平成18年4月6日(木) (第7回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

1.参考人から意見を聴取することに協議決定した。

2.委員間で、今国会における日本国憲法改正国民投票制度についての各会派の議論を踏まえての自由討議を行った。


●各会派一巡目の発言の概要

安井潤一郎君(自民)

  • 現行憲法の下で日本人の生命・安全が守られてきたことは評価できるが、その一方で拡大解釈により、現状と憲法とが乖離していることは憂慮すべきである。
  • 国民投票法の各論点について、(a)投票権年齢は選挙権年齢と同一にすべきである、(b)過度のマスコミ規制を行うべきではないが、インターネットの扱いには配慮すべきである、(c)投票方式は個別方式とすべきである、(d)投票用紙への記載方法は、賛成・反対のみとすべきである、(e)「過半数」の意味は有効投票総数の過半数とすべきである、(f)最低投票率制度は設けるべきではない。
  • 民意を問うための国民投票法が整備されないことには、主権在民原則から疑問があり、本委員会で法律案として審議する時期に来ている。

岩國 哲人君(民主)

  • 世論調査によれば、約6割の人が憲法改正の必要性を感じており、戦争体験者が意思を表明できる間に、国民投票法を早急に制定して、国民投票を実施すべきである。
  • 現行憲法の文言を変えないとしても、国民に国民投票の機会を与え、自分達で憲法を制定したという意識を持てるようにするべきである。
  • 愛国心を議論するのであれば、憲法を愛する心も論じるべきである。

石井 啓一君(公明)

  • 国際的に見れば、ほとんどの国が18歳以上の者に選挙権を認めていることから、投票権年齢を18歳以上とし、併せて、選挙権年齢や成人年齢等も18歳以上にすべきである。
  • 少子高齢化の進展に伴い、有権者の構成は高齢者が増加し若年者が減少することとなる。そうであるなら、少子高齢化社会を担う若年者の声を政治に反映させることが必要である。
  • 若年者の投票率が低いことを理由として選挙権年齢等の引下げ等に反対する意見があるが、むしろ、選挙権年齢等の引下げが、政治的関心を高めることになるのではないか。
  • 選挙権年齢等の議論は、それぞれの党利党略を離れて行うべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 国民投票法の整備が国民主権の具体化であるという意見があるが、最近の立川市や葛飾区でのビラ配布事件にみられるように、表現の自由等が制限されている実態を放置しておきながら国民主権の具体化と言っても、説得力がない。
  • 護憲を唱えながら国民投票法制定に反対することは矛盾しているという意見がある。しかし、現在の改憲の意見は、国民ではなく政党から出てきたものであって、また、自民党の新憲法草案は、平和原則等の点から時代を逆戻りさせる内容を持つものである。そのような内容を持つ改憲の条件作りである国民投票法案に反対することは憲法擁護の立場から当然である。
  • 国連中心主義ならば、集団的自衛権の行使を認めるために改憲が必要であるとの意見がある。しかし、国連憲章51条に定める集団的自衛権は、紛争の平和的解決を定める同憲章において例外的なものであり、また、集団的自衛権を口実として侵略が行われた実態を踏まえると、改憲により集団的自衛権を認めるべきではなく、平和的手段で国連等の活動に参加すべきである。

辻元 清美君(社民)

  • 海外では、我が国は法治国家ではなく超法規的措置を採ってきたと評価されているとの主張があるが、そのような状況を作ってきたのは歴代の自民党政権である。自らがそのような状況を作り出しておきながら、これを解消するために憲法を改正するというのは、本末転倒である。
  • そのような矛盾した憲法論議が混在している状況においては、健全な議論など望むべくもなく、憲法改正のための国民投票制度を急いで構築する必要はない。慎重な議論こそが求められている。

滝 実君(国民)

  • 過去を清算しない状況のまま国民投票法制を整備することは認められないという意見も理解できるが、解釈のみにより憲法体制を変更していくことを解消しなければならない。
  • 憲法施行後60年が経過し、現在の憲法を維持するかそれとも改正するかについての双方の意見を聞く必要がある。その意味において、国民投票制度を早急に作る必要がある。
  • 国民投票の争訟制度について、一つ一つの不服申立てが、国民投票の結果の大勢に影響を及ぼすことにはならないことから、不服申立てに関する規定を細かく置く必要はないが、どの程度の申立てがあったときに手続に入るのか、判断の手がかりとなる規定程度は設けておいた方がよいのではないか。

●各会派一巡後の発言の概要

渡海紀三朗君(自民)

  • 今すぐに国民投票法を制定する必要はないとの意見は理解できない。憲法の在り方は最終的に国民が決めるものであり、その手段である国民投票法を制定するのは、立法府の責任である。
  • 国民投票法は慎重に議論すべきとの意見は傾聴に値するが、そのための論点整理は既に大詰めの段階にある。早期にその作業を終えて、今国会で成立させるべきである。
  • 最低投票率制度を設けるべきである。ボイコット運動は、賛成派・反対派双方が国民投票運動を行うことで回避できるし、そもそも、ボイコットされるような改正案が発議されることに問題がある。

柴山 昌彦君(自民)

  • 違憲状態である実態こそ、憲法の理想に合わせるべきとの意見があるが、では、憲法を度々改正している他の先進国は、その憲法に理想を定めていないのかと反論したい。また、憲法改正は主権行使の発露でもある。
  • 憲法改正の時期はともかく、改正自体に賛成する世論が多いことは確かである。
  • 投票用紙への記載方法について、白票は反対票とすべきである。投票所において積極的に棄権する自由を奪うとの批判があるが、投票用紙を個別論点ごとに分けたり、複数の投票期日を設けることで解決できる。
  • 投票の効力に対する無効訴訟については、執行停止制度を設ける必要はないが、無効判決の将来効(当該判決の効力が過去に遡及しない。)を含め、十分に議論すべきである。

愛知 和男君(自民)

  • 絶対に憲法を変えずに、解釈で対応すればよいという意見は、世界あるいは世の中の変化に対応していくことが政治であるという政治家としての自覚を欠いているのではないか。
  • 憲法を変えたくないという一部の意見が必ずしも国民全体の意見ではない。最近の世論調査においても6割の人が憲法改正を望んでいる。

高市 早苗君(自民)

  • 国民投票法が存在しないことは、国民自らの主体的判断をする権利を奪うものであって、国民主権の理念に反するものである。
  • 調査会の議論において、現在の憲法が米国に押し付けられたとの議論が必ずしも多数の意見ではなかったが、国民が自ら憲法を作っていくことは当然の権利である。
  • 現実に合わなくなった憲法に縛られ、解釈によってのみ対応しようとすれば法の安定性を損なうことになる。
  • 9条にこだわりすぎることによって、憲法上の細かい文言修正についての国民の憲法を改正する権利まで奪うことは望ましくない。

平岡 秀夫君(民主)

  • 95条に定める地方自治特別法に係る住民投票は、昭和26年に用いられたのを最後に全く発動されておらず、この制度が空洞化している懸念があり、本委員会において調査を行うべきである。
  • 地方自治特別法に係る住民投票制度は、直接民主主義的性格を有し、憲法改正国民投票と類似の制度である。したがって、両制度は、投票権年齢や運動規制、過半数の意義等、整合性をとって定める必要がある。憲法改正国民投票の議論と併せて、この住民投票制度の見直しも行うべきである。

岩國 哲人君(民主)

<辻元委員の発言に関連して>

  • 「法治国家」に関する議論があったが、日本は、憲法に反対するのか賛成するのかという国民主権にとって最も大事な問題を60年間放置してきた「放置国家」である。

<発言>

  • 現行憲法には、国民が賛成も反対も意思を表明する機会が与えられていない。誇りを持てる憲法を国民自らが制定する必要があり、そのための国民投票法を早急に制定すべきである。

石破 茂君(自民)

  • 世論調査の結果が必ずしも正確とは考えないが、読売新聞の世論調査によると憲法改正手続の整備に賛成している者が多数を占めている。各党も、きちんと世論調査を実施すべきではないか。
  • 憲法と現実との乖離を憲法を改正することにより解消すべきである。

<岩國委員の発言に関連して>

  • 戦争体験者が意思を表明できる間に、一刻も早く、政治家がリーダーシップをとって、国民に対して憲法を改正するための問題点を提示すべきである。

<笠井委員の発言に関連して>

  • 96条が規定する憲法改正の国民投票を制定しなくてもよいとの考えは、国民主権とどのように両立するものなのかご教示願いたい。
  • 笠井委員の集団的自衛権を口実として侵略が行われた実態を踏まえると改憲により集団的自衛権を認めるべきではないとの意見には、反対である。

園田 康博君(民主)

  • 投票権年齢について、国民主権の原理から国民自身が幅広く意見を言う機会を持つべきとの観点から、公職選挙法などの他の法制度との整合性を考慮しつつ、政治的判断で20歳からの引下げを検討すべきである。
  • メディア規制のうち、スポットCMについては、一度、規制なしで実施してみてはどうか。

葉梨 康弘君(自民)

  • 我が国の法体系では年齢に関する規定が各法律によりそれぞれ異なっており、投票権年齢を18歳に引き下げるという主張にしても、実はその「18」に根拠はない。実務上はとりあえず20歳からとしても、各法律における年齢の整合性について国会の責任で検討すべきである。
  • 投票人名簿調製に係る「3箇月要件」については、憲法改正案の発議から投票日までは一定の期間があるので、3か月以内に二度転居する場合も最初の住所地で投票できるような制度を工夫すべきである。

早川 忠孝君(自民)

  • 真に国民が自らの憲法を獲得するためには、公職選挙法の規定を準用するのでなく、意見表明の自由及び政治活動の自由を尊重した上で、国民投票法において規定を設けるべきである。
  • マスコミに対する規制については、電波法、放送法等の一般的な規定及び虚偽報道の禁止のみあれば足りる。
  • 教育者及び公務員の地位利用による国民投票運動についても、個別の法律で考えるべきであり、憲法改正国民投票法に規定する必要はない。
  • 憲法の改正手続のためには、憲法改正案の発議のための法律及び国民投票手続のための法律の2種類の法律を定める必要がある。

辻元 清美君(社民)

  • 憲法改正案の発議には、両議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要であり、過半数を占めた多数による専制を防ぐための規定と解すべきである。
  • 「現実に合わせるための憲法改正」、「政権側がその原因となった政策を策定した」といった議論はあまり健全ではない。お互いのビジョンに基づきどのような憲法の規定が必要か考える必要がある。
  • 自民党新憲法草案の9条の2において自衛軍に係る細かな事項は法律によって定めるとされており、現時点において詳細がわからない。9条が改正され、さらに法律次第という二重の意味で歯止めが外れるおそれがある。

棚橋 泰文君(自民)

  • 憲法改正は慎重に考えるべきものであるが、憲法改正国民投票制度は、憲法自体に定める改正手続に基づくものであり、「今改正する必要がない」及び「改正をもくろんでいるから」といった議論は説得力を持たない。

中野 正志君(自民)

  • 平成18年4月4日付の読売新聞の世論調査では、憲法改正の手続法の整備について、賛成が69%、反対が7%であった。このような世論調査の結果等を踏まえ、国民投票法制について成果を出すべき時期に来ていると言える。

林 潤君(自民)

  • 国民投票法案は、長期間の議論を踏まえ収れんの時期に来ていると言えるが、あくまで憲法改正の手続法であり、憲法改正の中身の議論とは区別して論じるべきである。
  • 国民投票の投票権者の範囲は、憲法の最高法規性にかんがみ、国政選挙の選挙権者と一致させるべきである。投票権者を18歳以上の者とすることについては、公職選挙法における年齢引下げの議論とセットにして考えるべきであり、その際、学齢を基準とすることも検討すべきである。
  • 国民投票は、特定の個人を選出する国政選挙よりも公共性が高いため、その運動は、原則自由とすべきである。
  • 国民の信託に応えるためにも会派を超えて論点をまとめ、憲法改正の手続法を整備すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 96条の定める憲法改定手続は、現行の憲法について国民の賛否を問う制度ではない。
  • 憲法施行後60年間を経ても国民投票制度が整備されてこなかったのは、国会の怠慢ではなく、憲法を守る立場を多くの人が支持してきたからである。国民投票制度を整備することが9条改憲につながるとして、自治庁案が取り下げられた歴史的経過を踏まえるべきである。
  • 国民主権原理の具体化にとって、今、必要なのは、国民投票制度の整備ではなく、既存の法体系の中で国民の主権行使を制限しているものを見直すことである。

<柴山委員の発言に関連して>

  • 諸外国は、それぞれの歴史的経験を背景に国民の選択として改憲を行っているのであり、安易に真似ることを考えるべきではない。

<石破委員の発言に関連して>

  • 世論調査は、調査方法等によって大きく結果が異なるため、慎重に見るべきである。

越智 隆雄君(自民)

  • 憲法は国民自らが定めるものであり、文言を変えないとしても、一度、国民投票に付すことがその正当性のために必要である。
  • 国民投票法は手続法であり、改正内容とは別に、中立的に制度設計をしっかりやることが必要である。
  • 投票の方式を個別方式にするか一括方式にするかについては、投票の方式が改正内容を縛るようなことにならないよう一括方式の余地も残さなければならない。
  • 投票の方式をどちらにするかは、国会の発議に委ねるべきである。
  • 一括方式が必要な論拠として、国会の発議の際に国民の世論は集約されるはずであること、国民投票制度が将来にわたって使われていくことにかんがみると、さまざまな改正内容に対応できるようにしておくべきであること等が挙げられる。

逢坂 誠二君(民主)

  • 憲法改正の内容とは別に、中立的に国民投票の手続法を制定すべきである。
  • 議論が進めば進むほど憲法改正が既定路線となるような風潮は問題である。一方で、全く関心を持たない人が相当数いることも問題であり、どのように関心を喚起するか考えなければならない。これなくして国民投票法を制定しても、国民投票の結果の正当性が担保されない。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 投票用紙への賛否の記載方法について、反対の場合のみ×を記入するという意見が党内の議論で出されたので、紹介しておきたい。
  • 先週、辻元委員が憲法の硬性にかんがみ、ぎりぎりのところまで改正すべきでないという趣旨の発言をされたが、憲法の硬性とぎりぎりまで改正すべきでないということは別の次元の問題ではないか。法体系の整合性を保ちつつ、国民の意思として憲法改正を行うことは重要である。