平成18年2月23日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

「衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団」の調査の概要について、中山委員長から説明を聴取した後、調査に参加した委員から意見を聴取した。


◎「衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団」の調査の概要

一 調査議員団の構成

団長 中山 太郎君(自民)

   保岡 興治君(自民)、葉梨 康弘君(自民)、枝野 幸男君(民主)、

   古川 元久君(民主)、高木 陽介君(公明)、笠井  亮君(共産)、

   辻元 清美君(社民)

二 期間

 平成17年11月7日(月)から11月19日(土)まで 13日間

三 訪問先

 オーストリア  国会、憲法裁判所、軍事史博物館、内務省

 スロバキア   国会、大統領府、外務省

 スイス         ノイエ・チュルヒャー新聞社、スイス国営放送局、

  司法警察省及び内閣府、ベルン大学

 スペイン       政治憲法研究所、国会、ガリーゲス法律事務所

 フランス       国会、アラブ世界研究所、

  ヴェルサイユ宮殿内議会博物館及び両院合同会議場、

  憲法院

四 調査の概要

1.オーストリアにおける調査の概要

  • コール国民議会議長からは、国民投票における国民に対する正確な情報提供の重要性について説明を受けた。また、コリネック憲法裁判所長官からは憲法裁判所の役割について、フォーグル内務省局長からは、同国の直接民主制の制度について説明を受けた。

2.スロバキアにおける調査の概要

  • ドゥルゴネツ国会憲法及び法務委員長やチーチ大統領府長官からは、同国では憲法改正については国民投票が要件とされていないこと、基本的人権など国民投票の対象としてはならない事項があることについて、説明を受けた。

3.スイスにおける調査の概要

  • ノイエ・チュルヒャー新聞社のアシュヴァンデン編集委員やスイス国営放送局のハルディマン編集長からは、同国の直接民主制におけるメディアの役割の重要性について説明を受けた。
  • マーダー司法警察省法務局次長からは、同国において放送メディアが印刷メディアよりも厳しい規制に服している理由について説明を受けた。
  • スイス・インフォ記者の佐藤夕美氏、フーバー=ホッツ内閣府長官、ベルン大学のリンダー教授からは、直接民主制の作用、意義、データ分析について説明を受けた。

4.スペインにおける調査の概要

  • フンコ政治憲法研究所長からは、国民投票運動における政府の中立性について、バレーロ下院第三書記からは、王位継承順位変更のための憲法改正について、ガリーゲス法律事務所長からは、国民投票制度全般について説明を受けた。
  • ゲラ下院憲法委員長からは、スペイン憲法を硬性憲法に改正することができたのは、政党間の「大いなる合意」によるものであるとの説明を受けた。

5.フランスにおける調査の概要

  • ウィヨン国民議会法務委員長からは、国民投票運動の規制の在り方について、アラブ世界研究所のゲナ所長からは、投票権年齢について、ギエンシュミット憲法院委員からは、国民投票に関する異議申立ての審査実態について説明を受けた。

6.まとめ

  • 政治的な立場や評価は別として、欧州各国における国民投票制度の実情について派遣議員間に共通の認識が形成されたと確信した。今後これを基に議論していきたい。

◎調査に参加した委員の発言の概要(発言順)

保岡 興治君(自民)

  • 国民投票の投票年齢は、各訪問国とも選挙年齢と同じく18歳以上とされていた。我が国でも、選挙年齢と同じにすることを前提に18歳とするか20歳とするか検討すべきである。
  • 各訪問国では、マスコミを含めた国民投票運動に関する規制はほとんどなく、放送メディアについて緩やかな規制がなされているにすぎない。このことを念頭に置き、我が国でも国民投票に関する報道は原則自由として、自主的規制に委ねる方向で検討すべきである。
  • スペインにおける政府の中立性と各政党主体の国民投票のシステムは、我が国でも参考になる。
  • スペインでは白票に棄権と異なる取扱いをしているが、白票に国民の意思の反映や投票率の向上の趣旨を持たせることにより、投票方法及び「過半数」の考え方の問題の妥協を図るヒントとして検討の余地がある。
  • 憲法改正国民投票を成功させるためには、国民に対する正確な情報提供及び各政党間の合意形成が重要である。

葉梨 康弘君(自民)

  • 国民投票制度には、独裁者の信任投票となってしまうなどの怖さがある。これに対しては、下からのイニシアティブ、与野党の協議などが大事であるとの示唆があった。憲法改正に絞った国民投票制度の創設を先行させるべきである。
  • 国民投票の発問の仕方については、各訪問国のように国民に一義的に分かりやすくする必要がある。審議会に発問の仕方を諮問することも一案である。
  • 投票年齢については、若者の社会参加も必要であり18歳以上に投票権を付与することを検討すべきである。
  • メディア規制に関し、論評については相当自由である。情報提供については、スペインのように議席に応じてテレビでのキャンペーンのスペースを割り当てるような例がある。
  • 国民投票の有効・無効の問題については、フランス、オーストリアでは投票結果に影響を与えるか否かを短い期間で判断する。これは我が国の司法文化や選挙無効の制度とは異なるものである。第三者機関を設け、一定の期間内に第一次的な判断をさせるのも一案である。

枝野 幸男君(民主)

  • (a)メディアに基本的に規制を加えるべきではないこと、(b)投票年齢が成人年齢を含めて18歳以上であること、(c)内容の周知には分かりやすさが重要であることが各訪問国において共通であることを、今回の調査で再確認した。
  • テレビ報道等については、規制を加えるべきではないと考えるが、各訪問国において様々な努力が払われており、一定の考慮が必要である。また、公権力による国民投票の乱用防止についても考慮が必要である。
  • オーストリアでは、その年に18歳になる人に投票権が与えられている点が興味深く、我が国においても考慮に値する。
  • スロバキアでは、投票の有効要件として最低投票率(50%)を規定しているが、法律に規定することは別問題として、我が国においても投票率が低くならないような政治的責任がある。
  • スイスでは、国民の3分の2が事前に郵便投票をしており、我が国でも簡易に投票できるようにする必要がある。
  • スペイン憲法は歴史的経緯を踏まえ、日本以上に硬性憲法とされている。我が国の憲法が硬性憲法であることは、政党間で政策を競い合う土俵であると考えれば、おかしなことではない。
  • フランスでは、憲法改正にヴェルサイユにある両院合同会議の議場をわざわざ用いる場合がある。これは形式的だが、丁寧かつ厳格な手続を踏むこと自体が民主主義にとって必要不可欠な要素である。

古川 元久君(民主)

  • 各訪問国において、憲法改正国民投票が一般的な国民投票制度の一類型として位置付けられていることが注目された。
  • 国民投票は、フランスのプレビシットの例もあり、乱用してはならない。為政者自身を正当化する手段となる危険を防止するためにも、国民投票に議会がしっかりと関与していくことが重要である。
  • 各訪問国においては、選挙活動・投票運動について、おおむね自由で、規制も最小限である。我が国においても、選挙活動・投票運動に関して最小限度の規制としていくことを検討すべきである。
  • 国民投票制度の構築に当たっては、成人年齢や選挙運動の在り方等関連する既存の法律等の見直しを検討する必要がある。
  • フランス、スペインにおける欧州憲法条約に係る国民投票の状況をみると、国民投票の内容を国民に正確に周知する方法等について十分な検討が必要である。

高木 陽介君(公明)

  • 各訪問国において、メディアや運動方法について最小限度の規制しか行われていないことは注目に値するものであり、特に、活字メディアと放送メディアとの違いによる規制の有無は参考になる。
  • 放送メディア以外のメディアに対する規制をしないことが世界の潮流である。これを踏まえて、我が国においてどの範囲まで規制を行うか検討する必要がある。
  • 投票年齢は、訪問国すべてにおいて選挙年齢・成人年齢と同じ18歳以上であったが、我が国においても選挙年齢・成人年齢と同一とするのが妥当ではないか。その際には、公職選挙法を見直す必要がある。
  • スペインの現憲法の制定過程でみられた政党間合意とそのための努力は注目に値する。我が国においても是か非かの議論ではなく、各党の違いを認めつつ建設的な議論をしていくことが必要である。

笠井 亮君(共産)

  • 各訪問国の国民投票制度は、それぞれの歴史的経験を踏まえて構築されている。他国の制度の一部分だけを切り取って真似るということは慎むべきである。
  • 各訪問国とも人権、自由、民主主義といった憲法の基本原則に関わる改正は行っていない。自民党の改憲案は、憲法の基本原則である平和主義などを否定するものである。こうした日本の改憲論議は世界の流れに逆らうものであり、9条改憲のための国民投票法は必要ない。
  • 国民投票運動やメディアの規制について、各訪問国とも国政選挙の場合も含めて原則自由であることから、日本の議論に違和感を抱いたようだ。現行公職選挙法上の規制が国民の主権行使を制限していないかどうかを点検する必要がある。

辻元 清美君(社民)

  • 国民投票は、スイス以外の訪問国ではそれほど頻繁に行われていない。
  • 国民投票によって重要な政治課題に直接意思表明をできることは主権者にとって意義がある反面、国民投票に関しては、ドイツによるオーストリア併合など苦い経験もあり、その実施は慎重に判断されているという印象を持った。
  • 憲法の根本的改正について議論がなされている国もあるが、議論がまとまるのは難しいと感じた。また、どの訪問国も憲法を全面的に変えることは想定していないようであった。
  • 国民投票制度を考える場合、憲法を変える手段としての国民投票に一足飛びに行くのではなく、一般的な国民投票制度の導入の是非や直接民主主義の在り方など、多角的議論をまず行い、その中から憲法改正国民投票の在り方を見極める必要がある。