平成19年4月5日(木) (第2回公聴会)

日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外5名提出、第164回国会衆法第30号)
日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)

上記両案について、公聴会を開き、公述人から意見を聴取した後、質疑を行った。


○午前

(公述人)

 日本大学法学部教授          百地 章君

 社団法人自由人権協会代表理事
  弁護士                庭山正一郎君

 特定非営利活動法人Rights理事      小林 庸平君

 主婦                 田辺 初枝君

(質疑者)

 葉梨 康弘君(自民)

 長妻 昭君(民主)

 大口 善徳君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 糸川 正晃君(国民)


○午後

(公述人)

 大宮法科大学院大学法務研究科法務専攻  南部 義典君

 地方公務員               松繁 美和君

 弁護士                 森川 文人君

(質疑者)

 加藤 勝信君(自民)

 岡本 充功君(民主)

 赤松 正雄君(公明)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

 糸川 正晃君(国民)


◎公述人の意見の概要(午前)

百地 章君

1.速やかな国民投票法の制定を

  • 国会が正当な理由もなく、長期にわたり国民投票法の制定を怠ってきたことは、憲法違反の疑いが濃厚であり、速やかな制定を切望する。
  • 国民投票は、主権者国民が主権の行使に直接参加できる唯一の機会であり、国民投票法を制定しないことは、国民から主権行使の機会を奪うに等しい。

2.国民投票の対象について

  • 一般国民投票法の制定は、代表民主制を採用する憲法の基本原理に抵触することになる。
  • 諮問的レファレンダムであっても、結果を無視することができるのであれば、その意義に乏しく、逆に、国会が常に国民投票の結果に従わなければならないのであれば、事実上、国会の権限を侵害することになる。
  • 国政上の重要問題について、流動的なその時々の民意に委ねるのが妥当かを考えるならば、一般国民投票制度の採用には多大の疑問を覚える。

3.過半数の意義

  • 過半数の意義について、民主党案では、分からない者や答えない者まで反対に含めることになる。国会つまり主権者国民の代表が、3分の2の多数によって発議しているという事実を重視するならば、明確な反対が過半数に達しない限り、国民の賛成が得られたとみなすのが、論理的に考えても妥当である。

4.国民投票運動の規制

  • 国民投票運動の公正性を維持するためには、原則として公職選挙法に準じた規制を考えるのが自然ではないか。
  • 国の命運を左右する憲法改正は、高度な政治性を有する。政治的行為が厳格に制限される公務員を国民投票運動に自由に参加させるべきではない。
  • 与党提出の修正案が公務員・教育者の地位を利用した国民投票運動を禁止し、違反者に対して行政罰を加えることとしたことは、評価すべきである。ただし、自治体によってバラつきが生じる恐れがあり、この点についての配慮が必要である。

5.メディア規制

  • テレビ等の放送事業者については影響力が大きいため、政治的に公平な報道を行うよう義務付ける必要がある。与党提出の修正案が「放送法の規定の趣旨に留意するものとする」と明記したことは評価すべきであるが、その実効性を確保する必要がある。

庭山 正一郎君

1.憲法改正の限界を超える改正について

  • 改正限界を超えた発議がなされた場合に備え、憲法の理念を擁護するため国民投票前に司法審査を手続法の中に組み込む必要がある。
  • 司法審査を導入する場合、高度な内容を短期間で審査するために管轄を最高裁判所のみとしたり、濫訴を防止するために原告適格を国会議員に限定したりするなど、実務に耐えうる制度作りは可能である。
  • 仮に改正の限界を超える改正案を発議するならば、憲法制定議会を設置するなど政治的意思を前面に出した工夫を行わねばならないが、与党案提出者及び民主党案提出者は、発議から国民投票までの間の総選挙は想定していないと述べている。だからこそ司法審査を組み込む必要があるのである。
  • 現行憲法は、明治憲法の改正という形式を踏んでいるが、その手続は衆議院の解散・総選挙を経た憲法制定議会とも評価できる帝国議会においてなされており、法的な意味での革命の根拠があり、正統性を有している。

2.最低投票率制度について

  • 96条に定める「過半数」は、有効投票又は投票総数の過半数と解する説が多いが、有権者の過半数という解釈も可能である。解釈の幅があるのであれば、96条は憲法改正に政治的な重みを与え、国民全体の意思を真に実現したと評価されるという憲法の要求する十分条件を探ることを許容していると解される。そして最低投票率制度の導入は、それを探るための手段と評価することが可能である。また、有権者の一定割合の賛成を要求する絶対得票率制度の導入も検討に値する。
  • ボイコット運動はあまり好ましい運動と思わないが、意見の表明及び運動の方法として否定できない。これを理由として最低投票率制度の導入を否定することはできない。

3.予備的国民投票

  • 憲法改正に際し予備的国民投票を必要なものとした場合、それ自体が96条の加重要件となるとの評価もあるが、憲法改正という国民の大事業を賢明に乗り切る知恵と理解し、加重要件と考えない。

4.法案の現状

  • 政治的なスケジュールを優先するのではなく、法案の徹底審議を継続し、国民が納得できる法案にすべきである。


小林 庸平君

1.今なぜ投票権・選挙権年齢の引下げか

  • 少子高齢化・財政赤字・環境破壊など長期スパンで考えるべき問題は、若い世代に影響を与えること、最高法規である憲法改正については、より多くの国民の意思を反映するためにできるだけ幅広く投票権を保障すべきことから、投票権・選挙権年齢を引き下げるべきである。
  • 少子高齢社会では若者が相対的に少なくなる。若い世代の意見を政治に反映させることにより、世代間格差の是正を通じて、対立でなく連帯できる社会を創ることが不可欠である。
  • 内閣府の意識調査などによると若い世代の政治への関心は高まっており、また、18歳選挙権は、世界の潮流でもある。

2.投票権・選挙権年齢は義務教育修了と対応すべき

  • 中学校の教育では、義務教育の目標として社会の形成者として必要な資質や公正な判断力の養成を挙げている。中学校を卒業すれば働くこともでき、その結果、税金等も納めることとなるので、投票権・選挙権年齢は義務教育修了後の16歳へ引き下げることも可能である。
  • 一方、16歳以上の未成年者にも投票権・選挙権を与えることは、判断力の面から問題があるとの議論もある。しかし、住民投票のようにテーマを絞ったものであれば未成年者でも十分判断は可能である。
  • 合併の是非など投票対象が明確であるならば、情報提供の方法などを工夫することにより、若い世代の投票率を上げることもできる。

3.公職選挙法・民法など他の法令との関係

  • 選挙権年齢と投票権年齢は一致することが望ましいが、それらが民法など他の法令の成人年齢と必ずしも一致する必要はない。
  • 公職選挙法の早期改正により、選挙権年齢と投票権年齢をまず18歳に引き下げることとし、民法など他の法令はこれと関連付けずに議論すべきである。


田辺 初枝君

1.公聴会の持ち方

  • 公聴会について十分に国民に知らされておらず、問題である。公聴会は広く国民の意見を聴くためのものであるにもかかわらず、これでは国民が参加できない。
  • 公募から公聴会までの日程が迫りすぎており、非常に問題である。このような拙速なやり方で公聴会を行うことに、一国民として異議を唱えたい。
  • 3日前に公述人に決まり、一昨日、会議録や法案などの膨大な資料が届けられた。有意義な公述をするためには、もっと準備のための時間が必要である。
  • 今回の公聴会の応募者は124人と聞いている。本日の公述人以外の応募者の意見も聴いて、参考にしてほしい。
  • 新潟と大阪以外の他の都道府県でも、地方公聴会を開催してほしい。

2.「過半数」の要件

  • 「有効投票総数の過半数」では、国民の多数意見が本当に反映されているとは思えない。日本国憲法の土台となった昭和20年の憲法研究会の憲法草案要綱と同様、この法案でも「有権者の過半数」と明記すべきである。
  • 3.憲法改正案に関する広報・宣伝
  • テレビCMは扇動的になるため、「お金で憲法を買う」事態を避ける対策について、さらに審議すべきである。

4.公務員・教育者の国民投票運動の制限

  • 500万人もの公務員や教育者の国民投票に向けての運動や発言を制限すべきではない。公務員の権限濫用は許されないが、公務員の権限濫用の危険は、個々の公務員の運動ではなく、法案や改憲案を提出する場合にこそ潜んでいる。

5.発議に際しての「内容において関連する事項」

  • 法案の規定からは、何が「関連する事項」なのか分からない。この法案は、こうした基本的要素すら後で適当に定めればよいという安易な姿勢であり、未熟と思える。

◎公述人に対する質疑の概要(午前)

葉梨 康弘君(自民)

<庭山公述人に対して>

  • 閣僚が憲法改正を主張することは、憲法上許容されるか。
  • 閣僚が、個人の立場で憲法改正を主張することは、許容されるか。
  • 内閣総理大臣が、一政治家として憲法改正を主張することは、許容されるか。

<百地公述人に対して>

  • 本委員会における憲法改正手続法制に関する議論の在り方について、委員会運営の側面を含め、どのように評価するか。

<小林公述人に対して>

  • 喫煙は何歳から許されているか。また、それを規定する法規は何か。
  • 憲法改正国民投票の投票権者を18歳以上の者とした場合には、喫煙を許す年齢も18歳以上とすべきか。

<田辺公述人に対して>

  • 違憲の疑いのある事柄を法律に規定することは、可能か。

<百地公述人に対して>

  • いわゆる一般的国民投票を法律に規定することは、違憲か。
  • 与党提出の修正案の附則に規定する「憲法改正問題についての国民投票制度に関する検討」を行う際には、実際上、いわゆる一般的国民投票についての議論も行われると想定されるが、いかがか。

長妻 昭君(民主)

<発言>

  • 憲法上に規定があり、憲法改正手続法は必要であるとの立場である。
  • 憲法改正手続法の審査過程は、将来に禍根を残すものとなってはならず、多くの国民の意見を聴取する努力が肝要である。本委員会における努力は、過去の他の委員会における努力に比し、議案審査時間、公聴会・地方公聴会の開催回数、公述人・意見陳述者の人数等の点において十分ではない。

<全公述人に対して>

  • 十分な周知の下で地方公聴会を全都道府県において開催するなど、さらに本委員会が国民の意見を聴取する必要を感じるか。
  • 現行憲法は先の戦争の産物であるから、憲法改正の手続や憲法改正案の議論を行う前提として、「戦後50周年の終戦記念日にあたって」(いわゆる村山談話)における「国策を誤り」の具体的な対象とその原因について、政府が公式見解を発することが重要であると考えるが、いかがか。

<発言>

  • 政府は、いわゆる村山談話における「国策を誤り」の具体的な対象とその原因について明確にしていないため、信用できない。これが、健全な憲法改正論議を妨げる結果を招いているのであり、先の戦争に関する総括を早急に行う必要がある。

大口 善徳君(公明)

<百地公述人に対して>

  • 百地公述人は国民投票を憲法改正国民投票に限定すべきと主張しているが、憲法改正の早い段階で国民の意向を聞くための予備的国民投票については、どのように考えるか。

<庭山公述人に対して>

  • 庭山公述人は憲法改正を発議するには解散総選挙を挟んで2度の採決をすべきであると述べているとのことだが、これに関連して、予備的国民投票について、どのように考えるか。
  • 憲法改正の限界を超えた改正を防ぐ手法として、発議の段階での最高裁判所による司法審査という提案があったが、裁判所による違憲審査は付随的違憲審査であり、こういった成立していない法規範に対する抽象的な違憲審査権を裁判所に付与することは、憲法上認められるのか。

<小林公述人に対して>

  • 小林公述人は16歳以上の者に選挙権を与えるべきとの見解だが、子どもに影響を意図的に与えようとする勢力もあり、世界標準の18歳以上がよいと考えるが、いかがか。

<田辺公述人に対して>

  • 子どもを持つ母親として、投票権年齢の問題をいかに考えるか。

<庭山公述人及び百地公述人に対して>

  • スポットCMの規制について、与党提出の修正案では投票日前2週間は禁止とし、民主党は全面禁止も検討しているとのことだが、表現の自由との問題から、どのように考えるか。

笠井 亮君(共産)

<発言>

  • 本日の公聴会の公述人は7人であるが、応募者総数は124人であり、そのうち国民投票法の整備に反対している者は、108人であった。これは、国民投票法に対する国民意見の現状を示している。

<庭山公述人及び田辺公述人に対して>

  • 昨今の改憲をめぐる議論についてどのように捉えるか。

<庭山公述人に対して>

  • 公務員の政治活動に対する公務員法の適用除外をめぐる議論についてどのように考えるか。

<田辺公述人に対して>

  • 田辺公述人が参加している憲法に関する勉強会等において、投票日前の広告放送規制に対してどのような議論がなされているか。

<小林公述人に対して>

  • 18歳選挙権は世界の趨勢であり、これまで実現しなかったことは、政治の責任であると考えるが、選挙権・投票権年齢の引下げについてどのように考えるか。

<庭山公述人に対して>

  • 与党案提出者及び民主党案提出者は、私学助成の問題、裁判官報酬の引下げ等、必ずしも国民の関心が高くない問題があることを挙げ、これをもって最低投票率要件を設けない理由としている。これは理由とならないと考えるが、いかがか。

辻元 清美君(社民)

<発言>

  • 公述人の応募の内訳は、与党案及び民主党案に反対の意見が予想したより多く驚いた。国会の議席数が民意と乖離していると感じる。
  • 憲法を改正するには国民の総意と熟慮が必要であり、憲法改正の手続法も、賛成派、反対派双方にとって有利・不利とならない中立公正なものでなければならない。

<百地公述人に対して>

  • 憲法改正国民投票における国民の主権の行使とは、革命後の混乱の中で憲法制定権力という「むき出しの権力」を自由に行使し、新憲法を制定するようなものでなく、憲法典の定めるところに従って「憲法改正権」を行使するものと理解してよいか。

<庭山公述人に対して>

  • 公聴会の開催を法案採決の前提とするのではなく、今回の小林公述人の投票権を16歳に引き下げるとの意見等を法案の審議に反映させ、さらに慎重審議をする必要があるが、どのように考えるか。

糸川 正晃君(国民)

<全公述人に対して>

  • 最近の世論調査では、憲法改正手続法の整備には68%の国民が賛成する一方、後半国会で最優先すべき課題に憲法改正手続の確立を挙げる回答はわずか1.9%であった。この世論調査の結果をどのように受け止めるか。

<小林公述人に対して>

  • 仮に投票権年齢が18歳以上に引き下げられた場合、19歳以下の者の憲法への関心を高めていくことが課題になるが、若年層の憲法論議を喚起する方法についてどのように考えるか。

<百地公述人及び小林公述人に対して>

  • 与党案では公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しつつ、与党提出の修正案により「地位利用」の概念を明確にするなどしているが、国会が発議した憲法改正案に関し、教育者がこれに対する賛否を含めた様々な意見を授業で述べることについてどのように考えるか。

<全公述人に対して>

  • インターネットを利用した国民投票運動は、与党案・民主党案いずれの案においても何ら規制されていない。国民投票運動におけるインターネットの規制について、どのように考えるか。

◎公述人の意見の概要(午後)

南部 義典君

1.国民投票の対象

  • 一般的国民投票制度の整備は今後の検討課題であり、憲法改正国民投票法制を先に整備することも視野に入れ、広範なコンセンサス形成を目指すべきである。
  • 有権的世論調査である憲法改正問題予備的国民投票において、「憲法改正を行わない」との選択肢を設けて国民の消極的意思の確認をすることも一案である。

2.発議後の周知・広報期間

  • 周知期間については、180日間を原則とし、憲法改正案の内容によってはそれより段階的に短くするという発想を立法者意思として示してはいかがか。

3.国民投票運動の意義と限界

  • 国民投票運動の自由は、国民主権原理に基づく重要な権利であって、最大限保障されなければならないが、それを法律上定義しても、積極的勧誘行為が必ずしも最大限保障されるわけではない。また、定義することにより一般的意見表明という別概念が生じ、規制・罰則の分水嶺として両者の区別が問題となる。
  • 国民投票運動規制については、行為主体・類型ごとに考え、(a)投票事務関係者については通常の勧誘行為を罰則により規制、(b)選管職員については通常の勧誘行為かそれより積極的な行為を罰則により規制、(c)公務員等については通常の勧誘行為のみならず一般的意見表明を含めて政治的行為の制限規定の適用除外、(d)公務員等・教育者の地位を利用した積極的な勧誘行為については規制するが罰則は不要、(e)広告放送については一般的意見表明を含めて禁止する余地があるが罰則は不要、とすべきではないか。

4.公務員法制上の政治的行為規制の「適用除外」

  • 公務員の国民投票運動については、第一段階として原則自由とし、第二段階として例外的に禁止される行為を規定すべきである。これは、昨年12月の与党案提出者と民主党案提出者の間のコンセンサスと思われるが、与党提出の修正案ではこのコンセンサスに反し、第一段階の作業である政治的行為の制限の適用除外規定が定められていない。適用除外規定を復活させるべきである。なお、同規定は、信用失墜行為の禁止等の規定の適用を除外するものではない。

松繁 美和君

1.はじめに

  • 地方公務員や自治体労働組合役員としての立場から、国民投票法案の動向や審議の仕方に重大な関心と危惧を持っている。

2.国民投票法案には反対

  • 国民投票法案には改憲を容易にし、9条を改定する意図が感じられ、反対である。高知県では6自治体の議会が法案の廃案等を求めた意見書を採択している。
  • 自民党新憲法草案は立憲主義を踏み外し、現行憲法を解体するものである。加えて、安倍首相の国民投票法等に関する発言は、立法府への介入であり三権分立に反する。

3.法案の問題点

  • 憲法尊重擁護義務が課されている公務員にこそ、自由闊達な意見表明を認めるべきである。地位利用による国民投票運動の禁止規定は極めて曖昧であり、恣意的に判断される危険が高い。国民投票運動に対する規制は原則ゼロとするとの観点から同規定を削除すべきであり、仮に幹部公務員による地位利用があるのであれば、別法で規制すべきである。
  • 与党も民主党も賛成していたにもかかわらず、国民投票運動に関する国家公務員法等の適用除外規定が与党提出の修正案に置かれていなかったことは、公務員に対する規制強化である。
  • 最低投票率の定めがないことから、憲法改定が少数の賛成で行われるおそれがある。
  • 有料広告について、投票期日直前の規制だけでは資金力を持つ者に有利な状況であることに変わりなく、国民に意見表明の平等が保障されているとはいえない。

4.広く国民の声を聞く必要性

  • 与党提出の修正案に対する公聴会も必要と考えるが、国民は拙速な法律の成立には反対していることから、法案を一旦廃案とすべきである。

森川 文人君

1.憲法改正手続法の整備

  • 憲法改正手続法の未整備は立法不作為であるなどとする議論は、主権者たる国民の側が憲法改正の必要性なしとする以上、成り立たない。国民不在の憲法改正手続法の整備は、民主主義、立憲主義の危機を招くものであり、反対である。

2.公聴会の問題

  • 教育基本法審議で行われた公聴会の回数より少なかった上、与党提出の修正案についての公聴会を予定しないまま、拙速に採決に運ぶことには内容以前に手続・過程に問題がある。また、今回の公聴会には多数の応募があったことを踏まえれば、さらに公聴会を開催すべきである。

3.最低投票率制度の不存在

  • 国民的合意が得られていると判断することができる承認要件が必要であり、最低投票率制度は、96条の趣旨を実質化する上で必要である。

4.表現の自由に関する問題

  • 民主党案は、公務員等に対する投票運動の規制が外されており、国民の投票運動の自由の観点から高く評価したい。
  • 与党案は、憲法をお金で買うことを許す懸念がある。また、持てる者はテレビを用いて一方的に広告を流すことができる反面、持たざる公務員等・教育者は、地位利用の禁止等による投票運動の制約を受けるという、意見の多元性を認めない情報の格差社会をもたらすものである。
  • 憲法改正の議論においては、テレビ広告を規制し、国民への周知を報道番組に任せるべきである。また、自律的判断を可能とするインターネット、新聞、集会による情報の発信が重要となる。

5.予備的国民投票

  • 96条は発議後の憲法改正国民投票についての定めであり、発議に先立って行うことが想定される予備的国民投票には、同条との関係で慎重な検討が必要である。

6.最後に

  • 国民のための、反対派が納得することができる、憲法に違反しない憲法改正手続法を成立させるための議論が十分行われているとは言えない。また、法案の内容についての国民の理解が得られていない、法案の審議が尽くされていないなどの意見もあるので、今後、慎重な法案審議を望む。

◎公述人に対する質疑の概要(午後)

加藤 勝信君(自民)

<全公述人に対して>

  • 一般的国民投票については、憲法改正国民投票と分けて考えるべきであるが、国民の幸せは経済的な豊かさより政治への参加度にあるという観点から一考に値するとも考えるが、いかがか。
  • 多くの国民が国民投票に参加するためには、最低投票率の設定ではなく、CM等のマスコミ利用を含めたさまざまな手段を駆使して関心を高め、国民の投票参加を促す必要があると考える。CMに否定的であるのであれば、それ以外に周知を図り国民の投票参加を促す手段として、どのようなものが考えられるか。
  • 公務員は全体の奉仕者であり、それに対する国民の信頼もあるが、公務員等の国民投票運動の規制の在り方は、一般の国民と全く同じでよいのか。

岡本 充功君(民主)

<全公述人に対して>

  • 国民投票の投票権者の年齢要件を18歳以上とすることについて、どのように考えるか。また、その場合に、民法等の関連法制の成人年齢等を同様に18歳にすべきか。
  • 有料広告放送について、具体的にどのような制限をすべきか。
  • 最低投票率制度の導入の要否、その理由について伺いたい。

<南部公述人に対して>

  • 最低投票率を定め、実際の投票率が最低投票率を下回った場合、権力側の周知広報が十分でなかったと理解することもできると考えるが、いかがか。再投票することも考えられるのではないか。

<森川公述人に対して>

  • 憲法改正案の内容によっては、国民の関心が高まらない場合もあると考えられる。最低投票率制度を導入したとき、国民の関心が高まらない場合に投票率をどのように高めるかが課題になると考えるが、いかがか。

<松繁公述人に対して>

  • 9条は改正すべきでないとのことだが、それ以外に現行憲法上改正すべき部分はないのか。また、将来改正すべき条項が出てきてから憲法改正手続法制を整備するとした場合、憲法改正の必要があるのに手続がない期間が生じる懸念があるが、いかがか。

赤松 正雄君(公明)

<南部公述人に対して>

  • 国民投票法案を可及的速やかに成立させる必要があるとは、今国会において成立させる必要があるという意味か。

<松繁公述人に対して>

  • 一旦廃案にして出直すとは、今の法案とは異なる法案を作るという意味か、国民投票法は不要であるという意味か。

<森川公述人に対して>

  • 今は国民投票法は必要ないとのことだが、いつ必要となるか。
  • 国民は改憲を必要としないとの認識をどのようにして得たのか。

<森川公述人及び松繁公述人に対して>

  • 安倍首相が繰り返し改憲について発言しているのは、改憲を潜在的に支持している国民が多いからではないかと考えるが、いかがか。

<南部公述人に対して>

  • 9条を明確な文言にすることが解釈改憲を防ぐことにつながると考えるが、いかがか。

<森川公述人に対して>

  • 5年間の憲法調査会における調査の結果、大筋で憲法を改正すべきとの結論に達したことをどのように考えるか。

<南部公述人に対して>

  • 国家公務員法等の政治的行為の制限規定の適用除外規定が与党提出の修正案に入っていないことは残念であったが、この問題は今後の3年間で十分議論すればよいと考えるが、いかがか。

<森川公述人に対して>

  • 憲法改正を行わないとの項目を設けて憲法改正予備的国民投票を実施するとの南部公述人の考えは検討に値すると考えるが、いかがか。

笠井 亮君(共産)

<松繁公述人に対して>

  • 憲法問題に関して首長や地方議会に働きかけを行った動機を伺いたい。

<南部公述人に対して>

  • 公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動の禁止については、与党案提出者と民主党案提出者の間に、極めて悪質なケースのみに限定するコンセンサスがあったとのことであるが、与党提出の修正案では「地位利用」を同じ意味の別文言に言い換えているにすぎない。このような言い換えで、内容が限定されるのか。

<松繁公述人及び森川公述人に対して>

  • 公務員等・教育者が、その経験等を踏まえて積極的に憲法に関して発言することが国民投票運動を喚起するのではないかと考えるが、いかがか。

<森川公述人に対して>

  • 両院に憲法審査会を常設機関として設置すること、その合同審査会が両院の憲法審査会に勧告を行うことについての所見を伺いたい。
  • 意見陳述で紹介したアンケート結果の特徴、その活動に携わった感想について伺いたい。

<松繁公述人に対して>

  • 憲法施行60周年に当たり、高知県民に接している立場から、憲法に対する思い、伝えたいことを伺いたい。

辻元 清美君(社民)

<森川公述人に対して>

  • 意見陳述で紹介したアンケート結果の特徴や内容について、詳しく伺いたい。

<松繁公述人に対して>

  • 高知県内のいくつかの議会において、全会一致で国民投票法案に反対する意見書が採択されたとのことであったが、その内容を伺いたい。
  • 公務員であっても、護憲の意見と同様に改憲の意見も自由な表明が認められるべきとの立場と理解してよいか。

<森川公述人に対して>

  • 新潟地方公聴会において憲法を取り扱うには「熟慮と総意」が必要との意見があり、海外調査においても国民的コンセンサスがない中で国民投票を実施すれば混乱が生じるとの意見があった。国会内でも国民投票法案について多様な意見があると認識しているが、国会内の状況についてどのように見ているか。

<全公述人に対して>

  • 周知期間は、案件によっては1年程度あってもよいと考えるが、いかがか。

糸川 正晃君(国民)

<全公述人に対して>

  • 憲法改正手続法の必要性については賛否両論があるが、現在の情勢に対する評価を伺いたい。

<松繁公述人に対して>

  • 与党案・与党提出の修正案にあるように公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動の禁止規定がある場合、何らかの制約を感じるか。

<全公述人に対して>

  • テレビ等の有料広告放送の制限について、与党提出の修正案では制限する期間を投票期日前7日間から14日間に延長しているが、この点について、どのように考えるか。

<南部公述人に対して>

  • 国民投票運動においては、テレビ広告をインターネット上で流し続けるといった事態が想定されうるが、インターネットの規制についてどう考えるか。

<森川公述人に対して>

  • 国民投票運動においてインターネットを規制しない場合、それを使いこなせる者と使いこなせない者との間に情報の格差が生じるとも考えられるが、いかがか。

<全公述人に対して>

  • 憲法改正案が発議された場合には中央・地方を問わず丁寧な周知広報活動が望まれるが、広報協議会の役割や活動をどのように考えるか。