平成18年3月30日(木) (第6回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

委員間で、今国会における日本国憲法改正国民投票制度についての各会派の議論を踏まえての自由討議を行った。


●各会派一巡目の発言の概要

近藤 基彦君(自民)

  • 憲法改正国民投票は各院の3分の2以上の賛成により発議され、結果も拘束的である点で、一般的国民投票とは本質的に異なる。したがって、一般的国民投票は、本委員会の議論から外すべきである。
  • 投票権年齢については、同じ参政権であることから選挙権年齢に合わせるべきである。ただ、国際的潮流の中、選挙権年齢等と併せて、投票権年齢も引き下げるのは問題ない。この点、投票権年齢を本則において20歳以上とし、附則等に引下げの検討規定を置くとの意見は傾聴に値する。
  • 投票用紙への賛否の記載方法と過半数の意義は、密接に関連する。過半数の算定基準については、明確に意思表示をしたものの合計を分母とすべきである。

筒井 信隆君(民主)

  • 96条は、憲法改正国民投票制度と一般的国民投票制度を同時に構築することを許容している。
  • 96条が国民投票と国政選挙の同時実施の可能性を規定していることから、両者の年齢要件を同一とすることを憲法は予定している。投票権年齢を18歳以上に引き下げ、選挙権年齢も同一とすべきである。
  • 96条は憲法の全面改正を予定しておらず、憲法改正には新憲法の制定が含まれないことを確認すべきである。憲法改正国民投票は、一括投票ではなく、個別投票で行うべきである。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 憲法の硬性さは、各院の3分の2以上の発議という要件により担保されており、この要件を当面は憲法改正の対象にしないことを国会で確認することも必要ではないか。
  • 憲法の硬性さを踏まえ、憲法改正のイメージとしては、10年ごとに2ないし3の項目について行うことが望ましいのではないか。また、「憲法調査審査会」のような憲法改正について議論する常設機関を国会に設置する必要があるのではないか。
  • 3分の2の発議要件は維持すべきだが、一院制の導入のような国会による発議を想定しにくい事項については、別の発議方法を考えることを今後の課題とすべきである。
  • 憲法の三原則については、改正の対象とせず、今後も堅持していくべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 自民党の動向などを勘案すれば、憲法改正国民投票法制の整備が9条改憲のための条件づくりであることは明らかである。
  • 国民主権原理を援用して憲法改正国民投票法制を整備する必要性を説く意見があるが、改憲案に対する国民投票だけでなく、国会による改憲の発議や改憲のための法整備の段階において改憲を阻止することも、国民主権の行使である。
  • 国民投票法制の議論を改憲の議論と切り離して行うべきであるとの意見には、賛同できない。改憲を目指し、国民投票法制の整備を急ぐ勢力が、両者を切り離して議論できない状況を作ってきたのである。

辻元 清美君(社民)

  • 憲法は、政権が交代するたびに改めるようなものではなく、主権者の十分な受容なくして改めることもできない。
  • 憲法改正のための手続法は、単なる実務的な手続法という位置付けでは足りず、主権者が十分に受容し、納得しなければ制定することはできない。
  • 社民党は憲法改正が必要でないと考えるが、憲法改正に賛成する者こそ、その手続法を主権者とともに慎重に議論する姿勢が求められる。
  • 憲法改正は、主権者がどのように生きるかという選択を示すものであり、主権者の十分な関与が確保されなければならない。

滝 実君(国民)

  • 憲法改正国民投票制度以外に、重要な法案等の是非を問う一般的国民投票制度の導入も検討すべきである。また、道州制の導入など、場合によっては憲法の基本に関わる問題もあることから、国民投票制度を早急に整備すべきである。
  • オランダでは、一般的国民投票制度の導入に当たって、拘束的なものには賛成が得られず、諮問的なものが導入された。憲法改正の国民投票制度だけでなく、議会制民主主義と両立する一般的・諮問的国民投票制度の導入についても併せて考えるべきである。

●各会派一巡後の発言の概要

早川 忠孝君(自民)

  • 国民投票法の議論は、党派性を前面に押し出すのではなく、公正・中立な立場で行うべきである。
  • 国民投票は、国政選挙等と同じ国政参加の一形態であり、年齢要件は同じにすべきである。将来的には18歳にする余地はあるが、現時点では20歳とすべきである。
  • 憲法制定から約60年が過ぎた現在、憲法改正国民投票法の未整備は、立法不作為のそしりを免れない。速やかに制定すべきである。
  • 従来、内閣法制局が憲法解釈を独占しているかのようであったが、国会に法令の合憲性を審査する常設の委員会を設置すべきである。

高市 早苗君(自民)

  • 憲法改正国民投票における国民の「過半数」の意義について、(a)選挙においても有権者総数ではなく有効投票総数が基準とされていること、(b)必ずしも反対の意思表示とは限らない棄権票を反対票とみなすのは不合理であることから、有効投票総数の過半数とすべきである。
  • 投票の方式について、一定の関連性を有する条項は一括して国民に問うことが現実的である。

柴山 昌彦君(自民)

  • 憲法改正国民投票法は、国民主権の行使を国民に保障するものであり、その制定は喫緊の課題である。
  • 一般的国民投票は、欧州における経験が示すように、諮問的であっても大きな影響力を持つものであり、その導入には慎重な検討が必要である。
  • 賛成は○、反対は白票とすれば、事実上有効投票総数と投票総数がほぼ同じとなると考えられることから、「過半数」の分母は、投票総数とすべきである。
  • 公務員の国民投票運動については、憲法尊重擁護義務との関係から、一定の規制が必要である。
  • マスコミに対する規制については、フランスのオーディオ・ビジュアル高等評議会のように、第三者機関によるチェック体制の導入を検討すべきである。

吉田六左エ門君(自民)

  • 近藤委員の意見に基本的に賛成である。なお、国民投票は憲法改正に限って行い、その実施は、多くの国民が参加しやすいことから、国政選挙と同時に行うべきである。
  • 国民投票法についての意見を速やかに集約すべきである。

中野 正志君(自民)

  • 国民投票法は国民主権を具体化するものであり、護憲政党こそ憲法原理を生かすべきである。
  • (a)憲法改正国民投票と国政選挙の同時実施は適切ではない、(b)投票権年齢は、20歳以上とすべきである、(c)投票の方式は一括方式でよい、(d)国民投票運動は原則自由とすべきである。
  • 国民投票法を速やかに制定し、憲法改正の議論に進むべきである。

平岡 秀夫君(民主)

  • 95条の地方特別法に関する住民投票制度を放置し、96条の国民投票制度についてのみ立法不作為とするのは、意図的なものを感じる。

大村 秀章君(自民)

  • 憲法改正の手続法の未整備に対して制定への努力が足りないと言われても仕方がない。
  • 選挙人名簿とは別に投票人名簿を作成する実務上の負担等を考慮すると、20歳以上の者に投票権を認めることが妥当である。
  • 公務員に対して、地位利用の禁止等ある程度の運動規制は認められるべきである。
  • 戸別訪問の禁止等の公職選挙法の規定を国民投票に適用することには疑問を感じる。また、国民投票運動に対する規制の議論と同時に、同法の規制の緩和を議論すべきである。
  • マスコミ等の報道については、原則として規制せず、自主規制に委ねるべきである。

森本 哲生君(民主)

  • 憲法改正のための手続法の整備に対して、憲法改正の準備行為である、価値中立的でない等の批判は、いずれも要を得ていない。また、世論調査を基に国民は憲法改正を望んでいないので国民投票法の制定には反対であるとの批判も、論理的ではない。
  • 国民投票法は、憲法附属法として整備が予定されている以上、国民に正確な情報を伝えながら整備していくことが望ましい。

古川 元久君(民主)

  • 昨年の総選挙が国民投票的な位置付けで行われたことから、総選挙の在り方を総括し、間接民主制を補完する一般的国民投票制度を検討すべきである。
  • 欧州各国の制度やこれまでの我が国の状況を踏まえると、憲法改正国民投票を一般的国民投票制度の中に含めて規定し、まずは一般的国民投票を行うべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法改正の発議に賛成することは国民投票の実施を求めることであるから、発議に賛成しない者は国民投票を求める立場にない。つまり、9条を守れという国民は、国民投票を求める立場にはない。国民投票法に反対する理由は、9条改憲に反対するからである。
  • 立法不作為は国家賠償法上の概念である。国民投票法が存在しないのは国民が改憲を望んでこなかったからであり、立法不作為とはいえない。

愛知 和男君(自民)

  • 米国の研究機関での講演において、解釈改憲を続けている日本は法治国家と言えるのかという意見や、憲法改正国民投票法の議論が進まないことが不思議であるとの意見が印象に残った。我が国の憲法論議に、先進国から注目が集まっている。法治国家として恥ずかしくないものとしたい。

辻元 清美君(社民)

  • 国民投票法が制定されてこなかったことについては、本委員会での専門家の議論においても、立法不作為に当たらないという意見が多数であった。それは、政治の怠慢ではなく、政治の賢明な選択であった。
  • 硬性憲法の意味を考えなければいけない。憲法のこの条項を変えなければどうしても不都合であるという場合になって初めて改正を行うべきである。

葉梨 康弘君(自民)

<平岡委員の発言に関連して>

  • 95条の地方特別法に関する住民投票制度については地方自治法に規定されており、立法不作為に当たらない。

<発言>

  • 国民投票法は、国民の声を丹念に聞くためのものであり、国会の責任において速やかに制定すべきである。
  • 投票権年齢は、成人年齢の引下げを視野に入れて検討すべきである。
  • 国民投票の周知期間は長いことから、投票権者の3か月居住要件は、発議日から起算して検討すべきである。また、この要件の適用により投票できない者が生じても、それは自己責任である。
  • 投票方式を個別投票とするに当たっては、賛成・反対の他に、棄権を設けるべきである。
  • 国民投票運動の規制については、公職選挙法との調整規定を置くべきである。

伊藤 公介君(自民)

  • 各種世論調査において、憲法を改正すべきとの意見が増えており、手続法整備に関する結論を急ぐべきである。
  • 投票権年齢は、多くの国の立法例を踏まえ、18歳以上とすべきである。
  • 白票や無効票は、過半数を算定する場合の分母に含めるべきではない。
  • 最低投票率要件は、投票ボイコットの危険があるので設けるべきではない。

加藤 勝信君(自民)

  • 憲法改正国民投票制度と一般的国民投票制度はそれぞれ独立したものであり、別問題として対処すべきである。
  • 投票の方式は、国会の発議形式によって決まり、個別に行うか一定の関連する事項ごとにすべきかについては、国会が決定すべきである。
  • 投票権年齢は18歳以上とすべきである。
  • 棄権票は、賛成票・反対票に判断を委ねたものと解釈し、過半数を算定する場合の分母に含めるべきではない。

枝野 幸男君(民主)

<葉梨委員の発言に関連して>

  • 投票権者の3か月居住要件の適用については、本人の意思以外の事情で二度転居することもあり、そのような場合に自己責任として投票できないことは不都合であることから、検討が必要である。

<笠井委員の発言に関連して>

  • 民主党は、国民投票法を憲法改正の準備行為として考えておらず、憲法改正について結論は出していない。国民投票制度については、予め中立的な制度として整備しようとしている。

<発言>

  • 広範な合意形成を図るためには、立場が違うからといって議論への参加を排除するという考え方は採るべきではない。

平岡 秀夫君(民主)

<葉梨委員の発言に関連して>

  • 特別の住民投票法は、現在のように公職選挙法を準用するかたちではなく、国民投票法を参考にし、それを準用するかたちに再構成するのが望ましい。

笠井 亮君(共産)

<愛知委員の発言に関連して>

  • 米国の立場からすれば、9条を守る立場に疑問を投げかけるのは当然である。恥ずべきなのは、侵略戦争の反省もせず、首相が靖国神社へ参拝することである。9条は世界から評価されている。
  • 解釈改憲により、自衛隊を設置し、それをイラクへ派兵するなどの我が国の現状こそが、法治国家の理念から問題である。

<枝野委員の発言に関連して>

  • 憲法改正についての機運が生まれて初めて国民投票法を制定すべきである。現在の議論は、公正中立にするというよりは、いかに憲法改正のハードルを下げるのかに重点が置かれている。

石破 茂君(自民)

  • 憲法改正国民投票法を整備しないと、憲法改正について意思を表示する国民の権利を保障することはできない。憲法は、それ自体が目的なのではなく、国家の繁栄や国民の福利を実現するための手段である。
  • 現行憲法下では、自衛隊の活動が憲法に抵触しないように特に慎重になされざるを得なかったことなどの不都合が生じており、国連中心主義の外交を実現するためには、憲法改正が必要である。
  • 国民投票制度という国民の意思を問う仕組みが必要である。

吉田六左エ門君(自民)

  • 我が国の国際貢献を円滑にし、国益や国民の利益を守るためには憲法改正が必要であり、その必要性は世論調査にも現れている。

愛知 和男君(自民)

  • 先ほど紹介した講演会では、留学生等も参加しており、自衛隊が違憲ではないかとの意見も出るなど、米国の意見そのものが述べられたものではない。ただ、憲法改正自体になぜそこまで反対するのか理解できないという意見や解釈改憲によりかえって自衛隊がどこまで出動するのか分からなくなるという意見が述べられた。