委員会 昭和21年7月4日（第5号）

昭和二十一年七月四日（木曜日）
　　　　午前十時十七分開議
　出席委員
　　委員長　芦田　　均君
　　　理事　江藤　夏雄君　理事　高橋　泰雄君
　　理事　廿日出ひろし君　理事　長井　　源君
　　　理事　吉田　　安君　理事　鈴木　義男君
　　　理事　林　　平馬君　理事　田中　久雄君
　　　理事　大島　多藏君
　　　　　　小野　　孝君　　　　上林山榮吉君
　　　　　　神田　　博君　　　　木島　義夫君
　　　　　　木村　義雄君　　　　小島　徹三君
　　　　　　左藤　義詮君　　　　武田　キヨ君
　　　　　　武田信之助君　　　　塚田十一郎君
　　　　　　本田　英作君　　　　三浦寅之助君
　　　　　　山本　正一君　　　　青木　泰助君
　　　　　　關谷　勝利君　　　　林　　　連君
　　　　　　原　健三郎君　　　　原　夫次郎君
　　　　　　星　　　一君　　　　山崎　岩男君
　　　　　　井伊　誠一君　　　　石川金次郎君
　　　　　　及川　　規君　　　　黒田　壽男君
　　　　　　杉本　勝次君　　　　棚橋　小虎君
　　　　　　松澤　兼人君　　　　森　三樹二君
　　　　　　井上　徳命君　　　　石原　　登君
　　　　　　大橋　喜美君　　　　越原　はる君
　　　　　　酒井　俊雄君　　　　橋本　二郎君
　　　　　　大石ヨシエ君　　　　大谷　瑩潤君
　　　　　　竹谷源太郎君　　　　早川　　崇君
　　　　　　藤田　　榮君　　　　赤澤　正道君
　　　　　　秋田　大助君　　　　野坂　參三君
同日委員木村公平君及ビ竹谷源太郎君
辞任ニ付其ノ補欠トシテ加藤一雄君及
ビ若林義孝君ヲ議長ニ於テ選定シタ
　出席国務大臣
　　　　　　　　内閣総理大
　　　　　　　　臣兼外務大
　　　　　　　　臣　　　　　　　吉田　　茂君
　　　　　　　　　国務大臣　男爵幣原喜重郎君
　　　　　　　　　司法大臣　　　木村篤太郎君
　　　　　　　　　文部大臣　　　田中耕太郎君
　　　　　　　　　国務大臣　　　齋藤　隆夫君
　　　　　　　　　逓信大臣　　　一松　定吉君
　　　　　　　　　厚生大臣　　　河合　良成君
　　　　　　　　　国務大臣　　　植原悦二郎君
　　　　　　　　　運輸大臣　　　平塚常次郎君
　　　　　　　　　大蔵大臣　　　石橋　湛山君
　　　　　　　　　国務大臣　　　金森徳次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　法制局次長　　　佐藤　達夫君
　　　　　　　　大蔵事務官　　　福田　赳夫君
　　　　　　　　大蔵事務官　　　野田　卯一君
　　　　　　　　司法事務官　　　佐藤　藤佐君
　　　　　　　　司法事務官　　　奧野　健一君
　　　　　　　　文部参与官　　　花村　四郎君
　　　　　　　　厚生事務官　　　勝俣　　稔君
　　　　　　　　厚生事務官　　　葛西　嘉資君
　　　　　　　　運輸事務官　　　秋山　　龍君
　　　　　　　　運輸事務官　　　佐藤　榮作君
　　　　―――――――――――――
本日ノ会議ニ付シタ議案
　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、質疑ニ入リマス――林平馬君
○林（平）委員　総理大臣ハ御多忙デイラツシヤイマスカラ、総理大臣ノ方カラ先ニ御尋ネ申上ゲマス
　私ハ戦争抛棄ニ付キマシテ、総理大臣ニ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、惟フニ平和ハ神ノ心デアリ、又総テノ人類ノ最高ノ念願デアルト信ジマス、然ルニ此ノ平和トハ全然正反対デアル所ノ戦争ヲバ、有史以来数千年、人類史上カラ払拭スルコトガ山来ナイデ、今日ニ至ツタ次第デアリマス、人ハオ互ヒ万物ノ霊長ナドト手前味噌ヲ並ベテ居ルクセニ、最モ好ム平和ヘハ一歩モ近付クコトガ出来ズニ、寧ロ次第ニ遠ザカリツツ、文化トハ正反対ニ戦争ノ発達ニ一路邁進シテ来タコトハ、歴史ノ示ス所デアリマス、凡ソ個人的ニモ国際的ニモ、紛争ヲ腕力ヤ武力ヲ以テ解決シヨウトスルコトハ、最モ低級下劣ナ行為デアリマスカラ、人類ハ最早此ノ辺デ大懺悔スベキモノト思ヒマス、若シモソレヲ悟ルコトナク、武力ヲ飽クマデモ最後ノ解決手段トシテ培養シ、確保シテ居ルトキハ、其ノ為ニ相手方ヲ脅威セシメルバカリデナク、自分自ラモ亦常ニ其ノ不安ヲ抱カザルヲ得ナイノデアリマス、歴史ノ教ヘルヤウニ、戦争ハ戦争ヲ製造シテ居ルノデアリマス、若シモ戦争ヲ抛棄スルコトガ出来ナイナラバ、人類ハ永久ニ戦争ノ中ニ、或ハ戦争ノ為ニ生存ヲ続ケテ行カナケレバナラナイコトニ気付カナケレバナラヌト思ヒマス、而シテ戦争抛棄ノ唯一絶対ノ方法ハ何カト申シマスレバ、武力ヲ持タナイコトデアルト思ヒマス、ケレドモ此ノコトタルヤ極メテ至難ノコトデアリマシテ、何レノ国家ニ於テモ、余所ノ国カラ何等カノ圧迫要求ヲ受ケナイデ、全ク自発的ニ武装ヲ解除スルコトハ、恐ラク不可能ト信ジマス、然ルニ我ガ国ハ敗戦ノ結果、世界ニ率先シテ此ノ不可能ヲ可能タラシメタコトハ、人類最高ノ念願カラ見ルナラバ、敗戦ノ成功トモ見ルベキモノト信ズルノデアリマス、而シテ「アメリカ」ヲ初メ連合国ガ、我ガ国ヲシテ世界平和ニ貢献ノ出来ル態勢ヲ整ヘルヤウニト、常ニ多大ノ苦心ト努力トヲ尽サレテ居ルコトハ、我々ノ深ク感銘スル所デアリマス、唯ココニ我々ノ不安トスル所ハ、今日コソハ我々ハ何レノ国ヨリモ侵サレル気遣ヒハアリマセヌガ、併シ近キ将来ニ於テ平和条約ガ成立シ、連合国ノ手カラ離レタ其ノ刹那ニ於テ、武力ナクシテハ如何ナル小サナ国家ヨリモ、ドノヤウナ弱小国家ヨリモ受ケルデアラウ国際的脅威ヲバ、如何ニシテ排除スルコトガ出来ルカト云フ点デアリマス、ソレニハ平和世界建設ヲ理想トスル建前ノ連合国ヲ初メ、世界ノ諸民族ノ信義ニ信頼スル以外ニハ到底ナイノデアリマス、実ニ日本国民ノ戦争抛棄ノ宣言ハ、国民全体ノ生存ヲ賭シテノ態度デアリマスコトヲ、政府ハ内外ニ向ツテ十分ニ主張シ、宣伝シテ貰ハナケレバナラナイト信ジマス、先日本会議ニ於テ吉田総理大臣ハ、従来自衛権ノ名ニ於テ戦争ガ惹キ起サレテ来タノデアルカラ、真ノ世界平和建設ノ大理想達成ノ為ニハ、其ノ自衛権ヲモ亦抛棄スベキモノデアルトノ御意思ノヤウナ御答弁ガアツタノデアリマスルガ、恐ラクハ此ノ御答弁ハ世界ノ思慮アル人々ヲシテ感銘ヲ博シタコトト信ジマス、幸ヒニモ本年四月五日、連合国日本管理理事会ノ初ノ会議ニ於キマシテ「マッカーサー」元帥ガナサイマシタアノ演説コソハ、此ノ戦争抛棄ノ条文ト相呼応シテ、真ニ深キ感銘ト感謝トヲ感ズルト共ニ、元帥ハ極メテ力強ク、此ノ崇高ナル戦争抛棄ノ理想ハ、一方的デハ一時的ナ便法ニ過ギナイノデアル、デアリマスルカラ此ノ理想達成ノ為ニハ、日本ノ戦争抛棄ニ関スル提言ヲ、全世界ノ人達ノ思慮深キ考察ニ推挙スル云々トシテ、実ニ力強ク世界各民族ノ良心ト叡智ニ呼掛ケラレテ居ルコトハ、実ニ偉大ナル保証ト信ズルモノデアリマス、而シテ日本国民ガ此ノ戦争抛棄ノ宣言ヲスルコトハ、所謂曳カレ者ノ小唄デハ断ジテアリマセヌ、又アツテハナリマセヌ、此ノ最大崇高ナル使命ノ中ニ生キテ行キタイノデアリマス、是ガ我我民族ノ切ナル念願デアルト信ジマス、是レ実ニ日本民族三千年来ノ大理想デアリマス、最近ハ其ノ理想ガ非常ニ歪メラレテ、世界ノ誤解ヲ受ケテ今日ヲ招イタノデアリマスガ、実ハ世界平和ハ我々民族ノ三千年来ノ念願デアルノデアリマス、デアリマスカラ吉田総理大臣ハ余生ヲ捧ゲラレ、一身ヲ挺シテ陛下ヲ先頭ニ迎ヘラレテ、八千万国民ヲ率ヰテ、以テ突起チ上ツテ貰ヒタイノデアリマス、ソレデコソ日本ガ世界ニ存在ノ意義ガアルト思フ、其ノコトナクシテ日本ノ存在ノ意義ハナイトサヘ信ジマス、恐ラク斯様ナ機会ハ、日本ニ取ツテハ実ニ空前デアツテ絶後デアルト思フ、歴史的ニ唯一回限リ天ヨリ与ヘラレタル「チャンス」デアルト信ジマス、諄イヤウデアリマスルガ、敗戦ノ結果拠ドコロナク平和愛好者ニ我々ガ転向シタモノデハアリマセヌ、世界随一ノ平和愛好民族デアルコトヲ、世界ニ向ツテ宣言シ諒解シテ貰ハナケレバナリマセヌ、其ノ平和愛好者デアルト云フ民族ノ心持ヲ表ハス証拠ハ、幾ラデモアラウト思ヒマス、其ノ一ツヲ申上ゲテ見ルナラバ、此ノ猫ノ額ノヤウナ狭イ国土ニ、八千万ニ近イ国民ガ生活ヲシテ居ルノデアリマス、即チ一平方「キロ」ノ中ニ約二百人ノ人口ヲ持ツテ居ル所ノ、世界随一ノ稠密ナル国デアリマス、斯カル国家ハ世界ノ何レニモナイノデアリマス、是レ即チ仮令如何ナル苦労ヲシヨウトモ、余所ヘハ行キタクナイ、此ノ祖国ニ生存ヲシテ行キタイ、祖国ヲ離レズニ生活ヲシテ行キタイト云フ、国土愛着ノ結果ニ外ナラナイノデアリマス、汽車デ通ツテ見マシテモ、到ル処山ノ上マデモ開拓シテ、営々辛苦ヲ続ケテ居ル日本ノ姿ヲ見ルナラバ如何デアリマスカ、侵略移住ノ民族ニアラズト断定スルコトハ、容易デアルト思フノデアリマス、侵略移住ノ民族デアルナラバ、コンナ所ニ営々ヤツテ居ル筈ハアリマセヌ、如何ニ非侵略的民族デアルカト云フコトハ、此ノ日本ノ姿ヲ見タダケデ明暸デアルト思ヒマス、私ハ此ノ日本ノ真ノ国民性ヲ世界ニ諒解シテ貰イタイノデアリマス、斯カル平和愛好国民ガ、殊ニ世界平和ヘノ一本道シカ与ヘラレナイ国民ガ、ココニ憲法ヲ以テ戦争抛棄ヲ世界ニ宣言セントスルノデアリマスルカラ、此ノ憲法ハ実ニ日本ノ憲法ニ止マラズ、世界ノ憲法タラシムルノ信念ヲ持タナケレバナラヌト信ズルモノデアリマス、吉田総理大臣ハ人類平和ノ為ニ率先挺身、「マッカーサー」元帥ノ御演説ト相呼応シテ、世界ノ与論ヲ喚起セシムベク努力スベキモノナリト思ヒマス、又ソレガ即チ陛下ノ御聖旨ニ対ヘル所以デモアリ、全国民ノ熱烈ナル希望ニ副フ所以デモアリ、且ツハ「ポツダム」宣言ノ理念ニ応ヘル所以デモアルト確信致シマス、果シテ総理大臣ハ其ノ御決心、御覚悟ガオアリデアルカドウカ、此ノ一点ヲ特ニ御尋ネ申上ゲル次第デアリマス
○吉田国務大臣　林君ノ御質問ニ御答ヘ致シマス、此ノ間ノ私ノ言葉ガ足リナカツタノカ知レマセヌガ、私ノ言ハント欲シマシタ所ハ、自衛権ニ依ル交戦権ノ抛棄ト云フコトヲ強調スルト云フヨリモ、自衛権ニ依ル戦争、又侵略ニ依ル交戦権、此ノ二ツニ分ケル区別其ノコトガ有害無益ナリト私ハ言ツタ積リデ居リマス、今日マデノ戦争ハ多クハ自衛権ノ名ニ依ツテ戦争ヲ始メラレタト云フコトガ過去ニ於ケル事実デアリマス、自衛権ニ依ル交戦権、侵略ヲ目的トスル交戦権、此ノ二ツニ分ケルコトガ、多クノ場合ニ於テ戦争ヲ誘起スルモノデアルガ故ニ、斯ク分ケルコトガ有害ナリト申シタ積リデアリマス、又自衛権ニ依ル戦争ガアリトスレバ、侵略ニ依ル戦争、侵略ニ依ル交戦権ガアルト云フコトヲ前提トスルノデアツテ、我々ノ考ヘテ居ル所ハ、国際平和国体ヲ樹立スルコトニアルノデ、国際平和国体ガ樹立セラレタ暁ニ於テ、若シ侵略ヲ目的トスル戦争ヲ起ス国アリトスレバ、是ハ国際平和国体ニ対スル傍観デアリ、謀叛デアリ、反逆デアリ、国際平和国体ニ属スル総テノ国ガ此ノ反逆者ニ対シテ矛ヲ向クベキデアルト云フコトヲ考ヘテ見レバ、交戦権ニ二種アリト区別スルコトソレ自身ガ無益デアル、侵略戦争ヲ絶無ニスルコトニ依ツテ、自衛権ニ依ル交戦権ト云フモノガ自然消滅スベキモノデアル、故ニ交戦権ニ二種アリトスル此ノ区別自身ガ無益デアル、斯ウ言ツタ積リデアルノデアリマス、又御尋ネノ講和条約ガ出来、日本ガ独立ヲ回復シタ場合ニ、日本ノ独立ナルモノヲ完全ナ状態ニ復セシメタ場合ニ於テ、武力ナクシテ侵略国ニ向ツテ如何ニ之ヲ日本自ラ自己国家ヲ防衛スルカ、此ノ御質問ハ洵ニ御尤モデアリマスガ、併シナガラ国際平和国体ガ樹立セラレテ、サウシテ樹立後ニ於テハ、所謂Ｕ・Ｎ・Ｏノ目的ガ達セラレタ場合ニハＵ・Ｎ・Ｏ
　加盟国ハ国際連合憲章ノ規定ノ第四十三条ニ依リマスレバ、兵力ヲ提供スル義務ヲ持チ、Ｕ・Ｎ・Ｏ　自身ガ兵力ヲ持ツテ世界ノ平和ヲ害スル侵略国ニ対シテハ、世界ヲ挙ゲテ此ノ侵略国ヲ圧伏スル抑圧スルト云フコトニナツテ居リマス、理想ダケ申セバ、或ハ是ハ理想ニ止マリ、或ハ空文ニ属スルカモ知レマセヌガ、兎ニ角国際平和ヲ維持スル目的ヲ以テ樹立セラレタＵ・Ｎ・Ｏトシテハ、其ノ憲法トモ云フベキ条章ニ於テ、斯クノ如ク特別ノ兵力ヲ持チ、特ニ其ノ国体ガ特殊ノ兵力ヲ持チ、世界ノ平和ヲ妨害スル者、或ハ世界ノ平和ヲ脅カス国ニ対シテハ制裁ヲ加ヘルコトニナツテ居リマス、此ノ憲章ニ依リ、又国際連合ニ日本ガ独立国トシテ加入致シマシタ場合ニ於テハ、一応此ノ憲章ニ依ツテ保護セラレルモノ、斯ウ私ハ解釈シテ居リマス
　尚ホ此ノ機会ニ高橋英吉君ノ質問ニ御答ヘ致シマス、日本国ハ独立国ナリヤ、日本国ハ独立国デアリマス、日本政府ハ儼トシテ存在スルノデアリマス、又連合国側ニ於テモ日本国政府ヲ通ジテ占領政策ヲ行フト云フコトニナツテ居リマス、連合国モ日本国政府ノ存在ヲ認メテ居ルノデアリマス、但シ日本政府ガ降伏条項ヲ受諾致シマシタ結果、占領期間中ハ日本統治ハ占領軍総司令官ニ従属致スノデアリマス、即チ日本ノ統治権ノ形態ニ於テ占領軍総司令官ニ従属スルト云フ形式ニナツテ居リマス、即チ占領期間中ハ日本ノ統治権ノ行使ハ自由デナイノデアリマス、即チ其ノ範囲ニ於テ日本ノ統治権ハ制約セラレテ居ルノデアリマス、又「ポツダム」宣言ハ条件ナリヤト云フ御尋ネデアリマスガ、是ハ条件デハナクシテ、日本降伏ノ条項ノ内容ヲ成スモノデアリマス、「ポツダム」宣言ハ日本降伏ノ内容ヲ成スモノデアツテ、所謂条件デハアリマセヌ
　又第三ノ御尋ネトシテ日本軍ガ武装ヲ解除セラレタル後、尚ホ抑留セラレテ居ル日本ノ軍其ノ他ガアルト云フコトハ「ポツダム」宣言ニ違反デハナイカ、御尤モナ御質問デアリマス、私モ是ハ遺憾ト考ヘマス、又過日ノ対日理事会ニ於テ在外未帰還邦人ノ送還ガ問題トセラレタ場合ニ、米国ノ代表者ハ所謂「ポツダム」宣言中ノ「日本國軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復歸シ平和的且生産的生活ヲ營ムノ機會ヲ得セシメラルベシ」ト云フ条項ヲ引用シテ、日本ノ此末帰還復員部隊及び未帰還邦人ノ為ニ意見ヲ発表セラレマシタガ、連合国ノ意思ハ其ノ通リデアリマス、所謂公約セラレタ条項ニ違反スルデハナイカト云フコトヲ言ツテ居リマス、私ハ洵ニ尤モノコトデアリ、日本政府トシテモ同意見ヲ持ツテ居ルト云フコトヲココニ申上ゲマス（拍手）
○林（平）委員　総理大臣ノ御答弁ハ私ノ御尋ネ申上ゲタ事トハ少シ違ヒマスノデアリマシテ、実ハ只今縷々申シマシタヤウニ、日本国民ハ真ノ平和愛好国民デアルト云フコト、詰リ曳レ者ノ小唄ノヤウニ、俄カニ愛好者ニ転向シタモノデナク、長イ数千年ノ念願デアルト云フコトヲ「マッカーサー」元帥ノ御演説ト相呼応シテ世界ニ呼掛ケテ其ノ諒解ヲ求ムベク起チ上ツテ戴キタイト云フコトヲ申上ゲタノデアリマスガ、此ノ上御質問ヲ繰返スコトハ無駄ノコトデアリマスカラ、私ハ総理ニ対スル御質問ハ是デ終リマス
○吉田国務大臣　只今私ノ答弁中其ノ点ニ付テハ言ヒ洩ラシマシタ、全ク御同感デアリマス、政府ト致シマシテハ其ノ趣意ヲ十分含ンデ将来トモ善処スル積リデ居リマス（拍手）
○林（平）委員　金森国務大臣ニ御尋ネ申上ゲマス、此ノ改正憲法草案ニ対シマシテ政府ハ虚心担懐ニ修正スル意思アリヤ否ヤ、先ヅ以テ此ノ点ヲ御伺ヒ致シテ置キタイノデアリマス、ナゼ斯様ナコトヲ御尋ネスルカト申シマスト、本案提出以来ココニ数日ニ亙ル審議ノ跡ヲ見マスルノニ、洵ニ傾聴ニ値スル御説モ少クハナイヤウデアリマスガ、政府ノ御答弁ハ少シモソレヲ受容レヨウトセラレル態度ガ私ニハ見取レナイノデアリマス、殆ド原案ヲ押切ラウト云フヤウナ風ニ見受ケラレルノデアリマス、若シモ修正ハ出来ナイノダト云フナラバ、幾ラ熱心ニ質疑ヲ致シマシタ所デ、結局ハ無駄デアラウト思ヒマス、ドウカ虚心坦懐ニ、世界ニ誇ルベキ立派ナモノニ仕上ゲヨウト云フ方向ニ進ム為ニ、政府ノ大キナ態度ヲ示シテ戴キタイト思ヒマス、第一此ノ原案ヲ通読致シマスルト、其ノ前文ヲ読ンデモ、条文ヲ見マシテモ、政府ガ此ノ原案作成ニ如何ニ御苦心サレタカト云フコトハ十分ニ窺ハレマス、併シ其ノ御苦心ハ、現行憲法ヲ如何ナル形ニ於テ改正スベキヤト云フ狭イ枠ノ中ノ苦心ニ過ギナイヤウナ感ジガスルノデアリマス、随テ出来上ツタ此ノ原案ナルモノハ、甚ダ御不礼ナ申分デ恐縮致シマスケレドモ、何ダカ切リ貼リシテ御出シニナツタヤウナ風ニ受取レルコトヲ遺憾トスルノデアリマス、我ガ国ハ今ヤ小サナ日本デハアリ得ナイノデアリマス、世界ノ一員トシテノ日本トナラナケレバナラナイノデアリマスルカラ、極メテ大キナ視野ニ立ツテノ構想ヲ必要トスルト思フノデアリマス、殊ニ軍国主義、権力主義ノ絆ヲ断チ切ツテ、文化国民ヘノ一大転換ヲナサントスル決心ト其ノ方式トヲ規定セントスル憲法トシテノ構想ニ基イテ組立テナケレバナラナイト信ズル者デアリマス、即チ此ノ前文ナルモノハ、日本ヲ含ム世界ノ全人類ヘノ一大宣言文デアツテ欲シイト思ヒマス、又条文ニハソレヲ如何ニシテ具現スルカト云フ具体的ノ事柄ヲ盛リ込マレテ行クベキモノデアラウト信ジマス、サウ云フ見地カラ見ルト、アノ前文ハ世界ヘノ宣言文トシテハ洵ニ心細ク感ジマス、又条文全体ニソレヲ達成スル具体的事柄ガ盛リ込マレテ居ルトハ思ハレナイ、洵ニ小サナモノ、或ハ一時的ノモノ、恆久的性質ノモノデナイモノナドモ盛リ込ンデ居ルノデアル、昨日ノ御質問ニモアリマシタヤウニ、是ハ何時ノ憲法ナンダラウ、何処ノ国ノ憲法ナンダラウト云ウヤウナ意味ノ御質問モ決シテ無理ナ御質問トハ思ハレナイノデアリマス、デアリマスルカラ、ドウカ政府ハ虚心坦懐ニ、委員各位ノ述ベラレル所ヲ成ベク取入レテ、ヨリ良キモノニ仕上ゲルト云フ態度ヲ示シテ戴キタイト思フノデアリマス、此ノ点如何デアリマセウカ
○金森国務大臣　御答ヘヲ致シマス、固ヨリ政府ハ議会ニ於ケル自由ナル意思ノ表明ニ反スル考ヘハ持ツテ居リマセヌ、今マデトテモ御修正ニ応ジナイト云フコトハ決シテ申シテハ居リマセヌ、要ハ其ノ中身、此ノ憲法ヲ満スニ適スルヤ否ヤ、或ハ此ノ憲法草案ニ変更ヲ加フルニ適スルヤ否ヤト云フコトト世界ノ情勢トノ組合セノ考ヘノ下ニ於テ申シテ居ルノデアリマシテ、反対ノ主張ヲ容レナイト云フ語気ヲ今マデ洩ラシタ積リハアリマセヌカラ、御諒承願ヒマス
○林（平）委員　此ノ憲法草案ヲ見マスルト、国民ト云フ字句ガ三十数箇所ニ用ヒラレテアルノデアリマス、サウシテ天皇ハ国民ノ内ニ含ムヤトノ同僚ノ御質問ニ対シテ、金森国務相ハ含ムトノ御答弁デアリマスガ、私ハ此ノ含ムト云フコトニ付テ御尋ネヲ申上ゲタイノデアリマス、即チ其ノ含ミ方ガ如何ナル形ニ含ムカト云フコトニ付テ御尋ネヲシタイノデアリマス、私ノ所見ヲ以テスルナラバ、日本ノ天皇ハ恰モ「ピラミッド」ノ頂点的存在デアラウト思ヒマス、又平面的ニ見ルナラバ、三角形ノ頂点的存在デアルト思ヒマス、三角形ノ頂点ハ三角形ノ内デモナク外デモナイノデアリマス、而モ此ノ三角形ノ頂点ナクシテハ三角形ハ成立タナイノデアリマスカラ、頂点ハ三角形ノ不可欠的存在デアルノデアリマス、天皇モ是ト同様ニ、国民ノ内ニアラズ外ニアラズ、不可欠ノ貴重ナル存在デアルト確信スルモノデアリマス、若シモサウデハナク、国民ヲ三角形ト見タル場合ニ天皇ハ三角形ノ内部ノ一点デアラセラレルトスルナラバ、当然国民トシテノ権利義務ノ問題ガ起ツテ来ルデアラウト思ヒマス、随テ選挙権モ当然有セラレルデアリマセウ、随テ又天皇ハ何レノ政党ニ入党セラレルコトモ御自由デナケレバナラヌト思ヒマス、随テ天皇ハ一党一派ノ存在トナルコトハ免レナイ次第デアルト思ヒマス、斯クテハ天皇ハ天皇ト称スル大統領トナル次第デアルト思ヒマス、一君万民トカ無色透明トカ云フ、国父トシテノ存在ヲ全然覆ヘサレルコトト思ヒマス、ソレコソ立派ナ国体ノ大変革デアリマス、天皇ガ国民ノ内デアルト云フ其ノ内ナル解釈コソハ、実ニ此ノ憲法ノ最モ重要ナル点デアルト信ジマスノデ、此ノ点ヲ明瞭ニ御答ヘヲ願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣　只今ノ御尋ネノ問題ハ、三角形等ノ譬喩的ナル御言葉ヲ御用ヒニナリマシタ為ニ、幾分了解シ兼ネル所ガアリマスルガ、要スルニ天皇ハ国民ノ外ニアルト云フコトニ帰着スルト思ヒマス、天皇ガ国民ノ外ニアルカナイカハ、国民ト云フ言葉ノ範囲ヲ決メルコトニ依ツテ、何レノ答ヘモ正シイト思ヒマスカラ、文字ノ上ノ議論トシテ何等ソレヲ反対トモ賛成トモ申上ゲル必要ハナイト思ヒマスケレドモ、日本ノ国ノ組立ト云フモノハ、日本ノアリト凡ユル属スル人ガ、一致協同ノ立場ニ於テ之ヲ形ヅクツテ居ルモノデアリマシテ、超越的ナル地位ニ於テ国民ヲ統治セラレルト云フ思想ハ、過去ニ於テ確カニサウ云フ表明モアリ、又ソレガ合理的ナル部分モアリマシタケレドモ、長イ間ヲ通ジテ見マシテ、又我々ノ心ノ中ニ生々トシテ存在シテ居ル心ヲ探リ求メテ見マスレバ、結局天皇ハ我等ノ中ニアルノデアル、日本ノ国ニ属スル一切ノ人々ハ天皇ヲ中心トシテ、心ノ繋リヲ以テ之ヲ包容シテ居ルノデアル、ソレ等ハ考ヘトシテハ恐ラク同ジヤウニ誰モ彼モ考ヘテ居ルト思ヒマスガ、アトハ言葉ノ問題ニナラウト思ヒマス、而シテ其ノ言葉ノ問題トシテ、強ヒテ其ノ言葉ヲ区別致シマスルコトガ、是ハ単ニ方便ニ止マラナイノデアリマシテ、日本ノ純潔ナル一ツノ結合体ヲ二ツニ割イテ、超越的ナル天皇ト、之ニ従属スル国民、斯ウ云フ風ニ分ケマスルコトガ、自然色々ナ誤解ヲ起シ、其ノ誤解ハ世界ニマデ悪イ影響ヲ及ボスト云フコトヲ信ジラレマスルガ故ニ、此ノ憲法ノ草案ニ於キマシテハ、唯一ツノ国民ト云フ言葉ヲ以テ之ヲ表ハシタ次第デアリマス、随テ天皇モ御一人トシテノ立場ニ於キマシテハ、此ノ国ヲ組立ツル所ノ一人デアリマス、此ノ憲法ノ用ヒテ居リマス国民ト云フ言葉ノ中ニ含マレテ居ルト云フコトハ、度々繰返シテ申上ゲテ居リマス、随テ第三章ニ掲ゲテアリマス国民ノ権利義務ト云フコトニ関シマスル規定ハ、原理トシテハ天皇ニモ当嵌マルト考ヘテ居ルコトハ、既ニ申上ゲマシタ通リデアリマス、然ラバ選挙権ガ出来、被選挙権ガ之ニ備ハルノデアルカト言ヘバ、ソレハ直チニハ答ヘラレマセヌ、原理トシテノ考ヘト、是ガ実行段階ニ於ケル考ヘト云フモノハ、総テ完全ニ一致スル訳ニハ行キマセヌ、本来ノ性質ナラバ選挙権ヲ御持チニナルベキ筋合デアルニシテモ、国ノ象徴デアリ、国民統合ノ象徴デアル天皇ノ御地位ト併セテ見マシテ、今モ御尋ネノ中ニ前提トシテ御主張ニナリマシタガ、全ク其ノ御言葉通リ、天皇ハ不偏不党デアリ、公正無私デアリ、ソレニ依ツテ象徴タル地位ニ相応シイノデアリマスカラ、其ノ点カラ選挙権ト云フモノハ帰属シナイノガ相当デアルト云フコトハ、前々カラ申シテ居リマシタガ、今尚ホ左様ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○林（平）委員　其ノ点ハ十分了解出来ナイノデアリマスケレドモ、次ノ質問ヲ致シマス、草案ノ第一条ニ「至高の總意に基く」トアルノデアリマスルガ、其ノ至高ノ意義ハドウデアルカト云フコトニ付テ御尋ネ致シタイノデアリマス、私ノ至高ト云フ意義ニ対スル考ヘヲ申上ゲテ見ルナラバ、此ノ意義ハ日本国民ノ最高度ノ国民的感情ト、最高度ノ国民的理性トヲ内容トスル国民ノ最高心理ノ総合ト解釈スベキモノデアラウト思フノデアリマスルガ、如何デゴザイマセウカ、詰リ国民ノ至高ノ総意ト云フ其ノ至高ノ意味ノ中ニハ、天皇ヲモ支配スル権力的最高ト云フヤウナ意味ヘ全然含マレテ居ナイモノデアルト、斯様ニ解釈シテ居ルノデアリマス、又斯様ニ解釈シテコソ、国民ノ最モ心配シテ居ル国体ノ変革デハナイカト云フ疑ヒヲ一洗シテ、金森国務相ノ言ハレルヤウニ、国民ノ心ノ奥深ク包蔵シテ居ル所ノ天皇ノ至尊性ガ、ココニ十分ニ表現サレテ居ルモノナリト解釈出来ルノデアリマス、尤モ至尊性ト申シマシテモ、所謂神権説的ナ、或ハ神秘的ナモノトハ、全然其ノ観念ヲ異ニスルモノデアリマスガ、唯天皇ノ天職ト申シマセウカ、国民ノ象徴トシテノ至尊性ヲ感ズルコトハ、国民性ト云ツタヨリモ寧ロ人間性ノ当然ノ心理デアルト信ズルノデアリマス、此ノ点ヲ御尋ネ申上ゲマス
○金森国務大臣　私共ハ過去ニ於キマシテ色々ニモノヲ考ヘテ来マシタ、ソレ等ノ考ヘハ時代ノ力ニ影響サレマシテ、モノノ本質ヲ把握シナイデ、謂ハバ第二義的ナモノヲ捉ヘテ、ソレヲ以テ思想ノ基礎トシ、思想ヲ統一スル基礎トシテ居ツタコトハ、明カニ事実デアラウト思ヒマス、随テ或ル時代ノ考ヘ方ニ於キマシテ、国ノ中ニ治者ト被治者ト二ツノ考ヘヲ持チ、ソレデ以テ例ヘバ憲法ノ学問ヲ説明スルト云フコトガアツタコトモ、是レ亦認メナケレバナリマセヌ、併シソレハ歴史ノ或ル層ニ於キマシテ斯ク考ヘタト云フコトハ真実デアリマスケレドモ、一層深ク掘下ゲテ其ノ考ヘノ起ツテ来ルモウ一層根本ノ所ヲ考ヘテ見マスト、度々私ガ申上ゲテ居リマスルヤウニ、日本ノ国ノ組立テト云フモノハ、我々ノ心ノ奥深クニ根ヲ張ツテ居ル所ノ心ノ繋リニ依ツテ天皇ヲ包容シ、サウシテ民族統合ヲ形ヅクリマシテ、其ノ形ヅクツタモノヲ基礎トシテ、日本国家ガ存在シテ居ツタト云フコトハ、恐ラク歴史ヲ長イ間通観シテ考ヘテ見マシテ認メザルヲ得ナイ所デアラウト思ヒマス、憲法ノ第一条ハ其ノ考ヘヲ基ト致シマシテ樹立セラレテ居リマスルガ故ニ、「國民の至高の總意」ト云フコトノ「至高」ト云フ言葉ハ、今御質問ニナリマシタヤウナ特殊ナ註釈ヲ用ヒルノデハナクシテ、此ノ言葉ノ示スガ如ク淡白ニ受容レルコトガ、一番此ノ原案ノ趣旨ニ副フモノト考ヘテ居リマス
○林（平）委員　率直ニ申シマスト、私ハ神権説トカ神秘的トカ云フ意味合ニ天皇ヲ見テ居ルノデハアリマセヌ、同時ニ又人民ノ権力ニ依ツテ天皇ノ地位ヲ定メ、権力ニ依ツテ天皇ノ地位ヲ定メルト云ツタヤウナ、サウ云フ天皇、詰リ従来ノ天皇ノ地位ニ国民ヲ置換ヘルト云ツタヤウナコトハ極端カラ極端ノ考ヘデハナイカト思フ、実ハ其ノ何レニモ偏シナイ考ヘデ御尋ネシテ居ルノデアリマスルガ、金森国務相ノ先日来ノ御話ニ依リマスト、天皇ハ結局、条文ノ上カラ見ルト、国民ノ下位ニ位スルヤウナ風ニ取ラレルノデアリマスルガ、其ノ点ハモウ一度ハツキリ伺ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣　天皇ガ国民ノ下位ニ置カルルト云フ思想ハ毫末モ含ンデハ居リマセヌ、此ノコトハ御説明ヲ申上ゲマスノモ甚ダ僣越ノ虞ガアリマシテ恐縮デアリマスルガ、寧ロ私共ノ昔考ヘテ居ツタ素朴ナ考ヘガ、今日ニ至ツテ色々ト転換シテ来マシタ道行キヲ以テ御説明ヲ申上ゲマシタナラバ、詰リ御質問者ノ御意向ト云フノデハナクテ、私自身ガ過去ノ不明ヲ謝シツツ今日ニ至リマシタ所ノ思想段階ヲ申上ゲマシタナラバ、或ハ御得心ガ行クコトカト存ズルノデアリマス、私共過去ニ於キマシテ、天皇ノ御地位ヲ説明ヲ致シマスル時ニ、色々ナ考ヘ方ヲ執ツタノデアリマス、私自身ハ、今モ仰セニナリマシタヤウニ、天皇ガ御一人ノ意思ヲ以テ国家ノ全人民ヲ指揮命令セラレル、斯ウ云フ風ニ説タコトハ実ハ忍ビナカツタノデアリマス、所謂極端ナル統治権論者ト致シマシテ、其ノ意見ニ一致スルコトハ出来ナカツタノデアリマス、其ノ事情ハ後ニ申上ゲマス、而シテ其ノ次ノ段階ニ於キマシテ、ソレデハドウスルカト云フコトニナリマスルト、所謂表現的ナ説明ノ仕方ト申シマスルカ、国家ト云フ一ツノ組織体ガ考ヘラレ、其ノ組織体ノ、詰リ民族ノ形ヅクル組織体、其ノ組織体ノ全体ノ意思ヲドウシテ決定スルカト云フ時ニ、天皇ガ御自ラ、我ハ統治スルト仰セラルレバ、ソレガ国家ノ意思ニナルノデアル、所謂天皇ノ権能ノ自認性、自ラ認メラレル性質、斯ウ云フ風ニシテ私ハ説明ヲシテ居リマシタ、併シナガラ其ノ瞬間ニ於キマシテモ、吾々ガ統治セラレルノハ、ドウ云フ姿ニ於テ統治セラレルノデアラウカ、例ヘバ征服者ガ此ノ土地ニ現ハレ、今日以後汝等ヲ統治スルト言フ時ニ、其ノ統治セラレル人間ハドウ云フ考ヘヲ以テ臨ムデアリマセウカ、反抗スレバ殺サレテシマフ、殺サレルヨリモ服従ノ姿ヲ持ツコトノ方ガ宜シイ、斯ウ云フ利害得失ヲ判断シテ、服従ノ姿ヲ執ルコトモアラウシ、或ハ更ニ一歩進ンデ、所謂恐怖状態ニナリマシテ、モウ魔術ニ掛ツタヤウニ、何ガナシニ之ニ服従スル、斯ウ云フヤウナ態度ヲ執ルコトモ予想出来ルノデアリマス、併シ日本ニ於テ斯クノ如キ姿ヲ以テ天皇ガ御統治ニナツタト云フコトハ、私ハ未ダ曽テ歴史ノ上ニ之ヲ認メルコトヲ得ナイノデアリマス、然ラバドウシテ此ノ統治ニ服スルト云フ考ヘヲ持ツテ居ツタノカト云ヘバ、心ノ奥ヨリ流レ出ヅル我自ラノ心ニ依ツテ、ドウシテモ服従スル考ヘヲ持ツテ来ルノデアリマス、斯クノ如キ考ヘニ依ツテ天皇ノ御地位ガ決マツテ居ルト云フコトハ、即チ国民各自ノ繋リニ於テ天皇ノ御地位ガ決マルト云フコトニナルノデアリマスマイカ、其ノコトガ此ノ憲法ノ基礎トナルノデアリマシテ、私ノ心境ノ変化ハ、ソレハ前カラアリマシタ、此処デ弁明シテモ仕様ガアリマセヌガ、私ハ憲法ノ著書ヲ出シマス時ニ、ドウシテモサウ云フ点ニ触レナケレバ説明ガ出来ナイノデアルケレドモ、恐ラク其ノ当時ノ情勢ニ於キマシテ、之ヲハツキリ書クコトハマヅイ、相当ノ注意ヲ要スルト考ヘマシタ、ケレドモ非常ナ識者ガ之ヲ見レバ之ヲ見出シ得ル程度ニ実ハ用意シテ書イテ居リマス、今日トシテモ其ノ考ヘヲ持ツテ居ル次第デアリマス（拍手）
○林（平）委員　金森国務相ノ御心持ハ十分分ツテ居ル積リデアリマス、若シ国民全体ノ心ノ繋リト云フヤウナ、非常ニ深イ含ミヲ以テ天皇ヲ了解シテ居ルト云フナラバ、第四条ノ、天皇ハ「政治に關する權能を有しない。」其ノ他後ノ方ノ、天皇ハ是レ是レヲスベシト云ツタヤウナコトハ、少クトモ国民ノ繋リノ心ニ副フモノデアリマセウカ、此ノ点ハ私ハ甚ダ疑問ヲ持ツモノデアリマス、又天皇ハ是レ是レノコトヲスルト云フ天皇ノ御仕事ト言ヒマセウカ、御職掌ヲ、是レ是レノ御苦労ヲ願フノダト云フコトナラバ、ソレデ了解ガ出来マス、是ハシテナラナイ、アレハシテナラナイト云ツタヤウナコトニナルト、ソレハ国民全体ノ心ノ繋リヲ表明シタ文章トハ受取ラレナイノデアリマス、此ノ点ハ先日同僚ノ方カラモ御質問ガアツタノデアリマスガ、重ネテ御尋ネ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣　天皇ノ御地位ノ根本ニ関シマスル私ノ説明ニ依リマシテ、或ル程度御諒解ヲ得マシタコトハ、洵ニ私ノ心カラ御礼ヲ申上ゲル所デゴザイマスガ、斯クノ如キ考ヘニ基キマシテ、日本ノ国家ノ組立テト云フモノヲ意識致シマス時、ココニ国民統合ノ実体ガアリ、之ヲ基礎トシテ存在スル所ノ日本国家ト云フモノハ出来上ツテ居ルノデアル、併シナガラ、此ノ日本国家ガ如何ナル形ニ於テ現実ニ動イテ行クカト云フ秩序、其ノ基本ノ原理ヲ基トシテ、第二義的ニ作ラルベキモノデアリマス、本質的ノモノデハアリマセヌ、唯其ノ第二義的ニ色々ナ組立テヲ作リマス時ニモ、固ヨリ天皇ノ根本ノ性質ニ相応シキ御職能ト云フモノハ、此ノ憲法ノ中ニ盛リ込ムコトガ出来ル、是ハ必然ニ近イコトデハアリマスルガ、主トシテハ妥当ノ事実、ソレガ適当デアルト云フ見地カラシテ権能ヲ選ブベキモノト思フノデアリマス、明治憲法ノ如キ、沢山ノ権能ヲ天皇ニ帰属セシメルト云フコトモ亦、其ノ当時妥当ナリト云フ判断ノ下ニ出来タコトト思ヒマス、或ハ又日本ノ歴史ヲ遡リマスレバ、モツト違ツタ権能ガ妥当トシテ認メラレタ場合モアラウト思ヒマス、今日ノ段階ニ於キマシテハ、凡ユル角度カラ考察致シマシタ時ニ、過去ノ激シイ日本ノ変遷ヲ考ヘテ見マシテ、其ノ間ニ現ハレタル幾多ノ我々ノ経験ヲ織込ミマスルコトニ依ツテ、其ノ辺ヲ以テ天皇ノ御権能ニ属セシムルコトガ、国家ノ秩序トシテ最モ適当デナカラウカ、斯ウ云フ結論ハ、幅ハ別ト致シマシテ、原則的ニハ考ヘラレルコトト思ヒマス、サウ云フコトヲ基ト致シマシテ、此ノ憲法第一章ノ天皇ノ御権能ハ定メラレテ居ル訳デアリマス、随テ天皇ノ権能ノ幅ガ是ダケデアル、是レ以上ニ及ブコトハ宜シクナイノダト云フコトヲ書クベキコトハ条理当然ノ――中ニハ然ラザル場合モアリマスガ、斯様ナコトヲ書クコトヲ必要トスルコトハ条理当然ノコトデアリマシテ、明治憲法ト雖モ、趣旨トシテハサウ云フ風ニ出来ヤウト思フノデアリマス、唯今御質問ニナリマシタ所ハ、是ハ国民ノ信条トシテ如何ニモ気ニ喰ハヌ文句デアル、斯ウ云フ所カラシテ御質問ガ出タノデアラウト思フノデアリシテ、私共モ其ノ御気持ニハ十分共鳴シ得ルノデアリマス、併シ憲法ハ法律ノ一種デアリマシテ、法律ト云フモノハ如何ニモ四角四面ナモノデアリ、俗語ヲ以テシマスレバ野暮ト云フ言葉ガアリマスガ、或ハ説明トシテハ甚ダ不適当デアリマスケレドモ、ドウモサウ云フ形ニナリマスコトハ事ノ正確性、徹底性ヲ期シマスル上ニ已ムヲ得ザル事情ガゴザイマス、其ノ点御諒承願ヒタイト思ヒマス
○林（平）委員　私ハ金森サンノ心持、論旨カラ行キマシテモ、無駄ナ文字ダト思ヒマス、唯徒ラニ国民ヲ刺激スル以外ニ何モノモナイ、ソレヨリモモツト大キナ収穫ガアルノダ、斯ウ云フ刺激デ斯ウ云フ損失ガアルケレドモ、一面ニハ斯ウ云フ大キナ意味ガアルト云フナラバ、ソレハ了解ガ出来マスガ、是ハ徒ラニ国民ヲ刺激スルノミデアツテ、天皇ハ政治ニ関スル権能ガナイノダト云フヤウナコトハ、何等得ル所ガナイト思ヒマス、殊ニ政務ト国務ト云フモノノ区別ガ、先日ノ御質問ニモアツタヤウニ、ハツキリト区別シ得ナイニ於テハ、尚更ダト思ヒマス、是レナケレバ色々差支ガアリ、後ノ条文ニ行ツテ是レナキ為ニ差支ガ生ズルト云フヤウナコトガアツタナラバマダシモデゴザイマスガ、何等サウ云フ権能ヲ有シナイト云フ文字ヲ取ツタカラト言ツテ、故障ノ起ル筋合ノモノデナイ、十分ニ御再考ヲ御願ヒ致シタイト思ヒマス
　次ニ私ハ此ノ憲法ノ狙ヒハ、何トシテモ民主主義政治ヲ行ヒ得ルヤウナ建前ニシナクテハナラヌト云フコトハ、私バカリデナイ、ドナタモノ重点ガソコニアルト思ヒマス、所デ我ガ国ニ於テ民主主義政治ガ行ヒ得ナイ原因ハ何処ニアルカト申シマスト、是ハ色色ノ原因ガアルカモ知レマセヌ、「ポツダム」宣言ヲ読ンデ見マスルト、日本ノ民主主義政治ノ復活強化ト云フコトヲ要求シテ居ルノデアリマス、日本ニハソンナモノガナカツタノデ、新タニサウ云フモノヲ植付ケヨ、斯様ナ要求デハナイノデアツテ、日本ノ民主主義政治ノ復活強化ヲ要求シテ居ルノデアリマス、洵ニ日本ヲ能ク知ツテ呉レタ如何ニモ御尤モナ宣言ト私ハ感謝シテ居ル次第デアリマス、日本ノ民主主義ヲ根本カラ粉砕シテ非民主主義国家ニ陥レタモノハ誰カ、言フマデモナク是ハ軍閥デアリマス、併シナガラ私ハ軍閥ダケデハナイト思ヒマス、即チ日本ノ官僚コソ其ノ大キナ原動力デアルト信ジマス、殊ニ官僚ハ日常直接的ニ国民大衆ニ接触ヲシテ居ル関係上、国民ヲ萎縮サセ、輿論ヲ歪曲セシメタコトハ、洵ニ軍閥以上デアルト信ジマス、今ヤ軍閥関係者ハ僅カ二十歳前後ノ純真ナル青年デアツテモ、唯僅カニ職業軍人ノ列ニ入ツタト云フダケデ以テ今日ハ一様ニ公職カラ追放サレタニモ拘ラズ、官僚ハ殆ド其ノ侭トナツテ居ルト云フコトハ、如何ニモ片手落モ甚ダシイト言ハナケレバナリマセヌ、「ドイツ」ニ於ケル「カント」ノ権力哲学ヲ奉ズルモノハ、此ノ際総テ徹底的ニ一掃シナケレバナラヌト思フノデアリマスルガ、日本ノ官僚程権力主義ヲ奉ズルモノハナイト思ヒマス、此ノ日本官僚ノ権力主義ハドウシテ一掃スルカト云フコトニナルノデアリマスルガ、ソレハ中々一朝一夕ヲ以テ払拭スルコトハ至難中ノ至難ト思ヒマス、併シナガラ如何ニ至難デアツテモ、之ヲ一新スルコトガ出来ナカツタナラバ、日本ノ民主主義ハ一片ノ空文ニ終ルト思ヒマス、幾ラドノヤウニ毎日一生懸命ニ努力シテ立派ナ憲法ヲ作リ上ゲテ見タ所デ、官僚其ノモノノ心ノ中ニ流レテ居ル権力主義、独善主義ト云フモノヲ一洗ヒニ洗ヒ流シテシマウコトガ出来ナカツタナラバ、日本ニ民主主義ナドハ夢ノ又夢デアルト思ヒマス、ソレヲ一新スル方法ハアルカト申シマスト、色々アルカモ知レマセヌガ、先ヅ第一ニ官公吏養成機関ヲ設ケルト云フコトモ大事ナコトデアリマス、併シナガラ私ハ先ヅ以テ有効適切ナルモノハ官公吏ニ対スル査察庁ト云フモノヲ内閣ニ設置スル、国家ガ持ツテ居ルト云フコトデアルト思ヒマス、此ノ査察庁ト云フモノヲ国ガ持ツテ居ツテ十分ニ吏道ノ粛正刷新ヲ図ル以外ニハ断ジテナイト思ヒマス、恐ラク是レ以外ニドノヤウナ方法ヲ執ツテモ、ソレハ効果ガ挙ラナイ、今日マデモドノ内閣デモ吏道刷新トカ官紀粛正トカヲ言ハナイ内閣ハ例外ニモナイデアラウト思フノデアリマス、然ラバ行ハレテ居リマスカ、少シモ行ハレテ居リマセヌ、空念払ヲ並ベルニ過ギマセヌ、例ヘバ現在ノ供出米ガ旨ク行カナイト云フヤウナコトヲ一ツ取上ゲテ見テモ、是ハ国民ガ国家ヲ信頼シナイ、政府ヲ信頼シナイノガ総テノ原因デアリマス、ソレハ何処ニサウ云フ原因ガアルカト云フト、官僚ノ権力主義ガ一切ノ禍ヒノ因ダト思ヒマス、斯様ニ考ヘマスル時ニ、此ノ官公吏ヲ査察スル所ノ大キナ力アル官庁ヲ設ケルコトニ依ツテノミ、此ノ憲法ガ生キテ行クデアラウト思ヒマス、憲法ノ中ニ査察庁ヲ設ケルト云フコトヲ抜キマシタナラバ、唯空文製造ヲ毎日ヤツテ居ルト云フコトニナルト思ヒマス、斯ウ云フ意味ニ於キマシテ、官公吏ノ査察庁ヲ設ケルト云フコトガ、此ノ条文ノ上ニ絶対不可分ノ必要条項ト思フノデアリマスガ、金森国務相ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　御尋ネノ点ニ先ダチマシテ、少シ御説明ガ落チタ所ガアリマスルカラ、モウ一遍第四条ノ政治ニ関スル権能ヲ有シナイト云フコトニ少シ遡ラセテ戴キタイト思ヒマス、此処ノ所ハ何トナク私ノ申上ゲ方ガ此ノ間カラ此ノ会議ノ席ニ於テ十分御理解ヲ得テ居ナイヤウナ嫌ヒガアルカト思ヒマスルガ、此処ノ意味ハ、天皇ハ政治ニ関スル権能ヲ有セラレナイ、併シナガラ其ノ政治ニ関スル権能ノ中デモ、此ノ憲法ニハツキリ書イテアル部分ハ行ハセラルルコトガ出来ル、斯ウ云フ意味デアリマス、上ノ方ノ国務ニハ政ト云フ字ガアリマセヌ為ニ錯覚ヲ生ズルカモ知レマセヌガ、サウ云フ意味デハアリマセヌ、政治ニ関スル国務ハ此処ニ書イタモノダケ出来ルノダ、是ダケノ意味デアル訳デアリマス
　ソコデ今御尋ネノ趣旨ハ段々分ツテ来マシタガ、後ノ方ノ「政治に關する權能を有しない。」ト云フ字ヲ取ツタラ宜イデハナイカト云フヤウナ御気持ダト思ヒマス、取ツテモ絶対ニ分ラヌコトニハナラヌカモ知レマセヌガ、併シ是ハ御承知デモアリマセウケレドモ、日本デ何ト云フ言葉デ以テ言表ハスノカ私モ能ク知リマセヌガ、此ノ天皇ノ色々ナ働キニハ、「レシデュアル・パワー」ト云フ一ツノ考ヘ方ガアリマシテ、何ト言ヒマスカ残余権、残リノ権能ト言ヒマスカ、サウ云フモノガアリマシテ、色々ナ国家ノ各働クベキ分担ニ権能ヲ分ケ与ヘマシテモ、ドウシテモ何処カニ残ツテ居ルヤウナモノガアル、人間ノ智慧ハ行屈キマセヌカラ、何処カニ分配シ損ネガアル、或ハ新シイ事情ノ為ニ分配残リノモノガアルト云フ時ニ、ソレガ何処ニ帰属スルカ、斯ウ云ウ問題ガ起ツテ来ル訳デアリマス、他ノ例ヲ挙ゲテ見マスト、御承知ノヤウニ日本ガ戦時体制ニナリマシテ、食糧ノ配給トカ云フモノガ非常ニ不完全ニナツタ、食物ハ何処ノ役所ガ世話ヲシテ呉レルノカソレガ分ラナイ、何故カト言ヘバ、古イ時代ノ自由主義経済組織ニ於キマシテハ、行政官庁ハ人間ノ食物マデ面倒ヲ見ル義務ハナイノデアリマス、勝手ニ金ヲ持ツテ行ツテ買ツテ来イ、唯生産ヲ保護シ、其ノ他色々秩序ヲ保ツト云フコトガ行政ノ職能デアリマスケレドモ、人間ノ食ツテ行ク食物ノ分配、保全ト云フコトヲ掌ル官庁ハナカツタノデアリマス、アツタカモ知レマセヌガ、私ハナイト思ツテ居リマス、サウ云フ時ニサウ云フ権能ガ何処ニアルデアラウカ、何処ノ条文ヲ探シテモ何処ニモナイノデアリマス、宜イ加減ノ解釈デ来タト私ハ思ツテ居リマスガ、本当ハサウ云フ残ツタ権能ガ何処ニアルカト云フコトガ、何等カノ形デ明白ニナツテ居ナイト、此ノ食糧配給問題ニ付テ、実際ノ日本ノ歴史ガ示スヤウニ、右ニ向イタリ左ニ向イタリ、権限ノ所在ニ付テウロウロスルト云フコトガ起リマス、国家ノ大キナ機能ノ中ニ於キマシテモ、必ズヤサウ云フ場面ガ起ツテ来ルト思フノデアリマスガ、ソレガ天皇ニ帰属スルト云フコトハ、此ノ新シキ「デモクラシー」ノ考ヘ方カラ面白クナイ、ソレハ天皇ノ御責任ヲ特ニ実質的ニ重カラシメマシテ、天皇ノ無答責ノ地位ト矛盾スル、斯ウ云フコトヲ惧レマシタ、ダカラ「政治に關する權能を有しない。」斯ウ云フ風ニ限定的ナ言葉ヲ明カニシタノデアリマス、サウ致シマスルト、ソレデハ上ノ「憲法の定める國務のみを行ひ、」ト、「のみ」ト云フ字ガアル限リハ、他ノモノハ行ヘナイト云フコトハ分リ切ツテ居ルヂヤナイカ、斯ウ云フ御尋ネモアリ得ルト思ヒマスカラ、ソレダケデハヤハリ多少ノ疑問ガ起リマス、ト云フノハ、国務ノミヲ行ヒ其ノ他ノコトハ何モ天皇ニハ御出来ニナラヌノカト云ヘバ、サウ云フコトハ是ハ一寸言葉ノ使ヒ方ガ悪イカモ知レマセヌガ、論理的ニハサウ云フ結論ハ出来ナイ、政務ニ関係セザル範囲ニ於キマシテ、天皇ガ例ヘバ皇室ニ於テ特ニ尊崇セラルル祭ノ事ヲ行ハセラルルト云フヤウナコトハ、固ヨリ行ハセラレ得ル訳デアリマス、ダカラ国務ノミヲ行フト云フコトハ、或ル範囲ニ於テ国務ノミヲ行ハセラレマシテ、或ル範囲ヲ超エタ部分、例ヘバ天皇ガ生物学ノ御研究ヲナサルト云フコトハ一ツモ禁ジテ居リマセヌ、其ノ両方ノ思想ヲ間違ヒナク表ハシマス為ニハ、天皇ハ政治ニ関スル権能ハ出来ナイガ、其ノ他ノ権能ハ別ノコトデアル、斯ウ云フ風ニ決メテアリマス、政治ニ関スル権能ハ出来ナイト言ツタケレドモ、其ノ中デ此ノ憲法ニ掲ゲテアルコトハ出来ルノダ、斯ウ云フ三段構ヘデアル、サウ云フ形デ言表ハシマセヌト、的確ニハ規定出来マセヌ、此ノ憲法ハ其ノ点ニ付キマシテハ、特ニ注意ヲ施シテ斯様ナ規定ヲ設ケマシタ、ソレガオ目障リニナツタト云フコトデアリマセウガ、ドウモ已ムエ已マレヌ意味ガ含マレテ居ルト云フコトヲ御諒解願ヒタイト思ツテ居リマス
　次ニ主タル御質問トシテ官吏ノ制度ニ付テ御論及ニナリマシテ、民主政治ノ実質ヲ官僚ガ大イニ過去ニ於テ妨ゲテ居ツタ、将来モ亦其ノ懸念ガ大イニアルト云フ御説ニ対シマシテハ、私ハ完全ニ賛成ノ意ヲ表スルモノデアリマス、私自身ノ経験カラ申シマシテ、私ハ官僚ト云フ中ニ入ルカドウカ知レマセヌガ、官吏トシテ二十年程国ノ色々ナ小サイ事務、大キイ事務ニ関係ヲ致シマシタ、私自身ハサマデ所謂官僚的デハナイト思ツテ居リマスケレドモ、恐ラク世間ノ見ル所ハ官僚的ト見ラレテ居ツタラウト思ヒマシテ、自ラ戒メ自ラ恐縮シテ居ル次第デアリマスガ、実際官吏ノ中ニ居ツテ官吏ヲ見マシテモ、官吏ノ態度ト云フモノガ過去ニ於テ必要以上ニ窮屈デアリ、必要以上ニ自己権限ノ保存デアリ、必要以上ニ威嚇的デアル、是ハ全部ニ亙ル訳デハアリマセヌガ、サウ云フ部面ガ可ナリ目ニ付キマシテ、官僚ニ対シテノ不満ハ敢テ私ノ眼ノ中ノ芥ヲ隠シテ人ノ眼ノ芥ヲ払フ訳デハナイガ、自分自身ニ眼ヲ向ケツツ、同ジ官僚ノ仲間ニ眼ヲ向ケテ見テ居ツタノデアリマスガ、小サイ若干ノ補正ハ致シマシタ、併シナガラ思フ存分ナル補正ハ出来ナカツタノデアリマス、今御話ニナリマスヤウニ、何トカシテ此ノ官吏ノ、所謂官僚ト云フモノノ持ツテ居ル所ノ悪イ方面ヲ是正スル――私ハ良イ方面ノアルコトヲ遠慮ナクアルト申シマス、併シナガラ悪イ方面ノアルコトヲ何トカシテ補正スルト云フコトニ付テノ御意見ニ付キマシテハ御同感デアル訳デアリマス、併シ今仰セニナリマシタ査察制度ニ依ツテ是ガ出来ルノデアルカト申シマスト、今日モ若干ノ査察制度ハ設ケテ居リマス、併シ査察制度デ此ノ目的ガ十分達シ得ルダラウカ、支那ニ於キマシテノ沿革ニ於テ、何ト申シマスカ御史ト云フモノガアリマシテ、官吏相互ノ査察制度ガアツタ、ソレガ如何ニ政治ノ実際ニ紛糾ヲ起シ、面白クナイ結果ヲ齎シタカト云フコトハ、支那ノ歴史ヲ見マスレバ、歴代ノ政治上ノ紛糾ガソコニ原因シテ居ツタト云フコトモ認メザルヲ得ナイノデアリマス、又日本ノ近イ例ヲ取ツテ見マスレバ、満洲ニ於キマシテ、日本人ノ官吏ノ何ト申シマスカ、会計検査院ト官吏査察ト併セタヤウナ官庁ガアリマシタ、其ノ官庁ノ働キガ官吏査察ノ関係ニ於テハ甚ダ好マシカラザル結果ヲ生ジタト云フコトデモアツタラウト思ヒマスガ、比較的早イ時期ニソチラノ方ヲ切捨テテ、単ニ会計検査院トシテノミ残サレタト云フ事情モアツタノデアリマス、日本デモ屡々近頃査察制度ガ出来テ居リマスガ、ソレハ政府ノ中ニ居ツテ斯ウ云フコトヲ申上ゲルノハ甚ダ実ハ困リマスケレドモ、委員会デスカラ御許シヲ得マシテ申上ゲマスト、有名無実デ多クノ業績ヲ挙ゲテ居ナイト云フコトハ御承知ノ通リデアリマス、ソレハ先ヅ此ノ制度ノ中ニ弱点ガアルデハナイカト云フ気ガ致シマス、私ハ此ノ官吏ノ制度ト云フモノヲ良ク致シマスコトハ至難ノ業デハアリマスケレドモ、モツト根本的ナ所カラシテ考フベキモノデアル、其ノ官吏制度ヲ如何ニ充実スルカト云フコトガ、此ノ憲法ノ内容ヲ本質ニ正シク運用シテ行ク上ニ、欠クベカラザル基礎ヲ成スモノト思フ訳デアリマス、此ノ憲法ハ第十四条ニ公務員ニ関スル規定ヲ設ケマシテ、是ハ全体ノ奉仕者デアル、所謂「パブリック・サーヴァント」デアルト云フコトニ依ツテ此ノ精神的ノ基礎ニ十分ナル警戒ヲ発シテ居リマス、サウシテ又第六十九条ニ於キマシテ、其ノ四号ニ「法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理すること。」ト云フコトノナリマシテ、今マデ官吏制度ガ原則トシテ謂ハバ行政部ノ帰属デアツタノデアリマス、今回ハソレヲ法律トシテ基準ヲ設ケマシテ、ソレガ裁判官デアレ、行政官デアレ、其ノ他特殊ノ官吏デアレ、悉ク其ノ基本ノ基準ノ法律ヲ設ケルコトニシテ、民主政治ノ本質ニ適フヤウナ制度ヲ漸次充実サシテ行キタイト云フコトノ抱負ノ下ニ此ノ憲法ガ出来テ居ルノデアリマス、唯御承知ノ如ク官吏制度ト云フモノハ、世界ノ何処ノ国ヲ見マシテモ、非難ヲ受ケザル程ニハ実ハ出来テ居ナイノデアリマシテ、之ニ又日本ガ先進国トナツテ良イ点ヲ示スト云フコトハ非常ニ重大デアリ、而モ興味モアルコトデアリマスガ、ソレハ恐ラク議会ノ熱心ナル御協力ヲ仰ガナケレバ実行ガ出来ナイコトダト思ツテ居リマス
○林（平）委員　官吏ガ民主主議発達ヲ阻碍シテ居ル一ツノ大キナ存在デアルコトハ、国務相モ御認メニナツタ訳デアリマス、併シナガラソレニ対シテ査察庁ガ果シテドウカト云フコトニ付テハ御賛成ガナイヤウデアリマスガ、如何ニモ失敗シタ支那ヤ満洲ノ例ヲ挙ゲレバ其ノ通リデアリマス、ソレハ結局サウ云フ機関ガ悪イト云フヨリハ人間ガ悪イ、ヤハリ査察庁ニ入リ込ム人々ガ官僚デアルカラ旨ク行カナイ、ソレニ適当ナ人、其ノ使命ヲ果シ得ルヤウナ人ヲ集メテヤツテ行クナラバ、必ズ失敗シナイト思フ、若シサウ云フモノガナイト云フト、結局ハ此ノ世ノ中ノ暗イコトヲ鬱憤晴シト云フカ何ト云フカ、盛ンニ投書ガ流行ツテ来ル、或ハ民間「ゲー・ベー・ウー」ト云フヤウナモノガ流行ツテ来ル、サウ云フヤウナコトニ依ツテ、其ノ国民ノ不平、不満ヲ医スコトニナルデアラウ、ソレニ任セテ置クコトハイケナイト思フ、ヤハリ立派ナ国ノ機関トシテ、サウ云フヤウナ闇イ手段ヲ取ル必要ヲ感ジナイ明ルイ気持デ民主主義国家ガ出来ルヤウナ風ニスルノニハ、ドウシテモ国家自ラガ官僚ヲ指導シ粛正シテ行ク必要ガアラウト思フ、随テ其ノ適当ナ人ヲ集メテ行クナラバ、査察庁ノ使命ヲ立派ニ果シテ行ケルト思フ、既ニ国務相ハ今日マデノ官僚ノ悪カツタコトハ認メラレルノデアリマスルカラ、ソレガ一朝一夕ニ変ルモノヂヤアリマセヌ、デアリマスルカラシテ、是ハドウシテモ此ノ基本法タル憲法ニ必要ダト思フノデ、重ネテ私ハ希望ヲ申上ゲテ置キマス
　次ニ前ニ戻ルヤウニナリマスガ、主権ノ所在ノ問題ニ付テ簡単ニ御尋ネシテ置キタイト思ヒマス、主権ノ所在ニ付テハ今日マデモ十分ニ御議論ガアリマシタシ、又金森国務相ハ之ニ対シテ主権在民ト明瞭ニ御答ヘニナツテ居ルノデアリマスルガ、是ハ中々重大問題デアル、第一衆議院ノ調査課デ報告ニナツテ居ル此ノ報告書ヲ見マシテモ、日本自由党ノ纏マツタ意見ト致シマシテハ、統合権ノ主体ハ国ニ在ルトシテアリマス、天皇ハ統治権ノ総攬者デアル、斯ウ云フヤウニ言ハレテアリマスルカラシテ、在民トハ違ツテ居リマス、又日本進歩党ノ憲法改正案ニ対スル纏マツタ意見トシテハ、「天皇ハ臣民ノ輔翼ニ依リ憲法ノ條規ニ從ヒ統治權ヲ行フ」ト斯ウアリマスルカラ是ハハツキリシナイノデアリマスルケレドモ、詮ジ詰メテ見ルト統治権ガ天皇ニ在リト斯様ニ解釈ガ出来ルノデアリマス、又日本社会党ノ御意見ト致シマシテハ、主権ハ天皇ヲ含ム国民協同体ニ在ルト云フヤウニ仰シヤツテ居ラレルノデアリマス、共産党ハ人民ニ在リトハツキリ言ツテ居リマス、既ニ此ノ統治権ノ在リ方ト云フモノハ、此ノ委員会ニ於テモ区々ニナツテ居ル訳デアリマス、ソコデ私ノ心配トスル所ハ、此ノ内閣ハ自由党ト進歩党トヲ与党トセラルル内閣デゴザイマスカラ、内閣ノ御意見モ亦其ノ線ニ沿ウテ行クベキモノヂヤナイカト思フノデアリマスガ、サウデナイト折角ココニ論議ヲ重ネラレテモ、愈々最後ノ仕上ゲノ所ニ行ツテ重大ナ問題ニ打突カツテ、長イ間ノ議論ガ無駄ニナツテシマフト云フヤウナコトニナツテハ洵ニ残念ニ思フノデアリマス、サウ云フ点ヲ十分ニ御連絡ガアルカドウカ、ドウモ主権在民トハツキリ言ハレタ所ニ依ルト、此ノ衆議院ノ調査課ノ報告トハ違ツテ居ル訳デゴザイマス、一体此ノ主権ノ所在ノ問題デアリマスルガ、是ハ政治問題ト云フヨリハ学説ヂヤナイデセウカ、一ツノ学説ダラウト思フ、世界一定ノ定義ト云フモノハアルデセウカ、私ハ寡聞ニシテ之ヲ存ジナイノデアリマス、随テ何レニモ理窟ガアル、主権ガ人民ニ在ル、立派ニ是ハ理窟ガ通ルト思フ、主権ガ天皇ニ在ル、是モ通ル、国家ニ在ル、国民協同体ニ在ル、皆是レ道理ヲ一貫シタモノデアルト思ヒマス、唯其ノドレヲ採ルカト云フコトニナリマスルト、ソレハ我ガ日本ニ於テハ日本ノ憲法デアリマスカラ、日本ノ憲法トシテハ何レヲ採ラナケレバナラヌト云フコトニナルト、自ラ問題ガ狭マツテ来ルト思フ、学説ヲ離レタモノガココニ出来テ来ナクチヤナラヌ、即チ日本ニ最モ相応シイ――日本バカリデハゴザイマス、何処ノ国デモ其ノ国ニ最モ相応シイ決メ方ヲスルノニハ、何トシテモ其ノ国ノ歴史、人情、風俗、与論等々ノ条件ニ最モ適合スルモノハドレカト云フコトニナツテ来ナクテハナラヌ、即チ現実主義ニ依ツテ決スル外ハナイデハナイデセウカ、理窟ヲ闘ハセレバ何十日闘ツテモ立論ノ根拠ガ違ツテ居ルノデアリマスカラ、一致点ヲ見出スコトハ出来ナイノデアリマス、日本ノ現実ニドレガ相応シイカト云フコトニ依ツテ決メテ行クシカナイト思フ、ソコデ我々ノ考ヘマスルコトハ、一体其ノ議論ヲスル主権ト云フモノガ何ダラウカト云フコトデアリマス、主権ト云フモノハ多数ノ人々ヲ、或ハ国民ヲ統治スル権利、或ハ統率スルト云ツタヤウニ、極ク通俗的ニ考ヘテ宜イヂヤナイカト思フ、所ガ我々人間ガ自然人トシテ地上ニ誕生シタ其ノ刹那ニ、他人ヲ統率スル所ノ権利ヲ一体持ツテ生レテ来タモノデアラウカ、私ハ十分ニ検討スル余地ガアラウト思フ、生レ落チルト同時ニ人ヲ指図シ人ヲ統率スル権利ト云フモノハ天ヨリ与ヘラレタルモノデアラウカ、大イニ考ヘナケレバナリマセヌ、但シ生存権ト云フモノハ是ハ確カニ持ツテ生レテ来タト思ヒマス、此ノ生存権ト統治主権ト云フモノガゴツチヤニ考ヘラレテ居ルノデハナイダラウカト云フ疑ヒヲ持タザルヲ得マセヌ、詰リ主権ハ先天的ノモノカ、後天的ノモノカト云フコトヲ考ヘテ見ルト、生存権ト云フモノハ先天的ノモノダケレドモ、主権ト云フモノハ先天的ノモノニアラズ、後天的ノモノデアラウト考ヘサセラレマス、然ラバ個人ノ主権ト云フモノガ集マツテソレガ主権ト云フモノニナルノダラウカ、ソコガ我々ハドウ考ヘテモ、研究シテモ分ラナイ、例ヘバ「コンクリート」ト云フモノガアル、併シ「コンクリート」ガ集マツテ「コンクリート」ニナルノデハナイ、アレハ「セメント」砂利、石ガ集マツテ「コンクリート」ニナルノデアリマス、家ト云フモノガ集マツテ家ニナルノデハナイ、柱、屋根、壁等ガ集マツテ家ニナルト云ツタヤウナコトヲ考ヘルト、主権「プラス」主権「プラス」主権ト、主権ノ集マツタモノガ主権ニナルト云フヤウナコトハ、ドウシテモ理解出来ナイ、サウ云フヤウニ考ヘテ見マスルト、主権ガ自ラ何処ニ在ルカト云フヤウナコトガ出テ来ルデハナイカト思フ、併シ私ハ此ノ主権ガ何処ニ在ツテモ宜イヂヤナイカト云フ結論ヲ持ツテ居リマス、主権ガ何処ニ在ツテモ宜イト云フコトハ、先程申シマシタ学説ガ何レモ成立ツノデアリマスルカラデアリマス、主権ノ在リ方ハ国ニ依ツテ何処ニ在ツテモ構ハナイ、日本ハ何処ニアラウガ、支那ガ何処ニアラウガ、「イギリス」「アメリカ」「ソヴイエト」ノ主権ノ在リカガ何処ニ在ラウトソレハ問題外デアル、唯絶対的ノ問題ハ、民主主義政治ヲ行フカ否カト云フコトデアル、民主主義政治ヲ行フコトガ出来ルナラバ、主権ノアリカハ何処デモ宜イヂヤナイカト思フ、又「ポツダム」宣言ニ見マシテモ、日本ノ主権ノアリカヲ何処ニ在レト要求シテハ居リマセヌ、民主主義政治ヲ復活強化セヨト要求シテ居ルノデアリマスルカラ、此ノ主権ノアリカト云フコトヲ殊更ニ他ノ諸外国ノソレニ合セテ行ク必要ハナイヂヤナイカト思ヒマス、随テ日本ガ主権ガ国民ニ在リト云ツタヤウニ決メナクテハナラヌト云フコトハ、ドウモ考ヘラレナイノデアリマスルガ、此ノ点国務相ニ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣　先程ノ官吏ノ査察ノコトハ、私ハイケナイト云ツタ趣旨デハゴザイマセヌ、或ハ是ハ言ヒ落シカモ知レマセヌ、唯大キナ官吏制度ノ系統的ナ一国ノ中ニ入レテ総合的ニ考ヘル、是ハオ座ナリニ申上ゲテ居ルノデハナクテ、此ノ憲法ヲ実施致シマスルニ連レテ、ドウシテモ行政組織ノ問題ヲ考ヘナケレバナリマセヌ、実現ニ其ノ問題ノ研究ヲ進メルコトニナル訳デアリマス、ソレカラ今仰セニナリマシタ主権ノ所在ハ、是ハ学説ノ問題デアルト云フ風ノ御話、全ク其ノ通リト考ヘテ居リマス、此ノ議会ニ付議シテ議決ヲ求メラレテ居リマスルモノハ、此ノ憲法改正案其ノモノデアリマシテ、其ノ基礎ニ存在シマスル所ノ色々ノ説明、方法、考ヘ方ハ議会ノ議事ノ客体ニナル訳デハゴザイマセヌ、偶々色々御質疑ガアリマシタカラシテ、其ノ考ヘノ御参考ニモト思ツテ、私ノ所見ヲ申上ゲタダケデゴザイマシテ、其ノ点ハ謂ハバ主タル議論ノ客体ニハナラヌ訳ト考ヘテ居リマス
○林（平）委員　私ハ最後ニ一点大蔵大臣ニ御尋ネシタイノデスガ……
○芦田委員長　大蔵大臣ハアナタノ質問ガ始マルマデ、金融緊急措置令ノ委員会ニ行ツテ来ルト云フ約束デスカラ、一寸御待チ下サイ――大蔵大臣以外ノ質問ハアリマセヌカ
○林（平）委員　私ハ此ノ会議ヲ進行サセル意味カラ成ベク午後ニ廻スコトヲ遠慮シタイト思ヒマスカラ、金森国務大臣ニ代ツテ御答ヘヲ願ツテ宜シイト思ヒマスノデ、左様致シマセウ
○芦田委員長　宜シウゴザイマス
○林（平）委員　私ノ御尋ネスルコトハ大蔵大臣ニ限ツタ訳デモナイシ、商工大臣或ハ農林大臣ト云ツタ産業省ノ大臣ニモ関係ガアルノデアリマスルガ、代ツテ金森国務相デモ結構デゴザイマス、議事ヲ進捗サセル意味ニ於テ、極ク簡単ニ御尋ネシタイト思ヒマス
　第三章ニ国民ノ権利義務ノ条項ガアルノデアリマスルガ、此ノ権利義務ノ条項、第十条カラズツト通読致シテ見マスルノニ、色々此ノ基本人権ヲ尊重スル、其ノ為ニハ是レ是レト云フコトガ規定サレテアルノデアリマスルガ、基本人権ハ只単ニ国家ノ保障ヲ受ケルバカリデナク、自ラモ自己保障ヲシテ行カナケレバナラヌ訳デアリマス、自己保障ヲスルノニハドウ云フコトガ一番大事カト云フト、職業ヲ離レテ自己保障ハ成立タナイ、随テ職業ノ自由ト云フモノヲ十分ニ認メテ行カナケレバナラヌ、殊ニ職業ハ誰ガ何ト言ツテモ、自分ノ性能ニ最モ適シタ業ヲ選ブ関係カラ、最モ尊重シテ行カナケレバナラヌト思ヒマス、所ガ現在ハドウデセウ、職業ノ自由ヲ絶対ニ認メラレナイ、絶対ト申シテモ宜イ位禁止サレテ居ル、是ハナゼデセウ、是ハ戦争ノ為メデス、戦争ヲ遂行スル、謂ハバ戦争体制デ統制サレテシマツタ、商売ノ整理統制ガ行ハレタ訳デアリマス、然ルニ戦争ハ終ツタ、産業体制ハ戦争ノ侭デアルト云フコトハ、除リニモ是ハ緩慢過ギルデハナイカ、産業ノ不振ノ原因ハ色々アリマセウケレドモ、一ツハ戦時体制ノ産業体制ヲ改メナイ所ニ大イナル原因ガアル、デアリマスルカラ、此ノ権力主義ニ依ツテ出来テ居ル日本ノ現在ノ産業体制ヲ、民主主義的自由ヲ尊重スルト云フ建前ニ基イタ所ヘ速カニ改メナケレバナラヌト思ヒマス、先ヅ早急ニ此ノ体制ヲ根本ヨリ改メル御意思アリヤ否ヤ、政府ニ御尋ネ致シタイノデアリマス
　次ニモウ一点御尋ネシタイコトハ、日々ノ新聞ヲ見マシテモ、最近ハ産業界ニ於テ到ル処ニ闘争ガ繰返サレテ居ルノデアリマス、是モヤハリ一ツハ戦争体制ガ原因ヲ成シテ居ルト思フノデアリマスルケレドモ、一体指導精神ガ闘争第一ニ指導シテ居ルト云フ所ニ、原因ガアルノヂヤナイカト思ヒマス、階級闘争ヲ初メトシテ、我々ノ幸福ハ闘争ニ依ツテノミ獲得ガ出来ルノダ、闘争ナクシテ幸福ハ得ラレナイノダト云ツタヤウナ哲学ト申シマセウカ、サウ云フ理念ニ基イテ指導スル所ニ、大キナ原因ガアル、私共ノ考ヘヲ以テスルナラバ、闘争ハ唯次ノ闘争ヲ生ム以外ニ何物モナイト思フ、個人的ニモ社会的ニモ国家的ニモ同様ダト思ヒマス、決シテ康寧ヲ齎シ、利福ヲ齎ス方法デナイト思ヒマス、然ラバドウスルカト申シマスト、即チココニ協同主義ノ必要ナルコトヲ痛感スルノデアリマス、詰リ資本家側、或ハ労働者側、或ハソコニ働ク所ノ職員側ト云ツタヤウナ各組合ヲ作ルカドウカシテ、其ノ三者一体協同ノ精神ニ依ツテ物事ヲ解決シテ行クヨリ外ニハナイト思フ、デアリマスカラ産業省ヲ御預カリノ各大臣諸公ハ、此ノ行詰ツタ闘争主義ヲ改メテ、宜シク協同一体主義ニ向ツテ日本ノ産業ヲ指導シテ戴キタイト思フノデアリマス、此ノ点如何デアリマスルカ、以上申シマシタ二点ニ付テ御尋ネスル次第デアリマス
○金森国務大臣　所管ノ大臣ガオイデニナツテ居リマセヌノデ、甚ダ不十分デアリマシテ相済ミマセヌケレドモ、私トシテ御答ヘシ得ル限度ニ於テ、御答ヘサセテ戴キタイト存ジマス
　最初ニ職業ノ選択ノ自由ト云フモノガ著シク制限サレテ居テ、是ハイケナイデハナイカ、御説ノ通リト考ヘマス、一寸事情ヲ申上ゲマスガ、現行憲法ニ於キマシテハ、可ナリ国民ノ自由ガ認メテアリマスケレドモ、職業ノ自由ト云フモノガ文字ノ上ニ現ハレテ居リマセヌ、ドウ云フ訳デ現ハレナカツタノカ、ハツキリシタコトハ存ジマセヌケレドモ、色々ナ参考資料ニ依リマスルト、例ヘバ伊藤公ノ憲法義解ナンカニ註釈ノ仕損ヒガアル所カラ考ヘテ見マスト、恐ラク原案ニハ職業或ハ何カソレニ類似シタ自由ガ認メテアツタノデハナカラウカ、ソレガ審議ノ段階ニ於テ削ラレテシマツタノデハナカラウカト云フコトハ、今モ申シマシタ通リ、直接ニハ分リマセヌガ、伊藤公ガ書カレタ憲法義解ヲ見マスト、居住移転ノ自由ヲ保障シテ居リマス条文ノ中ニ、スツカリ職業ノ自由ノ説明ガ出テ居ルノデアリマス、ソレハドウモ何カノ間違ヒトシナケレバ読メナイカラ、私ハ逆ニワザト職業ノ自由ノ規定ヲ削ラレタモノデハナイカト推測ヲ下シテ居リマスガ、此ノ憲法ニ於キマシテハ、斯様ナコトハイケナイ、職業選択ノ自由ハ、ハツキリ之ヲ認メナケレバナラヌト云フ趣旨ニ依リマシテ、第二十条ニ何人モ居住、移転及ビ職業選択ノ自由ヲ有スルト云フ規定ヲ設ケマシテ、公共ノ福祉ニ反シナイ限リハ斯様ナモノガアルト云フ建前ニナツテ居リマス、此ノ憲法ガ御賛同ヲ得テ成立致シマスルナラバ、憲法上ノ途トシテ是ガ堂々ト主張サレ得ルノデアリマス、現行法ノ侭デアルト云フト、稍々解釈上ハ疑ハシイ、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、実施ノ方面ニ於キマシテハ、固ヨリ其ノ所管ノ大臣ニ於テ十分妥当ノ途ヲ講ゼラレテ居ルコトト信ジテ居リマス
　次ニ産業ノ関係ニ於テ闘争ガ激シイ、之ニ対シテハ関係各部分ノ協同一致ノ思想ヲ以テ行クヤウニスベキモノデハナカラウカト云フ御尋ネデアリマス、之ニ関シマシテハ、世上色々ナ議論ガアルコトデアリマシテ、特ニ憲法ノ説明ノ任ニ当ツテ居リマスル私ノ立場ト致シマシテハ、サウ云フ問題ノ具体的解決ハ、ソレハ其ノ問題トシテ処理セラルベキモノデアツテ、憲法ハ余リ直接ニソコマデノ色彩ハ明カニシナイ、昨日一寸口ガ辷リマシテ、先ノ方ヲ省略致シマシタガ、謂ハバ憲法ハ公正無私ナル土俵ヲ造ルノデアル、土俵ノ上ニ於テ今後如何ナル働キガ行ハレマセウトモ、ソレガ民主政治ノ原理ニ基イテ適切ナル行動ガ行ハレ、真理ガソレカラ展開シテ来ルナラバ、憲法トシテハ一応ノ私共ノ趣旨ハ達スル訳デアリマス、今ノ所第二十六条等ニ於キマシテ、勤労者ノ団結権トカ団体交渉権トカ、サウ云フ方面カラ表ハシテ居リマス、随テ協同シテ行クト云フコトハ、此ノ憲法自身ハドチラニモ触レテ居リマセヌガ、併シ民主政治ヲ実施シテ行クト云フコトモ、民主政治ト云フモノハ決シテバラバラニナツテ動ケト云フノデハナイ、自ラソコニ統一アリ責任アル政治ノ実現ヲ予想シテ居ルコトデアリマスカラ、固ヨリ所管大臣ニ於テ十分其ノ点ニ遺漏ナキヲ期スル次第ト思ツテ居リマス
○林（平）委員　大変長クナリマシタガ、此ノ最後ニ御尋ネシテ居リマス所ハ、憲法ノ条項ニ記載シテ貰ヒタイト云フ希望ヂヤナイ、関連シテ政府ニ御尋ネシタノデアリマスルガ、職業ノ自由ト云フコトハ、憲法ニ載ツテ居ルトハ申シマスケレドモ、今現在自由ニ欲スル職業ガ出来ナイノデアリマス、而モ此ノ憲法ハ出来上ツタ後ニ六箇月経タナケレバ効力ガ発生シナイノデアリマス、ケレドモ憲法其ノモノノ効力ハ発生シナイガ、其ノ精神ハ今日只今カラ発動シテ宜イ筈デアリマスルカラ、私ハ産業大臣ニ於カレマシテハ、速カニ此ノ職業ノ自由ヲ与ヘテ国民ノ心ヲ明朗ニスル必要ガアラウト思ツテ御尋ネシタノデアリマス、此ノ趣旨ヲ十分ニ閣議ニ御諮リ願ヒタイト思ヒマス、以上ヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス（拍手）
○芦田委員長　午後ハ本会議ノ関係上、二時半ヨリ会議ヲ開キマス、是ニテ休憩致シマス
　　　午後零時二分休憩ノ侭散会