委員会 昭和21年7月20日（第18号）

昭和二十一年七月二十日（土曜日）
　　　　午前十時三十分開議
　出席委員
　　委員長　芦田　　均君
　　　理事　江藤　夏雄君　理事　高橋　泰雄君
　　理事　廿日出ひろし君　理事　青木　泰助君
　　　理事　吉田　　安君　理事　鈴木　義男君
　　　理事　林　　平馬君　理事　大島　多藏君
　　　　　小野　　孝君　　　　大久保留次郎君
　　　　　　加藤　宗平君　　　　神田　　博君
　　　　　　木島　義夫君　　　　木村　公平君
　　　　　　小島　徹三君　　　　左藤　義詮君
　　　　　　武田　キヨ君　　　　本田　英作君
　　　　　　三浦寅之助君　　　　坪川　信三君
　　　　　　天野　　久君　　　　原　健三郎君
　　　　　　山田　悟六君　　　　星　　　一君
　　　　　　森山　ヨネ君　　　　山崎　岩男君
　　　　　　石川金次郎君　　　　及川　　規君
　　　　　　加藤シヅエ君　　　　黒田　壽男君
　　　　　　杉本　勝次君　　　　田原　春次君
　　　　　　西尾　末廣君　　　　森　三樹二君
　　　　　　森戸　辰男君　　　　井上　徳命君
　　　　　　森　由巳雄君　　　　大橋　喜美君
　　　　　　越原　はる君　　　　田中伊三次君
　　　　　　笠井　重治君　　　　安部　俊吾君
　　　　　　久芳庄二郎君　　　　早川　　崇君
　　　　　　藤田　　榮君　　　　野坂　參三君
　出席国務大臣
　　　　　　　　　　　司法大臣　木村篤太郎君
　　　　　　　　　　　内務大臣　大村　清一君
　　　　　　　　　　　文部大臣　田中耕太郎君
　　　　　　　　　　　国務大臣　齋藤　隆夫君
　　　　　　　　　　　国務大臣　植原悦二郎君
　　　　　　　　　　　大蔵大臣　石橋　湛山君
　　　　　　　　　　　国務大臣　金森徳次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局長官　入江　俊郎君
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　　　　　　　大蔵事務官　江澤　省三君
　　　　　　　　　司法政務次官　古島　義英君
　　　　―――――――――――――
本日ノ会議ニ付シタ議案
　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、第三十九条ニ対スル質疑ハ、国務大臣出席ノ都合ニ依ツテ留保致シマス、第四十条ヲ議題ニ供シマス本条ニ対シテハ質疑ノ申出ガアリマセヌ、次ノ第四十一条ヲ議題ニ供シマス――原健三郎君
○原（健）委員　国務大臣ニ御伺ヒシタイノデアリマスガ、第四十一条ニ「衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間滿了前に終了する。」トアリマシテ、此ノ衆議院解散ト云フコトガ是ニ出テ居ルノデアリマス、ソコデ衆議院ノ解散ト云フコトニ付テ御伺ヒシタイノデアリマス、明治憲法ニ依ルト、第七条ニ於テ「天皇ハ帝國議會ヲ召集シ其ノ開會閉會停會及衆議院ノ解散ヲ命ズ」トシテアルノデアリマスガ、此ノ草案ニ依リマスト、誰ガ一体衆議院ヲ解散スルノデアルカト云フコトガ明記シテナイノデアリマス、是ハドウ云フ方法ニ依ツテ解散サレルモノデアルカ、ソレヲ一ツ御尋ネシタイノデアリマス
○金森国務大臣　此ノ規定ノ建前ハ、議会ノ働キ、裁判所ノ働キ、ソレカラソレ以外ノ執行行為ト云フ大体三ツノ分ケ方ニシテアル訳デアリマス、衆議院ヲ解散致シマス行為ハ、固ヨリ司法権ノ行為デハアリマセヌ、議会自ラノ行為デアリ得ル訳ナノデアリマス、斯ウ云フコトニナリマスト、結局其ノ外ノ権利即チ国ノ仕事ヲ執行シテ行ク即チ立法、司法以外ノ執行権ノ範囲ニ属スルト思フノデアリマスソレハ此ノ憲法草案ノ第六十一条ニ「行政權は、内閣に屬する。」ト云フコトガアリマス、此ノ行政権ト云フ言葉ガ、学者ノ間ニ広イ意味ニモ狭イ意味ニモ用ヒラレテ居リマスルガ、ココノ行政権ハ謂ハバ執行権トデモ言フベキ最モ広イ意味ニ考ヘテ居ル、ソコデ其ノ実体ヲ決メマスノハ、行政権ノ所管ニナル訳デス、実体ヲ決メマスルト、ソレニ基キマシテ天皇ノ行為ヲ御願ヒスル、詰リ内閣ノ助言ト承認ト云フ段階ニ入ツテ来マシテ其ノ内閣ノ助言ト承認ヲ基礎トシテ、主タル眼目ハ儀式的ニ相応シキ形トナツテ、第七条ノ第三号ヲ経由シテ解散ガ行ハレルト云フコトニナリマス
○原（健）委員　ソレカラ内閣ノ助言ト承認ニ依リテ衆議院ヲ解散スルト云フノデアリマスガ、如何ナル理由ノ存スル時ニ、議会ヲ解散スルノデアルカ、理由ノ内容ヲ一ツ明確ニ御示シ願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣　解散ガ如何ナル場合ニ行ハレルカト云フ点ハ、常識的ニ見マスレバ、略々行ハレ得ル場合ハ大体皆様ガ能ク御承知ノコトト思フノデアリマス、併シ幾ラカ学問的ニ正確ニ申シマスルト普通ニ起リ得ル場合ダケヲ予想シテ御答ヘスルコトガ出来ナイノデアリマシテ、結局現在ノ衆議院ノ構成員ヲ一斉ニ消滅セシメテ、新タナル国民ノ総意ニ依ツテ、衆議院ヲ構成シ直シ、サウシテ与論ノ帰着スル所ヲ政治ノ上ニハツキリ反映セシムル、斯ウ云フ趣旨ニ必要ナル事情ガアリマスレバ、衆議院ノ解散ハ出来ルカト思フ訳デアリマス、随テ一番起リ易イ場合ハ内閣ト衆議院トガ衝突シテ、或ハ意見ニ差ガアツテ、其ノ判断ヲ国民ニ求ムルト云フ場合デアリマス併シナガラ独リソレニ限定スルト云フノデハアリマセヌ、非常ニ重大ナル、審議事項ガ起リマシテ、ソコデモウ一遍此ノ問題ヲ眼目ニシテ、国民ノ意見ヲ確カムル方ガ宜イト云フヤウナ判断ガ付キマシタ場合ニハ、ヤハリ解散ガ出来ル其ノ外今空想的ニハ想像出来マセヌガ、今申シマシタ一般原理ニ従ツテ解散ガ出来ルト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○原（健）委員　今申上ゲタ一般原理ハ能ク分ツタノデアリマスガ、ソレデハ同一政府ノ下ニ於テ二回以上連続シテ、此ノ解散ヲ行フコトガ出来ルト解釈出来ルノデセウカ、出来ナイデセウカ
○金森国務大臣　此ノ憲法ハ同一政府ノ下ニ於キマシテ、連続スルコトヲ禁止シテ居ル趣旨ハ持ツテ居リマセヌ、唯解散後ノ議会ニ於キマシテハ、政府ハ辞職シナケレバナリマセヌ、ソコデ実質ハ同一政府ノ下ニ二度解散ガ出来ルカモ知レマセヌガ、時間的ニ言ヘバ一遍政府ガ辞メル、斯ウ云フ風ニナリマス
○原（健）委員　今マデ是ハ明治憲法デモ色々ト議論ガアツタコトデアリマスガ、開会中ニ於テハ議会ノ解散ガ出来タノデアリマスケレドモ、開会中デナイ以外ノ場合ニ於テ、果シテ議会ノ解散ト云フコトガ出来ルモノデアラウカ、出来ナイモノデアラウカ、之ヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣　此ノ問題ハ今御話ノヤウニ、現在ノ憲法ノ下ニ於キマシテ屡々論議セラレマシテ、相当実際方面ニ於テモ研究シタ問題デアリマスガ、現実ニ之ヲ解決スルダケノ必要ガ起ラナカツタ為ニ、学問的ニハ存在シテ居リマスケレドモ、実際的ニハ此ノ問題ガハツキリ姿ヲ現ハシテ居リマセヌ此ノ際極ク安全ナ御答ヘヲ致シマスレバ、ヤハリ解散ト云フモノハ今マデ用心深ク政府ガヤツテ来タト同ジヤウニ、今後モ議会ノ開カレテ居ナイ内ニ、解散ヲスルト云フコトハナイデハナイカト思ツテ居リマス、併シ理論的ニ所見ヲ言ヘト云フコトヲ申サレマスレバ、勿論解散ハ出来ルモノト思ツテ居リマス
○原（健）委員　モウ一ツ御伺ヒシタイノデアリマスガ、明治憲法ノ下ニ於テモヤハリ解散ハ出来ナイヤウナ場合ガ事実上アツタノデアリマス、例ヘバ総選挙後一度モ召集サレナカツタヤウナ場合トカ、或ハ又議会召集ノ詔書ガ既ニ発布セラレテモ、而モ未ダ其ノ召集期日ニ到達セザルヤウナ場合ハ、事実上解散ハ出来ナカツタノデアリマスガ、此ノ草案ニ於テモヤハリサウ云フ風ニ解散ガ出来ナイヤウナ場合ハ、ドウ云フ場合ガ起ルノデセウカ
○金森国務大臣　解散ト云フヤウナ重大ナコトハ、政治的ニ色々ナ方面ヲ考ヘテ実行シナケレバナリマセヌノデ、現実ニハ理論的ナ結果ヨリモ狭イ範囲ニ於テ解散ノ機会ガ来ルモノト思ヒマス、併シ理論的ニ申シマスト、国家ガ必要ガアツテドウシテモ此ノ議院ヲ解散シナケレバナラヌト云フコトガ起レバ、解散シテモ宜イト思フノデアリマス、唯併シ解散ヲスルト云フコトハ政府ノ責任ヲ明カニスルト云フ意味ヲ持ツテ居リマスガ故ニ、解散後ノ初メテノ召集ヲシナイデ解散ヲスルト云フ理論ハ、此ノ憲法ノ上カラモ起リ得ナイモノト考ヘテ居リマス
○原（健）委員　モウ一ツ御伺ヒシタイノデアリマスガ此ノ新憲法ハ二月ノ十日頃ニ発布サレルサウデアリマスガ、之ヲ理論的ニ又原則的ニ言フナラバ、新憲法ガ発布サレタ場合ニ議会ハ解散サレテ、新シク選挙ヲヤルベキデアルト云フコトガ成立ツノデアリマス、又昨日ノ答弁ニ依リマシテモ、選挙法ノ一部ハヤハリ此ノ新憲法ニ則ツテ、又参議院ノ選挙ニ則ツテ一部改正シナケレバナラヌト云フコトヲ仰セラレタノデアリマスガ、色々考ヘ合セマシテ、実際上ニハ尚ホ政治的ニ紆余曲折ガアラウト思ヒマスガ、原則的、理論的ニハ二月ノ新憲法ノ発布ノ時ニ議会ヲ解散シテ新シイ選挙ヲヤルベキデアルト思フガ、実際ノ政治上ノコトトハ違ツテ、理論的、原則的ニハ政府ハドウ云フ風ニソレヲヤルベキデアルト思フカ思ハレナイカ、ソレヲ伺ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣　此ノ憲法ノ建前ハ、現在ノ衆議院ハ大体憲法草案ヲ示シ、サウシテ又此ノ憲法ノ将来描イテ居ルヤウナ自由ナル選挙ト云フモノヲ前提トシテ選バレテ居ルモノデアリマシテ、結局此ノ新憲法ノ下ニ存続シテ然ルベキ性質ノモノト考ヘテ居リマスカカルガ故ニ又此ノ憲法草案ノ中ニ参議院ノ出来テ居ナイ場合ヲ予想シテ居リマス、サウ云フ場合ニハ衆議院ダケデ国会ノ働キヲスルト云フ風ニマデ予想シテ居リマシテ、詰リ理論的ニハ衆議院ハ現在ノ憲法改正後ノ憲法ト通ジテ同一性ヲ保ツテ行クモノデアツテ、之ニ特別ナル組織変更、今ノ解散ト云フヤウナ手続ヲ執ル必要ハナイ、又其ノ精神ヲ当然ニ含ンデ居ルモノデハナイ、斯様ニ考ヘテ居リマス
○原（健）委員　私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長　第四十一条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ノ第四十二条ヨリ第四十六条マデハ発言ノ申出ガアリマセヌノデ、第四十七条ニ対スル質疑ニ入リマス――越原はる君
○越原委員　第四十七条ニ「兩議院の議員は議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」ト云フコトガ示シテゴザイマスガ、現行憲法ノ第五十二条ニ依リマスト「議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ處分セラルヘシ」斯ウ云フ風ニ示シテアルノデゴザイマスガ、此ノ改正ニ依リマスト此ノ点ガハツキリ記サレテナイ所ヲ見マスト、院外ニ於テ演説、刑行、筆記ナドノ方法ヲ以テ公布シテモ差支ヘナイト認メマスガ、ソレデ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　現行憲法ニハ左様ナ但書ガ付テ居リマス、併シ是ハ第四十七条ノ改正案ノ規定ハ、立法ノ趣旨ハ議会内ノ演説ト云フモノヲ絶対ニ自由ニ致シマシテ、本当ニソコニ国民ノ忌憚ナキ意見ガ現ハルル、是デナケレバ国会ノ働キハ充実シナイト云フ趣旨ヲ以テ出来テ居ル規定デアリマス、併シ同ジ理論デアリマシテモ、是ガ国会ヨリ外ニ於キマシテ同ジ内容ノコトガ発表サレルト致シマスレバ、或ハ個人ノ名誉ヲ傷ツケタリ経済上ノ大キナ変動ヲ生ジタリ、其ノ他ニ依リマシテドウシテモ無責任ノ侭デアリ得ルト云フコトハ考ヘラレナイト云フコトニナラウト思ヒマス、ソコデ現行憲法ハソレヲ親切ニ議会ノ中ノコトハ自由デアル、併シ議会外デヤレバソレハ又別ノ問題デアル、斯ウ云フヤウナ風ニ書イタ訳デアリマス、此ノ憲法ノ下ニ於キマシテモ、此ノ精神ハ少シモ異リマセヌ、併シ現在ノヤウニ法律知識ガ発達シテ居リマスルト、サウ云フ風ニ丁寧親切ニ言論ハ議会ダケガ自由デアルト云フコトハ人ノ知ツテ居ル所デアリマス、且又此ノ憲法ノ建前ト致シマシテ、言論ノ自由ヲ相当広ク認ムルト云フ実質的ノ考ヘガアリマスルカラ、何カ責任ヲ負フト云フヤウナコトヲ積極的ニ書クノモ無用ナ規定デアツテ、而モ責任ヲ負フト云フト何トナク不愉快ナ感ジヲ起スシ但書ヲ付ケルト云フノモ面白クナイト云フ訳デ省イタ次第デアリマス
○越原委員　現行憲法ハ欽定憲法デゴザイマスガ、今回此ノ憲法ハ君民協約憲法ト申シマセウカ、民約憲法ト申シマセウカ、ドウ云フ風ノモノデゴザイマセウカ
○金森国務大臣　現行憲法ノ出来マス時ニ欽定憲法ト言ハレテ居リマス、此ノ欽定憲法トカ民約憲法トカ云フノハ、詰リ学問上或ル事柄ヲ一口デ分リ易ク説明スル為ニ使ツテ居ル言葉ニ過ギナイノデアリマシテ、何時マデモサウ云フ簡便ナ言葉ガ憲法ニ当篏メテ説明ニ用ヒラレ得ルカドウカト云フコトハ疑問デアリマス、今ノ憲法デモ制定セラレマシタ其ノ時ハ欽定憲法デアリマス、併シ七十三条ニ依ツテ予想シテ居ル所ニ依リマシテコンナ大キナ改正デナク、若シモ一条文デモ此ノ現行憲法ガ修正セラルルト致シマスレバ、其ノ部分ハ本当ノ欽定憲法デハアリマセヌ国会ノ帝国議会ノ議決ヲ経タ憲法デアリマス、一口ニ言ヘバ天皇ノ御発案、ソレカラ議会ノ議決ト云フモノヲ経テ裁可サレタ憲法、サウ云フモノデアリマス、サウ云フ風ノモノヲ一口デ言表ハス所ノモノハ日本デハマダ成立シテ居ナイト思ヒマス、此ノ憲法ハ大仕掛ナ改正デハアリマスケレドモ、理窟ノ上カラ申シマスト天皇ガ発案セラレマシテ国会ガ是ノ議決ヲスルノデアリマスカラ、ヤハリ一条文ヲ直シタ場合ト同ジヤウナ憲法ノ性質デアリマス、欽定憲法ノ延長ノ線ニ沿ツテ居ル憲法トデモ言ヘルト思ヒマス、此ノ次ニ此ノ憲法草案ガ本当ノ憲法ニナリマシテ、之ニ基イテ次ノ改正ガ出来マス時ニハ、今度ハ欽定憲法ト余程趣旨ノ違ツタモノトナリマス、即チ天皇ハ唯憲法ヲ御公布ニナルバカリデアツテ、内容ノ御決定ニハ御関係ガナイト云フコトニナリマス、サウ云フ特殊ナ憲法ニナル訳デアリマス、一言ニ何ト言ツテ宜イカ私ハ其ノ一般ノ呼ビ方マデハ研究シテ居リマセヌガ、協約憲法ト云フ言葉トハドウモ違フト思ヒマス協約憲法ト云フノハ人間ヲバラバラニ考ヘマシテ、色々ノモノガオ互ヒニ約束ヲシテ、一ツノ謂ハバ契約ヲ拵ヘルト云フヤウナ趣旨デ協約憲法ト言ツテ居リマシテ、今日カラ見マスレバ非常ニ素朴ナ考ヘ方デ、人間ガ初メカラ一人一人バラバラニナツテ居ナイデ、人間ガ集団的ナ国民統合ト云フコトヲシテ居レバコソ憲法ガ出来ル、約束デ憲法ガ出来ル訳デハアリマセヌカラ、分リ易イ言葉デハアリマスケレドモ、学問的ニ協約憲法トハ言ヘナイノデアリマス、随テ今度ノ憲法ヲ協約憲法ト言フコトハ今度――今度ト言フヨリモ寧ロ今後ノ、先ノコトデアリマス、憲法ノ修正ト云フモノヲ協約憲法ト云フ言葉ヲ以テ言ヒマスコトハ誤解ヲ招キ易イコトデアリマス、一口ニ言ツテ何ト申シマスカ適当ナ言葉ハ存ジマセヌガ、国定憲法ト言ヘバ何処ニモ当リ触リノナイヤウナ気ガスルノデアリマス
○越原委員　是デ終リマシタ
○芦田委員長　四十七条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、此ノ機会ニ第三十九条ニ対スル質疑ニ戻リマス――三浦寅之助君
○三浦委員　三十九条ハ「兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。」ト云フコトニナツテ居リマスガ、私ハ選挙ニ付キマシテ内務大臣ノ御答弁ヲ御願ヒシタイノデアリマス、ソレハ従来ノ選挙ガ、殊ニ日本ニ於キマシテ現在ノ憲法ガ施行以来五十数年ノ間、而モ其ノ間ノ選挙ヲ見マシテモ其ノ選挙ガ腐敗シタト云フ所ノ大キナ理由ハ、選挙ニ対スル選挙費用ガ多ク掛ルコトガ其ノ根本デアラウト思フノデアリマス、現行ノ選挙法ニ依リマシテモ二万数千円ヲ要スルノデアリマス、斯ウ云フヤウニ選挙費用ヲ沢山要スルト云フコトハ、金ヲ持ツテ居ル人カ或ハ金ノ融通ノ出来ル人以外ニハ立候補出来ナイト云フヤウナ結果ニナルノデアリマス、サモナケレバ是ハ金ヲ持ツテ居ル人カラ金ヲ融通ヲ受ケルト云フヤウナコトデ、従来財閥カラ選挙費用ヲ出シテ貰ツテ、サウシテソレガ選挙ニ使ハレタト云フヤウナコトガ、従来ノ日本ノ政治ガ財閥ノ為ニ利用セラレタト云フコトノ大キナ根源ヲ成シテ居ルノヂヤナカラウカト思フノデアリマス、斯ウ云フ意味ニ於キマシテ、私ハ少クトモ新憲法ニ依ツテ保障セラレル、而モ民主主義政治ヲ確立スルト云フ建前カラ言ツテ、斯ウ云フ金ニ依ラナクトモ選挙ノ出来得ル所ノ、而モ自由公正ナル選挙ノ出来得ル所ノ制度デナケレバナラヌト思フノデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、私ハココニ選挙ノ公営ヲ徹底シナケレバ其ノ目的ヲ達シナイト思フノデアリマスガ、選挙公営ニ対スル所ノ御意見ヲ伺ヒマス、細カイコトハ一切省略致シマシテ、先ヅ第一ニ選挙公営ニ付テ御尋ネシマス
○大村国務大臣　公正ナル選挙ヲ行ヒマス為ニハ、議員候補者ノ主義政見等ヲ十分ニ選挙民ニ知ラセルト云フコトガ極メテ必要デアリマス、故ニソレガ為ニハ相当ノ費用ヲ要スルコトモ、已ムヲ得ナイコトト思フノデアリマス、併シ選挙運動ノ費用ガ多額ニ上リマスコトハ、只今仰セノ通リノ弊害モ伴フコトデアリマシテ、ソコニ適切ナル調整ヲ考案シナケレバナラヌト思ヒマス、其ノ調整ノ方法ト致シマシテ、近時我ガ国ニ於キマシテモ段々選挙公営ガ行ハレルコトニナリマシテ、選挙運動ノ費用ヲ減縮スル上ニ於キマシテ、相当ノ効果ヲ収メテ居ル次第デアリマス、段々此ノ公営ニ馴レテ来ルニ従ヒマシテ、更ニ其ノ内容ヲ拡充致シマシテ、只今御述ベニナリマシタヤウナ趣旨ニ一層近寄ルト云フコトハ、政府トシテモ是非努メナケレバナラヌコトト思フノデアリマス、唯終戦後選挙公営ヲ行ヒマスニ付キマシテハ、如何ニモ悪条件ガ沢山ニアルコトデアリマシテ、今回ノ選挙ニ於キマシテモ、思フヤウニ出来ナカツタ遺憾ノ点ガアリマスガ、段々戦後ノ復興ガ成ルニ従ヒマシテ、選挙公営ト云フ点ニ付キマシテモ、政府トシテ打ツベキ手ガ可能ニナツテ来ルト思ヒマスノデ、今後モ其ノ趣旨デ一層此ノ選挙公営ノ徹底ニハ努メタイ方針デアリマス
○三浦委員　詳シイ選挙公営ニ関スル内容等ニ付テハ私ハ別ノ機会ニ譲ルコトニシマスガ、一例ヲ申上ゲマシテモ、今度ハ印刷費トカ或ハ殊ニ郵便料ノアノ値上ゲ等カラ見マシテモ、到底現在ノ選挙費用等ニ於テハ出来ナイト云フコトモ明ラカデアリマシテ、選挙公営ヲ徹底セシメル方法ニ付テハ幾多考ヘラレル点ガアリマスルシ、実行ガ出来ルノデアリマスルカラ、其ノ点ハ十分御考慮願ヒタイト思ヒマス、細カイコトハアトハ国会法ニ譲リマス
　其ノ次ニ、選挙制度ト云フモノヲ考ヘテ見マスルト、私ハ人間デアリマスル以上、先ヅ当選ヲシナケレバナラナイト云フヤウナ感情ニ動クコトハ已ムヲ得ナイ、サウ云フヤウナ点カラ見マシテ、候補者ニ立ツ者ガ或ハ自分ノ選挙ノ地元民ニ迎合スル所ノ政策、迎合シ易イ所ノ実際ノ仕事ヲ行フト云フコトハ、免レ得ナイ弱点ダト思ツテ居リマス、欠点トマデハ考ヘマセヌガ、弱点ト思フノデアリマス、斯ウ云フヤウナ直接地元ノ選挙民ノ為ニ迎合スルト云フ傾向ガ、延イテハ国家的国策ヲ考ヘルト云フヤウナ場合ニ於テ、動トモスルト牴触シ、国家的ニ此ノ仕事ヲシヨウテ云フヤウナ場合ニ於テモ、地元ノ選挙民ノ利害ニ衝突スルヤウナ場合ニ於テハ、議員トシマシテ中々ナシ得ナイコトハ、私ハ人間トシテノサウ云フ点ニ弱点ガアルト考ヘザルヲ得ナイノデアリマスサウ云フ点ヲ考ヘテ見マスルト、サウ云フ制度ニ対スル、又人間ノ感情ニ対スル所ノ弱点ヲ如何ニシテ取除イテ、本当ニ私共ハ国家ノ為ニ、国家ノ政策ノ為ニ、真剣ニヤリ得ル所ノ状態ニスルニハドウシタナラバ宜イカト云フコトヲ色々考ヘテ見タノデアリマスガ、私ココニ一ノ例デアリマスガ、比例代表制ト云フヤウナモノモ相当考ヘナケレバナラヌヤウニ思フノデアリマス、比例代表制ノ問題ニ付テハ、色々ノ御議論モアリマセウシ又御主張モアリマセウシ、此ノ点ニ関スル所ノ理論上ノコトハ一切抜キマス、勿論比例代表制ニ対シテハ私個人トシテハ幾多ノ疑惑ヲ持ツテ居リマスシ、又遽カニ賛成シ難イ点モアリマスガ、唯、今ノ選挙制度ニ対スル弱点ト云フヤウナコトヲ考ヘマスト、相当比例代表制ト云フヤウナモノモ考ヘナケレバナラヌト思フノデアリマスガ此ノ点ニ対スル御意見ヲ伺ヒマス
○大村国務大臣　選挙制度ト致シマシテノ比例代表制ハ、大イニ考究ヲ致シマシテ、若シ可能ナラバ之ヲ取入レルト云フコトモ考慮シナケレバナラヌ問題ト思フノデアリマスガ、比例代表制ヲ取入レマシタ暁ニ於キマシテ、ソレガ成功スル為ニハ、其ノ基礎前提ガ整ツテ来テ居ルト云フヤウナコトガ必要デアリマス、我ガ国ノ政界ノ現状カラ致シマシテ、其ノ点ニハ色々疑問ガアルヤウデアリマス、例ヘバ政党ノ発達ト云フヤウナコトモ、比例代表制ノ採用ノ上ニ於キマシテノ必要ナル前提デアリマシテ、我ガ国ノ政界ノ現状ガ比例代表ヲ実施スルニ適シテ居ルヤ否ヤト云フヤウナ点ニモ研究ヲ要スル点ガアルコトデアリマシテ、今後モ此ノ問題ニ付キマシテハ政府トシテハ十分研究致シ、考慮モ致ス積リデ居リマスガ、現段階ニ於キマシテハ、比例代表ヲ採用スルコトガ可能ナリト云フ結論ニハマダ達シテ居ナイ次第デアリマス
○三浦委員　次ニ私ハ凡ユル選挙ヲ通ジマシテ、殊ニ衆議院、参議院或ハ今後ノ地方制度ノ改正ニ依リマシテ、知事カラ市町村長ト云フヤウナ色々ナ選挙ヲ通ジマシテ最モ難カシイ、又考ヘナケレバナラナイコトハ、立候補ノ制度デアリマス、立候補ノ制度ニ付キマシテハ、今後ノ地方制度ノ改正案等ヲ見マスルト、或ハ若干ノ推薦人ヲ基礎トシテ立候補スルコトノ制度ヲ拵ヘタリ、或ハ現在ニ於テハ若干ノ供託金ト云フモノヲ取ツテ居ルノデアリマスガ、私カラ言フト、斯ウ云フヤウナコトハ大シタ効果ハナイト思フノデアリマス、立候補制度ニ此ノ供託金トカ若干ノ人ノ推薦ヲ要スルト云フダケデハ、私ハ立候補ノ問題トシテ大シタ効果ハ考ヘラレナイ、私ハ立候補制度ニ付テ斯ウ云フヤウナ考ヘヲ持ツテ居ルノデアリマスガ、ソレハ候補者ニナル場合ニ於テハ一定ノ人間ノ推薦ヲ受ケルコトハ必要デアリマス、唯其ノ場合ニ於テ推薦者ガ責任ヲ持ツ意味ニ於テ、若シ或ル一定数ノ投標ヲ得ナカツタ場合ニ於テハ、其ノ立候補者並ニ推薦者トモ一時選挙権ヲ停止スルト云フヤウナコトマデニ行ケバ立候補者制度ニ於テ凡ユル識者凡ユル方面ニ於テ色々研究セラレ苦心セラレテ居ル点モ、私ハ斯ウ云フ意味ニ於テ相当解消セラレルノデハナイカト云フ風ニ考ヘルノデアリマスガ、サウ云フ点ニ対スル御考ヘヲ承リタイト思フノデアリマス
○大村国務大臣　立候補者ノ制限又適切ナル立候補者ヲ得ル方法ト云フ点ニ付キマシテハ、是マデモ種々考案サレ研究モサレテ居ルノデアリマスガ、現在ノ制度ガ必ズシモ十全ナリトハ考ヘマセヌガ、併シ之ニ代ルベキ他ノ良法ト云フコトニ付キマシテモ中々難カシイ問題デアリマス、只今又御述ベニナリマシタヤウナ御見解等ニ付キマシテモ、幾多考究ヲ要スル所ガアラウト思フノデアリマス、是等ノ点ニ付キマシテハ、尚ホ今後考究ヲ進メタイト思ヒマス、私ノ信ズル所ニ依リマスレバ、我ガ国ニ於キマシテ本当ノ意味ニ於ケル公党、政党ガ発達シテ参リマスルナラバ、其ノ政党ノ力ニ依リマシテ立候補ノ問題モ極メテ適切ニ解決サレルモノデハナイカト考ヘテ居ル次第デアリマス
○三浦委員　次ニ私ハ従来ノ選挙ヲ腐敗セシメタ大キナ理由ト致シマシテ、ヤハリ弾圧、干渉ト云フコトガ挙ゲラレテ居ルノデアリマス、而モ選挙干渉ノ因ハヤハリ与党ガ反対党ノ当選ヲ妨ゲル意味ニ於テ、又与党ノ当選ヲ期スルヤウナ場合ニ多ク行ハレタノデアリマス、而モサウ云フ場合ニ於テ申上ゲルマデモナク、第一線ノ警察官此ノ捜査機関ガ此方面ニ多ク働イタト云フヤウナコトガ其ノ大キナ理由ヲ成シテ居ルノデアリマス、又先程申上ゲマスルヤウニ、金ヲ多ク使フト云フヤウナコトモ選挙ヲ腐敗セシメタ理由デアリマス、又将来ノコトヲ考ヘテ見マスト、是ハ適切ナ方法ニナルノデアリマスガ、此ノ組織ガ非常ニ拡大スルト組合至上主義ノヤウナ立場ニ立ツテ、色々選挙ニ対スル所ノ弊害モ起キナイト云フコトガ保証出来ナイト思フノデアリマス、私ハ斯ウ云フヤウナコトガ選挙ノ自由選挙ノ公正ヲ阻碍スル大キナ理由ニナル場合ニ於キマシテ、之ヲ取締ヲシテ現在ノ如キ警察官ノミニ委シテ置クト云フコトデハ、公正妥当ナル取締又公正妥当ナル選挙ヲ行フコトハ出来得ナイト思フノデアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、私ハ此ノ自由ナル公正妥当ナル選挙ヲ行フ意味ニ於キマシテ私ハ各政党ノ代表ナリ或ハ各団体ノ代表ナリ或ハ其ノ他ノ有識者ヲ以テ選挙監視委員会ト云フヤウナモノヲ拵ヘテ、サウシテ此処デ凡ユルサウ云フ所ノ情報ヲ得テ、其処カラ所謂捜査権ヲ発動セシメル所ノ基礎ヲ作ルト云フヤウナコトニ行ク方ガ宜シイヂヤナイカト云フコトヲ常ニ考ヘテ居ル一人デアリマスガ、サウ云フ点ニ対スル所ノ御意見ヲ承リタイト思ヒマス
○大村国務大臣　選挙ノ公正ヲ確保致シマシテ選挙民ヲシテ自由ナル意思ヲ何等ノ拘束ナク表明セシムルト云フコトハ民主政治確立ノ基本デアリマシテ、政府トシテハ極力此ノ点ニ付テ努力シナケレバナリマセヌ、過グル総選挙ニ於キマシテモ先ヅ大体其ノ目的ハ達シ得タト思ヒマスルガ、今後ノ選挙ニ於キマシテハ更ニ此ノ点ニ一層力ヲ注グ積リデアリマス之ヲ取締面カラ見マシタ場合ニ於キマシテモ、取締ノ方法ニ依リマシテ只今申シマス自由ナル意思ノ表明ヲ邪魔ヲスルト云フヤウナコトハ、是ハ極力避ケナケレバナラヌ、又今日ノ取締ニ於キマシテハ其ノヤウナ意図ハ全然持タセナイト云フコトニ致シテ居ルノデアリマス、而シテ取締官憲ノ選挙ニ臨ミマスノハ、違法行為ノアリマシタ場合ニ於キマシテ、違法ヲ適発スルト云フコトダケニ限ラレテ居ル、其ノ違法ノ摘発タルヤ、是レ亦至公至平ニヤラシテ居ルコトデアリマシテ、一般犯罪検挙ノ方法トシテ只今御提議ニナリマシタヤウナコトハ、一般的ノ問題トシテ考慮スベキ問題デ、特ニ選挙ニ限ツテ違反行為ヲ取締ル為ニ特殊ノ委員会デヤツテ行クト云フヤウナ必要ハナイモノト考ヘテ居ル次第デアリマス
○三浦委員　私ハ先般行ハレタ選挙ハ、従来ニナイ自由ナル選挙デアツタト云フコトニ対シテハ、何等ノ異存ハナイノデアリマス、唯将来ノ選挙ニ於キマシテ、サウ云フヤウナ色々ノ選挙制度ト云フヤウナモノカラ、又長イ間ニ於テノ選挙ノ弊害ノ発生スル所ノ根源ヲ考ヘル場合ニ於テ、私ハ只今申上ゲタヤウナ制度モ御考慮願フコトガ最モ妥当ダト云フ立場カラ申上ゲタ次第デアリマス、之ヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長　第三十九条ニ対スル質疑ヲ終リマシタ、次ノ第四十八条及び四十九条ニ付テハ発言ノ申出ガアリマセヌカラ、第五十条ニ対スル質疑ニ入リマス――神田博君、第五十条ノ質疑ハ留保致シマス、次ニ第五十一条ニ対スル質疑ニ入リマス――吉田安君
○吉田（安）委員　五十一条ニ付テ御尋ネ致シマス、但シ簡単デアリマス「兩議院は、各々その議員の選擧又は資格に關する爭訟を裁判する。」トアリマスガ、私ハ此ノ議員ノ選挙又ハ資格ニ関スル紛争ノ裁判ハ最高裁判所ノ方ノ権限ニ移シタ方ガ至当デハナイカト考ヘマスルガ、政府ノ御所見ハ如何デアリマスカ
○金森国務大臣　五十一条ノ争訟ヲ最高裁判所ニナサシメルト云フコトハ、大体現在ノ行キ方ト同ジコトニナル訳デアリマス、此ノ問題ハ甚ダ議論ノアル問題デアリマシテ、日本ニ於キマシテノ現行ノ争訟ニ付キマシテモ、貴族院ニ於キマシテハ大体貴族院ガ自ラ判決ヲスルト云フコトニナツテ居リマス、衆議院ニ付キマシテハ、地方裁判所ガ選挙ニ関シマスル部分ニ付テハ争訟ヲ裁判スル、資格ニ関スル分ハ多分議会ガ自ラシナケレバナラヌ、斯ウ考ヘテ居リマス、之ニ付キマシテ従来三権分立ト云フヤウナ思想ヲ依リマシテ、立法府ノ組織ニ付テ司法部ガ直接発言スルコトハ面白クナイノデハナイカ、斯ウ云フ見地カラ地方裁判所ヲ否定スルト云フ議論モ屡々伺ツタコトガアリマス、又ソレト同時ニ地方裁判所ハ不適当デアル、併シ行政ニ関スル事件トモ言フベキデアルカラシテ、行政裁判所ニ之ヲ付議セシメタナラバ宜カラウ、斯ウ云フ意見モアリマシタノデアリマス、色々是ハ考ヘサセラレル点デアリマスガ、結局今回ノ案ニ於キマシテハ、理論的ニ之ヲ決定致シマシテ、国ノ最高ナル権力機関デアリマスル議会ノ組立ノ骨組ヲ成シマスルモノハ議会自カラコレヲ裁クベキモノデアルト云フ「イギリス」風ノ伝統的ナ思想ニ倣ツタ訳デハアリマセヌガ、原理ヲ尊重致シマシテ、多少欠点モアルコトハ之ヲ認メテ居リマスガ、斯様ナ次第ニシタ訳デアリマシテ貴族院ニ付キマシテ或ル程度マデ出来テ居リマスルガ故ニ、運用ノ上ニ於キマシテハ、是カラノ日本人ガ政治的ニ目覚メタ後ニ於キマシテハ、大イナル支障ハナカラウカト考ヘタ訳デアリマス
○吉田（安）委員　政府ノ意ノアル所ハ能ク分リマスガ、ドウモ是ハ自分ノコトヲ自分で裁クト云フ結果ニナリハシナイカト思フノデアリマス、「イギリス」流ノコトモソレヲ御斟酌ナサルコトモ結構デアリマスガ、ドウモ、日本人ト云フモノハ人情ニ脆イ所ガアルノデアリマシテ、衆議院議員ノ斯ウ云ツタコトヲ衆議院デ裁判ヲスル裁キヲスルト云フコトハ、何カソコニ一種ノ弊害ヲ生ズルヤウナ気持ガ致スノデアリマス、ソレデ此ノ点ハ折角ノ御意見デアリマスルガ、ヤハリ最高裁判所ニ移スト云フコトガ適当デハナイカト思フノデアリマス、併シ是ハ又更ニ御返答ヲ願ヒマシテモ並行シテ走ルダケダト思ヒマスカラ、是デ打切リマス
○芦田委員長　第五十一条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ノ第五十二条及び五十三条ハ発言ノ申出ガアリマセヌカラ、第五十四条ニ対スル質疑ニ入リマス――吉田安君
○吉田（安）委員　五十四条「兩議院は、各々その議長その他の役員を選任する。」トアリマスルガ、其ノ他ノ役員ト云フコトノ種類並ニ範囲ヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣　此ノ役員ガ何デアルカト云フコトハ、国会法ニ依ツテ、定マル訳デゴザイマスケレドモ、併シサウ新シイモノヲ予想シテ居ル訳デハアリマセヌノデ、此ノ文章ニ依ツテ自ラ明カデアリマスヤウニ、其ノ議長デアルトカ副議長デアルトカ、常任委員会ノ委員長デアルトカ、全院委員会ト云フモノガ若シ出来マスナラバ其ノ全院委員会ノ委員長、斯ウ云フモノ、議会ガ自ラ行動セラルル場合ニ必要ナル特殊ノ役員ヲ考ヘテ居ル訳デアリマス、之ヲ裏カラ申シマスレバ、議会ノ本当ノ働キデハナクテ、其ノ働キヲ完成スル為ニ議員以外ノ人ガ色々ノ仕事ヲシテ居リマス、例ヘバ事務ヲ執ル所ノ職員、速記ヲスル職員、斯ウ云フ者ガアリマスケレドモ、ソレハ此ノ中ニ含メテ居ナイ趣旨デゴザイマス
○吉田（安）委員　分リマシタガ、ソレデハ書記官長其ノ他ノ書記官ト云フノハ之ニハ入リマセヌカ
○金森国務大臣　役員ト云フ言葉ガ非常ニ明確ナ、適切ナ言葉デハアリマセヌガ、書記官長等ハ結局議長ノ下ニ隷属スル特殊ノモノト考ヘマシテ、議会ガ議会固有ノ働キヲシテ行ク上ノ役員トハ考ヘテ居ナカツタ訳デアリマス
○吉田（安）委員　私ハ五十四条ハ是デ打切リマス
○芦田委員長　原建三郎君
○原（健）委員　此ノ第五十四条ノ後段ノ方ニ「但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。」ト云フノデアリマス、斯ウ云フ文句ハ五十一条ニモアリマシテ、「但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。」ト同ジヤウナコトガ出テ居ルノデアリマス、此ノ議員ヲ除名スルト云フコトハ、是ハ極メテ重大ナ問題デアリマス、ソレガ、此ノ前ニモ誰カガ質問シタヤウデアリマスガ、出席議員ノ三分ノ二以上ト云フコトハ、三分ノ二ト云フコトニ非常ニ力ヲ入レテ居リマスガ、出席議員ガ非常ニ少イ、三分ノ一出席シテ居ナケレバソレハ議決サレナイコトニナツテ居リマスガ、モツトソレヲ強クスル意味ニ於テ、私ハ斯ウ云フ重大問題ニ付テハ二分ノ一以上ノ出席ガアツテ、其ノ出席議員ノ三分ノ二以上ノ多数ヲ以テ議決スル必要ガアルトシタイノデアリマスガ、果シテ政府ハ是レ位ノ唯三分ノ一出席シテ、其ノ出席議員ノ三分ノ二以上位ノモノデ斯ウ云フ重大事ヲ決シテ宜イト御考ヘデアルカドウカ、御聴キシタイノデアリマス
○金森国務大臣　議事ノ定足数、詰リ議事ヲ開クニ付テドレダケノ出席者ガアレバ宜イカト云フコトヲ決メマスニハ、一ツノ研究ヲ要スルモノト思ツテ居リマス、法律案ヲ議決スル、或ハ予算案ヲ議決スルト云フコトハ、明カニ国家ノ重大ナル事柄デアリマシテ、其ノ場合ニ於テスラモ三分ノ一ノ出席ニ依ツテ議事ヲ開クコトヲ認メテ居リマス、之ニ対シマスル例外ハ、憲法ト云フヤウナ本当ニ大キナ場合ニ付テノミ例外ヲ認メテ居ル訳デアリマス、随テ此ノ議員ノ資格ヲ失ハシムルヤウナコトハ議会組織ノ上ニ相当重要ナコトデアルコトハ疑ヒノ余地ハアリマセヌケレドモ、先ヅ他ノ法律予算等ノ国務的ノ重大ナルモノト引比ベマシテ三分ノ一ノ定足数ヲ原則トスルコトガ適当デハナカラウカト思ヒマス、大体考ヘテ見マスノニ、議員ハ公ノ職務ヲ公務員トシテ担任セラレルノデアリマシテ、出席シナイト云フコトソレ自身ガヲカシイノデアリマス、ココニ制限ノアルコト、ソレ自身ガ若シ厳密ナル批判ヲスレバヲカシイ位デアリマス、デアリマスカラ其ノ点ハ唯原則トシテ置キタイノデアリマス、但シソコニ多数決デ決メルカドウカト云フコトニナルト、多数ノ横暴ト云フ一ツノ欠点モ考ヘナケレバナリマセヌノデ、議決スル時ハ三分ノ二、議事ヲ開クノハ三分ノ一ト云フ方針ヲ執ツタ次第デアリマス
○原（健）委員　是デ終リマス
○芦田委員長　第五十五条ノ質疑ニ入リマス、小島徹三君
○小島委員　本条ノ第三項ニ「國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、」云々ト云フ規定ガアルノデアリマスガ此ノ六十日ト云フ日数ハドノ観点カラ御出シニナツタモノデアルカ御聴キシタイ、会期ガ決マツテ居ナイノニ、期間ト云フモノガ決マツテ居ナイノニ、此ノ六十日ト云フノハドウ云フ基礎カラ御出シニナツタノカ、御聴キシタイノデアリマス
○金森国務大臣　大体此ノ第五十五条ノ第二項ニ掲ゲマシタヤウナ参議院ト衆議院トノ意見ノ衝突ヲ調節致シマスル規定ハ、此ノ日本ノ改正案ノ中ニ於キマシテ相当重大ナル問題ノ一ツト考ヘテ居ルノデアリマシテ、之ニ対シテハ最モ周到ナル注意ヲシナケレバナラヌト思ツテ居リマス、甲院ガ議決シテ乙院ガ之ニ反対スルト云フ場合ノ調節方法ト致シマシテハ、「イギリス」ノ制度ノ如キハ、三年間連続シテ衆議院ガ可決シテ貴族院ニ送リ、而モ貴族院ガ之ニ対シテ拒絶ヲシタト云フ場合ニ、初メテ非常措置トシテ貴族院ノ同意ナクシテ法律トナルト云フ風ナ鄭重ナル考ヘヲ用ヒテ居リマス、所ガ此ノ改正案ノ下ニ於キマシテハ、日本ノ実情等ヲ参酌致シマシテ、三年モ同ジヤウナコトヲ繰返シテ二院ノ意見ノ牴触ノ調節ヲ図ルヤウナコトハドウモ事情ニ適シナイノデハナイカ、「アングロサクソン」ノアノ鈍重ナル考ヘニハ固ヨリ十分ノ理由ハアリマスルケレドモ、日本トシテハ特別ナル方法ヲ執ラナケレバナラナイノデハナイカ、斯ウ云フ訳デ此ノ非常措置ガ出来タ訳デアリマス、随テ成ベク平和ナル方法デ行キタイト云フコトニナリマスレバ、参議院ガ其ノ法律案ヲ熟慮シテ居リマスル期間ヲ出来ルダケ長ク認ムルコトガ必要デアラウト云フ気持カラシテ、先ヅ二箇月、他ニドウモハツキリシタ標準モアリマセヌノデ、其ノ位認メテ置ケバ決シテ無理ナルコトトハ言ハレナイノデハナイカト思フノデアリマス、ドンナ手続デモ二箇月位アレバ一院デ旨ク行クノデハナカラウカ、斯ウ云フ腰ダメノ規定デアリマス、例ヘバ此ノ憲法ノ改正案ヲ議会デ御審議ヲ願ツテ居リマシテモ、ヤハリ相当ニ深ク御研究ヲ願ヒマスル場合ニハ時間ヲ余計之ニ認メナケレバナラヌノデアリマス、コンナ非常措置ノ場合ニハ二箇月位ハ宜イノデハナカラウカト云フダケノ大掴ミナ考ヘデアリマス
○小島委員　非常ニ簡単ニ御考ヘノヤウデゴザイマスルガ、是カラ見マシテモ二箇月モ審議期間ガアルト云フコトニナリマスルト、現在ノ三箇月ノ会期ト云フヤウナモノデハ到底間ニ合ハヌノデアリマシテ、恐ラク会期ヲ半年以上ニ、或ハ年中無休ニスルト云フコトニナラナケレバ、此ノ規定ハ殆ド適用サレル余地ハナクナルト思フノデアリマスガ、如何デゴザイマセウ
○金森国務大臣　会期ノ三箇月ト云フノハ現行制度上ノ制約デアリマシテ、今回ノ此ノ憲法ノ草案ガ成立致シマシタ場合ノ会期ハソレヨリモユトリノアルモノトナリ得ル筈ト思ツテ居リマス、ソレハ国会法ニ於テ定ムルノデアリマシテ謂ハバ通常会ニ当リマスルモノヲ何箇月ノ会期ヲ以テスルカト云フコトハ、今正確ニ御答ヘハ出来ナイノデアリマシテ、臨時法制調査会ニ於キマシテノ皆様方ノ御意見ヲ能ク尊重シテ後ニ解決スルコトト思ヒマスルガ、兎二角延ビルデアラウト云フコトハ推測セラルル訳デアリマス、而モ唯延ビルデアラウト云フコトニ止マラナイデ其ノ会期ハ一応決マツテ居ルニ拘ラズ、更ニ延長スルト云フ時ニ、議会ニ自治権ヲ相当認メヨウ、詰リ此ノ形ノ具体的ノ姿、又ハ手続ノ具体的ノコトハ今申上ゲ兼ネマスルケレドモ、兎ニ角議会ノ意思デ此ノ位延バシタラ宜イト云フ考ヘガアレバ、結局其ノ意見ガ行ハレテ行クヤウニシヨウト云フ考ヘヲ持ツテ居リマス、随テ極端ナ場合ヲ考ヘテ見マスルト、参議院ノ方デ此ノ六十日ノ制限ヲ活用致シマシテ、モウ会期ハ五十日シカ残ツテ居ナイ、サウスレバ六十日ト云フ期間ニ当嵌マラナイカラ、愚図愚図シテ居レバ此ノ案ガ握リ潰サレルト云フヤウナ時ガアリマスレバ、今度ハ議会自治ノ原則ニ依ツテ、両院ノ希望、又ハ之ニ政府ガ関与スルコトニ依ツテ会期ノ延長ヲ致シマシテ、不当ナル参議院ノ握リ潰シヲ防止シ得ルト云フコトモ考フル余地ガアリ、又サウ云フ方向ニ研究ヲ進メテ居リマス
○小島委員　私ハ此ノ政府ノ御考ヘノ、先ヅ六十日ノ参議院ノ審議期間ヲ決メテ置イテ、逆ニ会期ノ方ヲ、今度ハ議院法ニ決メルト云フ御態度ニ対シテハ満足シナイノデアリマス、寧ロ先ヅ会期ヲ何箇月ト決メテ置イテ、ソレカラ今ノ六十日ト云フモノガ出タノナラバ話ハ分リマスケレドモ、是デハ全ク逆デアルト考ヘルノデアリマス、併シ其ノ点ニ付テハモウ質問ヲ止メマス
　次ニ御伺ヒシタイノハ、此ノ第五十六条デ予算案ニ付テハ両院協議会ト云フモノヲ認メテ居ルノデアリマスガ、法律案ニ付テハ何故両院協議会ト云フコトヲ御考ヘニナラナイノデアリマスカ
○金森国務大臣　一寸先ニ此ノ六十日ト云フコトヲモウ一遍述ベサシテ戴キタイノデアリマスガ、此ノ六十日ハ大体腰ダメデ、二箇月ト致シタ訳デアリマス、併シ現在ノ予算ノ審議期間ハ日本デハ一応議院法等ニ規定ガアリ、又実際ノ上カラ見マシテモ二十数日、或ハ三十日位予算ノ審議ニハ掛ル訳デアリマス、此ノ五十六条ノ方デ予算ニ付キマシテモ四十日ト云フ今ノ一種特別ナル期間ヲ認メテ居リマスガ、是ハ現在ノ予算ガ先ヅ三十日位デ出来ナケレバナラヌト云フ時ニ、四十日ノ余裕ヲ取ツテ置イテ、ソレデモウ参議院ノ方ガ「サボタージュ」――ト言フト語弊ガアリマスケレドモ、サウ云フ方法ヲ執ラレタ時ニハ此ノ非常措置ニ出ヅル、斯ウ云フノデアリマス、併シ法律ノ方ハ、簡単ナ場合モアリマセウガ、予算ヨリ色々中味ノ複雑ナモノモアリマスノデ、実ハ予算ヨリ少シ余計ニ見テ置ク方ガ宜イノデハナイカト云フ気持ヲ以テ、予算ノ審議期間ノ方ヲ参酌シテ六十日ト決メタ訳デアリマス
　ソレカラ次ニ主タル御疑問ト致シマシテ、法律案ニ付テハ何故両院協議会ノ規定ヲ設ケナカツタカト云フ御話デアリマシタガ、是ハ両院協議会ヲ設ケナイト云フ趣旨デハゴザイマセヌ、法律案ニ付キマシテモ現行制度ニアリマスルヤウニ、両院協議会ノ制度ヲ認メタイト考ヘテ居ルノデアリマス、普通ノ場合ニ、両院ノ一致ニ依ツテ何等カノ調和ヲ図ツテ素直ナ法律制定ノ出来ルコトハ固ヨリ期待スベキ所デアリマスカラ、其ノ途ハドウシテモ講ズルコトガ好マシイト思ツテ居リマス、併シ是ハ御承知ノ如ク現在デモ憲法ノ中ニ規定ハアリマセヌデ、議院法ノ中ニ規定ガアリマス、ソレニ傚ヒマシテ此ノ改正案ニ於キマシテモ国会法ノ中ニ左様ナ規定ヲ設ケル積リデアリマス、ソレデハ何故予算ノ方ニダケ此ノ両院協議会ノ規定ヲ置レタカト云フ御疑問モ併セテ起ルト思ヒマスカラ、先駈ケテ御答ヘヲ致シマスガ、法律ノ場合ニハ今申シマシタヤウニ、多少荒ツポイ調節方法ガ憲法ニ規定シテアリマシテ、理論的ニ一応完成シテ居リマス、所ガ予算ノ方ハサウ云フ荒ツポイ方法ヲ設ケテ居リマセヌ、是ハ予算ノ特質カラ来ルノデアリマスガ、兎ニ角其ノ荒ツポイ方法ガナイトスレバ、憲法自体ノ中デ予算ニ付テモ類似シタコトヲ決メテ置カナケレバナラヌ、ドウシテモ両院協議会ノコトヲ書カナケレバナラヌト云フコトノ為ニ斯ウナツテ居ルノデアリマス、又此ノ五十五条ノ方ニ戻リマスガ、法律ノ方ハ今申シマシタ通リ二ツノ方法即チ此ノ憲法ノ当然ニ認メテ居リマスル解決方法ト、両院協議会ニ依ル解決方法ト二ツアリマシテ、各々一利一害ヲ実ハ持ツテ居リマス、其ノドツチヲ解決ノ手段トスルカト云フコトモ、一応衆議院ガ自ラ此ノ舵ヲ動カス権能ヲ持ツテ居ラレル、斯ウ云フコトニナリマス
○小島委員　只今ノ御答弁ハ一応了承致シマス、次ニ御伺ヒシタイノハ、第三項デ「參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。」トナツテ居リマスガ、一体此ノ「みなすことができる。」ト云フノハドウ云フ意味デゴザイマセウカ、「みなす」ト云フコトデ十分ダト思ヒマスガ、「みなすことができる。」ト言ヘバ、看做サナイ場合モアルト云フコトニナリマスガ、如何デアリマスカ
○金森国務大臣　是ハ「みなすことができる。」ト書イテアリマスル文字通リ、当然看做スノデハナクテ、看做スコトガ出来ル、詰リ看做サナクテモ宜シイシ、看做シテモ宜シイ、兎ニ角看做ス権能ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フ意味デアリマス、看做シマスレバ、詰リ看做スト云フ行動ヲ執リマスレバ、前項ノ出席議員ノ三分ノ二以上ノ多数デ再ビ可決スルト云フ手段ニ出ルコトガ出来マス、看做スノガ面倒ダト思ツタラ其ノ侭打ツチヤツテ置ケバ自然消滅ニナル、斯ウ云フ考ヘ方デアリマス
○小島委員　私ノ質問ハ之ヲ以テ終リマス
○芦田委員長　第五十五条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第五十六条ノ質疑ニ入リマス――山田悟六君
○山田（悟）委員　同ジク両議院ノ意見ノ一致シナイ場合ヲ顧慮シテノ質問デアリマスガ、是ハヤハリ両院トノ関係上衆議院ガ議決ヲシテ参議院ガ同意セナイ場合ニハ、現行法ノ如ク同一議会ニハ提出セナイト云フコトノ方ガ適当デハナイカト考ヘルノデアリマスガ、之ニ対スル御所見ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣　現行法ニ於キマシテサウ云フ否決セラレタルモノニ付キマシテハ、同一議会ニハ提出シナイト云フコトニナツテ居リマスガ、ソレハ色々ナ意味ヲ持ツテ居ルト解釈スルコトガ出来マス普通ニ考ヘマスルト、一遍否決シタモノハ同一ノ会期中ニハ意見ノ変ル訳ハナイカラ、モウ一遍出シ直スコトハ無意味ダ、斯ウ云フ考ヘ方デアリマス、併シ他ノ一面カラ申シマスト多少官僚的ト申シマスカ、或ル議員ノ主張ヲ封鎖スルヤウナ意味ヲ持ツテ居リマシテ、一遍出シテ拒絶セラレタナラバ、ソレハモウ出シテハナラナイゾト云フノデ、議案提出権ヲ美シイ名ヲ藉リナガラ、実ハソレヲ其ノ意味ノ不利益ニ否定ヲシテ居ルト云フ感ジ、詰リ官僚的ナル考ヘヲ持ツテ居リマス、詰リ人民ノ意見ノ仲ビナイヤウニ考ヘテ居ル、斯ウ云フ風ナ説明モ付クノデアリマスサウ云フ風ナ考ヘ方ト云フモノハ多少ノ議事ノ複雑ヲ避ケマスル上ニ利益ハアリマスルケレドモ、本質カラ申シマシテ其ノ考ヘ方ハ正シイモノデハナイ、同ジ会期中ニモ色々ニ意見ガ変リ得ルコトモアリマスカラ、サウ云フコトハ自然ノ妥当ナル原理ニ任シテ、人為的ナ抑制ヲ加ヘナイデ宜イノデハナイカ、斯ウ云フ考ヘ方デ此ノ憲法ノ上ニハ左様ナ規定ヲ落シタノデアリマス、併シ或ル範囲ニ於キマシテ国会法デサウ云フ規定ヲ設ケルコトガ出来ルデハナイカト云フ議論モ起リ得ルト思ヒマス、ソコノ所ハマダハツキリ確定ハ致シテ居リマセヌガ、マアサウ云フ規定ハ要ラナイノデハナイカト今考ヘテ居リマス
○山田（悟）委員　次ニ予算ト云フ関係デアルシシマスカラ、大蔵大臣並ニ文部大臣ニ御伺ヒ致シマスソレハ議会内ノ図書館ノコトデアリマスガ、書籍モ大分相当ニアリ日本ノ議会トシテ恥ヅカシクナイ程度ニモ考ヘマスガ、併シ能ク調ベテ見マスルト、不足ナ書類ガ沢山ニアリ、又場所等モ比較的議員ガ之ヲ利用スルノニ簡単デナイ所ニアル関係カラ、利用ノ部面ト云フ事柄ガ少イヤウニ考ヘラレマスガ、此ノ議院内ノ図書館ニ関スル問題ニ対シマシテ、大蔵大臣並ニ文部大臣ノ御所見ヲ承リタイト存ジマス
○石橋国務大臣　御答ヘ致マス、実ハ私議院ノ図書館ナルモノヲ調ベテ居リマセヌガ、若シ御話ノヤウニ悪イトスレバ、改善ニハ無論大イニ賛成デアリマス
○田中国務大臣　我ガ国ガ平和国家、文化国家トシテ再出発ヲ致シマス際、一体議院内ニ権威アル充実シタ図書館ガアルト云フコトハ文化国家ノ体ヲ成シマスル上ニ於テ極メテ必要ナコトデアリ、「アメリカ」ノ「コングレショナル・ライブラリー」ト云フ所ニ参リマスマデニハ是ハ大変ナコトデアラウト思ヒマスケレドモ、少クトモ相当充実シタ図書館ガアルコトハ政治ガ科学的ニ行ハレマス為ニモ極メテ必要ナコトデアラウト存ジマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ文部省モ出来マスコトナラバ、其ノ充実ニ付テ御協力致シタイト考ヘテ居リマス
○山田（悟）委員　更ニ国会ガ国権ノ最高機関ト云フヤウナ関係カラ致シマシテ、世界ノ知識ヲ集メルト云フ事モ亦当然デアルト存ジマスガ、之ヲ議会ノ機関ト致シマシテ、国際的ノ学者等ヲ招聘シテ常時ノ研究ヲスルト云フヤウナ研究機関ヲ作ル所ノ考ヘガ政府ニアリマスカ、此ノ点モヤハリ憲法上ノ重大ナル問題ト存ジマスノデ此ノ点ヲ御伺ヒシ、更ニ是ハ又学校教育ノ問題デ、或ハ私共質疑ヲ落シタ問題デ委員各位ニ一言御諒承願ヒタイノデアリマスガ、過般ノ全国一ノ東京都ノ選挙ニ於キマシテモ、九割三分ノ棄権ト云フヤウナ状況デアリマシテ、非常ニ此選挙ニ対スル観念ガ低調デアル、是ハ色々原因モアリマセウ、勿論数的ニ一人ノ議員ガ当選シテモ、シナクテモ関係ガナイト云フ事柄デ、或ハ選挙民ガ非常ニ発達ヲ致シテ居ルカニモ考ヘラレマスガ、又一面カラ考ヘマスルト、演説会場ノ学校舎ガ戦災ニ遭ツタト云フコトモ非常ナ原因ヲ成シテ居ル、斯ウ云ツタヤウナコトニ関連ヲシテ、文部省並ニ大蔵省ニ於キマシテハ此ノ戦災学校ノ復旧ト云フヤウナコトデ多額ナ、全額ニ近イ所ノ補助金ヲ出シテ、サウシテ学校ヲ建設スルト云フコトヲ我々ハ仄カニ承ツテ、非常ニ欣快ニ存ジテ居ルノデアリマスガ、果シテ是ガ事実デアルカドウカヲ文部当局並ニ大蔵大臣ニ伺ヒタイノデアリマス（「問題ダ」ト呼ブ者アリ）
○芦田委員長　山田君ニ一寸申シマスガ、戦災復興ノ問題ヲ此ノ委員会デ議シテ居リマシテハ予定ノ通リ議事ガ進行致シマセヌガ、何カ個人的ニ一ツ御聴取願ツテ、此ノ委員会デハ省略シテ下サルヤウニ希望致シマス
○山田（悟）委員　ソレデハ基礎的ノ研究機関ニ対スル御所見ヲ承ツテソレデ止メマス
○金森国務大臣　是ハ二度バカリ此ノ委員会ニ於テ所見ヲ述ベタコトガアリマス、私ハ議会ノ権威ヲ高メ、又其ノ機能ヲ高メマス為ニハ、ドウシテモ之ニ附属スル所ノ物的及ビ人的ノ調査設備ガナクテハナラヌト思ツテ居リマス、「アメリカ」ノ「コングレス・ライブラリー」ノ如キハ其ノ構造ヲ研究シテ見マスト、数百「マイル」ニ亙ル横ノ長サノ書庫ヲ持ツテ居リマシテ、中ノ調査方法、又調査ヲ担任スル職員ノ充実等ニ付キマシテハ、相当羨ムベキモノガアルト思ツテ居リマス、然ルニ日本ニ於キマシテハ独リ国会バカリデハナク、ソレニ匹敵スルモノガナイト云フコトハ甚ダ遺憾デアリマス、私モ夙ニ其ノ必要ヲ感ジテ居ル次第デアリマスケレドモ、併シ是ハ、一寸目ノ子デ考ヘテ見マシテモ非常ナ経費ガ要ルモノデアリマス少クトモ私ノボンヤリ計算ヲ致シマシタ所ニ於キマシテモ、初年ニ於テ一千万円以上ノ経費、建物等ガドノ位出来ルカ知リマセヌガ、充実シタ計画デヤラナケレバ此ノ大事業ハ出来マセヌ、是ハモツト根本的ニ考フベキ問題デアリマシテ、今焼土ノ結果ノ此ノ日本ニ於テ先ヅソコマデ見込ムノハ少シ行過ギデハナカラウカ、何トカモウ少シ研究ヲ進メテ完成スル方向ニ持ツテ行キタイト云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス
○山田（悟）委員　私ノ質問ハ終リマス
○芦田委員長　小島徹三君
○小島委員　私ノ五十六条ノ質問ハ先程一緒ニ国務相ノ答弁ガアリマシタカラ取消シマス
○芦田委員長　第五十六条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ノ五十七条ニ付テハ発言ノ申出ガアリマセヌ、第五十八条ニ対スル質疑ニ入リマス――吉田安君
○吉田（安）委員　委員長是ハ自席カラデハイケマセヌカ
○芦田委員長　宜シウゴザイマス
○吉田（安）委員　五十八条ノ「兩議院は、各々國務に關する調査を行ひ、」斯ウ規定シテアリマスルガ此ノ「國務に關する」ト云フ国務ノ範囲ヲ先ヅ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣　第五十八条ノ国務ト申シマスルコトハ、議会ガ行ハレル所ノ公ノ事務ノ全般ヲ指スモノト思ツテ居リマス、随テ謂ハバ個人的ノ仕事ハイケナイケレドモ、議会ノ働キニ必要ナル国ノ関係ノ仕事ハ何デモ出来ルト云フノデアリマスガ故ニ、法律案ヲ作成スル為ニ必要デアルヤウナ調査デアルトカ、行政ヲ監督スル為ニ起ツテ来ル所ノ必要ナル調査、其ノ他議会ノ担任セラルルコトニ関係ノアル一切ノ国ノ仕事ヲ含ンデ居ル、斯ウ云フ風ニ諒解シテ居リマス
○吉田（安）委員　大体分リマシタガ、サウシマスト、是ハ議会ノ行フコト、ソレカラ内閣ガ一般行政ヲ行フ其ノ国務、ソレダケニ限定サレタモノ、斯ウ解釈シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　限定スルト云フコトハ少シク不穏当ト思ツテ居リマス、詰リ国ノ仕事デアリマスレバ言葉通リソレハ全部国務デアリマス、国ノ政治ノ上ニ現ハレマスルコトデアルナラバ総テソレハ国務デアリマス、個人的ノ利害関係ノコトハ、是ハ国務デハアリマセヌ、ダカラ議会ガ行ハルルコトニ関係ヲ致シマスル国務ト言ヘバ一切ノコトニ亙ル訳デアラウト思ヒマス、議会ハ言フマデモナク法律ニ関スル権能ガ一番目ボシイモノデアリマスケレドモ、予算ノコトモヤルシ、政府モ監督シテ居ラレルカラ、其ノ間ニ起ツテ来ル一切ノ必要ナル国務ニ付テ第五十八条ノ適用ガアル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○吉田（安）委員　諄イヤウデアリマスガ、重ネテ御尋ネシテ置キマス、サウシマスト議会自身ガ国務ニ関スルコトナンデスネ、ソレダケ御尋ネシマス
○金森国務大臣　是ハ議会ガ関与スルヲ必要ト認メラルル調査デゴザイマスカラシテ、現実ニ執行ト云フ訳デハゴザイマセヌ、ダカラ議会ガ調査ヲスルト云フコトヲ必要ト認メラルル関係ノ一切ノ国務ト云フコトニナリマス
○吉田（安）委員　是デ打切リマス
○芦田委員長　第五十八条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第五十九条ニ対スル質疑ニ入リマス――吉田安君
○吉田（安）委員　現行憲法ノ第五十四条ニ依リマスト、「國務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院ニ出席シ及發言スルコトヲ得」トアリマスガ、此ノ草案五十九条ニ依リマスト、其ノ政府委員ヲ除イテアリマス、其ノ理由ヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣　御質疑ハ洵ニ尤モト思ヒマスガ、大体現行ノ規定ニ於キマシテハ、国務大臣ト政府委員トヲ同ジ格ニシテ憲法ノ中ニ並ベテアルト云フコトハ少シク規定ガ行過ギデハナイカ、斯ウ云フ風ニ思ツテ居リマス、国務大臣ガ答弁ヲシタリ色々ノ陳述ヲ致シマス場合ト、政府委員ガ陳述答弁ヲスル場合トハ事ニ軽重ガアル訳デアリマス、ソコデ此ノ憲法ハ、国務大臣ダケヲ此ノ憲法ノ中ニハツキリ規定致シマシテ、政府委員ガ陳述答弁ガ出来ルト云フ規定ハ国会法ノ方ニ譲ツテ、幾ラカ違ツタ形デ規定ヲシタイ、斯ウ云フ考ヘデ表カラ除イタノデアリマシテ、実質ヲ除イタ趣旨デハアリマセヌ
○吉田（安）委員　分リマシタ、是デ終リマス
○芦田委員長　第五十九条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第六十条ニ対スル質疑ニ入リマス、森三樹二君ハ欠席ノヤウデアリマスカラ、小島徹三君
○小島委員　本条ニハ「國會は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、兩議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。」斯様ニ規定シテゴザイマスガ、誰ガ訴追スルコトニナルノデアリマセウカ、訴追権ハ誰ガ持ツテ居ルコトニナルノデアリマセウカ
○金森国務大臣　是ハ此ノ条文ノ第二項ニ規定シテアリマスヤウニ法律デ之ヲ定メルト云フコトニナツテ居リマス、ソコデ法律デ之ヲ如何様ニ定メルカト云フコトハ、今日尚ホ決マツタ意見ヲ申上ゲ兼ネルノデアリマスケレドモ、併シ或ル順序ヲ経マシタ後ニ、公ノ機関ガ之ヲ訴追スルノガ適当デハアルマイカ、其ノ公ノ機関ヲ誰ニスルカト云フ問題ニナリマス、結局今、懲戒手続等ニ依リマシテヤハリ官庁ガ主動的ニ訴追ヲ致シマスルト同様ニ、是モ何カ民間ノ方ニ発動スル権能ヲ認メマシテ、其ノ権能ヲ承ケテ公ノ機関、例ヘバ内閣ガ此ノ訴追ノ手続ヲスルコトガ一ツノ形デアリマス、詰リ国民ノ間ニ主張ガ起ツタ時ニ、其ノ主張ヲ内閣ノ方ニ申入レテ、内閣ノ側ニ適当ナル訴追機関ヲ置イテ、ソレガ此ノ訴追ヲ行フ、或ハ又人民ノ方カラ何等ノ要求ハナクトモ、政府ニ於テ是ハ訴追シナケレバナラヌト認メルコトガ起リマスレバ政府自ラノ発動ニ依ツテ訴追ヲスル、斯ウ云フコトニナルベキモノカト思ヒマス
○小島委員　サウシマスルト、訴追スル者ハ何人デアルカト云フコトハ憲法デハ規定シナイ、法律デ定メルト云フコトニナル訳デアリマスカ
○金森国務大臣　左様デアリマス
○小島委員　サウシマスト、第七十四条ヲ見マスト「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ罷免されない。」斯様ニ書イテアリマスガ、此ノ七十四条ノ公ノ弾劾ト云フ場合ガ第六十条ニ適合スルノデアリマスカ
○金森国務大臣　左様デアリマス
○小島委員　サウ致シマスルト、裁判官ノ罷免ト云フコトノ為ニ此ノ七十四条ト六十条ト二条ガ規定サレテアリマシテ、而モ其ノ裁判官ト云フノハ最高裁判所ノ裁判官ダケニ限ルノデゴザイマスカ
○金森国務大臣　是ハ最高裁判所ノ裁判官トハ限リマセヌ、総テノ裁判所ノ裁判官ニ適用ガアル建前デアリマス、行政官ニ付キマシテハ、身分ヲ奪フノハ幾ラカ裁判官ヨリモ軽イ手続デ宜シカラウト思ヒマス、併シ裁判官ハ絶対公正ノ立場ニ置カレテアリマスルカラ、任命ノ時モ鄭重ナル手続ヲ執リマスルガ、之ヲ罷メル時ニモ最モ鄭重ナル手続ヲ執ラナケレバナラナイ、殊ニ行政部ガ裁判官ノ身分ニ関与スルト云フコトハ決シテ好マシイコトデハアリマセヌ、ソコデ最高裁判所ノ裁判官ニ付テハ国民表決ト云フ手モアリマスルカ、下級ノ裁判所ニハソレハアリマセヌ其ノ点ヲ除キマシテ一般ニ言ヘバ裁判官ハ此ノ七十四条ニアリマスヤウニ、心身故障ト云フオ医者サンガ調ベルヤウナサウ云フ原因ニ依リマスル時ハ、ソレハ同類ノ裁キデ決メテ行ク、ケレドモソレ以外ニ何カ不当ナ行為、不正ナ行為ガアツタト云フヤウナ問題ニナリマスレバ、之ヲ最モ公正ナ手続ニヨリ、且ツ同類ガソレヲ身贔屓ニ偏頗ナ保護ヲスルト云フコトヲ避ケマシテ、公ノ弾劾ニ依ツテ、ソレカラ一番公正ナルベキ国会ノ人カラ出来テ居ル弾劾裁判所ニ持ツテ行ツテ解決スルト云フ建前ニナツテ居リマス
○小島委員　サウ致シマスト、七十四条ノ公ノ弾劾ト云フコトノ為ニ別個ノ機関ヲ作ツテ弾劾ヲスルソレヲ指シテ公ノ弾劾ト斯様ニ解釈サレル訳デゴザイマスカ
○金森国務大臣　今ノ所左様ニ考ヘテ居リマス
○小島委員　私ノ質問ハ是デ終了致シマス
○芦田委員長　是ニテ第四章ニ対スル質疑ハ終リマシタ、午後ハ一時半ヨリ会議ヲ開キマス、暫時休憩致シマス
　　午前十一時五十三分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　午後一時四十八分開議
○芦田委員長　休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス、第五章ノ各条ヲ一括シテ議題ニ供シマス、第六十一条ハ発言ノ申出ガアリマスヌカラ次ノ第六十二条ニ対スル質疑ニ入リマス――田中伊三次君
○田中（伊）委員　新憲法ノ下ニ於ケル内閣ノ運営ノ基本トナルベキコトニ付テ御伺ヒシタイト存ジマス、第一ニ内閣ノ運営ハ全員ノ合議制ニ依ツテ運営サレルモノカ、或ハ意見区々ニ跨ガリマスヤウナ場合ニハ多数決ニ依ルノカ、此ノ合議制デ行クノカ、多数決主義デ行クノカト云フコトニ付テハ、ドウ云フ御考ヘヲ御持チニナツテ居ルカ
　第二ハ、天皇ハ国務ヲ御執リニナリマスガ、其ノ天皇ノ国務ニ対スル助言ト承認ト云フヤウナ事柄ニ付テハ、内閣総理大臣ガ首長ノ名ニオイテ之ヲナスノデアルカ或ハソレゾレノ所管事項ニツイテハソレゾレノ各省大臣タル国務大臣ガ直接ニ天皇ノ国務ニ対シテ助言ト承認ヲ行フノカ、斯ウ云フ点ハドウ云フ御考ヘデアルカ
　第三ニハ内閣不統一ト云フヤウナコトモ実際上ニハ屡々アラウト思フ、内閣不統一ノ如キ事柄ガ仮ニ生ジマシタ場合ニハ、内閣不統一ノ責ニ依ツテ内閣ハ総辞職ヲシテ行クノカドウカ、是ハ現行憲法トハ違フ所ダト思ヒマスシ、特ニ此ノ運営ニ付テノ根本ニ関連スルコトダト思フノデ伺フノデアリマス、此ノ間カラ屡々御答弁ガアツタ如クニ聞クノデアリマス、内閣法ニ依ツテモノガ決マルヤウデアリマスガ、何モ彼モ内閣法デ決マルト云フノデハ審議ガ出来ヌ、大体ノ大綱ニ付テハ何トカ見透シ得ル限度ニ於テ御答ヘヲ戴ク方ガ、審議ノ資料トスルニ洵ニ幸ヒデアルト考ヘルノデアリマス、此ノ点ヲ此ノ際御尋ネヲ申上ゲマス
○金森国務大臣　今御尋ネニナリマシタ事項ハ、仰セニナリマシタヤウニ内閣法ニ依ツテ規律スベキ事項トナツテ居リマス、内閣法ハ其ノ中ニ於キマシテ内閣ノ組識、権能、ソレカラ運営ト云フ三ツヲ中心トシテ、必要ガアリマスレバ之ニ尚補助的ナル事項ヲ加ヘマシテ内閣法ヲ設ケタイト考ヘテ居リマス、内閣法ハ現在ノ所、臨時法制調査会ニ付議シ、要綱ヲ其処デ決メテ戴イテ、ソレヲ非常ニ貴重ナル材料トシテ、改メテ政府ニ於テ立案シテ、機会ヲ得テ議会ニ提出シタイト云フ考ヘデ居リマスル為ニ、詳細ノコトハ今御答ヘスル適当ナ時期デハナイト考ヘテ居リマス、併シナガラ今御示シニナリマシタヤウナ各種ノ問題ニ付キマシテハ、此ノ憲法ノ精神カラシテ自ラ行クベキ道ガ決マツテ居ルヤウニ思フノデアリマス、第一ニ此ノ内閣ノ会議ハ全体ノ構成員ノ多数決デ行クノカ、ソレトモ何人モ不同意者ガナイト云フ完全ナル合議ノ形ヲ執ツテ行クモノカト云フ御質疑デアリマス、是ハ内閣ハ国会ニ対シテ総テ連帯シテ責任ヲ負フト云フコトガハツキリシテ居リマスルヤウニ、各々ノ責任デハアリマスケレドモ、ソレガ共同ノ全員一致ノ責任トナツテ来ルト云フ考ヘ方ニ憲法ノ規定ガナツテ居リマス、此ノ趣旨カラ還元シテ説明ヲ致シマスレバ、内閣デ決メマスルコトハ、此ノ構成員全員ノ一致デナケレバナラナイト云フコトハ恐ラク当然ノ帰結ト考ヘテ居ル訳デアリマス
　次ニ、天皇ニ対スル助言ト承認ハ如何ナル形デ行フカ、是ハ内閣ノ運営ト云フコトノ一ツノ姿トナル訳デアリマス、御承知ノ如ク現在ノ憲法ニ於キマシテハ、国務各大臣ガ天皇ヲ輔弼スルコトニナツテ居リマス、其ノ意味ハ国務大臣ノ各々別々ノ立場ニ於テ天皇ヲ輔弼スルコトニナツテ居リマス、随テ甲大臣ノ輔弼ト乙大臣ノ輔弼トガ異ナツテモ致シ方ハアリマセヌシ、明治十四年ノ憲法ノ基礎案ヲ考ヘタ人々ノ意見ノ世ニ漏レテ居ルモノニ依リマスルト、寧ロ各大臣ノ意見ガ違フト云フコトヲ狙ツテ居ツタラシイノデアリマス、各大臣ノ意見ガ違ヘバ、其ノ違ヒ工合ヲ天皇ガ御聴取リニナツテ、然ル後ニ天皇ガ最善ノ御判断ヲ行ハセラルルノデアリマス、合意体ノモノガ輔弼スルナラバ、ソレハ寧ロ天皇ニ重圧ヲ加フル結果ヲ生ズルノダ、コンナヤウナ風ノ意見ガ言ハレテ居ル訳デアリマス、所ガ此ノ改正案ニ於キマシテハ、国務各大臣ガ助言シ又ハ承認スルト云フ形ハ執ツテ居リマセヌ、内閣ガ助言シ承認スルト云フ形ヲ執ツテ居リマス、即チ内閣ト云フ閣員ヲ以テ構成致シマシタ一ツノ集団体ガ働クト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、随テ此ノ集団ノ者ノ助言シ承認致シマスル実際ノ運営ハ此ノ趣旨ニ依ラナケレバナリマセヌ、随テ全体ヲ代表スル者ガ助言シ承認ヲスルカ、或ハ全体ノ者ノ意思ヲハツキリサセタ文書ニ依ツテ助言承認ヲ行フカト云フヤウナ、色々ナ方法ガ考ヘラルルノデアリマシテ、今日之ヲ一ツニ決定スルコトハ困難デアリマスルガ、大体ノ形ヲ予想シテ申シマスレバ此ノ文書ニ依リマスルモノハ、結局各大臣ガ同意ヲシタト云フコトヲ明カニシタル文書ヲ本ト致シマシテ、内閣総理大臣ガ其ノ決マツタコトヲ代表的ニ助言シ承認ノ道順ヲ執ルト云フノガ普通ダラウト思ヒマス、併シナガラ、時アツテ其ノ主任ノ大臣ガ特ニ之ニ関与シナケレバナラナイ時ニハ、内閣総理大臣ノ代表ヲ援助スル意味ニ於キマシテ、補助的ニ其ノ働キヲ分担スルト云フ形ニナラウカト思ツテ居ル訳デアリマス、併シ此ノ精密ナル所ハ今後ノ色々ナ決メ方ニモ依ツテ多少ノ影響ヲ受クルコトガアラウト思ヒマス
　ソレカラ次ニ、内閣不統一ガ起ツタ場合ニ困ルヂヤナイカト云フ御質疑デゴザイマシタ、今回ノ内閣制度ハ露骨ナ形ハ使ツテアリマセヌケレドモ、其ノ中ノ内閣総理大臣ト云フモノニ稍々強キ重点ヲ認メテ居リマス、現在ノ制度ヨリモ一層強ク総理大臣ガ首長ト致シマシテ其ノ内閣ヲ統括シテ行クト云フコトヲ認メテ居リマス、随テ其ノ強キ権能ヲ行使致シマシテ内閣ノ不統一ヲ避ケル働キヲ持ツベキモノト思フノデアリマス、若シ万一其ノ内閣ノ統制ニ反スル意見ヲ持ツ大臣ガアリト致シマスレバ其ノ時ニハ内閣総理大臣ガ中心点トナツテ、其ノ不統一ヲ避ケル手段ヲ講ズルノデアリマシテ、其ノ一番ハツキリシタ姿ハ憲法草案第六十四条ノ第二項ニアリマスヤウニ、内閣総理大臣ハ任意ニ国務大臣ヲ罷免スルコトガ出来ルト云フ形ヲ執ツテ現ハルルコトト考ヘテ居リマス
○田中（伊）委員　次ハ第二項ニ関係シマシテ、参議院ニ対スル政府ノ責任ノ性質ニ付テ御伺ヒヲシタイノデアリマス、此ノ両院ニ対スル責任ハ此処ニ書イテアリマスヤウニ、国会ニ対シテ連帯責任ヲ負フコトニナツテ居リマス、併シ其ノ国会ニ対スル連帯責任ノ中デ、参議院ニ対スル連帯責任ト云フモノハ、如何ナル新憲法上ノ建前ニ依ツテ参議院ニ対スル連帯責任ト云フモノガ生ズルモノデアリマスカ、ソレハ少シ理論的ニヲカシイコトデハナイカト云フノガ私ノ疑念デアリマス、ドノ点ガヲカシイカト申シマスト、衆議院ノ方デハ解散ガ出来テ、同時ニ明文ノアリマスヤウニ、不信任ノ決議ガ出来マス、所ガ参議院ニ於キマシテハ解散ガナイ代リニ不信任決議モ出来ナイ、不信任決議ガ出来ナイノニ拘ラズ、内閣ガ連帯シテ衆議院ト同ジヤウニ責任ヲ負ハネバナラヌ、此処ガ私ノ分ラナイ点デアリマス、何カ根拠ラシイモノガナカラウカト思ツテ、此ノ法規ノ内容ヲズツト通覧ヲシテ調ベテ見ルト云フト、辛ウジテ参議院ト雖モ衆議院ト共ニ国会ト云フ立場ニ於テ内閣総理大臣ノ指名権ヲ持チ、国務大臣ヲ指名サレル場合ノ承認ノ権利ヲ持ツテ居リマス、辛ウジテサウ云フコトガ参議院ガ内閣ノ連帯責任ヲ受ケル理論上ノ根拠ニナツテ居ルノデハナカラウカト思ヘル節ガアルノミデアル、ソレ以外ニドウモ納得ノ行ク根拠ガナイ、ソコデ政府ノ参議院ニ対スル連帯責任ト云フノハ、如何ナル根拠ヲ持ツタ責任デアラウカ、其ノ責任ノ性質如何ト云フコトヲ伺フト同時ニ仮ニ何等カノ根拠ニ依ツテ参議院モ衆議院ト同様ニ責任ヲ受ケルノダト云フコトニ致シマシテモ政府ノ衆議院ニ対スル連帯責任ト参議院ニ対スル連帯責任トハ、質ノ上ニ於テモ、量ノ軽重ノ上ニモ大キナ差ガアルノデハナイカ、是ハ如何ナルコトニナルノデアラウカ、性質如何及ビ其ノ軽重如何、斯ウ云フ点ヲ明カニシテ戴キタイト存ジマス
○金森国務大臣　責任ト云フ言葉ノ意義ガ分ツタヤウナ言葉デハアリマスルケレドモ、精密ニ考ヘテ見マスルト相当分リニクイ言葉ト思ツテ居リマス、私ハ責任ト云フコトハ、結局自分ノ行ヒマシタ行為ニ付テ、何処マデモ自分ガ其ノ申開キヲスルト云フ考ヘ方ガ中心トナラウト思ヒマス、而シテ其ノ問題ノ終局ノ果ニ於キマシテハ、之ニ対シテ必然的ニ来ルベキ報イヲ受ケルト云フコトマデモ含ンデ居ルト思フ訳デアリマス、之ヲ第六十二条ノ第二項ノ形ニ於テ見マスレバ、内閣ハ行政権ノ行使ニ付テ国会ニ対シテ連帯シテ責任ヲ負フト云フコトハ何ガ何時デモ投ゲ出シテ辞職スルトカ、何時デモ之ニ対シテ陳謝スルトカ、サウ云フコトヲ言ツテ居ルノデハナイノデアリマシテ、苟クモ自分ノヤツタコトニ付キマシテハ、飽クマデモ議会ニ対シテ弁明シ、其ノ論難攻撃ノ矢面ニ立ツテ主張スベキ所ヲ主張シ、ソレカラ進ンデノ段階ニ於キマシテハ、色々ノ其ノ報イヲ甘ンジテ受ケルト云フ所マデ進ム訳ニナルノデアリマス、其ノ意味ニ於キマシテ、内閣ハ参議院ニ対シマシテモ衆議院ニ対シマシテモ等シク自己ノ責任ヲ回避スルコトハ出来ナイト考ヘテ居ル訳デアリマス、併シナガラ誰ガ其ノ責任ノ帰着点ヲハツキリ見分ケルカ、衆議院ニ対シマスル関係ニ於キマシテハ、論ガ果シナクテモ、結局不信任決議ト云フハツキリシタ手段ニ依リマシテ、内閣ハ総辞職ヲシナケレバナラヌ、之ニ依ツテ責任問題ハ其ノ大詰ニ到達致シマシテ神様ガ見タナラバ当否ハ別デアリマスルガ、人間世界ノ現象トシテハツキリ解決ガ付クノデアリマス然ルニ参議院ニ対シマシテハ斯様ナ最後ノ解決ヲ明白ニスルヤウナ手段ガアリマセヌ、参議院ガ政府ニ対シテ論難攻撃ヲ加ヘ、政府ハ又之ニ対シマシテ陳述ヲシ弁明ヲスル、斯ウ云フ所マデハ責任ヲ追フ姿トシテ普通ニ行ハレテ行クト思ヒマス、ソレ以上ニ進ンデ、モツト実際的ナ形デ現ハレマスルヤウナ時ハ、参議院ハ本来自ラガ謂ハバ不死身ノ姿デアリマス、詰リ解散ヲ受ケルヤウナ立場ニアリマセヌ、ソレト照応致シマシテ、内閣ノ総辞職ヲ法律的ニ導キ出ス権限ヲ持チマセヌ、デアリマスカラ此ノ間ハ論難弁明ノ其ノ高調ノ段階ニ於キマシテ責任ガ明カニサレテ行クノデアリマシテ、最後ハ内閣自ラドウモ自分ハ辞メル責任ガアルト思ヘバ総辞職ヲ致シマスシ、自ラ辞メル理由ガナイト思ヘバ、総辞職ヲシナイ、責任ノ帰属ガ或ル程度デ之ヲハツキリサセル手段ガ消滅シテシマフ、ソレ以上ハ進行シナイ、ソレカラ先ハ一般ノ政治問題ニナツテ行クト云フコトニ帰着スルト思ヒマス、今マデ申シマシタ所ヲ約メテ言ヘバ、内閣ハ両院ニ対シテ責任ヲ負フコトハ明白デアル、併シナガラ其ノ責任ヲ具体的ニ解決スル手段トシテハ、衆議院ノミガ法律的手段ヲ持ツテ居ル、参議院ハ法律的手段ヲ持ツテ居ナイ、最後ハ内閣自ラノ認ムル所、又ハ他ノ政治上ノ力ニ依ツテ解決スルノ外ハナイ、斯フ云フコトニ帰着致シマス
○田中（伊）委員　サウスルト、参議院ニ対スル政府ノ連帯責任ト云フモノハ、何ト云ヒマスカ、政治道徳的ナ責任、斯ウ云フヤウナ意味ノ程度ノモノダト、斯ウ云フコトニ解釈ヲシテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　責任ノ本質ハ此ノ憲法ノ六十二条第二項ノ示シマスル如ク、憲法上ノ責任デアルト言ヒ得ルノデアリマス、併シナガラ其ノ責任ヲ現実ニ実行シテ行ク段階ニ於キマシテハ、結局政治的ナ道行シカナイ、斯ウ云フコトニナルト思ヒマス
○田中（伊）委員　終リマシタ
○芦田委員長　小島徹三君
○小島委員　第二項ニ於テ「内閣は、行政の行使について、國會に對し連帶して責任を負ふ。」斯様ニゴザイマスガ、行政権ト云フモノノ範囲ハドウ云フモノデゴザイマスカ
○金森国務大臣　此ノ憲法全体ヲ通ジマシテノ文字ノ使ヒ方ノ上ニ於キマシテ、行政権ト云フ言葉ハ広ク使ハレテ居リマス、立法ニアラズ、司法ニアラズシテ、執行的ナ権利ト云フモノハ、原則トシテ行政権ニ入ツテ居ルト云フ意味ニ解釈シテ居リマス、随テ学問風ナ言葉デ言ヘバ、寧ロ執行権ト言フ方ガ適当デアリマスケレドモ、サウ云フ熟語ガ余リ一般ニ行ハレテ居マセヌノデ、左様ナ言葉デ示シタ訳デアリマス
○小島委員　ソレデハ天皇ニ対スル助言並ニ承認ニ関シテハ、国会ニ対シテ責任ハドウナリマスカ
○金森国務大臣　助言、承認ニ付キマシテモ、若シソレガ間違ツテ居レバ、国会ニ対シテ責任ヲ負フノデアリマシテ、寧ロサウ云フ責任ノ負ヒ方ガ国務大臣ノ本体デアラウト思ヒマス、総テ国会ニ対シテハツキリシタ責任ヲ負フト云フコトニナルト思ヒマス
○小島委員　ソレデハ行政権ト云フ言葉ノ中ニハ、天皇ニ対スル助言トカ承認トカサウ云フモノモ全部含マレテ居ルト、斯様ニ解釈シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　左様デゴザイマス
○小島委員　私ノ質疑ハ是デ終リマシタ
○芦田委員長　是ニテ六十二条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第六十三条ニ対スル質疑ニ入リマス――小野孝君
○小野（孝）委員　本条ニ於テ規定致シマス所ノ内閣総理大臣ヲ国会ニ於テ指名スルト云フ制度ト、所謂政党ノ責任政治ト云フモノガドウ云フ風ニ行ハレテ行クカト云フ点トノ関係ニ付テ、御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、事柄ガ事柄デアリマスカラ、金森国務相ハ勿論デアリマスガ、齋藤、植原両国務大臣ノ御答弁モ伺ヘレバ仕合セト存ズルノデアリマス、結論カラ先ニ申シマスト、此ノ内閣総理大臣ヲ国会デ指名スルト云フ制度ハ、或ル場合ニハ非常ニ合理的ニ行ハレマスケレドモ、或ル場合ニ於テハ政党ノ責任政治ト云フモノト相背馳スル結果ヲ生ズルノデハナイカト云フ事柄ナノデアリマス、内閣ガ総辞職シテ後継内閣ガ組織サレル場合ハ色々アリマセウガ之ヲ大雑把ニ分ケマスト、此ノ草案ニ依ル何ト言ヒマスカ憲法上ノ事由ニ依ル場合ト、サウデナイ一般的ナ政治上ノ事由ニ依ル場合トニ分ケ得ラレルト思フノデアリマス、此ノ憲法上ノ事由ニ依ル総辞職ノ場合、詰リ総選挙ノ結果新シイ議会ガ開カレタ為ニ内閣ガ総辞職スルト云フ場合ハ、国民ノ意思ヲ反映シタ多数党ガ恐ラク内閣ノ首班ヲ指名スルコトニナリマセウカラ此ノ場合ハ非常ニ理想的ニ行ハレルト思ヒマス、又内閣ガ議会不信任決議ニ依ツテ総辞職シテ新シイ内閣ガ出来ルト云フ場合ニモ、不信任決議ヲシタ多数ノ勢力ト云フモノヲ背景ニシテ次ノ内閣ノ首班ガ指名サレマスカラ、此ノ場合モ大シテ不都合ガナカラウト思ヒマス、内閣総理大臣ガ欠ケタ為ニ内閣ガ総辞職ヲシテ次ノ首班ヲ指名スルト云フ場合モ先ヅ大シテ問題ハナカラウト思ヒマス、問題ハ此ノ憲法上ノ事由ニ依ラナイ他ノ政治上ノ事由ニ依ツテ内閣ガ倒レタ場合デアリマス、此ノ政治上ノ事由ニ依ツテ内閣ガ倒レルト申シマシテモ、其ノ理由ハ個々ノ場合デソレゾレ違フダラウトハ思フノデアリマスケレドモ、何ト申シマシテモ其ノ中心ノ事由ハ政策上ノ行詰リト云フ点ニ帰シ得ルト思フノデアリマス、問題ハ此ノ政策ノ行詰リニ依ツテ内閣ガ倒レテ次ノ内閣ガ出来ルト云フ場合デアリマス、今マデ日本ニ行ハレテ居リマシタ所謂憲政ノ常道ト云フ点カラ申シマスト、内閣ガ政策ノ行詰リカラ総辞職致シマシタ際ニハ其ノ内閣ト反対ノ立場ニアツタ政党ガ仮ニ衆議院デ多数ヲ占メテ居ラナクトモ次期政権ヲ担当スルト云フノガ憲政ノ常道デアルト今マデハ考ヘテ来ラレタ訳デアリマス、仮説的ニ申上ゲマスト、是ハ私ノ立場カラハ憚リ多イ仮説カモ知レマセヌガ、仮ニ吉田内閣ガ政策ノ行詰リカラ総辞職シタト云フ場合ヲ仮定致シマスト、今マデノ政治常識カラ言ヘバ、後継内閣ハ当然反対ノ立場ニアル社会党ニ依ツテ組織サレルト云フノガ常道デアラウカト思フノデアリマスガ、此ノ内閣総理大臣ヲ国会ガ指名スルト云フヤリ方ニ依リマスト、吉田内閣ガ政策上ノ行詰リデ倒レマシテモ、其ノ政権ハ社会党ニ行カズニ逆ニ幣原サンヲ指名シテ内閣ヲ作ツテ、本質的ニハ変リノナイ内閣ガ出来ルト云フヤウナ結果ニナルノデハナイカト云フ風ニ思ハレルノデアリマス、之ヲ更ニモウ少シ突進ンデ考ヘマスト、吉田内閣ハ今ノ政党ノ分野ガ変ラナイ限リ、政策上ノ問題ノ如何ニ拘ラズ最後マデ辞職スルト云フコトハナイト云フ風ナ考ヘ方モ出来テ来ル訳デアリマス、詰リ此ノ方ヘ方ヲ押詰メマスト、一議会一内閣ト云フ風ニ行クノデハナイカト思フノデアリマス、或ハ又一議会一内閣トマデハ行カズトモ一内閣一政党内閣ト云フ風ナコトニナルノデハナイカト思フノデアリマス、是ハ「アメリカ」ノ大統領ノ場合ナドト勿論形ハ違ヒマスガ、精神ニ於テ稍々似タヤウナコトニナツテ、斯ウ云フコトモ亦考ヘテ考ヘラレナイ事柄デハナイト思フノデアリマス、ソコデ御伺ヒ致シタイノハ、サウ云フ制度ノ善シ悪シハ兎モ角ト致シマシテ、政府ハ此ノ憲法草案ヲ御起草ニナル時ニ、サウ云フ一議会一内閣ト云フヤウナコトヲ頭ノ中ニ描カレテ之ヲ起草ナサレタノカ、或ハ一議会一内閣ト云フコトヲ若シ頭ノ中ニ入レテ居ナカツタトスレバ、此ノ制度トソレカラ政党ノ責任政治ト云フモノトノ調整ヲ如何ニ行ハレテ行クカト云フ風ナコトヲ御考ヘニナツテ居タノデアルカト云フ点ヲ御伺ヒ致シタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣　此ノ憲法ヲ文字ノ上ニ形ヅクリマスル時ニ、一議会一内閣ト云フヤウナ考ヘハ毛頭持ツテ居リマセヌ、議会ト内閣トノ関係ハ此ノ憲法ノ示ス如ク種々ナル原因ニ依ツテ変化シテ行クコトヲ予想シテ居リマス、今御示シニナリマシタヤウナ議会ハ其ノ侭デアレバ内閣モ亦其ノ議会ト密接ナル連繋ヲ持ツモノデアル、偶々政策ニ依ツテ内閣ガ退却シテモ議会ノ勢力ガ変ラナイ限リハ、同ジヤウナ内閣ガ出来テ、結局適当ナ姿ニナラナイ可能性ガアルノデハナイカ、斯ウ云フ風ナコトデアルト思ヒマスルガ、此ノ憲法ハ固ヨリ政党ヲ明白ニ外ニハ現ハシテ居リマセヌケレドモ、勿論政党ノ変化ガ政治ノ上ニ大キナ影響ヲ持ツテ居ルコトヲ予想シテ居リマシテ内閣ガ政策ノ行詰リニ依ツテ失脚スルト云フガ如キ実情ガアリマスルナラバ、恐ラク之ヲ一番適切ニ判断致シマスルモノハ、議会ヲ構成シテ居ル政党自ラデアラウト思ヒマス、随テ議会ヲ構成シテ居ル政党ガ十分其ノ点ニ於テ反省ヲスルコトガアリ得ルニ相違ナイ、既ニ反省スルト致シマスレバ、ココニ政治道徳ノ原則トシテ単ニ多数ノ勢力ニ依ツテ内閣員ヲ無理ヤリニ自分達ノ中カラ選出スルト云フノデハナクシテ、憲政常道ト云フ言葉ガ現実ノ場面ニ於キマシテハドウ云フ形ヲ取ツテ行クカハ分リマセヌガ、兎ニ角其ノ時代時代ニ於テ然ルベキ憲政常道ノ姿ニ変ツテ多数党モ亦行動スルデアラウト云フコトハ、日本ノ是カラ進ミ行クベキ政治ノ道徳ノ上カラハ斯クアルデアラウト思ツテ居リマス、ソレヲ信ジテ此ノ規定ノ立テ方ハ正シイモノト思ツテ居リマス
○齋藤国務大臣　憲法改正案ガ議会ニ現ハレマシテカラ本会ヲ通ジテ此ノ委員会ニ亙リマシテ色々ノ質疑応答ガ重ネラレタノデアリマス、所ガ御承知ノ通リニ憲法案ニ関スル問題ハ極メテ「デリケート」デゴザイマシテ、ヤハリ人ニ依ツテ根本的ノ意見ハ一致シテ居リマシテモ、言葉ノ使ヒ方ニ依ツテ、或ハ政府当局者ノ間ニ於キマシテ齟齬ヲ来スカモ分ラナイノデアリマス、ソレデ此ノ問題ニ関スル限リハ我々ハ金森国務相ヲ陣頭ニ立テテ甚ダ同氏ニハ御気ノ毒デハアリマスルガ、金森君一人ニ御答弁ヲ願フコトニ申合セテ居ルノデアリマス、サウデナイト、先程申上ゲマシタヤウニ此ノ問題ニ付テ意見ノ不一致ト云フヤウナコトガ現ハレマシタナラバ、是ハ大変ナコトデアリマスカラシテ、私自身ニ於キマシテハ色々ト意見ハアリマスルケレドモ、先ヅ政府ヲ代表シテ答弁ニ当ツテ居リマスル所ノ金森国務相ノ御答弁ニ我々ハ無条件ニ服従スルト云フ訳デハアリマセヌケレドモ、無条件ニ之ヲ承認スルト云フコトデ是マデ来テ居リマスカラシテ、此ノ際ニ於テ私等ガ色々口ヲ出スコトハ却テ議事ヲ錯雑セシメテ、議事ノ進行ニ於テモ宜シクナイト思ヒマスカラ左様ニ御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス、金森君一人ノ意見ガ政府全体ノ意見デアル、私等一同ノ意見デアルト云フコトヲ御承知願ヒタイト思ヒマス（拍手）
○小野（孝）委員　国務大臣ノ御答弁ノ趣旨ハ分リマシタガ、要スルニ今マデノ立憲政治ノ常道ト云フモノヲ破ル意思ハナイ、随テ先程例ヲ取ツタ吉田内閣ガ政策的ノ破綻カラ潰レタ場合ニハ、当然後継内閣ト云フモノハ社会党ニ依ツテ組織サレルノデアルト云フ風ナ憲政ノ常道ト云フモノハ一応承認サレテ、其ノ社会党ノ内閣ガ実現スル為ニハ、今ノ場合デ申セバ、自由党、進歩党モ若シ吉田内閣ニ政治ノ行詰リガアレバ、ソレニ共同ノ責任ヲ執ル意味ニ於テ社会党ノ方ニ投票スルデアラウ、其ノ政治道徳ヲ期待シテ居ル、斯ウ云フ趣旨デアルト解シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣　私ハ只今ノ御答ヘニ於テハ一般的ナル言葉ヲ用ヒテ御答ヘシテ置キマシタ、一般的ナル言葉ニ於テ示シマシタヤウニ新シキ政治ハ新シキ考ヘヲ以テ立憲政治ノ正シキ道行キヲ執ルデアラウ、憲政常道ト云フ言葉ノ運用ノ形ハ色々ニアリマセウケレドモ其ノ精神ハ行ハレテ行ク、斯ウ云フ意味ニ申シマシタ、現ニ御示シニナリマシタ具体的ナル形ニ当嵌メテノ御答ヘハ、是ハ現在ノ所私トシテハ明言シ難キ所ト存ジテ居リマス
○小野（孝）委員　私ハ是デ終リマスガ、念ノ為メ釈明シテ置キマスガ、今ノ現実ノ問題ハ飽クマデモ一ツノ問題ヲ掘リ下ゲテ行ク為ノ引例デアツタコトヲ申上ゲテ、私ノ質問ヲ終リマス
○原（健）委員　第六十三条デ「内閣總理大臣は、國會の議決で、これを指名する。」トアリマスガ、国会ガ開カレテ居ナイ時ニハドウシテ内閣総理大臣ヲ決定スルノデアルカ、ソコヲ御示シヲ願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣　国会ヲ開イテ指名ヲスルト云フ途ヲ執ル考ヘデアリマス
○原（健）委員　ソレデアリマスト解散ノ場合ノ例ヲ取リマシテモ、衆議員ノ総選挙ヲ行ウテ、選挙ノ日カラ三十日以内ニ国会ヲ召集シナケレバナラヌトアリマスカラ、国会ヲ開クマデニ三十日位ノ日子ヲ要スルト思ヒマスガ、其ノ間内閣総理大臣ガ決マラナイト云フコトニナルノデアリマセウカ
○金森国務大臣　左様ナ已ムヲ得ザル場合ガアルコトハ事実防ギ難キコトデアリマシテ、其ノ場合ハ結局前ノ内閣総理大臣ガ責任ヲ持ツテ居リマシテ、次ニ正式ノ手続ニ依ツテ内閣総理大臣ガ任命セラルルヤウニ取運ブト云フコトニナルノデアリマシテ、此ノ六十七条アタリノ規定ガ其ノ趣旨ヲ明カニシテ居ル訳デアリマス
○原（健）委員　之ニ関連シテデアリマスガ、サウ致シマスト第六十四条ニ参リマシテ「内閣總理大臣は、國會の承認により、國務大臣を任命する。」而モ其ノ次ニハ「内閣總理大臣は、任意に國務大臣を罷免することができる。」トナツテ居リマスノデ、国務大臣ヲ一人罷免シタ場合ニ欠員ガ出来ルサウ云フ場合ニハ一々、国会ノ承認ヲ得ナケレバナラヌノデアリマスガ、ソレガ国会ガ開カレテ居ナイ場合ニハ又シテモ数十日ヲ要スル、参議院ニモ掛ケマスカラ一人ノ大臣ヲ選ブニモ数十日、三十日カラ四十日、五十日ノ日子ヲ要スルト云フコトニナツテ、今日ノヤウナ急変ノ時代ニ甚ダ不適当デアルト思ヒマス、之ニ対シテドウ云フヤウナ御考ヘヲ持ツノデアルカ何カ緩和策ガナイデアラウカ
○金森国務大臣　此ノヤウナ一ツノ理想ヲ持ツタ議院内閣制ヲ開キマス限リ、多少ノ不便ノ起ルコトハ免レ得ナイト思ツテ居リマス、ソレハ凡ユル手段ヲ講ジ、詰リ政治的ナル運用ヲ以テ助ケナケレバ旨ク行キマセヌ、今ノヤウニ国会ガ開カレテモ、総理大臣ノ指名等ニ幾日モ掛ルト云フコトデハ、実際ノ運用ニハ相当ノ面倒ガ起ルト思ヒマス、是ハ政治ノ行キ方ハ法文カラ直チニ生レルモノデハアリマセヌ、此ノ憲法ノ草案ガ正シイト云フ信念ガ行渡リマスレバ、総テガ協力シテ此ノ文字ノ羅列ニ過ギナイ所ノ規定ニ魂ヲ入レルト云フ努力ヲ願ハナケレバナラヌト思ツテ居リマス、尚ホ附言シテ申シマスルガ、先ノ国務大臣ヲ任命スルニ付テモ国会ノ承認ガ要ル、又国務大臣ヲ罷免スルニ付テモ承認カ要ル、ソコデ非常ニ不便ガ起ルト御考ヘニナルカモ知レマセヌガ各個ノ国務大臣ニ付キマシテハ、寧ロ議会ノ承認ヲ得マスノハ国務大臣トシテ承認ヲ得ルノデアリマシテ、其ノ国務大臣ヲ何ニ充テルカ、農林大臣ニ充テルカ、文部大臣ニ充テルカト云フコトハ議会ノ承認ノ内容デハナイ、詰リ無任所大臣ミタイノ考ヘ方デアリマスガサウ云フヤウニ考ヘテ行キマスト其ノ辺ノ手続ハ余程省略出来ルト思ヒマス
○原（健）委員　サウスルト六十四条ノ二項ノ所ニアルヤウニ、「内閣總理大臣は、任意に國務大臣を罷免する。」罷免スル場合ニハ任意ニヤルノデアリマスガ、最初ニ於テハ国会ノ承認ヲ得テ居ル、国会ノ承認ヲ得タモノヲ罷免スル場合ニハ勝手ニ今度ハ罷免スル、此ノ間ニ非常ニ私ハ矛盾ガアルト思フノデアリマス、ソレガ一ツデアリマス、第二番目ニ於キマシテハ、今申シマシタヤウニ国会ノ承認ヲ無任所大臣トシテ大体得ルト言ヒマシテモ、是ハ非常ニ手数ノ掛ルコトデアリマスカラ、寧ロ出来ルコトナラ斯ウ云フコトヲ止メテシマツテ、罷免ヲ総理大臣ガヤレルナラ任命モ総理大臣ガヤツタラ宜イヂヤナイカ、内閣総理大臣ガ国務大臣ヲ任命スルコトニシテハドウカ、此ノ二点ヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣　任用致シマス場合ト罷メル場合トニ付テ条件ガ違フ、国務大臣ノ場合ハ正ニ御説ノ通リデアリマス、内閣ノ統一力ヲ強化ナラシメマス為ニ、是ガ必要デアルト考ヘテ、斯様ナ制度ヲ設ケタノデアリマス、斯様ナ方法ヲ採リマスレバ、少クトモ国会ノ気ニ食ハナイ人間ガ国務大臣ニ入ツテ居ナイト云フコトハ、此ノ両方ノ制度デ確保セラレルノデアリマス、国会ガ承認シナイ者ハ閣員デハアリ得ナイ、併シ国会ガ承認シテモ総理大臣ダケデモ罷免ガ出来ルト云フコトデアレバ、今申シマシタ国会ノ好マシカラザル人物ガ内閣ニハ入ツテ居ナイト云フコトヲ確保スル意味ニ於キマシテ、相当意味ガアルノデアリマス、又閣内統一ヲ完全ニシテ総理ノ統括力ヲ鞏固ナラシムル為ニハ、是ハ十分理由アル制度ト説明出来ルト思ヒマス、更ニ進ミマシテ、サウ云フ国務大臣ノ任免ニハ全然斯様ナ制限ヲ置カナイデ、総理大臣一人デヤツタナラバドウカト云フコトニナリマスルト、其ノ落着ク所ハ結局政治的ニハ総理大臣一人ガ議会ト連繋ヲ密接ニ持ツト云フコトニナリマス、ソレモ一ツノ考ヘデアリマセウ、ソレナラバ閣僚ハ置カナクテモ総理大臣一人デヤツテアトハ行政長官ヲ置クコトト何トナク似タヤウナ結果ニナツテ来マスガ、サウ云フ行キ方ガ此ノ複雑ナル国政ヲ運用シテ、而モ議会ト密接ナル調和ヲ保ツテ穏カニ議院政治ヲ遂行シテ行ク上ニ良イカ悪イカト云フ問題ニナリマス、此ノ基本ノ考ヘ方ハ、手続ハ面倒デモ是ハ政治ノ発達ニ依ツテ相当簡便ニ出来ル、所謂原則トシテ内閣ト議会トノ間ニ本当ニ密接ナル連結ガ欲シイ、已ムヲ得ヌカラ斯ウ云フ制度ヲ採ルノダ、斯ウ云フ風ニ起案シタノデアリマシテ、ソレハ正シイト思ツテ居リマス
○原（健）委員　序デニ一寸御尋ネシタイノデアリマスガ、此ノ六十二条デ内閣ハドウ云フモノデアルカト云フコトハ決マツテ居ルノデアリマスガ、我々ハ戦争中色々日本政府ト云フ名ニ於テ、下ノ方ノ役人デモ、或ハ甚ダシキハ大政翼賛会ノ指令ナドニ於キマシテモ、国民ヲ非常ニ圧迫シ、ソレヲ強力ナル意思デアルカノ如ク今マデ吹聴シテ来タノデアリマスガ、我々ハサウ云フ間違ヒノ起ラナイヤウニ、一ツ政府ニ御尋ネシタイノデアリマスガ、政府トハ一体ドウ云フ所マデヲ指スノデアルカ、其ノ点ヲハツキリシテ置イテ戴キタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣　政府ト云フ言葉ソレ自身ハ、文字ノ示シマスルガ如ク政治ノ府デアリマス、言換ヘマスルト、政治ヲスル所、又ハ政治ヲスル者ト云フコトニ帰着致シマス、併シ其ノ言葉ハ非常ニ荒ツポイ言葉デアリマシテ、当嵌メヤウニ依ツテ色々違フノデアリマス、例ヘテ申シマスルト、外国カラ見テ日本ノ政治ヲスル所ハ何処カ、斯ウ云フ問題ニナリマスト、日本全体ガ一目ニ政治ヲスル所ノヤウニ見エマス、サウ考ヘマスト日本政府ハト云フ言葉ハ恰モ日本国ハト云フヤウナ気持ニナラウト思ヒマス、又此ノ議会ヲ中心トシテ考ヘテ見マスト、議会ハ立法スル所デアリマス、政治ヲスル所ハ何処カト云フコトニナレバ、議会ト対立スル意味ニ於テ政治ノ行ヒ場所ヲ考ヘマスト、ソレハ内閣デアル、斯ウ云フコトニナリマセウ、又人民カラ見テ何カ斯ウ直接接スル所デ政治ヲシテ居ルノハ何処ダラウカト云フト、可ナリ末梢神経ノ所モ政府ニナルト云フ訳デアリマシテ、政府ト云フ言葉ハサウ云フ風ニ中心観念ハ決マツテ居リマスケレドモ、応用的ナル意味ハドノ方面ニ向ケテ政府ヲ使フカト云フコトニ依ツテ決マツテ来ルノデ、ドウモ余リハツキリシタ一ツノ意味ニ取ルコトハ出来ナイト思ツテ居リマス
○原（健）委員　モウ一ツ御尋ネ申上ゲタイノデアリマスガ、今マデハ衆議院ニ対シテ貴族院ト言ツテ居ツタノガ、ソレガ参議院ト云フ名前ニ改メラレテ居ル、成程今度ハ貴族ガナクナルノデアルカラ貴族院ヲ止メタト云フ理由ハ無論分ルノデアリマスガ、参議院ノ参議ト云フノハ明治ノ初年ニ参議ト云フ制度ガアツタノデアリマシテ、ドウモサウ云フ明治初年ノ使ヒ古シニナツタ言葉ヲココニ使用シテ、何トナシニ封建的ナ臭ヒノアルヤウナ気ガスルノデアリマスガ、ドウ云フ訳デ参議院ト云フ名前ニサレタカ、又モツト適当ナ言葉ガナカツタノデアラウカ、其ノ点ヲ一ツ御説明願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣　文字ノ点ニナリマスト、古イ言葉ノ良イコトモアリマスシ、新シイ言葉ノ良イコトモアリマシテ、此ノ言葉ハ確カニ古イト云フコトハ、詰リ古クカラ尊重サレタ良イ言葉ノ印シデアルカモ知レマセヌ、ココニ直接ニ参議院ト云フ言葉ヲ採リマシタノハ、実ハソチラカラ研究シタノデハナクシテ、広ク諸国ノ制度ヲ見マシテ近頃外国デハ二院ノ制度ヲ採ツテ居リマスガ、此ノ参議院ト云フノハ日本ノ訳語デアリマスケレドモ大体智慧ヲ出シテ補充的ナ意味ニ於テ議会ノ働キヲ達成シヨウト云フモノニハ斯ウ云フ言葉ガ宜イノデハナイカ、斯ウ云フヤウニ考ヘタノデアリマス
○芦田委員長　第六十三条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ノ第六十四条ニ移リマス――林平馬君
○林（平）委員　私御尋ネ申上ゲヨウト思ヒマスコトハ、只今原君カラ御質問ガアツタノデアリマスガ重複スル嫌ヒガアルノデアリマスケレドモ、国務相ノ御答弁ニマダ了解シ得マセヌノデ、御尋ネヲ申上ゲタイ、或ル大臣ガ辞メナケレバナラヌ状態ニナツタナラバ、直チニ迭ルベキモノダト思ヒマス、其ノ新旧ノ間ニ数日、数十日ト云フヤウナ時日ガアルコトハ、国政運営ノ上カラ見テ非常ニ好マシカラザル状態デアルト思ヒマス、然ルニ第六十九条ニ依リマスト、此ノ辞メナケレバナラヌ状態ニナツタ国務大臣ヲ、直チニ入替ヘスルコトガ出来ナイ、殊ニ国会ガ開カレテナイ場合ニハ、別ニ国会ヲ召集セナケレバ其ノ手続ハ正式ニ執レナイノデアル、殊ニ総理大臣ハ其ノ前条ニハツキリシテ居ルヤウニ、国会ノ決議ニ依ツテ任命サレルノデアリマスカラ、謂ハバ国会ガ総理大臣ヲ信任シタ訳デアリマス、其ノ信任ヲ受ケタ又議会ノ方カラ見レバ信任シタ総理大臣ニ、思ヒ切リ十分政治手腕ヲ伸バサシテヤルト云フコトハ当然ダト思フ然ラバ其ノ総理ニ思フ存分自由ニ閣僚ヲ選択サセル自由ヲ与ヘルノハ少シモ筋ノ通ラヌ話デハナイト斯様ニ私ハ考ヘル、而モ其ノ又前条ノ六十二条ヲ見マスト、内閣ハ連帯ヲ以テ国会ニ責任ヲ責フト云フコト云フコトニナツテ居ルノデアリマスカラ、任命ヲスル時ニハ国会ノ承認ガナクトモ国政ノ運用上ニ何等好マシカラザルヤウナ出来事ヲ予想スル必要ガナイヂヤナイカ、マルデ内閣ヲバ六十二、三四条デ縛ツテシマツタヤウニ見エルノデアリマス、即チ六十二条デハ連帯責任ヲ負ハセル、六十三条デハ総理大臣ハ国会ノ議決ヲ要スル、六十四条デハ一人一人ノ各大臣ガ皆国会ノ承認ヲ要スル、サウ云フコトデハ到底形ハ成程整ツテ怪我ガナイヤウナ、議会ノ好マシカラザル者ガ大臣ニナル虞ハナイカモ知レマセヌケレドモ、如何ニモ消極的デアリ金縛リ内閣トナツテ生々溌刺タル政治ヲ求メルコトニ対シテ非常ナ隘路トナルト思フノデアリマス、随テ私ハヤハリ任免共ニ総理大臣ニ権限ヲ与ヘルベキモノデアラウト思フノデアリマス、任命権ヲ与ヘナイコトハ何トシテモ納得出来ナイノデアリマス、此ノ点ニ付テ今一度御説明ヲ願ヒマス
○金森国務大臣　先程カラノ御尋ネ、又今ノ御尋ネヲ総合シテ考ヘテ見マスルト、其ノ根本ニハ政治機構上ノ非常ニ重大ナ基本問題ガ横タハツテ居ルヤウニ思フノデアリマス、詰リ御質疑ノ重点トスル所ハ、議会ガ総理大臣ヲ信任スルソレヲ主眼トスレバソレ以下ノコトハ先ヅ総理大臣ノ信任ノ範囲内ニ置イタナラバ宜イノデハナイカ一々総理大臣ヲ金縛リニシテ閣僚ノ選択ヲ自由ニサセナイト云フコトハ、弊アツテ益ナキモノデアルト云フ前提ニ基イテ居ラルルヤウニ思フノデアリマス、正直ナ所、私モ或ル時期ニ左様ニ思ツテ居リマシタ、問題ハモツト深入リシテ考ヘナケレバナリマセヌ、只今行ハレテ居リマスル内閣制度ヲ批判ヲ致シマスル時ニ、ヤハリソレト同ジヤウナ考ヘガ出テ来マシテ、内閣ガフラフラシテ居ル、統一力ガナイノデハナイカ、総理大臣ハ極ク軽イ意味ノ統一力ダケシカ持ツテ居ナクテ甚ダ歯痒イヤウデアリマス、ソレヲ軍隊式ニ総理大臣ガ命令スレバ各大臣悉ク其ノ方向ニ向フト云フ風ニシタ方ガ宜イノデハナイカト云フヤウナ議論モ相当ニアツタノデアリマシテ、私自身モ相済マヌケレドモ、ソレニ似タヤウナ気持ヲ稍々不十分ナル形ニ於テ論議シタコトモアツタノデアリマス、併シ現在ハ、謂ハバ幾ツカノ頭ヲ持ツテ居ル内閣デアリマス、八岐ノ大蛇以上ニ沢山ノ頭ヲ持ツテ居ル内閣ガ存在シテ、サウ云フ組織ガ或ル場合ニハ非難ノ的ニハサレテ居リマスケレドモ、現実ニ強ク残ツテ、何トハナシニ之ニハ離レ難イ意味ガアルト云フコトガ、各人ノ頭ノ中ニ滲ミ込ンデ居ルノデハナイカト思フノデアリマス、ソレヲ一言ニシテ言ヘバ、結局一国ノ政治ト云フモノハ、相当ニ複雑ナルモノガアリマシテ、一人ノ識見ニ信頼シテ、其ノ政治ノ大体ヲ包括的ニ信任シ得ルモノデハアリマセヌ、幾多ノ人々ガ其ノ代表スル方面ヲ異ニシツツモ、而モ統一ヲ保ツト云フ其ノ集団体ヲ内閣トシテ見マスル時ニ、本当ニ議会ハ此ノ内閣ヲ信任シテ居ルカドウカト云フ判断ガ起ルノデハナイカト、私ハ思ツテ居リマス、唯政治ノ実際ハ、必ズシモサウハ動イテ居ナイカモ知レマセヌガ、サウアルベキダト云フヤウナ気ガスルノデアリマス、随テ議会ガ内閣ヲ信任スルト云フ時ニ、総理大臣ダケヲ信任シテ、アトハ構ハヌト云フコトハ、恐ラク議会トシテ適当ナ道行キデハナイノデアリマス、モウ少シ中味マデ、議会ガ責任ヲ持タレテ然ルベキモノノヤウニ思フノデアリマス、唯其ノ考ヘ方ガ行過ギマシテ、今度ハ閣僚ガバラバラニナツテ、統一ヲ持タヌト云フコトニモ弊害ガアリマスカラ、其ノ両方ヲ程ヨク調和サセルト云フコトニ、新タナル行キ方ノ議院内閣制ト云フモノニ意味ガアルノデアリマシテ、手続ガ煩瑣ダト云フコトハ、固ヨリ御説ノ通リデアリマス、併シ左様ナ犠牲ヲ払ヒマシテモ、更ニ先ニ望ンデ居リマスル所ノ此ノ議院、内閣制ガヨリ完全ナル形ニ於テ現ハレマスルナラバ、是ハ多少ハ我慢ヲ願ツテ宜イノデハナカラウカト云フノガ、私共「ファッショ」ノ例ノ行キ方ニハ、相当反省スベキ幾多ノ弱点ノアルコトヲ思ツテ居リマスルガ故ニ、斯様ナ制度ヲ考ヘマスル時ニモ、ソレヲ連想シツツ、御答ヘヲ申上ゲル次第デアリマス
○林（平）委員　先程国務大臣ノ原委員ニ対スル御答ヘノ中ニアリマシタヤウニ、国会ガ承認スル所ノ国務大臣ハ農林大臣ヲ誰ニスルトカ、鉄道大臣ヲ誰ニスルトカ云ツタヤウナ個々ノ問題デハナク、国務大臣ヲト云フヤウナ意味合ヒダト云フ御話デアリマシタガ、若シサウ云フヤウナコトデアレバ尚ホ更デゴザイマス、縦ンバ国会ニ於テ仮ニ十人ノ国務大臣ヲ承認シテモ、其ノ国務大臣ノ各省割振ト云フモノハ総理大臣ガ自由デアルナラバ、結局議会ガ好マザル人ガ好マザル省ニ配置ニナル虞モ多量ニアル訳デゴザイマス、サウシテ見ルト、金森国務相ノ御説明ノ如キ点ハ常ニ期待外レノ虞ガ多量ニアルノデハナイカト思ヒマス、此ノ点如何デアリマセウカ
○金森国務大臣　私ハ之ニ付テ具体的ノコトヲ申上ゲタノデハナクシテ、煩瑣ダト云フコトヲ防止シヨウトスレバ、一般ニ国務大臣ト云フ資格ニ付テ議会ノ承認ヲ経テソレ等ノ割振、例ヘバ或ル国務大臣ニ今欠員ヲ起シテ居ル所ノ或ル部分ノ大臣ヲ兼任セシムル、斯ウ云フヤウナ途モアルデハナイカト云フ意味デ、事務ノ手続ヲ簡便ニスル方法ガナイデモナイト云フコトノ一ツノ例トシテ申上ゲタノデアリマス、内閣制度ヲドウ云フ風ニ組立テテ行クカト云フコトハ、目下臨時法制調査会ニ於キマシテ識者ヲ集メテ色々ノ立場カラ研究ヲ願ツテ居リマシテ、其ノ中ノ一項目トシテ其ノ点モ加ハツテ居ル訳デゴザイマスカラ、具体的ナ結論ヲ持ツテ居ルヤウニハマダ御答ヘスルコトハ出来ナイ訳デアリマス
○林（平）委員　此ノ点ハマダ私ニハ了解出来マセヌガ、私ノ質問ハ是デ打切リマス
○芦田委員長　第六十四条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第六十五条ニ対スル質疑ニ入リマス――小島徹三君
○小島委員　六十五条ニハ「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、總辭職をしなければならない。」斯様ニ規定シテアルノデゴザイマスルガ、此ノ「信任の決議案を否決したとき」ト云フコトハ、信任スルカシナイカト云フ決議案ヲ出サナケレバナラナイノカ、或ハ又一ツノ特殊ノ議案ヲ捉マヘテ、此ノ議案ヲ否決スル場合、或ハ可決スル場合ハ信任ト看做ス、不信任ト看做ス、サウ云フ信任ノ問ヒ方モ差支ヘナイモノデアルカドウカヲ御聴キシタイ
○金森国務大臣　此ノ信任ノ決議案ト申シマスノハ、憲法デハ実質的ニ言ツタノデアリマスルカラ、此ノ内閣ヲ信任スルト云フ決議案デアル趣旨ガハツキリサヘシテ居リマスレバ、議会ニ於テ他ノ形ヲ執ツテ之ニ寄セラレテモ恐ラク成立致シマセウ、併シ左様ナコトハ実ハ理論的ノモノデアリマシテ、結局信任決議案ト云フモノヲ行ハレルノガ本当ノ筋デアツテ、明確ナル行キ方デアルト考ヘテ居リマス
○小島委員　実際問題ト致シマシテ、内閣ガ信任サレルカ不信任サレルカト云フ危険ガアル場合ニ於テ、内閣ガ自分ヲ信任シテ呉レルカドウカト云フコトヲ議会ニ聴クト云フヤウナコトハ全クナイコトデアリマシテ成タケナラバ頬被リシテ過シテ行カウト云フノガ従来マデノ内閣デアリ、又今後ノ内閣モサウ云フ風ニナルデアラウト私ハ思ヒマス、デアリマスカラ寧ロサウ云フ特殊ノ議案ヲ一ツ捉マヘテ、其ノ議案ヲ可決スルカシナイカト云フコトガ信任ニナルカ不信任ノ決議ニナルカ、斯様ニシタ方ガ寧ロ現実的デハナイカト私ハ考ヘルノデゴザイマスガ、如何デゴザイマセウカ
○金森国務大臣　或ル重要ナル法律ヲ可決スルコトガ信任ノ決議ニナルカドウカト云フコトハ、結局解釈上ノ疑義ヲ生ジマシテ、是ガ縦ンバ可能デアルト致シマシテモ余リ好マシイモノデハナイト思フノデアリマス、サウシテ信任ノ決議案ト云フモノガ予想出来ナイト云フヤウナ御疑ヒデアリマシタケレドモ、是ハ内閣ガ出ス訳デハゴザイマセヌ、議会ノ方デ此ノ内閣ヲ信任スル決議案ヲ一部ノ人ガ出サレル、ソレニ総テガ賛成スルカ多数ガ賛成スルカドウカト云フコトデアリマス、ソレガ普通ノ考ヘノヤウナ気ガ致シテ居リマス
○小島委員　御話ヲ承リマシタケレドモ、議員ノ方デ信任スルカシナイカト云フ決議ヲ度々出スヤウナコトハ稀ナノデアツテ、寧ロ政府ノ方デ非常ニ議会ガ揉メタ時ニ重要ナ議案ヲ、之ヲ若シモ否決スルナラバ内閣ヲ不信任シタモノト看做スト云フ条件ヲ附ケテ提出シテ、サウシテ信任カ、不信任カヲ問フタ方ガ宜イノデハナイカト思ヒマスガ、ソレハ意見ノ相違トシテ承ツテ置キマス
　第二点ニ御聴キシタイノハ、是ハ内閣全体トシテノ不信任ト云フコトヲ決議スルトカシナイトカト云フコトニナルノデアリマスガ、個々ノ国務大臣ニ対シテハ出来ナイモノデセウカ、如何デセウカ
○金森国務大臣　議会トシテオヤリニナルコトハ、固ヨリ議会ノ意思ヲ表明サレルノデアリマスカラ可能ト考ヘマス、併シナガラ此ノ憲法ハ個々ノ国務大臣ニ対スル信任ノ問題ハ、憲法ノ上ニ特ニ掲ゲル必要ハナイ、政治ノ実際ニ依ツテ効力ヲ任セテ置ケバ宜イト云フノデ、規定ノ外ニ排除シテアリマス
○小島委員　私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長　大橋喜美君
○大橋委員　「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、總辭職をしなければならない。」トアリマスガ、第七条ニ天皇ハ内閣ノ助言ト承認ニ依ツテ解散ヲ行フトアリマス、此ノ内閣ノ助言ト承認ト云フ所ノ限度ハドノ位ノモノデアリマセウカ、御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣　平タク申シマスト、内閣ガ衆議院ノ方カラ不信任ノ決議案ヲ突付ケラレタ時ニ、内閣ハドウスルカト言ヘバ二ツノ途ガアルノデアリマス、一ツノ道ハ衆議院ノ解散ト云フコトヲ自分達詰リ内閣デ決メテ、其ノ決メタコトニ基キマシテ天皇ニ対シテ御助言ト承認ノ手続ヲ執リマシテ、其ノ御裁可ニ依ツテ衆議院ノ解散ヲシテ戴ク、是ガ一ツノ手デアリマス、第二ノ手ハ自分自ラ総辞職ヲスルノデアリマシテ、此ノ場合ニ内閣ガ右スベキカ左スベキカヲ決メマスノハ、内閣ノ総テノ知識、能力ヲ発揮サセテ、自ラ正シイト思フ所ニ従ツテ其ノ結論ヲ作ツテ上奏スルト云フコトニナル訳デアリマス
○大橋委員　サウシマスト内閣ノ意思ト云フモノハ、若シモ極限ニ発揮サレマシタナラバ、総辞職ヲシナクトモ宜イト云フコトニナリマスカ
○金森国務大臣　内閣自身ノ徳義心ノコトハ姑ク別問題ニ致シマシテ、憲法ノ規定ノ上カラ申シマスレバ、其ノ時内閣ガ総辞職ヲシナイデ衆議院解散ノ方法ニ出ヨウト思ヒマスレバ、十日以内ニ其ノ解散ノ手続ヲ執リマスレバ内閣ハ其ノ侭居据ツテ宜シイ、斯ウ云フ訳デアリマス、併シ、サウスルト非常ニ乱暴ノヤウニ聞エマスケレドモ、左様ナ解散ヲ致シマスレバ、ソレヨリシテ四十日内ニ新タナル総選挙ガ起ツテ来ル訳デアリマス又暫ク置イテ新タニ総選挙セラレタ人々ガ召集セラレテ、議会ニ現ハレテ来ラレル訳デアリマス、ソレガ解散ノ時カラ七十日以内デアリマスカラ、マア現実ハ幾日ニナリマスカ、六十日乃至七十日以内ニ新タナル衆議院ノ召集ガ出来テ来マス、其ノ時ニ内閣ハ総辞職ヲシテ改メテ衆議院ノ方ニ内閣総理大臣ノ指名ヲ求メナケレバナリマセヌ、解散シテ見マシテモ形式的ニハ其ノ期間ヲ生キ延ビ得ルダケノコトデアツテ、大シテ不思議ナコトデハナイ、唯政治ノ運用ノ上ニ於キマシテ二ツノ途ヲ残シテ、政治運営ノ妥当性ヲ確保スルト云フ趣旨デアリマス
○大橋委員　私ノ質問ハ終リマシタ
○芦田委員長　田中伊三次君
○田中（伊）委員　六十五条ハ国会開会中ニ於ケル衆議院ノ内閣不信任決議、斯ウ云フ場合ノ内閣総辞職トノ関係ヲ規定シタモノデアリマス、私ガ御伺ヒシタイト思フノハ、先程モ御話ガアツタヤウニ、国会ノ開会期間ハ常時デハナイ、国会閉会中ニ衆議院ヲ構成シテ居リマス代議士ノ過半数ガ頭数ヲ揃ヘテ、院外デ内閣不信任ノ決議ヲスルト云フヤウナコトハ、是ハ仮想デモナク、仮定デモナク想像デモナクテ、事実幾ラデモアリ得ルコトダト思フ、過去ノ憲政史ヲ眺メテ見マシテモ、斯ウ云フコトハ何時モ政治的デ、法律的ナモノデハナカツタ、憲法的ナモノデハナカツタガ、政治的ノ道徳ノ上カラ或ル時代ニ於テハ憲法上ノ一種ノ習律ト見ルベク、憲法上ノ一種ノ慣習トモ見ルベキ、天下常道ノ法則トシテ認メラレタコトガアル、今後幾ラモソレガアラウト思ヒマス、此ノ場合ニサウ云フ決議ハ一体如何ナル効力ヲ及ボスカ、効力ト云フノハ、内閣総辞職トノ関係ニ於テドウ云フ効力ヲ持ツカ斯ウ云フコトニ付テ此ノ際国務相ノ所見ヲ伺ツテ見タイ
○金森国務大臣　憲法ニ関シマスル諸般ノ問題ハ法律的ニ判断ヲ致シマスル場合ト、政治的ニ判断ヲスル場合ト、双方アリマシテ、実際ニ於キマシテハ法律的ノ問題ヲ中心トシツツ、政治的ノ問題ヲ以テソレヲ補ツテ、其ノ二者相判フコトニ依ツテ政治ガ運営セラレテ行クモノト思フ訳デアリマス、御示シノ如キ場合ニ於キマシテハ、憲法六十五条ノ関係スル所デナイコトハ明白デアリマス、併シナガラ六十五条ノ趣旨ニ相応シタ所ノ政治的ナル動キガアルト云フコトニナルノデアリマスルカラ、其ノ時ニ如何ニ動カサレテ行クカト云フコトハ、結局政治問題デアリマスガ故ニ、法律問題ノ如クニ的確ニ解決スルコトハ出来ナイト思ヒマス、結局ソレハ六十五条ノ規定ヲ標準ニシマスケレドモ、諸般ノ事情ヲ考ヘテ政治的ナル解決ヲ行ツテ行クト云フヨリ外ニ御答ヘヲスル途ハナイノデアリマス
○田中（伊）委員　政治道徳的ニ諸般ノ情勢上内閣ガ総辞職ヲナスベキヤ否ヤヲ決定スル、斯ウ云フ意味ノ御答ヘニ承ルノデアリマスガ併シ総辞職セヨト云フ代議士ノ意向ト、総辞職ヲ喜ンデシナイ立場ニ立ツ内閣ノ双方ノ間ト云フモノハ、今ノ金森国務大臣ノ御言葉ノヤウニ、是ハ中々簡単ニ行ク問題デナイト思フ、閉会中ニ於ケル此ノ問題ヲ繞ツテノ出来事、軋轢抗争ト云フモノハ、相当起ルコトヲ予想シナケレバナラヌ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ見ル時ニ、本来カラ言ヒマスト此ノ六十五条ノ建前ニ戻ス、即チ衆議院カラモ議会ノ召集ヲ要求スル権限ガアルノデアリマスカラ、サウ云フ場合ニ於テハ議会ノ召集ヲ求メテ、議会ノ成立ヲ待ツテ、ソコデ衆議院デ不信任ノ決議ヲスルト云フ順序ニナツテ来ナケレバ、法上ノ不信任ノ決議ト云フコトハ出来ヌコトニ今ノ御説ニ依ルトナル訳デアリマスケレドモ、本来カラ申上ゲマスナラバ先程国務大臣カラモ御話ガアツタヤウニ、内閣総理大臣ヲ任命スル時ト、ソレカラ内閣ヲ組織サス時ノ条件ト、内閣ヲ総辞職サス時ノ条件ト云フモノハ差ガアツテ宜イ任命スル時ト免ズル時トノ条件ハ差ガアツテ宜イト云フコトハ先程ノ御説ノ通リデアリマス、任命スル時ハ重大ナコトデアリマスカラ先程ノ御意見ノ如クニ閉会中デアツテモワザワザ時ヲ経テ急イデ、議会ヲ召集シテ国会ノ成立ヲ見、サウシテ初メテソコニ慎重ナ手続法制的ナ手続ニ依ツテ之ヲ任命スルト云フコトハ理窟ガ能ク分ルノデアリマス、併シ一旦任命シタ者ニドウモ不都合ガアツテ辞メテ貰ヒタイト云フ場合ニハ、ワザワザ時ヲ経テソレガ為ニ国会ノ召集マデヤツテ、六十五条ニ当嵌マルヤウニ之ヲ引直シテ、サウシテソコデ決議ヲシナケレバドウモ法上ノ強イ効力ガナイ、院外ノ代議士ノ過半数ノ決議ガアツタ時ニ、辞メル辞メヌハコツチノ考ヘナンデ、其ノ時ノ情勢ニ依ルノダト云フヤウナ程度ノ効力シカナイモノダト云フコトニナリマスガ、サウ云フコトニナルコトハ私ハ如何カト思フカラ、ソレハ実質ヲ取ツテ御考ヘヲ願ヒタイ、形式ヲ取レバ開院中ノコトト閉会中ノコトトハ意味ガ違フ、一方正式ノ院議ニ掛ケタル決議ト云フモノト、然ラザル院外ノ決議ト云フモノハ意味ハ形式的ニハ違フ、併シ苟クモ過半数ノ国民代表ガ相集マツテココニ不信任ノ決議ヲシタト云フコトニナリマスナラバ、開会中タルト閉会中タルトヲ問ハズ、其ノ実質ハ選ブ所ハナイノデアリマス、サウ云フ場合ニ之ヲモウ少シ強イ建前デ、此ノ憲法ノ規定ヲ制定致シマスル立法府ノ意思ヲ、此ノ質疑ト応答トノ間ニモツトココニオ互ヒガハツキリ確立シテ置クト云フコトガ、将来ノ憲法上ノ習律トモ言フベキモノヲ確立シテ行ク上ニ適当ナコトデハナカラウカ、斯ウ云フ風ニ考ヘルノデゴザイマス、重ネテ伺ツテ置キマス
○金森国務大臣　政治問題ヲ法律ノ形ニ嵌メテ、何トカソレニ合ハセルヤウニヤツテ行クト云フコトハ、或ル場合ニ於テ政治上正シイ行キ方トハ思ヒマスルケレドモ、併シソレハ的確性ヲ期スルニ中々困難ナ場合ガアラウト思ヒマス、例ヘテ申シマスルト、議会ノ中デアリマスルト各議員ガ発言表決ノ完全ナル自由ヲ持ツテ居ラレマシテ、思フ存分ノ態度ガ執レル、非常ニ公正ニ出来マス、併シ議会ノ外ニ於キマシテハ、他ノ色々ナ事情ガ其ノ表面カラ見タ行動ヲ動カシマシテモ何トモ仕様ガナイノデアリマス、デアリマスカラ政治的実情ニ付キマシテハ、議会内ニ於テ秩序整然タル形デ行ハレマス場合ニ比ベテ、幾ラカ斟酌ヲシテ結論ヲ考ヘナケレバナリマセヌ、随テ又ソレニ対シテ的確ニ斯ウ云フ効果ヲ期スルコトガ政治的ニモ妥当デアルト言ヒ切レナイノデアリマス、其ノ時其ノ場合ノ判断ニ依ルノ外ハナイト思ヒマス、ソレニ加ヘマシテ今度ノ憲法デハ、唯総辞職シテモ後任ノ大臣ヲ指定シタリナンカスル必要ガアリマスルカラ、結局手続ハ廻リクドイヤウデハアリマスルケレドモ、先ニ御示シニナリマシタヤウニ四十九条ニ依リマシテ国会ノ召集ヲ政府ニ要求シ、之ニ依ツテ国会ヲ開カセテソコデ正式ノ論争ガ行ハレル方ガ色々ナ眼カラ見テ妥当ナヤウナ気ガ致シマス
○田中（伊）委員　分リマシタ
○芦田委員長　笠井重治君
○笠井委員　私ノハモウ前議員ニ依ツテ質問サレマシタカラ取消シマス
○芦田委員長　第六十五条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第六十六条及ビ第六十七条ハ発言ノ申出ガアリマセヌカラ、第六十八条ニ対スル質疑ニ入リマス――田中伊三次君
○田中（伊）委員　六十二条ノ質問ノ際ニ大体明カニナリマシタカラ取消ヲ致シマス
○芦田委員長　第六十八条ニ対スル質疑ハ取消ニナリマシタカラ、第六十九条ニ対スル質疑ニ入リマス――大橋喜美君
○大橋委員　私甚ダ未熟デゴザイマシテ、質問ヲ止メヨウト思ヒマシタケレドモ‥‥内閣ノ行政事務ニ付テデスガ、地方行政ノ官吏ニ対シテハ、此ノ度ノ地方自治制度ノ改正ニ依リマシテ其ノ権利ガ大分拡張サレタト思ヒマスケレドモ今マデハ中央集権デ国家ニ非常ニ依存スルヤウナ態度――中央依存ト云フヤウナ態度ガアリマシタガモツト自主的ニナラナケレバイケナイト云フ所カラ、公選知事ガ出来マスト一緒ニ、内務部長、経済部長ト云フ官吏モ、其ノ地方ノ実情ヲ能ク知ツタ人、サウ云フ人ガ本当ニ民情ヲ能ク視察把握シマシテ、地方ノ県民ヲ満足サセルヤウナ政治ヲ行ツテ戴キタイト思ヒマスガ、其ノ公選サレマシタ知事ト中央カラ派遣サレマシタ部長級ノ人達トノ調節ハ能ク出来マセウカ
○芦田委員長　大橋サンニ申上ゲマスガ、丁度今府県制ノ委員会ガ開カレテ居リマスカラ、ソチラデ御質問ニナルコトガ一番適当ダト思ヒマス
○大橋委員　ソレデハ私ノハ止メマス
○芦田委員長　野坂參三君
○野坂委員　六十九条ノ一ニ「國務を總理すること。」ト云フノデ国務ト云フ字句ガアリマス、二、三箇所他ニモアリマスガ、此ノ点ヲハツキリシテ戴キタイト思フノデス、ソレカラ更ニ六十八条ニモ「一般國務及び外交關係」ソレカラ前ニ遡リマスガ、第七条ニ「天皇は――左の國務を行ふ」此処ニモ国務ト云フ字ガアリマスガ、参考ノ為ニ英文ノ方ヲ見ルト、是ガ皆違ツタ意味ニ違ツタ言葉デ書イテアリマス、特ニ私重要ダト思フノハ、ココニ国務国務トアルガ、第七条ノ天皇ノ国務ト云フ此ノ言葉ガ宜イカドウカ、ソレカラ更ニ六十八条、六十九条、是トノ内容ガ一体同ジモノデアルカドウカ、其ノ点ニ付テ御伺ヒシタイノデス
○金森国務大臣　ソレハ国務ト云フ言葉ノ持ツテ居ル一般的意義ト云フモノハ、結局国ノ政治ヲスル場合ニ於ケル一切ノ事務ト云フコトニナラウト思ヒマス、併シ其ノ言葉デアリマシテモ、使ヒマス所ニ依ツテ前後ノ規定ノ制約ヲ受ケテ、中味ハ違ツテ来ル、観念ハ同ジデアリマスケレドモ、其ノモノニ当嵌マツテ来ル内容ハ違ツテ来ルト云フ結果ニナラウト思ヒマス併シ更ニ御質疑ヲ受ケマシテ御答ヘシタイト思ヒマス
○野坂委員　例ヘバ第六十八条ニ「一般國務及ビ外交關係」トアリマス、ココデ一般国務ト外交関係ヲドウシテ分ケルノデスカ、一般国務ノ中ニ外交関係ハ何故含マナイノデスカ、ココニ言フ意味ノ国務ト云フノハ非常ニ狭イヤウニモ思ハレルシ、ソレカラ六十九条ニ於ケル「國務を總理する」ト云フ場合トドウ云フ区別ガアルカ、ソレカラ若シ出来タラ第七条ノ天皇ノ国務ト之ヲ一ツ分ケテ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣　直グ前ニ申シマシタヤウニ、国務ト云フモノハ結局国ノ事務、国ノ政治ノ為メノ事務ト云フコトニ帰着致シマス、ソコデ国務ト云フ言葉ヲ字引的ニ解釈致シマスレバ、今ノ意味ニナリマスルガ、使ヒ所ニ依リマシテ、ソレノ含ンデ居ル中味ハ違ヒ得ルト云フコトヲ申シマシタ、遡ツテ憲法第七条ノ一カラ十マデ掲ゲテアリマスルノハ、是ハ国ノ事務ト云フコトデアリマシテ、而モ「左の國務」トアリマスカラ、左ニ列挙シテ居ルコトニ依ツテ内容ガ限定セラルル所ノ国ノ事務ト云フコトニナリマス、是ハ一応明瞭デアラウト思ヒマス、ソレカラ六十八条ノ一般国務トアリマスノハ、サウ云フ国ノ事務ト云フ意味デハアリマスルケレドモ、其ノ中ニ一般ト云フノハ勿論特殊ノ反対デアリマシテ、一ツ一ツノ個別的ナ限定サレタモノデハナク、国ノ事務一般ト云フヤウナ観念ガ成立致シマスルト、ココデ言ツテ居リマスル一般国務ニ該当スル訳デアリマス、総理大臣ガ国会ニ報告致シマスルノハ、農林省デ今度繭ガドレダケ取レタトカ、馬鈴薯ノ出来ガ悪イトカ云フコトヲ国会ニ報告スルノデハナクテ、日本ノ政治ニ関スル国ノ事務――政治ニ関スル国ノ事務モココデハ同ジ意味ニ使ツテ居リマスガ、其ノ全般ノ中ノ謂ハバ総論ニ当ルベキモノヲ総理大臣ガ議会ニ報告スル、ソレデ一般国務ヲ報告スルト言ツタ訳デアリマス、外交関係ハ寧ロ総論デハナクテ各論ニ属スベキモノデアリマスガ、併シ是ハ重大ナコトデアルカラ外務大臣ニヤラセナイデ総理大臣ガ報告スル、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス、ソレカラ六十九条ノ一号ニアリマス「國務」ト云フノハ、是ハ少シク内容ガ種々ナル点カラシテ制約ヲセラレテ来テ居ル訳デアリマス、ト申シマスルノハ例ヘバ議会ノヤルコトハ自然内閣ノ仕事デアリマスカラ除カレテ来マセウ、裁判所ノヤルコトモ除カレテ来マセウ、ソコデ他所ノ職務ニ属シナイモノニ付テ此処デ総締リヲスル、統括シテ自分ガ処理シテ行ク、言葉ノ意味自体ハ変リマセヌ、唯其ノ内容ハ使ヒ所ニ依ツテ違ツテ来ル、斯ウ云フ風ニ御理解願ヒマス
○野坂委員　サウシマスト第七条ニ於ケル天皇ノ国務ト云フコトハ今国務相ガ言ハレタヤウニ国ノ事務、斯ウ解釈シテ宜イ訳デスカ
○金森国務大臣　勿論国ノ事務ト云フコトニナリマス
○野坂委員　之ヲモウ一ツ公ノ事務ト解シタラ宜イデスカ
○金森国務大臣　公ノ事務ト解シテモ違ヒハナイカモ知レマセヌケレドモ、唯唐突ニ左様ニ言ハレテ是ガ公ノ事務ト解シテ寸分間違ヒナイカト云フコトニナリマスト、少シク御答ヘニ苦シム訳デアリマス、少クトモ公ノ事務ト言ヘバ、地方自治体ノ事務ヲモ含ミマシテ第七条ニ言ツテ居リマス国務ノ中ニハ、ソレハ含マレテハ居リマセヌ
○野坂委員　ナゼ此ノ問題ヲ今特ニ出シタカト云フト、「國務」ト云フ字ガマダ他ニモ使ツテアリマスシ、第七条ノ「國務」ト云フモノハ非常ニ重大ナ性質ノモノデ、是ハ天皇ノ権限ノ内容ヲ表ハスモノダト思ヒマス、例ヘバ英文ノ翻訳ニ依レバ「ステート・ファンクション」トアリマス、訳ハドウデモ出来マセウケレドモ、例ヘバ此ノ通リニ訳セバ公ナ事務的ナモノトモ訳シ得ル、サウスルト天皇ノ権限ト云フモノハ或ル政治的ナ強イ権限デハナクテ、比較的儀礼的ナモノダト云フ風ニモ理解シ得ルト思ヒマス、サウ云フ風ニ理解シテ差支ヘナイカドウカ伺ヒマス
○金森国務大臣　「國務」ト云フ言葉ヲ公ノ事務ト云フ風ニ御解シニナツテモ、ナラナクテモ、ソレハ結局言葉ニ対シテ各人ガ抱ク所ノ一ツノ感覚ノ問題デアリマスカラ、ソレハ何レデモ宜シイト思ヒマスガ、此ノ第七条ニ掲ゲテアリマス「國務」ト云フノハ全部儀礼的トハ言ハレマセヌ、併シ余程儀礼ノ意味ノ深イ規定デアルト云フコトハ言ヘルト思ヒマス、殊ニ事柄自身ココニ掲ゲテアリマスルコトハ必ズシモ儀礼デハアリマセヌケレドモ、併シ内閣ノ助言ト承認ト云フコトニナツテ居リマスルガ故ニ其ノ制約ノ下ニ之ヲ考ヘマスレバ余程儀礼ニ近イモノト御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス
○野坂委員　此ノ問題ニ付テハ後デ討論或ハ修正ノ時ニ又触レタイト思ヒマス、モウ一言六十九条デ御伺ヒシタイコトハ、ココニ栄典権ノ問題ガ全然入ツテ居リマセヌガ第七条ノ天皇の国務ノ中ニハ「榮典を授與すること。」ト云フコトガアリマス、内閣ニハナイヤウニナツテ居リマスガ、此ノ点ハドウ云フ訳デスカ
○金森国務大臣　結局第七条ノ栄誉ニ関スル天皇ノ権能モ内閣ノ助言ト承認トヲ要シマス、承認ト助言ヲスルト云フコトハ詰リ内閣ノ仕事ニナツテ居ルコトハ明白デアリマシテ、ダカラ内閣ノ権能ニ属スルコトハ一点ノ疑ヒモゴザイマセヌ、唯ココニ列挙シナカツタノハ大体他ノ規定ハ「認證」ト云フ言葉ヲ以テ第七条ノ中ニ示シテアリマス、既ニ「認證」デアリマスレバ本体ハ之ヲ六十九条ノ所デ意思ノ内容ヲ決メマシテ、其ノアトデ認証ト云フコトダケガ第七条ニ依ツテ行ハレルト云フコトニナリマス所ガ栄典ノ方ニナリマスト、形ノ上デハ認証デハナクテ、授与ヲ決定スルト云フ権能ガ第七条ノ中ニ入ツテ居リマス、既ニ決定スル所ノモノガソコニアルナラ、是ハ内閣ノ直接ノ権能デハナクテ、内閣ハ助言ト承認ヲスル権能ヲ持ツテ居ルニ過ギナイノデアリマスデアリマスカラ、此処ニハ列挙シテアリマセヌ、第七条カラ見レバ分ル斯ウ云フコトニナリマス
○芦田委員長　第六十九条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第七十条、第七十一条ハ発言ノ申出ガアリマセヌカラ、是ニテ第五章ニ対スル質疑ヲ終了致シマシタ
　次ニ第六章ノ各条ヲ一括シテ議題ニ供シマス、第七十二条ニ対スル質疑ニ入リマス――本田英作君
○本田委員　第七十二条ノ特ニ第三項ノ関係ニ於テ御尋ネヲシタイト思ヒマス、現行憲法五十七条ガ新憲法ニ於キマシテハ天皇ノ名ニ於テ裁判スルト云フコトガ省カレタ訳デ、ココニ其ノ代リトシテ第三項ガ生レタモノデハナイカト思フノデアリマス
　先ヅ御尋ネシタイノハ、現行憲法ノ「司法權ハ、天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ」ト云フ此ノ規定ヲ、何ガ故ニ新憲法ニ於テハ削除セラレタノデアラウカ、私等ガ過去ヲ振返ツテ現行憲法ノ功罪ヲ考ヘタ場合ニ於テ、行政ノ面ニ於テ、立法ノ面ニ於テ、創痍満身ト言ツテモ宜シイノデアリマス、独リ司法ノ方面ニ於テハ、検察ノ方面ニ対シマシテハ可ナリ非難ガアツタノデアリマスケレドモ、日本ノ裁判官ノ裁判ト云フ部面ニ於テハ、他ノ何レノ方面ニ於テモ非難ガアツタニ拘ラズ、此ノ裁判官ノ裁判ト云フモノニ対シマシテハ殆ド無傷デアツタト申シテモ宜イノデアリマシテ、其ノ根源トシテハ私等ガ考ヘテ居ルノハ結局裁判官ガ天皇ノ御名ニ於テ裁判ヲスル、又国民ハ天皇ノ御名ニ依ツテ裁判サレルト云フ所ニ日本ノ裁判ガ非常ニ良イ成績ヲ挙ゲタ理由ガアルノヂヤナイカト思フノデアリマス、而モ司法ノ部面ニ於テハ、単ニ陛下ノ御名即チ形ヲ藉リルダケデ司法権ノ範囲ニ於テ実質的ニ天皇ノ権力ト云フモノハ混ジラナイノデアリマス、ソレデアリマスカラ天皇ノ御名前ヲ藉ルト云フダケノモノヲ、強ヒテ御遠慮ヲシテ天皇ノ御名ニ依ツテ裁判スルト云フ其ノ規定ヲ削除スルト云フコトハ余リ外部ニ対シテ遠慮過ギタノデハナイカト云フ感モ致スノデアリマシテ、其ノ点ニ対スル御考ヘヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣　其ノ点ハ此ノ憲法ノ基礎原則ノ一ツノ現ハレト言ツテ宜イト思フノデアリマス、我々ノ此ノ国家生活ニ於キマシテ、正シキ裁判ハソレガ正シキガ故ニ正シキ裁判デアルノデアリマシテ御名ヲ藉リルコトニ依ツテ裁判ガ正シク感ズルト云フ思想ハ寧ロ避ケタ方ガ宜イノデハナカラウカ、従来ノ考ヘニ於キマシテ、天皇ハ実際裁判ニ於キマシテ天皇ハ実際裁判ヲ行ハセラレテハ居リマセヌ無理ニ天皇ノ御名ヲ御藉リスルコトニ依リマシテ、誤ツタル裁判モ亦天皇ノ御名ニ於テ行ハレテ居ルト云フ事実ハ確カニ存在シテ居ルノデアリマス、ソレニ依ツテ累ヲ実質的ニ天皇ニ及ボシテ国民ノ或ル表デハナイニシテモ陰ニ於ケル何カノ感情ノ底ニ罅ヲ入ラセテ居ル虞ナシトシナイノデアリマス、斯様ナ次第デアリマシテ、此ノ憲法ハ全ク赤裸々ニ現実ノ動キニ合フヤウナ素直ナ制度ニ立テテ行キタイト云フ考ヘデアリマシタ、之ニ基イテ淡白ニ司法権ハ裁判所ニ属スルト云フ主義ヲ執ツタコト、猶ホ立法権ハ議会ニ属スルト致シマシタト全然同ジ趣旨デアリマス
○本田委員　サウ致シマスト、結局司法ノ部面ニ於テ陛下ノ御名ニ依ツテ裁判スルト云フコトモココニ抹殺サレテシマフコトニナリマスガ、全国ノ裁判所ノ建物ニ掲ゲテアリマス菊花御紋章モ結局取下ゲテシマフト云フコトニナルノデゴザイマセウカ
○金森国務大臣　ソレハ必ズシモ必然的ナ問題デハナイノデアリマシテ、此ノ憲法ノ規定ヲ運営スル上ニ於キマシテ、第二段トシテ妥当ナル方法ヲ静カニ考ヘテ宜イコトト思ツテ居リマス
○本田委員　次ニハ第三項ニ於テ「裁判官は、その良心に從ひ」斯ウアリマス、此ノ憲法ノ十四条ノ第二項ニ於テ「すべての公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」ト云フコトガ定メラレテ居ルニ拘ラズ、独リ裁判官ハ「その良心に從ひ」ト云フ文句ヲ使ハレテ居ルノハドウ云フ訳デアリマセウカ、一応御説明ヲ御願ヒシマス
○金森国務大臣　外ノ行政官デアリマスレバ、上官ノ命令ニ従ツテ自己ノ決定スル方針ノ内容ヲ制約セラレルト云フコトガアルノデアリマスルガ、裁判官ハ所謂職務上ノ独立ヲ持ツテ居リマシテ、自己ノ良心ト憲法法律ニ依ツテ執ルベキ態度ヲ決メテ行クト云フ趣旨デアリマス、是ハ裁判官ニ関スル基本的原理ノ一ツデアリ規定ヲ俟タズトモサウナルコトヲ明カニシタニ止マル、ト思ツテ居リマス
○本田委員　只今終リニ金森国務相ガ言ハレタ通リニ、斯ウ云フ当然ナ「良心に從ひ」ト云フヤウナ規定ヲ置イタガ為ニ、却テ私ハ妙ナコトニナルノヂヤナイカト思フノデアリマス、私ガ申スマデモナク、司法ト云フコトハ所謂公平ト云フコトノ別名デアルト云フヤウナ司法ノ観念ハ、「ローマ」法以来法治国ニ於テハ定マツタコトデアリマス、秤ガ司法ノ「マーク」ニナツテ居ルコトハ私ノ申スマデモナイコトデアル、裁判官デアル以上は良心ニ従ツテ公平ナ裁判ヲスルト云フコトハ当然ナコトデアル、日本ノ裁判官ヲ此ノ規定ニ於テ、「その良心に從ひ」ト云フヤウナ蛇足ノ文字ヲ使ハナケレバナラヌト云フノハ、日本ノ裁判官ノ心理状態ガ他ノ文明国ノ裁判官ニ伍スルコトガ出来ナイト云フヤウナ感スラモ与ヘルモノト思フノデアリマシテ、各国ノ憲法ヲ見マシテモ何処ノ憲法デモ、「裁判官はその良心に從ひ」ト云フヤウナコトヲ書イテアル憲法ハ一ツモナイ然ルニ日本ノ新シイ憲法ニ於テ、現行ノ憲法ニ於テスラモ天皇ノ御名ト云フ名前ヲ挿入シタノハ私ガ申スマデモナク他ノ意味ガアルノデアリマス、天皇ノ御名ニ代ヘルニ裁判官ハ良心ニ従ヒ、当然ナ司法ノ観念カラ生レ出ル其ノ裁判官ニ対シテ、良心ニ従ツテ裁判官ハシナケレバナラヌ、独立ト云フコトハ能ク意味ガ分ツテ居ル、天皇ノ御名ニ於テト云フ意義ト独立シテト云フ意義ハ別種ノ意義ガアルト云フコトハ、私ガ申スマデモナイ、ソレニ殆ド各国ニ其ノ例ヲ見ナイ「その良心に從ひ」ト云フヤウナ蛇足ノ文字ヲ入レルト云フコトハ、日本ノ裁判官ヲ侮辱シタモノト私ハ思ウ、裁判官ニ対スル待遇ニ対シマシテハ、司法大臣ハ先日非常ニ熱誠ヲ籠メラレテ、裁判官ノ待遇ニ対シテ努力スル旨ヲ誓ハレタ、此ノ全国ノ裁判官ノ名誉ニ関スルヤウナ規定ニ対シテ、ナゼ司法省ノ諸君ハ憤慨シナイカ、苟クモ司法ノ観念ガアル以上ハ何モ裁判官ハ其ノ良心ニ従ツテ裁判ヲシナケレバナラヌト云フコトヲ教ヘラレル必要ハナイト思フノデアリマス、私ハ在野法曹トシテ三十年務メテ居リマスガ、司法部内ノ裁判官ニ対シテ斯ウ云フ文句ヲ新憲法ニ用ヰラレルト云フコトハ独リ在朝ノ裁判官ノ名誉ニ関スルノミナラズ我々在野法曹トシテモ甚ダ遺憾ニ堪ヘナイ、此ノ点ニ対シマスル見解ヲ承リタイノデアリマス
○木村国務大臣　只今本田委員ノ御説デアリマスガ、私ハ不幸ニシテ本田委員ト全然見解ヲ異ニスルモノデアリマス、裁判官ナルガ故ニ「良心に從ひ獨立して」ト云フ文句ヲ挿入シタノデアリマス、固ヨリ裁判官ハ公正無私、全クノ良心ニ従ツテ其ノ使命ヲ全ウスルコトガ本来ナノデアリマス、其ノ本来ノコトヲ特ニココニ規定シタト云フコトハ、寧ロ裁判官ヲシテ其ノ責任ノ重大ナル――コトヲココニ表明シタノデアリマス、寧ロ私ハ此ノ「良心に從ひ獨立して」ト云フ文字ガ、裁判官ノ地位ヲ高カラシメルト云フコトニ、非常ニ役立ツモノト私ハ信ジテ居リマス
○本田委員　私ハ非常ナ見解ノ相違デアリマス、是レ以上申上ゲマセヌ、意見ノ相違デアリマスルケレドモ、御参考マデニ申シテ置キマス、ソレハサウ云フ当然ニ司法権ハ裁判所ニ属スル、司法権ハ裁判所ニ属スルト言ツテ既ニ総テガ分ツテ居ルコトヲ此ノ「裁判官はその良心に從ひ」ト云フ文句ヲ入レテ、サウシテ裁判官ニ其ノ良心ニ従フコトヲ求ムルト云フコトハ是ハ私ハ非常ナ日本ノ司法制度ノ上ニ於テ取ラナイ、結局是ハ天皇ノ御名ニ依ツテト云フコトガ省カレタノデ、何カ心構ヘノ上ニ於テ文句ヲ入レナクテハ其ノ心構ヘガ済マナイト云フコトバカリ思ハレテ、証人ガ民事、刑事ノ裁判所ニ出タ場合ニ於テ、良心ニ従ヒ何事ヲモ黙秘セズ、又何事ヲモ附加セザルコトヲ誓フ、斯ウ云フ証人ノ宣誓文句ヲ藉リ来ツテ、「その良心に從ひ」ト云フコトヲ追加サレタモノト思フノデアリマスガ、是ハ洵ニ蛇足ノコトト思フ、私ハ日本裁判官ノ名誉ノ為ニ削除セラレンコトヲ希望シテ居ルノデアリマスケレドモ、是レ以上ハ申上ゲマセヌ、此ノ条ニ付テハ是デ終リマス
○芦田委員長　ソレデハ七十二条ハ是デ終リマス、次ニ七十三条ニ対スル質疑ニ入リマス――本田英作君
○本田委員　七十三条ニ付テノ私ノ質問ハ、此ノ検察官ト云フモノノ司法ニ於ケル地位ガ一寸呑込メナイノデゴザイマス、従来ノ検事局ハ裁判所内ニ設置スルト云フコトニナツテ居リマスルガ、此ノ新憲法ニ於ケル検察官ト云フモノハ従来ノ検事局ト同ジヤウナコトニ取扱ハレルノデゴザイマセウカ、新シイ構想ノ下ニ於テ検察官庁ト云フヤウナモノガ置カレルヤウナ御意見デゴザイマセウカ、多分司法調査ノ真最中トハ思ヒマスルケレドモ、大体ニ於テ考ヘテ居ル所ヲ其ノ外郭ダケデモ御説明下サイマシタナラバ、審議スル上ニ於テ非常ニ便利ト思ヒマス
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、先ヅ蛇足デアリマスルガ、ココニ用ヒラレマス検察官トハ如何ナルモノデアルカヲ申シマスルト、極メテハツキリスルデアラウト思ヒマス、此ノ検察官ト云フノハ、公訴ヲ提起シ、公訴ヲ維持スル為ノ官憲デアリマス、所謂今ノ検事ニ相当スルモノデアリマス、検事ガ此ノ検察官ニ当ルノデアリマス、固ヨリ此ノ検事ハ現行法上唯公訴ヲ提起シ、公訴ヲ維持スルノミニ止ラズ、犯罪ヲ捜査シ、刑ノ執行ヲ指揮スル権能ヲ有シテ居ルノデアリマス、而シテ此ノ検察官ノ組織ガ将来如何様ニナルカト云フ構成デアリマス、是ハ只今司法法制審議会ニ於テ折角立案中デアリマスルガ、其ノ方向ハドウ云フコトニナツテ居ルカ、大体今ノ程度デハ裁判所ト分離シタル一ツノ検察庁デモ設ケテ行カウト云フコトニナツテ居ルヤウデアリマス、我々ト致シマシテモ、御承知ノ通リ従来検事局ハ裁判所ニ附置サレタノデアリマス、此ノ間ニ於テ余程世間ノ疑惑モアリ、又部内ニ於ケル色々ノ考ヘ方モアツタノデアリマス、此ノ際裁判所ト検察官トヲ全然分離シテ、サウシテ各々其ノ機能ヲ発揮サセルト云フコトガ、司法権ノ運用ニ於テ非常ニ宜イノデハナイカト云フ考ヘヲ抱イテ居ルノデアリマス、固ヨリ裁判官ハ今申上ゲマシタヤウニ全クノ良心ニ従ヒ独立シタル所謂公正ナル判断デアリマスルガ、検事モ亦是ト同様ニ国家ノ重大ナル検察事務ヲ行フ公正ナルベキ役人デアリマス、其ノ立場カラ考ヘテ見マシテモ、裁判官ト併立サセテ、サウシテ一ツノ独立ノ機能ヲ持タセルト云フコトガ国家ノ為ニ望マシイノデハナイカト云フ考ヘヲ持ツテ居リマス、其ノ資格、其ノ任用其ノ他其ノ組織ニ付テハ、今申上ゲマシタヤウニ、司法制審議会ニ於テ折角立案中デアリマス、左様御承知願ヒマス
○本田委員　従来裁判所ノ中ニ検事局ガ併置サレタト云フヤウナコトデ、公訴ヲ提起スル者モ、裁判ヲスル者モ昼ハ一緒ニ弁当ヲ列ンデ食ベルト云フヤウナコトデ、裁判ノ上ニ於キマシテモ可ナリ民衆ノ方面ノ疑惑ヲ被ツタコトモアリマスシ、又多少サウ云フ弊害ガナキニシモアラズト思フノデアリマスガ、只今ノ司法大臣ノ御答弁ニ依ツテ、裁判所ノ外ニ検察庁ト云フ独立ノ官庁ヲ置イテ行カウト云フ御構想ニ対シマシテハ、洵ニ結構ト思ヒマス、サウ致シマスト、今日ノ司法省ト云フモノハ、裁判所ト検察官庁トノ間ニ挾マツテ、ドウ云フコトニナル訳デゴザイマセウカ、最高裁判所ガ訴訟ニ関スル手続、裁判所内部ノ規則ヲ裁判所自身ガ、司法事務ノ処理モ同様デゴザイマスガ、処理スルノ権限ガアル訳デアリマス、従来司法省デヤツタコトガ、裁判所自体ニ於テオヤリニナルト云フコトニナリマスルガ、更ニ独立ノ官庁ニナリマスル検察官庁ト云フヤウナモノガ出来ルト云フコトニナリマスレバ、只今ノ司法省ト云フモノハ、ドチラノ上ニクツ付クコトニナルノデゴザイマセウカ、両方共通ノ上ニクツ付クト云フコトニナルノデゴザイマセウカ、未定稿デゴザイマセウカラ確タル御答弁ハゴザイマセヌデセウガ、大体何カ御考ヘガアリマシタラ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、此ノ憲法草案ガ実施サレマシテ、最高裁判所ガ出来マスト、只今ノ司法省ノ権限ト云フモノハ非常ニ縮小サレルコトデアラウト確信致シマス、唯検察庁ト司法省ノ関係之ヲ如何ニスベキカト云フコトハ只今考究中デアリマス、而シテ最高裁判所ガ全然独立致シマシテモ其ノ予算其ノ他ノ点ニ付テ働キ掛ケルモノハ司法省デアリマス、司法省ノ意思ト云フモノハ其ノ権限ヲ甚ダシク縮小サレルニ至ルモノト存ズルノデアリマスルガ、其ノ存置ニ付テハ恐ラク問題ニナラナイカト存ジマス
○本田委員　最後ニ一寸御聴キシテ置キタイノハ、先日司法大臣ノ御答弁ガ他ノ質問ニ対シテアツタノデゴザイマスガ、我々一番不安ニ思ツテ居ルノハ、司法警察ノ分量ヲ内務省トドウ云フコトデ御分割ニナルノデアリマセウカ、内務省ハ現ニ警察大学マデ拵ヘテ、大々的ニ警察権ノ確立ト云フコトヲ計画セラレテ、行政警察ハ地方自治体ニ或ル部分譲渡シテモ、主要ナル警察力ハ内務省ニ於テ握ツテ放サナイヤウナ態度ヲ執ラレテ居ルヤウニ私ハ考ヘルノデアリマス、我々ハ此ノ検察庁ニ於テ下級警察官トシテ司法事務ニ使ハレル所ノ司法警察官ト云フモノノ協力デ内務行政ノ方カラ何等ノ制肘ヲ受ケナイ検察庁直属ノ強イ司法警察官ノ存立ト云フコトヲ冀ツテ居ル次第デアリマスガ、改メテ尚ホ其ノ点ニ対スル御抱負ヲ承リタイト思ヒマス
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、此ノ司法警察官ノ問題ニ付キマシテ前会ニモ申上ゲタ通リデアリマスガ、要スルニ此ノ検察事務ノ適正ナル運用、又強力ナル運用ト云フコトニナリマスト、私ハ直属ノ司法警察官ガ是非トモ設置サルベキコトヲ欲スルノデアリマス、御承知ノ通リ此ノ司法警察官ノ身分、監督ハ、総テ内務省ノ管轄ニ属シテ居ルノデアリマス、而シテ内務省カラ司法警察官ヲ全部検事ノ管轄ノ下ニ属セシメルト云フコトノ実現ニ至ツテハ、色々ナル点ニ於テ考慮シナクテハナラヌコトガアルノデアリマス、一例ヲ申上ゲマスト、行政警察ト司法警察トノ間ノ関係、其ノ他色々複雑ナ事務ガアツテ、之ヲキチント実施スルト云フコトハ相当ムヅカシイ問題ガ伏在シテ居ルノデアリマスガ併シ理想ト致シマシテハ、何処マデモ私ハ司法警察官ハ検事局ニ直属スベキモノデアラウト云フ考ヘヲ持ツテ居リマス、其ノ方向ニ向ツテ私ハ実現ヲ期スベク将来努力致シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス
○本田委員　私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長　吉田安君
○吉田（安）委員　前回ノ青木泰助君ノ質問ノ際ニ、下級裁判所ノ判事ノ待遇問題ニ付キマシテ、全ク同感ノ質問ヲ致サレタノデアリマス、之ニ対シテ司法大臣ハ涙ヲ流シテ、洵ニ感激サレタル所ノ御答弁ガアリマシテ、私共モ聴ク人モ答弁ナサル方ノ御気持ニ全然同感デアツタノデアリマス、尚ホ警察官ノ待遇問題モ色々取沙汰サレテ優遇問題ガ言及サレテ居ルノデアリマス、然ルニ不思議ナコトニハ下級裁判所ノ裁判官ノ待遇、警察官ノ待遇ハ論及サレマスルガ、此ノ裁判所ノ運営ニ最モ大事ナ役割ヲナシテ居リマスル各裁判所ノ書記ノ待遇デアリマス、此ノ事ニ付キマシテ司法大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス、凡ユル裁判所ノ活動、其ノ能力発揮ヲ見テ居リマスルト下級裁判所ニ殊ニサウデアリマスルガ、良イ書記ヲ得ル得ナイト云フコトハ、其ノ訴訟ニ直接間接直チニ影響ヲ及ボスノデアリマス、然ルニ其ノ書記諸君ノ様子ヲ見テ居リマスト、是コソ下級裁判官以上ニ貧ニ甘ンジテ苦シイ生活ヲ続ケテ居リマス、之ニ対スル司法大臣ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○木村国務大臣　全ク御同感デアリマス、先般青木委員カラ仰セニナリマシタ御質問ニ対スル私ノ答弁ハ是ハ唯裁判官バカリニ関シタ点デハゴザイマセヌ、今仰セノ裁判所ノ下ニ手足トナツテ働イテ居リマスル書記、雇ヲ含メテノ問題デアリマス、仰セノ如ク、書記ハ其ノ任務ハ普通ノ各役所、会社ニ勤メラレテ居リマス事務員ト全ク其ノ性質ヲ異ニ致シマシテ、非常ニ重イ任務ヲ負ハサレテ居ルノデアリマス、裁判官ニ附随シテノ其ノ調書ノ作成ハ、実ニ容易ナラヌコトデアリマス、例ヘバ検事局デ検事ガ被疑者ヲ調ベル、或ハ予審デ予審判事ガ被疑者ヲ調ベル、或ハ裁判ニ立会ツテ書記ガ調書ヲ作ルト云フコトニナリマスルト、裁判官ガ既ニ退廷シタ後ニ於キマシテモ、書記ハ依然トシテ残ツテ其ノ整理ニ当ラナケレバナラヌノデアリマス、其ノ任務タルヤ極メテ重ク且ツ煩雑デアリマス、実ニ同情スベキ立場ニアルノデアリマス、而モ之ニ対スル酬イト云フモノハ全クオ話ニナリマセヌ、而モ只今全国多数ノ裁判所ニ配置サレテ居ル書記ハ、何等要求ガマシイコトヲ申出ルコトモナク、黙々トシテ働イテ呉レテ居ルノデアリマス、此ノ点ニ付キマシテハ私ハ実ニ感謝ニ堪ヘマセヌ、此ノ身分ノ待遇問題ニ付キマシテハ、私ハ裁判官ト同様、或ハ寧ロソレ以上ニ十分ニ考慮シタイ積リデ居リマスノデドウゾ委員諸君ニ於テモ御援助ヲ御願ヒ致シマス
○吉田（安）委員　只今至誠溢ルル御答弁ヲ得マシテ洵ニ幸ヒト存ジマス、刑事事件ノ取扱ニ付キマシテモ、其ノ迅速ヲ期スルコトハ、此ノ草案ニモ現ハレテ居リマスルガ、裁判所ガ民事、刑事ヲ問ハズ一般ノ裁判ノ運営ノ迅速ヲ期スル上ノ唯一ノ原因ハ、此ノ書記ガ力ヲ込メテ其ノ事務ニ当ルカ当ラヌカト云フコトニ大イニ原因ガアルコトト存ジテ居リマス、ソレニハ何トシテモ今日ハ本当ニ此ノ待遇ヲ善クスルト云フコトガ絶対ニ必要ダト存ジマス、尚ホ御尋ネ致シタイコトハ、裁判所ノ書記諸君ハ書記ノ試験ニ通ルマデハ雇トシテ働キ、試験ニ通ルト之ヲ任命サレテ長イ間孜々営々トシテ全ク下積ミノ仕事ヲ続ケテ参リマス、サウシテ愈々最後ニナリマスルト、モウソレデオ終ヒダ、ソレカラ先ニ何等外ニ打開ノ方法モナケレバ転身シテ行クト云フコトモナイノデアリマス、唯成績ノ特ニ良イ人ハ書記長ニナリ、或ハ其ノ他上ノ裁判所ニ転勤、進級シテ行クノガアリマスルガ、ソレハ洵ニ寥々タルモノデアリマス、ソレデ此ノ裁判所ノ書記ヲ辞メルト云フ程度マデ行キマシタ際ニ、モウ一ツ先ニ途ヲ開イテヤル、サウシテ光明ヲ与ヘルト云フコトニ付テ司法大臣ハ御考ヘハナイデアリマセウカ
○芦田委員長　吉田君ニ申シマスガ裁判所書記論ハ予算総会デ御質問ヲ願ヒマス
○吉田（安）委員　承知シマシタ、一口デ宜シウゴザイマスカラ‥‥
○芦田委員長　発言ハ許可ヲ致シマセヌ
○吉田（安）委員　ソレデハ宜シウゴザイマス、是デ止シマス
○芦田委員長　笠井重治君
○笠井委員　私ハ金森国務大臣及ビ木村司法大臣ニ御質問申上ゲタイト思ヒマス、金森国務大臣ニ御伺ヒシタイコトハ、最近十八世紀以来「モンテスキュー」ノ三権分立論カラ今日ニ至ルマデ「デモクラシー」ノ政治ト云フモノハ、要スルニ三権ノ分立ト云フコトガ必要デアルト云フコトヲ説イテ居ツテ、我ガ国ニ於テモ恐ラク明治以来左様デアツタカモ知レナイト思ヒマスガ、併シ伊藤公ノ憲法義解ヲ見マスルト、司法権ト云フモノガ聊カ行政権ノ下ニ入ツテ居ルヤウニ見エルヤウデアリマスガ、私ハ今日ノ現行司法権ノ状態ニ鑑ミテ、新憲法ニ於テハ司法権ト云フモノハ完全ニ独立スルコトヲ希望スルモノデアリマスガ、此ノ点ニ付テ金森国務大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣　固ヨリ司法権ハ行政権ヨリ独立スルト云フコトハ当然デアリマス、独立ト云フ言葉ガ、現実ノ制度ト致シマシテ論理的ノ要請通リニハ出来マセヌケレドモ、マア普通ノ社会通念カラ見マシテ独立ト言ヒ得ル程度マデ完全ニ独立サセタイト考ヘマス
○笠井委員　ドウゾサウ云フ風ニ完全ナ独立ヲ更ニ希望致シマス、木村司法大臣ニ伺ヒタイコトハ、最高裁判所ノ人的構成ト云フコトデゴザイマス、最高裁判所ト云フモノハ、是ハ欧米ニ於テハ憲法ノ番人――我ガ国ニ於テモ憲法ノ番人トナルデアラウト思ヒマスガ、憲法ノ番人トシテ其ノ法官ト云フモノハ、社会カラ最高ノ敬意ヲ払ハレテ居リマス、曽テハ文豪「マコーレ」ガ「インド」ノ法官トシテ、サウシテ後ニヤハリ最高裁判所ノ法官ニナツタト云フヤウナ例モゴザイマス、ソコデ此ノ最高裁判所デアリマスガ「アメリカ」辺リデ見マスト、相当ニ実業界ノ有力者、学界ノ権威者、或ハ政界ノ有力ナ人々ガ、真ニ憲法ノ番人トシテ不偏不党ノ考ヘヲ持ツテ最高裁判所ニ居リマス、今日マデノ我ガ国ノ司法官ト云フモノハ、成程非常ニ謹厳デゴザイマスルガ、或ル人ニ於テハ余リニ社会ノ範囲ガ狭イト云フ風ニ考ヘラレテモ居リマスケレドモ、今後此ノ最高裁判所ヲ行フニ付テ、最高裁判所ノ人的構成ト云フモノハ、ドウ云フ風ナ方面カラ―単ニ是ハ司法官ノミデ行クモノデアリマスカ、或ハ人材ヲ他ノ方面ニ求メルモノデアリマスカ、此ノ点ヲ一ツ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、其ノ点ニ付テハ只今私ハ言明致スコトハ出来マセヌガ、少クトモ最高裁判所ノ裁判官タル其ノ使命ニ鑑ミテ、単ニ法律ノ技術者ダケデハイケナイカト考ヘテ居リマス、凡ユル観点カラ最高裁判所ノ裁判官ニ適当ナル者ガ内閣ニ依ツテ任命サレルコトヲ信ジテ疑ヒマセヌ
○笠井委員　ドウゾサウ云フ風ニ広イ意味ニ於テ国家ノ人材ヲ最高裁判所ノ判官トシテ用ヒラレテ、真ニ此ノ新憲法ト云フモノガ立派ニ運営セラレンコトヲ希望致シマス、ソレデ、既ニ同僚カラモ御伺ヒシタコトデアリマスガ、今日マデノ司法省ト云フモノガ、例ヘバ検察当局、検事ト云フモノガ、其ノ司法省ノ中ニアリマスルガ為ニ国民ハ司法省或ハ裁判所ニ対シテ余リ敬意ヲ払ハズ、国民ヲ保護スルモノデアルト云フ観念ヨリモ、寧ロ之ニ対シテ一種ノ反感ト恐怖ノ念ヲ持ツテ来タト云フ風ナコトガ事実デゴザイマス、ソレデ先程カラ木村司法大臣ノ御説明ノヤウニ、今回ハ別ニ検察当局ト云フモノヲココニ判事ト検事ト云フモノヲ分ケルト云フコトデアリマスルカラ、此ノ点ハドウカ立派ニ区分ヲ致サレマシテ、今日マデノヤウナコトガナイヤウニ、例ヘバ今日マデノ情勢ヲ見マスルト、司法大臣ニナルノハ大体検事側ノ人デアリマス、検事ノ方ハ中々策動家ガ多イ、判事ノ方ハオ人好シデアルカラ判事側カラハ司法大臣ガ出ナイ斯ウ云フ風ナコトガ慣例デアリマシタガ、幸ヒニ今回ハ木村司法大臣ノヤウナ立派ナ方ガ、民間カラ其ノ衝ニ当ラレテ居ルノデアリマスルガ、私ノ希望ト致シマシテ、今後益々司法権ガ真ニ完全ノ独立ヲ見ルト共ニ、将来日本国民ガ法律ノ下ニ裁カレ、法律ノ下ニ擁護サレルコトガ出来マスヤウニ、一ツ司法大臣ノ御尽力ヲ願ヒタイト思ヒマス、此ノ点ニ付テモウ一遍司法大臣ノ確信ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○木村国務大臣　御答ヘ致シマス、従来検事畑カラ司法大臣ガ多ク出タト云フコト、是ハ極ク最近ノ事例デアリマシテ、必ズシモサウデハナカツタノデアリマス、要スルニ司法大臣ト云フ一ツノ行政事務ヲ掌ル長官デアリマシテ、必ズシモ司法ノ実務ニ通ジナクテモ、其ノ任務ハ勤マルノデアリマス、要スルニ其ノ人ガ適当ナリヤ否ヤト云フコトハ、一般ノ国民ニ依ツテ判断サルベキモノダト考ヘマス、左様御承知願ヒマス
○田中（伊）委員　議事進行ニ付テ‥‥吉田君ノ発言ニ関スルコトデアリマスガ、委員長ノ非常ナ御苦心ハ私ニモ能ク分ル、所デ此ノ度ノ憲法草案ノ内容ハ現行憲法トハ異ツテ相当細カイコトマデ規定ヲ持ツテ居ル訳デアリマス、吉田君ノ質問ノ内容ヲ私ハ此処デ聴イテ居ツテ逸脱シテ居ラヌト思フ、此ノ条文ノ内容ヲ見テモ裁判所ノ内部ノ規則、司法事務ニ関スル処理規定ノコトマデ憲法ガ指図シテ居ルソレデ私ハ委員長ノ非常ナ御苦心ノコトハ分ルノデアリマスガ、今吉田君ノ質問ナサツタ事柄ニ付テハ、我々専門ノ立場ニ在ル者トシマシテハ同感デアツテ、書記、雇、廷丁、サウ云フ人々ガ熱心ニ功労ヲ積ンダ時ニ昇進ノ途ガ上ニ開ケテ居ルト云フコトハ非常ニ重要ナ司法権ノ伸張如何ニ係ハツテ居ルコトデアルト思フ、吉田君ニ関スル発言ヲ御許シニナラヌコトハ宜シウゴザイマスガ、ドウカ政府当局ハ吉田君ノ発言ニ対シテ、大臣カラ特ニ御答弁ヲ戴イテ置クコトガ必要デナイカト思ヒマス
○芦田委員長　御答ヘ致シマス、何処マデガ憲法ニ関係ガアルカナイカト云フコトハ非常ニ難カシイ問題デアリマシテ、之ヲ広ク言ヘバ司法省バカリデハアリマセヌ、政府各省判任官、高等官、勅任官ノ待遇問題、総テ関係ガアリマス、若シ政府行政ノ各部門ニ亙ツテ質疑ヲシナケレバ憲法ノ審議ガ出来得ナイト云フコトニナルト、半年掛ツテモ憲法ノ審議ハ終ラヌト思フ、之ヲ何処デ区切リヲ付ケルカト云フコトハ、ドンナ明達ノ人ト雖モハツキリ決メルコトハ出来ナイ問題ダト思ヒマス、御承知ノ通リ此ノ憲法ヲ一日モ早ク通サナケレバ、今懸案ニナツテ居ル予算サヘモ政府ハ提出出来ナイヤウナ事情ガアリマシテ、実ハ一刻ヲ争ツテ居ルノデアリマス、サウ云フ意味カラ申シテ、裁判所書記ノ退職者ヲドウ取扱フカハ、無論憲法ニ関係ガアルト思ヒマス、併シ重要ナル問題ハ何処マデモ減ラサナイコトガ必要デアルガ、小ナル問題ハ犠牲ニスルヨリ外ニ審議ヲ促進スル途ハナイノデアリマス、サウ云フ見地カラ私ハ斯ウ云フ論議ニ日ヲ送ツテ居テハ他ノ国政ニ支障ヲ及ボスコトヲ惧レ、小ナル問題ハ止メテ戴キタイト申シテ居ルニ過ギナイノデアリマス、決シテ言論ノ自由ヲ拘束スル意向ハ持ツテ居リマセヌ、只今ノ吉田君ノ質疑ハ無論重要ナ問題デス、併シ既ニ司法大臣ハ、自分ガ先日答ヘタノハ判事ノ待遇ノ問題バカリデナイ、司法省ニ関係アル吏員全部ノ待遇問題ニ付テ御答ヘシタトハツキリ言ツテ居ラレルノデ、吉田君ノ質問ニ対スル答弁ハ既ニ政府カラ出テ居ルト思ヒマス、之ヲ繰返シテ御述ベニナルコトガ必要デアルナラバ、私ハ譲歩シテ御述ベニナルコトヲ許シマス、併シ私ノ了解シテ居ル限リ、曩ノ司法大臣ノ答弁ハ十分吉田君ノ質問ニ答ヘタルモノナリト斯様ニ考ヘテ居リマス、司法大臣ニ於テ重ネテ御答ヘニナル希望ガアルナラバ、ドウゾ御発言下サイ
○吉田（安）委員　只今私ノ質問カラ色々厄介ナコトニナツテ行ツタヤウデアリマスガ、私ハ田中君ノ御意見ニ全部同感デアリマス、併シ敢テ司法大臣ノ御答弁ヲ要求ハ致シマセヌ、尚ホ聴イテ居リマスト、委員長ハサウ云フコトハ小ナル問題ダト云フ御言葉デアリマスガ、私ハ其ノ点ニ付テハ尊敬措カザル所ノ委員長ニ対シマシテ遺憾ノ意ヲ表シマス、尚ホ一刻ヲ争フ憲法問題デアリマスル以上ハ、御願ヒ致シテ置キマスコトハ是カラノ各員ノ質問ニ対シマシテモ、ドウゾ其ノ点ハ十分御注意アツテ御処理アランコトヲ希望シテ置キマス
○芦田委員長　本日ハ此ノ程度ニテ打切リ、明後日午前十時ヨリ委員会ヲ開キマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
　　午後四時八分散会