平成15年3月27日(木)(第5回)

◎会議に付した案件

日本国憲法に関する件

各小委員会ごとに、小委員長から報告を聴取した後、自由討議を行った。  


◎最高法規小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪象徴天皇制−天皇の権限・国事行為等を中心として≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

保岡 興治小委員長

  • 天皇の国事行為は、憲法によって主権者である国民から天皇に委任されたものであり、その責任は内閣にあり、また、その性格は形式的・儀礼的なものであるという点については、各会派に共通の認識であった。
  • 天皇の行為の分類については、国事行為のほかに、それ以外の行為が存在することは認識するものの、国事行為以外の行為について公的行為、私的行為等に細分するか否か、更に公的行為を認識する場合、公的行為についても何らかの基準を設けるか否かについては、見解の分かれるところであった。
  • 前回及び今回の参考人からの意見聴取を踏まえ、天皇の行為に関しては、その運用実態等について、具体的な事例を取り上げながら調査を進めることが、「ありのままの象徴天皇」についての議論をしていく上で必要なことであると考える。


●自由討議

平井 卓也君(自民)

  • 天皇制は我が国の文化であり、ナショナル・アイデンティティーであって、我々がこれからも守っていくべきものであると考える。また、憲法第1章に関しては、いずれの政党においても、当面は、改正する必要はないと考えていると認識する。
  • 天皇は憲法の規定に基づいて主権者たる国民から国事行為を委任されているとの見地から、天皇の国事行為については、すべて国民の前にオープンにしていく必要があり、また、そうすることが象徴天皇制を安泰ならしめるためにも有益と考える。
  • 天皇の行為分類論の背景には、天皇も一人の人間である以上は国事行為の他にもさまざまな活動をされるのであって、しかも、そうした活動と天皇が我が国の象徴であるということが、密接に関係していることがあると認識する。
  • 天皇を元首として憲法に明記すべきか否かの問題については、個人的には、やはり元首であるとした方がすっきりするのではないかと考える。
  • 天皇の行為については、具体的な事例を公開の場で議論し、行為の輪郭や実態を明らかにしていくことで、象徴天皇にふさわしい行為のあり方、内閣による助言と承認のあり方、皇室経済などの天皇制を支える制度のあり方などが定まっていくのではないか。そうすることで「憲法に天皇を元首として明記すべきか否か」という問題に対しても、おのずと結論が導き出されてくるのではないかと考える。


山口 富男君(共産)

  • 天皇制について考えるに当たっては、現行憲法下の天皇制は主権在民の原則の下での天皇制であることを押さえることが重要であると考える。
  • 天皇の国事行為については、オープンに議論していくことが必要である。
  • 現行憲法においては主権在民の原則がとられており、天皇は元首であると憲法に明記することには反対である。また、「元首」の意味内容については各人各様であり、議論が噛み合っていないと認識している。


中山 正暉君(自民)

  • 以前行ったテレビ番組での討論において、共産党は、「将来的に天皇制は廃止するが、天皇家は残してもよい」と述べていた。
  • 近年、日本各地でさまざまな事象に係る住民投票が行われているが、現行憲法前文の冒頭に「日本国民は、…代表者を通じて行動し」とあることからすれば、これらは民主主義の誤作動と評価できると考える。仮に、天皇が「国民の総意」に基づくことなどを根拠として天皇制に係る住民投票が実施されるような事態になれば、象徴天皇制が不安定になるのではないか。また、「国民の総意」とは何を意味するのかについても、今一度議論すべきである。
  • 聖徳太子は、権威と権力とを分け、政治の変動によって権威の側、すなわち天皇の地位が揺らぐことのないようにする知恵を生み出したが、それは、象徴天皇制に通じるものである。


北川 れん子君(社民)

  • 私は、「新憲法は新理念を体現している」との園部参考人の見解に賛同する。天皇制に関して現行憲法が継承したのは、天皇という名称と一定の機能のみであり、天皇は、国民主権、議会制民主主義や人権尊重等の諸原則と共存するものとして存在するにすぎないと考える。
  • 国事行為に関しては、助言と承認を行い実質的な決定権限を有する内閣と実際に行為を行う天皇とに厳格に分けられている。国事行為をこれ以上増やすことはできないと考えるべきであり、国事行為を行っているとき以外の私的立場の天皇は、日本国や日本国民統合の象徴ではないと考える。
  • 2000年現在で168万人余りの在留外国人を有する日本において、国民統合のシンボルは果たして本当に必要かということを、国家とは何かとの観点も踏まえた上で考えるべきである。
  • 天皇制の存続により、天皇家の人々自身が国家の犠牲とならないことをどのように担保するかを含め、天皇制のあり方について慎重な議論が必要であると考える。


奥野 誠亮君(自民)

  • 現行憲法の制定過程において知恵が絞られ「象徴」との語が導き出されたが、この語は天皇の本来の姿を表している。
  • 1条の「日本国民の総意に基づく」の前に、GHQによって「主権の存する」とのフレーズが挿入されたことで、天皇の地位が曖昧になり、誰が元首かに関する今日の議論へとつながったのではないか。
  • 天皇は歴史上、終始、「日本を代表する地位」にあったのであり、元首との語を使うかどうかはともかく、そのことを憲法に明記し、天皇の地位を明確にすべきである。


仙谷 由人君(民主)

  • 天皇制ははなはだ「妙(たえ)なる制度」であり、揺るがせる必要はない。
  • 天皇制に関わる問題としては、天皇制と14条2項及び3項との関係、すなわち栄典制度と法の下の平等との関係について関心がある。つまり、栄典制度の背後には、天皇との距離の遠近によって人間の価値が決まるとの日本人の意識があるのではないかと考えられるが、栄典制度が官尊民卑で運営されている実態に関しては、これを憲法的な問題として考えるべきかどうか、あるいは栄典制度自体の改革を行うことで日本人の意識まで変えられると考えるべきかどうか、などの点について関心がある。個人的には、一切の勲章の等級をなくし、栄典制度自体は存続させるのが穏当ではないかと考える。
  • 日本に残る差別問題は、天皇より下賜されるという形式となっている栄典制度が関係しており、その背後には、上記のような日本人の意識があるのではないかと考える。


中野 寛成君(民主)

  • 現在の日本においては、権力と権威とが分けられており、権力なき権威として象徴天皇が存在する。「代表」や「元首」との語を用いず「象徴」との語を用いたことは的確であり、天皇制は、現在のまま維持していくべきである。
  • 国事行為については、7条4号の「国会議員の総選挙」という文言など、いくつかの工夫や修正があってしかるべきであると考える。
  • 女性天皇については、皇室典範に委ねられる問題であると考えるが、皇孫に男子がいないとの現在の状況に慌てふためいて取り上げるのではなく、将来の天皇制のあり方との観点から議論していくべきである。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 象徴天皇制は素晴らしい制度であり、日本の根幹であって、今後とも維持すべきである。
  • 天皇の権威の源泉は、憲法によれば、1条に「国民の総意」とされているが、象徴天皇制が必要とされる理由とともに、天皇の権威の源泉についてもっと議論を深めていくべきであると考える。私としては、さらに、天皇の権威の源泉の所在を憲法に明記すべきであると考える。

◎統治機構小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪地方自治−小規模自治体の実態について≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

杉浦 正健小委員長

  • 基礎的自治体、特に小規模自治体の在り方を考えるに当たっては、(a)地方財政が厳しい状況に置かれており、スケールメリットを活かすこと等により行政運営を格段に効率化する必要があること、また、(b)交通の発達・情報化の進展に伴い、住民の社会的経済的活動範囲が拡大し、市町村が相対的に狭小化していること等の点から、市町村合併を推進するとともに、合併の進展による市町村の規模・能力の拡大を踏まえ、道州制の導入等を視野に入れつつ、都道府県の在り方、さらには国の統治機構の在り方を考える必要がある。
  • 今後ともさまざまな角度から21世紀におけるこの国のありようというものを考えたい。


●自由討議

島 聡君(民主)

  • 「欧州地方自治憲章」の規定等を参考にしつつ、地方自治のグローバルスタンダードが何であるかを念頭に置きつつ、「地方自治の本旨」が意味するところを改めて議論する必要がある。
  • 憲法は、「地方公共団体」が何であるかについて具体的には規定しておらず、道州制導入のために憲法改正は必要ない。道州制導入の論議においては、まず、国の在り方について検討すべきである。
  • 政府見解においても、65条は内閣の行政権について規定し、地方行政権はこれに含まれてないとされており、国家によって侵せない地方行政権があるとしている。地方自治の性質を、本調査会においても明確にすべきである。


大出 彰君(民主)

  • 先のアメリカ大統領選でのフロリダ州における投票数え直しの事例に見られたように、州が独自の立法権や司法権をもった場合、その行使の在り方によっては大きな問題が生じることがある。道州制導入に関しては、そのことを踏まえて論議する必要がある。


古川 元久君(民主)

  • 市町村合併については、その取組みに自治体ごとの温度差があるが、その原因は、合併後の「この国のかたち」について、中央集権の国を目指すのか、それとも地方主権の国とするのかといった展望がないからである。また、将来像が見えない中で中央主導で合併を進めることも問題である。
  • 合併の論議に当たっては、まず、「この国のかたち」について議論すべきである。その上で私は、地方主権を目指して道州制を導入し、道州ごとに道州内部の自治体の在り方を決めるというのがいいのではないかと考える。


奥野 誠亮君(自民)

  • 市町村合併、道州制導入の是非等は、「地方自治の本旨」をどのように理解するかに関わる問題である。
  • 市町村の在り方を考えるに当たっては、行政運営や財政上の効率性のみで判断してはならず、小さいままでも住民がお互いに身近な問題に取り組んでいこうという意識を維持・発展させることが重要である。合併に当たってもこれらの点を踏まえるべきである。


伴野 豊君(民主)

  • 道州制導入の議論においては、国と地方の役割分担という根本的な問題について、行政単位に何を期待するのかという観点から考え直す必要がある。私は、全国を300程度の市(人口30万〜60万人)に再編することを前提として、道州制を導入すべきであると考える。
  • その際、政令指定都市等、適正規模を超えた大規模自治体があることにかんがみ、合併だけでなく分割も議論すべきである。
  • また、そもそも制度はシンプルであることが望ましいから、行政区と選挙区を一致させる必要性等についても議論する必要がある。


山口 富男君(共産)

  • 阿部参考人の意見を聞いて、新しい町づくりを考えるに当たっては、(a)住民の福祉の増進を基本にすえるべきであること、(b)住民の意向を尊重すること、(c)住民に説明することが重要であると感じた。
  • 小規模自治体の実態については、全国町村会からも意見を聴くべきである。
  • 「地方自治の本旨」は地方自治法等において具体化されており、その内容は明瞭である。
  • 「欧州地方自治憲章」についての発言があったが、ヨーロッパの地方自治についても引き続き議論すべきである。


金子 哲夫君(社民)

  • 市町村合併に伴う広域化によって、福祉、行政サービスについて行政と住民との直接の関わりが弱くなるが、これを補うため、地域コミュニティの確立が重要である。
  • 合併に当たっては、どれだけ住民の意思が反映されているかが重要である。中央主導によって合併が推進される中で個々の住民意思の反映や住民の合意形成が不十分である。合併等の重要事項については、住民参加による住民自治の確立の観点から、住民投票を積極的に活用すべきである。

◎基本的人権小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪労働基本権−公務員制度改革及び男女共同参画の視点から≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

大出 彰小委員長

  • 平等権、労働基本権に係る憲法上の規定については、特に問題はないとする意見が大勢であったが、「家庭」や「家族」など憲法上規定が設けられていない事柄についてどのように評価するかについては、意見が分かれるところであった。
  • 公務員制度改革については、特にILO中間報告をどのように評価するかについて意見の分かれるところであった。
  • 男女共同参画については、藤井参考人より示された三つの提言を実現するためにどのような施策が必要かについて意見の交換が行われた。
  • 今後、公務員制度改革(特に公務員の労使関係の在り方について)及び雇用の場における男女共同参画について、憲法の理念を実現するために、議論を深めていくことが必要であると感じた。


●自由討議

谷本 龍哉君(自民)

  • 公務員制度改革の視点から労働基本権を議論するに当たっては、一方において、(a)28条から労働基本権はすべての勤労者に保障されるものであることが導かれること、しかしながら他方において、(b)41条の規定(国会が唯一の立法機関であること)及び83条の規定(財政民主主義)の両者から、公務員の労働基本権は国民の意思を代表する議会が決すべきであり、政府には決定権がなく公務員と政府の間に団体交渉はあり得ないといういわゆる「主権理論」が導かれること、この両者のバランスをどこでとるかについて十分な議論が必要であると考える。
  • 男女共同参画の視点から労働基本権を議論するに当たっては、「結果の平等」(例えば、議会において一定の議席数を女性枠とするクオータ制をとる国もある。)と「機会の平等」(例えば、あまりにも「結果の平等」を重視しすぎると、逆差別として「機会の平等」を侵害されたとして訴訟を提起される例も米国において見受けられる。)のどちらを重視するか十分な議論が必要と考える。私は、「機会の平等」をベースにしつつ、少しだけ「結果の平等」に足を踏み出すような姿勢で施策を展開すべきと考える。


今野 東君(民主)

  • 13条で幸福追求権が規定されていることからすれば、性差・年齢・人種などの禁止されている差別事由から漏れた事由(例えば、性同一性障害)による採用時の差別などについて、真剣に考えなければならない。
  • 藤井参考人の提言にもあったように、行政の指導による解決には限界があり、強制力のある救済機関の設置は、少数者に対する差別を解決する上で重要であると考える。


島 聡君(民主)

  • 私は昨年、民主党ネクストキャビネットの総務大臣としてジュネーブのILO本部に行ってきたのでよく分かるが、ILOは、公務員制度改革大綱についておかしいという強い態度を示している。
  • 今の日本の公務員の労使関係制度はグローバルスタンダードからするとおかしいと感じるし、今、この機会にきちんと検討しないと大変なことになってしまう。ILOの言葉を借りると、今この機会こそGolden Opportunityである。
  • 今回の公務員制度改革において、新人事制度・能力主義を導入しようとする一方、人事院の権限を各省大臣に移そうとしており、各省大臣が原則として政治家であることを考えると、15条の「全体の奉仕者」性が守られるか極めて疑問であると思う。きちんと検討すべきである。


春名 直章君(共産)

  • ILOが我が国の公務員の労使関係制度が国際水準から立ち後れていることを指摘している点は、重く受け止めるべきである。
  • ILO条約を批准することにより国際労働基準を遵守する責務が生じ、また、我が国がILO98号条約・87号条約を批准していることからしても、ILO中間報告を真摯に受け止め、国際的責務を果たすべきである。
  • 政府は、ILO中間報告を重く受け止めようとしないが、そのような姿勢自体を国際機関から問われているのである。
  • 公務員の労働基本権の制約は、今回、戦後初めての公務員制度改革が行われるに当たって、憲法調査会としても大いに深めていかなければならない課題であると考える。


水島 広子君(民主)

  • 我が国における男女共同参画の現状が、まだまだ憲法の要求するレベルに達していないことは、参考人も含め、小委員会における大方の認識であったと思う。
  • 女性が働くということに対する意見として多いのは、「女性が働くことは結構だが、家庭はどうなる?子どもはどうなる?」というものである。小委員会においても、憲法に「家庭」や「家族」について書き込むという意見が出されたが、子どもの権利条約も批准していることからすると、今さら憲法に書き込むべきというよりも、子どもの権利という観点を重視した方がよいのではないか。
  • 少子高齢化が進む現在、大人が自分の子ども・地域の子どもと向き合う時間が減っている。その時間をとることができるように、仕事と家庭の両立を可能にする施策を議論していくのが国会の役割であるはずである。
  • データからすると、母親が子どもと向き合う時間が多ければよいというものでもなく、子どもと向き合うときの母親の精神状態が重要であり、そのためのバックアップを考えるべきである。
  • 例えば交通事故裁判において、男女の賃金に格差があるとして、逸失利益の算定が男女で異なる。これは、14条の禁ずる差別に当たるのではないか。


金子 哲夫君(社民)

  • 今回の公務員制度改革に当たり、公務員の労働基本権制約の在り方が本当に真剣に議論されたのか疑問である。
  • 先進国の中でこれだけ公務員の労働基本権が制約されている国はないと認識しており、他の国の制度をきちんと調査すべきである。
  • 28条の保障する労働基本権は長い歴史の中で勝ち取られてきたものであり、公務員の労働基本権制約についても、今まで歴史的経緯があり現在の形になっていることは認める。しかし、21世紀に入った現在、かつて労働争議が盛んだった頃の考え方のまま、疑問さえ呈されない現状でよいのか。私は、公務員の労働基本権すべてを回復すべきであると思うが、それができないならば、徐々にであっても回復していくべきである。
  • 公務員の労働基本権制約についての詳細な調査の結果、やはり制約が必要だという結論に達したのであれば、それについての説得力ある根拠を示すべきであって、現在、そのような根拠が示されているとは考えられない。


平林 鴻三君(自民)

  • 公務員制度改革の視点からの労働基本権の議論については、谷本委員の意見に賛成である。
  • 今後、議論を深めていくに際しても、実態を十分に勘案して、将来の制度設計をしていくべきである。


大出 彰君(民主)

  • 谷本委員が指摘した41条を公務員の労働基本権制約の根拠とすることに対しては、国会が制定した「憲法より下位の法律」が、より上位の憲法上保障された労働基本権の制約の正当化の根拠となりうるかどうか疑問を感じる。
  • 例えば、電電公社がNTTになったときに、すぐに争議権が与えられたことを考えるとき、公務員と政府との間にも民間と同じような雇用関係が想定できるのではないか。とすると、「主権理論」は、公務員の労働基本権制約の根拠とはならないのではないかと思う。
  • かつて労働争議が激しかった頃と現在は違うのであるから、よく話し合って、よい制度を作っていくべきである。
  • 男女共同参画に関しては、男女の賃金格差が大きすぎるとされているが、現場においては、男女の仕事内容が違うのだからそれは当然だという感覚である。仕事内容が同じか違うかはさておき、現場はそのような感覚になってしまっているということを認識しておく必要がある。

◎安保国際小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪非常事態と憲法−自然災害等への対処を中心として≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

中川 昭一小委員長

  • 「非常事態と憲法」に関する2回の小委員会を通じて、各参考人から、非常事態体制の整備に関する国会の責任について厳しい指摘を受けたことを重く受け止めたい。
  • テロや自然災害から国民の生命・財産を守ることが政治の責務であるということが、各委員の共通認識であったと思われる。具体的な対処の在り方については、非常事態における国の権力行使の在り方や国民の権利制限に関する規定を憲法に設けるべきであるとの意見がある一方で、前文及び9条の精神に基づき有事を生じさせない努力をすべきであるとの意見もあることを踏まえ、今後、更に議論を深め、早急に合意形成を図る必要がある。


●自由討議(イラク問題・北朝鮮問題を含めて)

首藤 信彦君(民主)

  • 日本において、非常事態法制の整備が必要であるということは、各委員の共通の理解であると考える。
  • 現代社会は、環境問題、通貨操作、テロ等多様なリスクを抱えている。現行憲法は、(a)日常性を超えた危機への認識がないこと、(b)国際社会の平和と安全に向けて能動的に行動する規定がないこと、(c)危機が周辺国で生じるとの想定がないこと、(d)人口が集積している都市における自然災害への対処が不明確であることから、これらのリスクには十分な対応ができないと考える。
  • 非常事態においては行動の自由等の人権が制限されることがあるといった諸外国の事例等を踏まえ、緊急事態法制を整備する必要がある。


谷川 和穗君(自民)

  • 戦後50数年の変化、特に安全保障の問題について総括する必要がある。ドイツとフランスは、過去120年の間に3回戦ってきたが、1987年以降、合同の軍事組織の創設等を行っており、これは、人類が生み出した最も優れた不戦醸成装置である。このようなことがヨーロッパの外でも可能であるか、考える必要がある。
  • 1956年の日本の国連加盟の際、軍備を持たなくても加盟できるかどうかという議論、また、永世中立という議論もあったが、加盟が優先され、9条については必ずしも十分な論議がなされなかった。
  • 日本は、安全保障と信頼醸成に全く関わることなく国際社会に地歩を築けるのかが問われており、戦後の50数年を総括して日本としての安全保障を打ち出すべき時に来ていると考える。


中山 正暉君(自民)

  • 9条では何もできないが、その原因は、憲法制定当時、米国が日本は何もする必要がないと考えていたからである。
  • 政治にとって最も重要なことは、創造力と空想力を駆使して危険を回避することである。北朝鮮問題や米国・中国が衝突するおそれ等の危機が存在する国際情勢の下において、自国の安全をどう確保するのか、現行憲法には明治憲法の戒厳令規定に相当するものがないことを踏まえつつ、検討する必要がある。


春名 直章君(共産)

  • イラク攻撃については、(a)安保理決議678、687、1441はいずれもその法的根拠とならず、武力行使を容認する新たな安保理決議もない等、国連憲章や国際法に違反するものであること、(b)安保理の中でも多数の国が査察の継続によって問題を平和的に解決できると考えていた中で、査察の継続による平和的な解決の道を閉ざすものであること、(c)一般市民に甚大な被害が生ずることから、その不法性、不当性を指摘していたが、このような指摘を裏付けることが現実に起こっている。現在、攻撃後の復興の問題が議論されているが、人の命は復興できない。直ちに攻撃を中止すべきである。
  • 先制攻撃やフセイン政権の打倒を目的とする攻撃は、国連憲章に違反し、国際秩序を覆すものである。日本は、憲法の国際協調主義、平和主義の立場に立って、米国に対する支持を撤回するとともに、イラク攻撃を直ちに中止するように米国に強く働きかけるべきである。


中川 昭一君(自民)

  • 現在、テロ等について盛んに議論されているのは、9.11のテロが米国のみならず世界に対するものであると認識されているからである。日本においても、過去に社会党の浅沼委員長が刺殺された事件やオウム真理教による地下鉄サリン事件等のテロが発生しているのであって、国会議員として、国民の生命、財産を守るため、どのようにテロ等に対処すべきか早急に議論すべきである。
  • 9条の存在、国連での議論の経緯、イラク攻撃による被害の発生等の表面的な事実にのみ目を奪われることなく、本質を見据えた議論をすべきである。例えば、イラク問題や北朝鮮問題については、イラクや北朝鮮が自国民や国際社会に対し「国家によるテロ」ともいうべき行為等をしてきたことを踏まえた議論をすべきである。
  • 民主党の代表が、イラク問題については、政府の対応を米国追従であると批判する一方で、北朝鮮問題については、日米同盟がある以上、当然に米国が日本を助けることになるとの発言をしているが、このような認識は、同盟の本質を紙切れ1枚におとしめるものである。日米両国においてあらゆる「知恵」を出し、「命」を賭けて同盟を守る意思を確認しなければ、日米同盟は、北東アジアにおける安全を保障するものとして機能しない。


杉浦 正健君(自民)

  • 日本国憲法には、危機的事態における権限規定がない。明治憲法14条に規定されていた戒厳令のような、危機的事態に対処する権限の根拠を憲法に明記すべきであると考える。
  • イラクの戦後復興に関する特別法が検討されているが、事態が生じるたびに場当たり的な対応をするのではなく、国連決議に基づいて行われる武力行使、治安維持、PKO等に日本が協力することの根拠規定について、憲法に明記すべきである。


金子 哲夫君(社民)

  • イラク問題については、平和主義と国連中心の国際協調を基本として対処を図るべきである。我が国は、米国を支持できないことを明確にすべきであった。北朝鮮問題についても、小泉首相の言うような日米同盟を基軸とするのではなく、国連による解決を基軸にすべきである。
  • ブッシュ・ドクトリンに基づき先制攻撃が行われたが、この攻撃は、(a)安保理決議678、687、1441が武力攻撃の根拠となるものではないこと、決議違反の認定は米国ではなく安保理が行うべきであること等から、国連憲章が認める武力行使を容認する二つの例外のいずれにも該当しないこと、また、(b)フセイン政権の打倒が目的であれば内政干渉に当たることから、1日も早く戦争を終結させ、国連の枠組みによる平和的な解決を図るべきである。
  • 米英軍は、イラク攻撃においても劣化ウラン弾を用いたとのことであるが、人道上許されない放射能兵器の使用は大変遺憾である。


今野 東君(民主)

  • イラク攻撃を日本が支持したことは、国連中心主義を大きく踏み外すものである。日本は、国連中心主義等の原則を堅持して外交を展開すべきである。
  • 政府は、イラク攻撃の法的根拠として、安保理決議1441、687、678を挙げるが、これらの決議はいずれもその法的根拠とはならない。特に安保理決議1441は、イラクへの対応について判断を下すプロセスにあり、最終的な判断は、あくまで安保理がすることを明らかにするものである。安保理の決定なく行われたイラク攻撃を支持することは、重大な誤りである。
  • 北朝鮮問題に関する米国の協力について考える際には、(a)日米安全保障条約が双務的なものであり米国の国益にも資するものであること、(b)駐留軍基地は日本国の安全に寄与し、また、極東における平和及び安全の維持に寄与するため使用が認められていること等を踏まえる必要がある。そのことを踏まえれば、北朝鮮問題を理由として対米追従外交を行う必要はない。


大畠 章宏君(民主)

  • 中川昭一委員から、民主党の菅代表の発言について、同盟関係に関する認識が甘いとの指摘がなされたが、フランスも米国と同盟関係にあるが、イラク攻撃について、明確に不支持を表明している。同盟関係にあるから、米国を支持しなければならないということはない。
  • 小泉首相は、日本は核兵器を保有していないので米国に協力しなければならないとの発言をしたが、仮にそうであるとすれば、経済問題、食料問題等についても米国に従うしかないこととなるが、その場合、憲法や国連憲章は無意味なものとなってしまう。
  • 小泉首相のイラク攻撃支持は、平和主義、国連中心主義を放棄したものであるとの見方が広がっている。私は、今後の国際秩序を維持するために、国連中心主義を取り戻すことが不可欠であると考える。安保理を再開し、国連を中心とする国際秩序を回復するため、中山会長においても、積極的に働きかけを行って欲しい。

>中山太郎会長

  • 日本は、国連中心主義をとるとの方針の下、従来から国連において核兵器、化学兵器等の廃絶を訴え続けてきたが、全く取り上げられなかった。日本は、国連の分担金の約20%を負担していることを明確にしつつ、自らの立場を主張していくべきであると考える。

>中川昭一君(自民)

  • 大畠委員から、米国と同盟関係にあるフランスは、イラク攻撃について、明確に不支持を表明しているとの指摘があったが、独立国が自国の利益を第一に考えることは当然である。その一方でフランス、米国、日本等は、先進国として世界の平和や発展に対して重い責任を負っている。
  • 日米同盟等の同盟関係は、単に紙の上だけで義務を負うというような単純なものではなく、同盟関係を実質化する努力があってこそ初めて意味あるものとなると考えている。


大出 彰君(民主)

  • 今後の日米関係において、日本は指摘すべきことは指摘する必要があると考える。特に米国の「先制攻撃戦略」については、日本がこれに巻き込まれた場合、大変危険であるので、米国に「先制攻撃戦略」をやめるよう強く働きかけるべきである。日本は今後とも平和主義を掲げていくべきである。


首藤 信彦君(民主)

  • 中川昭一委員は、民主党の菅代表が、イラク攻撃における米国の単独主義的行動等を非難する一方で、北朝鮮問題については米国に頼ればよいという趣旨の発言をしたとの指摘をしたが、そのような事実はあるのか。「党派的な発言」は、立場を超えて憲法の調査を行おうとする憲法調査会での議論になじまないのではないか。
  • 民主党は、イラク問題については、国際協調の下、外交交渉を通じて、武力行使によらない平和的な解決を図るべきであると主張している。また、北朝鮮問題についても同様の対応をとるべきであると考えている。
  • 北朝鮮問題については、核武装の疑いが指摘されているが、日本は、憲法の精神を活かしながらこの問題に対応する必要がある。核兵器をさまざまな国が保有している現在の世界において、日本は、唯一の被爆国であるとともに、武器輸出を行ったことがない国でもある。そのことを踏まえ、日本は、核兵器等の大量破壊兵器を持つことが世界平和にとってマイナスとなることを、世界の中心となって主張すべきである。イラク問題については、早急に戦争を終結させ、国連の枠組みに引き戻すよう努力すべきである。


島 聡君(民主)

  • 国連中心主義を議論するに当たっては、憲法制定、国連加盟、自衛隊の創設、安保条約の締結等の流れを整理する必要がある。
  • イラク攻撃に関しては、与党が政府として米国の立場を認める一方、民主党は、立法者としての法の観点から議論を行っている。日本の外交として、現在の政府の姿勢は正しいといえるか疑問である。
  • 憲法調査会として、内閣法制局の解釈が実情に沿わなくなった場合には、政府見解を変えるよう、政府に言うことはできないのか。
  • 仮に北朝鮮に対し、安保理が決議を行った上で、国連憲章42条に基づき軍事行動をとるという場合、日本としては憲法98条2項の国際法遵守義務との関係でどうするかが問題となる。国際法と憲法の関係については、憲法優位説と国際法優位説が対立しているが、憲法調査会としては、せめて両者を同格であると理解すべきと考えるが、中山会長の見解を伺いたい。

>中山太郎会長

  • 99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」に対し憲法尊重擁護の義務を課しており、また、98条2項で国際法遵守義務が規定されている以上、私は、憲法が国際法に対して優位に立つと考える。周辺国に事態が生じ、これに対する国連決議がなされた場合、日本はどのように対応するかについて、国会において活発な議論が行われることが、国民にとっても望ましいと考える。


山口 富男君(共産)

  • イラク戦争の問題点としては、国連憲章及び日本国憲法が禁止している先制攻撃から始まったことが挙げられる。これは、世界が長年にわたり作ってきた、先制攻撃を認めないという原則を壊すものである。また、一般市民にも被害が及んでいるが、米国の姿勢は、大量破壊兵器をなくすことを標榜しつつ、自らが大量破壊兵器を使用しようとしており、納得できない。
  • 9条は、積極的に国際平和に貢献できる条項であり、日本はそのような憲法を持つ国として、戦争を直ちに終結させ、外交による平和的な解決を図るべきである。
  • 谷川委員の発言に関連して、日本が国連に加盟する際には、国連軍への参加の問題があるので、「9条の制約がある」ということをあらかじめ表明していたことを付言しておきたい。


葉梨 信行君(自民)

  • 国連の在り方を考えるに当たっては、(a)国連が、冷戦時代は拒否権の発動などで機能せず、ソ連の崩壊後になって機能してきたということ、(b)コソボ紛争の事例に見られるとおり、各国は、国際平和の維持とともに、自国の利害を守ることを基本姿勢としていること等を念頭に置くべきである。
  • 9.11以来の米国の抱く危機感は、世界の危機感であると考えて議論すべきである。
  • 小川参考人からは、「憲法違反状態」を是正し、改正により憲法の完成度を高めるべき等の提言がなされたが、我が国は、国連を尊重しながら、経済大国としての責任を果たしていくべきである。
    <基本的人権小のテーマに関する水島委員の発言に関連して>
  • 児童権利条約を批准した以上、憲法に家族・家庭の大事さを規定する必要はないとの意見もあったが、子どもが虐待されているという現実にかんがみると、憲法に家族・家庭の大事さを明記することが、これからの日本にとって大切であり、また、このことは、決して男女同権に矛盾するものではないと考える。


赤松 正雄君(公明)

  • 今日の事態は、人類、世界、日本人にとって重要な問題である。野党が「あるべき論」になるという点は理解できなくはないが、与党としては、国際政治のリアリズムという観点から、事態を考えざるを得ない。イラク攻撃については、これを全面的に肯定することも、否定することもできない「グレーゾーン」ではないかと考える。
  • 1970年代以降の主要な国際テロは、法務省の調べによると30年間で大小合わせて380回余りに及ぶ。国連中心の平和外交は最大限尊重されるべきであるが、このような現実に対して、国際法が追いついていないとも考えられる。
  • 公明党は、昭和56年に大激論の末に、それまでの自衛隊を違憲とする立場から、我が国の領域保全のための自衛隊を認める立場に変えたが、各党は、現在の北東アジア情勢を踏まえたときに、この憲法が自衛のための戦争を認めていると考えるのか。認めていないとすれば、どのようにして日本を守ろうと考えているのか。


北川 れん子君(社民)

  • 小泉首相は、イラク攻撃について、米国を支持する以外に日本のとるべき道はないとの立場をとるが、政府は戦争回避のためにいかなる具体的な努力をしたか。日本は、もはや停戦を提案することのできる立場ではなくなった。
  • 核疑惑という点では、イラクよりむしろ、イスラエル、インド、パキスタン及び北朝鮮の方が問題であると考えるが、今回のように査察の結果にかかわらず攻撃されるのでは、こうした疑惑国は、今後、査察に協力しないこととなるだろうし、ひいては国連の機能をも損なうこととなろう。
  • 日本は、米国による破壊を支持しておいて復興支援を行うということであるが、これは若い世代や次世代には理解されない。戦争は、環境破壊の最大の原因でもある。
  • 小泉首相は難民について保護するとしたが、一方で、法務省は難民申請を行ったアフガニスタン人の意向を無視して強制送還するなど、政府内で矛盾した行動をとっている。


谷川 和穗君(自民)

  • 冒頭の私の「永世中立」に関する発言に関連し、「非武装」ゆえに「中立」ではなく、「中立」であるためには別の政策が必要であるということを付言しておきたい。