平成18年12月14日(木) (第9回)

◎会議に付した案件

1 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外5名提出、第164回国会衆法第30号)
日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)

(1)上記両案について、日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員長近藤基彦君(自民)から、小委員会の経過及びその概要について報告を聴取し、小委員である委員から補足的発言があった。その後、提出者枝野幸男君(民主)、船田元君(自民)、赤松正雄君(公明)、葉梨康弘君(自民)及び園田康博君(民主)に質疑を行った。

(補足的発言を行った小委員である委員)

 船田 元君(自民)

 園田 康博君(民主)

 赤松 正雄君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

(提出者に対する質疑者)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 糸川 正晃君(国民)

(2)上記両案について、提出者から発言があった後、委員から意見を聴取した。

(発言を行った提出者)

 船田 元君(自民)

 枝野 幸男君(民主)

(発言を行った委員)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

2閉会中審査に関する件

(1)上記両案並びに日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件について、賛成多数をもって議長に対し、閉会中審査の申し出を行うことに決した。

 賛成―自民、民主、公明、国民

 反対―共産、社民

(2)閉会中審査案件が付託された場合における日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会について、賛成多数をもって存置することに決した。

 賛成―自民、民主、公明、国民

 反対―共産、社民

(3)閉会中審査案件が付託された場合における委員会への参考人の出頭要求及び小委員会への参考人・政府参考人の出頭要求並びに委員派遣の承認申請について、いずれも、賛成多数をもって委員長に一任することに決した。

 賛成―自民、民主、公明、国民

 反対―共産、社民

3 中山委員長から挨拶があった。


◎小委員長報告

近藤 基彦小委員長(自民)

日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会における審査の経過及びその概要について、ご報告申し上げます。

本小委員会は、去る12日、会議を開き、参考人として、日本放送協会理事 石村英二郎君、読売新聞東京本社論説副委員長 上村武志君、毎日新聞論説委員 近藤憲明君、産経新聞東京本社論説副委員長 中静敬一郎君及び日本弁護士連合会副会長 吉岡桂輔君をお呼びし、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」及び「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」、特に国民投票運動規制・罰則並びにメディア規制・国民に対する周知広報についてご意見を聴取した後、これらの参考人に加えて、日本弁護士連合会憲法委員会事務局長 菅沼一王君にもご参加いただき、懇談を行いました。

会議における参考人の意見陳述の内容を本委員会全体で共有するために、その概要を簡潔に申し上げますと、

石村参考人からは、まず、4月に出席した委員会において、放送のみを規制することには自主規制や第三者機関を設けたとしても表現の自由との関係から問題があると主張したが、この主張に沿って与党案・民主党案が報道を原則自由としたことは評価したい旨の発言がありました。
次いで、自主自律の立場から公平・公正に的確な情報を分かりやすく放送し、放送法等に基づき、視聴者の要望に応えるというNHKの基本姿勢が示されました。
その上で、(1)一般論として、メディアにおける意見広告は原則自由であるが、放送される賛否の量が著しく偏らない仕組みが必要である、(2)放送事業者の自主的・自律的な判断を前提としつつ、投票直前の広告放送の禁止が適当かについてさらに議論が必要である、(3)無料放送が認められるのが国会に議席を有する政党だけとするのが適当なのか、さらに議論が必要である、(4)無料放送の割当基準は、賛否平等になるよう修正が検討されるべきである、(5)広報協議会が国会に設置されることは理解できるが、報道の自由への配慮が必要であり、広報協議会の構成や役割等については、検討の余地がある、(6)国民投票公報については、さまざまな資料を多角的に、分かりやすく掲載する必要がある、との意見が述べられました。

上村参考人からは、まず総論として、(1)国民投票に当たっては、幅広い、自由闊達な論議が望ましいが、国の将来への責任、論議と投票の公正さのために、必要な措置をとるべきである、(2)メディアにおける意見広告を無制限に認めるかは、新聞とテレビ・ラジオという放送媒体により異なる、との見解が述べられました。
その上で、(1)投票日の7日前からの広告放送の制限に関して、投票直前に投票の意義を損なう過熱した広告が氾濫してはならないと考えている、(2)政党のみに無料広告を認めるのは、妥当である、(3)無料広告の割当基準として、賛否平等も理解できないわけではないが、議席数按分にも理由があるのではないか、発議の段階である程度「民意」は現れており、単純な平等と公正はイコールではない、(4)広報協議会を国会に設置することや委員を所属議員数の比率にすることは妥当である、との意見が述べられました。

近藤参考人からは、まず総論として、(1)メディア規制は憲法で保障する報道の自由に反するものであり、あらゆる規制に対して基本的に反対する、(2)憲法改正の賛否を問う国民投票は主権者である国民が公正に判断するために、自由な憲法論議を保障するような制度設計をすべきである、(3)広告も表現の一形態であり、自由な意見表明、情報流通を阻害する規制には基本的に反対するとの見解が述べられました。
その上で、(1)メディアにおける意見広告を無制限に認めることの是非については、基本的に規制すべきでない、(2)投票日の7日前からの広告放送の制限については、反対である、(3)政党のみに無料広告を認めることの是非については、基本的に政党以外の団体にも無料広告を認めることが望ましい、(4)無料広告の割当基準については、公平性の見地から賛否平等になるようにすべきである、(5)広報協議会を国会に設置することの是非については、仮に国会に置かれるとしても、最低限外部からの有識者委員を入れるべきであり、その構成については、賛否の意見が平等に割り当てられるよう委員を選任すべきである、(6)国民投票公報の内容については、賛否平等と分かりやすさが原則である、との意見が述べられました。

中静参考人からは、民主主義と自由の維持・発展が言論機関の最大の使命であることから、憲法改正国民投票の実施に際し、多種多様な情報や材料を正確かつ公正に国民に提供することが使命であるとの産経新聞の立場が示された上で、憲法改正手続法案には大きな意義があり、その早期成立を期待するとの意見が述べられました。
その上で、(1)メディアにおける意見広告は、幅広い情報や判断材料を提供できるものであることから、制限を加えるべきでない、(2)投票日直前は議論が最も活発になる時期であり、広告放送を禁止すべきではない、(3)無料広告が認められるのは政党を基本と考え、政党以外については慎重に判断すべきである、(4)無料広告枠の割当基準については、少数意見は最大限尊重されなければならないが、基本的には憲法改正が各議院の3分の2の多数で発議されたことを尊重するのが望ましい、(5)広報協議会は憲法改正案を客観的かつ中立的に周知広報する機関と理解しており、その構成については、基本的には発議を尊重した基準が望ましい、(6)国民投票公報には、憲法改正の理由を説明した上で、賛否を併記すべきである、(7)特定公務員の範囲、公務員等の地位利用による運動禁止、買収罪については、国民投票の公正確保のため与党案で問題ない、との意見が述べられました。

吉岡参考人からは、まず、国民投票運動の規制について、憲法改正のための国民投票においては、公職選挙法の手法による規制がなされるべきではなく、国民の自由な意見表明、自由闊達な議論ができることが重要であるということを前提に、(1)特定公務員の範囲が裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官に及ぶのは反対である、(2)公務員等の地位利用による運動禁止及び買収罪等の設置は、自由な意見表明や活動を萎縮させる危険があり、反対であるとの意見が述べられました。
次に、意見広告の規制については、(1)メディアにおける意見広告は、できるだけ制限をしないで自由に認めるという原則に立ちつつ、賛成意見も反対意見も同等に扱うとともに、資金力による不公平が生じないような工夫が必要である、(2)無料広告は、政党等以外の団体や市民も無料で利用できるための工夫が検討されるべきである、(3)投票日前の放送規制は、表現の自由の侵害として、許されない、との意見が述べられました。
最後に、広報協議会については、周知の公正性・平等性を担保するために、賛否の意見が平等に反映されるように委員を選出すべきであるとともに、外部委員の選任も検討すべきであるとの意見が述べられました。

このような参考人のご意見を踏まえて、小委員及び参考人の懇談が行われ、小委員及び参考人の間で、活発な意見の交換が行われました。

特に今回のテーマである国民投票運動規制・罰則並びにメディア規制・国民に対する周知広報について申し上げますと、まず、公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動規制については、(1)職権濫用罪等が適用される場合以外に、可罰性のある地位利用行為が実際上あり得るのか疑問である、との意見が述べられた一方、(2)与党案提出者から、萎縮効果を生じないよう定義を厳格化するとともに、適用上の注意を規定することで対応している、との意見が述べられました。

次に、国家公務員法等の「政治的行為」の制限規定の適用の是非については、国民投票運動に関しては、そのような規定を適用すべきではないのであり、先日の委員会において、民主党案提出者から、国民投票運動には、国家公務員法等の「政治的行為」の制限規定を適用しないことを明記する修正を行う旨の方針が示されたが、この点について与党の態度は不明であるとの発言を受けて、与党案提出者から、与党としてもその旨の修正を行う方針である、との発言がありました。

次に、メディア規制・国民に対する周知広報についてですが、テレビ等における有料の意見広告の制限の是非については、資金量の多寡による実質的不公平が生じるのではないかとの問題意識から、賛否の意見が同じくらいの量になるような総量規制を工夫すべきである、との指摘がなされました。
この指摘に対して、(1)賛否の意見の取扱いの平等について配慮規定を設けることや、投票日前7日間の広告放送の制限が、一種の総量規制として機能することに着目し、その期間を14日間に延長することも考えられる、(2)意見の内容に着目した規制を行うより、形式的に「国会が憲法改正案を発議した日から投票期日までの間」広告放送を全面的に禁止することも考えられる、との意見が述べられました。
全面的禁止については、(1)表現の自由の侵害として憲法上許されず、まずメディアの自主規制に委ねるべきである、との意見が述べられた一方、(2)権力との関係においてはメディアの自主規制が正当化されるとしても、市民団体との関係においてメディアが自主規制により、恣意的に市民団体の表現の自由を制限することが正当化できるのか疑問である、との意見が述べられました。

政党等のみに無料広告を認めることの是非については、(1)政党以外の団体にも認めるべきである、との意見が述べられた一方、(2)政党が中心となることは、議会制民主主義の下では当然である、(3)政党以外の団体のうちどのような団体に無料広告が認められるかの要件の設定が困難である、との意見が述べられました。これを受けて、(4)政党が指定した団体に無料枠を割り当てることも、修正の方法として考えられる、との意見が述べられました。

無料広告枠の割当基準については、賛否の意見に平等に割り当てられるべきであるとの意見が、ほぼ共通の認識であったと思います。

広報協議会の業務については、民主党案提出者から、裁量の余地のないもののみを想定しており、説明会の説明内容等については裁量の余地があることから、民主党として説明会の規定を削除する修正を行いたい、との意見が述べられました。
また、広報協議会の構成については、(1)国民の議論をより喚起するため、国会議員だけでなく、外部の有識者委員を選任すべきである、との意見が述べられた一方、(2)広報協議会の業務が裁量の余地のないものであれば、外部委員の選任は意味がない、との意見も述べられました。

会議を通じての小委員長としての感想を申し上げれば、第1回、第2回の小委員会において、国民投票運動規制・罰則並びにメディア規制・国民に対する周知広報について、参考人をお招きして議論を行ったのに引き続き、今回、小委員会において改めて議論を行い、このテーマについて十分な議論ができたものと感じております。
また、今回、与党案提出者から、(1)公務員の政治的行為の制限規定の適用の是非について、その不適用の規定を修正で明記したい、(2)無料の意見広告を政党のみならず、その指定する団体にも認める修正を行いたい、と見直しを行う旨の発言があったことは、特筆すべきことであると感じました。
他方、テレビ等における有料の意見広告の制限については、一方ではできるだけメディアの自由な表現活動に任せるべきであること、他方では資金力の多寡による賛否の意見の不平等が生じないようにするべきであること、この二つの要請のバランスをどこでとるべきかという問題意識を共有しました。ただ、(1)投票日直前期における制限の是非及びその制限期間の長短と、(2)賛否を平等に取り扱う旨の配慮規定の是非に関して、その具体的な制限の在り方についてはなお意見の相違があり、今少し工夫が必要であると感じました。
言うまでもなく、民主主義社会の基盤である表現の自由に基づいて、自由闊達な国民投票運動が展開されるとともに、多様な観点からの自由な報道がなされることが、国民の知る権利に奉仕し、投票に際しての判断に資するものであります。
このような認識に立ち、各委員が知恵を出し合ってきたところであり、合意形成まであと僅かであると実感した次第であります。

今回のテーマである「国民投票運動規制・罰則並びにメディア規制・国民に対する周知広報について」は、国民投票に際して国民の判断の基礎を提供する重要な問題であると考えております。本委員会におかれましては、小委員会における議論を踏まえて、さまざまな角度から、国民投票運動規制・罰則並びにメディア規制・国民に対する周知広報に関する共通認識の形成を模索していただければと思っております。

以上、ご報告申し上げます。


◎補足的発言を行った小委員である委員及び主な発言事項

船田 元君(自民)

  • 有料広告放送の制限の是非については、「できるだけ規制はしない」という要請と「資金力の多寡による不公平をなくす」という要請のバランスをどうとるかという問題意識から、投票日前7日間の広告放送の制限が一種の総量規制として機能することに着目し、その期間を14日間に延長することとしたい。
  • 広告の条件の平等に関し配慮規定を設けることを提案したが、これは、内容面の規制ではなく、放送したり新聞掲載する際の料金、時間帯、曜日等の取扱いに関する平等を想定したものである。したがって、外形的な公平性を担保するためのものであり、決して新たなメディア規制を設けようとするものではない。
  • 政党等以外の団体にも無料広告枠を割り当てることについては、どのような団体に割り当てるか等の要件設定が難しく、もしこれを認めるとしても、割り当てられた政党等が指名する団体に行わせることができることにとどめるべきである。
  • 広報協議会が作成するパンフレットに掲載される予定だった「解説等」については、その内容に裁量の余地があるため削除することとしたい。広報協議会が開催する「説明会」については、これを削除すべしとの意見もあったが、国民への周知にとって重要なものであるから、これは残しておくべきである。

園田 康博君(民主)

  • 有料広告放送の制限については、報道の自由、表現の自由が尊重されるべきであるが、小委員会において、国民投票の公正確保の観点から、制限期間を延長すべきとの意見や配慮規定を設けるべきとの意見が述べられた。
  • メディアの自主規制を尊重する立場に変わりはないが、テレビCMにおいて賛成派、反対派を同等に取り扱うことや、放送時間の公平のような外形的平等の担保が放送機関の自主規制で可能か、検証されなければならない。
  • 仮に複数の事項が発議された場合、それぞれの事項で賛否の組合せは多種多様になり得る。このように単純に賛否で割り切れない場合、これらを報道機関の自主規制により公平に取り扱うことが本当に可能であるのか、議論する必要がある。
  • 新聞を用いた無料広告については、国民投票公報の存在もあり、あえて政党等にのみ無料枠を割り当てる必要はないと考え、削除する方向で検討している。
  • 政党等が指名する団体が、当該政党に割り当てられた無料広告枠の範囲内で、無料で放送を行うことが可能となるように修正を検討したい。
  • 広報協議会の業務は、改正案の要旨及び新旧対照表の作成並びに賛成意見、反対意見のスペース配分をチェックするものであり、裁量の余地のないものをオーソライズするものである。
  • 当初、法案に盛り込んでいた説明会の開催については、裁量の余地のあるものであり、削除する方向で考えている。
  • 公務員の政治的行為の制限規定の適用除外については、与党からも一定の評価を得られたものと考える。

赤松 正雄君(公明)

  • 小委員長報告について補足することはない。また、与党案提出者である船田議員からの補足的発言については、修正に関する発言を含め同意見である。

笠井 亮君(共産)

  • 前回の小委員会では、改憲及び改憲手続法整備を是とする参考人を含めた全参考人から、法案の抱える諸問題について多岐にわたる指摘がなされていたことを強調しておきたい。
  • 無料広告枠を政党等のみに認めることについて、国会の役割は発議までであり、その後は主権者国民の手に委ねられているとの憲法96条の基本原則から疑問を呈する参考人の発言を、我々は重く受け止めるべきである。
  • 公務員等の地位利用による国民投票運動を禁止する規定について、地位利用の定義の明確化、罰則の削除等の修正を行ったとしても、この規定の存在そのものによる萎縮効果は残ってしまうとの参考人の指摘に、我々は注目すべきである。
  • 法案提出者により法案の修正が検討されているようであるが、法案提出者の議論は技術論に終始しており、原理・原則が踏まえられたものとはなっていない。そのような修正がなされたとしても、国民が両法案に対して抱く疑問・懸念は解消されないことを強調しておく。

辻元 清美君(社民)

  • 報道や広告の規制については、報道の自由の観点から望ましいものではなく、報道機関の自主的な規制に任せるべきという基本的立場は各参考人に共通していたが、その一方で、意見広告を全く無制限に認めることは国民投票の公平を損なう可能性があるという懸念も共通して提起された。
  • 有料広告放送については、メディアだけでなく広告を出す側も総量規制などの自主的ルールを作るべきという近藤参考人からの新しい提案については、真摯に検討すべきである。
  • 政党等のみに認められる無料広告枠の割当てについて、憲法改正において国会はあくまで発議の場であり、発議後に判断するのは政党等ではなく、主権者である国民ということが国民投票に関する議論の基礎になるという近藤参考人の意見に同感である。
  • 広報協議会について、第三者機関として設置すべきか、外部委員の選任を含め有識者等の意見を取り入れるべきかなど、検討の余地が大いにあるというのが各参考人の意見の大勢であり、両案から想起される姿と国民の抱くイメージの間に大きな開きがあると強く感じた。発議後に判断するのは主権者である国民であるという点をしっかり肝に銘じて検討すべきである。
  • 公務員等の国民投票運動に関し何らかの規制を設けることについて、参考人から懸念が示され、与党案提出者・民主党案提出者から、これに対し、理解を示す答弁があったが、さらに様々なケースを想定して議論を深めるべきである。
  • 小委員会の議論を通じて、発議後は賛成意見・反対意見を平等に扱って欲しいという国民の視点と法案の間に溝があり、また、テレビでの意見広告の在り方についてもまだまだ議論が必要であると感じた。こうした点を含め、まだ深めるべき論点が数多く提示されたので、本委員会で議論していきたい。

◎提出者に対する質疑者及び主な質疑事項等

笠井 亮君(共産)

<各党の提出者に対して>

  • なぜ無料広告枠を政党等のみに認めるのかについて、法案提出者の主張する理由は、政党等以外の団体をどのように認定するのかという点で「裁量の余地を排除することが不可能であるから」という理解でよいか。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 無料広告枠を政党等のみに認めることについて、複数の設問を有する改憲案が発議された場合には、賛否の組合せは多種多様となり得るのであり、また、国民の中には支持政党を持たない者もいるのであるから、果たして政党等が十分な受け皿となり得るのか疑問であるが、いかがか。

<各党の提出者に対して>

  • 有料広告放送の制限については、そもそも、憲法上最重要視される政治的言論の自由を、技術的問題の解決が困難であることを理由に法律で制限することは許されるのか、さらには、このような安易な理由による憲法の制限例を一度認めてしまうと、民主主義社会を揺るがす取り返しのつかない事態を招くおそれがあるのではないかとの小委員会における参考人の警告をどのように受け止めているか。

<発言>

  • 有料広告放送の制限の是非は、表現の自由が絡む重大な問題であり、慎重に議論すべき論点を残したまま短絡的に結論を出すべきではない。法案には、このような問題が多々含まれていることを指摘しておく。

辻元 清美君(社民)

<各党の提出者に対して>

  • 与党案・民主党案ともに、発議は「内容において関連する事項ごと」に行うとされているが、法案を提出している各党は、一度に国民投票にかけられる事項はどの程度の数と想定しているかについて、確認したい。
  • 無料広告枠の割当てを賛否平等となるように修正したいとのことであったが、複数の事項が憲法改正国民投票にかけられる場合において、各党によって賛否の組合せが異なるとき、その割当てはどのような取扱いになるのか。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 複数の事項が発議され、各党の賛否の組合せが異なる場合、広報協議会の構成はどのようになるのか。

<与党案提出者に対して>

  • 広告の条件に関する配慮規定を設けたいとの提案があったが、複数の事項が発議された場合において、広告主によって賛否の組合せが異なるとき、そのような広告を平等に取り扱うことは難しいと考えるが、いかがか。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 憲法改正案の周知期間を60日から180日としていることについて、国会における重要法案の審議日数を考えても、最も重要な憲法に関して国民の間で十分な議論を行うには180日では短すぎると考えるが、いかがか。

糸川 正晃君(国民)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 国民投票運動に際してのメディアの役割をどのように考えるか。
  • 有料広告放送の制限に関し、小委員会において、その禁止期間を7日間から14日間に延長することを検討する旨の発言がなされているが、その趣旨を伺いたい。
  • 与党案・民主党案ともに、国民投票運動及び罰則の規定の適用について注意規定を設けているが、この規定の趣旨について伺いたい。
  • 広報協議会を国会に設置する理由を伺いたい。
  • 広報協議会の役割に、国民投票運動に際し、報道機関が中立的な報道を行っているかを監視することが含まれるのか。

◎発言を行った提出者及び主な発言事項

船田 元君(自民)

  • 与党案をより良き法案とするための修正の方向について、改めて整理して説明したい。
  • 国民投票の投票権年齢については、諸外国の大勢に従って、本則において18歳以上とし、経過措置を附則に定めたい。
  • 広報協議会の名称を「国民投票広報協議会」とするとともに、国民投票公報の内容が恣意的にならないよう、その内容を解説等ではなく、新旧対照表等としたい。
  • 投票の方式については、投票用紙に印刷された賛成・反対の文字を○で囲む方式とするとともに、賛否の意思が判明する限りできるだけ有効票とする取扱いとしたい。
  • 国民投票運動の萎縮を避けるため、(a)国家公務員法等の「政治的行為」の制限規定について適用除外を明記し、(b)特定公務員から裁判官、検察官、警察官等を削除し、(c)公務員等の地位利用による国民投票運動の制限についてさらに要件を厳格にするとともに罰則を設けないこととしたい。
  • 有料広告放送の制限については、一種の総量規制に資することや期日前投票の期間に合わせるという見地から、その期間を投票日前14日間に延長したい。
  • 賛否の意見の平等を確保するため、広告の条件に関する配慮規定を置きたい。
  • 無料広告枠については、放送・新聞ともに、時間数等を賛否平等とし、政党が指名する団体にも放送・広告を行わせることができるようにしたい。
  • 買収・利害誘導罪については、「積極的に」勧誘した場合のみとし、「財産上の利益」を「意思表明の手段として通常用いられないもの」に限定したい。
  • 国民の承認の要件については、賛成票と反対票の合計という意味での「投票総数」の過半数としたい。
  • 施行期日は、原則として、公布の日から起算して3年を経過した日とし、施行期日までは憲法審査会において憲法改正原案の審査・提出を行わず、憲法等の調査を行うことを明記したい。
  • 憲法改正に係る予備的国民投票について、憲法審査会の審査の対象とするとともに、これに検討を加え、必要な措置を講ずることを明記したい。
  • 施行期日までに投票権年齢の引下げに関連する法制上の措置を講ずることを明記したい。
  • 与党案と民主党案の修正部分の隔たりはわずかであり、今後の検討・協議により速やかに合意を形成することが可能である。次期通常国会には、衆参両院において法案につき結論を得たい。

枝野 幸男君(民主)

  • これまでの議論を踏まえて、民主党案の修正事項、検討事項を説明したい。
  • 国政問題国民投票については、(a)対象に一定の限界を加える案、(b)憲法改正に係る予備的国民投票に限定する案、(c)国政問題国民投票を憲法審査会の所管とすることを前提に検討条項を附則に明記する案を党内で議論し、結論を得たい。
  • 投票権年齢については、18歳以上で広範な理解が得られるのであれば、例外的に16歳以上の者に認めている部分を削除したい。
  • 広報協議会については、裁量の余地のない業務を行うことを明確にするほか、裁量の余地がある説明会の開催の部分を削除したい。
  • 投票の方式については、船田議員の提案は国民の意思を正確に反映する観点から評価できるが、棄権欄を設けることを含めて検討し、結論を得たい。
  • 国家公務員法等の政治的行為の制限規定については、法制上の不均衡を解消する等のため、国民投票運動への適用を除外することを明記したい。
  • 公務員等の地位利用による国民投票運動の禁止については、船田議員の提案が公務員法上の非違行為の対象として対応する趣旨であれば、民主党案の考えを踏まえたものと評価できる。
  • 有料広告放送の制限については、(a)期間を投票日前14日間に延長する案、(b) 14日間に延長するとともに賛否平等の取扱いを求める配慮規定を置く案、(c) 発議の日から投票日まで全面的に禁止する案を党内で議論し、意見をまとめたい。
  • 政党等による無料広告枠のうち新聞に係る部分については、国民投票公報により代替し得ることから削除したい。また、放送に係る部分については、時間数等を賛否平等とし、政党が指名する団体にも放送を行わせることを明記したい。
  • 買収・利害誘導罪については、船田議員の提案にあいまいさが残らないか、最終的な確認を行った上で、判断したい。
  • 投票総数については、投票の方式を船田議員の提案のようにするのであれば、その意味を賛成票と反対票の合計とすることを明記する必要がある。
  • 憲法審査会の権限については、一般的国民投票に関する法案審査ができるよう修正したい。
  • 施行期日については、原則として公布の日から起算して3年を経過した日とし、施行期日までの期間を調査専念期間とする船田議員の提案を受け入れたい。また、成人年齢の18歳への引下げについては、公布の日から3年以内に法整備が行われればよい。
  • 次期通常国会には修正案をとりまとめ、可能であれば、来年の憲法記念日までには法律が成立していることを期待する。

◎発言を行った委員及び主な発言事項

笠井 亮君(共産)

  • 国民世論は改憲手続法の制定を求めておらず、国会審議が始まってもその状況に変わりはないばかりか、専門家からの批判も高まっている。
  • 改憲手続法制定の狙いが9条改憲にあることは、首相の所信表明等からも明らかである。9条改憲の条件作りとなる改憲手続法の制定を、国民は決して望んでいない。
  • 与党案・民主党案それぞれについての修正に関する発言は、結局改憲案を通しやすくしようとするものであり、国民の疑念は深まるばかりである。
  • 「過半数」の意義について、少数の国民の賛成によって改憲が行われる危険性があると指摘してきた。これに対して、テーマによっては高投票率を望めない等の反論は成り立たない。国民主権原理等についての本質的な議論を行うことなく投票用紙の記載方法を修正したとしても、国民不在には変わりない。
  • 広報協議会の構成を議員数の比率によるとする等の規定は、改憲派が大キャンペーンを実施するためのものである。また、無料の広告枠の割当てを賛否平等とする修正を余儀なくされたことは、両案に合理性がないことを提出者が自認した現れである。
  • 公務員等の地位利用による国民投票運動の禁止について、地位利用の定義を明確にし、罰則を設けないとしても、公務員等の国民投票運動に対する萎縮効果は解消されない。
  • 憲法審査会の常置は、改憲原案を常時議論し、提出するためのものである。また、合同審査会及び両院協議会の規定は、衆参両院で3分の2以上の賛成を強引に獲得しようとする規定であって、両院制の原則に反する。
  • 与党案・民主党案が反民主的であることは明らかであり、両案を審議未了廃案とし、本委員会を閉じることを求める。

辻元 清美君(社民)

  • 憲法改正手続法について、中立公平な単なる手続法であるとか、改憲と切り離して議論すべきなどと説明されてきた。しかし、法案が改憲案の審査を行う憲法審査会の設置を規定していることからも、この法案が改憲と切り離せないことは明らかである。
  • 衆参両院の3分の2以上の賛成はあくまで発議の要件であり、発議後は国民が判断するという憲法96条の趣旨からすると、発議後は賛否平等とするのが当然である。広報協議会の構成や無料広告枠の配分を議席数の比率によるとしている両案は、同条の根本原理の理解を欠いている。
  • 両案は「内容において関連する事項ごとに発議する」と定めているが、その判断基準は審議の中で示されなかった。国民の意思が十分に反映されるよう、諸外国にも見られるシングル・サブジェクト・ルール(一投票一案件の原則)の導入を支持したい。
  • 憲法改正案の周知期間が最大180日間であるのは短すぎる。改憲案が発議されて初めて国民の本格的な議論が始まるのであり、発議まで国会で議論されているからと言って国民の理解が進んでいるとは言えない。
  • 公務員等の地位利用による国民投票運動の禁止、買収・利害誘導罪については、その要件が曖昧であり、こうした規制を設けるという発想自体、主権者国民の側に立ったものとは言えない。
  • 有料広告放送のルールについては、表現の自由と賛否平等のバランスが難しく、なお検討が必要である。
  • 憲法改正に民意を十分に反映させるため、諸外国の国民投票や住民投票で導入されている最低投票率制度を定めるべきである。
  • 国民の訴えの便宜のため、無効訴訟の管轄は、全国の高等裁判所に認めるべきである。また、憲法改正の限界についても司法審査の対象とすべきである。
  • 以上述べてきたように、両案の共通部分にこそ本質的問題が潜んでいる。両案は、国民投票の根本原理をないがしろにするものであり、廃案にすべきである。