平成15年7月10日(木) 統治機構のあり方に関する調査小委員会

◎会議に付した案件

統治機構のあり方に関する件(国会と内閣の関係(国民主権と政治の基本機構のあり方全般))

上記の件について、国立国会図書館調査及び立法考査局政治議会調査室主任高見勝利君より説明を聴取した上で、委員古川元久君及び井上喜一君から基調発言を聴取した後、質疑又は発言を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(説明者)

国立国会図書館調査及び立法考査局
 政治議会調査室主任         高見 勝利君

(基調発言者)

  古川 元久君(民主)

  井上 喜一君(保守新党)

(質疑又は発言を行った者)

  谷川 和穗君(自民)

  中川 正春君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  武山 百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)



◎高見勝利主任の説明の概要

1 「大統領制」との対比による「議院内閣制」の理解

(1)議院内閣制の類型的特徴
  • 議院内閣制の類型的特徴は、通常、大統領制との比較において、立法と行政の「分立の厳格度」で示される。この権力分立の厳格度の違いが最も明確に示されるのは、閣僚と議員の兼職の可否である。
(2)議院内閣制と大統領制を分かつ本質的基準
  • しかし、議院内閣制と大統領制を分かつ本質的基準は、立法府の行政府に対する「信任の有無」、あるいは、行政府の立法府に対する「責任の有無」である。
  • 米国の場合、大統領は議会に責任を負わず、したがって、大統領は、議会から不信任されることはないが、議会を解散することもできない。英国の場合、首相は、下院において内閣が不信任されたとき、総辞職か解散のいずれかを選択しなければならない。ドイツでは、下院の不信任表明の際、後任首相の選出を行う「建設的不信任」制度が採用されている。「半大統領制」を採用するフランスの場合、下院が内閣を不信任した場合、首相は大統領に辞職を申し出ることになるが、大統領には、辞職の受理か下院解散かの選択権がある。
  • 日本では、首相が自由に解散権を行使し得る英国型に近いものとして、議院内閣制が運用されている。
(3)帝室内閣制
  • 帝室内閣制とは、大臣が専ら君主に対して責任を負うものであり、明治憲法は、こうした帝室内閣制をとっていた。
  • 内閣の国会に対する連帯責任を明記した現行憲法5章の諸規定は、明治憲法の帝室内閣制の反省に立つものである。

2 両院制/「上院」と議院「内閣」の軋轢

(1)上院の役割・一院制採用国
  • 単一国家で「民主的第二次院型」をとる場合、上院は、その存在自体が「本質的に争いのある制度」である。効率的な審議・政策決定の迅速性等の一院制の長所は、両院制を支持する立場からは、一院制の短所とされる。
  • 諸外国では、一院制をとる国が多いが、人口規模の大きな国は、中国を除いてほぼ両院制をとっている。
(2)カナダ上院と日本の両院制
  • 上院議員が任命制であるカナダでは、1980年代半ばに政権交代があり、上院と下院との間に緊張が高まった。この際、下院は、直接選挙により選出されるという民主的正当性(「選挙民主主義」)を有すると主張し、他方、上院は、「憲法的権威」に基づき「悪法」の通過を阻み得ると主張した。
  • 公選型上院を採用する我が国でも、「選挙民主主義」を基礎に上院の役割をどう規定すべきか等については、憲法制定以来の検討課題である。

◎古川元久委員の基調発言の概要

1.権力分立のあり方

  • 日本国憲法には、ドイツ基本法20条2項のような権力分立に関する規定はなく、「国会」、「内閣」、「司法」の各規定から権力分立が推定されているに過ぎない。
  • その結果、権力分立に関しては、(a)41条の国会の「最高機関」の意味についての議論、(b)行政に対する政治の関与を極力排除する解釈等を生むこととなった。
  • こうした無用の混乱と恣意的な憲法解釈あるいは権力運用を避けるためにも、地方分権や独立の準司法機関等の位置付けをも考慮した権力分立に関する明示的な規定を憲法に設けることが望ましい。

2.首相主導の議院内閣制の確立

  • 憲法の規定する議院内閣制の姿は、首相主導型システムであるにもかかわらず、現実には、内閣=行政と議会=政治との間の分離・隔離を当然とし、「行政」に対する「政治」の関与を極力排除する解釈・運用がなされるとともに、憲法に規定されていない「閣議」により首相の権限は拘束され、政治主導が大きく制約されてきた(「行政府主導型システム」の存在)。
  • 首相主導型政府運営を実現するため、(a)現行憲法において内閣に属するとされる「行政権」は、本来、政治目的に向けて行政(官僚)を指揮監督する「執行権」であること、(b)「執行権」は首相に付与されるものであり、国務大臣は首相の補佐機関としての地位を持つに過ぎないことを踏まえ、憲法や内閣法等を見直すべきである。
  • 内閣に属さない議員の行政への関与を厳しく制限すること等により、与党・政府の二元構造を排し、内閣の一体的運営の確保、責任の明確化を図る必要がある。

3.国権の最高機関の再定義

(1) 国会の行政権コントロール機能と争点提供機能
  • 現代社会における政治の中心は、さまざまな情報に接し、必要な政策を集約し得る立場にあり、統一的で一貫した指針の下に迅速に行動する能力を持つ内閣ととらえるべきである。
  • そして、国会の役割については、 (a)強力な首相による政策決定をコントロールすること、(b)国民が国会を通じて国政をコントロールする前提として、審議を通じて国民に論点を提示すること(争点提供機能)の二つが重要となる。国会の「国権の最高機関」性については、このように再定義することが必要となる。
(2) 二院制のあり方・参議院の役割
  • 参議院のあり方を大胆に見直し、(a)参議院議員からの大臣起用の廃止、(b)衆議院と参議院の役割分担(予算審議と決算審議等)、(c)地域代表制等を加味した選任方法等について検討する必要がある。

4.政党の憲法的位置付け

  • 現代政治は、政党を無視しては成り立ち得ない。政党の重要な地位と役割にかんがみ、政党を憲法上位置付けるとともに、政党法を制定する必要があると考える。


◎井上喜一委員の基調発言の概要

1.制度の運用と改正についての検討の視点

  • 現行憲法制定後、社会・経済・安全保障体制や国民意識に変化が生じ、また、日本の国際社会における地位が向上したことから、あらゆる分野での制度的大改革と迅速な対応が必要となっている。
  • 現在の統治機構は、制度としては体系的に整備されており、問題は、制度の運用にあると考える。

2.議院内閣制

  • 現在、(a)抜本的・機動的な対応、(b)責任の所在の明確化、(c)政治主導による政策遂行、(d)政府と与党の「二元化」を脱却した上での首相のリーダーシップの発揮、(e)政治任用制の段階的導入等が要請されていることから、内閣機能の強化が唱えられている。なお、首相公選制については、衆愚性、立法府との調整など問題が多い。
  • 内閣機能の強化に対応して議会機能の強化を図る必要がある。その際、与党は政府と一体となって政府の政策を支持・推進し、野党はこれをチェックするという機能を担うということを踏まえた上で、(a)委員会審議の充実、(b)議院スタッフの機能強化、(c)審議拒否及び強行採決の克服、(d)副大臣、大臣政務官等の対応改善、(e)クエスチョン・タイムの在り方の再検討、(f)予備的調査等の活用等について、検討すべきである。また、政府・与党一体化の原則から、与党による法案の事前審査制は、存置すべきである。
  • 議会制民主主義において、政党は、民意を政治に反映させる役割を担う不可欠の存在であり、これを憲法上明確に位置付けるとともに、必要な支援を行う必要がある。

3.二院制

  • 現行制度における議院内閣制の下では、衆議院のみならず参議院の政党化が進むことは必然である。(a)参議院が独自性を発揮する場面は少ないこと、(b)選挙制度に根本的差異がないこと、(c)二院制を採用する根拠に欠けること、(d)衆参が別々の判断を下す場合マイナスの要素が多いこと等を踏まえれば、一院制とするか、又は参議院を職能代表等からなる諮問機関に再構成すべきである。

4.選挙

  • 選挙制度については、民意を集約し反映するという選挙の機能を踏まえた上で、政権交代が可能な2〜3の大政党の出現を志向する単純小選挙区制度を採用すべきである。その際、一票の格差を是正する必要がある。

5.違憲立法審査権と国会

  • 統治行為については、国会に憲法裁判所を設置し、これに所管させるのがより適切であると考える。

6.議決方法

  • 特別多数による再議決の制度(59条3項)を廃止し、例えば、両院による協議や衆議院の再度の多数決により決定できるような制度を整備すべきである。
  • 憲法改正手続については、その発議は両院又は衆議院の多数決によるものとすべきである。

7.危機管理

  • 危機管理を所管する内閣の組織、その権限等を憲法に明記すべきである。


◎主な質疑事項又は発言

谷川 和穗君(自民)

<発言>

  • 明治憲法の統治機構に関する簡潔な規定は、その分、幅を持った解釈を可能とし「大正デモクラシー」という輝かしい時代を我が国にもたらした。明治憲法には内閣についての規定はなかったが、その運用においては、政党内閣制が行われていた時期もあった。問題は、天皇を絶対君主的に解釈した憲法学の泰斗と呼ばれた学者の側にあったと考える。
  • 明治憲法下で、軍部大臣が帷幄上奏を行うなどして内閣を瓦解させたことや統帥権が独立していたことの反省に立って、現行憲法では首相の地位を強化したものと認識しているが、73条4号の内閣は「官吏に関する事務を掌理する」という規定と、72条の内閣総理大臣は「行政各部を指揮監督する」という規定とは一致しておらず、バランスを欠いたものとなっている。
  • 「第三の改革」と呼ばれる現在にあって、「行政」が社会の発展の中心を担うという構図は今なお残っており、問題であると考える。

<古川委員に対して>

  • 成文憲法を持つ以上、時代の変化に対応していくためにはその改正は不可避であり、それを怠っていれば、やがては政治が機能不全に陥り、ひいては国民生活を破壊することもあり得るのではないか。そういう意味では、できるだけ早く憲法を改正すべきではないかと考えるが、いかがか。

>古川元久君(民主)

  • そのとおりであると考える。「憲法が変わっても行政は変わらない」などという従来の考え方は、本来の上下関係を倒錯させており、その結果として「政」に「官」が浸透してしまっている。
  • 現行憲法が、英文の“executive power”と“administration”の両方を「行政」と訳したことが混乱を招いている。内閣は、“executive power”すなわち「執行権」を行使するものである。また、国家行政組織法のような法律は、英国やドイツには存在しておらず、「執行権」を有する首相の意思によって改編できない組織の在り方はおかしいと考える。

中川 正春君(民主)

<発言>

  • 現行憲法が英国型の議院内閣制を採用していながら、実際の運用では米国型の大統領制の要素が入り込んでいることが、政治の混乱を招いていると考える。
  • 社会が複雑化し、民主主義の在り方が変化する中にあっては、首相のリーダーシップを期待すべきであり、政治のシステムも首相がリーダーシップを発揮できる方向へ改革していくべきである。また、政権交代のある「普通の民主主義」が「柱」として存在すべきではないか。
  • 古川委員の言うように、内閣を“executive power”とすることに賛成であり、実際に英国では、政官の接触の原則禁止等を通じて、それが実現していることに着目すべきである。

<井上委員に対して>

  • 政権与党は内閣に入って責任を果たすべきという立場からは、内閣と与党が二元化しているという現状は、責任の所在を不明確なものとし、国政上の問題を先送りしているように見える。与党の立場から、内閣と与党の一元化を実現するためには、具体的にどうすべきと考えるか。

<古川委員に対して>

  • 野党の立場から、内閣と与党の一元化等を前提とした政権構想をどのように考えているか。

>井上喜一君(保守新党)

  • かつての中選挙区時代の政党では、選挙区の事情から派閥が形成され、政党ではなく、派閥単位で政権を目指していた。それが小選挙区制に変わり、政党の意識も一つにまとまってきているのではないか。個人的には、候補者選定に当たっての予備選挙の導入が望ましいと考えており、時間はかかると思うが、それが定着していけば、内閣と与党も一元化されていくのではないか。

>古川元久君(民主)

  • 現在は、閣議の前に与党の部会を通す必要があり、政策の決定ルートが二元化している。政府・与党からの国民へのメッセージの発信は、一本化される必要があると考える。

斉藤 鉄夫君(公明)

<両委員に対して>

  • 政府案といえどもそれを成立させるのは国会であり、したがって、与党審査は必要なものであるとの見解について、所見を伺いたい。
  • 政治家の集まりとしての「内閣」と、同じく政治家の集まりである「与党」とは構成が異なっていることから、政策の策定過程において、両者間の調整はあり得るのではないかと考えるが、いかがか。

<古川委員に対して>

  • 古川委員の提案する「国権の最高機関」の再定義とは、内閣を「国権の最高機関」とするものなのか。

>井上喜一君(保守新党)

  • 与党審査については、そのとおりであると考える。
  • 私は、古川委員とは事実認識を異にし、かつての与党と内閣の関係、また、政府内部の大臣と官僚機構の関係は、今や大きく変わってきており、二元化はされていないと考える。

>古川元久君(民主)

  • 与党審査は、政府(官僚)と与党の分離を前提としたものであり、責任の所在をあいまいにしていると考える。与党によって内閣がつくられ、その内閣とは“executive power”であって、官僚はその“executive power”に従う“administration”であると考えれば、政府と与党の対立など、あり得ない話である。ただいまの話では、与党と官僚機構が同列のものとして存在していることになるのではないか。
  • 政策とは、責任を負うべき立場にある大臣が決定するものであって、同じ政治家とはいっても、大臣ではない議員(政党の部会等)と官僚との間で政策決定がなされるのはおかしいのではないか。
  • 「国権の最高機関」の再定義とは、(a)政府による政策決定をコントロールすること、(b)審議を通じて国民に論点を提示すること(争点提供機能)を国会の重要な役割と位置付けることである。

武山 百合子君(自由)

<井上委員に対して>

  • 官僚主導から政治主導になりつつあるとの井上委員の発言があったが、現実には、委員会等における答弁を官僚が行う場合も多い。どのような点に問題があると考えるか。
  • 日本においては、韓国や米国に比べ、議員を補佐する政策秘書等の制度が機能していない現状にかんがみれば、公的な形で議員活動を補佐する制度をより一層充実させるべきであると考えるが、いかがか。
  • クエスチョンタイムの制度がいまだ機能していないとの井上委員の発言に賛成する。現状では割り当てられる時間が短いこと等の改善について、与党側の何らかの配慮が必要と考えるが、いかがか。
  • 両院の調査室や法制局等の統合を行うべきとの井上委員の発言に賛成する。政党、特に野党には、スタッフやシンクタンク的存在が乏しいのにもかかわらず、調査室の対応は十分ではない。具体的な改善案があれば、教えていただきたい。

>井上喜一君(保守新党)

  • 政策等の決定権が実質的に大臣等にあればいいのであって、官僚が答弁を行う制度を廃止すべきものとは必ずしも考えない。政治主導が徹底しない原因はいくつか考えられるが、重要なことは、各議員が勉強することであり、その限界を補うためにも、政策秘書制度のより一層の充実や政党のシンクタンクの整備等を行うべきと考える。
  • 日本においては、確かに政策立案のためのスタッフは足りていない。武山委員の言うように、何らかの公的な手立てを講じるべきである。
  • 英国の例からしても、現在の割当て時間が少ないとは言えないのではないか。参加人数を制限するなどして通常の委員会とは異なるやり方を考案することもできるのではないか。これは、基本的には、野党間の問題ではないか。
  • 調査室等のスタッフは、統合を行えば、人数的には十分なはずである。調査室によっては的確な対応をするところもあり、議員としては、明確に要望を伝えることが重要なのではないか。


春名 直章君(共産)

<古川委員に対して>

  • 私は、古川委員の指摘する(a)官僚の政治に対する優位性、(b)与党と内閣の二元性の問題は、憲法規定の不備ではなくその運用に起因するものと考える。(a)に関して、その改善は、国会と政党の力量にかかっているように感じるが、いかがか。
  • 41条の「国権の最高機関」との文言は国民主権原理の現われであり、選挙は民意を反映させるものであり、国民主権原理の具体化であると思う。選挙制度に関して、(a)多様な民意を反映するという観点からの小選挙区制の再考、(b)一票の格差の是正、(c)「18歳選挙権」の実現が重要であると考えるが、いかがか。

<井上委員に対して>

  • 68条の閣僚の任命・罷免権等にかんがみれば、現行憲法においても、首相の権限は強く、十分リーダーシップを発揮できるはずであると考えるが、いかがか。

<両委員に対して>

  • 政官の実質的分離を行うには、天下りや企業献金の禁止等、政・官・財の癒着を断たなければならないと考えるが、いかがか。

>古川元久君(民主)

  • 運用によって改善できる点もあるのはもちろんであるが、首相による「執行権」の行使や首相のリーダーシップの強化等については、憲法の明文を改正することが、より望ましい改善策であると考える。
  • 選挙制度に関する春名委員の意見のうち、(b)及び(c)については賛成する。(a)に関しては、最終的に実施し得る政策は一つであることにかんがみれば、民意をどの段階で集約するかの問題であると考える。政党が、本来、国民の意思を政策決定にまとめ上げる存在であることにかんがみれば、その枠内で多様な民意を集約・調整すべきであり、方向性としては二大政党制が望ましいと考える。
  • 政官の癒着の原因にも、与党と政府との二元性があると考える。大臣等の政府の職にある者のみが、政策に関し影響力を行使すべきであり、そのような職にない与党の実力者等が行使すべきではない。

>井上喜一君(保守新党)

  • 制度的には、現在においても、首相が十分リーダーシップを発揮できるようになっているが、その運用については問題があると考える。
  • 政官関係と政・官・財の癒着とは、別の問題であると考える。


金子 哲夫君(社民)

<両委員に対して>

  • 小泉政権になって、審議会等に政策決定が委ねられ、国会の役割が低下しているとの指摘がある。議院内閣制との関係で問題があると考えるが、いかがか。
  • イラク新法に関して、憲法との関係で言えば、シビリアンコントロールが重要であると考える。国会が責任を持つという意味では、国会の事前承認は最低限の条件ではないかと思うが、いかがか。

>古川元久君(民主)

  • 審議会等の問題は、議院内閣制の運用の問題ではないかと思う。本来は、内閣が、政治任用の活用や与党の識見のある人物の登用などにより官僚機構を統制していれば、審議会は必要ないはずである。
  • シビリアンコントロールを発揮させるためにも、41条の「国権の最高機関」の再定義が必要であると考える。内閣に対する国会のコントロールが重要であり、内閣法制局を廃し、法律の合憲性に対する国会の判断機能を高める措置を講じるべきである。

>井上喜一君(保守新党)

  • 金子委員の問題意識は、イギリスのブレア首相のようにトップダウンの手法によって内閣総理大臣の権限のみが強くなり、所掌事務に関して責任を持つ各大臣の権限とのバランスが崩れた場合に対する危惧かと思う。両者のバランスをどのようにとるかが問題となると考える。
  • 自衛隊派遣に関する恒久法を作った場合には、基本計画等に対する国会の事前承認は必要であると考えるが、イラク新法については、対象地域や時期が限定されており細目的なことも定められているので、事前承認の必要性はないと考える。

◎自由討議における委員の発言の概要

中山 太郎会長

<両委員に対して>

  • 憲法改正の原案の発案権については、国会が「国権の最高機関」とされていることからすれば、国会のみが有し、内閣は有しないものと考えるが、いかがか。
  • 平成12年に欧州各国で憲法事情の調査を行った際、イタリア在住の作家塩野七生氏は、日本国憲法の改正要件である各議院の総議員の「3分の2以上」の賛成という条件は厳し過ぎ、これを「過半数」に改めるべきと述べた。この意見について、どのように考えるか。

>古川元久君(民主)

  • 国会のみが、憲法改正の発案権を有すると考える。
  • 憲法改正手続については、多様な考え方が示されているところであり、これらを踏まえた上で、議論を進めるべきである。

>井上喜一君(保守新党)

  • 国会と内閣の双方が、憲法改正の発案権を有すると考える。
  • 現行の改正手続では国民投票が必要とされていることから、国会による発議は、単純多数で行えるようにすべきである。

葉梨 信行君(自民)

<両委員に対して>

  • 6月5日の統治機構小の参考人であった桜内新潟大学助教授は、公会計制度を通じた適正な国家運営を図るべきであるとした上で、複数年度予算の導入等を主張した。また、会計検査院を国会に属する機関とすべきであるとの見解を述べた。これらについて、どのように考えるか。
  • 現在、衆議院も参議院もその選挙制度はほぼ同じであり、これを改めるべきと考えるが、いかがか。
  • 道州制を導入するに当たっては、憲法改正が必要であると考えるか。

>古川元久君(民主)

  • 桜内参考人の見解に賛成である。そのような制度を整備する上でも、国会と内閣との関係を整理し、国会は内閣に対する責任追及機能やコントロール機能を果たすことが重要であり、このような観点から、国会が、会計検査の機能を保持すべきであると考える。
  • 選挙制度については、参議院の性質、役割等を見直す中で検討すべきである。その際、道州制の導入を前提にした上で、参議院を地域代表から構成される院として再構成する案が考えられる。
  • 道州制の導入に当たっては、憲法改正をすべきであると考える。

>井上喜一君(保守新党)

  • 財政制度の在り方全般については、決算制度に関するさまざまな議論、現在の経済情勢等を踏まえた上での検討が必要である。会計検査院の位置付けについては、議会が予算を作成する米国と内閣が作成する日本とで、事情が異なる。
  • 現行憲法制定以降、参議院の在り方については多くの議論がなされてきた。しかし、具体的にどのように改革するかは非常に難しい問題であり、改革が実現されず今日に至っているところである。
  • 現行憲法の地方自治関係規定との関連で、道州が現行の都道府県に代わるものとして位置付けられるのであるとすれば、憲法上の問題が生ずると考える。

伊藤 公介君(自民)

  • 小泉首相は、いわば大統領的な政治手法によって、郵政事業や道路公団の改革等これまでタブーとされてきた問題に着手してきたのであり、この手法は、国民からも分かりやすい手法であるとして評価されている。このことにかんがみれば、首相公選制を導入すれば、より迅速な対応が可能になると考える。

<両委員に対して>

  • 諸外国では、一院制を採用している国の方が二院制を採用している国よりも圧倒的に多い。日本でも、一院制をとるべきであると考えるが、いかがか。

>古川元久君(民主)

  • 現在の中央集権的な制度のままであれば、一院制への移行も検討に値するが、道州制を導入し、各地域に自立権を付与することを前提にすれば、地域代表からなる一院を設ける意義はあると考える。

>井上喜一君(保守新党)

  • 一院制を採用すべきであると考える。

>伊藤公介君(自民)

  • 二院制を維持するのであれば、参議院は、政党による支持を背景としない者から構成されるものとすべきである。

春名 直章君(共産)

  • 憲法96条では、憲法の改正に当たって国会の発議が要件とされているのであり、内閣による発議は規定されていない。また、井上委員の主張する手続により憲法改正を可能とするためには、まず、同条の憲法改正が不可欠であることを指摘しておきたい。

<井上委員に対して>

  • 国会機能を強化するに当たっては、審議の活性化等を通じて内閣に対するコントロール機能を充実させることが重要であり、このことは、憲法上の要請であると考えるが、いかがか。
  • 首相公選制は、政党政治を衰弱させるという問題とともに、一人の者に権力を集中させるという問題があると考える。井上委員は、首相公選制の導入に否定的な見解を示したが、その具体的理由について伺いたい。

<古川委員に対して>

  • 古川委員は、首相の権限強化と首相公選制との関係をどのように整理しているか。

>井上喜一君(保守新党)

  • 委員会審議の活性化については、中央省庁再編についての再検討を行った上で、各省庁に対応した委員会の設置がいいのかどうかといった問題を含め、国会において決していくべき問題である。
  • 首相公選制については、一人の者に権力を集中することが日本の風土に合うものなのか、立法府との関係をどのようにとらえるのか等の問題があり、直ちに導入することには疑問を覚えざるを得ない。

>古川元久君(民主)

  • 政党を憲法に明記した上で、政党という枠の中で民意を吸収することが重要であると考える。また、首相公選制を導入しなくとも、各政党が首相候補者を明示して選挙を行うこととなれば、国民は間接的に首相を選挙し、政権選択を行うことができ、首相のリーダーシップの強化が図られることになると考える。


仙谷 由人会長代理

  • 各省庁やその代理人として機能してきた大臣が個別に主張する政策をつなぎ合わせればうまくいくという時代は終わった。こうした時代の転換期にあるにもかかわらず、内閣と与党の一体化の下に首相を中心とする政治権力が、国民の負託を受けて資源の配分を行うことができていない。民主党が政権を獲得した際には、首相権限の強化等を図り、国会と内閣の関係を変えていくつもりである。

>井上喜一君(保守新党)

  • 仙谷会長代理の意見に半分同意する。ただし、改革のためには、目標をきちんと決めることが重要であり、闇雲に首相の権限強化によって改革を行うのではなく、各大臣の同意をとりながら進めていくべきである。

伊藤 公介君(自民)

  • 議員の政策立案活動を支える政策秘書が、少なくとも3〜5人は必要である。この政策秘書は、試験によりその資格を得た者のみとするとともに、国がその身分を保障すべきである。この問題については、超党派で取り組むべきであると考える。

>仙谷由人会長代理

  • 伊藤委員の意見に賛成である。これに関し、人材が流動化しなければ日本の政治がよくならないとの見地から、民間の会社員や公務員が、一定期間休職して、議員のスタッフになることができる制度を整備すべきである。

>井上喜一君(保守新党)

  • 伊藤委員の意見に賛成である。

>中山太郎会長

  • 人材の流動性が重要であることは、仙谷会長代理の指摘のとおりであり、また、政策秘書の拡充については、党派を超えてその必要性が認められると思う。その際、退職金の問題、元の職場に復帰してからの地位の問題等をも慎重に考慮する必要がある。