委員会 昭和21年7月9日（第9号）
昭和二十一年七月九日（火曜日）午前十時二十一分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
理事 江藤 夏雄君 理事 廿日出ひろし君
理事 青木 泰助君 理事 吉田 安君
理事 菊地養之輔君 理事 鈴木 義男君
理事 林 平馬君 理事 田中 久雄君
理事 大島 多藏君
小野 孝君 上林山榮吉君
神田 博君 木島 義夫君
加藤 一雄君 北浦圭太郎君
小島 徹三君 左藤 義詮君
武田 キヨ君 武田信之助君
本田 英作君 三浦寅之助君
山本 正一君 西山冨佐太君
犬養 健君 鈴木周次郎君
關谷 勝利君 天野 久君
原 健三郎君 原 夫次郎君
山田 悟六君 星 一君
森山 ヨネ君 山崎 岩男君
井伊 誠一君 石川金次郎君
及川 規君 加藤シヅエ君
黒田 壽男君 杉本 勝次君
森 三樹二君 森戸 辰男君
井上 徳命君 大橋 喜美君
越原 はる君 酒井 俊雄君
橋本 二郎君 大石ヨシエ君
大谷 瑩潤君 竹谷源太郎君
穗積 七郎君 久芳庄二郎君
早川 崇君 藤田 榮君
赤澤 正道君 秋田 大助君
野坂 參三君
同日委員長井源君辞任ニ付其ノ補
欠トシテ西山冨佐太君ヲ議長ニ於
テ選定シタ
出席国務大臣
内閣総理大
臣兼外務大
臣 吉田 茂君
国務大臣 男爵幣原喜重郎君
司法大臣 木村篤太郎君
内務大臣 大村 清一君
文部大臣 田中耕太郎君
国務大臣 齋藤 隆夫君
厚生大臣 河合 良成君
国務大臣 植原悦二郎君
運輸大臣 平塚常次郎君
国務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
司法事務官 佐藤 藤佐君
司法事務官 奥野 健一君
文部政務次官 長野 長廣君
文部参与官 花村 四郎君
厚生事務官 吉武 惠市君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、質疑ニ入リマス――竹谷源太郎君竹谷君ニ申上ゲマス、アナタノ要求シテ居ラレマス内務大臣ハ、只今貴族院ニ出席シテ答弁中ダサウデアリマスカラ、後刻出席サレル筈デアリマス
○竹谷委員 承知シマシタ、新聞ノ報道ニ依リマスルト、七月二日ニ開カレマシタ極東委員会ニ於テ決定ヲ見タ原則ノ中ニハ、日本新憲法ノ従フベキ諸条件ガ含マレテ居ルモノト解セラレルト云フコトデアルガ、此ノ諸条件ガ今審議中ノ改正案ニ対シマシテ、変更ヲ来スヤウナコトハナイカドウカ、新聞ノ報道ハ簡ニシテ内容ヲ十分把握出来ナイノデアリマスルガ、御尋ネヲ致ス次第デアリマス
○金森国務大臣 只今御尋ネノ点ハ、政府トシテモ重要ナル事項ト思ヒマシテ、其ノ内容ヲ正確ニ聴取シタイト云フ考ヘヲ以チマシテ其ノ連絡ニ努メテ居リマスケレドモ、マダ正確ナル内容ヲ知ルコトガ出来マセヌ
○竹谷委員 其ノ決定ヲ見タ諸条件ガ、現在提案中ノ此ノ改正案ト矛盾ヲスルヤウナ点ガアリマスレバドウ云フコトニナルカ
○金森国務大臣 極東委員会ノ働キハ、直接直チニ日本ノ行動ニ影響ヲ持ツテ来ル訳デハナイト思ヒマシテ、ソレガ何等カノ形ヲ以テ日本ニ影響ヲ生ジマスルナラバ、ソレニハ自ラ其ノ途ガアルコトト思ヒマス、ソレ等ノコトハ、今日予測シテ何トモ御答ヘスルコトガ出来ナイノデアリマス、
○竹谷委員 此ノ問題ハ、ソレデハ其ノ程度ニシテ打切リマスガ、次ニ政府ノ解釈トシテ、此ノ採ツテ居ラレル国体ト云フ観念ハ、法律上ノ観念デアルカ、ソレトモ倫理的ナ歴史的ナ、或ハ感情的ナモノデアルカドウカ、ソレヲ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 此ノ法律ト云フ観念ヲ正確ニ把握致シマスルコトハ、通常ノ事項ニ付キマシテハ、極メテ容易ナコトト思ヒマス、併シナガラ此ノ根本ノ原理ヲ考ヘマスル時ニ、是ガ法デアルカ、法デナイカト云フコトハ、学問的ニモ決マツテ居リマセヌシ、容易ニソレヲ決定シ難キモノト思ツテ居ルノデアリマス、正確ニ客観的ニ見マシテ、此ノ憲法ノ条文ニ盛リ込マレテ来ル、即チ国家ノ基本法ノ上ニ姿ガハツキリ現ハレマスレバソレガ法デアルト云フコトハ確実ニナル訳ナノデアリマス、併シ憲法ニ盛リ込マレマスル前ノ状況ハ法ノヤウナ意味モ持ツテ居リ、倫理ノヤウナ意味モ持ツテ居リ、色々ナ要素ヲ持ツテ居リマスルノデ普通ノ言葉デ法デアルト云フコトハ申上ゲラレナイト思ツテ居リマス、私共ハ国体ト云フ観念、此ノ具体的ナル明白ニ規定セラレテ居ル憲法ノ基礎ニ横タハツテ居リマスル所ノ根本ノ日本ノ原理デアルト云フコトマデハ、ハツキリ申上ゲラレマスケレドモ、ソレヲ如何ナル言葉ヲ以テ言表ハシテ宜イカト云フコトハ、独リ学説ガ不統一デアルバカリデナク、正確ニ私カラハ申上ゲ兼ネマス、併シ法的要素ヲ含ンデ居ナイトハ、決シテ考ヘラレナイ、我々ガ守ルベキ認ムベキ基本ノ原理デアルト云フ点ニ於キマシテハ、根本的ナ意味ノ法ト云フ意義ヲ持ツテ居リマス、少シク曖味デアリマスケレドモ、是ハドウモ学問的ニ今日ノ所致シ方ノナイ問題デアラウト思ヒマス
○竹谷委員 サウスルト、今ノ政府ノ解釈シテ居ル国体ト云フ観念ハ、改正案第一条ノ規定ニ其ノ幾分タリトモ現ハレテ居ルノデアリマスカ
○金森国務大臣 曩ニモ申シマシタヤウニ、大キナ河ガ水ヲ満シテ来マス時ニハ、其ノ根源ハ何処ヨリ出テ来ルカハ分リマセヌガ、ソレガ集積セラレテ大キナ河トナリマシテ其ノ河トナル場面ニ於キマシテハ、何人モ認識ヲ誤ルコトハアリマセヌ、併シナガラ其ノ根源ノ原理ニ至リマシテハ、今モ申シマシタヤウニ、種々ナルモノガ集マツテ、サウシタ国ノ基本秩序ヲ作リマシテ、ソレガ法ノ方面ニ現ハレマシテハ、ハツキリシタ此ノ憲法ノ原理ニナツテ来マスルシソレガ道徳ノ原理トシテ国民信念ノ方面ニナリマスレバ、又ソレカラ発展シテ現実ノ明確ナ姿ガ現ハレテ来ル訳デアリマス、左様ニ国体ト云フ原理ヲ考ヘマシテ、此ノ憲法ハ其ノ国体ト密接不離ニ第一条ノ規定ガ設ケラレテ居ルト思フノデアリマス、詰リ前ニ私共ガ申シマシタ国体ト云フコトヲ基本ト致シマシテ、ソレト離ルベカラザル規定トシテ第一条ガ法律的ニ明白ニ生レテ来ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○竹谷委員 ドウモ幽玄難渋ニシテ能ク捕提出来ナイノデアリマスルガ、サウシマスト、此ノ政府ノ解釈スル国体ト云フ観念ガ、其ノ一部第一条ニモ現ハレテ居ルト云フコトデアリマスルガ、サウシマスルト、ヤハリ現行憲法ノ第一条ナリ第四条ニモソレガ現ハレテ居ル訳デアリマスカ
○金森国務大臣 現行ノ第一条、第四条モ固ヨリ其ノ国体ノ原理ト密接ナル関係ヲ以テ現ハレテ居ルコトハ当然デアリマス、日本ガ天皇ヲ国民ノ統合ノ中心トシテ考ヘテ居ルト云フコトト不即不離ニ現ハレテ居ル訳デアリマス、唯過去ニ於キマシテモ、第一条、第四条ハ其ノ加ヘルモノガ余リニモ多カツタ為ニ、附加ヘタ方面ニ於テ眩惑セラレテ種々ナル弊害ガ起ツタ斯ウ考ヘマス、今回ノ場合ニ於キマシテモ、国体ヲ基礎トシテ此ノ上ニ第一条ガ築キ上ゲラレテ居リマスルガ、ソコニ出来ルダケ人為的ナ、其ノ時代時代ヲ反映スル要素ヲ極度ニ少クシタ、斯ウ云フ趣旨デ出来テ居ル訳デアリマス
○竹谷委員 ドウモ国体トハ国民ノ心ニ奥深ク根ヲ張ル天皇ヲ中心トシタ国民ノ統合ト云フヤウナ御説明デアリマスルガ、尚ホ今ノ御答弁カラ判断ヲ致シマシテ、是ハ結局法ノ淵源トデモ申シマセウカ或ハ法ノ基礎トナル国民ノ確信トデモ申シマセウカ、所謂昔カラ御国柄ト云ヒ、或ハ教育勅語ニ「此レ我カ國體ノ精華ニシテ」ト云フヤウナ国体ト同ジヤウナ一種ノ法律ノ基礎トナル事実デアツテ、法デハナイト云フ感ジヲ御答弁カラ得ルノデアリマスルガ、ドウモ御説明デハ能ク分ラナイノデアリマスガ、左様ニ解釈シテハイケマセヌカドウカ、御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 少シク私ノ申上ゲ方ガ錯雑致シタヤウニ思ヒマスルガ、日本ノ国ガ如何ニシテ統合セラレテ居ルカト云フコトハ、先ニモ申シマシタヤウニ、歴史的ナル発達デアリ、又歴史的ノ事実ニ依ツテ証明セラレテ居リマスルシ又私共ノ心ノ中ニハツキリ根ヲ張ツテ居ルコトデアラウト思ヒマス歴史的ナコトハ、是ハ法デハゴザイマセヌ、歴史ハ法ヲ離レテ変化シテ来マスルガ故ニ、歴史ヲ以テ法トスルコトハ出来マセヌ、併シナガラ私共ノ心ノ中ニ斯クアラネバナラヌト信ジテ居ルコトハ、即チ広イ意味ノ法ノ原理ニ属スルモノト思ヒマス、随テ私ガ先ニ申シマシタヤウニ、成文法等ニ依ツテハツキリ現ハレテ居ル所ノ法トハ断言シ切レナイコトハ固ヨリデアルケレドモ、此ノ中ニ法ノ要素ヲ含ンデ居ル基本的ナ国家ノ意識デアルト云フコトヲ申上ゲマシタ、其ノ国家ノ意識ヲ基本トシテ我々ガ憲法ノ秩序ヲ設ケマスル限リ、第一条ニ現ハレマシタヤウニ、天皇ハ国ノ象徴デアルト申シマスルコトハ、先ニ申シマシタ基本的ナ国体ノ思想ト裏表ニナツテ此ノ第一条ガ現ハレテ居ルノデアリマス何故ニ天皇ヲ見ルコトニ依ツテ国ヲ見ルガ如ク、何故ニ天皇ヲ見ルコトニ依ツテ国民ノ統合ヲ如実ニ我々ガ直感的ニ識別シ得ルカト云フト、我々ノ心ノ奥ニ天皇ヲ中心トシテ結付キガ出来テ居ルト云フコトニ外ナラヌト考ヘル次第デアリマス
○竹谷委員 法デアリマスナラバ何等カノ法律効果ガナケレバナラヌト思フノデスガ、効果トシテ現ハレタモノガ憲法第一条デアルカドウカ、御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 法律効果ト云フコトハ、ドウ云フ意味ニ御使ヒニナツタカ俄カニ了解出来マセヌガ今申シマシタヤウニ、国体ト云フ考ヘ方ガ、国民全般ノ中ニ原理トシテハツキリ頭ノ中ニ浮イテ居リマス、其ノ浮イテ居ルコトノ現ハレトシテ、国民ノ総意ニ基ク第一条ニ於ケル天皇ノ御地位ガ生レテ来タ、斯ウ云フヤウニ考ヘテ居リマス
○竹谷委員 能ク分ラヌ節ガアリマスガ、是ハ此ノ程度デ打切リマス、所デ国体ガ変更サレナイト云フ政府ノ解釈ヲ聴イタ一般国民ハ多少狐ニ騙サレタヤウナ感ジヲ持ツテ居ル向キガアルノデアリマス是ハ国務相ハ新聞、「ラジオ」ノ報道ガ余リ簡単ニ過ギタリ或ハ区々デアツタリシテ居ルト云フコトヲ歎カレテ居ル、一方読者ヤ或ハ「ラジオ」ノ聴取者ハ、報道ガ余リニモ冗漫デアリ、難渋デアルト云フコトヲ訴ヘテ居ルノデアリマス、結局幾ラ精密ニ、正確ニ報道サレテモ、之ヲ受取ル国民ハ、自分ノ直感ナリ主観ナリデ判断ヲ致シマス、従来ノ国民ノ持ツテ居ル感ジハドウデアツタカト云フト、多クノ学者ガ申シテ居ツタヤウニ、天皇ガ統治権ノ総攬者デアルト云フコトガ日本ノ国体デアル、斯様ニ法律ノ学生バカリデナク、殊ニ戦時中隣組常会ナリ或ハ小学校等ニ於テモ、ソレガ徹底ヲサレテ居ツタ、斯ウシタ関係カラ今此ノ憲法ヲ見テ、国体ガ変ラナイト云フ政府ノ答弁ヲ詭弁ノヤウナ感ジヲ持ツテ居ルノデアリマス、是ハ古イコトヲ引張リ出シテ甚ダ失礼デハアリマスルガ、金森国務相ガ書イタ帝国憲法要綱ノ七頁ニ国体ト云フコトニ付テ書イテ居リマス、此ノ著書ニモ国家ノ意思トナルベキ自然意思ノ主体ヲ統治権ノ総攬者ト言ツテ、其ノ統治権ノ総攬者ノ異動ニ依ツテ生ズル国家ノ態様ヲ国体ト言ツテ、統治権総攬者ノ一人ナリヤ、多数ナリヤ、国人ノ全部ナリヤニ依ツテ君主、民主、共和ノ各国体ニ分ツト書イテ居ラレル、斯様ニシテ随分ト此ノ観念ハ国民ノ間ニ行渡ツテ居ルノデアリマス、是ハ他ノ委員カラモ御質問ガアリマシタガ、此ノ国民ヲ詭弁ニ引ツ掛ケタヤウナ感ジヲ抱カセル点ハ、十分是ハ払拭シナケレバナラヌト思ヒマス、之ニ関スル政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 私ノ著書ヲ引用シテ仰セニナリマシタ、私ノ著書モ固ヨリサウ云フ風ニ書イテゴザイマス、併シナガラ私ノ著書ヲ弁明スル意味デハ毫モゴザイマセヌガ、其ノ憲法ヲ書キマシタノハ、其ノ時代ニ於テ種々ナル枠ノ中デ書イタノデアリマス、併シ其ノ中ニモ国家ノ意思ハ天皇御一人ノ御意思ノミデハナイト云フコトヲ実ハ附加ヘテ――今何頁デアリマスカ記憶シテ居リマセヌガ、当時ソレハ甚ダ不遜デハナイカト内面的考慮モアリマシタガ、ドウシテモサウ書カナケレバ私ノ心ガ得心致シマセヌデシタカラサウ書キマシタ、詰リ其ノ頃ノ考ヘ方ニ於キマシテモ、国家ト云フモノハ天皇ノ御意思ガ政治的ニ大キナ意味ヲ持ツテ居ルコトハ一点ノ疑ヒモナイ併シナガラ国家ノ意思ノ全部ガ天皇ノ御意思ノミニ依ツテ出来上ルノヂヤナイト云フコトヲ前提トシテ申シテ居リマシタ、今ソレヲ特ニ申上ゲルノハ、決シテ個人ノ弁明デハナクテ、古イ日本ノ憲法学説ニ於キマシテ――私ハ其ノ辺マデ注意ヲシテ文字ヲ用ヒマシタケレドモ、大多数ノ憲法ノ著書ハ、今仰セニナリマシタヤウニ、現行憲法ノ規定ヲ基ト致シマシテ、天皇ガ統治権ノ主体デアル、又ハ総攬者デアル、其ノコトガ国体デアルト云フ風ニ明カニ言ツテ居リマス、ソコデ私ガ曽テモ申シマシタヤウニ、我々ハ過去ニ於テ現象的ナルモノニ多ク心ヲ惹カレ、ソレヨリモ深ク本質的ナモノマデ掘下ゲルト云フコトヲ、色々ナ事情デ以テシナカツタ、或ハ遠慮モアリマセウ、或ハ考ヘ方ノ不到達ノ為モアリマセウ、兎ニ角シナカツタノデアリマス、併シ今日ニ於テ深クモノヲ掘下ゲテ見マスレバ、国民ガ本当ニ国体ト思ツテ居ルコトハ、自分ハ知ラナクテモ人カラ話ヲ聴イテ見レバ分ル、自ラ量ラズシテ他人ガ量ツテ呉レルト云フヤウナ意味ニ於キマシテ、各国民ノ本当ノ基本ノ考ヘハ何デアルカト云フコトハ、天皇ヲ憧レノ中心トシテ、国民ガ統合ヲシテ居ルコトデアラウト思フ、是コソ日本政治組織ノ根源トシテ認ムベキ国体ノ原理デアラウ、斯ウ云フコトガ私ノ説明デアツタノデアリマス、ソコニ何等不明ナルモノヲ包蔵シテ居ルコトハナイト思ヒマス、其ノ原理ヲ国民諸君ガ否定セラレマスレバ、私ハモウ淡白ニ引下ガルヨリ外ニ途ハゴザイマセヌ、併シナガラ我々ガドウ考ヘルカ、過去ノ歴史、現在ノ国民意思ヲ中心ト致シマシテ、天皇ヲ憧レノ中心トシテ心ノ繋リヲ持ツテ結合シテ居ル国家デアルト云フコトハ、私ニ取ツテハ絶対ニ否定ノ出来ナイ観念デアリマシテ、是ガ即チ国家ノ一番根源デアラウト思フ訳デアリマス、故ニ私ハ国体ト云フモノハ、サウ云フ風ニ国民諸君ガ意識シテ居ルノデアラウ、偶々法律学者ノ自ラノ智慧負ケニ依ツテ誤リ伝ヘタト云フコトガ、今日トシテ見レバ遺憾デアル、斯ウ云フ気持ヲ述ベテ居ル訳デアリマス、既ニ国体ガ左様ナモノト考ヘマスナラバ、国体ニ基キマシテ纏マツテ居ル日本国民ノ総意ト云フモノハ、ココニ憲法ヲ確定シ、此ノ憲法ニ於キマシテ此ノ国体ノ基本原理ト極メテ密接シテ、ソレカラ殆ド間髪ヲ入レズシテ流レ出シテ居ルヤウナモノデ、即チ第一条ノ天皇ヲ仰ゲバ国ヲ思フ、国ガ見エルト云フ観念ハ、是ハ謂ハレナクシテサウ云ウ思想ハ起リマセヌ、無関係ノモノヲ持チ来ツテ、是ガ国ノ象徴デアルト強ヒテ言葉ヲ使ヒマシテモ、国ノ名前トカ旗印トカ云フモノヲ象徴スルト同ジ位ノコトニナリマシテ、本当ノ国民ノ心ニ滲ミ渡ルコトハ出来ヌト思ヒマス、併シナガラ改正憲法第一条ニ示サレテ居リマスルヤウニ、天皇ハ国ノ象徴デアルト申シマスレバ、誰人ノ頭ニモ、象徴ト云フ言葉ノ意義コソ新シイカラ多少ノ考ヘヲ要スルカモ知レマセヌガ、如実ニ天皇ト国トノ関係ガハツキリ頭ノ中ニ浮イテ来マス、サウシテ国家其ノモノガアリアリト見エルト云フコトハ私ハ否定出来ナイト思ツテ居リマス（拍手）是ガ即チ第一条ノ生レテ来ル原理デアリマシテ、此ノ全体ニ於テ何等ノ――少クトモ私自身ノ精神ノ帰結ト致シマシテ、寸毫ノ不明ナル所ハ何モナイト思フノデアリマス、然ルニ国民諸君ガ之ニ対シテ何トナクボソボソシテ居ル、私ハ新聞ノ論調等ヲ見マシテ時ニ私自身ヲ反省スルノデアリマス、私ノ説明ガ足リナイ、又個人的ニハ私共ノ播イタ法律上ノ種子ノ播キ方ガ甚ダ宜シクナカツタト云フコトハ反省シテ居リマス、ケレドモ、或ル程度マデ此ノ思想ガ国民ノ頭ニ滲ミ渡リマスルナラバ之ヲ疑ハシイト思フ人ハナイノデハナイカ、何ノ説明ヨリモ、過去ニ於キマシテノ国体ト憲法トノ関係ノ説明ヨリモ遥カニ平明デアリ神秘性ヲ全部排除シ、非現実性ト云フモノヲ除キ去ツタモノニナルノデハナイカ、ドウモ個人ノ弁明ヲ申シテ相済ミマセヌケレドモ、新聞等ニ依リマスルト、私ノ言葉ガ何トナクモノヲ隠シテ居ル、良心ニ反シテ言ツテ居ルト云フヤウナ疑惑ヲ生ジマスガ、私ハ若シ出来レバ国ヲ中心トシテ争ヒタイト云フ位ニ実ハ残念至極ニ考ヘテ居ル次第デゴザイマス（拍子）
○竹谷委員 国体ノ解釈ニ付テハ私モ政府ノ解釈ヲ支持スルモノデアリマス、無論金森国務相ノ御説明ハ能ク分ツテ居ルノデアリマス唯国民ガ十分ニ之ヲ理解スルヤウナ方策ヲ執ツテ戴キタイト希望スルモノデアリマス、今御説明ノ中ニ象徴ト云フ御言葉ガアリマシタガ、此ノ象徴ト云フ言葉ハ、非常ニ適切ナ表現デアツテ、私モ大賛成デアリマス、併シナガラ此ノ象徴ト云フ言葉ハ、文学ナリ、絵画ナリ、サウシタ方面ニハ従来使ハレテ来テ居リマシタガ、法律上ノ用語トシテ見ルノハ、私寡聞ニシテ今回初メテデアリマス、随テ此ノ象徴ト云フ言葉ノ法律上ノ観念ヲハツキリサセテ置ク必要ガアルノデハナイカト思フノデアリマス是ハ度々御答弁モアリマシタガ、分ラナイ節ガアリマスノデ御尋ネヲ致シタイ、外国トノ間ニ結ブ条約ノ前文ニ――私ハ外交文書ノコトハ能ク知リマセヌノデ、適切ナ表現ガ出来ナイカモ知レマセヌガ此ノ条約文ニ従来ナラバ、日本国皇帝陛下ノ委任ヲ受ケタ全権誰某ガ某国ノ何全権ト左ノ条約ヲ締結スルト云フヤウナ前文ガアツタト思フノデアリマス、今マデハ日本国皇帝陛下ノ御名ニ於テ全権ガ締結シタ、此ノ日本国皇帝陛下ト云フ文字ノ代リニ、今後此ノ改正憲法ニ於テモ同ジヤウニ天皇ト云フ言葉ガ使ハレルノデアルカ、或ハ内閣総理大臣ナリ、議会ナリノ委任ヲ受ケタ全権大使トシテ条約ヲ締結スルノデアルカ、之ヲ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 公文ノ書キ方ニ付キマシテハ、尚ホ研究ヲ致ス余地ガ残ツテ居リマスケレドモ、大体ノ着想ト致シマシテハ、外ニ向ツテ国ノ形ノ整ツタ文書トシテ出マス時ハ、天皇ノ御名ヲ翳シテ其ノ公文書ヲ作成スルト云フ方針ヲ持ツテ居リマス
○竹谷委員 サウシマストサウシタ一般的ナ国家代表ト云ヒマスカサウシタ場合ニハ天皇ノ御名ニ於テ、天皇ガ国家ヲ代表サレル、斯ウ云フコトニナル訳デアリマセウカ
○金森国務大臣 代表ト云フ言葉ガ此ノ憲法第一章ニ依ツテ何処マデ行クカト云フコトハ、具体的ナ場合デナイト御答ヘハ出来マセヌ併シナガラ国ヲ外ニ向ツテ儀礼的ニ御現ハシニナルト云フコトハ、此ノ憲法ノ第一条及ビ第七条ニ依ツテ明瞭ト思ヒマス、随テ斯クノ如キ場合ハ、天皇ノ御名ニ依ツテ日本ノ国ノ働キガ外国ニ現ハレルヤウニスル積リデ居ル訳デアリマス
○竹谷委員 七月二日ノ北浦委員ノ質問ニ対シテ国務大臣ハ、天皇ト国家ノ間ニ第一条ニ依ツテハ何等ノ権利モ義務モ発生シナイト御答弁ニナツテ居ルノデアリマス、此ノ権利モ義務モ発生シナイト云ヒマスト、国家ヲ代表スルノハ一種ノ権能デハナイカ、斯ウ思フノデアリマスガ、此ノ御答弁ハ矛盾ヲ致シマセヌカ
○金森国務大臣 権利トカ義務トカ云フ言葉モ亦甚ダシク見解ガ分レルコトデアリマスガ、私ノ考ヘマシタノハ、第一条ニ於キマシテハ、国民ノ目デ見、心ニ会得スル意味ニ於キマシテハ、象徴タル範囲ニ於テ天皇即国家デアリマス、天皇ヲ見レバ国家ガ分リ、天皇ヲ見レバ国ノ本質、国ノ統合ノ実体ガ目ニ見エル、斯ウ云フノデアリマスガ故ニ、ココニ普通ノ意味ニ於キマシテ或ルコトヲ求メル、或ルコトヲナスト云フヤウナ権利、義務ノ関係ハ起ラナイト云フコトヲ申シマシタ、権利義務ノ一ツノ姿デアリマス働キノ方カラ申シマスト、第六条、第七条等ガ之ヲ満タシテ居ル、斯ウ云ウ風ニ考ヘテ御答弁シタ訳デアリマス、随テ今ノヤウナ場合ニハ、第五条、第六条ニハ直接関係ハゴザイマセヌガ、第七条ノ方カラ具体的ニ天皇ノ御名ガ公文書等ニ現ハレテ来ル、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス
○竹谷委員 サウシマスト第一条ノ象徴ト云フコトカラ出テ来マス問題ハ、是ハ民法ノ第一条ニ権利享有ノ資格能力ヲ書イテアリマスガ、左様ナ意味合ノ法律上ノ効果ガアルノカ、即チ第六条若シクハ第七条ニ依ツテ国家ヲ代表スルヤウナ権能ガ生レテ来ルノカ、ソレトモ象徴ト云フコトニ依ツテ、其ノ法律効果トシテサウシタ権能ガ第一条ニ依ツテ存在スルモノカドウカ、ソレヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 民法ノ第一条ノコトハ一寸是トノ結付キガ頭ニ浮イテ参リマセヌガ、第一条ハ結局天皇ノ地位ガ神秘的ノモノデハナイ、国民ノ総意ニ基ク、是ハ明白ニ憲法ノ認ムル法律的ナ規定デアリマス、サウシテソレニ依ツテ、実体ハドウカ、天皇ノ御地位ハドウカト言ヘバ、天皇ハ即チ国ノ象徴デアル、斯ウハツキリ言ヘル、即チ象徴デアルト致シマスト、象徴タルコトニ即シテ現実ノ天皇ノ御働キト云フモノガ生レテ来ナケレバナラナイ、其ノ現実ノ御働キハ第六条、第七条等ニ依ツテ具体化サレテ来ル、全部一貫致シマシテ全体ノ真理ガ現ハレテ来ルコトニナツテ居リマス
○竹谷委員 象徴ノ点ニ付キマシテハ、此ノ程度ニシテ打切リマス次ニ政党ノ問題ニ付テ御尋ネヲ致シタイト思ヒマスガ、此ノ度ノ改正案ヲ拝見致シマシテ、日本語トシテハ甚ダ拙劣ナ点モ多イ、モツト好イ日本語デ書キ表ハシタラドウカ、斯様ニモ思ヒマスルガ、併シ匆々ノ間ノ立案トシマシテハ、内容ニ付キマシテハ、大体ニ於テ非常ニ良ク出来テ居ルヤウニ感ズル次第デアリマス、併シナガラ如何ニ立派ナ国家ノ基礎法ヲ作リマシテモ、此ノ憲法ヲ運用スルノハ結局国民ノ努力デアリ、又特ニ此ノ国家権力ノ運営ニ当ル諸機関ノヤリ方如何ニ相成ルト思フノデアリマス国権ノ最高機関デアリ、サウシテ唯一ノ立法機関デアル議会ト云フモノハ、同時ニ内閣総理大臣ノ指名権ヲ把握スルコトニ依ツテ、執行権ヲ掌中ニ収メタト同ジコトニナルト思ヒマス、又司法権ハ独立ハ致シテ居リマスルガ、最高裁判所ノ裁判官ハ、其ノ議会ノ指名シタ内閣ノ任免スル所デアリマス、斯様ニ致シマシテ立法ニ於テモ執行ニ於テモ、又是ハ直接司法ニ影響スルカドウカ直チニ断定ハ出来マセヌガ、兎ニ角国家ノ凡ユル権力ニ対シテ、大キナ支配力ヲ持ツコトト相成ルト思フノデアリマス、尤モ之ヲ制限スル為ニ二院制ヲ採ツテ居ルノデアリマスルガ、併シ参議院ニ対シテ衆議院ハ絶対優越的ナ権利ヲ持ツテ居リマス、斯クシテ衆議院ニ於ケル、政党ノ多数党ト云フモノガ、其ノ幹部会ヲ移シテ、或ハ中央執行委員会ヲ移シテ内閣ヲ組織スルト云フコトニ相成ルノデアリマスルカラ結局政党ニ依ツテ国家ハ支配サレル、所謂政党国家ニナルト、斯ウ存ズルノデアリマス、斯ウナリマスト政党ノ如何ニ依ツテ、憲法モ国体モ其ノ運命ハ左右サレルト云フコトニナルト思フノデアリマス我々ハ過去ノ経験ニ於キマシテ、多クノ政党政治ノ弊害ヲ見テ参ツタノデアリマス、即チ議会ノ経済問題ニ関スル審議能力ノ欠乏ナリ或ハ政党内ニ於ケル「ボス」ノ専制、或ハ統制強化ニ依ル非民主化多数党ノ横暴ヤ、闘争激化ニ因ル暴力ニ依ル議事ノ妨害ヤ、或ハ選挙界ノ腐敗、政党ノ軍資金ノ問題等、其ノ他多々弊害等モアルノデアリマスルガ、ソレニモ拘ラズ、他ノモノヲ以テ代フベカラザル長所ガアルト、斯ウ思ヒマス、政党ハ国民一般ノ信任ニ依リマシテ多数ノ議員ヲ獲得シテ居ルノデアリマシテ、此ノ国民ノ輿望ヲ担フ所ノ政党ノ民主的政府ガ、国民ノ批判ノ下ニ政治ヲ公開シテ多数党ト少数党トガ相切磋琢磨シ、相許スベキハ許シ合ツテ政治ヲ行フ点ニ於キマシテ偉大ナル長所ガアルト存ジマス、随テ専制的或ハ強厭的ナ独裁政治ノ権道政治トハ全然其ノ選ヲ異ニシ、此ノ専制的或ハ強厭的独裁政治ハ、是ハ断乎排斥シナケレバナラヌト私ハ思フノデアリマス、而モ民主国ニ於キマシテ国民ガ政治的ニ無組織デアリマシタナラバ、風ニ従ツテ飛ビ散ル所ノ砂ヤ芥ト同ジヤウニ国家意思ノ形成ハ出来ナイト思ヒマス、群衆デアリマスル国民ガ意思能力ナリ或ハ行為能力ヲ持ツ為ニ、自発的ニ政党ト云フモノガ当然芽生エテ来ルト、斯ク思フノデアリマス、ソコデ此ノ政党政治ヲ立派ニ運営スル為ニハ、憲法ハ如何ナル用意ガアルカト云フコトヲ、一寸検討ヲ致シテ見タイト思ヒマス
先ヅ第七十条ニ依ツテ法律ハ最高裁判所カラ違憲ノ審査ヲ受ケマス、又政党ノ幹部会デアリマス所ノ内閣ノ執行ニ関シマシテモ、裁判所カラ違憲審査ヲ受ケマスルガ是等ハ余程ノ場合デアルト思フノデアリマス、ソレカラ次ニ二院制度ニ依リマシテ参議院ノ制肘ヲ受ケマスルガ、是ハ先程モ申シマシタ通リ、新聞ニモ書イテアリマシタガ、三角形ノ一辺ノ代リニ二辺ノ方ヲ通ルダケノコトニ過ギナイ更ニ衆議院ノ解散ト云フコトハ改善ノ出店ノ内閣ノ助言ト承認ニ依ツテ行ハレルノデアリマスカラ、普通ノ場合ハ意味ヲ成サナイ、併シナガラ是等ノ制限制肘ト云フモノハ、議会ニ於ケル少数党ヲ尊重シ少数者ヲ保護スルコトトナル訳デ、政党ノ弊害防止ニ相当ノ効果ガアルト思ヒマス、尚ホ此ノ外ニ憲法改正ノ手続、其ノ他重要案件ニ付テハ、議事ニ付テ三分ノ二以上ノ賛成ガ必要デアルト云フコトデ多数党ノ横暴ヲ抑ヘテ居ル規定モ相当アルノデアリマスガ、尚ホ之ヲ政治的ニ見マシテモ、政治ヲ公開シテ少数党トシテハ与論ヲ喚起シタリ、或ハ議事ノ妨害ヲシテ多数党ノ横暴ナル議決ヲ阻止シタリ、或ハ少数派ガ総退場シテ、サウシテ政治的ノ効果ヲ狙フト云フヤウナ手段モアリマセウ、尚ホ新聞等ノ伝ヘル所ニ依リマスルト、政府ハ国会法ノ立案モ急イデ居ルヤウデアリマスルシ議院ニ於テモ議事規則ノ改正ガ今企図セラレテ居ルノデアリマス、併シナガラ之ヲ以テ私ハ十分トハ考ヘナイノデアリマシテ、政党政治ノ健全ニ民主的ニ発達スル為ニ、其ノ他ノ有効ナル手段ヲ執ル必要ハナイカ、是ハ他ノ委員カラモ発言モアリマシタガ、国民発案ニ依ル解散ハドウカ、此ノ国民発案モ参議院ノ三分ノニ或ハ国民ノ相当数ノ発案ニ依ツテ国民投票ニ付スルト云フヤウナ方法ヲ執ル必要ハナイカドウカ尚ホ其ノ他ニ憲法或ハ法律ノ規定ニ依リマシテ、此ノ政党政治ノ幣害ヲ除去スル所ノ手段ヲ講ズル必要ハナイカドウカ、其ノ御所見ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス
尚ホ以上ノヤウナ消極的ノ幣害除去ノミナラズ、百尺竿頭一歩ヲ進メテ、議員ノ素質ヲ向上シ、政党ヲ一層立派ナモノニスル必要ガアルノデハナイカ、斯ク考ヘル次第デアリマス、過去ニ於テ議会ノ問題トセラレタモノハ、申スマデモナク言論ノ自由トカ、或ハ普通選挙トカ云フヤウナ政治問題デアリマシテ、経済問題ハ自由放任セラレテ居リマシテ、随テ議会ノ問題トナルコトモ少カツタノデアリマス、随テ議員ハ健全ナ常識ヲ具ヘテ居レバ、ソレデ一応務マツタ斯ク思フノデアリマスガ、現在ノヤウナ金融ナリ、産業ナリ、労働問題ナリ、或ハ農地問題ナリ、食糧問題ナリ、斯ウシタ非常ニ多岐広汎ニ亙ル所ノ経済問題ガ最モ重要ナル政治問題トナリマシテ、経済ヲ離レテ政治ハナイト言ツテモ過言デナイ状況ニナツテ居ルト思フノデアリマス、然ルニ経済問題ハ極メテ技術的デアルシ、具体的デアリマシテ、相当ノ専門知識ガ必要デアリマス、斯ウシタ状態ニナリマシテ、我々議員ハ斯ウシタ種々ノ国家ノ全体ニ亙ル大問題ヲ研究スベキ適当ノ手段ニ欠乏シテ居ルノデアリマス、此ノ議員ノ素質ヲ向上シ、又研究勉強ノ便宜ヲ図ル為ニ、政府ハ相当ノ手段ヲ執ル必要ガアルノデナイカ、斯ク思フノデアリマス、サウデアリマセヌト、言論ヤ政策ヲ以テ争フベキ処ノ議会ニ於テ暴力ヲ以テ戦フヤウナルコトニナル、サウシテ議員モ政党モ議会モ国民ノ信用ヲ失ツテ延イテハ憲法ニ影響スルコトト相成ルト思フノデアリマス、尚又、今マデハ議員ノコトヲ申上ゲマシタガ、政党ニ付キマシテモ、政党ナルモノガ時ヲ得テ多数党トモ相成リマスレバ、直チニ内閣ヲ組織シテ国政ヲ司掌シナケレバナリマセヌ、然ルニ現在ノ政党ヲ見マスルト、大学ノ学生ガ三十分位デ作ル作文ノヤウナ政綱政策デアツテソレガ現実ノ国家百年ノ大計ヲ誤ラナイヤウナ立派ナ政策トシテ実施致シタナラバ、ドウ云フコトニナルカ、是ハ甚ダ危惧ニ堪ヘナイノデアリマシテ、ドウシテモ此ノ政党ナルモノハ、立派ナ具体的ナ直チニ実施ノ出来ルヤウナ政策ヲ持ツテ居ナケレバナラヌト思フノデアリマス、此ノ高等ノ重要ナル任務ヲ全カラシメル為ニ、政府ハ政党ノ政策、研究機関ニ対シテ、国家トシテ人的、物的或ハ財政的ノ考慮ヲ払ハナケレバナラヌト思フノデアリマス、無論此ノ政党ガ民主的ニ育ツ為ニ、左様ナ国家ノ助成ヲ受ケルト云フヤウナコトハシミツタレタ考ヘノヤウデアリマスルガ、現在ノヤウナ過渡的状況ニ於テハ、是レ亦已ムヲ得ナイト斯ウ思フノデアリマス、政党ト云フモノヲ斯ウシタ権威ノアル立派ナモノニシナイナラバ、大政党ト雖モ官僚ニ頭ヲ下ゲテ統計ヲ一々貰ヒニ参リマス、或ハ官僚ガ企画シタ其ノ案ノ一部ヲ貰ヒ下ゲテ来ル、サウ云フヤウナコトデハ政党ガ内閣ヲ組織致シマシテモ、政党閣僚ハ立チ所ニ官僚カラ馬鹿ニサレマシテ、折角掲ゲタ政党ノ大政策モ、真ニ其ノ目的ヲ実現スルコトガ出来ナイト云フヤウナコトニ相成ルト思フノデアリマシテ、ドウシテモ真ノ民ガ政治、立派ナ政党国家ヲ作リ上ゲマス為ニ、政党ノ健全ナル発達、進歩ト云フ問題ニ関シテ、我々議員モ政府モ心ヲ協セテ努力シナケレバナラヌト思フノデアリマスルガ、以上ノ質問ノ諸点ニ対シテ、政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 御説ノ通リ、民主政治ヲ採リマスル限リ、又民主政治ニ高度ノ発達ヲ期待シテ居リマスル限リ、朝野ヲ挙グテ十分ナル工夫ヲ用ヒナケレバナラヌト思フ訳デアリマス、過去ノ事例ニ於キマシテ民主政治ノ破綻ト云フモノガ叫バレ、議会政治ノ終焉ト云フヤウナコトガ言論人ニ依ツテ叫バレテ居リマス、甚ダ遺憾至極ナ思想ノ現ハレト思ツテ居リマシタケレドモ、今日諸般ノ客観情勢ニ依ツテ、サウ云フ考ヘ方ガ只幻滅ノ一路ヲ辿ツタト云フコトハ、洵ニ喜バシイコトデアリマス、併シ又モノノ進展ガ思フヤウニ行キマセヌト、民主政治ニ対スル批判或ハ疑惑ノ念ガ昂マラヌトモ保証ハ出来マセヌ、此ノ新シキ観点カラ出来テ居リマスル憲法ガ実施セラレマスニ付キマシテハ、民主政治ノ持ツテ居ル技術的ナル多クノ欠点ヲ極力削リ去ツテ、本当ノモノガ動イテ行クヤウニ凡ユル工夫ヲシナケレバナラヌト思フノデアリマス、併シ今日私共ノ立場ハ、先ヅ基本ノ原理ヲ樹テルニ急デアリマシテ、色々ノ補助的手段ニ付キマシテハ、マダ十分ノ研究ハ出来テ居リマセヌ、併シ此ノ憲法ニモ色々民主政治ニ付テノ起リ易キ欠点ヲ補正スル途ハ十分講ジテアリマスルガ、更ニ国会法其ノ他ニ於キマシテ十分ナ注意ヲシナケレバナリマセヌ、現在ノ議院法ハ御承知ノ如ク、露骨ニ言ヘバ政府ノ立場ハ便利デアツテ、議会ノ議員側ノ立場ハ余リ便利デナイヤウナ規定ガ若干残ツテ居リマス、其ノ外私ガ虚心坦懐ニ見マシテ、到ル処ニ議会ガ出来マシタ当時ノ社会思想ヲ反映シマシテ、何カナシニ面白クナイ規定ガ潜ンデ居ルヤウニ思フノデアリマス、斯ウ云フ規定ヲ厳密ニ批判ヲ致シマシテ、所謂官僚本位ノ民主政治――ヲカシイ言葉カ知レマセヌガ、官僚本位ノ民主政治ト云フモノヲ極力払拭シナケレバナラヌ、同時ニ政党相互ノ間ニ於キマシテ、公正ナル論議ガ進メラレルヤウナ工夫ヲシナケレバナラヌト思ツテ居リマス、ソレニ対シマスル方途ハ、是カラ皆様方ト共同研究ノ上ニ解決シナケレバナラヌモノデアリマスガ、国家ノ諸般ノ方針ヲ樹テマスルノニ唯単ニ多数決ト云フ勢力ノ争ヒデ以テ決メルノデハナク、其ノ多数ト云フコトノ背後ニ潜ンデ居ル、或ハ基本ヲ成シテ居ル所ノ合理性物ノ正シサト云フコトニ依ツテ、勝敗ガ着カナケレバナラヌト思フ訳デアリマス、ダカラ少数党デアレバトテ、成程投票ノ場合ニハ少数ニナル、併シソレガ根抵ニ於テ正シキ主張ヲ持ツテ居ルナラバ、論議ノ結果、実際ニ於テソレガ行ハレテ行クト云フ風ニナラナケレバナラヌノデアリマス昨日唯私見トシテ一端ヲ申上ゲマシタヤウニ議会ニ附属スル所ノ議会図書館ト云フヤウナモノ、ソレハ図書館デハナクテ、図書館ヲ包容シタ所ノ一大調査組織デアリマス、其ノ中ニハ議会ノ諸氏ガ必要トセラレル調査材料ガ容易ニ得ラレル、サウ云ウシツカリシタ地盤ヲ持ツテ政治ヲ行ハレルト云フ風ナコトハ、非常ニ好マシイト云フコトヲ申シマシタノハ、其ノ一端デアル訳デアリマス、唯政党ヲドウ云フ風ニ導クカ――導クト申シマスカ、補助的手段トシテ健全ナル政党ノ発達ヲ図リマスルニハドウ云フ途ヲ持ツテ行クカト云フコトハ、是ハ度々従来政府ニ於テモ、民間ニ於テモ論議セラレタ問題デアリマスルガ下手ヲスレバ角ヲ矯メテ牛ヲ殺スト申シマスカ、本当ノ政党ノ値打ヲ削ギ落スヤウナ結果ニナラヌトモ思ハレマセヌ十分ナル考慮ヲ致シタイト思ツテ居リマス、私記憶シテ居リマスケレドモ、日本ノ過去ニ於キマシテ、一時政党政治ノ華ヤカナリシ頃、特ニ顕著ニ華ヤカデアツタ時代カアルノデアリマス、其ノ当時ヲ回顧シテ見マスルト、一ツノ政党カ内閣ヲ樹立致シマスルト、其ノ政党ガ行フベキ政策ハ自ラ相当ノ分量ヲ確実ニ持ツテ居ラレタノデアリマス、少シク磨キヲ掛ケレバ直チニ国家トシテノ政策ニナシ得ル程度ニマデ研究ヲセラレテ居リマシタ、殊ニ政府部内ニ於ケル今マデノ其ノ問題ニ関スル経緯トカ、枢密院ノ経過ガ、過去ニ於テドウデアツタカト云フヤウナコトニ付テノ資料ヲ相当持ツテ居ラレマシテ、私役人ノ一端ニ居リマシテ、実ハ驚イタコトガアル訳デアリマスルカ、サウ云フ風ニ政党ガ発達シテ行カナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、ソレ等ニ関シマスル具体的ノ方途ハ、ドウモ私ノ能力ガ不十分デアリマシテ、今日申上ゲル所マデハ参ツテ居リマセヌ
○竹谷委員 次ニ憲法改正案ト議会ニ提出スル法案トノ関係ニ付テ御尋ネシタイト思ヒマスガ本議会ニ提出シマス議案ハ、憲法改正案ノ趣旨ニ従フベク立案サレタモノヲ提出サレル御方針デアルカドウカ、其ノ方針ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 固ヨリ恒久的ナル比較的恒久的ナル法律ヲ起案スル場合ニ於キマシテハ、此ノ憲法ノ各箇ノ規定ト、是ガ恐ラクハ実現セラルルデアラウト云フ前提ノ下ニ調和ヲ取ツテ提出セラレテ居ルト云フ次第デゴザイマス
○竹谷委員 サウシマスト、憲法改正案ノ第八十九条ニ「地方公共團體の長、その議會の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共團體の住民が、直接これを選擧する。」トアリマス、地方制度改正案ガ提出サレテ居リマスルガ、其ノ改正案ヲ見マスルト、法律ノ定メル其ノ他ノ吏員ノ直接選挙ノ改正案ガ出テ居ナイ、是ハドウモ此ノ改正案ノ趣旨ニ従フ法律案トハ言ヘナイト思ヒマスガ、如何デアリマスカ
○金森国務大臣 私ハ憲法ノ側カラ今日御説明ヲ申上ゲル立場ニアリマシテ、地方制度ノ今回ノ改正ガ何デアルカト云フコトヲ、責任ヲ持ツテ申上ゲルコトハ困難デアリマスルガ、現実ノ道行キト致シマシテハ、正確ニハ此ノ憲法ガ実施セラレタ後ニ、地方公共団体ノ制度ハ此ノ憲法トピツタリ合ハナケレバナラヌ、併シソレマデノ間ハ斟酌ノ余地ガアルモノト考ヘテ居リマス
○竹谷委員 ソレカラ第八十八条ニ、「地方自治の本旨」ト云フ言葉ガゴザイマス、「地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」此ノ地方自治ノ本旨ト云フモノノ内容ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 地方自治ノ本旨ト云フノハ、極ク広イ言葉デ以テ示サレテアルノデアリマシテ、此ノ内容ハ漸次具体的ナ案件ニ付テ発展セシメラレテ行クモノト思フノデアリマス、併シココニ大筋ナコトヲ言ヘバ、自治ハ言葉通リ自治デアリマシテ、之ヲ国ノ政治ト同一視シテハナラナイト云フコトガ自治ノ本旨ト云フコトニ当ルト思ヒマス、併シナガラ、地方自治ト云フモノハ、独立シテ一国家ヲ成スモノデハアリマセヌ、全体ノ国家ノ中ニアツテ、其ノ然ルベキ部分ヲ占ムルモノデアリマスルガ故ニ国家的ナル関係ヲ離ルルコトモ出来ナイ、其ノ意味デ、詰リ全体ノ中ノ一部分デアル、而モ一部分デハアルケレドモ、全部的ニ屈従スルモノデハナイト云フコトガ地方自治ノ基本的ナ考ヘ方デアリマス、ソレニ着想シテ総テノ制度ヲ設ケナケレバナラヌコトト考ヘテ居リマス
○竹谷委員 内務大臣ニ御伺ヒ致シマスガ、今度提案サレタ地方制度ノ改正案ハ、此ノ地方自治ノ本旨ト云フモノヲ如何様ニ考ヘテ居ラレルカ、所謂基礎構想ト云フカソレヲ伺ヒタイノデアリマス
○大村国務大臣 只今金森国務大臣カラ御答ヘガアリマシタヤウニ、地方自治ノ本旨ト云フノハ、用語ガ極メテ簡潔デアリマシテ、ソレダケノ持ツテ居リマス意味ノ内容ト云フモノハ、必ズシモ明確デハゴザイマセヌ、併シ我ガ国ニ於キマシテモ、明治二十年以来地方自治制度ガ確立致シマシテ、地方自治ハ如何ナル発展ヲ遂ゲナケレバナラヌカト云フコトニ付キマシテハ、大体行政ノ実際ノ運行カラ要求サレル所ノモノガ段々ト発展シテ来タト思フノデアリマス尚ホ終戦後ノ我ガ国ノ国情カラ申シマシテ、総テノ面ニ於テ民主化ヲ図ルト云フコトニ相成リマシテ、地方行政ノ上ニ於テモ、大イニ民主化ヲ図ルト云フ必要ニ迫ラレテ居ル訳デアリマス、其ノ場合ニ於ケル民主主義化ト云フノハ、是ハ結局私ノ解スル所ニ依リマスレバ、地方自治ノ本旨ト相共通スル所ガ多分ニアルト思フノデアリマス、唯地方自治ノ進ム途ト致シマシテハ、何処マデモ、地方自治ハ国家アツテノ地方自治ト云フ制約ヲ受ケテ居ルト思フノデアリマス其ノ限界ニ於キマシテ、地方制度ヲ民主主義ノ線ニ沿ツテ改革ヲスルト云フコトト、地方自治ノ本旨ヲ伸張スルト云フコトトハ、私ノ信ズル所ニ依リマスレバ、異名同義ト考ヘテ先ヅ大差ナイモノト思フ次第デアリマス
○竹谷委員 国家ガナクテ地方自治ダケアルト云フコトハアリ得ナイコトデ、是ハ当然ノコトト思ヒマスガ、此ノ地方自治ノ行キ方ガガ従来日本ハ欧洲大陸風ナ行キ方ノ線ニ沿ツテ居ツタト思ヒマス、政党政治ト云フモノガ発達ヲ至シテ参リマシタ場合、是ノ弊害ヲ除去スル一ツノ方策トシテ、此ノ地方自治団体ト云フモノノ執行機関ヲシテ、国ノ其ノ地方ニ於ケル行政モ掌ラセルヤウニスル、所謂英国風ト云ヒマスカ、サウ云フ風ニ持ツテ行ク方ガ国全体ノ民主政治ヲ弊害ノナイ健全ナモノニ発達サセル為ニ宜イノデハナイカ、斯ウ思フノデアリマスルガ、今度提案サレタ地方制度改正案ハ従来ノヤウニヤハリ中央集権的ナ基礎ノ下ノ地方自治デアツテ、地方ノ国家行政ハ民主的ニ其ノ地方ニ於テ選出サレタル知事、市町村長ヲシテ執行セシムルト云フ風ニハ行ツテ居ナイト思ヒマスガ、ドウシテモ政党国家トシテ非常ニ発達致シテ行キマスルト、中央ニ於ケル政党国家ノ政治ガ弊害ヲ伴ヒマス場合、是ガ地方ニマデ浸潤シテ参リマス、之ニ対シテ地方地方ニ依ツテ選挙サレタ公選ノ執行者が其ノ地方ノ国家行政ヲ行ヘバ、ソレダケ弊害ノ防止モ出来ルト云フコトニモ相成リマシテ、一層民主的ナ政治ガ行ハレルコトニナルノデハナイカ、斯ク思フノデアリマスガ政府ガ地方自治ノ其ノ二ツノ行キ方ノ何レヲ将来採ラントスルカ、又選挙サレタ地方ノ執行機関ヲシテ国家行政モ之ヲ行ハセルト云フ点ニ付キマシテハ如何ニ御考ヘニナルノカ、之ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○大村国務大臣 失礼デアリマスガ、一寸御尋ネノ趣旨ヲ十分呑込ミ兼ネテ居ルカモ存ジマセヌガ、間違ツテ居リマシタラ御指摘願ヒタイト思ヒマス、我ガ国ノ自治制度ヲ改革スルニ当リマシテ、「ヨーロッパ」大陸式ヲ採ルカ或ハ英米式ヲ採ルカト云フヤウナ点ニ付キマシテ、何レニ拠ルト云フ主義カラ此ノ改革ヲ「スタート」シテハ居ナイノデアリマス、ト申シマスルノハ、我ガ国ニ於キマシテモ地方自治制度ガ布カレマシテ既ニ数十年ノ歴史ヲ持ツテ居リマス、我ガ国情ニ合致シタル自治制度ガ段々ニ発展致シテ来テ居ルノデアリマシテ、自治制度ノ改革モ我ガ国情ニ即応スルト云フコトガ、先ヅ第一ノ要請ト考ヘテ居ル次第デアリマス、而シテ此ノ度「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒマシテ、地方政治モ之ヲ大イニ民主主義化スルト云フコトハ、我ガ国ノ一ツノ大キナ責任ニナツテ居リマス、ソレ等ノ点カラ致シマシテ、我ガ国ノ国情ニ合フ自治制度ノ発展ト云フモノハ如何ニアルベキカト云フ点ニ付キマシテハ、「アメリカ」ノ制度、或ハ欧洲大陸ノ制度、「イギリス」ノ制度、ソレ等ノ点ヲ参酌致シマシテ考慮ヲ加ヘタノデアリマスルガ、併シ今日得テ居リマスル成案カラ見マスルト、「アメリカ」ノ自治制度ノ或ル部分ノ条項ト同一ノモノヲ採用シタ点モ少カラズアル次第リデアマス、大陸ノ基本方針ハ其ノヤウデゴザイマスルガ併シ此ノ自治ノ運行ニ付キマシテハ、基本的ナル面ニ於キマシテハ地方団体ノ住民ノ意思ニ依ツテ自主的ニ是ガ運営サレルト云フ所ニ着眼致シマシテ、地方自治団体ノ長ノ如キハ、是ハ憲法ノ条章ニモ即応スル所デアリマスルガ、直接公選ニスル、併シ「アメリカ」ニ於キマシテ会テ前例モゴザイマシタヤウナ、余リニソコニ地方政党ノ力ガ自治ニ浸潤スルト云フコトハ、自治行政ノ発展ノ上ニ於キマシテ、障碍ガアリマスノデ、政策ヲ決定スル部面ニ於キマシテノ民主主義化ト申シマスカ、自治化ト云ノ点ニ於キマシテハ徹底ヲサセマスガ、併シ決定セラレタル政策ヲ実行ニ移スト云フ面ニ於キマシテハ、是ハ効率アル又人民ノ信頼ノ出来ル一ツノ吏僚制度ト申シマスカ、所謂「メリツト・システム」ヲ確立スルト云フコトガ、「アメリカ」ニ於キマシテ非常ニハツキリシタ前例ガアルコトデアリマス又我ガ国ノ自治発展ノ経過カラ見マシテモ、先ニ竹谷委員カラ御述ベニナリマシタ如ク、地方自治ノ発展ノ上ニ於キマシテハ、中央政党ノ力ガ余リニ強ク自治行政ニ介入スルコトハ是ハ宜シクナイ、避ケナケレバナラヌト云フコトデ、今日マデノ経過ヲ見テ居ルヤウナ次第デアリマシテ、此ノ点ハ我ガ国ノ国情カラ見マシテモ、其ノヤウニ致スコトガ適切デアルト考ヘラレマスノデ、此ノ自治制度ノ改正ニ於キマシテハ之ヲ一口ニ申シマスナラバ、政策部面ニ於キマシテハ民意ガ鋭敏ニ反映スル、其ノ民意タルヤ必ズ是ガ政治ノ実際ト致シマシテハ、公正ナル意味ニ於ケル政党運動ノ反映ト云フコトハ、是ハ当然予測スベキコトデアリマス、其ノ政策面ノ決定ノ上ニ於キマシテハ、只今申ス意味ニ於キマシテノ鋭敏ナル動キガ現ハレテ居リマス、又決定セラレタル政策ノ実行ノ面ニ於キマシテハ、吏僚制度ノ健全ナル確立ニ俟チマシテ、能率アル又行政効果ガ十分ニ現ハレルト云フヤウナ点ニ着眼ヲシテ進ムベキデアルト云フヤウニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○竹谷委員 地方自治ノコトハ質問ト答弁ガ食ヒ違ツテ居リマスノデ、是ハ其ノ方ノ委員会デ御尋ネスルコトニ致シマス
次ニ此ノ憲法ノ経済的規定ノ問題ニ付テ一寸御尋ネヲシタイ、是ハ他ノ委員カラモ度々触レマシタノデ、極ク簡単ニ御尋ネヲ致シマス、政府ノ主張スル所デハ、個々ノ経済的規定等ハ憲法ニ置ク必要ハナイ、二十三条ニモ一般的規定ガアルカラ、ソレニ依ツテソレゾレノ立法ニ任セレバ宜イト云フ御主張デアリマス、一応形式論トシテハ御尤モデアリマスケレドモ、併シ個々具体的ノ規定ハ、政治的権利ノ自由ノ保障等ノ面ニ於テハ方々ニ散見スルノデアリマシテ、経済的規定ニ付テハ個々ニ規定ヲ設ケテハナラヌト云フ憲法立案ノ原則ハナイト思フノデアリマス、随ヒマシテ現在政治的ノ自由ヨリモ寧ロ経済的ノ自由ヲ国民ハ欲シテ居ル、此ノ現状ニ鑑ミマシテ、今全面的ニ改正セントスル此ノ憲法ニ、経済上ノ自由ヲ保障スル個々ノ規定モ挿入スルコトガ、真ニ民主的ナ又国民ヲシテ之ニ希望ヲ繋ガセ、納得サセルコトニナルノデハナイカ、斯ク私ハ考ヘルノデアリマス、サウシナイト国民ハ彼等ノ日常ノ生活ニ対シテ実益ノナイ憲法トシテ、此ノ憲法ニ対シテ無関心ニナツタリ、或ハ「ニヒリスティック」ニナル所ナシトシナイノデアリマス、サウナリマスト人心ハ憲法ヲ忘レ、議会ヲ離レ、進ンデ之ヲ否認スルト云フコトニナリマシテ、立派ナ民主主義的憲法ヲ作リマシテモ、憲法ノ危機ヲ招クト云フ結果ニ相成ルデハナイカト云フコトヲ惧レルモノデアリマス、経済的規定トシテハ第二十三条ニ書イテゴザイマスガ、是ハドウモ一般的ナ規定デアリマシテ社会生活ノ幸福ヲ増進スル為ノ抽象規定ノヤウニ思フノデアリマス、随テ之ニ基イテ沢山ノ良イ法律ヲ作レバ宜イ訳デアリマスケレドモ、ソレ位ナラバ今カラ最小限度ノモノハココニ規定ヲシテ、サウシテ国民トシテ、人間トシテノ相当ノ生活ヲ保障スルナリ、或ハ就業ノ保障ヲスルナリ、或ハ農民ノ耕作権ヲ保障スルナリ、商工業ノ保護等ニ関シマスル積極的ノ内容ノアル規定ヲ設ケル方ガ、一層此ノ憲法ヲシテ立派ナ民主的ナ光アラシムルモノデアルト思フノデアリマス、サウ致シマセヌト、ドウモ国民ノ関心ハ憲法カラ離レハシナイカ、是ハ他ノ委員ヨリ申サレタコトトハ別ノ観点カラ、私ハ是非此ノ経済ニ関スル自由ノ保障規定ヲモウ少シハツキリト、国民ノ納得スルヤウナ規定ヲシテ置キタイモノデアル、斯ク主張致スモノデアリマスガ、御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 此ノ点ハ今マデ度々御答ヘヲ申上ゲマシタコトト同ジコトニ帰着致シマスルガ、詰リハ国民ガ生活及ビ経済ノ面ニ於キマシテ、恒久的ナル基礎法トシテ、而モ重要ナルモノトシテ御示シニナリ得ルモノヲハツキリト此ノ際、何処マデ御考ヘニナツテ居ルデアラウカト云フコトニ付キマシテ尚ホ私共ハ更ニ議論ヲ尽サナケレバ、確実ナ実際実行ノ上ニ支障ノナイ程度マデ規定ヲスルコトガ相当ニ困難デアルト考ヘマシテソコデ今マデ発達シタ政治的規定、ソレカラ経済的、社会的方面ニ於キマシテハ、若干ノ既ニ十分国民諸君ノ間ニ基盤ヲ持ツテ認メラレテ居ルモノヲ掲ゲ、ソレ以外ノモノニ付キマシテハ積極的ニ二十三条ノ如キ立法ニ関スル義務ノヤウナ形ヲ以チマシテ規定ヲ致シマシタ、斯ウ行ケバ是カラ発展スベキ基盤ダケハ、ココニ築キ上ゲラレテ居ル、其ノ発展ヲ妨ゲルヤウナ規定ハ一ツモ置カナイ、サウシテ内容ハ漸次此ノ政治的「デモクラシー」ノ基礎ニ於テ、議会ノ働キニ依ツテ十分建設サレテ行ク、斯ウ云フ思想ノ下ニ規定ヲ設ケタノデアリマシテ、ソレ以上ノ特ニ深イ考ヘハゴザイマセヌ
○竹谷委員 憲法ノ形式ナリ或ハ規定ノ難易ト云フヤウナコトハアリマセウケレドモ、併シ是ハ国民ヲシテ真ニ我々ノ憲法デアルト云フ感ジヲ持タセル意味合カラ申シマシテモ、政治ノ自由ニハ触レナイノデアル、経済ノ自由コソ初メテ国民ノ生活ガ保障サレルノデアツテ、此ノ点ヲ十分考慮サレル必要ガアルト思ヒマス、此ノ問題ハ是デ打切リマス
ソレカラ国家ガ総テノ武力ヲ貯ヘナイ、戦争ヲ抛棄スル、此ノ趣旨ニハ無論賛成デアリマスルガ、将来国家ガ内乱、騒擾其ノ他ノ非常ニ緊急ナ非常事態ニ遭遇致シマシタ場合、結局実力ガ必要ニナツテ来ル、ソコデ緊急措置ニ関シマシテハ参議院ガ代行スルナリ、或ハ其ノ他ノ方法ニ依リマシテ、法的措置ハ何時デモ簡単ニ講ゼラレルカモ知レマセヌ、問題トナルノハ実力ヲ如何ニシテ工面調達スルカト云フ問題ニナルト思ヒマス、之ニ関スル政府ノ方針ヲ承リタイト思ヒマス、兵力ガアリマセヌノデ、現在ハ残サレタ僅カノ警察力ニ過ギナイ、其ノ場合、一体非常事態ハ法律的ニハ如何ニモアアスル、斯ウスルト取締ノ規定ヲ設ケルコトガ出来マスケレドモ、之ヲ実施スルノハ結局実力ノ問題デアル、実力ヲ如何ニシテ調達工面ヲスルカ
ソレカラモウ一ツハ第十九条ノ集会、結社、言論、出版、検閲、是等ハ保障サレテ居リマス、是ガサウシタ事態発生ノ場合ニモ絶対的ニ保障サレルノデアルカ、ソレトモ自然法学的ノ考ヘデ或ル程度之ニ対スル制限ガ設ケラレ得ルノデアルカ、此ノ二点ヲ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 第九条ヲ規定致シマスルコトノ結果、国内ニ起リマシタ諸種ノ治安ノ適切ナル方策如何ト云フヤウナ御趣旨デアリマシタガ、此ノ憲法ノ趣旨ハ第九条ニ掲ゲタルコト以外ニ於キマシテ平和秩序ノ国家ニ於テ持チ得ル種々ナル方策、詰リ警察権ヲ中心トスルモノデアリマスガ、ソレニ依ツテ国内ノ治安ヲ維持シヨウ、ソレハ最善ノ努力ヲ費シテ行クベキモノデアル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、若シ又其ノ方法ヲ以テ如何トモスベカラザル特殊ノ場合ヲ予見致シマスルコトハ、此ノ憲法ノ具体的規定トシテハ不適当ト考ヘテ、ソレハ何等規定ハゴザイマセヌ、前文ノ中ニ其ノ心持ヲ彷彿トシテ表ハス程度ノ用意ハシテアル訳デアリマス、尚ホ第十九条ノ規定、殊ニ第一項ニ於キマシテ結社出版言論其ノ他一切ノ表現ノ自由ハ之ヲ保障スルト云フコトガアルノデアリマス、是ハ十分国民ノ基本的権利トシテ保障スル趣旨ヲ明カニシテ居リマス、併シ之ニ関シマシテハ第十一条ノ規定ガアリマシテ、国民ハ之ヲ濫用シテハナラヌノデアツテ、常ニ公共ノ福祉ノ為ニ之ヲ利用スル責任ヲ負フト云フコトガアリマスガ故ニ、国家非常ノ場合ニ於キマシテ必要ナル枠ノ中ニ於テノミ此ノ権利ガ保障セラルルコトハ当然デアリマス、而モソレガ妥当ナリヤ否ヤト云フコトハ、最高裁判所ガ決定スルコトトナル次第デアルト考ヘマス
○竹谷委員 以上ヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 藤田君ニ相談致シマスガ、午前ハ約三十分位ノ時間シカアリマセヌガ、如何シマスカ少シ質問ヲセラレテカラ休憩ニ入リマスカ、ソレトモ昼食後ニ致シマスカ
○藤田委員 午前中三十分バカリヤラセテ戴キマシテ、午後モ続ケサセテ戴キマス
○芦田委員長 宜シウゴザイマス――藤田榮君
○藤田委員 先ヅ第一番目ニ天皇ノ地位ト議院内閣制ニ付テ御質問シタイト思フノデアリマス、摂政ヲ置クノハ皇室典範ノ定メル所ニ依ルト云フコトニナツテ居リマスガ、将来皇族会議並ニ枢密院ノ機関ガ廃止サレルコトニナリマスト其ノ天皇ノ所謂不具癈疾等、摂政ヲ置クベキ事態ノ認定ハ如何ナル国家機関ニ於テ之ヲスルノデアルカ、其ノ点ニ付テ先ヅ御質問ヲシタイノデアリマス
○金森国務大臣 枢密院ハ此ノ憲法ニ於テ存在ヲ失フコトニ方針ガ立テラレテ居リマス、随テ摂政ヲ置カレル場合ニ於キマシテモ、枢密院ガ干与スルト云フコトハ将来ハ起ラナイト思フ訳デアリマス、併シナガラ摂政ヲ置キマスル場合ニ、鄭重ナル手続ヲ執ラナケレバナラヌト云フコトハ自明ノ理デアリマシテ、其ノ内容ハ此ノ憲法ノ第五条二於テ予定シテ居リマスル通リ、皇室典範ニ於テ諸般ノ必要ナル規定ヲ設クルコトニナル訳デアリマス、皇室典範ニ於キマシテ、今仰セニナリマシタヤウナ場合ニ処スル如何ナル規定ヲ設クルカト云フコトハ、今尚ホ現実ニハ研究中デアリマシテ、遠カラヌ機会ニ法律トシテ議会ノ協賛ヲ仰グコトニナリマスルガ、併シ其ノ中デ明カニ言ヒ得ラレルト信ジマスルコトハ、相当国民側ノ人々ノ意見ヲモ其ノ審議ノ中ニ取入レルヤウナ何カ会議ヲ作リマシテ、サウ云フ会議ヲ利用スルコトガ宜イノデハナカラウカ、但シ事柄ガ事柄デアリマスノデ、余リ大キナ会合ハ面白クナイト思ハレマスルガ故ニ、比較的少数ナ規模ノモノヲ考ヘテ之ニ依ツテ極メテ適切ナル処置ガ出来タナラバ好マシイト云フヤウナ方針ニ従ツテ今研究ヲシテ居ル次第デゴザイマス
○藤田委員 天皇ノ地位ニ付キマシテ本日マデ色々ナ意味ノ国体観ガ論ゼラレテ参ツタノデアリマスルガ、私ハ大体今日マデ行ハレテ居リマスル日本ノ国体ニ関スル見方ニ五ツアルト考ヘルノデアリマス、其ノ第一番目ハ史実的ナ、即チ歴史的ナ国体観デアリマシテ、肇国二千六百年ノ其ノ事実ニ立脚シテ、此ノ二千六百年ニ無限ノ意味ヲ持タセヨウトスル考ヘ方デアリマス、此ノ国体観ハ日本歴史ガ二千年ニサレタト云フコトニナルト、如何ニモ国体ノ尊厳ヲ傷ツケラレタヤウニ考ヘラレマシテ、非常ニ大騒ギヲスル人々ガ此ノ国体観ヲ奉ジテ居ルノデアリマス
〔委員長退席、菊地委員長代理着席〕
ソレカラ第二番目ニハ宗教的ナ国体観トシテ、天皇ヲ天御中主神ノ後裔トシテ現人神トシテ宗教ノ尊崇ノ対象トスル、此ノ考ヘ方デアリマスガ、是ハ元旦ノ詔書ニ依ツテ天皇自ラ否定サレタノデアリマス、第三番目ニハ法律的ナ国体観、或ハ憲法的ナ国体観ト称スルモノデ、現行憲法第三条ニ依リマシテ、天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズト云フヤウナ考ヘ方ニ依リ又第四条ニ依ツテ国ノ元首トシテ統治権ヲ総攬スル、斯様ナ憲法的ナ国体観ガ説カレテ居ルヤウニ考ヘルノデアリマス、併シナガラ斯様ナ国体観ハ今日此ノ憲法ヲ改正シナケレバナラヌト云フコトニ依ツテモ分ルヤウニ、憲法ノ規定ニ依ツテ法律的ナル国体観ヲ持ツト云フコトハ、当然又変ラナケレバナラヌト云フコトニナルト考ヘルノデアリマス、大体色々国体観ガ論ゼラレテ参リマシタガ、之ヲ大別シマスト此ノ三ツ、或ハ其ノ一ツヅツヲ取ツテ、ソレゾレノ立場カラ日本ノ国体ヲ論ジテ居ラレルヤウニ見エルノデアリマスガ、第四番目ノ国体観トシマシテハ、詰リ学理的ナ国体観、即チ君主主権説或ハ人民主権説、或ハ国家主権説ノ見地ニ従ツテ学問的ニ之ヲ解明シテ行カウト云フ所ノ考ヘ方デアル、第五番目ニ今日日本ニ行ハレテ居リマスル所ノ国体観ハ、例ヘバ海行カバ水漬ク屍、或ハ敷島ノ大和心ヲ人間ハバ朝日ニ匂フ山桜花、或ハ防人ノ歌、斯様ナ歌ニ依リマシテ日本国民ノ心ノ底ニ流レル国体ヲ振返ツテ讃嘆スル、所謂詩的ナ国体観、詩ヤ歌ニ托シテ日本国民ノ国家ニ対スル愛情ヲ吐露スル所ノ国体観、大体此ノ五ツニ分ケテ考ヘルコトガ出来ルト思フノデアリマス、改正草案第一条ハ、天皇ヲ日本国民統合ノ象徴トシテ規定シタノデアリマシテ、又前文其ノ他ニ於キマシテ、人民主権ト云フ言葉ヲ標榜スルニ至リマシタニ付キマシテハ、此ノ改正草案ニ流レル所ノ国体観ハ、詰リ詩的ナ国体観、即チ詩ヤ歌ニ托シテ従来日本国民ガ心ノ中デ讃仰シテ参ツタ詩的国体観ト学理的ナ国体観、即チ国民主権ノ名ニ於ケル所ノ学理的ナ国体観ノ折衷案デアルト考ヘラレルノデアリマス、随テ改正草案ハ君主主権ニ徹底スルコトモ出来ナケレバ、ト云ツテ又国民主権に徹底スルコトモ出来ナイ其ノ何レデモアリ得ルト云フコトニナツテ居ルノデアリマスルガ、偖テ今後斯様ナ憲法ニ依ツテ行ハレル議院内閣制ノ運用ニ付テ、果シテ完全ニ是ガ運用サレテ参ルカト云フ点ニ付テ疑問ガアルノデアリマス、議院内閣制トハ勿論多ク論ゼラレマスヤウニ、多数党ノ横暴ト云フコトガ言ハレルノデアリマシテ、民主主義国家ニ於キマシテモ、例ヘバ「イギリス」ニ於テハ君主ハ単ナル総攬者、単ナル儀礼的ナ装飾的ナ存在ダケデハナクシテ、更ニ行政ニ対スル統合力ヲ認メル、是ハ「ラスキー」ノ指摘シテ居ル所デアリマシテ、又「カール・シュミット」モ君主ニ付キマシテハ、統合的調整力トシテノ君主ノ意義を認メル、斯様ニ主張シテ居ルノデアリマスガ、日本ノ改正草案ニ於キマシテハ、其ノ天皇ノ総合的ナ調整力ト云フモノガ認メラレテ居ナイ、民主主義ガ発達シタ民主政治ノ非常ニ訓練ノ積ンダ「イギリス」ヤ「アメリカ」ニ於キマシテモ、君主ハ単ニ装飾的、儀礼的ナ存在トシテノミナラズ、総合的調整力トシテノ力ガ与ヘラレテ居ル、「アメリカ」ノ大統領ニ於ケル所ノ拒否権の如キサウデアリマスルガ、日本ノ現実ノ政治ニ之ヲ見マスルナラバ、日本ハ「イギリス」ヤ「アメリカ」程ノ民主主義的ナ政治ノ訓練ガナイ、民主議会ヲ誇ル所ノ今議会ノ劈頭ニ於キマシテモ、片山書記長ノ演説ニ対スル反対側ノ野次ニ見マシテモ、是ガ主義主張ノ問題デハナクシテ、明カニ感情的ナ対立ガソコニ流レテ居ルヤウニシカ考ヘラレナイノデアリマス、将ニ議院内閣制ノ下ニ於ケル所ノ各党ノ分派抗争ノ所謂醜イ闘争ガ行ハレヤウトシテ居ルコトガ見ラレルノデアリマス、斯様ナ民主主義ノ訓練ノ行ハレテ居ナイ日本ニ於テ、民主主義ノ訓練ノ行ハレテ居ル所ノ「イギリス」ヤ「アメリカ」ニ於ケルヤウナ拒否権サヘ君主ニ認メラレテ居ナイ、金森国務大臣ハ此ノ改正草案ニ於テ経済規定ハ現実ノ部面ダケニ必要ナル最小限度ノ規定、現実ニ即シタ規定ダケヲ経済規定トシテ挿入シタト言ハレルノデアリマスガ、然ラバ政治規定ニ於キマシテハ、現実ヲ無視シタ此ノ草案ハ「ユートピア」ノ草案デアルト言ハレテモ、仕方ガナイト思ハレルノデアリマス、日本ノ政治ノ現実ハ斯様ナ高度ノ民主政治ガ行ハレル態勢ニナイ、其ノ態勢ノナイ所ヘ持ツテ来テ、何トカシテ例ヘバ君主ノ拒否権ヲ認メルトカ、サウデナケレバ国民ノ側ニ於ケル所ノ多数党ノ横暴ヲ制スル所ノ規定、斯様ナモノガ相俟ツテ行ハレナケレバナラヌト考ヘルノデアリマシテ、少クトモ天皇ニ国民投票ニ問フ所ノ「イニシアティヴ」ヲ取ル所ノ権、斯様ナモノガ、第九十五条ノ天皇ハ此ノ憲法ヲ、擁護スル義務ガアルト云フ反面解釈カラシテモ、左様ナ運用ガ認メラレテ宜イノデハナイカ、斯様ナコトガ考ヘラレルノデアリマスルガ、若シソレガ出来ナケレバ、国民ノ側カラ、例ヘバ多数党ノ議院内閣制ニ対シテ、反省ヲ求メルヤウナ制度ガ創設サレテモ差支ヘナイノデハナイカ、此ノヤウニ考ヘルノデアリマス、サウデナケレバ現在地方制度ノ改正ニ於テ現ハレテ居リマスルヤウニ今ヤ地方長官ヲ繞ツテノ地方制度ノ改正後ニ於テハ、非常ナ分派対立抗争ガ予想サレル、中央ニ於テハ政党政治ガ正ニ分派対立抗争ノ形ニ於テ発展サセラレル、是ガ高度ノ民主政治ヲ誇ル「イギリス」ヤ「アメリカ」ノヤウニ、果シテ円滑ニ行ハレルカ、勢ヒ政党ガ国民ノ信用ヲ失ヒ、此ノ結果ニ依ツテ北叟笑ム者ハ、此ノ憲法草案ニ賛成シナイ別ノ人々、或ハ曽テノ右翼或ハ官僚ノミガ、其ノ自己ノ勢力ヲ温存シ、其ノ自己ノ勢力ヲ揮ヒ得ル時期ガ来ルト云フコトヲ、私カニ北叟笑ム結果ニナルノデハナイカト心配スルノデアリマス、此ノ点ニ付キマシテ、金森国務大臣ノ御所見ヲ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 此ノ憲法ガ訓練ナキ国民ニ対シテ、議院内閣制ヲ認メントスル傾キガアルガ故ニ、其ノ運用ノ結果トシテハ、甚ダ不合理ナ結果ガ出来テ、望マザル結果、例ヘバ官僚専制ノ如キ姿ガ現ハルル虞ハナイカ、斯ウ云フ風ノ御質疑デアツタノデアリマス、私ハ左様ニハ思ヒマセヌ、日本国民ニ対シマシテハ、私ハ十分ノ尊敬スベキ政治的ナ素質ガアルモノト考ヘテ居リマス、然ルニソレガ従来ノ典型的ナ官僚政治、其ノ他ノ基本運用ノ為ニ、伸ビントシテ伸ビ得ナカツタト云フコトガ、大キナル禍ヒヲナシテ居ルト思ヒマスルガ、今日此ノ大イナル転換期ニ応ジマシテ、劃期的ナル此ノ憲法ガ設ケラレマスル限リ、心ノ奥ニ伏在シテ居ツタ所ノ国民ノ政治的信念ハ、相当高度ニ高マルノデアリマシテ、之ニ依ツテ立憲政治ハ相当発達運用ガ可能デアラウト思フ訳デアリマス、今仰セニナリマシタヤウニ、君主ノ拒否権ヲ認ムルト云フコトハ、是ハ容易ニ実際的ニ活用ノ出来ナイ制度デアルコトハ、今マデ度々申上ゲマシタ所デアリマシテ、民主政治ニ運用上ノ懸念ガアルト致シマシテモ、此ノ方法ヲ採ルコトハ、極力避ケナケレバナラヌト云フ風ニ考ヘテ居リマス、又国民投票等ニ依ル所ノ方法ハ、是ハ理論的ニ言ヘバ、勿論考ヘテ考ヘラレナイコトハナイノデアリマス、併シナガラ利害得失ノ面カラ考慮致シマシテ、国会議員ノ任期ハ万年ノ任期デハゴザイマセヌ、国民ノ批判ヲ受クベキ方法ハ、言論ノ自由ニ依ツテ常ニ活動ノ余地ガ認メラレテ居リマス斯クノ如キ基盤ノ下ニ、本当ニ国民ガ政治的ニ十分ノ目覚メヲ持ツテ居ルナラバ、立派ニ民主政治ノ効果ヲ挙ゲルコトガ出来ル、又如何ナル工夫ヲ致シマシテモ、機構ダケデハ本当ノ民主政治ハ出来ナイノデアツテ、国民ガ眠ツテ居ツテハ是ハ駄目デアラウト思ヒマス結局此ノ憲法ガ能ク動クカ動カヌカト云フ点ハ、此ノ憲法ガ今マデ存在スル不合理、民主政治ノ邪魔ニナルヤウナ制度ヲ取払ツタト云フコトハ、此ノ憲法ノ働キデアリマスルケレドモ、内容ヲ本当ニ合理的ニ実現シテ行ク為ニハ、国民的ノ政治訓練ガ高マラナケレバナラヌ訳デアリマシテ、而モ此ノ障壁ヲ取除キ、面目一新セル制度ノ下ニ、国家百般ノ働キガ動イテ行キマスル限リ、国民ノ政治的能力ガ漸次高マツテ来ルコトハ、一点ノ疑ヒハアリマセヌ、文部大臣ニ代ツテ物ヲ言フノハ、甚ダ僣越至極デアリマスルガ、仮ニ少シク言ハシテ戴キマスナラバ、今後ハ今マデノ如ク国民ノ一部ニ政治的教育ヲ与ヘ、国民ノ一部ニ進ンダ教育ヲ与フルト云フノデハナクテ――今マデモ勿論与ヘラレテ居リマセウ、併シ今後ハ国民全般ノ標準ヲ高メテ導クト云フ仕組ヲ以テ行キマスルナラバ、恐ラク現在考慮セラレテ居ル憲法草案ハ、能ク動イテ行クノデアラウ、此ノ上ニ諸般ノ国民投票其ノ他ノモノヲ加ヘテ行キマスルコトハ、却テ徒ラニ政治的粉糾ヲ増シテ、伸ビルモノヲ伸バサナイヤウナ嫌ヒニナルノデハナイカト考ヘテ居リマス
○藤田委員 只今ノ多数当党専制ニ関スル君主拒否権並ニ国民投票ニ関スル御回答ハ、一応諒ト致シマシタガ、新聞ヤ言論機関ガソレニ依ツテ多数党専制ノ弊ヲ除去スル左様ナ自由ガ与ヘラレテ居ルト云フヤウナコトヲ、先日モ御説明ニナツタコトガアルト思フノデゴザイマスガ、此ノ言論ノ自由ハ第十一条、第十二条デ公共ノ福祉ニ反シナイ限リニ於テ、其ノ行使ガ認メラレルノデアリマシテ、問題ハ如何ナル言論ガ公共ノ福祉ニ適合スルカ否カト云フ認定ガ非常ニ困難デアル、今日此ノ現状ニ於キマシテモ、如何ナル言論ガ公共ノ福祉ニ反スルカ反シナイカト云フコトニ依リマシテ、或ル者ハ言論ハ自由ト言ヒ、或ル者ハ言論ガ自由デナイト言フノデアリマス、将来言論ノ自由ニ依ツテ、多数党ノ専制ヲ排除シテ行クト云フコトニ付キマシテハ、ソレガ公共ノ福祉ニ反スルカ否カノ認定ノ一ツニ係ハルノデアリマス、此ノ点ハ十二分ニ政府ニ於テ御留意ヲ願ヒタイノデアリマス
先程御質問申上ゲマシタ点ヲ又別ノ角度カラ質問シタイト思フノデアリマス、此ノ草案第十条、第九十三条ハ、日本国民ニ保障スル基本的人権ハ、現在及ビ将来ノ国民ニ対シ、侵スコトノ出来ナイ永久ノ権利トシテ信託サレタモノデアルト規定シテ居リマスルガ、然ラバ其ノ基本的ナ人権ノ主張ガ、憲法ノ他ノ章条ニ牴触スル場合、及び其ノ基本的人権ガ十分ニ充足サレナカツタ場合ニハ、如何様ニ取扱フカト云フ点ニ付テ、例ヲ挙ゲテ御質問シタイノデアリマス、第一ハ例ヘバ草案第十九条ハ、集会、言論、結社ノ自由ヲ保障シテ居リマスルガ、国内ニ於ケル或ル政治団体ガ、集会、結社及び言論ノ自由ノ名ニ於テ、此ノ憲法ノ他ノ章条ト牴触スルヤウナ、反スルヤウナ行動綱領ヲ掲ゲテ運動スル場合ニハ、其ノ行為ハ憲法ニ反スル、即チ違法ノ行為ト認メラレルカ否カ、詰リ第十九条デ保障サレタ言論、集会、結社ノ自由ハ、第十一条デハ常ニ公共ノ福祉ノ為ニ之ヲ利用スル責任ヲ負フ、第十二条デハ公共ノ福祉ニ反シナイ限リ立法其ノ他国政上デ最大ノ尊重ヲ必要トスルトアルノデアリマスガ然ラバ憲法ノ他ノ章条ニ違反スル所ノ行動ヲスル場合ニソレハ此ノ第十一条、第十二条ノ公共ノ福祉ニ反スルモノト認定サレルヤ否ヤ若シサウダトスレバ、最大ノ尊重ヲシナイト云フコトニナルノデアリマスガ、然ラバソレハ一体具体的ニハドウスルノカ、此ノ点ニ付テノ解釈ヲ御聴キシタイノデアリマス
○金森国務大臣 今日此ノ草案トシテ議会ノ議ニ付セラレテ居リマス此ノ憲法ヲ前提トシテ起リ得ルデアラウ所ノ百般ノ現実問題ハ、俄カニ一遍ニ解決スルコトハ出来マセヌ、今御尋ネニナリマシタヤウナ場合モ結局原則的ナル問題トシテ御答ヘスルノ外ハナイト思フノデアリマスガ、仰セノ通リ、第十九条第一項ノ保障規定ハ、憲法十一条及ビ十二条ノ認ムル枠ノ中ニ於テ許サレテ居ルモノデアリマスルガ故ニ、形ハ絶対ノヤウニ見エマスルケレドモ、ソレハ公益ト云フ枠ニ依ツテ相対的ニ規定セラレテ居ルコトニナルノデアリマス併シ其ノ相対的デアルト云フコトハ甚ダ分リニクイコトデアリマス現実ノ適用ニ於テ多クノ疑ヒヲ生ジ易イト思ヒマス、現行ノ憲法ハソレヲ法津ニ任セテ居リマス、随テ法津デヤレバ其ノ所ハ如何様ニモ規定ガ出来ルト云フ形ヲ取ツテ居リマスルガ、ソレハ宜クナイト云フコトガ、此ノ憲法ノ基本ノ考ヘ方デアリマス、シテ見マスレバ、例ヘバ十一条ト十九条トノ調和点ガ何処ニアルカト云ヘバ、ソレハ結局裁判所ノ判決デアリマス、是ガ憲法問題ニ関スル限リ第十九条ニ依ツテ解決セラルルト云フコトニナルノデアリマス、而モ此ノ憲法ハ、集会、結社ナドト云フコトニ付キマシテハ特ニ注意ヲ深クシテ、ソレニ対スル裁判上ノ手続等モ、絶対ニ国民ガ得心シ得ルヤウナ風デナケレバナラヌト云フ前提カラ、裁判所ノ公開原則、判決バカリデハナイ、其ノ審理ヲモ公開スルト云フ原則ニ於キマシテ、ソレハ秘密会ニスルコトヲ得ナイト云フ風ナ規定マデモ設ケテ、客観的ナ妥当性ヲ確保シテ居ル訳デアリマス
○菊地委員長代理 藤田サン、一寸申上ゲタイノデスガ、大分時間モ過ギマシタカラ、午前中ハ此ノ程度デ如何デセウ
○藤田委員 結構デアリマス
○菊地委員長代理 サウ致シマス午後ハ一時半ヨリ会議ヲ開キマス是ニテ休憩致シマス
午後零時三分休憩
―――――――――――――
午後一時四十四分開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――藤田榮君
○藤田委員 私ハ午前中ニ此ノ憲法草案ノ規定シテ居リマスル所ノ基本的人権ノ思潮ガ、憲法ノ他ノ章条ニ反スル場合ハ、之ヲ如何ニ取扱ハレルカ、斯様ナ質問ヲ申上ゲタノデアリマスソレヲ更ニ具体的ニハ、例ヘバ草案第十九条ハ集会、言論、結社ノ自由ヲ保障シテ居ルノデアリマスルガ、国内ニ於ケル或ル政治団体ガ集会、結社及ビ言論ノ自由ノ名ニ於キマシテ、憲法ノ他ノ章条ニ反スル行動、綱領ヲ揚ゲテ運動スル場合ニハ、ソレハ憲法ニ違反スル行為、詰リ違法ノ行為ニナルカト云フコトヲ御質問申上ゲタノデアリマス、サウシテソレハ第十一条、第十二条ニ依ツテ、公共ノ福祉ニ反シナイ限リハ許サレルト云フコトニナツテ居ルノデアリマスルガ、憲法ノ他ノ章条ニ反スル行為ハ公共ノ福祉ニ反スルヤ否ヤ、ドノヤウニ御考ヘカト云フコトヲ御質問シタノデアリマス、モツト具体的ニ申上ゲマスナラバ、例ヘバ此ノ憲法実施後ニ於キマシテ、此ノ憲法ニ規定スル天皇制ヲ排除スルヤウナ行動ヲ執ル団体ニ対シマシテハ、ソレガ憲法ニ違反スル其ノ違反ハ第十一条、第十二条ノ公共ノ福祉ニ反スルモノカ否カ、ドノヤウニ御考ヘカト云フ点ヲ御質問申上ゲタノデアリマス、金森国務相ハ、公共ニ反スルカ否カハ最高裁判所ガ之ヲ決定スルノダト言ハレマシタガ、最高裁判所ノ決定ハ行政部ノ措置ニ対シテ、ソレガ此ノ場合ニハ公共ノ福祉ニ反スルカドウカト云フコトヲ認定スルノデアリマシテ、最高裁判所ノ認定ノ前ニ於ケル国家ノ措置、即チ左様ナ団体ガ公共ノ福祉ニ反スルト認メラレルカドウカ、憲法ノ実施後ハサウナルノカト云フコトヲ御伺ヒシタイノデアリマス、例ヘバモウ一ツ具体的ナ例ヲ申上ゲマスナラバ、第九条第二項デ、「陸海空軍其の他の戰力は、これを保持してはならない。」トアルノデアリマスガ、例ヘバ此ノ憲法実施後ニ戦力ノ保持ヲ目的トスル団体ガ、言論、集会、結社ノ自由ノ名ニ於テ、佐様ナ綱領ヲ掲ゲテ行動スル場合ニハ、ソレハ公共ノ福祉ニ反スルモノト認定サレルカ否カ、其ノ点ニ付テノ御所見ヲ承リタカツタノデアリマス
○金森国務大臣 固ヨリ公共ノ福祉ニ反スルモノト考ヘマス
○藤田委員 サウシマスルト、十二条ノ反対解釈デ、「立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。」ト云フコトノ反対デ、必要トシナイト云フコトニナルノデアリマスガ、尊重ヲ必要トシナイト云フコトハ、具体的ニハドノヤウナ措置ヲ御執リニナルノカ、ソレヲ承リタイ
○金森国務大臣 憲法ノ色々ノ基本的人権ハ、憲法ノ上ニハ抽象的ニ掲ゲテアリマスケレドモ、現実ノ制度トシテハ、法律及ビ法律ヲ基本トスル他ノ国法ニ依リマシテ必要ナル程度ニ具体的ナ規定ガ出来ルト思ヒマス、其ノ具体的ナ規定ニ依ツテ必要ナル行政措置ガ行ハレテ行クモノト思ヒマス、若シモ具体的ナ法律ノ規定ガ、何カノ間違ヒデ、元来禁ズベカラザルコトヲ禁ジタ、罰スベカラザルコトヲ罰シタト云フコトガ憲法上ノ問題ニナリマスト、恐ラクソレガ最高裁判所ニ現ハレテ適当ニ処置セラルル機会ガ起ルノダ、前ノ御答ヘハソコマデ飛ビ過ギテ御答ヘシタ次第デアリマス
○藤田委員 只今ノ御説明デ、一応左様ナ運動ハ公共ノ福祉ニ反スルト政府ハ認定サレル、斯様ニ解釈致シマシテ、更ニ草案第二十五条ハ「すべて國民は、勤勞の權利を有する。」ト規定シテ居リマスガ、是ガ事実上保障サレナイ場合ノ取扱ニ付キマシテ伺フノデアリマスルガ、御承知ノ奴ク「ワイマール」憲法ハ、総テノ「ドイツ」人ハ其ノ精神力及ビ肉体力ヲ公共ノ福祉ノ命ズル所ニ従ヒ活用スベキ道徳上ノ義務ヲ有ストナシ、如何ナル「ドイツ」人ニモ経済的労働ニ依ツテ其ノ生計ヲ確保スルノ道ガ与ヘラルベシト規定シタノデアリマシタガ、該憲法ヲ制定シタ「ドイツ」社会民主党ノ下デハ、「ドイツ」労働者大衆ノ経済的解放ハ遂ニ実現サレズニ終ツテ、此ノ「ワイマール」憲法ハ空文ニ終ツタコトモ亦御承知ノ通リデアリマス、草案第九十五条「天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する議務を負ふ。」トアリ、労働ノ権利ガ保障サレナカツタ場合ニ、是等ノ国家機関ハ如何ナル義務ヲ負フノカト伝フ質問ニ対シマシテ、昨日金森国務相ハ、何等カノ形ニ於テ義会ヲ通ジ、国民ニ対シテ責任ヲ負フノダト言ハレマシタシ、又吉武政府委員ハ、政府トシテハ失業救済事業ヲ起サナケレバナラナイノダ、斯様ナ回答ガアツタノデアリマスルガ、斯様ナ回答デハ実ハ非常ニ不満ナノデアリマシテ、此ノ憲法ヲ真ニ実効アラシムル為ニハ、又ソレガ実施出来ナカツタ場合ニハ一体ドウナルノカ、失業者ガ自分ノ生存権ヲ主張シテ、ドウ云フ風ニ是等ノ国家機関ノ責任ヲ執ツタラ宜イノカ、斯ウ云フ点ニ付テ御所見ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 大体此ノ憲法ハ大掴ミニ物ヲ規定シテ居リマシテ其ノ各個ノ規定ガ具体的ニ発展ヲ致シマスルニハ必要ナル法律、其ノ他ノ法律ニ基ク規定ガ生レテ来ルト云フ風ニナツテ、初メテ役ニ立ツテ来ルノガ原則デアラウト思ヒマス、今例ニ御挙ゲニナリマシタ国民ハ勤労ノ権利ヲ有スルト云フ基本ノ原則ガアリマスレバ、今後ノ立法ハ此ノ原則ヲ発展セシムル意味ニ於テ築キ上ゲラルルモノト思ヒマス、随テ国民ノ勤労ノ権利ヲ害スルガ如キ立法ガ出来マスルナラバ、例ヘバ或ル人ガ、故ナク其ノ勤労ノ権利ヲ抑制セラルルト云フガ如キ立法ガアリマスレバソレハスマジキコトヲシタト云フコトニナルノデアリマシテ、第九十五条ニ現ハレテ居リマスル国務大臣以下各々其ノ分担シタ範囲ニ応ズル義務違反ニ対スル責任ヲ負フベキコトハ当然ノコトト思フ訳デアリマス、何分ニモ憲法ト云フモノハ個々ノ法律等トハ違ヒマシテ大掴ミデアリマスルガ故ニ、具体的ニ物ガ動キマスルマデニハモウ一遍立法ト云フ段階ガ普通ニアルト云フコトヲ御考ヘ置キヲ願ヒタイト思ヒマス
○藤田委員 此ノ場合ノ天皇ノ責任ニ付キマシテハ、所謂無答責ノ所ニ於キマシテ、金森国務相ノ御答弁ガアリマシタノデ、是レ以上申上ゲナイコトニシマシテ、其ノ他ノ国家機関ノ責任ニ付キマシテ真ニ憲法ヲ実効アラシメル為ニ、現在ノ行政組織ヲ徹底的ニ改革スル行政運営ノ責任制ノ確立、斯様ナ点ニ付テ御質問ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、草案第十一条ハ「この憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。」ト言ツテ居リマスルシ第六十九条ニ、内閣ハ「法律を誠實に執行し、國務を總理すること。」ト規定シテ居リマス、又只今国務相ノ言ハレマシタヤウニ、此ノ憲法ノ規定ハ大掴ミノモノデアツテ、其ノ下ニ実際上法律其ノ他ヲ制定スル段階ガアルト言ハレタノデアリマスルガ、其ノ段階ニ於テ、果シテ然ラバ憲法ヲ空文ニ終ラシメナイダケノ努力ガ払ハレルカドウカ、ソレガ実際現内閣ニ於テ実施シ得ル確信ガアルカナイカト云フ点ニ付テデアリマス、従来法律、勅令或ハ処分ト云フモノガ国民ヲ拘束致シマシテ、国家、随テ政府ヲ必ズシモ拘束シナイ現象ガ多々アツタノデアリマス、ソレハ法律的ニ言ツテモ、国家ノ出ス法律ハ直接国家機関ハ拘束シナイ国家機関ハ此ノ趣旨ヲ尊重シテヤレバ宜イト云フヤウナコトデアリマスルガ、例ヘバ政府ハ法律命令ヲ出スニ急デアリマシテ、或ハ何何何箇年計画実施、或ハ国民生活ノ最低限度ノ保障、是ハ度々今マデノ政府ノ言ハレテ来タコトデアリマシタガ、常ニ一旦計画ヲ発表シタダケデアツテ、ソレガ真ニ実施サレタコトハナカツタト言ツテモ過言デハナイノデアリマス、今日以後ニ於キマシテハ国民ノ主権ノ名ニ於テ、政府ノ無能ハ直チニ国民ノ責任ニ転嫁セラレルノデアリマスカラ、斯様ナ事態ノ繰返シガ今後行ハレルト云フコトハ、民主政治ヲ口頭禅ニ終ラシムルバカリデナク、所謂議会ノ権威ヲ失墜シ、又憲法ヲ空文ニ終ラシムルト云フコトニナルノデアリマシテ、国務相ノ言ハレル憲法ノ下ニ一定ノ段階ガアル、法律命令ヲ出ス、其ノ政府ガ其ノ出シタ命令通リニ、法律通リニ拘束サレテ実行サセルダケノ行政上ノ措置ガ採ラレナケレバナラヌ、斯様ニ考ヘルノデアリマス、草案第二十三条ニ、法律ハ総テ生活部面ニ於テ社会ノ福祉、生活ノ保障ノ為ニ立案シナケレバナラヌト規定サレテ居ルカラト云ツテ、此ノ条項ダケヲ以テ直チニ国民生活ガ保障サレルモノデハナイ、憲法ヲ真ニ実効アラシムル為ニハ、政府ハ草案ヲ通過サセルダケデハナクシテ、其ノ草案ノ真姿ヲ実現スルニ付テ、サウ云フ政府自身ヲ拘束シ得ルヤウナ強力ナル執行機関ノ熊勢ヲ整ヘナケレバナラヌ、此ノ点ニ付テ取敢ヘズ然ラバ何ヲ其処ニ求ムルカト云ヘバ、今経済安定本部ノ問題ガ出テ居リマスガ、経済安定本部ハ法制上如何ナル力ヲ之ニ持タセヨウトシテ居ラレルカ、又憲法法上ノ三権、就中立法府トノ関係ニ於テハ、之ヲ如何ナル関連ニ置カウトシテ居ラレルカ、此ノ点ニ付テ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 今御説キニナリマシタ此ノ憲法ヲ実施スル為ニ有効適切ナル行政組織、行政運用ガ必要デアルト云フコトハ、御説本当ニ其ノ通リデアルト思ヒマス、従来トテモ固ヨリソレデアルヤウニ各人ガ努力シタトハ信ジマスルケレドモ、其ノ結果カラ厳密ニ批判ヲ致シマスレバ、甚ダ遺憾ナル点ガ多カツタコトハ、是ハ認メナケレバナリマセヌ、此ノ新シイ改正ノ下ニ、殊ニ行政組織ノ上ニ於キマシテハ、誠実ニ此ノ憲法及ビ憲法ニ基ク法律ノ運用ヲ行ツテ、而モ有効適切ニ能力ヲ上ゲル、尚ホソレニ加フルニ国民ノ一般ノ気持トピツタリ合一シテ行クヤウニスルト云フコトハ、総テ私共ノ念願シテ居ル所デアリマス、併シ之ニ対シマスル機構其ノ他ハ此ノ憲法ノ中ニハ固ヨリハツキリ書イテアリマセヌ、此ノ内閣組織ヲ基本ト致シマシテ、其ノ下ニ出来マスル種々ナル行政機構ヲ現在ヨリモズツト有効ナ形ニ於テ建設的ニ工夫ヲシナケレバナラヌト思ツテ居リマス、今御尋ネニナリマシタ具体的ナ経済安定ノ基本事項ニ付キマシテハ、今後是ガハツキリ世ノ中ニ理論ト実際トノ双方面ニ於テ発表サレル機会ガアルト思ツテ居リマス、只今御説明申上ゲルニハマダ少シ時期ガ早イヤウニ思ヒマスルカラ暫ク御許シヲ願ヒタイト思ヒマス
○藤田委員 只今時期尚早ノ御話ガゴザイマシタガ、新聞紙上デハ既ニ其ノ本部長ノ人選ニ付テ色々ナ交渉ガアルヤニ見受ケルノデアリマシテ、既ニ人選ガアルカラニハ、其ノ大体ノ運営ニ付テノ御考ヘガオアリニナルト考ヘルノデアリマス、其ノ点ニ付テハモウ少シ実際ニ其ノ担当ノ大臣ノ方カラ御説明ヲ聴カシテ戴ケレバ仕合セト存ジマス
○金森国務大臣 マダ官制モ公布ニナリマセヌシ、新聞記事ニ出テ居ル所ハ私共モ其ノ新聞ヲ見テ知ツテ居ルダケデアリマシテ、一寸此処デ申上ゲルニハ適シナイト思ツテ居リマス
○藤田委員 然ラバ、官制ニマダ決マツテ居ラナイト云フ御話デアリマスガ、此ノ憲法ヲ真ニ実効アラシムル為ニ必要ナ行政組織ヲ整備スルト云フ点カラ、経済安定本部ハ如何ナル性格ノモノデ、如何ナル作用ヲシナケレバナラヌカト云フ点ニ付テハ、金森国務大臣ニ御考ヘガアルト思ヒマスガ、私見モ一ツ発表シテ戴キマシテ、御所見ヲ承リタイト思フノデスガ、如何デスカ
○金森国務大臣 洵ニ相済ミマセヌケレドモ、私ハ此ノ六月十九日ニ初メテ此ノ任務ヲ汚シマシテ、十分其ノ前後ノ実際ノ此ノ審議ノ動キ具合ニ付テ、是ハ職務ノ上カラ言フト、知ツテ居ナケレバナラヌト思ヒマスケレドモ、十分其ノ議ニ与ツテ居リマセヌノデ、今日遽カニ其ノ意見ヲ此処デ申上ゲルコトハ頗ル憚リガ多イト思ヒマスドウゾ御許シヲ願ヒマス
○藤田委員 私ハ先日厚生省ノ政府委員ニ、此ノ問題ニ付テ厚生大臣ニ御答弁ヲ戴キタイト此ノヤウニ申出テ置キマシタノデ、若シ御差支ヘナケレバ是非其ノヤウニ御取計ラヒ願ヒタイト思ヒマス
○芦田委員長 藤田君ニ申シマスガ、今厚生省ノ係官ヲ呼ブコトニ取計ラツテ居リマスカラ、ソレガ出席アルマデ引続イテ質問ヲ継続セラレンコトヲ望ミマス
○藤田委員 ソレデハ行政組織ノ問題ニ付キマシテハ是ハ後廻シニ致シマス、戦争抛棄ノ問題ニ関シマシテ実ハ総理カラモ御説明ガアツタノデアリマスルガ、若干御質問シタイ点ガアリマスノデ、総理ガオイデニナラナケレバ、関係ノ大臣カラ御話ヲ戴キタイト思ヒマス、憲法草案第二章ノ戦争抛棄ガ制裁トシテノ戦争、自衛トシテノ戦争ヲ含ムノカト云フ点ニ関スル質問デアリマス、詰リ第二項ノ交戦権ノ否認ト云フコトハ、是等制裁ノ戦争或ハ自衛ノ戦争ヲナス場合ニモ、之ヲ含ンデ居ルノカト云フ解釈上ノ問題デアリマス、或ル国家ガ他ノ国家ニ対シテ違法ニ戦争ニ訴ヘテ、第三国ガ此ノ後者ヲ援助シテ前者ニ対抗シテ戦争ヲ行フ場合ニハ此ノ第三国ニ取ツテ其ノ戦争ハ制裁ノ戦争トシテ認メラレルノデアリマス、制裁ノ戦争ハ適法ナ戦争デアリマシテ、ソレハ特定ノ国家ノ利益ヲ増進スル為ノ手段トシテノ戦争デモナケレバ、又粉争解決ノ手段トシテノ戦争デモナイノデアリマシテ、随テソレハ不戦条約ニ依ツテ禁止サレタ戦争デハナイノデアリ、此ノコトハ国際法上一般ニ諒解サレテ居ルノデアリマス、然ラバ斯様ナ制裁トシテノ戦争ヲモ否認スルト云フノハ如何ナル理由ニ基クモノデアルカ、是ガ一点、又一般ニ自衛行為ハ適法ナ行為デアツテ、自衛ノ戦争モソレガ自衛行為デアル限リニ於テハ当然ニ適法デアリマス、不戦条約ニ依ツテモ、国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争、紛争解決ノ手段トシテノ戦争ガ禁止サレテ居ルノミデアリマシテ、自衛ノ為ノ戦争ハ特定ノ国家ノ利益ヲ増進スル為ノ戦争デモナケレバ、又紛争解決ノ手段トシテノ戦争デモナイノデアツテ、斯様ナ戦争ガ一般ニ国際法上適法デアルコトハ諒解サレテ居ル所デアリマス、然ルニ政府ハ此ノ自衛ノ戦争ヲ否認スル理由トシテ、七月四日ノ此ノ委員会ノ席上デ、吉田首相ハ、自衛権ニ依ル戦争ヲ認メルト云フコトハ、其ノ前提トシテ侵略ニ依ル戦争ガアル、詰リ違法ノ戦争ト私ハ解釈スルノデアリマスガ、侵略ニ依ル戦争ガ存在スルコトニナル、而モ若シ侵略ニ依ル戦争ガ将来起ツタナラバソレハ国際平和団体ニ対スル冒犯デアリ、謀叛デアツテ、世界ノ平和愛好国ガ挙ゲテ之ヲ圧伏スルノデアルカラ、其ノ意味ヨリスレバ交戦権ニ、侵略ニ依ル戦争、自衛ノ戦争ヲ挙ゲル必要ハナイ、又自衛ノ戦争ヲ認メルト云フコトハ従来兎角侵略戦争ヲ惹起スル原因トナツタノデアルカラ、自衛ニ依ル戦争ト云フモノモ否定シタノダト云フ御説明ガアツタノデアリマスルガ、私ハ他国トノ粉争ノ解決ノ手段トシテノ戦争ヲ永久ニ抛棄スルト云フ此ノ第九条第一項ハ洵ニ結構デアルト考ヘルノデアリマスルガ、第二項ノ交戦権ノ否認ガナゼ制裁トシテノ戦争或ハ自衛ノ戦争ヲモ含マナケレバナラヌカ解釈ニ苦シムノデアリマス、勿論戦争ハ兵力ニ依ル闘争デアリマシテ随テソレハ双方的ノ行為デアリ一方的ノ行為ハ戦争ヲ構成セズ、一方ノ兵力ガ他方ノ領域ニ侵入シテモ、他方ガ之ニ抵抗シナイカ、或ハ戦争宣言ヲシナイ限リハ戦争ハ生ジナイノデアリマスルガ、一方戦争宣言ガアレバ闘争ガナクテモ戦争状態ニ入リ得ルノデアリマス、ナゼナラバ戦争ハ闘争其ノモノデハナク、闘争ヲ中心トシタ状態デアルコトハ、国際法上一般ニ認メラレテ居ル所デアリマシテ、随テ日本ガ事実上陸海空ノ戦力ヲ保持シナイト云フコトハ、斯様ナ制裁ノ戦争ナリ或ハ自衛ノ戦争、詰リ交戦権ヲ直チニ否認シナケレバナラヌ理由トハナラヌト考ヘルノデアリマス、若シ交戦権ノ否認ガ制裁トシテノ戦争ヲモ含ム、詰リ違法ナ戦争当事国ニ対シテ其ノ違法ナ戦争当事国ニ対スル制裁ノ戦争ニ参加出来ナイト云フコトニナルナラバ、日本ハ違法ナ戦争当事国ニ対スル戦争裁判ヲ請求スル権利ヲ留保シナケレバナラヌ、同時ニ日本国ハ第三国間ニ於ケル如何ナル戦争ニモ事実上参加シナイシ又参加サセラレナイト云フ保障ヲ確保シナケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、又自衛ノ為ノ戦争ヲモ一切禁止スル理由トシテ、先程引用シマシタヤウニ、国際平和団体ニ対スル冒犯ニ対シテハ、世界ノ平和愛好国ガ挙ゲテ之ヲ圧伏スル、随テ自衛ノ戦争ハ要ラナイト云フノデアリマスルガ、将来平和愛好国トシテ発足シタ日本ニ対スル仮ニ違法ナ戦争ガ仕掛ケラレタ場合ニハ、世界ノ平和愛好国ガ此ノ違法ナ戦争挑発者ニ対シテ之ヲ圧伏スルト云フコトハ、日本ニ対シテ如何様ナ形デ実現サレルカ換言スレバ我ガ国ノ独立ト安全ハ他ノ諸国家ニ依ツテ保障サレナケレバナラヌノデアリマスガ、交戦権否認ニ付テノ憲法ノ規定ハ、如何ニシテ国際法上ノ安全保障ト直結スルカト云フ問題デアリマス、草案ニ付テ見レバ、草案ノ前文ニ「我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した。」トアルノデアリマスルガ斯様ナ日本国憲法ニ於ケル決意ダケデハ、何等国際法上ノ権威タリ得ルモノデハナイノデアリマシテ、国際法団体ニ依ル安全保障制度ノ全貌、其ノ中ニ占メル日本国ノ地位ニ付テ、政府ハ如何ナル具体的ナ努力ヲシテ居ラレルカ、或ハ国際連合ニ参加スルト言ヒ、或ハ国際安全保障ノ憲章ニ依ツテ日本ハ安全保障ヲ受ケルノダト言ヒマスガ、如何ナル具体的ナ努力ヲシテ居ラレルカ、若シ第二項ノ交戦権ノ否認ガ制裁トシテノ戦争、自衛トシテノ戦争モ抛棄スルナラバ、如何ニシテ我々ノ生存ト安全トヲ保障スルカ、国際法上ノ単ナル国内事項ニ過ギナイ所ノ日本ノ憲法ニ依リ、ソレヲ否認シタカラト云ツテ国際法上当然我々ノ安全ガ保全サレタトハ言ヘナイノデアリマス、如何ナル努力ヲサレテ居ルカ、斯様ナ画期的ナ規定ヲ挿入サレルカラニハ相当具体的ナ根拠ト自信ガアラレナケレバナラヌト考ヘルノデアリマシテ其ノ点ニ付テノ御考ヘヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 憲法第九条ノ前段ノ第一項ノ言葉ノ意味スル所ハ固ヨリ自衛的戦争ヲ否定スルト云フ明文ヲ備ヘテ居リマセヌ、併シ第二項ニ於キマシテハ、其ノ原因ガ何デアルトニ拘ラズ、陸海空軍ヲ保持スルコトナク、交戦権ヲ主張スルコトナシ云フ風ニ定マツテ居ル訳デアリマス、是ハ予ネ予ネ色々ナ機会ニ意見ガ述ベラレマシタ通リ日本ガ捨身ニナツテ、世界ノ平和的秩序ヲ実現スルノ方向ニ土台石ヲ作ツテ行カウト云フ大決心ニ基クモノデアル訳デアリマス御説ノ如ク此ノ規定ヲ設ケマシタ限リ、将来世界ノ大イナル舞台ニ対シテ日本ガ十分平和貢献ノ役割ヲ、国際法ノ各規定ヲ十分利用シツツ進ムベキコトハ、我々ノ理想トスル所デアル訳デアリマス、併シ現在日本ノ置カレテ居リマスル立場ハ、ソレヲ高ラカニ主張スルダケノ時期ニ入ツテ居ナイト思フノデアリマス、随テ心ノ中ニハ左様ナ理想ヲ烈シク抱イテハ居リマスケレドモ、規定ノ上ニハ第九条ノ如キ定メヲ設ケタ次第デゴザイマス
○藤田委員 是ハ私ノ希望デアリマシテ、由来国際法上ノ条約ニシマシテモ、是ハ必要ノ前ニハ常ニ蹂躪サレテ参ツタノデアリマシテ況ンヤ日本国ノ憲法ニ於テ国際法上ノ国内事項ニ過ギナイ日本国ノ憲法ニ於テ、交戦権ヲ否認シテ、捨身ニナツテ世界ノ平和愛好諸国ノ中ニ入ラウト云フノデアリマスルカラ、将来、而モ制裁トシテノ戦争、自衛トシテノ戦争モ交戦権否認ノ名ニ於テ捨テテ掛ラウト云フノデアリマスカラ、将来違法ナル戦争当事国が生ジタ場合ニハ、其ノ違法ナ戦争当事国ニ対スル戦争裁判ヲ請求スルノ権利、又戦力ノ国際管理ニ対スル日本国ノ参加又日本国ガ将来第三国間ニ於ケル戦争ニ対シテハ事実上参加シナイシ、又参加サセラレナイト云フ保障ヲ、政府ハ此ノ際是非憲法ガ実施サレルマデニハ国民ノ前ニ公表シテ戴イテ、真ニ国民ヲシテ納得セシムルダケノ措置ヲ講ゼラレンコトヲ希望スルノデアリマス
次ニ解釈ノ問題ニ付キマシテ、更ニ草案第九条第二項ノ交戦権ノ否認ハ、交戦団体ニ対スル場合モ適用サレルカト云フ問題デアリマス、交戦団体ハ国際法上ノ交戦者トシテノ資格ヲ認メラレタ叛徒ノ団体デアリマシテ、一ツノ国家ニ於テ政府ヲ顛覆シタリ或ハ本国カラ分離スル目的ヲ以テ叛徒ガ一定ノ地方ヲ占メ、自ラ一ツノ政府ヲ組織スル場合ニ、斯様ナ叛徒ノ団体ニ対シテ国際法上第三国ガ之ヲ交戦団体トシテ承認スル場合ガアリマス、叛徒ト政府ノ間ノ闘争ハ戦争デハナクテ内乱デアリマスルガ、叛徒ガ第三国ヨリ交戦団体トシテノ承認ヲ受ケタ場合ハ、其ノ叛徒団体ト政府ノ間ハ国際法上ノ戦争関係ニナル、例ヘバ斯様ナ交戦団体ガ第三国ニ依ツテ日本国内ニ承認サレタ場合ニ、政府ハ左様ナ場合デモ交戦権ノ否認ヲ以テ之ニ対処サレルカト云フ点ニ付テ、解釈ノ問題トシテ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 第九条第二項ノ規定ハ、其ノ中ノ交戦権ノ問題ハ普通国際法上ニ認メラレテ居リマス交戦権ヲ指シテ言ツテ居ルノデアリマシテ、随テ国内ニ成立スルコトアルベキ交戦団体ニ対シテモ此ノ規定ハ当嵌ツテ来ルモノト考ヘテ居リマス
○藤田委員 只今、交戦団体トシテ承認サレタ叛徒団体トノ間ノ関係ハ、国際法上是ハ戦争ノ状態ニ入ルノデアリマシテ、交戦団体トシテ承認ヲ受ケタ叛徒ノ方ハ国際法上ノ戦争資格ガ認メラレ、ソレガ顛覆シヨウトスル政府ノ方ハ憲法ニ依ツテ交戦権ガ認メラレナイ斯様ナコトニナルノデアリマスカラ、将来日本ガ世界ノ平和愛好国家ニ参加スルト云フ場合ニ、斯様ナ第三国ニ依ル国内ニ於ケル交戦団体ノ承認、左様ナコトノアリ得ナイヤウニ保障ヲ受ケル必要ガアルト考ヘルノデアリマス、是モ前項ノ場合ニ準ジテ希望トシテ政府ニ申上ゲタイノデアリマス
○芦田委員長 藤田君、厚生大臣ガ出席シテ居ラレマスカラ‥‥
○藤田委員 ソレデハ次ニ経済安定本部ノコトニ付キマシテ、御所見ヲ承リタイト思ヒマス、仄聞シマスルノニ、経済安定本部ハ単ニ進歩的ナル政策ヲ樹立スルト云フ会テノ企画院ノヤウナ機能ニ終始スルモノデハナクシテ、立案サレタ政策ヲ如何ニ迅速果敢ニ実行スルカト云フ点ニ重点ヲ置イテ、随テ政策ヨリ人ニ重点ヲ置イテ是ガ組織ヲ考ヘラレルト云フノデアリマスルガ、此ノ点ニ付テ、議院内閣制ノ下ニ於ケル各政党ノ政策ト経済安定本部ノ政策ノ立案ガ如何ナル関連ニ於テ行ハレルカト云フ点ニ付テ承リタイノデアリマス、議院内閣制ノ下ニ於テハ、政府ノ与党タル政党ハ当然国政ノ全般ニ付テ慎重ナ政策ヲ持ツテ居ルノデアリマスルガ、今日ノ政党ト云フモノハ概ネ階級的政党ト言ツテモ過言デハナイ、随テ国民ガソレゾレノ政党ヲ支持セントシテ居ル場合ニ、経済安定本部ハ与党ノ側ニ立ツテ政策ヲ立案実施セントスルノカ、或ハ各階級的基盤ヲ離レテ国家全般的ナ見地ニ立ツテ政策ヲ立案実施セントスルモノデアリマスルカ、私ハ例ヘバ食糧問題、「インフレ」失業問題、或ハ生産再開等山積シタ諸問題ニ解決ノ方向ヲ与ヘ、国民生活ヲ破滅ヨリ救フベキ重大任務ヲ帯ビタ経済安定本部ハ、一政党ノ政務調査会ニ転落スルト云フヤウナコトデハナクシテ又一政党ノ政務調査会ト重複スルヤウナ機関デアツテハナラヌト確信スルノデアリマスガ、此ノ点ニ付テノ考ヘ方ヲ承リタイ、特ニ厚生大臣ト申シマシタノハ、実ハ是カラ其ノ点ニ入ツテ参ルノデアリマス、「ワイマール」憲法ニ依ツテ「ドイツ」ノ労働者ノ多数ハ、彼等ノ経済的解放ガ実現サレル如ク幻想シタノデアリマシタガ、事実ハ期待ヲ裏切ツタコトヲ知リマスト、所謂社会主義政党ニ対スル憤懣ガ募リマシテ、ココニ「ナチス」ヲ擡頭サセル地盤ヲ造成シタコトハ御承知ノ通リデアリマス、我ガ国ニ於キマシテモ、会テ戦時中、所謂勤労根本法ノ制定ガ問題トナリマシタ際ニ、中央勤労協議会第二回ノ総会ニ於キマシテ、勤労根本法ノ制定ガ一応、賛成サレマシタ、ケレドモ、其ノ法ノ中ニ労働ノ義務制ヲ明確ニスル点ガアリマシタガ、ソレガ否定サレタコトガアリマス、蓋シ勤労ノ義務制ナル観念ガ、論理的ニ如何ナル結論ヲ招来スルカト云フコトハ、当時ノ資本家ガ最モ能ク熟知シテ居ツタ所デアリマス、戦時中労力不足ヲ喞ツタアノ時代デサヘ、労働ノ義務制ヲ強調スルト云フコトガ斯様ニ避ケラレタノデアリマスガ、今ヤ厖大ナ失業者大衆ヲ擁シ、而モ労働ノ権利ヲ真正面カラ保障スルコトガ現在ノ経済体制ニ如何ニ革命的ナ影響ヲ与フベキモノデアルカト云フコトハ、論ズルマデモナイ所デアリマス、ソコデ私ハ斯カル労働ノ権利ヲ保障サレルヤウナ草案ヲ作成シタ当局ガ、国民大衆ノ生存権保障ノ為ニスル社会改革ノ意思ニ対シテ敬意ヲ表シ、期待ヲ掛ケル者デアリマスガ、此ノ労働権ノ承認ト云フコトヲ実効アラシムル為ニハ、詰リ憲法ヲ真ニ実効アラシムル為ニハ、現在見ル如キ単ナル階級的政党ノ政務調査会ダケノ性格デハ、致底不可能デハナイカ、詰リココニ所謂多数党専制ノ問題ガ起ツテ参ルノデアリマシテ、多数党ノ政務調査会デ立案シタコトガ、如何ナル場合ニモ其ノ通リニ運用サレテ参ル、私ハ午前中ノ質問デ天皇ノ拒否権、或ハ人民主権ノ方ニ重点ヲ置クナラバ、国民ノ側ニ於ケル所ノ国民投票、斯様ナ問題ニ対シテ政府ノ御意見ヲ承ツタノデアリマスガ、多数党専制デ以テ政策ヲ押切ツテ行カウトスル際ニ、何ガ一体之ヲ「チエック」スルカ、左様ナ機関ハナイカ若シ其ノ多数党ガ政局ヲ担当シテ真ニ此の憲法ヲ死文ニ終ラセナイデ、真ニ此ノ憲法ヲ空文ニ終ラセナイデ実効アラシムルコトガ出来ルナラバ、我レ又何ヲカ言ハンヤデアリマス、若シ此ノ憲法ガ空文ニ終ルヤウナコトニナリ、ソレガ尚且ツ多数ニ依ツテ押切ツテ行カウトスル時ニハ、何等カ之ヲ「チエック」シテ、此ノ憲法ヲ生キタモノトシテ、国民ノ為ノ憲法トスル働キガナケレバナラヌ、詰リ是ガ私ノ先程カラ主張シテ居リマス所ノ此ノ憲法ノ下ニ於テ行政運営ヲドウ云フ風ニヤルカト云フ問題ニナツテ参ルノデアリマス、我ガ国ハ現在深刻ナ危機ニ直面シテ居ルノデアリマス、謂フマデモナク、ソレハ古キ政治形態、経済形態ガ今ヤ行詰ツテ居ルト云フコトデアリマシテ、憲法草案ハ此ノ行詰リヲ打開スル途ヲ示シタモノデアルト考ヘルノデアリマス、此ノ憲法ノ精神ニ則ツテ此ノ危機ヲ打開スル為ニハ、政治的民主主義ヲ達成スルバカリデナク、更ニ経済的ナ民主主義ヲ積極的ニ遂行シナケレバナリマセヌガ、偖テ其ノ改革ヲ積極的ニ遂行スベキ政治的主体ハ何カ、真ニ此ノ憲法ヲ実効アラシムルダケノ政治的主体ガ何処ニアルカト云フ問題デアリマス、ココニ現在ノ政治経済ノ昏迷ガ生ジ、ソレガ民族衰亡ノ危機ニ繋ガルト考ヘルノデアリマス、ソコデ目下ノ所デハ、例ヘバ郵便法ノ改正ガ上程サレテ居リマスルガ、アレヲ三倍ニ値上スルト云フコトニ付テ、各党ノ態度ヲ見テミルト、大体政府カラ出シタノダカラ之ヲ通サナケレバナラヌト云フガ、ソコニハ一体此ノ三倍値上デ宜イノカ、政府ノ郵便料金値上ニ対シ、又汽車ノ運賃ノ値上ニ対シ、斯様ナ方向ヘ持ツテ参ル際ニ、全般トシテノ方向ヲ何処カデ「チエック」シナケレバナラヌ、ソコデ経済安定本部ト云フモノハ一ツノ政党ノ階級的ナ政務調査会デハナクシテ、各政党ヲ総合シ、更ニヤハリ民間人官僚ノ中カラ優秀ナ人ヲ選抜シテ此ノ憲法ヲ真ニ実効アラシムル為ノ経済安定本部ヲオ作リニナル考ヘ方ハナイカ、先ヅ行政組識ノ改革ノ間題ニ付テ今問題ニナツテ居ル経済安定本部ノ運用、ソレノ立法府トノ関係、議院政治ノ下ニ於ケル各政党トノ関係、之ニ付テ御質問ヲシタイト考ヘルノデアリマス
○金森国務大臣 段々御話ヲ伺ツテ居リマスルト、御趣旨ノアル所ガ私ニハ分ツタヤウナ気ガ致シマス、経済安定本部ノ具体的ナコトニ付キマシテハ、曩ニ申上ゲマシタヤウニ、私ハ能ク存ジマセヌ、又現在ノ制度ノ出来テ行ク段階ニ於キマシテハ詳シク申上ゲル時デハナイヤウニ思ヒマスルガ、御趣旨ノ中ニ含マレテ居リマスル行政ノ基本的ナ扱ヒ方ト、ソレカラ議院内閣制及ビ政党政治トノ間ノ関係ニ付テノ御疑惑ハ、非常ニ御尤モナコトデアリ、実ハ傾聴シテ居ツタノデアリマシテ、政治運用ノ基本ニ触ルル所ノ疑点ヲ、其ノ中ニ問題ニシテ居ラルルト考ヘテ居ルノデアリマス、言フマデモナク今後ノ憲法ニ基キマスル内閣ハ、性質ハ今マデト変ラナイト思ヒマスルガ、明カニ議院内閣ノ政治デアリ、議会ニ対シテ内閣ガ責任ヲ負ヒ、総辞職ヲスルト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、併シナガラ行政府ハ、ソレデハ時ノ多数党ノ指図ノ侭ノ行政ヲ行フモノデアルカト言ヘバ、サウデハアリマセヌ、是ガ即チ権力分立ノ根本ノ思想ノ基ヲ持ツテ居ルモノデアリマシテ、行政府ハ言フマデモナク此ノ憲法ノ第十四条ニ書イテアリマスルヤウニ、総テ公務員ハ全体ノ奉仕者デアツテ、一部ノ奉仕者デハアリマセヌ、随テ国内ニアル一ツノ政党ノ奉仕者デナイコトハ固ヨリ当然デアリマス、故ニ例ヘバ経済安定本部ヲ担任スル職員ハ悉ク日本全体ノ立場ヲ考ヘテ、凡スル角度カラ精密ニ其ノ任務ヲ果サナケレバナラヌ、故ニ局部的ナ考ヘヲ其ノ侭踏襲スルト云フノデハナクシテ、裁判官程ノ職務上ノ独立ハナイカモ知レマセヌケレドモ、併シ考ヘ方トシテハ、裁判官ト同ジヤウナ本当ノ職務上ノ忠実ナ考ヘカラ、一切ノコトヲ処理シナケレバナラヌト思フノデアリマス、併シナガラサウ云フ行キ方ニハ一ツノ欠点ガ起ツテ来ル、所謂官僚独善ノ弊ト云フモノノ叫バレタコトハ、其ノ欠点ト裏表ニナツテ居ル訳デアリマス、ソコデ、其ノ官僚独善ノ如キ弊害ヲ是正スル途モ亦ナケレバナラヌ、ソレハ何デアルカ、言フマデモナク議院内閣制ノ下ニ於キマシテハ、議会ニ於ケル厳密ナル批判デアル、其ノ議会ニ於ケル厳密ナル批判ト云フモノハ、終局ハ多数決ノ原理ニ依リマスルガ為ニ、場合ニ依ツテハ或ル政党ノ意見ガ此ノ時ニ運命ヲ決スルコトニナルカモ知レマセヌ併シ此ノ場合ニ於テハ、政党自体モ亦決シテ自己ノ偏狭ヲ主張セラルルノデハナクシテ、第十四条ニ示スガ如ク、全体ノ奉仕者デアルト云フ精神ニ依ツテ動カサレルガ故ニ、亳モ矛盾ハ出来テ来ナイ、比較的円滑ニ、而モ色々ナ弊害――官僚独善ノ如キ弊害ガ防止セラレルヤウニナツテ、其ノ微妙ナル構想ハ、是ハ政治ヲ担任セラルル各方面ノ方々ノ心ノ問題ニ帰着スルヤウニ考ヘテ居リマス
○藤田委員 金森国務大臣ハ先日此ノ憲法ハ政治的、経済的民主主義ノ土俵ヲ作ツタノデアツテ、其ノ土俵ノ上デハ、色々役者ガ交代スルノダ、サウシテ民主主義ヲ実施シテ行クト云フコトヲ御説明ニナツタノデアリマス、洵ニ御尤モダト思フノデアリマスルガ、併シナガラ此ノ憲法草案ハ、政治的、経済的民主主義ノ土俵ヲ作ツタダケト云フノハ、皮相ナ考ヘ方デアルト考ヘルノデアツテ、此ノ草案ノ各条ガ真ニ実効ヲ発揮シナケレバナラヌ、詰リ換言スレバ、此ノ憲法ヲ真ニ生キタ憲法トシ、国民生活カラ遊離シナイ憲法タラシムル為ニハ、其ノ土俵ノ上ニ演ゼラレナケレバナラヌ演技ガ、ドノヤウナ方向ニ向ハナケレバナラヌカト云フコトニ付テハ、是ハ或ル一定ノ方向ガ定マツテ参ルト思フノデアリマス、希望トシマシテ、経済安定本部ハ決シテ従来ノ所謂官僚独善ノ、官僚ノ巣窟ニナルコトハ、是ハ徹底的ニ避ケラレナケレバナラヌノデアリマスケレドモ各政党派ノ政務調査会、学者、民間人ノ其ノ他官僚中カラ選抜サレタ真ニ有能ナル人々ガ、如何ニ此ノ日本ノ危機ヲ突破スルカト云フコトニ付テ、真ニ議院内閣制ノ短所ヲ補ヒ、多数党独裁ノ短所ヲ補ヒ其ノ鍵トナルヤウナ経済安定本部ノ運用ト確立ヲ私ハ望ンデ已マナイノデアリマス
次ニ行政各部ノ運営ニ付キマシテ、現在ノ行政各部ノ運営デ、果シテ今後ノ国政処理ニ万全ヲ期シ得ルカト云フ問題デアリマス、戦時中カラ唱ヘラレマシタ官僚ノ割拠性ト、其ノ責任ノ回避ト云フ点ハ、少クトモ未ダ完全ニハ払拭サレテ居ナイ、現在ノ内閣制度ハ明治十八年十二月ノ官制改正以来ノモノデアリマシテ、各省ノ長官ヲシテ国務大臣タラシメ、内閣総理大臣ヲ以テ是ガ首班トナシテ居ルノデアリマス、其ノ全体ヲ以テ合議制ノ内閣ヲ組織スル、此ノ行キ方ハ明治十八年ノ官制改正以来、現在ノ憲法ノ中ニハ規定サレナクテモ、其ノ侭当然踏襲サレテ参ツタノデアリマスルガ、憲法改正草案デハ、第五章ニ議院内閣制ヲ明カニシタノデアリマスルガ、此ノ際政府ハ国務大臣ト行政各部ノ長官ヲ分離サセルト云フヤウナ御考ヘハアリマセヌカ、詰リ其ノ考ヘ方ノ根拠ハ、草案第六十四条第二項デ、内閣総理大臣ハ今度ハ任意二国務大臣ヲ罷免スルコトガ出来ルト云フコトニナツテ居リマス、総理大臣ノ意思ニ従ツテ任意ニ国務大臣ヲ罷免スルコトガ出来ル、随テ国務大臣ヲ行政各部ノ長官ニ任用シテ居リマシテ、其ノ行政部ノ成績ガ挙ラナカツタ場合ニハ、総理大臣ノ責任ニ於テ任意ニ之ヲ罷免スルコトガ出来ルヤウデアリマスガ、一方国務大臣ノ任命ハ、尚ホ国会ノ承認ヲ要スルト云フコトニナツテ居リマスノデ、其ノ行政部ノ成績ガ挙ラナカツタカラト云ツテ、簡単ニ之ヲ罷メサセルト云フコトハ、事実上非常ナ困難ナ点ガアラウト考ヘルノデアリマス、ソコデ行政各部ノ長官ニ行政運営執行ノ全責任ヲ持タセテ、随時其ノ責任ヲ執リ、一旦政府ノ計画シタ計画ダケヲ発表シテ、ソレヲ実施シナイ――今マデノ官僚ノ計画ガ全部机上計画ト言ハレルノハソレデアリマシテ、一旦計画ヲ作ツテ議会ノ承認ヲ得、予算ノ承認ヲ得テソレヲ実施スルト云フカラニハ、其ノ実施ノ運用ノ面ニ当ル者責任者ハ、当然責任ヲ負ハナケレバナラヌ、ソレガ実施サレナカツタ場合ニハ、理由ノ如何ヲ問ハズ其ノ責任ヲ負ハナケレバナラヌ、戦時中信賞必罰ト云フコトガ盛ンニ言ハレタガ、一度モソレガ執ラレタコトガナイヤウニ記憶スルノデアリマス、ソレニハ国務大臣ハ経済安定本部ノ枢機ニ参画シテ、国務大臣ハ議会ニ対スル責任ヲ負ヒ、行政ノ執行部面ニ於テハ、行政各部ノ長官ヲシテ責任ヲ負ハセ計画ガ執行サレナカツタ場合ニハ随時之ヲ罷免スルト云フヤウナ、行政ノ機動的ナ運用ト云フ点ヲ図ル上ニ於キマシテハ、ドウシテモ国務大臣ト長官ヲ分離シタ方ガ宜イ、此ノヤウニ考ヘラレマス、斯様ナ意見ハ戦時中カラモ度々出テ居ツタノデアリマスガ、偖テ新憲法実施後、新シイ組織ニ依ツテ新シイ運用ヲシテ行カウトスルニ際シテ、政府ハ如何様ニ考ヘテ居ラレルカ、御所見ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 国務大臣ト行政長官ト完全分離スルガ宜イカ悪イカト云フコトハ、一利一害ノアル問題デアリマシテ、今御示シニナリマシタ明治十八年ノ内閣制ガ出来シマシテ以来、表ニコソ現ハレマセヌケレドモ、制度発達ノ歴史ノ中ニ於キマシテハ、相当論議ノ進メラレタモノデアリマス、今一応御批評ニナリマシタヤウナ、国務大臣ヲ行政大臣ニシナイ、国務大臣ハ国務大臣、行政大臣ハ行政大臣、全然別個ノ人ヲ以テ充テルト云フヤウナ企テモ、明治十八年デハアリマセヌ、ソレヨリ数年前ニ一タビ日本ニ於テ現実ニ試ミラレタルコトハアルノデアリマス、併シ実際ヤツテ見マスルト、理論ノ一角ニ於テハ確カニ宜イ所ガアリマスケレドモ、ヤハリ本当ノ責任ヲ負フ主体ト、現実ニ事務ヲ担任スル主体トガ人間トシテ分レテシマヒマスル為ニ、何カナシニ旨ク行カナイト云フコトガ、少ナクトモ――慥カ明治十四年頃ト思ツテ居リマスガ、其ノ頃ノ実験ノ結果デアリマス、其ノ後現行憲法ノ下ニ於キマシテモ、幾度カ其ノ議論ガ出、幾度カソレニ何カ斯ウ合セルヤウナ制度ヲ作ツタラドウカト云フ議論ガアリマシタケレドモ、今日ノ所完全分離スルト云フ制度ガ適当デアルト云フマデノ結論ニハ至リマセヌ殊ニ議会ニ対シテ行政遂行ノ責任ヲ負フト云フノガ国務大臣デアルト致シマスルト、国務大臣ガ陣頭ニ立ツテ行政ノ或ル部面ヲ担任スル、又政令、法律等ニ署名ヲ致シマシテ、ソレニ依ツテ自己ノ責任ヲ明カニスル立場ニ於キマシテモ、ドウシテモ人的ニソレガ連繋シテ居ナケレバ思フヤウニ行カナイ、斯ウ云フ風ニ経験ハ教ヘテ居ル訳デアリマス、併シナガラ他ノ一面カラ見テ、理論的ニ申シマスレバ、国務大臣ハ全体ノ計画ヲ立テ、謂ハバ創設的ナル方針ヲ樹立スルコトデアリマス、行政長官ハ其ノ樹立セラレタル条件ニ従ツテ、具体的ニ物ヲ行ツテ行クノデアリマス、観念的ニハ区別ガ出来ルノデアリマスルシ、其ノ関係ヲ重ンジテ行キマスル時何カナシ之ヲ分離スルト云フ考ヘモ相当ニ起リ得ルノデアリマス、近ク出来ナケレバナラヌ所ノ内閣法ニ於キマシテハ、ソレヲ如何ナル方法ヲ以テ調節シテ行クカト云フコトニ付キマシテ、相当考慮ヲ進メテ居ルノデアリマシテ、結果ノ見透シハ固ヨリココニ申シ兼ネマスケレドモ、理論的ニハ成ベク分離シ而モ実質的ニハ之ヲ繋イデ行クヤウナ工夫ガ出来得ルノデハナイカト専ラ研究中デゴザイマス
○藤田委員 只今御懇切ナル御説明ヲ戴キマシタガ、要スルニ今日マデノ官僚政治ノ欠点ハ、所謂責任ノ回避、ソレカラ割拠性ト云フ点ニアルト私ハ考ヘテ居ルノデアリマシテ、各省ハ計画ノ執行機関トシテ、十二分ニ責任ヲ執ル、サウシテ其ノ割拠的ニ陥ル部面ハ国務大臣ガ全体ヲ睨ンデ各省ヲシテ其ノ計画ノ実行機関タラシメル、現在ノヤウニ各省ガ立案ヲシテ更ニソレヲ執行スル、所謂官僚政治ノ非常ニ鞏固ナ基盤ガココニ作ラレルノデアリマス、随テ其ノ各省ガ立案シテ居ル計画ハソレゾレバラバラデアツテ、是ガ統合的ナ力ガナイ、戦時中ノ企画院デサヘモソレニ失敗シテ居ル、経済安定本部ヲ中心ニ国務大臣ハ国務全般ニ亙ツテ統一シタル所ノ観念ニ依ツテ日本全体ヲ運用スルコトニ対シテ誤リナイ判断ヲ下スト云フコトハ、今日最モ必要ナコトデアリマス、各省長官ハソレヲ決定セラレタル所ヲ逐次果敢ニ実行シテ行クソレサヘ出来レバ宜イト私ハ考ヘテ居ルノデアリマシテ、ドウカ此ノ点ハ将来政府ニ於テ十二分ニ考慮セラレタイト思フノデアリマス、要スルニ官僚ノ責任政治ノ確立、官僚ノ行政運営ノ責任制ノ確立、内閣法ノ改正ニ当リマシテハ、十二分ニ責任遂行ト云フ点カラ御考ヘ願ヒタイコトト、モウ一ツハヤハリ官庁ノ民主化ト云フ問題デアリマス、地方制度ニ付キマシテハ、只今地方制度ニ関スル改正法律案ガ本議会ニ提出セラレテ居リマシテ、知事ガ公選ニナルト云フコトデアリマスガ、草案第八十九条第二項デ法律ニ定メタ其ノ他ノ吏員モ住民ガ選出スルトアリマスガ、是ハ一体知事ノ下デ部長課長、ドノ辺デソレヲ止メラレルノデアルカ、又知事ト部長、課長ガソレゾレ政党ノ色ヲ異ニシタ場合ニ、一体如何ヤウニシテ之ヲ運用シテ参ルカ、是ハ地方制度ノ問題ニナリマスルガ、若シ伺ヘマスナラバ其ノ点ニ付テ御伺ヒシタイ
ソレカラ官庁組織ノ点ニ付キマシテハ、高等文官制度ヲ廃止スルト云フコトハ、戦時中廃止サレタリ復活サレタリ一向分ラナカツタノデアリマス、新憲法ガ発足スルニ当リ、高等文官試験ヲ将来廃止スルカ存続スルカ、之ニ付テノ御所見、所謂学閥ノ問題ガ盛ンニ言ハレテ居リマスガ、斯様ナ学閥制度ト所謂官庁特権階級ノ廃止ト、官庁ノ民主化ト云フ問題ニ付キマシテ、政府ハ如何ヤウニ御考ヘニナツテ居リマスカ、御所見ヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣 官僚ノ「セクショナリズム」ガ欠点ノアルコトハ私能ク承知シテ居リマス、随テ之ヲ極力打破シナケレバナラヌコトモ当然デアリマスシ、又此ノ憲法ノ着想ト致シテ居ル所モ之ニ触レテ居ルコトハ言フマデモナイコトデアリマス、新タニ構想セラレマスル内閣ノ制度ニ於キマシテハ、内閣総理大臣ニ現在ヨリモ法ノ上ニ於キマシテ鞏固ナル地位ヲ認メマシテ、内部ノ統制ガ十分利クト云フコトヲ考ヘテ居ルノデアリマシテ、其ノ片鱗ハ此ノ憲法ノ中ニ現ハレテ居ル訳デアリマス、例ヘバ国務大臣ヲ免ズル場合ニ内閣総理大臣ガ之ヲナシ得ルト云フヤウナ規定ハ、是ハ極メテ間接ナル描キ方デハアリマスルケレドモ、其ノ根本ニ総理大臣強化ノ趣旨ヲ含ンデ居ルコトハ申スマデモゴザイマセヌ、又官庁ノ組織ニ於キマシテ、民主的意義ノ実現ト云フコトハ固ヨリト思ヒマス、現在ノ官庁組織ニ於キマシテハ、官吏ヲ選ビマスル場合ニモ、実際上成ベク同ジ類ヒノ中カラ之ヲ求メ得ルノデアリマシテ、人ハ皮肉ニ之ヲ釣堀人事デアル、魚ヲ要ラナイ時ニハ何処カノ池ニ逃ガシテ必要ナ時ニ其処カラ釣上ゲテ来ル、此ノ批評ノ当ル当ラナイニ拘ラズ、一種ノ角度カラ現在ノ秩序ノ弱点ヲ論断シテ居ルト思フノデアリマス、サウ云フコトハ極力適当ナ方法ヲ以テ講ジナケレバナラヌト思ヒマス併シナガラ他ノ一面ニ於キマシテ官庁人事ト云フモノニ如何ナル方法ヲ以テ万全ヲ期スベキカト言ヘバ、是ハ又相当ノ用意ヲ必要トスルノデアリマシテ、如何ニ民主政治ノ時代デアリマシテモ、又公務員ノ資格ノ平等ヲ叫ブ場合デアリマシテモ、能力アル者、道徳アル者ニ公務ノ重キヲ負託スルコトハ当然デアリマスルカラ、能力ヲ審判シ又其ノ道徳的性質ヲハツキリ見定メルト云フコトハ必要デアリマス、ココニ相当ノ注意ヲ施シテ制度ヲ立テナケレバナリマセヌ、官吏任用ノ手段ハ試験制度ヲ採ルコトガ良イカ悪イカ、確カニ是ハ一ツノ問題デアルト思ヒマス、併シ之ヲ俄カニ不用意ニ撤廃致シマスルナラバ、表ニ公平デアリ人事ノ流通ヲ円滑ナラシメルカ如キ姿ヲ現ハシナガラ、逆ニハ是ガ情実任用ニナル、「アメリカ」ガ曽テ苦シンデ漸次洗ヒ清メントシテ来テ居リマスル所ノ戦利品主義、或ル勢力ヲ持ツ者ガ官職ヲ持ツコトヲ自己ノ戦利品ノ如ク取扱フ此ノ弊ガ今日恐シイト思フ、ソコノ所ハ一層注意シテ適当ノ解決ヲ得タイト思ヒマス
○藤田委員 此ノ憲法草案ニハ内閣ノ制度ヲ初メテ正式ニ取上ゲラレタノデアリマスルカラ、将来内閣法ノ制定其ノ他ニ付キマシテハ先程カラ申上ゲマシタヤウニ、行政運営ノ迅速化、責任制ノ確立、割拠性ノ打破、ソレカラ官僚ノ制度ノ民主化ニ付キマシテハ、特段ノ御考慮ヲ戴キタイコトヲ希望致シマシテ私ノ質問ヲ終リマス（拍手）
○芦田委員長 此ノ際内閣総理大臣ニ対スル質問ヲ留保セラレタ方ノ発言ヲ求メマス――上林山榮吉君
○上林山委員 此ノ問題ハ質問ノ劈頭ニ首相ノ所信ヲ承リタカツタノデアリマスルケレドモ、ココニ改メテ質問ノ結論トシテ御伺ヒ致シタイノデアリマス、我々ハ全良心ト責任ヲ以テ日本ノ憲法ヲ改正スル為ニ審議ヲシテ居リマスシ、且又国家ト我等子孫ノ永遠ノ幸福ノ為ニ之ヲ熟議シテ居タノデアリマス、他面草案前文及ビ戦争抛棄ノ精神ガ示ス如ク進ンデ世界平和ノ為ニ寄与セントスル新日本ノ大方針ヲ宣言シテ居ルモノダト信ジテ居リマス、然ルニ国際的環境下ニ於ケル日本ノ地位ハ未ダ非常ニ多難ナルモノガ予想セラレテ居ルシ本憲法審議ノ状況ハ世界注視ノ的デアルト思ハレルノデアリマシテ此ノ際私ハ吉田総理大臣ノ之ニ対スル所ノ所信、言換ヘマスナラバ日本ノ此ノ真意ヲ誤ルコトナク世界ニ諒解ヲセシメ、寧ロ世界各国ノ積極的ナル支持ヲ得ルコトガ出来ルカドウカ、此ノ点ニ対スル御所信ヲ承ツテ見タイノデアリマス、特ニ政府ノ説明セラレタ意味ニ於ケル所ノ平和的天皇制ヲ遺憾ナク世界ヘ諒解セシメ得ル所ノ自信ガアルカドウカ、首相ノ毅然タル態度ヲ御示シ願ヒタイ、尚ホ是ハ当然ノコトデハアリマスルガ、文化的、平和的意図ヲ含ム修正ヲナサナケレバナラヌト思ツテ居ルノデアリマスルガ、之ニ対スル首相ノ所見ヲ承リタイノデアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス、新憲法草案ガ発表セラレテカラ「ワシントン」ニ於ケル極東委員会、或ハ東京ニ於ケル理事会等ニ於ケル論議ヲ見マシテモ、新憲法ノ趣旨ハ相当徹底シタト考ヘラレマス、又現ニ天皇制ニ対スル論議モ以来非常ニ薄クナツテ居ル所ヲ見マシテモ、憲法ニ記載シテ居リマス天皇制ノ支持ニ付テハ、今日マデノ所ニ於テ相当諒解ヲ取リ付ケ得タト考ヘマスガ、併シ将来ニ於テモ此ノ点ニ付テハ十分尽力致シ、努力スルコトヲ考ヘテ居リマス
次ニ第二点ニ付テハ、是ハ十分ニ修正ヲセラレルナリ、御審議ヲ尽シテ戴キタイト思ヒマス
○上林山委員 其ノ点ハ是レ以上御尋ネヲ致スコトヲ遠慮申上ゲタイト思ヒマス、次ニ吉田首相ハ過日ノ質問ニ答ヘラレマシテ、日本ハ独立国ナリト明言セラレ、更ニソレニ附加シテ何等カ制限ハ受ケテ居ル斯ウ云フ風ニ説明ヲセラレタノデアリマス、然ルニ先般高橋委員ヨリモ指摘セラレタヤウニ、前議会ニ於テハ完全ナル独立国ニアラズト、答弁ヲセラレタト聴クノデアリマシテ、ソコニ相当ノ食ヒ違ヒガアルヤウニ思ハレルノデアリマスルガ、其ノ真相ハドウデアリマスカ、即チ私ハ制限ヲ強ク受ケテ居ルカ否カ、又ハ独立国デアルトノ諒解ノ強イ弱イト云フコトハ、現在ノ状況ニ於テハ憲法ノ性格ヲ決定スル重要ナル要素ノ一ツニ事実上ナツテ来ルト考ヘルノデアリマスガ、之ニ対スル真相乃至ハ御所見ヲ承ツテ置キタイノデアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘヲ致シマス、私ノ前後ノ言ヒ方ニ付テ御不審ト見エマスガ、是ハ同ジモノヲ表カラ裏カラ説明致シタノデアリマシテ、実体、其ノモノハ同ジデアリマス、今日日本ノ統治権ガ連合国総司令官ノ権限ノ下ニ属シテ居ル以上ハ、完全ナル独立国トハ言ヘナイノデアリマスガ、然ラバ独立国デナイカト云ヘバ是ハ独立国デアリマス、唯統治権ノ形態ニ於テ、統治ノ形態ニ於テ制限ヲ受ケテ居ル、其ノ点ニ於テ即チ完全ナル独立ト言ヘナイト云フコトヲ遺憾トスルモノデアリマス
○上林山委員 独立ニ対スル首相ノ解釈ノ点ガ分リマシタノデ、私共憲法ノ審議ニ相当ノ参考ヲ得タ訳デアリマスルガ、次ニ私御尋ネ致シタイノハ、最近国民ノ一部ニ憲法ヨリモ食糧デアルトノ声ガ致シテ居ルノデアリマス、首相ハ之ニ対シテドウ云フ御考ヘヲ持ツテ居ラレルカ、勿論之ニハ健全ナラザル所ノ煽動ナドモ加ハツテ居ルノデアリマスルガ、敗戦後ノ各種ノ混乱、或ハ食糧ノ危機ヲ迎ヘテ居リマス所ノ国民ガ一応サウ考ヘルノハ私ハ已ムヲ得ナイ現実ダ、斯ウ云フ風ニ考ヘルノデアリマスソレハ元来憲法ガ国民全体ノモノデアリナガラ政府ヤ学者ノ専有物トナツテ、国民ニハ近付キニクイモノニナツテ居タ結果デアリ、国民生活ト密着シナイ点モ多カツタカラデアルト考ヘルノデアリマス即チ現実ト国民感情ヨリ遊離シタ所ノ憲法ハ永続モ出来マセヌシ、又守ラレモセナイノデアリマス、仍テ私ハ吉田首相ガ肥料ヲ農村ニ送ルニモ、或ハ輸入食糧ノ要請ヲスルニシテモ、国ノ内外ノ情勢カラシテ憲法ヲ急イデ改正シナケレバナラヌ、或ハ憲法ト云フモノハ法律又ハ之ニ淵源スル所ノ政策ヲ通ジテ国民生活ト密着シテ居ルノデアルト云フコトヲ、納得ノ行ク憲法ヲ作ル為ニ、最モ砕ケテ最モ徹底シタル方法ニ依ツテ、或ハ御言葉ニ依ツテ、本会ヲ通ジテ私ハ国民ニ納得ノ行ク意味ニ於テ声明セラレンコトヲ望ムノデアリマス私ハ是ガ国民ノ為ノ憲法デアルト云フ基盤ニ立ツテ首相ニ此ノ所見ヲ伺ヒ、其ノ方法ヲ希望スル者デアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス新憲法制定ト食糧問題トハ如何ニモ懸ケ離レテ居ルヤウナ感ジヲ国民ニ与ヘタカモ知レマセヌガ、実ハ相表裏シテ居ルト申スカ、相互ヒニ非常ナ関連ヲ致シテ居リマス兎ニ角日本ト致シマシテハ従来食糧ノ輸入国デアリ、其ノ食糧ノ生産ニ於テ絶対量ガ不足シテ居ルノデアル、即チ是ガ今日ニ於ケル食糧問題ノ真相デアリマス、故ニ日本国ガ民主化サレ、再軍備ハシナイ、再ビ世界ノ平和ヲ脅カスコトガナイ国柄デアルト云フコトヲ明日ニ致シマスコトニ依ツテ、世界ガ或ハ殊ニ食糧ノ生産ノ剰ツテ居ル国ガ、喜ンデ日本ノ食糧不足ヲ補フト云フコトニナツテ、初メテ日本ノ食糧ガ十分トマデ行カナクトモ、今日ノ現在ノ危機ヲ脱却スルコトガ出来ルノデアリマシテ、現ニ「アメリカ」辺カラシテ多量ノ食糧ガ輸入サレテ居リマスコトモ是レ新憲法草案ノ結果トハ申シマセヌケレドモ、日本ノ国情ガ漸次ニ明白ニナリツツアル結果ト私ハ思フノデアリマス
○上林山委員 私ハ憲法ノ原理或ハ法文ノ内容ニ付テ御伺ヒスルコトヲ止メテ、今申シマス如ク憲法ヲ繞ル環境ノ調整、整理、斯ウ云フ点ニ付テ御所見ヲ御伺ヒシタ訳デアリマスルガ、ドウゾ政府ハ敢然トシタ所ノ態度ヲ御示シニナツテ、今後ノ御善処ヲ切望致シマシテ、私ハ私ノ質問ヲ終リタイト思ヒマス
○芦田委員長 森三樹二君
○森（三）委員 私ハ首相ニ対シテ二、三点御伺ヒシタイノデアリマス、此ノ戦争抛棄ノ点ニ付キマシテ、各委員カラモ色々御説ガアリマシタ、私ハ今此ノ戦争抛棄ノ箇々ノ条文、又是ニ付テ自己ノ見解ヲ述ベルコトハ、却テ質問ノ要旨ヲ複雑サセ、各委員ニ対スル御説明ノ重複モ来シマスカラ、御尋ネスル所ノ結論ノミヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、我々ハ戦争ヲ抛棄シテ永遠ニ戦争カラ解放サレテ、我々ノ子孫ハ平和ナ住ミ好キ国家ニ生存ススルコトガ得ラレル是ハ我々トシテ洵ニ双手ヲ挙ゲテ賛成スル所デアリマス、併シナガラ戦争ハ自国ノ意思ノミニ依ツテ決定サレルモノデナク、他国ヨリノ正当ナル、或ハ不正当ナル理由ニ依ツテ戦争ガ惹起サレ、又第三国同士ノ間カラ発生セラルル所ノ戦争ノ被害ヲ受ケル場合モアリマス、サウシタコトヲ我々ガ考ヘル場合ニ、戦争ヲ全面的ニ抛棄シ、総テノ軍備ノ保持ヲ否定スル所ノ此ノ条文ハ、我々ガ将来国家ノ存立ヲ危クセザルコトノ前提、其ノ保障ノ見透シガ先ニ付イテ居ツテ初メテ斯ウシタ所ノ条文ガ設ケラルベキモノデアルト私ハ考ヘルノデアリマス、併シナガラ終戦後日本国ノ混乱カラ斯ウシタ所ノ新憲法ガ生レルノデアリマスカラ、先ニサウシタ戦争ノ惨害ヲ受ケルコトノナイ保障ヲ得テ此ノ条文ヲ作ルト云フコトハ出来ナカツタノデアリマセウケレドモ、将来我々ガ之ニ対シテ絶対的ナ戦争ノ惨害ヲ免ルル所ノ方法、手段、之ニ対スル所ノ考慮ヲ運ラサナケレバナラナイノデアリマスルガ、之ニ付テ吉田首相ノ御成案ヲ御聴キシタイノデアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス、此ノ戦争抛棄ノ条項ノ消極的ナ意味カラ申セバ、日本ニ対スル疑惑――再軍備、若シクハ世界ノ平和ヲ再ビ脅カシハシナイカト云フ疑惑ヲ除去スルコトガ、消極的ノ効果デアリマス、又積極的ニ申シマスト、日本ガ戦争ヲ抛棄スルコトニ依ツテ、即チ国際ノ平和愛好国デアルコトヲ表示スルコトニ依ツテ、世界ノ平和ヲ脅ヤカス国カラ申シマスルト云フト、此ノ国ガ一旦生ジタ以上ハ、何ト言ヒマスカ、所謂「ウノ」――国際平和団体ト申シマスカ、其ノ「ウノ」ノ四十三条デアリマスカノ規定ニ依ツテ、世界ノ何レノ国ト雖モ侵略ノ戦争ヲナスモノニ対シテハ制裁ヲ加ヘルト云フ規定ガアルノデアリマス、即チ世界ノ平和ヲ脅ヤカス国ガアレバ、ソレハ世界ノ平和ニ対スル傍観者トシテ、相当ノ制裁ガ加ヘラレルト云フコトニナツテ居リマス、兎ニ角サウ云ウ規定モ今日ニ於テ考ヘニ入レテ、日本ガ憲法ニ於テ交戦権ヲ抛棄スルコトニ依ツテ、日本ノ地位ガ世界ノ疑惑カラ兎レ、更ニ万一日本ニ対シテ侵略スル国ガ生ジタ以上ニハ、連合国ガ挙ツテ日本ノ平和ヲ保護スルト云フ態度ニ出ヅルト云フコトニ理論ニ於テナツテ居ル、斯ウ考ヘルノデアリマス
○森（三）委員 只今首相ノ御説明ガゴザイマシタガ、サウシタ国際的ナ平和保障条約ニ日本ガ加入スルト云フ見透シハ、講和条約ノ成立ガ前提デアラウト思フノデアリマスルガ、我々ノ欲スル所ノ講和条約ハ、新聞等ニハ近イ内ニ締結サレルデアラウ、今後一箇年半ト云フヤウナコトモ曽テ新聞ニ見エタノデアリマスルガ、講和条約ノ時期等ニ付テ首相ハ大体ノ御見透シガゴザイマセウカ、ゴザイマシタナラバ承リタイノデアリマス
○吉田国務大臣 是ハ一ニ日本ノ態度ナリ、世界ノ諒解等ニ依ルコトデアリマシテ、日本ガ民主化シ平和化サレタ日本ガ平和愛好国ノ一員トシテ、世界ノ一員トシテ齢スルニ足ルト云フ事実ガ認メラレレバ、認メラレルコトノ範囲ダケソレダケ講和条約ノ時期ハ早マルモノト想像致シマス
○森（三）委員 ソレカラ最後ニモウ一点御尋ネシタイノデアリマスルガ、此ノ法案ノ前文中ニアリマスル所ノ、我々ノ安全ト生存ヲ挙ゲテ平和ヲ愛好スル諸国民ノ公正ト信義ニ委ネヨウト決意シテ居ル――私ハ此ノ一点ヲ挙ゲテ全面ヲ否定セントスルモノデアリマセヌケレドモ、併シナガラ斯ウシタ委ネルト云フヤウナ言葉ガアル以上ハ、結局我々ノ安全ト生存ガ我々自身ニ依ツテ何等維持スルコトガ出来ナイ、総テヲ挙ゲテ他国ニ依存シヨウトシテ居ル、斯ウ云フヤウナ前文ノ形態カラ見マスルナラバ、日本国ノ自主的ナ、而モ首相ハ、或ル意味カラ言フナラバ、統治権ハ制限ハサレテ居ルケレドモ併シナガラ独立国トシテ認メルコトモ出来ルンダト云フヤウナ御説明モゴザイマシタガ、我ガ国其ノモノガ新シイ日本トシテ再建ノ第一歩ヲ印スル為ニ、此ノ貴重ナル所ノ新憲法ヲ作ル以上ハ、我々国民全体モ、政府モ、挙ツテ再建ノ熱情ト信念ヲ持ツテ進マナケレバナラヌト思フノデアリマスルガ、サウ云フ意味合カラ致シマシテ、余リニモ他ニ依存スル、而モ又恰モ第三国カラノ委任統治国デモアルカノヤウナ、弱々シイ観念ヲ植付ケルモノデアル、此意味ニ於キマシテ、我々ハモツト根本的ナ熱情的ナ大理想ヲ持ツテ、此ノ憲法ヲ規定シナケレバナラヌト考ヘルノデアリマスルガ、サウシタ意味ニ於テ、此ノ前文ノ内容ヤ形態モサウシタ所ノ信念ニ欠ケテ居ルト云フヤウナ考ヘヲ私ハ持ツ者デアリマスルガ、之ニ付テ首相ノ御所見ヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス此ノ委ネルト云フ文字ノ意味ハ平和ヲ愛好スル世界ノ諸国民ノ公正ト信義ニ信頼スル――信頼スルト云フ意味合ヲ含メタモノデアリマシテ、我ガ国ト致シマシテハ、平和愛好国ノ先頭ニ立ツテ、我レ自ラ他ヲ率ヰテ行ク積極的ナ精神モ此ノ中ニ籠ツテ居ルノデアリマス故ニ自主権ヲ抛棄シタ――無視シタト云フヤウナ表現デアルト申セナイト思ヒマス、是ハ議論デアリマスガ、私ハサウ考ヘテ居リマス
○森（三）委員 私ハ只今ノ文字ヲ各条審議ノ時ニ修正スルコトヲ自分ノ希望ト致シマシテ、私ノ質問ヲ打切リマス
○芦田委員長 酒井俊雄君
○酒井委員 私ハ戦争抛棄ノ点モ御尋ネシヨウト思ヒマシタガ、繰返スコトニナリマスノデ、少シ意味ガ違ツテ居リマスガ省イテ置キマス、一点ダケ総理大臣ニ御伺ヒヲシタイト思ヒマス、ソレハ此ノ憲法草案ガ通過致シマシテ実施サレル場合ニ、恐ラク国ノ行政ノ一切ノ機構ハ、殊ニ行政機関ノ組織モ此ノ憲法ノ建前ヲ以テ直チニ此ノ憲法ニ応ズル組織ガ成立ツト云フコトガ理想デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ第百条ニ経過法的ナ規定ハアリマスルケレドモ、是ハ結局一ツハ例外ノ場合ヲ規定シタモノデアツテ、飽クマデ本体ノ規定デハナイノデアリマシテ、本体ト致シマシテハ、ヤハリ国務大臣ノ成立、或ハ衆議院或ハ参議院――参議院ハ現在ノ組織ハアリマセヌカラ此処ニハ入リマセヌガ、サウシタ組織其ノモノハ直チニ此憲法ガ要求スル所ノ内容形態ニ応ジテ組織サレルト云フコトガ原則ダト思ヒマス、斯ウ云フ立場カラ致シマシテ、此ノ憲法ガ実施サレル場合ニハ、内閣ハ総辞職スル、或ハ衆議院ハ解散スル、尤モ衆議院ニ付キマシテハ外国ノ慣例ニ依リマシテモ、斯カル憲法ヲ大改正シ、或ハ制定スルト云フ場合ニハ、特ニ憲法議会ヲ成立セシメテヤル、憲法議会ヲ成立セシメナイ場合ニハ既ニ成立シテ居ル議会ニ依ツテ是ガナサレル、併シアトデ国民与論ニ問フ為ニ総選挙ヲ行フト云フヤウナコトガ通例ニナツテ居リマスサウ云フヤウ意味カラ致シマシテモ、ココデ憲法ガ実施サレルト云フ場合ニハ、政府ノ御考ヘト致シマシテ衆議院ハ解散シ、内閣ハ一応総辞職ト云フコトニナルデゴザイマセウカ
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス憲法成立後ニ於ケル内閣ノ地位及ビ衆議院ヲ解散スルカドウカト云フコトハ、一ニ其ノ時ノ政治情勢ニ依ルベキコトデアリマシテ、内閣ガ辞職シタ方ガ宜ケレバ辞職致シマス、解散ガ必要デアレバ解散ヲ致シマスガ、一ニ其ノ時ノ情勢ニ依ルト御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス
○酒井委員 重ネテ御尋ネスルノデアリマスガ、此ノ百条ハ情勢ニ依ルト云フヤウナ場合ノ規定カ、寧ロ百条ノ本質カラサウ云フコトハ決マルモノヂヤナイカト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウカ情勢ニ依ツテ決マルモノデアリマセウカ
○金森国務大臣 百条ハサウ云フ場合ニモ必ズシモ変ルノデハナイ、ソレガ、変ル為ニハ此処ニ規定シテアル方法ヲ必要トスル、斯ウ云フコトヲ言ツテ居リマス、随テ此ノ基盤ノ上ニ於キマシテ、情勢ニ依リ内閣ガ辞職ヲスルトカ、或ハ衆議院ヲ解散スルトカ云フ問題ガ次ニ起ツテ来ルノデアリマシテ、百条ハ其ノ何レニモ特別ナル意味ヲ持ツテ居ルモノデナイト考ヘテ居リマス
○酒井委員 有難ウゴザイマシタ是デ終リマス
○芦田委員長 此ノ際委員長ヨリ総括質問ノ補充トシテ一、二ノ質疑ヲ致シマシテ一般質疑ノ結末ヲ付ケタイト思ヒマス
終戦後ノ日本ガ何故ニ憲法改正ヲ急速ニ実現シナケレバナラナカツタカト云フ理由ニ付テ、政府ノ所信ヲ確カメテ置キタイト思ヒマス、政府ハ去ル六月二十四日ノ本議会ニ於テ、此ノ点ニ付テ一応ノ所信ヲ述ベラレマシタケレドモ、必ズシモ十分ニ其ノ意ヲ尽シタモノトハ思ヘマセヌ、又本委員会ニ於ケル今日マデノ質疑応答ニ際シテモ、此ノ点ハ十分明白ニハサレテ居リマセヌ、内閣総理大臣ハ憲法改正案ノ提案理由書ノ冒頭ニ於テ、「ポツダム」宣言ニ言及サレマシテ、基本的人権尊重ト、民主主義的政治形態ノ樹立ガ要望サレテ居ルコトヲ説カレマシタ、無論ソレハ誤リデハアリマセヌ、併シナガラ降伏条件ノ受諾ト云フ如キ我ガ国ニ取ツテ受身ノサウシテ外交的記録ニ依ツテノミ此ノ憲法改正ノ動機ハ説明シ得ラレルモノデハナイト思ヒマス、動機ハモツトモツト深イ所ニアルト思フ、此ノ議事堂ノ窓カラ眺メテ見マシテモ我々ノ眼ニ映ルモノハ何デアルカ満目蕭条タル焼野原デアリマス、其処ニ横ハツテ居ツタ数十万ノ死体、灰燼ノ中ノ「バラック」ニ朝晩乾ク暇ナキ孤児ト寡婦ノ涙、其ノ中カラ新シキ日本ノ憲章ハ生レ出ヅベキ必然ノ運命ニアツタト、内閣ハ御考ヘニナラナイカ、独リ日本バカリデハアリマセヌ、戦ニ勝ツタ「イギリス」デモ「ウクライナ」ノ平野ニモ、楊子江ノ楊ノ蔭ニモ、同ジヤウナ悲嘆ノ叫ビガ聞カレテ居ルノデアリマス、此ノ人類ノ悲嘆ト社会ノ荒廃トヲ静カニ見詰メテ、我々ハソコニ人類共通ノ根本問題ガ横ハツテ居ルコトヲ知リ得ルト思ヒマス、此ノ人類共通ノ熱望タル戦争ノ抛棄ト、ヨリ高キ文化ヲ求メル欲求ト、ヨリ良キ生活ヘノ願望トガ、敗戦ヲ契機トシテ一大変革ヘノ途ヲ余儀ナクサセタモノデアルコトハ疑ヒヲ容レナイト思フ、ソコデ憲法改正ノ根拠ヲ斯様ニ考ヘルコトハ、政府ノ見解ト一致スルカドウカト云フ点ニ付テ御尋ネヲ致シマス（拍手）
○金森国務大臣 言葉ガ不十分デアリマシタ為ニ、恐ラク私ノ過去ノ説明ガ其ノ趣旨ヲ貫カナカツタカモ知レマセヌト思ヒマスルガ、全ク是ハ国際的情勢ヨリ来ル改正純粋ノ国内的情勢ヲ基本トシテ我等国民ガ起チ上ルベキ其ノ熱情ノ結晶トシテ起ツタノデス、双方面カラデアリマシテ、偶々ソレガ基底ノ上ニ一ツニ絡ミ合ツテ居ルト云フ趣旨デゴザイマス（拍手）
○芦田委員長 問題ヲ少シク具体的ニ取扱フコトニ致シマス、今回ノ憲法改正案ニハ二ツノ面ノアルコトハ能ク我々ノ承知スル所デアリマス、其ノ一ツハ、日本ノ国家機構カラ一切ノ封建的ナ残滓ヲ取除イテ、真ニ民主的ナ国会制度、内閣制度、司法制度ヲ確立セントスル現実的構成法的ノ部門デアリマス、他ノ一ツハ国内ニ於テ基本的人権ヲ尊重シ、諸外国トノ間ニ平和的協力ヲ成立サセ、国際社会ニ伍シテ、名誉アル地位ヲ占メヨウト努力スル意思表示デアリマシテ、多分ニ将来ノ国際生活ニ対スル理想主義的ナ分子ヲ含ム面デアリマス、即チ平和日本ノ道義的水準ヲ国際水準ニマデ昂メヨウトスル意思表示ト、此ノ理想ヲ実現スル為ニ国内機構ノ確立ヲ行フコトガ改正案ノ主タル狙ヒデアラウト思ヒマス、改正憲法第九条ノ規定ハ、本委員会ニ於テモ熱心ニ論議サレマシタ、政府ノ説明ト、委員諸員ノ質問トハ、必ズシモ全面的ニ合致シタトハ考ヘ得マセヌ、要スルニ戦争抛棄ノ宣言ハ、廃墟ノ中ニ呻吟スル人々ノ衷心カラ出タ要求デアルコトハ間違ヒナイト思フ、「マッカーサー」元帥ハ之ニ関シテ世界各国トモ斯様デアリタイトノ思想ヲ述ベテ居リマス、我々ハ「マッカーサー」元帥ノ思慮ガ何レニアルカヲ見誤ツテハナラナイト思フ、日本ハ戦争ノ防止、戦争ノ抛棄ノ大理想ヲ通ジテノミ、再建ト独立トノ大道ヲ歩ムコトガ出来ルノデアラウト思ヒマス此ノ点ニ付テ改メテ政府ノ所信ヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣 私共ノ念願トシテ此ノ憲法ノ中ニ盛リ込マントシタ趣旨ハ、全ク今御示シニナツタ通リノ事柄デゴザイマス
○芦田委員長 私ハ主トシテ改正案ノ前文ト第九条トニ付テ具体的ニ考ヘテ見タイト思ヒマスガ、此ノ部門ニケル憲法ノ改正ハ、先刻内閣総理大臣ノ言及サレマシタ通リ、国際連合憲章ト緊密ナ関係ニ立ツテ考慮セラレナケレバナラナイト信ジマス、言葉ヲ換ヘテ申セバ、日本ガ一年前マデ国際連合加盟国ノ敵国デアツタ事実、又現ニ連合国ノ管理ノ下ニアル事実、及ビ日本ガ過去ニ於テ平和維持ノ努力ニ欠クル所アツタ点カラ申セバ此ノ際思ヒ切ツタ思想ノ転換ヲナスニアラズンバ、我ガ国ガ再ビ国際社会ニ復帰スルコトハ、極メテ困難ナ事業デアルト考ヘルノデアリマスガ、政府ハ私ノ所説ト見解ヲ同ジクセラレマスカドウカ、御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 前文及ビ第九条ヲ設ケマシタ趣旨ハ、此ノ憲法改正案ノ企テノ根本ノ理由ニ基キマシテ、国際的及ビ国内的ノ両面カラ来テ居ルモノデアリマスガ、之ヲ国際的ノ面カラ説明ヲ致シマスレバ、今御尋ネニナツタ其ノ御趣旨ノ通リト思ツテ居リマス
○芦田委員長 憲法改正案ハ、我ガ国ヲシテ平和愛好国ノ水準ニマデ昂メルニ止マラズ、更ニ進ンデ日本ノ努力ガ一切ノ戦争ヲ地球表面ヨリ駆逐セントスルニアルコトヲ表明致シテ居リマス、サウシテ此ノ理想ハ国際連合ノ究極ノ理想ト合致スルモノデアルコトハ、国際連合憲章ノ第四条ヲ見レバ明白デアルト思ヒマス、固ヨリ現在ノ世界情勢カラ見テ、我ガ国ガ今直チニ国際連合ニ参加シ得ルトハ思ヘマセヌ、何トナレバ、連合国ガ日本ニ国際連合憲章ニ掲ゲタル義務履行ノ能力及ビ意思アリト認メルコトガ加盟ノ先決問題デアリマシテ、今日ハ遺憾ナガラ未ダ其ノ時機ニ達シテ居ナイカラデアリマス、日本ガ「ポツダム」宣言ノ条項ヲ完全ニ履行スル能力ト意思トヲ持チ、且ツ国際連合憲章ノ理想ト原則トニ合致スル平和的且ツ民主的ナル責任政府ガ樹立サレル場合、サウシテ広ク世界カラ之ヲ認メラレタ時ニ、我ガ国ハ国際社会ニ於テ名誉アル地位ヲ回復スルコトガ出来ルノデアリマス、斯様ナ点カラ考ヘテ見レバ、我ガ国ノ憲法改正ハ日本ガ国際連合ニ加盟シ、平タク申セバ国際社会ニ名誉アル地位ヲ占メル先決条件ヲ成スモノト考ヘテ居ルノデアリマスガ、政府ノ所見ヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣 今後如何ナル国際情勢ノ変化ガアルカ、是ハ我々ハ予測スルコトハ出来マセヌケレドモ、速カニ国際社会ニ伍シテ名誉アル地位ヲ占メタイト云フ念願ハ此ノ前文ノ中ニ明カニシテアル所デアリマシテ、此ノ道ヲ通ルコトニ依ツテ、今委員長ノ御示シニナリマシタヤウナ方向ニ進ム考ヘヲ以テ、此ノ憲法ノ起案ヲ致シタ訳デアリマス
○芦田委員長 更ニ問題ヲ具体的ニ考ヘマシテ、改正案第九条ヲ検討致シマスト、ココニ三ツノ問題ガアルト思ヒマス
第一ハ、法案第九条ノ規定ニ依レバ、我ガ国ハ自衛権ヲモ抛棄スル結果トナルカドウカ、此ノ点ハ本委員会ニ於テ多数ノ議員諸君ヨリ繰返シ論議セラレタ点デアリマス
第二ニハ、其ノ結果日本ハ何ダカ国際的保障デモ取付ケナイ限リ、自己防衛ヲモ全ウスルコトガ出来ナイノカ、延イテ他国間ノ戦争ニ容易ニ戦場トナル虞ハナイカト云フ点デアリマス
第三ハ、一切ノ戦争ヲ抛棄シタ結果、日本ハ国際連合ノ加盟国トシテ武装兵力ヲ提供スル義務ヲ果スコトガ出来ナイカラ、国際連合ヘノ参加ヲ拒否セラレル虞ハナイカト云フ諸点デアリマス
以上ノ三点ニ付テ国際連合憲章ノ規定ト照シ合セテ考ヘル場合、私ハ次ノ如キ結論ガ正シイノデハナイカト思ヒマス、不幸ニシテ自衛権ノ問題ニ付テノ政府ノ答弁ハ、稍明瞭ヲ欠イテ居リマス、自衛権ハ国際連合憲章ニ於テモ第五十一条ニ於テ明白ニ之ヲ認メテ居リマス、唯自衛権ノ濫用ヲ防止スル為ニ、其ノ自衛権ノ行使ニ付テハ安全保障理事会ノ監督ノ下ニ置クヤウニ仕組マレテ居ルノデアリマス、憲法改正案第九条ガ成立シテモ、日本ガ国際連合ニ加入ヲ認メラレル場合ニハ、憲章第五十一条ノ制限ノ下ニ自衛権ノ行使ハ当然ニ認メラレルノデアリマス、唯其ノ場合ニ於テモ、武力ナクシテ自衛権ノ行使ハ有名無実ニ帰スルデハナイカト云フ論ガアリマセウ併シナガラ国際連合ノ憲章ヨリ言ヘバ、日本ニ対スル侵略ガ世界ノ平和ヲ脅威シテ行ハレル如キ場合ニハ、安全保障理事会ハ、其ノ使用シ得ル武装軍隊ヲ以テ日本ヲ防衛スル義務ヲ負フノデアリマス、又我ガ国ニ対シマシテモ自衛ノ為ニ適宜ノ措置ヲ執ルコトヲ許スモノト考ヘテ多ク誤リハナイト思ヒマス、此ノ点ニ付テ政府ノ今日マデノ御答弁ハ、稍明瞭ヲ欠クヤニ考ヘラレマスカラ、此ノ場合明白ニ其ノ態度ヲ表明セラレンコトヲ希望致シマス（拍手）
○金森国務大臣 将来国際連合ニ日本ガ加入スルト云フコトヲ念頭ニ置キマスル場合ニ、現在ノ憲法ノ定メテ居リマスル所ト、国際連合ノ具体的ナル規定ガ要請シテ居リマスル所トノ間ニ、若干ノ連繋上不十分ナル部分ガアルコトハ、是ハ認メナケレバナラヌト思ヒマス、併シナガラ其ノ時ニ何等カノ方法ヲ以テ此ノ連絡ヲ十分ナラシルム措置ハ考慮シ得ルモノト考ヘテ居リマシテ、必要ナル措置ヲ其ノ場合ニ講ズルト云フ予想ヲ持ツテ居リマス
○芦田委員長 法第九条ニ関スル第三ノ点、即チ日本ガ一切ノ戦力ヲ廃止スル結果、国際連合国トシテノ義務ヲ果シ得ナクナルカラ、連合加盟ヲ許サレナイカモ知レナイト云フ論、余リニ形式論理的デアリマス、日本ガ真ニ平和愛好国タル事実ヲ認メラレル場合ニハ、斯カル事態ハアリ得ナイト考ヘテ間違ヒハナイト思フノデアリマス何レニ致シマシテモ本改正案ノ目標ハ、我ガ国ガ国際連合ニ加盟スルコトニ依ツテ初メテ完全ニ貫徹シ得ルモノデアルコトハ明カデアラウト思ヒマス、ケレドモ問題ハソレバカリデ終ルノデハアリマセヌ、日本ガ平和国家、文化国家トシテ内外ニ認メラレルニ至ルニハ、我ガ国民ノ間断ナキ努力ヲ必要トスルモトト信ジマス、私ハ最近文化国家ト云フ文字ガ、余リニ手軽ニ易々ト叫バレルコトニ不安ノ念ヲ抱クモノデアリマス、一ツノ民族ノ実力、世界ニ於ケル地位民族生存ノ意義、人類ニ対スル責任、総テ是等ガ文化ニアルト云フコトハ、心アル者ノ皆知ル所デアリマス、然ルニ日本ノ今日ニ立至ツタノハ、現代ニ住ム我々日本人ガ歴史最大ノ過チヲ犯シタト云フノハ、全ク日本ノ文化ノ程度ガ低ク、其ノ内容ガ貧弱デアリ、又文化ノ精神ト本質トガ国民ニ十分理解セラレテ居ナカツタコトニ基クモノデアルト信ジマス（拍手）此ノ憲法改正案ヲ提案サレタ吉田内閣ハ、単ニ紙ニ書イタ案文ヲ議会ニ呑込マセルコトヲ以テ責任ガ終ルノデハアリマセヌ此ノ憲法ノ目指ス方向ヲ国民ニ理解サセ、憲法改正ノ裏付ケトナルベキ国民文化ノ向上ニ渾身ノ努力ヲ致サルベキデアルト思ヒマス（拍手）ソレノミガ戦争ノ勃発ヲ防止スル方法デアルトサヘ信ズルノデアリマス、吉田内閣ハ此ノ画期的ナ時期ニ国民指導ノ大責任ヲ負ウテ政府ニ立タレマシタ、此ノ機会ニコソ閣僚諸公ハ奮起シテ国民ノ自覚ヲ呼ビ起シ、世界ニ呼ビ掛ケテ国際平和ノ実現ニ挺身セラルベキデアルト思ヒマス、然ルニ憲法改正案ノ審議ニ於テサヘ、閣僚諸公ノ熱意ハ甚ダ上ラザルガ如クニ見エマスルガ故ニ、此ノコトハ決シテ国民ヲ安堵セシムル所以デハナイト思ヒマス、幸ヒ吉田内閣ニハ多年憲政ノ為ニ尽瘁セラレタ多クノ政治家ヲ持ツテ居ラレル是等ノ政治家ガ真ニ其ノ熱意ト其ノ気魄トヲ以テ国民ノ指導ニ当ラレルコトハ、我々ノ日夜念願致シテ居ル所デアリマス、之ニ付テ政府ヨリ答弁ヲ得ルコトハ期待致シテ居リマセヌ、併シナガラ若シ何等カ此ノ際其ノ所信ヲ御表明下サルナラバ、喜ンデ拝聴致シタイト思ヒマス（拍手）
○金森国務大臣 総理大臣カラ御答弁ヲ願ハウト思ツテ居リマシタガ、私ガ此ノ問題ニ付キマシテ、当面ノ責任ノ地位ニ立ツテ居リマスルガ故ニ、一言御答ヘスル御許シヲ願ヒタイト存ジマス、此ノ憲法ハ御覧ノ如ク、又御承認ヲ多分ハ載イテ居ルカノ如ク、何千年ノ歴史ヲ経過致シマシタ日本ニ於テ、未ダ曽テ考ヘラレタコトモナイ大イナル変革ヲ齎スモノデアリマス、我々ハ単ニ変革ヲ齎スコトヲ目的トシテ居ルモノデハナイ、真ニ此ノ変革ノ現実ノ効果ヲ世界ノ舞台ニ於テ、又日本国民ノ為ニ完全ニ遂行シテ、有終ノ美ヲ遂ゲタイト思フノデアリマシテ、此ノ憲法ノ草案ハ、是ハ確カニ「インク」ヲ以テ書カレテ居ルモノデアリマスケレドモ、私共ノ立場カラ申シマスレバ、全精神ヲ以テ之ヲ文字ニ表ハシタモノト信ジテ居ルノデアリマシテ、今委員長カラ御話ニナリマシタ点ハ、今マデノ私共ノ態度ガ悪カツタカモ知レヌ、或ハ努力ガ足リナカツタカモ知レマセヌガ、内心ハ決シテサウデハナイ、十分此ノ憲法ヲ実現シ、同時ニ日本全局ノ文化国家建設ノ一路ニ、唯私一人ノ立場ヲココニ挟ンデ申シマスレバ、捨石ノ捨石トナツテモ宜シイト云フ信念ノ下ニ臨ンデ居ル次第デアリマス（拍手）
○芦田委員長 是ニテ一般的質疑ハ終了致シマシタ、明日ハ準備ノ都合上一日休ムコトニ致シマス、明後日午前中ハ金森国務大臣所用ノ為メ本委員会ヲ休ミマシテ、午後一時半ヨリ開会致シマス、サウシテ逐条審議ニ入ル予定デアリマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午後三時三十八分散会