平成15年5月8日(木) 安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(第4回)

◎ 会議に付した案件

安全保障及び国際協力等に関する件(国際機関と憲法―安全保障・国際協力の分野における―)

上記の件について参考人菅波茂君及び佐藤行雄君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  AMDAグループ代表

  特定非営利活動法人AMDA理事長        菅波 茂君

  財団法人日本国際問題研究所理事長        佐藤 行雄君

(菅波茂参考人及び佐藤行雄参考人に対する質疑者)

  近藤 基彦君(自民)

  桑原 豊君(民主)

  遠藤 和良君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  井上 喜一君(保守新党)

  谷本 龍哉君(自民)

  首藤 信彦君(民主)

  下地 幹郎君(自民)

  中山 太郎会長


◎菅波茂参考人の意見陳述の要点

1.NGOから見た国際協力と平和主義・国際協調主義・公益の時代

  • NGOは、自らの判断で危険を承知で平和の実現に向けて活動しているという意味で、「平和主義者」と考えることができる。
  • 国際協調主義は、(a)嫌われない(戦争をしない)、(b)喜ばれる(金銭的援助をする)、(c)軽蔑されない(メッセージを出す)の3点が実現したときに成功したと言えるが、日本は、(c)の点において十分でない。国際協調主義を貫くには「啓典の民」(一神教の人々)との連携が不可欠であるが、そのためには、有言実行型の行動でなければ理解されないということを認識しなければならない。
  • (a)最大民族による国家形成を意味する民族自決の原則に対するマイノリティの人権尊重の要請や、(b)急激に変化する時代におけるポジティブリストからネガティブリストへの考え方の変化を受けて、「国益」という概念が制度疲労を起こしている。今後は、「公益」という新たな概念によって「国益」をも確保する時代であり、その際、ネガティブリストで行動するNGOとポジティブリストで行動するGO(政府組織)との連携の在り方が、「公益」実現の基本となる。

2.人間の安全保障と国民参加型人道援助外交

  • 「啓典の民」との対話を可能とするキーワードとして「人間の安全保障」を掲げ、その下に、国民参加型の人道援助外交を展開すべきである。
  • このような考えに基づき、AMDAは、「医療和平」(紛争当事者双方に中立人道支援の立場で国際医療協力を行い、紛争の緩和を図り和平プロセスに寄与する試み)を展開している。この「医療和平」を実現するための3条件は、(a)命の普遍性への共通認識、(b)AMDAへの信頼、(c)日本という国への期待感である。

3.テロの定義

  • テロの定義を明確にしないまま、テロへの対応が行われている。テロとは、「殺人によるメッセージ」であると言え、メッセージを分析しないと、テロへの対策を立てることはできない。

4.おわりに

  • 「お金を出すものが命ずる権限を持つ」という国際社会の原則に従って、政府は、ネガティブリストで行動するNGOのためにソフトインフラ整備を行い、国民参加型外交を通じた人間の安全保障を追求する姿勢を世界にアピールすべきであり、そのことによって、日本は、存在感を増し、影響力を発揮することができる。
  • 日本は、(a)命に不可欠な水、(b)世界一の平均寿命、(c)武器の輸出を禁止する法律を有し、「人間の安全保障」を実現している数少ない国であることから、人間の安全保障の実現を世界に呼びかける資格がある。
  • 21世紀の急激に変化する時代において、日本は、人間の安全保障を提唱し、政府とNGOとの連携を図るなど、これに対応するシステムを構築することにより、多様な社会におけるイニシアティブを発揮することができる。

◎ 佐藤行雄参考人の意見陳述の要点

1.国連は未完成―日本における国連のイメージとの相違

  • 日本で抱かれている国連のイメージとその実態との間には、ギャップがある。実態において、国連は、(a)国連待機軍が実現されていないこと、(b)第二次世界大戦の戦勝国が安保理を牛耳っていること、(c)少数の先進国が予算の大半を負担していることといった点において、変化しつつある組織であるとともに、未完の組織である。

2.国連の三つの姿

(1)事務総長(事務局、諸機関)
  • 事務総長を頂点とする事務局は、(a)憲章の目的追求及び国際社会の課題の設定、(b)紛争の予防及び解決、(c)紛争の再発防止及び復旧・復興の分野において大きな役割を果たしている。
  • 事務総長等への協力について、日本は、十分な財政支援をしており、今後は、PKO要員(文民警察、司法官等)、邦人職員等の人的貢献を拡充していくことが課題となる。
(2)総会、経済社会理事会(信託統治委員会)
  • 総会や経社理は、環境、貧困、女性等の国際社会の主要課題についての合意形成を図る機関であるが、その決定は、勧告的効力を有するに過ぎない。
  • これらにおける日本の「発言権」は大きいが、「発言力」をより増大させるよう努力する必要がある。
(3)安全保障理事会
  • 安保理は、国際社会の平和と安全に関し拘束力を有する決議を下すことができる。安保理においては、常任理事国に拒否権という強大な権限が付与されている一方、非常任理事国の権限は限定的であり、また、安保理事国以外の国には、東チモールのコア・グループ、アフガニスタンの復興支援会議等の例外事例を除き、ほとんど発言権は認められていない。
  • 例えば、北朝鮮問題が安保理に付託された場合、日本が安保理事国でないこと等の理由から、日本の意を汲んだ決定がなされるとは限らない。このようなことを踏まえれば、日本の安全について、安保理を絶対視してすべてを委ねることは疑問である。

3.安保理改革―三つの課題

  • 日本は、自らが常任理事国となるか否かの問題は別として、(a)戦勝国が牛耳る現状を認めるべきでないこと、(b)常任理事国入りが当然とみなされている国であること、(c)米国を説得できる国であること等の理由から、国連を機能させるために、安保理事国枠の拡大の範囲、新常任理事国の選定、拒否権行使の態様等に係る安保理改革を主導していくべきである。

4.要望

  • 国際の平和と安全に係る国際機関として、国連に代わるものはない以上、日本は、国連を重要視し、その改善に努力すべきである。
  • 憲法調査会は、国連の実態を調査するため、調査団を派遣すべきである。

◎ 菅波茂参考人及び佐藤行雄参考人に対する質疑者及び主な質疑項目等

近藤 基彦君(自民)

<両参考人に対して>

  • 北朝鮮による拉致はテロであると考えるが、いかがか。

<佐藤参考人に対して>

  • 国連憲章において「敵国条項」がいまだに存在する理由、「敵国条項」が定められた経緯について伺いたい。


桑原 豊君(民主)

<佐藤参考人に対して>

  • 日本の安保理常任理事国入りについて、(a)常任理事国となれば国連における軍事的貢献が求められることとなり、憲法との関係で問題が生ずるとの指摘や、(b)日本が常任理事国となっても、米国追従の国が入るだけであるとの指摘もあるが、参考人はどのように考えるか。
  • 日本が安保理常任理事国入りを目指すに当たっては、日本としてどのように国連を改革すべきであると考えているかを明らかにして臨むべきだと考える。そのような準備はできているのか。


遠藤 和良君(公明)

<佐藤参考人に対して>

  • 米国は、米国のみが力を持ち、世界の平和を守り、世界を導くという考え方の下、世界の国に「米国かそれ以外か」という選択を迫っている。平和の保障に関し、国連は形だけの存在となり、実質的には米国が平和を保障する唯一の存在となった場合、米国と国連の関係についてどのように考えるか。

<菅波参考人に対して>

  • 参考人は、テロにどのようなメッセージが含まれているかを考えることが重要であると指摘するが、9.11の米国に対するテロには、どのようなメッセージが含まれていると考えるか。
  • 武力によってテロリズムをなくすことはできないと考える。参考人は、テロに含まれるメッセージを読み取ることがテロリズムをなくすことにつながると指摘するが、具体的には、テロリズムにどのような対応をすればよいと考えているのか。

<両参考人に対して>

  • テロを生む土壌は何であると考えるか。


藤島 正之君(自由)

<菅波参考人に対して>

  • 人道支援等に当たって、国やNGOがそれぞれどのような役割を果たすべきかは難しい問題であるが、NGOの重要性や政府の役割の限界を踏まえた上で、この点について参考人はどのように考えるか。

<佐藤参考人に対して>

  • 参考人は国連の将来に対して楽観的な見通しを持っているようであるが、国連は、湾岸戦争時には機能したように見えたが、今回のイラク問題においては機能せず、米国と国連の間に亀裂が生じた。参考人は、今後、世界が米国中心と国連中心のどちらの方向に動くと考えるか。また、日本は、外交方針として対米重視を打ち出す一方、国連中心主義を標榜しているが、今後どちらの方向をとるべきなのか。
  • 日本は国連予算の約20%を負担しながら、その提唱する安保理改革等は少しも進まない。日本は、多額の分担金を負担している国として、分担金の拠出の在り方の見直しを含め、目に見える形で交渉を進めるべきであると考えるが、いかがか。


春名 直章君(共産)

<菅波参考人に対して>

  • 9.11のテロに対し米国は軍事力で対応したが、「医療和平」を提唱している立場から見て、米国の対応をどのように評価するか。また、軍事力で対応したことが「現場」にどのような困難をもたらしたのか。

<佐藤参考人に対して>

  • 米国は、イラク問題への対応に見られるように、国連を利用できるときは利用し、自国の国益に反するときは国連に従わないという態度をとっている。参考人は、このような態度をどのように評価するか。
  • イラク問題に関して国連が無力であることを指摘する意見もあるが、査察継続による平和的解決を追求する過程で公開討論等を通じて果たした国連の機能を重視すべきであり、その点で、国連の機能に改めて光が当たったと考えるが、いかがか。


金子 哲夫君(社民)

<菅波参考人に対して>

  • AMDAは、アフガニスタンにおいて活動しているが、同国におけるAMDAの活動に対し、日本政府からどのような支援が必要であると考えるか。

<佐藤参考人に対して>

  • 日本は、国連加盟国の中で、(a)平和憲法を持つこと、(b)核兵器による唯一の被爆国であることから、特別の地位を占めている。平和憲法に関する他の加盟国の理解はどの程度か。また、日本は、そうした特別の地位に照らして、国連内で核軍縮を訴えるとともに、包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を米国に積極的に働きかけるべきであると考えるが、いかがか。
  • イラク問題に見られるように、いわゆる「中間国」が大きな役割を果たし得たという点において国連は変化しており、これは評価できると考えるが、いかがか。


井上 喜一君(保守新党)

<佐藤参考人に対して>

  • 安保理の改革が唱えられているが、現在の常任理事国が既得権を放棄することは考えられず、改革の範囲としては、常任理事国の増加が現実的であると思う。新たに常任理事国となる国の条件とは何か。
  • 国際社会の平和と安全の分野における日本の国際社会での評価が高くない背景には、日本の安全保障体制の問題があると考える。自分で自分を守ることは世界の常識であり、まず、そのための体制の整備をすべきであると考えるが、いかがか。


谷本 龍哉君(自民)

<佐藤参考人に対して>

  • 国民は、国連に対し公明正大な機関であるとのイメージを持っているが、イラク問題の例に見られるように、国益と国益がぶつかり合うのが国連の実態である。このような現状は、常任理事国のいずれかと利害を同じくしていれば国連に従わずともよいというモラル・ハザードを生じさせるおそれもある。これらを踏まえて、国連改革についてどのように考えるか。また、国民に対し国連の現状をもっと知らせていくべきであると考えるが、いかがか。
  • 拒否権を撤廃した場合における安保理の在り方について、どのように考えるか。


首藤 信彦君(民主)

<佐藤参考人に対して>

  • 国連改革については、安保理改革だけでなく、国家への国連の干渉等に関する議論も進められており、その中で、国連を二院制にし、そのうちの一院を地域や都市の代表から構成されるものにするといった案も提示されている。これらを踏まえたとき、国連改革のあるべき姿について、どのように考えるか。

<菅波参考人に対して>

  • 日本においては、憲法89条によって、公金を公の支配に属しない事業に支出することができないこととなっており、これが、市民社会組織の発展を阻害している面がある。NGOと政府との関係について、どのように考えるか。また、非国家システムとしてのNGOは、どのようにあるべきと考えるか。


下地 幹郎君(自民)

<佐藤参考人に対して>

  • 私は、以前、憲法に国連の役割を位置付けるべきであると考えていたが、イラクのクルド人自治区を訪れて、国連の「オイル・フォー・フード」という施策が地域の農業生産等を破壊し、市民がフセイン政権に依存せざるを得ないようになった現実を目の当たりにし、国連に疑問を感じた。これについて、どのように考えるか。

<菅波参考人に対して>

  • NGOに政府が活動資金を提供した場合、NGOの独自性が失われるおそれがある。政府がNGOに資金を提供しつつ、政府から自立するNGOとなるような両者の連携について、どのように考えるか。


中山 太郎会長

<佐藤参考人に対して>

  • 日本は、憲法を基本としつつも、必要に応じ憲法を拡大解釈するかのような手法によってテロ特措法等を制定してきた。国連大使として世界の国々の外交駆け引きを見てきた参考人は、このような国の在り方をどのように考えるか。
  • 欧州に見られるような地域的安全保障の枠組みと同様のものを北東アジアで構築することについて、参考人はどのように考えるか。

◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

中山 正暉君(自民)

  • 私は、21世紀に国連が機能を失うことがあるとすれば、それは常任理事国である中国と米国が対立した場合ではないかと考えている。
  • 新しい憲法において集団的安全保障を考える場合、世界的にはNATO、米州機構等の地域的な安全保障体制が一般的である一方、アジアにおいては中国の存在から地域的な体制ができず、日米、米韓等の二国間の安全保障体制となっていることについても検証する必要があると考える。


春名 直章君(共産)

  • 国連改革においては、国連憲章の理念を実現するような改革が必要であると考える。その際、イラク問題をめぐり国連加盟国が安保理や公開討論などの場を通じて大きな役割を果たしたことを認識すべきである。
  • 日本が世界から信頼され、説得力ある発言をするためには、対米追従外交からの脱却が必要である。
  • 日本は、平和外交の道を歩むべきであり、常任理事国入りについては、(a)国連加盟時に憲法の枠内で貢献するとの通告をしたこと、(b)国連憲章47条で、常任理事国は安保理の下で兵力の戦略的指導を行う軍事参謀委員会の構成員とされるが、これへの参加は憲法9条に違反することにかんがみ、慎重に吟味する必要がある。


金子 哲夫君(社民)

  • これからの国際社会の平和と秩序維持において中心的役割を果たすべきは、やはり国連であり、日本は、そのための改革を主導していくべきである。
  • 我が国では、人的貢献について議論される際に、まず、自衛隊の派遣が議論となるが、これはおかしいと考える。平和憲法を持つ我が国の果たすべき役割はもっと多様であるべきであり、自衛隊以外の人的貢献の在り方について検討すべきである。


中川 昭一君(自民)

  • 菅波参考人は、北朝鮮の拉致をテロとは区別するとしたが、私は、北朝鮮による拉致は、まさに国家によるテロであると考える。
  • 今回の米国のイラク攻撃は、テロ国家であるイラクが12年間国連への協力を拒み続けた帰結である。春名委員は、日本が米国のイラク攻撃を支持したことを対米追従と指摘するが、私は、佐藤参考人の追随と対話は区別すべきであるとの考えに全く同感であり、日本が米国支持を表明したことは、国益に基づいた判断であると考える。
  • 世界の人々が平和を愛すると考えるのは正しいが、その手段においては紛争が生じる可能性があることを踏まえ、現実に即した外交を行い、国益や世界ののために何ができるかについて考える必要がある。


中山 正暉君(自民)

  • 我が国の安全保障の在り方を検討する際には、安保理常任理事国同士が対立し、国連が機能しなくなった場合のことを考慮すべきである。


仙谷 由人会長代理

  • 佐藤参考人からは、国連は高邁な理想を追求する場というよりも安保理常任理事国の国益が対立する場である点を認識すべきという、いわば「たかが国連」との趣旨の発言があったが、国際社会における「法の支配」を貫徹するためにも、「されど国連」の立場から、国際法にのっとり国連を機能させるよう努力する必要がある。
  • 国家が国益を追求するのは当然であるが、それは、近視眼的なものや中長期的に見て誤ったものであってはならない。その意味で、日本は、「人間の安全保障」、「地球市民益(公益)」等の観点から、国の在り方を考える必要がある。
  • 安保理をはじめとする国連での決定を履行することが憲法解釈上認められないとする見解もあるが、これは、別次元の話であると考える。