平成17年2月3日(木)(第1回)

◎ 会議に付した案件

日本国憲法に関する件

1.天皇

上記の件について、委員間で自由討議を行った。

2.安全保障・国際協力・非常事態

上記の件について、委員間で自由討議を行った。



《天皇》

●各会派一巡目の発言の概要

船田 元君(自民)

  • 天皇は、国際的には事実上の元首と認識されているが、4条1項で国政に関する権能を有しないとされていることから、元首と明記することには慎重であるべきである。
  • 象徴天皇制についての憲法の記述はやや簡潔に過ぎる。「我が国の国柄を象徴する存在」や「国民の幸福を願う象徴」等の如く、より具体的に記述すべきである。
  • 女性天皇の是非は皇室典範の問題であるが、皇室の安定性等の関係から、認める方向で憲法論議もすべきである。
  • 皇位継承を男系の男子とし、女性天皇は一代限りとする意見もあるが、それでは皇室の安定性を確保できないことから、現行憲法の「世襲」を幅広く解釈し女系による世襲も認めるべきである。
  • 女性天皇の配偶者の問題については、英国のエジンバラ公のように欧州の王室の例に倣えばよい。
  • 継承順位は、お世継ぎが早期に決定することから長子優先にすべきである。そうすると女性皇族にも皇位継承の可能性が生じ、宮家創設の必要性が出てくるが、皇室財政の圧迫を避けるため、一定の基準を設けるべきである。
  • 天皇の象徴としての地位をより強固にするために、国事行為のほかに、内閣の責任の下に公的行為を憲法で認めるべきである。この公的行為とは、(a)天皇の象徴としての行為と(b)皇室行為の二つである。


大出 彰君(民主)

  • 現行憲法1章は「天皇」と規定され、1条においても主権者である国民は間接的に規定されているに過ぎない。1章を「国民」と規定し、1条は「日本国民」からはじめ、国民が主人公であることを明確にすべきである。
  • 明治憲法と現行憲法のつながりについて、2条に「世襲」とあることから、過去との連続性を強調する意見もあるが、現行憲法は、明治憲法における天皇主権をやめ、国民主権の国家をつくったのであり、賛成できない。
  • 世襲による象徴天皇制は、(a)国民主権との関係で主権者意識を希薄にする機能を有していること、(b)基本的人権との関係では、出生による差別を禁止する14条との関係が問題になることに留意する必要がある。
  • 元首とは、内においては行政権の長であり、外においては国の代表者であることから、我が国の元首は天皇ではなく、内閣総理大臣である。
  • (a)世論調査でも86%が女性天皇を容認していること、(b)世襲とは代々受け継がれることを言い、男女を区別する合理的理由もないことを踏まえ、皇室典範の改正は必要である。
  • 皇族女子が皇族以外の男性と結婚した場合の皇籍離脱の規定は削除すべきである。ただ、そうすると宮家が無制限に増え、皇室財政の増大が懸念されることから、議論を深める必要がある。
  • 女系の女子にも皇位継承権を認めるべきである。また、皇位継承順位については、男子優先型と長子優先型とがあるが、男女平等原則にのっとり長子優先型を参考にすべきである。
  • 女性天皇の配偶者の地位については、英国の例に倣えばよい。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 我が党の立場として、現行の天皇制の規定に関して加憲することは特にない。
  • 象徴天皇とは、権力なき権威の存在を示し、象徴天皇制は広く国民に定着しており、的確であり、維持していくべきである。
  • 天皇の元首性については、あくまで象徴天皇であるとした上で、表現として「元首」と呼んでもよいという意見もあるが、国政に関する権能を与えるなど強いものにしない方がよいという意見が強い。また、現行の国事行為は、受動的・儀礼的なものであり、異論はほとんどない。
  • 象徴天皇制と国民主権の関係性については、よりクリアにした方がよいとの意見もあり、今後の検討課題とすべきである。
  • 女性天皇については、皇室典範の改正論議に委ねるが、認める方向で検討すべきである。伝統の尊重と柔軟な対応が求められている。


山口 富男君(共産)

  • 本調査会は、憲法調査会規程1条によれば、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」機関であって、憲法改定のための論点整理をする場ではない。また、報告書についても、同規程2条によれば、「調査の経過及び結果を記載した報告書」とあるだけであり、憲法改定について何らかの方向性を出すことができるわけではない。
  • 明治憲法下の天皇は、統治権の総攬者として規定され、軍の統帥権を持つ存在であったが、現行憲法下の天皇は、国民主権原理に基づく象徴的機能を有する機関として規定された歴史的経緯を重視すべきである。その観点から、内閣の助言と承認に基づいて行われる儀礼的行為である国事行為等については、厳格に運用されるべきである。
  • 行政府の長であり、国を代表する機関としての元首は、内閣総理大臣がこれに該当するのであり、天皇を元首として規定することには、歴史的経緯からみて反対である。
  • 一人の人間である天皇が国民統合の象徴とされるのは、人間の平等の原則には反すると思われるが、天皇制の存廃については、将来の国民の総意に基づいて歴史の中で解決されるべき問題と考える。


土井 たか子君(社民)

  • 最終報告書が改憲への方向性を出すとする新聞報道や国会法改正により本調査会に議案提出権を与えようとする動き、憲法改正に意欲的ともとれる首相答弁等の一連の流れについては、憲法の危機であり、強い危惧を感じる。
  • 1条前段の天皇の象徴の機能は、1条後段の国民主権原理に対応して新たに創設されたものであり、明治憲法下の君主としての天皇制に内在していた象徴を存続させたものではない。
  • その意味で、日本は、ある種の共和政体であり、天皇は、君主としての元首とはいえない。
  • 皇位継承について、2条を読む限り、憲法は、男女の区別や男系女系の区別をしていない。
  • 現行憲法の天皇制は、絶対君主制の否定と近代立憲主義の到達点である国民主権原理との調和を図ったことに意義がある。


●各会派一巡後の発言の概要

赤松 正雄君(公明)

  • 天皇在位10年の際の皇后のおことばから、現在の象徴天皇制は、多くの制約の中で、精神的よりどころたる象徴としての役割を果たさなければならない状況にあると察する。私見では、象徴としての具体的役割を明確にした方がよい。
  • 女性の皇位継承は、常識的に考えて認められてよい。ただし、その議論以前に皇室典範9条の養子禁止規定を見直す等の手段があるとの意見にも耳を傾けるべきである。


早川 忠孝君(自民)

  • 国会に憲法調査会が設けられることにより、かつてはタブーであった憲法の議論が可能となったことを高く評価する。
  • 憲法論議の際には、憲法を読み解く観点と憲法をつくる観点があり、私は後者の観点から考えてきた。その際、白紙から考えることは難しく、歴史・伝統を踏まえ、制定経緯を考えることが重要である。
  • 憲法の制定経緯を振り返ると、イラクやアフガニスタンと比較すれば明らかなように、ポツダム宣言受諾における天皇の役割は重大であり、憲法上、象徴天皇制は絶対に維持すべき重要な要素である。


葉梨 康弘君(自民)

  • 憲法の制定経緯や条文の建て方から、天皇が、(a)我が国を代表する存在、(b)権威の中心としての地位を有することは明らかである。
  • 憲法改正によって、国民主権を1条に掲げ、天皇については2条以下に持ってくるという構成をとるのであれば、天皇の元首性について明記する必要がある。
  • 皇室祭祀の一部については、準国事行為として認めるべきである。そもそも、この問題は7条ではなく20条の問題であり、20条の議論が適正に行われれば、国事行為の儀式として読み得る範囲は自ずと広がるはずである。
  • いわゆる皇室外交についても、国事行為として明確に定めるべきである。
  • 一般家庭でさえ、祭祀については、男系が基本で、緊急避難的に女系が行っているというケースが多い。よって、女性天皇を認める場合も、同様のケースをとってもよいのではないか。


柴山 昌彦君(自民)

  • 天皇を元首と明記することは、天皇が政治に関与するという誤解を招くおそれがあるため、慎重に検討すべきである。
  • 天皇制が我が国の伝統・文化を体現する存在であることを考えると、皇位継承について急激な改革を行うことには慎重であるべきである。よって、女性天皇には賛成であるが、長子優先とすることには疑問がある。
  • 男子優先か長子優先の議論は、宮家の増加、女性天皇の配偶者、摂政のあり方等さまざまな問題をはらむものであるため、世論の動向を見つつ、議論すべきである。
  • 公的行為については、国事行為と同様、内閣の助言と承認を得ることを前提とした上で、認めるべきである。ただし、憲法への明記については、更なる検討が必要である。


保岡 興治君(自民)

  • 天皇は、国民全体の長い歴史の中でつくられた権威として、歴史的に国民の平和や幸せにつながる貢献をしてきた。この歴史的事実を考え、憲法の冒頭には、天皇は我が国の元首であり、歴史・伝統・文化及び国民統合の象徴として我が国の平和と繁栄と幸せを願う存在であるという「国のかたち」として定めるべきである。


池坊 保子君(公明)

  • 天皇を元首と明記するか否かという問題は、憲法制定時の議論に尽きているのではないか。すなわち、元首という言葉を用いれば、国民が天皇の地位を必要以上に権力的に考えるおそれがあるが、象徴という言葉にはそのような連想がないというものである。
  • 私的行為とされる歌会始の儀や新嘗祭などは、歴史的に継承されるべきものであり、その存在価値や意義は大きい。よって、公的行為については、皇室典範に明記すべきである。
  • 女性天皇を認め、長子優先とすべきである。男子優先では、女性は補完的存在に過ぎないままである。
  • 戦後の宮家削減が、階級制度の撤廃、財政的負担の軽減という観点から行われたことを考えると、女性天皇に伴う宮家の増加については、慎重に議論すべきである。


古屋 圭司君(自民)

  • (a)国民世論の賛成があること、(b)お世継ぎ問題の重圧から皇室を解放すべきことの観点から、女性天皇を認めるべきである。
  • 女性天皇に伴う宮家の増加は、財政負担の問題が存在するため、一定の歯止めは必要である。その観点から、宮家の長子限定継承は、一つの考え方として評価する。


枝野 幸男君(民主)

  • 天皇制が他国の王室に比して長く存在しているのは、他国の王室制度とは異なる形で存在してきたからである。もし、天皇を「元首」という言葉で表せば、こうした他国の国王や皇帝といった存在と天皇が横並びになってしまい、天皇の安定性・特殊性を損なうことになるのではないか。
  • 7条の定める国事行為のうち3号、9号及び10号は異色のものである。3号の衆議院の解散については、国会法等でその要件を定めるべきである。また、具体的な法的効果が生じない9号及び10号については、国事行為とは異なる整理をした方が分かりやすい。


永岡 洋治君(自民)

  • 男系男子による皇位継承は我が国古来の伝統だが、皇統の安定のためには、皇室典範を改正して、男系女系を問わず長子優先の継承とすべきである。
  • 皇室典範の改正権限を有する国会には、天皇制の安定を図る責務がある。8割近くの国民が女性による皇位継承に賛成している今、皇位継承を男系男子に限るという伝統に固執することは、皇位を不安定なものにするばかりか、国民の総意にも反する。
  • 皇室典範の改正に伴い、配偶者の問題や女性による宮家の創設などの問題が起こりうるが、これは、諸外国の事例などに学びながら将来を展望した議論を展開することで解決を図るべきである。


山花 郁夫君(民主)

  • 女性天皇を認めるためには憲法改正が必要であるとの意見は少数であると思うが、皇位継承を定めた皇室典範は憲法に準ずる法規範であることから、女性天皇を容認するか否かについて、憲法改正の手続に倣い国民投票に問うことも考えられるのではないか。


高木 陽介君(公明)

  • 象徴天皇制は国民の共通認識となっており、1章に追加すべき事柄はない。
  • 象徴天皇制の規定は、国民主権・基本的人権の保障の原則との調和を考慮して制定されたものであり、現在の精神的支柱・象徴としての天皇の位置付けがふさわしい。元首とすることは、かえって国民に定着している象徴としての認識が薄められるおそれがある。
  • 諸外国の状況、国民の世論の動向から、女性天皇を認めていくべきである。


山口 富男君(共産)

  • 天皇を歴史的な存在や政治的権威として位置付けることは法規範上正しくない。あくまでも主権在民下の一つの機関であり、明治憲法とは異なる存在として規定されたものである。
  • 天皇が対外的に国を代表する役割を果たしているとして、元首と位置付けるべきだとの意見があるが、天皇は、憲法上、外国との関係では内閣の助言と承認に基づいて形式的・儀礼的な役割を与えられているに過ぎない。もし、対外的に国を代表するような役割を果たしているとすれば、それは制度の運用の方が憲法に違反しており、そのような運用を改めるべきである。


野田 毅君(自民)

  • 天皇は、文化と歴史を体現し、政治権力に正統性を与える権威をそなえた存在と位置付けるべきである。


中川 正春君(民主)

  • 1条及び2条の規定に問題はなく、天皇及び皇族は、象徴としての役割を果たしており評価されるべきである。


加藤 勝信君(自民)

  • 天皇の地位については、現在の象徴天皇制というあり方が国民の間に定着しており、また、安定したものであると認識しており、「元首」と規定することは、誤解を与えることになると考える。
  • 皇位継承の問題については、現在の皇室の状況に即した議論によって結論を出すべきである。なお、宮家の問題については、皇室財政の側面からの議論ばかりでなく、現に、各宮家が果たしている役割という側面からの議論も必要である。


園田 康博君(民主)

  • 「元首」という言葉の持つマイナス・イメージは、それが旧憲法を連想する点にあると思われる。従来のような元首ではなく、「象徴としての元首」という新たな定義付けを行うべきである。
  • 「国政に関する権能を有しない」という4条の規定は、厳格に運用されるべきであるが、国事行為以外に、「象徴行為」を新たに位置付けてはどうか。
  • 皇室典範については、皇室経済法と合わせて「皇室法」として考えるべきである。


鹿野 道彦君(民主)

  • 象徴天皇制に関する規定は、現在のままでよい。「象徴」という言葉は、かつて芦部信喜教授が述べていたように、文学的・心理的意味を有しており、英連邦憲章やスペイン憲法でも用いられているものであって、4条の「国政に関する権能を有しない」ということと結びついたものである。
  • (a)元首は対外的な代表権を有しているが、天皇が行っているのは単に認証と接受であること、(b)現在では、諸外国においても元首の地位は名目化していること、(c)天皇は、実質上の元首とみなされていることから、あえて「元首」と明記する必要はない。むしろ、そのことにこそ意味がある。
  • 皇室典範については、時代の潮流等に合わせ、女性による皇位継承を認める方向で議論がなされるべきである。


松野 博一君(自民)

  • 天皇は、憲法上、特殊の地位を与えられている。また、天皇の有する権威には、宗教的要素も否定できないことにかんがみ、皇室祭祀については、政教分離原則にとらわれることなく、広範囲に認めるべきと考える。
  • 女系の皇族による皇位継承については、検討課題はさまざまあるが、認めていくべきと考える。ただし、この問題は、男女平等といった議論によってなされるべきではない。


松宮 勲君(自民)

  • 天皇の地位については、現行憲法の規定はよくまとまっており、このままでよいと考える。象徴天皇は、元首の形式的な機能を有しており、それ以上のものでも、また、それ以下のものでもない。
  • 皇位継承については、女系の皇族による継承を認め、かつ、継承順位も男女の別なく長子優先としていくべきである。


保岡 興治君(自民)

  • 天皇を「元首」と明記する必要性は、対外的な側面にかんがみてのことである。そうした観点から、天皇が諸外国を訪問した際に、各国から「元首」としての接遇を受けているのか検証すべきである。
  • 天皇の行為については、国事行為外の行為についても、憲法に明確に位置付けるべきと考える。


三原 朝彦君(自民)

  • 天皇は、現在に至るまで国民から尊敬と信頼を受ける存在であり続けており、現行の象徴天皇制の存続は望ましいと考える。


早川 忠孝君(自民)

  • 前文で国民主権に触れ、1条で天皇制及び国民主権に触れている現在の条文形式は、バランスがとれたものとして評価できる。
  • 女性の皇位継承など、天皇制を維持していくための担保として皇室典範の整備等は必要だが、現時点の象徴天皇制を評価する世論調査等にかんがみ、元首として位置付けるべきか否かは、国民的議論に任せるべきではないか。


枝野 幸男君(民主)

<保岡委員の発言に関連して>

  • 私は、天皇が国際社会において、ある種の元首的扱いは受けていると思っている。もしそうでないならば、それは政府・外務省の責任問題である。
  • 天皇は、諸外国の大統領や王としての元首とは異なる存在であったのに、明治憲法において、プロイセン憲法に倣い、それらと同様のものとして規定されたために、60年前に天皇制は危機に陥った。現在の象徴天皇制は、むしろ本来の姿としてふさわしいとも思える。


中山 太郎会長

<保岡委員の発言に関連して>

  • 私は天皇の外国訪問の際に、首席随員を務めた経験があるが、我々の期待するとおりの非常に丁寧な対応を受けていたことを申し上げておきたい。


山口 富男君(共産)

  • 天皇は国政に関する権能を有しないのであり、元首と位置付けるべきではない。また、1条に規定される天皇の象徴性を明治憲法との連続性の観点で述べる意見があるが、象徴天皇制は、主権在民の理論に基づいて新たに創設されたものであり、権力や権威とは関係ない。


大出 彰君(民主)

  • 明治憲法が天皇を元首と規定したのは、憲法により天皇の権限を制御しようとの意図があったが、象徴天皇制の下において天皇を元首と明記することは、それと逆の方向に働いてしまう可能性がある。また、天皇を権威と位置付けるべきとの主張があるが、前文に「その権威は国民に由来し」とあることを思い起こすべきである。


《安全保障・国際協力・非常事態》

●各会派一巡目の発言の概要

近藤 基彦君(自民)

  • 他国の侵略から武力により国と国民の安全を守るための体制整備が必要である。また、国際貢献の理念として、正当性がある場合に軍事力の提供をも含む支援を行う「人道上の人間の安全保障」を提示すべきである。
  • 9条1項は堅持し、2項を削除あるいは改正することにより集団的自衛権も含む自衛権の行使が認められることを明確にすべきである。ただし、自衛権の行使は抑制的であるべきであり、特に、集団的自衛権の発動は、我が国の死活的な利益に重大な影響がある場合などに限定し、国会の関与などを憲法に規定すべきである。
  • 多国籍軍をはじめとする国際的な合意に基づく国際的共同活動への積極的参加を憲法に規定すべきである。その場合、武力行使が必要な場合も想定し、「人間の安全保障」の考え方についても規定すべきである。
  • 自衛隊を国の防衛及び国際貢献を担う主体として憲法に位置付けるとともに、シビリアン・コントロールの原則を規定すべきである。
  • 非常事態に対処し、超法規的な運用を招かないようにするために、一時的な権限の集中や人権制約などに関する規定を憲法に明記すべきである。
  • 最終報告書は、国民の信託に応えるためにも、明確な形でまとめられることが望ましい。また、最終報告書の提出後には、議案提出権を有する機関において、憲法改正の発議と国民投票法の整備がなされるべきである。


中川 正春君(民主)

  • 国際貢献については、今までの解釈による対応が、限界に来ている。我が国は、PKOや国連憲章の定める強制的措置に、武力の行使を含めて柔軟に参加していくべきである。ただし、武力の行使については抑制的なものとし、治安維持や平和維持のための最小限の装備で参加すべきである。
  • 専守防衛は、堅持していくべきである。その際、個別的自衛権は当然認められるが、集団的自衛権については、日米同盟関係の再検討を同時に行う必要がある。我が国として核武装はせず、イコールパートナーとはならないことを示すべきである。
  • イラクへの自衛隊の派遣は、日米同盟を根拠とすべきではなく、国際貢献として何をなすべきかによって判断していくべき問題である。
  • 地域安全保障の枠組の構築に当たって、米国を含めた「北東アジア安全保障機構」構想の中で、朝鮮半島の扱いを考えることが重要である。地域安全保障や国連の集団安全保障については、軍事的参加が前提となることから、その枠組に参加できる国内体制を整備すべきである。


太田 昭宏君(公明)

  • 現行憲法は優れており、大きな役割を果たしてきた。公明党は、憲法の三原則及び9条を堅持した上で、環境権、プライバシー権等を加憲する立場である。
  • 9条は侵略戦争及び海外での武力行使を禁止しており、平和の理念をアジアに発信し、我が国の経済発展の根源となった。9条1項及び2項を堅持すべきである。
  • 自衛隊は合憲であり、9条は必要最小限の自衛権の行使を否定していない。専守防衛の下で、攻撃的な兵器の保有は認められない。党内には、9条3項に自衛隊を加憲するとの意見や、合憲である以上その必要はないとの意見があり、今後も加憲論議の対象としたい。
  • 我が国は、国際貢献として、テロ対策や災害対策を国連と連携して行うべきである。その根拠を憲法に規定することの是非については、党内に賛否両論があり、今後も加憲論議の対象としたい。
  • 集団的自衛権の行使についての政府解釈は、政治的に賢明であり支持できるが、その行使によるリスクを含めて議論すべきである。


山口 富男君(共産)

  • 9条は、日本が戦争を放棄するという国際的な公約であり、戦争のない社会の先駆けになる決意が込められている。
  • 9条は国連憲章の理念を受け継ぎ、戦力不保持と交戦権の否認により、それを一歩進めたものであり、日本のみならずアジア共有の財産である。
  • 9条は海外における武力行使に対する明確な歯止めとなっているが、日本は現在、9条を守り生かしていくか、日米軍事同盟中心でいくかというせめぎ合いの中にある。
  • 世界の現実としては、イラク戦争が国連憲章にも安保理決議にも反する無法な戦争であることが明らかになっている。国際社会は、改めて9条に注目しており、国連NGO会議においても取り上げられている。
  • 9条を改正して集団的自衛権に基づく海外での武力行使を容認することは、国際政治に逆行した動きである。米国の先制攻撃主義、単独行動主義を許さないことこそ、憲法に基づく国際的平和実現という意義を持つ。


土井 たか子君(社民)

  • 9条は変える必要がなく、活かしていくべきであり、政治にはその責任がある。戦争放棄と紛争の平和的解決を原則とする点で、国連憲章と憲法は同一線上にあり、9条を一国平和主義とする批判は当たらない。
  • 国際的諸課題の中でも最も重要なのは、戦争を起こさないことである。我が国だけではなく、アジアの全ての国々がそれを目的とした枠組をつくることが9条を活かしていくことになる。
  • 自衛隊の海外出動や米国の単独主義的行動への追随をもって国際協調と考える風潮の中で、9条を改正し、自衛隊や集団的自衛権を認めることには反対である。
  • 国民に国防の義務を課すことは、人権制限の問題を生じ、憲法の根本理念や存在意義を失わせる。
  • 9条の原則を活かして、アジアや世界における平和と共生を実現することが21世紀の課題である。

●各会派一巡後の発言の概要

早川 忠孝君(自民)

  • 自衛隊違憲論もあることから、その憲法上の位置付けを明確にすべきである。
  • 個別的であると、集団的であるとを問わず、自衛権は一体のものである。行使に当たっての制約を憲法に規定することについて議論すべきである。
  • 国連が戦勝国連合により創設されたことや、国連憲章に敵国条項が残っていること、その平和維持機能が十分果たされていないことを踏まえると、我が国は、国連に過度に依存すべきでない。
  • 非常事態において、国会の立法活動が行えない場合の対処を憲法に規定すべきである。
  • 国際的テロなど、新たな事態に対応する国際的平和協力の根拠規定を憲法に設け、自衛隊の国際平和協力活動をさらに発展させるべきである。


大村 秀章君(自民)

  • 冷戦崩壊後の国際情勢の変化を受けて、人的な国際貢献が求められていることから、憲法に、我が国が積極的に国際貢献活動を行うことを規定すべきである。
  • 多くの国民が自衛隊の存在を認め、評価していることから、自衛隊が国の防衛と国際平和協力を担うことを憲法に規定すべきであり、また、そのことが近隣諸国の信頼にもつながる。
  • 自衛権は、国家が本来有しているものであり、国連憲章上も、これを保持することが明らかであることから、安全保障に関する基本法の制定により、自衛権の保持を明らかにすることが可能である。


高木 陽介君(公明)

  • 9条が我が国の平和と発展に寄与し、軍事大国になることへの歯止めとなってきたこと、また、アジア諸国に安心感を与えてきたことを評価する。同時に、日米安保条約や自衛隊が我が国を守ってきたことも否定できない。
  • 自衛隊は合憲であり、国民の大半がこれを認めているが、憲法に明文規定がないためその存在を否定する者もあることから、自衛隊を憲法に明記すべきである。
  • 集団的自衛権は国家が有する自然権であり、これを行使するかどうかは政治が判断する問題である。9.11テロや周辺事態などを考慮すると、集団的自衛権の行使及びその限度について、安全保障に関する基本法の制定などにより、明確にすべきである。


船田 元君(自民)

  • 9条1項は、我が国の国是、シンボルとして維持すべきである。また、現在の2項を削除した上で、新たに自衛軍の保持を明記すべきである。3項において、武力の行使を含む国際協力を規定することにより、集団安全保障への関与を認めるべきである。
  • 集団的自衛権の行使については、憲法上には明記せず、安全保障に関する基本法に規定することで十分である。集団的自衛権が無限定に行使されるおそれは、同法に限界等を設けることで解決可能である。
  • 非常事態規定は憲法上明記すべきである。非常事態における国民の権利等への不当な制限に対する歯止めとなる規定や、非常事態から平時への原状復帰が速やかに行われるための規定を明記すべきである。


枝野 幸男君(民主)

  • 9条の理念の堅持が我が国の成功の一要素であることは疑わないが、現在の我が国の状況を考えると、9条の現状維持が妥当かどうか疑問である。
  • 自衛権の行使のルールが規定されていないことは問題である。解釈によってそれらを認めていくことは危険であり、9条の理念を守るためにも憲法上に明記することが重要である。
  • 個別的、集団的を問わず、自衛権の存在とその発動要件、自衛隊の存在、シビリアン・コントロール等の基本原則を憲法に規定し、詳細は安全保障に関する基本法において規定すべきである。
  • 非常事態における立法手続の簡素化や国会の事後的関与等のルールを定めておくことが重要である。


葉梨 康弘君(自民)

  • 9条は、立法者の意思が不明確であり、制定経緯や文言が曖昧であるため、自在に解釈されるおそれがある。自衛のための戦力は、必要最小限に限定されることを明記すべきである。
  • 集団的自衛権は、憲法上明記しなくても首相の判断により行使が可能であると考えるが、無制限に米国と共同で行動することとならないように、「自国の死活的利益に関わる場合」との限定を付すべきである。
  • 国際貢献は「国権の発動」には当たらないと解釈されることにより、軍事的な参加を含む国際貢献が認められてしまう可能性がある。軍事的な参加を含む国際貢献は、究極的かつ最終的な手段としてのみ憲法上に規定すべきである。


古屋 圭司君(自民)

  • 9条1項は堅持し、国民の生命及び財産を守るために2項を削除すべきである。そして、個別的、集団的を区別することなく、一つの自衛権としてその保持と行使が可能であることを明記すべきである。
  • 国際貢献を行う主体としての自衛隊の位置付けと、その行動原則を憲法上明確にすべきである。
  • 非常事態における内閣総理大臣への権限集中、人権の保護と制限等の非常措置権や、それに対する国会のコントロール機能を憲法上明記すべきである。
  • 9条の改正との整合性を考え、前文に国際貢献への積極的な取組について明記すべきである。


福島 豊君(公明)

  • 9条の堅持が理想であるが、国際社会においてその理想を追求するためには、自衛権の明記など現実との融合が必要である。
  • 9条2項は1項からの論理的な帰結ではなく、現に自衛隊が存在している。我が国が自衛権や自衛のための組織を持つことは当然であり、現実と9条の理想を両立させる規定を考えるべきである。
  • 集団的自衛権の行使は、9条1項からは無限定ではなく、個別的自衛権の延長として考えるべきである。
  • 国際貢献について、9条及び前文の理想と現実を踏まえ、新たな規定を設けるべきである。


山口 富男君(共産)

<葉梨委員の発言に関連して>

  • 憲法の曖昧さは歴代政府の責任であり、本来憲法は曖昧ではない。現実を9条に近付けるために努力すべきである。
  • 憲法の制定経緯について、立法者意思が明確でないとの意見があったが、政府答弁等からも立法者意思は明確である。また、ハーグ陸戦条約に違反していないことも、政府の答弁書で明らかにされている。

<発言>

  • 自衛隊は違憲状態であり、段階的に解消すべきである。自衛隊が、海外において武力を行使することは、9条に反している。
  • 憲法調査会は、議論を集約し何らかの結論を出す場ではなく、あくまでも自由に討議を行う場である。


柴山 昌彦君(自民)

<山口委員の発言に関連して>

  • 理想を捨てようというのではないが、9条は解釈が曖昧なため、現実に対処できていないのではないか。

<発言>

  • 自衛のための武力組織は、憲法上明確に位置付けるべきである。
  • 集団的自衛権の行使を認めることにより、伝統的な自衛権概念を拡大することは、米国とどこまで行動を共にするかという問題に関わるため、明文上規定すべきである。
  • 国際協力の範囲については、非軍事的活動に限定することが、国民的コンセンサスを得るという点でも現実的である。
  • 国際協力のためのNGOの派遣は、安全面で問題があり、自衛隊とは別の組織を創設することは、現実的な経済的合理性から非現実的である。
  • 国家緊急権を憲法上明記すべきとの意見があるが、国民保護法等の下位法規による対応が可能である。


大出 彰君(民主)

  • 9条の内容は明確であるが、9条の規定どおり運用されてこなかったことに問題がある。
  • 9条1項、2項は共に存置すべきである。1項だけにすると侵略戦争のみ放棄しているとの解釈も可能となり、自衛戦争は認められることとなる。自衛戦争は、現在の個別的自衛権の発動のための三要件よりも緩やかな要件で認められるため、問題である。
  • 国際貢献の根拠は、9条1項の中に読み込むことが可能であり、協力は非軍事の分野で行うべきである。
  • 集団的自衛権の行使はすべきでなく、これを憲法に規定した場合、歯止めが利かなくなるのではないか。


永岡 洋治君(自民)

  • 自衛隊の憲法上の位置付けに関する不毛な憲法論議が繰り返されないようにするため、自衛隊を「国軍」として位置付け、憲法に明記する必要がある。
  • 9条の制定経緯及び国連憲章から、国家の自己保存権として、自衛権の保持と行使は、憲法上当然認められている。
  • 集団的自衛権を憲法上明記する必要があるが、その行使は、日米安保条約の枠組の中での行使に限定すべきである。
  • 自衛隊が、より積極的に国際協調の枠組での活動に参加できるよう、国際貢献に関する規定を憲法に置く必要がある。
  • 有事や首都における大災害等の非常事態に対処するための非常措置権を憲法上明記すべきである。


園田 康博君(民主)

  • 現行憲法の解釈論として、個別的・集団的自衛権を保有していると理解しているが、解釈論よりこれから憲法をどうするかに視点を移していくべきである。その際、国際社会、アジアにおける日本の役割を議論すべきである。
  • 自衛権を無制限に認めることは、日本の安全に重大な影響を及ぼすこととなる。
  • 現状では、シビリアン・コントロールが働いているのか疑問を持っており、米国に倣って、「シビル・コントロール」を行うべきである。防衛庁の「省」への昇格により、国会の直接的なコントロールを及ぼし得るのではないか。


谷川 弥一君(自民)

  • 9条1項は維持し、2項に防衛軍の保持、3項に国際的平和維持活動への防衛軍の参加を規定することを提案する。
  • 憲法を補完し、国民の生命・財産を守るために日米安保条約が存在し、機能してきたが、終戦直後から現在までの状況の変化により、同条約における我が国の役割が増大した。
  • 無責任な考え方により生じた財政破綻、少子高齢化、環境問題等の問題に対応するためには、人間の生き方を打ち立てる必要がある。


赤松 正雄君(公明)

  • 自衛隊をどう憲法上位置付けるかが常に念頭にある。
  • 自衛隊の役割が増大しているにもかかわらず、防衛庁が依然として内閣府の中に位置付けられており、不都合である。
  • 9条1項、2項の堅持が我が党の多数意見であり、また、国民的合意が不十分であることから、これらの改正の優先順位は低い。ただ、9条の解釈の矛盾を整理する必要があり、その改正について国民的合意を得る努力をする必要がある。


鹿野 道彦君(民主)

  • 個別的自衛権及び集団的自衛権については、拡大解釈に歯止めをかけるために、憲法上明記すべきである。その際、(a)緊急やむを得ない場合、(b)国連の対処があるまでの間、(c)自衛権を行使した場合の国連への報告の三点を規定すべきである。
  • 国連の集団安全保障への参加を憲法に明記すべきである。その際の武力行使は抑制的であるべきである。
  • 現在、予測不能な事態が頻繁に起きていることを考慮して、非常事態への対処を憲法に規定すべきである。


加藤 勝信君(自民)

  • 憲法と現実の乖離については、憲法を守ることは当然であるが、憲法に改正規定があることからも、状況の変化に応じて憲法改正をすべきである。
  • 個別的であると、集団的であるとを問わず、自衛権を憲法上明確に規定すべきである。その際、必要最小限度といった自衛権行使の限度も規定し、具体的な内容は安全保障に関する基本法において規定すべきである。
  • 非常事態への対応措置に関する権限及び権限行使の枠組について、憲法に規定すべきである。


保岡 興治君(自民)

  • 制定経緯を理由として憲法の価値を否定はしないが、「諸国民の公正と信義」により安全を確保するという考え方は、実力をもって国を守るという自衛の観点が欠如している。
  • 我が国の安全や平和に重大な影響がある場合の他国との共同行動のあり方について、集団的自衛権などの観点から議論すべきである。
  • 専守防衛は、隙のない最も強い体制であるべきである。平和と安全を害する行動に対しては、リスク管理の観点から、実力行使が担保として必要である。平和を実現するための現実的なプロセスとして、防衛、国際貢献の両面でリスク管理の考え方を憲法に明記することが民主主義の趣旨にも適う。


土井 たか子君(社民)

  • 国家に自衛権は存在するが、その行使については各国の憲法によって規定されており、我が国は、9条によって軍事的手段には訴えないこととなっている。
  • 日本への軍事的侵略の可能性が低下している中での有事法制の整備は、国民の保護よりも米国との共同行動を目指したものであることは明らかである。
  • 米軍再編に対応して、海外での軍事行動への参加を可能とする自衛隊法の改正を行うことは、すでに政府の統一見解を踏み越えている。憲法に背反した政策や政府の姿勢は問題である。
  • 自衛隊は、非軍事分野での貢献ができるような組織に転換すべきである。


早川 忠孝君(自民)

  • 我が国が今まで平和を維持できたのは、憲法があったからではなく、日米安保条約や国際協調があったからである。
  • 国に、その独立と国民の生命、財産を守る責務があることを新たな価値観として打ち立てることが、自衛権の存在の根拠となり得る。
  • 内閣法制局に事実上憲法解釈を委ねてしまうのは、望ましくない。国会において憲法適合性を判断するための恒常的な機関が必要である。


平井 卓也君(自民)

  • 国民の生命及び財産を守ることは国の責務であることから、9条2項を削除すべきである。ただし、武力による対応だけでなく、外交による紛争の未然防止も必要であり、憲法にその旨を明記することも考えられる。
  • 人類共通の利益のために、テロ防止や飢餓等に対する国際貢献を積極的に行うべきであり、次世代のためにも、その旨を憲法上明記する必要がある。


保岡 興治君(自民)

  • 我が国の経済規模や国益を踏まえると、安全保障の手段としての実力行使を他国任せにするのではなく、リスクに対応するための国是を持つ必要がある。また、「北東アジア安全保障機構」が実現した際、我が国が実力行使を求められることも想定されることから、そのためのルールを憲法に設けるべきである。