平成16年11月18日(木)(第2回憲法調査会公聴会)

日本国憲法に関する件について、公聴会を開き、公述人から意見を聴取した後、質疑を行った。

◎午前

(公述人)

 社団法人日本青年会議所 2004年度専務理事・2005年度会頭  高竹 和明君

 社団法人アムネスティ・インターナショナル日本事務局長    寺中 誠君

 聖路加国際病院理事長・名誉院長               日野原 重明君

(質疑者)

 松野 博一君(自民)

 辻 惠君(民主)

 佐藤 茂樹君(公明)

 山口 富男君(共産)

 土井 たか子君(社民)

◎午後

(公述人)

 法政大学法学部教授      江橋 崇君

 桐蔭横浜大学法学部教授
  岐阜女子大学名誉教授
  チベット文化研究所名誉所長  ペマ・ギャルポ君

 関西大学法科大学院教授    村田 尚紀君

(質疑者)

 松宮 勲君(自民)

 長島 昭久君(民主)

 太田 昭宏君(公明)

 山口 富男君(共産)

 照屋 寛徳君(社民)


◎公述人の意見の概要 (午前)

高竹 和明君

  • 憲法における問題点は多岐にわたるが、一番の問題点は、我々日本国民がこれを自分たちの憲法として精神的には完全に認めていないことである。その理由の一つに、憲法が翻訳調であり、読みにくく分かりにくいことが挙げられる。
  • 日本国民の自己責任の欠如や公共心・道徳心の荒廃は、米国主導の憲法制定や日米安保条約締結の一連の流れに始まっており、また、ひたすら工業化社会を突き進み、絶対の価値観を経済力に求めた結果でもある。
  • 現行憲法をGHQによって「押し付け」られたことをもって否定すべきではない。なぜならば、憲法の基本原理は、民主主義・平和主義の定着等、超経済大国の形成に大きな役割を果たしたからである。しかし、日本の慣習や伝統、文化が何一つ考慮されず米国に都合のよいように作成された憲法は、我が国の憲法として適しているとは到底思えない。
  • 国民と憲法との感覚的距離は著しく乖離しており、新しい権利など21世紀にふさわしい日本国の在り方を大局的に捉える積極的な憲法論議が必要である。
  • 社会システムが機能不全に陥り、日本の役割や存在の意味さえ失っている現代こそ、自立国家日本の憲法・国の在り方を考えるべきである。その際、憲法論議は、一部の人たちで強引に進めるのではなく、「国民の総意の憲法」をつくり上げるために、憲法調査会等における議論が正確に広く公開され全国展開されていく必要がある。
  • 日本青年会議所は、世界平和の実現と自立国家日本の創造という理念の達成のためにも国民的視点での議論を巻き起こそうとしている。これが、荒廃した人心の一新につながり、日本人の伝統的精神性復活の起爆剤にもなる。
  • 今こそ我々ニュー・ジェネレーションは、米国製の憲法に「手を加える」という生半可な感覚ではなく、日本の伝統的な価値観や、世界の平和と国益とのバランスをしっかり盛り込んだ自立国家「美しき日本」にふさわしい新しい憲法を創造していくべきである。

寺中 誠君

  • アムネスティ・インターナショナルは、不偏不党及び非暴力を活動の信条とする国際的な人権擁護組織であり、1977年には「ノーベル平和賞」も受賞した。
  • 国際人権条約と日本国憲法の人権との連携を重視すべきである。我が国は国際人権主要条約のうち六つを締結しているが、(a)選択議定書に加入せず、本条約にも留保事項があること、(b)国際刑事裁判所に未加入であること、(c)各条約機関が死刑の禁止などの国際人権法の解釈を蓄積しているにもかかわらず、制限的な解釈をしていること等に我々は重大な懸念を持っている。
  • 言論内容により規制判断がなされることは、世界人権宣言等に掲げられた「表現の自由」そのものへの侵害である。先日、我々は、立川の自衛隊官舎にビラを入れただけで起訴された事件を日本で初めて「良心の囚人」として認定したが、公権力の判断に対抗する言論を完全に保障する態度が求められている。
  • 現行憲法は、“people”を国民と翻訳したため外国人の権利が明文化されておらず、外国人の人権保障が不十分である。近時、外国人犯罪の増加により治安が悪化しているとの虚構等が横行しているが、人種差別の助長を禁止する人種差別撤廃条約4条(c)などに違反するものであり、一刻も早く明確な人種差別等を禁止する法制度の整備が必要である。
  • 人権は社会的弱者の救済手段であるため、パワーを持つものが「権利を保護する義務」を負うべきであり、社会的弱者に対して「権利を主張するなら義務も果たせ」というのは論理のすり替えである。
  • 人権規定を列記するだけで満足する「カタログ的権利観」から、誰が権利を必要としているかを見据えた「人権享有主体別の権利観」へと権利観を転換すべきである。

日野原 重明君

  • 私は医者として、地球上の人間は皆同じにできていることを知っており、ヒポクラテスの言う「人に毒を与えない」との誓いの下、医療に従事してきたが、近年科学技術の進歩により、「毒を与える」可能性が出てきた。このようなときこそ、いのちの大切さや他の動物、他の民族との共生が求められているのではないか。
  • 現実の国際情勢は、憲法前文の想定する国際社会と大きく異なってしまった。また、「名誉ある地位」を占めるはずの日本は、原爆の投下により受身になってしまい、そのような地位を占めることができず、いわば前文は、幻の文章となってしまった。日本はたとえ前文の想定する社会が幻であったとしても、国際社会において指導力を発揮していくべきであり、これこそ「名誉ある地位を占めたい」の意味するところであって、前文の提示する理想を実現するということについて国民に問いかける必要がある。
  • 9・11以降、米国とテロリズムは恨みの連鎖の中にあり、日本には、戦争の連鎖反応を断ち切る国際的リーダーシップが求められている。「愛は犠牲を伴う」という言葉を理解して日本は受身の姿勢を改め、国民が日本をつくるという意識の下、安易に憲法を変えるのではなく、国際社会において、非暴力の運動を展開すべきである。
  • ドイツの良心的兵役拒否による代替役務としての社会奉仕活動のように、日本では徴兵制の代わりに、大学卒業後、就職前に一定期間、発展途上国において奉仕活動に従事する制度の創設を提案したい。海外における奉仕活動後、自分の専門分野に従事することが人間形成に資すると思われる。
  • 日本が戦後多くの外国人の献身的な貢献を受けたように、日本もまた国際社会における貢献をなす「人的貢献」が国際協力の在り方として望ましく、それが求められている。

◎公述人に対する質疑の概要 (午前)

松野 博一君(自民)

<高竹公述人に対して>

  • 青年会議所の地域に根ざした活動を行う青年経済人の集まりという趣旨を踏まえ、若い世代の視点、また、地域の視点から見た憲法の問題点とは何か。
  • 公述人の考える我が国の歴史・伝統・文化のよいところとは何か。
  • 公述人は、憲法の規定と現実との間に乖離があると述べたが、それは、具体的にはどういうことか。
  • 青年会議所会員の中では首相公選制の導入に対する積極的な意見が多いと聞いているが、公述人の見解を伺いたい。
  • 公述人は、新憲法制定の決意を述べたが、この点についての若い世代の意識は、どのようなものか。
  • 昨今、政治の中では、「自由競争」「自己責任」「小さな政府」というものが語られることが多いと感じるが、このような価値観に対する見解を伺いたい。
  • 青年会議所は、新憲法の制定を推進する大きな力となり得ると考えるか。

<寺中公述人に対して>

  • 公述人は、パワーを持っているものに「権利を保護する義務」があると述べたが、このパワーを持つものは、国家以外にも存在すると考えてよいか。また、人権を擁護する主体については、憲法上、どのように取り上げられるべきであると考えるか。
  • 表現の自由の概念には、政治的意見の表明のみならず芸術その他のすべての分野における表現の自由が含まれると認識してよいか。また、過激な表現については、子どもに対する配慮の観点から規制が必要と考えるが、いかがか。
  • 被疑者段階での実名報道は、司法の判断を待たないままに社会的制裁を加えることにもつながっており、問題と考えるが、いかがか。

<日野原公述人に対して>

  • 公述人は、前文の提示する理想を実現するということについて国民に問う必要があると述べたが、現在の国民に、理想を実現する覚悟があると考えるか。
  • 長く医療の現場に携わってきた経験から、医療技術の進歩に伴う生命観の変化について、どのように考えるか。

辻 惠君(民主)

<日野原公述人に対して>

  • 最近、憲法改正論議の中で、日本の歴史・伝統・文化を強調する意見が見られるが、歴史・伝統・文化を憲法に書き込むことは近代立憲主義とは相容れないものである。公述人は、憲法改正論議における歴史・伝統・文化の扱いについてどのように考えるか。

<高竹公述人に対して>

  • 「押付け憲法論」は、憲法を議論する上での要素の中の一つではあり得るが、将来、日本の憲法がどうあるかについての議論においては意味がないと考えるが、いかがか。
  • 日本の国連安保理常任理事国入りに対する中国・韓国の態度などから見て、9条改正論が常任理事国入りの障害になっている面があると考えるが、いかがか。
  • 日本の歴史・伝統・文化がいわば衰退しつつある点は多くの人の共通認識になっているが、憲法にこれらを盛り込めば衰退を防ぐことができるというものではないと考えるが、いかがか。

<寺中公述人に対して>

  • 被疑者の取扱いに見られるような刑事司法に関する国際規範と日本の現状の「ずれ」についてどのように考えるか。
  • 精神的自由権は民主主義国家においてもっとも重要な自由であるにもかかわらず、なぜ、立川の自衛隊官舎へのビラ入れ裁判のような事件が急に起こるようになったのか。

<日野原公述人に対して>

  • 前文に関する公述の趣旨は、前文には人類普遍の原理が書かれており、これをどのように能動的に活かしていくのかが重要であるということでよいか。
  • 公述人の意見からすると、自衛隊のイラク派遣は、期限延長することなく撤退すべきであるという結論につながるのか。
  • 世界の平和への日本のリーダーシップの在り方についての考えを教示していただきたい。

佐藤 茂樹君(公明)

<日野原公述人に対して>

  • 未来志向の憲法論議の中で、生命科学や生命倫理をどのように考えるべきか。これらに係る事項を憲法に規定すべきか、法律レベルに位置付けるべきか、あるいは規定する必要はないと考えるか。

<寺中公述人に対して>

  • 外国人の人権として議論されている中で、どの部分を特に重要視して憲法に位置付けるべきと考えるか。

<高竹公述人に対して>

  • 公述における「地球市民の真の平和」や「世界平和の実現」にいう「平和」とはどのような平和を考えているのか。また、国際協力や国際貢献を憲法の中にどのように位置付けるべきか。

<日野原公述人に対して>

  • 公述における「大学を卒業したら、一定期間、世界に出てボランティアをすべきである」という意見は、これを国民の義務とすべきということか。
  • 世界に出てボランティアをするにしても、何の技術も持っていない素人が行っても足手まといになるだけであり、プロとしての教育が重要であると考えるが、いかがか。

山口 富男君(共産)

<高竹公述人に対して>

  • 公述人は、意見陳述の中で、戦後の日本国民について「考えることをやめてしまった」「人心の荒廃した」というフレーズをつけているが、これは青年会議所会員の共通認識なのか。
  • 近代立憲主義は、国民の人権と自由、民主主義を守るために、国民が国家権力に対し厳格な制限を加えるというものである。公述人は、憲法論議は日本人の伝統的精神性復活の起爆剤となると述べたが、これは近代立憲主義との関係でどのように整理されているのか。

<寺中公述人に対して>

  • 国連憲章には、平和のルールや平和を確固たるものにするためには基本的人権の保障及び生活の向上が欠かせないと書かれており、それに基づいて、一連の国際人権条約が作られてきた。公述人は、国際的人権状況の改善と世界の平和を確固たるものにすることには、どのような関係にあると考えるか。
  • イラク戦争やイラクへの自衛隊の派遣について、アムネスティ・インターナショナルは何らかの意見表明をしているのか。
  • 日本が国際人権条約の完全実施に消極的である理由は何か。また、国際人権条約の締約国であるにもかかわらず国内で改善措置が進まない理由は何か。
  • 公述人は「良心の囚人」の問題について指摘したが、こうした問題は、突発的に起きたものなのか、あるいは、日本における人権に係る一連の流れの中で起きたものなのか、その背景について伺いたい。
  • 憲法で定める平和主義や人権をきちんと守ることが、こうした問題を起こさせない鍵となると考えるが、いかがか。

<日野原公述人に対して>

  • 公述人は、現行憲法の中で平和を実現する枠組みを考えるべきであると述べたが、今の日本国民にはこうした力があると考えるか。

土井 たか子君(社民)

<日野原公述人に対して>

  • 最近、24条を見直して家庭や家族の位置付けを重視するという国家主義を感じさせる意見がみられ、心配している。公述人は、家族関係における個人の尊厳について、どのように考えるか。
  • 最近のイラク・ファルージャへの米軍の攻撃は、国際人道法に違反する行為である。このような事態に対して、日本は国連安保理非常任理事国としてリーダーシップをとるべきと考えるが、いかがか。

<高竹公述人及び寺中公述人に対して>

  • 21世紀における日本の国家像のあるべき姿について見解を伺いたい。

◎公述人の意見の概要 (午後)

江橋 崇君

  • 市民は憲法典の文章の改正にはさほど関心がないが、国の基本的な在り方、すなわち実質的な憲法問題には深い関心がある。
  • 9条の平和主義は、当初、近代的な国家と戦ったことへの反省という文脈で語られていたが、日中国交回復を契機に、アジアにおける侵略と犯罪を反省する要素が加わった。この変化の背景には、政府与党の努力だけでなく、日本社会の各方面での努力があり、占領軍から与えられた憲法に日本の社会や市民が新しい命を吹き込んだと言える。21世紀の平和主義を憲法典に書き表すのであれば、日本がアジアで起こした戦争に対する反省と、東アジアにおける和解と友好、協力を国家原則として盛り込むべきである。
  • 日本では、「回復の人権」を占領軍が日本の官僚に与え、官僚がそれを市民に与えるという、いわば二重の「恩賜の人権」が実現したが、朝日訴訟を契機に、市民が裁判を通じて国家の人権実現の責任を追及するようになり、憲法の人権規定に「回復の人権」の性格が与えられた。さらに市民運動を背景に政策的な人権の実現が求められ、国際人権保障とも連携して前進が見られた。憲法改正に当たっては、新しい人権についての規定を設ける議論よりも前に、人権実現に向けての政府の責任を明確化するとともに、国政の場と裁判の場でそれを保障する責任を明確にすべきである。
  • 官僚主導の国家運営の破綻に対し地方分権による打開が図られ、「地方の時代」になった。地域の持続的発展と市民の参画を掲げる首長の下で地方自治が展開され、憲法の地方自治規定は、市民の運動により新しい命を吹き込まれた。こうした中で、地方自治について憲法学からの助言が少ないことは残念である。本調査会において、自治の重要性について、市民が作ってきた自治体学の成果を取り入れて深い議論が行われ、市町村レベルの自治体及び国家が段階的に配慮の責任を負い、さらには国際社会における協力関係が確立されることを期待する。
  • 市民は、日常における人権保障から国家全体の安全保障まで、国家の在り方について多くのことを主張し、運動を展開し、票を投じてきた。21世紀は政府と市場と市民社会が公共性を分有し、中央政府と地方政府が対等に協力し合う公共性の分有の時代であり、憲法も、政府と市場と市民社会が共有できる価値を含む基本原則であるべきである。

ペマ・ギャルポ君

  • 日本は民主的な法治国家であり、私がこれまで日本社会の豊かさ・便利さや自由を享受してこられたのも憲法の恩恵であると評価し、感謝している。日本国憲法については、与えられた憲法との評価もあるが、明治以来の日本人の人権や民主主義のための闘いの成果と評価している。
  • 日本が今後国際社会で生きていく上で、9条には非現実的側面がある。すなわち、9条は、一方的な戦争放棄であって、単なる宣言にすぎず、それを尊重するような国際社会も、それを保障する国際法も存在しない。チベットでも仏教の戒律である生命の尊重を国法の基本とし、平和を信じてきたが、侵略・虐殺を受け、これに対して、国連も無力であった。今の国際社会は、残念ながら力と既成事実により成り立っている。
  • 自衛隊の存在は、条文上は、憲法違反としか考えられない。戦争と飢餓を経験してきた者として平和の尊さは知っており、9条の理想は理解できるが、現実はそうなっていない。平和の恩恵を受けるためには、平和を守ることが必要であり、そのためには、憲法を改正する必要がある。
  • 自由には、モラル、節度を伴うが、若者の道徳の欠如は、日本ならではの伝統・文化が憲法に欠けていることによるのではないか。日本の伝統、文化や世界の現状、地球、人類の将来を考えて、憲法を改正する必要がある。
  • 憲法上、天皇の地位をもう少し明確にすべきではないか。
  • 日本が平和を維持できたのは、憲法だけではなく冷戦構造にもよるが、冷戦構造が崩壊した現在、日本は、今後も現在の憲法を堅持するのであれば、それに合わせて国際環境を作っていくことに貢献する必要がある。
  • 憲法は、あくまで主権者たる日本国民、その代表たる国会議員が、子孫が恩恵・束縛を受けることを前提に、日本・アジア・人類の未来のために貢献できるものとして考えるべき問題である。

村田 尚紀君

  • 立憲民主主義は、人類が発見した最高の統治形態である。
  • 憲法とは、授権規範、制限規範、最高法規としてとらえることができる。授権規範としての憲法は、公権力に権限を与える規範である。制限規範としての憲法は、公権力を制限する規範であって、公権力の限界を明らかにするものである。憲法が最高法規であるとは、形式的には、憲法に反する規範は無効であることを、実質的には、憲法が国家や社会にとって最高の価値を内包し、時々の多数派が簡単に乗り越えられないものであることを意味する。
  • 憲法の民主的な解釈・運用の前提である国民の意思が国会に忠実に反映されるかどうかが問題となっている。選挙制度は、43条等により法律で定めるとしているが、参政権が国民固有の権利であること、差別が禁止されていること等を踏まえて定められるべきであって、最高裁判所もこの趣旨を判決で確認している。しかし、小選挙区制が多様な民意を反映する制度ではないこと、在宅投票制度が極めて限定的であること、公約が守られないために政治不信を招き、低投票率となっていること等の問題がある。
  • 憲法の解釈では、テキスト(文言)が尊重されるべきであり、それは、授権規範、制限規範という憲法の規範的特質を尊重することであるが、明文規定のない個別的自衛権を自衛隊設置の根拠とするなど、9条や政教分離原則について、このような憲法の規範的特質を無視した解釈が行われている。
  • 新しい人権については、憲法が「権力」に対する制限規範であること等から明文がないとしても認められるものであり、現行憲法の下でも知る権利等は認められるのであるから、憲法を改正する必要はない。
  • 憲法は武力によらない平和への貢献を国家に授権しており、そうしたことが国際社会の友好関係を発展させるものである。
  • 今日、憲法改正ではなく、民主的な解釈・運用が望まれる。

◎公述人に対する質疑の概要 (午後)

松宮 勲君(自民)

<江橋公述人に対して>

  • 個人的にはアジアにおける戦争に対する反省等を改正によって憲法の基本原則の一つとして盛り込むことには疑問を持つが、盛り込むとした場合、具体的にはどのように条文化すべきと考えるか。
  • 公述人は、9条について自衛隊が合憲であることを確認すべきとするが、現行憲法下の自衛隊は合憲と考えていると理解してよいか。
  • 「人間の安全保障」という概念に代表され、また、21世紀の国際社会の平和と安定のために日本が行うべき非軍事面での国際貢献について、前文を含めて憲法上、新たに明記すべき点があると考えるか、あるいは現在の規定で十分であると考えるか。
  • 公述人は、人権の実現に向けての政府の責任の明確化や、国政や裁判の場においてこれらを保障する責任の明確化を主張するが、この点について詳しく説明していただきたい。
  • 各国の時代や社会状況等により人権保障の在り方は異なっていると考えるが、いかがか。
  • 現行の都道府県制が施行されてから長期間が経過し、時代も変化しているが、地方分権・地方主権を実現するための道州制の導入を含めた地方自治の在り方について、どのように考えるか。

<ペマ公述人に対して>

  • チベットの置かれた状況や現在の国際情勢を踏まえて我が国の安全保障を考えたとき、前文と9条について、どのように考えるか。
  • 天皇の地位について、公述人は統合の象徴というよりも日本の伝統、文化等の中心であることを国内外に対し明確化する必要があるとするが、天皇は元首であると考えるか。

<村田公述人に対して>

  • 公述人は、現行の小選挙区制は死票が多く多様な民意が反映されず、立憲民主主義の観点から問題があるとするが、多様な民意を反映する選挙制度とはどのようなものか。
  • 一票の格差について、一般に衆議院は2倍以内、参議院では5倍以内とされているが、一票の価値が衆参で異なる点についてどのように考えるか。また、米国では、人口の多い州も少ない州も同様に2名の上院議員を選出し、民意を集約しているとされるが、この点についてはいかがか。
  • 公述人は、個別的自衛権についてさえ明文化されていないことは問題であるとし、この点に日本の立憲民主制の危機があると述べたと理解したが、それでは現在の解釈に問題があるのか、それとも公権力の一端として国民の生命・財産を守る自衛隊の存在自体に問題があると考えるか。

長島 昭久君(民主)

<村田公述人に対して>

  • 個別的自衛権すらないとの公述人の意見によると、我が国には自然権的な自己保存の手段もないことになるが、これが本当に立憲主義の解釈と言えるのか。国家あるいは政府には全く裁量の余地はないのか。
  • できる限り外交努力等の平和的手段で国際紛争を解決すべきだが、仮に急迫不正の侵害を受けた場合にも、自己を守る手段をとり得ないのか。

<江橋公述人に対して>

  • 人権の実現に当たっては、市民運動の結果として裁判や国政の場で人権を回復していくべきか、あるいは市民運動の成果を盛り込んだ憲法の改正によって人権を回復していくべきか。
  • 日本に暮らす外国人に普遍的に人権を享受させるべきであるとの議論についてどう考えるか。
  • 永住外国人への地方参政権の付与に関して、国籍取得要件を緩和した上で国籍を取得した場合にのみ参政権を認めるべきとの議論があるが、公述人はどう考えるか。
  • 93条に「住民」と規定されていることが、外国人に地方参政権を認める根拠になり得るのか。

<ペマ公述人に対して>

  • 長期間我が国で暮らしている中で、日本国籍がないことにより不利益を蒙った経験はあるか。
  • 国連憲章と9条の関係について、どう考えるか。

<村田公述人に対して>

  • 憲法には103箇条しか存在しないため、制定時に想定していないことが起こり得ると考える。憲法の文言や規範性に固執しすぎると、改正することによってしか対応策がとれないのではないか。

太田 昭宏君(公明)

<江橋公述人に対して>

  • 我が党の「加憲」の立場は、(a)現行憲法を積極的に評価するものであること、(b)憲法の継続性が重要であること、(c)96条2項にアメンドメント(修正条項を付加する改正方式)のニュアンスがあることから、極めて現実的・具体的であると考えるが、公述人は憲法改正のイメージ、「加憲」についてどう考えるか。
  • 国家対国民という憲法の基本構造はそのままにして、権利、義務に加えて、憲法に責任という概念を挿入することが必要であると考えるが、いかがか。
  • これからは共助・共生の概念が重要になってくるものと思われるが、これらの概念と責任との関係について、また、これらを憲法に挿入することについてどう考えるか。

<ペマ公述人に対して>

  • 憲法に日本の文化や伝統の規定がないため、これらが希薄化し、国家としてのアイデンティティが失われつつあるという議論がある。国の文化や伝統についてどのように保持し、育てていくのが良いと考えるか。

山口 富男君(共産)

<村田公述人に対して>

  • 現在の憲法状況が、なぜ立憲主義の危機と言われるような事態に陥ったのか。このような「ゆがみ」を正す展望はあるのか。

<江橋公述人に対して>

  • 70年代以降の市民運動によって憲法に新しい命が吹き込まれたと公述人は述べたが、これは、もともと憲法の持っている力が、市民運動や判例によって現実化したと理解してよいか。
  • 主権者たる国民が政治権力に憲法を守らせるということが、憲法の内在的価値を実現する力となると言えるのではないか。

<ペマ公述人に対して>

  • 憲法は、国際環境により影響を受ける。21世紀においてアジアが戦争の舞台となっている中で、単独行動主義、先制攻撃という米国の世界戦略と我が国との関係をどう考えるか。

<村田公述人に対して>

  • 9条を中心とした憲法の平和主義が1946年に生まれたという歴史的背景をどう考えるか。また、21世紀の世界やアジアにおいて、9条がどのような役割を果たすと考えるか。

照屋 寛徳君(社民)

<江橋公述人に対して>

  • 沖縄における米軍ヘリ墜落事故の対応に見られるように、最高法規としての憲法規範と、日米安保条約を頂点とする特別法、地位協定等の法体系が衝突しており、前者が後者によって侵食され、主権が侵害されている。このような衝突を、平和主義との関係でどう考えるか。

<村田公述人に対して>

  • 日本国憲法は、世界で初めて平和を人権の一つとして保障している。平和的生存権は、裁判規範として確立していないとの意見もあるが、長沼事件の第一審判決では認められた。私は平和的生存権を大事にしたいと考えているが、いかがか。

<江橋公述人及び村田公述人に対して>

  • 衆参の憲法調査会で、憲法には国民の権利規定が多く義務規定が少ないとの意見を聞くが、立憲主義の立場から義務規定を増やすのはおかしいと考える。自民党憲法改正草案大綱では、徴兵制を禁止する一方で、国民の義務として「国防の責務」を提案している。これは結局、徴兵制へとつながるおそれがあると考えるが、いかがか。