平成18年3月16日(木)(第4回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

委員斉藤鉄夫君及び笠井亮君から基調発言を聴取した後、質疑又は発言を行った。

(基調発言者)

 斉藤 鉄夫君(公明)

 笠井 亮君(共産)

(質疑又は発言を行った者)

 葉梨 康弘君(自民)

 鈴木 克昌君(民主)

 桝屋 敬悟君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)


◎斉藤鉄夫委員の基調発言の概要

1.はじめに

  • 一昨年12月に提示した与党案が我々の基本的立場であるが、それに固執せず、オープンな場で各政党が納得するルール作りをしたい。

2.総論的事項

  • 憲法改正国民投票と国政選挙の同時実施を否定することはできないが、同時実施の規定は不要である。
  • 一般的国民投票の意義は十分に認めるが、今回の国民投票法の議論とは切り離して考えるのが望ましい。

3.投票権者と投票人名簿

  • 党内には、(a)投票権者の年齢は、選挙権年齢と併せて18歳以上とするための検討条項を附則に設けるべきであること、(b)選挙権停止者にも投票権を与えるべきであること、(c)3か月居住要件は削除すべきであること等の意見がある。
  • 投票人名簿については、選挙人名簿と同一とするのが現実的との意見が主流だが、実務上の問題も考慮した検討が必要である。

4.国民投票運動

  • 国民投票運動は原則自由とし、投票の公正確保のための最小限の規制を課すことを大原則とするが、一般公務員・教育者等の国民投票運動の規制については、更なる検討が必要である。
  • 外国人の国民投票運動については、組織的で弊害のある運動のみを禁止するが、その規制は最小限にすべきである。
  • マスコミ等の規制については、基本的に報道側の自主規制に任せるべきである。
  • 投票依頼等の買収罪は、対価性・報酬性の明らかなものについて規定し、ただし、濫用されないよう解釈規定を設けるべきである。
  • 国民投票運動への公費助成については、国会に議席を有する政党に対し、テレビ・新聞の無料枠の提供などを考えるべきである。

5.投票用紙と最低投票率等

  • 投票用紙の様式等については、(a)一般的な枠組みを国民投票法に規定するべきであること、(b)個別条項ごとに賛否を問うことで党内の意見がまとまっている。
  • 過半数の意義については、有効投票総数の過半数であると考えるが、白票の扱いとの関係から、投票用紙への賛否の記載方法と併せて、今後更に検討が必要である。
  • 最低投票率制度については、棄権運動などが予想されることから導入すべきではない。
  • 在外投票制度については、基本的に国政選挙と同様の制度にすべきである。

6.投票期日及び憲法改正案の周知・広報

  • 周知期間は、国民への周知パンフレットの作成を考慮し、60日から180日程度が妥当ではないか。
  • 議席数に応じた賛成派・反対派双方の議員からなる「国民投票委員会」を国会に設置し公平なパンフレットを作成すべきである。

7.国会法の改正等その他の論点

  • 憲法改正案の原案の提案権について、まずは国会議員に限定すべきである。
  • 提案の際の員数要件について、各院の総定数の3分の1等少なくない数が望ましい。
  • 憲法改正案の審議手続については、中央・地方公聴会の開催の義務付け等の規定を置く必要があるが、両院合同の審議については、今後更に検討が必要である。
  • 発議に当たっての「総議員数」は、法定議員数と解する。個別項目ごとの発議を原則とすべきである。

◎笠井亮委員の基調発言の概要

1.「憲法改正国民投票法制に関する論点協議」に反対する理由

  • 国民投票法案は、9条改憲の条件整備を目指すものであり、反対である。自民党の新憲法草案、民主党の憲法提言が公にされている等の現状の下で、何のための国民投票法案であるかが鮮明になっている。
  • 自民党は、公務員や外国人による国民投票運動に対する規制やメディア規制等を主張しているが、国民投票運動をできるだけ抑えつけ、改憲案を通しやすくする意図が感じられる。
  • 国民投票の議論を憲法改正に結び付けるのではなく、公正なルール作りが重要との意見があるが、既に改憲案が公表されており、改憲と国民投票法制定が並行して進められる中で公正なルール作りができるのか疑問である。
  • 国民は、9条を改変して戦争をする国になるということを望んでいない。NHKの世論調査は、国民が、(a)改憲を望んでいないこと、(b)法案が不要であること、(c)法案が必要であるとしても慎重審議を求めていることを示している。「国民投票法制の論点協議」により世論を喚起することは、本末転倒である。

2.国民投票法制が必要であるという意見への反論

  • 国民投票法制の整備は憲法改正を否決する機会を国民に与えるものであるという意見があるが、国民は望まない改憲案を否決することに労を取られるだけであり、有益な議論ではない。
  • 改憲を望んでいない国民の意思の表明は、国会に改憲案の発議をさせないこと、国民投票を行わせないことによっても行うことができる。

3.自民党の新憲法草案と憲法の基本原則

  • 憲法学界においては、憲法の基本的価値を覆すことは認められていない。新憲法草案は、立憲主義や平和、人権の問題でも、現憲法の基本的原理を変えるものである。
  • 憲法は、授権規範であるとともに、制限規範である。新憲法草案は、前文において侵略戦争の反省等の部分を削り、国民の責務を定めるものとなっており、現憲法の性格を全く変えるものとなっている。また、同案は、軍事一辺倒であり、現憲法が定める積極的平和外交の気概を放棄し、平和主義を根底から変質させ、戦争国家体制を目指すものである。
  • 新憲法草案において改正手続の緩和が定められているが、これは2回目以降の改憲発議を容易にすることがねらいである。

4.平和主義の再評価

  • 9条は、国連の関係者等から高く評価されている。いま世界で9条への新たな注目と評価がなされているのは偶然ではなく、その根底には、世界の大きな構造変化があり、9条の理想に世界が近付いている。

5.おわりに

  • 国内においても、「9条の会」の数が全国で4,500を超える勢いであるなど、国民が憲法改正のための国民投票法を望んでいないことを改めて強調したい。

◎主な質疑事項又は発言

葉梨 康弘君(自民)

<笠井委員に対して>

  • 自民党は、憲法の基本原則を高く評価しており、新しい時代における平和国家日本の在り方を真剣に考えている。
  • 各政党が憲法に対する態度を明らかにすることについて、どのように考えるか。

>笠井亮君(共産)

  • 戦後の出発点を踏まえて、各政党が憲法に対する態度を明らかにすることは重要である。

<笠井委員に対して>

  • 国民が誰も9条の改正を望んでいないという認識の根拠は何か。

>笠井亮君(共産)

  • 各種世論調査において、9条が平和に役立ってきたとされている。また、9条を改変することは、日本を戦争する国にすることに他ならず、それを国民が望んでいないことは明白である。

<笠井委員の発言に関連して>

  • 改憲を望む者が6割を占めるという世論調査の結果もある。
  • 国民投票によって憲法改正案をわざわざ否決するのは非効率との意見であったが、民主主義とはもともと非効率なものであり、国民の声を丹念に聴くべきである。
  • 憲法改正手続は、諸外国においてもいろいろな形態があるが、もし憲法の基本原則を変えたくないということであれば、96条を改正して、基本原則について特に厳格な手続を定めるべきということになるのではないか。
  • 憲法改正国民投票の議論は、9条改正を前提としているものではない。
  • 国民にとって関心の低い項目についての改正が必要なこともあるから、最低投票率制度は設けない方が良い。
  • 一般的国民投票制度については、先に憲法改正国民投票制度を整備して後に一般的国民投票制度を付加したオーストリアを参考にすることができる。
  • 国民投票運動の規制について、与党が改憲案を通しやすい手続を定めようとしているとの批判があったが、公職選挙法との調整など技術的な事項を議論しているにすぎない。

鈴木 克昌君(民主)

<笠井委員に対して>

  • 96条が憲法改正を予定しているにもかかわらず、具体的な手続が定められていない。国民主権原理から憲法改正に国民の意思を反映することが保障されなければならない。国民の目線から見て、憲法に予定されている制度を整備することに反対する必要はないと思うが、いかがか。

>笠井亮君(共産)

  • 憲法改正手続がないことによって、国民にとって不都合が生じたり、その整備について国民側から要望があったわけではなく、政党側から憲法改正案と併せて提起されているに過ぎない。

<斉藤委員に対して>

  • 投票権年齢については、18歳以上の者にも社会の構成員として立派に責任を果たしている者が多く、その政治参加を促し、自己責任を自覚してもらうために、18歳以上の者に投票権を認めるべきである。併せて選挙権年齢や成人年齢も18歳とすべきであると考えるが、いかがか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 党としても個人としても、ほぼ同じ意見である。ただ、民法との関係などについて議論の時間が必要なので、今回は附則に努力規定を置くことを考えている。

<発言>

  • 投票方式については、国民の自由な判断を保障するために、設問をできるだけ個別にして、内容的に不可分一体の場合に限り、まとめて国民に問うべきである。この点は、自民・民主・公明3党の各基調発言においても基本的に一致しており、その方向でとりまとめていただきたい。
  • マス・メディアの国民投票運動に対する規制については、必要最低限の規制とすることとして、詳細を今後検討すべきである。

桝屋 敬悟君(公明)

<笠井委員に対して>

  • 憲法改正には国民の6割が賛成しているとの世論調査もあり、国民が憲法改正を望んでいないとの主張は、国民には違和感があると思われる。9条以外の条項の改正の必要性及び世論の動向について、どのように考えるか。

>笠井亮君(共産)

  • 憲法の全条項を擁護すべきと考えるが、国民の間では9条の問題が焦点となっている。

<笠井委員に対して>

  • 国民投票法の未整備は、立法不作為には当たらないとしているが、国民の権利をより保護するため、プライバシー権、環境権等を憲法に加えることを検討すべきではないか。

>笠井亮君(共産)

  • 立法不作為は、国家賠償法上の概念であり、国民に憲法改正の合意がなく国民の憲法改正権が侵害されているとは言えないことから、立法不作為は成り立たない。様々な権利を憲法に書き込むよりも、現行憲法の条項を生かす議論を行っていくべきである。

<斉藤委員に対して>

  • 議員提案の発案権の員数要件でハードルを高くする一方、「過半数」を有効投票総数の過半数とし、最低投票率制度を導入せず、ハードルを低くしている趣旨は何か。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 各院で3分の2以上の賛成が必要であること等から、発案の際に要する賛成者数は少なくない方が良い。他方、憲法の硬性さが各院の3分の2以上の賛成という要件により担保されている限り、その他のハードルは低い方が良い。

<斉藤委員に対して>

  • 岩国市で住民投票が行われたが、住民投票は「劇薬」ともいえる。一般的国民投票については、個人として慎重な立場であるが、これについてどのように考えるか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 一般的国民投票の意義を否定する議論はなかったが、憲法改正国民投票と切り離して議論すべきである。

<斉藤委員に対して>

  • 投票権者の年齢要件について、18歳に向けての検討に期限を付すことは考えられないか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 今後の検討課題である。

笠井 亮君(共産)

<斉藤委員に対して>

  • 国民投票法の整備を、公明党の求める9条等の加憲の実現の道筋として考えているのか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 加憲を実現するためには、憲法改正の手続法を定める必要がある。憲法改正においては9条が主要な論点となる。9条1項・2項を堅持した上で、3項で自衛隊の位置付け、国際貢献を規定するかについて党内で議論している。9条加憲のための国民投票法の整備ということではない。

<斉藤委員に対して>

  • 9条の今日的意義について、どのように考えるか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 9条の平和主義は、高く評価している。

<斉藤委員に対して>

  • 9条に何を加え、それにより何が変わるのか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 9条1項・2項の平和主義、戦力不保持については堅持する。党内には、3項を設けて自衛隊の存在を明確にすべしとの意見がある一方、現行規定で十分であるとの意見もあった。また、集団的自衛権を有しないことや国際貢献を明記すべしとの意見があった。

<斉藤委員に対して>

  • 加憲により、イラクの戦闘地域で自衛隊が米軍と共に行動することができることとなるのか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 現在のイラクでの自衛隊の活動は、武力行使でなく国際貢献である。海外での武力行使が可能となるような規定を置くことはしない。

<斉藤委員に対して>

  • 憲法と日米安保条約との関係をどのように考えているのか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 日米安保条約は憲法とは矛盾しない。

<斉藤委員に対して>

  • 日米安保条約が憲法に矛盾しない根拠はどのようなものか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • (a)9条の平和主義、(b)自衛隊の専守防衛の考え方、(c)日米安保条約が憲法の範囲内での対処を定めていることから、日米安保条約は憲法に矛盾しない。

辻元 清美君(社民)

<斉藤委員に対して>

  • NHKの世論調査によれば、国民投票法について慎重な議論が求められ、また国民の関心が低いが、その理由は何か。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 関心が低いからこそ、委員会や理事懇談会において議論を深め、世論を盛り上げる努力をしたい。

<斉藤委員に対して>

  • 委員会での議論が盛り上がったとしても、国民は冷めた目で見ているのではないか。アジアとの関係など時代状況に対する危機感により、慎重な議論が求められているのではないか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 議論を拙速にすべきとする者はいないが、集中して行うことも大事である。

<斉藤委員に対して>

  • 直近一年の「憲法のひろば」を読んでも、国民投票法に対して慎重な意見が多い。もっと国会の外の意見を聞く必要があるのではないか。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 広く国民の意見を聞く場は必要である。

<斉藤委員に対して>

  • 新聞報道によれば、自民・公明の一部の動きに密室的なものを感じる。密室的な議論はやめるべきだ。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 委員会などにおいて開かれた議論をしっかりと行いたい。

滝 実君(国民)

<笠井委員に対して>

  • あくまでも枠組みの話である国民投票法の議論と憲法改正の議論を混同させると、国民は理解しづらい。国民投票法制の具体案を示さなければ、国民の関心は高まらないのではないか。

>笠井亮君(共産)

  • 9条などの具体的な憲法改正案が先行して公表されている中での国民投票法の議論は、公平中立とはならない。国民が憲法を改正しようと感じたときに初めて国民投票法を考えるべきである。

<笠井委員に対して>

  • 9条を守りたいのであれば国民投票で賛否を問えばよい。9条など国家の基本的な枠組みを国民が判断する機会があってもよいではないか。

>笠井亮君(共産)

  • 国民が9条を変える必要がないと思っているのであるから、国民投票は必要ない。

<斉藤委員に対して>

  • もう少し国民に分かりやすい法案の形で、国民投票法制を示していただきたい。

>斉藤鉄夫君(公明)

  • 与党案が公明党の基本的な立場である。国民投票法というルール作りには各党が一緒に議論することが大切である。理事懇談会において与党案にこだわることなく、各党で合意したい。