平成17年2月24日(木)(第4回)

◎ 会議に付した案件

日本国憲法に関する件

1.前文・その他

上記の件について、委員間で自由討議を行った。

2.全体を通しての締め括り

上記の件について、委員間で自由討議を行った。

3.会長から挨拶があった。


《前文・その他》

●各会派一巡目の発言の概要

福田 康夫君(自民)

  • 現行の前文は、その内容が戦争の反省に尽きており、国民に夢と希望を与えるものではないため、改正すべきである。
  • 前文の中で重視されている平和主義は、我が国の国際平和に向けた取組を見ても明らかなように、国民に定着している。今後も積極的に推進し、国際社会からの期待に応えていくべきである。ただし、平和主義の重視が、自衛に対する国民の概念を希薄化する原因となった事実も認識すべきである。
  • 前文には、国家・国民が目指す方向性・目標を明確に示すべきである。具体的には、(a)国際社会に対し我が国の平和主義の継続を表明すること、(b)日本の独自性・固有性を重視した上で、より良い社会・国家を目指すことを明らかにすることが必要である。
  • なお、上記の国家目標を設定するに当たっては、現在の我が国を取り巻く環境の条件、すなわち、(a)環境資源の制約が生じること、(b)国際化の進展は避けられないこと、(c)経済・社会が人口減少の影響を受けることを考慮する必要がある。
  • 一方で、前文の規定をあまりに窮屈なものにし過ぎて、我が国の安全保障を確保することができない状況に陥ることのないように、配慮する必要もある。
  • いずれにせよ、我が国及び世界が大きな転換期にある中で、我が国の今後の在り方を規定する前文には、慎重な配慮が必要であり、対外的にも説明し得るものでなければならない。


鹿野 道彦君(民主)

  • 平和主義及び民主主義を宣言する現行の前文は、これまで大きな意味を持ってきたことから、将来の日本の在り方及び国際社会において目指す方向を示すという意味で、今後も前文は必要である。
  • ただし、他国の前文は比較的短いものが多いため、我が国の前文も、憲法三原則の明記を中心に、あまり長くないものにすべきである。
  • 新しい前文を作成するに当たっては、憲法三原則の具現化がどの程度なされてきたかを検証した上で、更なる具現化を進めるためにはどのような規定が必要かという観点から、検討すべきである。
  • また、前文には、日本国民が誇りを持てるように、将来の価値観を含めた高い理想を掲げるべきである。具体的には、(a)自然との共生、(b)貧困・隷属の除去、(c)聖徳太子の「和」の思想や福沢諭吉の「個人の自立」の思想などに代表される我が国の優れた価値観等を前文に取り込むべきである。
  • 前文は、できるだけ分かりやすい表現にすべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 現行の前文は、表現上の不備だけではなく、内容面でも、(a)憲法三原則の書込みが不十分である、(b)歴史・伝統・文化という我が国の固有の色彩から程遠く、無色透明に過ぎる等の欠陥が指摘されていることから、21世紀の状況を踏まえた新しい時代認識を反映させた、すっきりした前文へと改めるべきである。
  • また、少子高齢化社会が現実のものとなり、社会全体の大幅な価値観の転換が求められていることからも、新しい時代認識を前文に取り込む必要がある。
  • 新しい時代認識を考えるに当たっては、国家や社会の安全保障だけではなく、人間の安全保障が今ほど要求されている時代はないという視点を持つことが大事である。
  • 併せて、これからの時代に対応した新しい価値観・国家観を確立していくことも必要である。例えば、「文化の華薫る平和国家」という我が党が示す国家観の原型と中曽根康弘公述人が述べた「教育文化国家」という国家観は、目指す方向性が大枠では一致している。
  • 憲法論議は、政治家のみで行うべきではない。国民的な議論が重要であることを、改めて認識すべきである。実際、前文改正の国民的運動も存在しており、注目に値する。


山口 富男君(共産)

  • 前文には、制定の歴史的経緯のみならず、平和への念願と達成への決意、日本の針路が表明され、憲法の基本原則が明らかになっている。
  • 20世紀の戦争の惨禍や専制政治の経験から、戦争の違法化と人権と民主主義の充実に努めることが教訓とされ、これらは世界的な流れとなって憲法の前文に取り込まれたのであり、現在においても探求し続けられるべき課題として新鮮な意味を持つ。
  • 前文に人権と民主主義を謳ったことは、明治憲法下の人権の制限・天皇主権から転換して国民主権を宣言したものであり、極めて重要な歴史的出来事である。
  • 前文の恒久平和主義について、世界に対する平和の発信の意図は明瞭であり、21世紀の日本と世界の平和の指針となり得るものである。また、平和的生存権は、平和を人権の問題として捉えたものであり、長沼ナイキ事件訴訟一審判決ではこれが裁判規範性を持つ基本的人権であると認めている。平和と人権の密接不可分性は、憲法典では日本国憲法がはじめて明文化し具体化したものであり、大きな意義を持つ。
  • 自衛隊のイラク派兵の際に、小泉首相は、前文の「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」との文言を引用したが、その行為は、単独行動主義の米国に追随し憲法に違反するものであり、これを憲法で正当化することはできない。


土井 たか子君(社民)

  • 国民の間では、憲法は国民に定着しており変える必要はないとの声が多い。
  • 1946年10月の極東委員会において、憲法施行後に国民に憲法が受け入れられているか再度検討する必要があると決定されながら、結局それが行われなかったことは、当時の日本人に憲法が受け入れられていたことを表わしており、憲法が押し付けであったとの主張は当たらない。また、当時、民間から現行憲法と方向性を同じくする私案が数多く出されたことからも、現行憲法が押し付けであったとは言えない。
  • 日本国憲法は、一国平和主義であると主張する人がいるが、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」との表現から、憲法の目指す平和は日本一国の平和ではないのであって、この指摘は当たらない。
  • 歴史・伝統・文化等を憲法に盛り込むべきであるとの主張があるが、それらは、普遍的なものでも一義的なものでもなく、多様なものであるから、憲法に盛り込むことは理にかなわない。
  • この憲法原理に矛盾するような改定は憲法違反であり、憲法を破壊する行為である。

●各会派一巡後の発言の概要

早川 忠孝君(自民)

  • 現行憲法は、公職追放が実施され言論の自由がない時代に制定された「借り物の憲法」であり、戦後60年を経た今、憲法の在るべき姿を検討することが求められている。
  • 家庭や地域社会が崩壊の危機に瀕していると言われる今、環境条項や国際社会との共生等を明記するとともに、高い倫理性に基づく道義国家の構築を目指し、歴史・伝統・文化を盛り込んだ新憲法をつくっていく必要がある。


石田 祝稔君(公明)

  • 憲法は、制定後60年近くにわたってその役割を果たしてきたが、環境権やプライバシー権を付加する必要性が叫ばれる今、将来にわたって現在のままでよいとは考えない。前文は、「憲法の憲法」であり、本則の大前提となる部分であること等から、こうした時代の流れに合わせて本則を改正するのであれば、前文も併せて改正する必要がある。


丸谷 佳織君(公明)

  • 前文については、現在のものに謳われている崇高な精神を踏まえながら改めていくべきと考えるが、愛国心や家族のような特定の価値観を示すことには少々無理がある。
  • 平和への願いと人権の尊重について明確化するべきである。その際、戦争による痛ましい体験に触れ、平和を願う理由を明らかにすべきである。
  • また、唯一の被爆国として、核兵器廃絶へ向けた努力と平和構築への積極的な寄与を宣言すべきである。


中根 康浩君(民主)

  • 13条に個人の尊重を謳いながら、人権侵害の事例が後を絶たない現実にかんがみ、前文に基本的人権の尊重を明記すべきである。
  • 前文にはあらゆる差別の禁止を謳ってもらいたい。その上で、立法その他の諸施策を講じることにより、障害者等の社会的弱者に対する配慮のある国になってもらいたい。


船田 元君(自民)

  • 前文は憲法の「顔」であり、実際に憲法改正を行う場合においても、議論の集大成として、一番最後になされるべきであると考えており、現時点において、前文に盛り込まれるべき具体的な内容を述べることはできない。
  • しかしながら、個人的には、(a)生命あるいは人間の尊厳という価値を重視すること、(b)権利と義務とは表裏一体のものであること、(c)積極的平和主義及び(d)自然との共生という我が国古来の歴史・伝統・文化を継承していくことや環境についての理念の4点については、憲法を改正する際に盛り込みたいと考えている。


高木 美智代君(公明)

  • 現行の前文は、書き換えなくともよい。9条の平和主義と前文の国際協調主義とは、国連憲章の前文にもあるように、戦禍の経験を経て生まれたものであり、憲法が制定された当時の時代状況を反映したものだからである。むしろ、この憲法が制定されるきっかけとなった戦争体験こそ、きちんと語り継がれていくべきである。
  • 前文に「われらは、…国際社会において、名誉ある地位を占めたい」とあるが、これはすばらしい文言であると認識しており、その「名誉ある地位」を得るための積極的平和主義を実践することこそが重要である。我が国は、現在、ようやくにして、それを実現できるだけの力が備わってきたのである。


坂本 剛二君(自民)

  • この憲法は国民のものになっておらず、前文からは何も感じることはない。そこにあるのは、米国による占領政策そのものである。
  • 我が国には、美しい四季があり、季節の移り変わりに合わせたメリハリのある生活を営んできたことによって、固有の文化を育んできたのである。日本人でありながら、そういうことを理解せずして、一体どうするというのか。
  • 私は、前文に我が国の歴史や伝統を謳うことによって、「格調高い日本人」を打ち出すべきと考える。


葉梨 康弘君(自民)

  • 現行の前文が悪文であることは否めず、また、どこの国の憲法であるのかも分からない。
  • 私は、上諭にこそ注目すべきと考える。上諭には「朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび」とあり、これは、天皇の主体的な意思により、八月革命の精神の受容を示したものである。
  • もはや上諭のような法形式がないことにかんがえみると、憲法制定権者の意思を表明する場として、より積極的に前文を活用すべきである。
  • すなわち、我が国固有の価値と普遍の原理とを融合し、すべての国民が日本という国に誇りを持てるものとするとともに、積極的な国際協調主義を謳い、また、普遍的政治道徳を発展させることや共生国家、文化国家、環境国家等の理念を宣言すべきことである。


永岡 洋治君(自民)

  • これまでの本調査会の議論を通じて、前文は、国家が進むべき道を明確に示す「道しるべ」であることを認識した。しかし、現行の前文は、我が国が進むべき方向を明確に示しているとはいえず、また、現実とも乖離している。
  • 現行の前文は、日本国民自身による国のかたちを考える視点も欠いている。国のかたちを考える視点として、「環境主義の理念」と「家族の重要性」を前文に規定すべきである。
  • さらに、現行の前文よりも積極的に国際社会への貢献を強調すべきである。


柴山 昌彦君(自民)

  • 憲法三原則のうちの一つである主権在民の理念はいまだ実現されているとはいえない状況にある。これは、国民が国や地域を支えることに無関心であるということにも原因がある。国民が国や地域を支えていくということ等を前文に明記すべきである。
  • 確かに、近代立憲主義は、憲法は国家権力を名宛人とする制限規範であるということをその要素とする。しかし、憲法は、制限規範であると同時に国家の根本法であるということに着目し、バランスのとれた価値観を前文に謳うことが重要である。
  • 平和主義は重要であるが、武器を捨てることにより平和が果たして実現することができるかという観点から、我が国の国際平和の実現への積極的貢献を現行の前文以上に強調すべきである。
  • 生命尊重、環境重視の理念をわかりやすく前文に明記すべきである。


加藤 勝信君(自民)

  • 平和主義、民主主義などの原則を堅持しながら、国の在り方がどうあるべきかを前文に明記すべきである。
  • 近代憲法が国家と個人の二項対立を基礎とすることは認めるが、国家と個人のほかにも地域社会、家族など社会の各層における努力があるからこそ今日の我が国の繁栄があるのであって、それをどう次の時代につなげていくかが重要である。その意味で、家族や家庭について前文で明記すべきである。
  • 憲法三原則以外に存在する普遍的な原理、我が国の歴史・伝統、人や環境との共生を前文において明記すべきである。
  • 前文は、英文からの翻訳を基礎としているためか主体的な記述のされ方をしていない。国民を主体とした文章に直すべきであって、それが分かりやすさにもつながる。


松宮 勲君(自民)

  • 簡潔・平易・明瞭を旨として前文は全面的に書き直し、その上で、憲法三原則を明確に謳うべきである。
  • 我が国の歴史・伝統・文化を踏まえ、いかなる国家を目指すかを前文において謳うべきである。
  • 能動的・積極的国際貢献を前文において謳うべきである。
  • 以上を実現する主体としての国民の責務を謳うべきである。


平井 卓也君(自民)

  • 現行の前文は、日本の歴史・伝統・文化が伝わってこないのみならず、文章が長すぎ、分かりづらい。
  • 憲法制定時にそれが押し付けられたかどうかということではなく、いかなる憲法も制定当時の事情を前提とすることは当然であり、現在、制定当時と状況が異なっているのであれば、憲法を改めることは当然である。
  • 前文に追加する事項として、憲法三原則のほかに、伝統的共同体・文化・伝統の尊重や国際平和を実現するための積極的外交姿勢、共生の精神などが考えられる。


鈴木 克昌君(民主)

  • 前文は、率直に言えば国民が暗記できるほどに分かりやすく、簡潔な文章にすべきである。
  • 平和主義は普遍的な原則として堅持すべきである。
  • 前文に追加すべき事項として、日本古来の歴史・伝統・文化の強調、国を愛する心、人権尊重主義、環境に関する事項等が考えられる。


河野 太郎君(自民)

  • 前文の文章表現については、翻訳調で読みにくいとする意見ともう日本語として慣れてしまったという意見の双方があるが、明瞭で分かりやすい前文に変えられるのであれば、変えることもよい。
  • 国民主権・平和主義・基本的人権の尊重は、普遍的な価値観であることから前文に盛り込むべきと考えるが、歴史・伝統・文化等、普遍的な価値観となっていないものを前文に明記することは、厳に慎むべきである。


中川 正春君(民主)

  • 主権在民・平和主義・基本的人権は、普遍的な価値観として日本人が受け入れたものであり、前文に明記すべきである。
  • 我が国は、戦前を反省し、他国に遅れているという認識の下、国づくりを進めてきたが、成熟した社会となった今、我々自身が世界に向かって発信していく価値観を前文に記していくべきである。
  • 自然との調和、生命の尊重、家族の中での共生のような日本人の価値観を前文に明記すべきである。


辻 惠君(民主)

  • 現行の前文は、人類の知恵の集積である普遍的な原理を謳っており、全く変更する必要はない。
  • 確かに、我が国の歴史・伝統・文化は重要であるが、これらの理念を大切にしていくことと、前文に謳うということとは全くレベルが異なる。


枝野 幸男君(民主)

  • 憲法は授権規範であることから、国民の義務や責任を前文に明記することに対しては違和感があるが、例えば「我々国民が責任・義務を自覚し」のように、主語を「国家」ではなく、「国民」とするのであれば、授権規範たる憲法の性質とも両立し、前文に明記することもあり得るかもしれない。
  • 現行憲法は、家庭を崩壊させることや地域社会を悪化させることを命じているわけではなく、家庭的価値を維持することや地域社会をより良くすることは、立法・行政の中で十分可能なことであった。それにもかかわらず、政権を長い間担当してきた自民党自身が家庭崩壊や地域社会の悪化を他人事のように指摘することに対して違和感を感じる。
  • 何が伝統・文化であるかについて、その理解が一様でないことから、もし前文に伝統・文化を明記するとするならば、相当工夫しないとかえって議論が混乱する。
  • 公明党は「加憲」を主張しているが、現行の前文も歴史的な宣言として残しておく価値があることから、もし改正する場合には、改正法に前文を付けることも検討に値するのではないか。


三原 朝彦君(自民)

  • 現行の前文のような一国平和主義には問題があり、国際社会における具体的な役割を前文に明記していくべきである。


保岡 興治君(自民)

  • 今度、憲法改正が行われるとすれば、我が国の歴史上、初めて国民の投票によって憲法を制定することになることから、このことを新しい前文には明記すべきである。
  • 世界平和研究所が作成した憲法改正試案の前文のように、新しい前文は、我が国のかたちの美しさや素晴らしさを謳う文章にすべきである。
  • 天皇は、長い歴史の中で国の安定に大きな役割を果たし、世界に類例のない存在であったことにかんがみれば、「天皇を国民統合の象徴とする民主的な国家である」という国のかたちを前文に明記すべきである。
  • 個の確立はもちろんのこと、同時にそれを支える家族やコミュニティーという公の部分の重要性を踏まえた最高法規としての憲法の姿を考えていくべきである。


中谷 元君(自民)

  • 憲法前文は、国の骨格を列挙するものであるが、現行の前文では、(a)主権者としての国民は、権利主体としてしか示されておらず、義務と責任を負う存在であることが規定されていないこと、(b)平和主義も国連を中心とした理想主義として規定されているばかりで、現実と乖離していることが指摘できる。
  • 現行の前文は国際主義の理想を謳うあまり、日本の国の土台とも言うべき「日本の徳」が述べられていない。国際社会や日本を取り巻く諸問題に対応し、国際社会における責任と使命を果たすためにも、日本のあるべき国家像と国の土台である「日本の徳」を示すべきである。


大出 彰君(民主)

  • 法律の文章は、その美しさより、その中身・要件が重要である。現行の前文は、議会制民主主義による国民主権や国際協調の理念等の世界への発信が謳われており、評価できる。
  • 憲法前文は、制定者の理想や目的が込められており、憲法改正は、その制定者の理想や目的をさらに発展させる場合でなければ、なされてはならない。


土井 たか子君(社民)

  • 改憲を考える立場と護憲を旨とする立場では、「憲法とは何か」という憲法観が異なると思われる。私は、近代憲法は、国民の人権を保障するために、個人の尊厳を謳い、国家権力を制限する制限規範と解するべきと考える。
  • この点、24条の家庭生活における個人の尊厳と男女の平等を見直し、社会の基礎としての家族を規定するという考え方は、制限規範としての憲法の法理からはずれ、国家のために個人を犠牲にする戦前の国家主義につながりかねない。


早川 忠孝君(自民)

  • 前文の解釈に当たっては二通りの解釈ができる余地がある箇所がいくつかあるなど正確性に欠け、誤解を招くことから、前文を改正すべきである。


中谷 元君(自民)

  • 家庭・家族の大切さは、人類普遍の原理であり、健全な家庭に、健全な人間が育つことは明らかである。国家の果たし得る役割は限られており、社会の最小の単位である家族・家庭に、教育、介護等さまざまな分野で求められる役割は大きい。これらにかんがみれば、憲法に家族・家庭の尊重の理念を規定することは重要である。


枝野 幸男君(民主)

  • 家族を持ちたくてもさまざまな事情で家族を持てない人もいることを考えれば、憲法に家族的価値を規定することには慎重な配慮を必要とする。

《全体を通しての締め括り》

●各会派一巡目の発言の概要

保岡 興治君(自民)

  • 国の在り方を踏まえて憲法を見直すことは、時代の転換期の政治家の使命である。
  • 新憲法には、現憲法の基本原則を普遍的原理として維持するほか、人の和、自然との調和といった我が国の伝統や国柄、積極的に平和に貢献する平和愛好国であること、他国の尊重を明らかにすべきである。
  • 近代憲法の「個を侵さない」という価値は維持発展させつつ、公共の価値、国家と国民の正しい在り方や公私の役割分担を踏まえた新たな価値体系を構築すべきである。国民の憲法尊重擁護、国防の責務について規定すべきである。
  • 天皇の象徴としての役割について国民の合意があることから、一切の国政上の権能を持たない象徴的元首とすべきである。公的行為については憲法上明記すべきであるが、女性天皇は皇室典範で認めるべきである。
  • 平和主義として9条1項は堅持しつつ、自衛隊を軍として明記し、内閣総理大臣の指揮権や武力行使のルールを明確にすべきである。平和愛好国として、武力行使は抑制的にすべきである。
  • 統治機構については、内閣総理大臣の迅速・的確なリーダーシップを確保するとともに、二院制、司法、改正手続、地方自治等についても見直すべきである。
  • 国民投票法案について与党との協議に前向きな枝野委員の発言は、歴史的なものとして歓迎する。「十七条の憲法」に示された和の精神に思いを致し、憲法改正論議を進めていくべきである。


枝野 幸男君(民主)

  • 5年間の調査において、護憲と改憲の二元論からの脱却が見られたことを評価する。改憲の立場には多種多様な意見があり、二元論で捉えることは適当ではない。
  • 憲法改正を決定するのはあくまで国民であり、これまでの議論を踏まえ、今後は国民的コンセンサスの形成が求められる。
  • 各議院の総議員の3分の2以上の賛成を求める憲法改正の発議要件は、国会内の第一勢力、第二勢力が、見解の違いを乗り越え、合意を形成する必要があることを示している。公権力の行使について、共通のルールを見出すことが必要である。
  • 国民投票法の整備についての各党間協議は、憲法改正論議への試金石となる。


太田 昭宏君(公明)

  • 国の在り方について恒常的に議論する場が今後も必要であり、憲法調査会の後継機関を設置すべきである。
  • 憲法を論じることは、日本の思想、文化、伝統を深く考えることである。古来我が国は多種多様な文化を受容しつつ、日本の文化としてきた。文化の根源を議論することが大切である。
  • IT、ゲノム、環境、住民参加の四つを基本とした未来志向の憲法を考えるべきである。少子高齢化の中での財政危機と社会保障、また、国家の危機管理という根本的な課題を今後も議論し、より国民的な論議を深める必要がある。
  • 自公民三党が中心となり、96条の具体化として国民投票法についての合意を形成すべきである。国民投票に当たっては、国政選挙と同じ名簿を使い、投票は国政選挙とは別の機会に行うべきである。
  • 憲法改正を項目ごとに吟味する必要性や、憲法の継続性を踏まえると、加憲を行うことが具体的かつ現実的な選択肢である。


山口 富男君(共産)

  • 憲法調査会は、憲法についての広範かつ総合的な調査を目的とするものであって、議案提出権を持たない。かつて内閣に設置されていた憲法調査会とは、性格も目的も異にしていることを認識すべきである。
  • 日本共産党が提言してきた(a)憲法の先駆的内容、(b)憲法の基本原則と政治の実態、(c)憲法制定過程から見た押し付け憲法論の検証、に関する調査が不十分である。
  • 参考人や公述人からは、憲法の解釈と運用実態等の調査が憲法調査会の役割であるとの指摘が度々なされたが、あくまで改憲論議のスケジュールに沿った調査が行われた5年間であった。
  • 9条と現実との乖離を作った要因は、日米安保条約、在日米軍であり、歴代政権による9条違反を直視すべきである。
  • 地方公聴会においては、多くの意見陳述者から、憲法の値打ちを実感していることや、憲法原則の実現を妨げている行政運営を正すべきであるとの意見が述べられた。
  • 憲法調査会の設立の趣旨からも、最終報告書はあくまで調査の経過と結果の報告とすべきであり、一定の方向性を出すことは認められない。テーマごとの類型や意見の多寡を盛り込むことは、憲法調査会規程を逸脱している。


土井 たか子君(社民)

  • 最終報告書の具体的内容についての編集方針を議論する場を設けることを求める。
  • 最終報告書では、日本国憲法の役割や評価、あるいは憲法に即した運用がなされてきたかどうかについてまとめていくべきであり、改憲ありきとすべきではない。また、地方公聴会については、項を改めてまとめるべきである。
  • 憲法の国民への定着や、現実の政治が憲法から乖離している実状を意識した最終報告書を望む。
  • 最終報告書に関する予算の内容について各委員に周知すべきである。
  • 最終報告書の内容の方向性が報道等によって外部に流布されており、国会の権威が損なわれるおそれがある。
  • 憲法の基本原理に背反する改悪は憲法自身が認めていない。
  • 違憲の事実を積み重ねている中で、現実に合わせて憲法を変えようとすることは許されない。国会議員には憲法尊重擁護義務があるという自覚が促されている。

●各会派一巡後の発言の概要

船田 元君(自民)

  • 憲法についての不毛な神学論争を超えて、憲法調査会の議論が進められてきたが、最終報告書では、議論の羅列ではなく、意見の多寡を示し、方向性を出すことが大事である。
  • 先の調査会における国民投票法の協議に前向きな枝野委員の発言を歓迎する。今後は、各党の共通項を見出すための協議を第三勢力まで含めて進めるべきである。


葉梨 康弘君(自民)

  • 自民党政権は曖昧な憲法を柔軟に運用してきたが、今後政権交代が起こると、9条が無制限に解釈されるおそれがあり、憲法の曖昧さが我が国の不安定要因となってしまうため、憲法改正の必要がある。そのための議論の場として常設の憲法委員会が必要である。
  • パイが拡大する社会においては、公共の福祉という制約のみで個人の権利を最大限に保障することが可能かもしれないが、ゼロサム社会の現在では、他者の権利への配慮を社会的規範として強調する必要がある。
  • 最終報告書において、国の将来像について方向性を示す必要がある。


河野 太郎君(自民)

  • これまでの議論を進展させる必要があることと、憲法に改正規定があることを踏まえると、改正手続の整備は国会の義務である。憲法調査会の後継機関において、国民投票法案を審議し、成立させるべきである。


大村 秀章君(自民)

  • 国際情勢の急激な変化に対応するために、自衛隊の憲法への明記、財政負担や地方自治の在り方についての検討、一院制の導入などが必要である。
  • 本調査会において、多くの委員が憲法改正の必要性について述べていることを踏まえて、最終報告書を作成すべきである。
  • 憲法調査会の後継機関を設置して、国民投票法を今国会中に制定し、国民に憲法改正の見通しを示すことが必要である。


柴山 昌彦君(自民)

  • 最終報告書には、意見の多寡を明記し、一定の方向性を持たせるべきである。また、喫緊の課題については、早急に国民の合意を求めることが必要である。
  • 本調査会は、恒常的に憲法について議論し、国民投票法案を審議する機関に改組すべきである。


松野 博一君(自民)

  • 国際貢献の在り方、新しい人権に対する意識、科学技術の発展の中における諸課題等をめぐり、国民の憲法に対する考え方に変化が生じている。
  • 若い世代には、憲法の基本原則が内在的な価値観として確立しており、憲法のよさを引き継ぎつつ、新たな憲法を制定することに対する期待感がある。
  • 本調査会は国民の意識変化を捉え、国民投票法の制定など、具体的な方向に議論を進めるべきである。


早川 忠孝君(自民)

  • 本調査会は、審議をインターネットで公開し、地方公聴会を開催するなど国民に開かれたものであった。また、二度の総選挙を経て、委員の構成が変わり、多様な国民の意見を反映することができた。
  • これまでの調査の経緯を踏まえ、世論を集約するための新たな機関を設けるべきである。


和田 隆志君(民主)

  • 本調査会で、党派の見解を超えて話し合うことができたのは有益であった。
  • 最終報告書は、主権の存する国民の意見を集約し、国民に選択肢を提供できるものとすべきである。また、民意の多様性を考慮しつつも、国民の大多数の意見を踏まえたものとすべきである。


平井 卓也君(自民)

  • シンプルかつ明確で、現状に対する閉塞感、将来に対する悲壮感を打破する思想とスケールを持つ憲法が必要である。
  • 自主憲法制定への道筋を立て、国民投票法を制定し、また本調査会の成果を生かすため、常設の機関を設置すべきである。


森山 眞弓君(自民)

  • 憲法裁判所の導入については、(a)我が国の歴史や文化になじまないこと、(b)国会の地位や機能に重大な制約を加えることになることから、反対である。
  • 抽象的違憲審査制を日本に導入した場合、裁判官の選任や、違憲判断が出た際、あるいは政権交代があった場合に大きな政治問題が生じることが予想されることから、現行の付随的違憲審査制を維持すべきである。
  • 裁判官の独立を害しないような報酬の減額は認められることを憲法に明記すべきである。
  • 最高裁判所裁判官の国民審査制度は、形骸化しているとの批判もあるが、裁判官の独立性に配慮しつつ、民主的なチェックシステムについて検討すべきである。
  • 裁判員制度について、憲法上の疑義について議論があった経緯を踏まえ、国民の司法参加について憲法に規定すべきである。


大出 彰君(民主)

  • 憲法に我が国の歴史、伝統、文化等を明記すべきとする意見があるが、理解できる部分もある一方、復古的なきらいがある。どこまで盛り込むべきかについては慎重に検討すべきである。
  • 9条は、1項、2項共に改正すべきでない。
  • 憲法改正の論議に際しては、国民の間に異論の少ない事項から取り組むべきである。また、憲法に規定されていることが具体化されていない事項の取扱いが課題として残っている。


山口 富男君(共産)

  • 意見の多寡を明示するとする最終報告書の編集方針は、幹事会において自民公の3党のみが同意したが、方向性や議論のウエイトを示すことは、本来、調査を目的とする憲法調査会の趣旨を逸脱している。
  • 憲法調査会の後継機関は、院の構成に関わる問題であるので、憲法調査会で議論すべき問題ではない。また、憲法問題は各常任委員会において、具体的問題を通じて議論すればよく、憲法調査会は議長への報告をもって活動を終了すべきである。
  • 憲法改正の国民投票法は、主権者である国民が憲法改正を望まない以上、不要である。また、単なる手続法というが、現実には改憲を想定したものとなっている。
  • 現行憲法は、制定以来、実務や研究における議論を通じて大変豊かな内容となってきており、憲法調査会の5年間の議論においても、多くの参考人が憲法の平和と民主主義の大切さを強調している。


伊藤 公介君(自民)

  • 我が国は、科学技術創造立国を目指すべきである。
  • 新しい憲法の前文には、地球規模の環境問題に取り組む意識を明記すべきである。
  • 政策決定にスピードが求められること等から、一院制を目指すべきである。
  • 国民が直接自国のリーダーを選ぶことのできる首相公選制を実現すべきである。


永岡 洋治君(自民)

  • 憲法改正において、最終的な決定権は国民にあることから、最終報告書の内容については、平易なパンフレットを作成することによって、国民の憲法論議を喚起すべきである。これを用いて、学校教育においても憲法に対する国民の理解と関心を高める努力をすべきである。
  • 国民投票法案を審議する委員会の設置が必要である。
  • 憲法改正要件を考慮すると、憲法改正に当たっては、まずは共通項を見出すべきである。
  • 憲法を全面改正することは現実的ではなく、まずは96条と9条の改正を目指すべきである。


中川 正春君(民主)

  • 本調査会で5年間議論してきたことにより、イデオロギーの対立から現実的な議論に変化し、各党の共通項が見えてきているのではないか。
  • 最終報告書は明確な論点整理をしたものにすべきである。
  • 本調査会で、国民投票法の具体化に向けた方向性を示すことが必要である。
  • 今後の憲法論議の場について、本調査会でも議論すべきである。その議論の中で、国民に国会としてのメッセージを出すべきである。


二田 孝治君(自民)

  • 現行憲法は平和主義を浸透させるという歴史的に大きな役割を果たしたが、一国平和主義を招き、現在の世界情勢に合わなくなっている。
  • 96条をまず改正して、現実的に改正できる憲法とすることを模索すべきである。


山花 郁夫君(民主)

  • 憲法改正の是非とは別に憲法の規範性を保障する必要がある。そのため、現在、違憲審査制が十分機能していないことを踏まえ、憲法裁判所を導入すべきである。憲法裁判所が我が国の伝統・文化になじまないという議論は理解できない。違憲判決を受けた場合に国会には憲法を改正できる権限があることこそが権力分立のダイナミズムである。
  • 国民の責務を憲法に規定するとの意見があるが、それにより一定の行為が違憲とされうるのか疑問である。かえって規範の意味が拡散するおそれがあるのではないか。
  • 憲法の附属法令が不十分であり、特に社会権や国務請求権については憲法救済法の検討が必要である。
  • 現行憲法は天皇が裁可、公布したものであり、前文を自虐的とするような批判は不穏当ではないか。


加藤 勝信君(自民)

  • 本調査会は、これまでの議論を踏まえ、改正に向けた議論の段階に入ることが国民からも期待されている。
  • 憲法には、権力対国民という対立構造に由来する規定だけでなく、国のかたちや姿を併せて盛り込むべきである。
  • 最終報告書は、論理的かつ国民に分かりやすいものとすべきである。


古屋 圭司君(自民)

  • 最終報告書は、調査会の議論を正確に反映したものとすべきであり、(a)憲法の果たしてきた役割、(b)憲法の不都合な点、(c)評価できる点及び評価できない点、(d)改正すべき点及び改正が不要な点を記述すべきである。また、意見の多寡を示すべきである。
  • 本調査会の調査の内容を国民に知ってもらうために、最終報告書の本文とともに、ダイジェスト版を作成すべきである。


中谷 元君(自民)

  • 国民の将来への不安を解消し、政治への期待に応えるため、憲法論議を継続する必要がある。
  • 本調査会を常設化するとともに、スタッフや専門家など十分な人員を確保し、機能を強化すべきである。


三原 朝彦君(自民)

  • 敗戦時の国民が9条を選択したが、同条の改正は今の時代の要請である。
  • 現行憲法は、国内的には福祉、平和に寄与してきたが、対外的には、環境問題など山積する国際問題に対処できない。
  • 憲法を改正することで、公正な国際社会づくりに参加し、弱者への思いやりを示すなど世界の範となる国家となるような浪漫を持つべきである。


渡部 恒三君(民主)

  • 本調査会は、委員が誠実かつ自由闊達に我が国の在り方について議論しており、調査会の議論の実態を国民が知れば、国会の権威も一層高まる。
  • 湾岸戦争当時、国会審議において、憲法解釈が内閣総理大臣や法務大臣ではなく、内閣法制局によってなされていることに疑問を持っていた。
  • 憲法改正のための国民投票法は、今国会で制定すべきである。
  • 憲法を守るためには、守られるような憲法にしなくてはならない。


赤松 正雄君(公明)

  • 憲法調査会の小委員会において議員同士の自由な議論が行われた点は意義深いが、拡散した議論を収束させ、方向性を導くという営みが少なかった点は残念である。
  • 5年間の議論を通じて現在の憲法に満足せず、改正すべきという意見が多かったということを、最終報告書に明記すべきである。
  • 最終報告書の提出後に新たな議論が始まる。その後は、5年程度かけて、国会議員だけではなく、国民からの意見も聴取していくべきである。


鹿野 道彦君(民主)

  • 我が国がどのような国、社会を作っていくのかを考えたとき、現憲法がそれに適合していけるのかどうかを受け止める必要がある。
  • 現在、政府の意思決定や政策決定のあいまいさが露呈しており、統治制度を「官の下における国」から「民の下における国」とすることにより、国民が依存体質から脱却し、自ら判断して責任を取ることのできる分かりやすいシステムをつくるべきである。
  • 真の独立民主国家となるため、国の柱を建て直していくべきであり、未来を見据えた憲法を構想し、論憲のみに終わらせてはならない。


土井 たか子君(社民)

  • 本調査会は、議席数の多少に関わらず、同じ発言時間が与えられていたことは機会均等の面から評価できる。
  • 決められたルールを守ることは、国会が機能する前提である。本調査会は、設置の際の議運理事会の申合せにより、議案提出権がないとされていたにも関わらず、国会法を改正して改憲の場とすることは許されない。常任委員会への改組には反対である。
  • 周りの雰囲気に流された拙速な改憲は、国民にとって信用できる内容とはならない。