小委員会 昭和21年8月20日（第13回）

昭和二十一年八月二十日（火曜日）
　　　　午前十時二十八分開議
　出席委員
　　　委員長　芦田　　均君
　　　　　廿日出ひろし君　　　　江藤　夏雄君
　　　　　　犬養　　健君　　　　吉田　　安君
　　　　　　鈴木　義男君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　林　　平馬君　　　　大島　多藏君
　　　　　　笠井　重治君　　　　高橋　泰雄君
　　　　　　原　夫次郎君　　　　西尾　末廣君
　出席国務大臣
　　　　　　　　　　　国務大臣　金森徳次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　―――――――――――――
　本日ノ会議ニ付シタ議案
　　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、本日ハ特ニ金森国務大臣ノ出席ヲ求メテ、政府側ノ御意見ヲ聴クコトガ適当デアルト考ヘマシタカラ、今此ノ席ニオイデヲ願ヒマシタ、本日御協議ヲシマス点ハ、原案第六十三条ノ「内閣總理大臣は」ト云フ下ニ「國會議員の中から」ト云フ八字ヲ挿入スルト云フ点ガ一ツ、第六十四条ノ「國會の承認により」ト云フ字ヲ削ツテ、「内閣總理大臣は、國務大臣を任命する。」、其ノ次ニ「但し、その過半數は、國會議員の中から選ばれなければならない。」ト新タニ一句ヲ挿入シテ、其ノ下ニアル「この承認については、前條第二項の規定を準用する。」ト云フ文字ヲ削ル、是ガ各派共同提案トシテ提出セラレタ案デアリマス、此ノ提案ヲナスニ至ツタ理由ハ、専ラ関係方面ノ希望ニ依ルモノデアリマスケレドモ、本委員会ノ質疑応答ノ際ニモ、議院内閣制度ヲ採用シタ今日、何故ニ専ラ国会議員ノ中カラ内閣総理大臣若シクハ国務大臣ヲ任命シナイノカト云フ風ナ質疑モアリマシテ、委員会トシテハ寧ロ其ノ空気ニ副フ修正案デアルト思ヒマス、此ノ二箇条ニ付テ金森国務大臣ヨリ御話ヲ聴クコトニ致シマス――金森国務大臣
○金森国務大臣　今日ニ至リマシテ以下申上ゲマスルヤウナコトヲ御耳ニ入レマスルコトハ、甚ダ恐縮千万トハ思ツテ居リマスルガ、実情デアリマスルガ故ニ、実際ノ事情ヲアリノ侭ニ申上ゲマシテ、ソシテ然ルベク御諒解ヲ御願ヒ致シタイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
　実ハ昨日即チ八月十九日ノ朝ニ至リマシテ、突然「マッカーサー」元帥ノ方カラ吉田総理大臣ノ向フニ行カレルコトヲ求メテ参リマシタ、ソシテ向フヘ行ツテ話合ヒヲサレマシタ所、先方ノ意見ト致シマシテハ、極東委員会ノ意向トシテ主張セラレタモノガアツテ、ソレガ「ワシントン」カラ電報ヲ以テコチラニ伝ヘラレテ来タ、其ノコトハ大キナ憲法問題ノ全体カラ見レバソンナニ重要ナ論点デハナイヤウニ思フガ、随テ又其ノ内容ヲ能ク考ヘテ旨ク善処シテ貰ヒタイ、斯ウ云フヤウナ希望ヲ加ヘラレタノデアリマシテ、ソシテ其ノ中味ノ事情ハ、是ハ先方ガハツキリ言ツタカドウカ私ハ聴キ落シマシタケレドモ、途中ノ経緯ノ色々ナ道行キヲ経マシタ話ガ私ノ耳ニ入ツテ居リマスル所ニ依リマスルト、国務大臣ヲ選任致シマスルニ付テ、如何ナル者カラ之ヲ選任スベキカト云フコトニ付キマシテ、正直ナ所、政府提出ノ憲法ノ改正原案ニ付キマシテハ、「アメリカ」流ノ議論トモ言ハルベキモノガアル訳デアリマス、所ガ極東委員会ノ空気ト致シマシテハ、「アメリカ」流ノ考ヘ方ニ対スル相当ノ反対ノ声ガ強イノデアリマシテ、寧ロ之ヲ「イギリス」流ノ原理ニ依ルベキモノデアルト云フヤウナ訳デ、可ナリ内部ニ議論ガアツテ、ソレガ可ナリノ多数ヲ以テ「イギリス」流ノ原理ヲ採ルベシト云フヤウナ結論ニナツタラシイ、是ハ私ガ途中デ挟ミ込ンダモノデアリマス、左様ナ次第デアリマシテ、此ノ先方カラノコチラヘノ話込ミニ依リマスルト、二ツノ点デアリマシテ、第一ニ於キマシテハ日本ノ憲法草案ノ第六十三条ヲ修正致シマシテ、其ノ中ニ内閣総理大臣ハ「シヴィリアン」タルコトヲ要スル、是ガ一点デアリマス、第二ハ、其ノ総理大臣ハ国会議員ノ中カラ指名サルベキモノデアルト云フコトデアリマス、次ニ政府草案ノ第六十四条ニ付テノ修正意見デアリマスルガ、ソレハ国務大臣ノ任命ニ関スル規定ノ中ニ於キマシテ、国会ノ承認ヲ経ベキ旨ノ条項ヲ削除シテシマフ、是ガ第一点デアリマス、ソレカラ国務大臣ハ総テ「シヴィリアン」タルコトヲ要スル、是ガ第二点デアリマス、ソレカラ国務大臣ノ過半数ハ国会議員ノ中カラ選バルベキモノトスル、是ガ第三点デアリマス、是ダケノ点ニ付テ修正ノ申入レガアリマシテ、日本側ニ於キマシテ適当ナ措置ヲ執ツテ貰ヒタイ、斯ウ云フ御希望デアツタノデアリマス、此ノ中「シヴィリアン」デナケレバナラヌト云フ意味ハ甚ダ分リニクイコトナノデアリマスルガ、色々研究ヲシテ見マスルト、マア「シヴィリアン」ト申シマスレバ、言葉ダケデ申シマスレバ軍人ヂヤナイ者、非軍人ト云フコトニ当ルト思ヒマスルガ、日本ノ実情ニ於キマシテ、今後新タニ軍人ガ出来ルコトハアリマセヌシ、随テ又新タニ非軍人ト云フモノガ出来ルコトモアリマセヌ、若シアレバ過去ノ歴史的ナ存在ガ残ツテ居ルト云フダケデアラウト思ヒマスルシ、且又非軍人ト申シマスルト、国民ノ義務トシテ軍務ニ就イタ人モ観念的ニハ軍人ト云フ中ニモ入リマシテ、相当是ハ日本トシテハ扱ヒニクイ点デハナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居ツタ訳デアリマス、ソコデ色々ト先方ト交渉ヲ致シマシテ、「シヴィリアン」ニ関スル規定ハ如何ニモ無意味デアリ、且ツ不都合ノ字句デアルカラシテ、ソレニ対シテ適当ナル相談ヲシタイト云フ希望ヲ述ベマシテ、結局其ノ部分ハ問題ニ供シナイト云フコトヲ向フデ同意シタ訳デアリマス、察シマスルニ、ソレハ恐ラクハ日本ニ居ル先方ノ当局者ノ計ラヒデアラウト考ヘテ居リマス、左様ナ訳デアリマシテ、之ヲ如何ニ善処スルカト云フコトハ、今日ニナリマシテ甚ダ困難ナル問題デハアリマスルケレドモ、小委員会デ雅量ヲ抱イテ戴キマスルナラバ、是ガ適当ナル形ニ更正サレ、国際関係モ旨ク行クノデハナイカ、斯ウ云フ考ヘ方ヲシテ居ル訳デス、内容ニ於キマシテハ、先程マデ申シマシタ経緯ニ依ツテ分リマスヤウニ、是ハ一ツノ理由アル行キ方デアツテ、私共毫モ不都合ナル点ガアラウトハ思ツテ居リマセヌ、考ヘ方ニ於キマシテ幾分ノ原案ニ対スル影響ハアリマスルケレドモ、筋トシテハコチラノ方ニモ十分理由ガアルヤウニ考ヘテ居リマス、以上ハ実ハ今日ハモウ全クアリノ侭ニ、一言一句ヲ粉飾スルコトナクシテ申上ゲタ訳デアリマスルガ、此ノ点ハ洵ニ恐入リマスケレドモ、先方ノタツテノ希望モアリマスルシ、又国際関係モアリマスルノデ、事已ムヲ得ザルト同時ニ、斯ウ云フコトニ付テ「プレッス」ニ発表サレルト云フコトヲ非常ニ嫌ツテ居リマスカラ、其ノ点ヲ一ツ十分ニ御含ミヲ願ヒタイト思ツテ居リマス、今日既ニ新聞ニ、事柄ノ本筋デハアリマセヌケレドモ、一端ガ出テ居リマスケレドモ、其ノ歴史ガ出ルト云フコトハ非常ニ拙イノデアリマスカラ、皆サンドウゾ御含ミ願ヒタイト思ツテ居リマス、私ノ申上ゲマスコトハ是ダケデゴザイマス
○芦田委員長　金森国務大臣ニ対シテ何カゴザイマセヌカ
○笠井委員　今ノ「シヴィリアン」ト云フ字句デスガ、非軍人バカリヂヤナイノヂヤナイデスカ、「シヴィリアン」ト言ヘバ民間人ト云フ意味ヂヤナイデスカ
○金森国務大臣　向フハ「シヴィリアン」タルコトヲ要スルト言ツテ来テ居ルノデアツテ、其ノ意味ハ……
○笠井委員　「ノン・ミリタリー」ト言ツテ居ルノデスカ
○金森国務大臣　言ツテ居ルノデス、ソコデ「ノン・ミリタリー」ト云フ意味ハドウカト云フコトニナル、日本ノ職員ノ作リ方ガ複雑デアリマシテ、其ノ作リ方ガ中々難カシイノデスガ、幸ヒニシテ問題ハ消エマシタ
○芦田委員長　御諮リ致シマスガ、共同提案六十三条、六十四条ノ修正ハ、此ノ字句デ採用スルコトニ御異議アリマセヌカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　御異議ナイト認メマス
○鈴木（義）委員　「プレッス」ニ発表シナイコトハ私共注意シマスケレドモ、新聞記者ト云フモノハ迚モウルサイモノデスカラ、政府カラ発表シナイヤウニ仰シヤツテ置ク方ガ宜イノヂヤナイデスカ
○金森国務大臣　是ハ注意シテ下サイ、之ヲヤルト罰セラレルカラ……
○吉田（安）委員　此ノ六十四条ハ、「但し、その過半數は、國會議員の中から選ばれなければならない。」デスカ、「選ばなければならない。」デスカ
○芦田委員長　案ハ「選ばれなければならない。」トナツテ居ルノデス
○鈴木（義）委員　過半数ノ国務大臣ダカラ「選ばれなければならない。」ト受身ニナル
○犬養委員　是ハ蛇足デゴザイマスガ、速記ガ将来残ルト云フ意味ニ於テ、私共党ノ大体ノ意向ヲ申述ベテ置キタイ、閣僚ノ過半数ハ国会議員デナケレバナラナイト云フコトハ、余リニ当リ前過ギルコトヲ当リ前ニ書イタノデ、非常ニ結構ナ修正文トハ実ハ思ヒマセヌ、理想カラ申セバ、全部ガ国務大臣デアリタイモノデアリマスガ、ナゼ之ヲ承認致スカト申シマスト、現在ノ大混乱ノ過渡期ニアリマシテハ、所謂世間デ申ス保守党ト雖モ、非常ニ思切ツテ革新政策ヲ行ハナケレバナラヌ、所謂保守党ノ党員ノ中ニハ、何時モソレニ値スル、当該大臣ニ適スル人ガ居ルトハ此ノ過渡期ニハ限リマセヌ、現ニ此ノ内閣ニ於キマシテモ、和田農林大臣ナドハ色々ノ批評ガアリマシテモ、兎モ角モ清涼剤タルヲ失ハナイ、斯ウ云フ大臣ガドツチカノ党ニ属セナケレバナラヌト云フコトニナリマスト、吉田内閣ニ属シテナイ党ニ入ラナケレバナラナイト云フコトモ現実的ニ起キテ来マスノデ、此ノ過渡期トシテ、余リニ当リ前過ギル修正ヲ敢テ承認ヲ致スノデアリマス、此ノコトダケヲ、後々ノ為ニ速記ニ残ス意味デ申上ゲマス
○鈴木（義）委員　社会党モ同ジ趣旨デ申上ゲテ置キマスガ、全員国会議員タルコトヲ要スルト云フノガ適当カト思フ、稀ニ特殊ノ大臣デ、国会議員カラハ取レナイガ、是非外カラ取リタイト云フ場合モ考ヘ得ラレマスカラ、サウ云フ場合ノ為ニ多少ノ余地ヲ残シテ置クコトハ、已ムヲ得ナイト思ツテ賛成ヲスルノデアリマス、趣旨ハ全員国会議員カラ取ルト云フコトガ我々ノ希望ダト云フコトヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス
　ソレカラ「シヴィリアン」タルコトヲ要スルト云フコトハ当然ノコトデアリマス、条文ノ上ニ表ハセナクトモ、諒解事項トシテ必要ナラ、委員長質問ノヤウナ形デデモ記録ニ残シテ欲シイト思フノデアリマス、マアサウ云フコトハナカラウト思ヒマスガ、追放ヲ免レタ軍人デ、将来立候補シテ議員ニナツテ来ル、サウ云フ人ガ大臣ニナルト云フヤウナ場合ガアルトシテ、ソレハナツタツテ宜イ訳デスケレドモ、他ノ人トノ均衡其ノ他モアリマスカラ、ヤハリ之ヲ立案スル時ニハ、サウ云フコトガ議ニ上ツテ諒解済ミナノデアルト云フコトガ、後々ニ残ツテ居ル方ガ宜カラウト思ヒマスカラ、若シサウ云フコトガ出来ルナラ、サウシテ欲シイト思ヒマス
○芦田委員長　私、一言蛇足デアルカモ知レマセヌケレドモ、申添ヘタイト思フコトハ、立憲政治ヲヤツテ居ル国デモ、国会議員以外カラ大臣ヲ取ル国ハ相当アル、「アメリカ」ハ議院制内閣ヲ採用シテ居ナイカラ、是ハ当然ノコトデスガ、其ノ他ノ立憲政治ヲ行ツテ居ル国ニシテ、議員以外カラ取ル場合ガ相当アル、「イギリス」ハ御承知ノ通リ原則トシテ議員カラ取ルヤウデアリマスガ、「イギリス」ガナゼ全部議員カラ取ツテ運用ガ旨ク行クカト云フコトハ、「イギリス」ノ行政組織ノ運用、是ガ非常ニ旨ク行ツテ居ルカラ、政党内閣ノ形ガ完全ニ行ハレルト云フコトモ、皆サン御承知ノ通リデアリマス、所ガ我ガ国ニ於テハマダ官僚組織、其ノ伝統ガ、「イギリス」ノ「シヴィル・サーヴィス」ノヤウニ行ツテ居リマセヌ、或ル場合ニハヤハリ特殊ノ深イ知識ヲ持ツ者デナケレバ、其ノ省ノ長官ニナリ得ナイヤウナコトガ起ル、是ハ単ニ議員ノ素質トカ、議会ノ構成トカ云フ問題以外ニ、政党政治ニ対スル行政機構ノ適応性ガ出来ナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニモ原因ガアルト私ハ思フ、随テ此ノ憲法ノ精神ヲ完全ニ運用シテ行キ、全部国会議員タル者カラ閣員ガ出ルヤウナ形ヲ完成スルニハ、ヤハリ其ノ政党政治ニ相応シイ「シヴィル・サーヴィス」ノ組織ト伝統ガ出来上ラナケレバナラヌ、私ハサウ云フ風ニ思ヒマス、サウデナケレバ如何ニ閣員ヲ選定シテモ、結局其ノ下部組織ヲナス所ノ行政機構トピツタリ沿ツテ行カナイト云フコトガドウシテモ起ルト思フ、ソレハ今後我々ノ力デ完成シナケレバナラヌ事業デアルト思ヒマス、サウ云フ点ニ付テモ、此ノ憲法運用ノ裏付ケトシテ考慮セラレナケレバナラヌコトヂヤナイカト私ハ思ツテ居リマス
○鈴木（義）委員　委員長ノ御意見ハ至極賛成デス、サウ云フコトモ考慮シナケレバナラヌト思ツテ居リマス
○犬養委員　今ノ委員長ノ御意見ハ洵ニ御尤モデアリマス、鈴木君ノ後半ニ述ベラレタコトハ非常ニ重大ナコトデスガ、此処デ皆サンノ御意見ヲ徴セラレンコトヲ望ミマス
○芦田委員長　私ノ個人ノ意見ヲ言フト、必ズシモ鈴木君ノ御意見ニ私ハ全幅ニ賛成シ得ナイコトガアル、ソレハドウ云フコトカト言フト、今日我ガ国ニ於テ軍人タルガ故ニ追放令ニ掛ツタト云フ人ハ、一応ノ追放令ノ規律ノ標準トシテ拵ヘタノデアリマスカラ、差当リノ場合ニハ一人残ラズ追放令ヲ喰フト云フコトハ已ムヲ得ナイコトダト思フ、併シナガラ追放令ノ本当ノ趣意ハ、日本ヲ民主化シ、軍国主義デナイ日本ニ作リ上ゲルト云フコトガ根本ノ精神デアルカラ、会テ軍籍ニアツタ人ト雖モ、根本精神ニ於テ軍国主義的デナク、且ツ民主主義的デアル人ガナイトハ言ヘナイ、現ニ「イギリス」ニモ「アメリカ」ニモ軍人ハアリマス、サウシテ「イギリス」「アメリカ」デモ此ノ軍人ガ立派ニ政治家トシテ世ニ出テ居ル、独リ日本ノ軍人ノミガ違ツタ型ニ属スルトハ私ハ考ヘナイ、若シ此ノ後備或ハ退職軍人ノ中ニ、個人的ニ能ク審査シテ、本当ニ民主的ナ思想ノ持主デアリ、非軍国主義的ナ人デアツタナラバ、其ノ人ガ偶々軍人ノ籍ニアツタト云フコトガ、少シモ将来ノ日本ヲ担任スル上ニ於テ支障ガアルトハ私ハ思ハヌ、ソレデスカラ此ノ立法ノ趣意ガ、軍国主義的ナ非民主主義的ナ型ノ人ヲ排除スルト云フコトニハ私ハ全幅的ニ賛成致シマスガ、偶々其ノ人ガ会テ軍籍ニアツタト云フ其ノ形式ノ理由ノミデ、総テノ政治行動ヲ排除シナケレバナラヌト云フ趣意デ出来タモノトハ私ハ思ハナイ、ソレダカラ政府ノ説明ニ依ツテ関係筋ガ潔ク之ヲ撤回シタ、斯ウ云フ風ニ私ハ解釈シテ居ル、私ノ解釈ガ当ツテ居ルカドウカハ分リマセヌガ、併シ私個人ノ見解ハサウ云フ風ニモ考ヘル余地ガアリハシナイカ、斯ウ云フノデス
○鈴木（義）委員　ソレハ至極御尤モデ、其ノ点ハ私モ異議アリマセヌガ、其ノ筋デハ撤回シタノデスカ已ムヲ得ナイ、ソレデハ規定セヌデモ宜イト言ツタノヂヤナイデスカ
○佐藤（達）政府委員　「シヴィリアン」ノ御話ハ、今金森大臣ガ申シマシタヤウニ、コチラカラサウ云フ理由ヲ述ベマシテ説明シタノデス、金森サンハ婉曲ナ言葉デ説明シタノデス、サウシテＧ・Ｈ・Ｑノ出先ノ責任ニ於テ宜シイト云フコトニナツタラシイノデス
○犬養委員　モウ一ツ伺ヒタイノハ、軍人ト云フモノハ、兵学校トカ士官学校トカヲ出ナイ人デモ含ンデ居ルノデスカ
○佐藤（達）政府委員　ソレガ「シヴィリアン」ト云フコトヲ担ギ込ミマシタ時ニ、之ヲ如何ニ表現スルカト云フコトヲ法律的ニ考ヘマス時ニ、今御話ノアリマシタ軍人ノ範囲ト云フノハ非常ニ不明確デ、現ニ追放令ヲ起案致シマス時ニ、向フデハ職業軍人ト云フヤウナ簡単ナ言葉ヲ使ヒ、サウシテ現役軍人ト云フヤウナコトヲ言ツテ居リマスケレドモ、同ジ現役軍人デモ、大学出ノ幹部候補生上リノ予備役将校ナドモアリマスシ、色々ナ「ヴァラエティ」ガアリマシテ、到底一言半句ノ言葉デハ現ハシ得ナイ、ソコデサウ云フ関係モアリマシテ押ヘニクイノデス
○笠井委員　サウスルト、「シヴィリアン」ヲ撤回シタノデスカ
○佐藤（達）政府委員　初メカラ、コツチノ出先ハヲカシイナト云フ気持ヲ持ツテ居タラシイ、併シ向フカラ来タコトデスカラ取次イデ居タラシイノデス、重ネテ我々ノ方カラ押シテ行キマシタ所ガ、割合簡単ニ承知シタラシイ、ソレハ向フトノ連絡ナシニ、コチラ限リノ出先ノ措置トシテヤツタノデス
○笠井委員　ドウモ有難ウゴザイマシタ
○鈴木（義）委員　私ノ提議ハ、何分ソレ程不公平ニナツテハイカヌト思フカラ、之ヲ是正スル為ニ不公平ガアツテハイカヌト思フカラ言ツタノデ、立派ナ「デモクラシー」ノ人ヲ排斥スルト云フ趣旨デハナイノデスカラ、今ノ提議ハ撤回致シマス
○芦田委員長　モウ外ニ御意見ハアリマセヌカ
○林（平）委員　六十四条ノ先程吉田君ガ言ハレタ点デアリマスガ、六十四条ハ総理大臣ノ権限ヲ規定シタ条項ノヤウデスガ、総理大臣ハ国務大臣ヲ任命スルト云フコトト、サウシテ其ノ仕方トシテ、範囲ハ其ノ過半数ヲ国会議員ノ中カラ選バナケレバナラヌト云フコトデアリマスカラ、「選ばなければ」ノ方ガ当ツテ居ルノヂヤナイデセウカ
○芦田委員長　ソレハ一行ニズツト書ケバ無論サウナルベキデス、所ガ「但し」カラ後ガ、前ノ文句カラ、丸ヲ打ツテ変ツテ来タモノダカラ――初メノ方ノ文句ハ「内閣總理大臣」ガ主体デス、其ノ次ノ文章ハ「過半數」ガ主体ニナツテ居ル、ソレデ「選ばれなければならない」ト云フ文句ニナツテ居ル
○林（平）委員　「但し」ト云フノガ前文ヲ受ケテ言フノヂヤナイデセウカ
○芦田委員長　言フノデスカ、文句ノ主体ハ何カト言フト「過半數」ト云フコトナノデスネ、「但し、その過半數を」トスレバアナタノ言ハレル通リニナル、無論アナタノ御意見ノヤウニシテ「その過半數を」ト直セバ国会議員ノ中カラ選バネバナラヌ
○林（平）委員　ソレハ「を」デモ「は」デモ一向変ラナイノヂヤナイデスカ、少クトモ過半数ハト云フ意味ダカラ、総理大臣ハ、少クトモ其ノ過半数ハ是レ是レダ、少クトモ其ノ過半数ハ国会議員ノ中カラ選バナケレバナラヌ……
○犬養委員　「は」ノ時ハ「少くとも」ノ句ガ入ラナイト「は」ニナラナイ
○佐藤（達）政府委員　今林サンノ仰シヤツタ案モ一応並ベテ書イテ見マシタ中ニアツタノデス、今鈴木サンノ御話ヲ拝聴シテ居リマシタガ、サウ云フコトヤ先程委員長ノ仰セラレタヤウナ点モアリマシテ、結局落着イタ所ガ是ガ一番無難ヂヤナイカ、兎ニ角早分リガスルヂヤナイカ、言葉ヲ費サズシテ分ルノヂヤナイカト云フノデ之ニ落着イタノデス
○林（平）委員　早分リニナラナイ、主体ガ二ツアル訳ダカラ……
○佐藤（達）政府委員　モウ少シ我々ノ考ヘ方ノ経過ヲ申上ゲサセテ戴キマスト、本文ハ「内閣總理大臣は、國務大臣を任命する。」トアリマスケレドモ、結局是ハ、誰デモ適当ナ人ノ中カラ、ト云フ言葉ガ隠レテ居ル訳デス、ソレニ対シテ但書ヲ付ケマスト、選バレル人ノ範囲ハ国会議員――少クトモ其ノ過半数ハ国会議員ノ中カラ選バナケレバナラヌト云フコトデアツテ、趣旨カラ言ツテ、但書トシテ一向差支ヘナイヂヤナイカト云フノガ根本ダラウト思ヒマス、第二点トシテ、「但し、その過半數は、國會議員の中から選ばなければならない。」ト、斯ウ仮ニヤリマス、ソレハ林サンノ御考ヘダラウト思ヒマスケレドモ、サウヤリマスト、今ノ選ブ主体ノ問題ガ、「内閣總理大臣は」ト入レレバハツキリ致シマスケレドモ、但書トシテ「選ばなければならない」トヤリマスト、過半数ハ寧ロ「國會議員の中から」トアルカラ、是ハマア非常識ノ話カモ知レマセヌケレドモ、国会デ選ブヤウナ感ジヲ一寸与ヘヤシナイカト云フヤウナコトガ一ツアリマス、ソレカラモウ一ツハ、任命スルト云フ積極的ノ形デ本文ガ出テ居ツテ、但書ガ「選ばなければならない。」ト云フヤウナ積極的ノ形デ出マスト、本文ハ「任命する」ト云フ事例デ行ク、但書ニ当ル文ハ選ブ、選任スト云フヤウナ事例デ行ク、斯ウ云フコトハ形式論トオ笑ヒニナルカモ知レマセヌガ、サウ云フ議論モ出マシテ、結局落着イタ所ハ、只今ノ案ノヤウナ形ニナツタ訳デス
○犬養委員　佐藤サンガ色々言ハレタ中ニ、私モ同意シタイ点ガアルノデアリマス、ホンノ文法上ノコトデスガ、「但し、その過半數を……選ばなければならない。」ト書ク場合ハ、ヤハリ今御話ノ出タヤウニ、「内閣總理大臣は」ト云フ字句ヲドウシテモ入レルノガ正シイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　是ハ余リ読ム人ヲ低能扱ヒニスル書キ方デス、内閣総理大臣ハ国務大臣ヲ任命スル、但シ内閣総理大臣ハ過半数ヲ国会議員カラ選ブトカ、選バナケレバナラナイトカ云フヤウナコトハ、余リ幼稚デ、憲法案トシテハ反対デス
○犬養委員　ソコデ選バナケレバナラナイト云フヤウナ、サウ云フ意味ヲ以テ言ツテ居ルノデス
○原（夫）委員　大体ココラデ宜イデセウ、原案賛成
○芦田委員長　意味ガ分ルヤウダカラ、此ノ辺デドウデスカ――サウシマスト、各派ヘオ帰リニナツテ、ソレゾレ党ノ態度ヲ御決メニナルダラウト思ヒマスガ、モウ一応此ノ点デ集マル必要ガアリマセウカ、アリマスマイカ
○鈴木（義）委員　仮令五分間デモ集マラナケレバ工合ガ悪イト思ヒマス
○芦田委員長　ソレデハ、午後一時半ニ集マツテ間ニ合ヒマスカ
○林（平）委員　予算ガ上程サレルノデスネ
○鈴木（義）委員　色々議案ガアリマスカラ、二時ニシテ戴キタイ
○大島（多）委員　ドウデス、明日ニ致シマセヌカ
○芦田委員長　委員会ハ決マツテ居ルノデス、但シ党ニ帰ツテ、ドコカノ党デ承認シ得ナカツタ場合ニハ何等カノ数ヲ又決メナクチヤナラヌ、サウ云フコトハナイト予想ハシテ居リマスケレドモ、万一起ツタ場合ニハ、数ヲハツキリシテ委員会ニ臨ムコトガ必要ニナリマスカラ、念ノ為メデス
○原（夫）委員　事後承諾デ、責任ヲ持ツテ委員ガ御願ヒシテハドウデスカ
○芦田委員長　無論サウデス、ダガ万一サウ云フコトヲ慮ツテ、一寸顔ヲ出シテ、何モナケレバソレデ散会ニナルノダカラ、一応サウ云フコトニシテ置イテ戴イタラドウデス、本会議ガアリマスケレドモ――党ガ纏マツテモ纏マラナクテモ五分間デ済ム――ソレデハ是デ休憩致シマス
　　　　午前十一時四分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　　　午後二時十七分開議
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、午前中ニ一応ノ協議ヲ経マシタ第六十三条及ビ第六十四条ノ修正案ニ付テ、小委員会ニ於テ之ヲ決定的ナ修正案トスルコトニ御異議アリマセヌカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　御異議ナキモノト認メマス、仍テ其ノヤウニ取計ラヒマス、次ニ明日憲法委員会ヲ開クニ当ツテ、其ノ進行ノ手続等ニ付テ、或ハ理事会ヲ開会シタ上デ御相談ヲスルコトガ正当カト思ヒマスケレドモ、此処ニ御列席ノ諸君ハ殆ド漏レナク理事デオアリニナルヤウデアリマス、ソコデ理事会ニ代ツテ此ノ会議デ御諒解ヲ得レバ、各党ニ御帰リノ上、理事ニ然ルベク御伝ヘト御諒解ヲ取次シテ貰ヒタイト思ヒマス、ソレデ宜シウゴザイマスカ
　　　　〔「宜シウゴザイマス」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソコデ一々ノ細カイ問題ニ入ル前ニ、私カラ御諒解ヲ得タイコトガアリマス、ソレハ皇室財産ノ問題ニ付テ、実際ノ適用ノ点ニ色々党ノ内部ニ意見ガアリマシテ、多クハ過日ノ小委員会ニ於テ金森国務大臣トノ間ノ質疑応答ニ依ツテ明白ニナツタコトデアリマスガ、其ノ速記録ガ公開ニナルカドウカガ決マラナイノト、其ノ点ニ付テ今日マデ一度モ発表モシテ居リマセヌカラ、多少ノ重複ニナルカトハ思ヒマスケレドモ、委員長ノ質問トシテ政府ノ答弁ヲ取ツテ置キタイト云フ点ガ残ツテ居ルノデアリマス、其ノ外ニモ、或ハ各派カラ此ノ点ヲモウ一応質問シタナラバト云フ御考ヘモアルカト思ヒマスガ、取敢ヘズ自由党ノ方カラ質問ヲスル要求ノアツタ点ヲ、簡単デアリマスカラ一寸読ミマスガ、其ノ御諒解ガ付ケバ委員長カラノ質問トシテ発言シタイト思ヒマス、全文ヲ読ミマス、「此ノ際政府ノ御見解ヲ明白ニ致シテ置キタイ點ガアリマス、政府原案第八十四條ハ修正ヲ經テ、皇室財産ハ總テ國ニ屬スルトナツタノデアリマスガ、茲ニ皇室財産ト云フノハ公的ナ財産ノ意味デ、天皇及ビ皇族ノ純粹ノ私有財産ハ從前ト變リナク天皇及ビ皇族ニ殘ルモノト信ジマスガ、政府ノ見解ハ如何デアリマスカ、二トシテ、公的ノ財産トシテ國ニ屬スベキ皇室財産ト雖モ、國ノ象徴タル天皇ノ御地位ト不可分ナ財産ハ舊來通リ御使用ニナルコトハ當然ト考ヘマスガ、此ノ點ニ關スル政府ノ御考ヘヲ質シテ置キマス、三、最後ニ改正案第八條ニ依ル將來天皇ニ屬スルコトアルベキ財産ニ付テハ、第八十四條ノ適用外ニアルコト自明ノコトト考ヘマスガ、政府ノ見解ハ如何デアリマスカ」、是ダケノコトヲ委員長カラ一応質問シテ、政府ノ答弁ヲ取ツテ置キタイ、斯ウ云フ希望ガアルノデスガ、ソレヲ質問シテ差支ヘアリマセヌカドウカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○鈴木（義）委員　質問ハ異議アリマセヌガ、答ヘノ方ガ――大体分ルガ、答ヘモ承ツテ置カヌト賛成ガ出来ナイノデスネ
○芦田委員長　答ヘハ正確ニマダ政府カラ伺ツテ居ナイノデスケレドモ、併シ政府ノ肚トシテ、此ノ間金森国務大臣ノ述ベラレタ趣意ガ書付ニナツテ居ルノデス、速記ヲ止メテ……
　　　　〔速記中止〕
○芦田委員長　速記ヲ始メテ下サイ、ソレデハ今朗読シタヤウナ点ニ付テ質問ヲスルコトハ御承認ヲ得マセウカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ念ノ為ニ明日ノ委員会ノ順序ヲ御協議シマス、最初ニ先ヅ討論ニ入ルコトヲ宣告シマシテ、小委員会ノ経過及ビ結果、即チ共同修正案ニ付テノ報告ヲ委員長カラ致シマス、ソレデ若シ質問ガアレバ其ノ時ニ質問ヲ許ス、併シ成ベク質問ハ少ク、且ツ簡単ニ願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ議事進行ノ便宜上、社会党ノ修正案ヲ議題トシテ、其ノ趣旨弁明ヲ許シマス、ソレカラ其ノ修正案ニ付テ討論ニ入リマス、討論ハ自由、進歩、社会、協同、新政会、無所属、共産党ト云フ順序デ、七名ノ方カラソレゾレノ意見ガアル訳デス、ソレカラ採決ニ移リマシテ、社会党単独ノ修正案ニ付テノ賛否ヲ諮リマス、引続イテ本案及ビ共同修正案ニ対スル討論ニ入リマシテ、前ト同ジヤウニ七名ノ委員カラ意見ノ表示ガアリマシテ、討論ヲ終ツテ採決ヲ致シマス、ソコデ共同修正案ニ付テノ採決ヲシマシテ、一通リ共同修正案ガ決定シタラバ、修正部分ヲ除イタ他ノ部分ニ付テノ採決ヲシマス、次ニハ小委員会ノ報告シタ附帯決議ヲ採決ニ付シマス、ソレガ終ツテ改正案委員会ノ議事ヲ全部終了シタト云フコトヲ宣告シマス、サウシテ慣例ニ依ツテ簡単ニ委員長カラ挨拶ヲ致シマス、ソレデ議事ヲ終ルコトニナリマス、サウ云フ順序デ宜シウゴザイマスカ
○鈴木（義）委員　共産党ノ発言スルノハ、共同修正案ノ所デヤルノデスネ
○芦田委員長　共産党ノ意見ノ陳述ハ、社会党案ノ採決ノ場合デナク、後ノ方ノ委員長報告ノ時ニ意見ヲ出サレル訳デスネ、是ハ一人デハ修正案ハ出セナイサウデスカラ、修正案ニハナラナイ、随テ野坂君ガ共産党ノ意見ヲ趣旨弁明サレル訳ダサウデスガ、委員課ノ方ノ打合セデハ、成ベク短ク、二十分位デ十分ダト云フコトダサウデス、サツキノ御話ノ自由党ノ小委員側ノ案デスネ、アノ質問デスネ、アレヲ一ツ御入レ願ヘマセヌカ
○鈴木（義）委員　質問ハアリマセヌカト云フ時デセウ
○芦田委員長　ソレハ何時ヤリマスカ
○鈴木（義）委員　報告ノ後ダ
○芦田委員長　外ノ方ノ質疑ハ委員長ニ対スル質疑デスネ、私ノ方ハ政府ニ対スル質疑ダカラ、ソレガ済ンダ後デ、会議ヲ開イテ討論ニ入ルニ先ダツテ質問スルノダサウデス
○鈴木（義）委員　変ダナ、修正案ノ動議ガ現ハレテ居ナイノニ……
○鈴木書記官　サウデナイト意向ガハツキリ決マツテ、小委員会ノ意向ガ確定シテ討論ヲスルト云フコトニナルノデ、ソレガ決マラナケレバ、ココガ決マラナイト云フコトニナルカラ出来ナイ訳デス
○原（夫）委員　デハ、私モ一ツ委員長ニ政府ノ責任アル答弁ヲ聴イテ戴キタイト云フコトハ、先ヅ総理大臣其ノ他各大臣ニ聴イテ戴キタイノハ、此ノ憲法ガ公布ニナツテカラ之ヲ国民ニ周知セシメル方法如何ト云フ問題ニ帰着スルノデス、ソレハ何時カモ申上ゲタト思フノデスガ、紙ガナイトカ、新聞等ガ此ノ憲法改正ノ重要ナル諸点項目モ中々決メナイトカ、ソレカラ事務的ナ関係デ宣伝スル、ヨリ知ラシムル為メノ何トカ方法ヲ講ズル意図ガアルカドウカ、ソレヲ第一番ニ総理大臣、文部大臣、商工大臣、内務大臣、サウ云フ関係ノ各大臣ニ一ツ確メテ貰ヒタイ
○芦田委員長　実ハ今ノ原君カラノ御提案ノコトハ、林平馬君ノ希望条項ニ載ツテ居ツタ項目デアリマシテ、ソレヲドウ取扱フカト云フコトヲ御協議シタ時ニ、其ノ点ハ附帯決議ニハ入レナイデ置キマセウ、但シ其ノ附帯決議ニ次イデ重要ナ委員会ノ希望デアルカラ、ソレヲ委員長報告トシテ本会議ノ時ニ述ベテ置カウト云フヤウナ話ガ纏マツテ、私其ノ御相談ヲシナカツタノデスガ、斯ウ云フ文句ヲ一寸入レテ居ルノデスガネ、「附帶決議ノ案文ハ諸君ノ御手許ニ配付セラレテ居リマスカラ、時間ノ關係上朗讀ト説明トヲ省略シマス」ト言ツテ、「尚ホ一言附加ヘテ申上ゲルコトハ、此ノ憲法ノ實施ヲ前ニシテ廣ク國民ニ憲法ノ精神ヲ周知セシメル爲メ、官民共ニ力ヲ協セテ最善ノ努力ヲナス必要アリトノ點デアリマシテ、附帶決議ニハ抽象的ニ言及シタニ過ギマセヌケレドモ、此ノ際新聞、「ラヂオ」、講演等ニ依リ全國津々浦々ニ宣傳、教育ノ方策ヲ講ズベシトノ意見ハ本委員會一致ノ要望デアリマシタ」、斯ウ云フコトヲ附帯決議ノ次ニ言ハウト云フコトデアリマシタガ……
○原（夫）委員　ソレハソレデ結構ダガ、総理大臣初メ、大体憲法ガ公布ニナツタ時ノ相当ナ計画ガアルカドウカ、言質ヲ得タイ
○芦田委員長　ソレハ外ノ委員諸君ニ於テ御同意ナラバ、無論サウ云フ点ヲ挿入スルコトハ宜カラウト思ヒマス
○原（夫）委員　コツチハ憲法ヲ改正シテ出来タ生ミノ親デスカラ、マア結末マデモ心配シテ、ソレダケヲ政府ニ能ク……
○鈴木（義）委員　余リ政府ニ頼リ過ギズニ、我々デヤルト云フ積リニナツテ、一ツ今ノ委員長ノ希望演説デ十分デハナイデスカ、政府ニ言質ヲ求メタ所デ、十分ソレハ言質ヲ与ヘルダラウ、ソレハヤラナケレバナラヌコトハ自明ノ理ダモノネ
○原（夫）委員　其ノ自明ノ理ガ中々サウ云フ訳ニイカヌ……
○芦田委員長　ソコデ原サン、私ガ書イタ時ニ「一言附加ヘテ申上ゲル」ト云フノニハ、政府ト云フ字ハ一言モナイノデス、ソレデ初メノ方ニハ「官民共ニ力ヲ協セテ」トヤツテ、後ノ方デモ「此ノ際新聞、「ラヂオ」、講演等ニ依リ……宣傳、教育ノ方策ヲ講ズベシ」ト云フノデ、政府ガヤレトモ、我々ガヤルトモ書イテナイノダガ、ソコハ多少ノ含ミヲ持ツテ、何デモ政府ノ責任ニスルト云フヤウナ趣意デナク行キタイ、斯ウ云フ風ニ一寸考ヘタモノデスカラネ
○原（夫）委員　当面ノ問題トシテハ、政府ヲドウシテモ鞭撻シテヤラセナケレバイカヌデス
○芦田委員長　従来ハサウ云フコトデ何時モ来タノダガ、我々ハ例ヘバ選挙区ニ帰リ、或ハ講演会ヲ開イテ、我々ハ真先ニ立ツテ居ルノダ、政府ハ後カラ従イテ来イ、斯ウ云フノモ一ツノ考ヘ方ダネ
○原（夫）委員　ソレハ当然デスガネ、又一面ニ於テ物資等総テノモノガナイノデスカラ……
○林（平）委員　委員長、ソレハアナタ方ノ言ハレル所ハ理想ハ大変結構デアルシ、理窟ハ通ツテ居マスガ、私ハヤハリ原サンノ仰シヤル所モ重要ナ点ダト思フ、第一政府ニ頼ルト云フ思想デナク、政府ニヤラセルト言ツタラドウデスカ、ノミナラズ兎ニモ角ニモ政府ト云フモノハ十二分ニ手ヲ持ツテ居ル、機関ヲ持ツテ居ルノダ、併シ我々ハ自分デヤルト口デハ言フケレドモ、中々其ノ暇ハ――日本中廻ツテ歩イテヤル暇モナケレバ、機関モ政府ト比ベルナラバ問題ニナラナイノデス、ダカラ何モ政府ニ御願ヒスル、御頼リスルト云フ気持デナク、ヤラセルト云フ気持ナラ、決シテ依頼トハナラナイト思フ
○芦田委員長　ソレナラバ質問ト云フヨリモ要望デセウ、要望ハ私ガ本委員会ノ質問ノ最後ニ三、四項目政府ニ対シテ要望シタ、其ノ中ニ其ノコトヲ私ハ実ハ言ツテ居ルノデス、此ノ憲法ハ大精神ガ現ハレテ居ルガ、併シコレヲ実行スルコトハ非常ニ難事デアルノダカラ、国民モ政府モ、此ノ憲法ノ裏付トナルベキ国民ヲ作ルニハ十分斯ウ云フ教育ノ方針ヲヤツテ貰ヒタイモノダト云フ風ナコトヲ一応ハ言ツタノデスガネ
○原（夫）委員　ソレヲ言ツタダケデハ、承リ置クダケデスカラネ、ドウモソレデハ……
○林（平）委員　多少重複スルコトガアツテモ決シテ差支ヘナイ
○芦田委員長　無論、二度三度言ツテモ宜イノデスガ、皆サンノ御意向ガサウ云フコトガ宜カラウト云フコトナラバ、無論ソレハ……
○鈴木（義）委員　今度ノ憲法ハ、今マデノモノト違ツテ、我々ガ作ツタ――民主デ、我々ガ主権者ナンダカラ、ダカラ余リ政府ニ頼ムトカ、頼ムデナクテモ、命ズルトカ言ハヌデ官民共ニ力ヲ協セテヤルト言フ外ナイデス、其ノ外ニ考ヘルコトハ邪道ダト思フ、予算デモ何デモ組ンデ大イニヤルベシ、ソレハ其ノ為ニ別ノ機会ニ幾ラデモ質問出来ルシ、我々ガサウ云フ法案ヲ出シテ宜イ
○原（夫）委員　サウ云フ理論ガアレバ、ソレデ宜シイノデス
○芦田委員長　大体ノ趣意ハ、本会議ニ於ケル報告書ニハ今アナタノ言ハレルヤウナ意味ヲココニ述ベヨウト思ツテ、八行カ九行入レテ居ルノデス
○吉田（安）委員　サウスルト委員長ニ対スル質疑、ソレハ無制限ニ許シマスカ
○森戸委員　大体明日中ニ済マス予定デスネ、賛成演説ハ何人デスカ
○鈴木（義）委員　七人デス
○芦田委員長　是ナラ一時間掛リマスネ、賛成演説トカ反対意見ヲ述ベルノニ七人ダカラ、其ノ中野坂君ガ二十分モヤレバ、ドウシテモ一時間以上掛カル
○吉田（安）委員　委員長ノ報告ガ一寸掛カリマスネ
○芦田委員長　十五分カ二十分掛カリマス、私ノハ極メテ簡単デス――吉田君、進歩党デハ質問者ガアリマスカ
○吉田（安）委員　アリマスケレドモ、ソコヲ手加減スレバサウ沢山ハナイ
○芦田委員長　北浦君ハドウ云フコトヲ聴カレルカ知ラヌケレドモ、又同ジヤウナ精神ヲ述ベラレルノヂヤナイカト思フ、此ノ前ノ政府ニ対スル質疑応答ト同ジヤウナコトヲネ、ダカラ成ベク高橋君、此ノ小委員会ノ空気ヲ話シテ戴キタイ
○廿日出委員　北浦サンハ色々ノ事情ヲ考慮シテ、サウシツコイ質問ヲナサラヌト思ヒマス
○芦田委員長　デハ、北浦サンニ私能ク話シマス
○鈴木（義）委員　マルデ質問ガナイト云フノハ工合ガ悪イカラ、一人ダケ許シテ、其ノ人ニ代表質問ヲサセル……
○芦田委員長　従来トモ委員長報告ニ対スル質問ト云フヤウナコトハナイネ、ダカラ他ノ委員諸君ハ疑ヒガアレバ自分ノ党ノ諸君ニ聴クノガ本筋デス
○鈴木（義）委員　ソレデハナイコトニシマセウ
○大島（多）委員　私、一寸御聴キシマスガ、実ハ代議士会デ此ノ六十三条ノ修正ヲ諮リマシタ所ガ、内閣総理大臣ハ国会議員ノ中カラ任命ヲスルト云フコトニナツテ居リマスガ、此ノ憲法ガ効力ヲ発生シタ場合ニハ、例ヘバ現在ノ吉田総理大臣ハ国会議員デナイ、サウシタラ其ノ時ニハドウナルカト云フヤウナ質問ガアリマシタガ、其ノ点ハドウ云フ風ニ御考ヘニナツテ居リマスカ
○芦田委員長　ソレハ法理論トシテハ色々アリマセウガ、大体憲法ノ精神ハ議会ガ総理大臣ヲ選ブトナツテ居ルノダカラ、ヤハリ一応議院ガ選ブノガ本当ヂヤナイデスカ
○鈴木（義）委員　斯ウナツテ居マスネ、「この憲法施行の際現に在職する國務大臣、衆議院議員及び裁判官竝びにその他の公務員で、その地位に相應する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、當然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選擧又は任命されたときは、當然その地位を失ふ。」
○芦田委員長　一体政治上ノ精神ハ一応選挙ニ依ルト云フノガ本当ヂヤナイデスカ
○林（平）委員　其ノ精神カラ言ヘバ、議会ハ解散ニナラナケレバナラヌ
○芦田委員長　サウデハナイ、何トナレバ、此ノ議会ハ憲法案ヲ題目ニシテ選挙ヲヤツタノダカラ……
○大島（多）委員　分リマシタ
○芦田委員長　ソレデハ是ニテ散会致シマス
　　　　午後三時散会