平成17年10月13日(木) (第3回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

(午前)

上記の件について、参考人高見勝利君及び高橋正俊君から意見を聴取した後、質疑を行った。

(午後)

上記の件について、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

上智大学大学院法学研究科教授   高見 勝利君

香川大学大学院香川大学・愛媛大学
 連合法務研究科教授         高橋 正俊君

(高見勝利参考人及び高橋正俊参考人に対する質疑者)

 葉梨 康弘君(自民)

 筒井 信隆君(民主)

 太田 昭宏君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)


高見勝利参考人の意見陳述の概要

1.9月14日判決と国民投票法の立案

  • 憲法改正国民投票法の立案に当たっては、本年9月14日の在外国民の選挙権を制限する公職選挙法の規定を違憲とした最高裁判所大法廷判決を踏まえる必要がある。

2.選挙権と国民投票権

  • 9月14日判決は、選挙権が国民主権の原理に基づくものとして保障されているとする。これと対比すると、国民投票権は、国民主権に直結する権利であり、憲法改正権の本質は、憲法制定権力を有する国民がその規定の改廃等を行う権利・権能を留保することにある。

3.国民投票に参加する資格を有する「国民」の範囲

  • 憲法上の国家機関である国会を構成する議員を選挙する「国民」とその国会の拠って立つ憲法そのものの変更に参加する「国民」とは、必ずしも一致する必要はない。憲法規範が将来の国民を長く拘束する以上、その決定への参加資格は、可能な限り多くの国民に認めるべきであることから、年齢18歳以上とすべきである。

4.国民投票権制限の可否

  • 9月14日判決が示した、選挙権の制限に「やむを得ない事由」が必要であるとする判断枠組みは、国民投票手続の整備に際しても留意する必要がある。国民投票の公正の確保が事実上不能ないし著しく困難と認められる場合でない限り、やむを得ない事由があるとはいえない。
  • この枠組みからは、在外国民や在監者、国民投票の公正を害した者の国民投票制限は正当化されない。国民投票の公正を害した者の選挙権制限は、選挙の公正を害する高度の蓋然性という立法事実が要請される。

5.改正案賛否をめぐる言論に対する制限の可否

  • 虚偽報道の規制については、国民投票の公正確保のために必要とする意見と、虚偽の主張と戦う最善の方法は自由な反対意見の表明であるから不要であるとする意見がある。この規制は、国民の自由な意思形成の場における言論の内容に関わる規制であることから、国民投票の趣旨と政治的言論の自由の保障に照らして許されない。ただ、金銭等の供与による新聞紙、雑誌の不当利用の制限などは、その規制が報道の真偽等を問わない趣旨である限り許容されうる。
  • 公務員及び外国人の言論の規制については、内容中立的な時・所・方法に関する最小限度の規制という観点から考えるべきである。公務員も、職務上の地位を利用せず、職務時間外に行う意見表明は、21条により保障される。また、外国人の意見も自由な討議の場における論議の深化に寄与するであろうことから、その表明の自由の規制は賢明ではない。
  • これに対して、政府の広報活動は、改正案の賛否に関して両論併記のパンフレットの発行等中立的な活動に限定されるべきである。この点、アイルランドやオーストラリアなど国民投票が盛んに行われている国においても試行錯誤が重ねられている。

高橋正俊参考人の意見陳述の概要

1.昭和28年国民投票法案の作成と同案の国会提出断念の経緯

  • 100条2項に基づき国民投票法は本来制定されているべきものであるが、同法の制定には2度の挫折があった。今回3度目の取組となるが公正を旨とする現代の在り方にふさわしい法律を制定して頂きたい。

2.国民投票法案の問題点とそれに対する今日的考慮

  • 国民投票法の制定に当たっては、(a)96条を中心とする制約及び要請に対応すること、(b)判例を十分踏まえること、(c)これまでの国政選挙に関する事項がどの程度国民投票に関わるかということについて配慮すべきである。
  • 国民投票と国政選挙が同時に実施されることも踏まえて、国民投票法を制定する際には、投票権者の年齢、運動制限・罰則などを可能な限り同一にする観点から公職選挙法との調整も必要である。
  • 国民投票を実施するための技術的事項については、在外投票の円滑実施や財政面での問題など法律において柔軟に対応できる実施事項も多く、憲法に違反しない限り、合理性を旨として制度設計すべきである。
  • 在外投票やインターネット環境の普及など社会的、技術的な発展への対応に関しては、国民の意思に適正に対応するという観点から制度設計すべきである。

3.草案作成につき注目すべき問題点

  • 国民投票の投票資格は、混乱を避けるために、国政選挙と同じ20歳以上とすべきであり、国政選挙で18歳以上とすれば、国民投票においても18歳以上を要件としてもよい。
  • 発問単位の在り方についての米国各州の例は、さまざまである。個別にできる場合には個別、関連性のある事項のユニットであればユニットごと、全面改正であれば一括というように具体的な対応が必要であり、法律に規定することは難しい。
  • 投票方法については、さまざまな形がある。96条に従えば、賛成に〇のみを記入させ、投票総数を過半数の算定基準とすべきとも考えられるが、賛成に〇、反対に×を記入させ、いずれも記入しない場合には無効とし、有効投票総数を算定基準とする形式も憲法が許容する範囲内である。
  • 国民投票に対する訴訟終了時に憲法改正の承認が確定するとしなければ混乱が生ずるとの主張があるが、施行時期をずらすことによってある程度混乱を除くことができる。また、30日以内に東京高裁のみに訴訟を提起できるとする案もあるが、公正・適切な訴訟となるよう法務省、最高裁とも協議し、現実的な制度を構築すべきである。
  • 外国人の国民投票運動は、国政に関わる政治的決定・実施に影響を与えるものであるから、マクリーン事件の判例に照らし認められない。また、運動を認める範囲を定めることには技術的な困難がある。
  • 国民投票運動の規制の在り方については、国政選挙との関係で齟齬がどの程度許されるかを示すことは難しいが、諸外国での規制の内容、実績も踏まえて必要最小限度の制限とすべきである。
  • 発議から国民投票までの接続及び公布から施行までの接続を円滑に行う必要がある。この点に関する法律がないがどうするか、憲法は部分改正を想定しているが従来どおりでよいのかという点も考慮すべきである。

◎高見勝利参考人及び高橋正俊参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

葉梨 康弘君(自民)

<高見参考人に対して>

  • 憲法改正国民投票法が制定されていないことが立法不作為であるとの見解について、所見を伺いたい。
  • 人口減少社会においては若年者と高齢者の利害が対立することもあることから、若年者の意見を反映させるため、憲法改正国民投票及び国政選挙の投票権者の範囲をできる限り広く認めるべきであると考えるが、いかがか。
  • 国民投票運動規制を罰則により担保することは必要最小限とすべきである。国民投票運動規制違反については、公職選挙法違反と同様に事後検挙が原則とされるであろう。一方、当選無効等がないため公職選挙法違反と異なり、確信犯的な者に対して抑止効果はほとんどないと思われるが、罰則による国民投票運動規制の効果と限界について伺いたい。

<高橋参考人に対して>

  • 憲法改正国民投票法は、憲法改正発議の際に制定すれば十分であるとの議論がある。しかし、投票権者の名簿の調製、国民投票運動規制の周知等を踏まえると、発議の相当以前に同法を制定する必要があると考えるが、いかがか。
  • 現行憲法の正統性については、戦後の独立回復時に国民投票を実施すべきであった等のさまざまな意見がある。現行憲法の正統性についてどのように考えるか。
  • 国民投票運動規制に関し、虚偽報道がなされた場合、投票後に違反者を検挙しても意味がない。むしろ、反論権や別の意見表明の機会を確保する方がより意味があると考えるが、いかがか。
  • 憲法改正国民投票に対する訴訟の原告は、個人に限られるのか。あるいは一定の団体にも認められるべきであると考えるのか。

<両参考人に対して>

  • 小規模の改正の場合に、改正条文だけではなく改正条文を溶け込ませた憲法全体について国民の賛否を問うという形式の憲法改正国民投票は、可能であるか。

筒井 信隆君(民主)

<高見参考人に対して>

  • 国民投票における投票権者の年齢は、民法の成年年齢と同じであるのがよいか。また、国政選挙における投票権者の年齢と同じにする必要はないと考えるが、いかがか。

<高橋参考人に対して>

  • 投票権者の範囲を考えるに当たっては、技術的・財政的問題よりも、国政選挙と国民投票の本質的な違いを踏まえるべきではないか。
  • 参考人は、憲法の全面改正の場合は発問単位を一括とすべきであると述べた。憲法の全面改正には反対であるが、たとえ全面改正の賛否を問う場合でも、個別単位での発問を行えるのではないか。
  • 発問単位をユニット単位とした場合、その一部に反対する国民の意思が反映されないのではないか。

<両参考人に対して>

  • 国民投票における投票権者の年齢を18歳以上とする理由は何か。19歳や17歳にしない理由はあるのか。
  • 憲法改正国民投票運動に対する規制は、必要最小限度とすべきである。むしろ問題となるのは、政府が行う国民投票広報活動であって、その際には賛否両論を併記するなど中立的なものにすべきであると考えるが、いかがか。

太田 昭宏君(公明)

<高見参考人に対して>

  • 国民投票法与党案においてメディアを規制する意図はなく、原則的に国民投票に関する報道は自由である。既存メディアを活用し、それを公共空間に組み込むことが重要であると考えるが、いかがか。また、インターネットの活用については、どのように考えるか。

<高橋参考人に対して>

  • 国民投票運動における虚偽報道の規制について、どのように考えるか。

<両参考人に対して>

  • 国政選挙と国民投票を同時に実施することは困難と考えるが、いかがか。また、国政選挙における最大の争点が憲法改正である場合も同様か。
  • 発問単位を個別とした場合、設問の一項目に対してだけ反対であっても、全部に反対する投票行動があると思われる。そこで、重要項目については、単独で国民投票に付すべきではないか。

笠井 亮君(共産)

<高見参考人に対して>

  • 現行憲法の正当性は十分に確保されていると考えるが、いかがか。
  • 憲法制定の際の政府の想定問答によると、憲法改正の行き過ぎを防ぐため憲法改正手続が厳格とされているとのことだが、憲法改正手続の意義について、どのように考えるか。
  • 外国の立法例の中には、国民投票の過半数算定基準が有権者全体とするものがあるとのことだが、その背景には国民主権を強化すべきであるとの考えがあるのか。

<両参考人に対して>

  • 憲法はそもそも、国家権力を縛り国民の基本的人権を保障するためにあると考える。憲法及び憲法改正とは、いかなるものと考えるか。

辻元 清美君(社民)

<高見参考人に対して>

  • 国民投票法の議論を始める前に、在外選挙制度に関して最高裁判所において違憲とされた状況を解消するのが立法府の責務ではないか。
  • 国民投票の権利が侵害された場合、国民投票の無効確認訴訟は可能か。
  • 両院の特別多数によらないと改正発議が行えないこと等を理由として、一括で国民投票を行うべきとの論理は成り立たないと考えるが、いかがか。

<高橋参考人に対して>

  • 全面的な憲法改正を行う場合においても、従来の憲法の一部を支持する国民もいる可能性があることを考えると、一括形式での国民投票は採用すべきでないと考えるが、いかがか。

滝 実君(国民)

<高見参考人に対して>

  • 9月14日判決からは、憲法改正国民投票の投票年齢を現在の国政選挙の投票年齢よりも低くすべきであるという参考人の意見は論理的に出てこないと考えるが、さらに詳しく伺いたい。

<高橋参考人に対して>

  • 参考人は、発問単位を国民投票法の中で規定することは難しいとの見解だが、国民投票法に規定されなければ、訴訟になった際に問題が生じるのではないか。

<両参考人に対して>

  • 国民投票における訴訟の主体について伺いたい。また、判決確定まで憲法改正が施行されないことについて、どのように考えるか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

●各会派一巡目の発言の概要

近藤 基彦君(自民)

  • 憲法改正の手続と憲法改正の内容を切り離して議論することは、別に困難なものではない。また、憲法改正国民投票と一般的な国民投票は本質的に異なるものであり、後者について本委員会の議論の対象とすべきではない。
  • 前回の議論において、国民投票と国政選挙の同時実施はすべきでないこと、憲法改正案は投票用紙に記載せずとも投票所での掲示等で十分であること等については、おおむね意見が一致している。
  • 意見の一致をみたわけではないが、今後、合意が可能な点として、個別投票を原則としつつ全部改正の場合には一括投票を排除するものではないこと、改正内容により発議の際に国会が周知期間を判断すべきであること等が挙げられる。
  • 現時点において意見の隔たりがあり今後の議論が必要な点として、(a)投票権者の範囲、(b)国民投票運動の規制の在り方、(c)「過半数」の意味等が挙げられるが、真摯な議論によって合意は可能である。
  • 投票権者の範囲については、国政選挙と同範囲でよいと考えるが、できるだけ拡大すべきであるとの主張もあり、今後、検討すべき論点である。
  • 国民投票運動の規制の在り方については、選管の職員等の運動禁止や投票干渉罪等を設けることに異存はない。また、予想投票禁止はともかく、買収・利害誘導罪は最小限の規制として設けるべきである。これについては、居酒屋での政治意見の表明まで規制されかねないとする議論があったが、買収・利害誘導罪の成立の有無は投票行動との因果関係によって判断することが可能であり、そのようなおそれはない。
  • 「過半数」の意味については、有権者総数を分母とするという意見は見られず、無効票を含めて投票者総数を分母とするか、無効票を除く有効投票総数とするかの意見の対立がある。
  • 国民への周知方法については、政府によるものも含め、今後の検討課題である。

古川 元久君(民主)

  • 憲法改正国民投票とともに、皇室制度、家族制度、生命倫理等国民の重大な関心がある事項について、間接民主制を補充する制度としての広い意味での国民投票を検討すべきである。
  • 憲法改正手続の在り方として96条自体も、国民投票制度の在り方とともに考えるべきである。特に、憲法のすべての条文について各議院の総議員の3分の2の賛成による発議が必要なのか、三原則については必要であるとしても統治機構に関する条項については緩和してもよいのではないか等を検討すべきである。
  • 憲法改正国民投票と国政選挙の同時実施はすべきでなく、同時実施を許容している96条1項は改正すべきである。
  • 投票権者の範囲については、国政選挙とともに、18歳以上とすべきである。また、国民投票と国政選挙が本質的に異なるものである以上、選挙違反により公民権を停止されている者も投票権者とすべきである。
  • 投票権者の範囲を義務教育修了者にまで広げることも考えられる。そのためにも、憲法教育を充実させなければならない。
  • 諸外国においては王族が投票権を有している国があり、我が国においても、天皇・皇族の投票権について検討すべきである。

赤松 正雄君(公明)

  • 午前中の質疑においては、参考人も委員も個別投票が望ましいとの意見が多かったが、「加憲」方式のような部分的な修正による場合を除いて、全面的な改正のような場合における個別投票の煩雑さという技術的問題について、具体的に詰めていく必要がある。
  • 憲法改正要件に関し、96条そのものの改正案としては、(a)国会の議決の対応に応じて場合分けし、各議院の過半数の賛成であれば国民投票による承認を必要とし、3分の2という特別多数による賛成があれば国民投票の要件をなくす案、(b)憲法改正内容の中身に応じて場合分けし、統治機構に関する改正であれば3分の2という特別多数のみとして国民投票の要件をなくし、国民の権利及び義務・平和主義に関するものについては、3分の2の要件に加えて国民投票による承認を必要とする案に分類ができると思われる。
  • いまだ憲法改正自体について国民的合意があるとは言えない。全面改正か、部分改正か、加憲によるのか、全く変えないのかといった、憲法改正そのものの是非を国民に問う国民投票の必要性があるのではないか。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法改定の発議に当たっての各議院の総議員の3分の2という特別多数の要件の意義は、憲法の安定性の要請である。自民党憲法草案にみられる改憲要件の緩和は、立憲主義を後退させるものである。
  • 国民の過半数による承認の要件の意義は、主権者国民による憲法制定権力の補完にある。国民からの改憲の要求が出されていない下で、国会の側が国民に改憲を迫っていく今日の改憲論議は憲法の立場と無縁であり、そのような状況はプレビシット化の懸念がある。
  • マス・メディアの報道や国民投票運動について罰則による規制等を検討していることは、国民投票制度の整備が国民主権の具体化であると言いながら主権の行使をできるだけ抑えようとしていることにほかならない。
  • (a)一括投票か個別投票かについては、憲法改定の成案を得てから考えるべきであるとの意見、(b)かつて自治庁案が、政府が憲法改定の意図を持っているように誤解されるおそれがあるとの理由から国会提出が断念された歴史事実、(c)宮澤元首相が戦後50年国民投票制度を整備できなかったのは、その整備には必ず改憲の是非と9条の問題とが持ち上がってくるからであると述べていること等にかんがみれば、憲法改定の国民投票法の整備は現実の改憲、9条改憲の意図と一体不可分のものといえる。憲法改定の国民投票法の整備は、アジアや世界に日本が再び世界で戦争をする国になるというメッセージを与えることであり、今なすべきではない。

辻元清美君(社民)

  • 手続法は手続法として憲法改正の中身の議論とは別として制定することができると主張しながら、一括投票か個別投票かは発議内容により異なるので今の段階では決められないとの発言は、手続法の議論は中身の議論と切り離すことは困難であると告白しているのに等しい。
  • 一括投票か個別投票かについては、最も国民が疑問に思っていることであり、「核」になる問題である以上、この問題を抜きにして議論を先に進めることはできない。
  • 一括投票か個別投票かについて発議の際に決めるという意見には、改正反対の多い9条と賛成を得やすい他の条文を一括して問い、賛成多数を得たいといった政治的意図が含まれているとのではないかとの懸念がある。「環境権の規定には賛成であるが9条改憲には反対である」という意見であっても、きちんと結果に反映されうる制度になるのかという国民の疑念を念頭において、本委員会では議論をすべきである。

滝 実君(国民)

  • 投票権者の範囲については、現在の国政選挙の年齢を18歳に引き下げるという時間のかかる大きな議論をするのではなく、現在の国政選挙の年齢要件を基準に考えるべきである。平成17年9月14日の在外国民選挙権訴訟最高裁判決を根拠に選挙権年齢の引下げを主張することは、いたずらに議論を混乱させることになりかねない。
  • 一括投票か個別投票かについて、辻元委員が指摘するような懸念があるのであれば、国民投票法の中で(a)関係ある条文は一括方式による、(b)全面改正であれば、個別投票は実務上困難であるから、一括方式による等の概略の基準を示すべきである。事前に基準を示しておく方が無効訴訟の争訟の対象にならずに済むと思われる。
  • 無効訴訟について、管轄を東京高等裁判所に限るとする案は、所掌の多い東京高等裁判所の機能不全を招きかねないため、原告の所在地を管轄とする高等裁判所でなすべきであると考える。

●各会派一巡後の発言の概要

岩國哲人君(民主)

  • 現憲法は、国民主権が不在の間に制定されたにもかかわらず、「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」という前文の一文で追認されてしまった。「追認憲法」である現憲法の正当性をあいまいにしてきた日本は、「法治国家」ではなく「放置国家」とでも表現しうるものである。
  • 憲法を放置してきた国家の姿勢を今すぐに正し、現憲法を制定し直すか、追認するのかといった要素を第一回の国民投票に取り入れ、憲法生誕の疑惑に対し再確認するための精神的・立法的リセットをなすべきである。

船田 元君(自民)

  • 国民主権原理に基づく権利として保障されている選挙権と国民主権に直結する国民投票権には「本質的な違い」があるとの高見参考人の見解は非常に参考になった。この「本質的な違い」に着目すれば、(a)国政選挙と国民投票は別個に行われるべきであること、(b)投票権者の範囲については、できるだけ多くの国民に認めるべきという観点から18歳以上とすることや、軽微な選挙違反による公民権停止者等に広げてもよいことを検討すべきこと(ただし、収監されている犯罪者、当該国民投票にかかる公正を害する行為を行った者については別途考慮する。)、(c)国民投票運動の規制について、公務員による一国民としての意見表明を認める、外国人の個人としての意見表明を認めるなど、公職選挙法よりも緩やかにすべきこと、(d)予想投票の公表の禁止は、本当に必要であるか再検討すべきこと等が考えられる。

早川 忠孝君(自民)

  • 憲法に投票権者の範囲について明文の規定がなく、議論が出てくること自体が96条の欠陥ともいえる。この点、96条1項の規定ぶりからすると投票権者の範囲は国政選挙と同じとするのが立法者の意思と推測される。将来において投票権者の範囲を18歳以上とすることがあってもよいが、十分議論して検討すべきであり、現段階では国政選挙と同様と考えるのが簡便である。
  • ただし、在外国民の選挙権行使について、現在の登録有権者制度のままでよいのかは慎重に検討すべきである。
  • 現憲法の制定過程に「瑕疵」があったことは否定できないが、戦後60年の歩みの中で現憲法は国民の間に定着して「馴染んできた」と言うことができる。しかし、いまだ正統性を獲得するには至っていないと言える。
  • ゆえに、今後行われる第一回の国民投票においては、戦後初めて自ら憲法をつくりあげるという意味で全面改正を一括投票でなし、その次の国民投票から個別の改正を順次行っていくのが妥当ではないか。

葉梨 康弘君(自民)

  • 参考人質疑において日本国憲法が正統性を欠く部分があるのではないかという議論がなされたが、その点からも、憲法改正の試みを具体化し、国民投票を経験することにより、国民投票の結果がどうなるにせよ、憲法の正統性を回復することが重要である。
  • 96条自体の改正との関係で国民投票制度を考えるのではなく、今回は、制度を整備する技術的・手続的なものとして、国民投票制度を考えるべきである。
  • 国民投票制度の公正を確保するため、運動規制とは別に、虚偽報道がなされた場合の反論権などの救済制度を考えることも重要である。
  • 規制という側面からだけではなく、国民投票運動の自由の確保の在り方という面からの検討も必要である。
  • 外国人の国民投票運動について、外国人による資金力を背景にした寄附や支援に一定の規制をするとしても、単純な意見表明の機会さえ制限してしまってよいのかという点については、検討が必要である。

小川 淳也君(民主)

  • 高橋参考人が指定文献において、憲法改正のための手続法は平穏時に冷静・周到に用意しておく必要があることを指摘するとともに、昭和26年から28年にかけて自治庁案が閣議決定に至らなかった経緯を説明しているが、この二つの事柄をつなぐためには、憲法改正の内容の議論をしつつ、国民投票法を制定することしか考えられない。
  • 高見参考人は、国民主権原理に基づく権利として保障されている選挙権と国民主権に直結する国民投票権には本質的な差異があることを指摘した。仮に両者にそのような差異があるのであれば民法の成人年齢や公選法の選挙年齢を考慮する必要はないにもかかわらず、やはりこれらの規定を参照していることにかんがみると、両者に本質的差異はないのではないかと考える。とすると、成人年齢や選挙年齢を引き下げる突破口として、投票年齢を18歳に設定すべきである。
  • 日本国憲法の正当性を否定することは、戦後58年の日本の歴史を否定することにつながりかねないのであって、歴史の重みを受けとめることが日本人に求められているのではないか。

柴山 昌彦君(自民)

  • 正当性に関する疑義をなくす目的で憲法改正が必要ない事項についてまで国民投票にかける必要性はなく、今回は、緊急性が高い改正事項についてのみ個別の条項を国民投票にかけるべきである。
  • 選挙年齢とは別に、国民投票年齢を設定してもよい。ただ、立法政策上、選挙年齢を国民投票年齢と同様18歳に引き下げることは考えられてもよい。
  • 明らかに虚偽であることを知りながら虚偽報道をしたような場合には、マス・メディアを規制することもやむを得ない。ただし、その規制は、第三者機関による警告を前置させるべきである。反論権については、マス・メディアの報道の自由を侵害することから、慎重に考えるべきである。政府が公金を用いて、虚偽と知りながら虚偽の内容のパンフレットを作成したような場合には、規制を及ぼすべきである。
  • 外国人の投票運動については、国民が多様な意見に接する機会を確保するという観点から、これを認めてよい。
  • 「過半数」の意味については、個別投票方式をとる場合、実務上の煩雑さを避けるためにも、総投票数を基礎として計算すべきである。
  • 無効訴訟については、所在地を管轄する高等裁判所に提起できることとし、その効果は将来効とすべきである。

伊藤 公介君(自民)

  • 「少年」の年齢や刑事責任年齢について、世界的に年齢を引き下げる傾向にあることからも、投票権者の年齢は、18歳とすべきである。
  • 公正な議論を確保するために、虚偽報道や公務員・教職者の地位利用等については、公職選挙法と同様の規制を確保すべきである。

鈴木 克昌君(民主)

  • 憲法改正国民投票法案は、できるだけ早く制定すべきである。
  • 投票年齢は18歳に設定すべきであり、同時に、成人年齢も、果たして20歳がふさわしいのかどうか再検討すべきである。
  • マス・メディア規制については、公職選挙法程度の規制があってもよい。
  • 個別投票か一括投票かについては、改正内容により、発議ごとに判断すればよい。
  • インターネット環境が全国民に行き渡ったとまではいえず、インターネットについても規制が必要である。

吉田 六左エ門君(自民)

  • 先日の衆議院選挙はまるで国民投票のようであったと評されたが、若者が郵政民営化について議論をしていたのを見て、若者が憲法改正論議に積極的に参加することができるように、憲法改正国民投票における投票権者の年齢も、18歳に設定すべきであるとの思いを強くした。

枝野 幸男君(民主)

  • 無効訴訟について、自分として結論を得たわけではないが、濫発されるような訴訟については、国民投票の効力は発生させた上で審査し、その結果によって効力を停止すればよいかもしれないが、重大な手続的な瑕疵があるために司法判断を求めるような訴訟については、一定期間、効力発生停止の仮処分のようなものを認め、仮処分が認められた場合にのみ、いったん効力を停止して本訴訟に入るという方法も考えられる。
  • この間、「国民投票運動」と「憲法に関する言論」が整理されずに投票運動に対する規制の議論がされていると感じるが、そもそも両者を明確に区分して一定の国民投票運動にのみ規制をかけることは不可能であって、民主党が主張するように非常に限定された場面にしか規制をかけることはできないのではないかということを認識して議論をする必要がある。

平岡 秀夫君(民主)

  • 日本国憲法の正当性についての指摘があったが、96条2項が「この憲法と一体をなすものとして」公布すると規定されている以上、憲法自ら改正に限界を認めており、憲法の全文を改正するような場合、改正の限界を超え、改正後の憲法の正当性が失われるような事態になりかねず、正当性を確保するために96条2項の改正が必要になってしまうという論理が成り立つことを指摘したい。
  • 国民投票無効訴訟については、その無効となる事由をはっきりさせて議論する必要がある。

岩國 哲人君(民主)

  • 我が国にも優秀な若者は多数存在するものの、社会的成熟度、政治に対する関心度・理解度は、欧米の若者に比べると低いと感じる。投票権者を18歳以上に設定することは時期尚早である。
  • 米国の青年会議所では、高校生を集めて「大統領と議会の関係」について議論を行うことで次世代を担う責任感を醸成させ、また、長野県のある社会科教師は、生徒に憲法の前文を自分の文章で書かせることで国のあるべき姿を考えさせていた。このような教育を行えば、若者の政治に対する関心度を高めることが可能である。
  • 憲法改正は、国民に対して、改正しない条項を良い条項であると再認識させる機会を与える場でもあり、また、新憲法を制定したという疑似体験をさせるという意味をも持つものである。

松野 博一君(自民)

  • 憲法改正国民投票は国民の正当な主権の行使であるのだから、手続法を整備して、その行使を国家が担保しておくことが重要なのであり、整備されていない現状は、「立法の不作為」に当たるとともに、憲法に対する国民の信頼を損ねる一因ともなっている。
  • 投票権者の範囲については、憲法改正を発議する国会議員を選ぶ選挙と、憲法改正の国民投票とでは、憲法改正プロセスへの参加という点では質的に同じであるから、同年齢とすべきである。年齢要件を何歳とするかは、成人として果たすべき社会的責任・義務との関係で議論する必要がある。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法尊重擁護義務を負う国会議員の中に、現行憲法の正当性に疑問を抱く者がいることに驚くばかりである。
  • 現行憲法の正当性については、前文そのものにあり、そこで確保されている。
  • 憲法改定が、主権者である国民の側から湧き起こっている声でないことは、世論調査の結果から明らかであり、国民は、現行憲法とともに生きることを選択しているのである。
  • 憲法施行後約60年を経てさまざまな問題が生じているのは、憲法に問題があるからではなく、憲法の諸原則が完全実施されていないことに起因するものであることから、国会が現実を憲法に近づける責務を果たすことが重要である。

林 潤君(自民)

  • 憲法改正の中身の議論と憲法改正の手続の議論は、区別して行うべきである。
  • 国民の生命、財産を守ることは国会議員の責務であり、国民の要請に従って、また、時代に則して憲法を改正することは、その責務の最たるものであるから、早急に憲法改正のための手続法を整備すべきである。
  • 投票権者の範囲については、国政選挙と同じとすべきであり、更に議論すべきである。
  • 選挙の場合は、「投票したい人がいない」として棄権で意思を表示することもあり得るが、憲法改正の場合にも、棄権をどのように扱うかについての議論をする必要がある。
  • 国民投票運動は、基本的には大きな制約を受けない自由なものとするのが望ましい。
  • 憲法改正の重大性から、発議後の周知を十分に行うことが必要であり、国民世論の喚起は国会議員の責務でもある。

三原朝彦君(自民)

  • 国民投票運動については、例えば、憲法改正に賛成の新聞社と反対の新聞社が活発に議論し合うのは、国民にとって歓迎すべきことであるから、自由とすべきである。英知を結集し、公平性を確保する手段を考案した上で、バラエティに富んだ意見が飛び交うことのできる環境を作るべきである。
  • 我々は、国民投票というものを経験していないため、国民投票制度の構築に不安感を抱きながら臨んでいる。この不安感を払拭するために、憲法改正を行う前に、脳死問題など国民的に議論の分かれる問題を国民投票にかけて、憲法改正国民投票の試金石とすることも一考の価値がある。

船田 元君(自民)

<古川委員の発言に関連して>

  • 憲法改正の国民投票と、一般的な国民投票とは区別して議論すべきである。

<岩國委員の発言に関連して>

  • 18歳の若い国民にも投票権を認めることで、政治教育、公民教育を促進するきっかけにするという考え方もあるのではないか。

<枝野委員の発言に関連して>

  • 国民投票の後、その効力を一定期間生じさせず、その間に国民投票に関する重大な瑕疵の有無を調査し、重大な瑕疵が存在しない場合には改正憲法を発効させるとする制度は、検討に値する。

<発言>

  • 国民投票運動の規制については、個人の意見表明が自由であることは当然であるが、組織的な行動には一定の規制をするべきであり、また、マス・メディアは影響力が大きいので、公平性を担保するための規制が必要となる。それぞれの場合に分けて議論するべきである。

岩國 哲人君(民主)

<笠井委員の発言に関連して>

  • 憲法改正に関する世論調査の結果は、設問の設定の仕方に左右される性質のものである。憲法改正には、平和憲法を守るための改正もあるのだということを説明した上で調査を行えば、調査結果も変わってくるはずである。

北神 圭朗君(民主)

  • 憲法には、人権保障、国家権力の制限についての規定ばかりでなく、歴史や伝統を踏まえての、その国の理念や在るべき姿が記されているべきである。
  • 現行憲法には日本語として文法的に正しくない表現や文言が含まれているので、国民に分かりやすい憲法、馴染みやすい憲法を作るという観点から、仮に憲法規定の内容に不都合が一切なくても、正しい日本語による全面的な改正を行うべきである。

笠井 亮君(共産)

<岩國委員の発言に関連して>

  • 世論調査における「9条改正に賛成か反対か」という問いは、非常にシンプルで明確なものである。むしろ、「9条2項を改定し、自衛軍を明記して海外で戦争ができる国にすべきであるか」という問い方をすれば、反対は、より多くなるはずである。それぞれの世代がさまざまな思いで答えたこの世論調査の結果を重く受け止めるべきである。

枝野 幸男君(民主)

<笠井委員の発言に関連して>

  • 10年前ならばまだしも、現在では、「9条をどのように改正するのか」という具体的な提起をしなければ意味がない。共産党の立場に立つのであれば、本来、「自衛権も行使しない」という内容の憲法改正を主張すべきであり、単に「9条を改正するか、しないか」という問いかけをすることは、時代遅れの感がある。

<船田委員の発言に関連して>

  • 例えば、政党機関紙などはかなり政治的な存在であり、マス・メディアの規制をするにしても、そもそもマス・メディアの定義をすること自体、非常に難しい。

平岡 秀夫君(民主)

  • 「憲法とは何か」という問題はあるが、現実に憲法を合わせるというアプローチはとるべきではなく、やはり憲法には理想を掲げるべきである。
  • そのためには、現在の憲法の下で、どこまでできて、どこまでできないかという国民的合意を定めるための安全保障基本法の制定をまず始めるべきである。

笠井 亮君(共産)

<枝野委員の発言に関連して>

  • 自民党の主張するように、戦力不保持・交戦権否認を規定する9条2項を改定して自衛軍を明記することは、その果たしてきた歯止めを取り払い、戦争放棄を規定する9条1項を含めた9条全体を放棄することにすらつながる。まさに今の時代から見ても、9条の意味は一層大きくなってきている。

辻元 清美君(社民)

  • 世論調査の結果を単純に割り切るべきではない。そこには、憲法を改正することが過去の歴史から見て危険であると感じて9条の大切さを認識する一方で、人道国家としての日本の役割も真剣に考えている人たちのさまざまな観点からの思いが表れている。

早川 忠孝君(自民)

  • 自由討議であるから、9条を含めさまざまな意見が出されることはよいが、基本的に本委員会は、憲法調査会における集約を踏まえて、議論を行っていることを再確認すべきである。
  • 国民投票運動は基本的には自由であるが、誤った報道により国民投票が左右されることは、国民主権の観点からあってはならない。そのための是正手段を確保すべきであるが、直ちに罰則をもって臨んではならない。
  • 両議院の総議員の3分の2の賛成が得られるような改正案を作り、それに並行又は先行して、不可分の関係にある手続法である国民投票制度を構築すべきである。

逢坂 誠二君(民主)

  • 国会の議論のみが先行してしまい、主権者たる国民の意識がそれと乖離してしまうことがないよう、我々国会議員は国民の目線を忘れず、国会の議論をどう国民に伝えるかについても心を配らなければならない。

保岡 興治君(自民)

<笠井委員の発言に関連して>

  • 現憲法を採決する際、共産党の野坂議員は、現憲法の根幹に修正すべき内容があるという認識の下、歴史的な反対討論を行っている。共産党は党として今日まで連続性があると考えるが、現憲法の根幹についてどのような認識をお持ちか伺いたい。

笠井 亮君(共産)

<保岡委員の発言に関連して>

  • 我々は現在、憲法を守り、9条を改定するための国民投票法の制定について明確に反対している。
  • 戦後、どのような憲法にするかについて議論され、さまざまな意見が出されたが、それはあくまで当時の意見であって、当然にとらわれるべきではない。我々は、制定された現憲法について、その重要性を認識し、これを守り、完全に実施していくという立場をとってきたのであり、誤解いただくようなことは全くない。