小委員会 昭和21年8月2日（第8回）

昭和二十一年八月二日（金曜日）
　　　　午後二時五分開議
　出席委員
　　　委員長　芦田　　均君
　　　　　廿日出ひろし君　　　　江藤　夏雄君
　　　　　　犬養　　健君　　　　吉田　　安君
　　　　　　鈴木　義男君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　林　　平馬君　　　　大島　多藏君
　　　　　　笠井　重治君　　　　北　れい吉君
　　　　　　高橋　泰雄君　　　　原　夫次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　―――――――――――――
　本日ノ会議ニ付シタ議案
　　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、未確定ノ部分ヲ本日協議致シタイト思ヒマスガ、一番重要ナ第一条ノ問題ヲ先ヅ御審議ヲ願ヒマス、社会党ノ提案ニ依ル新シイ修正ヲ協議スル前ニ、原案ノ第一条ノ中デ簡単ナ修正案ガ新政会カラ出テ居ルノデアリマス、ソレヲ先ニ決メタラドウカト思ヒマス、ソレハ第一条ニ象徴ト云フ字ガ二ツアリマス、下ノ方ノ象徴ト云フ字ノ代リニ中核ト云フ字ヲ入レタイ、「日本國民統合の中核であつて」ト修正シタイト云フ意見デアリマス、ソレニ対スル御意見ヲ伺ヒマス――自由党如何デスカ
○高橋（泰）委員　私ハ原案通リデ宜イト思フノデス、中核ト言フト、ヤハリ心棒デスカラ、中核ト云フノハ一寸変ヂヤナイデセウカ
○犬養委員　象徴ガ宜イト思ヒマス
○鈴木（義）委員　社会党モ象徴ガ宜イト思ヒマス
○芦田委員長　ソレデハ大島君、ドウカ一ツサウ云フコトデ……
○大島（多）委員　私ノ方ガドウシテ斯ウ云フ風ニ御訂正ヲ御願ヒスルヤウニ提案シタカト申シマスト、其ノ点ヲ一寸御聴キ願ヒタイト思ヒマスガ、此ノ象徴ト云フ言葉ガ二ツアルモノデスカラ――原文ニハ一ツアルヤウデスガ、ソレガ二ツニナツテ居ルモノダカラ、象徴ガ二ツモアルト云フコトハ非常ニ耳障リダ、ソレダカラ其ノ中ノ一ツダケハ何トカ変ヘナクテハ面白クナイ、初メノ間ハ、是ハ下ノ方ノ象徴ダケヲ元首トシタラ宜カラウト云フコトガ国民一般ノ非常ナ要望デアリマシタガ、併シ後ニ、元首ヨリモヤハリ中核トシタラ宜カラウト申シマスト言フト、「國民統合の象徴」ト云フコトハ余リ意味ヲ成サヌ、「國民統合の」トスレバ、ドウシテモヤハリソレヲ中心ニシテ纏ツテ居ルト云フコトカラ、中核ト云フヤウナ言葉ガ一番適当ダラウト云フ所デ、ソレニ決ツタ訳デアリマス、併シナガラ余リ御賛成ガナイヤウデアリマシタナラバ、其ノ点ハ固執スル者デハアリマセヌ
○芦田委員長　ソレデハ社会党ノ修正案ニ移リマス、社会党ノ提案ハ、第一章ノ初メニ、新シク第一条ヲ起シテ、主権ハ国民ニアルト云フ規定ヲ入レタイ、斯ウ云フ提案デアリマス、之ニ対シテ自由党及ビ進歩党ノ考ヘ方ハ、改正案ノ第一条ニ於テ英文ノ翻訳ニ於テハ「ソヴァレーン・ウィル」ト云フ言葉ヲ使ツテアツテ、之ヲ訳シテト云フカ、其ノ「テキスト」ノ日本文ニモ「國民の至高の總意に基く。」ト云フコトハ、実ハ国民ノ主権的意思ニ基クンダト云フ意味ヲ謳ツテアルノダケレドモ、ソレハ曖昧デアリ、明確デナイカラ、随テ改正案ノ第一条ノ終リニ、「この地位は、主權の存する日本國民の總意に基く。」ト、斯ウ云フ風ニスレバ、第一章ノ天皇ト云フ中ニ主権ノ問題ヲ包含シテ規定スルコトガ出来ル、主権ハ国民ニアルト云フ条項ヲ置クトスレバ、是ハ別ニ一ツノ章ヲ起シテ配列シナイト、「第一章天皇」ト云フ中ニ規定ヲ置クコトガ一寸形ニ於テヲカシイ、内容ニ於テハ天皇モ国民ニ含ムノデアルカラ宜イト言ヘバ、強ヒテ理窟ハナイコトハアリマスマイガ、形トシテハドウモヲカシイ、サウスレバ之ヲ別ニ総則ト云ツタヤウナモノニデモシテ、一箇条置クヤウナコトニナルカラ、寧ロ現在ノ改正案ヲ大部分生カシテ、「この地位は、主權の存する日本國民の總意に基く。」ト云フコトニシタイ、斯ウ云フ案デアリマス、之ニ対シテ御意見ヲ伺ヒマス
○鈴木（義）委員　社会党ノ提案ハ此ノ前モ簡単ニ申上ゲタノデスガ、既ニ此ノ総意ト云フ曖昧ナ言葉ヲ避ケテ「主權的意思」トカ、「主權に基く」トカ云フコトヲ入レテハツキリサセル以上ハ、五十歩百歩デアルカラ、何処ノ国ノ憲法ノ例ヲ見テモ、第一条ハ主権ノ所在ヲ明カニスルコトガ例ニナツテ居ル、デスカラ主権ト云フノハ本当ハ間違ヒナノデ、国権ト云フノガ学問的ニ正シイト思ツテ居リマスガ、国権ハ国民ニ発スルトカ、国民ニ存スルトカ、属スルトカ、ソレハドウデモ宜イノデスガ、サウ云フ規定ヲ置イテ、「第二章天皇」トシテ、此ノ規定ヲ此ノ侭生カシテ、「至高の總意」ト云フ「至高の」ヲ除イテ、「總意に基く」位ニシテ行クノガ、寧ロ「ロヂカル」ニ正シイ態度デハナイカト、斯ウ信ズル訳デアリマス、一ツノ条文ノ中ニ本来第一条ハ天皇ノ御地位ヲ規定スル条文デアツテ、是デ主権ノ所在ヲ明カニスルト云フ趣旨デハナカツタノデアリマス、立案者ノ趣旨モソコニアツタト思フノデアリマス、今ソレヲ主権ノ所在ヲ規定スルコトニ流用シヨウト云フコトハ、ドウモ拙イヤウニ思ヒマス、出来ルダケ社会党ノ提案ニ賛成願ヒタイト思ヒマス
○芦田委員長　今別ニ私ハ議論ヲスル趣旨デハアリマセヌガ、現行憲法ハヤハリ天皇ト云フ所ニ主権ノ所在ヲ規定シタト見ルベキ規定ガアルノデスガ、「天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ」ト云フコトハ、大体今マデノ憲法学者ノ解説ニ依レバ、是ハ天皇主権説ト云フコトニ見テ居ツタンデスガ、其ノ場合ハ天皇ト不可分ノ問題デアツタノデアルカラ、斯ウ云フ風ニ書イテシマツタノデアラウト思フ、デスカラ其ノ辺ノ所ハ多少其ノ時ノ状況ニ依ツテ、余リ厳格ニ法学的ナ羅列ハ難カシイト思フノデスガ、サウ云フ例ニ見テ、或ル程度ノ譲歩ヲ御願ヒシタイト、斯ウ思フノデスガネ
○笠井委員　私ハ此ノ主権ナリ、国権ナリヲ非常ニ曖昧ニ謳ツテオイデニナリマスカラ、ソレヲ明確ニスルノニ一番宜イコトハ、此ノ第一条ノ最後ニ持ツテ参リマシテ、国ノ主権ハ国民ニアルトスルコトガ宜イト思フ、或ハ之ヲ一番冒頭ニ持ツテ行クコトモ宜シイト思ヒマスガ、併シナガラ其ノコトニナリマスト、相当ニ論議ガ紛糾致シマスルト思ヒマスルノデ、ココニ今委員長ノ仰シヤラレタ、「主權の存する日本國民の總意に基く。」、ソレニ賛成致シマス
○芦田委員長　協同党ハ如何デスカ
○林（平）委員　私ノ方デモ内外ノ情勢ニ鑑ミテ此ノ「主權の存する日本國民の總意に基く。」ト云フコトニ賛成致シマス
○芦田委員長　大島君如何デスカ
○大島（多）委員　私ノ方モ協同党ト同一デアリマス
○芦田委員長　鈴木君ドウデスカ、此ノ辺デ合流シテ貰ヘマセヌカ
○鈴木（義）委員　多数ガサウデアレバ已ムヲ得ナインデスガ、併シ賛成スルト云フノハ……
○芦田委員長　積極的ニ賛成ト云フ訳デナケレバ、敢テ異議ヲ述ベヌト云フ所デ……
○鈴木（義）委員　後デ之ヲ取扱フコトヲ――例ヘバ委員会デ持出スト云フコトヲ留保シテ置クナラ、成ルベク不必要ナ議論ハ避ケタイト思ヒマス、唯ココデ賛成シタ以上ハ又持出シテハイカヌゾト言ハレルト、其ノ点ハ留保シテ置カネバナラヌ
○芦田委員長　ソレデハサウ云フ意味デ、アナタノ方ハ留保シテ置カレルト云フコトデ宜イト思ヒマス
○鈴木（義）委員　ソレデハ其ノ程度デ……
○芦田委員長　ソレデハ次ノ第二十七条――二十七条ハ昨日ノ御話デハ、結局社会党ハモウ一応考ヘテモ或ハ原案通リニ賛成ハ出来マイト云フヤウナ御話デアリマシタ、其ノ後党ニ帰ツテ御話ノ結果、変化ガアツタカナカツタカト云フコトヲオ確カメシテ、ソレデ一応決メタイト思ヒマスガ……
○鈴木（義）委員　結局ドウモ此ノ草案ハ、我々トシテハ受諾シ兼ネル案デアル、仮ニ多少私共ノ方ノ提案ヲ修正スルトシテモ、皆サンノ御賛成ヲ得ル程度ニハ削除スル訳ニ行カナイト云フコトカラ、結局其ノ点ハ今ノ主権ト同ジヤウニ留保シテ、此ノ場デハソレ以上ニ意見ハ述ベナイ、大体通過シテ戴クト云フコトニ致シマス
○芦田委員長　次ニ八十四条ニツイテ御諮リ致シマス、修正案ハ自由党、進歩党、協同党、新政会、無所属カラモ出テ居リマス、「皇室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし、」ト云フ文字ヲ削ラウト云フ意味ハ、皇室財産カラ生ズル果実――皇室財産ト言ヘバ軈テ殆ド世襲財産ニナルノデスガ、其ノ世襲財産カラ生ズル収益ハ、ヤハリ世襲財産タル所有権ノ収益トシテ、国庫ノ収入トハシナイ、斯ウ云フ修正案デアリマス、其ノ点ニ付テハ既ニ此ノ席上デ討議ガ行ハレタノデアリマスカラ、最早繰返シテ討論ヲスル必要モナイト思ヒマス、随テ此ノ席デハ修正案ニ対スル賛否ノ意見ヲハツキリシテ、ソレデ結末ヲ付ケタイト思ヒマス
○高橋（泰）委員　自由党ハ修正案ニ賛成致シマス
○吉田（安）委員　修正ニ異議ナシ
○林（平）委員　修正案ニ賛成致シマス
○芦田委員長　社会党ハ此ノ問題ニ付テ留保スル訳デスネ
○鈴木（義）委員　サウデス、原案ヲ維持シマス
○森戸委員　今修正ニナツタモノハ、ドウ云フ事情ガアツテモ貫徹サレル御意思デアリマスカ
○芦田委員長　委員長デハ貫徹スルトカシナイトカ云フコトハ一寸言ヘナイ、国民ノ過半数、三分ノ二ナラバ議会ヲ通ルノダカラ、私ノ意思デ其ノ数ヲ殖ヤストカ減ラスト云フコトハ出来ナイ
○森戸委員　ソコマデ行カヌ内デス
○芦田委員長　ソコマデ行カヌ内デモ、委員長ノ手デハ之ヲ貫徹スルトカシナイトカ云フ裁量ヲナスベキ権限ガナイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　本会議マデ持ツテ行クコトハ確カデスネ、途中デ消エナイデスネ
○芦田委員長　消エルコトハアリ得ルト思フ、ト言フノハ、最後ノ日マデ一応留保シテ置カレル問題モアリ得ルノダカラ、最後ノ決定ハ本委員会ニ報告スル時ニ決メレバ宜イ、其ノ時期ハ来週ノ何日ニナルカ知レナイガ、小委員会ノ意見トシテ報告書ヲ作ル時ニ何レ御相談スルガ、其ノ時ニ委員会ノ確定的意思ヲ決メレバ宜イノダト思ヒマス
○鈴木（義）委員　分リマシタ
○芦田委員長　ソレカラモウ一ツ、是ハ新シイ問題デ、斯ウ云フモノヲ今頃出スコトガ時期ヲ得テ居ルカドウカ、私ハ必ズシモ適当ナ時期ト思ヒマセヌケレドモ、外務省ノ方デ、九十四条ノ修正ノ際ニ条約ト云フ字ヲ抜イテシマツテアル、サウスルト此ノ中ニ日本国民ガ条約ヲ尊重スルト云フ字ガ一ツモ現ハレテイナイノハ、今後ノ日本ノ立場ヲ考ヘテ見テ、或ハ余計ナ疑ヒヲ懐カセルヤウナコトニナルカモ知レナイカラ、日本国民ハ条約ヲ尊重スルノダト云フ趣旨ノコトヲ残シテ置キタイ、ト云フノハ九十四条ニハ条約ト云フモノガ入ツテ居ツテ、委員会ノ修正デ是ガナクナツタカラ、其ノ趣意ヲ謳ツテ置キタイト云フノデ、斯ウ云フ条項ヲ第二項トシテ挿入スルコトヲ希望シテ居ルト云フ話ヲ受ケタノデス、ソレハ日本ガ締結又ハ加入シタ条約、日本ノ参加シタ国際機関ノ決定及ビ一般ニ承認サレタ国際法規ハ、最大ノ尊重ヲ必要トスル、是ダケノモノヲ入レルト、日本ハ国際約束ヲ忠実ニ履行スル決意デアルト云フ趣旨ガハツキリ出ルカラ、サウ云フ第二項ヲ挿入シテ貰フコトハ出来ナイカ、斯ウ云フ相談ガアツタノデアリマス、是ハ何処ノ党派ノ提案ト云フヤウナコトデナク、一応サウ云ツタヤウナ条項ヲ入レルコトガ適当ナリヤ否ヤト云フ一ツノ題目ガ出タモノト考ヘテ、御意見ヲ伺ヒマス
○犬養委員　砕ケテ申上ゲマスガ、先日是ト同趣意ノコトヲ此ノ席デ法制局ニ御尋ネシタ、其ノ問題ハモウ解決シテシマツテ、入レナイ方ガ宜イト云フ御話デ遠慮シテ居ツタ、此ノ際法制局ノ御立場ヲ伺ヒタイ
○佐藤（達）政府委員　正式ノ立場ト申シマスヨリモ、モウ少シ砕ケタ立場ヨリ申述ベサシテ戴キマス、先ヅ三点バカリアルト思フノデスガ、趣旨ハ洵ニ言フマデモナク結構ナコトナノデスガ、先ヅ第一点ハ、形式的ノ面カラ言ツテ最高法規ト云フ此ノ章ノ中ニ入ルヤウナ事柄ダラウカドウダラウカ、恐ラク此ノ第十章ノ中ニ入ルベキ事柄デハナイ、サウ云フ形ニナレバ、第十章ノ問題デハナイト云フヤウナ気ガ致シマス、サウナツテ来ルト、日本ガ国際信義ヲ重ンズルカ重ンジナイカ、ソチラノ大キナ問題ノ方ニ来ルノデ、ソレハ前文デ其ノ精神ハモウ十分出テ居ルノデハナイカ、又尊重スルトカ何トカ云フコトヲ事々シク文章ニ書イテ置クマデモナイ、却テ当然ノヤウナ感ジガ寧ロ出ルノデ、其ノ点ハドウダラウカ、ソレカラ第三点ハ、是ハ全ク技術的ノコトデアリマスガ、文章ナドモ余程練ラナケレバナルマイ、是ハ確カナ理由ハナイノデス、大体サウ云フ感ジヲ持ツテ居リマス
○芦田委員長　佐藤君、今ノ御意見、御尤モナ点ガアルト思フケレドモ、場所ノ問題デスネ、是ハ初メ九十四条ノ原文ニハ、条約ガ最高法規ダト云フヤウナコトガアツタ
○佐藤（達）政府委員　ソレハ憲法ニ基イテ制定サレタ法律、ソレカラ基イテ出来タ条約ト云フコトデ、憲法ト寧ロ共ニ最高法規ニナルト云フ趣旨ガ此ノ九十四条ノ原文ニハアツタ訳デス、今ノハ一寸能クハツキリシマセヌデシタガ、サウ云フ色彩ハ今ノ案ニハナカツタヤウニ聞エマシタ
○芦田委員長　実ハ私ニ其ノ事デ話シタ人ハ、国際条約、法規等ハ此ノ憲法ト共ニ尊重セラレナケレバナラナイト云フ文句デアツタノデスガ、憲法ト共ニト云フノハ、法律的ニ言ツテドウ云フコトダ、憲法ト共ニト云フ言葉ハドウモヲカシナ言葉ダ、併シ国際法規ト云ツテモ、郵便条約ノヤウナモノモアルノデアルカラ、ソレヲ憲法ト同列ニト云フコトハ、重要性カラ見テモヲカシイノデアルガト言ツタラ、ソレナラ最大ノ尊重ヲ必要トスルト云フコトデ結構デスト云フヤウナ意見デ、憲法ト云フ字ヲ取ラレタノデス、若シ此ノ憲法ト云フ字ヲ入レテ置ケバ、或ハアナタノヤウナ何ハナクナツタノダト思ヒマス
○佐藤（達）政府委員　併シソレハ、憲法ト共ニ、ガアリマシテモ、憲法ニ基イテト云フノト、共ニト云フノトデハ、法律的ニハ私ハ余程違フト思フ、併シ私トシテハ、個人的ノ意見ヲ或ル人ニ述ベタノデスガ、積極的ニハ支持シナイ、其ノ必要ハナイト思フ、併シ決シテ阻止ハシナイト云フコトヲ申シテ置キマシタ、悪イコトデハナイト思ヒマス
○芦田委員長　其ノ私ニ話シタ人ハ、更ニ意見ヲ付加ヘテ、将来日本ガ国際連合ニ参加スルガ如キ場合ニ、憲法ノ中ニ国際機関ノ決定ヲ尊重スルト云フ趣意ガ出テ居ルコトハ、多少有利ニ解釈ヲサレルノデハアルマイカ、是モ一種ノ希望意見デセウガ、サウ云フコトヲ言ツテ居ラレタノデス、北君ドウデスカ
○北（れい）委員　私ハ何トカシテ条約尊重ト云フコトハ入レタイノデス、是ハ根本論カラ言ヒマスト、日本ニハ斯ウ云フ国家至上主義ノ立場カラ、主権ハ独立性ヲ持ツテ居ル、条約ニ拘束サレルノハ条件付ノモノデアルト云フヤウナ議論ガ相当行ハレテ居ルシ、近代的ノ方デハ、国際法ガ国内法ニ優位スルト云フ議論ガ行ハレテ居ル、是ハドチラモ根拠ガアルコトデアルガ、従来ハ不戦条約ナドモ日本ガ調印シテ居リナガラ、破ツテ居ル、九箇国条約モ破ツテ居ル、是ガ「アメリカ」辺リカラ、日本ノ支那事変ナドニ対シテ抗議ヲ申込マレタ点デアル、ソレカラ国際連盟ニ一度入ツテ居リナガラ、脱退シナケレバナラヌ已ムヲ得ザル事情ガアツタ、主権ノ発動トシテ脱退シテモ宜カツタデセウガ、国際連盟ノ悪口ヲ言フ、入ル時ニハ満場一致デ入ツテ置キナガラ、出ル時ニハクソ味噌ニ悪ク言フ、ドウモ国際条約ヲ尊重スル精神ガ足ラヌヤウデアルカラ、何トカ国際条約尊重ノ精神ヲ此処デ何等カノ形デ現ハス、サウスレバ将来国際連合ニ入ル準備ヲスル上ニ於テモ非常ニ便宜ガアル、私ハ是カラ世界的日本、道義的日本、所謂平和的ナ世界ノ一員トシテ伍シテ行クト云フ点カラ見テ、是非トモ憲法同様ニ条約ヲ尊重スルト云フ精神ヲ現ハシタイト思ヒマス、戦争抛棄ダケデハ、本当ニマダ国際協力ヲ積極的ニヤルト云フ意味ガナイカラ、何トカ日本ノ孤立状態ヲ脱スル上カラモ私ハ入レテ貰ヒタイ、条文ノ形ハ委員ノ御審議ニ任シマスガ、憲法ト殆ド同様ニ尊重スル意味ノコトヲ入レテ貰フコトヲ希望スルノデス
○芦田委員長　今私ガ一寸読ンダ案文ト云フノハ、非常ニ不備ナモノデアツテ、無論是ハ専門家ノ手デ書キ換ヘテ貰ハナケレバナラヌト思ヒマスガ、一寸気ガ付イタコトハ、最大ノ尊重ヲ必要トスルト云フ上ニ、立法其ノ他ノ国政ノ上デト云フコトヲ入レテ置カナイト、最大ノ尊重ヲ必要トスルト云フコトガ何ノコトカ分カラナクナル、「立法その他の國政の上で」ト、十二条ノ末尾ト同ジヤウニシナイト、最大ノ尊重ト云フコトハ意味ヲナサヌト思フ、社会党ノ方ハ如何デスカ
○鈴木（義）委員　ヤハリ条約ヲ尊重スルト云フコトハ、分リ切ツタコトデハアリマスガ、日本国民ノ大欠点デアツタノデスカラ、又歴代ノ政府ノ欠点デモアツタノデスカラ、此ノ際入レルコトガ非常ニ宜イト思フ、勿論入レル場所其ノ他ヲ考慮シタ上デスガ、今サウ云フ御提案ガアツタノデスカラ、必ズシモ適当ナ場所トモ言ヘナイガ、賛成致シマス
○芦田委員長　進歩党ハ賛成デシタネ
○犬養委員　前カラ賛成デス
○芦田委員長　林君、如何デスカ
○林（平）委員　私ノ方デモ、此ノ事ハ挿入スルコトニ賛成デス
○芦田委員長　大島君ハ如何デス
○大島（多）委員　御趣旨ハ非常ニ賛成デスケレドモ、サツキ佐藤サンガ仰シヤツタコトハ、私モ全ク同感デアリマシテ、此ノ第十章ニ入レタ方ガ宜イト思ヒマス、ソレカラ又文章ガ余リ諄々シタ文章デスカラ、モウ少シスツキリシタ簡単ナ文章ニ書キ換ヘラレナイカト云フコトヲ私ハ考ヘテ居リマシテ、入レルト云フ御趣旨ハ賛成デアリマス
○芦田委員長　笠井君、如何デス
○笠井委員　サウシマスト、前ニ戻リマスガ、九十四条ニ「竝びにこれに基いて制定された法律及び條約」トアリマスガ、其ノ法律ガ悪イナラ法律ヲ取ツテ、条約ト云フコトヲココニ残シテ、九十四条ヲ其ノ侭ニシタラ如何デセウカ、新シク入レルヨリモ――之ヲ入レルコトハ大賛成デスガ、何シロ余リニ冗漫ニ流レルヤウデアリマスカラ……
○芦田委員長　サウスルト、憲法ト条約トガ最高法規ダト云フコトデスカ
○笠井委員　前ニ米国ノ憲法臭イ所ガアルト云フコトデ取ツタコトガアル、「竝びにこれに基いて制定された法律及び條約は」ト云フノハ、之ヲ再ビ生カスコトハ如何デセウカ
○芦田委員長　イヤ……
○笠井委員　イケマセヌカ
○芦田委員長　条約デモ憲法ニ基イタ条約ハ最高法規デアルト云フコトニスルト、例ヘバ「ヘーグ」ノ国際条約、平和会議デ作ツタ色々ナ条約ガアリマスネ、サウ云フモノト、新シク此ノ憲法ニ基イテ作ル条約トノ間ニ、憲法ニ基イテ結ンダ条約ト云フコトニスルト差ガ出来ル、古イ条約ト新シイ条約トノ間ニ、最高法規デアル条約ト、最高法規デナイ条約トガ出来ル、是ハドウモ私ハ拙イト思フ、「アメリカ」デハ州ノ問題ナンカガアツテ、サウ云フコトノ現実ノ必要ガアツタカラト思フガ、日本デハ条約ニサウ云フ区別ヲ付ケル必要ガ実ハナイ
○笠井委員　然ラバ賛成致シマス
○犬養委員　恐縮デスガ、モウ一度御読ミ願ヒマス
○芦田委員長　新シイ条項デスカ、是ハ法制局ニ御渡シシテ、然ルベクサウ云フ留保ノ下ニ――モウ一遍読ミマスガ、日本ガ締結又ハ加入シタ条約、日本ノ参加シタ国際機関ノ決定及ビ一般ニ承認セラレタ国際法規ハ、立法其ノ他ノ国政ノ上デ最大ノ尊重ヲ必要トスル
○犬養委員　分リマシタ
○芦田委員長　ソレデハ佐藤君、一ツ法制局デ此ノ案文ヲ適当ニ訂正ヲ願ツテ第九十四条ノ二項ニ入レルヤウニ準備ヲ御願ヒ致シマス
○佐藤（達）政府委員　承知致シマシタ
○芦田委員長　ソレカラ最後ニモウ一ツ残ツテ居ルノハ、前文ニ二字ヲ加ヘルト云フ問題デス、アレハ森戸君ノ御説明デ新シク二字ヲ入レヨウト云フノデ、色々党ニ帰ツテ相談ヲシタノデスガ、諸般ノ関係上ヤハリ原案デ行キタイト云フノガ自由党ノ意見デアツテ、理由ヲ長ク申ス必要モナイト思ヒマスガ、自由党ハサウ云フコトニ改メテ協議ヲシタ訳デアリマス、ソコデ色々従来ノ御立場モアラウガ、一ツ社会党ノ方デ是ハ御趣意ガ大体此ノ原文ノ中ニ入ツテ居ルノダト云フ風ニ御諒解ヲ願ヒタイ訳ナノデスガ、サウ云フ風ニハ行キマセヌカ
○鈴木（義）委員　ソレデハヤハリ前ノ方ノ問題ト同ジヤウニ、一応留保シテ諒承スルコトニ……
○芦田委員長　サウデスカ
○吉田（安）委員　小会派ノ御意見ハドウデスカ
○笠井委員　是ハ私ガ昨日申シマシタヤウニ、「專制と隷從」「壓迫と偏狹」ト云フノハ対句デアリマスルシ、又之ニ依ツテ大体意味ヲ貫徹シテ居ルト思ヒマスカラ、是レ以上ニ又三番目ノ対句ヲ加ヘルト云フコトハ、聊カ体裁ヲ毀スト同時ニ、一方文章ノ力ト意義ヲ増サナイト思ヒマスノデ、私ハ原案通リニシタイト思ヒマス
○芦田委員長　大島君ハ如何デスカ
○大島（多）委員　私ハ最初ハ是ハ反対デアリマシタ、ソレカラ昨日ハ賛成ト云フコトニシテ居リマシタ、実ハ此ノ問題ハ小サナ問題ト考ヘテ居リマシタ所ガ、審議ヲ経ルニ従ツテドウモ色々徴妙ナ――一寸性質ガ変ツテ来タ問題ニナリマシテ、是ハ私一人デ新政会ノ代表トシテ態度ヲ表明スルト云フ訳ニ行カナイヤウニナツテシマヒマシタ、実ハ此ノ点ニ関シマシテ代議士会ヲ開イテ居リマセヌカラ、私トシテハ此ノ態度ヲ保留シテ置キタイト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　林君、如何デスカ
○林（平）委員　是ハ入レテモ宜イヂヤナイカト云フ私一存ノ考ヘデアリマシタ、所ガヤハリ党ノ方デドウモ折角良イ対句ガ出来テ、文章ニモ勢ヒガ兎ニモ角ニモ整ツテ居ルノダカラ、是ハ入レナイ方ガ宜イヂヤナイカ、全体ヲ見テ前文全体ガ好マシクナイノダカラ、少シデモ文章ノ勢ヒヲ抜クヤウナコトハ止メタラ宜イヂヤナイカト云フヤウナ話ガアリマスノデ、酷使ト窮乏ト云フコトハ如何ニモ私ハ良イ言葉ダト思フノデスガ、段々話シテ居ル中ニ、是等モ後ノ方ニ、含マレテ居ルト見ルコトガ出来ルカラ、実ハ昨日賛成シテ甚ダ責任ガ軽イヤウナコトデアリマスガ、社会党ノ方デ何トカソレハ御譲歩ナスツテ戴イタラドウカト云フヤウナ感ジヲ持ツテ来タ訳デアリマス
○芦田委員長　進歩党ハ如何デスカ
○吉田（安）委員　実ハ昨日大勢ガサウ行キマスナラバ挿入スルコトモ敢テ吝カデナイト云フコトヲ申シマシタガ、ヤハリ今日大体党ノ方デモ諮ツテ見マスト、相当異論モアルヤウデアリマス、他ノ方デサウ云フ留保ノヤウナコトヲ仰シヤツテ居リマシタ所モアリマスカラ、私ノ方モサウ云フコトニ決定致シタイト思ヒマス
○犬養委員　明日代議士会ヲ開キマスカラ……
○芦田委員長　是デ一通リノ修正案ニ関スル討議ヲ終ツタト思ヒマス、併シ尚ホ其ノ他愈々最後ノ決定ヲスルニハ、法制局ノ案文ヲ待ツ必要モアリシマスカラ、一応明日ハ委員会ヲ休ンデ、尚ホ改メテ各派ト御協議ノ上デ次ノ委員会ヲイツ開クカト云フコトヲ決定シタラドウカト思ヒマスガ、ソレデ御異存ハアリマセヌカ
○笠井委員　ソレヲ仰シヤル前ニ御伺ヒシタイコトハ、前文ハ全部マダ終ツテイナイヤウデゴザイマスケレドモ、如何ニモ諄々シイヤウデゴザイマスガ、「國政」ト云フコトハ「政府」ト直シテ戴キタイト思ツテ居リマス
○芦田委員長　前文ノ四行目ノ「國政」デスネ、ソレハ此ノ間笠井君ガ御提案ニナツタ時ニ一応相談シテ、多数ノ意見ハヤハリ「國政」ト云フコトニ残シタイト云フ御意見デアツタヤウニ思フノデスガ……
○笠井委員　左様デゴザイマス
○芦田委員長　モウ一応委員会ニ諮ルコトハ宜シウゴザイマスガ、笠井君ノ御提案ニ御賛成ノ方ガドナタカアリマスカ――先達テハ余リ他ニ御賛成ガナカツタモノダカラ、其ノ侭ニ一応解消シタモノトシテ、今日ハ改メテ問題ニシナカツタ訳デス、ソレカラモウ一点前文ノ二行目ニ修正案デ丁度真中ノ所ノ「日本國全土」ヲ「我國全土」ニ直シタノデスガ、其ノ「我」ト云フ字ガ漢字ニナツテ居ルノデス、他トノ調子ヲ合セル為ニヤハリ是ハ仮名デ「わが」ト書キタイ、斯ウ云フコトデス、是ハモウ御異存ナイト思ヒマス、ソレカラモウ一ツ前文ヲ修正シテ――三行目ノ所デス、此処ニ「主權が國民にあることを宣言し」ト、斯ウ変ヘタノデスガ、第一条ニ於テ「主權の存する」ト斯ウ直シタ関係上、ヤハリ前文ニ於テモ「主權が國民に存することを宣言し」ト統一シタ方ガ宜カラウト云フ件デス、其ノコトガ決シテ悪イトハ思ヒマセヌケレドモ、前後形ヲ揃ヘル為ニ、「主權が國民に存することを宣言し」ト云フヤウニスル
○犬養委員　宜シウゴザイマス
○芦田委員長　ソレカラ最高裁判所長官ノ問題ヲ成文化スルコトヲ法制局ニ依頼シテ居ツタノデアリマシタガ、今日ソレヲ戴イタノデス、ソコデ原則的ニ決メテ置キタイト思フ点ハ、最高裁判所長官ノ地位ヲ補職制度ニスルカドウカト云フ問題デス、裁判官ノ中カラ長官ト云フ職ニ補スルト云フコトニスルカ、或ハ長官ヲ別ニ任命シテ、ソレ以外ニ内閣ノ任命スル最高裁判所ノ裁判官ヲ作ルカト云フ点デス、ソレニ依ツテ七十五条ノ書キ方ヲ変ヘナクチヤナラナイサウデス、若シ補職制度ニスレバ、七十五条ニハ手ヲ触レナクテモ大体行ケル、斯ウ云フ法制局ノ意見デス
○鈴木（義）委員　私共提案者ノ趣旨ハ、補職ト云フヤウナコトデナク、最高裁判所長官ハ、内閣総理大臣ト対等又ハソレ以上ノ人物ヲ任命スルト云フ積リナンデ、都合ニ依ツテハ総理大臣ヲ辞メタ人デ適任者ガアレバ最高裁判所長官ニスル、「アメリカ」ノ如キモ前大統領ガ最高裁判所長官ニナルト云フノデアルカラ、是非是ハ任命デ行ツテ戴キタイト思ヒマス
　　　　〔「賛成」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　自由党モソレデ宜シイデスカ
○北（れい）委員　賛成デス
○芦田委員長　サウスルト、御手許ニ行ツテ居リマス大キイ紙ノ初メノ頁ノ方ガ問題ニナツテ来ル訳デス、第六条第二項トシテ、「天皇は、内閣總理大臣の指名に基いて、最高裁判所の長官を任命する。」、ソレカラ第七十五条第一項ニ於テ、「裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員數のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。」、同条第三項ニ次ノ箇条ヲ加ヘル、「最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齡に達した時に退官する。」
○佐藤（達）政府委員　「長官」ノ横ニ筋ガ引イテアリマスガ、是ハ「長官」ト云フ押ヘ方ニスルカ、唯「長」ト云フ押ヘニスルカ、ソコノ迷ヒヲ書イテアルノデス
○芦田委員長　サウスルト、私ノ読ミ方ガ逆デアツタノデスネ、ソレデハ一寸訂正シマス、「長たる裁判官」ト云フノハ、総テ「長官」ト云フノガ本当ダサウデス
○佐藤（達）政府委員　ソレカラ最初カラ二行目ノ
　「長官」ノ横ニ唯「長」ト書イテアリマスガ、是ハ「長たる裁判官」トシテ置イタ方ガ宜イト思ヒマス、其ノ点ダケ修正シマス
○芦田委員長　長官モ裁判官ニ加ハル訳デスネ
○佐藤（達）政府委員　七十五条ヲ御覧ニナリマスト、「最高裁判所は、長官及び法律の定める員數のその他の裁判官」、「その他の」ト云フ言葉ヲ入レテ居リマスノデ、長官モ裁判官ノ一種デ、唯名前ガ長官ト言フダケデス、ソレハ丁度内閣総理大臣其ノ他ノ国務大臣ト云フコトデ、総理大臣モ国務大臣ノ一人ダト云フノト同ジ趣旨デス、デアリマスカラ、裁判官ト云フノハ、長官モ含ムト云フヤウニ御諒承願ツテ置キマス
○吉田（安）委員　長官モ裁判官ト云フコトニナルト、其ノ資格ハドウナリマスカ
○佐藤（達）政府委員　資格ハ法律デ何レ決マルコトニナルト思ヒマスガ、原則ハ普通ノ裁判官ト同ジ資格デアツテ然ルベキモノダト思ヒマス
○芦田委員長　サウ致シマスト、次ノ会議ヲ開クベキ時期ニ付テハ、改メテ各派ニ御相談ヲシテ、成ルベク早イ日ニ締括リノ小委員会ヲ開クコトニ決定シテ宜シウゴザイマスカ
○鈴木（義）委員　一寸伺ツテ置キマスガ、我々ガ党ヘ帰ツテノ態度ニ付テ、詰リ今マデ決マツタ修正案ヲ発表シテ、代議士会ノ承認ヲ求メルト云フコトヲシテ宜イカ、マダソレハ早イカト云フ問題デス
○芦田委員長　ソレハ一般論トシテハ一寸御答ヘガ難シイカト思ヒマスガ、私ノ党ニ関スル限リノ予定デハ、明日代議士会ヲ開イテ、今日マデ此処デ決マツタ問題ヲ一括シテ相談シヨウト思ツテ居リマス
○鈴木（義）委員　ソレガ又何等カノ事情デ変更サレルト云フヤウナコトハアリ得ナイデセウカ
○芦田委員長　或ハ起ルカモ知レマセヌガ、サウ云フ不測ナコトガ起ツタ時ニハ、又相談スルヨリ外ニ途ハナイト思フノデス
○犬養委員　アナタノ方ハ、中間報告ト云フノハナイノデスカ
○鈴木（義）委員　ソレデモ宜イデス
○犬養委員　私ノ方ハ中間報告ノ形デス、サウシナイト、他党ニ対スル敬意ノ問題モアルモノデスカラ……
○芦田委員長　ソコデ問題ハ、此処デ決メタモノヲ直グ外ヘ公表スルカドウカト云フ問題デス、一応各党ノ党議ガ決マルマデハ、形ヲ揃ヘテ発表シナイ方ガ宜イノヂヤナイカト思フノデス
○犬養委員　其ノ方ガヤハリ宜イデスネ
○北（れい）委員　一寸肝腎ナコトデ、法制局当局ニ聴キタイデスガ、五十一条ニ「兩議院は、各々その議員の選擧又は資格に關する爭訟を裁判する。」トアル、議会内ニ一種ノ裁判所ヲ設ケルト云フコトニナレバ、国会法デ決メナケレバナラナイ、所ガ政府ノ考ヘデハ、是ハ司法部ノ方デ決メルト云フ話デアツタノデス、又ソレニ関連シテ、五十八条ニ、「兩議院は、各々國務に關する調査を行ひ、これに關して、證人の出頭及び證言竝びに記録の提出を要求することができる。」トアリマス、ソコデ議会ニ属スル一種ノ特別ノ司法裁判所ノヤウナモノヲ設ケナケレバナラナイノデハナイカ、サウスルト普通ノ司法裁判所ト性質ヲ異ニスルカ、何等カ連絡ノ方法ガアリマスカ、政府トシテ斯ウ云フノハ第一、第二、第三、第四、各部全部司法部デ取扱フコトニナツテ居ルガ、是ハ国会法デ取扱ツテ国会ニ附属スルカ、或ハ国会ノ内部ニ司法裁判所ノ形デ、英国ノ上院ノヤウナ司法裁判所、アア云フヤウナ形ニスベキモノデハナイカト思ヒマスガ、技術的ニハドウデスカ
○佐藤（達）政府委員　今五十一条ト云フ御話ガアリマシタガ、ソレハ六十条ノ御話デハアリマセヌカ、六十条ニ弾劾裁判所ノ規定ガアリマスネ、其ノ御話デハナカツタデスカ、選挙ノ争訟ノ方デスカ
○北（れい）委員　選挙ノ争訟デモ、有効カ無効カ何カト云フコトニナレバ、色々証人ダノ何カ集メナケレバナラヌ、全然司法部ト連絡ナクシテ議会ノ中ノ司法委員カ何カヲ一応選ンデモ、其ノ構成ヨリモ技術問題ニ非常ニ困難ヲ感ズルノデ、議会内部ニ司法部ヲ設ケテ選挙ニ関スルコト、資格ニ関スルコトハ独立ノ司法権ヲ発動出来ルト云フヤウニモ解釈出来ルシ、司法部ニ依頼シテ調ベテ貰フヤウニモ見エル、五十八条ニモ勿論関係スル、例ノ国政ノ調査ノ場合ニモ関係シテ来ル、ソレカラ今法制局ノ仰シヤル通リニ六十条ニモ関係シテ来ルト思ヒマスガ、此ノ構成ハドウナリマスカ、技術的ニ非常ニ困難ナ問題ガ生ズルノデ、私ハ非常ニ心配ナノデス
○佐藤（達）政府委員　先程例ヘニ仰セラレマシタ、議会ノ中ニ裁判所ノヤウナモノト云フ御話ハ、六十条ニ付テノ御話ト拝聴致シマシタ、ソコデ五十一条ノ選挙又ハ資格ニ付テノ争訟ノ場合ハ、裁判所ト云フヤウナ特別ノ観念ハソコニ入レマセヌデ、今例ヘバ貴族院デ議員ノ選挙ノ審査ヲヤツテ居ラレマスガ、サウ云フ形デ委員会ナリ何ナリデ下調ヲナサツテ、結局其ノ全体ノ本会議デ御決メニナル、是ハ大筋ハサウ云フコトダラウト思ヒマス、例ヘバ下調ヲ司法部ニ依頼スルトカ、其ノ他ノ関係ハ是ハ固ヨリ五十八条モ一ツノ手段ニナリマセウシ、ソレカラ後ハ実ハ私見デアリマスガ、此ノ選挙ニ関スル争訟ノ手続ニ於テ法律ヲ以テ或ル程度ノコトハ決メ得ルデハナイカト考ヘマス
○北（れい）委員　資格審査ハ今マデモ貴族院デヤツテ居ルガ、選挙ノ有効無効ニナルト、証人ヲ呼ンダリナドスルコトハ相当出テ来ルト思ヒマス、技術的ニサウ云フモノデ十分ヤツテ行ケルモノデスカ
○佐藤（達）政府委員　十分ヤツテ行ケルカドウカト云フ点ニ付キマシテハ、十分デゴザイマスト云フコトヲ確言スルアレハアリマセヌケレドモ、ソレハ色々難カシイコトハアラウト存ジマス
○北（れい）委員　ソレニ関連シテ五十八条デ此ノ前モ一寸触レテ居リマシタガ、証人ノ出頭、証言、議会内ノ委員会――司法委員会アタリデ皆是ノ強制力ヲ持ツテ居リマスカネ、議会ガサウ云フコトヲヤレルモノデスカネ、国会法カ何カニ規定シマスカ、議会ノ調査会カ審査会ガアツテ、呼出シヲ受ケタ時ハ行カナケレバナラヌト云フコトヲ、何カデ規定シマスカ
○佐藤（達）政府委員　ソレハ法律ヲ以テスレバ可能ダト思ヒマス、出来ルト思ヒマス
○犬養委員　ソレカラ第七条ノ御扱ヒハ社会党ハ反対ト云フコトデスカ、ソレトモ此処ハモウ少シ論議ヲナスツテ留保ト云フヤウナコトニ漕ギ付ケルカト云フコトニナリマスガ……
○鈴木（義）委員　ソレト参議院ノ問題ト――一応此処デハ変更ノ途ハ付ケナイト云フコトデ了解シテ宜シイデスネ、一院制ト云フヤウナコトハ問題ニナラナカツタト云フヤウナコトデ宜シイデスカ
○芦田委員長　エエ
○犬養委員　私ノ方ニ関スル限リハ、相当厳重ナ警告ヲシタイノデスガ、参議院ヲ認メルト云フヤウナノニハ……
○芦田委員長　アア、其ノ犬養君ノ今言ハレタ問題ニ付テ一寸御相談スルコトヲ忘レテ居ツタノデスガ、今度ノ憲法ノ草案ヲ審議シテ、最後ノ答申ヲ決メル時ニ、色々政府側ニ要望スベキコト、希望スベキコトガアルト思フ、ソレデスカラ希望決議――名前ハマア附帯決議デモ何デモ宜イデスガ、其ノ附帯決議ヲ付ケル必要ガ起ルカモ知レヌデセウケレドモ、ソレハドウ云フ条項ヲ政府ニ向ツテ希望スルカト云フ点ヲ各派ニ於テ一ツ御考ヘノ上デ、此ノ次ニ小委員会ヲ開ク際ニ持寄ツテ戴キタイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　其ノ時ニ我々ノ主張ヲ持寄レバ宜イ訳デスネ、アノ侭デ済ンデシマツタト云フノデハ少シ物足リナイデスカラ――ソレカラ七条ト、二条カラ五条マデノ問題ハ少数デ已ムヲ得ナイカラト云フコトデ其ノ侭引下ツタ訳デスガ、モ少シ御懇談ヲ願ツテ、ドウシテモ譲歩出来ナイト云フコトデアレバ、ヤハリ譲歩スルト云フ形ニナルカモ知レマセヌガ……
○芦田委員長　ソレト参議院デスカ
○鈴木（義）委員　天皇ノ大権、詰リ主権ヲサウ云フ風ニ明カニ規定ヲシタナラバ、尚ホ更此ノ問題ハ重要性ヲ持ツテ来ルカラ、イマ一度御考ヘヲ願ヒタイト云フコトデス、イヤ何遍話シタツテ同ジダト御答ヘニナレバ已ムヲ得マセヌガ……
○芦田委員長　ソレハ各派デ又帰ツテ御相談ヲ願ツテ決メマセウ、ソレカラ尚ホ先程ノ最高裁判所長官ノ所デ、第七十五条ノ修正ノコトデスガ、「長官」ト書クカ「長たる裁判官」ト書クカヲ決メルノデスガ……
○佐藤（達）政府委員　ソレハサウ書イタ方ガ或ハ正確カモ知レマセヌガ、「その他の」ト先程申シマシタヤウニ、「その他の裁判官」トシテ、当然長官モ裁判官ノ一人デアルト云フコトヲ示シテゴザイマスカラ、ソコマデ諄ク書カヌデモ宜イデハナイカト云フコトデ省イテアル、ソレダケノコトデス
○鈴木（義）委員　長官ハ裁判官デナイカノ如キ印象ヲ与ヘルト云フコトヲ惧レルノデセウ、サウ仰シヤル人ノ気持ハ――併シ是ハ当然裁判官デスカラ、素人ガナツタツテ――丸デ素人ハ任命シナイデセウガ……
○芦田委員長　第六条ニ「長たる裁判官」トシテ入レテ置ケバ、第七十五条ハ「長官」デモ分ル
○佐藤（達）政府委員　其ノ点ハ「長官」デ行クノナラ、六条モ七十五条モ全部長官デ押通シタイ、「長たる裁剣官」デ行クノナラ、六条モ七十五条モソレデ押通シタイト云フ気持デ居ルノデゴザイマスケレドモ……
○鈴木（義）委員　唯、長官ト云フ言葉ハ、行政官ヲ意味スルヤウナ「インプレッション」ヲ与ヘル
○佐藤（達）政府委員　ソレデ実ハ横ニ棒ヲ引イテ、ドツチガ宜カラウカ――一寸「ニュアンス」ガアリマスカラ……
○鈴木（義）委員　併シマア裁判所ノ長官ダカラナア
○芦田委員長　一体併シ是ハナンデスカ、最高裁判所ト書ク以上ハ、今度出来ル裁判所ハ、大審院ト云フ名前ハ当然最高裁判所ト書クノデスカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ憲法デハ固有名詞ヲ決メタモノトハ考ヘテ居リマセヌノデ、具体的ナ名前ハ仮ニ大審院ト決メラレテモ差支ヘナイト思ツテ居リマス、或ハ長官ト書キマシタケレドモ、官名ガ長官デアルト云フコトニハ直チニナラナイト思ヒマス、其処ノ首長タル役人ト云フ意味デ長官ト云フ名前ヲ書イタコトヲ御諒承願ヒタイト思ヒマス
○芦田委員長　ソレナラバ「長たる裁判官」ト書イタ方ガ誤解ヲ受ケナイカモ知レナイデスネ
○北（れい）委員　是ハ修正意見デハアリマセヌガ、関連シテ聴イテ見タイト思ヒマス、此ノ憲法改正ノ九十二条ノ所ニ「各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。」、是ハ議員ノ三分ノ一ガ出席スレバ議事ガ出来ルノデスガ、出席議員ノ三分ノ二デアリマスカ、出席議員如何ニ拘ラズ全議員ノ三分ノ二ヲ意味スルモノデスカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ後ニ仰シヤツタ方デアリマス、全体ノ議員ノ数ヲ押ヘマシテ、其ノ三分ノ二ト云フコトデ、三分ノ一ノ定足数ガ出席シテ居レバ宜イト云フノデハナイト思ヒマス
○北（れい）委員　ソレデ分リマシタ、モウ一ツ聴キタイコトガアリマス、此ノ前法制当局ニ聴イテ、参議院ニ法律ヲ出シテ否決サレタ場合ニハドウナルカ、其ノ侭デ駄目カト言ツタラ、衆議院ニモウ一度出シテモ宜イト云フコトデスガ、今ノ憲法ノ三十九条ニハ「兩議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同會期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス」ト云フヤウニアツテ、他ノ議院ニハ出セナイヤウニナツテ居リマスガ、今度ノ憲法デハソレガ出セルコトニ何カ国会法ヲ拵ヘマスカ
○佐藤（達）政府委員　今回ノ改正案ニハ今ノ御指摘ノ条文ガアリマセヌカラ、其ノ点ハ国会法等ニ於テ如何ヤウニモ決メ得ルモノト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　サウスルト第六条ノ二項ニ「最高裁判所の長たる裁判官を任命する。」、サウスルト七十五条ノ修正モ、「その長たる裁判官」ト云フコトノ方ガ誤解ヲ避ケル為ニ宜カラウト云フ説モアルノデスガ、ソレデ宜イノデスカ
○鈴木（義）委員　結構デス
○林（平）委員　先程ノ北委員ノ御話ハ、結末ガ付イタノデスカ、此ノ第五十一条ノ議員ノ選挙ニ関スル争ヒヲ裁ク、資格ナドハ書類ダケデ簡単デスケレドモ、選挙ニ関スル争ヒハ容易デナイバカリデナク、率直ニ申シマスト、議会ハ道理デ片付ケルヨリハ数デ片付クト云ツタ方ガ分量ガ多イノデハナイカト思ヒマス、サウ云フヤウナコトヲ考ヘテ見ルト、結局少数党ハ何時モ駄目ニナツテ、多数党ハ助カルト云フヤウナコトモ否定ノ出来ナイ事実デアラウト思フ、サウ云フヤウナコトガアレバ、結局国会其ノモノノ内容ニモ影響スルコトデ、ソンナ厄介ナ仕事ヲ背負ヒ込マナイ方ガ宜イノデハナイカト云フ感ジヲ持ツノデアリマス、前回ノ選挙ノ争ヒナドハ可ナリ広ク各地ニアリマシタ、鹿児島、長崎アタリニハ裁判官ガ数人出張致シマシテ、多数ノ証人ガ、或ハ数百名ニ上ツタカト思ヒマスガ、召喚サレテ、長イ間ノ日数ヲ要シタ、サウ云フヤウナコトガ議会ノ議員ノ仕事ノ中ニ於テヤルトスレバ、実ニ容易ナコトデハナイト思フノデス、是ハ何トカ裁判官ノ方ニ廻ス訳ニ行カナイモノデセウカ、資格ダケヲ此処ニ載セテ置イテ、選挙ト二ツニ分ケテ、選挙ノ方ハ裁判所ニ廻スト云フヤウナ工合ニ行カヌモノデセウカ
○芦田委員長　サウ云フ議論モアツタノデス、ソレデ提案ヲシヨウト云フ方モアツテ、結局問題ハ正式ニ提起サレズニ済ンダデシタカネ
○高橋（泰）委員　済ンダノデス
○芦田委員長　全然新シイ問題デスカラ、今御提案ニナレバ、此処デ相談スルコトハ何モ差支ヘナイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　新シイ提案デハナイ、私ハ何故ニ原案ヲ支持スルカト云フコトヲ説明シテ、私共最初ハ此ノ点ニ疑問ヲ持ツテ、ヤハリ林サント同ジヤウナ意見ヲ持ツテ居ツタノデアリマスケレドモ、各方面ノ意見ヲ聴キ、考ヘタ結果、是ハ原案ガ正シイト云フコトニナツタカラ原案ヲ支持シタノデス
○芦田委員長　進歩党カラ出タノデス
○北（れい）委員　実ハ自由党ニ於テモ削除論ガアリ、進歩党ト自由党ノ削除論ガアツタノデス、進歩党ノ憲法委員会ニ於テハ此ノ侭ニシヨウト云フコトニナツタ
○犬養委員　アノ時ハ決メタケレドモ、此処デ相談シ合ツテ、此処デハ削ツタノデス、代議士会ニ相談致シマシタガ、主ナ人ハ賛成デス
○北（れい）委員　代議士会ニ相談シタデスカ
○芦田委員長　一応話題ニハ上ツタノデス、ソレデハ発表文ヲ紹介致シマス、「小委員會ハ八月二日午後一時四十分開會、改正案第一條、第二十七條、第七十五條、第八十四條、第九十四條及ビ前文ニ關スル修正案ヲ審議シタ、本日ノ懇談會ニ於テハ各派ノ一致ニ達シ得ナイ問題モアツタガ、追ツテ各派ノ態度決定ヲ待ツテ來週早々小委員會ヲ開クコトトシ、午後何時何分散會」、此ノ程度デ宜シウゴザイマスカ
○犬養委員　結構デス
○芦田委員長　ソレデハ本日ハ是ニテ散会致シマス
　　　　午後三時十九分散会