平成18年10月19日(木) (第2回)

◎会議に付した案件

日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件

「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団」の調査の概要について、中山委員長から説明を聴取した後、調査に参加した委員等から意見を聴取した。


◎「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団」の調査の概要

一 調査議員団の構成(会派名は派遣当時)

団長   中山 太郎君(自民)

     保岡 興治君(自民)、船田  元君(自民)、枝野 幸男君(民主)、

     斉藤 鉄夫君(公明)、笠井  亮君(共産)、滝   実君(国民)

二 期間

 平成18年7月16日(日)から7月29日(土)まで 14日間

三 訪問先

 ポーランド  憲法裁判所、国家選挙管理委員会、民主左翼同盟本部、ポーランド政界重鎮、最高行政裁判所

 イタリア   首相府、下院、憲法裁判所、学識経験者、内務省

 デンマーク  ポリティケン紙本社、最高裁判所判事、コペンハーゲン大学、内務・保健省、欧州議会議員

 エストニア   議会、内閣府、エルコテック社

四 調査の概要

1.ポーランドにおける調査の概要

  • (a)サフィアン憲法裁判所長官、カリシュ下院議員及びトシュチンスキ最高行政裁判所長官からは「円卓会議」と現行憲法の制定経緯や憲法改正に係る合意形成プロセス等について、(b)ボルセヴィチ上院議長及びマゾヴィエツキ元首相らポーランド政界の重鎮からは現行憲法制定時の政治状況等について、(c)リマシュ国家選挙管理委員長からは国民投票の実務的諸問題について説明を受けた。

2.イタリアにおける調査の概要

  • (a)キーティ議会関係・制度改革担当大臣からは2006年憲法改正国民投票についての中道左派からの評価等について、(b)トレモンティ下院副議長からは同国民投票についての中道右派からの評価等について、(c)ヴィオランテ下院憲法委員長からは憲法改正に係る合意形成過程等について、(d)フィレンツェ大学のフサーロ教授及び内務省選挙部担当審議官からは国民投票におけるメディアの在り方について、(e)ビーレ憲法裁判所長官からは法律廃止のための国民投票制度について説明を受けた。また、現地在住の作家である塩野七生氏と憲法改正問題や現在の日本の政治状況等について懇談を行った。

3.デンマークにおける調査の概要

  • (a)ポリティケン紙のサイデンファーデン総編集長からは、EU問題と国民投票等について、(b)クリステンセン最高裁判所判事、コペンハーゲン大学のハンセン助教授及びアウケン欧州議会議員からは国民投票における周知広報の徹底と高投票率の要因等について、(c)ペーデ内務・保健省選挙コンサルタントからは国民投票に関する諸論点について説明を受けた。

4.エストニアにおける調査の概要

  • (a)憲法委員会のレインサル委員長及びヌット議員並びにピルヴィング議会選挙局長からは、国民投票における政府の広報活動やその他の諸論点について、(b)内閣府からは、IT立国を目指す同国の現状について説明を受けた。また、エルコテック社の工場内を視察した。

5.まとめ

  • 憲法改正案その他国民投票に付する案件に関し合意を形成していく過程において、欧州各国の政治家が、国民に対して真摯に向き合おうとしていたことは、その政治的立場を超えて、派遣議員が深い感銘を受けたと確信した。この成果を委員各位と共有し、今後の建設的な審査及び調査を切望する。

◎調査に参加した委員等の発言の概要(発言順)

保岡 興治君(自民)

  • デンマークにおいては、投票権年齢を21歳から18歳に引き下げる改正が国民投票で否決されたため、その後は世論の動向を踏まえて、投票権年齢が段階的に引き下げられた。国政参加権の変更は、成人年齢や公職選挙法との整合性をとりつつ、世論の動向を踏まえ判断すべきであるが、世界の標準は18歳以上であることも痛感した。
  • イタリアにおける憲法改正国民投票の否決の例を見ると、選挙での勝ち負けを超えて国のために改革が必要であることを実感した。憲法改正においても、政局に絡めないで、幅広い合意形成が必要である。
  • 塩野氏との懇談においては、私が国民の共通の目標を持つことの大切さを述べたところ、塩野氏は、高尚な「何になりたいか」という議論ではなく、「何にしかなれないのか」という具体論こそ国民に提示すべきであると強調された。これを私なりに解釈すると、政治家は、あるべき姿を自由に論じるだけではなく、諸条件による制約の中でベストではなくベターを選択することも必要であるということではないか。
  • 前回及び今回の調査により築いた共通の認識の上に立って、与党案・民主党案を真摯な議論によって早期にまとめることに全力を尽くしたい。

船田 元君(自民)

  • デンマークにおいて議会の圧倒的多数が賛成であった案件が2回も国民投票で否決されたことから、議会での合意形成と国民投票での成功は矛盾した関係にあるとの指摘は興味深い。
  • デンマークにおいてなされた「一度、国民投票という名の動物を檻から出せば再び檻に返すことは非常に困難だ」という指摘はショッキングであり、国民投票法の制定に当たっては細心の注意が必要であると感じた。
  • デンマークにおいては、国民投票に参加することにより国民が政治的に成熟したという指摘は注目に値する。また、文化や学校教育の影響から、投票率が高いことは、我が国の現状に照らしてうらやましいと感じた。
  • EU加盟各国では、EU関連条約の国民投票を通じて、実質的に憲法が改正されており、直接憲法を改正する必要性が薄くなっていることが確認された。
  • デンマークやエストニアにおいては国民投票運動に対する規制は緩やかであり、常識に任されている。そのまま日本には当てはまらなくても、政治的に成熟した国の姿を垣間見た。
  • 与党案・民主党案の相違点についての一致は十分可能な状況であるから、幅広い合意を目指して真摯な議論を続けたい。与党案は過半数の賛成をもって成立させることも可能であるが、将来の憲法改正の土俵作りであることを踏まえ、3分の2以上の合意にこだわりたい。また、参議院には国民投票法案を議論するための受け皿は設置されていないことから、その設置を働きかけたい。

枝野 幸男君(民主)

  • ポーランドにおいては、当時の連帯、共産党及びカトリック教会が「円卓会議」において使命感を持って交渉し、合意しやすい分野から段階を踏んで憲法を制定したことが、結果として、憲法についていずれの当事者も納得しているという現状につながったのではないか。
  • イタリアにおいては、今年6月に憲法改正国民投票が否決されたことを受けての調査であったが、改正内容自体については与野党の合意が既に形成されているとの発言に驚いた。
  • イタリアの現在の野党は、政権打倒を優先し、与党の憲法改正に協力しないのではないかとの見解も述べられたが、我々はこのように考えてはいけないと考えた。他方、イタリアの憲法改正の否決は、当時の与党が自らの案を強引に押し通そうとしたことにも起因するとの見解も述べられたところであり、我が国では慎重な合意形成を図るべきであると感じた。
  • デンマークにおいては、国会において多数を得ても国民投票において否決されるという例が注目された。我が国の国民投票においては、有識者と双方向で議論を重ねる必要があると痛感した。
  • 国民投票制度の整備に当たっては、テレビ等の無料広告の時間を議席数に応じて配分すると反対派の時間が少なくなるという批判を真摯に受け止め、公平確保のための見直しを検討する必要がある。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 憲法改正国民投票制度を納得のいく公平なものに作り上げていく上で、海外調査議員団に、社民党が参加しなかったことは残念であったが、国民投票法案を提出している自民党、民主党、公明党のみならず、共産党及び国民新党・新党日本からも参加があったことに大きな意義を感じた。
  • デンマークにおいては「国民投票はコントロールのきかない怪獣のようなもので檻から出すにはよほど慎重でなければならない」という発言の印象が最も大きかった。イエスかノーかの二者択一を国民に迫る国民投票の特徴を踏まえ、議会での議論を熟成させた後に、分かりやすく整理された形で国民投票に付さなければならないと感じた。
  • 白票の取扱いについては、訪問各国共通であり、投票率にはカウントするが、賛否のいずれにもカウントしないということであった。
  • メディアの規制についても、訪問各国共通であり、テレビ等では公平な放送が求められるが、新聞・雑誌では社説での意見の掲載が自由に認められるということであった。
  • 投票権年齢についても、訪問各国共通で18歳以上とされており、これを選挙権年齢と一致させることは当然であるとのことであった。我が国では、投票権年齢をまずは選挙権年齢に合わせて20歳以上とし、いずれ両者を18歳以上とすべきである。
  • 国民的関心が高く議論のある案件に対する投票態度については、それに賛成と投票する者はその案件に100%の確信を持っている人だけで、少しでも疑問を持っている人は反対と投票する傾向が訪問各国で見られた。

笠井 亮君(共産)

  • イタリアにおける憲法改正国民投票の否決は、憲法の基本原則は重く、これを大本から改正することを国民は認めなかったと評価できる。日本では、憲法の公権力に対する制限規範という性格を変更し、国民の行為規範をも定めるべきであるとの議論もあるが、これは、歴史的にも世界的にも認められない。
  • ポーランドにおいて1989年に政治体制が転換したために憲法を制定したとの説明を受けたが、日本ではそうした体制転換があったわけではない。また、世論調査でも安倍政権に期待することとして、憲法改正を挙げる者の割合は極めて小さく、民意とはかけ離れたところで改憲論議が進んでいることを改めて感じた。
  • 今回の訪問国においては、現在提案されている改憲手続法案のような改憲案を通しやすい国民投票制度を持つ国はなかった。例えば、テレビ等の無料広告の時間配分について、イタリア等のように賛成派・反対派に平等にするのではなく、国会の所属議員数を踏まえた仕組みとなっており、何のための手続法案なのか改めて考えさせられた。
  • ポーランドにおいては、日本がソフトパワーとしての大国の役割を果たす上で、9条の存在は決して障害にはならないという指摘がなされた。日本に求められているのは、9条改憲のための手続法をつくることではなく、9条を持つ平和の大国としての役割を果たすことであると改めて感じた。

滝 実君(無)

  • 憲法は単なる国家の基本法にとどまるものではなく、憲法を成立させるために結集された国民の合意を守ることが政治の役割であるとの感慨を強く持った。このことは、特に他国に支配されたポーランドやエストニアにおいて強く感じた。
  • ポーランド等においては、憲法の中で行政の長の権限をどのようにコントロールするかに腐心していることが印象に残った。議会は行政権からの防波堤となっていることは興味深い。
  • デンマークにおいては、国民投票は猛獣であり檻から出すことには注意を要するとの説明があったが、我が国では、昨年、解散総選挙を郵政民営化法案に係る国民投票のように運用することによってすでに「猛獣」が檻から出ており、檻から出すかどうかといった議論ではなく、今後もこれを使い続けるのか、それとも檻へ戻すのかといった議論が必要である。
  • デンマークのEU問題に関する国民投票に関連して、国民投票において、国民に具体的な説明がなされず、少しでも疑念が残れば反対に回ってしまうという指摘が印象に残った。
  • 憲法改正国民投票運動におけるテレビ等の無料広告の時間配分について、賛否平等の国、登録した団体に平等に配分する国、無料枠がない国とさまざまな形態があった。与党案・民主党案においては所属議員数を踏まえる仕組みがとられているが、見直しが必要である。