平成18年3月9日(木) (第3回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

委員保岡興治君及び枝野幸男君から基調発言を聴取した後、質疑又は発言を行った。

(基調発言者)

  保岡 興治君(自民)

  枝野 幸男君(民主)

(質疑又は発言を行った者)

  船田 元君(自民)

  園田 康博君(民主)

  石井 啓一君(公明)

  笠井 亮君(共産)

  辻元 清美君(社民)

  滝 実君(国民)



◎保岡興治委員の基調発言の概要

1.はじめに

  • 「与党案」は、自民・公明両党の真摯な協議の結果であり、貴重な参考資料であるが、これに固執するものではなく、建設的な議論をしてまいりたい。

2.国民投票の対象

  • 「議会制民主主義における『劇薬』としての国民投票」にかんがみれば、国民投票を一度も経験していない我が国においては、一般的・諮問的国民投票は将来の課題とすべきであり、当面、憲法改正国民投票のみを対象とするのが適切である。

3.国民投票の投票権者

  • 投票権者については、当面、公職選挙法の選挙権者の範囲と同様として、その上で、速やかに投票権年齢の引下げの検討に着手すべきである。

4.国民投票の投票期日

  • 国会及び各政党が主体的に国民に憲法改正の内容を周知・広報していくべきことを考えると、投票期日は国会の議決で定めることが適切である。憲法改正案の公示も両院議長が行うとする「与党案」は、この発想に基づく。

5.投票の単位(個別投票か一括投票か)

  • 憲法改正案に複数の項目が含まれる場合には、個別投票が原則となる。
  • 政策的に関連する項目については、一つの項目にくくって問わざるをえないが、関連するか否かは憲法改正案を発議する国会の判断によるしかなく、国会は、可分の項目は別個の議案として立案し、そのような議案を単位として国民投票に付するよう努めなければならない。
  • 以上の原則的なルールは、国民投票法案において規定すべきである。

6.憲法改正案の周知・広報

  • 憲法改正案だけでなく、その要旨・改正の趣旨を平易に解説したパンフレットである「国民投票公報」を発行することが重要である。
  • 民主党案は、国会に「国民投票委員会」を設置して、憲法改正案の要旨や解説資料の作成等を行わせることとしており、検討に値する。

7.国民投票運動規制

  • 国民投票運動は、国民投票の公正さを確保するための必要最小限度の規制以外は基本的に自由とすべきである。
  • 選管職員など国民投票に際して公正を保つべき者、公務員や教育者などがその地位を利用して行う国民投票運動は禁止すべきである。
  • 外国人の国民投票運動は、組織的で弊害のあるようなものに限り規制する方向で検討すべきである。
  • マスコミに関する規制は、(a)虚偽報道の禁止、(b)不法利用の禁止のみ設けるべきである。
  • 「虚偽まがいの報道」には「真実の報道」で対処し、国民に対して一定の周知・広報期間をとることにより国民の良識で判断してもらうことが大切であると昨年の海外調査から考えるようになった。
  • 選挙運動の場合と異なり、国民投票の場合は国民一人ひとりが「運動者」になり得ることを前提に、国民の政治的意見の表明を最大限保障するとともに、「買収」となり得る行為の範囲を限定する方向で検討すべきである。

8.おわりに

  • 国民投票のルール作りのための与野党の垣根を越えた真摯な協議が本委員会で開始されたことは大変に意義のあることであり、各政党間の幅広いコンセンサスに基づく憲法改正国民投票法案が、今国会中に提案され、成立することを願う。

◎枝野幸男委員の基調発言の概要

1.憲法改正国民投票制度を整備する必要性

  • 拙速は避けるべきだが、早急な整備が望ましい。
  • (a)憲法改正に向けた準備のための整備ではないこと、(b)憲法改正を拒否する機会を国民に保障するための整備でもあることを認識し、幅広い合意を目指すことが重要である。
  • 憲法改正国民投票制度の議論は、憲法改正の発議のための国会内の手続等を定める国会法改正の議論と一体不可分である。

2.憲法改正国民投票制度の内容

(1)国民投票制度がカバーする範囲

  • 憲法改正以外の政策課題についても、国民投票を行うことで国民の意思を反映させる必要性が高まっていると感じる。この一般的・諮問的国民投票制度と憲法改正国民投票制度とを一体として整備すべきである。

(2)投票権者の範囲

  • 投票権者の範囲については18歳以上とし、その際には、「学齢」で区切るのも一つのアイディアである。
  • 法制度全体として成人年齢を18歳に引き下げるべきであり、経過措置は必要かもしれないが、期限を設けて実現を図るべきである。

(3)投票人名簿

  • 投票人名簿については、3か月居住要件を維持することには問題があり、公民権停止者を除外する理由もないのであるから、選挙とは別途名簿を調製すべきである。

(4)投票運動規制

  • 投票運動規制については、政治的な意見表明と投票運動を明確に区分することは不可能であるから、投票運動を規制することは原則として不可能であるという認識を共有した上で、不可欠な規制の整備について知恵を絞る必要がある。
  • 買収罪については、居酒屋での憲法談義にすら適用されかねず、表現の自由に対する萎縮効果が懸念されるため、議論が必要である。
  • メディア規制については、新聞の場合は政党機関紙が規制対象となること、放送の場合は、虚偽報道に関する訓示規定が放送法に既に置かれていることを考慮する必要がある。

(5)憲法改正案の周知・広報

  • 憲法改正案の周知・広報は、国会の責任で行うべきである。周知・広報の主体となる機関を国会に設置して、その機関の構成員の3分の1以上は発議に反対した勢力から選出するとし、また、賛成・反対の意見が対等な分量で記載されたパンフレット等を作成することにより、その公正さを担保すべきである。
  • 広報活動への公費助成は、国会による広報活動が十分に機能するかどうかで判断すべき問題であろう。

◎主な質疑事項又は発言

船田  元君(自民)

<発言>

  • 憲法改正国民投票法が60年間制定されてこなかったのは、立法府の怠慢であり、国民の意思表示の機会を設けることが国会の責務である。ただし、今後の改正問題と密接に関連する国民投票法案は、衆参それぞれにおいて3分の2以上の賛成で可決されることが望ましい。
  • 一般的国民投票制度については、(a)本委員会の審査権限を越えるものであること、(b)諮問的とはいえ国会の立法権が縛られてしまうことは憲法に抵触することから、さらなる議論が必要である。
  • 投票権年齢については、18歳にすべきであるが、成人年齢の引下げや民法等の25もの法律の改正にも絡む問題であり、今すぐ18歳とすることは困難である。本則では20歳以上とするが、附則において公職選挙法の選挙年齢が18歳に引き下げられた場合に同時に18歳以上とするということを明記すべきである。
  • 公職選挙法上の特定公務員のうち、収税官吏等の投票運動は制限する必要はない。
  • 一般の公務員等の地位利用による投票運動の制限については、公務員法制によってもカバーし得るので、制限を加えない方向で検討すべきである。
  • 外国人の投票運動は原則自由であるが、投票結果に影響を与える特別の目的を持った組織的な運動については、制限すべきである。ただし、日本国内の各国在外公館の一般的活動については、これを除外する配慮が必要である。
  • メディア規制について与党案は公職選挙法を準用しているが、緩和すべきである。基本的にはメディアの自主的な取組に委ねるべきであるが、少なくとも報道の公正さを保つための機関を設置すべきである。
  • スポットCMについては、放送の影響力の大きさにかんがみ、投票日前の1週間から2週間程度の期間は禁止する方向で検討すべきである。
  • 罰則規定については、極力設けない方向で検討すべきであるが、(a)投票手続に関する罰則、(b)投票の自由を妨害する罪については、残す必要がある。なお、罰則を設けても、「表現の自由、学問の自由、政治活動の自由を制限してはならない」という解釈規定を設けることにより、国民投票運動に配慮する必要がある。
  • 無効訴訟については、東京高裁における一定条件の下での執行停止処分規定を設けることが望ましい。ただ、その際には無効事由を(a)自由投票の妨げ、(b)数の誤り、(c)選管のミスに限定すべきである。
  • 国民投票の内容そのものに関わる国会法の規定は、できる限り国民投票法案に吸収すべきであるが、院の構成に関わるものについては、きちんと国会法の改正で対応すべきである。
  • 民主党案の「国民請願」については、議会制民主主義との関係で制度設計が非常に難しく、将来の検討課題としたい。
  • 投票の単位を個別投票にするか、一括投票にするかについては、国会法において「個別投票が原則である」という訓示規定を設けるべきであるが、内容的に相互に関連する項目については、ある程度束ねることは可能である。この点、9条改正と環境権新設のような意図的な束ね方は認められない。

園田 康博君(民主)

<発言>

  • 憲法改正国民投票について、国民の参加意識を深めることが重要である。そのためには幅広い周知を行うことが必要であり、公聴会及び地方公聴会を行うことを提案したい。

<保岡委員に対して>

  • 国民の政治参加という点を重視すれば、一般的な国民投票制度は極めて重要であると考えるが、昨年の欧州各国国民投票制度調査議員団の調査結果を踏まえた一般的な国民投票制度の導入の是非についての意見を伺いたい。

>保岡興治君(自民)

  • オーストリアでは、国民投票がその時々の政府に対する信任・不信任の是非になりかねないという問題点が指摘され、スペインでも、国民投票制度は議会制民主主義を補完する二義的なものに過ぎないという指摘がなされた。一般的な国民投票制度については、なお慎重な検討が必要である。

<発言>

  • 一般的な国民投票制度は、国民の意見を聴取する究極的な場面であることから、憲法改正国民投票制度と同時に制定されることが望ましい。

<保岡委員に対して>

  • 国民投票には、できる限り多くの国民が参加すべきであり、成人を18歳以上として投票を認め、また公職選挙法上の公民権停止者、在監者についても投票を認めるべきである。この点、民主党案では、18歳以上の者に投票権を与えると本則で定めるが、例えば少年の人権に関わるような案件について、発議の際に、その案件に関係する者にも投票権を認めることもできることとしているが、いかがか。

>保岡興治君(自民)

  • 憲法改正の投票権者は成人年齢と一致しているのが国際標準である。選挙権や成人年齢を18歳に見直す中で総合的に検討し、早期に結論を出すことが望まれる。

石井 啓一君(公明)

<発言>

  • 与党案をベースに議論を進めてもらいたいが、与党案に固執するものではなく、幅広い合意を目指して意見を取り入れていきたい。

<両委員に対して>

  • 投票年齢要件と投票人名簿については、投票人名簿は公職選挙法の選挙人名簿を用いた上で、公職選挙法を改正して18歳選挙権を目指すことにより、投票年齢も18歳以上とすべきであると考える。この考えについての見解を伺いたい。

>保岡興治君(自民)

  • 憲法が「成年者による普通選挙」を保障している以上、国民投票についても「成年者」によることが筋だと考える。国際的には18歳以上に選挙権を与えることが標準となりつつあるという意見もあり、さまざまな観点から総合的に検討する中で結論を得るべきである。

>枝野幸男君(民主)

  • 投票人名簿は、前述した居住要件との関係もあり、選挙人名簿とは別に作らなければならないと考える。投票権も選挙権も、ともに18歳以上に付与すべきであることについては、公明党と同じ考えである。ただ、行政府主導で公職選挙法が改正されるのを待つのではなく、国会が主導して国民投票法において投票権を18歳以上とすれば、公職選挙法における選挙年齢もこれに追随するであろう。

<両委員に対して>

  • 投票運動に対する規制としては、原則自由であるが、投票の公正を確保するための必要最小限度の規制のみ設けるべきであると考える。一方で、メディアの虚偽報道・不法利用に関し、自主規制に任せることでよいのか、必要最小限度の規制を法定すべきと考えるか。

>保岡興治君(自民)

  • 憲法改正国民投票においては、虚偽まがいの報道等は、言論の自由市場の中で淘汰されていくと考える。したがって、原則として、自主規制でよい。

>枝野幸男君(民主)

  • 同感である。ただ、放送メディアのスポットCMについては、何らかの規制が必要かどうか検討しなければならない。

<両委員に対して>

  • 投票方式としては、関連する項目ごとに国民に問うべきであり、投票用紙もそれに適したものとすべきと考えるが、いかがか。

>保岡興治君(自民)

  • 政策的に何が関連し何が関連しないかは、改正案を発議する国会が判断することになろうが、「関連しない項目については個別に問う」といった原則的ルールは、国民投票法に定めておくべきである。

>枝野幸男君(民主)

  • 「可能な限り個別に問う」ということは努力義務ではなく、「可能な限り個別に問わなければならない」とすべきである。
  • すべての項目を一枚の投票用紙に記載するのではなく、一項目について投票用紙一枚とすべきであり、投票人は、項目の数だけ投票を行うこととすべきである。

笠井  亮君(共産)

<発言>

  • 本日の議題は「日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件」であり、国民投票のためのルール作りの協議が、本日、開始されたのではないということを明確にしておきたい。
  • 9条改憲のための条件整備としての国民投票法制定には、日本共産党は反対である。

<保岡委員に対して>

  • 自民党は、昨年11月に「新憲法草案」を発表したが、題名からすると、自民党が目指しているのは憲法改定ではなく、新憲法の制定か。

保岡興治君(自民)

  • 現憲法のよいところは踏襲しつつ、今の時代にふさわしいものを盛り込んだものが新憲法草案である。憲法上の文言からすれば、いずれにせよ「憲法の改正」ということになる。

<保岡委員に対して>

  • 9条を改変することは、日本国憲法の基本原則を変更することになり、もはや96条の予定する「憲法改正」の限界を超え、まさに「新憲法の制定」である。新憲法の制定は、クーデターの発生などにより政治体制が変わった等の状況が発生したときに行われるのが通常であるが、現在の日本において、そのような状況が発生しているということができるのか。

>保岡興治君(自民)

  • そのような立論は、政治論としてはあるかもしれないが、法律論としては、96条にいう「憲法の改正」にほかならない。

<枝野委員に対して>

  • 民主党の「憲法提言」を見ると、内容的に全面的な改憲を想定しているように思える。枝野委員は、常々、全面改憲は考えていないと述べているが、憲法提言の内容と矛盾するのではないか。

>枝野幸男君(民主)

  • 憲法提言は、形式的意味の憲法(いわゆる憲法典)にとどまらず、実質的意味の憲法(国家の統治の基本を定めた法としての憲法)について、いろいろと変えなければならない点があるということを述べている。私が常々述べているのは、形式的意味の憲法については全面改正する必要はないということであり、矛盾するものではない。

辻元 清美君(社民)

<発言>

  • 欧州各国国民投票制度調査議員団の報告にもあるように、国民投票を行う際には、(a)議会内のコンセンサスと(b)強い民意の後押しが重要である。この点、日本において現在、全党のコンセンサスは存在せず、また、議会内の議論と国民との間に大きな温度差があって、双方ともに満たしていない。
  • 社民党は、憲法改正国民投票制度についてどのような議論が必要か意見表明をするために委員会の席についているのであり、与野党の協議を開始するためではない。

<保岡委員に対して>

  • 市民団体による調査では、国民投票制度に関する国民の理解度は低く、議会内と国民の意識との間には乖離があると思われるが、いかがか。

>保岡興治君(自民)

  • 憲法改正及び憲法改正手続法の整備には国民の後押しが必要との意見には共感する。しかし、国民に国民投票制度が周知・徹底されていない状況であるからこそ、国会において国民が憲法改正の賛否についてきちんと議論できるような環境整備について各政党による真摯な議論がなされるべきである。

<保岡委員に対して>

  • 直接民主制の危険を考えるのであれば、最初に憲法改正国民投票を行うのではなく、まず、幾つかの政治課題についての一般的な国民投票、18歳以上の選挙人による選挙等の経験を踏まえるべきではないか。
  • 政府・自民党は、岩国の例にみるように住民投票については、ネガティブな態度を見せているが、憲法改正国民投票については非常に熱心であり、この態度には矛盾を感じるが、いかがか。

>保岡興治君(自民)

  • 96条の憲法改正国民投票制度は、いわば憲法上義務的な法律であり、制定は国会の責任である。一方で、一般的な国民投票制度は、間接民主制をとる我が国の憲法との調整が必要であり、重要な検討課題だが、それを先行させるべきだとは思わない。
  • 住民投票については、国の安全保障など国策に関わる案件を住民投票にかけるべきかという議論が憲法調査会でもなされてきたが、今後、議論を深めていく必要がある。

滝 実君(国民)

<発言>

  • 憲法改正国民投票制度に関して、海外派遣による詳細な調査等を経ており、そろそろ具体的な制度づくりをなすべきである。その際、国会の議論を国民に示し、国民に議論に参加してもらえるような機会をつくるべきではないか。

<保岡委員に対して>

  • 国民投票運動において、公職選挙法と同様の公務員の地位利用による運動の禁止を規定するのは難しいのではないか。
  • マスコミに対する規制については、フランスにおけるオーディオヴィジュアル高等評議会による勧告のような公正を確保するための制度を設けるべきではないか。
  • 一般的な国民投票制度について、保岡・船田両委員と枝野委員とでは、意見が分かれている。一方的に与党案を基に考えるのではなく、なぜ一般的な国民投票制度の導入が難しいのかをもう少し考え、議論する必要がないか。

>保岡興治君(自民)

  • 公務員の地位利用による運動を禁止したとしても、意見表明は自由である。
  • フランスの国民投票運動規制は、一定の公認された運動主体には制限を課すが、一般の人は原則自由である。また、影響力のある放送メディアについては、一定期間の規制などの配慮をしている。このような制度は非常に参考になる。
  • 一般的な国民投票制度については、昨年、オランダにおいて政府・議会では支持を得た欧州憲法条約が国民投票において圧倒的な差でもって反対されるなど議会と国民との間に大きな乖離が生じる例がある。この例をみれば、一般的な国民投票制度については、間接民主制とどのように調和させるか、よくよく慎重に考えるべきである。