平成15年6月5日(木) 統治機構のあり方に関する調査小委員会(第4回)

◎ 会議に付した案件

統治機構のあり方に関する件(財政―特に、会計検査制度と国会との関係(両院制を含む)を中心として―)

 上記の件について参考人窪田好男君及び桜内文城君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

 神戸学院大学法学部法律学科助教授  窪田 好男君

 新潟大学助教授           桜内 文城君

(窪田好男参考人及び桜内文城参考人に対する質疑者)

 葉梨 信行君(自民)

 古川 元久君(民主)

 斉藤 鉄夫君(公明)

 武山 百合子君(自由)

 山口 富男君(共産)

 金子 哲夫君(社民)

 井上 喜一君(保守新党)

 伊藤 公介君(自民)

 島 聡君(民主)

 福井 照君(自民)


◎ 窪田好男参考人の意見陳述の要点

1. 政策評価とそれが注目される背景

  • 政策評価には、(a)ある政策について有効性、費用対効果、弊害の有無等について測定し、その結果を後の政策にフィードバックするという類型と、(b)自由、平等、民主主義等広く社会に認められた価値に照らして政策の目的や方針を評価するという類型とがある。
  • 近年、政策評価が注目される背景として、(a)アカウンタビリティの重視、(b)政策の効果等が不確実な中での政策決定の必要性、(c)主権者―国会、国会―内閣、内閣―官僚の関係を、プリンシパル(本人)―エージェント(代理人)の関係としてとらえるモデルにおける本人による代理人の統御の必要性の三つが挙げられる。

2. 国会において政策評価が必要とされる理由

  • 会計検査院は、従来、正確性、合規性の観点を中心として検査を行ってきた。近年はそれらに加えて、3Eと呼ばれる経済性(economy)、効率性(efficiency)、有効性(effectiveness)の観点からも検査を行っており、一般的には、会計検査院が政策評価機能を担うことが期待されている。
  • しかし、国会・内閣に比して民主的正当性に劣る会計検査院による政策評価には、国会・内閣の政策決定権に介入するのではないかとの疑問があること等から、国会自身が政策評価を行うべきであると考える。

3. 民主党の行政監視院法案

  • 平成9年、民主党が国会に提出し廃案となった行政監視院法案(米国会計検査院(GAO)をモデルとしたいわゆる「日本版GAO法案」)には、次の点で民主党の政策評価に対する「誤解」があった。すなわち、(a)政策評価を内閣の責任追及のツールとしていること、(b)議会の附属機関が、法律の制定・改廃等についての意見具申ができるとしていたが、これは当該機関があたかも裁判官のように判断することを意味し、こうした判断に国会・内閣を従わせるのは現実的ではないこと等である。
  • 他方、自民党には、政策評価に対する「無理解」があった。すなわち、自民党は、政策決定については官僚から情報の提供を受ければ十分であり、国会に政策評価機関を設ける必要はないと考えていたが、政策決定には絶対の真理はなく、政策決定の責を担う国会は、省庁から提供されたデータを国政全体の舵取りという国会独自の観点から、総合・分析する必要がある。

4. 国会の附属機関としての政策評価機関

  • 行政監視院法案の代わりに成立したのが、決算行政監視委員会の設置等を内容とする国会法等の改正である。しかし、同委員会の審議は、責任追及の場として決算審査を用いていること、議員自らの調査に基づく審査が行われていないこと等の問題があると指摘されている。
  • こうした問題を踏まえれば、政策評価に係る議員の活動を補佐する国会附属機関が必要であるが、その際、米国の制度で参考となるのは、GAOではなく議会予算局(CBO)であると考えられる。
  • 政策評価を行うのは議員自身であるが、その際の有効性の測定等は、高度な専門性を要する技術を必要とするものであり、議員による政策評価を専門的立場から補佐する機関として、国会に政策評価機関を設置すべきである。

5. 参議院を決算審査=政策評価のための院にする改革案に対する評価

  • 最近、衆参両院の役割分担の観点から、憲法改正によって参議院を決算審査=政策評価のための院にしてはどうかという主張が見られるが、この主張が妥当であるかについては、参議院の選挙制度の在り方や地方分権と両院制の関係等を踏まえ、慎重な検討が必要である。仮に、そうした改革を行うにしても、先に述べた意味での政策評価についての附属機関がなければ、それは十分に機能しないと考えられる。

◎ 桜内文城参考人の意見陳述の要点

1. 憲法を考える視点

  • 憲法を考える際の視点としては、(a)制度派的アプローチ、(b)比較憲法的アプローチ、(c)歴史学派的アプローチがあるが、基本的には、(a)に依拠しつつ、現実への適合性等の観点から(b)、(c)をも踏まえ、公会計の観点から、「国会の意思決定と財政システムのあり方」について意見を述べる。

2. 公会計とは何か

  • 「公会計」とは、利益の獲得を目的とせず、又は利益の多寡が成果の評価基準とはならない公共部門における経済主体の全般(中央政府、地方公共団体、特殊法人等)を対象とする会計技術・手法をいう。
  • 公会計制度は、(a)国家の意思決定を財務面から規律するガバナンス構造の設計そのものに関連するとともに、(b)政府の受託者責任を明らかにする制度的インフラとして機能する。

3. 政府と国民の関係の基本構造/国民の位置付け

  • 国民は、委託者として政府(受託者)に対して納税を行うと同時に、現役世代のみならず将来の納税者である将来世代をも含めて、政府の財政活動の受益者として位置付けられる。政府の受託者責任は、アカウンタビリティによる報告が国民(委託者)によって了承されることによって解除される。
  • 日本国憲法も社会契約としての信託説の系譜に連なるものであり、そのことは前文第1段や11条後段に現れている。
  • 憲法上の統治機構とは、受益者たる国民の利益を守るための国家のガバナンス構造を規定するものである。

4. 財政立憲主義/民主制の二つのモデル/旧憲法下の財政システムとの比較/パブリック・ガバナンス

  • 明治憲法の財政システムは、国民の登場しないシンプルなガバナンス構造であった。
  • これに対し、現行憲法の83条の財政立憲主義には、「国会→内閣」のガバナンスと「国民→政府(国会・内閣)」のガバナンスという二重のガバナンス構造が存在するが、前者は強化されたものの、後者は納税者としての国民ないし受益者としての将来世代の国民の利益を守るものとして不十分である。
  • 内閣と国会との間のガバナンスが強化された財政立憲主義の下、「直接参加モデル」(強いガバナンス)では、受益者・委託者としての国民は、意思決定者たる国会(受託者)と完全に一体化しているとみなされるため、政府(国会・内閣)と国民との間でのガバナンスは、不問とされる。
  • 意思決定者と意思決定者以外に分化する民主制の「間接参加モデル」(弱いガバナンス)においては、時間軸上の資源配分という観点から、予算編成を行う受託者としての政府(現役世代のみからなる内閣・国会)と、現役及び将来世代の国民(受益者)に分化する。この場合、公会計制度を確立し、意思決定者たる政府の受託者責任の明確化を通じて、政府と国民の間のガバナンス(財政運営上の意思決定の規律付け、適正化=パブリック・ガバナンス)を強化する必要がある。

5. 財政運営を適正化する財政システム

  • 財政立憲主義は憲法上の大原則であるが、その形式的な適用だけでは、将来世代を含む受益者たる国民の利益を守ることはできない。財政運営上の意思決定者(現役世代)の受託者責任を明らかにすることを通じてパブリック・ガバナンスを強化し、将来世代を含む受益者たる国民の利益を保護すべきである(財政立憲主義の実質的補完)。
  • 具体的には、(a)公会計の整備(将来世代の声なき声の反映等)、(b)財政規律の確保、行政評価との連携、(c)予算を「経常収支勘定」と中長期的な影響の大きい「資本的収支勘定」とに区分する複会計制度等の導入、(d)財政面における国家緊急権の明記が必要である。

6. 二院制・会計検査制度との関連

  • 「将来世代の代弁者」としての役割を果たす機関又は将来世代の利益を反映することができる財政システムを設計する必要がある。具体的には、(a)参議院を特定の選挙区を持たない憲法上の独立機関とすること、(b)中長期的な視点からの財政運営について、参議院の予算編成上の権限を強化すること(単に決算審査の権限を強化するのでは足りない。)、(c)会計検査院を、一定の中立性を保ちつつ、国会に属する機関とすることが考えられる。
 

◎ 窪田好男参考人及び桜内文城参考人に対する質疑者及び主な質疑項目等

葉梨 信行君(自民)

<両参考人に対して>

  • 両参考人からの指摘を踏まえた上で衆参両院の機能分担を考えるに当たっては、参議院の選挙制度の在り方をも検討する必要があると考えるが、この点について、どのように考えるか。
  • 私は、衆議院は予算、参議院は決算という役割分担を前提に、会計検査院を組織替えした上で参議院の附属機関とすることを考えているが、この点についてどのように考えるか。


古川 元久君(民主)

<窪田参考人に対して>

  • 民主党提出の行政監視院法案には「政策評価に対する誤解があった」との指摘を受けたが、この法案は、会計検査院が憲法上独立の機関とされていること、欧米のように政策立案を担う独立系シンクタンクがないことを踏まえ、現行憲法の枠内で、与野党の両方が政策立案能力を持つことのできる仕組みとして行政監視機関の設置を提案したものである。憲法改正を視野に入れた場合、参考人の提案する国会の附属機関としての政策評価機関とは、会計検査院を国会の下に設置することとなるのか、それとも、会計検査院とは別に議会の中に米国の議会予算局のような機関を設置することとなるのか。

<桜内参考人に対して>

  • 政治不信の中心は、税の無駄遣いである。税がきちんと使われるのであれば、国民は、税の負担を拒否しない。新しい国の形、新しい憲法を考える上では、税が適切に使われる仕組みが大事であり、予算編成システムについては、憲法上に、現行よりも具体的な規定を設けることが適当なのではないかと考えるが、いかがか。


斉藤 鉄夫君(公明)

<窪田参考人に対して>

  • 中山会長もメンバーであった超党派の「科学技術と政策の会」において、科学技術基本法と科学技術評価法を提唱したことがあるが、前者は成立したのに対し、科学技術そのものの評価や科学技術関連予算の執行に対する政策評価を内容とする後者は、成立を見なかった。その際、政策評価は、公開の場における議論になじまず、目利きを必要とする職人的な営みであるとの声も聴かれたが、その点について、参考人はどのように考えるか。

<両参考人に対して>

  • 最近話題となっている政党等が政策をとりまとめた「マニフェスト」について、意見を伺いたい。

<桜内参考人に対して>

  • 参考人は、現行憲法下では、国会の内閣に対するガバナンスは強化されたが、政府(国会・内閣)に対する国民のガバナンスは弱いとの指摘をした。しかし、実感としては、むしろ、内閣と与党の間のガバナンスは弱くなっているが、世論調査等を通じて国民と内閣との結びつきが強くなっている。政府と国民との間のガバナンスが弱いとする点について、更に説明を伺いたい。


武山 百合子君(自由)

<両参考人に対して>

  • 我が国では、なぜ現在まで政策評価が行われてこなかったのか。
  • 我が国ではいまだ社会資本整備が求められているが、地方において「箱モノ」を作った後の維持・運営・管理に無駄な出費がなされていることについて、納税者にはその実態が分からないのが実情である。米国の州で「箱モノ」を作った際の政策評価は、どのようになされているか。


山口 富男君(共産)

<窪田参考人に対して>

  • 窪田参考人は、地方政治において政策評価が機能していることはまれであるとする。地方におけるオンブズマン制度は意味があると思うが、参考人はどのように評価しているのか。

<桜内参考人に対して>

  • 参考人は、政府と国民との関係を英米法の信託概念で説明したが、英米法の信託概念は、大陸法のそれとは違うのか。
  • 参考人の言う「時間軸上の資源配分」の時間軸の幅は、どのくらいのものを考えているのか。
  • 我が国は、明治憲法の財政システムの下で、1945年に財政上破綻したが、これは、制度上の問題であるのか、あるいは、戦争という特殊事情による問題であるのか。
  • 戦後、国債発行に厳格な条件が設けられたが、国も地方も現在の財政状況は大変厳しいと認識している。国債の発行について、参考人はどのように考えるか。
  • ヨーロッパ諸国や韓国では、納税者憲章がつくられている。日本でも、そのような納税者の権利を保障するものが必要であると考えるが、いかがか。


金子 哲夫君(社民)

<窪田参考人に対して>

  • 窪田参考人は、その論文において、政策評価は政策の現状分析及びそれに基づく政策改善のための提言に際しての補助ツールとして用いるべきであると述べているが、国民は具体的政策への評価を求めていることを踏まえれば、政策の実施・決定に影響を与える評価を行うことのできる機関を設置すべきと考えるが、いかがか。また、そのような機関の構成はどのようなものであるべきと考えるか。
  • 現在、市民による政策評価はどの程度進んでいるのか。

<桜内参考人に対して>

  • 桜内参考人は、先程の質疑応答の中で、参議院改革の一環として、そのメンバーに首相経験者等を充てるとの案を示したが、参議院を「将来世代の代弁者」として位置付けるのであれば、選挙を通じた国民の代表者で構成すべきと考えるが、いかがか。


井上 喜一君(保守新党)

<窪田参考人に対して>

  • 監査の機能を担う機関については、(a)中立のものとして独立機関とする、(b)内閣に置く、(c)国会に置くの三つの案が考えられるが、いずれが最も効率的であると考えるか。また、その理由は何か。

<桜内参考人に対して>

  • 欧州各国における監査の制度は、どのようなものか。
  • 桜内参考人は、「時間軸上の資源配分」という観点が重要であると述べたが、現役世代と将来世代とをつなげる制度を考えるに当たっては、最低限、どのようなことをしなければならないか。


伊藤 公介君(自民)

<両参考人に対して>

  • 従来、国会による行政の統制は、予算の議決、立法等を通じた事前統制に傾斜しており、決算の審議等を通じた事後統制を軽視しがちなものとなっていた。事後統制を将来の政策決定・実施に対する事前統制に活かしていくためには、現行制度を見直しその運用の改善を図るべきか、あるいは、事後統制を担う機関を国会の附属機関として創設すべきか。
  • 米国議会の附属機関として設置されている議会予算局の役割は、どのようなものか。


島 聡君(民主)

<両参考人に対して>

  • 会計検査院法20条では、会計検査院が、正確性及び合規性の観点からの検査のほか、経済性、効率性及び有効性の観点からの検査を行う旨規定されている。各種公団及び事業団についても、会計検査院は、経済性、効率性及び有効性の観点からの検査を行っているはずであるが、公団等の問題のある活動実態にかんがみれば、十分な検査が行われているとは思えない。この点について、参考人は、どのように考えるか。

<桜内参考人に対して>

  • 現役世代とともに将来世代の利益を図る財政システムを構築するためには、どのような立法措置が必要であると考えるか。


福井   照君(自民)

<桜内参考人に対して>

  • 国家運営や政策立案に当たっては、目的や価値観によって「重みづけ」を変えるべきであると考えるが、いかがか。
  • 小学校建設のために補助金の交付を受けた場合において、その後に小学校を老人ホームにするときには、同じ公的サービスであっても目的外使用に当たるため補助金を返還しなければならないなど、補助金適化法の硬直的な仕組みは、問題があると考える。これについて、どのように考えるか。
  • 複会計制度を導入することにより、「箱モノ」公共事業を行う場合等における土地に対する支援が行われることとなるか。

<窪田参考人に対して>

  • 英国では、実際の政策選択を通じて、価値の優先順位を付けてきている。他方、日本では、「重みづけ」をすることについて逡巡する民族性がある。この日英の差異について、参考人はどのように考えるか。

◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

谷川 和穗君(自民)

  • 日本においては、欧米に比べて地方自治体の赤字が顕著であるが、その最大の理由は、戦前の中央集権的な制度を維持し続けてきたことにある。現在、この中央集権の下、地方に対して多額の補助金が支出されており、この世界に類のない「補助金政治」のサイクルを断ち切り、納税者の視点で将来に何を求めるかを考えるのが、政策評価の果たす役割である。しかし、現行憲法の83条は、中央集権的な発想に拠っており、地方のみがしっかりとした評価を行っても十分とは言えない以上、今こそ憲法を見直す中で正しい評価制度を考えるべきときである。


仙谷 由人会長代理

  • 政策を作るためには財政的な裏付けが必要であるのが原則であるが、与党も野党も、また、地方も、あまり財政的な要素を考えずにきた。しかし、税収の伸びない低成長期にあっては、新たに作るものには優先順位をつけ、不要なところはスクラップしていかなければ時代に合わない。スクラップ・アンド・ビルドに当たっては、ある種の総括が必要であり、総括の材料となる財政・会計上の数字が重要となってくる。米国会計検査院(GAO)や英国会計検査院(NAO)の果たす役割もこの総括のための数字を示すことにあり、この点については、憲法の見直しを含め、国会で議論すべき重要な課題である。


古川 元久君(民主)

  • 現在、我が国は、財政破綻がいつ起きてもおかしくないという状況に直面している。国家が疲弊する場合には、必ず財政破綻が生じるものである。この状況に対処するためには、従来の国家の統治システムと財政システムの双方を同時に見直すことが必要となる。また、新しい憲法のかたち、国の在り方を考えるに当たっても、従来の発想ではなく、新しい発想で、国民の信託を受けた、限りある資源を効率的かつ有効に活用するという観点から、新しい財政システムを考える必要がある。


中山 太郎会長

  • 私が参議院議員であったころは、決算を2年分ほどまとめて審議するなど、一般に決算に対する関心が低かったように思う。しかし、現在、国民は税金の無駄遣いに対して敏感であり、国家財政についても非常に不安を持っている。そのため、将来の在り方としては、二院制の機能をいかに向上させるかが国民にとって重要であり、衆議院としても、参議院の機能をより活用する方法を考えるべきである。


杉浦 正健小委員長

  • 政策評価は、国会の審議のために必要であり、各党においてもぜひ検討してもらいたいが、その際には、国会の事務局の在り方についても併せて検討する必要がある。