平成18年5月18日(木) (第11回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件(憲法改正国民投票法制の要否)

上記の件について、参考人小林節君及び伊藤真君から意見を聴取した後、質疑を行った。

(参考人)

 慶應義塾大学法学部教授

 弁護士          小林 節君

 伊藤塾塾長

 法学館憲法研究所所長   伊藤 真君

(参考人に対する質疑者)

 高市 早苗君(自民)

 園田 康博君(民主)

 石井 啓一君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)


◎小林節参考人の意見陳述の概要

1.憲法改正国民投票法制の要否

  • 96条がある以上、国民投票法はあって当然の法律だが、憲法改正が具体化するなどの利害関係がないうちに公平な制度を作るべきであった。しかし、国民投票法は、手続法であるから、憲法改正の中身の議論にあまり振り回されるべきではない。

2.国民投票法制の論点

  • 当初、国民投票法制について、勝者が自分に都合のよいルールを作るのではないかと不安を感じていたが、中山太郎委員長の下、この1〜2年間の議論を通じて、あるべき公正な国民投票法の姿が見えてきた。残る争点についても、決して深刻なものではない。

3.国民投票法制と憲法改正との関係

  • 手続(国民投票法)から入ることができなければ、実体(憲法改正)から入ればよいだけのことではないか。国民投票法の制定のみにこだわり、そこで留まっていることは、野党に抵抗する材料を与えているに過ぎない。
  • 既に、あるべき国民投票法の姿は見えているので、今、国民投票法の制定ができないのであれば、何よりも大切な憲法改正の中身の議論を先に深めるべきである。

4.今、重要なこと

  • 憲法改正の中身の議論が一番重要であるにもかかわらず、その議論が深まっていない。例えば、9条に関し、自衛戦争を認めるのか否か、自衛の範囲はどうするのかといった重要な問題について議論すべきである。
  • また、憲法学者として、国会において「憲法」観を転換するような主張がみられることを憂慮している。「憲法」観について、国会で議論を深め、広く、主権者・国民に問題を提起することが必要であろう。

5.一般的・諮問的国民投票制度について

  • 日本国憲法は、間接民主制を前提としており、例外的に、最高裁判所裁判官の国民審査や憲法改正国民投票において直接民主制の要素を取り入れているに過ぎない。一般的・諮問的国民投票は、96条とは関係なく、憲法の基本原理とも矛盾しているのであり、この問題のために憲法改正国民投票法の制定が遅れるようであるならば、避けて通るべきである。

◎伊藤真参考人の意見陳述の概要

1.国民投票法の位置づけ

  • 刑事手続のように手続がすべてを決めることが往々にしてあり、国民投票法はたかが手続法ではないと認識している。たとえ「改正の限界」内の改正でも、多数決の結果が本当に正しいのかという判断は難しく、手続の正当性が重要となる。
  • 多数意思の反映をもって国民主権が具体化されたとしてよいか考慮する必要がある。法律による人権侵害は司法による救済が可能であるが、憲法改正の場合、事実上、救済は不可能である。このため、国民投票法については、少数派への配慮及び十分な議論が必要である。

2.必要性と許容性

  • 国民投票法の必要性は、憲法改正の必要性と重なる。今まで未整備であったのは、その必要性がなかったからに過ぎない。
  • 日本国憲法は、96条等で例外的に直接民主制を採用しているが、代表民主制を基本としている。つまり、国民主権の発動は最終手段であり、国民が余程の必要性を感じた段階で初めて発動されるべきものである。
  • 国民投票法は日本国憲法制定時に中立的に整備されるべきものであった。しかし、特定の政党による具体的な改憲案が出るなど、中立的な国民投票法制に対してイメージがわかない現状においては、むしろ、国民投票法制を考える上で、憲法改正自体について正面から議論すべきである。
  • 国民と国会の意思が合致しない場合には、国会に信託を与える国民からの抵抗の一つの在り方として、発議させない、国民投票法を制定させないといった運動もあり得る。
  • 世論調査において、国民の憲法への理解は不十分であり、国民投票法についても認知度が低いという結果が出ており、国民の憲法に対する理解を高めなければならないが、これは、憲法をどうするかという問題とかかわる。
  • 「憲法とは何か」という立憲的意味の憲法の本質について、国会内で合意が形成されないまま、国民投票法制の整備を行うのは順序が違う。

◎小林節参考人及び伊藤真参考人に対する質疑者及び主な質疑事項

高市 早苗君(自民)

<伊藤参考人に対して>

  • 各種世論調査においては、憲法改正を望んでいる国民の割合が高くなっており、国会が憲法改正案を国民に提示する前に、国民投票法制を制定することが必要であると考えるが、いかがか。
  • 憲法改正の必要性についてどのように考えるか。

<小林参考人に対して>

  • 大学の教授として、自民党の新憲法草案に点数をつけるとしたら何点か。

<両参考人に対して>

  • 国民投票法案の対象範囲について、憲法改正国民投票に限定すべきか、国政に関する重要問題に関する国民投票まで対象とすべきか。
  • 投票権者の年齢要件について、20歳以上とすべきか、18歳以上とすべきか。

<小林参考人に対して>

  • 成年年齢や有権者年齢と投票権者年齢は同じくすべきか。又は、当面は有権者年齢と同様に20歳以上とし、将来的に18歳以上とするのがよいか。

<両参考人に対して>

  • 在監者や選挙違反による選挙権停止中の者の投票権について、どのように考えるか。
  • 特定公務員の国民投票運動の禁止の是非について、「特定公務員」の範囲をどのように考えるか。
  • 公務員・教育者等の地位利用による国民投票運動の禁止について、どのように考えるか。

<小林参考人に対して>

  • 国民投票における「過半数」の意義についてどのように考えるか。
  • 最低投票率制度の導入について、どのように考えるか。

園田 康博君(民主)

<両参考人に対して>

  • 憲法調査会5年間の議論と本特別委員会におけるこれまでの議論を振り返り、どのように感じ、どのように評価するか。
  • 今後の本特別委員会の在り方についてどのように考えるか。また、どのように国民の議論を深め、認識を高めていくことが国会に望まれるか。

<小林参考人に対して>

  • 小林参考人がくみしないという、いわゆる「復古調の改憲論」とはどのようなものか。また、憲法に国民の義務や愛国心を規定するなどの「乱暴な憲法観」についてどのように考えるか。

<伊藤参考人に対して>

  • 実質的な憲法論が深まらなかった理由の一つとして、いわゆる「護憲派」が存在し、論争を避けてきたために議論がかみ合わなかったことも指摘されるが、どのように考えるか。

<両参考人に対して>

  • 解釈改憲が無制限に行われるような現状において、権力を縛り、法の支配を確立するための憲法改正という考えもあり得るが、憲法の「権力に縛りをかける」という面をどのように考えるか。

<小林参考人に対して>

  • 公務員・教育者等の地位利用による国民投票運動の禁止について、「地位利用威迫罪」を設け、「地位の利用」だけでなく「威迫」したときに犯罪が成立することとして、可罰的な行為類型をさらに限定することについてどのように考えるか。

石井 啓一君(公明)

<両参考人に対して>

  • 憲法改正の中身の議論と手続である国民投票法制の整備を直接結び付けるべきではないと考えるが、いかがか。
  • 国民投票法制を速やかに整備すべきと考えるが、いかがか。

<伊藤参考人に対して>

  • 国民投票における「過半数」の意義についてどのように考えるか。
  • 伊藤参考人は、国民投票における「過半数」を有権者総数の過半数とすべきと述べているが、それでは多様な意見を一律に反対とみなすことになってしまうと考えるが、いかがか。

<両参考人に対して>

  • 憲法改正に対する公明党のスタンスである「加憲」をどう評価するか。

笠井 亮君(共産)

<両参考人に対して>

  • 戦闘状態にあると言われているイラクへの自衛隊派兵など、昨今の憲法の運用状況について、どのように考えるか。
  • 憲法により国家権力を制限することは、歴史的にも人類が到達した統治形態と考えるが、このような歴史的背景と憲法観を堅持することの意義について、どのように考えるか。
  • 5月3日の朝日新聞の世論調査によると、現時点において国民投票法制を整備することに対し、国民の意見は、必ずしも賛成が多数とは言えないが、国民投票法制を整備する前提条件がクリアーされたと考えるか。

辻元 清美君(社民)

<伊藤参考人に対して>

  • 政権が交代しても変えることのできない事項を定めたものが憲法であり、そこに硬性憲法の意義があるとするならば、その硬性憲法の意義を踏まえて国民投票法にも臨まなければならないと考えるが、硬性憲法において、憲法改正のための国民投票はどうあるべきと考えるか。

<小林参考人に対して>

  • 現在まで国民投票法制が整備されていないことについて、「立法不作為」という言葉が安易に使われている傾向があると思うが、いかがか。

<両参考人に対して>

  • 96条に「この憲法と一体を成すものとして」とあり、これは憲法改正に限界があることを示していると解釈できるが、改正の限界についてどのように考えるか。
  • 自民党新憲法草案が「憲法」観を変質させるような内容を含んでいる点について、改正の限界と立憲主義の意義という観点からどのように評価するか。

滝 実君(国民)

<両参考人に対して>

  • 国家権力による憲法の濫用をいかに防ぐかという問題があるが、例えば、9条の文言を変えて条文を分かりやすくすれば、濫用を防げると考えるか。

<伊藤参考人に対して>

  • 国民投票法の制定に反対することも憲法改正に反対する国民の抵抗権の一つであると伊藤参考人は述べているが、そのような護憲運動や抵抗を続けているのでは、逆に憲法の濫用を防止できないのではないかとも思われるが、いかがか。

<両参考人に対して>

  • 今のような政治状況では、憲法の濫用を防止することはなかなか難しい。憲法の運用を改善することについて、具体的にどのような方法があり得るか。
  • 権力の濫用を抑制するという観点からも、重要法案について一般的・諮問的国民投票の制度を設けるべきであると考えるが、いかがか。