平成17年4月15日(金)(第5回)

◎会議に付した案件

報告書に関する件

報告書案について中山会長が趣旨説明を行った後、各会派からの発言を聴取した。その後、報告書を議決した。

(趣旨説明者)

  中山 太郎会長

(発言者)

  船田 元君(自民)

  枝野 幸男君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  山口 富男君(共産)

  土井 たか子君(社民)


◎中山会長の趣旨説明の概要

  • 憲法調査会は、「日本国憲法について広範かつ総合的な調査」を行うため、平成12年1月20日に衆議院に設置され、精力的な調査を行ってきた。
  • 具体的には、日本国憲法の制定経緯、21世紀の日本のあるべき姿等に関する調査を実施した後、小委員会を設置して、憲法全体についての調査を行い、最後に、全体を通じた締め括りの調査を行った。この間、公聴会及び地方公聴会を開催し、憲法調査議員団による海外調査も行ってきた。平成14年11月1日に中間報告書を作成し、議長に提出したところであるが、ここに報告書をとりまとめ、これを議長に提出するものである。
  • 本報告書案の構成は、第1編「憲法調査会の設置の経緯」、第2編「憲法調査会の設置の趣旨とその組織及び運営」、第3編「憲法調査会の調査の経過及びその内容」、第4編「資料」から成っており、調査の内容をまとめた第3編第2章及び第3章がその中核的な内容をなしている。
  • 第3編第3章では、委員及び参考人等の発言を、論点ごとに分類・整理しつつ要約するとともに、多く述べられた意見については、その旨を記している。これは、調査会の「意思決定としての多数」を意味するものではなく、あくまでも、あるテーマについて概ね意見が「どのように分布したか」を表そうとしたものである。
  • 本報告書案に記した議論のうち特徴的なものとしては、(a)科学技術の進歩、安全保障環境の変化等の情勢の変化、(b)憲法と現実との乖離がもたらす問題といったものが指摘できる。
  • 海外調査では、諸外国において幾たびかの憲法改正が行われていることを相手国から説明を受けてきた。また、公聴会及び地方公聴会において、憲法は国民のものという考え方に基づき、一般公募を含む公述人や意見陳述者から、我が国がいかにあるべきか、憲法はいかにあるべきかということについての国民の考えを積極的に汲み取ってきた。
  • 人権の尊重、主権在民、そして再び侵略国家とはならないとの理念を堅持しつつ、新しい日本の国家像について、全国民的見地に立って、憲法に関する広範かつ総合的な調査を進めてきたものと自負している。
  • 本報告書案は、これまでの調査の集大成であり、報告書の提出をもって我が国における憲法論議が新たな段階を迎えることになると考えている。

◎各委員の発言の概要

船田 元君(自民)

  • 米国の第三代大統領トマス・ジェファーソンは「およそ人間の創造物で完全なものはない。時間の経過とともに、紙に書かれた憲法の不完全さが明白になることを、免れることは出来ない。」と述べたが、我が国の憲法も例外ではない。
  • 国際環境や社会環境の変化等により、憲法と現実との乖離が顕著になったことを契機に憲法調査会は発足した。その設置は、国民の間にあった「憲法を論じる」ことに対する抵抗感を少なくした。
  • 報告書は、本調査会の議論を丁寧に記述し、テーマごとに一定の基準に基づき意見の多寡をも記載することにより、委員の考え方の概要を把握することを可能とし、今後の国民の憲法論議の参考に資するものである。
  • 憲法制定過程におけるGHQの関与はあったものの、現行憲法が戦後長い間に国民に定着したことを評価する意見が多かったことは、戦後世代の共通の認識である。象徴天皇制の維持、基本的人権の維持、国会の二院制や議院内閣制の継承を支持する意見が多かったことは、現行憲法の基本的事項が定着していることを反映している。
  • 皇位継承のあり方は皇室典範によって規定すべきだが、当調査会は、女性の天皇を認める方向性をいち早く出した。自衛権の行使や自衛隊の存在について、「憲法上何らかの措置をとることを否定しない意見が多かった。」との文言が多くの政党により合意されたことには、大きな意義がある。国連の集団安全保障活動への積極的な参加が多数であったことや、集団的自衛権の行使の限界等をめぐり議論がなされたことは、画期的である。
  • 調査会において、(a)いわゆる「新しい権利」として、環境権、知る権利、プライバシー権を憲法に追加すること、(b)二院制を維持しつつ衆参両院の役割分担や選出方法の差別化によって二院制のメリットを生かすこと、(c)首相のリーダーシップの強化、(d)憲法裁判所の設置、(e)「地方自治の本旨」の明確化、(f)道州制の導入などについて積極的な意見が多かったことは、我が国の将来に適切な処方箋を与える内容になっている。
  • 憲法改正のための国民投票法を制定すべきとする意見や、憲法問題を取り扱う国会の常設機関の設置に積極的な意見が多かったことは、今後の憲法の見直し作業に向けて、指針となるものである。
  • 将来の憲法見直しに向けての議論の場を視野に入れ、当調査会の枠組みを維持し、憲法についての調査と国民投票法案の起草及び審議権を付与することを強く要望する。


枝野 幸男君(民主)

  • 当調査会では、多岐にわたる憲法に関わる問題点を幅広く取り上げ、有識者や国民等から意見も伺いながら、精力的な調査を進めてきたこと、特に、現行憲法典の条項にとらわれることなく、21世紀の日本のあるべき姿について広範な議論がなされたことは、議会史上例のない画期的な成果であった。広い視点から日本の将来像を自由に議論する機会は、国会の中に十分には存在しておらず、こうした議論が自由闊達になされた点で当調査会は大きな役割を果たしてきた。
  • 当調査会の議論は、原則として自由討議方式により進められ、議員同士で質問、反論、再反論などが展開され、「言論の府としての議会」という憲法的にも重要な役割を、最大限に発揮してきた。
  • 報告書は、調査会における調査の成果を客観的に表したものであり、特定の結論を示してはいない。「多数意見」も、多くの委員が意見を表明した論点について、特定の意見が多数であったことを示すにすぎない。これは、当調査会に与えられた「調査」という役割に忠実に議論し、その結果を客観的に示したのが本報告書であることの当然の帰結である。
  • 公権力行使の基本法という重要な意義を持つ憲法の議論であり、その論点も多岐にわたり、さらには幅広い多様な意見が存在する中での議論であることや、当調査会が設置された5年前の状況を踏まえると、こうした報告書がまとめられたこと自体が大きな成果である。本報告書をもって何かが終わるのではなく、本報告書をスタートとして、これまでの調査をどのように生かしていくかが大事である。
  • 当調査会が憲法制定権力を持つ国民に、その議論を公開しその意見を求めるなど、憲法問題に対する世論を喚起するべく努力してきたことは、一定の成果をあげているが、憲法に対する国民の関心は、決して高いとは言えない。憲法改正については、国会議員は単に発議できるにすぎず、決定するのは国民自身であることから、報告書を通じて多くの国民に調査会の議論を知ってもらい、国民に「当事者」として議論を深めてもらうことが必要である。
  • これまでの調査を生かしつつ、国民と対話をしながら議論を深めていくことと、憲法改正手続法制の整備は、国民が憲法に対する関心と当事者意識を高める上で、車の両輪とも言える関係にあり、一体として当調査会がその役割を担うことが適切である。本調査会が、憲法議論の深化と憲法改正手続法制の整備の役割を担う第二ステップに進み、充実した議論がさらに展開することを強く期待する。


赤松 正雄君(公明)

  • 現行憲法は公布されて以来、非常に大きな役割を果たしてきた。国民主権、基本的人権の保障、恒久平和主義の「憲法基本3原則」を守り抜くことが、我が党の基本姿勢である。
  • 調査会における5年間の議論を通じて、憲法の広範かつ総合的な調査という目的がそれなりに達成されたことを素直に喜びたい。
  • 調査会の調査は、あらかじめ憲法を改めようというものではなく、どのように憲法が実施されているかを点検するものであったが、現実には、改正や規定の追加についての意見がしばしば展開された。報告書は、それを一定の基準の下で、意見の数の大小について示している。
  • このような意見の大小の表示について、党内には、調査会の目的を逸脱するものにならないかとする異論もあったが、意見を羅列するだけでは、最終報告書の名に値せず、一定の基準をもって整理し、まとめることはやむを得ないと考える。
  • 調査会での議論をよく点検すれば、改正がどうしても必要な項目は、多くない。また、憲法に関する議論を突き詰めると、政治の対応の貧困さが原因であることも少なくなく、そのことを棚上げして、改正さえすれば対応できるというものではない。我が党は、憲法規定の何を改め、加えなければならないか、また、憲法を変えなくても、法律や行政のあり方を変えることにより対応できるものは何かという観点からの検討が必要であると考える。
  • 9条については、現実との乖離を埋めることのために、理想を見失うことがないとは言えない。現状の追認のための明記にこだわりすぎるべきではなく、恒久平和の担い手としての原点に立ち戻ることが必要である。
  • 報告書を受けて、憲法のどこをどう変え、変えないのかということについて、憲法調査会の枠組みを維持しつつ、引き続き議論する場が必要である。憲法改正手続の整備は、憲法自体が予定している基本的な備えであることから、国民投票の手続法に限り議決権を与えることが必要である。
  • 憲法施行後長期間経過したことや諸外国との比較ということではなく、冷静な議論が必要であり、我が党は、報告書の内容を意識しつつも、これに縛られずに、憲法論議に堅実に取り組みたい。


山口 富男君(共産)

  • 憲法調査会は、憲法について広範かつ総合的に調査を行うことを目的とし、憲法の歴史的、現代的意義を明らかにし、憲法の諸原則に照らして現実政治を点検する調査を行うべきであるが、実際には改憲の動きが持ち込まれた。
  • 9条については、集団的自衛権の行使の明記や前文の改定について意見が述べられたが、世界と日本の平和を展望する上で、説得力があるものではない。
  • 米国が単独行動主義・先制攻撃戦略に基づき行ったイラク戦争と、我が国がそれを無批判に支持し、戦争が継続する地域へ自衛隊を派兵したことは、憲法の平和原則を深く傷つけた。これに対し、かつてない批判と抗議の世論、運動が広がったことを重視すべきである。本調査会においても、参考人や公述人等から厳しい批判がなされ、国連憲章に基づく平和のルールの実現と9条が、世界の平和にとってかけがえのないものであることが示された。
  • 「新しい人権」は、13条、25条等の下で国民の運動により確立してきた権利であって、それを実効あるものにするために、現実政治を変えることが課題である。
  • 憲法を改変することではなく、憲法の諸原則と現代的意義に基づき、立法、行政、司法など政治と社会の各分野で、憲法を守り、生かす豊かな営みをすすめることが必要である。
  • 報告書は、以上のような調査の経過と結果を反映しておらず、むしろ憲法調査会規程を逸脱した、憲法改定のための論点整理となっている。
  • 報告書が9条をはじめとする憲法の各条文において、何を明記するかの「是非」を中心に整理されたことは、調査に限定し、特定の結論を出さないという本調査会の性格に反している。また、「各論点ごとに、発言の数ではなく、意見を述べた委員の数をもってカウント」し、「概ねダブルスコアの開きがある場合に、大小関係をつける」という手法は、国会内の委員数によって改憲の論点をことさら大きくみせるものである。さらに、「委員の意見を論点ごとに類型化」することによって、「前文に我が国固有の歴史・伝統・文化等を明記すべきか否か」「家族・家庭に関する事項を憲法に規定することの是非」を論点にあげるなど、事実上、与党などの改憲論議に沿うものとなっている。
  • 報告書では「今後の憲法論議」として、「憲法問題を取り扱う国会の常設機関」の設置、「憲法改正手続法」の整備を取り上げ、憲法調査会に憲法改正手続法の起草・審査権限を与える方向を打ち出しているが、これらは9条改憲に向けた道をひらくものであり、認めることはできない。調査会は、「『概ね5年程度を目途とする』調査が終了し」たのであり、衆議院議長に報告書を提出したのちは、静かにその幕を閉じるべきである。
  • 日本国憲法は、平和の問題でも、国民生活、人権・民主主義の問題でも、今日、日本と世界が直面する様々な課題に対して、その解決の指針となる豊かな内容を持っている。
  • 多くの国民は、9条改憲に対抗して憲法のめざす平和、人権、民主主義の日本に向かって、さらに前進するだろう。そのことは、アジアや世界の平和・友好に新たな段階をきりひらく展望となる。


土井 たか子君(社民)

  • 戦前、軍部の暴走を許し大きな惨禍を引き起こした反省から生まれた日本国憲法は、国家権力に対して厳しい規制や制限を加え、主権者としての国民の権利を保障する立憲主義の原則に立っている。日本国憲法を貫く平和主義は、日本国民の総意であり希望である。
  • 9条は歴代の政権に縛りをかけ、日本は朝鮮戦争にもベトナム戦争にも参戦をすることなく、平和憲法を持つ国として世界各国に認められてきた。
  • 武力による問題の解決は、多くの死傷者や生活基盤や自然環境の破壊をもたらした。戦争に反対し、平和の回復に情熱を傾ける全世界の人々に、自信と誇り、勇気を持って9条の平和主義を掲げたい。
  • 国民の多くが憲法を生かす政治を求めているにもかかわらず、憲法を尊重、擁護する義務を負っている国会議員の多くが、憲法の諸原則を誠実に実行するのではなく、それらを否定し破棄することを主張し、とりわけ9条を標的に、改憲のための動きを進めている。
  • 憲法調査会の目的は、憲法について広範かつ総合的に調査を行うことであり、憲法の理念が実現されているか否か、その原因と責任、実現方策等を検証すべきであったが、改憲を主張する政党の委員の数に応じ、現憲法への批判と、どの条項をどう変えるかという意見が主流とされ、改憲の方向性が作られた。9条違反の立法を行いながらその違反の現実にあわせて憲法を変えようとする論議や、人権の救済と実現ではなく、国民の義務を増やすことについての議論に多くの時間が割かれた。
  • 2004年8月5日の調査会において行われた自民、民主、公明三党の改憲に向けての論点整理等の報告やこれについての論議は、当調査会の趣旨に明らかに反し公平性を欠く。
  • 最高法規を議論する調査会の討議の場において、定足数を満たさない場面が残念ながらたびたび見られたが、民主政治や立憲政治の将来に無責任とのそしりを免れない。また、報告書の編集方針や内容自体についても、調査会を開き議論して決めるべきだという当然の要求は実現しなかった。
  • 参考人や公聴会及び地方公聴会の公述人、意見陳述者の多くが、憲法を変えることではなく「憲法を生かす」ことの重要性を訴えていたにもかかわらず、その意見の記述は圧縮され、広範・多様な意見を正確に伝えていない。
  • 報告書は、さまざまな問題意識やニュアンスの違い等の多様性を捨象し、多数意見を作るための恣意的な基準で類型化され、改憲の方向性を示すものとなっている。
  • 憲法を生かす立場からの調査や記述もきわめて不十分である。集団的自衛権の行使を憲法上禁じられていることについての国際的・国内的な意義と歴史的重みについてはほとんど言及していない。また、「今後の憲法論議等」として、「憲法問題を取り扱う国会の常設機関」と「憲法改正手続法」に関する意見まで盛り込まれているが、このテーマ自体が調査会の目的を明らかに逸脱しており、報告書に掲載することは許されることではない。
  • 当調査会が以上のような方向と内容で運営され、報告書が作成されたことに断じて反対であり、憤りを持って遺憾の意を表明する。戦争を放棄し、紛争を対話によって解決する21世紀を希求し、憲法の危機に対し、すべての人々が強い関心を持ち、日本国憲法を守り生かすため、ともに努力を払われるよう訴えたい。