏まえた上で、非常事態発生時の体制を確立させておくべきである。
  • 軍事的な対処を制限的に考えるのならばなおさらだが、非常事態に関して、平時における未然の防止体制を確立しておくべきである。


仙谷 由人君(民主)

  • 有事やテロ等を議論する際には、その前提として、有事やテロ等についてのイメージの統一が必要である。また、憲法論議を避けて通るべきではないと考える。
  • 非常事態の場合には、権限を集中することにより一元的な処理が求められるので、危機管理に止まる場合であっても、その対処措置が私権や地方自治体の権限との衝突を生じることもあり得る。よって、非常事態に関する憲法規定を整備すべきであるが、その際も、18条から21条・23条や、31条以下の刑事手続に関する規定等は、原則として徹底的に保障されると考えるべきである。

◎統治機構小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪地方自治−道州制・都道府県合併について≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

杉浦 正健小委員長

  • 憲法において制度的に保障されている地方自治を今後さらに充実させるためには、現在進められている地方分権改革を一層推進する必要があり、そのためには、地方分権の名にふさわしい税財源の確保・配分、地方分権の担い手である市町村と都道府県の改革が不可欠であり、そのような観点から道州制の導入を含め、自治体の広域化を検討する必要がある。
  • 道州制の導入等により、喫緊の課題となっている国・地方を通じての行政組織のスリム化を実現し、行政経費の大幅な節減(少なくとも10兆円程度)を図ることが可能となると考える。なお、市町村合併、道州制の導入により日本のかたちを変えることが21世紀にふさわしいとの観点から、現在、自民党内の有志で道州制の実現に向けた検討をしている。
  • 市町村合併の進展等を踏まえつつ、市町村、都道府県の在り方、さらには今後の国の統治機構の在り方について、議論を深めたい。


●自由討議

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 現在、市町村の在り方については、盛んに議論されているが、都道府県の在り方については、その存廃等に関してあまり議論がされていない。国、都道府県、市町村の三重構造や47の都道府県については、憲法に規定はなく法律事項である。今の三重構造を二重構造にすることや道州制の導入などについて議論することは有意義である。
  • 都道府県の事務量は膨大になりすぎたという増田参考人(岩手県知事)の発言や、その事務の半分近くは本来都道府県が処理する必要のないものであるとの調査結果もある。こうした意見等を踏まえて、自治体に係る議論をしていくべきである。


平林 鴻三君(自民)

  • 都道府県は、その地理的範囲が明治以来ほぼ変化していないのに対し、市町村は、明治、昭和そして今次の三度にわたり大規模な合併が行われている。都道府県の存廃は法律事項であることをも考慮して、こうした点について議論していくべきである。
  • 地方自治体の在り方を考えるに当たっては、過密・過疎の問題、小規模市町村の問題等を踏まえる必要がある。
  • 憲法に首長等の直接公選が規定されているが、一方で、小規模自治体には議院内閣制のような制度がふさわしいのでははないかという議論もある。こうした憲法改正を要する問題は憲法調査会で議論すべきである。
  • 地方自治は、民主制の維持・発展の上で、最も重要な要素であると考える。


中川 正春君(民主)

  • 市町村合併の現場で混乱が見られるが、これは、国と地方の役割分担を整理しないままに合併が進められているためである。また、合併を促す財政的優遇制度も、住民自治という観点からすると問題ではないか。
  • 「地方自治の本旨」に基づいて、国の権限を制限していく法律(例えば、政省令への委任を条例への委任に改める等)を定めていくことが必要であるが、それは、立法府である国会の責務である。
  • 93条2項の首長等の直接公選の規定等により、地方自治体の組織は画一的なものとなっているが、地方自治体の組織や運営には多様性が認められるべきだと考える。


谷川 和穗君(自民)

  • 戦後、日本は「アメリカ的地方自治」を導入したが、近年進んできたEUにおける地方分権の動きにも注目すべきである。
  • 我が国では、国主導の行政が続いてきたが、経済のグローバル化や財政赤字の深刻化などの経済情勢にかんがみると、国主導ではなく、地方が自ら治めるという地方自治の考え方が重要であり、地方への分権は避けられない。21世紀の地方自治を考えたとき、憲法の地方自治の規定は、92条以下4ヶ条だけでは不十分なのではないか。


古川 元久君(民主)

  • 国が主権を持ち、地方にその一部を授権するという現在の制度に対し、逆に、地方に主権があり、国がそれを補完するという考え方もある。主権が国と地方のいずれに属するのかという議論は必要である。
  • 地域の自立に欠かせない課税自主権等の財政的な自立についての規定が憲法にないため、これを明文化することも議論の大事なポイントである。


山口 富男君(共産)

  • 増田参考人(岩手県知事)の話の中で、憲法と地方自治に関連した以下の三つの発言が大変印象的であった。それは、(a)補助金、自主財源及び人材など「現場に来て初めて分かる感覚」というものがある、(b)92条の「地方自治の本旨」に関する条文からいろいろなことができる、(c)強制的に市町村合併を進める「西尾試案」に見られる制約は、小規模自治体の切捨てにつながるものであり、反対である、というものである。
  • 欧州での地方自治に関する議論も注目すべきものであり、日本でもグローバル化に対応しながら、人々の暮らしや雇用等の安定を確保するという課題がある。国と地方でこうした課題を解決していくことが重要であり、ことに国の責任については問い直すべき時が来ている。


中山 正暉君(自民)

  • 3000余りの自治体の多くで過疎化が進む一方、東京への一極集中が進んでいる点や、大阪府よりも大阪市の方が予算が多く権限が強いという点などの矛盾がある。憲法の中に地方自治体をどう見ていけばよいのかが問われている。
  • 防衛問題における地方自治体の役割が明確でないので、この点について憲法に規定することが必要である。


井上 喜一君(保守新党)

  • 地方自治体の組織や権限を憲法に規定し、固定的なものとすることは望ましくない。憲法の地方自治に関する条文は、現行の4ヶ条で十分であると考える。
  • 都道府県に権限が集中しているがゆえに、かえって地方自治が妨げられている現象がある一方で、神奈川県のように、県内に複数の政令指定都市が存在することにより、多くの権限を失ってしまっている現象も見られる。こうした問題には、法律で対処していくべきである。


中野 寛成君(民主)

  • 市町村を300程度の市に再編した上で都道府県の合併等により道州制を導入するという案に賛成である。しかし、現在国が市町村合併で行っているような押しつけの手法には疑問を覚えるので、道州制を実現させるに際しては、国は道州の区分等のみを決め、具体的な組織等については、それぞれの道州が決めていくという手法がよいと考える。
  • 地方自治を考えるに当たっては、国が治めやすいという視点ではなく、住民がサービスを選択できるという視点が重要である。このような視点を踏まえ、生活しやすい仕組みを作るという観点から憲法を考えるということが必要である。


武山百合子君(自由)

  • 「地方主権」の考え方には賛成であり、地方「自治」という考え方は重要である。しかし、現状は、権限や財源が十分ではなく、地方が自立しているとは言いがたく、問題が多い。
  • 消防や清掃事業等の事務処理の広域化が進んでいるが、教育も広域的に実施していくことは検討されるべきであり、その際には欧米で実施されている制度は参考になるのではないか。

◎基本的人権小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪教育を受ける権利−教育基本法改正を含む≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

大出 彰小委員長

  • 26条自体については、その権利性をさらに強めるべきであるなどの意見はあったが、おおむねよくできているとうのが各会派に共通した認識であった。
  • 教育基本法については、複雑化した現代社会における教育に関し、規定されていない部分も見受けられる点があるという意見が述べられた。
  • モラルの低下と他者の人権についての教育との関係などについて活発な議論が行われた。
  • 今後、教育に関わるさまざまな問題を解決するための議論を深めていくことが必要であると感じた次第である。


●自由討議

平林 鴻三君(自民)

  • 26条及び教育基本法を議論するに当たっては、その成立の経緯をよく理解しておくべきである。
  • 学校教育の成否は、教育の直接の担い手である教員の資質に大きく左右され、子どもの人格形成に関わる教育の資質の向上は教育上の最重要課題であると考える。
  • 学級崩壊、青少年犯罪、家庭崩壊、日本人のモラルの低下など教育を取り巻く課題に対処するという視点から、議論を深める必要がある。


谷川 和穗君(自民)

  • 私自身は、26条自体に疑義を持っている。これは、本来的には多分に財政面を規定したものではないか。
  • 戦後、日本の教育における議論は学校教育に終始してしまった。教育基本法にもあるように、教育は学校教育だけでなく、社会教育・家庭教育も含む。こういう本来の意味での教育を憲法上位置付ける必要がある。


葉梨 信行君(自民)

  • 岡村参考人は、小委員会において憲法と教育基本法を切り離して論ずることは、教育基本法の性格をいびつなものにするという意見を述べたが、憲法の三つの理念を尊重していくかぎり、一般の法律である教育基本法を単独で見直すことも当然できると思う。
  • 鳥居参考人は、初等中等教育の段階で、教師・家庭・地域がそれぞれ規範意識・忍耐・努力ということを教えるべきだという旨の意見を述べたが、もっともである。自由にすればよいというだけではだめであって、イギリスの例も参考に議論すべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 26条自体がこのままでよいかについては、さらに広範な議論が必要である。
  • 憲法と教育基本法は不可分の関係にあるという認識を私は持っている。教育基本法も改正すべきと思うが、もっと深く議論して、できれば憲法調査会においても平行して議論を行い、憲法調査会の5年の議論を経てから改正しても遅くない。
  • 教育基本法の制定経緯も重要だが、改正の動きも重要である。戦後間もない頃の国民実践要領から始まり、臨教審、「期待される人間像」、内閣憲法調査会などの一連の動きはしっかりと考える必要がある。
  • 戦前の滅私奉公を乗り越えようとするあまり、戦後は「滅公奉私」になってしまった。危惧を抱いているところであるが、これまでの教育基本法の改正議論は、それを踏まえてのものではないようにも思える。
  • いずれにせよ、憲法の枠の中でしっかりとした議論をした後、教育基本法の改正論も行うべきである。


大畠 章宏君(民主)

  • 現在、社会で起きている事件を見るに、憲法が目指した社会・理念と現実の社会が乖離しつつあるように思える。また、恵まれた人とそうでない人の格差が広がりつつある。豊かな家庭の子どもはよい教育を受け、お金のない家庭の子どもたちは苦労する傾向が定着しつつある。こういったことの議論が必要であり、どういう社会を目指すのかが課題である。


春名 直章君(共産)

  • 現在の教育の荒廃の根拠を教育基本法に求めることには賛成できない。
  • 鳥居参考人に対して小委員会で、なぜ突如「たくましい日本人の育成」が教育の理念として出てきたのか質問したが、明確な説明はなかった。「たくましい日本人」や「伝統文化」などの徳目的な項目を入れる改正を行っても、今日の教育問題が解決するとは思わない。競争と管理の教育を改め、教育基本法を踏まえて、子どもの成長と発達を中心に据えることで解決すべきである。
  • 教師の指導力向上には賛成するが、指導力不足の教師を探すようなことをしても意味がない。自主的な研修や多忙化の解消などにより解決を図るべきである。
  • 高知では「開かれた学校」の試みが行われ、また全国21県で30人学級が実施され、国も支援している。
  • 教育改革国民会議における浜田リコー会長の「初めて基本法を読んですばらしいと思った。なぜ変える必要があるのか。むしろ、基本法に書いてある目的を実現できなかったことが問題だ」という言葉を挙げておきたい。


北川れん子君(社民)

  • 学級崩壊や家庭崩壊などの事象を教育基本法とからめて論ずることには反対である。抜け落ちる面(経済的な格差や競争の激化、自然環境の破壊が子どもたちの教育に与える影響)が出てくる可能性がある。
  • 「必要なのは、教育基本法の理念がどこまで実現されたのかを検証することである」という岡村参考人の意見に賛成である。
  • 日本も批准している子どもの権利条約では子どもの意見表明権が規定されているが、子ども自身が大人に意見を伝える場の設定がなされていない。
  • 遠山文科相が外国人学校卒業者の大学受験資格に差を設けると発言したと耳にしたが、反対である。国際化の分野ひとつとっても、政府の施策は教育の現場と乖離しているのではないか。


奥野 誠亮君(自民)

  • 90回帝国議会の憲法秘密委員会の議事録では、「憲法において学校では宗教教育をしてはならないこととなるが、これをなんとか落としてもらいたい」という議論がされている。同時期に教育基本法が成立したが、憲法において「宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」とあった文言が、教育基本法においては「特定の宗教教育その他宗教的活動をしてはならない」と規定された。また、教育基本法案要綱案前文にあった宗教的情操の重視も削除された。宗教教育に関して、憲法と教育基本法の規定の仕方に違いがあるということを理解してほしい。
  • 教育基本法を速やかに改正して、伝統の尊重、宗教的情操の涵養などを規定すべきである。


大出 彰君(民主)

  • 私は、過去の反省にかんがみて現在の憲法や教育基本法があるということを踏まえ、個人の尊厳こそがもっとも重要なものであると考える。
  • 現在、地方分権が進められているが、その一方で、義務教育費の国庫負担が減ってきている。アメリカも同様であるが、アメリカではその結果、企業からの寄附金で教育を運営することになり、弊害が生じている例もあるやに仄聞している。義務教育費の国庫負担の削減は再考すべきである。


葉梨 信行君(自民)

  • 小委員会で仙谷会長代理の述べた「大人の世相の反映が子どもである」という指摘に賛成である。子どもは次の世代を担う大切なものであるから、教育は重要な問題である。
  • 鳥居参考人の意見陳述は大変参考になり、また、水島委員の不登校問題の発言も参考になった。
  • 春名委員は、「たくましい」子どもを理念として盛り込むことに反対と発言されたが、「たくましい」子どもに育ってほしい、自己実現し、社会人として活躍してほしいと願うのは当然であって、誰も戦前に戻そうなどは考えていない。


>春名直章君(共産)

  • 「たくましい」子どもに育ってほしいということを否定しているわけではない。(a)何を意味しているのか見えないということ、(b)教育基本法は公権力が教育に特定の価値観を持ち込むことを戒めているもののはず、という趣旨で述べたものである。


◎おわりに

中山太郎会長から、今国会ではじめての小委員長報告とこれを踏まえての自由討議が活発に行われたことを踏まえて、次のような所感が述べられた。

  • 憲法54条に規定されている参議院の緊急集会は、外国の侵略、天皇や首相の事故、大規模自然災害等の場合に開催することが想定されているとのことであるが、私が参議院の議運委員長を務めていた(昭和55年の)衆参同日選挙の際に大平首相が急逝する事態が生じた。このときは、緊急集会が開催されることにはならなかったが、現在では、これらの事態に加えてテロ等も考えられる。そのような事態に備えるためにも、国家の安全という観点から、非常事態と憲法に関する議論を尽くしておくことが重要であり、憲法に非常事態に関する規定を明記しておくことが必要ではないか、と考える。