平成18年6月15日(木) (第13回)

◎会議に付した案件

1 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外4名提出、衆法第30号)

日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、衆法第31号)

上記両案について、各会派から意見を聴取した後、提出者から発言があった。

2 閉会中審査に関する件

(1)上記両案並びに日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件について、賛成多数をもって議長に対し、閉会中審査の申し出を行うことに決した。

 賛成―自民、民主、公明、国民

 反対―共産、社民

(2)閉会中審査案件が付託された場合における委員派遣の承認申請及び参考人の出頭要求について、いずれも、賛成多数をもって委員長に一任することに決した。

 賛成―自民、民主、公明、国民

 反対―共産、社民

3 委員長から挨拶があった。


(各会派からの発言)

 愛知 和男君(自民)

 仙谷 由人君(民主)

 桝屋 敬悟君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 滝 実君(国民)

(提出者からの発言)

 保岡 興治君(自民)

 枝野 幸男君(民主)


◎各会派からの発言の概要(発言順)

愛知 和男君(自民)

  • 両法案の審議における基本的認識として、(a)憲法改正国民投票法制の整備は、憲法制定権者である国民の権利行使を保障し、国民主権を具体化するものであること、(b)憲法改正の発議手続と国民投票のルールは体系的なものとして整備され、公正かつ中立なものであるべきこと、これら二つの共通理解が得られていることを確認したい。
  • 以下、両法案の相違点に対し私見を述べると、国民投票法はあくまでも96条の実施法として位置付けるべきであり、一般的・諮問的国民投票制度の導入の是非は、憲法改正の議論の中で検討されるべきである。
  • 投票権者の年齢を18歳以上としてもかまわないと考えるが、人を選ぶ国政選挙と政策を選択する国民投票において、投票権者の年齢を一致させない合理的な理由はないのではないか。投票権者の年齢の問題は、公職選挙法の選挙権年齢、その他民法の成人年齢の引下げの議論に委ねるべきである。
  • 投票の方式について、憲法改正案に賛成する場合は○を付け、反対は何も記載しないという民主党案は、白票にあらわれる多様な意思を一括りに反対として取り扱うことになり、民意を作り出すことにつながりかねない。
  • 両法案は対決法案ではなく、また、その違いも乗り越えられない壁ではない。準憲法的な法律として多くの会派の賛成を得て、より良い法律が制定されることを期待する。

仙谷 由人君(民主)

  • 国民投票は、主権者である国民の最も根源的で直接的な意思表示であり、両法案を国会で審議することは、国民主権の深化に資する。過度の政治主義や運動論を避け、国民投票の積極的な意義についての合意形成が国会においてなされるべきである。
  • 国民投票についての積極的な合意形成が行われれば、自ずから、国民投票の投票権者の範囲を広くし、メディアの報道や国民投票運動は原則自由とするとの結論に達し、この点、民主党案の妥当性が証明されるのではないか。
  • 徳島市の吉野川可動堰についての住民投票条例制定において賛成派・反対派がとった態度のように、テーマとなる題材によって国民投票・住民投票を推進したり忌避したりするといった悪しき政治主義をとるべきではなく、国民・住民がその国や地域の施策を決めるという簡明な原則を貫くべきである。主権者が国民投票において賢明な選択をすることに疑念を抱かなければならないほど、日本の民主主義の成熟度は低くはなく、価値中立的な国民投票法の制定が日本の民主主義を深化させ、豊富化させると考えるべきである。

桝屋 敬悟君(公明)

  • 真摯な議論の結果、法案の個別の論点については、与党・民主党間において9割以上の合意ができていると理解している。
  • 法案の提出に際し、可能であれば与党・民主党において共同で提出することが望ましいと考えていたが、与党及び民主党からそれぞれ法案が提出されることにより、国民に対して国民投票法制に関する議論が明確になった。
  • 国民投票法制の整備については、改憲、護憲、創憲、加憲など憲法改正に対するそれぞれの立場から、公平に議論ができるルールを作ることを念頭に議論を進めたい。
  • 96条に定める国民投票法制の整備は、国民主権の具体化として避けて通れないものであり、今回の国民投票法の提出は歴史的にも大きな意義がある。
  • 現行憲法は、優れた憲法であって、日本の平和と発展に大いに寄与してきたと考えており、国民主権、基本的人権の尊重及び平和主義の三原則は不変のものとして堅持すべきである。また、9条も戦後の平和と発展に対し大きな役割を果たしてきたと考える。公明党は、三原則と9条を堅持した上で、時代の変化に応じ、新しい条文を加えるという加憲の立場をとっている。
  • 間接民主制を原則としながら直接民主制を十分に機能させ、国民の意思決定が正しく行われるように公正な国民投票法制を整備すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 審議未了となることが明らかな法案に対する議論がこのような形で開始されるのは、異例と指摘せざるを得ない。
  • 与党案提出者は、改憲手続法を整備することは国会議員の基本的責務であり、これまで整備されてこなかったのは、国会の怠慢と主張している。しかし、改憲手続法の制定に対しては、世論調査においても反対ないし慎重な意見が多数であり、また、本委員会に付託された請願もそのような意見を示すものばかりである。
  • これまで改憲手続法が制定されてこなかったのは、国民が改憲を具体的に必要としなかったからである。
  • 憲法に国民の行為規範としての役割を持たせるといった議論は、歴史的にも世界的にも全く通用しない。
  • 公正なルールを策定すると主張しても、改憲論議が進められている中、改憲手続法の制定を進めることは、結局、9条改憲の流れを作るものである。
  • 憲法審査会の設置は、改憲の流れを連続的に推し進めるものにほかならない。
  • 改憲手続法の整備が国民主権の具体化、国民主権を回復するものであるとの主張があるが、改憲推進勢力に都合の良い法案をもって国民主権を具体化したとは言えない。
  • 第二東京弁護士会、信濃毎日新聞等が、改憲手続法に対し慎重な意見を表明しており、また、9条の会の運動は全国に広がっている。このような状況においては、9条改悪と地続きの両法案を廃案にし、本委員会を会期末で閉じることこそ、国民の意思にかなうものである。

辻元 清美君(社民)

  • 両法案ともに国会法の一部改正を規定しているが、国民の意思を直接問う手続と、国会内の手続を同一の法律案で規定するのは、主権者である国民と立法府の地位を混同するものであり、憲法体系の中で根本的に問題がある。
  • 国会法45条の趣旨に基づけば、国会法の改正は議院運営委員会の所管であるから、議院運営委員会で審議するのが正当である。公正なルールを作るには、法案の構成や委員会審議において公正で厳格な取扱いが求められる。
  • 国家権力を制限するという憲法の意味を理解しないまま、憲法を論じている議員が多い。それどころか、6月1日の本会議における審議は、最も重要な法案を議論しているという自覚すらないような状況を呈しており、このような状況で憲法について真っ当な議論が進められるとは考えられない。
  • また、同日の本会議での議論から、憲法とは何かという共通認識が両法案の提出者の間ですら形成されていないという現状が明確になった。このような状況の下、審議入りは不可能であり、両法案を廃案にし、立法府を挙げて憲法に対する認識を深めるべきである。

滝 実君(国民)

  • 民主主義は多数決の原則に基づいていることは言うまでもないが、「ある社会のメンバーが平均して考えたときに、2分の1を超える確率で正しい選択をするという条件が満たされていると、多数決で正しい選択がなされる確率は、参加する人数が増えれば増えるほど高まる」というコンドルセの定理が示すように、十分な議論という前提あってのことである。憲法改正国民投票についても同様である。
  • 広報協議会の人数配分や政党の無料広告について、所属議員数がベースにされているが、賛否両論それぞれの意見を保障するためには、少数会派にも若干の配慮はあるものの不十分であり、検討の余地がある。
  • 憲法を改正しても、恣意的な解釈運用が行われるならば、その意味がなくなってしまう。憲法審査会でこれに対処するのは一つの方法だが、それだけで内閣の権限の濫用を抑制できるかはあいまいであり、検討の余地がある。
  • 直接民主制を抑制的に考えていた英国や、それに近い態度をとってきたオランダも、近年、一般的・諮問的国民投票制度の導入に至っている。一般的・諮問的国民投票制度についても改めて検討すべきである
  • 公務員の運動禁止や買収罪の規定は、更に緩和すべきである。
  • 与党案・民主党案の一本化に向けて引き続き努力すべきである。

提出者からの発言の概要(発言順)

保岡 興治君(自民)

  • 国会で両法案を審議できる状況になったことは、60年近く憲法改正手続法が不整備であったことに終止符を打つ歴史的な意義を持つものである。
  • 与党案・民主党案それぞれ別の提出となったが、その提出プロセスにおいて、委員会、海外派遣の調査、理事懇談会での論点整理には共産党、社民党も参加した上で、50時間以上の議論が行われてきた。今後もこのプロセスを大事にして、公正・中立なルール作りをすることが重要であり、共産党、社民党も積極的に議論に参加し、できるだけ幅広い議論の下、合意形成を図っていくべきである。
  • 両法案は対決法案ではなく、今後の審議においては、両法案を議論のたたき台にして、成案を得ていくべきである。
  • 憲法改正の内容とは切り離し、公正・中立なルールは何かという観点で議論していくことは各党一致している。不足するものがあれば両法案に加える形で公正・中立なルールを作っていくべきである。
  • 成文憲法に完成されたものはなく、時代の変化とともに改正を余儀なくされることが、成文憲法の持つ運命である。戦後60年近く経過し、憲法改正の議論がなされるのは当然のことであり、具体的な憲法改正案が国会に提出されていない今を除いて、手続法制定の議論をすべき時はない。
  • 民主党から提案された広報協議会の設置や、マスコミ規制の全廃などが両法案において一致したことは、見事なプロセスであった。次国会の両法案の審議に際しても委員間の真摯な議論を通じて同様の成果が得られることを期待する。

枝野 幸男君(民主)

  • 国民投票の結果に疑義が表明されるようなことがあれば、日本の立憲主義そのものの自殺行為となりかねない。したがって、改憲賛成派も反対派も納得する公正・中立な制度を作ることが我々の歴史に対する責任である。
  • 公正・中立な制度を作るためには、改憲賛成派も反対派も、自らの立場と逆の立場に身を置いた上で議論をするような謙虚な姿勢が求められる。改憲賛成派は、自らの議席が少数となったときのことも想定して制度を作るべきである。
  • 大多数の国民が改憲を望んでいないという改憲反対派の主張を実証するためには、国民投票で否決するのが筋である。その際に、国民の意思が正確に反映されるよう、公正・中立な制度を作らなければならない。
  • 提出者である我々も、民主党案が完璧なものとは考えていない。ただ、残る論点は、本質的なものではあるが技術的な論点である。今後、これらの論点を詰めるに際しては、国民投票法が他の法律と性質の異なることにかんがみれば、従来の法案審査の方式に縛られる必要はなく、例えば、有識者が提出者に対してその法案について質問をするような審査もあってよい。
  • 国民投票制度には、それが「公正・中立」であるという国民のコンセンサスが必要なのであり、そのためには、この委員会の場において修正協議を行うような努力と知恵がなければならない。