平成19年4月12日(木) (第5回)

◎会議に付した案件

1 理事の辞任及び補欠選任

  補欠選任 岡本充功君(民主) 園田康博君(民主)理事辞任に伴いその補欠

  補欠選任 平岡秀夫君(民主) 枝野幸男君(民主)理事辞任に伴いその補欠

2 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外5名提出、第164回国会衆法第30号)
日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)

(1) 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出、第164回国会衆法第31号)に対する枝野幸男君外2名提出の修正案について、提出者園田康博君(民主)から、提案理由の説明を聴取した。

(2) 上記両法律案並びに保岡興治君外3名提出の修正案及び枝野幸男君外2名提出の修正案について、両法律案及び両修正案提出者枝野幸男君(民主)、船田元君(自民)、葉梨康弘君(自民)、赤松正雄君(公明)及び保岡興治君(自民)に質疑を行った。

(提出者に対する質疑者)

 柴山 昌彦君(自民)

 石井 啓一君(公明)

 古川 元久君(民主)

 笠井 亮君(共産)

 辻元 清美君(社民)

(3) 質疑終局後、上記両法律案に対し、国会法第57条の3の規定により内閣の意見を聴取したところ、菅義偉総務大臣から、「政府としては、国会における判断を尊重し、適切に対処したい」旨の発言があった。

(4) 採決の結果、まず枝野幸男君外2名提出の修正案が賛成少数をもって否決され、次に保岡興治君外3名提出の修正案が賛成多数をもって可決され、上記両法律案は併合して一案とし、修正議決すべきものと決した。


◎提出者園田康博君(民主)による修正案の提案理由説明

ただいま議題となりました民主党提出の「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」に対する修正案につきまして、提出者を代表して、提案の理由及び内容の概要をご説明申し上げます。

この特別委員会が設けられてから1年半ほどの議論を通じ、国民投票法制について、民主党は、改憲をする、あるいはしないとは全く関係なく、客観的・中立的な手続法として幅広いコンセンサスのもとで制定しなければならないということを一貫して主張し、その認識がやっと広まりつつありました。しかし、今年の1月に安倍総理が「任期中に憲法改正をしたい」と発言したことから、議論の質が一変してしまいました。国民投票法制をめぐる議論のみならず、日本の憲法の議論も、この安倍総理の発言によって政治論的には15年、政治思想的には150年後退したという印象があります。
保岡与党筆頭理事は与党修正案の趣旨説明で「与党案・民主党案の違いは、もうほとんどなくなった」と発言しておられますが、国政における重要な問題に係る案件の国民投票法制について与党修正案では「その意義及び必要性の有無について、検討を加え」と消極的な修正となっているだけであります。投票権者を18歳とする点についても、与党修正案では実施をいくらでも先送りできる余地を残しております。また、与党修正案では国家公務員法・地方公務員法等に定められた公務員の政治的行為の制限規定を国民投票運動に適用除外とはせず、附則で検討を加えるにとどまっており、一体何を検討しようとしているのかさえ意図不明であります。
このように与党修正案は、当特別委員会でのこれまでの議論の積み重ねを踏まえているとは到底言いがたいものであり、民主党の考えと与党修正案の間には厳然たる相違点が存在していると言わざるを得ません。民主党は、これまでの当特別委員会における質疑、参考人や公聴会における公述人からのご指摘を踏まえ党内で真摯に議論を重ね、民主党独自の修正案を提出することと致しました。民主党修正案は、現段階においてもっとも合理的な案であると考えておりますので、かならず過半数の賛同を得て成立させていただけるものと確信しております。

以下、本修正案の主な内容についてご説明申し上げます。

第一に、「国民投票の対象」についてですが、憲法改正のほか、国政における重要な問題のうち憲法改正の対象となり得る問題、統治機構に関する問題、生命倫理に関する問題その他の国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題に係る案件とすることとしており、附則において「この法律が施行されるまでの間に、国政問題国民投票に関し、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性の確保その他の観点から検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」との規定を置くこととしております。

第二に、「投票権者」についてであります。
諸外国では、成人年齢に合わせて18歳以上の国民に投票権を与える例が非常に多いことから、投票権者の年齢を18歳以上とすることとし、附則において「この法律が施行されるまで(3年後)の間に、公職選挙法、民法等の関連法令について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」との規定を置くこととしております。

第三に、「投票用紙への賛否の記載方法及び『過半数』の意義」についてであります。
この点については、投票人の意思をくみ取ることを重視する観点から、さらに検討を加え、あらかじめ投票用紙に印刷された賛成・反対の文字を○で囲むこととし、無効票をできるだけ少なくする方式に変更した上で、賛成の投票数が賛成の投票数と反対の投票数の合計数の2分の1を超えた場合に、国民の承認があったものとしております。

第四に、「国民投票運動が禁止される特定公務員の範囲」については、民主党原案通り選管職員等に限ることとしております。
これは、本委員会での議論を通じて、憲法改正国民投票における意見表明は、主権者国民が直接に国政に対して発言できる重要かつ貴重な機会であり、それは、裁判官や検察官等の職種に就いている者でも、同じように保障されるべきであると考えたからであります。

第五に、「公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の制限」については、要件を明確にした上で設けますが、罰則は設けないこととしております。
なお、公務員が憲法改正の発議から投票期日までの間に行う国民投票運動及び憲法改正に関する意見の表明並びにこれらに必要な行為については、国家公務員法、地方公務員法等の公務員の政治的行為の制限規定は適用しないことと致しました。

第六に「組織的多数人買収罪」については、適用対象を、最も悪質な部分に限定するため、「勧誘行為」を明示的なものに限定するとともに、「投票に影響を与えるに足りる物品その他の利益」という要件についても「多数の者に対する意見の表明の手段として通常用いられないものに限る」と限定した上で新設することと致しました。

第七に、「国民投票における周知広報」については、まず、国民投票公報には、「憲法改正案及びその要旨ならびに憲法改正案に係る新旧対照表その他参考となるべき事項に関する分かりやすい説明」を記載することとしております。
また、説明会の開催及び新聞における無料広告枠の規定は削除することといたしました。
テレビ等における無料広告枠においても、賛成意見・反対意見を「公正かつ平等」に扱うこととしております。また、賛否の意見の放送は、政党が指名する団体も行うことができることといたしました。

第八に、「テレビ・ラジオにおける有料広告」については、禁止期間を憲法改正の発議から投票期日までの間は禁止するとともに、放送事業者は、国民投票に関する放送については、放送法の規定の趣旨に留意するものとする旨の規定を設けることとしております。

最後に、「この法律の施行期日及び憲法審査会の審査権限」については、施行を公布の日から起算して3年を経過した日とするとともに、それまでの間は、憲法審査会は「調査」に専念することを明記することとしております。

先週までに2回の中央公聴会と2箇所で地方公聴会が開かれましたが、公聴会が終わったから採決の環境が調ったというような身勝手な解釈はやめ、公聴会で示された多くの意見に謙虚に耳を傾け、また与党修正案と民主党修正案の相違点等について十分な議論を積み重ねながら、できるだけ幅広いコンセンサスの形成に向けて、各党・委員各位が引き続き努力をするよう訴え、提案理由の説明といたします。


◎提出者に対する質疑者及び主な質疑事項等

柴山 昌彦君(自民)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 民主党提出の修正案は、投票権年齢を満18年以上とし、附則で関連法令の見直しをすることとしているが、その内容及び趣旨を伺いたい。また、民主党提出の修正案提出者は、与党提出の修正案に対し、投票権年齢を満18年以上とする時期を幾らでも先送りできると批判しているが、与党提出の修正案提出者の考えを伺いたい。
  • 民主党提出の修正案は、国民投票運動における公務員法上の政治的行為の制限に関する規定の適用除外を定めているが、その内容及び趣旨を伺いたい。また、民主党提出の修正案提出者は、与党提出の修正案に対し、この問題に関する検討条項の意図が不明と批判しているが、それぞれの意見を伺いたい。
  • 民主党提出の修正案について、新聞の無料広告枠を削除した理由を伺いたい。また、与党提出の修正案提出者は、新聞の無料広告枠に対しどう考えるか。
  • テレビ・ラジオにおける有料広告の禁止期間について、民主党提出の修正案は、憲法改正案の発議から投票日までの全期間としているが、その理由を伺いたい。また、与党提出の修正案においては、これを1週間から2週間に延長しているが、この理由を伺いたい。

<民主党案提出者に対して>

  • 憲法改正案の周知は、有料広告によらずとも、評論番組・報道番組で十分であるとの認識か。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 一般的国民投票の対象を限定しようとする民主党提出の修正案の趣旨は何か。また、与党提出の修正案提出者は、この点をどのように評価しているか。

<民主党案提出者に対して>

  • 両修正案には実質的な差異がほとんど存在せず、双方とも、少なくとも基本的な認識においては一致していると考えるが、いかがか。

石井 啓一君(公明)

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 広範な一般的国民投票は、諮問的国民投票とはいえ、実質的に立法作業を拘束する影響を及ぼし得るため、現行憲法を改正した上でないと実施できないとの指摘があるが、いかがか。

<民主党案提出者に対して>

  • 民主党提出の修正案において、一般的国民投票の対象として統治機構や生命倫理を特に規定したのはなぜか。また、「その他国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題」とは何を想定しているのか。

<与党案提出者に対して>

  • 憲法改正問題についての一般的国民投票を必要と考えるか。
  • 与党提出の修正案の附則で、公職選挙法や民法その他の法令の年齢に関する規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとするとしているが、法施行までの3年間で可能なのか。また、「法制上の措置を講ずる」とは、法律の公布と施行のどちらを指すのか。
  • 与党提出の修正案の附則では、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加すること等ができるまでの間、投票権者の年齢は満20年以上とするとしているが、「国政選挙に参加すること等ができるまで」の「等」とは何を指すのか。「等」に含まれる条件が満たされて初めて、18歳投票権が実現するのか。

<民主党案提出者に対して>

  • 投票権年齢が選挙権年齢や民法の成人年齢と合致しなくとも構わないとしたのはなぜか。このため、かえって選挙権年齢の引下げが進まなくなるおそれがないか。

<与党案提出者・民主党案提出者に対して>

  • 民主党提出の修正案において、新聞の無料広告枠が削除されたが、賛否平等に取り扱われる無料広告には資力による差が生じないこともあり、国民に対して丁寧に周知広報を行うためには必要と考えるが、いかがか。
  • スポットCMについては、「金で憲法改正が買える」との批判がある一方、規制すれば表現の自由を損なうとの意見もある。この両論のバランスをどのように判断したのか。
  • 最低投票率については、ボイコット運動の誘発のおそれがある、また、96条の要件を加重するものであるなどとして両案提出者は否定しているが、これを設けないことが最大の欠陥との意見もあり、より丁寧な説明を伺いたい。

古川 元久君(民主)

<発言>

  • 職権による委員会の開会など委員会の運営の在り方に抗議する。

<与党案提出者に対して>

  • 国民投票の対象について、民主党提出の修正案は、本委員会での議論を踏まえたものであるにもかかわらず、与党がそれを受け入れない理由は何か。幅広い合意を得て法案を成立させるという当初の姿勢に反するのではないか。

<民主党案提出者に対して>

  • 民主党提出の修正案を拒否する与党の姿勢をどのように思うか。

<与党案提出者に対して>

  • 投票権者の年齢について、その引下げに併せて関連法令を検討・整備する義務を負ったものと与党は認識しているにもかかわらず、あえて18歳選挙権等の実現まで投票権年齢を20歳以上とする経過措置を設けた合理的な理由は何か。
  • 国民投票と国政選挙は別個のものと考えつつ、このような経過措置を設けなければ公職選挙法との関連で適切な対処ができない場合があるとはどういう意味か。

<民主党案提出者に対して>

  • 関連法令の整備に消極的ではないとしつつも、国民投票法に経過措置を規定することを強く主張し、民主党提出の修正案を受け入れない与党の姿勢をどのように思うか。

<与党案提出者に対して>

  • 国民投票法本体にこのような経過措置を規定するのではなく、関連法令の附則に規定すればよいと考えるが、そうしなかった理由を伺いたい。
  • 公務員等・教育者の国民投票運動について、公務員法上の政治的行為の制限規定の適用を除外するとした民主党提出の修正案を受け入れられない理由は何か。

<民主党案提出者に対して>

  • 与党提出の修正案と民主党提出の修正案は内容において見解の相違はないはずであり、ことさらに文言上の相違だけを強調すべきでないとの与党の意見をどのように思うか。

<発言>

  • 国民投票法案について議論を深め、幅広い合意を得ることが、今後の憲法論議に有益であり、本日採決を強行することは今までの努力を台無しにし、今後に禍根を残す。

笠井 亮君(共産)

<発言>

  • 法案の徹底審議を求める国民の声に反し、採決等を強行することに断固抗議する。

<与党案提出者に対して>

  • 4月5日の公聴会でも多くの公述人が慎重審議を求めており、公聴会をさらに開催する必要はないのか。
  • NHKの世論調査においては今国会の法律成立を求める者は1割に満たず、弁護士会、地方議会等も法案の反対・徹底審議を求める意見を出している。こうした声に応え、さらに審議すべきと考えるが、いかかが。
  • 公聴会、地方公聴会の半数以上の公述人等が最低投票率制度等を導入すべきとしている。こうした国民の意見に耳を傾けず、わずかな有権者の賛成で憲法を変える仕組みとすることを国民は理解できないと考えるが、いかがか。
  • 与党提出の修正案では、公務員法上の政治的行為の制限規定の適用除外について定められていない。公務員が一国民として行う国民投票運動を制限することは大きな問題であると考えるが、いかがか。
  • 公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動の禁止について、与党提出の修正案では、「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響又は便益を利用して」に修正するとしているが、この修正により何がどのように限定されることになるのか。
  • 無料広告枠の配分について、与党提出の修正案では、改憲案自体の広報とその残余の部分について賛否平等に配分するとしているが、賛成部分の他に改憲案自体の広報があることを考えると、賛成政党に有利であり、賛否が対等とは言えないと考えるが、いかがか。
  • 国民投票公報の内容について、与党提出の修正案では、「解説」を「参考となるべき事項に関する分かりやすい説明」に変更しているが、両者の相違点は何か。
  • 法案の問題点は明らかであるのに採決を急ぐのは、安倍首相の改憲スケジュールに沿って性急にことを進めようとしているからである。それでもなお、法案が安倍首相の改憲スケジュールとは関係ない公正中立な制度であると主張することは不適当ではないか。

<民主党案提出者に対して>

  • 法案審議を拙速に進めるべきではないという声に、どのように応えるのか。

辻元 清美君(社民)

<発言>

  • 先週の公聴会で一般公募の公述人から意見を聴取し、本日の委員会で民主党提出の修正案の趣旨説明を聴取したばかりである。性急な採決は、立法府の自殺行為であり、本委員会の権威を守るためにやめるべきである。

<与党案提出者に対して>

  • 安倍首相が述べるとおり、自民党新憲法草案が最善の憲法改正案であり、これを最も成立させたいものと考えるか。
  • 提出されている与党案は最善のものと考えるか。自民党新憲法草案は、与党案の国民投票の対象となるか。
  • 自民党新憲法草案における現行憲法からの改正点は、何か所あるか。また、改正点を2、3か所としている与党案提出者の想定は、自民党新憲法草案の改正点の数と矛盾していると考えるが、いかがか。

<民主党案提出者に対して>

  • 自民党新憲法草案は、提出されている法案において国民投票の対象となるか。

<与党案提出者に対して>

  • 海外調査を踏まえれば、公務員等・教育者による国民投票運動の規制には違和感がある。我が国にこのような規制を置いた理由を伺いたい。
  • 公務員法上の政治的行為の制限規定について、自民党内の不満が噴出したため、与党提出の修正案においては適用除外をしないこととなった旨の報道は、事実か。
  • 公務員によるビラ配布、デモ行進等の国民投票運動が可能であるのは、どのような場合か。その可否を誰が判断するのか。法案を見て、国民はその可否を理解できるか。
  • 知事、市長等は国民投票運動をどのように行うことができるのか。公務員法上の政治的行為の制限規定の適用はあるのか。
  • 国民投票と選挙とでは規制の在り方が異なるという議論の根幹を理解していない者がいるので、この議論を今後も継続すべきと考えるが、いかがか。

<発言>

  • 法案についての疑問を解消せずに質疑を終局すべきではない。