平成18年10月26日(木) (第3回)

◎会議に付した案件

1 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外4名提出、第164回国会衆法第30号)
日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)

上記両案について、それぞれ提出者保岡興治君(自民)及び園田康博君(民主)から提案理由の説明を聴取した後、提出者船田元君(自民)、斉藤鉄夫君(公明)、枝野幸男君(民主)、保岡興治君(自民)、鈴木克昌君(民主)、加藤勝信君(自民)、葉梨康弘君(自民)、園田康博君(民主)及び小川淳也君(民主)に質疑を行った。

(提出者に対する質疑者)

 近藤 基彦君(自民)

 古川 元久君(民主)

 赤松 正雄君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 糸川 正晃君(国民)

2小委員会設置に関する件

(1)日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会を設置することに、協議決定した。

(2)小委員会における参考人及び政府参考人出頭要求に関する件について、協議決定した。


◎提出者保岡興治君(自民)による「日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外4名提出、第164回国会衆法第30号)」の提案理由説明

ただいま議題となりました自由民主党及び公明党共同提出の「日本国憲法の改正手続に関する法律案」につきまして、提出者を代表して、提案の理由及び内容の概要をご説明申し上げます。

日本国憲法は、その第96条において改正手続を定めているにもかかわらず、そのための具体的な国民投票法制につきましては、日本国憲法が施行されてから60年近くを経過しようとしている今日に至るまで、整備されてまいりませんでした。このような基本的な憲法附属法典の整備は、国民の負託を受けている私ども国会議員の基本的責務であると言っても過言ではありません。憲法改正国民投票法制の整備は、憲法制定権力の担い手である国民がその権利を行使する制度を整備することであり、憲法改正に対する国民の主権を回復し、真の国民主権を具体化することにほかならないからであります。

昨年秋以降、本特別委員会及びその理事懇談会において、憲法改正国民投票法制全般に関し、活発に議論をしてまいりました。その結果、自由民主党、公明党及び民主党の3党間においては、ほとんどの事項について共通の認識が得られるところまでまいりました。しかし同時に、なお、いくつかの重要な点において意見の相違が確認されたところでもあります。

今後は、お互いが、現時点で最良と考える法制度について具体的な法律案の形で提出し、これを国会の委員会・本会議という国民に見える公の場において議論をし、かつ、これに対するご意見・ご批判をいただきながら、さらに幅広い合意形成を目指してより良いものにしていくことが、憲法という国家の基本ルールの改正に関する手続法の制定手続として望ましい、と考えました。これが、本法律案の提出に至る経緯でございます。

以下、本法律案の主な内容についてご説明申し上げます。

第一は、本法律案は、あくまでも日本国憲法第96条の実施法であり、「憲法改正国民投票」だけを対象としているものであります。

第二に、「国民投票の期日」は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会自身が議決した期日に行うことといたしております。

第三に、「投票権者」については、日本国民で年齢満20年以上の者としております。

第四に、憲法改正の発議があったときは、憲法改正案の内容の広報活動を行うため、国会に両議院の議員各10名で構成する「憲法改正案広報協議会」を設置することといたしております。

第五に、「投票の方式」については、賛成するときは○の記号を、反対するときは×の記号を自書することとし、白票は無効票としております。そして、賛成の投票数が有効投票総数の2分の1を超えた場合に、国民の承認があったものとしております。

第六に、「国民投票運動」についてですが、国民投票運動は基本的に自由とし、投票の公正さを確保するための必要最小限の規制のみを設けることといたしました。

その上で、(1)投票事務関係者や特定公務員の在職中の国民投票運動の禁止、(2)公務員等や教育者の地位を利用して行う国民投票運動の禁止、(3)国民投票の期日前一週間のテレビ・ラジオにおける広告放送の制限、等に関する規定を設けております。(4)他方、政党等に対する、テレビやラジオ、新聞における無料広告枠の提供といった国民投票運動の一部公営に関する規定も設けております。

第七に、「罰則」についても、(1)投票の公正さを確保するための必要最小限の規定のみを設けることとしたほか、(2)いわゆる買収罪についても、その対象を社会常識的な範囲を逸脱する悪質な行為に限定するべく、「組織により、多数の投票人に対し、賛成又は反対の投票をし、又はしないよう勧誘する行為であって、その報酬として、金銭や投票行動に影響を与えるに足りる物品を供与する行為等」に限ることといたしたところであります。

第八に、憲法改正の発議手続を整備するため国会法の一部を改正することとしております。その内容は、憲法改正原案を発議する場合の賛成者の員数要件、憲法改正原案を審査する憲法審査会の設置、そして憲法改正原案という重要議案を審査することに伴う憲法審査会における審査手続の特例等であります。

最後に、この法律の規定のうち国民投票の実施に関する部分は、公布の日から起算して2年を経過した日から、また、国会法の一部改正の部分は、公布の日以後初めて召集される国会の召集の日から、それぞれ施行することといたしております。

以上が、この法律案を提出いたしました理由及びその内容の概要であります。

委員各位におかれては、何とぞ、慎重なご審議をいただきました上で、速やかにご可決くださいますようお願い申し上げます。


◎提出者園田康博君(民主)による「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)」の提案理由説明

私は、民主党・無所属クラブの提案者を代表して、ただいま議題となりました「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」について、その趣旨を説明いたします。

この法律案は、日本国憲法96条に規定する憲法改正国民投票に関する手続と、国政における重要な問題についての諮問的国民投票に関する手続とを、一体のものとして定め、あわせてそれぞれの発議に関する手続の整備を行うものです。

憲法改正の是非を問うため具体的手続は、本来、1946年に現行憲法が制定された際、憲法付属法として同時に整備されるべきものでした。

また、これらの手続は、憲法改正そのものに関する議論と区別して、中立公正に進められなければなりません。改正が容易な制度であっても、逆に改正が困難な制度であっても、どちらかに偏った制度では、国民の意思を正確に捉えることができず、ひいては立憲主義の自殺行為となるからです。

このため私たちは、具体的な憲法そのものの議論がこれ以上深まる前に、改正推進派も改正反対派も、双方が納得できる制度を整えておくべきであると考え、本法律案を提起しました。

ところで、憲法改正手続国民投票制度は、間接民主制を基本とするわが国政にあって、直接的に国民の意思を問う例外的な制度です。そして、立憲主義の観点から、直接的に国民の意思を問うことが望ましい案件は、憲法の条文そのものを改正するケースに、必ずしも限られません。

もちろん、国会の意思とは無関係に、国会の立法権限を法的に制約するような手続は認められません。しかし、特に立憲主義にかかわる問題について、国会が自らの意思に基づき、諮問的に国民の意思を問い、その主権者の意思を十分に考慮しながら権限行使することは、何ら憲法に反するものではなく、むしろその趣旨に叶うことです。

このため、私たちは、一般法である諮問的国民投票制度の創設と、その特例法である憲法改正国民投票制度の創設とを、一本の法律として提案しています。

では、以下ポイントとなる点に絞って、法律案の内容を説明します。

第一に、投票権者の範囲です。

わが党は従来から、成人年齢そのものを、18歳に引き下げることを主張しています。このこと自体、すみやかに実現すべきと考えますが、せめて少なくとも憲法改正国民投票に関しては、投票権年齢を18歳に引き下げるべきだとして提案しています。なぜなら、憲法は長期にわたってこの国の公権力のあり方を規律するものである以上、この国の未来に、より長期にわたって関わっていく若い世代に、可能な限り決定に参加する機会を認めることが必要だからです。

第二に、投票用紙への記載方法及び過半数の意義についてです。

憲法96条は、国会の発議に対する国民の賛否を聞くのではなく、その「承認」を要求しています。わざわざ投票所まで足を運び、かつ、是とする意思を示さなかった者については、承認の意思がなかったものと判断するのが適切です。

このため本法律案では、国会の発議を是としこれを承認する者が、投票用紙に○印を付すものとし、○印を付した票が投票総数の過半数に達した場合に、憲法が改正されるものとしました。

第三に、いわゆる国民投票運動についてです。

国民投票と公職選挙は、投票という行動では似ています。しかし、選挙においては、政党や候補者という運動主体が、事実上限定的に存在しますが、国民投票においては、賛成又は反対の意見を持つすべての国民が、運動の主体となりえます。また、国民投票では、改正に「賛成又は反対」の運動と、政治的意見表明との区別がつかず、これを規制すると、政治的意見表明そのものに、強い萎縮効果が働きます。

このため、少しでも萎縮効果の生じることのないよう、一つには、特定公務員の運動禁止規定や、公務員・教育者の地位利用による運動禁止規定を、原則として設けないものとしています。例外として、投票事務等に関与する公務員については、運動禁止の規定を設けています。

また、一票を金で買うような行為は、国民投票においても許されるものではないと考えますが、本当に悪質なケースだけが対象になる構成要件を設けることは困難であるため、萎縮効果が生じないよう、買収罪の規定を設けないこととしました。

以上が本法律案の主な内容です。

委員各位には、この法律案と与党案について、改正を目指す者と、改正に反対する者の双方が納得できる中立公正な制度が創設できるよう、謙虚かつ真摯な議論をお願いして、趣旨の説明といたします。


◎提出者に対する質疑者及び主な質疑事項等

近藤 基彦君(自民)

<発言>

  • 議員立法に関する国会議員同士の議論であるから、与党案・民主党案双方の提出者においては、提出している自らの案に必要以上に拘泥することなく、現時点で手直しをするべきと思われる点があれば、率直にそのようなアイディアを出し合って、建設的な議論にしていただきたい。

<与党案提出者に対して>

  • 前回の委員会における「与党案については、過半数の賛成をもって成立させることも可能であるが、それ以上の幅広い合意を目指していく」との船田委員の発言に関して、与党案提出者としての船田議員と斉藤議員に所見を伺いたい。

<民主党案提出者に対して>

  • 「幅広い合意を目指していく」ための与党側の呼びかけに対して、民主党案の筆頭提出者である枝野議員は、どのような姿勢で臨むのか伺いたい。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • (a) 国民投票の対象、(b)投票権者の年齢要件の二つの論点は、我が国の法制度及び社会制度の根幹に大きな影響を与えるものであり、その影響を見極めた上、周到な対応策が必要となるが、海外調査の結果も踏まえ、両案の提出者の認識を伺いたい。

<与党案提出者に対して>

  • 投票権者の範囲について、与党案・民主党案ともに、公職選挙法上の選挙権停止者や選挙権を有しない者についても国民投票の投票権者として認めているが、その趣旨について伺いたい。

古川 元久君(民主)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 各党の提出者は、現時点における憲法改正の必要性についてどのように考えるか。
  • 両案の提出者の憲法改正についての立場を踏まえ、今なぜ国民投票法の制定が必要と考えるのか。
  • 憲法改正に関する議論と国民投票法に関する議論は区別して進められるべきとの認識を持っているが、国民の中には憲法改正のための国民投票法の制定だとする疑念の声が上がっている。両案の提出者はこの疑念をどう払拭するつもりか。

<民主党案提出者に対して>

  • 両案では、憲法改正案は「内容において関連する事項」ごとに発議されることとなっているが、その判断主体は国会であり、結局、3分の2の多数で決めれば、例えば、憲法9条の改正と環境権の創設を同時に問うような一括改正案も発議されてしまうのではないかとの危惧があるが、どのように考えるか。

赤松 正雄君(公明)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 憲法調査会における5年間の調査は、憲法改正を目的としたものではなく、憲法に関し、ありとあらゆる角度から調査をするものであった。これに対し、憲法審査会は、常任委員会のように、議案提出権や採決権を持つものという理解でよいか。

<与党案提出者に対して>

  • 具体的な憲法改正原案を審査する前に、「なぜ憲法を改正する必要があるのか」、あるいは、「なぜ憲法を改正する必要はないのか」といった議論をすべきである。そして、そのような議論は、議案提出権や採決権を持たない場でなければ、落ち着いて行うことができないと考えるが、いかがか。

<民主党案提出者に対して>

  • 落ち着いた議論をするために、憲法審査会設置後の一定期間は、憲法改正原案を前提としない調査を行うということも考えられるとの与党案提出者の答弁であったが、そうであれば、そもそも、「憲法改正を目的としつつ、議案提出権や採決権を持たない機関」を設置すればよいと考えるが、いかがか。

笠井 亮君(共産)

<与党案提出者に対して>

  • 憲法制定後60年にわたって改憲手続法が制定されなかったのは、国民が改憲を具体的に必要としなかったためであり、また、世論調査の結果も、改憲は、国民にとっての重要課題ではないことを示している。今、なぜ、改憲手続法を制定する必要があるのか。

<民主党案提出者に対して>

  • 改憲手続法は、単なる形式的な手続法ではなく、現に進行している改憲の動きと密接不可分に結びついていることは紛れもない事実と考えるが、枝野議員の見解を伺いたい。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 憲法問題には、憲法の制定権者である国民の意思が最も重要であり、それが最大限に反映されなければならないと考えるが、両案の提出者の見解を伺いたい。

<与党案提出者に対して>

  • 与党案では、「過半数の意義」について有効投票総数の過半数とし、かつ最低投票率要件も設けられていないが、その理由を伺いたい。
  • そのような与党案の下では、仮に投票率が50%であった場合、2割台の有権者の賛成で改憲案が成立してしまう。先ほどの「国民の意思を反映させる」との答弁にもかかわらず、なぜこのような結論になってしまうのか。
  • 「広報協議会」の委員の構成並びに政党に与えられるテレビ・ラジオの無料放送枠及び新聞広告の無料掲載枠の配分は、所属国会議員数の比率によるものとされている。これにより、改憲案が発議された場合の広報については、改憲に賛成した政党にとって圧倒的に有利な制度になっていると考えるが、見解を伺いたい。
  • 与党案において公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動が禁止されているが、例えば、大学の教員が、自らの研究成果に基づき憲法を守るべきと主張することは、規制の対象となるのか。

辻元 清美君(社民)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 憲法は、国民が権力に対して制限を課す規範であると考えるが、各党の提出者は、憲法をどのような規範であると捉えているか。

<与党案提出者に対して>

  • 憲法改正手続法案は、具体的な憲法改正案と切り離して議論することができない。船田議員は、憲法改正手続法案の提出者であり、また、自民党新憲法起草委員会の小委員長でもあったのであるから、両者を切り離した議論を行うことができないことを認めるべきではないか。
  • 提出されている法案が単なる手続法案であると言うのであれば、憲法改正原案の審査・起草権限を有する「憲法審査会」に関する規定を本法案から削除するのが筋ではないか。
  • 国会内における憲法改正案の発議の過程と、発議後の周知・広報の過程は区別して論じるべきであるから、「広報協議会」の委員割当基準は、議席数按分ではなく改憲賛成派・反対派半数ずつとすべきではないのか。

<民主党案提出者に対して>

  • 政党に与えられるテレビ・ラジオの無料放送枠、新聞広告の無料掲載枠について、その配分を所属国会議員数の比率によることとすると、国民に憲法改正過程に対する不公平感・不信感を抱かせることとなり、改憲派にとって、かえって不利な結果を招くと考えるが、いかがか。

<発言>

  • 世論調査によれば、憲法改正国民投票法案について、よく知らない国民の割合は66%にも上る。主権者である国民を置き去りにしたルール作りはあってはならない。

>中山委員長の発言

  • 辻元委員に申し上げるが、その原因として、国の基本法である憲法に関する学校における教育の在り方が問題であると考えている。憲法教育の充実について辻元委員の協力を期待する。

糸川 正晃君(国民)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 国民投票法案の提出に至った意義について、憲法改正の必要性を含めて伺いたい。
  • 先国会では、理事懇談会において、精力的に憲法改正手続に関する論点整理が行われたと聞いているが、その状況や経過、また、その結果が双方の案にどのようにフィードバックされたのかを伺いたい。
  • 国民投票制度の議論を行うことは、国民の憲法に対する認識を深めることに資すると考える。国民は憲法改正を望んでおらず、国民投票制度も必要でないとの意見も聞くが、むしろ国民投票制度を設けた上で国民の判断を仰ぐべきであると思うが、いかがか。
  • 法案を審議し、法律として制定するに当たっては、法案の内容を広く国民に周知する必要があると考える。今後、この法案の周知のため、どのようなことを考えているのか。
  • 昨年の解散総選挙は、ある意味で国民投票的な運用がなされたとも言えるが、その当否を含めて、一般的国民投票制度の採否の理由について伺いたい。
  • 投票権者の年齢要件が与党案では満20歳以上、民主党案では満18歳以上と規定されているが、それぞれの年齢要件を定めた根拠について伺いたい。

<与党案提出者に対して>

  • 憲法に国民の声を反映させるためには、国民投票運動は原則自由とし、規制はあくまでも必要最小限のものとすべきであると考える。運動規制についての原則的な考え方を伺いたい。