平成18年6月1日(木) (第12回)

◎会議に付した案件

1 日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件(憲法改正国民投票法制と広告との関係)

上記の件について、参考人天野祐吉君及び山田良明君から意見を聴取した後、質疑を行った。

2 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外4名提出、衆法第30号)
  日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、衆法第31号)

上記両案について、提出者船田元君(自民)及び提出者鈴木克昌君(民主)からそれぞれ提案理由の説明を聴取した。


(参考人)

 コラムニスト                 天野 祐吉君

 社団法人日本民間放送連盟

 放送基準審議会委員・放送倫理小委員長     山田 良明君

(参考人に対する質疑者)

 葉梨 康弘君(自民)

 鈴木 克昌君(民主)

 桝屋 敬悟君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)


天野祐吉参考人の意見陳述の概要

1.メディア規制

  • 与党案・民主党案においてメディア規制が設けられなかったことを評価する。

2.テレビの意見広告

  • 広告に対しても規制なしが原則であるが、新聞広告とテレビの意見広告は、その歴史等の点から別に考えるべきである。意見広告と放送媒体との関係は、成熟していない。
  • テレビの意見広告については、例えば、ある憲法改正案に対して態度未定の者を動かすことによって、全体の帰趨を左右することがあり得る。このように、テレビは、国民に対する利器にも凶器にもなり得る。

3.テレビの意見広告に関する公正なルール

  • 憲法改正に当たっては、意見広告と放送媒体との関係が未成熟であるとして、テレビの意見広告を全面的に禁止するということも一つの選択である。しかし、混乱を避けるために全面禁止することもいかがかと思われるので、何らかの歯止めが必要である。
  • 放送事業者が、資金力により国民の意見を左右し得る事態を生じさせないための公正なルールを作れるよう、国会が後押しすべきではないか。

山田良明参考人の意見陳述の概要

1.憲法改正と放送メディアの使命

  • 国民投票におけるマスコミの評論・報道を規制すべきではない。憲法改正についての意見広告であっても、知る権利に奉仕するものとして同様である。

2.民放における広告考査業務

  • 日常の広告に対しては、放送倫理基本綱領等に従い、各社で法令や自主規制基準に反していないかを考査している。憲法改正についての意見広告に対しても、視聴者のためになる情報か否かの観点から、考査の在り方を考えていく。

3.国民投票運動のための広告放送

  • 投票日前広告制限が、放送のみに定められていることに違和感がある。政党の意見広告については、投票日当日の放送を自粛しているという実績を踏まえ、法律によって禁止するのではなく、自主的な判断に任せてもらいたい。

4.政党等による放送

  • 憲法改正案に関する意見放送の時間を、政党の議席数を踏まえて配分することには、放送法が定める政治的公平性の確保の観点から違和感がある。国会の発議後も国民投票が実施されるまでの間は、賛否の立場はできる限り公平に扱われるべきである。

◎天野祐吉参考人及び山田良明参考人に対する質疑者及び主な質疑事項

葉梨 康弘君(自民)

<天野参考人に対して>

  • 国民投票法の制定の是非に対する見方を伺いたい。

<山田参考人に対して>

  • 国民投票運動における報道規制と商業広告規制については、同列の取扱いとすべきか否か。
  • 現行の民放連の放送基準や各放送局の広告考査に不十分な点は何か。
  • 天野参考人は、意見広告の取扱いは各社で異なる上、放送広告においてはコピーや身振り等が大きな影響力を有する旨を指摘しているが、広告考査はどのように行うのか。

<天野参考人に対して>

  • 意見広告に対する規制は、法律に規定すべきと考えるか、又は自主的な取組に委ねるべきと考えるか。

<山田参考人に対して>

  • 資金力がある者の意見がテレビ広告を使って大きな影響力を持つとの懸念に対しては、どのように考えるか。

<両参考人に対して>

  • 国民投票法案において、お金で人の心を買うようなことを禁ずる買収罪の規定を置くことの是非に対する考え方を伺いたい。

<山田参考人に対して>

  • 民放連の放送基準や倫理基準の作成に当たり、今後の国会の議論を参考にしていただきたいと考えるが、いかがか。

<両参考人に対して>

  • 国民投票法案の議論をテレビにおける意見広告の在り方を考える契機とすべきと考えるが、いかがか。

鈴木 克昌君(民主)

<両参考人に対して>

  • メディア規制について、与党案・民主党案とも規制を設けないものとして提出に至った経緯をどう見ているか。また、あるべき国民投票法制についてのお考えを伺いたい。
  • 憲法改正案に関する政党による意見放送を税金で賄うことについて、国民の理解を得られると考えるか。

<山田参考人に対して>

  • 政治的意見広告の費用、昨年の総選挙における放送実績を伺いたい。

<両参考人に対して>

  • 昨年の総選挙において、政治的意見広告の効果があったと考えるか。

<山田参考人に対して>

  • 放送局が意見広告の放送に当たって、主張ごとに料金等に差を設けたり、一方の主張を大量に放送するという取扱いをすることはないのか。

<天野参考人に対して>

  • 新聞紙上でテレビ広告がマインドコントロールの手段となることについて言及しているが、その趣旨を詳しく伺いたい。

<両参考人に対して>

  • 投票日前7日間だけ広告放送を規制しても意味がないとのことであったが、どのような形の規制が考えられるか。

桝屋 敬悟君(公明)

<山田参考人に対して>

  • 投票日前広告制限に反対し自主的な取組を強調しているが、民放連として自主規制はできるのか。

<天野参考人に対して>

  • 投票日前広告制限のほかに、国民投票に際して規制しなければならない事項はあるか。
  • 投票日前広告制限の「7日間」の長短をどう考えるか。

<両参考人に対して>

  • ネット広告も、放送広告と同様の影響力を有すると考えるが、いかがか。

笠井 亮君(共産)

<両参考人に対して>

  • 広告とは何か。また、国民が広告に求めるものは何か。

<山田参考人に対して>

  • 民放連放送基準において、広告に関して厳重に定めていることの趣旨は何か。

<天野参考人に対して>

  • テレビの意見広告には、どのくらいの費用がかかるのか。

<両参考人に対して>

  • 憲法改正案に関する意見放送が議席配分を踏まえて実施されることは、改憲派にとって有利であり、また、意見広告も資金力の観点からすると、改憲キャンペーンが大々的に行われる危険があると考えるが、いかがか。

辻元 清美君(社民)

<山田参考人に対して>

  • 社民党の意見広告の経験からすると、考査の基準が明確ではないように思われるが、この基準の要点を伺いたい。
  • 選挙時以外において、政党の意見広告を取り扱っている事例はあるのか。また、政治的な広告を受けないこととしているのか。
  • 国民投票や憲法に関する意見広告は、賛否双方の立場からの申込みがなければ、公平性の見地から受け付けられないのか。
  • 意見広告には、広告主の名前を必ず出すこととなっているのか。

<天野参考人に対して>

  • 昨年の総選挙においてテレビが与えた影響をどのように捉えているか。

<山田参考人に対して>

  • 憲法改正案に関する意見放送が議席配分を踏まえて実施されることに違和感を持つとのことであったが、民放連においては公平さを確保する取組に関する議論がなされているのか。

滝 実君(国民)

<山田参考人に対して>

  • 憲法改正国民投票に対して、民放連として、意見広告の賛否平等な取扱いや料金の引下げ等の全般的な自主規制が本当にできるのか。
  • 憲法改正については、賛否双方の立場で資金量に差があるために、平等な意見表明を確保できないのではないか。

<両参考人に対して>

  • 投票前広告制限については、熟慮期間というほかに、反論の機会の確保という趣旨もあると考えるが、いかがか。

<山田参考人に対して>

  • 公務員の国民投票運動規制について、どのように考えるか。

提出者船田元君(自民)による「日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外4名提出、衆法第30号)」の提案理由説明

ただいま議題となりました自由民主党及び公明党共同提出の「日本国憲法の改正手続に関する法律案」につきまして、提出者を代表して、提案の理由及び内容の概要をご説明申し上げます。

日本国憲法は、その第96条において改正手続を定めているにもかかわらず、そのための具体的な国民投票法制につきましては、日本国憲法が施行されてから60年近くを経過しようとしている今日に至るまで、整備されてまいりませんでした。このような基本的な憲法附属法典の整備は、国民の負託を受けている私ども国会議員の基本的責務であると言っても過言ではありません。憲法改正国民投票法制の整備は、憲法制定権力の担い手である国民がその権利を行使する制度を整備することであり、憲法改正に対する国民の主権を回復し、真の国民主権を具体化することにほかならないからであります。

昨年の特別会において設置されて以来、本特別委員会においては、憲法改正国民投票法制全般に関して、各会派からの意見表明、有識者を招致しての参考人質疑、委員間の自由討議など、実に活発なご議論をしていただいてまいりましたが、本年3月からは、これと並行して、理事懇談会の場で、具体的な法制度の設計に関する「論点整理」を進めてまいりました。その結果は、委員各位にも資料にてご報告しているとおりでありますが、自由民主党、公明党及び民主党の3党間においては、法制度設計に当たってのほとんどの事項について共通の認識が得られるところまでまいりました。しかし同時に、なお、いくつかの重要な点において意見の相違が確認されたところでもあります。

今後は、お互いが、現時点で最良と考える法制度について具体的な法律案の形で提出し、これを国会の委員会・本会議という国民に見える公の場において議論をし、かつ、これに対するご意見・ご批判をいただきながら、さらに幅広い合意形成を目指してより良いものにしていくことが、憲法という国家の基本ルールの改正に関する手続法の制定手続として望ましい、と考えました。これが、本法律案の提出に至る経緯でございます。

以下、本法律案の主な内容についてご説明申し上げます。

第一は、本法律案は、あくまでも日本国憲法第96条の実施法であり、「憲法改正国民投票」だけを対象としているものであります。

第二に、「国民投票の期日」は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会自身が議決した期日に行うことといたしております。

第三に、「投票権者」については、日本国民で年齢満20年以上の者としております。

第四に、憲法改正の発議があったときは、憲法改正案の内容の広報活動を行うため、国会に両議院の議員各10名で構成する「憲法改正案広報協議会」を設置することといたしております。

第五に、「投票の方式」については、賛成するときは○の記号を、反対するときは×の記号を自書することとし、白票は無効票としております。そして、賛成の投票数が有効投票総数の2分の1を超えた場合に、国民の承認があったものとしております。

第六に、「国民投票運動」についてですが、国民投票運動は基本的に自由とし、投票の公正さを確保するための必要最小限の規制のみを設けることといたしました。

その上で、(1)投票事務関係者や特定公務員の在職中の国民投票運動の禁止、(2)公務員等や教育者の地位を利用して行う国民投票運動の禁止、(3)国民投票の期日前一週間のテレビ・ラジオにおける広告放送の制限、等に関する規定を設けております。(4)他方、政党等に対する、テレビやラジオ、新聞における無料広告枠の提供といった国民投票運動の一部公営に関する規定も設けております。

第七に、「罰則」についても、(1)投票の公正さを確保するための必要最小限の規定のみを設けることとしたほか、(2)いわゆる買収罪についても、その対象を社会常識的な範囲を逸脱する悪質な行為に限定するべく、「組織により、多数の投票人に対し、賛成又は反対の投票をし、又はしないよう勧誘する行為であって、その報酬として、金銭や投票行動に影響を与えるに足りる物品を供与する行為等」に限ることといたしたところであります。

第八に、憲法改正の発議手続を整備するため国会法の一部を改正することとしております。その内容は、憲法改正原案を発議する場合の賛成者の員数要件、憲法改正原案を審査する憲法審査会の設置、そして憲法改正原案という重要議案を審査することに伴う憲法審査会における審査手続の特例等であります。

最後に、この法律の規定のうち国民投票の実施に関する部分は、公布の日から起算して2年を経過した日から、また、国会法の一部改正の部分は、公布の日以後初めて召集される国会の召集の日から、それぞれ施行することといたしております。

以上が、この法律案を提出いたしました理由及びその内容の概要であります。

委員各位におかれては、何とぞ、慎重なご審議をいただきました上で、速やかにご可決くださいますようお願い申し上げます。


提出者鈴木克昌君(民主)による「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、衆法第31号)」の提案理由説明

私は、民主党・無所属クラブの提案者を代表して、ただいま議題となりました「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」について、その趣旨を説明いたします。

この法律案は、日本国憲法96条に規定する憲法改正国民投票に関する手続と、国政における重要な問題についての諮問的国民投票に関する手続とを、一体のものとして定め、あわせてそれぞれの発議に関する手続の整備を行うものです。

憲法改正のための具体的手続は、本来、1946年制定の際、憲法附属法として同時に整備されるべきものでした。しかも、これら手続の整備は、本来、憲法改正そのものに関する議論と区別して、中立公正に進められるべきです。改正が容易であっても、改正が困難であっても、偏った制度では、国民の意思を正確に捉えることができず、ひいては立憲主義の自殺行為となるからです。

このため、具体的な憲法そのものの議論がこれ以上深まる前に、改正推進派も改正反対派も、双方が納得できる制度を整えておくべきであると考え、本法律案を提起しています。

ところで、憲法改正手続国民投票制度は、間接民主制を基本とするわが国政にあって、直接的に国民の意思を問う例外的な制度です。そして、立憲主義の観点から、直接的に国民の意思を問うことが望ましい案件は、憲法の条文そのものを改正するケースに、必ずしも限られません。

もちろん、国会の意思とは無関係に、国会の立法権限を法的に制約するような手続は認められません。しかし、特に立憲主義にかかわる問題について、国会が自らの意思に基づき、諮問的に国民の意思を問い、その主権者の意思を十分に考慮しながら権限行使することは、何ら憲法に反するものではなく、むしろその趣旨に叶うことです。

このため、私たちは、一般法である諮問的国民投票制度の創設と、その特例法である憲法改正国民投票制度の創設とを、一本の法律として提案しています。

以上が本法律案を提出するに至った経緯及び理由でありますが、以下、ポイントとなる点に絞って、その内容を説明します。

第一に、投票権者の範囲です。

わが党は従来から、成人年齢そのものを、18歳に引き下げることを主張しています。このこと自体、すみやかに実現すべきと考えますが、せめて少なくとも憲法改正国民投票に関しては、この国の未来に、より長期にわたって関わっていく若い世代に、可能な限り決定に参加する機会を認めることが必要です。

このため、本法律案では、投票権年齢を原則18歳まで引き下げ、さらには、案件によって、国会の議決に基づき、これを16歳まで引き下げることが可能なこととしています。

第二に、投票用紙への記載方法及び過半数の意義についてです。

憲法96条は、国会の発議に対する国民の「承認」を要求しています。わざわざ投票所まで足を運び、かつ、是とする意思を示さなかった者については、承認の意思がなかったものと判断するのが適切です。

このため本法律案では、国会の発議を是としこれを承認する者が、投票用紙に○印を付すものとし、○印を付した票が投票総数の過半数に達した場合に、憲法が改正されるものとしました。

第三に、いわゆる国民投票運動についてです。

国民投票と公職選挙は、投票という行動では似ています。しかし、選挙においては、政党や候補者という運動主体が、事実上限定的に存在しますが、国民投票においては、賛成又は反対の意見を持つすべての国民が、運動の主体となりえます。また、国民投票では、改正に「賛成又は反対」の運動と、政治的意見表明との区別がつかず、これを規制すると、政治的意見表明そのものに、強い萎縮効果が働きます。

このため、少しでも萎縮効果の生じることのないよう、一つには、特定公務員の運動禁止規定や、公務員・教育者の地位利用による運動禁止規定を、原則として設けないものとしています。例外として、投票事務等に関与する公務員については、運動禁止の規定を設けています。

また、一票を金で買うような行為は、国民投票においても許されるものではないと考えますが、萎縮効果が生じないよう、本当に悪質なケースだけが対象になる構成要件を設けることは、困難であるため、買収罪の規定を設けないこととしました。

以上が本法律案の主な内容です。

委員各位には、この法律案と与党案について、改正を目指す者と、改正に反対する者の双方が納得できる中立公正な制度が創設できるよう、謙虚かつ真摯な議論をお願いして、趣旨の説明といたします。