平成18年4月13日(木) (第8回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件(日本国憲法改正国民投票制度とメディアとの関係)

上記の件について、参考人石村英二郎君及び堀鐵藏君から意見を聴取した後、質疑を行った。

(参考人)

日本放送協会理事             石村英二郎君

社団法人日本民間放送連盟理事・報道委員長 堀 鐵藏君

(石村英二郎参考人及び堀鐵藏参考人に対する質疑者)

 早川 忠孝君(自民)

 小川 淳也君(民主)

 太田 昭宏君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)


◎石村英二郎参考人の意見陳述の概要

1.はじめに

  • 憲法改正国民投票制度を論じるに当たっては、国民の多様な意見が幅広く反映される必要がある。NHKは公共放送として、公平・公正に情報提供を行い、民主主義の発展に寄与したい。

2.放送法とNHKの取組

  • 放送法3条の2に規定する四つの基本原則(公安と善良な風俗を害しないこと、政治的な公平性、報道の真実性、多角的な論点の明示)を遵守している。その上で、政治上の諸問題については公正に取扱い、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにし、公平に扱う方針である。

3.NHKの選挙報道

  • 選挙報道は、正確な取材と公正な判断によって自主的に行っている。選挙当日は選挙情勢を迅速かつ的確に放送しており、今後も努力していきたい。

4.放送メディアに対する規制

  • 憲法改正国民投票における報道は、原則自由とすべきである。放送法とは別に国民投票法に規制を設けることは、表現の自由・報道の自由から問題であり、自律に委ねるべきである。
  • 自主規制については、憲法改正のような広く国民的な議論が欠かせない問題についてなじむのか疑問がある。
  • 虚偽報道等を監視するための第三者機関の設置は、その権限、構成、審査手続等が不明確であり、また表現の自由・報道の自由との兼ね合いからも慎重に検討すべきである。
  • メディア規制については、憲法改正国民投票法に新たに訓示規定を設ける必要はなく、放送法における「報道は事実をまげないですること」との規定で十分である。

5.公職選挙法との関係

  • 人や政党を選ぶ選挙制度を規定した公職選挙法の規制が、政策を選択する憲法改正国民投票法になじむのか十分議論すべきである。特に、視聴者の信頼を失いかねない虚偽報道は現実には想定できず、あえてその規制を国民投票法に規定する必要はない。

6.まとめ

  • NHKは自主的な判断の下、公平・公正な情報提供に日々努めており、自由な報道を通じて、国民の間での活発な議論や意見交換が行える環境を整えたい。

◎堀鐵藏参考人の意見陳述の概要

1.憲法を改正するということ

  • 我が国で初めて行われる憲法改正国民投票の手続法は、国民主権の原点に立ち、基本的人権を保障するものでなければならない。
  • 憲法改正案の発議から投票まで、国民の意見が正確に反映されることが重要である。
  • マスコミの評論・報道に対してする規制は行われるべきではなく、罰則などにより表現の自由等を萎縮させることは民主主義、立憲主義に逆行するものである。
  • 憲法改正に当たっては、十分な討議が行われ、国民の間で熟慮されることが重要である。そのための国民投票は、主権者が権利を行使し、民意を正確に反映できる内容であることが望ましい。しかし、民意は固定的なものではないことから、ある時点の世論調査を大多数の国民の意見であると認識すべきではない。

2.放送メディアの役割

  • 熟慮・討議の前提となるものは、精神の自由・表現の自由である。
  • マスコミは、多元的な意見や考える材料を提供する役割を担っている。また、国民が議論するフォーラムとなり、国民の間における議論を誘発する機能も担っている。

3.放送の自律について

  • 放送法に基づく放送の自律とは、放送局が自らを律することだけではなく、コミュニケーションの場の自律である。また、放送局の自律性は、表現の自由市場を支える自律性であり、モニター制度や世論調査など視聴者の意見等を反映させる仕組みなど、視聴者を含めたかたちで成り立つものである。
  • 放送界は、局内の放送番組審議会の設置、局外における放送倫理・番組向上機構(BPO)の設置など、様々な方法で視聴者の意向を把握し改善を行っている。

4.憲法改正国民投票法案について

  • 人々が熟慮し、議論することを妨げるような規定を、憲法改正国民投票法に規定すべきではない。
  • 憲法改正国民投票という非常に重要な場面において、虚偽の事項を放送するようなことは全く想定されない。
  • 投票の性格や概念が異なるので、公職選挙法とは別の枠組が考えられるべきである。その点からもマスコミに対する罰則・規制は不要である。

石村英二郎参考人及び堀鐵藏参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

早川 忠孝君(自民)

<両参考人に対して>

  • 放送法3条の2を踏まえ、実際に放送するに当たり、政治的中立性についてどのように考えているのか。

<堀参考人に対して>

  • 放送の中立性を担保する観点から、憲法改正についての報道の自主規制には、どのようなものが考えられるのか。

<両参考人に対して>

  • フランスにおいては、オーディオ・ヴィジュアル高等評議会(CSA)が設置され、国民投票における公平な放送を担保するために、偏った放送に対して勧告等を行っているが、このような強力な権限を持つ第三者機関の設置についてどのように考えるか。
  • 憲法改正の議論に対する報道においては、(a)国会審議中の段階、(b)国会の発議から投票までに至る期間、(c)投票当日の3段階があるが、各段階における報道の在り方につき相違点はあるのか。また各段階において、どのような報道が予想されるか。
  • 憲法改正国民投票において、放送局として放送の中立性を担保することは可能か。また、放送の中立性を担保するための内部的な取組としては、どのようなものが考えられるか。
  • 論点が多岐にわたる問題について、明確な論点のみが繰り返し報道され、重要なその他の論点が国民に十分に提示されない事態を危惧するが、いかがか。
  • 政治番組の外部発注の状況はどうなっているのか。また放送局としては、外注された政治番組の公平性をどのように担保しているのか。

<堀参考人に対して>

  • 特集番組等の制作に関与したすべての関係者を開示し、番組について責任を負う体制が必要と考えるが、このような体制についてどのように考えるか。
  • スポットCMの制作過程について説明して欲しい。また、各放送局において政治的なスポットCMに対し、どのようなチェック体制を有しているのか。
  • 投票直前のスポットCMの効果について、どのように考えるか。また、国民投票前一定期間のスポットCMを禁止している国があるが、どう思うか。

小川 淳也君(民主)

<両参考人に対して>

  • 放送局内において、放送の公正・中立を実現するために具体的にどのような取組を行っているのか。

<堀参考人に対して>

  • 平成17年の総選挙において、過熱した報道が見られたが、なぜこうしたことが生じたのか。

<両参考人に対して>

  • 過熱報道が生じる背景として、視聴率競争という問題がある。視聴率の位置付け、視聴率が番組制作に及ぼす影響はどのようなものか。
  • 憲法改正国民投票に関する報道と国政選挙に関する報道の共通点及び相違点として、どのようなものを想定するか。
  • これまでも各地域で住民投票が実施されているが、当該地域の放送局は、その報道に当たってどのような工夫をしたのか。

太田 昭宏君(公明)

<両参考人に対して>

  • 報道機関が抱く虚偽報道のイメージとはどのようなものか。
  • 報道機関の自主規制の仕組みとして、どのようなものが考えられるか。
  • 憲法改正国民投票に係る報道問題に対応するため、第三者機関の設置等を促す努力義務等を規定することについてどう考えるか。
  • スイス、フランスでは放送メディアにのみ規制を設けている。これは、活字メディアと比して放送メディアの影響力が大きいため、また、活字メディアと違い思想傾向が明らかでないためと考えられるが、このようなメディアの取扱いの区別についてどのように考えるか。
  • 公職選挙法において人気投票は禁止されているが、憲法改正国民投票における模擬投票については、どのように考えるか。

<堀参考人に対して>

  • 広報の主体として憲法改正案広報協議会を国会に作ることになった場合に、メディアがこの協議会と協力して、国民世論喚起のためのさまざまな広報活動を行うことについて、意見を伺いたい。

笠井 亮君(共産)

<両参考人に対して>

  • 放送の公共性についてどのように考えるのか。
  • 戦前の侵略戦争の反省から、メディアは権力からの自立を旨としているが、そうした反省は、具体的にどのように生かされているのか。
  • 番組の中で、戦争と平和の問題をどのように取り上げ、平和な社会をどのように作っていこうとしているのか。
  • これまで虚偽報道とされた事例はあるのか。また、そのような事例が存在した場合、どのように対応したのか。
  • NHKと民放連が定める放送倫理基本綱領では、報道の公正さについて自主的な取組が定められているが、憲法改正国民投票法において、虚偽報道による国民投票の公正を害することのないよう、あえて自主的な取組について定めることをどのように考えるか。
  • 今日のメディアに関する立法による規制強化の動きについて、どのように考えるか。

辻元 清美君(社民)

<両参考人に対して>

  • 憲法改正国民投票法制において、放送法以上の規制を設ける必要があるか否かを確認したい。
  • メディアの中立性は、具体的にどのように担保されているのか。

<堀参考人に対して>

  • どの番組でも同じ内容を放送する傾向が見られるが、全体としてのバランスを欠くのではないか。放送局としてどのような基準でニュースを選択しているのか。

<両参考人に対して>

  • 報道機関の権力をチェックする役割と報道の中立性との関係を、どのように考えているか。

<石村参考人に対して>

  • 選挙は人を選ぶものであるのに対して、憲法改正国民投票は政策を選ぶものであるとの発言があったが、最高法規である憲法は単なる政策とはいえないのではないか。

<両参考人に対して>

  • 憲法改正国民投票における報道においては、国会の議席配分にとらわれることなく、平等な取扱いがなされるべきではないか。
  • 憲法改正には国民の熟慮と十分な討議の場が必要であり、憲法改正国民投票法の制定についても同様である。同法をめぐる議論は今始まったばかりと考えるが、いかがか。

滝 実君(国民)

<両参考人に対して>

  • 報道の公平・中立性を社内的にはどのようにチェックしているのか。また、社外的にはどうか。
  • 憲法改正案について国会がパンフレット等の資料を作ることとした場合、それを基礎として報道することになると思うが、報道機関は、論点等を深く掘り下げるためにどのようにすべきと考えているのか。
  • 政治討論番組では、番組に出演する政治家等によってかなりの部分のイメージが決まってしまうが、出演者の選定基準をどう考えているのか。
  • 現在検討されている規制が行われると、討論番組において大学の教員の発言が制約されるおそれがあるが、このことについて放送の立場からどのように考えるか。