小委員会 昭和21年 7月27日（第3回）

昭和二十一年七月二十七日（土曜日）
　　　　午前十時三十九分開議
　出席委員
　　　委員長　芦田　　均君
　　　　　廿日出ひろし君　　　　江藤　夏雄君
　　　　　　犬養　　健君　　　　吉田　　安君
　　　　　　鈴木　義男君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　林　　平馬君　　　　大島　多藏君
　　　　　　笠井　重治君　　　　北　れい吉君
　　　　　　高橋　泰雄君　　　　原　夫次郎君
　　　　　　西尾　末廣君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　―――――――――――――
　本日ノ会議ニ付シタ議案
　　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、昨日前文ノ中デ決定ヲ見ナカツタ点ガ二、三アリマスカラ、本日ハ其ノ点ニ付テ御審議ヲ願ヒタイト思ヒマスガ、廿日出君カラ前文ノ一番最初ノ点ニ御意見ガアツテ、余リ沢山写シガナイ為ニ、机ニ一枚位ノ程度デ配付ヲシテアルト思ヒマスガ、ソレヲ先ヅ問題ニシテ戴キタイト思フノデス、廿日出君、一遍アナタノ案ヲ読ンデ下サイ
○廿日出委員　実ハ此ノ文章ヲ、極メテ平明ナ気持デ、自分独得ノ立場カラ発案シテ見タイト云フ日頃ノ念願カラ、今マデ皆様ガ御述ベニナツタ色々ナ参考ニナル点ヲ相当採入レモ致シマシテ、昨日来千思万考致シマシタ結果、御手許ニ差上ゲタヤウナ結論ニ達シタ次第デアリマス、私自身ノ万般ニ亙ル考慮ノ結果デアリマシテ、全クノ私案デアリマス、之ヲ読ンデ見マス、「日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて常に行動するものであつて、今やわれらとわれらの子孫のために、諸國民との和協による成果と、自由のもたらす惠澤を、我が國全土にわたつて確保するとともに、政府の行動によつて、戰爭の慘禍を再び繰り返へさせないやうにすることを決意し、ここに主權が國民にあることを宣言して、この憲法を（起案し）確定する。」「起案」ト云フノハ除イテモ宜シイト思ヒマス、実ハ「アクチング」「アクション」ト云フコトニ付キマシテ、ドウモヲカシイヂヤナイカト云フヤウナ批評ヲ受ケタモノデスカラ、色々辞書ヲ引イテ見ルト、議会ニ於ケル決議ト云フチヤントシタ字モアルモノデスカラ、決議機関トシテノ議会、之ヲ想像シマシテ、片方ノ政府ノ行動ノ方ヲ政府ノ行政ト云フヤウニシテ、一寸対立的ニ考ヘテ見タノデス、非常ニ自分デハ其ノ方ガ宜イノヂヤナイカト思ツテモ見タノデアリマスルガ、ヤハリ一番最初ニ読ミマシタヤウナ結論ニ達シタ次第デアリマス、ソレカラ文脈ノ関係上「全土にわたつて確保するとともに」ト云フヤウニ言ツテ居リマス、「主權が國民にあることを宣言して、この憲法を（起案し）確定する。」、「起案」ト書イテ見タリシタノデスガ、是ハ結局削ツテモ差支ナイガ、唯文章ヲ有効ニスル為ニ、又相当英文ノ方トモ参照シマシテ、「起案」「起草」ト云フヤウナコトヲ入レテモ差支ヘナイト思フノデスガ、此ノ点皆様ノ御批判ヲ仰ギタイト思フノデアリマス
○北（れい）委員　廿日出君ノ御考ヘニハ、相当尤ナ所ガアルト思ヒマス、是ハ政府ノ草案ガ非常ニ不備デ、皆様ガ今マデ考ヘテ来タコトデモ間違ヒガアルカモ知レナイト云フ御考ヘデ十分ニ討議ヲ願ヒタイ、例ヘテ見レバ、廿日出君ハ「我が國全土にわたつて」ト云フコトヲ「諸國民との和協による成果」ト「自由のもたらす惠澤」トノ両方ニ掛ケテアル、此ノ「我が國全土にわたつて」ト云フノヲ「自由のもたらす惠澤」ダケニ掛ケタ方ガ宜イノカ、或ハ「諸國民との和協による成果」ノ方ヘモ掛ツテ、日本国民ノ為ニ確保スルト解釈シタ方ガ宜イノカ、相当疑問ガアルト思フ、斯ウ云フコトハ前文デ、厳粛ナ文章デアルダケニ非常ニ苦心シタモノデアルカラ、自分等ノ考ヘガ宜イト思ツテ居テモ、少シデモ誤リガアルト思ツタラ余程反省スル気分デ考ヘタイト思フノデス、ソコデ同僚ノ笠井君ハ非常ニ英文ガ達者デアルカラ、此ノ場合ニ「スルーアウト・ジス・ランド」ト云フノヲ「ザ・ブレッシングス・オブ・リバーティ」ニ掛ケタ方ガ宜イカ、「ザ・フルーツ・オブ・ピースフル・コオペレーション・ウイズ・オール・ネーションズ」ノ両方ニ掛ケタ方ガ宜イカ、一ツ御意見ヲ伺ヒタイ
○笠井委員　私ハ「スルーアウト・ジス・ランド」ト云フノハ「ザ・ブレッシングス・オブ・リバーティ」ノ方ニ掛ルト思ヒマス、昨日モ森戸君ノ説トシマシテ、両方ニ掛ルコトノヤウニ仰シヤラレタノデスガ如何デセウカ、北君、ドウ云フヤウニ御考ヘニナリマスカ
○北（れい）委員　斯ウ云フコトハオ互ヒニ懇談シタイト思フノデスガ、私ハ笠井君ノ説ニ大体賛成デス、ナゼカト云フト、「ピースフル・コオペレーション・ウイズ・オール・ネーションズ」、一ツノ国民ヲ除ク――「ソ」連デモ、支那デモ、其ノ国民ト「ピースフル・コオペレーション」ガアル、一国々々ト仲ガ好イト云フノデハナク、総テノ国ト仲ガ好イ、ソレヲ自分等ガ確保シタイ、サウシテ自由ノ「ブレッシング」ヲ与ヘル、恵沢ト云フモノハ一部ノ人ニ限ツテハナラナイ、又或ル地方ニダケニ限ツテハナラナイ、普天ノ下、率土ノ浜ガ自由ノ恵沢ヲ受ケル、ソレダカラ平和的協力ト云フノハ、全国民ト云フ言葉デ繋イデアル、自由ノ恵沢ハ、日本全土普クスルト云フコトガ、文章ニ於テモ綾ガアル、ソコニ笠井君ノ説ニ賛成スル理由ガアルノデス
○犬養委員　北君ガオイデニナラナイ時ニ両論ガ大変アリマシテ、結論トシテハ今ノ北君ノヤウナ御解釈ニ落着イタヤウニ思フノデスガ、ソレヲ御纏メ願ヘレバ宜イト思ヒマス
○森戸委員　協和ト云フノハ国際的ダケレドモ、其ノ成果ハ日本一部ノ者ガセシメテハイケナイ、日本全土ノ全国民ガ之ニ与ラナケレバナラナイト云フ意味デ、是ハ両方ニ掛ケタ方ガ――例ヘバ言葉ノ釣合カラ云フト、「オール・ネーションズ」ト「スルーアウト・ジス・ランド」ト一寸平仄ガ合ツテ居ルヤウデスガ、精神カラ云フト、「フルーツ」ト恵沢ヲ日本全国ニ及ボスト云フコトノ方ガ、全体トシテノ意味ガ宜イノヂヤナイカ、英語デハ両方疑問ガアルノデスガ、日本語ニ直セバ此ノ成果ト両方全国ニ及ボスト云フコトノ方ガ、原文カラ離レテ想像スルト云フコトニナレバ、少クトモ其ノ方ガ宜イト思フノデス
○廿日出委員　私モサウ云フヤウニ実ハ賛成致シマスガ、私達モ平和的協力ニ依ツテ生ズル所ノ美シイ成果ダラウト思ヒマス、片一方ハ、我々ノ与ヘラレタ自由ガ齎セル所ノ成果ト云フ意味デ、此ノ二ツハ並ベテ、ソシテソレガ我ガ国全土ニ亙ツテシツカリト保持サレルノダ、斯ウ云フノガ本当ノ意味デハナイカト思フ、随テ文章ト致シマシテモ、諸国民トノ協和トカ仰シヤツテ居リマスガ、私ハ平和的協力ニ依ル成果ト、自由ノ齎ス恵沢ヲ我ガ国全土ニ亙ツテ確保スルト共ニ、斯ウ云ツテ、文章ニモナルト思フ、又之ヲ書キ替ヘテ色々トヤツテ見マシテモ、何ダカ非常ニ――英文ノ方ハ「ザ・フルーツ」「ザ・ブレッシングス」ト実ニ面白ク出テ居ルノデスガ……
○北（れい）委員　是ハ前ニ掛カル
○森戸委員　ソレハ掛カル、掛カラヌヨリモ、寧ロ日本語トシテドチラガ妥当デアラウカト云フ問題デアツテ、疑問ガアル場合ニハ、僕ハ原文ハ参考トシナガラ、文章トシテハ日本デ割合ニ体ヲナスヤウニスルコトガ宜イノデハナイカ、根本ノ精神ガ違フト困リマスケレドモ、サウ云フ精神デヤツタ方ガ宜イノデハナイカ、私ノ前ニ言ツタ時ノ建前カラ言フト――コチラニヤルト非常ニ原文カラ意味ガ違フト云フノデハ、是ハ問題ガ違ヒマスケレドモ、略々似タモノデアレバ、日本ノ文章トシテ日本人ガ読ンデ能ク納得ノ行クノガ宜イ、サウ云フ点カラ言フト、廿日出君ノ言ハレタ、協和ノ成果ト自由ノ齎ス恵沢、是ガ日本全土ニ確保サレルト云フコトノ方ガ、私ハ筋ガ通ツテ居ルヤウナ気ガスルノデスガネ
○北（れい）委員　私ハ反対ノ意見ヲ持ツテ居リマス、ナゼカト云フト、諸国民トノ平和的協力ニ依ル成果ト云フノハ、国際関係ノモノ、自由ノ福祉ト云フノハ、国内的ノ福祉デアルカラ、「スルーアウト・ジス・ランド」ト云フノガ生キテ来ル、平和的協力ハ国際関係、コチラハ国内関係、大体サウ解釈シマス
○森戸委員　サウデナク、国際関係ノ「フルーツ」、外国貿易デモ宜シイシ、色々ナ国際文化ノ交流デモ宜イ、サウ云フモノニ依ル「フルーツ」、サウ云フモノヲ詰リ日本ノ憲法トシテハ、今廿日出君ノ言ハレタ全国ニ及ボスト云フ意味ニナル
○北（れい）委員　ソレハモウ我々自身ト云フコトガ書イテナイケレドモ、日本国民ノ為ニ確保スルトナツテ居ルノダカラ、サウ云フ意味ハ出テ来マス、「フルーツ」デモ「ブレッシングス」デモ、日本国民ノ為ニ確保スルト云フコトハ出テ居リマス、ソコデ私ハ国際関係ノ方ハ「ウィズ・オール・ネーションズ」、国内関係ノ方ハ「スルーアウト・ジス・ランド」ト云フノハ、文章ノ綾モ宜イシ、日本全土ニ亙ル自由ノ恵沢、一方ニ於テ、諸国民トノ平和的協力ノ成果ト云フ方ガ、日本文其ノモノカラ見テモ我々自身ノ為ニ確保スルト云フコトハ既ニ出テ居ルノデス
○森戸委員　ソレハ人間ト、一方ハ地域的ニ言ツタノデス
○原（夫）委員　昨日モ論題ニナツタ所デアリマスガ、此ノ日本国全土ヲ「フルーツ」ト恵沢ノ両方ニ被セルト云フ御議論デスガ、私共ノ方デ斯ウ云フ風ナ原案ヲ拵ヘタ理由ヲ一寸申述ベテ御一考ヲ煩ハシタイト思フノハ、是ハ再ビ戦争ノ惨禍ガ繰返サレナイヤウニ決意シタ、之ヲ言フ為ノ決意ノ順序的ナモノニ案文ガ作ラレタモノト思フノデス、ソコデ先ヅ第一ニハ平和的協力、即チ協和ノ成果ト云フモノガ先ヅ根本ニナツテ、而シテ此ノ貴重ナル自由ノ恵沢ヲ日本国全土ニ亙ツテ確保スルト云フコトト、ソレ等ガ相俟ツテ政府ノ行動ニ依ツテ戦争ノ惨禍ヲ生ジナイヤウニ決意シタ、斯ウ云フ大体ノ書キ下シニナツテ居ルノデアリマスカラ、ココニ北君ノ言ハレルヤウナ平和的協力、即チ国際関係ニ於テノ成果ト云フモノガ先ヅ本ヲ成シテ、サウシテ斯ウ云フ自由ノ恵沢ヲ確保スルヤウニ考ヘテ斯ウ云フ決意ヲシタト云フノダカラ、ヤハリ原文ノ通リニ、日本国全土ニ亙リ自由ノ恵沢ヲ確保スル、斯ウ云フコトデ差支ヘナイヤウニ思フノデスガ、尚ホ御考慮ノ余地ハナイモノデセウカ
○笠井委員　只今議論ニナツテ居リマスケレドモ、今ノ「スルーアウト・ジス・ランド」ト云フノハ、「ザ・ブレッシングス・オブ・リバーティ・スルーアウト・ジス・ランド」デスカラ、「アワセルヴズ・エンド・アワ・ポステリティ・ザ・フルーツ・オブ・ピースフル・コオペレーション・ウイズ・オール・ネーションズ・スルーアウト・ジス・ランド」ト云フコトニナレバ変ナコトニナル訳デスカラ、ソレハ「ブレッシングス・オブ・リバーティ」ニ掛ルコトハ当然ダト思ヒマス、随テ私ハ北君ノ説ニ賛成シマス、モウ一ツ御願ヒシタイコトハ、無所属ノ草案トシテ出シマシタモノノ中デ、二行目ニ「協力」ノ次ニ「の成果」ノ三字ガ脱ケテ居リマス、ドウゾ御入レヲ願ヒマス
○森戸委員　是ハ私ノ方ガ宜イヤウニ思フノデスケレドモ、ココデ長クシテ居ルトイケマセヌカラ、賛成シマス
○芦田委員長　ドレニデスカ
○森戸委員　元ノ通リデ宜シウゴザイマス、是ハ私ノ考ヘガ宜イト思フケレドモ、併シ此ノ問題ハドチラニナツテモサウ大シタコトデナイノデスカラ……
○芦田委員長　一寸確メテ置キマスガ、我ガ日本国全土ニ亙ツテ自由ノ齎ス恵沢、斯ウ元ヘ返サウト云フ御意見デスネ
○森戸委員　サウデス
○廿日出委員　サウシマスト、諸国民トノ和協ニ依ル成果ト、我ガ国全土ニ亙ル自由ノ齎ス恵沢ヲ確保スルト共ニ、斯ウ云フヤウニ改マルヤウニナルノデスカ、サウ云フヤウニ致シタイト思ヒマスガ……
○芦田委員長　只今ノ原君及ビ森戸君ノ御意見ハ、自由ノ齎ス恵沢ノ上ニ、原文ノ通リニ、我ガ国全土ニ亙ルト云フカ、日本国全土ニ亙ツテト云フカ、ソレヲ残シテ置カウ、斯ウ云フ御意見デスネ、ソレニ廿日出君モ御異存ナイデスカ
○廿日出委員　結局賛成スル訳デス
○江藤委員　平和的協力トカ、和協トカ、協和トカ、色々言葉ハ出テ居リマスガ、ドツチニ決メマスカ、ハツキリシテ下サイ
○芦田委員長　一寸其ノ前ノ問題カラ決メテ行キタイト思フノデスガ、此処ハドウナンデスカ、「日本國民は、國會における正當に選擧された代表者を通じて行動するものであつて」ト云フ字ガ入ツタ方ガ宜イト云フノガ北君及ビ廿日出君等カラ出テ居ル案デスガ、ソレハドウシマスカ
○江藤委員　其ノ問題ハ幣原サント北サンガ御会ヒニナツテ其ノ後デ……
○芦田委員長　ソレデソレハ留保シマシテ、「我ら自身と子孫のために」ト云フ字ヲ「われらとわれらの子孫のために」ト云フノガ廿日出君ノ今朝ノ案デスケレドモ、ソレハドウシマスカ
○吉田（安）委員　是ハ廿日出サンガ言フヤウニ「われらとわれらの子孫のために」ト云フ方ニ私共モ賛成シマス
○芦田委員長　是ハ多数ノ方ガ賛成ノヤウダカラ、「われらとわれらの子孫のために」、斯ウ云フ風ニ直シマス、ソレカラ「諸國民との平和的協力による成果」ト云フノヲ「諸國民との協和による成果」ト云フヤウニ廿日出君カラ案ガ出テ居マスガ、ソレハドウシマスカ
○犬養委員　是ハ「協和」ノ方ガ宜イヤウニ思ヒマスガ……
○芦田委員長　ソレデハ「協和による成果」ト直シマス、ソレカラ「日本國全土」ト云フカ、「我ガ國全土」ト云フカ、ソレガ問題デスガ……
○吉田（安）委員　「我が國全土」ニ賛成シマス
○芦田委員長　ソレデハ「我が國全土にわたつて自由のもたらす惠澤ヲ確保し」ノ所ヲ「確保するとともに」ト直ツテ居リマスガ……
○大島（多）委員　ソコヘ「もたらす」ト言葉ガアリマスガ、是ハ訳語ノヤウナ気ガシマスガ、「自由の惠澤」デ宜イヂヤナイデスカ
○北（れい）委員　今ノ「自由の惠澤」ナラ、「諸國民との協和の成果」トシナケレバナラヌ、一方「協和による成果」ト日本流ノ言葉ニスルナラ「自由のもたらす惠澤」ト云フコトニシナイト工合ガ悪イ
○芦田委員長　大和言葉デ言ヘバ、「もたらす」ト云フノハ変カモ知レナイガ、今ハ普通ニ斯ウ云フ表現ヲ使ツテ居ルヤウニモ思ヒマスガ……
○北（れい）委員　ドウデス、是ハ廿日出君ノ案ノヤウニシタラ……
○芦田委員長　「確保するとともに」ト云フノハドウデスカ
○原（夫）委員　是ハ「確保し」デ、原案ノ通リデドウデスカ、「とともに」ト云フト、語呂ノ点デドウカト思フノデスガ……
○笠井委員　先程ノニ返リマスガ、「平和的協力」ト云フ字ハナクナルノデスカ
○芦田委員長　サウデス、「協和による」ト云フ風ニナル訳デス
○笠井委員　此処デハ「平和的協力」ト云フ、「平和的」ト云フ意味ガ強イノダカラ……
○犬養委員　是ハ支那ノ書経カラ出テ居ル言葉デ、「協和」ト云ヘバ「平和的協力」ノヤウニ教ハツテ居リマスガ……
○笠井委員　日本文ガ「テキスト」ニナル訳デスカラ、将来違ツタ場合ニハ英文ヲ直スヤウニシテ置カナケレバナリマセヌカラ……
○芦田委員長　是ハ「平和的協力」ノ代リニ「協和」ト入レルノダカラ直サナイノデス
○原（夫）委員　其ノ点デ、「諸國民との協和の成果」ト云フト、協和ト成果ト重複シタヤウナ感ジガ起ルノデ、ヤハリ「平和的協力」ト云フ原文ノ通リデ如何デスカ
○芦田委員長　英文ニ協力ノ成果ト云フ字ガアルノデスガ、原案デハ成果ト云フ字ガ抜イテアツタ、ダカラ「協和による成果」ト入レタ方ガ英文ノ趣旨ニモ合フ訳デス
○原（夫）委員　平和的ノ協力ヲシタ、其ノ「フルーツ」ト云フ意味ナラ、協和ト云フ文字ヲ此処デ使フノハ如何カト思フノデス
○芦田委員長　ドウデセウカ、廿日出君ノ趣意ハ、何々的ト云フノハ、近頃ノ支那ノ的ノ字ヲ誤ツテ用ヒテ、日本デハ頻リニ何々的ト使フガ、出来ルナラバ何々的ノ的ノ字ハ日本文ニハ使ヒタクナイト云フヤウナ気持ガアツタカモ知レナイ、是ハ私ノ推測デスガ、――ソレヨリモ寧ロ使ヒ慣レタ「協和」デ行カウト云フノデアルガ、其ノ方ガ少クトモ英文ト二ツ書キ並ベテ「協和による成果」、「自由のもたらす惠澤」サウ云フ風ニ英文モ出来テ居ルノダカラ、成ルベクサウ云フ風ニ……
○原（夫）委員　ソレナラソレデ結構デス
○犬養委員　サウスルト「アクティング・スルー」ト云フ所ヲ決メテ戴キタイト思ヒマス
○北（れい）委員　私ハ之ヲ原文通リニ「通じて」ト云フト、日本国民ハ国会ニ於ケル代表者ヲ通ジテ斯ウ云フコトヲ決意スル、即チ国際平和ノ成果、日本全土ニ遍キ自由ノ恵沢トヲ確保シ、更ニ又政府ノ行動ニ依ツテ戦争ガ起キナイヤウニ決意スルトカ、主権ガ国民ニアルコトヲ宣言スル、サウシテ此ノ憲法ヲ制定スル、如何ニモ此ノ憲法ヲ制定スルコトハ議会ヲ通ジテヤルカラ、非常ニ宜ササウニ思フガ、本来ノ意味ハ、憲法ノ制定ノ時ニハ宜イケレドモ、国際平和ノ成果ヲ確保スルト云フノハ、個人ガ商売デモ何デモ確保出来ルコトダシ、ソレカラ自由ノ恵沢ヲ得ルト云フコトモ、必ズシモ議会ノ代議士ヲ通ジナケレバ得ラレナイト云フコトハナイ、サウスレバ事実ハ不合理千万デアル、ソコデ「アクティング・スルー」、「ナショナル・ダイエト」、英文ノ方デ言フト、日本国民全体ヲ形容シタモノデ、除クナラバ、正当ニ選挙セラレタ国会ノ代表者ヲ通ジテ、ト云フノヲ全部除イタ方ガ宜イ位デス、或ル意味デハ、日本国民ト云フノハ代議政体ヲ執ツテ居ルモノデ、「アクティング・スルー」ト云フノハ「フー・アクト」トナツテ、国民全体ニ掛ル、サウシナケレバ、是ハ原文ノ侭ヲ通ジテヤツタナラバ、私ハ笑ヒ物ヲ残スト思ヒマス、憲法ノ制定ヲスル時ニハ、国会ヲ通ジテ制定スルト云フコトハ宜シイト思ヒマスガ、国際平和ノ成果ヲ挙ゲルトカ、自由ノ齎ス恵沢ト云フモノヲ我々子孫ニ確保スルト云フコトハ、必ズシモ国会ヲ通ジテヤル必要ハナイ、是ハ非常ニ不合理ニナルト思フ、ソコヲ一ツ御考ヘヲ願ヒタイ
○大島（多）委員　北サンノ言ハレルノニ全ク賛成デアリマス
○廿日出委員　私モ賛成デアリマス
○森戸委員　私ハヤハリ代表ヲ通ジテト云フコトハ活カシタ方ガ宜イノデハナイカト思フ、ソレヲ行動スト云フノハドウカト思フノデス、ソレデ僕モ此ノ原文ニ付テハ疑ヒヲ持ツテ居ルノデスガ、「アクティング・スルー」ト云フノハ、寧ロ此処ニ国民ノ総意ガアル、憲法ヲ確定スルト云フ所ニ掛ルノデハナイカト考ヘルノデス、ソレデ日本国民ハ実ハ是レ是レノコトヲ決意ス、サウシテ正当ニ選挙セラレタル国会ノ代表者ヲ通ジテ是レ是レニアルコトヲ宣言ス、是レ是レヲ確定スルト云フ風ニシタ方ガ宜イノデハナイカト云フ感ジヲ持ツテ居ルノデス、サウスルト、通ジテト云フ位置ガ変ル訳ニナル、此処ニ置クト行動スト云フコトデ、「アクティング」ヲ非常ニ強ク置クノハ如何カト思フノデス
○芦田委員長　一寸森戸君ニ伺ヒマスガ、サウスルトアナタノ言ハレル英文ノ趣旨ハ、我々ト我々ノ子孫ノ為ニ平和ニ依ル成果ト自由ノ齎ス恵沢トヲ確保シ、戦争ノ惨禍ヲ繰返サナイコトヲ決意シ、ソコデ正当ナル代表者ヲ通ジテ主権ガ国民ニ在ルコトヲ宣言シ憲法ヲ制定ス、斯ウ云フ意味デスカ
○森戸委員　サウ云フ意味デアツテ、北サント或ル点ハ似テ居リマスガ、「アクティング」ト云フコトヲ……
○北（れい）委員　イヤ、根本的ニ違ヒマス、是ハ形容詞デ、日本国民ト云フモノハドウ云フモノカト云フコトヲ宣言シタモノデス、偶々憲法ヲ制定スル時ニハ議会ヲ通ジテヤル、ソレニハ旨ク当ルガ、国際的平和的協力ノ確保トカ、自由ノ齎ス恵沢ヲ確保スルト云フコトハ国会ヲ通ジナクテモ宜イコトデアル、通ジテト云フコトニスレバ間違ヒデス
○犬養委員　佐藤サンドウデスカ、原文案作成ノ時ノ……
○佐藤（達）政府委員　私共ノ気持ヲ申上ゲマスト、英文ノコトハ勿論詳シクゴザイマセヌガ、英文ヲ見ナガラノ日本文ヲ書キ下シマス時ノ気持ハ、ヤハリ此ノ決意ヲシ、ソレカラ至高ナルコトノ宣言ヲシ、サウシテ此ノ憲法ヲ確定スルト云フ其ノ時ノ事態ヲ押ヘテ、ソレハ国会ニ於ケル正当ニ選挙セラレタ代表者ヲ通ジテヤルノダ、今ノ憲法確定ノ際ノ現実ヲ押ヘテシタ方ガ力強イノデハナイカト云フ気持ガ支配的デ、斯ウ云フ文章ニナツテ居ルノデアリマス
○廿日出委員　実ハ是モ既ニ私ハ考ヘマシテ、其ノ中庸ヲ執ルト云フコトハヲカシイガ、私ガ本当ニ申上ゲヨウトスルノハ斯ウ云フコトニナル、日本国民ハ正当ニ選挙サレタ国会ニ於ケル代表者ニ依ル決意ニ基イテ今ヤ我等ハ――「アクティング」ト云フノハ決意ト云フ意味ガハツキリアル、若シ妥協ガ付ケバソレデ宜イシ、サウデナケレバ、ヤハリ北委員ノ仰シヤルヤウニ、「フー・アクト」ト云フヤウニ続クヤウニ思ツテ見タリ、「アクティング・スルー」「アクティング・スルー」ト云フコトデ何回モ読ンデ見ルト、何カ文法デ詳シク習ツタコトガアルガ、唯「フー・アクト」デナイ、モツト響キノ違フ所ガアルノデハナイカ、一寸其ノ意味ガハツキリ分ラヌノデスガ……
○北（れい）委員　妥協ニモ何ニモ、兎モ角「ウイー・ザ・ジャパニーズ・ピープル」ト云フコトニナツテ居テ、「ディターミンド」、決意スル、ソレカラ確保スル、ソレカラ戦争ヲ廃メルコトヲ決心スル、国民主権ヲ宣言スル、主体ハ日本国民デアル、「アクティング」カラ国会マデハ全部略シテモ宜イ、「ジャパニーズ・ピープル」ト云フノハ形容的ナモノデアル、「フー・アクト」ト直ス外ハナイ、結局上ニ掛ルノデアツテ、日本国民ノ性格ヲ規定シタモノデアル、下ニ何ガアラウト関係ナイコトデアル、法制局ニ於テ原案ガ単独ニ出サレタト云フナラバ別ニナリマスガ、多少英文ト並行的ニ拵ヘテ之ヲ参照シタモノダト、是ハ全然誤解ノ因デアルカラ、記録ニ留メテ置ク位ニ主張シマス
○森戸委員　法制局ノ方ニ御伺ヒ致シマスガ、片方ヲ「ディターミンド」「リゾールヴド」トシテ居ツテ、終ヒニ「ドゥ・プロクレーム」「ドゥ」トコツチハ現在ニナツテ居ル、是ハ何カ同ジコトト思ヒマスガ――斯ウ云フコトデ決心ヲシテ斯ウヤツタンダト云フコトニナルノデハナイカ
○佐藤（達）政府委員　御答ヘ申上ゲマス、結論ハ「ドゥ・プロクレーム」ト申シマスカ、是ガ一番要点ダラウト思ヒマスガ、ソコマデ考ヘガ辿リ着クマデノ段階ヲズツト辿ツテ来マシタノデ、「ドゥ・プロクレーム」ノ所ヲ押ヘテ考ヘマスト、過去ノ心持ノ動キヲ表ハシテ居ルノデス
○森戸委員　ソレハ議会デト云フ気持デスカ
○佐藤（達）政府委員　私共ハズツト議会デト云フ気持デ居リマシタ、北先生ニ叱ラレルカモ知レマセヌガ……
○鈴木（義）委員　文法的ニハ北サンノ仰シヤルノガ間違ヒナイ、併シ意味的ニ此ノ前文ヲ考ヘルト、森戸君ノ言ハレルヤウニ考ヘナケレバナラヌト思フ、ソレダカラ余リ文法ニコダハラズニ意味ヲ取ツテ、英文ヲ離レテ案文ヲ考ヘテ見タラ宜イヂヤナイカ
○笠井委員　只今ノ問題デスガ、ドウシテモ英文ヲ度外視スルコトガ出来ナイノデスカラ、今佐藤君ノ御話ヲ聴イテモ、之ヲ骨子ニシテコチラヲ作ツタト云フコトデス、サウシマスト只今御話ニアリマスヤウニ、「ウイー・ザ・ジャパニーズ・ピープル・アクティング・スルー・アワー・デュリー・エレクテッド・リプリゼンタティヴス・イン・ザ・ナショナル・ダイエト」此ノ「ナショナル・ダイエト」ニ依ツテ国民ヲ形容シテ居ル訳デスガ、其ノ国民ガ何ヲスルカト云フト、一ツハ「デターミンド」、第二ハ「リゾールヴド」、第三ハ「ドゥ・プロクレーム」、第四ハ「ドゥ・オーデーン」、是ダケノコトヲ此処デ決メル訳デスカラ、是ハ議会ヲ通ジテ此ノ憲法ヲ制定スルト云フコトデアリマス
○芦田委員長　詰リ、通ジト言ツテモ、議会デ行動シト言ツテモ、結局スル所ハ同ジダト云フ御意見デスカ
○笠井委員　ソレデアリマスカラ、私ハ此ノ佐藤君ノ作ツタ憲法ノ何デ、「宣言し、この憲法を確定する。」ト言ツテ「ピリオド」ヲ付ケテシマフコトハイカヌト思フ、之ヲ進行シテ行ツテ、私ノ方デハ、決意シテ国民総意ノ主権ヲ宣言シ、政府ハ国民ノ神聖ナル信託ニシテ其ノ権威ハ国民ニ淵源シ、其ノ権威ハ国民ノ代表ニ依ツテ行使セラレ、其ノ慶福ハ国民ガ享受スベキ人類普遍ノ原理ヲ基礎トスベキ憲法ヲ制定スル、ソコマデ行カナクチヤ私ハイカヌト思フ、「宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は」ナドト続ケマスト力ガ抜ケルト同時ニ、或ル程度英文ヲ考慮スルナラバ、此処ハ「そもそも」ト言フコトハイカヌト思ヒマス、是ダケノコトヲ完成スル為ニ日本国民ハ議会ヲ通ジテ斯ウ云フ風ニヤル、正ニ北君ノ言ハレルヤウニ日本国民ヲ形容シテ居ル訳デスガ、併シ其ノ日本国民ハドウ云フコトヲスルカト云フト、憲法ヲ制定スル場合ニ於テ議会ヲ通ジテヤルノダ、サウ云フコトデセウ、斯ウ私ハ思ヒマス
○北（れい）委員　笠井君ノ之ヲ一文ニスルト云フ議論ハ可ナリ根拠ガアルト思フガ、是ハ後廻シニシタラドウデス、唯私ガ考ヘルノハ此ノ憲法ヲ作ル動機ヲ或ル程度マデ日本国民全体ニ明ラカニシテ、日本国民ガ我々並ニ我々ノ子孫ノ為ニ諸国民トノ平和ノ成果ヲ確保シ、全土ニ亙ル自由ノ恵沢トヲ確保スルト云フコトヲ決心スル、サウシテ更ニ又政府単独ノ行動デ国民ノ意思ヲ離レテ戦争ノ惨禍ガ再ビ発生スルコトノナイヤウニ決意スル、其ノ決意ト一般的ノ斯ウ云フ憲法ト云フモノハ、普遍的原則ニ基クベキモノデアル、日本国民ノ利己主義ヤ勝手ナ立場カラ作ルベキモノデハナイ、一般ノ原理ニ基イテ国民ガ此ノ憲法ヲ制定スルノダ、此ノ決意スルト云フ立場ガ憲法制定ノ目的ダト云フヤウニ私ハ此ノ文章ヲ解釈スル、全部日本国民ニ関係スル、決意ヲスルトカ、自由ノ成果並ニ国際的協和ニ依ル成果、自由ノ恵沢ヲ得ルト云フ国民ノ決心ハ議会ヲ通ジテデハナイ、日本国民ガ議会ヲ通ジテ確保スルノハ、偶々憲法制定ガ議会ノ任デアルケレドモ、此ノ憲法改正ノ、新タナル憲法ヲ作ル国民ノ決意、動機、憲法改正ノ理由ヲココデ或ル程度書イテ置ク、ソコデ斯ウ解釈シナケレバナラヌ、成程憲法ヲ作ルコトダケデハナイ、議会ヲ通ジテ憲法ヲ作ルト云フコトハ、議論ハ成立ツガ、法制局当局ハ其ノ錯覚カラ来テ居ル、所ガ日本国民ガ決意スルト云フコト、国際的協力ニ依ツテ成果ヲ挙ゲルコトト、自由ノ恵沢ヲ得ルコトハ日本国民ノ決意デアリマス、日本国民ト云フモノハ議会ヲ通ジテ活動スルモノデアル、一般的日本国民ハ代議政体ヲ採ツテ居ル日本国民デアルト云フコトヲ言ツテ居ル、ソレガ通常ノ解釈デアラウト思ヒマス
○犬養委員　斯ウ云フ際ニ委員長ノ御意見ヲ伺フコトハ御迷惑カモ知レマセヌガ、常ニ斯ウ云フ場合提議シテ居ル意味デ委員長ノ御意見ヲ伺ヘレバ結構デス
○芦田委員長　私ハ笠井君ノ御議論カラ先ニ意見ヲ言ヒマスガ、ドウモ笠井君ノ案ハ是ハ根拠ノアル案ダト思ヒマス、唯サウスルト如何ニモ文章ガ長クナツテ、其ノ後ノ、憲法ヲ制定スルト云フノガ七行目カ八行目ニ出テ来テ、一寸初メカラ続キガ悪イカラ、ソコデ已ムヲ得ズ此ノ憲法確定ヲ前ニ持ツテ来テ、「そもそも」ト云フヤウナ窮シタ字ヲ使ツテ二ツニ分ケテ書イタノダト思ヒマス、併シ笠井君ノ言ハレルノハ相当有力ナ議論ダト思フガ、ドウモ日本文トシテハヤハリ二ツニ切ラナイト非常ニ読ミニクイノデハナイカト思ヒマス、初メノ「代表者を通じて」ノ所ハ「行動し」ト云フ字ヲ入レタラドウカ、法制局ノ原案ニハゴザイマセヌガ、要綱ノ際ニハ「行動し」ト入ツテ居ルノデス
○佐藤（達）政府委員　「するものであつて」ト云フノト「行動し」ト云フノハ私共ノ気持トシテハ余程違ヘテ考ヘテ居リマス
○芦田委員長　ソコデ私ノ意見ハ、一番最初ノ要綱ノ案ニ還ツテ、「行動し」ト云フヤウナコトデ、アトハ読ム人ノ勘デ解釈スルト云フ程度ニシタラドウカ、斯ウ云フ風ニ思ツテ居リマス
　　　　〔「賛成」「賛成」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　アナタノ方ハ如何デスカ
○鈴木（義）委員　賛成シマス
○北（れい）委員　此ノ笠井君ノ後ノ国政ト云フノヲ政府ト云フ、私モサウ考ヘル、唯進歩党トノ打合セノ時ニ、植原君ヤ齋藤君ハ、現実ニハサウデアルカモ知レナイガ、日本文ガ二ツニ分レテ居ルカラココニ広ク司法、行政、立法ヲ採リ入レテ、文章ガサウナツテ居ルカラ宜カラウト云フカラ、私モ別ニ悪イトハ思ハナイガ、私ノ趣意カラ云フト、是ハ政府ノ行動デ戦争ヲ行ヘル、今マデノ戦争ハ大臣輔弼ノ責任デアツテ、英国ヤ米国ヤ「フランス」ノ如ク議会ノ決議ハ必要トシナカツタ、ソレデハ困ル、ソコデ政府ノ行動デ戦争ヲ再ビ起サセナイヤウニ日本国民ガ決意スル、ソコデ政府ハドンナ政府カ、政府ト云フモノハ本来ドンナモノデアルカト云フ説明ガ「そもそも」カラ来テ居ルノダカラ、ヤハリ初メノ「政府」ハ、政府ナルモノハ国民ノ崇高ナ信託ニ依ルモノデアツテ、抑々政府ノ持ツテ居ル「オーソリティ」ハ国民ニ由来スル、之ヲ笠井君ノ言ハレルヤウニ「發現す」デモ「由來す」デモ宜イ、「發現す」ノ方ガ英文ニ近イデセウ、其ノ方ガ尚ホ宜イカモ知レヌガ、「その權力は國民の代表者これを行使し、その利益は國民がこれを享受す」デ、是ハ国政一般ニ膠着スル必要ハチツトモナイコトデアツテ、政府ト云フモノノ抑々ノ本質ヲ述ベタモノダ、日本ノ政府ト云フモノハ今マデ大権内閣デ、天皇ノ大権デ東條軍閥内閣モ出レバ小磯軍閥内閣モ出ル、サウ云フコトガアツテハナラヌト云フ訳デ政府ノコトニ付テ説明シタモノダカラ、「國政」トシテ司法部ヤ立法部ノコトヲ此処ニガタガタ入レル必要ハチツトモナイノデ、国民主権ノ国デアルカラ政府ハ万事国民カラ発生スル、サウシテ其ノ代表者タル内閣総理大臣モ国民カラ選バレタ議員ガ指名シテ作ルノダカラ、政府ノ権力ハ国民ノ代表者ガ之ヲ行使スル、サウシテ政府ガアル為ニ色々ノ便益ガ生ズル、社会的ノ安全ガ生ジ、生活ノ安全ガ出来ル、サウ云フ利福ハ国民之ヲ享受スデ、是ハ政府ノ性格ヲ説明シタモノデナイト辻褄ガ合ハヌト云フコトハ私モ感ジテ居リマスガ、是ハ我々自由党トシテハ一応「國政」ヲ「政府」ト直シマシタケレドモ、皆サンノ討議ノ結果、笠井君ガ小会派ノ代表者デアツテモ、正シイ意見ニハ従フベキダト云フノデ従フ用意ガアリマス
○芦田委員長　私ノ意見ハ後デ申シマス
○大島（多）委員　私ハ今ノ御意見ニ反対デアリマス、成程最初ノ「ガヴァーメント」ハ是ハ政府デアリマスケレドモ、後ノ「ガヴァーメント」ハ私ハ「政府」ダト思ヒマセヌ、是ハ「政治」ト云フ意味ノコトデ、ソレヲ此ノ原案デハヤハリ「國政」ト訳シテ居リマスガ、「政治」ト云フ意味デナケレバナラヌト思ヒマス、デナイト、先程ハ北先生ハ後ノ方ハ政府ノ説明デアルト斯ウ仰シヤイマシタケレドモ、私モ先日大分考ヘテ見マシタガ、後ノ方ハヤハリ「政治」デナクテハナラヌ、「ガヴァーメント・イズ・ア・セークレッド・トラスト」デ、此ノ「セークレッド」ナドノ関係カラ、政府ガ神聖ナト云フ言葉デハ釣合ヒモヲカシイシ、ヤハリ「政治」ガ「セークレッド」デアルト云フ方ガ感ジガピツタリ来ルヤウニ考ヘルノデアリマス、ソレダカラ私ハ今ノ御説トハ其ノ点デ反対デ、此ノ後ロノ方ノ「ガヴァーメント」ハドウシテモ「政治」デナケレバナラヌト思ヒマス
○芦田委員長　日本デ政府ト云フ字ヲ「ガヴァーメント」ト云フ字ニ何時デモ訳スコトガ宜イカドウカト云フコトガ一ツ残ツタ問題ダガ、後ノ方ノ「政府」ノ解釈ハ、今大島君ノ言ハレタヤウニ為政者ト言フベキデセウガ、初メノ方デモ実ハ日本ノ言葉デ言フ政府、詰リ行政府ト云フヤウナ非常ニ固苦シイ限定サレタ意味デナクテ、ヤハリ上ノ方モ為政者ト云ツタヤウナ意味ニ書イタモノダト思フノデスガ、併シサウ云フ字ヲ使フコトハ何ダカラ「政府」ト訳シテ、後ノ方ハ今大島君ノ言ハレタヤウナ意味ニ於テヤハリ「國政」トシタ方ガ宜イノヂヤナイカト考ヘテ居ツタノデスガ……
○北（れい）委員　私ハ此処デハ「爲政者の權力は國民の代表者が行ひ」ト云フノデハ妙ナコトニナル、為政者ノ意味デアツタラ是ハ簡単デス
○芦田委員長　為政者ト云フ字ハ良イ字ヂヤナイ、ダカラ国政デ宜イト思フ
○北（れい）委員　私モ二ツノ文章ニシテシマフコトニ別ニ反対シマセヌガ、併シ英文デ言ヘバヤハリ出来ナイ、「セークレッド・トラスト」トアルガ、「トラスト」ト云フト実体デアル、「國政」ト云フト抽象的ニナル、ダカラ政府ヤ内閣ノヤウナモノハ「トラスト」トハ言ヒハセヌ、国政一般ヲ、政治的ノ抽象的ノモノヲ「トラスト」ト云フ言葉デ現ハスノハ、日本語ノヤウニ「信託によるものであり」ト云フノナラ宜イデセウ、ケレドモ英文ノヤウニ「セークレッド・トラスト」、「實體」トナルト其処ニ一寸調和ガ欠ケテ居ル
○吉田（安）委員　北サンノ仰シヤルヤウニ英文的ニ書キマスレバサウナルコトト思ヒマスケレドモ、ヤハリ是ハ大島君ノ言ハレルヤウニ、又委員長ノ仰シヤルヤウニ、前ノ「ガヴァーメント」ト後ノ「ガヴァーメント」トデハ、結局後ノ方ハモウ少シ大キナ意味デ政府モ入ツタ国政ダト云フヤウニシタ方ニ私ハ賛成シタイノデス
○犬養委員　私モ此処ハ「國政」ニ賛成致シマス
○森戸委員　私モ「國政」ノ方ガ宜イト思ヒマス
○笠井委員　是ハドウデゴザイマセウ、本日此処デ最後ノ決定ヲシテ戴カズニ、「ガヴァーメント」即チ「政府」ト云フ二字ヲ使ツテアリマスガ、本当ノ「ガヴァーメント」ノ「コンセプション」トカ「ミーニング」、英文ノ起草者ノ考ヘハ何処ニアルカ、之ヲ突止メル必要ガアルダラウト思ヒマスカラ、是ハ後ニ決定シテ戴キタイト思ヒマス
○吉田（安）委員　笠井サンノ仰シヤル所ハ非常ニ御尤モデスガ、私ハソコマデ行カヌデモ宜カラウト思ヒマス、サウ云フヤウニ慎重ニヤツタラ大変デスヨ
○犬養委員　余リ保留事項ヲ多クシナイデ行カナイト切リガナイト思ヒマス、非常ニ重大ナラ別デスガ……
○北（れい）委員　私モ英文デ笠井君ノ如ク之ヲズツト一ツノ文章ノ中ニ入レルト「政府」トシナケレバナラヌト云フ主張ハ飽クマデ固執スルガ、斯ウ云フ二ツノ文章ニ分ケテ「そもそも」ト出タ以上ハ、政府モ含メタ大キイ国政ニ解釈スル、是ハ日本ノ憲法草案ガ独立ノ草案デアルト云フ意味ニ於テナラ差支ヘガナイト思ヒマス
○林（平）委員　私ハヤハリ「國政」ニ賛成シマス、ナゼカト云フナラバ、結論ガ「これは人類普遍の原理であり」ト結ンデアルノダカラ、国ノ政治ナルモノハ是レ是レデアル、斯ウ云フ原理デアル、即チ是ガ原理デアルト言ヒ表ハシテ来タモノダカラ、翻訳ハ兎モ角トシテ国政ノ方ガピツタリ来テ居ルヤウナ気ガシマス
○吉田（安）委員　ソレデ行カウ
○芦田委員長　笠井君「アメリカ」人デモ日本ノ政府ト云フ字ガドウ云フコトヲ意味スルカト云ツタヤウナ細カイ所ハ中々分ラナイ、サウ云フ一種ノ言葉ノ持ツ色合マデ分ルヤウナ人ハ少イノダカラ、ヤハリ斯ウ云フ所ハ日本人デ相談シテ考ヘルヨリ仕様ガナイノヂヤナイデセウカ
○笠井委員　ソレハ結構デゴザイマス、今北君ガ仰シヤラレルヤウニ、「そもそも」ト云フコトデ、此処デ分ケルナラ「國政」デモ宜シウゴザイマスガ、此ノ憲法ノ「トランスレーション」ト云フモノガ此処ニアルノダカラ、私ハ聊カドウカト思ヒマスガ、諸君ノ大多数ノ方ガ御賛成デアルナラバ一向差支ヘゴザイマセヌ、此処ニアル「ガヴァーメント」ト云フ字ハ、今日マデ日本政府ノ権力者ガ色々ナコトヲシタ、東條トカ何トカ云フヤウナ者ガ国民ノ意思ヲ無視シテヤツタコトモアリマスガ、モツト大キナ意味ノ本当ノ国政以上ノ政府ト云ヒマスカ、サウ云フヤウナ非常ニ普遍的ナ意味カラ来タ字デアルト私ハ思ヒマス、此ノ憲法ノ草案ニ付テ「國政」ト御書キニナツタコトハ独自ノモノデアリマスルナラバ私ハ賛成致シマス
○芦田委員長　サウスルト其ノ先ニ参リマスガ、「そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであり、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受するものであることは人類普遍の原理であつて、この憲法は、この原理に基くものである。」ソコマデハドウナノデスカ
○森戸委員　ソレヲ私留保シテ置イタノデスガ、私ノ感ジデハ、「ものであつて」ト云フノガ余リ続イテ居ルノデス、「そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであり、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ、その福利は國民がこれを受けるものであつて、これは人類普遍の原理である。この憲法は、この原理に基くものである。」ト云フノデ、余リ長クテ、ソレニ「ものであつて」ガ重ナルノハドウカ、何カ宜イ方法ハナイダラウカト云フコトヲ考ヘタノデスガ、例ヘバ斯ウ云フヤウニシタラ如何デセウカ、「そもそも國政は、國民の崇高な信託によるのであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ、その福利は國民がこれを受けるべきものである。」是ハ一寸変リマスガ、「受けるべきものである」トシタ方ガ、笠井サンモ此ノヤウナ説ヲ一寸昨日言ハレテ居ツタガ、全体カラ言フト其ノ方ガ宜イト思フ、ソコデ切ツテ「この憲法は、かかる人類普遍の原理に基いてゐる。我らは、この憲法に反する一切の」云々、サウ云フ風ニソコヲ直シタ方ガ宜イ、サウシタ方ガ日本文トシテハ適当ナノデハナイカト云フヤウナ気ガスル
○北（れい）委員　「原理であつて」ヲ「原理である」トスルノデスネ、ソレハ一説ダナ
○森戸委員　モウ一度読ミマス、「そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ、その福利は國民が受けるべきものである。この憲法は、かかる人類普遍の原理に基いてゐる。」
○芦田委員長　ソコハドウナンデスカ、「この憲法は、かかる人類普遍の原理に基いてゐる。」トスルノデスカ
○森戸委員　私ハ「基いてゐる」トシタノダガ、「基くのである」デモ宜イデス、サウ云フヤウナ案デス、文章ガ二ツニナツテ、其ノ点デ原文ト多少違フガ、意味ハチツトモ変ラナイ
○笠井委員　如何デゴザイマセウカ、此処ニ三ツ動詞ガアリマスガ、是ハ只今森戸サンノ御説デゴザイマスガ、私ハ「その權威は國民に由來し」ト云フヨリ、モウ少シ強ク、「淵源し」トカ「起源し」ト致シマシテ、「その權力は國民の代表者がこれを行ひ」ト云フノハ「これを行使し」トシタ方ガ……
○森戸委員　ソレハ構ハナイ、問題ハナイノデス
○笠井委員　其ノ次ハ「これを享受する」ト云フヤウニ……
○北（れい）委員　ソレハ自由党モ進歩党モサウデス
○芦田委員長　「その福利は國民がこれを享受すべきものである。」ト切ルノデスカ
○森戸委員　ソレハ「すべきである。」
○北（れい）委員　「すべき」デハ困ル
○森戸委員　「するもの」デモ宜イ
○芦田委員長　「享受するものである。」ト云フナラ、元ノ通リデスネ、ソコデ切ツテ、其ノ次ハ「この憲法は、かかる人類普遍の原理に基くのである。」
○森戸委員　「基いてゐる。」――「である」ガ続クカラ「基いてゐる。」トシタノデス
○笠井委員　其ノ四ツノ所ハ、人類普遍ノ原則ヲ約シタモノデスカラ、神聖ナル信託ニ依ルモノデアツテ、其ノ権威ハ国民ニ淵源シ、其ノ権力ハ国民ノ代表者ニ依ツテ行使セラレ、其ノ福利ハ国民ニ享受セラレルト云フ人類普遍ノ原理ニ基イタモノデアルト云フコトデアリマスカラ、ソコノ所ヲ連絡ガ出来マスヤウニ御願ヒ致シマス
○芦田委員長　今ノ森戸君ノ御発議ノ点ヲ読ンデ見マスカラ、是デ間違ヒガナイカドウカ、「國政は、國民の崇高な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受するものである。この憲法は、かかる人類普遍の原理に基いてゐる。」是デ宜イデスカ
○森戸委員　私ノハサウデス
○芦田委員長　是ガ森戸君ノ案デスガ、是デ如何デスカ
○吉田（安）委員　其ノ先ハ続キマスカ
○芦田委員長　其ノ先ハ一寸待ツテ下サイ、其ノ先ハ今一寸調ベサセテ居マス
○吉田（安）委員　サウデスカ、ソレナラバ……
○芦田委員長　「この憲法は、かかる人類普遍の原理に基いてゐる。」斯ウ直サウト云フノデスネ、サウスルト、原理ト云フノガ二ツガ一ツニナツテ、日本語トシテハ宜イダラウト思フ
○北（れい）委員　成程原理ト云フノガ此処デ短イ中ニ三ツ出テ居ルノハ悪イカラ、森戸君ノ言フ御説モ御尤モダト思フ、私モ「國政は、國民の崇高な信託によるものであり、」ト云フノヲ「あつて」ト直スノハ差支ヘナイト思フ、「その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受するものであることは人類普遍の原理である。」ココデ一旦切ルノモ宜イト思フ、若シ切ルト、「この憲法は、かかる原理に基くものであつて、これに反する一切の憲法と法令と詔勅を廢止する。」サウスレバ後ノ「原理」ヲ省ク為ニ続ケテハドウデスカ、「原理であつて、」ト云フノヲ、森戸君ノ意見ノヤウニ、「原理である。」ト一旦切ツテ、其ノ次ニ「この憲法は、この原理に基くものであつて、我らはこれに反する一切の憲法と法令と詔勅を廢止する。」トスルト、原理ガ一ツ少クナル、三ツ原理ヲ書クノハマヅイヤウナ感ジガシマス
○芦田委員長　一寸北君ノ訂正シタ所ガ僕ニハハツキリ分リマセヌガ、「その福利は國民がこれを享受するものであることは人類普遍の原理である。」
○北（れい）委員　トシテ、「この憲法はこの原理に基くものであつて、我らはこれに反する一切の憲法と法令と詔勅を廢止する。」
○芦田委員長　其ノ「これ」ガ問題ニナツテ居ル、憲法ヲ指スノデアルカ、「ユニヴァーサル・プリンシプル」ヲ受ケルカト云フコトガ問題ニナツテ居ル
○北（れい）委員　サウスレバ森戸君ノ言ツタヤウニ一旦「原理である」ト切ツテ、「この憲法は」ト云フ前ニ人類普遍ノ原理ガアツテ、「これに基くものであつて」ト云フノモ工合ガ悪イシ、ドウモ直シ様ガナイ、原理ハ已ムヲ得ナイ、三ツ付ケナケレバナラヌカナ
○芦田委員長　森戸君ノ意見ニ依レバ一ツデ済ム、後ノ原理ヲ留保シテ置イテ……
○廿日出委員　「享受すべきものである」デ一応切ツテ、「この憲法はかかる人類普遍の原理に基くものであつて、我らはこれに反する一切の憲法と法令と詔勅を廢止する」トスレバ、ドツチニシタ所デ宜イト思フノデスガ……
○芦田委員長　「これ」トシテシマフカ
○吉田（安）委員　ソレハ含ミガアツテ広クテ宜イデスナ
○芦田委員長　ソレモ一ツノ案デスナ、鈴木サンノ御意見ハドウデスカ、サウスルト英語ト同ジヤウニ読ム人ニ依ツテ曖昧模糊トシテ居ル
○犬養委員　「ヒヤウイズ」ガボヤケテ居ルカラ丁度宜イカモ知レヌ
○北（れい）委員　サウスレバ森戸君ノ修正デ「享受するものである」ト一旦切ツテ、「この憲法はかかる人類普遍の原理に基くものであつて、我らはこれに反する」ト云ツタラ一番簡単ダナ
○鈴木（義）委員　一応サウシテ、終局的ニスツカリ修正シタモノヲ書イテ、今一度読ンデ見ナイト意外ナ点ガ出テ来ルカラ……
○芦田委員長　ソレヂヤ森戸君ノ提案ノ「享受するものである。この憲法はかかる人類普遍の原理に基くものであつて、我らはこれに反する一切の憲法、法令及び詔勅を廢除する」、ソレデ一応ノ結末ヲ付ケテ、尚ホモウ一遍見直ス、斯ウ云フ諒解デ参リマセウ
○鈴木（義）委員　ソレヲ確定スル前ニ、私ノ方ニ文学士ノ人デ文法ノ達者ナ人ガ居マシテ、此ノ憲法ヲズツト読ンデ居ルト到ル処ニ文法ノ間違ヒガアツテ、ドウモ自分ニハ気ニナツテ仕方ガナイト云フノデス、ソレハ非常ニ幼稚ナ間違ヒデ、自分達ガ教ヘテ居ツタノト違フノダ、例ヘバ此処デ言フト「これを行使し」トカ「これを享受する」トカ云フ「これを」ハ要ラナイモノデアル、ソレカラ後ニ来マスト「專制と隷從と壓迫と偏狹を」ト云フノハ、「偏狹とを」ト「と」ガ必ズ要ル、所ガ「を」ト云フ形ニナツテ居ル、サウ云フ色ンナ間違ヒガアルト云フノデス、所ガ私ニ言ハセルト、「これを」ト云フノハアツテモ邪魔ニナラヌ、アツタ方ガ宜イト思ヒマス、文法上デハ誤リカ知ラヌガ、将来ハサウ云フ文法ニシタイ位ニ思ツテ居ルノデスガ、唯サウ云フ注意ガアリマシタカラ、皆サンノ御意見ヲ此ノ際承ツテ置キタイト思ヒマス
○芦田委員長　「と」ト云フ字ノ使ヒ方ハ私モ文学士ノ方ト同ジヤウナ文法ヲ習ツタ影響デセウガ、「何々と何々とを」ト云フ風ニ入レタイノデス、所ガ入レナイコトニナツテ居ルト云フ風ニ聴カサレタノデス
○佐藤（達）政府委員　別ニ強イ意味デ入レナイコトニナツテ居ルト云フノデハゴザイマセヌ、実ハ我々ノ方デモソレヲ問題ニ致シマシタガ、寧ロ「と」ヲ入レナイ方ガ宜イト云フコトニナツタノデアリマス、文法ノ先生方ニ聴キマスト、ヤハリ「と」ヲ入レル方ガ普通ヂヤナイカト言ツテ居リマス
○鈴木（義）委員　「これを」ハドウデスカ
○佐藤（達）政府委員　「これを」ハ法律ノ文章ト致シマシテ、後ノ本文ノ方ノ関係カラ申シマスト、ヤハリ入レタイト云フ気持ガ我々トシテゴザイマスノデ、前文ノ方モソレニ御附合ヲシテ貰ツタト云フ形デゴザイマス
○犬養委員　「これを」ト云フノハ文法上ドウ云フコトカ知ラナイケレドモ、ヤハリ古イ漢文カラ脈ヲ引イタ伝統カラ言フト、是ハ文章ニ弾力ヲ与ヘル非常ナ滋養分デ、ナクテモ宜イガ、アレバ尚ホ宜イ、「ベルト」ミタイナモノデ、アツタラ違法ト云フモノヂヤナイ
○鈴木（義）委員　私モソレハ同感ナンデス
○芦田委員長　一寸前ニ戻リマスガ、「そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであり」ト云フノヲ、森戸君ノ案デハ「信託によるものであつて」ト斯ウヤル、是ハ元ノ通リ「信託によるものであり」トヤツテハイケマセヌカ、其ノ下ニ「その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し」トナツテ、ソレト三ツ同ジ文句ガ並ベテアルノデスガ……
○森戸委員　ソレハ私モ初メノ案デハ四ツ一緒ニシタノデス、併シ上ノ一ツガ多少重要ナモノニナツテ、後ガ掛ツテ居ルト云フ理由デ、「信託によるものであつて」ト云フコトノ方ガ……
○芦田委員長　是ハ総論ダト云フ訳デスカ
○森戸委員　エエ、是ハ法制局ノ方ノ説明デ「ホイッチ」ノ後ハ皆説明ナノデ、初メノガ……
○北（れい）委員　森戸君ノ其ノ説ニ私モ賛成デス、総括的ニ国政ト云フモノハ抑々国民ノ崇高ナ信託デアルト云フコトガ一旦別ニナツテ、ソレカラ個別的ニ説明シテ、「その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者これを行使し、その福利は國民がこれを享受する」、先刻森戸君ニ賛成シタケレドモ、此処デ人類普遍ノ原理ヲハツキリ言ヒタイノデス、斯ウ云フコトガ「人類普遍の原理である」ト切ルナラ、此処デ切ツテ、「この憲法はかかる原理に基くものであつて、我らはこれに反する一切の法令と詔勅を廢除する」、サウスレバ原理ガ一ツ少クナル、ドウモ全体ヲ固メテ人類普遍ノ原理ト受ケルヨリモ、人類普遍ノ原理デアルカラ、斯ウ云フ間違ヒヲヤツテハナラヌ、「人類普遍の原理である」ト此処デ切リタイノデス
○芦田委員長　分リマシタ、ソレデ結構デス
○林（平）委員　「あつて」デモ「あり」デモ総論的意味ニ変リハナイト思フノデスガネ、文勢ト云フ点カラドツチガ宜イカト云フコトデ、「あり」トシタ為ニ総論的デナクテ各論ト同格ニ下ルト云フコトニハナラナイ、文ノ勢ヒデドツチガ宜イカト云フコトデス
○犬養委員　勢ヒハ「あつて」ノ方ガ強弱ガ付クデセウ
○北（れい）委員　ヤハリ森戸君ガ御考ヘニナルヤウニ、「これは人類普遍の原理である」ト此処デ切ツタラ宜イデセウ、是レ全体ガ「人類普遍の原理である」、サウシテ「この憲法はかかる人類普遍の原理に基くものであつて、我らはこれに反する一切の……」トシタイ
○森戸委員　西洋ノ言葉デ書ケバ、直グニ「この原理は」或ハ「この人類普遍の原理は」ト書ケバ、ハツキリ分ルト思フノデス
○北（れい）委員　斯ウ云フコトガ人類普遍ノ原理、憲法以上ノ原理デアル、此ノ憲法ハ如上ノ原理ニ基クモノデアル、斯ウスル方ガ宜イ、「國政は、國民の崇高な信託によるものであり、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その利益は國民がこれを享受するものであつて、これは人類普遍の原理であり、この憲法は、この原理に基くものである」ト云フ風ニ後カラ普遍ノ原理ダト云フノハドウモ弱イ
○笠井委員　ヤハリ人類普遍ノ原理ハ前ニ置ク方ガ強クナリマス、四ツノコトガ此ノ人類普遍ノ原理ニ基イテ憲法ヲ制定スルト云フノデスカラ、北君ノ説ガ正当ダト思ヒマス
○芦田委員長　北君ノ説ハ、「國民がこれを享受するものであることは人類普遍の原理であり、この原理はかかる原理に基くものであつて、われらは」云々、斯ウナルノデスネ
○森戸委員　サウスルト、アツテアツテト続クシ、ソレデナクテモ是ハ人類普遍ノ原理デアルト云フコトハ大体分ルノデ、ソレヲ略シテ、此ノ憲法ハ斯カル人類普遍ノ原理デアルト云フコトデ意味ハ通ズルノデハナイカ、文章トシテモ其ノ方ガ読ンデ自然ニ感ズルノデハナイカ
○北（れい）委員　此ノ前文ノ一番終ヒニモ「日本國民は、國家の名譽に懸け、全力をあげてこの高遠な原理と目的を達成することを誓ふ。」ト、此ノ原理ト云フコトガ基本ニナツテ居ルカラ、ヤハリ受ケルモノデアル、人類普遍ノ原理デアルト切ルノハ賛成デス、原理ト云フ言葉ガ多過ギルカラ、一ツ除クノハ賛成デス、ヤハリ斯ウ云フノガ人類普遍ノ原理デアル、デアリマスト云フダケデハ少シ弱イ、其ノ原理ガ基礎ニナツテ憲法ハ制定サレルト云フ形ニシタイノデスネ、ヤハリ元ノ形ヲ大体生カシタイ
○森戸委員　原文ヲ読ンデサウ書イテ、非常ニソレガ誤解ヲ起スカドウカ、ソレデ日本語トシテ意味ガ十分通ズルノデハナイカ、前文ノ続キナラ引掛ケテ読ムト、或ハサウ云フ風ニシタラ宜イト思ハレルガ、是ハ前文ヲ離レテ読ンデ、ソレト反対ノ印象ヲ受ケルカドウカト云フト決シテサウデハナイヂヤナイカト私ハ思ヒマス
○北（れい）委員　斯ウ云フヤウナ順序ヲ変ヘルト云フコトニ付テハ、余程優レタ根拠ガナイト似タカ寄ツタカニナル、ヤハリ政府ノ原案ニ近イ方ガ宜イヂヤナイカ、ヤハリココニ普遍ノ原理ヲ謳ウタ方ガ宜イ、憲法ハソレニ基クモノデアル、「この原理に基くもの」ト云フノハ、之ニ基クモノハト更ニ縮メレバ縮メラレマス、「我らは、この憲法に反する一切の法令と詔勅を廢止する」、之ニ付テモ一切ノ法令ト詔勅ナラ、憲法ダカ原則ダカ分ラヌガ、一切ノ憲法ト法令ト詔勅ヲ廃止スルト云フ言葉ガ入レバ、之ニ反スト云フコトハ原理ニナルト思ツテ居ル、ダカラ二ツ固メテ「われらは、これに反する」……
○原（夫）委員　色々名論ヲ拝聴シテ居ルノデアリマスガ、斯ウ云フコトハ我々頭ノ旧イ者ニハ判断ガ出来ナイノデアリマスガ、大体「人類普遍の原理」ノ所ガ肝要ニナルト思フノデス、結論ノ所ニモ引用シテアルノデアリマスガ、第一番ニ原理デアツテト云フト、ドナタモ此処ヲ訂正シタノデアリマスガ、ヤハリ今ノ北君ノ言ハレルヤウナ人類普遍ノ原理デアルト此処デ一ツ切ツテ戴キタイト云フコトト、ソレカラ此ノ憲法ヲ確定スル、「そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであり、その權威は」云々、是ハヤハリ原文ノ方デモモツトスラツトシテ居ル、斯ウ云フ書キ方ハ最初大キナコトガ言ツテアツテ、ソレヲ註釈的ニ色々ナ応用ノ方ニ付テハ意味ハ後ヘ続ケテ書クト云フ日本ノ手紙ノ文字トハ少シ違フヤウナ趣デアルガ、此ノ口語体デモ原文ガ余程ハツキリシテ、権威ヲ持ツヤウニ此処ニ載ツテ居ルノデスガ、大体ニ於テ是等ハ原文ヲ土台トスルノガ宜イヤウニ思フ
○森戸委員　ソレデハ斯ウシタラドウデスカ、其ノ福祉ハ国民ガ之ヲ享ケルモノデアル、是ハ人類普遍ノ原理デアリ、此ノ憲法ハ此ノ原理ニ基ク、トシタラドウデスカ
○原（夫）委員　結構デスネ
○芦田委員長　モウ一度之ヲ読ンデ下サイ
○森戸委員　「これを享受するものである、これは人類普遍の原理であり、この憲法はこの原理に基く」……
○芦田委員長　「この憲法はこの原理に基く」ト云フノカ、「かかる原理に」ト云フノデスカ
○森戸委員　「かかる」ノ方ガ宜イデスネ
○芦田委員長　一寸読ンデ見マス、「その利益は國民がこれを享受するものである、これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものであつて、われらは、これに反する一切の」云々……
○森戸委員　「基く」デ切ルノデス
○芦田委員長　「この原理に基く」トヤツテ、「われらは、これに反する一切の」云々ト云フノデスネ
○森戸委員　北君ノ御説モサウデスカラ、如何デアリマスカ
○北（れい）委員　僕ハズツト前ト照シ合ハセテヤラナイトイカヌト思フ、国民ノ主権ト云フコトヲ宣言シテ此ノ憲法ヲ制定スル、政府ガ勝手ナコトヲヤツテ、戦争ナド起サナイヤウニスルコトニ決意シテ、国民ノ主権ヲ宣言シテ、此ノ権法ヲ宣言スル、「そもそも」ト云フノハ、政府ヲ大キク受ケテコンナモノデアルト云フコトカラ出テ来ナイト……
○犬養委員　「これ」ト書イテアルノハ漢文ノ「テクニック」デス
○北（れい）委員　「そもそも」カラ掛ツテ来テ、抑々国政ト云フモノハ斯ウ云フモノデアルト云フコトガ普遍的ナ原理デアルト云フコト、政府単独ノ行動デ戦争ナドヲヤツテ貰ツテハ困ルト云フコトヲ声明シタモノデハナイカ
○原（夫）委員　北君ノ国政ノ問題ハ幾度カ聴カサレテ居ルノデスガ、此ノ憲法ヲ確定スルト云フ所マデハ戦争ノ関係ヲ言フノデスガ、是カラ後ハ一寸「これ」ト改マツテ、ヤハリ広イ意味デアルト云フコトヲ一ツ頭ニ持タレテ、国政ト云フ文字ニサツト妥協ナサツテハ如何デスカ
○北（れい）委員　今ソレヲ言ウタノデスガ……
○芦田委員長　問題ハ、「その利益は國民がこれを享受するものである」ト一旦切ツテ、ソレカラ「これは人類普遍の原理である」若シクハ「享受するものであることが人類普遍の原理である」ト云フコトニ続ケルカト云フコトガ今問題ニナツテ居ルノデス
○吉田（安）委員　森戸サンノ今ノ修正案ノヤウニ、「その利益は國民がこれを享受するものである」、「これ」デ切ツテ「これは」ト云フノヲ又生カシマス、ココデ大キナ意味ガ含蓄サレテ来マスカラ、「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、この原理に基く」、ココデ又大キク収マリマシテ、ダカラ「われらは、この憲法に反する」云々ト斯ウ来マスカラ是デ宜クハナイカト思ヒマス
○北（れい）委員　私ハ意味デ反対スルノデハナイノデス、「そもそも國政は」斯ウ云フモノデアルゾヨト云フコトカラ説明シテ居ルカラ、是ガ人類普遍ノ原理デアルト云フコトニ固マラナイト、「そもそも」ガ入ツテ来ナイ
○犬養委員　「これ」デ一遍切ツテ、是ハ「トラディシヨナル」ナ「テクニック」カラ来テ居ルノデ、私ハ吉田サンノ御意見ニ賛成デス
○北（れい）委員　私ハ「である」ト切ルノデハナイ
○吉田（安）委員　日本語デハイツモ斯ウ云フ行キ方ヲスル
○芦田委員長　「これは人類普遍の原理であり」ト云フノデスカ――是ガ進歩党ト社会党ノ受諾ノ出来ル案デスカ――北君ドウデスカ
○北（れい）委員　「そもそも」ト云フソレ以下ハ、国政ノ本質ヲ説明シテ、国政ト云フノハコンナモノダト云フコトデ、「人類普遍」マデハ「そもそも」デ説明シタイ、「これ」ダト二度ニナル、之ヲ一ツニ纏メタイ
○鈴木（義）委員　ソレハ能ク分ツテ居ル、分ツテ居ルガ、其ノ「エクスプレッス」ヲドウスルカト云フ問題デス、コチラハ国政ト云フモノヲココデ説明シテ切ツテ少シモ差支ヘナイ、「これは」ト云フ接続詞デ以テ繋イデ行ツテ……
○北（れい）委員　少シ論理的ニ違フノハ、抑々国政ガ斯ウ云フモノデアルト云フコトハ人類普遍ノ原理デアル、憲法ハ此ノ原理ニ基クノデアル、ココデ受ケルモノデアルト云フト、是ハ人類普遍ノ原理デアルト又説明シテ、ソコヘ憲法ニ基クトナル、僕ハ人類普遍ノ原理ガ斯ウ云フモノデアルト先ニ言ツテ、憲法ハ斯ウ云フモノデアルト云フノガ論理的デハナイカト思フ
○江藤委員　大体御話ノ意味デハ皆サンモ御一致デアルシ、表現ノ微細ナ点ニ於テ色々御意見モアルヤウデアリマスガ、私ハ大体先刻吉田サンノ言ハレタコトデ宜シイト思フ、尚ホ先刻森戸サンノ訂正文ノ御話ガアツタヤウニ、一応決メテ置イテ、文章ノ細部ニ於テハ又モウ一遍読ミ返スト云フコトニナツテ居ルカラ、其ノ時ニモウ一遍読ミ返スコトニシタイト思ヒマス
○林（平）委員　森戸サンニ賛成致シマスガ、「原理に基く」ト此処デ切ルコトハドウデスカ、「ものである」ト云フコトガアツタ方ガ宜イト思フ、上ノ方ハ賛成デス
○芦田委員長　林サン、意味ハ同ジデセウ、斯ウ云フ場合ハ口調デス
○林（平）委員　文体デス
○佐藤（達）政府委員　「と」ノ点ニ付テ補足致シマス、政府トシテハ文部省ノ専門家ノ意見モ徴シマシテ、一応「と」ノ字ヲ入レナイ形デ今マデ勅令ナド口語体デ出シテ居リマス、今議会ニモ法律案ヲ出シテ居リマスガ、ソレ等ハ下ノ方ノ「と」ヲ省イタ形デ出シテ居リマス
○鈴木（義）委員　是カラハサウシヨウト云フノデスカ
○佐藤（達）政府委員　サウ致シタイト思ヒマス
○芦田委員長　ソレデハ小委員会ノ発表ニ付テ御相談致シマス、「小委員會ハ午前十時半開會、憲法改正案前文ノ修正ニ付キ引續キ意見ヲ交換シ、其ノ前半ニ付テハ略々意見ノ一致ヲ見タ」、是デ宜シウゴザイマスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ是デ休憩致シ、午後ハ一時半ヨリ開会致シマス
　　　　午後零時十八分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　　　午後二時零分開議
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、森戸君、鈴木君ニ御相談シマスガ、此ノ前文ノ後半ニ於テ問題トシテ残ツテ居ルノハ、昨日ノ「專制と隷屬と壓迫と偏狹」、其ノ後ヘ更ニ文字ヲ加ヘルカ否カト云フ点ダケガ残ツテ居リマシテ、アトハ略々昨日通リデ何処カラモ修正案ガ出ナイノデス、其ノ加ヘナイガ良イカ、加ヘルガ良イカト云フ点ヲ今大体ノ意向ヲ御諮リシタ所ガ、自由党、進歩党、協同党及ビ新政会ハ加ヘナクテモ是デ宜カラウト云フ意見ナンデスガ、一ツ此ノ際デスカラ、多数ノ者ガサウ云フ考ヘダカラト云フコトデ妥協ヲ御願ヒシタイノデスガ
○森戸委員　理由ハドウ云フ理由ナンデセウカ
○芦田委員長　理由ハ若シ此処ニ世界ヲ本当ニ平和ニシテ王道楽土ヲ築カウトスルナラバ、除去シナケレバナラヌモノハ数々アル、ソコヘ「窮乏と搾取」ト云フ字ヲ入レテモ、尚ホ入レナケレバナラナイモノハ沢山アル、併シソレハ一々挙ゲル訳ニモ行カナイカラ、一ツ例示的ニ挙ゲテ居ル四ツノ事柄デ満足シテ、ソレデ宜カラウヂヤナイカ、斯ウ云フコトナンデス
○森戸委員　ソレハ非常ニ違フト思フノデス、挙ゲレバ幾ラデモアルト云フガ、寧ロ今日社会的害悪トシテ一番問題ニナツテ居ルノハ窮乏ト搾取ト云フコトデアツテ、日本ノ現在立ツテ居ル所モ、政治上ノソレヨリモ、ソチラノ方ガ問題ナンデス、世界デモソレガ問題デアル、今日憲法ヲ作ルナラバ、之ヲ抜カシテハ一番ノ眼目ガ抜ケテシマフ、他ニモ無限ニアルト言ヒマスケレドモ、サウ云フモノトハ全ク性質ノ違フ問題デアリマス、例ヘバドウ云フモノガアルカ知ラヌガ、大キナモノトシテハソンナニナイト思フ
○芦田委員長　ソレモ一ツノ見方デス、殊ニ経済学ヲ主トシテ全生ノ事業トシテヤツテ来ラレタ森戸君カラサウ云フ意見ノ出ルコトハ能ク分ルガ、之ヲ精神方面カラ考ヘル人カラ云フト、貧乏ヲシタツテ精神的ナコトニ比ベレバ大シタコトヂヤナイノダト云フ意見モアルシスルカラ、是ハ各人ガ重シトスルコトヲ一々主張シタナラバ、ヤハリ其ノ外ニモ色々アルト思フノデス
○森戸委員　イヤ、各人デハナクシテ、寧ロ社会的ニ今日ノ文明社会ノ共通ノ事実ガソコニアルノデハナイカ、是ハ私一個人ガ経済学ノ勉強ヲシタトカ何トカ云フ訳デハナイ、今日世界ノ問題ハ何ガ問題ニナツテ居ルノカ皆御存知デセウガ、サウ云フコトヲ考ヘルト、此ノ問題ハ例ヘバ此処ニ書イテアル「イントレランス」ト云フコトヨリモズツト大事ナ問題デアル、是ハ私ハ世界的事実ダト思フ
○芦田委員長　併シ第三章ニドウセアナタノ方カラノ提案デサウ云ツタヤウナモノガ入ルデセウ、ダカラドウセ入ルノデアツテ、全部出ナイ訳ヂヤナイ、第三章デ御入レニナル方ガ寧ロ容易ヂヤナイカ、ソレダカラ此ノ委員会ノ空気トシテハ前文ノ所ハ或ル程度デ妥協シテ戴イタラドウカ、斯ウ云フコトデス
○森戸委員　ソレハ第一ガ政治的問題、第二ガ精神的問題、第三ガ私共ノ言フノハ社会的、経済的問題ニ重点ヲ置クノデ、詰リソレガ前文ニ於テ、殊ニ第三章ニ於テ、或ハ全体ノ章条ニ於テ具体化サレルト云フコトガ此ノ憲法ノ建前ニナツテ居ル、ダカラ殊ニ三章ニ於テソレヲ述ベレバ、述ベルト云フコトデ、此ノ前文ニ於テハ、総合的ノ場合ニ明示シテ置クコトガ必要ナンヂヤナイカ、是ハ私個人ノ意見ヂヤナイノデ、党トシテモ其ノ点ニハ非常ニ重点ヲ置イテ居ル、他ノ問題ヨリモ一番重点ヲ置イテ居ル所ナンデス
○原（夫）委員　森戸サン、私ハ斯ウ思フノデスガ、「窮乏と搾取」ト言ヘバ、是ハ文字ハドウ云フ風ナ御解釈カハ後ニシマシテ、前文ノ第一項デ戦争ノ惨禍ヲナイヤウニシヨウ、国政ハ国民ノ崇高ナ信託ニヨルト云フヤウナ人類普遍ノ原理ヲ説イテアルノデス、其ノ次ニ第二項ノ所デ「我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した」ト、其ノ生存権ト安全トヲ挙ゲテ決意シテ、ソコデ平和ヲ強調シテ居ル、然ル所、平和ノ下ニ専制トカ隷属トカ圧迫トカ偏狭ト云フモノガアツテハ、世界ノ安全ト生存、平和トニ害ガアルカラ之ヲ除去シヨウ、ト言フテ、其ノ続キニ「恐怖と缺乏から解放され、平和のうちに生存する權利を有することを確認する」ト云フ確認ヲ与ヘテ居ル、サウスルト、此ノ文章ノ続キカラ見ルト、此処ニ突然「窮乏と搾取」ト云フコトヲ明示スルノハ、他トノ権衡ヲ得ナイヤウニ思フノデス
○森戸委員　ソレハドウ云フ訳デセウカ、例ヘバ「偏狹」ナドト云フノガアルノデスガ　「窮乏と搾取」ヲ入レルト工合ガ悪イト云フコトハ私ハナラヌノヂヤナイカト思フ、而モ是ハ「國際社會」ニ掛ツテ居ル、国際社会ノ大体ノ傾向ハ私ハサウ云フ所ニアルノヂヤナイカト思フ、国際連合モ一ツハサウ云フ目的ヲ持ツテ居ルノヂヤナイカ、貧窮ト云フ問題モ其ノ中ニ含ンデ居ルト思ヒマス
○原（夫）委員　サウスルト、「窮乏と搾取」ト云フコトハ、他ノコトニ換ヘテ言フトドウ云フ意味ニナルノデセウカ
○森戸委員　「窮乏」ト云フノハ貧乏デス
○原（夫）委員　ソレハ此処ニ「缺乏から解放」デ保障シテ居ルヂヤアリマセヌカ
○森戸委員　此ノ「缺乏」ハ、国民ガ、各国民ノ間デ軍国主義ヤ色々ナモノニ侵サレナイト云フノデ、国民ガ富源ヲ持ツテ居ツテモ、其ノ国ノ中デ色々専制政治ガ行ハレタリ、貧乏ガアツタリスル場合モアリ得ルト私ハ思フノデス、デ、是ハ寧ロ一般的ノモノデ、アトノモノハ私ハ国民間ノ関係ト云フ風ニ解スベキダト思ツテ居リマス
○原（夫）委員　併シナガラ昨日修正セラレタ所ハ、二頁ノ一行目ノ「すべての國の國民」ト云フ所ヲ「全世界」ニ直シタ訳デスガ、端的ニ広イ意味デ、前文ハ我ガ国ノ状態トモ限ラナイシ、貧乏ナノトカ、無暗ニ虐ゲテ搾取スルト云フヤウナコトハ、意味ガ一寸狭イデハナイカト思ヒマス
○江藤委員　森戸サンガ言ハレル「窮乏と搾取」ト云フノヲ入レルト云フ意味ハ、其ノ前ニアル「專制と隷從」、是ハ政治的ノモノデアル、「壓迫と偏狹」、是ハ精神的ノ意味、ソレト経済的ノ意味ヲ含ンデ居ル、今斯ウ云フ御話デスガ、其ノ意味ヲモウ少シハツキリ森戸サンカラ御伺ヒシタラ、段々ハツキリ分ルノデハナイカト思ヒマス、例ヘバ窮乏ト搾取ト云フヤウナ色々ナモノガ、社会党アタリデハ、社会主義カ資本主義カト云フヤウナコトデ主張サレテ居ル、窮乏ト搾取ト云フヤウナモノハ資本主義経済ニ於テハ必然的ニ内在スルモノデアルト云フ風ナ意味デ、斯ウ云フモノヲ入レルト云フ風ニ御主張ニナルノダト私ハ思ヒマスガ、其ノ辺ノ所ヲ森戸サン、モウ少シ詳シク御伺ヒシタラハツキリシテ来ルノデハナイカト思ヒマス
○森戸委員　社会的ナ、一般ノ資本主義的ナ貧乏ト云フノハ資本主義ノ社会ニ必要デハナイト思ヒマス、貧乏ハ必ズシモ資本主義ノ特徴デハナイ、資本主義モ非常ナ特徴ヲ持ツテ居ル、併シ資本主義ノ下デモアルケレドモ、貧乏ヲ克服シテ行クト云フコトハ、英国ノ保守党デモサウ云フコトヲ主張シテ居ルノデスガ、必ズシモ資本主義ヲ倒壊シナケレバナラヌト云フ結論ニハナラヌト私ハ思フ、併シ社会主義ノ主タル目的ハ――是ハ社会主義ダケデハナイノデスガ、貧乏ヲ除クト云フコトニアルノデスカラ、是ハ最モ其ノ線ニ沿フノダケレドモ、資本主義ダカラ貧乏ハヲカシイト云フヤウナ主張デハナイノデスカラ、ソチラノ立場モ受入レテ宜イ、唯問題ハ搾取ト云フ言葉ニ付テ色々ナ連想ガアルノデ、或ハ虐使トカ酷使ト云フヤウナ言葉ヲ使フト云フコトモ考ヘラレタノデアリマス、何レニシテモ経済的ナ非常ナ形態ト云フコトニ付テ、新ナル国際社会ガ無関心デアルト云フコトハアリ得ナイト私ハ思フシ、又サウ云フ所ニ十分ノ関心ヲ持ツテ居ルノガ、是カラ出来ル国際社会ノ本当ノ特徴デアルト私ハ考ヘテ居リマス
○北（れい）委員　此ノ憲法ノ主義ハ、国内デ自由主義ガ徹底シ、国際的ニ平和主義ガ徹底スレバ、世界ノ人々ハ皆恐怖ト欠乏カラ逃レルコトガ出来ルト云フ趣意デアルト思フカラ、改メテサウ云フコトヲ言フ必要ハナカラウト思フ、殊ニ搾取ト云フ言葉ハ余程社会主義的ニナルコトハアナタノ説明ヲ俟ツマデモナイ「エクスプレッション」デスガ、此ノ字ヲ用ヒルト一ツノ臭味ガ出ルト思フ、私ハ其ノ一ツノ「イデオロギー」ヲ蔵スルト云フ意味ニ於テ、国内ノ自由主義、国際的平和主義ト云フ大体ノ大建前カラ言ツテ、一ツノ色彩ヲ出ス、此ノ自由主義ト国際平和主義ガ徹底シテ、此ノ憲法ガ民主主義的デアルカラ、此ノ憲法ノ精神デ国内的ニ色々ノ法規ヲ設ケレバ、搾取ト被搾取トノ関係モ自ラ止マセルコトガ出来ル、社会党ガ段々勢力ヲ得テ国民ノ協力者ヲ得、殊ニ政権ヲ握ルヤウナコトニナレバ、自然ニサウ云フコトハナクナルカラ、改メテサウ云フコトガ歴史的ノ意味ガアル、搾取ト云フ言葉ヲ用ヒルコトハ私ハ反対デス
○森戸委員　今ノハ一ツノ「イデオロギー」デアツテ、サウ云フ「イデオロギー」デ入レラレナイト云フコトデアレバ、「イデオロギー」ノ争ヒニナツテ収拾セヌト云フコトニナル、ダカラサウ云フコトデナク、客観的ニ今日ノ社会的害悪ガ――政治的害悪アリ、精神的害悪アリ、社会的ナ経済的ナ害悪ガ今日殆ドナイトカ軽イトカ言ハレルナラバ、ソレハ私ハナクテモ宜イト思フ、併シ今日ノ世界ノ情勢カラ見テ、何処ノ国デモ一番困ツテ居ルノハ、恐ラク宗教ノ問題ヨリハ貧乏ノ問題デアル、随テサウ云フ問題ヲ此処デ特殊ナ「イデオロギー」――自由主義ト言ヘバソレデ解決スルト云フヤウナ「イデオロギー」デ述ベルト云フコトハ全然宜クナイ、サウ云フ客観的ノ事態ニ処シテ入レルナリ入レナイナリ――私ノ唯搾取ト云フノハ、社会主義的ナ匂ヒガアルナラ、其ノ言葉ハ或ハ客観的ニ変ヘタラ宜イ、サウ云フ形デ若シ入レラレルナラバ結構ダト思ヒマス
○犬養委員　今ノ搾取ヲ入レルカ入レヌカト云フコトニ関連スルノデスガ、一寸ゴツイヤウダガ何カ宜イモノハナイノカ
○森戸委員　酷使ト云フヤウナ言葉ハ宜イノデスガ、此ノ中ニ入ツテ居ルノデス
○北（れい）委員　子供ハ酷使シテハナラナイトカ……
○森戸委員　貧乏トカ窮乏トカ……
○犬養委員　ソレナラ非常ニ取上ゲ方ガ広クナル
○江藤委員　今ノ森戸サンノ説明デ、窮乏ト搾取ト云フモノヲ此処ニ挿入シヨウト云フ御考ヘハ、必ズシモ社会主義的ナ一ツノ世界観ト云フ風ナモノカラ出発シテサウ云フコトヲ言フノデハナイト云フコトガハツキリシタ訳デアリマス、唯ソレニモ拘ラズ、此ノ搾取ト云フ文字ハ相当社会主義的ナ、政党的ナ匂ヒガスルカラ、酷使ト云フコトニ変ヘタラドウカト云フヤウナ御話デスカラ、サウ云フヤウニ単ニ客観的事実ヲ掴ヘテ、ソレヲ除ケヨウト云フコトノ主張デアレバ、是ハ皆サンガ別ニ反対ハナイダラウト思フ、私ハサウ云フ感ジガスル
○森戸委員　今ノ御尋ネ一寸誤解ガアルノハ、社会主義、社会党ガサウ云フコトヲ主張シテ居ナイト云フノデハナイノデ、此処ニ私ガ言フ場合ニハ、社会党ノ「イデオロギー」トハ離レテ、寧ロ客観的ナ社会的ノ害悪トシテ之ヲ加ヘルコトガ宜イ、斯ウ云フコトデス、社会主義ヲ否定シテ居ルトカ、サウ云フモノガ社会主義ノ逆デアルト云フヤウナコトデハナイ
○江藤委員　サウ云フコトトハ関係ナシニ仰シヤラレタト云フコトヲ言フノデス
○森戸委員　是ハ資本主義ノ上カラモ、或ハ社会主義ノ上カラモ、或ハ封建主義ノ上カラモ……
○北（れい）委員　ドウデセウ、森戸君ノ希望トシテハ「專制と隷從」、「ティラニー」ト「スレーヴァリー」――賃金奴隷的ニ考ヘテ居ルノモ此ノ隷従ノ仲間デ、労働者ノ権利ヲチツトモ認メテ居ラナイデ、資本ノ専制ヲヤラウ、政治的専制ノミナラズ経済的専制、経済的ノ賃金奴隷的ナ待遇ヲシテ居ルノハ之ニ含マレテ居ルト見テ差支ナイト思フ、是ガ政治的ナ「オプレッション」、是ト「ティラニー」、「スレーヴァリー」デアルトカ、ソレカラ圧迫ト偏狭ト云フノハ「イントレランス」デスカラ、共産党ト云フモノヲ嫌ツテ特別ナ弾圧ヲスルトカ、或ハ水平社ヲ嫌ツテ弾圧スルトカ、社会的ナ意味ニモ取レルシ、政治的ノ意味ニモ経済的ニモドチラニモ取レルト思ヒマス、「ティラニー」ト「スレーヴァリー」、単ニ政治的ト小サク限ル必要ハナイト思ヒマス、賃金奴隷ト云フ言葉ガアル位デスカラ……
○森戸委員　ソレハ御説ノ通リデスケレドモ、其ノ時ニハ賃金ト云フコトガ上ニ付テ居ル、実ハ「專制と隷從」ト云フコトヲ色々理窟ヲ付ケナイデ読ンデ率直ニ御考ヘニナルト、私ハ政治的ノモノガ出テ来ルト思フ、ソレカラ「壓迫と偏狹」ト云フノハ、多少言葉ガ何デスケレドモ、偏狭ト云フコトモ同ジモノヲ繰返シタモノヂヤナイトスレバ、政治的、社会的ナ意味ガアル、サウスルト社会的、経済的ト言ヒマスカ、サウ云フモノヲ一ツ加ヘル方ガ宜イデハナイカ
○犬養委員　是ハ江藤サンガ違ウタ立場カラ、胸幅ノ広イ立場カラ言ハレタノデアリマス、私ハ之ヲ今ノヤウナ経済的ト云フ、各国国別ノ経済的事情ト云フ考ヘ方デナシニ、ソレカラ非常ニ富ンダ国ト経済的条件ノ悪イ国ト、オ米モチツトモ入ラナイ国モ出来ルカモ知レヌ、サウ云フ意味カラ先手ヲ打ツテ、連合国ガ足場デ、ヤハリ世界ニ於ケル物産、資材ノ平等使用、公平ナル使用等ニ発展サセルノガ目的ト思ヒマス、森戸サンノ最初言ハレタ意味ト少シ違フト思ヒマス、サウ云フコトヲ一ツ御研究ノ課題ニシテ戴ケマセヌカ、日本ダノ朝鮮ダノ「バルカン」ダノ、中米ニモアルデセウ
○鈴木（義）委員　国際連合ノ憲章ノ中ニサウ云フ趣旨ノ言葉ガアツタヂヤナイデスカ
○廿日出委員　私ガ申シマシタヤウニ、ヤハリ各党ノ方ガ申合セテ是ト云フコトニ決マツテ居ルモノデスカラ、我々モ之ニ付テハ忠実ニ考ヘテ居ツタノデスケレドモ、色々ト話ヲ聞イテ見テ、皆落着キサウナ話ナラバ、私等ノ私見ミタイナ気ガスルノデアリマスガ、何カ其ノ点ニ付キマシテ、最モ速ク考ヘマシタノデ、アノ言葉ヲ森戸委員カラ聞キマシテ、併シ何カ加ヘナケレバナラヌト云フヤウナ、ピント来ルモノハ来タノデス、併シ搾取ナンテ云フコトハ是ハ断ジテイケナイ、先ヅ真先ニ是ハ何カ「インスピレーション」デ思ツタ時ニ、国際的ニ考ヘテモ、国内的ニ考ヘテモ、経済的ナ意味ヲ随分上手ニ盛込ンダ言葉トシテハ、専有ダトカ、独占トカ云フヤウナ言葉ハドンナモノカシラト言ツテ、唯サウ思ツテ、ソレダケ打明ケタノデスガ、コンナコトヲ党議トシテ申上ゲテ居ルノデモ何デモナイ
○林（平）委員　此ノ第二項ハ主トシテ世界的ト云フカ、国際的ト云フカ、国際的ノ心構ヘヲ載セタモノデセウネ、搾取、圧迫ト云フコトハ国内経済事情ノヤウニモ取レルノデアリマスガ、此ノ第二項ハ大体ニ於テ世界ニ意思表示ヲスルヤウナ風ニ取レルノデアリマスガ、サウヂヤナイノデスカ
○芦田委員長　是ハ「ルーズヴェルト」ノ四ツノ自由ト云フコトヲ其ノ侭此処ニ書クヤウナ気持ナンデセウネ、其ノ中ニ恐怖ト欠乏カラ免ガレ、ト云フコトハ、四ツノ自由ノ文字ソツクリ其ノ侭持ツテ来タト思フ、サウ云フ四ツノ自由ヲ全世界ノ人間ガ享有スベキダト云フノデ……
○林（平）委員　此処ニ「國際社會に伍す」トカ、「全世界の國民が」云々トカ云フ国際的ノコトガ現ハレテ居ルカラ……
○芦田委員長　初メノ方ハ日本ト云フ国ヲ頭ニ置イテ考ヘル時ニ、日本ノ今日アルノハ、主トシテ専制ト隷従、圧迫ト偏狭、是ガ日本ヲ今日ニ至ラシメテ居ル、先ヅ以テソレヲ叩キノメシテカラ行ケ、其ウ云フ気持ダラウト思フ、是ハ私ノ想像デスヨ、其ノ後ヘ持ツテ来テ四ツノ自由ト云フ思想ヲ書イタ、私ハ英文ヲ書イタ人ノ頭ノ傾向ハサウ云フコトダツタト思フノデス、ソレダカラ初メノ偏狭トカ圧迫トカ云フコトハ、最近ノ日本ニ於ケル最大ノ欠陥ハ何処ニアルカ、斯ウ云フコトヲ頭ニ置イテ書イタンダカラ、貧乏ノ方ハドウセ戦争ニ負ケタンダカラ、オ前達ガ我々ヨリ低イ暮シヲヤルト云フコトハ当リ前ダト云フノデセウ、唯森戸君ノ意見トハ別ノ話ダガ、書イタ人ノ頭ハサウ云フコトダラウト思フ
○森戸委員　確カニサウダガ、ソレハ我々ガ直グ受入レル必要ハナイ、寧ロサウ云フ点ニ於テハ、我々ガソレヲ改メテ補ツテ行クコトガ寧ロ必要ナンデ、サウデナカツタラ、日本デ憲法ヲ我々ガ議スル必要ハナイ
○芦田委員長　ソコデ先程私ガ言ツタヤウニ、第三章ニソレヲ入レタ――貧窮ナント云フモノ、窮乏ナント云フモノヲ叩キノメスト云フコトハ、単ニ文字デ入レタ所デ、之ヲ裏付ケスル各種ノ法制ト財政的ノ施設ガナクチヤドウニモナラヌコトダ、ソコデドウデスカ、其ノ文字ガ入ツテナクテハ、将来日本ノ憲法ハウマク運用出来ヌト云フヤウナ重大問題ヂヤナイヂヤナイデスカ
○森戸委員　ソレナラ圧迫、偏狭ト云フヤウナコトモ必要ハナイヤウニ思フ
○芦田委員長　ソレハ私ガ今申上ゲタ、僕ノ推測ニ過ギナイカモ知レヌガ、サウ云フ頭デ書イテ居ルンダカラ……
○森戸委員　ダカラ我々ガ審議スル限リハ、之ヲ是正シテ宜インデハナイカ、是正シテ悪イト連合国カラ言ツテ来ル心配ハ断ジテナイト思フノデス
○芦田委員長　ソレハサウデス、併シサウスルト是ハ全部書キ直サナクチヤイケナイノデス
○森戸委員　ソレハサウ云フ意味デ申上ゲテ居ルノデハナイ
○芦田委員長　第二章ノ戦争抛棄亦然リ、終リノ最高法規ト云フヤウナコトモサウダシ、正直ニ言ヘバ一貫シタサウ云フ思想デ出来テ居ル、ソレヲ元ニ引戻サウト云フコトニナルト、相当大規模ナ修正ヲヤラナケレバナラヌ
○森戸委員　サウ云フコトヲ言ツテ居ルノデハナク、窮乏ト搾取ト云フ四字ヲ入レタラドウカト云フ問題デ、其ノ四字ヲ入レルカドウカト云フコトハ、技術上モ極メテ簡単ナコトデアリ、日本ノ実情ガサウデアリ、外ノ関係デモサウデスカラ、非常ニ悪イ改正ヲシタト云フコトニモナラヌシ、サウ云フ事情ナラバ、私ハオ入レ下サツテモ決シテ無理ヂヤナイ、日本ノ実情ニ鑑ミテモ、外ノ国ノ事情ニ鑑ミテモ、我々ガ憲法ヲ議スルノニ、恐ラク占領軍モ日本ノ事情ハ能ク知ツテ居リマスシ、サウ云フ所デサウ云フ字ガ差シ挟マレタカラト云ツテ、別ニ之ヲ怪シカラヌト言フ筈モナイダラウト思フ、サウシテ国民ノ要望ガサウデアルナラバ、強ヒテ之ヲイケナイト言ハレル理由ガ僕ニハドウモ能ク理解出来ナイノデス
○犬養委員　第三章デハ相当社会党ノ主張サレルコトヲ拝聴スル好意ヲ持ツテ居ル訳デスカラ、其ノ時ト睨ミ合セテハイケナイデセウカ
○芦田委員長　サウ云フ趣旨ノコトヲ一応御話シタノデアリマスガ……
○犬養委員　ドウデスカ、森戸委員ノ御意思ハ……
○森戸委員　ソレハ其ノ時ニモウ一度考ヘテ戴クト云フ、是ハハツキリトシタ条件付デナイト困ル……
○北（れい）委員　僕ハ前ノ委員長ノ説明ガ、此ノ憲法ノ立法ノ精神ヲ能ク表ハシテ居ルト思フ、是ガ本当ニ僕等ガ戦敗国ニアラザル一人前ノ国トシテノ希望ナラ、或ハ斯ウ云フ所ヘ人種的偏見ヲ出シタリ、資源ノ公平ナル分配、領土ノ公平ナル分割ト云フ、モツト大キナ所ヲ狙ツテ居リマスガ、サウ云フコトノ言ヘル時代ヂヤナイ、日本ガ非常ニ資本主義的デアツテ、ソレガ為ニ皆ガ窮乏シテ居ルナラバ別デアルガ、資本主義ノ弊害ガ今日本全面ニ亙ツテ居ルノヂヤナクテ、戦争ニ負ケテ、之ノ回復ニ二十年掛カルカ三十年掛カルカ分ラナイノニ、資本主義的社会ヲ是正スルト云フヤウナ、日本ダケ特別ニ資本主義的弊害ノ余計ニ現ハレテ居ルヤウナ文句ヲ此処ニ用ヒルト云フコトハ、私ハドウモ承服シ兼ネル、モツト本当ニ言フナラバ、資源ノ公平ナル分配、領土ノ公平ナル分割、人種的偏見ノ打破、移民ノ自由ト云フモノヲ入レテモ宜イ、ソレガ出来ナイカラヤハリ「ルーズヴェルト」主義ノ比較的安価ナ、持テル国ノ言フ自由主義、平和主義ニ甘ンゼザルヲ得ナイ、此ノ憲法全体ニサウデス
○芦田委員長　今、北委員ノ仰シヤツタヤウナコトモ、窮乏ト搾取トハイカヌト思ヒマスガ、搾取デハナシニ、サツキ犬養サンノ言ハレタヤウニ、良イ文字ヲ使ツテ入レレバ、却テサウ云フコトモ含マレテ、面白味モ出テ来ルノデハナイカト思ヒマス
○犬養委員　森戸サンカラ言ハレタカラ、社会主義ノ伏線ミタイニ聞エルケレドモ、是ハ「クリスチャン」的ナ気持カラ言ツテモ貧乏ト云フモノハナクサナケレバナラヌ、酷使ト云フコトモドウカ、サウ云フコトハイカヌト云フ意味位ニ取ツテ、第三章ノ時ニ改メテ――今日此処デ黒白ヲ争フト云フコトハ、出ダシ勿々ドウカト思ヒマス
　　　　〔「同感」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　サウ云フコトニ願ヒマセウ、是デ前文ハ……
○林（平）委員　一寸御尋ネシマスガ、此ノ前ノ行ノ「我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した。」、是ハ原文ノ通リデスカ
○芦田委員長　原文ノ侭デス
○林（平）委員　分リマシタ
○森戸委員　サツキモ触レタノデスガ、一寸承リタイ、「國際社會に伍して、」ト云フコトガアルノデスガ、「除去しようと努めてゐる國際社會に伍して、」ト云フ「國際社會」トカ、「しようと努めてゐる」ト云フヤウナコトハ、是ハ原文ト比ベテ、ドウモ一寸其ノ真意ガ何処ニアルノカハツキリシナイ、ト言ヒマスノハ、「インターナショナル・ソサイティ・ディザインド・アンド・デディケーテッド・トゥ・ザ・プリザーヴェーション・オブ・ピース」ト云フノデスネ、是ハ除去シヨウト努メテ居ルト云フノカ、或ハ除去スル為ニ計画サレ、又ソレヲ任務トスル国際社会ト云フカ、サウスルト或ハ国際団体ノヤウナコトモ考ヘラレルノデスガ、此ノ点ニ付テ、寧ロ法制局ノ方デハドウ云フヤウニ御考ヘニナツテ居ルカ
○佐藤（達）政府委員　今ノ「インターナショナル・ソサイティ」ト云フ所ハ恐ラク其ノ団体ト云フモノガ主眼点ニナツテ居ルダラウト云フコトハ察セラレマスガ、ソレヲ直接押ヘルヨリモ、モウ一ツ広ク国際社会ト云フ所ノ段階デ押ヘタ方ガ先ヅ無難ヂヤナイカト思ヒマス、気持ハヤハリ森戸サンノ仰シヤルヤウナ所ニアルヂヤナイカト云フコトハ十分察シテ居リマス
○芦田委員長　前文ハ是デ宜シウゴザイマスカ
○吉田（安）委員　第三項ノ修正デゴザイマスガ、前文ノ最後カラ四行目ノ「自國の主權」ヲ「自國の獨立」ト云フノハ、是ハ私ノ方デ「獨立」ヲ「主權」ニ訂正シマス
○芦田委員長　ソレヲ御諮リスルノヲ忘レテ居リマシタガ、印刷物ノ終ヒカラ四行目ノ「自國の主權」ト云フノヲ進歩党ノ方デハ「自國の獨立」ト云フ字句ニナツテ居ルノデス
○吉田（安）委員　是ハ色々話ガ出マシテ、原案ノ侭ニシヨウト云フコトデ私ハソレヲ申落シマシタ
○芦田委員長　ソレデハ「主權」デ宜イノデスカ
○吉田（安）委員　サウデス
○森戸委員　昨日問題ニシテ、私一寸遅ク来タノデ分リマセヌガ、第一頁ノ「日本國民は、常に平和を念願し、」ト云フ、アレハドウナツタノデスカ、アレハ其ノ通リデスカ
○芦田委員長　「常に平和を念願し、」此ノ侭デス
○森戸委員　「常に平和を念願し、――自覺するものであつて、」マダアリマスガ、是ハ私一寸遅レテ来テ何デアルガ、此ノ形ハドウデアラウカ、少シ考慮シタラドウカト言ツテ居ツタノデアリマス、「理想を深く自覺する日本國民」トシタ方ガ形ガ良イヂヤナイカト云フヤウナ気ガスルノデス、是ハ同ジコトデスガ……
○芦田委員長　森戸君ノ今ノ御意見ハ「人間相互の關係を支配する高遠な理想を深く自覺する日本國民は、常に平和を念願し、」サウシテ「我らの安全と生存をあげて」ト、斯ウ行カウト云フノデスネ
○森戸委員　サウヂヤナイノデス、「平和を念願し――する日本國民は」……
○芦田委員長　「常に平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠な理想を深く自覺する日本國民は」ト、斯ウ行カウト云フノデスネ
○森戸委員　ハア
○芦田委員長　「日本國民は、常に平和を念願し、」ソコデ「コンマ」ガアルカラ宜イヤウナモノデアルガ、サウ来ルヤウナ気ガスルノデス、ソレト同時ニ形容詞ガ余リ長イト、「日本國民」ノ形容ニナルノダカラ、ソレガ一寸躊躇シタ理由ヂヤナイノデスカネ、英文ナラバソレデ宜イケレドモ……
○森戸委員　是デ読ムト「日本國民は常に平和を念願し」トハ読マナイ、原文ヲ知ツテ居レバ別デスケレドモ、原文ヲ知ラナイデ居レバ……
○北（れい）委員　「自覺するものであつて」マデ一廻リ来マス、「深く自覺する」主体ハ「日本國民」ニナツテ参ル、「自覺する」「念願する」ト云フ動詞ガ二ツアレバ、主体ハドウシテモ「日本國民」ニナラザルヲ得ナイ
○芦田委員長　念ノ為ニドナタカニ正確ナ修正ノ「テキスト」ヲ読ンデ戴キマセウカ、ドナタカ自信ノアル「テキスト」ヲ持ツテ居ラレマスカ
○北（れい）委員　是ハ修正スルコトニナツタノデスカ
○芦田委員長　ココデ一応纏マツタ修正ヲ読マナイト誤解ガアツテハイケナイカラ……
○北（れい）委員　ソレカラ先ツキ社会党ノ諸君ガ居ナカツタ時ニ三行目ヲ問題ニシタノデスガ、政府ノ行動ニ依ツテ再ビ戦争ノ惨禍ガ発生シナイヤウニスルコトヲ決意スル、戦争ノ惨禍ヲ繰返サナイ、デハイケナイ、「リピート」ノ意味ハナイ、今度ハ未来永久ニ戦争ノ惨禍ヲ繰返サナイト言ヘバ宜イノデスカラ、「ネヴァー・アゲーン」ノ意味デス、私ハ政府原案通リニ賛成シマス
○芦田委員長　ソレデハ、念ノ為ニモウ一遍読ミマセウ
　「日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、我が國全土にわたつて自由のもたらす惠澤を確保し、政府の行動によつて再び戰爭の慘禍を發生しないやうにすることを決意し、ここに主權が國民に在ることを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受するものである。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基く。われらはこれに反する一切の法令と詔勅を廢除する。
　日本國民は、常に平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠な理想を深く自覺するものであつて、われらの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した。われらは、平和を維持し、專制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會に伍して、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
　われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであると信ずる。この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。
　日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの高遠な理想と目的を達成することを誓ふ。」
　ソレデハ各条ニ入リマス、第一章天皇、其ノ所デ私カラ御相談スルコトハ、第一条デス、余リ広ク話シテ宜イノカ悪イノカマダ分リマセヌガ、前文ニ於テ既ニ主権ガ国民ニアルトハツキリ書イタノデアルカラ、第一章ノ条文ニ於テモ、主権ガ国民ニアルヤウナ意味ヲ現シテハドウカト云フノガ、其ノ筋ノ意向ダサウデス、随テ第一章ノ条項ニソレヲ入レルコトガ適当デアルカモ知レナイガ、サウ云フ場合ニ、本当ニドウ云フ形デ之ヲ入レルコトガ宜イカト云フコトヲ法制局アタリデモ考ヘテ貰フ必要モアルシ、又其ノ筋ノ意向ト云フコトガ果シテドノ程度マデ絶対確実ナモノカト云フコトモ、モウ一応当ル必要ガアルト思ヒマスカラ、第一条ダケハ留保シテ置イテ審議ヲ進メタラドウカト思ヒマス
　　　　〔「賛成」ト呼ブ者アリ〕
○鈴木（義）委員　ソレデハ御考慮願フ為ニ、正式デハアリマセヌガ、社会党デハ、前文デサウ云フヤウニ明カニスル位ナラバ、何処ノ国ノ憲法ヲ読ンデモ、第一ニハ必ラズ其ノ国ノ主権ノ所在ヲ明カニシテ居ル、デスカラ第一条ニ、主権ハ国民ニ存ス、国民ヨリ発ス、ト云フヤウナ条項ヲ設ケ、之ヲ第二条ニシテ、天皇ハ象徴デアツテ其ノ地位ハ日本国民ノ総意ニ基クト云フ風ニシテ残スナラバ、ソレノ方ガ宜イノデハナイカト云フ提案ヲシヨウト思ツテ居ルノデ、ソレモ併セテ御考慮願ヒマス
○芦田委員長　来週ノ初メマデニ各派ニ於テモ此ノ問題ヲ一ツ能ク御考ヘ置キヲ願ツテ、サウシテ来週ニナツテカラ、第一条ノ問題ヲ御相談シタラドウカト思ヒマス――サウスルト第二条ニハ修正ハアリマセヌカ
○鈴木（義）委員　アリマス
○芦田委員長　ソレデハ其ノ社会党ノ案ノ御説明ヲ願ヒマス
○鈴木（義）委員　便宜第二条カラ第五条マデノ修正ノ理由ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス、第一章ニ付テハ我ガ党ハ二箇ノ点ニ修正ヲ提議スルモノデアリマス、第一ハ天皇ノ皇位及ビ摂政ニ付テノ国会ノ関与デアリマス、皇位継承ノ順位ノ変更、即位、退位、譲位、摂政ノ設置ト云フコトハ最モ重要ナコトデアリマスカラ、国権ノ最高機関タル国会ガ関与スルノハ当然ト考ヘマス、随テ又政府ハ是等ノコトヲ皇室典範ニ規定スル方針ノヤウデアリマスガ、是ハ皇室典範ニ規定スルト共ニ、憲法ノ中ニ基本的ナ規定ヲ置クベキモノト考ヘマス、是ハ諸外国ノ憲法ニ徴シマシテモ多数ノ立法例ガ存スル所デアリマス、御手許ニ配ラレタ立法例第一輯ヲ御覧ニナレバ分ルコトデアリマス、サウシテ此ノ提案ヲナシマス以上ハ、是等ノ問題ニ対シテ皇室典範ニ規定スル時ニ、我ガ党ハドウ云フ見解ヲ持ツテ居ルカト云フコトヲ明カニシテ置ク必要ガアルト思フノデアリマス
　第一、皇位ハ男系優先主義デアリマスガ、改正憲法ノ一般国民ニ於ケル性別ニ依ル差別待遇ノ廃止、男女ノ本質的平等ノ原則ノ採用ハ、皇室ニ於テモ其ノ範ヲ垂レラルベキモノダト信ズルノデアリマシテ、内親王ノ外、嫡系ノナイ場合ニハ女帝ノ即位モ認ムベキモノト信ズルノデアリマス、退位、譲位ヲ認ムベキカドウカト云フコトハ議論ノ余地ガアリマセウガ、既ニ女帝ヲ認メマス以上尚更デアリマスシ、男子ノ天皇ニシマシテモ、人間天皇トシテノ個性ノ尊重、自由意思ノ尊重カラシテ、御退位ノ許サルベキ場合モ予想シナケレバナラヌモノト考ヘマス、ソレガ真ニ已ムヲ得ナイモノデアルカドウカヲ決シマス為ニ、皇位継承ノ順位ノ変更ト共ニ、一部ニ考ヘラレテ居ルヤウナ重臣ノ会議ニ掛ケル、久シキニ亙ル故障ガアルカナイカト云フコトヲ、総理大臣、貴衆両院議長、最高裁判所ノ判事、宮内大臣、同数ノ皇族ト云フヤウナモノデ決スルト云フヤウナ御説ガ法制審議会ニ出テ居リマスガ、サウ云フ重臣ノ会議ニ掛ケルコトモイケナイトハ申シマセヌガ、更ニ国会ノ議ニ付スルコトヲ以テ適当ト信ズルノデアリマス、又置カルベキ摂政ノ適当デアルカドウカト云フ判定モ同様デアルト思フノデアリマス、御即位並ニ摂政ノ就任ハ、大体世襲主義ガ皇室典範デ決ツテ居ルノデアリマスカラ、国会ニ関与ノ余地ガナイ、又国会ガ関与ノ必要モナイヤウデアリマスガ、諸外国ノ例ニ見マスヤウニ、一ツノ儀礼的協賛ノ意味モ含マレルノデアリマス、民主主義ノ建前ニアツテハ、ソレガ当然ノコトデアリマシテモ、国会ガ議決シテ協賛スルト云フコトハ宜イコトデアルト信ジマス、是ガ社会党ガ御手許ニ差出シタヤウナ各条ニ追加ヲ提議スル理由デアリマス
○芦田委員長　是ハ非常ナ重要ナ問題デスカラ、何レ篤ト御審議ヲ煩ハスコトト思ヒマスガ、其ノ前ニ字句ノ修正ノ問題ガアルノデスガネ、是ハ簡単ナコトデスカラ、ソレヲ先ニ一ツ御諮リ願ヒマセウカ、ソレハ第四条ノ「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない。」、此ノ中デ「政治」トアル所ヲ「その他の國政」トシテ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、その他の國政に關する權能を有しない。」トスル、是ハ具体的ニ言ヘバ、第六条、第七条ニ掲ゲタモノノミガ天皇ノ取扱フ国務デアツテ、其ノ他ノ国政ニ関スル権能ハ持タナイノダト言ツタ方ガ、「政治に關する權能を有しない。」ト云フ言葉ヨリモハツキリスル、斯ウ云フ趣意ナンデス
　ソレカラ第二項ノ「天皇は、法律の定めるところにより、その國能を委任することができる。」ト云フ所ヲ、「前項の國務を委任することができる。」、斯ウスレバ、是モ余程ハツキリシハシナイカト思フノデアリマス
○鈴木（義）委員　サウスルト、前項ト言ヘバ第四条第一項ダケダガ……
○芦田委員長　憲法ノ定メル国務ハ六条ト七条ニシカナイ、ダカラ第六条、第七条ニ掲ゲラレタ国務ハ委任ガ出来ル
○鈴木（義）委員　第八条ハドウデスカ、財産ノ譲渡シ、是ハ天皇ガヤルノデハアリマセヌカ
○芦田委員長　是ハ要スルニ皇室ノ世襲財産ノコトナンデスガ、此ノ第八条ハ「憲法の定める國務」ノ中ニ入ルノデスカ
○佐藤（達）政府委員　ココハ国務ト云フヨリモ、寧ロ何ト云ヒマスカ、個人的ニナサル面ヲ主眼ニシテ居ルモノト考ヘマス
○鈴木（義）委員　併シ個人的ニナサルニシテモ、皇室ニ関スル財産ハ予算デ組ムノデスカラ……
○芦田委員長　サウ云フ「アプロプリエート」シタ予算ハ国会ニ掛ケルガ、国会ニ掛ケルカラト云ウテ、是ハ国務ニ関スルモノデナイ、サウ云フコトデス
○鈴木（義）委員　「國政に關する權能を有しない。」デスカ
○芦田委員長　「憲法の定める國務のみを行ひ、その他の國政に關する權能を有しない。」、詰リ憲法ノ各条ニ掲ゲタモノ以外ハ、天皇ハ国務ニ対シテ権能ヲ持タレナイト言ツタ方ガ「政治に關する權能を有しない。」ト言フヨリモハツキリスルト思ヒマス
○犬養委員　私ノ都合ヲ申上ゲテ済ミマセヌガ、月曜日ニ一寸後レルトイケマセヌノデ、第一条ニ付テ参考マデニ一言申上ゲマス、第一条「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、國の主權を有する日本國民の總意に基く。」是ハ大体英文ノ線ニ沿ツテ居ルノデハナイカト思ヒマスガ、月曜日マデニ一ツ御教示ヲ願ヒマス
○大島（多）委員　第一条ニ付テデアリマスガ、新政会ノ修正案トシテ「プリント」ヲ委員長ニ出シテ置キマシタケレドモ、是ガ実ハ昨日ノ代議士会デ変更ニナリマシタノデ、変更ニナツタ所ヲ申上ゲテ置キタイ、修正案ノ原案ノ方デハ、第一条ハ「天皇は日本國の象徴であり」、其ノ「象徴」ヲ「元首」トスル、トナツテ居リマシタケレドモ、是ハ取消シマシテ、二度目ノ「象徴」ノ所ヲ「中核」トスルト云フコトニ決定致シマシタ
○犬養委員　第四条ノ「政治に干與しない」ハ其ノ通リデスカ
○大島（多）委員　是ハ修正案ノ通リデアリマス、序デニモウ一ツ申上ゲテ置キタイノハ、六十九条ハ修正スルヤウニナツテ居リマシタガ、是ハ全部除イテシマフ、モウ一ツ一番最後ノ第四章ノ参議院ニ関スルコトデアリマスガ、参議院ハ職能代表的意義ヲ主軸トシテ入レルコトヲ主張スルノデアツテ、一院制ヲ採ルト云フ所ハ省イテシマフ、ヤハリ二院制ヲ希望シテ居ル訳デアリマス、二院制デアツテモ、其ノ二院制ハ飽クマデモ職能代表的意義ヲ持ツテ居ナケレバナラナイト云フ意味デアリマス、以上デアリマス
○芦田委員長　林君ノ方ハ……
○林（平）委員　私ノ方ハ申上ゲテアル通リデアリマス、象徴ト云フノガ二箇所ニアリマスガ、ソレヲ一箇所ニ纏メテ天皇ハ日本国及ビ日本国民統合ノ象徴デアル、ソレダケデス、第四条ハ勿論後ノ方ノ政治ニ関スル権能ハナイト云フ字句ヲバ、削除スルコトヲ主張スルモノデアリマス
○鈴木（義）委員　其ノ理由ハ……
○林（平）委員　ソレハ天皇ハ此ノ憲法ノ定ムル国務ノミヲ行フト云フノデアリマスカラ、天皇ノ執ラレル国務ノ範囲ハ極メテ明瞭デアル、然ルニ権能ガナイトスルト如何ニモ無能力者ノ如キ感ヲ与ヘルノデ余計ナ蛇足デアルバカリデナク、唯徒ラニ国民感情ヲ刺戟スルノミデアルト思ヒマスカラ、天皇ハ此ノ憲法ニ定ムル国務ノミヲ行フト云フノデ十分ダト考ヘマス
○吉田（安）委員　全部ヲ申上ゲテ置キマスカ
○鈴木（義）委員　一条ヅツヤツテ行カウヂヤナイカ
○吉田（安）委員　一ツダケ申上ゲテ置キマス、修正案ヲ作リマスマデニハ決定シテ居リマセヌデシタガ、昨日ノ党議デ決定シマシタ、九十七条デアリマスガ、是ハ全部削除致シマス
○林（平）委員　後ノ条文ニ就テモ言フナラ私ノ方モ九十七条ハ全部削除デス
○芦田委員長　ソレハソコニ行ツタ時ニヤリマセウ、第二条カラズツト今ノ皇位ノ継承其ノ他ニ付テ社会党カラ出タ修正案ニ対スル意見……
○吉田（安）委員　サツキ鈴木君ガ仰シヤツテ居リマシテ、一寸耳ニ入ツタノデスガ、退位ノ所デ何カ重臣ノヤウナ者ニ云々ト云フコトガアリマシタガ……
○鈴木（義）委員　未確定案デスガ、法制審議会ノ原案ニナツテ作ツテ居ルノハ、総理大臣ト貴衆両院、是カラハ参議院デスガ、其ノ議長、ソレカラ最高裁判所判事二人、将来宮内大臣ガアルカナイカ、ソレニ相当スルモノ、ソレト同数ノ皇族、ソレノ議決ト云フコトニナツテ居リマス、無論委員ノ中ニハ国会ノ議ニ付スベキデアルト云フ御主張ヲナサツテ居ル大学教授モアリマス、併シ是ハ斯ウ云フ会ダカラ申上ゲテ宜カラウト思ヒマスガ、外部ヘ発表シテハ困リマス、極秘ト云フ訳デス
○芦田委員長　大体委員長ノ資格ヲ外レテ申シマスガ、皇位継承ニ関スルコトハ出来ルダケ皇室典範ニ譲ツテ、其ノ時ニ国会ニ於テ能ク之ヲ吟味シテ、憲法ニハ皇位継承ノ順序トカ、サウ云フヤウナモノヲ書カナイデ、此ノ原案ニアル程度ニ止メテ置イテ、アトハ皇室典範ニ譲リタイ、斯ウ云フノガ大体自由党ノ案デス
○廿日出委員　今委員長ノ御話ニナツタ通リ、第一章、第二章ニ付テハ字句ノ少々ノ訂正ハ、是ハ已ムヲ得ナイトシテ、金森国務相カラアツタ説明ヲ殆ンド全部的ニ承認シテ、決シテ唯好意的ト云フ意味デナク、相当行亙ツタ説明デアツタト了解シマスカラ、殆ド無条件的ニ此ノ侭……
○吉田（安）委員　自由党デモ進歩党ノ方デモ今ノ点ニハ触レテ居リマセヌ、サウシテ其ノ点ハ別ニ皇室典範ガ出テ来マセウカラ、其ノ時ニ十分国会デカラ入レテ万遺憾ナキヲ期シヨウト云フコトニナツテ居リマス
○芦田委員長　林君ノ方ハ如何デス
○林（平）委員　私ノ方モ同様デス、ヤハリ第二条ハ総テ皇室典範ニ譲ル、其ノ皇室典範ノ審議ノ時ニ、又党トシテノ意見ヲ述ベルコトニシテ、ココデハ原案賛成デゴザイマス
○大島（多）委員　新政会ノ方モ、今仰シヤツタ協同党ト同ジヤウニナツテ居リマス
○鈴木（義）委員　サウ云フコトニナツテ居レバ、此処デ幾ラ議論ヲシテモ始マラナイ、議論ハ幾ラデモ出来ルガ、省略シマスカ
○犬養委員　御諒承願ツテ……
○鈴木（義）委員　御諒承願ヘルカドウカソレハ分ラナイ、結局此処デ私共ガ提案シタコトガ、前文ハ別デスガ、否決ニナルトスレバ、本委員会ニ向ツテ独立ノ案トシテソレヲ出サナケレバナラヌカモ知レナイ、サウ云フ意味デ議論シテモ仕方ガナイ
○芦田委員長　サウスルト、第四条ノ「その他の國政に關する」ト云フ修正案デス……
○犬養委員　是ハ大島サンニ御相談デスガ、アナタ一人デ御引受ニナレルカハ分リマセヌガ、我々ノ解釈ハ、段々内外ノ意見ヲ聴イテ見タノデスガ、御承知ノヤウニ、初メノ「國務」ト云フノハ「ステート・ファンクションス」デ、アトノ「國政」ハ「パワース・リレーテッド・トゥ・ガヴァーメント」、統治ニ関スル権能、前ノハ国務、「ファンクションス」デ、多少儀礼的ナコトヲ含ンデ居ル、ダカラ後ヲ削ルト云フ作用ヲ我々ガシタト云フコトニナルト非常ニ影響ガアル、ダカラ若シ御諒承願ヘレバ斯ウシテ置イタ方ガ意味ガ徹底スルノデハナイカ
○大島（多）委員　ソレハ協同党デ、私ノ方ハ違フノデス、「政治に關する權能を有しない。」トナツテ居ルノヲ、「政治に關與しない。」ト言葉ヲ変ヘルダケデス、「有しない」トナルト、天皇ガ日本国ノ象徴デアルト云フ地位ヲ考ヘマス時ニ、「權能を有しない」ト云フ言葉ガドウモ不穏当ナ感ジヲ国民ニ与ヘルト云フ所デ、「權能を有しない」ヲ、自発的ニ「關與しない」、斯ウシタイ
○犬養委員　力ト力ノ関係ニ於ケル「有しない」デハナク、自然発生的ニサウ云フ状態ニアル
○大島（多）委員　ソレハ内容的ニハチツトモ違ハナイケレドモ、表現ガドウモ気ニ食ハナイ
○林（平）委員　私ノ方ハソレト少シ違ヒマス、先程申シタヤウニ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ふ」トシテシマツテ、其ノ次ノ「政治に關する權能を有しない。」ハ不必要デアル、殊ニ天皇モ国民デアリマスカラ、国民ノ天皇ガ政治ニ関与スル権能ガナイト云フコトハ、ドウシテモ民主主義ノ立場カラ矛盾シテ居ル、理論的ニモヲカシイヂヤナイカ、無能力扱ヒニスルトモ言ハレルシ、国民感情カラ見テモ、政治ニ関スル権能ガナイト云フコトハ、国民ガ頗ル満足シナイ言葉デモアルシ、ソレガナイ為ニ何モ弊害ガ生ズルコトデモナイカラ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ふ」ダケデ必要ニシテ十分ダト、我ガ党デハ考ヘテ居ル訳デス
○鈴木（義）委員　併シソレハ可ナリ重大ナ意味ヲ持ツ、英文デハ国務ハ「ステート・ファンクションス」、政治ノ方ハ「パワース・リレーテッド・トゥ・ガヴァーメント」、ソレハ「ネヴァー・シャル・ヒー・ハヴ」デ、持ツテハナラナイゾト云フ非常ニ強イ命令的形ニナツテ居ル、「ステート・ファンクションス」ト云ヘバ、犬養サンノ言ハレタヤウニ儀礼的ナモノヲ含ンデ居リ、又儀礼的ナモノガ勝ツテ居ル言葉デアツテ、象徴トシテノ天皇ガ御持チニナル権能トシテハ洵ニ相応シイモノデアル、政治ニ関与シテハイケナイノガ原則デ、象徴ト云フ立場カラモ当然ノコトデアルト云フノダカラ、ヤハリドウシテモ書イテ置カナケレバ、後ニ問題ヲ起シ、禍ヲ生ズルト思フ、「國政」トスルコトハ大シテ異議ハナイガ、削ルコトニハ反対デス
○芦田委員長　第二項ノ修正案ハドウデスカ
○鈴木（義）委員　宜イダラウト思ヒマス、他ノ方ト差障リガナイヤウニ思ハレマス
○林（平）委員　私ノ方ハ第二項モ削除スル意見デス、ソレハ既ニ天皇ノ行ハセラレル範囲ハ第七条デ挙ゲラレテ居ル、何レモ委任ノ出来ナイ、天皇ノ御職ニ在ラレル問ハ必ズヤラナクテハナラヌコトバカリデスカラ、此ノ項ハ無駄ナ条項デアルト云フ意見デス
○鈴木（義）委員　無駄ヂヤナイ、天皇ガ御病気ニナツテ一箇月御休ミニナルトスレバ、外国大公使ノ接受ヲドウスルカ、延バセバ延バセルデセウガ、委任出来ル方ガ宜クハナイカ
○犬養委員　外国ナンカニイラツシヤツタラ早速生ズルコトダラウト思フ
○林（平）委員　其ノ時ハ摂政ヲ置ク
○犬養委員　摂政ヲ置クマデノコトデハナイ
○林（平）委員　ソレヂヤ賛成シマス
○犬養委員　林サンニ教ヘヲ乞フ訳デスガ、一国民トシテ陛下ダケガ政治ニ関スル権能ヲ有シナイ、日本語デ言フト、日本国民ラシイ真情ノ溢レタサウ云フ御気持ハ分ルノデスガ、段々由ツテ来ル英文ノ方ヲ見ルト、我々自身モ「パワース・リレーテッド・トゥ・ガヴァーメント」ト云フヤウナ力ハナイ、誰モサウ云フモノヲ持ツトハオ互ヒ予想シナイ、天皇ニシテ初メテサウ云フモノヲ持ツト云フ予想ガ起ル、是ハ予メサウ云フコトノナイヤウニト云フ意味ダラウト思フ
○芦田委員長　四条ハ修正案宜シウゴザイマスカ
○林（平）委員　私ノ方デハ賛成出来カネマス
○大島（多）委員　私ノ方デハサツキ申上ゲマシタヤウニ、「權能を有しない」ト云フ言葉ハドウモ言葉ノ使ヒ方ガ穏当デナイカラ、少クモ天皇ハ日本ノ象徴デアルト云フ地位ト、其ノ表現ト調和シナイト考ヘル、ソレデ「權能を有しない」デハナクテ、「政治に關與しない」ト斯ウシタイ
○原（夫）委員　此ノ四条ニ関シテハ鈴木委員カラ詳シク言ハレタ、其ノ意見ノ通リ私共モ賛成致シマス、今協同党ノ御話ノ「關與しない」ト云フノハ、陛下ガ仰シヤルコトデハナイノデスカラ、鈴木委員ノ言ハレタ方ニ御賛同ヲ願ツタ方ガ宜イノヂヤナイカ、サウ御願ヒシタイ
○廿日出委員　私モ鈴木君ノ御説ニ賛成シマス
○林（平）委員　ソレデハ私ハ後デ意見ヲ述ベル機会ヲ留保シテ、先ヘ進ミマセウ
○芦田委員長　第五条ハ問題ナイトシテ、第六条ハ是デ宜シイノデセウカ――ソレデハ第七条ニ付テ社会党カラ伺ヒマス
○鈴木（義）委員　社会党ノ修正案ハ第七条ハ御承知ノ通リ第一号、第二号、第三号、第四号ヲ修正シテ戴キタイ、第一号ハ「憲法改正、法律、政令を認證すること。」、「條約」ヲ省イテ「公布すること。」ヲヤメル、第二号ハ「國會を召集すること。」ヲ削ル、第三号ハ「衆議院を解散すること。」モ削ル、第四号ノ「國會議員の總選擧の施行を公示すること。」モ削ル、第五号ニ付キマシテハ「憲法」ト云フ二字ヲ入レルト云フコトニナルノデスガ、我々ハ後ヘ行ツテ最高裁判所長官ノ任免ニ付テ御相談ヲシテカラ戻ツテ来テ、其ノ方ガ御採択ニナレバ、「憲法」ヲ入レル必要ガ出来テ来ル、デスカラソコハ後ヘ留保シテ宜シイト思ヒマス、サウ云フ修正ヲ提議スル理由ハ、此ノ一号乃至四号ト云フモノハ最モ重要ナ政務――国務ト云フ言葉ヲ使ヘト云フナラ国務デ宜シイノデスガ、国務中ノ最モ重要ナモノデアツテ、之ヲ天皇ノ大権ニ属セシメルコトハ、民主主義ノ建前上及ビ天皇ガ象徴デアラセラレルト云フ建前上適当デナイト考ヘマス、第一法令ノ公布ハ、法令ノ効力発生ノ要件デアリマシテ、其ノ成立並ニ執行ト一体ヲナスベキモノデアル、草案ノ第五十五条ハ「法律案は……兩議院で可決したとき法律となる。」ト規定シテ居リマス、ソレカラ六十九条ニ法律ノ執行ヲ内閣ノ任務トシテ居ルノデアリマスカラ、其ノ公布ハヤハリ中間ニ入ル仕事デアリ、政府ノ責任トスベキデアツテ、天皇トシテハ他ノ文書ト同ジク認証遊バサレル、形式的ニ署名遊バサレルコトヲ以テ適当ト考ヘルノデアリマス、政令ニ付テモ同様デアリマス、ソレカラ国会ノ召集、解散、総選挙ノ施行ト云フコトハ最モ重大ナ政治上ノ責任ヲ伴フ行為デアリマシテ、常ニ論議ノ対象トナルモノデアリマス、而モ実際之ヲ決定シ実行スルノハ政府ナノデアリマスカラ、事実ト法律トヲ一致セシメマスル為ニモ、責任ノ帰属ヲ明カニスル為ニモ、内閣ノ任務ニシテ置クコトガ必要ニシテ且ツ適当デアルト考ヘマス
○芦田委員長　一寸伺ヒマスガ、第七条ノ一ノ「憲法改正を……公布する」ト云フコトヲ止メテ「公布を認證する」ノデスカ
○鈴木（義）委員　天皇ノ認証ヲ得テ政府ガ公布スル、九十二条モソレニ対応スルヤウニ修正スルコトヲ提議スル
○芦田委員長　斯ウ云フ場合ニハドウスルカ、憲法改正ニ付テ国会ノ承認ガアツタ時ニハ、天皇ノ認証ヲ得テ内閣総理大臣ガ公布スル、天皇ガ国民ノ名ニ於テ公布スルトナツテ居ルノデスネ、ソレハ語呂ガ合ハナイデ妙ヂヤナイカト思フ、サウスルト内閣ガヤル時ハ国民ノ名デヤルトハ言ハナイノデスカ
○鈴木（義）委員　イヤ、内閣総理大臣ガ国民ノ名デヤルノデス
○芦田委員長　サウスルト内閣総理大臣ガ国民ノ名ニ於テモノヲ公布スルト云フコトハ、憲法ノ時ダケデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス
○芦田委員長　憲法ノ時ダケ国民ノ名ニ於テ内閣ガヤルト云フノモ一寸ドウカ、一体国民ノ名ニ於テヤルト云フヤウナコトハ、天皇ダカラヤレルノデ、内閣総理大臣ガ国民ノ名ニ於テヤルノハヲカシイ
○鈴木（義）委員　前ニモ条約ヲ締結スル時ニ、国民ノ名ニ於テ締結スルト云フコトガ問題ニナツタデセウ、サウシテ又天皇ノ名ニ改メタガ、併シアノ時ハ天皇ガ締結権者デアラセラレタノデスケレドモ、今度ノ憲法デハ例ヘバ条約ヲ締結スルノデモ、内閣ガヤルコトニナルノデスカラネ
○芦田委員長　アノ時ノ国民ノ名ニ於テト云フノハ、アレハ条約ノ中ニアツタ言葉デス、日本デモ何処デモ条約ノ中ニサウ云フ文句ヲ書クト云フコトト、実際出来テ居ルモノヲ国民ノ名ニ於テ公布スルト云フコトトハ私ハ違フト思フノデス、ダカラアノ場合ハ之ニ当ラナイト思フ
○鈴木（義）委員　ソレハサウカモ知レマセヌ、天皇ダカラ、却ツテ国民ノ名ニ於テ公布出来ルト云フ御議論ハ一理アルヤウニ思ヒマス
○芦田委員長　ドウモ内閣総理大臣ガ始終国民ノ名ニ於テモノヲ公布スルト云フヤウナコトニナルト、一寸ヲカシナコトニナリハシナイカト思フノデスガネ、ソレダカラ、サウナルト天皇ノ認証ヲ得テ内閣ガ之ヲ公布スル
○鈴木（義）委員　其ノ点ハ詰リ公布ヲ統一スル為ニサウ云フ形ヲ取ツタ訳デスガ、憲法ダケハ別扱ヒニシテモ宜イ
○吉田（安）委員　委員長ノ仰ツシヤルヤウニ、内閣総理大臣ガ国民ノ名ニ於テ云々ト云フコトハ、一寸ピント来ナイヤウデス、理窟ハ別トシテ――而モソレダケダト云フコトニナルト尚ホ不合理デスネ
○犬養委員　是ハドウデセウ、第七条ハ理窟ヨリモ「ナショナル・フィーリング」ノ問題ダガ、結局此ノ七条ノ斯ウ云フコトガ出来ルト云フ意思ガ決マル重点ハ、承認ヲ与ヘル内閣ニアツテ、後ハソレノ結論ト云フヤウナコトニナル、大権ト厳密ニ言ヘルカドウカ、結局サツキノ鈴木サンノ御言葉ヲ藉リレバ、公布ハ儀式デスネ、ソコマデ追究シテ行クコトハドウカ、国民感情トシテ其ノ位デ宜イノヂヤナイカ、其ノ位ノ幅ヲ見テモ弊害ガナイノヂヤナイカ、弊害ガアレバ大イニ論ジナケレバナラヌケレドモ、結局承認ヲ与ヘルト云フ所ニ、一種ノ、第七条ノ峠ノ山ガアルト思フノデスガ、サウ云フコトデ原文デハイケナイデセウカ
○鈴木（義）委員　サウ云フ御議論モアリ得ルト思ヒマスガ、唯公布ト云フコトハ法律ヲ完成スル最後ノ段階ニ於テ一番大事ナコトデシテ、大権ニハ相違ナイ、之ヲ仮ニ拒否サレテハ法律ニナラナイシ、執行モ出来ナイ訳デスカラ、ソンナコトハナイデセウケレドモ、之ヲ重要ニ見ルコトガ……
○犬養委員　ソコハ詰リ承認ヲスルカシナイカノ、承認ノ権能ノアル人ガ峠ノ山ヲ握ル、斯ウ云フコトニナル、其ノ後デ急ニ裏返ツテ厭ダト云フコトハ、承認ノ権能ガナイト云フコトニナルノデスカラ……
○鈴木（義）委員　本当ハ議会デ議決スルト云フコトニナツテ居ル、内閣ガ之ヲ公布スルト称シテモ差支ヘナイ
○犬養委員　オ名前デ公布ヲ願フト云フコトデ、華々シク儀式的ニ公布シテ貰フ、国ノ「デコレーション」デスネ
○鈴木（義）委員　ソレダカラ置イタツテ構ハヌヂヤナイカト云フ議論ト、ソレナラソレハ「フィクション」ト云ツテモ謂ハバ嘘ナンダカラ、事実ト一致シタ方ガ宜イヂヤナイカト云フ議論モ成立ツ
○犬養委員　人生ニハ随分「フィクション」ガアル、サウ云フ「フィクション」ガ我々ニ勇気ヲ与ヘ、夢ヲ持タセルノダカラ、サウ云フ夢モ必要ナンヂヤナイデセウカ、我々来年死ヌト言ハレタラ、今日ダツテ此ノ小委員会ニ出ナイデ家ニ帰ツテシマフカモ知レナイ、サウ云フ「フィクション」ハ人生ノ活要素ダ、アナタ方モ、天皇ヲ親シミ易イ、愛サレ、尊敬サレル、一ツノ一番気高イ、憧レニシタイト云フ御心持ヲ持ツテ居ラレル、サウ云フ夢ハ少シ残シテ置キタイ
○鈴木（義）委員　サウ云フ夢ハ尚更、サウ云フ俗務ニハ御携リニナラナイ方ガ宜イト思フ、栄誉大権ノヤウナモノハ別デアリマシテ、大公使ノ接受トカ云フヤウナコトハ結構ダケレドモ、是ハ実際法律上ノ意義ノアル行為デスカラ、殊ニ総選挙ノ施行ト云フコトニナルト、実際天皇ガ遊バサレルノデハナイ、例ヘバ衆議院ノ解散デスネ、白紙委任状ヲ頂戴シテ、主務官ニスツト出ス、ソシテ天皇ガ解散セラレル、勅命ニ抗シテハイカヌト云フヤウナコトヲ言フカラ問題ガ起ル、将来ハサウ云フコトハナクナルカモ知レマセヌガ、併シヤリ方ハ同ジコトデス、余リニ露骨ニ「フィクション」ヲ見セルコトニナル、ソレヨリ内閣ノ責任ニ於テヤレバ宜イ、不信任案ガ通過シタナラバ十日以内ニ解散スルカ、辞職スル……
○芦田委員長　一寸鈴木サン、其ノ議論モ確カニ理窟ハアルノデスガ、ソレト同時ニ「ヨーロッパ」諸国ノ立憲国デハ相当ニサウ云ツタヤウナ仕事ヲ君主ニヤラシテ居ルノデスネ、「イギリス」ニシテモ、「オランダ」ニシテモ、「ベルギー」ニシテモ、――条約文ノ一番初メニモヤハリ大英帝国ノ皇帝云々ト云フヤウナ書出シデヤルノデ、是ハ一ツノ世界共通ノ儀典ナンダカラ……
○鈴木（義）委員　ソレハ分ツテ居マスヨ、ダカラドノ程度マデ残スベキカト云フ問題ナンデスネ
○芦田委員長　ソコデ議会ノ召集トカ、条約ノ公布トカ、憲法改正ノ公布トカ云フヤウナモノヲ……
○鈴木（義）委員　召集ダケナラ問題ハナイト思フノデス、併シ召集ヲ残シテ解散ヲ削ルト変ダカラ、並ベテ削ラウト云フノデス
○犬養委員　ヨクモ陛下ガ解散シタナト云フ気持ニハナラヌト思フ
○鈴木（義）委員　併シ、只今解散ノ詔勅ガ下リマシタト云フ、ソレガ嘘ナンダカラ、予ネテ用意シテ置イタモノヲ出シテ、陛下ガ実際ニ携ツテ居ラレルヤウナ擬制ヲ強ヒルダケデスカラネ
○芦田委員長　ソレハサウダガ、併シ議会ヲヤツテ居ル最中ニ総理大臣ガ来テ、今オ前達ニ解散ヲ命ズルゾト言フヨリハ、詔勅ガ下リマシタト言ツテ、帝国議会ノ解散ト言ハレタ方ガ、出テ居ル者モ神気荘厳デイイト思フ
○犬養委員　私モサウ思フ、幣原ノ奴ヨクモ解散シタナ、ナント云フヨリモ、天皇ガヤルト、詔勅ガ下ツテ解散シタト云フ「フィクション」デ平和的ニヤレル、其ノ「フィクション」ガ善イ方ニ役立ツ
○芦田委員長　悪イ方面バカリデモナイ
○鈴木（義）委員　サウ云フ利弊ガ伴フコトモ事実デス
○犬養委員　Ｄ・Ｄ・Ｔヲ撒イテ、我々ノ生活カラ「フィクション」ヲ全然追払ヘト云フ考ヘ方モ少シドウカト思フ
○森戸委員　ソレハサウヂヤナイノデスガ、大体ニ於テ天皇ノ象徴ノ地位ト云フコトラ出来ルダケ活カシタ方ガ憲法ノ趣意ニ副フシ、又皇室ニ取ツテモ其ノ方ガ宜イノヂヤナイカ、ソレデ其ノ点ニ付テハ、割合ニ国政ノ実際ニ触レタヤウナ所デハ「フィクション」デアツテモ寧ロ除カレタ方ガ良イノデハナイカ、国民ノ感情モ今ト同ジヤウナモノガ何時マデモ続クトハ保証出来ナイシ、サウ云フ場合ニ、斯ウ云フコトハ色々ナコトデ皇室ト政治トノ関連ト云フコトガ出テ来ルノデハナイカ、サウスレバ象徴ト云フコトト違ツタ風ニモ感ジラレル場合モアル、サウ云フコトヲ慮レバ、成タケ実際政治ニ関スル限リハ、「フィクション」トシテモ遠ザカツテ戴イテ、割合ニ実際政治ニ触レナイ点ハ多少「フィクション」ヲ能ク十分ニ発揮シテ戴イタラ宜イノデハナイカ、サウ云フ意味デ、実際ノ「リミット」ニ触レタ政治カラ遠ザカツテ戴イタ方ガ全体ノ為ニ、又日本ノ民主政治ノ発達ノ上ニ宜イノデハナイカト云フ観点ニ我々ハ立ツノデアリマス
○犬養委員　結局天皇ノ御位置ヲ永遠ニ安泰ナラシメヨウト云フ意味デ、我々モ同感デス、問題ハ各国デ儀式トシテ常識ニナツテ居ル埓カラ外レテ居ルカドウカデスガ、ソレハ該博ナ知識ヲ持ツテ居ル委員長ハドウデスカ、英国其ノ他各国ノモノヲ一番能ク知ツテ居ラレルノデスカラ……
○芦田委員長　ソレハ国ニ依ツテ違フノデスカラ――「イギリス」ト「アメリカ」ノヤリ方ハ違ヒマス、「アメリカ」デモ大統領ハ条約ニ「サイン」スル、ソレカラ「イギリス」デモ形ダケダケレドモ、条約外交権ハ相当皇帝自身ノ権限ニ属スルト云フ建前ニナツテ居リマス、勿論実際ハ政府ガヤツテ居リマスガ――ソレカラ条約ノ批准モ、「イギリス」ノ方デハ議会ノ協賛ガナケレバ批准ガ出来ナイト云フノデハナイノデ、皇帝自身勝手ニ批准出来ル訳デスガ、併シ最近ノ例トシテハ議会ノ議決ヲ経テ居ル、サウ云フ弾力性ノアルヤリ方ヲシテ居リマス、ダカラ政治ト云フモノハ実際ノ勢力ニ依ツテ決マルノデ、必ズシモ形ヲ整ヘナクテモ、民主主義政治ガ確立スレバ危険ノナイヤウナ運営ハ出来ルノダカラ、此ノ程度ノ儀礼的ノ権能ヲ天皇ニ認メル、ト云フコトハ、国内ニ於ケル一部ノ反動ヲ防グ効用モアリ、今新聞ニ現ハレテ居ル議論、議会ニ現ハレテ居ル勢力ガ必ズシモ日本ノ国内ノ思想ヲ正確ニ現ハシテ居ルモノトハ考ヘラレナイノデアツテ、黙ツテ引込ンデ居ル勢力ト云フモノガ左右共ニ相当アルニ違ヒナイ、サウ云フモノニ対スル、新シイ憲法ヲ発布シタ時ニ受ケル印象、サウ云フコトモヤハリ考ヘテ置カナケレバナラヌノデ、却テ斯ウ云フ儀礼的ナモノヲ残シテ置イタ方ガ宜イ部分ト、之ヲ残スコトガ非常ニ悪ク響ク部分トアルダラウト思フノデス、ケレドモ今日ノ時勢ニ於テハ、先ヅ此ノ程度ノモノヲ残シテ置クト云フコトガ、双方ノ妥協点トシテハ丁度適当ナモノデアツテ、我々ノ考ヘカラ言フト、此ノ程度ノモノデ行キタイト、斯ウ云フ風ニ思フノデス
○鈴木（義）委員　大体分リマシタ、結局サウスルト是モ我々ダケガ主張スルト云フコトニナリマスガ、マア此ノ委員会デハサウ云フコトニシテ進ンデ戴イテ宜イト思ヒマス、唯之ヲ将来ドウ扱フカニ付テハ別デスガ……
○芦田委員長　第八条ハ如何デスカ
○鈴木（義）委員　是ハドナタカ修正意見ガアツタノデハナイデスカ、枝葉ヲ削ルトカ何トカ云フノガ……
○原（夫）委員　ナイノデス
○犬養委員　止メタノデスネ
○芦田委員長　ソレデハ第二章ニ入リマス、是モ社会党ノ修正案カラ……
○鈴木（義）委員　是ハ私ガ出サウト思ツテ居ル内ニ、自由党カラ出サレテシマツタノデスガ、「國權の發動たる戰爭」、斯ウ直スヤウニ――是ハ法律的ニ「主權の發動たる戰爭」ト云フノハ変ナンデス
○芦田委員長　ドウモ私共モ之ヲ法律的ニ説明出来マセヌガ、佐藤君、アナタノ方ガ説明ハ正確ダラウト思フノデスガ……
○佐藤（達）政府委員　委員長以上ノ御説明ハ出来マセヌ
○芦田委員長　アナタノ意見ヲ一ツ――国権トヤル方ガ宜イカ、国ノ主権トヤル方ガ宜イカ、鈴木君カラノ御話モ委員会ニ出テ居ル筈デスガ……
○鈴木（義）委員　戦争ニ訴ヘル権力ノ問題デス……
○佐藤（達）政府委員　私ノ方ノ少クトモ今日マデノ考ヘデハ、国権トシテ戴イタ方ガ宜クハナイカ、其ノ意味デ国ノ主権ト云フ言葉ヲ使ツテ居リマス
○鈴木（義）委員　国権ト云フ方ガ簡略デ宜イ
○佐藤（達）政府委員　前文ノ後ノ方ニ「自國の主權」ト云フコトガアリマシテ、ソレトノ関係ヲ実ハ密カニ心配シテ居リマスノデ、是ハ皆様ノ御教ヘヲ仰ギタイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　前文ノ方ハアレデ宜イガ、大綱デ独立性ヲ意味シテ居ルノデスカラ、ソレコソ主権ト云フ言葉ヲ使ハウトスレバ使ヘル、コツチノ方ハ戦争デスカラ国権ノ発動デス、何モ一ツノ言葉ヲ使ツテイケナイト云フコトハナイデセウ、統治権ト云フ言葉ヲ使フカ使ハヌカト云フコトハ別ノ問題ニナリマス、ソレカラ社会党ハ此ノ総則ノ方ヘ持ツテ来ルナラバ今一条平和愛好国デアルト云フヤウナコトヲ出シタイト思ツタ、日本国ハ平和ヲ愛好シ、国際信義ヲ重ンズル――是ハ法律ニ直スニハ可ナリ難カシイ技術ヲ要シマスガ、是ハ道徳的ノ規定ニナリマスカラ、外ニモ道徳的ノ規定ハ沢山アリマスケレドモ、其ノ趣旨ハ前文ニ出テ居リマスカラ、無理ニサウ云フ一条ヲ設ケ、或ハ此ノ前ニ出スコトハナイト思ヒマス、強ヒテ固執ハ致シマセヌガ、皆サンノ御意見ヲ伺ヒマス、唯戦争ヲシナイ、軍備ヲ皆棄テルト云フコトハ一寸泣言ノヤウナ消極的ナ印象ヲ与ヘルカラ、先ヅ平和ヲ愛好スルノダト云フコトヲ宣言シテ置イテ、其ノ次ニ此ノ条文ヲ入レヨウヂヤナイカ、サウ云フコトヲ申出タ趣旨ナノデアリマス
○芦田委員長　ソレカラ字句ノ修正ガ、自由党ノ方カラ出テ居リマスガ、「戰爭の抛棄」ト云フノハ「否認」トシヨウ、「抛棄」ト云フ字ハ、山田悟六君モ委員会デ言ハレタヤウニ、戦争権ナラ「抛棄」デ宜イケレドモ、戦争ヲ「抛棄」スルト云フコトハ、「抛棄」ト云フ字ト相容レナイト思フノデス、何カ具体的ニモノヲ打突ケルヤウナモノデナクテハ「抛棄」ト言ハナイサウデス、モウ一ツハ「抛棄」ト云フ字ハ漢字制限ニ引掛カツテ居ルカラ、「抛棄」ノ「抛」ハドウモ困ル、ソコデ寧ロ英文ノ意味カラ言フト、「否認」トシタ方ガ宜イト云フコトデ、自由党デハ「戰爭の否認」ト云フヤウニシタノデスガ、是ハドウデセウ
○笠井委員　ソレハ賛成デス
○大島（多）委員　私ノ所モ大体「否認」トシタ方ガ宜イト云フ主張ガアリマシタノデ、私モ賛成デアリマス
○原（夫）委員　是ハ私ハヤハリ前ノ方ガ宜シイト思フノデス、「否認」ト云フト、頭ノ形式的ナ働キノヤウニモ思ハレルシ、「抛棄」ト云フノハ、是ヨリカマダ強イ実際的ノ意味ヲ含ンデ居ル訳ナノデス、是ハモウ民法其ノ他ノ法律ニハ、皆「財産權ノ抛棄」ナント云フコトハザラニ使ツテ居ルノデスガ……
○芦田委員長　戦争権ナラ宜イデセウ、戦争権ノ抛棄ナラ……
○原（夫）委員　ソレハ結局戦争抛棄権ト云フモノヲ持ツテ居ルダラウトハ思ヒマスガ……
○芦田委員長　実質ニ於テハ一致スルノデセウナ
○原（夫）委員　「抛棄」ノ「抛」ヲ「否認」ト云フダケデハ、制限的ナ意味カラ申シマシテモ弱イト思フノデス、ダカラ「抛棄」ハ、ヤハリ是ハモウ戦争ハ捨テテシマフノダ、投ゲルノダト云フ所ニ却テ意味ガアルト思フノデス、是ダケ申上ゲテ置キマス
○犬養委員　折角御纏マリニナツタ所ニ、又波欄ヲ起スヤウデアリマスガ、私見ヲ申シマス、第二章ハ非常ニ結構ナ法文デ、此ノ憲法ノ中ノ傑作デスガ、何ダカ仕方ガナイ、止メヨウカト云フヤウナ所ガアリマス、何カ積極的ナ摂理トシテ、戦争ハイカヌト云フヤウナ字ガ入レバ尚ホ宜イカト思ヒマスガ、其ノ為ニ此ノ委員会ガ非常ニ面倒ニナルナラ固執致シマセヌ
○鈴木（義）委員　面倒ニナルドコロヂヤナイ、大イニソレハ賛成スルダラウト思ヒマスガネ
○犬養委員　原サンノ御説ハ御尤モト思ヒマスガ、一方カラ言フト、心ニアツテモ「抛棄」スルト云フ場合ガアル、「否認」ト云フト理念的ニ否決スル、斯ウ云フ風ニモ考ヘラレナイデモナイト思ヒマスガ、皆サンノ御考ヘヲ聴キタイト思ヒマス
○廿日出委員　ソレヲ要求シテ居ルノデハアリマセヌカ
○芦田委員長　ドレヲ……
○廿日出委員　今ノ犬養サンノデス
○芦田委員長　犬養サンノハ、御説ハ御尤モデアリマスガ、サウ云フ調子ノ高イ文句デ書クト、前文ニ書ケバ非常ニ映リガ宜イノデスガ、第何条トシテ多少文学的ナ調子ノ高イモノデ一条ヲ書クト云フコトハ中々難カシイノデハナイデスカネ
○原（夫）委員　一寸申シ落シタノデアリマスガ、「戰爭否認」ト言ヘバ事実ハ其ノ通リデスガ、認メナイ、戦争ヲ認メナイ、詰リ議論シテモソレヲ認メナイ、サウ云フコトニナリマス、拒否スルコトニナリマス、此ノ「抛棄」トハ大分字ノ意味ガ違フト思フノデス、サウ云フ感ジガシマスガ、ドウデスカ
○芦田委員長　サウ云フ風ニモ見エルシ、又読ミヤウニ依ツテハ「否認」ト云フコトガ強イト思フノデス、戦ヲ仕掛ケテ来タガ、俺ハ戦ガ厭ヤダト言ツテ、鉄砲ヲ捨テテゴロゴロ、逃ゲテ行クノモ「抛棄」デスネ
○犬養委員　サウ云フ風ニモ取レルガ、「否認」ト云フコトハ、危イカラ止メヨウヂヤナイカト云フ風ニモ取レルト思フ
○芦田委員長　ソレハ読ミヤウデ強クモ弱クモ取レマス
○大島（多）委員　「抛棄」ト云フト、戦争ヲヤツテ居ル時トカ、何カ権利ヲ捨テルト云フ時ニハ宜イガ、全然何モヤツテ居ナイ時ニ「抛棄」ト云フノハヲカシイ、持ツテ居ルモノヲ捨テルトカ、又ハ実際従事シテ居ルコトヲ止メルト云フ時ハ、「抛棄」ト云フ言葉ガ適当デアリマセウガ、実際ヤツテ居ナイ戦争ヲ「抛棄」スルト云フノハ、文字ノ使ヒ方ガヲカシイト思フ
○原（夫）委員　ソレハサウデハナイノデス、第二項デ、戦争権ト云フモノハ国家ニアル
○鈴木（義）委員　戦争権ノ抛棄デスカラネ
○大島（多）委員　戦争ヲ権利ト見ル訳デスネ
○鈴木（義）委員　権力ノ発動デスカラネ、唯「抛棄」ト云フ言葉ハ、漢字制限会ノ方デハ、ヤハリ「否認」ヨリ「放ツ」ト書イタ「放棄」ト直スヤウデスガ……
○廿日出委員　事実ニ於テハ、終ヒノ所ニアルデハナイデスカ、国ノ交戦権ハ之ヲ認メナイト云フコトカ……
○鈴木（義）委員　交戦権ト言ツテモ同ジヤウナモノデハナイト思ヒマスガ……
○廿日出委員　イヤ、ソレハサウダガ、認メナイト云フカラ「否認」トナル
○鈴木（義）委員　「否認」ト云フコトヲ使フカドウカ、ソレト漢字制限ノ字ヲドウ使フカト云フ問題ガアル、所ガ漢字制限会ノ出シテ居ル所ヲ見ルト、ドウモ感心シテ居ナイカラ、原案ノ方ガ宜イ、ダカラ「抛棄」モ「否認」トスルトピツタリ来ナイ、「抛棄」ナラバ適切ナ言葉デスカラ、将来学校ヤ何カデ子供ニ教ヘル時ハ、仮名デ「ホウキ」ト云フ風ニ教ヘル、サウシテ憲法デハヤハリ斯ウ云フ字ヲ使ツテ居ルト云フコトヲ是カラヤル外ナイト思フ
○芦田委員長　仮名デ書イテハ子供ハ掃キ掃除ノ「箒」ト間違ヘル
○犬養委員　漢字制限デ斯ウ云フ漢字ハイケナイト云フコトハ、誰ガ決メタカ知ラナイガ……
○鈴木（義）委員　「抛棄」ト云フコトハ棄テタクナイ
○林（平）委員　「否認」ト云フヨリモ、「抛棄」ト云フ方ガピツタリスルヤウニ思フ、戦争ヲスルト云フ、サウ云フ手段ヲ執ラナイ、永久ニ棄テルノダト云フコトデアリ、戦争権ヲ我々ハ棄テテシマツタノダト云フコトダカラ、ドウモ「否認」ト「抛棄」トハ似テ非ナルモノガアル、距離ガアルト思フ、ダカラヤハリ「抛棄」ト云フ文字ガイケナイナラ別ニ考ヘテ、「ホウキ」ト仮名デ書クト云フノデハナク、「抛」ノ字ニ意味ガアルカラ、「ホウ棄」ト書イテモヤハリ此ノ字ヲ生カスコトデセウネ
○犬養委員　私は敢テ固守致シマセヌガ、サツキノ第九条ノ一等初メニ「日本國は、永遠の國是として、戰爭の抛棄を宣言する。即ち國權の發動たる戰爭」云々ト云フヤウナコトヲ入レタラ、少シ強クナリハシナイデスカ、此ノ侭ダト、何ダカドウモ到頭イケナクナツチヤツタカラ戦争ハ止メヨウト云フ風ニ聞エテナラヌデス、ドウモサウ取レル、併シ是ハ国是ダ
○鈴木（義）委員　今仰シヤツタノハ……
○犬養委員　「日本國は、永遠の國是として、戰爭の抛棄を宣言する。即ち」ト入レマスカ、イキナリブツキラ棒ニ「國權」トシテモドウカト思フカラ、斯ウ云フ風ニヤツタラ宜イデセウ、委員長、斯ウ云フ範囲ノ修正ハ可能デスカ
○芦田委員長　無論可能デセウ
○佐藤（達）政府委員　ドチラデモ結構デス
○犬養委員　ドウモソレヲ入レタ方ガ宜イト思フ
○原（夫）委員　ソレハ宜イネ
○犬養委員　ドウモメソメソシテ居ルヤウニ思フ
○鈴木（義）委員　ソレハ第二項ニシマスカ
○犬養委員　ソレハ一ツ御考ヘ願ヒタイ
○芦田委員長　犬養君、是ハ斯ウ云フ風ニナサツタラドウデスカ、「日本國は永遠の國是として戰爭の抛棄」、サウシテ此ノ第九条ノ一項ニ残ツテ居ルヤウナ文句ヲ入レテ……
○犬養委員　ソレデモ結構デス、要ハ余リ仕方ナシニ廃メタト云フ感ジヲモウ少シ少クシヨウ……
○廿日出委員　委員長ノ言フコトハ「戰爭ヲ抛棄す」デスカ
○芦田委員長　日本国ハ永遠ノ国是トシテ他国トノ間ノ紛争ヲ解決スル手段トシテハ戦争、武力ニ依ル威嚇、サウ云フヤウナモノヲ抛棄スル、サウシナイト此ノ九条ノ一項ヲ生カシテ置イテ、戦争ノ抛棄ヲ宣言スルトヤツテ、又第九条ノ一項ヲ入レルト重複スルヤウナ気ガスルノデス、ダカラ犬養君ノ初メノ書出シヲ以テ第九条ノ一項ト合体スルコトニシタラドウカト思フノデス、サウデナケレバ、此ノ犬養サンノ所ニ持ツテ行ツテ、永遠ノ国是トシテ寧ロ平和ヲ愛好スルヤウナ趣旨デ行クノダト云フヤウナコトヲ書イテ、ソレカラ国権ノ発動タル戦争云々ト入レレバ重複シナイノデスガネ、社会党ノ案ニ何カ平和愛好ノ意味ノ箇条ガアツタノデハナイデスカ
○鈴木（義）委員　斯ウ云フ風ニシヨウト云フノデス、「日本國は平和を愛好し國際信義を重んずることを國是とし教育の根本精神をここに置く」ト云フヤウナコトヲ現ハセバ法律ニナル――法律ニナルカナラナイカ疑問ダガ……
○芦田委員長　教育ノ根本ト云フコトハ後ニシテ、外務省カラ来タ印刷物ニ、「國際信義を重んじて條約を守る」ト云フコトガ何処カニアツテ欲シイト云フヤウナ意見ガ出テ居リマシタガネ
○犬養委員　アレハ九十四条ノ削ツタ後ニ入レヨウト云フノデス
○芦田委員長　ダガ、私ハアソコニ条約ノコトヲ入レルノハマヅイト思フノデス、ダカラ若シ条約ノコトヲ入レルト云フナラバ第二章ニ入レル
○犬養委員　ソレナラ御参考マデニ一寸九十四条ヲ読ミマス、外務省ガ今日言ツテ来タノハ、「日本が締結又は加入した條約、日本の參加した國際機關の決定及び一般に承認された國際法規は、この憲法と共に尊重せられなければならない。」斯ウ云フコトヲ第二項ニ入レタラドウカト云フコトヲ言ツテ来タノデス、是ハドチラデモ宜イト思フノデスガ……
○吉田（安）委員　今ノ文章デスガ、社会党ノ「日本國は平和を愛好し、國際信義を重んじ」サウシテ今犬養氏ノ言ハレタ「重んずる」次ニ「永遠の國是として戰爭の抛棄を宣言する。」斯ウ云ツタコトデハイカヌデスカ
○原（夫）委員　此処ヘハ犬養君ノ言ハレタヤウナ永遠ノ国是トシテト云フヤウナ形デ、平和愛好ナンテ云フコトハモウ入レル必要ハナイコトデ、極ク簡単ナ僅カナ文字ダケデ其ノ意味ヲ現ハスヤウニ願ヒタイト思フノデスガ、戦争ノ抛棄モ平和愛好ト云フコトハ直グ分リマスカラ……
○犬養委員　若シサツキ私ガ申上ゲタヤウナ修正文ガ、第九条第一項ノオ終ヒノ「永遠にこれを抛棄する。」ト是ガカチ合フ虞ガアレバ、斯ウ云フ行キ方モ考ヘラレマス、「日本國民は永遠に平和愛好者たることを宣言する。國權の發動たる戰爭」云々、斯ウヤツテモ宜イト思ヒマス
○廿日出委員　一ツノ案デスガ、色々ト折衷シマシテ、「日本國は平和を愛好し、國際信義を重んずることを國是とし、國權の發動たる戰爭」ト言ツテ、後ハ続ケテモ差支ヘナイト思フノデス
○芦田委員長　私ノ個人ノ意見トシテハ、平和ヲ愛好スルト云フヨリハ、世界平和ノ維持ニ努力スルトカ、協力スルトカ云フコトヲ言ヒタイノデス、唯平和ガ好キダト云フノミナラズ、自動的ニ平和維持ノ為ニ努力スル
○廿日出委員　ソレデハ斯ウシタラドウデセウ、「日本國は恒久平和の建設に志す」……
○原（夫）委員　ドウデセウ、唯簡単ニ犬養君ノ言フヤウニ「日本國家は永遠の國是として國の主權の發動たる」ト持ツテ行ツタノデハ、余リ短カ過ギルデスカ
○犬養委員　オ終ヒノ「永久」ヲ削ツテシマフノデスカ
○原（天）委員　削ツテシマフ
○吉田（安）委員　ソレデモ宜イデスネ、アツサリシテ……
○犬養委員　法律文ラシクモアル
○大島（多）委員　私ハ犬養サンガ一番先ニ言ハレタ「日本國は永遠の國是として戰爭の抛棄を宣言する。國の主權の發動たる戰爭と武力による威嚇又は武力の行使は、他國との間の紛爭の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。」ヲ言フカライケナイノデ、「永久にこれを認めない」トシタラドウデセウ、「抛葉する」ハダブルカラ感ジガ悪イノデ、此処ノ所ヲ「認めない」トシタラドウデセウ
○犬養委員　ソレモ宜イデスネ
○森戸委員　「日本國は恒久平和の愛好者として、國權の發動たる戰爭」云々ト云フヤウニシテモ宜イト思ヒマス
○吉田（安）委員　今、原君ノ言ハレタヤウニ、「日本國は永遠の國是として」、ソレカラ「國權の發動たる戰爭」トズツト続ケテ行ツテ、先ノ「永久」ト云フノガアルカラ、是ガ邪魔ニナレバ之ヲ除イテ、「これを認めない」、斯ウ行ツタラドウデスカ、「日本國は永遠の國是として、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、他國との間の紛爭の解決の手段としては、これを認めない。」
○犬養委員　「これを抛棄する」デモ宜イデスネ
○原（夫）委員　ドウデス、宜イ加減ナ所デドウデセウカ
○犬養委員　其ノ位ノ所デ落着イテハドウデス
○芦田委員長　併シ是ハ来週マデ考ヘマセウ、今日中ニ考ヘナケレバナラヌ問題デハナイカラ……
○森戸委員　「抛棄」ト云フノハ斯ウ云フ難カシイ字デスガ、僕等ガ普通ニ書ク時ニハ「放」ヲ書クノデスガ、普通国民的ニハ「放」デハナイデセウカ、字引的ニハ此ノ字ダケレドモ……
○高橋（泰）委員　此ノ「抛棄」ト云フ字ハ、今度ノ議会ノ詔勅ニモアリマスネ
○芦田委員長　アリマス、ソレハ条約文ニモアルノデス、「抛棄」ト云フノハ法律ニハ沢山アル、一九二八年ノ条約ナドニモ使ツテアリマス
○高橋（泰）委員　「抛棄」ト云フ以上ハ「放」ト云フノハ拙イデセウ
○森戸委員　ソレハサウナノデスガ、漢字制限トカ云フコトガアレバ、易シイノデモ構ハナイノデハナイカト云フ意味ナノデ、唯参考ニ申上ゲタダケデス、別ニ固執スル訳デハアリマセヌ
○芦田委員長　今度ノ漢字制限ノ中ニハ、此ノ「抛棄」ノ代リニ「放」ト云フ字ヲ使フコトニナツテ居リマス
○高橋（泰）委員　今ノハ斯ウナルノデスカ、「日本國は永遠の國是として、國權の發動たる」ト行ツテ、「永久」ヲ取ルノデスカ
○芦田委員長　其ノ点ハ尚ホ明日一日各派デ考ヘテ、出来ルダケ良イ案ヲ持寄ラウデハアリマセヌカ、サウ云フコトニシテ今日ハ最終的ニ此ノ文句ヲ決定シナイト云フ案ハドウデスカ
○高橋（泰）委員　ソレデハサウ云フコトニ御願ヒ致シマス
○芦田委員長　一寸発表文ノ御相談ヲ致シマス、「小委員會ハ午後一時半再開、憲法改正案ノ前文ニ關スル字句ノ修正ニ付キ一致點ニ到達シタ、次ニ第一章及ビ第二章ノ修正ニ付キ意見ヲ交換シタガ、結論ニ達セズ、二十九日ノ會議ニ持越スコトトシテ、午後四時散會シタ」、此ノ程度デ宜シイデスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　是デ宜シケレバサウ云フコトニ致シマス、ソレデハ今日ハ是デ散会致シマス
　　　　午後四時十七分散会