平成15年3月6日(木) 安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(第2回)

◎会議に付した案件

安全保障及び国際協力等に関する件(非常事態と憲法 −自然災害等への対処を中心として− )

 上記の件について参考人小川和久君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  国際政治・軍事アナリスト    小川 和久君

(小川和久参考人に対する質疑者)

  山口 泰明君(自民)

  島  聡君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  今川 正美君(社民)

  井上 喜一君(保守新党)

  下地 幹郎君(自民)

  末松 義規君(民主)

  近藤 基彦君(自民)


◎小川和久参考人の意見陳述の要点

1.日本は「法治国家」ではない

  • 我が国では、法の制定等が自己目的化しているが、法制度の完成度を高めるためには、法改正を通じた不断の努力が必要であり、これなくして法理念の実現はあり得ない。憲法調査会についても、調査が自己目的化しているのではないかと危惧している。
  • 「憲法違反状態」を是正するとともに、憲法の完成度を高めることが必要である。

2.日本は憲法の精神にふさわしく行動してきたか

  • 外交面において、日本は憲法の精神である「平和主義」と「国連中心主義」に基づいて行動してきたかを検証すべきである。ここにいう「平和主義」とは、積極的に世界平和の実現への努力を行うことであり、そのことにより世界の信頼を得、自国の安全と経済的繁栄が確保できる。また、世界平和の実現のための手段が、「国連中心主義」である。
  • 湾岸戦争時において、我が国は、(a)米国の「戦略的本拠地(Power Projection Platform)」であること、(b)イラクへの最大の資金援助国であること、(c)多額の国連への拠出金を負担する国であること、という利点を有していたにもかかわらず、存在感を発揮できなかったことを見据えなければならない。
  • テロリストと大量破壊兵器開発国の結合は我が国の国防上の脅威であり、個別的自衛権により対処できるということを認識した上で、事態の平和的解決に向けて努力すべきである。
  • 国民の生存権の観点から「有事法制」をみると、国民の避難、誘導等を含む国民保護法制が先送りされており、その結果、自衛隊、消防、警察は円滑に活動できることとなっていない。武力攻撃事態に際しての国民の避難、誘導等に関する仕組みは、警察、消防、自治体等による対処の視点から、上陸侵攻には津波対策を、また、ミサイル攻撃や大規模テロには直下型地震対策を積み上げた上で、その応用を図ることを通じて構築すべきである。
  • 国民の生存権の観点からは、交通事故に対処するためのドクター・ヘリの整備が縦割り行政の弊害で遅れているという「憲法違反状態」も指摘できる。

3.世界に冠たる日本国憲法であるために

  • 憲法を機能させるためには、思想・哲学をもって物事を順序正しく進めることが大事である。まず、防災、医療、交通事故といった基礎問題を解決した上で、外交・安全保障という応用問題に対処すべきである。基礎問題についての「憲法違反状態」が是正されれば、憲法の完成度を高める動きが生ずるであろうと考える。

◎小川和久参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

山口 泰明君(自民)

  • 日本の国土の特殊性を考えると、自然災害こそ最大の問題である。しかし、憲法には、大規模な自然災害をはじめ重大な非常事態への対応の在り方について規定はない。今後は、災害が起きて初めて法整備を行うという場当たり的対応ではなく、自然災害を含む国家的な非常事態に対して国民の生命・財産を守るための基本的な国家の姿勢を憲法において明らかにすべきであると思うが、いかがか。
  • 自然災害をはじめとした重大な非常事態において、自衛隊と警察・消防の役割分担を含め、自治体と国の責任関係や役割分担を憲法において示すべきではないか。


島  聡君(民主)

  • 日本有事が想定される際、アメリカが相手国に先制攻撃をしようとしているとき、日本の自衛権との関係はどのように説明されているのか、国会で質問しても明確な答弁がない。参考人は、どのように整理しているのか。
  • 現在、国民の関心はミサイル攻撃であると思うが、参考人の意見にあった「ミサイル攻撃や大規模テロは直下型地震対策で」とはどういう意味であるのか、また、今、それに照らし法制的に不備なところがあれば教えていただきたい。


赤松 正雄君(公明)

  • 日本は、戦争直後の占領期の意識をいまだに引きずっているところがあると思う。今の日本の憲法状況の最大の原因は何か。
  • この10年の我が国の安全保障分野における最大の成果は、PKO活動に参加したことであると思う。近年、PKO参加5原則の見直しによる活動の拡大が指摘されるところであるが、「武力行使一体化論」などの議論も踏まえると、それ以上行おうとすれば、憲法とPKO法の枠の中で対応することは無理があり、憲法改正が必要ではないか。
  • アメリカが9.11の同時多発テロの発生を許してしまった原因について、どう考えるか。


藤島 正之君(自由)

  • 非常事態について憲法上全く規定がないのはおかしい。非常事態への対応においては私権制限という点は必ず出てくるが、それは憲法の「公共の福祉」の理念ではとらえきれるものではないこと等の理由から、非常事態についての規定はきちんと設けておく必要があるのではないか。
  • イラク問題について、川口外相は、あいまいな態度でいることが国益に合致すると言うが、そのようなことは許されないはずである。日本がイラク問題で存在感を示すために何ができると考えるか。
  • 日米関係は、米英関係のような対等の関係が望ましいと考えるが、参考人の意見はいかがか。


春名 直章君(共産)

  • 阪神・淡路大震災における死亡者の約9割が地震発生直後に死亡したものであることにかんがみれば、自然災害対策においては、救助等の対策も重要であるが、耐震設備や災害に備えた「まちづくり」が強く問われていると考えるが、いかがか。
  • 大災害に関しては、その後の復興が大きな課題であると考えるが、阪神・淡路大震災では、仮設住宅等で亡くなった人が400名を超えるという状況に対して有効な対策がとられず、また、政府は、復興や生活支援に関して、個人補償はできないという立場をとっている。このようなことは、生存権を規定した憲法に反するものではないか。
  • 救助・救援対策については、自衛隊の活用ではなく、参考人と同様に、初期消火等の消防活動の充足が最重点課題と認識している。しかし、2003年度予算案において消防補助金が減少し、必要とされる消防士数の目安である「消防力基準」も満たされていないなど、十分な対策がなされていないと考えるが、いかがか。


今川 正美君(社民)

  • 米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)の概要と、我が国で非常事態に対応する組織づくりが進まない理由について説明されたい。
  • 我が国の非常事態対策に、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件等の経験や教訓はどの程度活かされているのか。
  • 日米安保の日々の運用上の問題や冷戦後の在日米軍基地の在り方について検証する必要があると考えるが、我が国の政府はその実情の把握すらできておらず、日米地位協定の健全な運用もなされていないという現状について、参考人はどう考えるか。


井上 喜一君(保守新党)

  • 憲法に、非常事態に対処する組織や基本的人権の制限の根拠となる規定を置くべきである。(a)非常事態・災害対策に関しては、役所の縦割り組織が問題を生じさせており、災害等の種類に応じて個別法で対応している現在の制度を改めて、法律をできる限り一つにまとめるべきと考える。さらに、(b)それらに対処する組織もできる限り一本化するべきと考える。以上の2点について、参考人はどう考えるか。


下地 幹郎君(自民)

  • 沖縄駐留の米軍基地は、日本及びアジアにおいて重要な役割を担うが、沖縄は重い負担を強いられている。訓練の一部をハワイ、グアム等に移し、辺野古基地の建設を見直す等の対処により、現在の安保体制の枠組みの下で沖縄の負担軽減を図るとともに、日米安保条約の点検をしていくべきであると考える。これについて、参考人の意見を伺いたい。


末松 義規君(民主)

  • 敗戦以後、日本がアメリカの機嫌を伺ってきたのは、アメリカに対する恐怖心があるからではないかと思うが、いかがか。
  • 「法制度の疲労が放置されている」との参考人の意見に賛成であり、それは、戦後、国民の「アレルギー」が強かったからと考えるが、いかがか。
  • 一般国民にも憲法を遵守する義務があるとの規定を設けることにより、国民の間に防衛への意識が芽生えるのではないかと考えるが、いかがか。


近藤 基彦君(自民)

  • 北朝鮮のミサイル等が発射された場合の対応について、石破防衛庁長官は、「その意図が不明な場合は、自衛隊としては災害派遣で対応せざるを得ない」と述べているが、この発言について、参考人の見解を伺いたい。
  • 解釈改憲はもう限界まで来ており、積極的に国際貢献を行うためにも憲法を改正した方がよいと考えるが、いかがか。
  • 私の選挙区の佐渡では医療体制が不十分であるので、自衛隊の医師やヘリコプターによるドクター・ヘリを整備するため、厚生労働省から防衛庁へ予算の移管をすべきであると考えるが、いかがか。
  • 憲法改正のための国民投票について定めた法律がいまだ制定されていない状態は、「国会の不作為」と認識しているが、参考人は、これを早急に制定すべきと考えるか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

中山 正暉君(自民)

  • 東西の冷戦構造が崩壊した今日においては、北朝鮮問題をはじめとする「地域の冷戦」が生じている。このような状況において、日本は、大国間で対立が生じた場合にどのように対応するのか、「地域の冷戦」に対する抑止力を働かせるためどのような措置を講ずればよいのか等の問題について、知恵をしぼるべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 日米安保条約は、米軍が外部の攻撃から日本を守る一方で、日本が米軍に基地を提供するという関係を定めるものであり、その意味で、非対称かつ不平等なものであると考える。日米安保条約に基づく日米地位協定についても、政府が同協定の改定を視野に入れた立場を表明したのは最近のことである。これらのことを踏まえれば、一般に、日本は、米国に対し、弱腰の姿勢で臨んでいると言わざるを得ない。日米地位協定について、下地委員は、どのように考えるか。

>下地幹郎君(自民)

  • 問題が生じるたびに日米地位協定の運用改善が唱えられるが、実態の改善はなされておらず、基地問題の被害者は不平等なルールを改定してほしいとの思いを抱いていると認識している。
  • 同盟関係や有事法制は、国民の理解があって初めて成り立つものであることにかんがみれば、日米地位協定の運用改善よりも、その改定を日米双方に問いかけて議論を喚起すべきであり、そうすることは、日米間における信頼関係の構築に当たり、大きな意義を有することになると考える。


中野 寛成君(民主)

  • 憲法には「すべきこと」と「してはならないこと」とが定められているが、これを踏まえた上で、憲法の精神を活かした行動をとる必要がある。その意味で、日米地位協定については、よりよいものとするため、改定することも検討する必要があると考える。
  • 13条を具現化する観点から、ドクター・ヘリの配備、有事法制の整備等は不可欠であると考える。政府提出の有事法案については、住民避難に関する法制が先送りされている点で問題がある。また、有事における米軍の活動が無制限となるのを防ぐため、有事に際しての「日米地位協定」を締結すべきである。


今川 正美君(社民)

  • 日米関係は重要であるが、湾岸戦争等に在日米軍が参加するに当たって日米安保条約に基づく事前協議が行われなかった例に現れているように、日米安保条約の運用には問題がある。在日米軍基地の運用について協議する機関である合同委員会に、米軍基地を抱える地域の首長が参加できるようにするなど、日米安保条約の健全な運用を図るべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 今川委員は日米関係が重要であると述べたが、今川委員が属する政党は、自衛隊は違憲の存在であるとの立場に立っていたのではないか。その立場に立つ場合における日米関係の重要性とは、どのような意味なのか。

>今川正美君(社民)

  • 村山政権前の社会党時代においては、自衛隊の存在及び日米安保条約は違憲であるとの立場であったが、村山政権下において、自衛隊は憲法の枠内の存在であり、また、日米安保条約を堅持するとの立場に転換しており、現時点において、再び変更することとはなっていない。


春名 直章君(共産)

  • 不平等な関係を定める日米地位協定は、当然に改定されるべきであり、また、期限もあいまいなままの基地移転に伴う新基地の建設は、許し難い行為である。さらに、イラク問題に対し、先制攻撃戦略をとる米国は、国連のルールの枠外での行動をとろうとしている。このような現状にかんがみれば、日本は、沖縄の米軍基地の問題を含め、米国との関係を見直す必要があると考える。
  • 現状において、自然災害等への対応は、生存権を保障するものとなっていない。憲法の生存権保障の精神と現実の対応策との乖離を埋めるよう、憲法調査会においても調査を進めていくべきである。