平成15年10月2日(木)(第1回)

◎会議に付した案件

1.幹事の補欠選任に関する件

補欠選任 中山正暉君(自民) 中川昭一君(自民)委員辞任に伴いその補欠

2.小委員会設置に関する件

最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会、安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会、基本的人権の保障に関する調査小委員会、統治機構のあり方に関する調査小委員会を設置することに、協議決定した。

3.参考人出頭要求に関する件

小委員会における参考人出頭要求に関する件について、協議決定した。

4.日本国憲法に関する件

  • 米国、カナダ及びメキシコ憲法調査議員団の調査の概要を中山団長から聴取し、派遣議員から発言がなされた。
  • 委員間で自由討議を行った。

5.中山会長から挨拶があった。


◎「米国、カナダ及びメキシコ憲法調査議員団」の調査の概要

1.調査議員団の構成

団長   中山太郎君

副団長  仙谷由人君、 中川昭一君、山口富男君

2.期間

 平成15年8月31日(日)から9月13日(土)まで
 

3.訪問先

米国 UCバークレイ校、会計検査院(GAO)、議会予算局(CBO)、連邦議会下院、連邦最高裁判所等
カ ナ ダ 連邦最高裁判所、国防省、連邦議会下院、枢密院事務局
メキシコ メキシコ国立自治大学(UNAM)、連邦最高裁判所等

4.カリフォルニア州における調査の概要

(1)バリー・キーン元カリフォルニア州上院議員、スコット・キーン在サンフランシスコ日本領事館政治コンサルタントとの懇談

  • 住民参加規定を有するカリフォルニア州憲法の意義と課題等。

(2)UCバークレイ校での中山会長の講演等

  • 中山会長が「衆議院憲法調査会の活動と21世紀の日本の憲法」と題する講演をし、会場参加者との質疑応答を行った後、スティーブン・ヴォーゲル准教授の指名により、仙谷会長代理、山口議員から発言がなされた。
  中山 会長
  • 日本国憲法の制定経緯にGHQが深く関与したことや戦後半世紀の国内外の諸情勢の変化を受けて現行憲法のままで本当によいのかとの観点から、憲法調査会では精力的に議論を行ってきている。
  • 象徴天皇制の維持に関しては各会派が合意したものの、9条や憲法裁判所の導入の是非などについては引き続き議論を行っている。
  仙谷 会長代理
  • わが国には現在、(a)安全保障等の国際関係の考慮、(b)中央集権体制の転換、(c)「民主主義の豊富化」としての人権保障の仕組みといった三つの課題がある。
  • 法治国家として、これ以上の解釈改憲は行うべきではない。
  山口 議員
  • 日本国憲法の制定過程には「豊かさ」(各党の憲法草案の提示、制憲議会での議論、国民の圧倒的な支持など)があった。
  • 象徴天皇にかかる憲法条項は、厳格に運用していくべきである。
  • 憲法9条は、アジアと世界の平和・安定にとって重要であり、守るべきである。

(3)政治学者・憲法学者らとの懇談

  • カリフォルニア州憲法の最大の特徴とされる「住民参加」規定の運用実態に対しては、政治学者及び憲法学者からは消極的評価がなされている。


5.メキシコ・シティーにおける調査の概要

(1)セラーノ教授及びブルゴア名誉教授との懇談

  • メキシコは、国境を接する超大国、米国と対等の関係を保つために、国家の安全に関して主権制限に関わるような国際条約には加入せず、PKOにも1人の兵士を出していない。
  • メキシコには、個人の権利保護とともに憲法保障を図る「保護請求裁判」制度がある。

(2)ゴンゴラ最高裁判事との懇談

  • メキシコ憲法には、最高裁によって抽象的な法令審査権が行使されるものとして、「憲法紛争」や「違憲申立て」の手続がある。

(3)ソラーナ元外務大臣との懇談

  • 現在の世界情勢は米国一国のヘゲモニー体制に傾いているが、メキシコとしては、米国に対してもノーというべきときがある。
  • FTAの締結等、日本とメキシコの関係は、今後、一層重要となる。

6.ワシントンDCにおける調査の概要

(1)ウォーカー会計検査院長及びホルツイーキン議会予算局長との懇談

  • 米国の会計検査院及び議会予算局は、法律によって義務付けられている委員会等からの要請のほか、慣例上、少数会派の調査の充実に資するために個々の議員からの調査依頼にも応えており、この件数が年々増加している。
  • 議会の補佐機関の独立性と効率的な職務の遂行を担保するため、会計検査院長の任期は15年とかなり長いものとなっている。

(2) 3人の下院議員との懇談

  • 来年の大統領選挙では、景気・経済が最大の争点となるだろう。
  • 憲法修正案は、成立に至るものは極めて少ないが、恒常的に提案され、審議されている。
  • 下院議員には公設秘書が22名いるほか、2年間の任期中、1人当たり平均100万ドルの活動費が支給されている。

(3)アーミテイジ国務副長官との懇談

  • 日本が安保理の常任理事国入りするためには、集団的自衛権の問題について根本的な決断をしないと難しいであろう。
  • 憲法9条についての内閣法制局の解釈は、もっと柔軟であってもよいのではないか。しかし、それは、あくまで日本及び日本国民が決定すべき問題である。

(4)スカリア最高裁判事との懇談

  • 司法の政治化のおそれ等から、アメリカ型の付随的違憲審査制度の方がよいとの発言がなされた。

7.オタワでの調査の概要

(1)マクラクラン最高裁長官及びバスタラシェ最高裁判事との懇談

  • カナダには「参照意見(勧告的意見)制度」がある。これは、連邦政府からの憲法解釈等に関する諮問・照会に対して、連邦最高裁が意見を表明するものである。
  • 諮問・照会に対しては、最高裁として回答するにふさわしいものにのみ回答することとしており、「政治的問題」については回答を拒否する。

(2)ロバートソン国防省国際安全保障政策局長との懇談

  • カナダの国防軍は非常に小さいので、PKO等への派遣人数は多くはないが、その比率は米国に次いでかなり大きいものとなっている。

(3)ブードリア国務大臣・下院政府総務との懇談

  • カナダでも民間人が国務大臣になることは別段禁止されていないが、その場合には、慣行上、直近の総選挙あるいは補欠選挙に立候補して議員となることが必要とされている。この場合、一般的には、首相のリーダーシップによって与党議員の誰かを引退させて補欠選挙を行い、民間人から国務大臣になった者を立候補させる。

(4)クリスティ枢密院事務総長補との懇談

  • カナダの多様性は、「言語の多様性」、「文化的・民族的な多様性」だけではなく、「人口的な多様性」もあり、国土の一部に人口が片寄っているということはない。

◎派遣議員の発言の概要(発言順)

仙谷 由人君(民主)

  • 今回の海外調査では、(a)具体的事件が起こる前でも法律が違憲であるとの宣言を求めて訴訟を提起できる制定法上の制度(米国)、(b)法律ができる前段階でも最高裁判所の憲法判断を求めることができる参照意見制度(カナダ)など、興味深い抽象的違憲審査の制度に接した。
  • 我が国でも具体的事件を前提とせず法律の憲法適合性を判断する抽象的違憲審査の制度の導入が必要であると感じた。


山口 富男君(共産)

  • 今回の海外調査では、米国の先制攻撃主義、単独行動主義に対する懸念が持たれていることが印象に残った。イラク戦争は、国連憲章にも違反する違法不当なものであり、9条を持つ日本はイラクに自衛隊を派遣すべきではない。
  • また、憲法と現実が乖離している場合には、現実を憲法の理念に近付ける努力をすべきであるとの指摘が印象に残った。


◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

●各会派一巡目の発言

保岡 興治君(自民)

  • 西洋に追いつけ追い越せという「欧米モデル」ではなく、新たな国の形を定める「独自モデル」の構築が必要であり、中央官僚主導体制の見直し、道州制の総合的・体系的検討等が必要である。
  • 「一人しあわせ主義」を改め、国家や社会等の共同体における義務、責任についてもう一度考える必要がある。
  • 「一国平和主義」を改め、9条2項の削除、個別的・集団的自衛権等の憲法への明記を検討すべきである。
  • 明確かつ迅速な憲法判断を行うためにも、憲法裁判所的機能の創設を検討すべきである。
  • 憲法改正のための国民投票法を制定したい。


古川 元久君(民主)

  • 65条の行政権は、「執行権」(executive power)と理解すべきであり、そのような理解の下、首相がリーダーシップを発揮できる宰相型議院内閣制を目指すべきである。
  • 現在、改革が進まないのは、(a)政府と与党の二元体制、(b)首相と各大臣の二元体制、(c)政と官の分離という三つの「権力の二重構造」があるからであり、これを改めるべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • イラクへの自衛隊派遣に反対する声があるが、9条を日本が危ないことをしないための口実としているのではないか。
  • 9条の改正を議論する前に、まず、その解釈について、内閣法制局のみに任せずに、国際社会の常識と乖離しない方向で適正な解釈を確立すべきである。


春名 直章君(共産)

  • イラク戦争は、国連憲章に違反し、その根拠とされた大量破壊兵器が見つからないこと等から、不法不当な戦争である。
  • 「先制攻撃理論」は国連憲章の原則への挑戦であるとのアナン国連事務総長の発言を重く受け止めるべきである。
  • 日本は、9条の理念に沿って世界の平和秩序の構築に努力すべきである。イラク戦争支持を撤回して自衛隊の派兵をとりやめ、テロ特措法を廃止するとともに、非軍事の人道支援に全力を挙げるべきである。


北川れん子君(社民)

  •  軍事力で問題は解決できないことから、平和憲法の理念の下で今ある問題をどう解決すべきかを議論する必要がある。
  •  自衛隊は、軍隊としての色彩を強めるのではなく、平和憲法の理念に基づく活動に従事すべきである。
  •  自衛隊内部の人権状況を検証するためにも自衛隊の情報公開は早急の課題である。
  •  日本はこれまで積み重ねてきたアセアン地域フォーラム等における対話を通じて、信頼醸成や紛争予防を図るべきである。


西川太一郎君(保守新党)

  • 日本の歴史・伝統等を踏まえつつ、21世紀の国づくりの根幹をなす新憲法を制定することが不可欠である。
  • 新憲法においては、(a)緊急事態に関する規定、(b)自衛隊の位置付け、(c)集団的自衛権、(d)国際社会への責任・義務等を明記する必要がある。
  • 憲法改正のための国民投票法を制定する必要がある。
  • 地方が有する力を十分発揮させる観点からも地方分権の推進を図るべきである。


●各会派一巡後の発言

大出 彰君(民主)

  • 労働基本権の制約、9条の問題、国会による財政統制等、憲法の条文に沿った運用がなされていない事例について調査する必要がある。
  • 国際政治においても国内政治と同様、戦争等によって引き起こされる人権侵害等を防止する仕組みを構築すべきである。


大畠 章宏君(民主)

  • 米国が、単に理想主義的な観点からのみイラク復興を行おうとしているわけではないと思われる。第二次世界大戦後、米国をはじめとする連合国による日本の統治、憲法制定への関与がどのような意図で行われたかを調査することが、日本の将来を考える上で必要である。


平岡 秀夫君(民主)

  • 海外調査において、米国のアーミテイジ国務副長官が「日本の安保理常任理事国入りは、日本が集団的自衛権の問題について根本的な決断をしなければ難しい」と述べた趣旨は何か。

>仙谷由人君(民主)

  • 同副長官が、「集団的自衛権」と「集団安全保障」の二つの概念を区別して述べたのかは不明である。また、国連を二国間同盟の延長としてとらえ、そもそもこの二つの概念を区別して用いていないことも考えられる。


金子 哲夫君(社民)

  • 現時点において、改めてイラク戦争が何であったのかを、その根拠・正当性を含め、冷静に検証し、その上で憲法論議を行うべきである。
  • 米英により占領されているイラクへの自衛隊の派遣や集団的自衛権行使を9条の解釈変更によって容認することは、立憲主義の見地から問題である。
  • 武力ではなく話し合いや国際協調による問題の解決が、憲法の指し示す道であり、そのような道を歩むことが平和につながることを認識すべきである。


平林 鴻三君(自民)

  • 古川委員の発言に関し、強い首相と弱い首相のどちらが良いのかは、時代に応じて変わるのであり、弾力的に考えるべきである。首相の権限等については、現行憲法で差し支えないと考える。
  • 大出委員の発言に関し、公務員の労働基本権の制限については、各国の国会が責任を持って、判断すべきことである。
  • 時代や国力に応じた自衛力を保持し、危機に備えるべきである。そのためには憲法改正も視野に入れて考えるべきである。


谷川 和穗君(自民)

<古川委員に対して>

  • 民主党は、「行政権」と「執行権」とを区別すべきであるとの主張を、どのような政治スケジュールで実現しようとしているのか。また、その主張は、どのような議論の積み上げを経たものか。

<仙谷委員に対して>

  • UCバークレイ校における仙谷委員の「法治国家として、これ以上の解釈改憲は行うべきでない」との発言の趣旨・背景は何か。

>古川元久君(民主)

  • 現行憲法下においても宰相型システムは導入可能であると考えるが、憲法等の条文の整理についても引き続き検討する。

>仙谷由人君(民主)

  • 集団的自衛権の行使や地方分権の問題について、憲法上、原則を明確にせず、解釈によって解決することは無理である。
  • アジアでの地域的な安全保障体制の構築等は、日本が主導的に進めるべきことであり、憲法の規定がその足枷となってはならない。


大出 彰君(民主)

  • 抽象的違憲審査制度が必要であるという仙谷委員の意見に賛成である。
  • 司法権の守備範囲の検討など、三権分立の中で非効率になっている点を検討していくべきではないか。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • イラク国民の窮状や中東への石油の依存度の高い我が国の状況等にかんがみ、自衛隊の派遣も含め、イラク復興支援に積極的に関与すべきである。
  • 科学技術の進展により安全保障の概念も大きく変わっている。そのような観点から憲法調査会でも議論を進める必要がある。


今野 東君(民主)

  • 現在国会で審議されているテロ特措法の延長は、延長理由に関する政府の説明が不明確であり、41条の観点からも国会軽視と言うべきもので、許されない。