平成18年3月23日(木) (第5回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

委員辻元清美君及び滝実君から基調発言を聴取した後、質疑又は発言を行った。

(基調発言者)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)

(質疑又は発言を行った者)

 高市 早苗君(自民)

 古川 元久君(民主)

 斉藤 鉄夫君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)


◎辻元清美委員の基調発言の概要

1.はじめに

  • 社会民主党はそもそも憲法を変える必要はないと考えているので本委員会の設置にも反対した経緯があり、まして、直ちに憲法を変えるための国民投票制度が求められているとも考えていない。
  • NHKの世論調査に表れているように、憲法改正国民投票について国民の認知度は低く、本委員会でも国会と世論とのギャップについてもっと敏感になるべきである。本委員会でも実態を把握するために世論調査等を実施すべきではないか。
  • 憲法という最高法規に関する国民投票制度の構築は、技術的な問題だけを議論するのではなく、国民とそのプロセスを共有するべきであり、主権者不在のまま法制定を急ぐような委員会運営をすべきではない。

2.憲法及び国民投票制度論議における共通認識を構築する重要性

  • まず国民投票制度の技術的な問題に関する議論に入る前に、(1)憲法とは何か、(2)硬性憲法であるという特質、(3)憲法改正の限界について共通認識を構築しなければならない。

(1)憲法とは何か

  • 国民投票制度の構築と憲法とは何かとの議論は無関係ではない。現憲法の立脚する近代立憲主義からすると制限規範としての憲法に反するような改正は許されず、国民投票は主権者自らが国の方向性を決める積極的意義を有することになる。そうであれば、国民投票の投票権者の範囲は広く、運動は自由に、制度構築においては広範囲の国民的議論が必要との結論が導かれることになる。

(2)硬性憲法であるという特質

  • 日本国憲法が硬性憲法である特質とは、単に議決要件が加重されていることだけを意味せず、多数者による少数者への圧制を防ぐ意味が込められていることを重視すべきである。

(3)憲法改正の限界

  • 96条2項の「この憲法と一体を成すものとして」とは、現行憲法が全面改正を予定していないことの証左である。憲法の基本原則の変更は改正の限界に抵触する。憲法改正の限界は、日本だけではなく、歴史上軍部による圧制等の経験を持つ国が共通に有するものである。

3.国民投票制度構築を急ぐ姿勢に対する疑念

  • 自民・公明両党だけでも今国会に国民投票法案を提出することもありうるといった国民投票制度の構築を急ぐ発言の背景には、自分たちの政党が出した新憲法草案の方向で憲法改正を目指す意図が見受けられる。
  • 改正の限界に触れるような憲法改正を志向する勢力によって国民投票制度の構築が急がれていることに、今日の憲法状況の不幸があり、国民投票制度について技術的な問題を議論するような状況にはない。

>中山委員長の発言

  • 辻元委員に申し上げるが、各党が参加した憲法調査会の報告書においても憲法改正国民投票制度を早急に整備すべきであるとの意見が多く述べられたと記載されている。

◎滝実委員の基調発言の概要

1.国民投票制度の必要性

  • 国民投票制度の議論を行うことは、国民の憲法に対する認識を深めることに資する。
  • 自民党の新憲法草案に引きずられて国民投票制度を議論することはよくないとの意見もあるが、草案がよくないならばそれをPRするべきであり、国民投票制度の議論はまさにそれを周知する最もよい機会である。
  • 国民は憲法改正を望んでおらず国民投票制度も必要ないとの意見もあるが、むしろ国民投票制度を設け、国民の判断を仰ぐべきである。

2.国民投票の対象

  • (a)まず憲法を改正すること自体について賛成か反対かということ及び賛成ならばどのような事項について改正するかということを問い、(b)その結果を待って、国会において具体的な改正案を作るという二段階方式も考えられる。
  • 憲法改正は9条のみが問題になるのではない。例えば、現在議論されている道州制の是非は憲法改正の問題として議論する必要があり、そのような観点からも、あらかじめ国民投票制度を設けておく必要がある。
  • 憲法以外の重要な問題についても、民主党案のように国民投票の対象とすることは検討に値する。

3.中山委員長が提示した論点(平成17年10月6日)に対する意見

  • 投票権者の範囲については、(a)基本的には成年者と一致させるべきであることから、20歳以上の者を投票権者とすべきであり、(b)公民権停止者についても公職選挙法と同様に投票権者から除外すべきである。
  • 国民投票の方式については、基本は個別方式とし、具体的な問題についてはその都度検討すべきである。
  • 発議後の周知期間については、公明党の主張する60日から180日とする案に賛成である。また、憲法改正案の周知・広報については、国会に「国民投票委員会」を設け、すべて国会が行うようにすべきである。
  • 国民投票運動は原則自由とし、規制は必要最小限に止めるべきである。その際、直ちに罰則によるのではなく、「国民投票委員会」の下に「国民投票監視委員会」を設け、実効性のある注意・勧告を行うことができるようにすべきである。
  • 投票用紙への記載の方法については、「国民投票委員会」で決めるべきである。
  • 国民投票の「過半数」の意義については、憲法制定以来、投票については常に有効投票によってきたことから、有効投票の過半数とすべきである。
  • 国民投票と国政選挙の同時実施については、これらを同時実施すべきでないが、地方選挙との重複は場合によっては避けられないこともあり、かかる点も考慮すべきである。

4.マスメディアに対する規制

  • 報道は原則自由とすべきであるが、新聞・テレビ等が中立性を保つことは困難である。(a)新聞などの活字メディアについては、自社が賛成・反対のどちらの立場に立つかを明らかにした上で報道すべきであり、(b)テレビなどの放送メディアについては、欧州のように監視委員会を設け、過度に偏った報道があれば是正勧告できるようにすべきである。

5.個別投票の検討事項

  • 公明党は、個別投票を前提に、論点ごとに投票用紙・投票箱も別々にすることを提案したが、検討に値する。ただ、投票が複雑になりすぎるおそれもあり、なお議論すべきである。

◎主な質疑事項又は発言

高市 早苗君(自民)

<辻元委員に対して>

  • 社会民主党は護憲政党として憲法を守ることにより現実との乖離を埋めることを大切に考えていると承知している。しかし、96条は改正の可能性を前提としており、むしろ国民投票法を制定することが、憲法を守ることにつながるのではないか。
  • 社会民主党は外国人の参政権や子どもの人権などに対して熱心に活動してきたが、早急に憲法を改正して、様々な人権を確実に守ることのできる根拠規定を作ることに関してどう考えるか。
  • かつて辻元委員は、投票権者の範囲について義務教育を修了した者でもよいという参考人の意見は傾聴に値すると発言しているが、憲法は最高法規でもあり、数年ごとに実施される国政選挙よりはるかに高度な判断力が投票権者に求められる。国の最高法規を判断する年齢を私法上の行為能力を認める年齢や公職選挙法の選挙権年齢より低くする理由はないと考えるが、いかがか。

>辻元清美君(社民)

  • 60年間憲法が改正されてこなかったことには、世界やアジアにおける日本の立場を保っていくため改正に慎重であったという歴史的背景があり、また、そのことに意義がある。国民投票法を制定することが内外に及ぼす影響にかんがみると、早急にこれを整備する必要はなく、むしろ60年間なぜ整備されなかったのかについての議論を深めるべきである。
  • 環境権や知る権利などの新しい人権は憲法に規定しなくても法律で対応できるので、それぞれの実体的政策を深めていく中で議論を進めていくことが必要である。
  • 高市委員の意見も理解できるが、国民投票に将来を担う世代を参加させることも重要であり、「主権」のとらえ方を含めた検討が必要である。また、実務作業の負担軽減の観点から投票権年齢を20歳にすべきとの意見もあるが、技術的なことに立脚した意見であり、賛成できない。

古川 元久君(民主)

<発言>

  • 憲法改正案と国民投票法案の議論とは切り離して議論されなければならない。また、議論は拙速を避け、委員会の開かれた場で議論することにより国民の認識を深め、幅広い合意形成により成立を目指すべきである。
  • 憲法改正の国民投票は、主権者としての権利の行使として、憲法改正を是とするだけでなく、否とする機会も国民に保障するものである。

<辻元委員に対して>

  • 民主党は、憲法改正のみならず一般的国民投票の整備も同時に議論すべきとする立場にある。間接民主制を補完するものとして欧州各国で実施している一般的・諮問的国民投票法制を我が国においても導入することについてどう考えるか。

>辻元清美君(社民)

  • 一般的・諮問的国民投票制度の導入も憲法改正国民投票制度と併せて議論すべき大きなテーマである。いきなり憲法改正の国民投票を行う前に皇室典範の改正などの重大な事項について国民投票の実施があってもよい。

<両委員に対して>

  • 投票権者の範囲について民主党は18歳以上とすることとしており、公職選挙法の選挙権年齢や成人年齢も議論の中で引き下げていくべきと考えるが、いかがか。

>滝実君(国民)

  • 民法の成人年齢も18歳で、公職選挙法も18歳になることを前提とするならば、国民投票の投票権年齢も18歳でよい。

>辻元清美君(社民)

  • 18歳よりも投票権年齢を引き下げることについて、かつて検討の必要性を述べたことがある。20歳か18歳かと問われるならば、18歳がよい。

斉藤 鉄夫君(公明)

<辻元委員の発言に関連して>

  • 公明党としては、国民投票法は、国会の幅広い合意の下で制定すべきであって、与党のみで法案を提出するというようなことは考えていない。

<辻元委員に対して>

  • 憲法制定以来60年の間に、例えば環境権などの新しい価値観が発生しているが、このような新しい価値観を憲法に取り入れる必要はないと考えるか。

>辻元清美君(社民)

  • 環境権や知る権利を法律に規定することに反対した人たちが、一方でそのような権利を憲法に規定するための憲法改正を主張している。憲法改正さえすれば、そのような政策が実現するような幻想を振りまくようなことはすべきでなく、まずはそのような政策を実現するための法整備等を行わなければならない。

<両委員に対して>

  • 投票用紙での賛否の記載方法、特に白票の扱いについてどのように考えるか。

>滝実君(国民)

  • 個別論点について、賛成に○、反対に×をつけるとすべきである。白票については、有効投票として計算すべきである。

>辻元清美君(社民)

  • 投票所に足を運んだという点に着目し、投票総数をベースに過半数を計算すべきであり、白票は、反対票として計算すべきである。

笠井 亮君(共産)

<中山委員長の発言に関連して>

  • 憲法調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うために設置されたものであって、決定機関ではない。その報告書にも拘束力はないことを指摘しておきたい。

<滝委員に対して>

  • 今日の憲法改定論議及び国民投票法制に関する国会の議論について、国民は率直にどのようにみていると感じているか。

>滝実君(国民)

  • これまで日本国憲法が果たしてきた役割を否定的に評価する国民はいないだろう。
  • ただ、現在及びこれからも、このままでよいのかは疑問である。現実との乖離を放置して解釈で運用していくことは、法治国家としてあるべき姿ではない。

<辻元委員に対して>

  • 96条2項の「この憲法と一体を成すものとして」とは、憲法の基本原則を変更してはならないことを示していると考えるが、いかがか。

>辻元清美君(社民)

  • 同じ考えである。また、前文にいう「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」ということについて議論を深めるべきである。
  • フランス第5共和制憲法が共和政体を憲法改正の対象から外し、ドイツ基本法が一定の基本原則を変更することを禁じていることからわかるように、憲法において改正の限界はつきものである。

<辻元委員に対して>

  • 憲法の重要な基本原則である9条の今日的意義について触れていただきたい。

>辻元清美君(社民)

  • 我が党は、9条は現状のまま守るという立場である。
  • 9条は、単なる平和主義ではなく、日本の人道国家たらんとする宣言であり、9条を武器にして紛争の予防や解決に積極的に関与すべきであって、9条の意味の再定義を行う時期に来ている。

辻元 清美君(社民)

<中山委員長の発言に関連して>

  • 各種世論調査によれば、多くの国民は、憲法改正国民投票制度をよく知らないというのが現状である。この現状を放置してよいのだろうか。

<滝委員に対して>

  • 本委員会は、そのような状況下で議論を行うのではなく、世論調査を実施するなど、国民を巻き込むための行動を起こす必要があるのではないかと考えるが、いかがか。

>滝実君(国民)

  • 憲法改正は、国会の多数で押し切ることのできるような案件ではなく、国民投票法案についても、国民の理解が不十分な状況での成立は好ましくない。国民が本委員会の発信する情報に触れる機会を増加させる工夫が必要であろう。

<発言>

  • 憲法改正は、国民の圧倒的多数の賛意に立脚して行われるべきものであり、そのためには、国民に対する周知の努力が最も求められる。

<滝委員に対して>

  • 国政選挙と国民投票とでは性質が異なるのであるから、公民権停止者にも国民投票の投票権を認めるべきであると考えるが、いかがか。

>滝実君(国民)

  • 辻元委員の考え方は一つの考え方ではあるが、やはり、政治的な場面において悪質な罪を犯した者には、投票権を認めるべきではないと考える。


滝 実君(国民)

<辻元委員の発言に関連して>

  • 何が憲法改正の限界となるかは、一義的に決定できるような問題ではないから、憲法改正国民投票において、それを含めて国民の判断を仰ぐべき問題である。
  • 全面的な憲法改正の場合は、まず、全面改正そのものの是非及び改正の範囲・領域について国民投票を行い、その後、具体的な改正内容について国民投票を行うという「二段階方式」が考えられる。十分議論すべき論点である。