委員会 昭和21年7月18日（第16号）

昭和二十一年七月十八日（木曜日）
　　　　午前十時二十六分開議
　出席委員
　　委員長　芦田　　均君
　　　理事　江藤　夏雄君　理事　高橋　泰雄君
　　理事　廿日出ひろし君　理事　青木　泰助君
　　　理事　吉田　　安君　理事　菊地養之輔君
　　　理事　鈴木　義男君　理事　林　　平馬君
　　　理事　大島　多藏君
　　　　　　小野　　孝君　　　　神田　　博君
　　　　　　木島　義夫君　　　　木村　公平君
　　　　　　小島　徹三君　　　　左藤　義詮君
　　　　　　武田　キヨ君　　　　武田信之助君
　　　　　　本田　英作君　　　　三浦寅之助君
　　　　　　西山冨佐太君　　　　犬養　　健君
　　　　　　荊木　一久君　　　　鈴木周次郎君
　　　　　　原　健三郎君　　　　山田　悟六君
　　　　　　星　　　一君　　　　森山　ヨネ君
　　　　　　山崎　岩男君　　　　井伊　誠一君
　　　　　　石川金次郎君　　　　及川　　規君
　　　　　　加藤シヅエ君　　　　黒田　壽男君
　　　　　　杉本　勝次君　　　　棚橋　小虎君
　　　　　　西尾　末廣君　　　　松澤　兼人君
　　　　　　森　三樹二君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　井上　徳命君　　　　森　由巳雄君
　　　　　　大橋　喜美君　　　　越原　はる君
　　　　　　酒井　俊雄君　　　　橋本　二郎君
　　　　　　田中伊三次君　　　　石黒　武重君
　　　　　　笠井　重治君　　　　久芳庄二郎君
　　　　　　池上　隆祐君　　　　中山　榮一君
　　　　　　笹森　順造君　　　　野坂　參三君
同日委員石黒武重君辞任ニ付其ノ
補欠トシテ田中伊三次君ヲ議長ニ
於テ選定シタ
　出席国務大臣
　　　　　　　　　　　司法大臣　木村篤太郎君
　　　　　　　　　　　文部大臣　田中耕太郎君
　　　　　　　　　　　国務大臣　齋藤　隆夫君
　　　　　　　　　　　厚生大臣　河合　良成君
　　　　　　　　　　　国務大臣　植原悦二郎君
　　　　　　　　　　　国務大臣　金森徳次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局長官　入江　俊郎君
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　　　　　　司法政務次官　古島　義英君
　　　　　　　　　　司法事務官　佐藤　藤佐君
　　　　　　　　　　厚生事務官　吉武　惠市君
　　　　―――――――――――――
本日ノ会議ニ付シタ議案
　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、昨日ニ引続キ第三章第二十四条ヲ議題ニ供シマス――武田キヨ君
○武田（キ）委員　昨日二十四条ノ「ひとしく教育を受ける權利を有する。」ト云フ点ニ付キマシテ、司法大臣ハ、此ノ権利ニハ必ズシモ義務ヲ伴フモノデハナイト云フ意味ノ御答ヘヲナサツタノデゴザイマスガ、此ノ条項ニ於テ事実教育ト云フ場合ニハ、是ハ教育ヲ受ケマス当事者ハ受ケル為ノ生活力ハゴザイマセヌノデ、マダ養護サレテ居ル身分デゴザイマスカラ、当然義務ト申シマシテモ、ソレヲ養護スル立場、身分デアル親、或ハ社会、国家ト云フモノガ、ココニ書イテアリマスヤウニ「ひとしく教育を受ける權利を有する。」其ノ権利ニ対シテハ、国家或ハ其ノ養護ノ立場ニアル者ガ義務ヲ持ツモノト考ヘルノデゴザイマス、サウ致シマスト、事実ニ於テ現在ノ日本ノ社会ノ施設ノ状態ハ、殆ド此ノ権利ヲ満スニ足リルト申シマスヨリハ、ソレニハ非常ニ乏シイ施設シカゴザイマセヌ、併シハツキリ憲法デ此ノ権利ヲ保障シテ居リマス以上、国家トシテ相当ノソレニ対スル用意ヲシテ置カレナケレバイケナイト思フノデゴザイマスガ此ノ点ニ付テハドウ云フ御考ヘヲ持ツテオイデニナルデセウカ
○田中国務大臣　御答ヘ申上ゲマス、只今ノ御質問ハ第一項ニ関スルモノト致シマスナラバ、義務ト申シマスト、昨日国務相モ答ヘラレマシタヤウニ、是ハ詰リ国民ガ国家ニ対シテ持ツテ居ル公ノ権利ト云フコトニナリマス訳デ、随テ国家ガ教育ヲ受ケサセル義務ヲ負担シテ居ルト云フ訳デアリマスケレドモ、是ハ民法ナドデ言ツテ居ル債権債務ノ関係ト云フヤウナモノトハ違ツテ、出来ルダケ機会均等、能力ニ応ジテ教育ヲ受ケサセル所ノ政策ヲ国是トシテ執ラナケレバナラナイ、又ソレヲ実現シテ行カナケレバナラナイト云フ意味ナノデアリマス、ソレカラ経済的ノ理由其ノ他カラシテ教育ヲ受ケヨウト思ツテモ受ケラレナイト云フ者ニ付キマシテ、殊ニ家ガ貧窮デアツテ子供ヲ学校ニ出スコトガ出来ナイトカ或ハ又、中等教育以上ニ於テ、能力アルニ拘ラズ学資ガ足リナイト云フヤウナ者ニ付キマシテハ、度々御説明致シマシタヤウニ、育英制度ト云フヤウナモノヲ拡大強化致シマシテ、其ノ国家ガ負担シテ居ル所ノ義務ノ履行ニ間然スル所ガナイヤウニ、政府トシテ、努力シナケレバナラナイト存ジテ居ル次第デアリマス
○武田（キ）委員　只今ノ御答ヘデ国家ガサウ云フコトヲ政策ニ依ツテ執ル方針デアルト云フコトハハツキリ了解致シタノデゴザイマスガ、大体現在ノ程度カラドノ位ドウ云フ風ナ方針ヲ以テ行カレマスカ、事実国民ニ機会均等ト云フ意味デ教育ヲ与ヘルコトヲ御考ヘニナリマスナラバ、現在ノ状態デゴザイマスト、教育費ノ負担ト云フモノガ非常ニ大キイノデゴザイマス、而モ其ノ教育ノ結果ト申シマスモノハ、極端ニ申シマスレバ、一枚ノ卒業証書ト云フモノガ就職ノ条件ニナリマシタリ、或ハ何カ一ツノ資格ヲ得ルト云フ風ニナツテ居リマシテ、其ノ為ニ実情ハ色々教育ノ神聖ヲ涜スヤウナ問題ガ社会問題トシテ起ツテ居ルノデゴザイマス、或ハ卒業証書ヲ売リマストカ、或ハ非常ニ其ノ間ニ所謂不正手段ガ行ハレルト云フヤウナコトモゴザイマシテ、本当ニ人ヲ教育スルト云フ意味カラ申シマスナラバ、今日ノ学資ヲ沢山掛ケマシタ教育ガ、実際ニ於テハ教育ヲ受ケタイト云フ者ノ機会均等ヲ非常ニ妨ゲルノミナラズ、唯資格ヲ得ルト云フコトニ目的ガナツテ居ルヤウニ思ヒマス、アノ卒業資格ト云フモノハ果シテドノ位ノ程度ニ私ハ重大ニサレナケレバイケナイモノ力ト存ズルノデゴザイマス一方又入学ト云フコトニ付キマシテモ同ジヤウナ状態デゴザイマシテ、教育ガ斯クノ如ク非常ニ多クノ教育ノ資金ヲ要シ、有産階級ノ者ニシカ与ヘラレナイヤウナ現在ノ状態デゴザイマシタナラバ、私ハ須ク官立ハ国費ヲ以テ之ヲ賄ヒ文部大臣モ先達テ仰シヤイマシタガ、私立ノ方ニ其ノ経済的余裕ノアル者ヲ収容スルト云フ風ニ致シマスカ、或ハ教育ノ資格ト云フモノヲモウ少シ今マデトハ変ツタ観点カラ御考ヘニナリマシテ、ソレニ付テ此ノ過去ノ形ニ囚ハレタヤウナ、或ハ紙一枚ヲ要求スルヤウナ、例ヘバ高等学校ニ入リマスノデモ中等学校卒業以上、或ハ何カ採用致シマスノニモヤハリ中等学校卒業以上トナツテ居ル、中学卒業ト云フコトガ今ドレダケノ実力ヲ持ツテ居ルカト云フコトハ、殊ニ現在デハ私ハ是ハ殆ド問題ニスルニ足リナイト思フノデアリマスガ、ドウモサウ云フ風ナ資格ト云フコトガ文部省ノ方、或ハ社会一般ニ教育ノ標準ニナルヤウデアリマスカラ、其ノ点ニ付テ文部大臣ハ何カ御意見ガオアリニナリハシナイカト思ヒマスノデ御伺ヒ致シマス
○田中国務大臣　初メニ御述ベニナリマシタ卒業証書ガ甚ダシイ場合ニハ売買サレルト云フヤウナ、サウ云フ学校ニハアルマジキ不正ナコトモアルト云フヤウナコトヲ耳ニ致シタコトモアリマス、斯ウ云フ点ニ付キマシテ、殊ニ私学ノ一部ナドニ付テアツタト云フヤウナコトデアリマスガ、今後サウ云フ意味ノ監督ハ非常ニ必要デハナイカト云フ風ニ存ジテ居ル次第デアリマス
　ソレカラ入学資格ノ問題デゴザイマスガ、只今御話ガアリマシタヤウニ、現在中等学校ノ教育ノ如キ随分学力ガ低下シテ居リマシテ其ノ低下シテ居ル学力ナドハ顧慮スル必要ハナイデハナイカ、機会均等ニ全部入学試験ヲ受ケサセテ宜イデハナイカト云フヤウナ御趣旨ト承リマスガ、此ノ入学試験ト云フヤウナコトハ、是ハヤハリ非常ニ必要ナコトデアリマシテ、私甚ダ寡聞デハアリマスケレドモ、外国ノ例等ヲ調ベテ見マスト、恐ラクハ試験制度デ以テ日本位「ルーズ」ナ、所謂良クナイ意味ノ「リベラリズム」ガ支配シテ居タ国ハ世界中ニ珍シイト云フヤウニ考ヘテ居リマス、デスカラ公正ナル試験ヲスル、又公正ナル試験ノ結果卒業ノ免状ヲ取得スル、サウシテ又入学試験ノ前提トナルト云フコトハ、是ハ堅持シナケレバナラナイ、唯試験ノ内容ヲドウスルカト云フヤウナ問題ニナリマスト、今ノ試験ガ唯暗記ニ走ツテ、推理力或ハ独創力ト云フヤウナモノノ試験ニ不適当デアルト云フヤウナ事情ハ、是ハアルカモ知レマセヌガヤハリ一ツノ学校カラ他ノ学校ニ移ルノニ付キマシテハ、此ノ卒業証書、学力ヲ示ス所ノ或ル基準ト云フモノハ、是ハ苟クモ学校ノ系統ガ存在シテ居ル以上ハドウシテモ必要デナイカ、唯其ノ内容ヲ改メルト云フ点ニナリマスト、大イニ検討シテ本当ノ試験ノ弊害ヲ改メ、試験ノ長所ヲ発揮スルト云フヤウニシナケレバナラナイト云フ風ニ存ジテ居ル次第デアリマス
○武田（キ）委員　入学試験ノコトニ付キマシテハ、是ハ非常ニ考慮スル余地ガ沢山アルト存ジテ居リマス、私ハ尚ホ重ネテ文部大臣ノ御意向ヲ伺ヒタイノデゴザイマスガ教育ト云フモノガ今日ノヤウナ状態ノヤウニ無力ニナリマシタコト実際ノ国民ノ本当ノ精神的ナ基盤ガ教育ニ依ツテ得ラレルト云フ自信ヲ持チ得ナイモノニナリマシタコトニ付キマシテハ、私ハ先達テモ「アメリカ」ノ方カラノ視察団ノ報告ヲ見マシテ、非常ニ肯ク所ガ多カツタノデゴザイマス、ソレト申シマスノモ、ヤハリ今日マデノ教員ノ資質ノ低下ト云フコトヨリハ、寧ロ其ノ人格ノ方面、人格ト人格トノ接触ト申シマスカ、感化ト申シマスカ、サウ云フ所ニ、学問トハ別ニ教育ト云フモノノ本義ガアルト云フコトガ、私ハ相当等閑ニサレテ居ツタノデハナイカト思フノデゴザイマス、私ハ今度文部大臣ノ色々ナ御話ヲ伺ヒマシテ、新シキ教育ノ確立ヲナサルト云フ御意向ニ対シマシテハ、非常ニ期侍ヲ掛ケテ居ルノデゴザイマスガ、ソレニ付テ希望致シマスト同時ニ、御決心ヲ伺ヒタイノデゴザイマスガ、教権ノ独立ト云フコトヲ御考ヘニナツテオイデニナリマセウカ、教権ノ独立ト簡単ニ申シマスガ、実ハ今日ノ状態デゴザイマスト、学校ノ教員ハ官僚機構ノ末端ノヤウナ感ジガ致シテ居ルノデゴザイマス、教員ノ立場ト云フモノハ、特別ナ待遇問題トハ違ツタ精神的ナ神聖ナモノヲ社会的ニ認メルト云フヤウナコトニ付テ文部大臣ハ御用意ガゴザイマセウカ、或ハ之ニ対シテ教権ノ独立ト云フ所マデ御考ヘニナツテオイデニナリマセヌデゴザイマセウカ
○田中国務大臣　教職員ガ其ノ使命ヲ実行致シマスニ付キマシテ、単ニ専門的知識ノミデハ足ラナイ本当ニ教育者トシテノ使命ニ徹底シナケレバナラナイ、寧ロ人格的ノ方面、道徳的ノ方面ガ大切デアルト云フコトハ、全ク只今御話ガアリマシタ通リデアリマス、所デ現在見渡シマス所、サウ云フ風ナ本当ノ封建的ノ意味デナク、此ノ立派ナ世界人類ノ立場カラ見テ立派ナ人格者トシテノ教育者ガ非常ニ少クナツテ居ルヤウニ思ヒマスコトハ、是ハ遺憾ニ堪ヘナイ所デアリマス、此ノ教職員ノ改善ト云フコトハ、教員養成制度ノ根本ニ立至ツテ反省シナケレバナリマセヌ、明治以来色々弊害ガ堆積シテ居ル訳デアリマシテ、此ノ際根本的ニ検討シナケレバナラナイト存ジテ居リマス、其ノ以外ニ只今御話ガアリマシタ教権ノ独立ト云フコトガ、是ガヤハリ達成セラレナケレバ、今日教育者ハ自信ノナイ卑屈ニナツテ居ル、又官僚主義ノ手先ニナツテ居ルト云フヤウナ、サウ云フ教育者ノ欠点ヲ是正スルコトハ出来ナイト思フノデアリマス、教育者ハ如何ニ溌刺トヤラウトシテモ、今マデノ伝統的ノ官僚主義ガ上カラオツ被サツテ居リマシテ、サウシテ教育者ノ人格ヲ伸ビ伸ビト伸バスコト、又創意ヲ発揮スルコトガ甚ダ困難ナ状態ニナツテ居リマス、其ノ点ニ付キマシテ及バズナガラ教権ノ独立ト云フコトニ付テ、是ハ最モ大切ナル教育改革ノ一ツトシテ実現ニ努力シタイト云フ決心ヲ固メテ居ル次第デアリマス、ソレデ此ノ教権ノ独立ト云フ問題ハ特ニ地方教育行政ニ付テ必要デゴザイマス、此ノ地方教育行政ヲ官僚主義カラ解放スル、簡単ニ申シマストサウナリマスガ、是ハ地方教育行政ノミナラズ、文部省ノ性格自身ヲ改メナケレバナラナイト存ジマシテ、是ハ終戦後徐々ニ速急ニ慎重ニ実行シツツアル次第デゴザイマス、此ノ二ツノ点、詰リ中央ニ於ケル官僚化、画一化、地方ニ於ケル教育行政ノ立直シ、詰リ官僚主義カラノ解放ト云フコトハ、米国ノ教育使節団ノ報告書ニモ非常ニ明瞭ニ出テ居ル所デアリマシテ、是ハ我々ノ考ヘテ居ル所ト全ク一致シテ居リマスノデ、ソレニ依ツテ大イニ勇気付ケラレテ居ル次第デアリマスシ、又現在与論ノ支持モ随分盛ンニナツテ参ツテ居リマスノデ大変意ヲ強ウシテ居ル次第デアリマス
○武田（キ）委員　只今ノ御答弁ハ本当ニ私共ハ心強ク承ツタノデゴザイマス、是非ソレヲ実現シテ戴キマスヤウニ、事実ニ於テ教育ノ機会均等ト云フコトニ付テハ、尚ホ沢山ノナスベキコトガアルノデゴザイマスガ、今ノ根本ノ御精神ヲドウゾ早ク実現シテ下サルヤウニ期待シテ居リマス
　尚ホ此処ノ第二項ニゴザイマスガ、「初等教育は、これを無償とする。」トゴザイマスガ、此ノ無償ト云フ限度ハ、単ニ月謝ノ無償、月謝ガ要ラナイト云フ意味デゴザイマセウカ、或ハ其ノ他ノ学用品其ノ他教育ニ付テハ万般ノ費用ハ国家ガ負担スルト云フノデアリマスカ‥‥
○芦田委員長　武田サンニ申上ゲマスガ、只今ノ問題ハ既ニ何回トナク繰返サレテ質問応答ガアリマシタガ、其ノ以前ノ問題モ重複デアリマシタガ、委員長ハ出来ルダケアナタノ発言ヲ制限シタクアリマセヌノデ、何モ申シマセヌデシタガ、斯ウ云フコトガ先例ニナリマスト非常ニ時間ヲ取リマスカラ重複ノ点ハドウカ御省キヲ願ヒマス
○武田（キ）委員　私欠席シテ居リマシテ、不注意デゴザイマシタ、私ノ質問ハソレダケデゴザイマス
○芦田委員長　井上徳命君
○井上（徳）委員　私ハ「その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。」ト云フコトニ関連シテ、文部省直轄学校ノ中デ戦災ヲ受ケテ居ル其ノ学校ノ実際ノ現状ヲ聊カ時間ヲ拝借致シマシテ申上ゲ、之ニ対スル文部省ノ対策ヲ承リタイト思フノデアリマス
○芦田委員長　井上サンニ申シマス、ソレハ第二十四条トハ余程縁ノ薄イ問題ト思ヒマスカラ、ドウカ他ノ適当ナ機会ニ御質問ヲ願ヒマス、戦災ノ復興ノ問題ト、第二十四条トハドウモ委員長ノ見ル所デハ非常ニ関係ガ薄イト思ヒマス文部省ノ行政ニ関スル御質問ハ、ドウカ予算総会デ御願ヒ致シマス
○井上（徳）委員　「その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。」
○芦田委員長　戦災ニ遭ツタト云フコトハ能力ニハ関係ゴザイマセヌ
○井上（徳）委員　モウ討論ハ止メマスルケレドモ、ソレナラバ序デデハゴザイマスガ、此ノ前、前章ノ時ニ日本ノ呼称ニ付テ御質問申上ゲタノデアリマスガ、其ノ時記憶ヲ喚ビ起スコトカ出来ナカツタノデアリマスガ、後デ外ノ委員ノ示唆ヲ受ケマシテ、記憶ヲ喚ビ起シタヤウナ次第デアリマスガ、今カラ二十年カ二十五年バカリ以前ニ、文部省ノ告示カ何カデ「ニッポン」ト呼ブヤウニト云フヤウナコトガ出タカノヤウニ記憶ヲ喚ビ起シタノデアリマスガ、サウ云フヤウナコトガアツタト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
○芦田委員長　是モ既ニ金森国務大臣カラ此ノ席上デ答弁ガアツタコトデアリマスガ、アナタノ御満足ノ為ニ、モウ一度金森国務大臣カラ御説明ヲ願ヒマス
○金森国務大臣　私ノ記憶シテ居ル所デハ昭和七、八年頃デゴザイマシタカ、文部省ノ教育ノ範囲内ニ於キマシテ、普通此ノ日本ノ国名ヲ教ヘル時ニ何ト教ヘテ宜イカ統一ノ見地カラ統一ノ原理ヲ示ス為ニ「ニホン」ト云フ時ハ歌ニ詠ムトカ何カ特殊ノ味ヲ持ツ時ニ「ニホン」ト呼ブガ、其ノ外ハ原則的ニ「ニッポン」ト呼ブガ宜イト云フ意味ノ訓示ヲ是ハ松田文部大臣ノコトト思ツテ居リマスガ、出サレタト云フコトハ記憶シテ居リマス、併シソレハ教育ノ範囲ニ於テ謂ハバ言葉ノ使ヒ方ノ統一ヲ指示サレタ範囲ニ止マルト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　笠井重治君――欠席デアリマス、久芳庄二郎君
○久芳委員　委員長ノ御注意モアリマシタシ、重複ハ避ケタイト思ヒマスガ、第二十四条ハ我々ノ考ヘカラスルナラバ、正ニ新憲法トシテ一章ヲ独立スベキ位ノ重大性ヲ持ツテ居ル、新日本建設ニ付テハソレダケノ地位ヲ占メテ居ル位ニ考ヘテ居リマスノデ、多少ノ重複ハスルカモ分リマセヌガ、別ノ観点カラ是非国民全部ガ私ノ見タ所デハ不満ヲ持ツテ居リ、或ハ更ニ進ンデ疑惑ヲ持ツテ居ルノデハナイカト思ハレル点ニ付テ、御尋ネシタイト思フノデアリマス、是ハ申上ゲルマデモナク新日本建設ノ新憲法ハ、終戦後ノ現実ヲ基盤トシテ、新日本ノ目標ヲ示シ、理想ヲ示シ、或ハ国是ヲ示シ、国民ノ法典トシ国家ノ光明トナラナケレバナラナイ、私共ハ斯ク考ヘテ居ルノデアリマス、新憲法ヲ以テ新日本ノ国民ヲ率ヰナケレバナラナイ、其ノ位ニマデ考ヘテ居ル立場カラ言フナラバ、此ノ二十四条ニ盛ラレテ居ル教育ノ条項ハ、余リニモ貧弱デアリ退嬰的デアリ、現状維持的デアリ、国民ニ希望ヲ与ヘテ居ナイ、此ノ条項コソ、正ニ積極的ニ新日本ノ建設ニ立チ上ラントシテ居ル全国民ノ希望トナリ光トナラナケレバナラナイ、其ノ点カラ考ヘルナラバ、余リニ不満足過ギ、情ケナ過ギル、此ノ点ハ恐ラク教育関係者ノ与論デナクテ国民ノ常識ダラウト思フ、是ガ余リニモ情ケナイ為ニ、実ハ疑惑サヘ持ツテ居ルノデハナイカト思フサウ云フ立場カラ考ヘルナラバ、新日本ノ新憲法ニハ必ズ教育ニ依ツテ建直シヲスルト云フ所ノ積極部面、更ニ国民ニ光明ヲ与ヘ、希望ヲ与ヘ、鼓舞激励スル、立チ上ル勇気ヲ付ケル、斯ウ云フ力ガナケレバナラヌト思ツテ居ルノデアリマス、私ハ過去三十年教育ノ面ニ居ツタ者デアリマスケレドモ、是ハ教育界ノ与論デナク、私共ノ見方デハ国民ノ常識デアリ、与論デアル、私共ノ受ケル多クノ激励、会合、電報、親書ガ実ニ不満ヲ現ハシテ居ル、少クトモサウ云フ立場カラ言フナラバ、新憲法ニ盛ラレル所ノ教育ノ章ハ独立サセ、尚ホ少クトモ最低限三ツノ基盤ダケハ、法律ニ依ラズ国家統治ノ根本デアル所ノ憲法ニ依ツテ制定シテ居ラナケレバナラヌト、恐ラク国民ハ思ツテ居ルデアリマセウ、其ノ一ツハ先程モ御話ガアリマシタ所ノ教権ノ確立ノ問題、モウ一ツハ教育ノ絶対機会均等デアリマス、モウ一ツハ国民文化ノ水準ノ向上デアリマス、国民ノ個々ノ教養、文化教育ノ向上デアル、此ノ三ツダケハ恐ラク最低限トシテ、新憲法ニハ教育ニ関係シテ保障サレナケレバナラヌモノデアル、是ハドノ点カラ考ヘテモ理由ヲ言フ必要ハナイ、日本ノ国内情勢、国際情勢ヲ考ヘテ見テモ、将来日本ハ世界人類ノ平和福祉ニ寄与貢献スルト云フ立場カラ考ヘテ見テモ、又平和文化国家ヲ作ツテ之ニ依ツテ世界人類ノ間ニ貢献シテ行カウト云フ立場カラ考ヘテ見テモ、目前ノ一日モ早ク「ポツダム」宣言ノ趣旨ヲ履行スル為ニ民主主義化シナケレバナラヌノデアリマスガ、此ノ民主主義ノ問題ト国民教養ノ問題トハ、全ク並行シタ正比例スル問題デアリマス、是ハ申上ゲルマデモアリマセヌ、国民個々ノ教養ヲ高メ、国民個々ノ文化水準ヲ引上ゲ、国民個々ノ個性ヲ完成スルニアラズンバ、到底善イ意味ノ民主主義ニナレナイト云フコトハ誰ダツテ分ツタコトデアリマス、斯ウシタ日本ノ今日ノ現状カラ考ヘテモ、将来ノ国是カラ考ヘテモ日本ノ伸ビル点カラ考ヘテモ、正ニ教育ノ一章ヲ作リ、更ニ先程モ申シマシタ三ツノ原則ハ必ズ謳ツテ貰ハナケレバナラヌ、又実ハ謳ツテアルデアラウト、此ノ草案ヲ発表サレルマデハ私共、期待シテ居ツタノデアリマスガ、此ノ発表ヲ見テ実ニ失望シマシタ、此ノ失望落胆ハ恐ラク教育関係者ダケデナク、日本国民全体デアルト申上ゲタイノデアリマス、教権ノ確立ノ問題ハ、先程御話ガアリマシタカラ是レ以上申上ゲマセヌガ、今回ノ戦敗ハ日本ガヤルベカラザル戦争ヲヤリ、続クベカラザル戦争ヲ続ケタ其ノ一ツノ素因、根拠ヲ考ヘルト、誤レル教育デアル、教育ヲ誤レル為ニ、軍閥官僚ノ奴隷トナリ財閥ノ走狗トナツタ、是ハ日々四谷ノ東京裁判デ明カニナツタ所デアル‥‥
○芦田委員長　久芳君ニ申上ゲマス、発言中デアリマスガ、ドウカ質問ヲシテ下サイ
○久芳委員　ハイ、其ノ第一ノ問題ヲ考ヘマシテ、此ノ二十四条或ハ其ノ他ノ条ノ何処ニソレヲ認メルコトガ出来ルカト云フコトヲ御尋ネシタイノデアリマス、ソコデ我々ガソレヲ――先程文相ノ御答ヘモアリマシタガ、教権ノ必要ヲ感ジテ居ラレルヤウデアルガ、ソレヲ法律デナク根本原則ニ於テ何処ニ我々ハ発見スルコトガ出来ルカ、ソレヲ伺ツテ安心サシテ戴キタイト思フノデアリマス
○田中国務大臣　草案ノ教育ニ関スル規定ハ甚ダ物足ラナイト云フ御説デゴザイマスガ、教育ノ根本精神ガ、憲法ノ前文ナリ又憲法ノ全精神ニ基イテヤラナケレバナラナイト云フコトハ是ハ自明ノ理デアリマス、所デ教育ニ関スル条文ガ極メテ少イ、又一章ヲ分ケテ特ニ規定サレテナイト云フノハ、教育ノ性質カラシテ理解出来ハシナイカト思フノデアリマス、詰リ憲法ハ国民ノ権利義務ト云フヤウナコトヲ主トシテ規定シテ居ルノデアリマシテ、教育ハ広イ意味ノ文化的活動ニ関シマシテ、宗教ニ付テ、宗教モ非常ニ重要ナ問題デアリマスガ、併シナガラ宗教ニ関スル事柄ハ詰リサウ云フ権利義務ノ関係、公法上ノ権利義務ノ関係ニ接触シテ居ル面ガ極メテ少イ、条文ニ書表ハサウト思ヘバ少イ、私法ノ問題ニナリマスルト、条文ノ数ガ極メテ多イ、又戦争抛棄ナント云フ、是ハ大変ナエライコトデアリマスケレドモ、タツタ一条シカナイ、条文ノ数デ以テ政府ガ教育ヲ重要視スルトカ、或ハ重要視シナイトカ云フ風ニ御覧ニナツテハ我々不満デゴザイマス、随テ教育ニ関スル事柄ハ又実際ノ政策ナリ或ハ教育根本法ト云フヤウナモノニ付テ規定シテモ差支ヘナイ、憲法ニ巨細ニ規定スルト云フコトノミガ、教育ヲ重要視スルト云フ風ニハ我々ハ考ヘテ居ナイノデアリマス
○久芳委員　稍々不満デアリマスガ、度々ノ御答弁デ承ツテ居リマスノデ、是レ以上聴クコトハ出来ヌト思フノデアリマスガ、私ハ必ズシモ章ヲ独立シナケレバナラヌト言フノデナク、其ノ位ノ重要性ガアルト言ツタノデアリマス、尚ホ「信教の自由は、何人に對してもこれを保障する。」或ハ「學間の自由は、これを保障する。」斯ウ云フ程度ノモノハ実ハ出テ居ルノデアリマシテ、私ハ是ト私法ト考ヘ合セテ貰ヒタイト思ツタノデアリマスガ、ソレハ措キマス
　第二番目ハ、恐ラク国民全部ガ翹望シテ居ツタデアラウト思フノハ、教育ノ絶対機会均等――絶対ト云フ言葉ヲ使ヒマスノヲ説明セネバナリマセヌガ、是ハ昨日金森国務相ノ「その能力に應じて、」ト云フ御説明ヲ聴キマシテ、尚ホ失望ヲ深クシタノデアリマス、教育ノ機会均等ハ今日無論能力ニ依リ或ハ男女ニ依ツテ機会均等ニナツテ居リマセヌ、高等女学校ト言ヒナガラ中学校ヨリ程度ガ低イ、尚ホ男子ト女子トハ其ノ関係ニ於テモ設備ニ於テモ機会均等ニナツテ居リマセヌ、又健康ニ依ツテ機会均等ニナツテ居ラナイ、盲唖学校ノ如キハ義務教育ニナツテ居ナイ、其ノ中ノ最モ根本ノモノハ貧富ニ依ツテノ機会均等ノ阻碍デアル、是ハ根本ノ問題デアリマス、寧ロ之ヲ謳フ必要ガアツタノデハナイカ、ソレデ更ニ進ンデ言フナラバ、軍備ナキ今後ノ日本トシテハ、軍備ニ代ル所ノモノハ教育デアル、極端ニ言フナラバ、教育ハ全部国営デ無償デヤルベキダ、本当ノ日本ノ国是ヲ考ヘ、立場ヲ考ヘタラ、サウデハナイカ位ニ考ヘテ居ルノデアリマシテ、二十四条ノ一項ハ機会均等ヲ謳フト云フ御説明デアルケレドモ、私共ノ考ヘテ居ル所ト比ベルト、洵ニ物足ラナサガアルノデアリマシテ、此ノ点今申上ゲタヤウニ本当ニ貧富ノ機会均等デ――育英事業デハナイ、育英事業ニ付テハ今日ヤツテ居ル是モ重大デアルケレドモ、金ガナクテ困ル者ノ教育ダケデハナク、不具者モ普通ノ者モ、少クトモ普通教育ハ全部国費デヤルベキモノデハナイカ位ニ考ヘテ居ルノデアツテ、其ノ点ニ付テ昨日体力、能力ガアルカト云フ御尋ネデアリマシタガ、ソレハナイ、身体、智能デアル、条文カラ言ヘバ寧ロサウ云フ解釈ノ御話デアル、サウ云フ点デ非常ニ不満ヲ持ツテ居ルノデアリマスガ、之ニ付テハ先程モ御尋ネガアツテ、返答ガアリマシタカラ別ニ要求致シマセヌ
　モウ一ツ最後ノ問題ハ、先程申シタヤウニ、本当ニ日本ガ民主主義トナルニモ、新日本ヲ世界ニ意義アル国トスルニモ、国民全体ノ知識、教養、文化ノ向上、之ヲ抜キニシテハ百年河清デアル、此ノ為ニ第二項ニ触レルノデアリマスガ、此ノ二項ハ正ニ逆転デアリ、退嬰デアリマス、是モ少シク論ジタイノデアリマスガ、昨日モ児童ノ意義等ガアリマシタガ、是ハ金森国務相ノ御話デハ、此ノ憲法ハ国民全体誰ガ見テモ分ルヤウニ書イタト云フコトデアツタ、児童ト云ヘバ国民学校ノ児童以外ニハゴザイマセヌ、御承知ノ通リニ国民学校デハ児童ト言ヒ、中等学校デハ生徒ト言ヒ、大学専門学校デハ学生ト言フ、是ガ普通デアル、法規ニモ出テ居ル普通ノ読ミ方デアル、其ノ点カラ考ヘテモ、児童ト言ヘバ今日ノ国民学校、而モ初等科ノヤウナ感ジサヘ受ケルノデアル、英文ノ方ヲ見ルト「チルドレン」トナツテ居ルノデアリマスガ是ハ必ズシモ児童デハナイ、寧ロアノ方ガ範囲ガ広イト思ヒマスガ常識トシテハサウナツテ居ル、初等教育トシテハ広イ意味デハ国民学校デアツテ、是ハ今日サウヤツテ居ル、而モ今日ハソレ以外ニ青年学校ノ男子ガ義務教育ニナツテ居ル、更ニ女子部ヲ二十年、二十一年度ニハ、義務教育トスルト云フ文部省トシテ度々ノ声明ガ出テ居ルノデアリマス、斯ウ云フ点カラ考ヘレバ、是ハ寧ロ逆転デアル、全国ノ教育者、殊ニ青年教育ニ携ハツテ居ル職員共ハ、非常ナ不安ト動揺ト危惧ヲ抱イテ居リマス、中ニハ斯ウ云フ手紙ヲ呉レタ者ガアリマス‥‥
○芦田委員長　度々ノ発言デ恐縮デスガ、其ノ問題ハ先程ノ質問デ出テ、政府カラ答弁モアツテ居リマスカラ、御省略願ヒタイト思ヒマス
○久芳委員　答弁ニアリマシタ中ニ、一昨日ダツタカ、寧ロサウ云フ教育ハ自由教育ノ方ガ宜クハアルマイカト云フ文部大臣ノ御答弁ガアツテ、私ハ意外ニ思ツタノデアリマスガ、之ニ付テ御尋ネシタイト思ヒマス、ソレハ恐ラク中学校、女学校、中等学校ノコトデハアルマイカ青年大衆勤労教育、是ハ文部省ノ十九年度ノ統計ヲ見ルト、約三百万居ルノデアリマス正ニ国民ノ誰モ知ツテ居ルヤウニ義務教育ヲ卒ヘテ残ル者ガ八割以上デアル、此ノ八割以上ノ勤労青年ノ教育ヲ自由教育ニ置イテ、果シテ救ハレルモノデアルカドウカト云フ問題デアリマス、彼等ハ一方ニ職ヲ持ツテ居ル、国家ノ生産ニ直接関与シテ居ル、而モ財的ニ恵マレナイ者ガ多イノデアル、雇傭サレテ居ル者ガ居ル、私ハ此ノ点ハ非常ニ疑問ニ考ヘマシタノデアノ時他ノ方ガ御尋ネニナツタコトヲ疑問ニ感ジタノデアリマスガソレデ果シテ私共ガ願ツテ居ル所ノ青年大衆勤労教育ノ水準ガ上ルモノデアラウカドウカト云フコトデアリマス
○田中国務大臣　御答ヘ申上ゲマス、青年学校教育ノ問題ニ付キマシテハ、政府ト致シマシテ之ヲ義務教育ノ枠カラ外シテ、内容ノ充実ニ依ツテ魅力アラシメルモノトシテ、コチラノ方デ行クベキダト云フヤウナコトヲ考ヘテ居ル訳デハゴザイマセヌ、ソレハ単ニサウ云フ説モアル、今此ノ青年教育ノ問題ニ付キマシテ、色々ト世論ガ盛ンニ起ツテ居リマスガ、是ハ教育刷新委員会デ更ニ十分検討スベキ問題デアリ、サウ云フ一ツノ考ヘ方モアルト云フコトヲ申上ゲタ訳デアリマシテ、政府トシテサウ云フ考ヘヲ支持シテ居ルト云フ訳デハナイト云フコトヲ申上ゲテ置キマス
○久芳委員　ソレデハ最後ニ御尋ネ致シマスガ、先程国民ガ疑惑ヲ持ツテ居ルト云フコトヲ申シマシタ、之ヲ説明シテ置カヌト無責任ニナリマス、勤労青年大衆ニ私共沢山接シテ居リマシテ、沢山ノ意見モ貰ツテ居リマスガ、彼等ハ所謂見方ニ依リマスレバ、国家カラ搾取ヲ受ケテ居ツテ恩恵ヲ受ケテ居ナイ、我々ハ奉仕サセラレテ居ル、現実ノ日本ノ国ノ産業ヲ分担シテ、現実ノ日本ヲ背負ツテ居リナガラ、搾取ダケ受ケテ居ツテ何等恩恵ヲ蒙ツテ居ラナイ、頭ノ良イ青年ハ斯ウ云フ考ヘヲ持ツ者ガ相当アルノデアリマス、是ハ思想的ニ重大ナコトデアルト思フ、御承知ノヤウニ公費ヲ使ツテ居ルノハ、国民学校ハ一人当リ五十四円、中等学校ハ二百十八円、青年学校ハ二十八円デアリマス、而モ是ガ八割以上占メテ居ル、此ノ八割以上ヲ占メテ居ル勤労青年大衆ト云フモノノ思想動向ガ、右スルカ左スルカト云フコトガ、国家ノ興廃並ニ民主主義化ノ遅速ニ如何ニ重大ナ関係ヲ持ツテ居ルカト云フコトハ、識者ヲ俟タズシテ明瞭ナコトデアリマス、ソレ故ニ私ガ疑惑ト言ツタノハソレヲ考ヘテ居ル、新憲法デハ三ツ位ノコトハ最低限トシテナケレバナラヌノニ、文政当局、文部当局ハ能クモ之ヲ原案トシテ認メラレタト云フ所ニ疑惑ガアル、其ノ疑惑ハ何デアルカト云フト、是ハ何等カノ力ニ依ツテ日本ノ教育ト云フモノハ圧制ヲ受ケテ居ルノデハナイカ、制限ヲ受ケテ居ルノデハナイカ、私ノ申シマシタ疑惑ト云フノハソレデアルトサヘ考ヘサセラレテ居ル、退嬰消極的ヨリ寧ロ積極発展的デナケレバナラヌノニ、此ノ章ハ退嬰的ニナツテ居ル、サウ云フ疑惑ガアルガ、是ハ言フ者モ言ハヌ者モアリマス、併シ其ノ疑惑ハ教育関係者ハ殆ド持ツテ居ハシナイカト思フノデアリマス、之ヲ私ハ一ツ御聴キシタイト思ヒマス
○田中国務大臣　只今御述ベニナリマシタ疑惑ト云フコトハ、全ク理由ノナイコトデアリマス
○久芳委員　ソレデハ是デ宜シウゴザイマス
○芦田委員長　左藤義詮君
○左藤委員　只今教権確立ニ付テ文部大臣ノ非常ナ御信念ヲ伺ヒマシタガ、教育ヲ民主化シマス為ニ内閣直属ノ文教指導機関ト云フベキモノヲ設置シテ、教育者ヲ初メ文化各階カラ公選シタ部員ヲ以テ文教ノ根本政策ヲ其処デ決定スル文部省ハ単ニ実施機関タラシメルト云フ御意思ガアリヤナシヤ御伺ヒ致シマス
○田中国務大臣　今後ノ教育実施ニ付キマシテ、政府ハ責任ヲ持ツテ居リマスト同時ニ、ヤハリ文部省モ其ノ責任ヲ負担シテ居ルコトニナルト思フノデアリマス、随テサウ云フ機関ヲ設ケマシテ、其ノ機関ノ方策通リニ文部省ガヤルト云フ訳ニハ参ラナイノデアリマス、唯併シナガラ教育刷新委員会ト云フモノヲ内閣ニ設置致シマシテ、サウシテ各方面ノ教育関係ノ専門家ナリ、ソレニ又各界ノ代表モ加味致シマシテ、近イ内ニ発足致スコトニナツテ居リマス、其ノ顔触レハ従来ノ殊ニ文部省関係ノ委員会トシテアリマシタ所ノ官僚主義的ノモノデハ全クナイト云フコトハ申上ゲルコトガ出来ルト思ツテ居リマス
○左藤委員　内閣直属ノ教学刷新ノ委員会、而モ官僚色ヲ払拭シタモノヲ御作リニナル御意思ヲ伺ヒマシテ、能ク了解致シマシタ
　続イテ地方教育行政デアリマスガ、兎角内務系統ノ官僚ニ依ツテ是ガ動カサレテ居ル、妻モ子供モナイヤウナ三十歳前後ノ若イ官僚ニ依ツテ、三十年、四十年ト教育ニ打込ンデ来タ先生ガ動カサレテ居ルト云フヤウナ此ノ弊ヲ防グ為ニ、各府県毎ニ若シ出来ナケレバ全国ヲ若干ノ教育区ニ区分スル、今専門学校ノ資格審査ハサウ云フ方法デヤツテ居リマスガ、サウ云フ教育区ニ区分シテ、ソコニ地方教育局ヲ設置シテ、文部省カラズツト筋金ノ入ツタ一元的監督ノ下ニ筋ヲ通シテ教権ヲ守ツテ行クト云フ御意思ハアリマセヌデセウカ、御伺ヒ致シマス
○田中国務大臣　其ノ問題ハ、私ハ昨年ノ秋教育局長ヲ拝命致シマシテ以来、絶エズ念頭ニ持チ、又省内デモ研究シテ居ル所デゴザイマス、又「アメリカ」ノ教育使節団ノ残シテ行キマシタ所ノ報告書ニモヤハリサウ云フヤウナ意味合ノコトガ現ハレテ居リマス、文部省ト致シマシテハ、其ノ方面ニ更ニ研究ヲ重ネ、出来ルダケ早ク実現シタイモノデアルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、又只今御述ベニナリマシタ御意見ハ、非常ニ教育界或ハ教育界以外ノ与論ニモナツテ居ルト存ジテ宜イノデハナイカト思ヒマス
○左藤委員　二十四条ヲ徹底致シマス為ニ、只今ノ文部大臣ノ御言明ヲ一日モ早ク御実現ヲ希望致シマス
　次ニ実例ハ省略致シマスガ、我ガ国ノ初等教育ガ振ハナカツタ一ツノ原因ハ視学制度、是ニ癌ガアツタト思ヒマスガ、視学ヲ公選シテ真ニ民主的ニ明朗ニ教学ノ監督ヲスル、斯ウ云フ御意思ガアリマスカドウカ御伺ヒ致シマス
○田中国務大臣　此ノ問題ハ地方教育行政ノ改革、詰リ一般行政カラ地方教育行政ノ分離及ビ中央ノ統制モ緩和スルト云フヤウナ形ニナリマシテ、地方教育行政ガ或ル程度マデノ自由性ヲ獲得スルコトニナリマスルト、自然ニ解決ガ付クコトデハナイカト存ジテ居リマス
○左藤委員　一々力強イ御意見ヲ御示シ載キマシテ安心致シマシタ尚ホ教育勅語ニ付テハ過日此ノ委員会デ御声明ガゴザイマシタガ、御真影ヲ文部省ノ命令デ奉還致シタ侭デ後ノ指示ガゴザイマセヌ、之ヲ今後教育ノ方面デドウ云フ風ニ御考ヘニナリマスカ、ソレト共ニ是ハ学校ダケデナク全国的ナ問題デアリマスガ、祝祭日ノ中ニハ相当神道的ナ、或ハ軍国主義的ナ又科学的ナ歴史カラ見テ、二千六百年トカ云フコトモ考慮スベキ余地ガアルト思ヒマスガ、祝祭日ニ付テハ今後ドウ云フ御方針デアリマスカ、御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣　日本ノ只今置カレテ居リマスル立場ハ、総テ新シキ諸般ノ構想ノ下ニ理想トシテ描イテ居ル国家ヲ一日モ早ク建設スルコトデ、今御示シニナリマシタヤウナ問題モ全部的ニ之ヲ考ヘ直シテ然ルベク正シキ途ニ持ツテ行カナケレバナラヌト思ツテ居リマス
○田中国務大臣　御真影ニ付キマシテハ従来、是モ教育勅語ニ付テト同様デゴザイマスガ、陛下ノ御真影ニ対スル気持ガ、今マデ文部省或ハ日本国民全体ガ考ヘテ来タモノト違ツタモノニナラナケレバナラナイ訳デアリマス、随テ陛下ヲ神様トシテ崇メ奉ルト云フヤウナ態度デハナク、詰リ我等ノ最モ敬愛シ奉ル元首トシテノ意味ニ於キマシテ御真影ニ対スルノガ今後ノ行キ方デナケレバナラヌト存ズルノデアリマス、随テ従来ノヤウナ形デ以テ礼拝ヲスル訳デハナクシテ、日常非常ニ親シミノアル元首ノ御姿トシテ御接シ申上ゲルト云フヤウナ態度デ参リタイト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○左藤委員　「その能力に應じて、」ト云フ此ノ言葉、或ハ「兩性の本質的平等」ト云フ点カラ、女子ノ教育ニ対シテ、男子ニハ官公立ノ大学ガアリマス、女子ニハ一校モアリマセヌ、又私立ノ大学モマダ設立サレテ居リマセヌ、女子教育ノ振興ニ対シテハドウ云フヤウナ御方針デアルカ、又男女ノ共学ト云フコトニ付テモ、文部省ハ将来ドウ云フ風ニ進ンデオイデニナリマスカ、其ノ御方針ヲ承リタイト思ヒマス
○田中国務大臣　女子教育ノ振興ノ必要ナルコトハ申スマデモアリマセヌ、其ノ精神ト致シマシテハ三ツ掲ゲテ居ルノデアリマス、一ツハ教育ノ機会均等、第二ハ男女教育ノ水準化、第三ハ男女間ノ相互尊重ノ念ヲ涵養スルコトデゴザイマス、只今御指摘ノヤウニ、女子ノ大学ガマダナイデハナイカト云フ御話デゴザイマスガ、学校ハ雨後ノ筍ノヤウニ直グ出ルベキモノデハアリマセヌ、ヤハリソレガ本当ノ大学ノ名ニ値スル設備、又人的要素ヲ備ヘタ大学ハ容易ニ出来ルモノデハアリマセヌ、外国等デハ何百年モ掛ツテ一ツノ大学ガ発展シテ参ツタト云フヤウナ歴史モアル訳デアリマス、日本ハソレヲ余リ安価ニ考ヘ過ギテ居ルヤウナ傾向ガアリマス、随テ此ノ際女子教育ヲ本当ニ尊重スルナラバ、女子大学トシテ本当ニ名実伴フヤウナ大学デナケレバナラナイ、ソレニ付キマシテハ、我々ハ辛抱強ク待ツテ居ルヤウナ状態デゴザイマス
　ソレカラ共学ノ問題デアリマスガ、専門教育以上ニ付キマシテハ共学ノ利益ガアツテ弊害ハナイト存ジテ居リマス、併シナガラ中等教育ノ方面マデソレヲ及ボシマスコトハ、是ハ尚早デハナイカト思ヒマス
○左藤委員　過日来宗教教育ノ問題ニモ関係シマシテ、私立学校ノ振興ヲ文部大臣ガ非常ニ期待シテ居ラレルコトヲ伺ヒマシタガ、私立学校ヲドウ云フ方面デ助成シテ行カレルカ、沢山戦災ニモ遭ツテ居リマス、又官公吏ノ待遇改善モゴザイマシタガ、ソレニ伴ツテ私立学校ノ現在ノ授業料程度デ給与ヲ増額シテ行クコトハ非常ニ困難ナ問題ニ打突カツテ居リマス
○芦田委員長　左藤君ニ申上ゲマスガ、文部行政ノ細カイコトハ他ノ機会ニ御譲リ願ヒタイト思ヒマス
○左藤委員　ソレデハ其ノ問題ハ私立学校ノ非常ニ大キナ要望デアリマスガ、他日ノ機会ニ致シマシテ、唯一ツダケ、先ノ委員ノ御質問ニモゴザイマシタガ、地方ノ色々ナ不平ニモ応ヘ、又現在ノ敗戦後ノ色々ナ状況ニ応ズル為ニ、学校ヲモツト地方ニ分散シ、日本文化ノ水準化ト申シマスカ、或ハ地方化ト申シマスカ、サウ云フ方面ニ対シテ文部大臣ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○田中国務大臣　学校ノ地方分散ト云フコトニ付キマシテノ御説ハ今マデ度々承ハツタコトデゴザイマス、此ノ学校ノ国土計画上ノ配置ト云フヤウナコトニ付キマシテハ、今後ノ産業ノ動向等ヲ勘案致シマシテ、文部省ニ於キマシテモ大イニ研究ヲ致シテ居リマス、併シナガラ現在都市ニ存在シテ居ル所ノ大学、専門学校等ヲイキナリ地方ニ持ツテ行クト云フヤウナコトハ、非常ニ困難ナ事情ガゴザイマス、ト申シマスノハ、軍施設等遊休ノ建物ヲ利用シマスノニ付キマシテハ、先ヅ戦災学校ト云フコトヲ考慮ニ入レナケレバナラナイノデアリマス、随テ此ノ戦災学校ノ地方疎開ト云フコトガ第一ニナルノデアリマス、其ノ次ニ詰リ国土計画上多少永久的ノ方策トシテ研究シナケレバナラナイノデアリマス、ソレデ現段階ニ於キマシテハ、御説甚ダ御尤モデアリマスケレドモ、サウ云フ所マデハ参ツテ居ラヌヤウナ次第デゴザイマス
○左藤委員　此ノ問題ニ付キマシテハ、教育ノ機会均等其ノ他ノ意味カラモ非常ニ大事ナ問題ト思ヒマスノデ、蛮勇ヲ振ツテ是非御断行ヲ希望致シテ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長　越原はる君
○越原委員　私此ノ第二十四条ノ第二項、義務教育ニ付キマシテ御質問申上ゲタイコトヲ申出テ置キマシタガ、段々前ノ方カラ、此ノ青年ニ教育ヲ加ヘルコトニ付テノ御質問ガゴザイマシタノデ、丁度国民学校ヲ卒ツタ頃、又高等二年ヲ卒リマシタ頃ノアノ青年ノ心理状態ハ、思想ノ方面カラ申シマシテモ、智的方面カラ申シマシテモ大変動揺ノ激シク、又非常ニ伸ビル時期デゴザイマスノデ、此ノ義務教育ヲ児童ノミニ局限スルコトナシニ、弾力性ヲ持タセテ、青年ノ或ル一定ノ時期マデ延長シテ戴キタイト云フコトヲ希望致ス者デゴザイマスガ、田中文部大臣ノ御答弁ガ段々ゴザイマシタノデ、私ハ希望ニ止メテ置キマス、其ノ代リ一寸三分程、是ハ此ノ条文ニナイカラト仰シヤツテ御叱リヲ受ケルカモ知レマセヌケレドモ、教育機関ニ関係致シマシテ御質問申上ゲタイト存ジマス、ソレハ官公立ノ学校ト私立ノ学校トノ官尊民卑的ナ差別待遇ノ甚ダシイコトデゴザイマス、新生民主主義ニ出発致シマシタ今日、尚ホ此ノ官尊民卑ノ弊風ガ儼トシテ存在致シテ居リマス
○芦田委員長　越原サンノ御発言中デ失礼デアリマスガ、此ノ問題ハ七月五日午後三浦寅之介君ヨリ縷々質問ガゴザイマシタ、之ニ対シテ国務大臣カラ御答弁ニナツテ居リマスノデ、ドウカ七月五日ノ速記録デ御覧ヲ願ヒタイト思ヒマス
○越原委員　ソレデハ兎ニ角私立学校ノ振興ノ為ニ御助成ヲ戴キタイト云フコトヲ此処デ重ネテ御願ヒ申上ゲマシテ、私ノ御話ヲ止メサセテ戴キマス
○芦田委員長　小野孝君
○小野（孝）委員　本条ノ第一項ノ国民ハ能力ニ応ジテ等シク教育ヲ受ケル権利ヲ有スルト云フコトノ半面、国家ニ教育ヲ与ヘル義務ガアルノカナイノカト云フ問ヒニ対シマシテ、昨日国務大臣ハ此ノ権利ニ対応スル義務ハ国家ニナイ、国家ニアルノハ、斯ウ云フ権利ヲ妨ゲナイト云フ消極的ナ義務ガアルダケダト云フ意味ノ御答弁ガアツタヤウニ思フノデアリマス、所ガ本日ニナリマシテ田中文部大臣ヨリ、民法上ノ債権債務関係ノヤウナ義務ハ国家ニハナイガ、教育ノ機会均等ヲ図ル政治上ノ責任ハ政府ニアルト云フ意味ノ御答弁ヲ承ツタノデアリマスガ、其ノ間大変ナ差異ガアルヤウニ感ゼラレマシタノデ、此ノ点ニ付テ金森国務相ヨリ尚ホ一応御説明ヲ承リタイ
○金森国務大臣　憲法ノ正確ナル解釈ノ範囲ニ於テハ、之ニ対シマシテハ国家ハ其ノ権利ヲ妨ゲテハナラヌト云フコトガ要請デアルト思ツテ居リマス、併シ其ノ原理ヲ背景ト致シマシテ、政治的ニ其ノ趣旨ニ合フヤウニ努メテ行クト云フ為ニ、百般ノ方策ヲ執ルト云フコトハ固ヨリ政治的ニ国家ノ行クベキ道ヲ示スモノト思ヒマス
○小野（孝）委員　ソレデハ第二十四条ノ此ノ規定ヲ文字通リニ取ツテ、能力ガアレバ教育ヲ受ケル権利ガ国民ニアル、詰リ能力ガアレバ学資金ガナクテモ教育ハ受ケラレルノダ、言換ヘマスレバ国ガ之ヲ教育シテ呉レルノダ斯ウ云フ規定ト解釈シテ宜シウゴザイマスカ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣　私ハ左様ナ風ニ考ヘテ居リマセヌ、等シク教育ヲ受ケル権利ハアリマス併シナガラ能力ガ足ラナイ者ニハ其ノ能力ニ割合シテ、等シクト云フコトガ変更セラレテモ仕様ガナイ、斯ウ云フ意味ニ解シマス
○小野（孝）委員　ソレハ能ク分リマスガ国ノ方カラ言ヘバ能力ガアレバ能力ニ応ジテ等シク教育ヲ受ケサセル、国民ノ方カラ言ヘバ能力ガアリサヘスレバ、財力ハナクテモ教育ヲ受ケラレルト云フ意味ノ規定デアルカト云フコトヲモウ一遍伺ヒタイ
○金森国務大臣　ソレハ凡ユル条件ヲ無視シテ教育ヲ受ケ得ル権利ガアル、斯ウ云フコトヲ規定シテ居ルノデハアリマセヌ、国家ハ国民ニ等シク教育ヲ受ケル権利ヲ認メル、併シナガラ能力ニ態ジテ等シイト云フコトガ均衡ヲ保タレナケレバナラヌト云フダケノコトデアリマス、随テ財物ノ有無等ハ此ノ問題ニ関係スル所デハナイノデアリマス、別問題ト考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員　ドウモ此ノ点ハツキリ致サヌノデアリマス、「能力に應じて、」ト云フ其ノ能力ノ意義ニ関シテモ昨日問ヒガアリマシテ是ハ其ノ人ノ智的能力及ビ体力能力デアル、随テ財力ト云フ問題ハ此ノ能力ト云フ問題ニハ含マツテ居ラナイ、斯ウ云フ御答弁ガアツタノデアリマス、サウ云フ意味デ此ノ条文ヲ読メバ「その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。」ト云フコトハ、学問ヲスルノニ適当ナ頭脳力ト体力ガアレバ、財力ニハ恵マレナクテモ教育ヲ受ケル権利ガアルノダ、其ノ反面トシテ国家ハ斯ウ云フ人達ニ教育ヲ与ヘル義務ガアルノダ、斯ウ云フ風ニ解釈シテコソ此ノ条ハ意味ガアルノデ、国民一般ハサウ云フ風ニ此ノ条文ヲ読ンデ非常ニ此ノ条文ニ期待シタト思フノデアリマスガ、只今ノ金森国務相ノ御答弁デハ其ノ期待ガ全部裏切ラレタコトニナルノデアリマスガ、モウ一遍ハツキリ御答ヘヲ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　此ノ憲法ノ条文ヲ冷ヤカニ読ンデ戴キマスレバ、国家ハ国民ガ教育ヲ受ケル権利ト云フモノヲ持ツテ居ルノニ対シテ能力ニ応ジテ制限ヲスルコトガアルコトハ已ムヲ得ナイ、ケレドモ等シクト云フ扱ヒハシナケレバナラヌト云フノデアリマス、現実ニ教育ヲ受ケマスルコトニ付テノ諸般ノ条件ヲ総テ国家ガ供給スルト云フコトハ、此ノ憲法ノ中ニハ毫モ含メテ居ナイモノト思ツテ居リマス
○小野（孝）委員　ソレデハ別ノ方面カラ御伺ヒ致シマスガ、第二十五条ノ「すべて國民は、勤勞の權利を有する。」ト云フコトガ問題ニナリマシタ際ニ、是ハ国務相デハアリマセヌデ、政府委員カラデアリマシタガ、此ノ条文ノ当然ノ結果トシテ、国家ハ国民ニ勤労ノ機会ヲ与ヘル義務ガアルノダト解スルト云フ意味ノ御答弁ガアツタノデアリマスガ、ソレヲ国務大臣ハ御認メニナリマセウカ
○金森国務大臣　先ノ条文デアリマスルガ、牽連シテ居リマスカラ御答ヘヲ致シマスルガ、第二十五条ノ第一項ハ、一般ニ国民ハ勤労ノ権利ヲ持ツテ居ルノデアル、国家ハ之ヲ妨ゲテハナラヌ、斯ウ云フ規定デアルト考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員　サウシマスト、先刻ノ政府委員ガ御答ヘニナリマシタ勤労ノ機会ヲ与ヘル義務ヲ国家ガ担フト云フ点ハ誤リデアルト解シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　私ノ信ジマスル所ニ依レバ、私ガ今御答ヘ致シマシタ言葉ト調和スル限度ニ於テ其ノ答ヘハ正シイト思ツテ居リマス
○小野（孝）委員　ソレデハ非常ニ重要ナ御発言ガアツタヤウニ私ハ思フノデアリマスガ、是レ以上質問ヲ続ケルコトヲ私止メマシテ、唯憲法全体ノ組立ノ上デ非常ニ重大ナ御発言ガアツタト云フコトヲ我々銘記致シテ置キタイト存ズルノデアリマス、之ヲ以テ質問ヲ終リマス
○芦田委員長　第二十四条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第二十五条ヲ議題ニ供シマス――木村義雄君
○木村（義）委員　二十五条ノ第二項「兒童は、これを酷使してはならない。」特ニ児童ダケヲ此処ニ用ヒラレマシタ理由ハ何処ニアルノデアリマスカ
○金森国務大臣　酷使シテ宜イモノハ固ヨリゴザイマセヌ、併シナガラ能力ヲ持ツテ居リマスル者ハ詰リ一般社会ニ於キマシテ自発的ニ種々ナル行動ヲナシ得マスル者デアルナラバ、ソレヲ新シキ憲法ノ下ニ於キマシテハ他ノ自由権ノ規定等ニ依リマシテ、適当ニ防禦スル手段ヲ持ツテ居リマス、併シ児童ハソレダケノ十分ナル能力ヲ備ヘテ居リマセヌノデ、ソコデ児童ヲ取立テテ特ニ酷使シテハナラナイ、児童ヲ特ニ保護スル見地カラ此ノ規定ヲ設ケタノデアリマス
○木村（義）委員　ソレデハ児童ノ前身タルベキ胎児ヲオ腹ニ宿シテ居リマスル妊婦及ビ其ノ胎児ヲ分娩致シマシタ産婦ニ対シマスル保護規定ガ此ノ改正ノ憲法ニハ何処ニモ見付カラナイノデアリマスガ是ハドウ云フ訳デアリマスカ
○金森国務大臣　此ノ憲法ニ於キマシテハ、左様ナ場面ハ最モ広キ形ニ於キマシテハ第十二条ニ於キマシテ幸福追求ト云フ言葉ガアル是ハ広イ意味ト解シテ居リマス、其ノ関係ニ於キマシテ立法其ノ他ノ国政ノ上デ最大ノ尊重ヲ必要トスルト云フ言辞ガアル訳デアリマス、更ニ又第二十三条ニ於キマシテ社会ノ福祉、公衆衛生ノ向上ト云フヤウナ点ニ於キマシテ、其ノ観点カラ十分積極的ナル法律ガ立案サレナケレバナラヌト云フ規定ガアリマス、ソレ等ノ中ニ何レモハツキリソレヲ取上ゲテ言ツテ居ル訳デハアリマセヌガ、概括シテ此ノ憲法ガ包容シテ居ル次第デアリマス
○木村（義）委員　サウ致シマスルト、第十二条ノ条文ノ中ニハ、児童ト云フ部面ハ除外サレテ居ルト解釈シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　其ノ趣旨ニ付キマシテハ度々繰返シタト思ツテ居リマスルガ、此ノ憲法ハ或ル場合ニハ原則的ニ規定ヲ致シマス、或ル場合ハ個別的ニ規定ヲ致シマス個別的ニ規定ヲ致シマスノハ特ニソレヲハツキリサセルニ適スル事情ガアルト云フ場合デアリマシテ前ニモ申シマシタヤウニ、児童ト云フモノハ自ラヲ自己ノ力ニ依ツテ保護スルニ不適当ナルモノデアリマス、随テ此ノ場合ニ憲法ハ特ニ之ヲ掲ゲマシテ、陥リ易キ弊害ヲ根絶スル趣旨ヲ以テ規定ヲ設ケタ訳デアリマス、併シ児童ノ規定ヲ設ケタカラ他ノモノノ酷使ヲ是認スルト云フ趣旨ヲ持ツテ居ナイコトハ自ラ御諒解下サルコトガ出来ルト思ヒマス
○木村（義）委員　現在ノ憲法ニ於キマシテハ、無論児童及ビ妊産婦ノ保護規定ガナイノデアリマスルガ、今回此ノ改正憲法ニ於キマシテ「兒童は、これを酷使してはならない。」ト云フ条項ガ入ツタノデアリマスガ、戦争最中ニ於キマシテ此ノ児童ガ酷使サレマシタ為ニ或ハ結核ニナルトカ色々ナ病症ニ悩ンデ居ツタノデアリマス、是ト同ジヤウニ、妊産婦ト云フモノガ一ツモ一般ノ婦人ヤ一般ノ男子ト区別サレズニアリマシタ為ニ、昭和十六年ノ戦争以来、年々流早産ト云フモノガ起ツテ来タノデアリマス、其ノ流早産ノ率ガ年々増シテ来タノデアリマス、又其ノ妊産婦ガ酷使サレマシタ為ニ、母乳ノ乳汁分泌ト云フモノガ減退致シマシテ、延イテ乳幼児ノ死亡率ガ非常ニ増シテ参ツタノデアリマス、又其ノ過労ノ為ニ母体ノ体位ガ非常ニ低下致シタノデアリマス、是等ノ問題ヲ考ヘテ見マスル際ニ我々ト致シマシテハ、此ノ条項ノ中ニ児童及ビ妊産婦ハ酷使シテハナラナイ、斯ウ云フヤウナ修正意見ヲ持ツテ居ル次第デアリマス、特ニ民主主義カラ考ヘテ見マシテモ婦人ノ人口ノ数ハ現在男子ニ比較致シマシテ遥カニ我ガ国デハ多イノデアリマス、其ノ我ガ国ノ全人口ノ過半数ヲ占メテ居リマスル婦人ノ一番大事ナ妊娠、分娩斯ウ云フコトノ保護ヲ要求スルコトハ、婦人ノ当然ノ要求デアルト考ヘルノデアリマス、又妊娠ニ関シマシテハ男子モ共同責任ヲ持ツテ居ルノデアリマスカラシテ、我々男子ノ立場カラ致シマシテモ、其ノカ弱イ婦人ニ対シマシテ保護規定ヲ設ケルト云フコトハ当然ナコトデハナイカト思フノデアリマスガ、私ハ過去二十五箇年ノ間産婦人科専門医ト致シマシテ開業シテ居ルノデアリマス、其ノ意味ニ於キマシテ、科学的ナ良心ニ依リマシテ是非此ノ妊産婦保護規定ヲ此ノ中ニ挿入サレンコトヲ希望致シマシテ質問ヲ打切リタイト思ヒマス
○金森国務大臣　今御話ニナリマシタ点ハ御答ヘヲ御求メニハナラナカツタノデアリマスガ、度々申シマシタヤウニ児童酷使ハ歴史的ニモ、又本人ガ自ラヲ防衛スル力ガ乏シイト云フ点ニモ特ニ考慮ノ必要ガアルカラシテ之ヲ設ケタ訳デアリマス妊産婦ノ勤労ニ関シマシテハ、固ヨリ之ヲ軽視スベキデハナイノデアリマシテ、ソレ等ハ独リ酷使ト云フヤウナ点カラ考ヘルノデハナク、其ノ人ガ勤労ヲ致シマスニ付キマシテ広イ角度カラ之ヲ擁護シ、適正ヲ得ルヤウナ注意ヲシナケレバナラヌト思フノデアリマス、其ノ意味デアリマスカラ、勤労ニ関スル限度ダケニ付テ見マスルト、第二十五条ノ第二項「勤勞條件に關する基準は、法律でこれを定める。」ト云フ規定ガアリマス、其ノ中ニ一応ノ規定ガ編込マレ得ルモノト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　棚橋小虎君
○棚橋委員　先程二十四条ノ質問ニ対シマシテ、関連シテ二十五条ノ勤労ノ権利ト云フコトニ対スル国務大臣ノ御答弁ハ非常ニ不明瞭デアリマシテ、聊カ了解ニ苦シムノデアリマス、勤労ノ権利ト云フコトニ対シマシテ世間普通ニ解釈シテ居リマス所ハ、完全ナル労働ノ能力ガアリ、労働ノ意思ガアルニモ拘ラズ、労働ノ機会ガ与ヘラレナイ為労働スルコトガ出来ナイ是ハ個人ノ責任デナイノデアルカラ、サウ云フ者ニ対シテハ国家ハ労働ノ機会ヲ提供スル、是ガ勤労ノ権利デアル、斯ウ云フ風ニ世間一般ハ解釈シテ居ルノデアリマス然ルニ先程ノ御答弁ニ依リマスト国家ハ個人ガ勤労スルノヲ妨ゲナイ、個人ガ勤労シタイト云フノニ国家ガ之ヲ妨ゲルト云フコトハ従来余リ例ヲ聞カナイコトデアリマス、ソレヲ特ニ斯ウ云フ風ナ文句ヲ以テ規定サレテ居ルト云フコトハ意味ヲ成サナイコトデハナイカト考ヘルノデアリマス、此ノ点ハ重複スル質問カモ知レマセヌケレドモ、第二十五条ノ論議ヲ進メテ行ク上ニ於キマシテノ最モ大事ナ基本的ナ質問デアリマスルカラ、此ノ点ニ付テモウ一回国務大臣ノ御意見ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣　ココニ申シマシタ第二十五条ノ勤労ノ権利ト申シマスルモノハ、国家ハ国民ガ勤労ヲスルト云フコトヲ権利トシテ承認スルト云フ言葉デアルニ相違ハアリマセヌ、併シナガラ其ノ勤労ノ権利ト云フモノノ中味ガ具体的ニハ何デアルカト申シマスルコトハ多分「ソ」連ノ憲法等デアリマセウガ、勤労ノ権利ヲ保障スル為ニ第二段、第三段ノ規定ヲ設ケマスレバ、ソレハ非常ニ具体化サレテ来ル訳デアリマス、併シナガラ此ノ憲法ニ於キマシテハソコマデノ態度ハ執ツテ居リマセヌ、働カント欲スル者ノ権利ヲ国法的ニ確認スルト云フダケデアリマス、随ツテ其ノ権利ガ具体的ニ現ハレテ来マス形ハ、他ノ条文ト総合シテ解決シナケレバナラヌノデアリマス既ニ勤労ノ権利ト云フモノヲ国家ガ確認ヲ致シマシタ限リ、ソレニ附随シテ第二十五条ノ第二項等ノ規定モ必要トナツテ来ルノデアリマスルシ、第二十六条ノ勤労者ノ団結権ノ如キモノモ之ニ附随シテ是ト相伴ツテ具体化サレテ来ル訳デアリマス、或ハ又第二十三条等ニ於キマシテ特ニ勤労者ノ種々ナル生活保障或ハ衛生問題ト云フモノモ現ハレテ来ル訳デアリマス、唯二十五条ノ第一条ニ認メマシタ勤労ノ権利ヲ本体トシテ、国家ガ之ヲ規定ノ上ニ認メタト云フダケデアリマスルガ、其ノ内容ガ勤労ニ関スル他ノ附随的ナ権利ヲ何処マデハツキリ認メテ居ルカト云フコトハココニハ明カニ現ハレテ居リマセヌ、ソレハ今後発展致シマスル諸般ノ立法ニ依ツテ実質ガ段々完備サレテ来ルト思フノデアリマス、少クトモハツキリ言ヒ得マスノハ、従来動モスレバ或ル場合ニ人ノ勤労ヲ妨ゲルヤウナ行動ガアツタノデハナカラウカ、具体的ニアツタカドウカハ、ソレハ確認ハ出来マセヌガ、少クトモ或ル種類ノ人々ニ勤労ヲ妨ゲルヤウナ嫌ヒガアツタノデハナイカト思フノデアリマス、ソレヲ封建時代ノヤウナ所マデ持ツテ行ツテ例ヲ挙ゲマスレバ山程アリマス、近代ニ於キマシテハサウ云フモノハ極メテ稀有ナモノデアリマセウ、併シナガラ盲目ノ方々ガ或ル職業ハ自分ニ与ヘヨ、目明キニハ其ノ職業ヲ与フルナ、或ハ又助産ノヤウナ仕事、或ル人々ハソレヲ或ル特殊ナ人々ノ勤労ノ範囲ニ属セシメル、ソレヲ一般ノ人ノ勤労ノ範囲ニ属セシメテハナラヌト云フコトガアリマシタ、サウ云ウコトヲ若シモ国家ガ規定致シマシタナラバ、明白ニ此ノ規定ニ違反スルデアラウト考ヘテ居リマス
○棚橋委員　色々御説明ガアリマシタガ、依然トシテ私ノ不満ハ解消サレナイノデアリマス、併シ此ノ問題ニ付テ尚ホ論議スルコトハ是デ止メテ置キマス其ノ次ニハ勤労ノ義務ト云フコトデアリマスガ世ノ中ニハ勤労ノ能力モアリ勤労ノ意思モアツテ、而モ勤労ノ機会ヲ与ヘラレナイ為ニ、生活ノ保障ヲ得ルコトガ出来ナイ、サウ云フモノガ存在シテ居ルガ、又反対ニ完全ニ勤労ノ能力ヲ持ツテ居ル、併シ勤労ノ意思ヲ有シナイ、又ハ労働セズニモ生活スルコトノ出来ル資力ヲ持ツテ居レガ為ニ、敢テ勤労スルコトヲシナイト云フ人々モ存在シテ居ルノデアリマス「ドイツ」ノ民法等ヲ見マスト、総テノ「ドイツ」人ハ其ノ精神的及ビ肉体的ノ力ヲ社会公共ノ利益ノ為ニ提供活用スベキ義務ガアル、斯ウ云フコトヲ申シテ居リマスガ、私ハ是ハ今日ノ日本ノ国情ニアツテハ殊ニ大切ナコトデハナイカト考ヘルノデアリマス、我ガ国ノ現状カラ申シマスト、国民ノ生活ニ必要ナ食糧スラモ、今日コトヲ欠イテ居ルノデアリマシテ、オ互ヒニ其乏シキヲ分チ合ツテ、サウシテ生活ヲシテ行カナケレバナラヌ状態ニアルノデアリマス、然ルニ自分ハ完全ナ労働能力ヲ有シナガラ其ノ少イ食糧ヲ分チアツテ食ベル生活資料ヲ消費シテ居リナガラ自分ノ労力ヲ国家、社会ニ提供シテ此ノ社会ニ寄与スルコトヲシナイデ漫然ト暮シテ居ルト云フコトハ、社会正義ノ上カラ申シマシテモ許スコトガ出来ナイ、又国民経済ノ上カラ申シマシテモ許スコトノ出来ナイコトデアルト考ヘルノデアリマス、又我ガ国ハ敗戦ノ結果、今日非常ナ打撃ヲ被ツテ居ルノデアリマスガ、此ノ状態カラ起チ上ツテ国家ヲ再建スル為ニハ、国民ノ大キナ努力、献身ヲ要求シナケレバナラヌノデアリマスケレドモ、其ノ国民ハ今日道義的ニハ非常ニ低下シテ居ル責任観念ハ地ヲ払ツテ居ル、利己的ナ考ヘガ社会全般ニ横行シテ居ル、此ノ国民ノ精神ヲ振作、作興シテ行カナケレバ、我ガ国ノ再建ハ難カシイノデアリマス、此ノ秋ニ方リマシテ国民皆労ノ原則ヲ憲法ニ明カニ掲ゲマシテ、国民精神ノ緊張ヲ図ルト云フコトハ、此ノ点カラ考ヘマシテモ、国民ニ勤労ノ義務ヲ課スルト云フコトハ大切ナコトデアルト考ヘルノデアリマス、此ノ点ニ関スル国務大臣ノ御考ヘヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣　御説ノアル所ハ能ク了承致シマシタ、私モモノノ原理ニ於キマシテ左様ナ考ヘガ十分尊重サルベキモノト思ツテ居リマス、併シナガラ此ノ憲法ノ建前ハ、第二十五条ニ於キマシテ、我ガ国民ハ勤労ノ権利ヲ有スルト云フ根本ノ原理ヲハツキリ認メマスト同時ニ、憲法ノ第十一条ニ於キマシテ、斯様ナ権利ハ一面ニ於テ濫用シテハナラヌト云フコトト同時ニ、之ヲ利用スル責任ヲ持ツテ居ル、即チ権利ヲ持ツト同時ニ、其ノ国民ノ権利ヲ公共ノ福祉ノ為ニ之ヲ利用スル責任ヲ持ツテ居ルト云フ風ニ書イテアリマス、随テ権利ニ対スル規定ト、第十一条ノ規定ト相承ケマシテ、国民全般ガ公共ノ為ニスル奉仕ノ責任ヲ負フト云フコトハ明カニナツテ居ルト信ジテ居リマス
○棚橋委員　私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長　越原はる君
○越原委員　私ハ第二十五条ニ於キマシテ「すべて國民は勤勞の權利を有する。」ト云フコトニ付キマシテ、男女ノ性別ニ依ルコトナクシテ同一労働ニ対スル其ノ能力、能率ニ応ジタ同一労働賃金、俸給ヲ受ケルコトノ権利、ソレト同様ニ其ノ能力ニ応ジタ職業、地位ニ就クコトノ権利ト云フヤウナコトニ付テノ明文ガ欲シイト存ジマス何ト申シマシテモ男尊天卑ト云フヤウナ封建的戒律ガ儼トシテ残ツテ居リマスノデ、女子デアルガ故ニ謂ハレモナイ労働賃金、俸給ノ差別待遇、又女子デアルガ故ニ能力ニ相応シイ地位、職業ニ就クコトガ出来ナイ、中ニハ門戸サヘモ開カレナイト云フヤウナ現状デゴザイマスノデ、私ハ速カニ此ノ差別ヲ廃シ、憲法ニ明文ヲ確立サレタイト希望致スモノデゴザイマスガ、此ノ点金森国務大臣ノ御意向ヲ伺ヒタイト存ジマス
○金森国務大臣　勤労ノ権利ヲ基本ト致シマシテノ色々ナ条件ニ付キマシテ、両性ノ差別ヲ実際経済界ニ於キマシテ正視シテ、婦人ニ特ニ不利益ニナラナイヤウニスルコトハ御尤モデアリマス、併シ今仰セニナリマシタヤウニ、或ハ私ノ聴違ヘカモ知レマセヌケレドモ客観的ナ平等ヲ確保スルヤウニ致シマスコトニ付テハ、恐ラク色々ナ議論ガ之ヲ中心トシテ発生シ得ルノデアリマシテ、今後十分論究シナケレバナラヌ点ト思フノデアリマス、此ノ憲法ハ左様ナ、今後精密ニ熱心ニ論議シナケレバナラヌ問題ヲ直チニ取入レルコトハ之ヲ避ケマシテ、勤労条件ニ関スル基準ハ法律デ之ヲ定メルト致シマシテ、其ノ勤労条件ヲ法律デ定メマスル場合ニ、ソレ等ノコトガ無理ナク適切ニ決メラレテ行クト云フ予想ヲシテ居ル訳デアリマス
○越原委員　只今仰セラレマシタヤウニ、法律ノ上ニ於テ母子ノコト、只今ノ平等ノコトナド色々細カニ立法遊バシテ戴キマスコトハ洵ニ有難イコトデゴザイマスガ、ソレニ付テ司法大臣ニ御伺ヒ致シマス、昨日此ノ立法ノ立案ノ中ヘ女性ノ参画ト云フコトニ付キマシテ、女性ノ本質ハ女性ノミ知ルト云フヤウナ立場カラ、是非共参画サセテ戴キタイノデゴザイマスガ是ハ一般ノ婦人デハナクシテ、婦人代議士ノ中カラ代表者ヲ選ンデ参画サセテ戴キマス御意思ハゴザイマセヌカト云フコトヲ御尋ネ致シマシタ時ニ、既ニ参画シテ居ルト云フ御答ヘデゴザイマシタガ、婦人代議士中カラハ参画シテ居ナイノデハナイカト存ジマスガ、此ノ点ハ如何デゴザイマセウカ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス既ニ参画シテ戴ク手続ハ執ツテ居リマス、御安心下サイ
○越原委員　私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長　午後ハ一時半ヨリ開会致シマス、是ニテ休憩致シマス
　　午前十一時五十九分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　午後一時四十五分開議
○芦田委員長　休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――酒井俊雄君
○酒井委員　二十五条ノ一項ニ付キマシテ、本日金森国務大臣ノ御答弁ヲ聴キマシテ、私ハ立ツテ居ル大地ガ崩レルヤウニ驚イタノデアリマス、ト申シマスルノハ、先日総体質問ノ時ニ私ガ厚生大臣ニ対シマシテ此ノ第一項ニ付テ其ノ説明ヲ求メタノデアリマス、其ノ時私ガ質問致シマシタ言葉ハ、此ノ二十五条第一項ノ勤労ノ権利ト云フコトノ意味ハ、勤労ノ機会ヲ国民ガ得ル権利ガ含マレテ居ルカドウカ、反面カラ言ヒマスト、国家ハ国民ニ対シテ勤労ノ機会ヲ与ヘル義務ヲ有スルカドウカト云フ風ニハツキリト私ハ質問ヲ致シマシタ、勤労ノ機会ヲ得ル権利ト云フコトニナリマスト、本日ノ国務大臣ノ御答弁トハ全然内容ガ懸離レテ来ルノデアリマス、厚生大臣ハ其ノ時欠席サレテ政府委員ノ人ガ答弁ヲサレマシタ、勤労ノ機会ヲ得ル権利ヲ国民ハ保障サレルトハツキリ、答弁ヲサレマシタ、速記録ニハ恐ラク其ノ通リ残ツテ居ルト思ヒマス、私ノ質問シマシタ質問ノ原稿ガ其ノ侭アリマスカラ質問シマシタ言葉モ間違ヒナイノデアリマス、勤労ノ機会ヲ勤労者ニ対シテ与ヘル、其ノ意味ヲ此ノ権利ノ内容ノ中ニ含ムト云フ御答弁ガアリマシタノデ、一般ノ勤労階級ノ人ハ実ニ心強ク感ジマシタ若シモ失業デモシテ居リマスレバ国家ニ対シテ勤労ノ機会ヲ与ヘテ貰フ権利ノ主張ガ出来ルノデアリマシテ、政府ト致シマシテ失業者ニ対シテ勤労ノ機会ヲ与ヘナカツタナラバ、サウ云フ方策、政治ヲシナカツタナラバ憲法違反ニナルノデアリマス、ダカラ国民ノ中勤労大衆ト云フモノハ、其ノ御答弁ヲ聴キマシテ非常ニ心強ク感ジテ居リマス、勿論憲法ハ単ナル文理ノ解釈、文字ノ解釈ダケヂヤナイノデアリマシテ、立案サレマシタ所ノ政府ノ其ノ起草サレタ意思ト云フモノガ、此ノ憲法ヲ解釈スルニ当リ運用スルニ当ツテ、重要ナル役割ヲスルト云フコトハ、私ガ申上ゲルマデモナイコトデアリマス、サウ云フ風ニ勤労ノ機会ヲ与ヘル権利ガ之ニ含マレルト云フ御答弁、御解釈、サウ云フ意思デ以テ立案シテ下サツタト云フコトニ実ニ民主憲法トシテノ立派ナモノガ出来タ、其ノ期待ト喜ビト云フモノハ実ニ大ナルモノガアツタノデアリマスルガ、夢ニモ思ハヌ、今日ノ金森国務相ノ御答弁ニ依リマスルト、斯カル保障ハ此ノ憲法自体デハ与ヘテ居ナイト云フ話デアリマシタ、何ト申シマスルカ、私ハ本当ニ眩ヒノスル程驚イタノデアリマス、ソコデ勿論政府ノ御意思ガ二ツ対立シテ居ルトハ考ヘマセヌシ、一体其ノ何レニ之ヲ我々ハ受取ツテ宜イモノカドウカ、今更サウ云フ権利ハ含マレテ居ナイト云フノデ唯突刎ネラレテハ、私共実ニ国民ノ大キナ期待ニ対シテ失望落胆ト申シマスルカ、寧ロ勤労大衆ニ取ツテハ、是ハ生命ニ関スルヤウナ重要ナ問題ダト思ヒマスルガ、如何ニ解釈シタラ宜シウゴザイマスカ、ドウカ政府ト致シマシテ統一シ責任ノアル御答弁ガ願ヒタイト思ヒマス
○芦田委員長　政府ニ申シマス、此ノ問題ハ本日午前中ニモ他ノ委員ヨリ質問ガアリマシテ、委員長ノ了解シテ居ル所デハ、政府ノ答弁ニ統一ヲ欠イテ居ルト云フ問題デアリマス、就キマシテハ其ノ点ニ対スル政府ノ見解ヲハツキリ御決定ニナツテ、明日ニデモ適当ナ機会ニ此ノ委員会ニ於テ表明セラレンコトヲ希望致シマス
○酒井委員　一寸委員長ニ御願ヒシタイノデスガ、此ノ問題ハ実ニ勤労大衆ト云フモノニ取ツテ由々シキ大事ナ問題ダト考ヘテ居リマス、ダカラ委員長ガ勿論権限ハアルデアリマセウケレドモ、委員長トシテノ御資格ノ御意見カ私ノ意見カハ知リマセヌケレドモ‥‥
○芦田委員長　御答ヘ致シマス、是ハ今朝ノ質問ノ際ニ、金森国務大臣ハ答弁ヲシテ居ラレマス、サウシテ違ツタ答弁ヲ与ヘラレタト云フ厚生大臣ハ此処ニ出席シテ居ラレマセヌ、随テアナタノ質問ニ対シテ金森国務大臣ノ答ヘラレルコトハ、午前中ノ答弁ト変化ハナイト私ハ思ヒマス、ソレナラバ繰返シテ答弁ヲ御聴キニナツテモ問題ノ解決ニハナラナイノデアルカラ、政府ニ於テ二十五条ノ解釈ヲハツキリ御決定ニナツタ上デ、是ガ統一シタ答弁ダト云フコトヲ委員会ニ御報告ニナラナイ限リ、問題ノ解決ハナイト思ヒマス
○酒井委員　推シテ御願ヒヲスルヤウデスケレドモ、金森国務大臣ノ御答弁カ午前中ト同ジダト云フコトハ委員長ノ独断ヂヤアリマセヌカ
○芦田委員長　ソレハ併シ普通ノ常識トシテハ、憲法解釈ニ付テ一時間ヤ二時間ノ間ニ変化ガアルトハ私ハ考ヘマセヌ
○酒井委員　併シ原則バカリデ世ノ中ト云フモノハ通ル訳ヂヤアリマセヌカラ‥‥
○芦田委員長　是レ以上議論スル必要ハアリマセヌ
○酒井委員　已ムヲ得マセヌ、次ニ第二項ニ付テ質問申上ゲマス、「賃金、就業時間その他の勤勞條件に關する基準」トアリマス「その他の勤勞條件」ト云フモノハ、是ハ具体的ニ言ヒマスルト、結局如何ナルモノカ、大体其ノ他一切ト云フコトニナルデアリマセウカ予測ヲサレテココニ書イテゴザイマスルカ、御答弁願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　勤労条件ハ、是ハ固ヨリ言葉ノ示ス最広義ニ解釈シテ戴キタイト思ヒマスルガ、例ヘバ就業ノ場所ノ如キ、男女両性ノ差異ヨリ来ル諸般ノ問題ノ如キ或ハ昼夜ノ区別カラ起ル勤労ノ問題ノ如キ、凡ソ此ノ文字ノ含ム一切ノモノヲ指ス意味ヲ以テ用ヒテ居リマス
○酒井委員　賃金、就業時間トアリマスルカラ、大体賃金労働、或ハ俸給者ノ労働ト云フヤウニ、労働ニ対スル規定デアルト云フコトハハツキリシテ居リマス、併シ此ノ第二項ノ保障ハ、所謂、自由労働者ト申シマスカ、農夫或ハ漁夫サウ云ツタヤウナ人々ニ対スル或ル種ノ労働条件ノ保障ト云フヤウナ意味ハ含マレテ居ラナイモノカドウカト云フコトヲ御伺ヒシタイ
○金森国務大臣　観念的ニハ含マレテ居リマス、是ハ現ニ厚生省所管ニ於テ、専ラ具体的ナ方法ハ今マデ出来上ツテ居リマスモノノ外ニ、尚ホ完備スルコトヲ努力中デアリマス
○酒井委員　能ク御趣旨ハ了解シタノデアリマスガ、ソコデ曽テ農奴ダト言ハレタ程惨メナ勤労ヲサセラレ、大キナ搾取サレタ生活ヲシテ参リマシタ農民大衆ノ其ノ労働ニ対スル一ツノ保障、サウ云フ点ニ付キマシテ、此ノ第二項ハ大キク役立テナケレバナラヌシ、又ソレ等ノ曽テ立派ナ人格ヲ持チナガラ奴隷ニモ等シイ生活ヲシテ来タ人々ノ保障、生活権或ハ其ノ他一般ノ人間ラシイ生活ヲスルコトノ保障ガ之ニ依ツテ生レルト云フコトハ甚ダ結構デアリマス、私共之ヲ望ンデ居ツタノデアリマスガ事実ハ是ノ運営ガ如何ニナサレルカト云フコトガ非常ナル問題デアル、ト云フノハ其ノ勤労条件ニ関スル基準トダケアリマシテ、斯ウシタ悲惨ナ生活ヲシテ来タ人々ノ具体的ナル保障ノ基準ガココニ現ハレテ居ナイノデアリマス、現ニ食糧緊急措置令ノ事後承諾ノ問題ナドヲ政府ハ出シテ居ラレマスガ、アア云フモノヲ見マシテモ、勿論農村ノ持テルモノハ出セルダケ出ス、国ノ為メダト云フ気分ハ十分持ツテ居ルノデアリマスガ、此ノ憲法ヲ作リツツアルオ互ヒ、其ノ中ノ政府ガ強権ヲ以テ尚ホ此ノ農民ニ臨ムト云フヤウナ実際ノ態度ト云フモノト憲法ノ精神ト云フモノハ事実懸離レテ行ツテ居ル、斯ウ云フヤウナコトガ曽テノ政治ノ重大ナル欠陥デアツタト云フコトハ、今更申上ゲルマデモナイノデアリマス、斯ウ云フ点ニ於キマシテ、此ノ条文ヲ活カシテ、サウシタ具体的ナル面ニ法律ノ保護ヲ与ヘル、法律デ以テ之ヲ保護スルト云フ用意ガアルノデゴザイマセウカ、如何デゴザイマスカ
○金森国務大臣　第二十五条ノ第二項ハ言葉ノ示スガ如ク雇用ノ関係ヲ基礎トシテ是ハ出来テ居ル、今仰セニナリマシタ農民大衆ノ生産シタル所ノ産物ヲ、国家ノ目的ニ導キ来ル為ニ強権ヲ用ユルカドウカト云フコトハ、此ノ憲法ノ此ノ条文ノ第二項ノ触レテ居ル所デハアリマセヌ、一般ノ法律問題トシテ解決スベキモノト考ヘテ居リマス
○酒井委員　サウ致シマスト私ガ聴違ヘタカモ分リマセヌガ、賃金トカ或ハ給料其ノ他ノ年貢米ヲ納メルトカ云フ所謂労資ノ関係、雇用ノ関係ノミヲ規定スルモノカ、サウデナク自由労働ニ対シテモ保障サレルカト云フコトヲ最初ニ御伺ヒシタノデアリマスガ、其ノ時ニ国務大臣ハ自由労働者、農民ナドニ付テモ保障ハサレルト云フコトガ内容ニナツテ居ルト云フ御答ヘデアリマシタガ、是ハ私ノ誤解デアリマスルカ、国務相ノ御考ヘヲモウ一度御聴カセ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　ソレハ或ハ私ノ誤解デアルカモ知レマセヌ、第二十五条ノ第二項「賃金、就業時間」ト云フ書出シカラ此ノ勤労条件ト云フ言葉ヲハツキリト言ツテ居リマスガ故ニ、勤労ヲ求ムル者及ビ勤労スル者ノ間ニ於ケル条件ト考ヘテ居リマス、其ノ意味ヲ以テ御答ヘヲシタノデアリマスガ、或ハ私ノ誤解デモアリマセウ、御考ヘニナツテ居ル所ト違ツタコトヲ申シタカモ知レマセヌ
○酒井委員　賃金ト就業時間ダケハ規定ヲサレテ居リマスガ、「その他の勤勞條件」ノ中ニ休養時間其ノ他外国ノ立法例ヲ見マシテモゴザイマスル重要ナ色々ナ項目デココニ省カレテ居ルモノガ沢山ゴザイマスガ、将来ノ議会ガ真ニ勤労大衆ノ総意ヲ酌ンデ活躍スルト云フコトヲ予測シタ時ニハ、此ノ二項ダケ上ツテ居ツテアトハ「その他の勤勞條件」ノ中ニ入ルヂヤナイカト云フコトデモ結構ダト云フコトニナリマスガ、「その他の勤勞條件」ノ内容ガココニゴザイマセヌ以上ハ、時ノ流レ、時代ノ移リニ依リマシテ、又如何ナルココニ議会ノ立法方針ガ変革シテ来ルカドウカト云フコトハ保証ガ出来ナイノデアリマス、勿論憲法全体ノ精神カラ言ヒマスト、平和ト自由ト而モ個人ノ基本権利ヲ護ルト云フヤウナコトハ不変ノ権利デアリ基本ノ権利ト云フコトハハツキリアリマスガ、規則ニ如何ニアリマシテモ運営ト規則ハ中々一致シナイモノデアリマス、アノ東條内閣ノ当時デモ議会ガ真ニ運営シヨウト思ヘバ、何モ官僚ニ引張ラレナクテモ議会ハ議会トシテ、独自ノ権限ガ揮ヘタ筈デアリマスガ、一モ二モナク満場一致デ手ヲ叩クト云フヤウナダラシナイ醜態ヲ演ジテ参リマシタ、過去ノサウ云フ歴史ヲ振返ツテ見マス時ニ、幸ヒ今コソ斯ウシタ事情ノ下ニアル此ノ時デアリマスカラ、大衆勤労階級ノ保障ハ大イニ叫バレ、大イニ斯ウ云フ空気ノ中デハ運用サレルト思ヒマスガ、時代ノ変革ト云フヤウナモノヲ考ヘマス時ニハ、ヤハリ之ニ等シイ、寧ロ是レ以上ノ重要ナ条項、是ハ他ノ問題ト違フノデアリマシテ、勤労大衆ヲ相手ニスル所ノ、日本国民ノ大部分ノ者ノ幸福カ或ハ不幸カト云フコトニ関スル重要ナ規定デアリマスカラソレヲ何カ是ニ具体的ニ表ハスト云フヤウナ御用意ハナイデアリマセウカ
○金森国務大臣　私ハ率直ニ御答ヘヲ申シマスガ、社会的ナ、問題ニ付キマシテノ日本ノ将来ノ前途ハ相当変化シ、発達スベキモノト考ヘテ居リマス、随テ今日ソレニ対シマシテ、今ノ現在ノ空気ダケデ固定的ニ規定スルコトハ成ルベク避ケタ方ガ宜イノデアリマシテ、出来ルダケ弾力性アル取扱方ヲ以テ戦後ノ豊カナル発展ヲ期待スル方ガ好マシイト思ツテ居リマス、此ノ憲法ノ建前ハ度々繰返シテ申シマシテ恐縮デアリマスケレドモ先ヅハツキリ国民ノ間ニ異議ナク基盤ノ出来テ居ルト思ハレルモノニ付キマシテハ、ハツキリシタ規定ヲ設ケマシテ、将来ノ進展ニ依リマシテ今之ヲ具体化スルニ適シナイモノハ、之ヲ立法上特別ナル注意ヲ施シ、或ハ之ヲ広イ文字ヲ使ツテ具体的ノ内容ヲ法律ニ任ス斯ウ云フ態度デアリマス、随テ第二十五条第二項ノ如キ其ノ趣旨ヲ考ヘテ広イ言葉ヲ使ツタノデアリマシテ、時代時代ノ思想ニ依リマシテ其ノ中味ガ其ノ時ニ最モ適合スルヤウニ、充実セラレルヤウ期待シテ居ル次第デアリマス
○酒井委員　第二十五条第一項ノ御答弁ヲ待ツコトニ致シマシテ、其ノ御答弁ノ結果デ又質問サセテ貰フト云フコトニ致シマシテ、私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長　第二十五条ニ対スル質疑ハ一応終了致シマシタ、次ニ第二十六条ヲ議題ニ供シマス松澤兼人君
○松澤（兼）委員　此ノ第二十六条ノ規定ハ前条ノ勤労観ノ規定ト同様ニ、憲法ノ全体ノ上カラ申シマシテモ非常ニ進歩的規定デアル、斯様ニ考ヘルノデアリマス、サウシテ又他ノ第三章ニ規定サレテアリマス国民ノ権利義務ハ、主トシテ個人ノ権利義務デアルト云フヤウニ考ヘラレマスノニ反シマシテ、二十六条ハ勤労者ノ団体的ノ権利トシテ組合ヲ作ル権利、団体交渉権、其ノ他団体行動ヲスル権利ト云フモノガ憲法ニ依ツテ保障セラレルト云フコトニナツタノデアリマシテ、是ハ確カニ勤労階級ニ対スル一大福音デナケレバナラナイト考ヘテ居ルノデアリマス、就キマシテハ此ノ条文ニ関連シマシテ二、三ノ点ヲ御質問申上ゲルノデアリマス、ソレハ同ジ権利ノ保障デアリマシテモ、他ノ条文ト照合セテ考ヘテ見マスト、中ニハ、例ヘバ「公共の福祉に反しない限り、」トカ或ハ「法律の定めるところにより、」トカ云フヤウナ謂ハバ条件ノ附イテ居ル条文ガアリ或ハ其ノ他「學問の自由は、これを保障する。」ト云ツタヤウナ何等ノ制限ナク述ベラレテ居ル条文モアルノデアリマス、法律ノ技術的ナ点カラ考ヘテ見マシテ、他ニ「公共の福祉」デアルトカ「法律の定めるところ」ト云フヤウナ条件ノアルモノヨリハ、寧ロナイモノノ方ガ非常ニ重サニ於テ重イモノデアルト云フヤウニ了解セラレルノデアリマスガ、ソレハ単ニ言葉ノ使ヒ方ダケデアツテ、内容ニ於テハ少シモサウ云フ相違ガナイノデアリマスカ、如何カト云フコトヲ御聴キシタイノデアリマス、尚ホソレニ関連シマシテ、唯「すべて國民は、勤勞の權利を有する。」斯ウ書イテアル条文ト「學問の自由は、これを保障する。」ト書イテアル条文及ビ二十六条ノ是レ是レノ「權利は、これを保障する。」斯ウ書イテアリマス、詰リ「保障する。」ト書イテアリマスモノト、単ニ「權利を有する。」ト書イテアリマスモノトノ間ニ於ケル法律技術ノ点ニ付キマシテ、重サノ相違ガアルノデアリマスカ此ノ点ヲ御聴キ致シタイノデアリマス
○金森国務大臣　此ノ憲法ノ各権利ヲ定メマスル場合ニ、「公共の福祉」ト云フ言葉ヲ使ツテ居ルモノハ、寧ロ稀デアリマス、大体ニ於キマシテハ、公共ノ福祉ト云フ特別ナル制限的ナ言葉ハ挟ンデ居リマセヌ、第二十条ノ如キハ、之ヲ特殊ナル理由ニ依ツテ、誤解ヲ防グ為ニ入レテ居ルノデ、其ノ他ハ入レテ居リマセヌ、随テ其ノ言葉ガアルトナイトハ、其ノ権利ヲ尊重スル意味ガ深イカ浅イカト云フコトノ限定ニハナラナイノデアリマス、第二十七条ノ第二項ノ「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、」ト斯ウ書イテアリマスガ、之ヲ抜イテシマフト全体ノ意味ガナクナルノデアリマス、財産権ハドウ云フ風ニ中味ヲ決メルカ、公共ノ福祉ニ適合スルヤウニ決メルノダト云フノデ、絶対ニ抜クベカラザル意味ガアリマスルカラ、其ノ字ヲ入レタノデアリマス、第二十条ノ「公共の福祉に反しない限り、」ト申シマシタガ、居住移転及ビ職業選択ナドニ付キマシテハドウカト言ヒマスト公共ノ福祉ニ反スルカ反シナイカガ、真正面カラ問題ニナツテ来マシテ、之ヲ書放シニ致シマスト、頗ル意外ノ感ヲ起ス虞ガアリマスルカラ、権利自身ガ初メカラ公共ノ枠ニ入ツテ居ルト云フコトヲ力説シタ訳デアリマス、其ノ他ノ権利ニ於キマシテハ、権利トシテハ裸デ認ムルケレドモ、之ヲ用フル段階ニ於キマシテハ、第十一条ノ規定ニ依リマシテ、自ラココニ枠ガアル、其ノ枠ハ何カト言ヘバ公共ノ福祉ト云フ枠デアル、斯ウ云フコトニナリマス、大体ニ於テ意味ハ同ジヤウニ考ヘテ宜カラウト思ヒマス、唯各条文毎ニ多少ノ心持ト云フモノハ幾ラカ違ツテ居リマス、ソレカラ「保障する。」ト書イタノト「權利を有する。」ト書イタノト、何処ガ違フカト言ヒマスルト、是ハ多少華奢ナ区別ニナリマスルガ、「權利を有する。」ト言ヒマスノハ、全ク言葉通リ権利ガアルト云フコトノ宣言デアリマス、又権利ヲ「保障する」ト申シマシタノハ、其ノ権利ガアル、ソレヲ濫リニ侵サナイト云フ、権利ヲ前提ト致シマシテ、ソレニ対シテ国家ガ不当ナル干渉ヲシナイト云フコトヲ意味シテ居リマス、ダカラ結果ニ於テ是レ亦同ジヤウナ意味ニナルカモ知レマセヌガ、権利自体ヲ制限スルコト、権利ノ運用ニ付テ国家ガ所信ヲ示ス間ニハ、幾分差異ガアルヤウニ思ツテ居リマス
○松澤（兼）委員　幾分ノ相違ト云フ御話デアリマスガ、私ハ国民ガ之ヲ読ンダ場合、「保障する。」ト書イテアル場合ニ於キマシテハ団結スル権利或ハ団体交渉団体行動ヲスル権利ト云フモノガ、他ノ第三者ナリ、或ハ他ノ力ニ依ツテ妨害ヲ受ケタ場合ニ於テハ、国家ハ積極的ニ之ヲ文字通リ保障スル、積極的ニサウ云フ障碍ヲ除去シテ、力ヲ添ヘテヤルト云フ気持ガ是ノ中ニ含マレテ居ルノデアル、斯様ニ解釈スルノデアリマス、サウデナケレバ単ニ「權利を有する。」ト云フ場合ト全然同ジナノデアリマシテ、保障スルト云フ意味ニ於キマシテハ、万難ヲ排シテ国家ガ国民ノ権利ヲ認メテヤルト云フ、積極的ナ熱心ナル力ノ働掛ケガナケレバナラナイト考ヘルノデアリマスガ、国務大臣ノ御答弁ヲ戴キタイト思ヒマス
○金森国務大臣　固ヨリ国家ガ熱心ニ其ノ権利ヲ擁護スルト云フ意味ハ持ツテ居リマス、併シ「保障する。」ト云フ言葉ハ、其ノ安全ヲ確保スルト云フ意味ニ帰着スルノデアリマスコトニ依ルト御質疑ノ中味ニ篭ツテ居ル程ノ意味ハ、法律的ニハナイカモ知レマセヌ、一言御断リヲ此ノ際シテ置キタイノハ、私ガ平素黙ツテ言葉ヲ使ツテ居リマスル場合ニハ、此ノ憲法ノ持ツテ居ル規定ノ法律的内容ヲ釈明シテ居ル趣旨デアリマス、併シナガラ憲法ハ一面ニ於テ法律デアルト同時ニ、是ガ政治ノ基準トナルモノデアリマスカラ、此ノ憲法ニ於テ法律的ナ楔ヲ一本打込ミマスト、其ノ周リニ種々ナル法律的ナ味ハヒガ出テ来ルノデアリマス、ソレガ実ニ大事ナコトデアルト思ヒマス、其ノ点ヲ一緒ニシテオ互ヒニ話合ヒマシテモ、十分ノ意味ハ分ラナイト思フノデアリマス、例ヘバ此ノ二十五条ノ「國民は、勤勞の權利を有する。」ト云フコトニ付キマシテノ意味ハ私ハ午前中ニ法律的ニ、私ノ考ヘトシテハ是ハ権利ヲハツキリ是認シタコトデアル、斯ウ云フ意味ニ申シマシタ、即チ斯クノ如キ権利アリト云フコトヲ国家ガ公ニ宣言シテサウシテシツカリ楔ヲ打込ンダト云フコトニナリマス、併シ打込ンダカラ是カラドウスルカト云フコトハ、此ノ憲法ノ他ノ規定、例ヘバ今御論義ニナツテ居リマス勤労者ノ団結権ト云フモノニ依ツテ、是ガ補強セラレテ居ルト云フコトガ言ヘマスト共ニ、明文ハナクテモ、政治的ニハヤハリ其ノ権利ヲ擁護スル為ノ種々ナル努力ガサレナケレバナラヌト云フコトハ、自然ノ中ニ理解サレルノデアリマス詰リ法律的ナル規定ノ裏ニ政治的ナル陰影ガ伴ツテ来ルノデアリマス、ソレガ斯様ナ議会ノ説明ノ場合ハ、法律学ノ教室ト違ヒマシテサウ云フ時ニ法律ノ内容デアルカ或ハソレガ政治的ニ其ノ周リヲ取囲ンデ居ル陰影デアルカト云フコトガ、動モスレバオ互ヒニ混同シ易クナルノデアリマシテ、其ノ点ヲ御含ミ下サイマシテ、私ガ黙ツテ御話スル時ハ、其ノ法律的内容ニ付テ御話シテ居ルト云フ風ニ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス
○松澤（兼）委員　其ノ政治的ナ含ミト云フコトヲ考慮ニ入レマスト、私ガ最初質問申上ゲマシタヤウニ積極的ナ政治的協力ガアルト期待スルコトガ出来ルト云フ風ニ、了解出来ルト云フ風ニ解シマシテ、私ハ非常ニ喜ブノデアリマス、此ノ条文ハ所謂個人的ナ法律カラ社会的ナ法律ヘ移リ変ツテ行ツタ所ノ、謂ハバ法律ノ社会化ト云フヤウナ点カラ申シマシテ、我々トシテハ実ニ大切ナ条文デアル、斯様ニ思フノデアリマス、随テ少クトモ勤労者ト名付ケラレル人々ハ、此ノ条文ノ下ニ於キマシテハ、無条件ニ一様ニ其ノ恩恵ヲ受ケルモノデアル、斯ウ解釈スルノデアリマスガ、何カ特別ナ制限ガ此ノ条文ノ中ニ含マレテ居リマスカ、如何デスカ
○金森国務大臣　固ヨリ条文ノ中ニハ含マレテ居リマセヌ、併シナガラ是ガ個々ノ場合ニ当嵌マリマスル時ハ、他ノ根拠ニ依リマシテ運用ノ現実ニ異ナル所ガ出テ来ルコトハ、固ヨリ考ヘ得ルコトト存ジテ居リマス
○松澤（兼）委員　一寸二十六条ノ説明ノ為ニ、労働関係調整法ノ一二ノ条文ヲ、此処デ引用スルコトヲ許シテ戴キタイノデアリマス、労働関係調整法三十八条ニハ御承知ノ如ク、「警察官吏、消防職員、監獄において勤務する者その他國又は公共團體の現業以外の行政又は司法の事務に從事する官吏その他の者は、爭議行爲をなすことはできない。」ト云フコトガアリマスシ、又十八条ノ中ニ於キマシテハ公益事業ト云フモノヲ規定シテ居リマシテ、此ノ公益事業ニ従事シテ居ル者ハ、直チニ争議行為ヲナスコトガ出来ナイト云フ規定ガアルノデアリマス、サウ致シマスルト、一方ニ於キマシテハ全般的ニ勤労者ノ団体権ト云フモノヲ認メナガラ、個々ノ法律ニ於テ之ヲ禁止スル、是ハ今マデモ現行憲法ノ中ニ於テ、法律ニ反シナイ限リ国民ハ結社ニ加入スル所ノ権利ヲ持ツテ居ルト云フヤウナ、所謂原則的ナ規定ガ憲法ノ中ニアリ、サウシテ凡ユル法律ヤ或ハ命令ヤ或ハ勅命ナドニ於テ、事実上国民ノ結社加入ノ自由ヲ束縛シマシタリ、或ハ又ソレヲ制限スルト云フコトガ行ハレテ居ツタノデアリマス、二十六条ノ中ニ於キマシテハ、先程モ御尋ネ致シマシタヤウニ、「法律の定むるところにより、」ト云フ文句モナケレバ「公共の福祉に反しない限り、」ト云フ文句モアリマセヌ、原則的ニ全面的ニ勤労者ノ団結権或ハ団体交渉権或ハ団体行動権ト云フモノヲ認メテアルノデアリマス、然ルニ現ニ同ジ議会ノ中ニ於テ二十六条ニ於テ此ノ権利ヲ私達ガ審議シテ居ル時ニ、他ノ委員会ノ部屋ニ於キマシテハ、此ノ勤労者ノ一部ノ人々ノ団結権ヲ否認シタリ、或ハ団体行動ヲ制限シタリスル法律ガ審議セラレテ居ルノデアリマス、私ハ労動関係調整法ノ面カラ申上ゲルノデハナイノデアリマスカラ、金森国務大臣ニ御尋ネ致シタイコトハ、斯様ニ全面的原則的ナ憲法ノ条文ガアリ次々ニ今申シマシタヤウナ特別法ニ依ツテ此ノ憲法ニ於テ保障セラレタ国民ノ権利ガ制限サレ或ハ禁止サレルト云フヤウナコトニナリマスコトハ、憲法ヲ担任セラレテ居リマス所ノ国務大臣トシテ如何様ニ御考ヘニナリマスカ
○金森国務大臣　第二十六条ノ規定ハ御示シノ如ク無条件ニ規定シテアリマス、其ノ意味ハ権利ヲ保障スル面カラ言ヘバ、一応無条件ニ考ヘテ居ルカラデアリマス、即チ特殊ナル制約ヲ設ケマセヌ、此ノ勤労者ノ団結権ヲ十分ニ保障スル、斯ウ云フ趣旨デ出来テ居リマス、併シナガラ御承知ノ如ク世ノ中ハ一ツノ原理ヲ以テ何処マデモ打貫キ得ルモノデハアリマセヌ、種々ノ原理ガ交互ニ錯総シテ、其ノ中ニ極メテ美シイ調和ガ出来テ居ル、其ノ調和ノ線ニ沿ツテ人間ガ共同生活ヲシテ行クモノト思ツテ居リマス、此ノ場合ノ労働争議ニ対スル社会ノ目デ見タル調和ノ線ト云フモノハ何デアラウカト云フ疑問ガ残ツテ来ルノデアリマス詰リ憲法ノ改正サレナイ現在ノ秩序デ申シマスナラバ、今御話ニナリマシタヤウニ、議会ヲ経テ定ムル法律ガ、其ノ調和ノ線ヲ引張ル鍵ヲ持ツコトニナル訳デアリマス併シナガラ改正後ノ憲法ニ於キマシテハ、調和ノ鍵ヲ国会ニハ持タナイ、又法律ニモ持タセナイ、客観的ニ其ノ鍵ヲ存在セシメテ置クサウ云フ建前ニナルノデアリマス其ノ鍵ガ何処ニアルカト言ヘバ、此ノ憲法草案ノ第十一条ニアリマスヤウニ「國民は、これを濫用してはならぬのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」ト云フ規定ガアル訳デアリマス、尚更ニ遡ツテ其ノ条文ノ前ノ方ヲ見マスレバ「國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。」詰リ権利ノ上ニ眠ツテハナラヌ、斯ウ云フコトガ明カニナツテ居リマス、即チ団結権ノ関係ニ於テ見マスレバ、第十一条ニ依ツテ権利ノ上ニ眠ツテ居ツテハイカヌ、不断ノ努力ニ依ツテ之ヲ支ヘテ行カナケレバナラヌト云フ鞏固ナル援助ヲシテ居リマスト同時ニ、併シ之ヲ濫用シテハナラヌノデアリマス、詰リ権利濫用ニ及ンデハナラヌ、而モ又一面「公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」公益ヲ害シテ利用シテハナラヌト云フコトヲ決メテ居ルノデアリマス、ソコデ具体的ナル今御示シニナリマシタ法律ノ中ニ於キマシテ、或ル種ノ人々ニハ罷業権ノ如キモノヲ即時行フコトガ禁止セラレテ居ル、或ル人達ニ取ツテハ争議行為ヲスルコトガ否定セラレテ居ル、斯ウ云フモノガアルノデアリマシテ、ソレガ果シテ法律ヲ以テ決メテ、正シキヤ否ヤハ、結局第十一条ノ、「濫用してはならぬのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」ト云フ規定ニ当嵌メマシテ、ソレガ妥当デアルカドウカト云フ問題ニ帰着致シマス、現在ハマダ此ノ憲法ハ施行サレテ居リマセヌ、仮ニ施行後ニ是ガ問題ニナルト致シマス時、今御示シニナリマシタ法律案ガ果シテ正シキヤ否ヤト云フコトハ、終ヒニハ最高裁判所ノ問題トナリマシテ、政府、議会ヲ離レタ中立的ナ地位ニアル所ノ最高裁判所ガ必要ナル機会ニ之ヲ審判致シマシテ、若シモ其ノ法律ガ第十一条ノ趣旨ニ反シテ労働権ヲ妨ゲテ居ルナラバ、裁判所ハ之ヲ無効トシテ適用ヲ拒ムト云フ結果ニナルト思ヒマス、左様ナ方法ニ依リマシテ、第二十六条ノ規定ハ無条件ノ如クニ書イテハアリマスガ、併シ十一条ノ運用ノ下ニアリマスガ故ニ、今議会ニ現ハレテ居リマスル具体的ノ法律ガ、此ノ憲法ノ精神ニ照シテ妥当カドウカト云フコトハ、究極公共ノ福祉ノ為ノ必要ナ制限デアルカナイカト云フコトニ帰着スルコトト思ツテ居リマス
○松澤（兼）委員　只今ノ御答弁ニ依リマシテ、第一ニハ憲法ノ規定ハ原則的ナモノデアル、併シ実際ノ法律或ハ政治ノ現象ト云フモノハ種々錯雑シテ居ルモノデアル、斯ウ云フヤウナ御話デアリマシタガ私ハ憲法ノ規定ト云フモノハ原則デアル、他ノ如何ナル法律モ其ノ原則ノ下ニ於テノミ承認セラレルノデアツテ、其ノ法律ガ反対ノ方向ニ向クト云フヤウナコトハアリ得ナイノデアル、種々錯雑シテ居ルト云フ御話ハ、一ツノ原則ノ下ニ於テ錯雑スルト云フコトハアリ得ルカモ分リマセヌガ、一方デ労働者ノ団結権ヲ認メテ置キナガラ一方ニ於テ之ヲ禁止スルト云フコトハ、是ハ憲法ノ趣旨ヲ間違ヘテ居ルモノデアル、或ハ憲法違反デアルト云フコトガハツキリ言ヘルノデハナイカト考ヘルノデアリマス、随テ現在ハ此ノ憲法ハマダ制定セラレテ居リマセヌカラ、此ノ憲法ノ趣旨ニ依テ一方ノ労働関係調整法ト云フヤウナモノヲ批判スルコトモ出来ナイシ、又ソレガ適当デアルカナイカト云フコトヲ我々ガ判断スルコトモ出来ナイノデアリマス、随テ若シ仮ニ労働関係調整法ガ議会ニ於キマシテ決定サレマシテ、是ガ法律トナツタト云フ場合、憲法ガ又此ノ二十六条ヲ此ノ侭認メテ成立シタト云フ場合ニ於キマシテハ、ソコデ先程御示シノヤウナ最高裁判所ニ於テ果シテ、労働関係調整法ト云フモノガ憲法ノ条文ニ適応シテ居ルモノデアルカドウカト云フコトヲ判断シテ貰ハナケレバナラナイト云フ結果ニナルノデアラウト云フコトハ明確ニ分リマシタ、ソコデ先程十一条ヲ御引用ニナリマシタノデ、私モ一寸触レサシテ戴キタイト思フノデアリマスガ、国務大臣現在ノ御考ヘト致シマシテ、勤労者ガ組合ヲ作リ争議ヲ為シ、団体交渉ヲ為スト云フヤウナコトハ権利ノ濫用デアルト云フ考ヘデアリマスカ、或ハ少クトモ特定ノ所謂公益事業トシテ規定セラレテ居ル人々ガサウ云フ行動ヲナスト云フコトモ、是ハ国民ノ権利濫用ト云フ部分ニ当嵌マルモノデアルカドウカ御意見ヲ伺ハシテ戴キタイノデアリマス
○金森国務大臣　勤労者ガ其ノ力ヲ協セテ自己ノ主張スベキ立場ヲ擁護セントスルコトハ、原則ト致シマシテ決シテ権利ノ濫用デハナイ、現在ノ段階ニ於キマシテモ、固ヨリソレハ正シイ行キ方デアルト考ヘテ居リマス、併シナガラ個々ノ働キニ於キマシテ、他ノ利益ヲ同時ニ害スルト云フ場合ガ起リマシタ時ニ、ソレガ権利ノ濫用ニナリ、公共ノ福祉ヲ害スルト云フコトモ考ヘ得ベキデアリマシテ、結局ハ具体的ノ条件ノ下ニソレガ公共ノ福祉ヲ害スルト認メラルルヤ否ヤト云フコトガ分レ目トナリマシテ、ソレハ各人ガ自己ノ識見ヲ以テ判断スルヨリ外ニ仕様ガナイ、法律ノ場合デアリマスレバ、裁判所ガ左様ニ識見ヲ以テ判断スルヨリ仕様カナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○松澤（兼）委員　例ヘバ労働関係調整法ノ中ニ於キマシテ、第三十八条デ先程申上ゲマシタヤウナ人々ハ、争議行為ヲスルコトガ出来ナイコトニナツテ居リマスガ、然ラバサウ云フ人々ガ生キンガ為ニ所謂生存権ヲ主張スル、或ハ生活権ヲ主張スルト云フヤウナ場合、果シテドウ云フ法律ノ条文ニ依ツテ国家ニ救済ヲ求メタリ、或ハ又他ノ団体或ハ公益事業ナドノ場合ニ於キマシテハ、私営ノ会社モサウデアリマスガ、ドウ云フ方法ニ依ツテ其ノ救済ヲ受ケルコトガ適当デアルト御考ヘニナリマスカ
○金森国務大臣　問題ガ大分具体的ニナリマシテ、私ノ知識ダケデハ御答ヘシ兼ネルトハ思ヒマスケレドモ、私ノ信ズル所、此ノ世ノ中ハ実ニ複雑デアリマシテ、其ノ間ヲ一本ノ原理デ貫クコトハ出来マセヌ、今述ベテ居ラレマスルヤウナ特殊ナル業務ニ従事スル者ガ如何ニシテ自己ノ地位ヲ改善スルカト云フ問題ニナリマス時ニ、所謂労働争議ノ方法ニ依ル手段ヲ封鎖サレマシタナラバ、ソレハ非常ニ其ノ地位ヲ伸バス上ニ不便デアルコトハ言フヲ俟タヌノデアリマス、併シ其ノ不便ヲ我慢シテモ已ムヲ得ヌト云フ他ノヨリ重大ナル事情ガアレバ、之ヲ封鎖スルコトモ亦已ムヲ得ナイ、斯ウ云フ段階ニ考ヘラレテ行クノデアリマスガ、其ノ中ノ残ツタ所ノ手段ハ何デアルカト言ヘバ、固ヨリ普通ノ労働争議ニ依ル強力ナル手段ヲ措イテ短期間ニ問題ヲ解決スル強力ナル手段ハナイヤウニ思ヒマス、併シナガラ大体ニ於キマシテ勤労者ノ団結ニ依ル交渉其ノ他ノ権利ガ一般ニ広ク認メラレテ来マスレバ、国民ノ多クノ人ガ此ノヤウナ種類ノ問題ニ対シテ考ヘル考ヘ方ニ相当ノ発達ガアルダラウト思ヒマス、過去ノ短イ経験ニ顧ミマシテモ、或ル場合ニハ労働争議ト云フモノハ許サレザル罪悪ノ如ク考ヘラレテ居ツタ、是ハソンナニ遠クナイ過去ノコトデアリマス、併シナガラサウデハナイト云フ意識ガ漸次高マツテ来マシテ、今日ニ於キマシテ労働争議其ノモノヲ不当ナリトスル考ヘ方ハ、蓋シ国民ノ一部分ニシカナイモノト思フノデアリマスガ、漸次基本的ナル姿ニ於キマシテ其ノ思想ガ発達シテ来マスレバ、特殊ナル勤労者ニ付キマシテモ、関係者ガ理解ヲ深メマスルノデ、恐ラク抜カザル剣ニ依ツテ剣ノ利益ヲ発揮スルガ如キ姿トナルノデハナカラウカ、是ハ一ツノ解決方法デアリマス、其ノ外ニ言論戦モアリ、極メテ緩慢デアルニシテモ、秩序アル行動ニ依ツテ相手方ノ得心ヲ求メル手段モ考ヘテ見レバ考ヘ得ルコトト存ジテ居リマス
○松澤（兼）委員　言論戦モ其ノ一ツノ方法デアルト云フヤウナ御話デアリマシタガ、調整法ノ第六条ニ於キマシテハ、単ナル争議行為バカリデナク、争議又ハ発生スル虞アル状態ヲ指シテ労働争議ト言ツテ居ルノデアリマシテ、発生スル虞、即チ寄リ寄リ相集マツテ待遇改善ノ要求ヲシヨウデハナイカト云ツタヤウナ争議行為ガ起ル虞ノアル場合ニ於キマシテモ、ヤハリ争議行為トシテ取扱ハレルノデアリマス、デアリマスカラ、サウ云フ団結権モ禁止セラレ、随テ団体交渉モ団体行動モ禁止セラレテ居リマスル所ノ人々ハ、恐ラク是ハ生キルニ方法ガナイ結果ニ陥リハシナイカト考ヘルノデアリマス、私沁々ト考ヘマスコトハ、一方二十六条ニ於テ勤労者ノ権利ガ保障セラレテ居リマスト同時ニ、一方デハ是ガ禁止又ハ制限セラレテ居ルト云フ事実ヲ見ルノデアリマス、私ココニ吉田内閣ガ持ツテ居ル性格的ナ矛盾ガ現ハレテ居ルノデハナイカト斯様ニ考ヘル、即チ首鼠両端ヲ持スルト云フ言葉ガアリマスガ、サウ云フ鵺的ナ考ヘガ此ノ二ツノ法律――一方ハ憲法、一方ハ労働関係調整法ト云フモノニ現ハレテ居ルノデハナイカト、斯様ニ考ヘルノデアリマス、先程申シマシタヤウナ憲法ニ適合シテ居ナイカドウカト云フコトハ、結局憲法モ成立シ、サウシテ其ノ時ニ労働関係調整法ト云フモノガ有効デアツタ場合ニ於キマシテハ、最高裁判所ニ依ツテ救済ノ方法ヲ求メルヨリ外ニ仕方ガナイ、現実ノ問題ト致シマシテ、例ヘバ斯ウ云フコトモ新聞ニ言ハレテ居リマス、漸ク労働組合ト云フモノガ我ガ国ニ於テ認メラレルヤウニナツテ来タ所ガ軍需補償ノ打切リニ依ツテ労働者モ資本家モ非常ナ困難ニ直面スル、随テ産業ノ建直シヲスル為ニハ労資休戦論ト云フモノガ政府ノ一部ニ話ガアルト云フコトヲ聴イテ居ルノデアリマス、我々ガ審議シテ居ル憲法ニ於キマシテハ、労働者ノ権利トシテ明々白々ト其ノ権利ガ認メラレテ居ルニ拘ラズ、今申シマシタヤウナ軍需補償打切リト関連シテ、労資休戦案、一切ノ争議行為ヲシテハナラナイト云フヤウナ内閣ノ行政処置ガ行ハレタ場合ニ於キマシテハ、勤労者トシテハドウ云フ救済ノ方法ガ残サレテ居ルノデアリマスカ、国務大臣ノ御所見ヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣　憲法ノ当然ノ解釈ノ範囲ニ付キマシテハ、如何ナル御質問ニ対シテモ私ハ全精力ヲ尽シテ御答ヘ申上ゲタイト思ツテ居リマス、今御示シニナリマシタ問題ハ憲法第二十六条ノ範囲ニ於テ御答ヘシ得ル限リ御答ヘスル積リデアリマスルガ、現実ノ具体的ナ問題ニナリマスルト、聊カ此ノ範囲ヲ逸脱スルヤウデアリマシテ私ハ唯私ガ今マデ伺ツタ所及ビ私ノ了解シテ居ル法案ノ上カラ見マシテ、此ノ憲法改正案ガ現ニ効力ヲ持ツテ居ルト仮定致シマシテモ二者ノ間ニ矛盾ハナイト考ヘテ居ル次第デアルト云フコトヲ述ベテ置キマス
　ソレカラ更ニ労資相互ノ争議ヲ休戦スルト云フコト、大イナル問題ヲ念頭ニ置イテ自ラノ権利ノ行使上ニ抑制ヲ加フルト云フコトハ此ノ憲法ガ決シテ反対シテ居ルコトデモ何デモナイト云フ趣旨ヲ御答ヘ致シマシテ、今現ニ他ニ如何ナル方法ガアルカト云フコトハ此ノ憲法ガ直接触ルル所デナイト思ヒマスカラ、御答ヘヲ省略サシテ戴キタイト思ヒマス
○松澤（兼）委員　之ヲ以テ終リマス
○芦田委員長　酒井俊雄君
○酒井委員　木村司法大臣ニ一寸伺ヒマス、此ノ「勤勞者の團結する權利及び團體交渉その他の團體行動」ト云フ此ノ一項目ハ内容ガ示シテアリマセヌガ、此ノ勤労者ノ団体スル権利ヤ団体交渉ノ権利ハ現行刑法ノ下ニ於キマシテモ、是ハ業務上ノ行為ト云フコトデ当然許サレテ居ルコトデゴザイマセヌカ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、現行刑法ノ業務上ノ行為トハ余程違ツテ居ルカト考ヘマス、是ハ特ニ労働者ノ権利ヲ擁護スル為ニ団体交渉権或ハ団体権ト云フモノヲ認メテ居ルノデアリマス、刑法上ノ所謂業務上ノ行為トハ違ツテ居リマス
○酒井委員　御言葉ヲ返スヤウデスガ、更ニ御答弁ヲ願ヒタイト思ヒマス、結局此ノ憲法草案ガココデハツキリ斯カル権利ヲ保障スルト云フコトハ、勿論非常ニ意義ノアルコトダト思ヒマスルガ、本質的ニハ、社会ノ公共ノ福祉ト云フコトニ反シナイ限リハ、先程金森国務大臣ガ仰シヤツタヤウニ、一通リ権利ノ保障トシテハ別ニ憲法ニ上ゲナクテモ現在ノ法律ノ建前ニ於テモ許サレテ居ルコトダ、団結ノ権或ハ交渉団体ノ権ト思フノデアリマスガ、今ノ業務上ノ行為ト云フ範疇ニ入ラヌト云フ御解釈デアリマス、業務上ノ行為ト指定シテ御伺ヒハ致シマセヌガ、現行法上許サレテ居ル行為ダト云フコトハ御認メ下サイマスカ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、勿論此ノ行為ノ中ニモ色々種類ガアリマシテ、従来カラサウ云フ団体的デアルト云フ行為モ、是ハ公ノ秩序、善良ノ風俗ニ違反シナイ限リハ法認行為トシテ認メラレテ居ル行為デアリマス、併シココニ規定シテアリマスル団体交渉権或ハ団体ノ権利ト云フノハ、特ニ労働ノ権利保護ノ立場カラ設ケラレタノデアリマス、酒井委員ノ仰セラルル所謂刑法上ノ業務行為トハ差異ガアラウト信ジテ居リマス
○酒井委員　解釈ノ相違デアリマスルカラ是レ以上突込ンデ御尋ネハ致シマセヌガ、此ノ労働者ノ団結権或ハ団体交渉権ガ所謂公序良俗ニ反シナイ以上、此ノ草案ノ言葉デ言ヘバ社会ノ福祉ニ反シナイ場合ニハ、是ハ業務上ノ行為トシテ当然現行法ニ於テモ認メラレテ居ルノダト云フ説モ相当ニアルノデアリマス、何レガ是ナリヤ何レガ非ナリヤト云フコトヲ御尋ネシテ居ル訳デアリマセヌカラ、此ノ程度デ其ノ問題ハ御聴キヲ致シマセヌ、所デ金森国務大臣ニ御尋ネシタイノデアリマスルガ、此ノ労働者ノ団結権或ハ団体交渉権其ノ他ノ行動ヲスル権利ト云フ、其ノ他ノ団体行動ノ権利ノ中ニ争議権「サボタージュ」権ト云フモノガ含マレテ居ルカドウカ、之ヲ一寸御聴キシタイト思ヒマス
○金森国務大臣　勤労者ノ団結ニ伴ヒマスル諸種ノ権利ハ、是ハ社会ノ現実ノ動キノ中ニ於キマシテ実質的ニ決メラレ、詰リ勤労者ノ非常ナ熱心ナ動キノ中ニ歴史的ナル過程ヲ取ツテ現ハレテ居ルモノデアリマスノデ、其ノ線ニ沿ツテ之ヲ解釈シナケレバナラヌト思ツテ居リマス、デアリマスカラ、今御示シニナリマシタヤウナ「サボタージュ」ノ如キモ、其ノ権利ノ内容ノ中ニ含マレ得ルモノト思ツテ居リマス
○酒井委員　是ハ勿論言フマデモナイコトデアリマスルシ、先程ノ質問者ノ御考ヘノ中ニモサウ云フ問ヒノ意味ガ入ツテ居ツタト思ヒマスガ、念ノ為ニ、大事ナコトデアリマスカラモウ一度ハツキリ御聴カセヲ願ヒタイト思フノデアリマス、勿論此ノ二十六条ノ勤労者ノ団結スル権利及ビ団体交渉ノ権利其ノ他ノ行動権ト云フモノハ、法律デ以テハ此ノ権利ヲ奪フ訳ニ行カナイト云フコトニナツテ居ルデゴザイマセウカ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、勿論此ノ二十六条デ、団体交渉権其ノ他団体権、是ハ労働者ニ取ツテハ重大ナル権利デアリマス、之ヲ濫リニ法律デ禁遏シタリ抑圧シタリスルコトハ出来ナイモノト考ヘマス併シ其ノ団体権、団体交渉権モ十一条ニ於キマスル公共ノ福祉ニ反スルヤウナコトデアルト云フノデハナイカラ、オ互ヒニ所謂其ノ権利ハ十分護ツテ行カナクチヤナラヌガ、併シソレハ公共ノ福祉ト云フ範囲内ニ於テ行使ヲシナケレバナラヌ、其ノ面カラ見テ公共ノ福祉ニ反スルヤウナ場合ニハ是ハ法律ヲ以テ禁ジテ行クト云フコトハ出来ルト考ヘマス、具体的ナ問題ニナツテ居リマスル例ヘバ司法官ノ労働争議ノ問題、仮ニ司法官ガ組合ヲ作リ、団体交渉ヲスルコトニ於テハ、敢テ差支ヘナイノデアリマス、現実ノ問題トシテハ今司法官ニハサウ云フモノハ起ツテ居リマセヌガ、是ハ差支ヘナイ、併シ争議行為トシテ仮ニ「ストライキ」ガ起ツタラドウナルカ沢山ノ被告人ガアリ一日モ忽セニスルコトノ出来ナイ裁判ハ即時停止ト云フコトニナリマスルト、是ハ公共ノ福祉ニ非常ニ反スルコトニナル、斯ウ云フ場合ニハ、其ノ面カラ見テ労働関係調整法ニ於テ是ハ禁止シタモノト私ハ信ズルノデアリマス、要スルニ十一条ノ公共ノ福祉ト云フ面カラ考ヘテ、サウ云フ制限ハ受ケルト云フコトニナルモノト御諒承願ヒマス
○酒井委員　労働組合法ナドノ規定ニ依ルト、警察官ニ付テモ大体斯ウ云フ労働運動ニ関スル権利ハ止メテ居ルヤウデアリマス、併シ職業的ニ斯カル職業ノ者ハ主張スベキ権利ヲ団体デ主張シタナラバ必ズ公共ノ福祉ニ反スルト云フコトニナルト考ヘルノハヲカシイト思フ、ヤハリ判検事ト云フヤウナ職業ニ致シマシテモ、別ニ裁判ヲ怠ラナイヤウニ、或ハ検察事務ヲ怠ラナイヤウニ、困難カモ分リマセヌケレドモ、其ノ範囲デ出来ル所ノ団体交渉或ハ団体活動ト云フヤウナモノハ認メテ宜イノヂヤアリマセヌカ、如何デゴザイマセウカ
○木村国務大臣　一面ノ考ヘ方デアリマス、併シ是ガ社会面ニ及ボス司法的影響、其ノ他種々ナ場合ヲ考慮シテ、是ハ決メルベキ問題デアリマス、其ノ地位ニ鑑ミマシテ余程考察ヲ深クシナイトイカヌト考ヘテ居リマス、一概ニ唯自分ノ生活条件ノ向上ト云フ方面カラ見ルコトハ行過ギデハナカラウカ要スルニ其ノ行為ガ社会的ニ如何ナル影響ヲ及ボスカ、其ノ人ノ身分、地位等ヲ種々総合シテ勘考スベキモノダラウト考ヘマス
○酒井委員　木村司法大臣ノ御答弁ニ依ルト、ドウモ原則ト例外トガ逆ナヤウニ思フノデアリマス、憲法ガ原則デアリマシテ、法律ガ此ノ憲法ニ規定シタコトヲ止メ得ルノハ是ハ例外デアルト思フノデアリマスガ、ソレ以上御尋ネヲ致シマセヌ、所デ労働組合法ノ中ニ公吏、具体的ニ申シマスト学校ノ職員或ハ官吏ナドノ今ノ組合運動的ナ行動ニ対シテハ、勅令ヲ以テ別段ノ規定ヲスルコトガ出来ルト云フ意味ガアル、是ハ是等ノ人ノ権利ヲ一般ノ其ノ外ノ労働者ノ権利以上ニ保護スルト云フ建前カラサウ云フ勅令デ以テ特例ヲ定メ得ルト云フコトニナツテ居ルノカ、或ハ一般労働者ノ運動ヨリモ範囲ヲ狭ク許ス、制限シテ許スト云フヤウナ心構ヘデ勅令ヲ出シ得ルト云フノデアア云フ条文ガ入ツテ居ルノデアリマセヌカ、一寸御尋ネシマス
○木村国務大臣　ソレハ何レ文部大臣カラ御答弁ヲ願フコトニ致シマス
○酒井委員　官吏ノコトモ一寸御尋ネシテ居ルノデアリマスガ、学校職員ダケデナシニ‥‥
○吉武政府委員　只今組合法ノ解釈ニ付テノ御質問デゴザイマスノデ、私カラ御答ヘ申上ゲマス、労働組合法ノ第四条二項ニ今御話ノアリマシタ如ク「官吏、待遇官吏及公吏其ノ他國又ハ公共團體ニ使用セラルル者ニ關シテハ本法ノ適用ニ付命令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得」斯様ニナツテ居リマスガ、之ニ基キマシテ我々今ノ所別段ノ規定ハ設ケテゴザイマセヌ、全然同様デゴザイマス、此ノ趣旨ハ、最初立案ヲ致シマシタ当時ノ気持ト致シマシテハ、組合ハ加入自由デゴザイマスノデ、色々ナ、組合ガ一緒ニナルコトモ出来ルノデアリマスガ、官吏公吏ニ付キマシテハ、其ノ特質ニ鑑ミマシテ、官吏ハ官吏ノミノ組合ヲ作ラセヨウト云フ趣旨ヲモ考ヘタノデアリマス、目下ノ所其ノ必要ヲ認メマセヌノデ、現在ノ所特段ノ規定ヲ設ケテ居ナイノデアリマス
○酒井委員　モウ一度御尋ネ致シマスガ、官吏或ハ公吏ニ付テ特段ノ規定ヲ設ケヨウトスル其ノ用意心構ヘデ定メラレタ訳デアリマスガ、其ノ目的ヲ御尋ネシタイ、一体普通ノ労働者ヨリモ権利ヲ拡張スル積リカ、或ハ制限スル積リカト云フコトヲ御尋ネシタイ
○吉武政府委員　御答ヘ申上ゲマス、別段之ニ於テ或ハ権利ヲ拡ゲ或ハ狭メヨウト云フ趣旨ハゴザイマセヌノデ、只今申シマシタヤウニ、官吏ハ官吏ノ特性ニ基イテ、官吏ノミノ組合ヲ作ラセヨウト云フ趣旨デヤツタノデアリマス、ソレダケデアリマス
○酒井委員　モウ一点、本当ハ農林大臣ニ御尋ネシタイノデアリマスガ、金森国務大臣ニ御尋ネ致シマス、農民大衆運動ノ場合デアリマスガ、地主対小作ト云フ場合ノ其ノ間ニ於ケル勤労者ノ団結権団体交渉権、其ノ他ノ団体行動ヲスル権利ガココデハツキリサウ云フ場合ニ於テ当嵌マルト云フコトハ理解シテ居リマスガ、地主対小作ノ間デナクテ、農民ノ団体カ或ハ国家機関或ハ政府ナドニ――政府モ国家機関ノ中デアリマスガ、地方当局或ハ中央当局ト云フヤウナ方面ニ対シテ斯ウ云フ団結スル権利、団体交渉、或ハ団体行動ヲスル権利ト云フヤウナモノヲ之ニ依ツテ保障サレテ居ルカドウカ、前ノ二十五条ハ雇傭関係ニ限リト仰シヤイマシタガ、ココハドンナモノデアリマスカ
○金森国務大臣　此ノ二十六条ダケヲ切離シテ字義的ニ読ミマスト今御示シニナツタモノモ入ルガ如クニ読メルカモ知レマセヌ、併シ此ノ規定ハ二十五条ノ勤労ノ権利ト云フモノヲ中心トシテ派生シテ来タモノデアリマシテ、今御示シニナツタヤウナモノハ含マナイノデアリマス、勤労者ト勤労者ヲ使用スル者トノ間ニ於テ種々ナル権利関係ヲ念頭ニ置イテ居ルノデアリマシテ、其ノ中ニハ団体交渉権ト云フヤウナ、サウ云フ専門的ナ言葉ヲ取入レル趣旨ヲ持ツテ居ナイコトハ明デアラウト考ヘテ居リマス
○酒井委員　サウ致シマスト、今ノ自由労働者ト申シマスカ、雇傭関係以外ノ者ノ団体交渉権或ハ団体権、団体交渉権ト云フモノガ、之ニ依ツテ保障サレナイト云フコトニナツタラ、是ハ私共ノ誤解デアツタカモ分リマセヌガ、実ニ此ノ解釈ヲ私承ツテ予想外ニ思フノデアリマスガ、是ハ国務大臣責任ヲ以テサウ云フ風ニ御解釈ヲシテ居ラレルト思ツテ御尋ネスルノデアリマスガ、如何デアリマスカ
○金森国務大臣　自由労働ガドウ云フ気持ノ下ニ労働条件ノ協定ヲシテ居ルカト云フコトハ、実ハ私ハ専門家デナクテ承知致シマセヌガ、ソレガ長ク発達シテ来マシタ所ノ労働制度上ノ団体交渉ニ該当スル形ニ付キマシテモ、ソレニ入ルト思ヒマス、ソレガドウ云フ形ナツテ居ルカ能ク知ラヌモノデスカラ、具体的ナ御答ヘハ出来兼ネマス
○酒井委員　唯私ガ推シテ御尋ネ致シマシタノハ、労働組合法ナドデハサウ云フ自由労働団体ト云フヤウナモノニ対スル団結権、団体交渉権ト云フヤウナモノヲ認メテ居ルノデアリマス、金森国務大臣ノ御答弁ガドウモ私ニハ判断ガ行カナイノデアリマスカラ、ソレデ御尋ネシタ訳デアリマス、此ノ前ニ特ニ問題ニナツタヤウデアリマスガ、文部大臣オイデニナリマセヌガ、金森国務大臣ニ御答ヘ願ヒタイト思ヒマス、近頃教育者ノ労働運動、団体運動ト云フヤウナモノガ余程抑圧サレテ見タリ、或ル程度緩メラレタリ色々シテ居ルヤウデアリマス、兎ニ角政府ノ憲法草案ニ対スル建前カラ、教育者或ハサウ云フ官吏ニ対スル団体運動権ナルモノノ許サレル範囲トカ何トカ云フコトハ、大体御考慮ノ中ニ確信的ニ一ツノ範囲ト云フモノヲ御持チニナツテイラツシヤルノカドウカト云フコトヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣　私ハ実ハ長ク役人ヲシテ居ラナカツタ為ニ、現行法ガドウ云フ風ニ動イテ居ルカト云フコトヲ知リマセヌ、去ル十九日カラ初メテ官場ノ空気ヲ知リマシタ訳デ、労働組合法等ノ成立ニ付キマシテノ諸種ノ具体的事情モ知ラナイノデ、自由労働者ニ対シテ具体的御答ヘモハツキリ出来ナイコトハ遺憾ニ思ツテ居リマス、併シ憲法ノ建前ト致シマシテ、勤労者の団結スル権利、其ノ他団体交渉権等ハ苟クモソレガ勤労者デアリ、且ツ公益ノ枠ノ中ニ於テ存在シ得マスル限リ之ヲ保障スルト云フ考ヘヲ持ツテ居リマス、其ノ線ニ沿ヒマシテ現ニ具体的ナ秩序ノナイ部分ヲ之ヨリ完備サシテ行クコトニナル訳デアリマス
○酒井委員　私ノ質問ハ是デ終リマスガ、議事進行ニ付テ‥‥実ハ協同民主党ニ私所属ノ者デアリマスガ、二、三ノ人カラ、委員長ズツト御覧ニナツテ御承知下サルコトト思ヒマスルケレドモ、殆ド欠席セズニ、偶ニ一人位欠ケタコトハアリマスガ、出席シテ居ルノデアリマス、然ルニ本日越原委員モ井上委員モ喋リ掛ケタ途端ニ言論ヲ封鎖サレテシマツタノデアリマスガ、其ノ条項ニハ行カナイトカ関係ガ薄イトカ云フ理由デ封鎖サレタ、喋リ掛ケタ途端デハ、枕詞デハ結局条項ニ関係ガ薄イノカ遠イノカ分ラナイ‥‥
○芦田委員長　御答ヘ致シマス、能ク分リマス、併シ私ハ其ノ時ニ越原サンニモハツキリ申上ゲタ通リ、今アナタノ御尋ネニナラウトスル私学、官学ノ問題ハ七月五日ノ午後ノ委員会ノ速記録ニ三浦寅之助サンカラ詳細ナル質疑ガアツテ、政府ノ答弁ガ出テ居リマスケレドモ、若シサウ云フ前ノ質問ヲ繰返シ繰返シナサルナラバ、欠席ガ多イダケニ重複ガ多クナリマス、デスカラ、若シサウ云フコトデ御抗議ガアルナラバ、委員長ノ取扱ハマヅカツタカモ知レマセヌガ、私ハ重複ノ質問応答ヲ成ベク避ケタイト云フ趣旨ニ外ナラヌ、ソレデアナタノ今ノ御質問ノ如キモ、本来ナラバ労働組合法ノ委員会ノ速記録ヲ御覧ニナレバ全部出テ居ルコトデス、ソレヲ蒸返シテ此処デ御話ニナルガ、私ハ今日マデ或ル程度尊重シテ傾聴シテ居ツタダケノコトデアツテ、サウ云フ議論ヲ此処デナサルコトハ、此ノ憲法ノ審議ニ実ハ関係ナイコトデス
○酒井委員　委員長ノ公平無私ナルコトハ信ジテ居リマスルガ、サウ云フ声ガ――多数党ノ人ガ十分喋レテ、我々ガ喋ル機会ガ封ゼラレルト云フ風ニ感ゼラレルノデスダカラ、勿論私ハ公平ヲ信ジテ居リマスガ、サウ云フ声ガアルト言フコトヲ御承知願ヒタイト思ヒマス
○芦田委員長　分リマシタ――笠井重治君
○笠井委員　私ハ金森国務大臣及ビ政府当局ニ伺ヒタイト思ツテ居リマス、此ノ二十六条ハ公共ノ福祉ト云フコトヲ主ニナサツテ居ラレルト云フコトハ、先カラ国務大臣ノ強調セラレテ居ル所デゴザイマス、二十六条ノ如キ条文ヲ憲法ノ中ニ入レマシタコトハ、我ガ国勤労者ヲ擁護スル上ニ於テ、非常ニ慶賀スベキコトデハナイカト思ヒマス、唯私ガ惧レマスコトハ、是ニ於テ国務大臣ニ御伺ヒ致シタイコトハ是デアリマス、即チ先般「マッカーサー」司令部ガ我ガ国民ニ言論ノ自由、結社ノ自由、其ノ他ヲ許シタ、ソシテ之ニ対スル悪法律ヲ撤廃致シマシタ、其ノ数週間ノ後ニ司令部ノ某大官ガ私ニ向ツテ言フノニ、ドウモ日本人ト云フモノハ腑甲斐ナイ国民デアル是レ程ノ自由ヲ与ヘテヤツタケレドモ、彼等ハ之ヲ用ヒナイ、ナゼ彼等自身ノ為ニ用ヒナイカ、之ヲ利用シテ居ルノハ独リ共産党ノミダ、斯ウ云フコトヲ言ツテ居リマシタ、其ノ後ノ形勢ニ於テハ我々国民ノ知ツテ居ル通リデアリマスガ、ソコデ私ノ伺ヒタイコトハ、現時ノ斯様ナル法律、団体行動ヲ許スコトノ為ニ今後益々我ガ国ニ階級闘争ヲ助長スルヤウナ虞ガアリハシナイカ、若シアツタ場合ニハ、ドウ云フ風ニナルカ、此ノ点ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　第二十六条ノ如キ規定ヲ設ケマスレバ、将来階級闘争ガ起ル虞ガナイカト云フ趣旨ノ御質疑デゴザイマシタガ、階級闘争ト云フト、言葉ハ何トナク角ガ立チマスルケレドモ、従来地位ヲ十分ニ認メラレテ居ナカツタ部分ノ人々ガ、自己ノ結成力ニ依ツテ地位ヲ上ゲテ行クト云フコトハ其ノ道行キニ於キマシテ多少ノ今マデノ色彩ヨリ異ツタ、社会ヲ刺戟スル事象ガアリマシテモ、結局人類ノ集団ガ行クベキ正シキ道デアツテ、ソレヲ唯伏セテ居ル仮ノ平穏無事ヲ図ルヨリモ、幾分ソコニ活溌ナル行動ガ行ハレマスコトガ、我ガ国ノ平和ナル発展ヲ期シテ行ク上ニ適当ナル所以デアラウト居ヒマス、随テ此ノ二十六条ヲ憲法ニ盛リ込ミマスコトハ、日本トシテ真ニ新シキ画期的ナ企テト云フコトガ言ヘマセウケレドモ、是ハ諸般ノ角度カラ見テ洵ニ妥当ナル規定デアルト信ジテ居リマス、併シナガラ此ノ権利ニ付テ惧レマスノハ、斯クノ如キ権利ハ濫用サレ易キモノデアリ、且ツ此ノ労働争議ニ関スル諸般ノ事象ガ、日本ニ於テハ自発的、自然的ニ発達シテ居リマス、寧ロ輸入的、突発的ニ経験乏シク発達シテ居リマスル為ニ、時トシテ洵ニ思ハシカラザル結果アリト言ハルルコトガアルノデアリマス、ソレ等ニ対シマシテハ、ドウシテモオ互ヒニ自制シ合ツテ、相成ベクハ各関係者ノ本当ノ心カラナル努力ニ依ツテ何等ノ弊害ナク、日本ノ此ノ方面ノ労働問題ガ発達シテ行クコトヲ希望スルノデアリマス、此ノ憲法ニ其ノ面ニ於キマシテノ太イ柱ヲ一本建テタト云フコトハ、其ノ努力責任心等ヲ喚ビ起ス上ニ非常ナ価値ガアラウト信ジテ居リマス（拍手）
○笠井委員　有難ウゴザイマス
　第二ノ点ハ、御承知ノ通リニ、第一回世界戦争カラ、第二回今回ノ戦争マデノ間ニ、欧米ニ於ケル顕著ナル傾向ハ、此ノ労資ノ協調ト云ヒマスカ、オ互ヒニオ互ヒノ立場ヲ能ク理解スルト云フ風ニナツテ参リマシタ、殊ニ「イギリス」ニ於ケル労働組合ノ非常ナ発達ニ依リ、又「イギリス」ノ労働組合ノ非常ニ強イ態度ト云フモノガ、「イギリス」ノ工業者或ハ資本家ト云フモノニ新シイ機械発明スラモ使ハセルコトヲ許サナイト云フヤウナ態度カラシテ、幾多ノ工業ト云フモノガ「アメリカ」ニ逃避シマシタ、其ノ結果トシテ「アメリカ」ニ於テハＡ・Ｆ・Ｌ、Ｃ・Ｉ・Ｏナドガ最近ニ段々同ジ行動ヲ執ツテ参リマシタガ、何レニシテモ「イギリス」ノ工業ガ衰頽シ「アメリカ」ノ工業ガ興ツタト云フコトハ事実デアリマス、又一方ニ於キマシテ我ガ国ヲ見マスト、我ガ国ノ紡績業ト云フモノガ非常ニ進歩シテ居ル、ソレハ「イギリス」ノ「マンチェスター」ノ労働組合ガ非常ニヤカマシイモノデ、又日本ノ紡績業、殊ニ日本ノ女工ナドノ精致ニ富ンデ居リマスヤリ方ト云フモノガ、到頭「イギリス」ノ紡績業ヲ世界ノ市場カラ駆逐シタト云フ例ガアリマスガ、何レニ致シマシテモ、余リニ強イ労働組合ノヤリ方ト云フモノガ、其ノ国ノ工業ノ進歩ヲ阻碍シタト云フコトモ相当例ガアルコトデゴザイマス、之ヲ以テ見マスト、最近「マッカーサー」進駐以来起ツテ来テ居リマス状態ヲ見マスト、労働者ノ発意ニアルコトモアリマセウガ之ヲ「インスティゲート」スルト云ヒマスカ、之ヲ煽動スル所ノ或ル種ノ勢力ニ依ツテ、最近ハ非常ニ労働階級ト云フモノガ混乱ヲ来シテ居リマス、此ノ侭行ツタナラバ我ガ国ノ工業ト云フモノハ、恐ラクハ自滅スルデアラウト思フ、ソレ故ニ我々ハ、ココニ於テ日本ハ敗戦シテ居ル、最早資本家モ労働者モ日本ノ建直シヲスルノニハ是ニ於テ労資共ニ大イニ揮身ノ努力ヲシナケレバ、国家、工業ノ再建ハ絶対ニ出来ナイト云フコトヲ考ヘテ戴クト宜シウゴザイマスガ、団結シテ団体交渉ノ結果ハ何デモ要求ガ出来ルト云フ態度ニ、今アルヤウニ見エマスルコトハ、洵ニ遺憾千万デゴザイマス、此ノ点ヲ政府ハドウ云フヤウニ之ヲ指導スルノデアルカ、公共ノ福祉ト云フコトヲ仰シヤラレマスガ、然ラバ此処ニ公共ノ福祉ト云フコトヲ一言御入レニナリマスカドウカ、此ノ点ヲ一ツ国務大臣ニ御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣　御答ヘヲ致シマスルガ、此ノ憲法ハ或ル意味ニ於キマシハ、日本ノ現状ヨリ見テ相当理想ニ深ク心ヲ及ボシテ居ルト云フ傾キガアルノデアリマス、一部ノ方カラハ非常ニ退歩的デアル退嬰的デアル、十八世紀ノ権利バカリヲ擁護シテ現代的ナモノヲ尊重シナイト、斯ウ非難サレテ居リマスルガ、実ハサウデハナイノデアリマス、静カナルコト林ノ如キ文字ノ中ニ、相当ノ内容ヲ盛リ込ンデ居ルノデアリマシテ、結局古クハナイノデアリマス、狙ヒ所ハ相当新シイト思ツテ居リマスガ、今仰セニナリマシタヤウナ点モ、若シモ労働争議ガ放縦ナル姿ヲ執リマスナラバ、確カニ日本ノ産業ノ上ニ大キナル影響ガアルニ相違ナイ、併シ角ヲ矯メテ牛ヲ殺スガ善イカ、サウデナクシテ角ヲ生ヤシテ牛ノ特色ヲ十分伸バスガ善イカ、我々ハ稍々勇気ヲ要スルコトデハアリマスルケレドモ、日本ノ国民ノ責任心ニ愬ヘテ、是等ノ活キタ意味ヲ持ツテ居ル制度ガ巧ク行クヤウニ、斯ウ云フ念願ノ下ニ立案ヲ致シマシタ（拍手）
○笠井委員　私ハ金森国務大臣ト至極同感デゴザイマス、御熱意ニ付テハ感謝ヲ致シマス、唯国家ノ将来ヲ思ヒマスルノデ、斯ウ云フ風ニ憲法ニ決メマスト、之ヲ本当ニ、今国務相ノ仰シヤルヤウニ、公共ノ福祉、国家ノ将来ト云フモノヲ思ツテ当事者ガ考ヘテ呉レマスレバ宜シウゴザイマスガ、我々ハ団体交渉権ガアルカラ何デモ出来ルノダト云フコトニナルト困ルト云フコトデ御伺ヒ申上ゲタノデアリマス、ソコデ一方ノ勤労者ノ団結権ハ擁護シマスガ、然ラバ使用者、我ガ国ノ最モ力ヲナスベキモノハ中小商工業デアル、既ニ今日ハ見返物資トシテ出スモノモナケレバ、又色々ノ大キナ重工業モ取ラレテシマフト云フコトニナリマスト、我ガ国民ノ食糧ヲ買フモノハ中小商工業ノミニ依ラネバナラヌノデアリマスガ、其ノ使用者ヲ如何ニシテ擁護スルノデアリマスカ、之ニ付テ一ツ国務相ノ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　段々問題ガ専門的ニナリマシテ、私ノ貧弱ナル知識デハ稍々御答ヘガ困難ニナツテ来マシタガ、大体使用者ノ方ハ歴史的ニ強力デアリマシテ、憲法ニ特別ナル保障ヲシナクテモ、恐ラク適当ナル方法ニ依ツテ解決出来ルノデハナカラウカト考ヘテ居リマス、尚ホ先刻一寸忘レマシテ答弁ヲ落シマシタガ、公益ノ枠ヲ此ノ二十六条ニ規定シタラドウカト云フ御話デアリマシタガ、是ハ他ノ規定ト同ジヤウニ、結局第十一条ノ一般原則ニ依リマシテ、是ダケヲ見マスト公益ノ枠ガ嵌マツテ居リマセヌケレドモ、全体ヲ見レバシツカリシタ公益ノ枠ガ嵌マツテ居ル、斯ウ云フコトデ解決シタイト思ヒマス
○笠井委員　分リマシタ、ドウカ一ツ此ノ二十六条ガ我ガ国ノ社会ノ安寧秩序ヲ壊スコトガナイヤウニ、我ガ国産業ノ進展ヲ希望致シマシテ、私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長　第二十六条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第二十七条ヲ議題ニ供シマス――木島義夫君
○木島委員　第二十七条ノ「財産權は、これを侵してはならない。」此ノ財産権ト云フノハドウ云フ範囲デゴザイマセウカ
○木村国務大臣　第二十七条第一項デ決メマシタ財産権ト云フノハ所有権ヨリ広汎ナモノデアリマス此ノ中ニハ智能権モ含マレテ居リマス、随テ現行憲法ノ所謂所有権不可侵ノ規定ヨリカ、此ノ財産権不可侵ノ規定ノ方ガ、範囲ガ広マツテ居ルト考ヘテ居リマス
○木島委員　サウシマスト耕作権ナドモ、ヤハリ財産権ノ中ニ入リマスカ
○木村国務大臣　耕作権モ財産権ノ中ニ含マレテ居ルト信ジテ居リマス
○木島委員　本条ノ末項ニアル「私有財産は、正當な補償の下にこれを公共のために用ひることが出來る。」ト書イテアリマスガ、是ハ逆ニ公共ノ為ニ用ヒラレル場合デモ、正当ナ補償ヲサルベキモノデアルト云フ風ニ解釈シテ宜シイモノデアリマセウカ
○木村国務大臣　御説ノ通リデアリマス、公共ノ為ニ用フル為デモヤハリ正当ナ補償ヲシヨウト云フコトデアリマス
○木島委員　私ハ最近ニ於ケル農林省ガ、地主ノ作得米、並ニ耕地ノ自作農設定ニ於テ、小作米ノ価格並ニ土地価格ノ見積リ等ニ於テ地主ノ財産ニ対シテ正当ナ補償ヲシツツアルモノデアルカドウカト云フコトニ付テ、疑ヒヲ持ツテ居ル者デアリマス、又我ガ国ガ私有財産ヲ尊重スルト云フ立場カラ考ヘテ見ルナラバ、少シク行過ギノ感ガアルノデハナイカ、斯ウ云フ疑ヒラ持ツテ居リマス、今ヤ地方ニ於ケル地主ハ、全ク一般ノ無産階級ヨリモ、モツト生活上ノ脅威ニ襲ハレテ居ルノデアリマシテ、実例ヲ以テスルナラバ、土地ヲ持ツテ居ルガ為ニ一般配給ヲ受ケルコトガ出来ナイ、小作人ハ年貢ヲ納メナイト云フヤウナ甚ダシイ例モアリマス、要スルニ政府ハ一般大衆ノ歓心ヲ求ムルニ急デアツテ此ノ在来ノ地主、土地所有者ヲ余リ酷ニ扱ツテ居ルノデハナイカ、所謂社会ノ正常ナル通念カラ見テ余リニ酷ナ仕事ヲヤツテ居ルノデハナイカト云フノデ、農村ニ於ケル所謂中堅階級ノ人々ハ、現在ノ政府ノ行キ方ニ付テ、非常ナ不安ニ駆ラレテ居ルノデアリマス、此ノコトハ他ノ委員会ノ席上デ、詳シイコトハ申上グベキデアルト思ヒマスガ、概論ダケヲ此処デ申上ゲテ政府ノ所信ヲ伺ヒタイ、又是ハ実ハ農林大臣カラ伺ヒタイト思ヒマシテ、予メ通告シテ置イタノデアリマスガ、農林大臣ハオ見エニナリマセヌカラ、他ノ大臣ノ方デモ結構デゴザイマス
○木村国務大臣　農林大臣ニ代ツテ御答ヘ致シマス、今御話ノ、例ヘバ政府ガ米麦ノ買上ニ付テ不当ナ点ガアルト云フヤウナコトニ付キマシテハ、私ハ容易ニ御答ヘスルコトハ出来マセヌガ、仔細ニ之ヲ調査致シマスレバ、或ハサウ云フコトガアルノデハナイカト存ジマス、斯ウ云フヤウナコトハ、十分ニ政府トシテハ是正シテ行カナケレバ相成ラヌト信ジテ疑ヒマセヌ、サウシテ改正憲法草案ニ於キマシテハ、二十七条第三項ニ依ツテ、兎ニ角個人ノ持ツテ居ル私有財産ヲ、公共ノ為ニデモ之ヲ使ハウト云フ場合ニハ正当ナ補償ヲスル、無暗ナコトハシナイト云フ原則ヲココニ掲ゲテ居ルノデアリマス、此ノ草案実施後ニ於テハ、出来ルダケ此ノ線ニ沿ウテヤルベキモノダト確信シテ疑ハナイノデアリマス
○木島委員　只今答弁ノ衝ニ当ラレテ居ル方ハ司法大臣デアリマスカラ、詳シイコトヲ申上ゲテモ仕様ガナシ、又此ノ席上特ニ私ハ遠慮致シマスガ、唯斯ウ云フ点ヲ申上ゲタナラバ、如何ニ政府ガ行過ギデアラウカト云フコトガ分ルト思ヒマス、例ヘバ地主カラ米ヲ買上ゲルノハ、所謂農業倉庫ニ納メルモノハ石五十六円二十銭デアリマス、然ルニ一般配給米ハ百二十五円カト思ヒマスカラ、地主カラ買上ゲル米ハ其ノ線マデ引上ゲテ一向差支ヘナイト思フ、又土地ノ買上ニ於テモ其ノ線ニ沿ウテ計算サルベキモノデアルト私ハ信ジマス、若シサウシナイナラバ、是ハ今後日本ノ所有権、殊ニ耕地ノ所有権ト云フモノハ、一大脅威ヲ感ズルノデアリマス、濁リ現在ノ地主ノミナラズ、現在ノ小作人、自作モ亦自分達ノ土地ニ付テノ将来ノ不安ヲ持ツノデアリマス、是ハ社会上重大問題ト思ヒマスカラ、是ハ他ノ委員会デ質問スル積リデアリマス、私ハ進行上是デ止メマス
○芦田委員長　鈴木周次郎君
○鈴木（周）委員　「財産權は、これを侵してはならない。」此ノ条文ニ付テ敷衍シタルコトヲ御尋ネ致シマス、最近ニ於キマス財産権ニ対シマシテハ合成資本ガ非常ニ多イ、即チ株式出資ガ非常ニ多イ之ニ投資シテ居ル、即チ信託シテ居ル場合ノ方法ガ多イ、然ルニソコニ犯罪ガ出テモ之ヲ摘発シ、或ハ其ノ問題ニ対シテ保護ヲ講ズル方法ガ此ノ憲法ニハナイ、唯人権ノ保護ニハ弁護人ト云フコトガアルガ、此ノ財産権ノ保護ニ対シテ今日ハ計理士制度ヲ政府デ認メテ居ルガ、英米ノ如ク調査ノ責任ヲ持タセル為ノ考ヘハナカツタカドウカ、之ヲ立案スル時ニ於テサウ云フ研究ヲシタコトガアルカドウカ、之ヲ一ツ御伺ヒシテ置キタイ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス此ノ二十七条ハ私有財産権保護ノ大原則ヲ定メタノデアリマス、此ノ大原則ノ下ニ総テガ運用サレテ行クノデアリマス、今御説ノアリマシタ信託財産侵害ノ場合ナドハ是ハ又特殊ノ法律ノ下ニ大イニ擁護スル機会ガ与ヘラレテ居ルノデアリマス、ソコデサウ云フ事柄ハ此ノ憲法草案ニ規定スルト云フ必要ハナイト考ヘマス
○鈴木（周）委員　三十一条ニハ「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに辯護人に依頼する權利を與へられなければ、」ト云フヤウニ、弁護人ダケハ人権ノ保護上認メテ居リマスガ、財産権ノ保護ニハ唯侵シテハナラナイト云フ消極的ナコトバカリニナツテ居リマス、之ヲ第三十一条ニ則ツタ考ヘヲ、立案当時考ヘテ居ツタカドウカヲ、金森国務相ニ聴イテ見タイ
○金森国務大臣　三十一条ノ方ハ是ハモウ今カラ三年モ前カラ明暸ニセラレテ来マシタ所謂人身保護ノ特別ノ規定デアリマシテ、兎ニ角人間ノ身柄ヲ何処カノ豚箱ニ入レラレテシマフト云フト、其ノ受ケテ居ル不利益、隔離セラレテ居ル困難ナル事情ヲ、何処ニモ明カニシテ救済ヲ求メルコトハ出来ナイト云フノデ、第三十一条ノヤウナ途ガアリマシテ、自分ヲ法廷ニ引出シテ貰ヒ、其処デ調ベテ貰フト云フ趣旨ガ出来タ訳デアリマス是ハ人間其ノモノヲ此ノ途ヲ設ケテ置キマセヌケレバ、其ノ人ヲ救済スル途ガナイカラデアリマス、財産ノ場合デアリマスルト、財産ダケハ法律上仮ニ不法ナル処置ヲサレルト致シマシテモ、人間ガシツカリシテ居リマス限リハ、是ハ弁護士ヲ頼ムコトモ出来ルシ、其ノ他ノ救済手段モ出来ルト思ヒマス、サウシテ特別規定ヲ設ケナクトモ、一般ノ法律ノ規定ニ任セテ置ケバ宜イト云フ趣旨ヲ以テ、今御引キニナリマシタヤウナ財産権ニ付テハ考ヘテ居リマセヌ、併シ財産権モ総テ法律ニ依ラナケレバ之ニ対シテ何等ノ圧力ヲ加ヘルコトガ出来ナイト云フコトハ、此ノ憲法全体ノ中ニ随処ニ規定セラレテ居ル訳デアリマス
○鈴木（周）委員　私ノ質問ハ是デ止メマス
○芦田委員長　第二十七条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ、第二十八条ヲ議題ニ供シマス―木村公平君
○木村（公）委員　第二十八条ニハ「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」トアルノデアリマスガ「その他の刑罰」ノ中ニハ勿論名誉ニ関スル所ノ刑罰モ含ンデ居ルモノト思フノデアリマスガ如何デアリマスカ
○木村国務大臣　含ンデ居ルト御諒承願ヒマス
○木村（公）委員　然ラバ引続キ御尋ネ致シタイノデアリマスルガ、例ヘバ卑近ナ例ヲ申上ゲテ恐縮デアリマスガ、最近新聞紙ノ伝フル所ニ依リマスレバ、学歴詐称ト云フヤウナ問題ガアルノデアリマス無論此ノ問題ハ法律ノ手続ニ依リマシテ処罰セラルルコトニ私共ハ異存ガアル訳ガナイノデアリマスガ、唯私共ガ不可解ニ思ヒマスルノハ、未ダ此ノ事件ガ検察官ノ手ニアル内ニ、更ニ言葉ヲ換ヘマスレバ、起訴不起訴ノ決定前ニ、或ハ新聞紙或ハ雑誌等ノ関係者ニ放送ト称シテ之ヲ発表スル、発表サレタ結果新聞雑誌等ハ之ヲ極メテ「センセーショナル」ナ書キ方ヲスル其ノ為ニ社会的ニ致命的ナ所ノ痛手受ケテ居ルヤウナ事実ガアルノデアリマスガ、万一「その他の刑罰」ノ中ニ名誉ニ対スル刑罰モ入ツテ居ルト致シマスナラバ、是ハ法律ノ定メル手続ニ依ラザル所ノ刑罰、刑罰以上ノ刑罰、所謂言葉ヲ換ヘマスレバ「リンチ」デアルト思フノデアリスマルガ、政府ハ「リンチ」ニ対シテ如何ナル御見解ヲ御持チデアリマスカ、一寸伺ツテ置キタイノデアリマス
○木村国務大臣　只今ノ御言葉ニ依リマシテ洵ニ遺憾ノ感ジガスルノデアリマス、マダ起訴、不起訴モ決マラナイ内ニ、其ノ人ニ対スル犯罪事実或ハ起訴サレタトカ何トカ云フヤウナコトカ世間ニ漏レルト云フコトハ洵ニ遺憾ニ存ジマス、勿論司法当局トシテハ左様ナ洩ラスヤウナコトハ絶対ニアルベカラザルコトデアリマスルガ、万一ニモ、左様ナコトガアリマスルトイケマセヌデ、従来カラ其ノ点ニ付テハ十分警戒ヲシテ居ルノデアリマス、尚ホ能ク其ノ点ニ付テハ取締リタイト思ツテ居リマス、而シテ今御話ノサウ云フ場合ニ、公表サレタ記事ニハ非常ナ社会カラ一ツノ制裁ヲ加ヘラレタモノデアリマシテ、本人ハ痛手ヲ被ムルサコソノコトデアリマス、御察シ致シマス、サウ云フコトニ対シテ所謂社会的「リンチ」ト考ヘテ、ソレニ対スル処置如何ト云フ問題デアリマスルガ、ソレハドウモ只今ノ所デハ別段ソレニ対スル公ノ処置ト云フコトハ考ヘラレテ居ナイノデアリマス、将来ト致シマシテハ、サウ云フコトニ付テ十分考慮致シタイト思ツテ居リマス、勿論今ノ場合ハ社会的ノ「リンチ」ト云フコトトハ一寸趣ヲ異ニ致シテ居ルノデ、考ヘ方ニ依リマスルト或ハ故意ニサウ云フコトヲ流布スレバ名誉ノ毀損ニモ或ハナラウカト思ツテ居リマス、併シソレヲ現実ノ問題トシテドウ取扱フカト云フコトニ付テハ、本人ノ御意思ナリヲ伺ハナケレバ、直チニソレヲ取上ゲルト云フコトニハ参ラヌト思ツテ居リマス
○木村（公）委員　只今ノ司法大臣ノ説明中、是ハ例ヘバ名誉ニ関スル犯罪ヲ構成スルト云フヤウナ御言葉ガアリマシタガ、無論左様ナコトハ私ガ申上ゲルマデモナイコトデアリマシテ、名誉ニ関スル犯罪ハ事実ノ有無ヲ問ハナイノデアリマスカラ、随テ其ノコトハ私ハ敢テ御伺ヒ致サナイノデアリマスガ、左様ナ検察当局ガ屡々重大ナルコト、特ニ著名人ノ生涯ノ痛手トナルヤウナコトヲ軽々ニ漏洩サレルト云フコトニ対シテハ、私共ハ頗ル遺憾デアルノミナラズ、恐ラク国民ハ非常ナル所ノ不安ヲ持ツテ居ルト思フノデアリマス、随ヒマシテ私ハ願クハ、此ノ二十八条トハ限ラナイノデアリマスガ、殊ニ弁護士デアリマストカ、或ハ判検事デアリマストカ云フ者ガ職務ニ依ツテ知得致シマシタ所ノ諸諸ノ犯罪事実ハ、従来ニ於テモ之ヲ発表スルコトニ対シテハ一、二ノ規定ガアルノデアリマスガ、今後ニ於テハ恐ラク生命、自由ト共ニ重ンゼラレナケレバナラヌ所ノ名誉、而モ著名人ニ於テコソ此ノ名誉ハ生命ト同等或ハソレ以上トモ思ハレルノデアリマスカラ、此ノ点ニ付テハ御当局ニ於カセラレマシテハ、十分ナル御考慮ヲ煩ハシタイノデアリマス
　更ニ引続キ御尋ネ致シタイノデアリマスルガ、二十八条ニ、何人モ法律ニ定メル手続ニ依ナケレバ其ノ生命若シクハ自由ヲ奪ハレナイトアリマスガ、此ノ何人ノ中ニハ無論自然人ノ外ニ法人モ入ラナケレバナラヌト思ヒマスガ、左様解釈致シテ宜シイノデアリマスカ
○木村国務大臣　此ノ規定ハ主トシテ個人ノ生命自由ヲ保護スル規定ト照応シテ設ケラレタ規定ナンデアリマスガ、併シ法人ト雖モ其ノ他ノ刑罰ヲ科セラレルコトガアルノデアリマス、勿論此ノ中ニ包含サレルモノト御諒解ヲ願ヒマス
○木村（公）委員　ソコデ御伺ヒ致シタイノデアリマスガ、此ノ「何人」ノ中ニハ自然人、法人ハ含マレテ居ル、ココデ私ガ異様ニ感ジマスノハ、然ラバ例ヘバ政党デアルトカ政府デアルトカ云フモノハドウデアリマスカ、サウ云フモノハ刑罰ノ対象ニナラナイノカドウカト云フコトデアルノデアリマス例ヘバ内閣ト雖モ、政党ト雖モ謂フ所ノ広イ意味ノ社会的「リンチ」ノヤウナ刑罰ノ対象ニハナリ得ルノデハナイカ、私共ハ斯様ニ考ヘテ居ルノデアリマス、例ヘバ吉田内閣ハ反動的デアル、斯ウ云フヤウナ言葉ガ出タ場合ニ、一体是ハドウ云フコトデアルカ、曽テ東條内閣ト云フモノガアリマシテ極メテ異常性格ヲ持ツタ内閣デアリマシテ、殆ド常軌ヲ逸シマシタ所ノ乱行ヲ致シマシタ、其ノ後ニ出来マシタ所ノ吉田内閣ハ東條内閣ト比較致シマシテ反動的ト言フナラバ、合理的ニ見マスナラバ、アア云フ乱行内閣ノ後ニ反動的ニ出来タ吉田内閣ト云フモノハ、其ノ反動デアルナラバ自由濶達明朗其ノモノノ内閣デアルトモ言ヒ得ルノデアリマス、所ガ世間ニ於テハ斯ウ云フ論理的ナコトヲ必ズシモ考ヘナイデ、反動トハ自由又ハ進歩ノ妨害ノ如ク考ヘラレル虞モアル、果シテ然ラバ吉田内閣ハ反動内閣ト言ハレ、或ハ之ヲ支持スル所ノ政党ガ反動政党ト言ハレタ場合ニ、万一此ノ「何人」ト云フ中ニ政党ト云フモノガ含マレ、或ハ政府ヲモ包含スル、而シテ刑罰ノ定義ヲ広範囲ニ解釈致シマシテ社会的ナ制裁ヲモ含ムト解釈致シマスナラバ、正シク吉田内閣ヲ反動内閣ト呼ビ、或ハ又ソレヲ支持スル所ノ致党ヲ反動政党ト呼ブト云フコトハ、明カニ是ハ刑罰ノ対象トナルト心得ルノデアリマスガ如何デアリマスカ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス此ノ規定ハ国家ガ個人ノ生命、自由ヲ奪ヒ、其ノ他ノ刑罰ヲ科スルヤウナ場合ニハ、法律ノ定メル手続ニ依ラナケレバナラナイト云フ規定デアアリマス、今ノヤウナ社会的制裁ト云フヤウナモノハ、此ノ中ニ入ラナイ、サウ御諒承ヲ願ヒタイ、是ハ国家ガ個人ノ生命、自由其ノ他ノ刑罰ヲ科スル場合ニハ、法律ノ定メタ手続ニ依ラナクテハナラナイト云フ規定デアリマス
○木村（公）委員　最後ニ一言御伺ヒ致シマスガ、既ニ此ノコトハ司法大臣カラモ御答ヘガアツタノデアリマスガ、此ノ二十八条ノ生命ヲ奪ハレ、所謂死刑ノ規則デアリマスガ、之ニ対シテハ、現段階ニ於テハ死刑制度ノ廃止ハ出来ナイト云フ御答ヘデアリマシタ、併シ其ノ時ノ司法大臣ノ所論或ハ理由ト云フモノガ極メテ薄弱デアリマシテ、未ダ能ク分ツテ居ナイノデアリマス、願ハクハ此ノ機会ニ極メテ簡単ニ死刑廃止ヲナシ得ナイ所ノ理由ヲ承ツテ置キタイト思ヒマス
○木村国務大臣　此ノ死刑廃止論ニ付テハ、非常ニ難カシイ議論ガアルノデアリマス、人道上カラ考ヘテ、人ガ人ヲ裁ク、而シテ其ノ人ノ生命ヲ断ツト云フヤウナコトハ、ドウ考ヘテモ人ノ道デハナイ須ク死刑ハ廃止スベキデアルト云フ論者ガ欧米諸国ニ於テモ随分アルノデアリマス、又一面ニ於テ或ハ老人ニ対シテハ特別ノ規定ヲ設ケテ、死刑ヲスベカラズト云フヤウナコトニシタラドウカ、年ニ依ツテ区別シテ死刑ヲ廃スルト云フヤウナ論者モアルノデアリマスルガ、御承知ノ通リ、刑罰ノ本質ノ問題ニナルノデアリマスルガ、是ハ只今ノ段階ニ於キマシテハ、所謂教育刑ト云フコトヨリモ、或ハ応報刑ト云フヤウナ観点カラシテ仮ニ人ヲ殺シタ者ノ行為ガ残虐デアル、非常ニ残虐ナ行為ヲ以テ人ヲ殺シタヤウナ場合ニハ、是ハヤハリ死刑ニモシナケレバ、本人ニ対シテ殺サレタ遺族ニ対スル考ヘ方、或ハ世間カラ見テ、サウ云フモノヲ生カシテ置クト云フコトハ条理ニ反スルト云フヤウナ観点カラシテ、残虐ナ殺人行為ニ対シテハ死刑ヲ以テ臨マナクテハナラナイト云フヤウナ考ヘ方ガ強イノデアリマス、現ニ私ノ知ツテ居ル範囲ニ於キマシテモ、従来殺人ヲシテサウシテ死刑ヲ言渡サレタ場合ヲ能ク取調ベテ見マスルニ、実ニ残虐ナコトヲヤツテ居ル、一例ヲ申シマスルト、金ヲ盗ル為ニ人ヲ山ヘ連レテ行ツテ、サウシテ非常ナ残虐ナ殺シ方ヲ以テ其ノ金ヲ奪ツタ、是ハ実ニ話ヨリ酷イノデアリマス、我々ハコンナコトガ出来ルカト想像スル以上ノコトヲヤツテ居リマス、サウ云フ場合ニハ恐ラク当該裁判官モ涙ヲ揮ツテ死刑ノ言渡ヲシタコトデアラウト信ズルノデアリマス、大体ニ於テ殺人行為デモ情状ノ酌量ヲスベキモノニ付テハ死刑ノ言渡ヲスルト云フコトハ極メテ稀デアリマス、繰返シテ申シマスルガ、私ノ知ル範囲ニ於キマシテハ、死刑ノ言渡ト云フモノハ特殊ノ事情アル場合デ随テ死刑ヲ廃止シナクテモ之ヲ濫用スルト云フヤウナサウ云フ懸念ハ絶対ニナイモノト信ジテ疑ヒマセヌ
○木村（公）委員　終リマシタ
○芦田委員長　第二十八条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第二十九条ヲ議題ニ供シマス――山崎岩男君
○山崎（岩）委員　第二十九条ニ付キマシテ、司法大臣ニ御尋ネ申シマス、裁判所ノ街頭進出ト言ヘバ語弊ガアルカモ知レマセヌガ、裁判所ノ簡易化ト云フコトニ付テ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス、是カラハ色々ナ点ニ於テ家庭上ノ紛議ガ起キテ来ルノデハナイカト思ヒマス、例ヘバ婚姻ノ関係ノ如キモノデモ、両性ノ合意ト云フヤウナコトデ以テ恋愛結婚モドシドシ流行シテ来ルコトト思ヒマス、サウスルト是ハ欧米ノ状況ヲ見テモ恋愛結婚ハ必ズシテ最後マデ、結婚ノ有終ノ美ヲ遂ゲル結果ニハナツテ居ナイ、恋愛結婚ノ結果中々離婚ノ多イ事実モ私ハ知ツテ居リマス、ソコデ色々ナ点ニ於テ是カラ家庭上ノ問題ガ今マデト違ツタ形ニ於テ生ジテ来ルモノト思フノデアリマス、此ノ家庭ノ紛議ヲ解決スルコトノ為ニハ、極メテ短時間ニ簡単ナ手続ニ依ツテ解決シナケレバ、色々ナ点ニ於テ生活ガ苦シクナツテ来、此ノ人生ト云フモノニ潤ヒヲ欠イテ来ルコトニナリマス、ソコデ左様ナ家庭紛議ヲ解決スルコトノ為ニハ、裁判所ヲ今マデノヤウナ堅苦シイコトニセズ地方事務所デモ宜イ、役場デモ宜イ、市役所デモ宜イ、サウ云フ所ヘ進出シテ一ツサウ云フ裁判ヲヤツテ、簡単ニシテ而モ明朗ニ解決ヲ付ケルト云フヤウナコトニ付テ此ノ憲法ノ実施ト共ニヤラレル御意思ハナイカドウカ、御意見ヲ承リタイト思ヒマス
○芦田委員長　暫時休憩致シマス
　　午後三時四十七分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　午後三時四十八分開議
○芦田委員長　休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――木村司法大臣
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス只今ノ御説ハ至極御尤モト存ジマス、裁判ノ簡易化、迅速化、是ハ是非トモ遂行シナケレバナラヌト存ジテ居リマス、世ノ中ガ進展スルニ従ツテ紛争事件モ始終出テ来ルノデアリマス、而シテ是ガ迅速ニ解決サレルト云フコトハ、是ハ国民ノ利害ニ非常ナ影響ガアルノデアリマス、当局ト致シマシテハ十分其ノ点ニ考慮ヲ払ツテ居ルノデアリマス、御承知ノ通リ欧米ニ於キマシテハ巡回裁判所ノ設ケモアリマス、日本ニ於テモ或ハ此ノ流レニ沿ツテサウ云フヤウナコトモ試ミテ見タイト云フヤウナ気持ハ持ツテ居ルノデアリマス、今御話ノ事柄ハ十分考慮ニ入レテ将来ノ施設ニ万違算ノナイヤウニ致シタイト存ジテ居リマス
○山崎（岩）委員　了承致シマシタ終リマス
○芦田委員長　第二十九条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第三十条ヲ議題ニ供シマス、青木泰助君
○青木（泰）委員　人権ノ尊重ト其ノ擁護ハ憲法上重要ナル問題デアルト云フコトハ、今更申上ゲルマデモアリマセヌ、現在ノ憲法ニ於キマシテモ、厳トシテ其ノ規定ガアリマスルガ、遺憾ナガラ往々ニシテ人権蹂躪ノ声ヲ聞クノデアリマス、然ルニ本条ハ現行憲法ノ保障ヨリハ一層具体的ニ規定セントスルコトハ、頗ル其ノ当ヲ得タコトト思ヒマス、身体ノ自由制限ハ主トシテ本条ノ令状ニ関係スルコトデ、現在ノ実情ハ遺憾ナガラ令状ヲ用ユルト云フコトハ法律ニ付テ知識アル人トカ、或ハ社会的優位ノ人ニ対シテ用ヒラレル場合ガ多クテ、一般多数民衆ニ対シテハ任意ノ出頭、或ハ警察官吏ノ同行ト云フコトガ常例トナツテ居ルノ感ガアルノデアリマス、爾カスル時ニ於キマシテハ、多数国民ハ憲法保障ノ重大ナル人権ヲ時ニ踏躪サレテ居ルノデハナイカト思フノデアリマス、ソコデ私ハ本条ニ関シマシテ数項ノ質問ヲ致シタイト思ヒマス
　第一ニ条文ニ「逮捕」トアリマスルノハ広義ニ解スベキカ、将又狭義ニ解スベキカ、現在ノ刑事訴訟法ノ規定デハ「逮捕」ト云フコトハ犯人ガ確定致シマシテ、其ノ所在ガ不明ノ場合ニ裁判所ガ発スル逮捕状、現行犯ノ場合ニ発スル逮捕状、斯ウ云フコトニナツテ居ルト記憶シテ居リマスルガ、本条ノ「逮捕」トハ現在用ヒテ居リマスル勾引状以上ノ意味ヲ含ムカドウカ、司法大臣ニ御尋ネシタイ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス是ハ勾引ノ場合ニ該当スルト御諒承ヲ願ヒマス
○青木（泰）委員　第二ト致シマシテ、犯罪ノ捜査ニハ強制力ヲ用ヒナイト云フコトハ刑事法上ノ原則ト思ツテ居リマス、但シ現行犯ノ場合ハ除キマスルガ、サウ致シマスルト、現在ノ検事ノ強制処分ノ根拠デアリマス所ノ検事勾留状ノ将来ハドウナリマスカ、又刑事訟訴法手続ニ依ル司法警察官ノ現行犯ノ場合ニ発スル勾引状ノ将来ハドウナリマスカ、又予審制度ハ之ヲ持続ナサル御考ヘデアルカドウカ、長キニ亘ル勾留ノ問題ハ多ク此ノ予審判事ノ欠員若シクハ手不足カラ起ル場合ガ多イノデアリマス、其ノ点ニ付テ御伺ヒ致シマス
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス此ノ予審制度ノ問題ニ付キマシテハ、是ハ十分考慮致サナクテハナラヌト考ヘテ居リマス、従来永ラク勾留サレテ非常ニ苦ンダト云フ例ハ、私モ実ハ存ジテ居ルノデアリマス、此ノ制度ヲ如何ニ改革スベキカト云フコトニ付テハ、只今十分考慮シテ居リマス、私一個ノ考ヘト致シマシテハ、予審制度ハ寧ロ廃止シテ宜イノデハナイカトマデ考ヘテ居ルノデアリマス（「同感同感」）恐ラクサウ云フ線ニ向ツテ、今度ノ司法制度ハ改正サルベキモノト考ヘテ居リマス
　勾引ノ問題デアリマスガ、司法官憲ノ勾引、是ハ御尤モデアリマスルガ、此ノ規定ニ依リマスルト「權限を有する」トナツテ居リマス、之ニ重キヲ置イテ戴キタイト思ヒマス、無闇ニヤラセナイデ十分権限ヲ持ツタ者ニヤラセルト云フコトデアリマスカラ、将来此ノ新憲法ガ実施ノ暁ニ於キマシテハ御心配ノヤウナ点ハ十分無クナルコトト思ヒマス、将来ニ於テハ大イニ考慮シテ御心配ノヤウナ点ハ是正シテ行キタイト存ジテ居リマス
○青木（泰）委員　金森国務大臣ト司法大臣トニ御尋ネ致シマスルガ本条中ニ「司法官憲」ト云フ用語ガアリマスルガ、此ノ「官憲」ト云フ用語ハ、今ヨリ十年以前ノ法規、或ハ法令ニ於テ殆ド其ノ影ガナカツタノデアリマス、ソレガ今カラ十年此ノ方此ノ「官憲」ト云フ用語ガ流行シテ参リマシタ、是ハ欧文ヲ訳シマスト「權力アル司法役人」トナツテ居リマスガ、此ノ「官憲」ト云フ用語ハ、或ハ此ノ民主主義憲法ヲ御制定ニナル場合ニ、少シク非民主主義的デハアリマスマイカ、其ノ点ニ付テ御説明ヲ願ヒマス
○木村国務大臣　此ノ言葉ニ付テノ考ヘ方ハ或ハ仰セノヤウニ、如何ニモ堅苦シイヤウナ感ジガナイトモ限リマセヌ、併シ是ハ行政官吏ヲ排除スルト云フ意味ニ用ヒタノデアリマシテ、此ノ位ノ文字ガ或ハ適当デハナイカト考ヘタノデアリマス、左様御諒承ヲ願ヒマス
○青木（泰）委員　司法大臣ト内務大臣ニ是非トモ御答ヘヲシテ戴キタイノハ、此ノ条文ガアリマシテモ、違警罪即決例ニ依ル警察署長ノ言渡シノ拘留刑ト、行政執行法ノ検束ト云フコトガ存置サレテ居リマスルナラバ、三十条ノ条文ハ下級公務員ニ依ツテ蹂躪サレツツアルシ、又今後蹂躪サレル虞ガアルノデハナイカ、之ヲ此ノ機会ニ明確ニ存廃ノ御答弁ヲ願ヒタイ
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス草案第六十九条第六号ニ「この憲法及び法律の規定を實施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」斯ウ云フコトニナツテ居リマス、御心配ニナル違警罪即決例ナドハ、恐ラク此ノ憲法草案ガ実施サレル暁ニハ廃止サレルデアラウト思ヒマス
○青木（泰）委員　行政執行法ニ付テハ大臣ハオ見エニナリマセヌヤウデスカラ留保ヲシテ置キマス
○木村国務大臣　行政執行法モ恐ラク是ハ廃止ノ運命ニナルモノデハナカラウカト存ジテ居リマス、今確言ハ申サレマセヌガ、若シモ是カ存置サレルトシテモ、大幅ノ修正ガアツテ、御心配ノヤウナ点ハ是正サレテ行クモノダト存ジテ居リマス
○青木（泰）委員　最後ニ司法大臣ハ司法官ノ優遇ニ付テ御考ヘガアリマスカ、私ハ個人ト致シマシテ永ラク司法官ノ家庭ト交際ヲ結ンデ居リマスガ、過般本会議ニ現ハレマシタヤウナ見方ハ別ト致シマシテ、私ノ日常見ル所ニ依リマスト、今日ノ生活様式デ司法官程苦シイ立場ニアルモノハナイノデアリマス、或ル司法官ノ奥サントオ嬢サンガ近所ノ人ガ藷ノ買出シニ行ク、大根ノ買出シニ行ク、旦那様ニ伺ツテ見ルト云フト、旦那様ハ行ツテ来イト言ヒタイノダガ、職務上サウ云フコトヲシテハナラヌ、又誰一人大根一本持ツテ来ル人ハナイ、斯ウ云フヤウナ所ヲ一ツ能ク司法大臣ハ御観察下サイマシテ――私ハ警察官ノ優遇ニ付キマシテハ、自分モ体験致シマスシ、地方議会ニ於テ過去十五箇年終始一貫警察官ノ優遇ヲ主張シテ来マシタガ、今回同時ニ私ハ司法官ノ優遇ニ付テ司法大臣ノ御所見ヲ承リタイ、同時ニ憲法ハ勿論其ノ他ノ総テノ法令ハ法令ト致シマシテ之ヲ運営スルノハ人デアリマス、其ノ人宜シキヲ得ナケレバ、如何ニ立派ナ名文デアリマシテモ、人権ノ擁護ハ、確立致シマセヌ、オ世辞ノヤウデアリマスルガ、司法大臣閣下ガ民間ノ法曹界カラ検事総長ニナラレタ其ノ時カラ、地方ニ於ケル検察官、警察官ノ態度ト云フモノハ非常ニ柔カニナツテ居リマス、是ハ決シテオ世辞ヲ言フノデハアリマセヌ、サウ云フ意味合カラ致シマシテ、今後政府ニ於キマシテハ、此ノ憲法ガ成立致シマシタナラバ、同時ニ之ニ対スル精神ヲ能ク国民ニ普及徹底スルト同時ニ、総テ親切ト温情トヲ以テ国民ニ臨ムト云フ指導理念デ行ツテ戴キタイト云フコトヲ特ニ人権擁護ノ立場カラ御願ヒ致シマス、司法官ノ優遇ニ付テノ御意見ヲ承リタイ
○木村国務大臣　只今司法官ニ対スル洵ニ御同情アル御言葉ヲ頂戴致シ、感謝ニ堪ヘマセヌ、御説ノ通リ日本国中ノ官吏デ司法官程生活ニ恵マレテ居ナイモノハナイノデアリマス、役得ハ少シモゴザイマセヌ、而シテ公正ナル生活ヲ送ツテ行カナクテハナラヌノデアリマス、実ニ苦シイ立場ニアリマス私モ司法部ニ職ヲ奉ジテマダ日ハ浅イノデアリマスルガ、具サニ其ノ状態ヲ見マスルニ、実ハ涙ナクシテ居ラレナイノデアリマス、実ニ気ノ毒ナ状態デアリマス（拍手）何トカシテ之ヲ私ハ解決致シタイト思ツテ居マス、現ニ検事局ノアノ日比谷ノ庁舎ヲ見テ戴キタイ、都ノ清掃課デ使ツテ居ツタ「バラック」デモ皆我慢シテヤツテ居ルノデアリマス、私ハ之ヲ見テ実ニ若イ者ガ能クヤツテ呉レルト感激シテ居ルノデアリマス、只今ノ御言葉ヲ聴イテ私ハ実ニ感激ヲ致シマシタ、私モ職ニ在ル間ハ一身ヲ賭シマシテモ、此ノ司法官ノ地位ノ改善ニ尽ス積リデアリマス、ドウカ議員諸君ニ於カレマシテモ十分ノ御援助ヲ切望シテ已ミマセヌ（拍手）
○青木（泰）委員　私ノ質問ハ是デ終リマシタ
○芦田委員長　本日ノ質疑ハ此ノ程度デ終リマシテ、明日ハ午前十時ヨリ開会致シマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
　　午後四時五分散会