平成18年12月5日(火) (第7回)

◎会議に付した案件

日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外5名提出、第164回国会衆法第30号)
日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)

上記両案について、日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員長近藤基彦君(自民)から、小委員会の経過及びその概要について報告を聴取し、小委員である委員から補足的発言があった。

(補足的発言を行った小委員である委員)

 葉梨 康弘君(自民)

 園田 康博君(民主)

 赤松 正雄君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)


◎小委員長報告

近藤 基彦小委員長(自民)

日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会における審査の経過及びその概要について、御報告申し上げます。

本小委員会は、去る11月30日、会議を開き、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」及び「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」、特に国民投票の対象・投票権者の範囲・投票用紙への賛否の記載方法及び過半数の意義・周知期間並びに国民投票無効訴訟等に係る事項について、テーマごとに分けて自由討議を行いました。

小委員会における議論の内容を本委員会全体で共有するために、その概要を簡潔に申し上げますと、まず、投票用紙への賛否の記載方法と「過半数」の意義については、与党案では、賛成するときは○、反対するときは×を記載するとともに、有効投票総数の過半数で国民の承認があったものとされ、民主党案では、賛成するときは○を記載し、反対するときは何も記載しないとともに、投票総数の過半数で国民の承認があったものとし、白票も賛否判断の基礎となる母数に算入することとされています。
与党案提出者・民主党案提出者から、現在提出されている法案における方式よりも、国民の意思をより正確に反映する方法があれば検討したいとの発言があり、これについて、与党案提出者から、(1)○×を自書する方式ではなく、「賛成」「反対」の二つの欄を設け、投票人はどちらかの文字を○で囲むことによって投票する方式に変更するとともに、国民の多様な意見をくみ取るために、賛成・反対のいずれかの文字を×や二重線で消すような記載についても柔軟に対応することとしてはどうか、(2)その上で、白票は賛否判断の基礎となる母数には算入しないこととする、との提案があり、このような方法をとることにより、白票の割合は相当減ずるのではないか、との意見が述べられました。
この提案に対しては、民主党案提出者からも、選挙と異なり、他事記載を厳格に排除する必要はないと考えており、投票者の賛否の意思が確認できるものをできるだけ無効票にしないような方式として、与党案提出者からの提案は検討に値するとの意見が述べられました。
また、この論点に関連する論点である最低投票率制度については、憲法96条の「過半数」とは有権者総数の過半数であるとの見方もあり、最低投票率要件を定めるべきとの意見が述べられた一方、与党案提出者・民主党案提出者からは、(1)それは憲法が要求する以上の要件を加重するものであり、憲法違反の疑いがあるとともに、(2)ボイコット運動を誘発する可能性がある、また、(3)憲法改正が予想されるテーマには、国民の関心が高いとは言えないものが少なからず想定され、民主主義においては棄権する自由というものも考えられる、といった否定的な見解が述べられました。

次に、国民投票に関する訴訟については、与党案・民主党案ともに、国民投票が公正に行われ、その結果が適正に決定されることを確保するため、当該訴訟の制度が設けられております。
憲法改正の限界と無効訴訟については、憲法改正の限界について憲法に明記している国もあり、憲法改正の限界を超える改正が行われた場合には司法審査の対象となることとすべきであるとの意見が述べられました。
これに対しては、与党案提出者・民主党案提出者から、仮に、憲法改正の限界を超える改正案が発議され、国民投票で承認された場合、内容の是非を決定するのは、発議権を有する国会、主権者である国民であり、司法審査の対象となることは想定されないとの意見が述べられました。
無効訴訟の出訴期間については、与党案・民主党案ともに、法的安定性の要請から、国民投票の結果の告示の日から30日以内と規定されております。
これに対しては、(1)憲法改正においては、国民投票の結果の確定が遅れても政治的空白は直ちに生ぜず、また、(2)行政事件訴訟法においても近時の改正で出訴期間が6か月に延長されていることからも、出訴期間が短くてよいということにはならないとの意見がありました。
訴訟の管轄裁判所については、与党案・民主党案ともに東京高等裁判所の専属管轄としているところでありますが、各地の裁判所への出訴も認めて、国民の司法審査を受ける権利を十分に保障すべきであるとの意見が述べられましたが、これに対しては、与党案提出者から、国民投票の訴訟が複数提起された場合の併合の便宜等を考慮したものであり、迅速かつ統一的判断の必要性から東京高等裁判所のみに限定した、との発言がありました。

次に、国民投票の対象については、与党案では憲法改正国民投票のみが対象とされ、民主党案では国政における重要な問題に係る案件についての一般的国民投票をも含めることとされております。
与党案提出者からは、民主党案が規定する一般的国民投票に対して、間接民主制との整合性など慎重に検討すべき課題が多いことから、今回の法案では憲法改正国民投票に限定すべきであるとの意見が述べられましたが、一方で、国民の意思を推し量る意味で、憲法問題などに限った予備的な国民投票は検討に値するとの発言がありました。
これに対し、民主党案提出者からは、去る11月16日の小委員会、同月30日の午前中の委員会での発言なども前提に、一般的国民投票の一類型として、憲法問題などに限った予備的国民投票を検討したいとの発言があり、そもそも、民主党案における一般的国民投票は、政治が判断することのできない、しかし何らかの法整備は必要であるという問題、例えば、「脳死」や「代理出産」について、法整備の大きな方向性を事前に国民に問う「予備的国民投票」的なものを想定していたとの発言がありました。さらに、予備的国民投票については、他党の小委員からも、民主主義を豊富化するものであるとの賛意が示されたところであります。
そして、与党案提出者からは、憲法問題などに関する予備的国民投票の制度設計については、直ちに今回の法案に盛り込むのではなく、まずは憲法審査会における議論・運用の中で対処してはどうかとの提案がなされ、これに対し、民主党案提出者からは、そのような予備的国民投票に関する調査・検討が本法によって設置される憲法審査会の対象であることを確認できるのであれば、提案は検討に値するものである、との応答がなされました。

次に、投票権者の範囲に関しては、与党案においては、20歳以上の国民が国民投票の投票権を有することとされ、民主党案においては、原則として18歳以上の国民が国民投票の投票権を有することとされ、案件によっては、国会の議決により、当該投票権年齢を16歳まで引き下げることができることとされております。
与党案提出者から、国民投票法の本則で投票権年齢を18歳以上と規定した上で、附則において、例えば、公布後3年までに、成人年齢等に関する法制上の措置を講ずるものとし、当該措置が講じられるまでの間は、20歳以上を投票権年齢とすることを検討したい、との発言がありました。
これに対して、民主党案提出者からは、(1)本則で投票権年齢を18歳以上と規定するとの提案に対し、積極的に評価したい、また、(2)成人年齢等に関する法制上の措置については、定められた年限までに政府がきちんと措置を行う担保をとっていただきたい、との意見が述べられました。
これに関しては、与党案提出者から、その趣旨に沿うべく、政府と一体の与党として、責任を持って、知恵を出していきたいとの発言がありました。

会議を通じての、小委員長としての感想を申し上げれば、今回、第4回の小委員会において、小委員同士が個別の論点について掘り下げた議論を行ったことは、大変、意義深いものであったと感じております。
議論の対象となった論点は、国民投票制度の根幹となるものであり、また、それぞれの論点において、与党案提出者・民主党案提出者から特筆すべき大きな歩み寄りの発言がありました。
具体的に申し上げますと、(1)投票用紙への賛否の記載方法と「過半数」の意義について、投票用紙の様式及び運用の工夫により、国民の多様な意見を投票に反映させるという与党案提出者からの発言、及びこれに対する民主党案提出者からの「検討に値する」との発言、(2)国民投票の対象について、与党案提出者・民主党案提出者からの憲法問題などに関する「予備的国民投票」を憲法審査会において調査・検討していくとの発言、並びに(3)投票権者の範囲について、与党案提出者からの、投票権年齢を18歳以上とすることを本則において規定し、附則に関連法制の整備及びこれに伴う経過規定を設けるとの発言、及びこれに対する民主党案提出者からの、「高く評価したい」との発言であり、これらの発言は、それぞれが国民投票制度の根幹に関わる重要な論点に対するものであるとともに、与党案と民主党案の大きな相違点となっていた部分に対する歩み寄りの発言であり、画期的なことであると感じました。

小委員会も、既に4回開催され、各回において、濃密な議論が行われてまいりました。今回の小委員会における議論により、論点を概ね一巡しようとしております。小委員会において各小委員からなされた活発な発言、特に、懸案となっていた重要な論点に関する積極的な発言があったことは、最終的な合意に向けての大きなステップとなると確信した次第です。

以上、御報告申し上げます。


◎補足的発言を行った小委員である委員及び主な発言事項

葉梨 康弘君(自民)

  • 投票用紙への記載方法については、国民の投票意思が明確であるなら、できるだけ投票の結果に反映させようとする点において、与党案提出者・民主党案提出者の認識は一致している。小委員会における議論の経過から、この論点についての両者の合意は可能であるとの感想を持った。
  • 最低投票率制度の導入については、憲法改正の問題といっても、国民投票において必ずしも高い投票率を望めない技術的なテーマもあるので、個人的には反対である。今後、投票率を上げるための施策についての議論を、憲法審査会で行っていくべきである。
  • 国民投票無効訴訟との関係で、改正限界論が取り上げられたが、改正の限界を超えているか否かは、司法の判断に任せるのではなく、立法府の責任として具体的意見を提示していくべきであり、今後、憲法審査会の中で、憲法改正の限界について議論していく必要がある。
  • 予備的国民投票に関して、国民の意思の吸収方法を含め、憲法改正一般に対してなのか、統治機構のような特定事項の改正に対してなのか等について、今後、憲法審査会で制度設計を行っていくべきである。
  • 投票権年齢について、与党案提出者から法案の本則において18歳以上とすることを検討するとの発言があり、これに対し、民主党案提出者から高く評価するとの発言があったことは画期的であった。個人的には、より若い世代が国の方向性に関する決定に加わっていくことに賛成であり、また、この点は、憲法教育の在り方に関連しており、憲法審査会において議論し、その過程において国民の理解を深めていくことが必要である。

園田 康博君(民主)

  • 投票用紙への記載方法については、憲法96条の理念に立ち返り、国会の発議に対する積極的な承認があるか否かで判断すべきである。そのような意思表示をより完全に近い形で把握することのできる投票方法が提案されれば、柔軟に対応したい。
  • 投票所に行かずに投票権を放棄する「棄権」は、自己の一票を、賛否いずれの票としても利用しないとの意思表明と捉え、有効な票としてカウントしないことが適切であると考える。他方、投票所まで行き、国会の発議を是とする意思を示さなかった者、又は、他事記載などによりその意思を明確に示すことのできなかった者の票については、承認の意思がなかったものとして取り扱うのが自然である。
  • 民主主義社会においては、「棄権する自由」も考慮する必要があると考えており、最低投票率要件を設けることには反対する。むしろ、投票率を上げるような施策を講じることが必要である。
  • 一般的国民投票については、憲法問題に限った予備的な国民投票としての運用であれば、間接民主制との抵触など憲法上の懸念を排除することができると考えている。また、その制度設計が憲法改正国民投票とは切り離して議論されるのであれば、その検討が、憲法審査会の所管事項であることを担保していただきたい。
  • 投票権者の範囲について、本則において18歳以上と規定し、附則において成人年齢等に関する法制上の措置を規定するとの与党案提出者の積極的な提案を高く評価する。

赤松 正雄君(公明)

  • 一般的国民投票制度は、憲法改正国民投票制度と切り離し、今後、別途、大いに議論すべき課題である。
  • 予備的国民投票は、事前に国民の意思を察知し、国民と国会の相互作用が生まれることを期待できるため、その必要性を強く感じるが、法案に具体的に明記するのではなく、今後の憲法審査会で議論されるべき対象である。
  • 国民投票の投票権年齢と国政選挙の選挙権年齢は一致させるべきである。個人的には両方を18歳以上としてもよいと考える。
  • 民主党案においては、案件によっては投票権年齢を16歳以上にできることとしており、個人的には16歳以上とすることもよいとは思うが、義務教育や憲法教育とも大きく関わる問題であり、まだ解決すべき課題がある。
  • 以上のことから、投票権年齢を原則18歳以上とした上で、当面は20歳以上とするのが妥当である。

笠井 亮君(共産)

  • 小委員長報告において、「与党案と民主党案に大きな歩み寄りがあった」、「最終的な合意に向けての大きなステップとなる」等の文言があったが、これは改憲派の強い執念の下でのものであり、両案の根本的な問題点は全く解決されていない。国民の間においては何ら合意もステップもなく、国民が置き去りにされた議論である。
  • 投票用紙への賛否の記載方法と「過半数」の意義については、与党案・民主党案ともに少数の賛成で改憲案が承認されるような制度となっており、小委員会における議論も、どのようにすれば与党と民主党が合意できるかという点に終始したことは残念である。
  • 最低投票率制度の問題を含め、与党案・民主党案ともに、憲法96条に定める「過半数」の意義について、真摯に検討されているとは言い難く、両案の妥協を探る動きにおいては、主権者である国民が不在である。
  • 与党案・民主党案ともに、改憲案に関し、国民の訴訟を起こす権利を不当に制限しようとしていることは問題である。
  • 前回までの小委員会において明らかになった問題点のうち、広報協議会の構成など、歩み寄る意思のないものについては、全く手を付けておらず、国民からの疑問は解消していない。
  • さらに参考人から意見を聴くなど徹底した審議が必要であり、とするならば、会期末の迫った現在、廃案しかないことを強調したい。

辻元 清美君(社民)

  • 憲法96条に定める「過半数」については、全有権者の過半数とする見方もあり、憲法改正には、多くの国民からの支持が必要である。したがって、最低投票率要件を設けることは、憲法の趣旨を逸脱しないと考える。
  • 各地の住民投票においてもボイコット運動が成り立たないのは明確であり、また、国民は棄権する自由を有している。たとえ、どのような運動が起きたとしても、最低投票率要件がクリアされ、国民の意思がはっきり示されたということが、憲法の正統性を担保する上で、大きな意味を持つと考える。
  • 「過半数」の意義、最低投票率要件を設けることの是非については、専門家及び主権者である国民がどのように考えているのかを調査すべきである。
  • 諮問的国民投票については、民主主義を豊富化する観点から、一定の評価をしたい。ただ、いきなり憲法改正国民投票を行うのではなく、まずは一般的・諮問的国民投票制度のみを整備し、数度の経験を得た後に、最も大切な憲法の取扱いに関する議論を進めるべきである。
  • 主権者である国民からの改正の限界を超えた改憲案に対する異議申立てをどのように取り扱うのか、十分に検討すべきである。
  • 訴訟の管轄裁判所は、東京高等裁判所の専属管轄とすべきでなく、各地の裁判所への出訴を認めるべきである。
  • 憲法改正案が発議され、国民投票が行われるまでの期間は、最大でも180日となっているが、国民に対する周知広報及び国民間の議論のためにも、より長くする方向で再検討すべきである。
  • 小委員会という限られた場において、一部の議員のみで議論を進めるのでは、国会の意思と主権者の意思が乖離するばかりであり、より国民の声を聞く必要がある。