平成15年4月17日(木)(第6回)

◎会議に付した案件

1.委員派遣(地方公聴会)承認申請に関する件

(派遣地) 香川県

(派遣日) 平成15年6月9日(月)

2.日本国憲法に関する件

  • 最高法規小委員会及び安保国際小委員会について、小委員会ごとに、小委員長から報告を聴取した後、自由討議を行った。
  • 憲法記念日を迎えるに当たって、自由討議を行った。

3.中山会長の挨拶

5月3日の憲法記念日を迎えるに当たって、これまでの調査の経過に関する説明の後、イラク問題・北朝鮮問題と国連改革などに関する所見が示された。また、今後の調査の方向性についても、発言があった。


◎最高法規小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪硬性憲法としての憲法改正手続≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

保岡 興治小委員長

  • 「憲法改正のための国民投票法」(以下「国民投票法」という。)に関して、実際に憲法改正を行うこととなった場合には、その制定が必要であるという点は、各会派に共通の認識であったが、制定時期については、(a)来るべき時に備え可及的速やかにその制定を図るべきであり、現在の状態は「国会の不作為」に当たるとする見解と、(b)憲法改正案が具体化しているわけではないことや憲法改正の発案権の所在など事前に検討すべき多くの事項があることなどから、現時点において直ちに制定する必要性はないとの見解とに分かれた。
  • 今後は、高見・長尾の両参考人の意見陳述を踏まえ、硬性度の高い日本国憲法の改正手続についての理解を深めた上で、憲法改正のための国民投票法の制定等の問題について、活発な議論を行っていくことが重要ではないか。


●自由討議

葉梨 信行君(自民)

  • 憲法の運用を不断に検討し、その改善を図っていくことは国会議員の使命であるが、同時に、憲法それ自体が時代の趨勢の中で改変を迫られているとの認識に至ったときは、新たな状況変化に対応した新たな理念を追加すべく、憲法改正案を主権者たる国民に発議することも国会議員の責務である。
  • 「国民投票法」を整備することは、そのために不可欠なものであり、国会議員の基本的責務にかんがみれば、現在の状況は、政治的意味で「立法の不作為」に当たると考える。「立法の不作為」を国家賠償の枠内で考えるべきではない。
  • また、「国民投票法」は、憲法改正に併せて制定すればよいとの考え方には賛同できない。憲法改正の是非と一緒に議論するよりも、普段の冷静な議論の中で制定すべきである。
  • 憲法調査推進議員連盟では、すでに96条の論点をクリアするかたちで憲法改正のための手続法案を作成しているので、それを基に各党内で議論をしていただき、早急に国会に上程すべきと考える。


仙谷 由人君(民主)

  • 葉梨委員の「立法の不作為」に係る発言は、法律論と政治論との混同に基づいたものではないか。「国民投票法」の未整備は、政治的な義務が果たされていないという意味では「立法の不作為」と言えるかもしれないが、国民生活に関わるあらゆる問題について、憲法の趣旨から演繹しその具体化を図る政治的義務があるのであり、それは、96条に限られたものではない。法律論としては「立法の不作為」とは言えないと考える。
  • 憲法改正について国民間の成熟した合意があれば、「国民投票法」の未整備が政治的な意味における「立法の不作為」に当たるかもしれないが、現在においては、(a)緊急事態についての憲法への明記、(b)中央と地方との関係を含めた統治機構の枠組みの見直しなどといった改正が必要となると考えられる点を含めて、国民間の議論は盛り上がりに欠けており、そのような合意があるとは思われない。


中川 昭一君(自民)

  • 仙谷委員の発言は、(a)憲法改正の議論が成熟しているかという点及び(b)制度として改正システムが整備されているかの二点に収斂すると考える。(b)について整備されていないという認識は共通のものと考えるが、(a)については、仙谷委員と異なり、3年以上にわたって本調査会において議論がなされてきていることや各種の世論調査の結果から、議論は熟しつつあると言えるとの認識を持っている。国民は、より身近で大切に思える憲法を求めていると考えられ、政治家が現状を放置することは、政治と国民との乖離を生むのではないかと危惧する。


山口 富男君(共産)

  • 私は、仙谷委員とは異なり、「立法の不作為」に関して、法律論と政治論を区別する考えをとらない。
  • 「国民投票法」が制定されていない現状は「立法の不作為」であるとは言えないとの高見参考人の発言を、本調査会は十分に踏まえるべきである。
  • (a)憲法改正手続は、「憲法の安定性」及び「国民主権」に根差していること、(b)憲法改正規定は、先発する世代が後発する世代を拘束することと対応する面があること等を踏まえて、憲法改正手続を捉える必要があると考える。
  • 「国民投票法」の制定の必要性は、現時点においてはないと考える。


谷川 和穗君(自民)

  • 「発議」の意味が国会法におけるそれとニュアンスが異なるなど、96条の文言は分かり難いと考える。将来的なことに目を向けるより先に、96条自体について、議論を深めるべきではないか。


原 陽子君(社民)

  • 「国民投票法」等について、早急に結論を出す必要はないと考える。
  • 法律の整備で対応するのがスマートなやり方であるなどの高見参考人の発言を踏まえた上で、小委員会における我が会派の委員の発言にあったように、現行憲法の理念が下位法令に十分に反映しているか、「新しい権利」を法律に活かすことができているかなどについて考えるべきである。
  • 市民の視点から考えると、憲法は、権力に近い者が守るべき事項を規定しており、権力の行使を制限するものである。権力に近い者には、権力から遠い者の声を汲み取る姿勢が重要となるのではないか。


平林 鴻三君(自民)

  • 「国民投票法」の早期制定に関する葉梨委員の意見に賛成する。
  • 常識的に考えれば、憲法にその存在が規定されている法律が未整備のままとなっているのは、法体系の欠陥の一つであり、憲法調査会においても「国民投票法」の制定について議論を行った上で、その欠陥を補うべきである。また、憲法改正が具体化した際に同法を整備するのでは手遅れとなることも考えられるので、同法の早急な整備は、国民に対する国会の責務であると考えるべきである。


遠藤 和良君(公明)

  • 96条自体の改正等改正の限界についての議論は煮詰まっていない。また、そもそも憲法とは、「国のかたち」を描いた設計図であると考える。改正事項の内容についての議論が深まっていない状況で、「国民投票法」を制定することには疑問がある。
  • 憲法にその制定が予定されているにもかかわらず現段階において制定されていない法律は他にもあり、同法の未整備をもって「立法の不作為」とする考えには与しない。
  • 重要なことは、憲法についての議論を通して「国のかたち」についての意見の集約を図ることであり、それをしないうちに「国民投票法」を制定しても意味はないと考える。

春名 直章君(共産)

  • 平林委員の発言は、憲法調査会が「国民投票法」を提案すべきとの趣旨であったように思うが、憲法調査会は、設置に当たっての各党間の合意に基づき、「日本国憲法について概ね5年を目途に広範かつ総合的に調査を行い報告書を提出すること」や「議案提案権がないこと」を自明の前提としており、平林委員の主張するような提案をする権限を有してはいない。そのことを確認しておきたい。

◎安保国際小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪国際協力―特に、ODAのあり方を中心として―≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

中川 昭一小委員長

  • ODAについては、その実施等に係る憲法上の根拠規定の必要性をめぐり意見が分かれたが、現状の問題点を踏まえた上で、実態に応じた多面的視野からのODAを実施する必要があるという点で、共通認識が得られたと考える。
  • 国際協力と国益との関係、国際協力と国連の役割や日本の安全保障の在り方との関係等を踏まえた上で、我が国の安全保障及び国際協力等の在り方について、引き続き議論を深めていきたい。


●自由討議

赤松 正雄君(公明)

  • 公明党は、外交戦略の基本として、「人間の安全保障」、「持続可能な開発」、「文明間の対話促進」を掲げている。そして、人道危機、環境破壊等への取組みがテロの温床を根絶することにつながり、また、その取組みに当たっては国連を中心とした国際協調の枠組みが重要であるとの立場に立つ。
  • 特に、人間の安全保障については、これを確立する具体策として、(a)人道援助システムの制度化、(b)人間の安全保障基金の積極活用、(c)対人地雷の全廃に向けた活動、(d)難民支援体制の整備、(e)国際平和貢献センターの設置を掲げている。
  • ODAについては、経済インフラ整備を中心とした従来の実施方法を改め、持続可能な開発及び人間の安全保障の観点から、環境、地雷等の分野を重視した「参加型援助」や「草の根支援」に転換すべき時期に来ている。
  • 前文に掲げる理念を実現するために未だ武力行使が必要とされている現状は、大変、残念である。違法又は不当な行動がいかに無謀であるかを国際社会全体に浸透させるよう、働きかけていく必要がある。
     

斉藤 鉄夫君(公明)

  • ODAの実施に当たっては、環境問題、エネルギー問題等とも結び付く人口問題にどのように対処するのかといった理念や方向性について考える必要がある。
  • 人口問題の解決に当たっては、生産力の向上と科学技術知識の向上との間の時間的ギャップにおいて人口が増加するという現実を踏まえた上で、日本は、このギャップを縮めるため、教育分野等に積極的にODAを実施していく必要がある。
     

金子 哲夫君(社民)

  • 武力によってテロを撲滅することができないのは明らかである。日本は、テロの根本原因である貧困、格差等の経済問題の解決に尽力すべきであり、また、そのことこそが、前文に人間の安全保障、すなわち「全世界の人々が等しく平和のうちに生きる権利」を掲げる憲法の精神に合致する。
  • 日本は、憲法の精神にのっとり、膨大な軍事費を貧困対策等に向けたODAや経済援助のための資金に転換すること等を通じて、国際社会における平和秩序の構築を模索していくべきである。
     

首藤 信彦君(民主)

  • ODA見直しの議論において用いられる「戦略性」という文言は、主に我が国の国益に結び付けることを念頭に置いたものと理解しているが、環境破壊、大量破壊兵器等の問題が日本の平和や国民の人権に直結する問題であることからも分かるように、国際社会全体の利益が日本の利益につながっていることを認識すべきである。この点、憲法においては、日本が国際社会の平和と安定のために何をすべきかが明確になっていない。
  • ODAの実施に当たっては、我が国の国益を図ると同時に、国際社会の平和と安定のために、また、世界の人々の平和・自由・人権の確保のために、日本は何をするのかという問題を考える必要がある。


春名 直章君(共産)

  • 今後の我が国のODAについては、人道援助及び環境の分野を重視して実施すべきであり、また、そのような形でのODAの実施を国民も望んでいると考える。
  • 現在、ODA実施に係る決定過程が不透明であることから、(a)NGOや現地住民の参加及び連携強化を図ること、(b)第三者による監査・評価制度の整備及び情報公開を行うこと、(c)ODA案件及び額を国会審議の対象とすること等を通じて、その透明性の向上を図るべきである。

平林 鴻三君(自民)

  • テロや貧困とODAとの関係は、直接的なものではなく、間接的なものに過ぎないことを認識する必要がある。
  • 日本は、日本を敵視する国に人道的見地からODAを供与することがかえって日本に有害な効果をもたらすおそれがあることも踏まえた上で、国益に応じた国力相応の国際協力を実施すべきである。
     

仙谷 由人君(民主)

  • 日本経済が低迷する中で、ODAに対する国民からの批判が強いこと、また、財政事情が逼迫する中で、将来世代からの借金という形でODAが実施されていることは事実である。他方で、国際社会における経済格差、情報格差、環境格差等の弊害が経済的弱者に集中している状況を放置したままでは、国際社会の平和と協調体制を確立することができないことも事実であり、EU内部では経済後進地域に補助金による助成を行っていること等を踏まえると、国際的な連帯の中で経済格差をなくしていくことが大事であると考える。こうした点を認識しつつ、財源の捻出とそれについての国民への説明をどのように行うべきかを考える必要がある。

首藤 信彦君(民主)

  • 日本は、世界に依存する形で存立している。日本のODAの原資についても、輸出入等を通じて得られたものがあり、その意味で、世界が共有するものの一部であるとも言うことができる。
  • 日本は、世界に依存しているという認識を踏まえた上で、平和教育、環境教育、国際教育等を積極的に実施していくとともに、国際協力に当たって日本の有する人的・物的資源を積極活用する旨憲法に明記すべきである。
     

野田 毅君(自民)

  • ODAの実施に当たっては、日本経済が低迷する中で納税者からの批判があること、他方で、日本は世界秩序の中に組み込まれており、これを重視すべきであること等を勘案する必要がある。
  • 国民は、ODAがすべて税金で賄われていると思っているようであるが、日本のODAは円借款が中心であって、その原資の多くが財政投融資からの支出であり、また、将来的に返済されるものであることなど、ODAの実態について国民の正しい理解と協力を得るために、総額の表示方法を工夫するなど分かりやすい形で十分な説明をする必要がある。
     

遠藤 和良君(公明)

  • 現在の経済事情にかんがみれば、ODA総額は減少せざるを得ないため、今後は、「活きたカネの使い方」がODA実施に当たって求められることになる。このためには、「人づくり」を重視する観点から、教育、技術開発等のプロジェクトに重点化してODAを実施すべきであり、また、そうすることによって、ODA対象国から我が国が評価されることになると考える。


中川 昭一君(自民)

  • 中国は、我が国から低利で有償借款を受けつつ、他国に利ざやを取って借款を行っているとの指摘があること等を踏まえると、ODA供与等の途上国支援に当たっては、援助対象国のニーズに応えるだけでなく、その国の長期的発展、地球全体の問題等を考慮しながら、何を行い、何を行うべきでないかについて、きちんとした原則を立てて行う必要があると考える。

◎5月3日の憲法記念日を迎えるに当たっての自由討議における各委員の発言の概要(発言順)

●各会派一巡目の発言

葉梨 信行君(自民)

  • 「権力の所在」と「権威の所在」とを区別した上で、「元首」としての象徴天皇を、憲法の中で明確に位置付けるべきである。
  • 時事的な問題についても憲法的観点から議論することが重要である。国会の中に諸問題を常に憲法的観点から調査審議する機関が、恒常的にあってもよい。
  • 日本社会に根ざした伝統や習慣、良き共同体としての支え合いを再認識した上で、教育基本法の改正を行うべきであり、将来的には、それを反映した憲法改正を行うべきではないか。
  • 地方自治については、道州制の導入の是非の問題を念頭に置きながら、具体的な制度設計を踏まえた議論をすべきであると考えるが、その際、基本的な中央・地方のありようは憲法の中で規定するとの考えを前提にすべきである。
  • しかるべき時期に、それまでの議論を踏まえて、各会派から「憲法改正の要綱案」あるいは「憲法に関する基本的な考え方」を提出し、議論の俎上にのせることが重要である。


古川 元久君(民主)

  • 憲法は、国の基本法として、「国のかたち」を示すべきものである。まず、あるべき「国のかたち」を議論し、その上で、現行憲法があるべき「国のかたち」にマッチしているか、憲法改正の必要があるかを議論すべきである。憲法の一部のみを取り上げて議論すべきではない。
  • 「官主導の中央集権」は時代に合わなくなっており、「民主導の地方分権」に移行すべきである。地方主権という考え方のもと、国の役割は外交、防衛などに限定し、地方に対して権限を付与することを憲法に明記し、最終的には分権連邦国家への移行をも視野に入れるべきである。
  • 憲法の三原則は、引き続き堅持すべきであると考えるが、どのように三原則を具体化し、現実化するかが重要である。


遠藤 和良君(公明)

  • 憲法はconstitutionの訳語であるが、constitutionには、その他に「構成」、「組織」等の訳語もあることにかんがみれば、これを日本語で平易に表現すれば、「国のかたち」と言えるのではないか。このように憲法が「国のかたち」を表すものであることを踏まえて、議論すべきである。
  • 現在、イラク攻撃後の国際秩序をどのように回復していくかが問題となっており、日本が世界の中で果たすべき役割が問われている。憲法を通じて、世界に対して、日本の立場を示すべきである。
  • 日本は経済面だけではなく、「国のかたち」が見えていないという意味でも閉塞状況にあり、大きな時代の転換点に立っているが、憲法に関する議論は十分に煮詰まっていない。21世紀の「国のかたち」の基本設計を見定めた上で憲法を議論し、憲法を通じて、世界や国民に対し、この「国のかたち」を示すべきである。


武山 百合子君(自由)

  • 憲法制定当時に比べ我が国を取り巻く状況は大きく変わっており、憲法論議を続けるだけではなく、憲法改正を具体的に検討する必要がある。自由党は、憲法に定められた基本理念を継承・発展させるとともに、新しい国家目標を構築すべく新しい憲法を定めるべきであると考えている。このような考え方から、平成12年12月に「新しい憲法を創る基本方針」を定めたところである。
  • 「新しい憲法を創る基本方針」の主な内容は、(a)国の在り方について、現行憲法の基本理念を継承しつつ、日本の文化・伝統を尊重して、自由で創造的な思いやりのある自立国家日本をつくるべきであること、(b)人づくり、国づくりの基本は教育であり、教育・文化の章を設け、教育の基本理念と教育・文化行政の在り方について明記すること、(c)環境が人類存続の基盤であることにかんがみ、地球環境の保全に全力を尽くすべき義務について規定すること等である。


春名 直章君(共産)

  • イラク戦争は、世界平和の秩序を揺るがすものである。イラク戦争については、(a)当初、大量破壊兵器の廃棄が目的であるとされていたが、大量破壊兵器は見つからず、現在、政権打倒、イラクの民主化が主要な目的となっているが、これは戦争を正当化するものではないこと、(b)無差別殺戮等の蛮行により一般市民に多大な犠牲が生じていることは許されないということ、(c)イラクが無法状態となっていることも重大であること等を指摘したい。
  • 小泉首相によるイラク攻撃支持の表明がなされたが、武力による威嚇または武力の行使を禁止する日本国憲法の下で、これは許されるものではない。また、イラク戦争により、武力攻撃事態法が米国による戦争に日本が巻き込まれるおそれをもたらすものであることが明らかになった。
  • イラク問題に関し、国連の機能低下を指摘する意見もあるが、国連は、武力攻撃を容認する新たな決議を米国に断念させる等、平和的解決を模索しており、その役割は高まっている。
  • 世界の多くの国が武力攻撃に反対し、世界各地で反戦運動が起こっている。政府・与党の米国支持は、世界の反戦の流れに反していることを強調したい。
  • 国連憲章は、第二次世界大戦の反省を踏まえて戦争の原則違法化と内政不干渉を定めたのであり、日本国憲法はそうした平和のためのルールの最先端に位置するものであって、憲法を守ることこそ日本のとるべき進路である。


金子 哲夫君(社民)

  • イラク攻撃は、戦争が罪なき人々の犠牲を不可避的にもたらすことを示した。しかもこの攻撃は、予防的先制攻撃として行われたものであり、国連憲章の精神や9条から小泉首相の米国支持は許されるものではない。世界各地の諸国民の反戦運動こそ、わが国が依拠すべき世界平和の力である。
  • 米国はテロを戦争と位置付けたが、テロは明らかに国際的刑事犯罪である。日本は、国際刑事裁判所を実効あるものにするなど国際的な「法の支配」の実現といった非軍事的な分野で努力することを外交方針の柱に据えるべきである。
  • 日本は、大量破壊兵器廃絶の先頭に立つべきであるのに、政府にその決意が全く見られない。米国の核の傘の下にあっては、そうした主張は説得力を持たず、核兵器による最初の被爆国である日本は、米国を含め、すべての核兵器保有国に対し核廃絶を訴えるべきである。このことこそが、日本が国際社会で「名誉ある地位を占め」られる道である。
  • 今、有事法制の制定を求める動きがあるが、必要なことはイラク戦争が何をもたらしたかを検証し、平和外交に努力することである。いたずらに国益を強調し、有事法制を制定することは、武力による解決を求めることにつながるものであり、憲法とは相容れない。


山谷えり子君(保守新党)

  • 最近の教育現場では祝日の意味を教えなくなっているため、憲法記念日について知らない子どもたちが多い。教育現場において憲法記念日の意義についてきちんと教え、日常生活の中に憲法記念日を位置づけるべきである。
  • 成文憲法を持つ国が約180ある中で、日本は古い方から数えて13番目となっている。現実と憲法が乖離したら改正するというのが世界の趨勢である中で、日本は社会全体として後ろ向きであると感じる。
  • 法と倫理を完全に分離することが近代法の理念であるにしても、宗教教育を忌避しようとするあまり、教育基本法9条2項や憲法20条3項が拡大解釈されるなど、明らかな行き過ぎもみられる。国と社会のありよう、人としての美しい生き方とは何かなどを真剣に考えてこそ、私たちの生活の中に憲法の理念が生きるのだと思う。


●各会派一巡後の発言

中野 寛成君(民主)

  • EUは各加盟国の国家目的を達成するために存在するという話や、イギリスで推進されている地方分権も国家目的の達成のためであるという話を聞いたことがある。国連との関係や地方分権、またはODAの問題なども「国家目標を実現するため」という視点で考えるべきであり、こうしたことを今後の憲法論議の中で深めていきたい。


伴野 豊君(民主)

  • 古川委員の「憲法とはあるべき国のかたち」という発言は、まさにそのとおりであると考える。
  • 人間が作ったルールはすべて「時のチェック」を受けるべきであり、憲法記念日を迎えるに当たって、国民の総意に基づいて日本国憲法をチェックすべきである。
  • 憲法は「時のチェック」を受けるべきであることを考えると、改正手続は緩やかなものが良い。そのような「時のチェック」により何回見直しても変わらない憲法が本来望ましいものである。


奥野 誠亮君(自民)

  • 過去を振り返りつつ将来を考えることが大切である。第二次大戦後の国際連合は連合国中心の考え方の上に成り立っている。国際社会は大きく変化しているにもかかわらず、未だに敵国条項が残り、安全保障理事会常任理事国に拒否権も与えられているが、いずれ、多数決による意思決定も考えられてしかるべきではないか。
  • 間接統治という形式をとったため日本人は誤解しているかもしれないが、日本は、敗戦後占領軍の統治を受けたのであって、自分たちが統治していたわけではない。憲法も占領軍がつくったものである。
  • 例えば、憲法と教育基本法の宗教教育に関する規定の違いを見ても分かるが、占領政策は、教育の混乱も招いた。
  • 占領政策には良いところもたくさんあったが、悪いところもある。悪いところは今こそ改めるべきである。機運が高まっている今こそチャンスであり、まず憲法を改め、新しい日本をつくる気概を政治に携わる者は持たなければならない。


赤松 正雄君(公明)

  • 憲法も教育基本法も、時代の変革の中にあって変えていくべきものと思うが、それはしっかりと議論した上で行うべきである。教育基本法の改正を早急に行う必要はない。
  • 家庭や教育の崩壊といった今日の日本の状況は、工業化から情報化への産業構造の転換に伴う「個人化」ともいうべき社会の変化に帰因するものであり、そのすべてを憲法や教育基本法の直接的な責任とすべきではない。


森岡 正宏君(自民)

  • 安全保障や教育などあらゆる分野で憲法と現実との間に齟齬が生じている。葉梨委員が述べたように、憲法調査会の調査期間が5年に限られていることも踏まえ、憲法改正について一つの方向性を出すことが重要であると考える。
  • 共産党の山口委員は、『憲法の原点』という著作の中で1946年6月29日の日本共産党の「日本人民共和国憲法草案」に言及し、「日本国憲法は平和的民主的諸条項を持つが、天皇制を規定している点において「草案」の方向性に反する反動的なものであり、改正すべきである」旨述べている。これは、憲法改正に反対する日本共産党の主張と矛盾するものではないか。
  • 「草案」は、一方においてすべての人民は法の下に平等であると規定しながら、他方において人民共和政体の破棄及び特権的身分体制の復活は憲法改正の対象となり得ないとしている。これは、矛盾するものではないか。


山口 富男君(共産)

  • イラク戦争に際して、世界中で国連憲章の定める平和ルールについて議論が行われたが、我々も、そのことを踏まえつつ、憲法が第二次世界大戦の惨禍の後に作られたという意義を考えていくことが大切である。
  • 今ほど国民の暮らしが大変な時期はないにもかかわらず、例えば、25条(生存権)・27条(労働基本権)の基本理念を変えてしまうような労働法の改正が行われようとしている。「暮らしと憲法」の観点から、憲法の定めについてその意義を再認識すべきである。
  • 森岡委員が指摘する、「日本人民共和国憲法草案」は、憲法制定議会が開かれていた時代の歴史的文書の一つであり、当時は他の政党も憲法草案を出していた。また、象徴天皇制については、主権在民という観点から見れば、歴史的には後ろ向きの規定であると考えている。さらに、改正の限界については、高見参考人が述べていたように、現行憲法でも改正によって変えられない条項があるというのが通説である。
  • 憲法の「広範かつ総合的な調査」が憲法調査会の目的であり、憲法に関する諸問題の議論は、各委員会で行うべきことであって、葉梨委員が言及した憲法調査審議機関の常設化は必要ないと考える。また、各会派が憲法改正草案を持ち寄って議論すべきであるとの意見もあったが、当調査会は、各会派の意見の調整機関ではなく、賛成できない。


大出 彰君(民主)

  • 日本政府のイラク戦争支持は、平和主義を定める憲法と現実との乖離が如実に表れた例である。事実関係を十分把握した上で、この戦争の意味を考えるべきである。
  • 外務省による安保理決議の翻訳一つをとっても、我が国のアメリカ追従の姿勢がうかがわれる。
  • 憲法が謳う個人の自由を貫くことで、未来に憲法を活かしていきたい。


仙谷 由人君(民主)

  • 日本は、現在、危機的な状況にあり、早急に対策を講ずる必要がある。現状は「中央政府過剰依存症候群」ともいうべきものであり、中央政府と対等な立場に立つ地方政府をつくるべきである。しかし、塩川大臣の「うそっぱち発言」に見られるような既得権をめぐる各省庁間の権限争いが未だに繰り広げられており、自立した地方政府をつくるためにも大胆かつ解体的な霞ヶ関の改革がなされなければならない。
  • 奧野・森岡両委員は、諸悪の根源がアメリカの占領行政や、日本国憲法・教育基本法にあると述べたが、バブル期やバブル崩壊後の各界のリーダーの行動を見ると、もっと違うところに原因があると考える。


水島 広子君(民主)

  • 各委員の指摘する今の日本の状況に対する危機感を私も共有しているが、その原因は、日本国憲法や教育基本法の理念が未だに定着していないところにあるのであって、日本国憲法や教育基本法の規定に原因があるのではない。
  • 「自由が良いのか、抑制が良いのか」という議論は終わりにして、「自分の自由を大切にするとともに、相手の自由を尊重する社会とは何か」という一段高いレベルの議論をすべきである。
  • 日本国憲法の定める「公共の福祉」とは他者の人権を侵害しないことである。そのように考えると、現在の日本の法律や制度には、「選択的夫婦別姓」を認めない民法等、他人や少数者の自由・権利を尊重する精神を欠くものがあるように思われる。憲法の理念に合わせて現行法をチェックし、改正が必要なものを改正していくことが望まれる。