平成15年4月3日(木) 安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(第3回)

◎会議に付した案件

安全保障及び国際協力等に関する件(国際協力―特に、ODAのあり方を中心として―)

上記の件について委員野田毅君及び首藤信彦君から基調発言を聴取した後、質疑又は発言を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(基調発言者)

  野田 毅君(自民)

  首藤 信彦君(民主)

(質疑又は発言を行った委員)

  近藤 基彦君(自民)

  今野 東君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  今川 正美君(社民)


◎ 野田毅委員の基調発言の要点(近藤委員の質疑に対する補足発言を含む)

1.はじめに

  • 国際的な相互依存関係が強まっている今日において、国際協力は、国際社会と自国の発展と繁栄のために重要なものと位置付けられている。

2.国連体制と日本

(1)国連の機能不全
  • 国際の平和と安全の維持という分野において、国連が発足当初より十分に機能できなかった原因は、国益間の衝突に関し国連が複雑な調整を図ることが困難であったことにある。現在、国連は、拒否権、安保理の構成、冷戦後の時代の変化への対応等の課題を抱えている。
  • 国連機能を充実強化するためには、国連決議を実効的なものとする観点から、安保理の民主的かつ実効的な意思決定プロセスを確立するとともに、紛争解決のための多様なシステムを国連体制の中に位置付けることが重要である。
(2)国連に対する我が国の関与の在り方
  • 日本国憲法は、国連を中心とした国際社会秩序を構築するという第二次世界大戦終結前後における理想を念頭に制定されたものである。
  • 我が国は、国連改革に積極的かつ主体的に関与すべきであるが、その際、(a)自らの力で自らを守ることを基本に安全保障の確立を図り、また、国際社会において責任ある役割を果たすことができるよう、憲法改正を考え、(b)敵国条項の撤廃を求めるとともに、国連分担金の拠出の在り方を見直し、(c)経済、環境、人権、開発等の分野において国連を積極的に活用すべきである。

3.我が国のODAの在り方

(1)我が国のODAの現状と課題
  • ODAの現状について一定の評価はできるが、ODAの普遍的価値の追求の側面と国益の追求の側面とを共に満たす形で実施されてきたかについては、反省と見直しの必要性が指摘されている。
(2)ODAの今後の在り方に関する具体策
  • 見直しの具体策としては、(a)戦略性を重視したODAの実施、(b)ODA実施に当たっての「人間の安全保障」等の新たな概念の必要性、(c)「要請主義」の見直し等主体的判断に基づくODAの実施、(d)国民の理解を求める努力、(e)関係政府機関間の連携強化が挙げられる。

4.おわりに

  • 敗戦による歴史の断絶、昭和27年4月28日の独立回復等の事実を若い世代に思い起こさせるため、この日を「独立回復記念日」とするよう提案する。
  • 自らの国を自ら守るという独立国として当たり前のことを分かりやすい形で憲法に規定することは、政治家としての責務であると考える。

◎ 首藤信彦委員の基調発言の要点

1.ODAと憲法

  • 日本国憲法は、高い精神性、先見性、国際性等を有しており、その前文においては、グローバル社会における「人間の安全保障」を求めている。ODAの根拠は、この前文に求めることができる。

2.賠償、経済協力と海外援助/憲法上の根拠

  • そもそも、戦後賠償、経済協力及び海外援助として行われてきた我が国のODAは、狭義の国益に合致したものであったが、その後、「人間の安全保障」等の国際社会の新たなニーズに応じて行われてきたODAは、狭義の国益に直結するものではなく、憲法上の根拠について疑義が指摘されるようになった。

3.世界を動かしつつある崇高な理想/世界益と国益

  • しかし、戦争とその原因である貧富の格差や差別を一国家の問題としてではなく、世界的な問題として再定義し、世界の枠組みの中で解決するという憲法の崇高な理念にかんがみれば、その根拠として、改めて前文の価値を見直し、これを積極的に展開することが求められる。

4.変容する冷戦後世界と激変する社会

  • 冷戦後、地域紛争や内戦、難民、テロ、グローバリズム、貧困等が生じるなど、世界は激変している。

5.国際機構の失敗

  • このような変化への対応に当たって、国連安保理、ユニセフ等の国際機構において機能不全(「国際機構の失敗」)が生じており、国際機構の変容と再編が求められている。

6.新しい要素

  • 日本は、憲法制定時には想定されていなかった、(a)安全保障と経済協力の相関性、(b)地域紛争、テロリズム等に見られる国家と国境の変容、(c)地球全体の視点で問題を捉えるグローバル視座、(d)「人間の安全保障」、(e)人間の安全を脅かす貧困等へ国際社会として対応するための「ガバナンス」「民主化」という概念の登場、(f)国家と個人の間に位置する市民社会組織(CSO)に期待される役割と公金支出の用途制限を定める89条の関係等の新しい要素を勘案しつつ、国際協力を考えるべきである。

7.あらたな憲法上の根拠を求めて

  • (a)海外援助の理念、(b)海外援助に対する議会の関与、(c)国益と世界益とのバランスを図るための価値基準及び第三者によるチェックについて、憲法本文中に規定することを提言する。
  • 国家予算の4割を軍事費に投入するイラクに多額のODAを供与した日本政府の責任を追及する。極端な貧富格差や特定階層の貧困を放置する国にODAを供与し続けることは、世界における恐怖・欠乏や紛争を拡大させることとなり、反憲法的な行為であると考える。

◎ 主な質疑事項又は発言

近藤 基彦君(自民)

<両委員に対して>

  • 経済の低迷によりODA事業予算が限られている中で、戦略的にODAを実施する必要があると考えるが、その際、どのような地域や分野を優先してODAを実施すべきと考えるか。

>野田毅君(自民)

  • 国別にはアジア諸国を中心に、また、分野別では環境等を重点的にODAを実施すべきではないか。

>首藤信彦君(民主)

  • 紛争予防、紛争後の再建等を含む紛争解決及び絶対的貧困の解消のためにODAを重点的に実施することにより、憲法前文に掲げられた国際協調の精神の実現と世界全体の福祉の向上が図られることになると考える。


今野 東君(民主)

<野田委員に対して>

  • 野田委員は、イラク問題をめぐり国連の機能不全が明らかになったと述べたが、これは、米国が国益を全面に出して国連を軽視したからであり、国連が果たすことのできる役割は残されていたのではないかと考えるが、いかがか。

<発言>

  • ODAの憲法上の根拠は、前文の国際協調主義と平和主義に求めることができる。
  • 我が国のODAについては、利権の温床、理念のなさ、ハコモノ重視等の批判がなされ、国民は、不信感を抱いている。ODAの対象国から感謝と信頼を得るためのツールとして国民に認められるためには、(a)開発調査の在り方に対するチェック、(b)不透明な形で実施される要因となる「要請主義」の見直し、(c)NGO等を通じた「草の根アプローチ」の活用等を実施する必要がある。

>野田毅君(自民)

  • 安保理常任理事国の意見の一致がなければ決議は採択されないこと、大量破壊兵器に関する挙証責任はイラクにあると考えるべきこと、米国の軍事的圧力があって初めて査察が実施に移されたこと等を踏まえれば、一概に米国を批判することはできない。国連決議の実効性をどのように確保すべきかを考えていく必要がある。


赤松 正雄君(公明)

<両委員に対して>

  • 現在、安全保障については、「国家の安全保障」から「人間の安全保障」へと変わってきているとの指摘がなされているが、「人間の安全保障」の具体的イメージ、在り方についてどのように考えるか。
  • 中国に対するODAについてどのように考えるか。
  • 憲法の本文にODAの在り方を規定すべきである等の指摘があったが、ODAの基本的な在り方について定める「ODA基本法」の制定について、どのように考えるか。

>野田毅君(自民)

  • 人間の尊厳を守るという観点から、紛争が必ずしも国家間ではなく、民族間等でも起こっていること等を踏まえ、「人間の安全保障」が主張されている。
  • 中国に対するODAについては、戦後賠償を「経済協力」として行ってきたという経緯があるが、(a)現在の中国の経済力、軍事力、(b)日本の国益との関係等を踏まえ、援助の分野を環境分野に限定する等の見直しを行うべきである。
  • 「ODA基本法」の制定により、ODAの在り方を固定化してしまうのは疑問である。「大綱」で機動的、弾力的に対応する方がよいと考える。

>首藤信彦君(民主)

  • 「人間の安全保障」の概念が唱えられるようになった背景には、(a)地域紛争において国家が個人の安全を侵すケース、(b)国家が崩壊して国民の福祉や人権を守ることができないケース、(c)人間の生命・安全が、国家間による紛争ではなく、飢餓等によって危険にさらされるケース等があることから、安全保障の単位が、国家から個人や家族に変わってきていることがある。
  • 中国に対するODAについては、戦後賠償を「経済協力」として行ってきたという歴史があるが、中国が求めているものは何かを改めて話し合う必要がある。その際、アジアの平和と繁栄のために支援するという視点が重要である。
  • ODAの在り方、必要性等を明らかにするため、「ODA基本法」を制定することに賛成である。その上で、これらを憲法に置換していくべきであると考えている。


藤島 正之君(自由)

<発言>

  • 国際協力は、安全保障と経済面(ODA等)の二つに分けて考えるべきである。
  • 湾岸戦争以降、国連に期待していたが、イラク攻撃に関しては機能不全を起こし、世界は「力」によって動いているという現実を改めて感じた。
  • 安全保障の問題については、日本は、国連等の場において、もっと国益を全面に出すべきである。平和主義と国際協力を考えるに当たっては、平和主義が軍事力の行使を否定するものではないことを認識すべきである。
  • ODAは、開発途上国の安定と発展を図りつつ、日本の安全と利益にもつながるものである。現在、中国、タイ、インド等の経済的に日本の競争相手となっている国に対しても援助が行われ、また、日本の援助が軍事転用されている。このようなことは、ODAの趣旨に反するのではないか。

<野田委員に対して>

  • ODAについては、事後評価が重要であると認識しているが、国益とODAの事後評価の関係についてどのように考えるか。
  • 日本との間で国益が衝突することがある国に対するODAについて、どのように考えるか。

>野田毅君(自民)

  • 事後評価は重要であるが、従来、日本では十分に行われてこなかった。今後は、(a)国益とどの程度直結しているか、(b)相手国からどのように評価されているかについて、納税者の視点から厳しくチェックする必要がある。
  • 中国等に対するODAについては、国別、地域別の優先順位を考えた上で、環境分野に限定する等の見直しが必要である。


春名 直章君(共産)

<両委員に対して>

  • 現在の日本のODAにおける一番の歪みは、人道分野での援助が弱いことであると考える。私は、前文との関係及び21世紀の世界情勢にかんがみれば、人道援助こそが重要であると考えるが、いかがか。

<野田委員に対して>

  • ODAを戦略性と国益を重視するという観点から見直すことにより、人道援助についても重視されることになると考えるか。

<首藤委員に対して>

  • 現在、ODAが、経済インフラを中心に、日本企業の利益を最優先にするかたちで実施されていることを改め、社会インフラの整備や人道援助を行うことが重要であると考えるが、いかがか。

>野田毅君(自民)

  • 今までは、途上国が経済発展し、自立できる体制をどのように構築するかに重点を置き、技術面、インフラ面での援助を行ってきており、必ずしも人道分野には重点を置いていなかった。今後は、人道分野への援助を行っていくべきである。
  • 人道援助を重視するという方向性には賛成であるが、その際、人道援助とは何かを見直す必要がある。例えば、食糧援助だけをやればよいというのではなく、むしろ自立に向けた人材の育成、教育等に協力していくといった多面的な視点が重要であると考える。

>首藤信彦君(民主)

  • 私は、我が国のODAにおいては、人道援助が「弱い」というよりも「なかった」と評価している。人道的な援助は、固有の価値観が問われるものであるが、日本は、そのような価値観を決めてこなかった。その理由の一つは、経済面で協力して豊かになれば人々の苦痛がなくなるという考え方によるものであり、もう一つは、特定の人々に援助を行うことは、時として相手国の主権を侵害することになるため、それを避けるという国連の不偏・中立の方針に沿った姿勢の結果でもあったと考える。
  • 人道支援が大切なことは当然であるが、例えば、半乾燥地帯で井戸を掘ると水資源の枯渇を招くこと、食糧援助がかえって地域の流通網を壊すことがあること、また、食糧援助の際にはそれを守る兵士も必要であり、果たして日本が本当にできるのかということ等を踏まえた議論をする必要があると考える。


今川 正美君(社民)

<発言>

  • 米国によるアフガニスタン攻撃及びイラク攻撃は、国際法違反である。
  • 米国による一極支配が進む中で、国際法に反する行為を行う米国の傲慢を放置することは、大国支配の無秩序を招くと考える。今こそ国連憲章の理念に基づくルールを確立するとともに、それを実効あらしめるための国際体制を強化することが重要であり、また、これまでの我が国の国連への関わりも検証されるべきと考える。

<両委員に対して>

  • 個人的な見解であるが、これからは、国連を唯一の警察官として、各国は計画的に軍備を放棄し、少なくとも各国の軍備は国連軍を超えることのないようにすべきである。その場合の国連軍は、「多国籍」ではなく「無国籍」として、指揮権は国連に委ねるとともに、必要な財源は各国が国防費の削減分を提供すべきである。この構想が実現して初めて、憲法の国際協調主義に沿った人的支援ができると考えるが、いかがか。

>野田毅君(自民)

  • 今川委員の見解は、崇高な理想ではあると考えるが、現実には難しいと考える。常任理事国は、国益を重視しており、仮に拒否権を廃止した場合、国連が立ち行かなくなる可能性もある。大切なことは、国連の機能を強化する一方で、国連の持つ限界を補完していくことであると考える。

>首藤信彦君(民主)

  • 一国が軍事面で支配的であるという現状に問題はあるが、あまりに国連への集中を図ると、「規模の不利益性」とも呼ぶべき統合の不経済性が生じる。そのため、まずは、共通の基盤のある地域ごとにまとまり、その中でいかに平和を維持するかという点から始めるべきであると考える。

◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

中山 太郎会長

  • 国連憲章に基づく国連軍の基地が、日本国内に七つも存在する。これが日本の安全を守っているという事実を国民に知らせていくとともに、国連と安全保障の関係について、憲法問題も含めて議論する必要がある。


中野 寛成君(民主)

  • 中山会長の指摘した事実は、あまり知られていないが、重要な事実である。
  • 今川委員の提言や「世界連邦」の実現に向けて、ドイツ基本法に見られるような国際組織への主権の一部委譲の規定を設けること、国際刑事裁判所に参加すること等の努力を積み重ねることが重要である。
  • 現在の国連は、「少数の大国」の代表格である米国が、「多数の小国」に反発されて軍事行動を起こしたり、国際機関から脱退したり、分担金を払わないという構図になっている。日本は、国連の民主化や国連改革について、もっと提言すべきである。
  • 以前、シンガポールのリー・クァンユー首相が、日本のインドネシアに対するODAについて、「豊かな国の貧しい人のお金で、貧しい国の豊かな人をますます豊かにするものである」と述べたが、これは、日本のODAの実態を的確に表している。こうした問題点を念頭に置いて、ODAの在り方を考えるべきである。


桑原  豊君(民主)

  • 安保理において五大国に拒否権が認められており、国連として意見を一致させるのは困難である。しかし、国連憲章第8章に定める地域的取極を活用し、地域ごとに安全保障を図り、日本も北東アジア地域での安全保障を試みるならば、これは、国連の機能向上にも結びつくものであると考える。
  • 戦争放棄、国際協調、平和的生存権等を定める憲法にかんがみれば、日本の安全保障に関し、ODAは、自衛隊や日米安保条約に匹敵する重要な手だてであると考える。
  • ODAは、現在、利権が絡んだり、援助資金が軍事転用されたり、無駄が多いなど、日本や世界の安全保障に必ずしも結び付いていないという問題がある。ODAに係る政策協議等を通じて、事業中・事後評価システムを確立するなど、援助を評価するルールと組織を国際的に確立すべきである。


中山 正暉君(自民)

  • 日本が中国周辺地域に対し多額のODAを実施していることを考えれば、米国の世界戦略の手伝いをしているのではないか。
  • 日本は、核の廃絶を目的とする国連機関を広島や長崎に誘致することにより、核攻撃に対する抑止を図るべきである。


今野 東君(民主)

  • 米国等は、一昨年のテロ以降、テロ撲滅のために貧困対策が重要であるという認識の下、途上国の貧困問題等に取り組む態度を示している。このような中で、日本のODAの在り方が問われている。貧困解消、社会開発等を重視し、また、援助国としての優越的視点を排除し、信頼に足りるODAが実施できるよう現在の構造を改革するとともに、ODAをより客観的で、かつ、国民に開かれたものとするため、「ODA基本法」を制定すべきである。


春名 直章君(共産)

  • ODAの憲法上の根拠は、前文のほかにも、9条や98条2項の国際協調主義に求めることができるので、新たな規定を設ける必要はない。
  • 現在、安保理の再開を求める声が各国から上がっており、国連を中心とした問題解決の方向が模索されていると考える。この国連を中心とした問題解決の枠組みから抜け出した米国は、問題と言わざるを得ない。
  • 我が国のODAについては、(a)経済インフラを重視したものであって、社会インフラへの比重が軽いこと、(b)米国の世界戦略の補完の役割を担わされているという側面を有すること等の問題を抱えている。前文の精神を実現し、世界の期待に応えるために、これらの問題を解決し、人道援助を重視する形でODAを実施していくべきである。


中山 正暉君(自民)

  • すべての国家を国連に加盟させるべきである。台湾も、国連に加盟させた上で、中国と協議させるべきである。
  • 国連が十分な機能を果たし得るかは疑問である。日本は、国連が北朝鮮問題に対しどのように対応するかという問題について、多額の国連分担金を拠出している国として、国連で十分な議論がなされるよう努力する必要がある。